特許第6947488号(P6947488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000002
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000003
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000004
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000005
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000006
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000007
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000008
  • 特許6947488-制御装置および電力変換装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947488
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】制御装置および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/00 20060101AFI20210930BHJP
【FI】
   H02J1/00 301B
   H02J1/00 306F
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-522495(P2020-522495)
(86)(22)【出願日】2018年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2018020928
(87)【国際公開番号】WO2019229921
(87)【国際公開日】20191205
【審査請求日】2020年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】服部 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】狼 智久
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−126199(JP,A)
【文献】 特開2016−152733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された電流指令値にしたがって電力を伝送する直流送電システムの端子に接続されることができる電力変換器を制御する制御装置であって、
前記直流送電システムの送電端に設定された場合に、前記直流送電システムの受電端で設定される電流指令値にもとづいて電流制御された電流に応じて、自己の出力端子電圧があらかじめ設定された第1特性を有する第1特性設定部を備え、
前記第1特性は、前記電流制御された電流に対して、前記出力端子電圧が単調減少する制御装置。
【請求項2】
前記第1特性は、線形である請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1特性は、前記受電端で設定され得る電流指令値の最小値のときに、前記出力端子電圧を最大値とする請求項1記載の制御装置。
【請求項4】
前記設定され得る電流指令値に追従するように電流制御する電流制御部をさらに備えた請求項1記載の制御装置。
【請求項5】
前記電流制御部は、前記直流送電システムに指令する上位システムから起動指令を受信した場合に、前記設定され得る電流指令値の最大値で動作する請求項4記載の制御装置。
【請求項6】
前記電流制御部は、前記直流送電システムに指令する上位システムから潮流反転指令を受信した場合に、前記設定され得る電流指令値の最小値に設定する請求項4記載の制御装置。
【請求項7】
交流電圧と直流電圧とを相互に変換する電力変換器と、
請求項1記載の制御装置と、
を備えた電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、直流送電システムの端子に接続される電力変換器を制御する制御装置およびその制御装置を用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの端子を含む直流送電システムでは、両方の端子のうちのいずれか一方の端子に接続された電力変換装置は、たとえば上位システムから供給される電力指令値を入力し、電力指令値にもとづいて電流指令値(Idp)を生成して定電力制御(APR)などを行う。他方の端子に接続された電力変換装置は、通信回線を介して、一方の端子で生成された電流指令値Idpのデータを受信する。このように、両端子の電力変換装置が同一の電流指令値Idpを適切なタイミングで入力されることによって、直流送電システムは、正常に機能する。
【0003】
伝送データの欠落や遅延等は、直流送電システムの運用において不具合を生じさせ得る。そのため、端子間通信は、高品質、高信頼性を有することが求められる。高品質、高信頼性の通信のために、専用通信回線を敷設し、専用の通信装置を設置する等が必要となり、コスト負担が大きくなる傾向がある。
【0004】
高品質、高信頼性の端子間通信を実現した場合であっても、通信上の不具合を完全になくすことは困難であるため、各端子の電力変換装置は、端子間通信に依存しない運転モードを備えている。しかし、端子間通信に依存しない運転モードでは、直流送電システムは、制御性能の制約や、システム運用上の制約等を生じさせる。そのため、このような運転モードは、あくまでもバックアップとして用いられることが想定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−152733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、端子間通信を用いずに運用できる直流送電システムに接続される電力変換器を制御する制御装置およびその制御装置を備えた電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によれば、設定された電流指令値にしたがって電力を伝送する直流送電システムの端子に接続されることができる電力変換器を制御する制御装置が提供される。前記制御装置は、第1特性設定部を備える。第1特性設定部は、前記直流送電システムの送電端に設定された場合に、前記直流送電システムの受電端で設定される電流指令値にもとづいて電流制御された電流に応じて、自己の出力端子電圧があらかじめ設定された第1特性を有する。前記第1特性は、前記電流制御された電流に対して、前記出力端子電圧が単調減少する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、端子間通信を用いずに運用できる直流送電システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図2図1の電力変換装置の特性を例示するグラフである。
図3図3(a)〜図3(c)は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのグラフである。
図4】実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
図5図5(a)〜図5(d)は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのグラフである。
図6図6(a)および図6(b)は、実施形態の電力変換装置の制御装置の一部を例示するブロック図である。
図7図7(a)は、比較例の電力変換装置を例示するブロック図である。図7(b)は、図7(a)の電力変換装置の動作を説明するためのグラフである。
図8】比較例の電力変換装置において、通信しゃ断時の動作を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図1には、直流送電システムの構成も合わせて示されている。図1に示すように、直流送電システム1は、2つの電力変換装置10a,10bと、直流送電線3と、を含む。電力変換装置10aは、直流送電線3と交流回路2aとの間に接続されている。電力変換装置10bは、交流回路2bと直流送電線3との間に接続されている。交流回路2a,2bは、たとえば、それぞれ、50Hzまたは60Hzの交流電源や交流送電線、交流負荷等を含む構成とすることができる。交流回路2a,2bは、異なる電力系統とすることができる。
【0012】
直流送電システム1は、双方向の直流電力の送電が可能である。電力変換装置10a,10bの接続端子は、直流電力を送電する送電端となることができ、直流電力を受電する受電端となることもできる。一方の電力変換装置10aの接続端子が送電端となる場合には、他方の電力変換装置10bの接続端子は受電端となる。他方の電力変換装置10bの接続端子が送電端となる場合には、一方の電力変換装置10aの接続端子は受電端となる。電力変換装置10a,10bは、同じ構成をそれぞれ有しており、以下では、電力変換装置10aの構成について説明する。電力変換装置10bの構成要素である20b〜38bは、電力変換装置10aの構成要素である20a〜38bとそれぞれ同一であり、適宜説明を省略する。
【0013】
以下では、2端子の直流送電システム1について説明するが、電力変換装置は、3端子以上の多端子の直流送電システムに適用することができる。
【0014】
電力変換装置10aは、電力変換器20aと、制御装置30aと、を備える。電力変換器20aは、制御装置30aが生成するゲート信号vgにしたがって、交流電圧を直流電圧に変換して出力する。電力変換器20aは、他励式の電力変換器であり、たとえばサイリスタバルブである。
【0015】
制御装置30aは、直流電圧Vdおよび直流電流Idにもとづいて、ゲート信号vgを生成し、生成されたゲート信号vgを電力変換器20aに供給する。
【0016】
制御装置30aは、電流指令値設定部34aと、直流電圧制御部36aと、直流電流制御部38aと、を含む。制御装置30aは、電流指令値設定部34aまたは直流電流制御部38aのうち一方を適宜あるいは自動的に選択し、動作させる。電力変換装置10aが送電端の場合には、電流指令値設定部34aが選択され、電力変換装置10が受電端の場合には、直流電流制御部38aが選択される。
【0017】
直流電流制御部38aは、電力変換装置10aが受電端であり、直流電流指令値Idpが設定された場合に、その直流電流指令値Idpに追従するように動作する。
【0018】
直流電圧制御部36aは、潮流反転によって、電力変換装置10aが受電端となった場合に、一時的に電圧制御動作を行い、運転点を確定させるために動作する。
【0019】
図2は、図1の電力変換装置の特性を例示するグラフである。
図2のグラフは、電流指令値設定部34aが出力する特性の例である。
図2に示すように、電流指令値設定部34aは、電流指令値Idpのデータに対する自己の直流端子電圧Vdのデータを有する。電流指令値Idpの範囲Idp_min〜Idp_maxは、直流送電システム1で設定され得る電流指令値の範囲である。電流指令値Idpの範囲は、好ましくは、直流送電システム1の電流指令値の設定範囲と一致する。
【0020】
直流端子電圧Vdは、電流指令値Idpに対して、所定の範囲内で単調に減少するように設定されている。単調減少する範囲は、たとえば定格電圧の95%〜定格電圧である。送電端の直流端子電圧が運転時の最大電圧である定格電圧の場合に、送電効率が高くなるので、直流端子電圧Vdの範囲の最大値は、好ましくは、定格電圧である。
【0021】
電流指令値Idpに対する直流端子電圧Vdは、好ましくは、線形な特性を有するが、単調に減少する特性を有していれば、線形でなくてもかまわない。
【0022】
電流指令値Idpに対する直流端子電圧Vdのデータは、たとえば電流指令値設定部34aがテーブル形式で保持する。電流指令値設定部34aは、電流指令値Idpが直流端子電圧Vdに関する関数として保持するようにしてもよい。
【0023】
直流電圧制御部(AVR)36aは、後に詳述する潮流反転時に電流指令値設定部34aによって設定された特性を解除した後に選択される。電力変換装置10aが送電端から受電端に潮流反転する場合に、電流指令値Idpを最小値に設定することによって、電力変換装置10は、反転した直流電圧をAVR36aによって制御する。その後、電力変換装置10は、電流制御動作に移行する。
【0024】
直流電流制御部(ACR)38aは、電力変換装置10aが受電端の場合に、上位システムから供給される電力指令値にもとづいて生成される電流指令値Idpに追従するように動作する。上位システムから供給される電力指令値は、電流指令値生成部32によって電流指令値Idpとされる。
【0025】
電流指令値生成部32は、制御装置30a内に設けられていてもよいし、上位システム側に設けられ、制御装置30aは上位システムから電流指令値Idpを設定されるようにしてもよい。
【0026】
ACR38aは、潮流反転時の電流指令値設定部34aによって設定された特性を解除する場合に選択される。潮流反転信号によって、ACR38aが選択され、ACR38aはたとえば最小値Idp_minに電流指令値Idpを設定する。
【0027】
図示しないが、制御装置30a,30bは、電力変換器20a,20bがサイリスタバルブの場合には、余裕角制御機能もそれぞれ有している。余裕角制御機能は、直流送電線3を流れる直流電流Idが大きく、制御角が大きい場合には、直流端子電圧Vdを制限する。
【0028】
実施形態の電力変換装置の動作について説明する。
まず、送電端と受電端の間の運転点の決定動作について説明する。
図3(a)〜図3(c)は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのグラフである。
図3(a)〜図3(c)の各図には、横軸に直流送電線3に流す直流電流Idおよび縦軸に電力変換装置10a,10bの直流端子電圧Vdが示されている。直流端子電圧Vdが正の場合には、電力変換装置10a,10bは、正の直流端子電圧Vdを出力している。直流端子電圧Vdが負の場合には、電力変換装置10a,10bは、負の直流端子電圧−Vdを出力している。直流送電システム1の送電端および受電端においては、直流端子電圧Vdは反対符号を有する。以下、Vd対Idの特性を電力変換装置または送電端、受電端の出力特性という。
【0029】
図3(a)〜図3(c)では、電力変換装置10aが送電端であり、電力変換装置10bが受電端である。図3(a)〜図3(c)に示すように、送電端の電力変換装置10aが正の直流端子電圧Vdを出力している場合に、受電端の電力変換装置10bは、負の直流端子電圧−Vdを出力している。送電端の出力特性は、(REC)で示される太実線であり、受電端の出力特性は(INV)で示される細実線である。
【0030】
図3(a)に示すように、直流送電システム1の運転点OPは、送電端の出力特性と受電端の出力特性が交差する点である。受電端では、電力変換装置10bは、電流指令値Idpで設定された電流制御モード(ACRモード)で動作している。ACRモードの動作は、図中のACR(INV)と表されている。このときの電流指令値Idpは、電流指令値の設定範囲Idp_min〜Idp_max内である。
【0031】
送電端では、電力変換装置10aは、電流指令値Idpが電流指令値設定部34aによって設定された範囲内のため、電流指令値設定部34aが選択され、電流指令値Idpに電流制御されている直流電流Idに対して直流端子電圧Vdは一義的に決定される。
【0032】
電流指令値Idpを図3(a)の場合のIdpよりも小さいIdp1に設定した場合には、図3(b)の場合のように、運転点OPが運転点OP1に移動する。この状況を詳細に説明すると以下のようになる。
【0033】
受電端に与えられる電流指令値IdpがIdpよりも小さいIdp1に設定された場合、一時的に電流指令値Idp1<Idとなる。このため、受電端の直流電流制御により、IdはIdp1へと制御され、Idは減少していく。送電端では、Idが減少することでIdp1>Idとなり、ACR38aにより送電端の制御角の位相が進められ、Vdが上昇していく。Idの減少およびVdの上昇は、送電端のACR特性と送電端のIdp−Vd特性で決まる次の運転点OP1に到達するまでつづく。Idの減少およびVdの上昇は、次の運転点OP1に到達すると、IdおよびVdが再び安定した動作となる。これらの挙動は、たとえば擾乱等によって、Idが一時的に増加した場合や、Vdが一時的に低下した場合でも同様である。
【0034】
電流指令値Idpを図3(a)の場合よりも大きいIdp2に設定した場合には、図3(c)の場合のように、運転点OPが運転点Op2に移動する。この状況を詳細に説明すると以下のようになる。
【0035】
受電端の電力変換装置10bの直流電流制御部38bによって、直流電流Idは電流指令値Idp2へと制御され、直流電流Idが増加していく。送電端の電力変換装置10aでは、直流電流Idが増加することで、Idp2<Idとなり、直流電流制御によって、送電端の制御角αが遅れ、直流端子電圧Vdが低下する。Idの増加およびVdの低下は、受電端の電力変換装置10bのACR38bの特性と送電端の電力変換装置10aの電流指令値設定部34aの特性で決まる次の運転点OP2に到達するまでつづく。Idの増加およびVdの低下は、次の運転点OP2に到達すると、再び安定する。これらの挙動は、擾乱等によって、Idが一時的に減少した場合や、Vdが一時的に上昇した場合でも同様である。
【0036】
このように、実施形態では、受電端の電力変換装置10bに電流指令値Idpが設定されれば、送電端の電力変換装置10aは、通信回線等を介して電流指令値Idpの設定を受けることなく、運転点は自動的に決定される。
【0037】
次に、図4および図5(a)〜図5(d)を参照して、潮流反転によって、送電端と受電端とが入れ替わる場合の動作について説明する。ここからの説明については、送電端と受電端とが入れ替わるので、電力変換装置10aが接続されている端子をA端子と呼び、電力変換装置10bが接続されている端子をB端子と呼ぶ。出力特性の図では、A端子の出力特性を太実線、B端子の出力特性を細実線で表記する。
図4は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
図5(a)〜図5(d)は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのグラフである。
図4に示すように、ステップS1において、B端子の電力変換装置10bは、上位システムから電流指令値Idpの供給を受けて、電流指令値Idpに追従するようにACR動作を行う。A端子の電力変換装置10aは、電流指令値設定部34aのIdp−Vd特性によって決定される運転点OPで運転される。
【0038】
ステップS1の状態は、図5(a)のように示される。図5(a)の状態は、図3(a)においてすでに詳述した動作と同じである。
【0039】
ステップS2において、A端子の電力変換装置10aは、上位システムから潮流反転指令を受信し、Idp−Vd特性を解除する。
【0040】
具体的には、図5(b)に示すように、電力変換装置10aは、潮流反転指令に応じて、ACR動作に遷移し、ACR動作の電流指令値Idpを最小値Idp_minに設定する。このとき、電力変換装置10bは、ACR動作を継続している。電力変換装置10aの直流端子電圧Vdは、反転し(ステップS3)、運転点は、AVR(A)と表記したA端子のAVR特性およびB端子のACR特性によって決定されるOP3に遷移する。
【0041】
ステップS4において、電力変換装置10bは、潮流反転後の電流指令値を受信する。
【0042】
電力変換装置10aは、図5(c)のAVR(A)で示されるAVR特性で動作し、電力変換装置10bは、ACR(B)で示されるACR特性で動作する。運転点OP4は、AVR(A)と表記されたAVR特性およびACR(B)と表記されたACR特性によって決定される。
【0043】
ステップS5において、電力変換装置10bは、電流指令値設定部34bによって、Idp−Vd特性を設定する。電力変換装置10bのIdp−Vd特性は、電力変換装置10aのIdp−Vd特性と同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
図5(d)に示すように、A端子の電力変換装置10aは、電力変換装置10aは、ACR(A)で示されるACR特性で動作し、B端子の電力変換装置10bは、Idp−Vd特性で動作する。運転点OP5は、これらの特性によって決定される(ステップS6)。
【0045】
このようにして、実施形態の電力変換装置10a,10bは、潮流反転動作を実行することができる。
【0046】
図6(a)および図6(b)は、実施形態の電力変換装置の制御装置の一部を例示するブロック図である。
実施形態の電力変換装置10a,10bは、適切に論理回路を設定することによって、高品質、高信頼性の通信回線を設置することなく、自動的に起動し、潮流反転動作を実行することができる。このような論理回路は、制御装置30a,30bにそれぞれ設けることができる。
【0047】
図6(a)および図6(b)に示すように、制御装置30aは、フリップフロップ40,42,43と、比較器44,46と、切替器45,47と、出力部48と、Idp設定部49と、を含む。制御装置30aは、電流指令値生成部32を含む。電流指令値生成部32は、切替器45の一方の入力に電流指令値Idpのデータを供給する。
【0048】
フリップフロップ40,42,43は、この例では、RSフリップフロップである。フリップフロップ40は、たとえば2つのフリップフロップ41a,41bを含んでおり、電力変換装置10aが送電端であるか、受電端であるかに応じていずれかが選択される。この例では、電力変換装置10aが送電端の場合には、フリップフロップ41bが選択され、電力変換装置10bが受電端の場合には、フリップフロップ41aが選択される。フリップフロップ40の出力は、フリップフロップ42,43のリセット入力Rに接続されている。
【0049】
フリップフロップ42のセット入力Sには、起動指令CMD1が入力される。起動指令CMD1は、電力変換装置10aが受電端の場合に入力される。フリップフロップ43のセット入力Sには、潮流反転指令CMD2が入力される。
【0050】
フリップフロップ42,40の出力は、それぞれ比較器44の入力に接続されている。比較器44は、フリップフロップ42,40のうち“1”を出力する方を選択して出力する。比較器44の出力は、切替器45に切替信号を供給する。
【0051】
比較器44の出力およびフリップフロップ43の出力は、他の比較器46の入力に接続されている。比較器46は、比較器44の出力およびフリップフロップ43の出力のうち“1”を出力する方を選択して出力する。比較器46の出力は、切替器47に切替信号を供給する。
【0052】
切替器45は、2つの入力を切り替えて、出力部48に入力された信号を供給する。切替器45の一方の入力には、電流指令値生成部32から電流指令値Idpのデータが供給される。切替器45の他の入力には、電流指令値の固定値が設定されている。この例では、電流指令値の固定値として、電流指令値の最小値Idp_min=0.1puが設定されている。
【0053】
切替器45は、比較器44から供給される切替信号に応じて、いずれかの入力のデータを出力部48に供給する。切替信号が“1”の場合には、切替器45は、電流指令値生成部32から出力された電流指令値Idpのデータを出力部48に供給する。切替信号が“0”の場合には、切替器45は、固定値である0.1puを出力部48に供給する。
【0054】
切替器47は、2つの入力を切り替えて、出力部48の信号のリミット値を設定する。出力部48は、切替器47の出力に応じたリミット値で出力を制限する。
【0055】
切替信号が“1”の場合には、切替器47は、固定値である0.1puをリミット値として、出力部48に供給する。切替信号が“0”の場合には、切替器45は、Idp設定部49から出力されたIdpのデータをリミット値として、出力部48に供給する。
【0056】
Idp設定部49は、Vdに対してIdpが設定されている。この例では、直流端子電圧Vdの最小値Vd_minが定格値Vdpの95%のときに、Idpの最大値Idp_maxとなり、そのときの値が1.1puである。直流端子電圧Vdが定格値Vdpのときに、Idpの最小値Idp_minとする。
【0057】
この論理回路の動作について説明する。
まず、起動の手順について説明する。
起動シーケンスは、受電端に起動指令CMD1を入力することで開始される。このとき、Vdは0.0puから上昇(または減少)を始めるため、送電端の電流指令値Idpは、Idp設定部49のIdp−Vd特性により、Idp_maxに設定される。このIdp_maxは、Idp設定部49によって、受電端に入力される可能性があるIdpの上限よりも大きな値に設定されている。たとえば、受電端にIdpとして最大1.0puが与えられる場合、Idp_maxは1.1puに設定される。
【0058】
この結果、起動時には、送電端のIdpの大きさ>受電端のIdp大きさとなる関係性が保たれる。そのため、電力変換装置10a,10bの直流電圧極性が確定し、Vdが上昇(減少)する。Vdが0.9pu(または−0.9pu)に到達すると、INV端のVd条件を設定するフリップフロップ40がセットされるため、起動指令CMD1がリセットされる。Vdが送電端の電力変換装置10aのIdp−Vd特性にて決まる値まで到達すると、受電端のACR特性と、送電端のIdp−Vd特性によりIdとVdが制御される平常の運転状態となる。
【0059】
次に、潮流反転時の手順について説明する。
潮流反転シーケンスは、送電端の電力変換装置10aに潮流反転指令CMD2を入力することで開始される。潮流反転指令CMD2は、送電端で手動で操作して入力してもよいし、電流指令値生成部32bを有する受電端の電力変換装置10bから伝送することとしてもよい。受電端の電力変換装置10bから潮流反転指令CMD2を伝送する場合、送電端と受電端で潮流反転指令CMD2を同期させる必要はない。そのため、両端子間の指令やデータの伝送には、必ずしも高品質な通信を用いる必要はない。
【0060】
直流電流Idの条件にてINV端からREC端に潮流反転動作に移行することで伝達してもよい。たとえば、Idが0.15puを下回ったことによって、送電端において、潮流反転指令CMD2を検知する等してもよい。この場合には、端子間通信をまったく使用しない。
【0061】
これらいずれかの方法により、送電端(A端子)において潮流反転指令CMD2を受信し、検出した場合、A端子のIdp−Vd特性は解除され、A端子のIdpは事前に設定されたIdp_min(=0.1pu)に設定される。図4図5(a)〜図5(d)によって説明した通り、潮流反転動作が開始され、Vdの極性が反転する。
【0062】
Vdの極性反転後、Vdはさらに減少(または上昇)し、Vdが−0.9pu(または0.9pu)に到達すると、A端子のVd条件を設定するフリップフロップ40がセットされる。そして、潮流反転指令CMD2がリセットされるとともに、A端子の電力変換装置10aには、電流指令値生成部32aによってIdpが設定される。
【0063】
このとき、B端子の電力変換装置10bでもVdの極性が反転するため、Vdが−0.9pu(または0.9pu)に到達することで、B端子のVd条件を設定するフリップフロップ40がリセットされ、B端子の電力変換装置10bのIdpはIdp−Vd特性により設定されることとなる。
【0064】
VdがB端子の電力変換装置10bのIdp−Vd特性にて決まる値まで到達すると、A端子の電力変換装置10aのACR特性と、B端子の電力変換装置10bのIdp−Vd特性によりIdとVdが制御される平常運転状態となる。
【0065】
このようにして、実施形態の電力変換装置10a,10bでは、高品質、高信頼性を有する通信回線を用いることなく、起動指令CMD1によって自律的に一方が起動し、潮流反転指令CMD2によって、自動的に潮流反転動作を実行することができる。
【0066】
上述した制御装置を含む電力変換装置の各部構成は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等を含む演算装置によって実現されてもよい。上述した各部構成の一部または全部は、演算装置に接続された記憶装置に格納されたプログラムが逐次実行されることによって実現されてもよい。
【0067】
本実施形態の電力変換装置10a,10bの効果について、比較例の電力変換装置と比較しつつ説明する。
図7(a)は、比較例の電力変換装置を例示するブロック図である。図7(b)は、図7(a)の電力変換装置の動作を説明するためのグラフである。
図7(a)に示すように、直流送電システム101は、電力変換器120a、120bと、制御装置130a,130bと、を含む。
電力変換器120aは、交流回路2aと直流送電線3との間に接続されている。電力変換器120bは、直流送電線3と交流回路2bとの間に接続されている。
【0068】
制御装置130aは、定電圧制御部(AVR)136aと、定電流制御部(ACR)138aと、を含む。制御装置130aは、余裕角制御部139aを有している。制御装置130a,130bにおいて、AVR136a,136b、ACR138a,138b、および余裕角制御部139a,139bは、それぞれ同一の構成要素であり、以下では、制御装置130aについて説明する。
【0069】
制御装置130aは、実施形態の電力変換装置10aの制御装置30aと同様に、直流端子電圧Vdおよび直流電流Idを入力して、これらが電圧指令値および電流指令値にそれぞれ追従するように、ゲート信号vgを生成する。
【0070】
図7(b)に示すように、送電端の制御装置130aは、電流指令値Idpが供給されたことによって、直流電流Idを電流指令値Idpに追従させるACR動作をしている。図では、ACR(REC)で示されている。
【0071】
受電端の制御装置130bは、通信回線150を介して電流指令値Idpのデータを受信する。制御装置130bのACR部138bは、ACR特性を、電流指令値Idpから電流マージンΔIdp分を減算した電流(Idp−ΔIdp)に設定する。
【0072】
送電端のAVR特性(AVR(INV))と受電端のACR特性(ACR(REC))とによって、運転点OPcが決定される。
【0073】
このように、電流指令値生成部132によって生成された電流指令値Idpは、端子間通信のための通信回線150を用いて、受電端に伝送され、両端で同一のIdpを共有する。また、電流指令値Idpのほか、両端子間で潮流方向信号や起動停止指令を授受することによって、潮流反転や起動停止タイミングを同期させる。
【0074】
比較例の直流送電システム101では、電流指令値Idpのデータが両端子間で大きな遅れをもって伝送されたり、一方のデータが欠落したりした場合には、電力伝送や潮流反転が適切に行われない。
【0075】
比較例の場合には、端子間通信は、電流指令値Idpや潮流方向指令、起動停止指令などの両端間の信号授受に用いられるので、端子間通信の遅れは、制御の安定性や、潮流反転シーケンス、起動停止シーケンスの非正常動作につながる可能性がある。そのため、端子間通信には高品質、高信頼性が求められる。高品質、高信頼性な通信とは、高速度かつ通信量による通信速度への影響が小さいことをいう。高品質、高信頼性の通信を実現するため、両端間で専用線を敷設する場合には、敷設コストが増加し、専用線の運用コストや維持コストも増加する場合が多い。
【0076】
比較例の制御装置130aでは、端子間通信がしゃ断された場合に、端子間通信によらず、電力伝送を継続する手法が用いられることがある。
図8は、比較例の電力変換装置において、通信しゃ断時の動作を説明するためのブロック図である。
図8に示すように、通信しゃ断時には、受電端において、電流指令値Idpの最小値Idp_minに強制的に設定することが行われる場合がある。この第1の手法では、受電端の制御装置130bにおいて、電流指令値Idpの受信が停止した場合に、ACR特性の電流をIdp_minに設定することによって、運転点を一義的に決定することができる。しかしながら、この手法では、送電できる直流電流がIdp_minに制限されてしまい、所望の電力を送電することができない。
【0077】
第2の手法として、電流指令値Idpの受信が停止した場合に、受電端において検出された直流電流Idを電流指令値に設定する場合がある。しかしながら、受電端においてACR選択モードとなった場合、受電端のACRの制御対象である直流電流Idに対して指令値が(Id−ΔIdp)となり、上述の場合と同様に直流電流が(Idp_min−ΔIdp)に制御される。
【0078】
第3の手法では、送電端側で制御装置130aを操作するオペレータと、受電端側で制御装置130bを操作するオペレータとを配して、オペレータが電話等の他の通信手段を用いて、手動で電流指令値Idpを設定する場合がある。しかしながら、この手法では、端子間通信の異常に備えて、常時、すべての端子にオペレータを配置する必要があり、現実的な運用は困難である。
【0079】
上述の第1の手法や第2の手法の場合には、受電端のIdpに所望の値を設定することができないため、潮流反転を行うことは困難である。したがって、第1の手法や第2の手法についても、端子間通信が異常となった場合のバックアップとして利用することが前提とならざるを得ない。
【0080】
本実施形態の電力変換装置10a,10bは、電流指令値設定部34a,34bを含む制御装置30a,30bを備えている。電流指令値設定部34a,34bには、電流指令値Idpに対する自己の直流端子電圧Vdの値が設定されている。Idp−Vd特性は、Idpに対して、Vdが単調に減少するように設定されている。そのため、電流指令値設定部34a,34bのIdp−Vd特性は、Idpを設定すると、一義的にVdが定まる。したがって、送電端および受電端の双方に電流指令値Idpを設定しなくても、受電端の電力変換装置10bのACR特性で設定されたIdpに応じて送電端の電力変換装置10aのVdが決定されるので、運転点が安定して設定される。運転点は、所望の電流指令値Idpによって設定されるので、端子間通信がしゃ断されても、所望の電力伝送を行うができる。
【0081】
本実施形態の電力変換装置10a,10bでは、送電端の電力変換装置10aのIdp−Vd特性を解除することによって、容易に潮流反転することができる。つづいて、受電端の電力変換装置10bにIdp−Vd特性を設定することによって、潮流反転した状態で、安定した運転点を設定することができる。
【0082】
このように、本実施形態の電力変換装置10a,10bでは、高品質、高信頼性を有する単身間通信によることなく、所望の電力伝送を継続し、潮流反転を行うことができる。
【0083】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。たとえば、電力変換器および制御装置などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0084】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0085】
その他、本発明の実施の形態として上述した電力変換装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得るすべての電力変換装置も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0086】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8