特許第6947468号(P6947468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6947468ポリカルボジイミド化合物及び熱硬化性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947468
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】ポリカルボジイミド化合物及び熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/02 20060101AFI20210930BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20210930BHJP
   C08G 18/09 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   C08G18/02 050
   C08G59/40
   C08G18/09 050
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-163552(P2017-163552)
(22)【出願日】2017年8月28日
(65)【公開番号】特開2019-38960(P2019-38960A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100204043
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 美和
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄大
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−007984(JP,A)
【文献】 特開平10−008396(JP,A)
【文献】 特開平10−007794(JP,A)
【文献】 特開昭62−001714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/02
C08G 59/40
C08G 18/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるポリカルボジイミド化合物。
【化1】

(一般式(1)中、R、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物のイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。Rは、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である下記式(i)で表される基、及び4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である下記式(ii)で表される基を含む。前記ポリカルボジイミド化合物中における全R中の下記式(i)で表される基の割合は50〜70モル%であり、下記式(ii)で表される基の割合は30〜50モル%である。X、Xは前記有機化合物とイソシアネートとの反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。nは2〜50の整数を表す。)
【化2】

【化3】
【請求項2】
前記ポリカルボジイミド化合物中における全R中の前記式(i)で表される基の割合は50〜60モル%であり、前記式(ii)で表される基の割合は40〜50モル%である、請求項1に記載のポリカルボジイミド化合物。
【請求項3】
前記イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物が、モノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸、及び酸無水物から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のポリカルボジイミド化合物。
【請求項4】
前記イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物がモノイソシアネートである、請求項3に記載のポリカルボジイミド化合物。
【請求項5】
エポキシ樹脂と、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリカルボジイミド化合物とを含む熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルボジイミド化合物及び該ポリカルボジイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカルボジイミド化合物は、耐熱性等に優れることから、成形材料、樹脂の改質剤、接着剤等の様々な用途に利用されてきた。
上記ポリカルボジイミド化合物は、有機ジイソシアネート又は有機ジイソシアネートと有機モノイソシアネートとから、カルボジイミド化触媒の存在下で脱炭酸反応により製造される。例えば、特許文献1では、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート100モル部と、有機モノイソシアネート5〜25モル部とをカルボジイミド化触媒の存在下で脱炭酸反応させることによりポリカルボジイミドを得ている。また、特許文献2では、原料の有機ジイソシアネートのうち2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを5モル%以上用い、該有機ジイソシアネート100モルに対しモノイソシアネートを2〜25モルの範囲で用いて、カルボジイミド化触媒の存在下で脱炭酸反応させることによりポリカルボジイミドを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−261428号公報
【特許文献2】特開平10−7794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のように、原料の有機ジイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを100%使用してポリカルボジイミドを製造した場合、得られるポリカルボジイミドは、そのスタッキング相互作用によりゲル化を起こしやすく、保存安定性が低くなるという問題があった。また、原料由来の結晶性により溶媒への溶解性が著しく低く、溶媒使用用途での使用ができないという問題があった。
また、特許文献2に記載の製造方法により得られるポリカルボジイミドは、耐熱性の低下を伴わずに可撓性を向上させることができるとしている。しかしながら、保存安定性や溶媒への溶解性については十分に検討されていない。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、保存安定性に優れ、溶媒への溶解性が高く、エポキシ樹脂などの硬化剤として用いた場合に低温での反応性が抑制されたポリカルボジイミド化合物及び該ポリカルボジイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
[1]下記一般式(1)で表されるポリカルボジイミド化合物。
【化1】

(一般式(1)中、R、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物のイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。Rは、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である下記式(i)で表される基、及び4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である下記式(ii)で表される基を含む。前記ポリカルボジイミド化合物中における全R中の下記式(i)で表される基の割合は30〜70モル%であり、下記式(ii)で表される基の割合は30〜70モル%である。X、Xは前記有機化合物とイソシアネートとの反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。nは2〜50の整数を表す。)
【0008】
【化2】

【化3】
【0009】
[2]前記ポリカルボジイミド化合物中における全R中の前記式(i)で表される基の割合は50〜60モル%であり、前記式(ii)で表される基の割合は40〜50モル%である、上記[1]に記載のポリカルボジイミド化合物。
[3]前記イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物が、モノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸、及び酸無水物から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]又は[2]に記載のポリカルボジイミド化合物。
[4]前記イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物がモノイソシアネートである、上記[3]に記載のポリカルボジイミド化合物。
[5]エポキシ樹脂と、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリカルボジイミド化合物とを含む熱硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存安定性に優れ、溶媒への溶解性が高く、エポキシ樹脂などの硬化剤として用いた場合に低温での反応性が抑制されたポリカルボジイミド化合物及び該ポリカルボジイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリカルボジイミド化合物]
本発明のポリカルボジイミド化合物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【化4】
【0012】
(一般式(1)中、R、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物のイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。Rは、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である下記式(i)で表される基、及び4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である下記式(ii)で表される基を含む。前記ポリカルボジイミド化合物中における全R中の下記式(i)で表される基の割合は30〜70モル%であり、下記式(ii)で表される基の割合は30〜70モル%である。X、Xは前記有機化合物とイソシアネートとの反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。nは2〜50の整数を表す。)
【0013】
【化5】

【化6】
【0014】
前記一般式(1)中、R、Rはイソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物のイソシアネートと反応し得る官能基を除いた残基を表し、R、Rは同一でも異なっていてもよい。上記イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物(以下、単に有機化合物ともいう)としては、イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有すれば特に限定されないが、反応性の観点から、モノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、モノカルボン酸、及び酸無水物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ポリカルボジイミド化合物中のカルボジイミド基の含有割合を高める観点から、モノイソシアネートであることがより好ましい。
【0015】
前記モノイソシアネートとしては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、n−、sec−或いはter−ブチルイソシアネート等の低級アルキルイソシアネート;シクロヘキシルイソシアネート等の脂環式脂肪族イソシアネート;フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート等の芳香族イソシアネート等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネートが好ましく、フェニルイソシアネートがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
前記モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、シクロヘキサノール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
前記モノアミンとしては、例えば、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミンが挙げられる。
前記モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、ラウリン酸、ミルスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
前記酸無水物としては、無水フタル酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記Rは、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である前記式(i)で表される基、及び4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である前記式(ii)で表される基を含む。
前記式(i)で表される基は、非直線的な構造であるため隣接するカルボジイミド基に対しその構造が立体障害となり、ポリカルボジイミド化合物のゲル化を抑制し、結晶性を低下させると推察される。これにより、本発明のポリカルボジイミド化合物は、保存安定性に優れ、高い溶媒溶解性を有すると推察される。また、本発明のポリカルボジイミド化合物をエポキシ樹脂などの硬化剤として用いた場合、低温での反応性を抑制することができると推察される。
【0018】
本発明のポリカルボジイミド化合物中における全R中の前記式(i)で表される基の割合は30〜70モル%であり、前記式(ii)で表される基の割合は30〜70モル%である。前記式(i)で表される基の割合が30モル%未満では、ゲル化しやすくなり、保存安定性及び溶媒への溶解性が低下するおそれがあり、70モル%を超えると、立体障害が大き過ぎることにより反応性が低下し、エポキシ樹脂と硬化させた際に所望の性能が得られないおそれがある。このような観点から、ポリカルボジイミド化合物中におけるRは、前記式(i)で表される基の割合が好ましくは40〜65モル%、より好ましくは50〜60モル%であり、前記式(ii)で表される基の割合が好ましくは35〜60モル%、より好ましくは40〜50モル%である。
【0019】
前記Rは、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である前記式(i)で表される基、及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた2価の残基である前記式(ii)で表される基をそれぞれ前記範囲内で含み、本発明の効果を阻害しない範囲で他のジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた2価の残基を含んでもよい。他のジイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0020】
前記X、Xは、前記有機化合物とイソシアネートとの反応により形成される基を表し、X、Xは同一でも異なっていてもよい。例えば、上記有機化合物がモノイソシアネートの場合、X、Xは下記式(I)で表される基であり、上記有機化合物がモノアルコールの場合、X、Xは下記式(II)で表される基であり、上記有機化合物がモノアミンの場合、X、Xは下記式(III)で表される基であり、上記有機化合物がモノカルボン酸の場合、X、Xは下記式(IV)で表される基であり、上記有機化合物が酸無水物の場合、X、Xは下記式(V)で表される基である。
【0021】
【化5】
【0022】
【化6】
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】
【0026】
また、前記一般式(1)中、nは2〜50の整数を表す。nが2未満ではエポキシ樹脂などの硬化剤として用いた場合に架橋性が劣るおそれがあり、nが50を超えるとポリカルボジイミド化合物がゲル化しやすくなり、ハンドリング性が低下するおそれがある。このような観点から、nは好ましくは3〜40の整数、より好ましくは4〜30の整数、更に好ましくは5〜20の整数を表す。
【0027】
本発明のポリカルボジイミド化合物は、X、Xが前記式(I)で表される基である下記一般式(2)で表されるポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。
【0028】
【化9】
【0029】
(ポリカルボジイミド化合物の製造方法)
本発明のポリカルボジイミド化合物は、公知の方法によって製造することができる。
例えば、(i)ジイソシアネートを触媒の存在下でカルボジイミド化反応してイソシアネート末端ポリカルボジイミドを得て、次いで、該イソシアネート末端ポリカルボジイミドにイソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物を添加して、末端封止反応する方法、(ii)ジイソシアネート及びイソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物を触媒の存在下で、カルボジイミド化反応及び末端封止反応する方法、(iii)ジイソシアネート及びイソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物を反応させてから触媒を添加し、次いで、カルボジイミド化反応及び末端封止反応する方法等が挙げられる。
本発明では、前記一般式(1)中のnの数を制御する観点から、前記(ii)の方法によって製造することが好ましい。
【0030】
上記ジイソシアネートの具体例としては前記のとおりである。
本発明では、使用されるジイソシアネート中、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)が30〜60モル%、及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)が40〜70モル%含まれる。ジイソシアネート中の2,4’−MDIの割合及び4,4’−MDIの割合を適宜調整することにより、前記一般式(1)中の全R中の前記式(i)で表される基の割合、及び前記式(ii)で表される基の割合をそれぞれ前記範囲内とすることができる。
ジイソシアネート中の2,4’−MDIの割合が30モル%未満では、得られるポリカルボジイミド化合物がゲル化しやすくなり、保存安定性及び溶媒への溶解性が低下するおそれがあり、60モル%を超えると反応性が低下し、所望のポリカルボジイミド化合物が得られないおそれがある。このような観点から、使用されるジイソシアネート中の2,4’−MDIの割合は好ましくは40〜60モル%、より好ましくは50〜60モル%であり、4,4’−MDIの割合は好ましくは40〜60モル%、より好ましくは40〜50モル%である。
【0031】
前記カルボジイミド化反応に用いられる触媒としては、例えば、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド及びこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等を挙げることができ、これらの中でも、反応性の観点から、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドが好ましい。
触媒の使用量は、ジイソシアネート100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部である。
【0032】
前記カルボジイミド化反応は、無溶媒でも行うことができ、溶媒中で行うこともできる。使用できる溶媒としては、テトラヒドロキシフラン、1,3−ジオキサン、及びジオキソラン等の脂環式エーテル:ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素:クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、パークレン、トリクロロエタン、及びジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、及びシクロヘキサノン等が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
前記カルボジイミド化反応の条件は、特に限定はされないが、溶媒を用いない場合、好ましくは40〜250℃、より好ましくは40〜200℃、更に好ましくは40〜150℃で、好ましくは1〜30時間、より好ましくは1〜20時間、更に好ましくは1〜10時間である。また、溶媒中で反応を行う場合は、40℃〜溶媒の沸点までであることが好ましい。
【0034】
上記ジイソシアネート及び/又はイソシアネート末端ポリカルボジイミドと、前記イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物とを反応させることにより、該ジイソシアネートが有するイソシアネート基及び/又はイソシアネート末端ポリカルボジイミドが有するイソシアネート基が、上記有機化合物により封止される。
上記有機化合物の具体例としては前記のとおりである。
【0035】
前記有機化合物の配合量は、前記一般式(1)中のnが前記範囲内となるように適宜調整すればよい。
【0036】
このようにして得られたポリカルボジイミド化合物は、溶媒への溶解性が高く、保存安定性に優れる。また、該ポリカルボジイミド化合物をエポキシ樹脂などの硬化剤として用いた場合に、低温での反応性が抑制され、該ポリカルボジイミド化合物を含む熱硬化性樹脂組成物のハンドリング性、耐熱性及び成形性を優れたものとすることができる。
【0037】
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、上述のポリカルボジイミド化合物とを含む。
本発明で用いる熱硬化性樹脂としては、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基、又は水酸基を有する樹脂が挙げられる。中でも、ハンドリング性、耐熱性の観点から、1分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0038】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されるものではなく、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも室温で液状のエポキシ樹脂が好ましい。これらの樹脂は、単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(ポリカルボジイミド化合物)
本発明のポリカルボジイミド化合物は、エポキシ樹脂などの硬化剤として用いられる。該ポリカルボジイミド化合物は、エポキシ樹脂などの硬化剤として用いた場合に、低温での反応性が抑制され、熱硬化性樹脂組成物の増粘を抑制し、ハンドリング性及び成形性を向上させることができる。また、熱硬化性樹脂組成物の耐熱性を高めることができる。
ポリカルボジイミド化合物は、前述の[ポリカルボジイミド化合物]の項で説明したとおりである。
熱硬化性樹脂組成物中のポリカルボジイミド化合物の配合量は、耐熱性の観点から、エポキシ樹脂中のエポキシ基に対するポリカルボジイミド化合物中のカルボジイミド基が、0.1〜2.0当量であることが好ましく、0.2〜1.5当量であることがより好ましい。
【0040】
(硬化促進剤)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、ポリカルボジイミド化合物との硬化反応を促進するために、さらに硬化促進剤を含有してもよい。
硬化促進剤は、硬化反応を促進するものであればその種類は特に限定されず、例えば、イミダゾール化合物、アミン化合物、有機リン系化合物などが挙げられる。中でもイミダゾール化合物が好ましく用いられる。
硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、0.1〜3質量部であることがより好ましい。
【0041】
(その他の成分)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で任意の添加剤を配合することができる。添加剤の具体例としては、カップリング剤、充填剤、離型剤、着色剤、難燃剤、消泡剤等が挙げられる。
【0042】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、前述のポリカルボジイミド化合物をエポキシ樹脂などの硬化剤として用いることにより、該樹脂組成物の増粘が抑制され、ハンドリング性及び成形性に優れるとともに、その硬化物の耐熱性が優れることから、電子基板、封止剤などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0044】
実施例1〜5及び比較例1〜3で使用した原料は以下の通りである。
<ジイソシアネート>
・ミリオネート(登録商標)NM:東ソー株式会社製、モノメリックMDI(2,4’−MDI:4,4’−MDI=54:46)
・ミリオネート(登録商標)MT:東ソー株式会社製、モノメリックMDI(4,4’−MDI)
<イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物(モノイソシアネート)>
・フェニルイソシアネート
<カルボジイミド化触媒>
・3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド
<溶媒>
・テトラヒドロフラン(THF)
【0045】
(実施例1:ポリカルボジイミド化合物(a)の合成〔原料のジイソシアネート化合物中、2,4’−MDI:54%、4,4’−MDI:46%〕)
ジイソシアネート化合物として、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)54%と、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)46%との混合物(東ソー株式会社製、モノメリックMDI;ミリオネート(登録商標)NM)100質量部、イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物として、フェニルイソシアネート6.3質量部およびカルボジイミド化触媒として、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド0.6質量部を還流管および撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下100℃で2時間撹拌し、赤外吸収(IR)スペクトル測定による波長2270cm−1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認して、重合度16のポリカルボジイミド化合物(a)を得た。
ここで、「重合度」とは、前記一般式(1)中のnを表す。
【0046】
(実施例2:ポリカルボジイミド化合物(b)の合成〔2,4’−MDI:54%〕)
実施例1において、フェニルイソシアネートの配合量を9.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして重合度11のポリカルボジイミド化合物(b)を得た。
【0047】
(実施例3:ポリカルボジイミド化合物(c)の合成〔2,4’−MDI:54%〕)
実施例1において、フェニルイソシアネートの配合量を15.8質量部に変更した以外は実施例1と同様にして重合度6のポリカルボジイミド化合物(c)を得た。
【0048】
(実施例4:ポリカルボジイミド化合物(d)の合成〔2,4’−MDI:38%〕)
実施例2において、ジイソシアネート化合物として、2,4’−MDI54%と、4,4’−MDI46%との混合物(東ソー株式会社製、モノメリックMDI;ミリオネート(登録商標)NM)70.4質量部、及び4,4’−MDI(東ソー株式会社製、モノメリックMDI;ミリオネート(登録商標)MT)29.6質量部を用いた以外は実施例2と同様にして重合度11のポリカルボジイミド化合物(d)を得た。
【0049】
(実施例5:ポリカルボジイミド化合物(e)の合成〔2,4’−MDI:54%〕)
実施例1において、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を300質量部用い、溶媒還流下とした以外は実施例1と同様にして重合度16のポリカルボジイミド化合物(e)を得た。
【0050】
(比較例1:ポリカルボジイミド化合物(f)の合成〔4,4’−MDI:100%〕)
ジイソシアネート化合物として、4,4’−MDI(東ソー株式会社製、モノメリックMDI;ミリオネート(登録商標)MT)100質量部、イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物として、フェニルイソシアネート9.5質量部およびカルボジイミド化触媒として、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド0.6質量部を還流管および撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下100℃で2時間撹拌したが、反応途中でゲル化した。
【0051】
(比較例2:ポリカルボジイミド化合物(g)の合成〔4,4’−MDI:100%〕)
ジイソシアネート化合物として、4,4’−MDI(東ソー株式会社製、モノメリックMDI;ミリオネート(登録商標)MT)100質量部、イソシアネートと反応し得る官能基を1つ有する有機化合物として、フェニルイソシアネート9.5質量部、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を300質量部およびカルボジイミド化触媒として、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド0.6質量部を還流管および撹拌機付き反応容器に入れ、窒素気流下、溶媒還流下で3時間撹拌し、赤外吸収(IR)スペクトル測定による波長2270cm−1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認した後、50℃の乾燥機でテトラヒドロフランを蒸発させて重合度11のポリカルボジイミド化合物(g)を得た。
【0052】
(比較例3:ポリカルボジイミド化合物(h)の合成〔2,4’−MDI:19%〕)
比較例2において、ジイソシアネート化合物として、2,4’−MDI54%と、4,4’−MDI46%との混合物(東ソー株式会社製、モノメリックMDI;ミリオネート(登録商標)NM)35.2質量部、及び4,4’−MDI(東ソー株式会社製、モノメリックMDI;ミリオネート(登録商標)MT)64.8質量部を用い、反応温度を100℃に変更した以外は比較例2と同様にして重合度11のポリカルボジイミド化合物(h)を得た。
【0053】
<評価項目>
(1)溶媒への溶解性
テトラヒドロフラン100質量部に対し、実施例1〜4および比較例2、3で得られたポリカルボジイミド化合物50質量部を添加して室温(25℃)で10分間撹拌した。均一溶液となったものを「溶解」、溶けきらなかったものを「不溶」として評価した。
また、テトラヒドロフランをシクロヘキサノン及びトルエンに変更して同様の操作によりポリカルボジイミド化合物の溶解性について評価した。結果を表1に示す。
【0054】
(2)保存安定性試験1:溶媒(トルエン)中での保存安定性
実施例1〜4および比較例3で得られたポリカルボジイミド化合物を、それぞれトルエン中に50wt%となるように溶解し、ポリカルボジイミド溶液を得た。このポリカルボジイミド溶液を密閉容器に入れ、常温(20℃)で放置し、ゲル化するまで(目視で固形物が析出するまで)の時間を測定した。結果を表1に示す。
なお、ゲル化するまでの時間が長いほどポリカルボジイミド化合物の保存安定性が良いことになる。
【0055】
(3)保存安定性試験2:100℃でのゲルタイム測定
実施例1〜4および比較例3で得られたポリカルボジイミド化合物を粉砕機で粉末にしてアルミシャーレに入れ、100℃に加熱したホットプレートに載せた。アルミシャーレを保持しながら内容物をスパチュラでかき混ぜ、ゲル化するまで(スパチュラでかき混ぜることができなくなるまで)の時間を測定した。結果を表1に示す。
なお、ゲル化するまでの時間が長いほどポリカルボジイミド化合物の保存安定性が良いことになる。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1〜4で得られたポリカルボジイミド化合物は、いずれの溶媒にも溶解し、トルエン中での保存安定性に優れていた。一方、ジイソシアネート化合物として、4,4’−MDIのみ用いてテトラヒドロフラン中で合成したポリカルボジイミド化合物は、いずれの溶媒にも溶解しなかった(比較例2)。また、2,4’−MDIの割合が本発明で規定する範囲よりも少ないポリカルボジイミド化合物は、いずれの溶媒にも溶解したが、トルエン中での保存安定性が低かった(比較例3)。
【0058】
実施例6〜13及び比較例4、5で使用した原料は以下の通りである。
<エポキシ樹脂>
・jER(登録商標)828:三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂
・NC−3000:日本化薬株式会社製、ビフェニル型エポキシ樹脂
<硬化剤>
・実施例1で合成したポリカルボジイミド化合物(a)
・実施例2で合成したポリカルボジイミド化合物(b)
・実施例3で合成したポリカルボジイミド化合物(c)
・実施例4で合成したポリカルボジイミド化合物(d)
・比較例2で合成したポリカルボジイミド化合物(g)
・比較例3で合成したポリカルボジイミド化合物(h)
<硬化促進剤>
・キュアゾールTBZ:四国化成工業株式会社製、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化促進剤
【0059】
(実施例6)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂;jER(登録商標)828)100質量部、粉砕機で粉末にした実施例1のポリカルボジイミド化合物(a)91質量部をアルミシャーレに入れて、100℃のホットプレートに載せて樹脂をスパチュラで混合し、ポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を得た。
【0060】
(実施例7〜9及び比較例4)
ポリカルボジイミド化合物を表2に示した組成に変更した以外は実施例6と同様にして、実施例7〜9、及び比較例4のポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を得た。なお、表2中、空欄は配合なしを表す。
【0061】
(実施例10)
エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、ビフェニル型エポキシ樹脂;NC−3000)100質量部、粉砕機で粉末にした実施例1のポリカルボジイミド化合物(a)73.3質量部、及び硬化促進剤(四国化成工業株式会社製、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化促進剤;キュアゾールTBZ)0.2質量部をアルミシャーレに入れて、100℃のホットプレートに載せて樹脂を混合し、ポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を得た。
【0062】
(実施例11〜13及び比較例5)
ポリカルボジイミド化合物を表3に示した組成に変更した以外は実施例10と同様にして、実施例11〜13、及び比較例5のポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を得た。なお、表3中、空欄は配合なしを表す。
【0063】
(実施例14)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂;jER(登録商標)828)100質量部、粉砕機で粉末にした実施例1のポリカルボジイミド化合物(a)91質量部をテトラヒドロフラン200重量部に溶解して、離形PETフィルムにキャストして100℃で5分乾燥させて、ポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を得た。
【0064】
(実施例15〜17)
ポリカルボジイミド化合物を表4に示した組成に変更した以外は実施例14と同様にして、実施例15〜17のポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を得た。なお、表4中、空欄は配合なしを表す。
【0065】
<評価項目>
(4)硬化性試験:120℃及び185℃でのゲルタイム測定
(4−1)120℃でのゲルタイム測定
実施例6〜13及び比較例4、5で得られたポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を粉砕機で粉末にしてアルミシャーレに入れ、120℃に加熱したホットプレートに載せた。アルミシャーレを保持しながら内容物をスパチュラでかき混ぜ、ゲル化するまで(スパチュラでかき混ぜることができなくなるまで)の時間を測定した。結果を表2及び表3に示す。
なお、ゲル化するまでの時間が長いほどポリカルボジイミド化合物の低温での反応性が抑制されていることになる。
【0066】
(4−2)185℃でのゲルタイム測定
上記(4−1)におて、ホットプレートの温度を185℃に変更して、上記操作と同様にしてゲル化するまでの時間を測定した。結果を表2及び表3に示す。
なお、温度185℃でのゲルタイム測定は、ポリカルボジイミド化合物を硬化剤として用いる時の硬化反応性を示す。
【0067】
(5)ガラス転移温度
実施例6〜17及び比較例4〜5で得られたポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物を180℃で2時間加熱して成形体(縦2cm×横1cm×厚み100μm)を得た。得られた成形体を、動的粘弾性測定器(セイコーインスツル株式会社製、DMS6100)を用い、昇温速度10℃/min.の条件でガラス転移温度を測定した。結果を表2〜4に示す。
なお、ガラス転移温度が高いほど、耐熱性が高く、高温時の特性変化がなく信頼性が高いことが期待できる。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例6〜9で得られたポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物の120℃でのゲルタイムは557〜784秒であり、比較例4のポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物と比較していずれも長く、ポリカルボジイミド化合物の低温での反応性が抑制されていることが分かる。また、185℃でのゲルタイムは長くなり過ぎず、十分な硬化反応性を示すことが分かる。さらに、該樹脂組成物の成形体のガラス転移温度はいずれも250℃以上と高く、耐熱性に優れていた。
【0070】
【表3】
【0071】
実施例10〜13で得られたポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物の120℃でのゲルタイムは503〜795秒であり、比較例5のポリカルボジイミド化合物含有樹脂組成物と比較していずれも長く、ポリカルボジイミド化合物の低温での反応性が抑制されていることが分かる。また、185℃でのゲルタイムは長くなり過ぎず、十分な硬化反応性を示すことが分かる。さらに、該樹脂組成物の成形体のガラス転移温度はいずれも260℃以上と高く、耐熱性に優れていた。
【0072】
【表4】
【0073】
実施例14〜17の結果から、本発明のポリカルボジイミド化合物を溶媒に溶解させてもガラス転移温度の高い硬化物が得られることがわかった。