特許第6947392号(P6947392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6947392低粘性水溶性食物繊維含有茶飲料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947392
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】低粘性水溶性食物繊維含有茶飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/16 20060101AFI20210930BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20210930BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20210930BHJP
   A23L 11/60 20210101ALI20210930BHJP
   A23F 3/34 20060101ALI20210930BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20210930BHJP
【FI】
   A23F3/16
   A23L2/00 B
   A23L2/38 K
   A23L2/38 M
   A23L11/60
   A23L2/38 C
   A23F3/34
   A23L2/00 G
   A23L33/125
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-165965(P2017-165965)
(22)【出願日】2017年8月30日
(65)【公開番号】特開2019-41623(P2019-41623A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 秀二郎
【審査官】 吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−085986(JP,A)
【文献】 特開2015−023803(JP,A)
【文献】 特開2017−085987(JP,A)
【文献】 特開2016−174552(JP,A)
【文献】 特開2014−161292(JP,A)
【文献】 特開2014−150795(JP,A)
【文献】 特開2012−060930(JP,A)
【文献】 特開2010−018528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00−3/42
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA/CABA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑茶、紅茶、ウーロン茶、ルイボス、ハブ茶、はと麦、大麦、黒豆及び玄米からなる群より選択される1種以上の植物葉又は穀物の抽出液と、難消化性デキストリン0.05〜1.5質量%と、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖1.09.5質量%とを含んでなる茶飲料。
【請求項2】
緑茶、紅茶、ウーロン茶、ルイボス、ハブ茶、はと麦、大麦、黒豆及び玄米からなる群より選択される1種以上の植物葉又は穀物の抽出液に、難消化性デキストリン0.05〜1.5質量%と、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖1.09.5質量%と添加する、難消化性デキストリンの糊感又は紙臭抑制されたことを特徴とする茶飲料の製造方法。
【請求項3】
難消化性デキストリンを含む茶飲料において、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上が1.0〜9.5質量%となるよう使用されるD−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を有効成分とする難消化性デキストリンの糊感又は紙臭の抑制剤。
【請求項4】
難消化性デキストリン0.05〜1.5質量%を含む茶飲料中に、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖を1.09.5質量%となるよう添加する、難消化性デキストリンの糊感又は紙臭の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘性水溶性食物繊維に起因する糊感及び紙臭が改善された茶飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、健康志向の高まりから水溶性食物繊維などの機能性を有する食品素材の利用が広がっている。なかでも低粘性水溶性食物繊維である難消化性デキストリンは、血糖値上昇抑制作用、中性脂肪上昇抑制作用及び整腸作用などの生理機能を有し、かつ溶解性が高く低粘性であることから飲料などに利用されている。しかし、難消化性デキストリンは、特有の糊味、紙臭、異味又は異臭などを有するため、飲料本来の味質への影響が問題となっていた。このような問題を解決すべく、従来から様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、難消化性デキストリンの紙のような香り及び糊のような味を抑制するため、植物葉の抽出液及び穀物の抽出液を配合する茶飲料(特許文献1)や、難消化性デキストリンの異臭を抑制するため、二酸化炭素を特定のガス圧となるように含有させることによって水様の味覚が保持される炭酸飲料(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−85986号公報
【特許文献2】特開2016−174552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、難消化性デキストリンの特有の味や香りの改善のために様々な工夫がされているが、難消化性デキストリンに起因する糊感といったテクスチャーを改善する方法については、いまだ詳細には検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、難消化性デキストリン含有の茶飲料について種々検討したところ、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖を含有させることにより、難消化性デキストリンに起因する糊感といったテクスチャーを改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の(1)〜(5)から構成されるものである。
(1)難消化性デキストリン0.05〜3.5質量%と、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖0.1〜10.0質量%とを、含んでなる茶飲料。
(2)緑茶、紅茶、ウーロン茶、ルイボス、ハブ茶、はと麦、大麦、黒豆、及び玄米からなる群より選択される1種以上の植物葉又は穀物の抽出液を含む、上記(1)記載の茶飲料。
(3)D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖を0.1〜10.0質量%となるよう添加することにより、難消化性デキストリンの糊感又は紙臭を抑制することを特徴とする、難消化性デキストリン含有茶飲料の製造方法。
(4)D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖を含んでなる、難消化性デキストリンの糊感又は紙臭の抑制剤。
(5)D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖を茶飲料中に0.1〜10.0質量%となるよう添加する、難消化性デキストリンの糊感又は紙臭の抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難消化性デキストリンに起因する糊感といったテクスチャーを有する茶飲料に、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖を含有させれば、糊感が改善された茶飲料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における茶飲料に用いられる植物葉又は穀物の種類は、特に制限されず、例えば、緑茶、ルイボス、大麦、大麦若葉、ケール、モロヘイヤ、よもぎ、麦、はと麦、ハブ茶、黒豆、玄米、アシタバ、熊笹、昆布、霊芝、グァバ葉、柿の葉、ゴマ、紅花、ミカンの皮、とうもろこし、発芽大麦、びわの葉、たんぽぽの根、カワラケツメイ、発芽玄米、エゴマの葉、ゆりね、桑の葉、ナツメ等の茶葉又は穀物、ウーロン茶等の半発酵茶葉、紅茶等の発酵茶葉等が挙げられる。また、その茶葉及び穀物の粉砕方法、抽出方法、又は蒸留方法は特に限定されず、茶葉又は穀物を粉砕若しくは粉砕せずにそのまま、又は、水、温水若しくは熱水で抽出、又は水蒸気で蒸留し、さらにはこれを濃縮したものなどを本発明の茶飲料に使用することができる。
【0010】
本発明における水溶性食物繊維とは、ヒトの消化酵素では消化されない食品中の多糖類のうち水溶性のものをいう。その中でも、低粘性の水溶性食物繊維として難消化性デキストリン、ポリデキストロースなどが挙げられる。また、本発明における難消化性デキストリンには、水素添加により製造される難消化性デキストリンの還元物も含まれる。難消化性デキストリンは、澱粉の熱分解及び加水分解等により生成されるが、どのような手段により入手してもよく、例えば、市販品の「ファイバーソル2」、「パインファイバー」(松谷化学工業株式会社製)等がある。
【0011】
本発明における糊感とは、難消化性デキストリンを添加した飲料を口に含んだ際に感じるヌメリのようなテクスチャーである。また紙臭とは、難消化性デキストリンを添加した飲料を口に含んだ際、鼻に抜ける紙のような臭いである。この糊感及び紙臭は、いずれも、茶飲料に対し、難消化性デキストリンを0.05質量%以上添加することにより生じる。一方、難消化性デキストリンを多量に添加する場合、糊感又は紙臭が強力に発生し、茶飲料が本来有する味質のバランスを崩すこととなり、茶飲料の香味を保ったまま十分にその糊感又は紙臭を抑制することができなくなる。よって、茶飲料に対する難消化性デキストリンの添加量は、5.0質量%以下、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0012】
本発明における希少糖とは、糖の基本単位である単糖のうち、自然界に大量に存在するD−グルコース(ブドウ糖)に代表される天然型単糖に対して、自然界に微量にしか存在しない単糖(アルドース、ケトース)およびその誘導体(糖アルコール)と定義付けられている。一般に、自然界に多量に存在するアルドースは、D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−リボース、D−キシロース、L−アラビノースの6種類であり、それ以外のD−アロースなどのアルドースは希少糖と定義される。ケトースとしては、D−フラクトースは自然界に多量に存在するのに対し、他のケトースは、自然界に多量に存在しないので、希少糖といえる。ケトースのうち希少糖とされるものとしては、D−プシコース、D−タガトース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコース、L−タガトース、L−ソルボースが挙げられる。
【0013】
これら希少糖の中でも本発明に用いる希少糖は、好ましくは、D−プシコース及びD−アロースである。また、D−プシコース又はD−アロースは混合品、純品のいずれの形態でも使用することができ、混合品としては、例えば、D−プシコース及びD−アロースを含有する市販品の希少糖含有シロップである「レアシュガースウィート」(松谷化学工業株式会社製、固形分75質量%)として、容易に入手することができる。一方、本発明における希少糖の添加量は、難消化性デキストリンを添加した際に生じる糊感又は紙臭を抑制する観点から、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは、1.0質量%以上である。また、希少糖は10.0質量%を超えて添加すると、希少糖の甘味により本来茶飲料が有する味質のバランスを崩すこととなるため、10.0質量%以下とすることが好ましく、9.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0014】
本発明の難消化性デキストリン含有茶飲料に希少糖を含有させる方法としては、希少糖が最終製品に含まれる形であれば、添加時期や添加方法は特に限定されない。またD−プシコース又はD−アロースをいずれか1以上含む希少糖の形態は、液状、粉末、顆粒など特に限定されない。
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
(難消化性デキストリン添加による糊感及び紙臭の確認)
表1の組成にしたがい、緑茶飲料に各量の難消化性デキストリンを添加し、糊感又は紙臭が生じる添加量を確認した。表1の緑茶葉は、まず、30倍量の65℃温水で5分間抽出しておき、その抽出液にその他材料を添加して水で100mlに調整することにより、各緑茶飲料を調製した。その緑茶飲料の官能評価は、パネラー20名で行い、難消化性デキストリンを添加していない緑茶飲料(対照1)と比較して、「糊感を感じる」又は「紙臭を感じる」と評価した人数を評価結果とした。その結果、難消化性デキストリンを0.05質量%、1.5質量%及び3.5質量%添加したそれぞれの緑茶飲料は、対照1と比較して、糊感又は紙臭が有意に感じられることが分かった(比較例1〜3)。
【0017】
【表1】
【0018】
(希少糖を添加したときの評価)
次に、難消化性デキストリンを添加した各緑茶飲料にD−プシコース又はD−アロースを添加し、上記と同様の方法により、緑茶飲料における糊感及び紙臭の官能評価を実施した(表2)。まず、上記と同様の方法で作製した抽出液にD−プシコース又はD−アロースを添加して水で100mlに調整し、各緑茶飲料を調製した。各緑茶飲料の評価は、パネラー20名で行い、難消化性デキストリンのみを添加した緑茶飲料(対照2又は対照3)と比較して、「糊感を感じない」又は「紙臭を感じない」と評価した各人数を評価結果とした。また、「甘味」を追加の評価項目とし、「甘味が強い」と感じる人数も表2に示す。
【0019】
【表2】
【0020】
その結果、難消化性デキストリンを1.5質量%添加した緑茶飲料に、D−プシコース0.1〜12.0質量%を添加すると、「糊感を感じない」、「紙臭を感じない」と評価したパネラーの人数が有意に増加した(実施例1〜4、及び比較例5)。しかし、D−プシコース12.0質量%を添加した緑茶飲料では、甘味が強いと感じる人数が増加した(比較例5)。また、難消化性デキストリン3.5質量%を添加した緑茶飲料に、D−プシコース1.0質量%を添加すると、「糊感を感じない」、「紙臭を感じない」と評価したパネラーの人数が有意に増加した(実施例5)。
【0021】
難消化性デキストリンを1.5質量%添加した緑茶飲料に、D−アロース0.1〜12.0質量%を添加すると、「糊感を感じない」、「紙臭を感じない」と評価したパネラーの人数が有意に増加した(実施例6〜8、及び比較例7)。しかし、D−アロース12.0質量%を添加した緑茶飲料では、甘味が強いと感じるパネラーの人数が増加した(比較例7)。また、難消化性デキストリン3.5質量%を添加した緑茶飲料は、D−アロース1.0質量%を添加すると、「糊感を感じない」、「紙臭を感じない」と評価したパネラーの人数が有意に増加した(実施例9)。
【0022】
次に、難消化性デキストリンを添加した緑茶飲料にレアシュガースウィート(以下、「RSS」という。)を添加し、官能評価を行った(表3)。なお、RSSは、D−プシコース5.4質量%及びD−アロース1.4質量%を含み、固形分は75質量%であることから、RSSを2.0質量%添加した場合、その緑茶飲料中にはD−プシコース及びD−アロースが合計で0.102質量%含まれている。
【0023】
その結果、難消化性デキストリン1.5質量%を添加した緑茶飲料にRSS2.0質量%を添加すると、「糊感を感じない」、「紙臭を感じない」と評価するパネラーの人数が有意に増加した(実施例10)。
【0024】
【表3】
【0025】
(紅茶飲料における糊感及び紙臭の評価)
表4の組成にしたがい、各紅茶飲料を調製し、難消化性デキストリン含有紅茶飲料にD−プシコースを添加したときの、糊感及び紙臭の官能評価を実施した(表4)。なお、紅茶飲料は、上述の緑茶飲料と同様の抽出方法で調製し、評価方法も緑茶飲料の評価方法と同様とした。
【0026】
その結果、難消化性デキストリンを1.8質量%添加した各紅茶飲料は、D−プシコースを1.0、5.0又は13.0質量%添加すると、糊感又は紙臭を感じない人数が有意に増加した(実施例11〜12)。しかし、D−プシコース13.0質量%を添加した紅茶飲料では、甘味が強いと感じる人数が増加した(比較例10)。
【0027】
【表4】
【0028】
以上の結果から、難消化性デキストリン0.05〜3.5質量%を含む茶飲料に、D−プシコース及びD−アロースのいずれか1以上を含む希少糖0.1〜10.0質量%を添加すれば、難消化性デキストリンの糊感又は紙臭が抑制された茶飲料を提供することができる。