特許第6947495号(P6947495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6947495GABAを有効成分とする活気および/または活力向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947495
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】GABAを有効成分とする活気および/または活力向上剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20210930BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20210930BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20210930BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   A61K31/197
   A23L33/175
   A61P3/02
   A61P43/00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-153043(P2016-153043)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-20972(P2018-20972A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年1月17日
【審判番号】不服2020-7173(P2020-7173/J1)
【審判請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177508
【氏名又は名称】三和酒類株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】外薗 英樹
【合議体】
【審判長】 藤原 浩子
【審判官】 渕野 留香
【審判官】 原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−31309(JP,A)
【文献】 特開2007−63236(JP,A)
【文献】 特開2004−350570(JP,A)
【文献】 特開2009−178068(JP,A)
【文献】 応用薬理Pharmacometrics,2007,vol.72,No.3/4,pp.51−56(http://health.orihiro.com/development/pdf/orihiro_gaba.pdf参照)
【文献】 Amino Acids,2012,vol.43,pp.1331−1337(DOI 10.1007/s00726−011−1206−6参照)
【文献】 食品加工技術,2006年,26巻,1号,pp.34−39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80,A23L33/175,A61P3/02,43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDREAMIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤。
【請求項2】
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用食品添加剤。
【請求項3】
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物。
【請求項4】
飲食品組成物の材料にGABAを配合する工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GABAを有効成分とする活気および/または活力向上剤に関する。
本発明は、GABAの活気および/または活力を向上する、あるいはサポートする機能を利用する用途であれば、いかなる用途にも使用可能である。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省の2012年労働者健康状況調査によると、仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスを感じることがあるとの回答は約6割に達し、うつ病など気分障害の患者数は厚生労働省の2014年患者調査では111万人を超えて年々増加している。こうした背景を踏まえ、労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」が、2015年12月に施行された。心理面や身体面、環境調整など、多次元的なメンタルヘルス対策の必要性がある中、食によるアプローチとして「ムードフード」(人々の気分や精神の健康、うつ状態、知覚機能などに効果をもたらす食品)が注目されている。
【0003】
γ-アミノ酪酸(GABA)は、非タンパク質構成アミノ酸で、哺乳類の中枢神経系に多く存在する抑制性の神経伝達物質である。2001年の食薬区分改正により食品としての利用が可能となり、血圧降下作用(非特許文献1−3)など多岐に亘る生理活性が報告されるようになった。GABAは、抑制性の神経伝達物質として働くことから睡眠の質改善効果や抗ストレスを期待した製品が食品分野で展開されている。
【0004】
GABA摂取が睡眠に与える影響として、高齢者の睡眠の質改善作用(非特許文献4)、ラフマ抽出物との併用による睡眠の質改善作用(非特許文献5)、睡眠潜時の短縮ならびにノンレム睡眠の増加作用(非特許文献6)が報告されている。一方、GABA摂取がストレスに与える影響として、計算を繰り返し行う課題や、音の聞き取り課題等の精神的負荷による一時的な精神的ストレスを緩和すること(非特許文献7、8)、内田クレペリン検査による一時的な精神的ストレスを負荷した後の精神的疲労感を軽減することが報告されている(非特許文献9、10)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】東方医学 2001; 17: 1-7.
【非特許文献2】薬理と治療 2002; 30: 963-72.
【非特許文献3】健康・栄養食品研究 2003; 6: 51-64.
【非特許文献4】Jpn Pharmacol Ther 2013; 41: 985-8.
【非特許文献5】J Nutr Sci Vitaminol 2015; 61: 182-7.
【非特許文献6】Food Sci Biotechnol 2016; 25: 547-51.
【非特許文献7】Int J Food Sci Nutr 2009; 60: 106-13.
【非特許文献8】Amino Acids 2012; 43: 1331-7.
【非特許文献9】J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo) 2011; 57: 9-15.
【非特許文献10】Jpn Pharmacol Ther 2015; 43: 515-9.
【非特許文献11】日本化学療法学会雑誌2010; 58: 484-93.
【非特許文献12】Psychopharmacol Bull 1990; 26: 157-61.
【非特許文献13】Jpn J Pharmacol 2002; 89: 388-94.
【非特許文献14】Eur J Pharmacol 2002; 438: 107-13
【非特許文献15】Int J Food Sci Nutr 2009; 60: 106-13.
【非特許文献16】日本栄養・食糧学会誌 2008; 62: 129-33.
【非特許文献17】J Physiol Anthropol 2009; 28: 101-7.)
【非特許文献18】懸田克躬他編.現代精神医学大系7A 心疾患I.中山書店;1979.p.37-68.
【非特許文献19】目白大学心理学研究 2007; 3: 1-11.
【非特許文献20】Amino Acids 2007; 32: 255-60.
【非特許文献21】Horm Res 1990; 33: 52-4.
【非特許文献22】Sleep 2003; 26:467-71.
【非特許文献23】日本食品科学工学会誌 2016; 63: 306-11.
【非特許文献24】Cognitive Therapy and Research 2015; 39, 253-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
慢性的な睡眠不調は日中の眠気、注意力低下、遂行能力低下などに加えて、イライラ、うつ状態など感情面の変化が現れる。さらに、持続的なストレスは恒常性の維持機構を破綻させ、精神的あるいは器質的な障害を引き起こす。したがって、一時的な精神的ストレスのみならず、慢性的な疲労やストレス状態に対するGABA投与の影響を調査することが重要である。
【0007】
本発明は、GABAの活気および/または活力を向上する、あるいはサポートする機能を利用する用途を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決すべく本発明者らが、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人の気分変調ならびに睡眠障害に対するGABA経口投与の効果を安全性評価とあわせて検討したところ、GABAを摂取した人の活気および/または活力が向上することを見出した。本発明は、この発見に基づいて完成に至ったものである。
【0009】
本発明は、以下の(1)のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤を要旨とする。
(1)GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上剤。
【0010】
また、本発明は、以下の()のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用食品添加剤を要旨とする。
(2)GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用食品添加剤。
【0011】
また、本発明は、以下の()のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物を要旨とする。
GABAを有効成分として含む(ただし、トリプトファン、テアニンおよびGABAを有効成分として含むものを除く)ことを特徴とする、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力を向上し、かつ、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人に対して、少なくとも6週間継続して毎日100〜3000mgの一日摂取量で経口投与される、体外からGABAを摂取させるための、POMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物。
【0012】
また、本発明は、以下の()のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物の製造方法を要旨とする。
)飲食品組成物の材料にGABAを配合する工程を含むことを特徴とする、飲食品組成物の材料にGABAを配合する工程を含むことを特徴とする、上記(3)に記載のPOMS(登録商標)2−ASの活気−活力(VA)評価による活気および/または活力の向上用飲食品組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
GABAを有効成分として含む活気および/または活力向上剤、特に日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人を対象とする活気および/または活力向上剤、食品添加剤および飲食品組成物、ならびに、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の活気および/または活力向上のために体外から摂取させる「ギャバ」とは、γ-アミノ酪酸(γ-amino butyric acid)の略称である。英語名の γ(gamma) -aminobutyric acidの頭文字をとった略称GABA(ギャバ)が一般的に広く用いられている。動植物等広く分布するアミノ酸の一種で、哺乳動物の脳や脊髄に存在する抑制系の神経伝達物質である。GABAは脳の血流を改善し酸素供給量を増加させ脳代謝を亢進させる働きを持つことから、脳卒中や頭部外傷後遺症、脳動脈後遺症による頭痛、耳鳴り、欲求低下等の治療に応用される。またその他の生理効果として、学習能力の向上、腎機能の活性化が知られている。GABAは主に生体の脳髄に存在し、中枢神経の神経伝達物質として関与しており、神経の主要な抑制性伝達物質として知られ、間脳の血流を活発にして脳細胞の代謝機能を高めるとともに、ストレスによる自律神経を緩和させることを目的として利用される。なお、血液脳関門を通過しない物質であることがわかっており、体外からGABAを摂取しても、それが神経伝達物質としてそのまま用いられることはない。
【0015】
本発明におけるGABAは、野菜、果物、穀類などから抽出されたGABA、発酵食品から生産されるGABA、有機合成から生産されたGABAである。
上記野菜、果物、穀類とは、かぼちゃ、なす、とまと、きゅうり、米、玄米、麦芽、大豆などをいい、発酵食品とは、乳酸菌、酵母、納豆菌由来のキムチ・漬物・発酵乳・納豆などの発酵食品をいう。胚芽米、緑茶、米ぬかの乳酸菌による発酵、グルタミン酸から乳酸菌を用いて発酵することにより得ることができ、さらに、自然界に存在するグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)を用い、グルタミン酸および/またはグルタミン酸ナトリウムを原料に酵素変換したもの、さらには発酵食品中の細菌を単離し、培養液中で調製したものであってもよい。
【0016】
上記述の発酵した溶液並びに抽出した溶液は、適宜凍結乾燥やスプレードライにて乾燥し粉末化しても構わない。特に限定するものではないが、GABAの含有量は液状では0.1%〜30%であり、粉末状では0.1%〜99%である。ヒト1日あたりの摂取量は、GABAとして1〜3000mgであり、10mg〜3000mgが好ましい。より好ましくは、20mg〜1000mgであり、更に好ましくは50mg〜200mgである。GABAとして10mg未満では、効果が期待できず、また3000mg以上では、一回の摂取が取りにくくなる。
【0017】
本発明の活気および/または活力向上のために体外から摂取させるGABAは日ごろから感じている睡眠の問題やストレス、疲労に対応したもので、ポジティブな気分を改善するために用いられる。GABAはそれを豊富に含む飲食品の形態のものを利用しても良い。当該飲食品の形態としては、特に限定するものではないが、粉末状、顆粒状、カプセル、錠剤に成形しても良い。また、その他の形態としては、食品素材、食品添加剤としても良く、あるいは、シロップ剤、懸濁剤、ドリンク剤、流動食、清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、機能性調味料、ゲル状食品、プリン、ヨーグルト、菓子・ケーキ類、パン類、麺類、パスタ、チョコレート、キャンディ、チューインガム等の形態にしても良い。
【0018】
本発明のGABAの一日摂取量が10〜3000mgであり、GABAを有効成分として含む飲食品としては10〜90重量%、好ましくは25〜50重量%のGABAを有効成分として含有しても良い。当該飲食品の成人1人当たり1日の摂取量は10〜5000mg、好ましくは250〜3500mgの範囲である。一日あたりの摂取量が10mg未満であるとポジティブな気分を改善する効果が得られず、また3000mg以上では、一回の摂取が取りにくくなる。また、5000mgより多くても奏される効果はあまり変わらない。当該飲食品の摂取量は被験者のストレス負荷状態などを考慮して前述の範囲で適宜決定することができる。
【0019】
本発明の活気および/または活力向上を効果的に高める飲食品は、成人1人当たり1日350mgを1〜3回に分けて摂取するのが好ましいが、夕食後に1日1050mgを一度に摂取しても良い。
【0020】
本発明では、ストレス、睡眠の質、疲労の主観的評価に及ぼす影響を検討する主要評価項目として、POMS(登録商標)2-ASの活気−活力(VA)の変化量を測定した。これは、生体におけるポジティブな気分を改善する効果が示される。そのため、活気−活力(VA)の変化量を測定することで生体のストレス状態を直接的に把握できるものとしてこの測定方式を採用した。
【0021】
また、医薬品で用いる場合は、特に制限するものではないが、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の経口投与剤があげられる。
【0022】
本発明の日ごろから睡眠の問題やストレス、疲労を感じている成人男女に対してポジティブな気分を改善する効果をもたらす飲食品に用いられるGABAは気分の落ち込みや精神的な不安がある人ではない人と比べて血中のGABA濃度が低いことが報告されていることに対応したもので、GABAの経口摂取のために用いられる。
【0023】
次に、本発明の具体例を、以下の実施例により説明するが、本発明がこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
本報告では、日ごろから睡眠の不調および疲労を感じている人の気分変調ならびに睡眠障害に対するGABA経口投与の効果を安全性評価とあわせて検討した臨床試験の成績を示す。
I 対象と方法
1 被験者
1.1 登録基準
年齢30歳以上60歳以下の男女勤労者(フルタイム)で、事前検査時のアテネ式不眠尺度(AIS)が6点以上、日本語版Profile of Mood States 2成人用短縮版(POMS(登録商標)2-AS)の「疲労−無気力(FI)」のTスコアが50点以上かつ「活気−活力(VA)」のTスコアが50点以下の者を試験参加登録の条件とした。
1.2 除外基準
試験参加にあたり次の条件を除外基準とした。
(1)GABAを強化した食品や健康食品、医薬部外品、一般医薬品を常用している者、(2)疲労、ストレス、睡眠の改善を目的とした行為(通院や治療を含む)、医薬品や健康食品の使用を行っている者、(3)昼夜交代制勤務または重量物運搬等の肉体労働に従事している者、勤務日(または休日)が不定期である者、(4)治療中かまたは治療が必要と判断される疾患を有する者、(5)睡眠時無呼吸症候群の治療中か診断歴、あるいは、それが強く疑われる者、(6) 慢性疲労症候群と診断されたことがある者、(7)糖尿病、肝疾患、腎疾患、心疾患等の重篤な疾患の既往症をもつ者、(8)生活習慣アンケートや各種アンケートの回答から、被験者として不適当と判断された者、(9)試験食品によりアレルギー発症のおそれがある者、(10)事前検査時の身体測定値、理学検査値および臨床検査値に、基準範囲から著しく外れた値がみられる者、(11)本研究への参加同意取得前1ヶ月以内に他の臨床試験に参加していた者および参加同意取得後に他の臨床試験に参加予定の者、(12)研究期間中に妊娠、授乳の予定がある者、(13)その他の理由から試験責任医師が被験者として不適当と判断した者。
1.3 倫理的配慮
本試験は、ヘルシンキ宣言(2013年10月修正)の精神に則り、実施にあたっては人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(文部科学省、厚生労働省告示、2014年12月22日)に従い実施した。また、本試験の実施は、2015年9月10日に公益財団法人愛世会 愛誠病院上野クリニック(東京都台東区)の倫理審査委員会(委員長:横山雅行)の承認を得た。その承認のもとに、メディカルステーションクリニック(東京都目黒区)において、2015年10月から2016年2月までの期間に試験を実施した(試験責任医師:齋藤次郎)。
1.4 同意の取得
試験参加を希望する者に対して説明文書・同意書を交付の上、研究の趣旨および内容を十分説明し、被験者の自由意思に基づく同意を文書で得た。
【0025】
2 試験食品
試験食品にはアミノヘルス(有)(香川県坂出市)製のハードカプセル型市販商品「ギャバ」を用いた。本製品(GABA食品)は、1カプセル(内容量260mg)中にGABA100mgを主成分として含有する。プラセボ食品は、GABAの代わりに澱粉を含有させたものであり、外観上、GABA食品と識別できないように調製した。
【0026】
3 試験デザイン
試験方法は無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を採用した。本試験は約4週間の組入れ期間(事前検査の実施、適格被験者のスクリーニング、摂取食品の割付け)および12週間の介入期間(割付け食品の継続的摂取、所定の時点での検査・評価)からなり、組入れ期間中に適格と判定された被験者は、乱数を用いて作成された割付表に基づいてGABA食品またはプラセボのいずれかに無作為に割り付けた。割付表は割付担当者によって封緘され、開封時まで密封保管された。
組入れ期間および介入期間を通して、各被験者に無作為に割り付けられた食品の摂取状況、経験した有害事象、医薬品を使用した場合にはその品名と使用量などを記入した試験日誌を毎日記録するように指示した。加えて、試験期間中にはそれ以前の食事、飲酒、運動などの生活習慣を可能な限り変えないよう指示した。
被験者には割り付けられた食品を1日1回1カプセル、12週間にわたって毎日就寝前(就寝1時間〜30分前)に水またはぬるま湯と共に摂取するよう指示した。所定の研究スケジュールおよび検査内容をすべて終了した被験者のうち、以下の基準に該当する被験者を有効性解析対象者から除外した。(1)研究食品の摂取率が80%を下回った者、(2)日誌記録の欠損など、検査結果の信頼性を損なう行為が顕著にみられる者、(3)除外基準に該当していたことが研究組入れ後に明らかになった者や、研究期間中に制限事項を遵守できないことが判明した者、(4)ライフイベント調査票や日誌から、研究期間中に生活環境等に大きな変化があったと判断された場合、あるいは検査前に一過的で極端なストレスイベントがあった場合、(5)その他、除外することが適当と考えられる明らかな理由があった者。
【0027】
4 測定項目
4.1 有効性の評価指標
(1)主要評価項目:POMS(登録商標)2-AS、ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(PSQI-j)
POMS(登録商標)2は世界的に信頼されている心理検POMS(登録商標)の改訂版であり、「怒り−敵意」「混乱−当惑」「抑うつ−落ち込み」「疲労−無気力」「緊張−不安」「活気−活力」「友好」の7尺度と、ネガティブな気分状態を総合的に表す「TMDスコア」から、所定の時間枠における気分状態を評価するものである。POMS(登録商標)2日本語版マニュアル((株)金子書房)に従い、Tスコアを算出した。なお、本試験で使用したPOMS(登録商標)2-AS((株)金子書房)の問25の質問文に誤植があったため、問25を欠損扱いとした。問25が関わる尺度「抑うつ−落ち込み」はPOMS(登録商標)2日本語版マニュアルの回答の欠損時の手続きに従い算出した。
PSQIは睡眠障害の評価として広く使用されており、「睡眠の質」、「入眠時間」、「睡眠時間」、「睡眠効率」、「睡眠困難」、「睡眠薬の使用」、「日中覚醒困難」の7要素の合計得点として算出される。
(2)副次評価項目:アテネ式不眠尺度(AIS)、疲労感 Visual
Analogue Scale(VAS)
AISは世界保健機関(WHO)が中心になって設立した世界睡眠・保健プロジェクトによって作成された自記式の不眠評価尺度であり、不眠症のスクリーニング・重症度評価に用いられる。過去1カ月間に少なくとも週3回以上あてはまる症状項目の得点を合計し、6点以上で不眠症の疑いありと判定される。
疲労感VASは10cmの横直線に対し、疲労感については左端に「疲れを全く感じない最良の感覚」、右端に「何もできないほど疲れきった最悪の感覚」と設定し、それに×印を入れることで現在の対象の主観的な気分を表すものであり、左端から×印までの距離をmm単位で測定したものを値として用いた。
4.2 安全性項目
試験食品の安全性と試験参加者の健康状態を把握するため、来院検査の際に身体測定、理学検査、尿検査、末梢血液検査を実施した。身体検査、理学検査はメディカルステーションクリニック(東京都目黒区)にて行い、末梢血液検査は(株)LSIメディエンス(東京都千代田区)へ委託した。
身体測定は身長(事前検査のみ)と体重を、理学検査は血圧と脈拍を評価項目とした。尿検査においては、糖(定性)、蛋白(定性)、潜血(定性)を評価した。末梢血液検査は、白血球数、赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、血小板数、AST、ALT、LD、ALP、γGTP、総ビリルビン、総蛋白、アルブミン、クレアチニン、尿素窒素、尿酸、血糖、中性脂肪、総コレステロール、HLD-コレステロール、LDL-コレステロールNa、K、Clを測定した。
【0028】
5 研究スケジュールおよび検査内容
研究スケジュールを表1に示した。
【表1】
【0029】
6 有害事象およびその判定
実施した研究との因果関係の有無を問わず、被験者に生じた全ての好ましくない、または意図しない傷病若しくはその徴候(臨床検査値の異常を含む)を有害事象とした。被験者個々の検査値の異常変動(有害事象)については、実施医療機関で定める基準値を基にして、日本化学療法学会が定める異常変動の判定基準(非特許文献11)を参考として、試験責任医師が有害事象の判断をした。これらの有害事象のなかで介入との因果関係があるか、または否定できないと試験責任医師より判定されたものを副次作用とした。
【0030】
7 統計解析
POMS(登録商標)2-AS、疲労感VASは、摂取後各時点の検査値の摂取前値からの変化量について、群間比較に2標本t検定を用いた。参考として、各群それぞれにおいて摂取後各時点の摂取前からの変化量を1標本t検定を用いて評価した。
PSQI-j、AISは、摂取後各時点の検査値の摂取前値からの変化量について、群間比較にAann-WhitneyのU検定を用いて比較した。
参考として、各群それぞれにおいて摂取後各時点の摂取前からの変化量を
Wilcoxonの符号付き順位和検定を用いて評価した。
数値は平均値±標準偏差で示し、検定の有意水準は両側5%とした。
【0031】
II 結果
1 解析対象者
被験者として男性30名、女性32名、合計62名を選択し、研究を開始した。研究より脱落した被験者はおらず、所定のスケジュールおよび検査内容を62名が完遂した。62名のうち、有効性解析対象除外基準(2)に該当した1名、(3)に該当した5名、(3)および(4)に該当した1名の合計7名の被験者は、割付表を開封する前に当該被験者を有効性解析から除外した。したがって、有効性解析対象者は55名とした。
なお、安全性解析対象者は、研究食品を摂取した62名全員とした。
表2に、有効性解析対象者の背景因子を示した。両群間に有意な差が認められた項目はなかった。
【0032】
2 有効性の評価
2.1 主要評価項目
(1)気分・感情状態に対するGABA食品介入の効果
表3に、POMS(登録商標)2-ASを用いて12週間の介入期間中の各時点(介入開始から2、4、6、8、10および12週後)における七つの下位尺度と総合的気分状態についての項目別Tスコアおよびそれらの値の事前検査値と比べた変化率、ならびに事前検査値からの変化量(・値)の群間差を示した。
活気−活力(VA)の摂取前から6週目までの変化量(・値)は、プラセボ群と比べてGABA群で有意に上昇(改善)した(p=0.045)。その他、怒り−敵意(AH)、混乱−当惑(CB)、抑うつ−落ち込み(DD)、疲労−無気力(FI)、緊張−不安(TA)、友好(F)、総合的気分状態(TMD)では、群間に統計学的な有意差は観察されなかった。
各群のTスコアの群内比較では、GABA群においてはAH(各時点)、CB(各時点)、DD(各時点)、FI(各時点)、TA(各時点)、VA(各時点)、F(2、4、6、8および12週後)、TMD(各時点)が事前検査値と比較して有意に変動(改善)した。プラセボ群においてはAH(各時点)、CB(各時点)、DD(各時点)、FI(各時点)、TA(各時点)、VA(各時点)、TMD(各時点)が事前検査値と比較して有意に変動(改善)した。
【0033】
【表3】
【0034】
(2) 睡眠の質に対するGABA食品介入の効果
PSQI-jを用いて12週間の介入期間中の睡眠状態を評価した結果を表4に示した。
【表4】
PSQI-jの変化量では群間に統計学的な有意差は観察されなかった。
各群の実測値の群内比較では、GABA群においては合計スコア(各時点)、睡眠の質(C1)(各時点)、入眠時間(C2)(各時点)、睡眠時間(C3)(各時点)、睡眠困難(C5)(4および12週後)、日中覚醒困難(C7)(各時点)が事前検査値と比較して有意に変動(改善)した。プラセボ群においては合計スコア(各時点)、睡眠の質(C1)(各時点)、入眠時間(C2)(各時点)、睡眠時間(C3)(各時点)、睡眠困難(C5)(12週後)、日中覚醒困難(C7)(各時点)が事前検査値と比較して有意に変動(改善)した。
【0035】
2.2 副次評価項目
表5および表6に副次評価項目であるAISと疲労感VASの推移を示した。
AISおよび疲労感VASの変化量は群間に有意な差は認められなかった。
各群の実測値の群内比較では、両群ともに事前検査値と比較して各時点で有意に変動(改善)した。
【表5】
【表6】
【0036】
3 安全性の評価
研究期間中の自覚症状の訴えや他覚所見によって観察された有害事象は、GABA群(n=31)の被験者13名に23件およびプラセボ群(n=31)の被験者11名に34件だった(発生頻度、それぞれ42および36%)。最多症状は感冒症状であり、GABA群に8件、プラセボ群に12件、それぞれ発生した。いずれの有害事象も一過性の軽症であり、研究食品との関連性はすべて無関係であると試験責任医師によって判定された。また、身体検査、理学検査ならびに末梢血液検査において臨床上問題となる変化は認められなかった。
【0037】
III 考察
本試験では、日ごろから睡眠の問題やストレス、疲労を感じている成人男女を対象に、GABA含有食品の連続摂取がストレス、睡眠の質、疲労の主観的評価に及ぼす影響について検討した。その結果、主要評価項目であるPOMS(登録商標)2-ASの活気−活力(VA)において、GABA群は全検査時点で摂取前からの改善の幅がプラセボ群に比べて大きく、摂取6週目では統計学的に有意な差が認められた。また、ポジティブな気分の指標であるPOMS(登録商標)2-ASの友好(F)は、群間比較では有意差は認められなかったが、GABA群でのみ摂取前から改善する様子が観察された。これらの結果から、GABA含有食品によりポジティブな気分を改善する効果が示された。
気分の落ち込みや精神的な不安がある人ではない人と比べて血中のGABA 濃度が低いことが報告されている(非特許文献12)。GABAは末梢神経節においてGABA(B)受容体を活性化し、ノルアドレナリンの放出を抑制することで交感神経系を抑制状態にし、血圧を低下させる(非特許文献13,14)。同様の作用機序がGABAの精神的ストレス緩和効果にも当てはまると考えられており、GABAの経口摂取により交感神経の抑制あるいは副交感神経の亢進が報告されている(非特許文献15, 16,17)。情動と自律神経の働きの関係については4つのパターンがあり、交感神経機能抑制と副交感神経機能亢進は、不安や恐怖などから解放された平穏な気分のときに見られるリラックス状態である(非特許文献18)。したがって、GABAの経口摂取は末梢神経節からの自律神経系への作用により、精神的ストレス緩和やリラックス状態をもたらすと考えられる。心身のリラックスした状態を心理学的側面から主観的に測定したリラックス感尺度は、POMS(登録商標)の活気因子以外と負の相関を示し、活気因子では正の相関が認められている(非特許文献19)。すなわち、GABAの連続摂取によってリラックス状態を継続することで、活気−活力が高まったと考えられた。
さらに、動物実験ではGABAを摂取させることにより成長ホルモンの血液濃度が上昇するという報告がある(非特許文献20)。成長ホルモン欠乏症成人の活力は低いが、成長ホルモンの投与によって、気分や活力など心理的改善が見られたという報告がある(非特許文献21)。GABA摂取により血中成長ホルモン濃度が上昇し、代謝やタンパク質合成が促進することで心身にポジティブな作用を引き起こした可能性が考えられる。
睡眠の問題は生活習慣病の罹患リスクを高め、生命予後を悪化させる。睡眠はストレスにも密接に関連しており、夜間の睡眠障害は日中のQOL低下に有意な関連がある(非特許文献22)。睡眠は人間の心理的・身体的な健康にとって非常に重要であることから、本試験においては2種の睡眠調査票(PSQI-j、AIS)、ならびに疲労感VASを用いてGABA含有食品の効果を検討した。その結果、GABA摂取前後におけるスコアや疲労感は有意に改善したが、プラセボ群も同程度の改善効果を示したことから、プラセボ効果の可能性を排除することができなかった。先行研究として、疲労や睡眠の不調を感じている女性を対象としたGABA投与試験においても、同様のプラセボ効果が観察されている(非特許文献23)。睡眠障害は精神的な症状(不安や恐怖)に起因する場合が多く、プラセボ効果の影響を受け易いこと、さらには抗ストレスやリラックス素材としてのGABAの認知度(期待感)も相まって強力なプラセボ効果が現れた可能性がある。GABAが睡眠に与える影響を評価した先行研究において、PSQI-jでは有意差は認められないが、脳波計によって睡眠潜時の短縮や急速眼球運動を伴わないノンレム睡眠時間の増加効果が報告されている。したがって、GABAの睡眠の質改善効果の有無については、主観的評価に脳波計や体動計などによる客観的評価指標を組み合わせた詳細な検証が必要と考えられた。睡眠時間が短い人や、就寝時間が遅い人は、繰り返しネガティブな考えをする傾向にあることが報告されている(非特許文献24)。本試験で認められたPOMS(登録商標)2-ASのポジティブな尺度「活気−活力」の有意な改善、「友好」の改善傾向は、GABA摂取に伴う睡眠の質改善効果と関係しているのかもしれない。
【0038】
IV 結論
日ごろから睡眠の問題やストレス、疲労を感じている就労者を対象とした無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験の結果、POMS(登録商標)2-ASのポジティブな気分の指標である「活気−活力」を高める効果が確認された。また、本試験条件下ではGABA含有食品の安全性に問題はなかった。
[利益相反]本研究は三和酒類(株)の資金提供を受けた。外薗英樹は三和酒類(株)の従業員である。その他の著者は開示すべき利益相反事項はない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
心理面や身体面、環境調整など、多次元的なメンタルヘルス対策の必要性がある中、食によるアプローチとしてGABAの活気および/または活力向上機能が注目される。一時的な精神的ストレスのみならず、慢性的な疲労やストレス状態に対するGABA投与の効果が期待される。