(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ジョグキーの操作に基づき、前記関心点に相当する前記刺繍枠内のポイントから、前記手動操作に応じて前記針が指し示した前記刺繍枠内のポイントまでの前記移動量を算出する算出部を備えること、
を特徴とする請求項1記載のミシン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、ユーザは、複数枚の葉が延びた茎に付く一輪の花をテーブルクロスに縫製したいと考えているものとする。また、このテーブルクロスには、既に蝶の図柄が縫製済みであるものとする。そして、ユーザは、縫製を希望する花の図柄のうち、一葉の葉先の部分に蝶が止まって見えるように、花の図柄と蝶の図柄の位置関係を調整したいと考えているものとする。
【0007】
この例は、ユーザが、刺繍模様の内外に存在するユーザの関心点の位置を把握したい場合を示している。刺繍の縫製範囲をトレースする技術を用いた場合、当該技術は、範囲を知らしめることはできても、任意の一点をユーザに知らしめることができないので、ユーザは、葉先と蝶の位置関係を把握するために、まず針の軌跡を記憶し、針の軌跡と複数枚の葉が延びた茎に付く一輪の花とを比較し、比較によって縫製対象物上の葉先の位置を特定する必要がある。
【0008】
この記憶作業と比較作業と特定作業は、全てユーザのイマジネーションに頼って一連で行われるものであり、ユーザは幾つもの想像を連続的に積み重ねなければ、刺繍模様の内外に存在するユーザの関心点同士の位置関係を把握できないことになる。そのため、刺繍模様の内外に存在するユーザの関心点の位置を把握することは非常に難しく、把握ミスが生じることもあり、ユーザにとって満足のいく品質の高い縫製作業が実行できない場合があった。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、ユーザの想像力に頼ることなく、刺繍模様の内外に存在するユーザの関心点の位置を把握させることができるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明に係るミシンは、縫製対象物に刺繍模様を縫製するミシンであって、枠面が延びる方向に沿って水平移動する刺繍枠と、糸を挿通させるための針を支持し、前記刺繍枠の枠内に向けて往復運動する針棒と、前記刺繍枠のイメージ画像と前記刺繍模様のイメージ画像とを画面領域に表示するとともに、ユーザによる当該画面領域内に表示された前記刺繍枠内で関心点の入力を受け付ける操作画面と、を備え、前記刺繍枠は、前記関心点に相当する前記刺繍枠内のポイントを前記針が指し示すまで、水平移動すること、を特徴とする。
【0011】
前記刺繍枠の手動での移動操作を受け付けるジョグキーを備え、前記操作画面は、前記関心点に相当する前記刺繍枠内のポイントから、前記手動操作に応じて前記針が指し示した前記刺繍枠内のポイントまでの移動量に応じて、前記刺繍模様のイメージ画像を前記画面領域内でシフトさせるようにしてもよい。
【0012】
前記ジョグキーの操作に基づき、前記関心点に相当する前記刺繍枠内のポイントから、前記手動操作に応じて前記針が指し示した前記刺繍枠内のポイントまでの前記移動量を算出する算出部を備えるようにしてもよい。
【0013】
直前の縫い目から次の縫い目までの移動量から成る刺繍データを記憶する刺繍データ記憶部と、前記移動量を算出し、第1番目の縫い目
の位置情報に前記移動量を加算するオフセット設定部と、を備えるようにしてもよい。
【0014】
刺繍データと前記算出部が算出した前記移動量をオフセット情報として記憶する刺繍データ記憶部を備え、前記刺繍枠は、オフセット情報に従って水平移動した後、前記刺繍データに従って前記針棒の往復動に同期しながら水平移動するようにしてもよい。
【0015】
前記操作画面は、前記刺繍模様のイメージ上にある特徴点を表示し、当該特徴点を前記関心点として受け付けるようにしてもよい。
【0016】
前記特徴点は、前記刺繍模様の位置及び大きさを把握し易いシンボリックな箇所であるようにしてもよい。
【0017】
前記特徴点は、前記刺繍模様の最左端、最右端、最上端及び最下端であるようにしてもよい。
【0018】
前記特徴点を抽出する特徴点抽出部を備えるようにしてもよい。
【0019】
前記操作画面は、ユーザがタッチした画面上の指定点を前記関心点として受け付けるようにしてもよい。
【0020】
前記操作画面は、前記刺繍模様のイメージ画像とともに、前記刺繍枠のイメージ画像を前記画面領域内に更に表示するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ミシンは、刺繍模様の内外に存在するユーザの関心点の位置を把握させることができ、ユーザの想像力に頼ることなく、ユーザにとって満足のいく品質の高い縫製結果を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(構成)
以下、本発明に係るミシンの各実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に示すように、ミシン1は、縫製対象物100に刺繍を施す家庭用、職業用又は工業用の装置である。縫製対象物100としては布や革が挙げられる。ミシン1は、ベッド部11の平面上方に縫製対象物100を張り広げ、ベッド部11に対向するアーム部18から縫製対象物100に針12を向け、縫製対象物100に針12を挿脱し、縫製対象物100に縫い目を形成する。縫い目は上糸200と下糸300とが交絡して成る。
【0024】
このミシン1は枠駆動装置2を備える。枠駆動装置2は、刺繍枠26を枠面が延びる方向に沿ってベッド部11の上方で水平移動させる。刺繍枠26は、枠内に縫製対象物100を水平に張り広げて支持する。枠面は枠が囲む領域である。刺繍枠26が水平移動することで、針12が挿脱する縫製対象物100上の位置、即ち縫い目の形成位置が変化し、縫い目の集まりである刺繍模様が縫製対象物100に形成される。
【0025】
ミシン1はベッド部11の端から立ち上がり部17を立ち上げ、立ち上がり部17からベッド部11と平行にアーム部18を延ばした概略コの字形状を有する。立ち上がり部17には操作画面324が設置され、縫製の準備及び縫製中の状況表示及び操作の入力が可能となっている。また、刺繍枠を水平移動させる手動操作の入力方法として、ミシン1は、上下左右のボタンから成るジョグキー323(
図4参照)も備えている。
【0026】
(ミシン本体)
図2に示すように、ミシン1は、針棒13と釜14を有する。針棒13は、ベッド部11の平面に対して垂直に延び、軸方向に往復運動する。この針棒13は、ベッド部11側の先端で、上糸200を保持する針12を支持している。釜14は、一平面が開口した内部中空のドラム形状を有し、水平又は垂直に取り付けられ、円周方向に回転可能となっている。本実施形態では、釜14は水平に取り付けられている。この釜14は、下糸300を巻いたボビンを内部に収容する。
【0027】
このミシン1において、針棒13の上下動によって、針12が上糸200を伴って縫製対象物100を貫通し、針12の上昇時に縫製対象物100と上糸200との摩擦に起因した上糸ループが形成される。そして、回転する釜14によって上糸ループが捕捉され、下糸300を繰り出したボビンが釜14の回転に伴って上糸ループをくぐることによって、上糸200と下糸300とが交絡し、縫い目が形成される。
【0028】
針棒13と釜14は、共通のミシンモータ15を動力源として、各々の伝達機構を介して駆動する。針棒13には、水平に延びた上軸161がクランク機構162を介して連結されている。上軸161の回転をクランク機構162が直線運動に変換して針棒13に伝達することで、針棒13は上下動する。釜14には、水平に延びた下軸163が歯車機構164を介して連結されている。釜14が水平に設置されている場合、歯車機構164は、例えば軸角を90度とする円筒ウォームギアである。下軸163の回転を歯車機構164が90度変換して釜14に伝えることで、釜14は水平回転する。
【0029】
上軸161には、所定の歯数を有するプーリ165が設けられている。また、下軸163には、上軸161のプーリ165と同数の歯数を有するプーリ166が設けられている。両プーリ165、166は、歯付きベルト167によって連結されている。ミシンモータ15の回転に伴って上軸161が回転すると、プーリ165と歯付きベルト167を介して下軸163が回転する。これによって、針棒13と釜14は同期して作動する。
【0030】
(枠駆動装置)
図3に示すように、枠駆動装置2は、ミシン1に取り付け可能に付属し、又はミシン1に内蔵される。枠駆動装置2は、刺繍枠アーム25で刺繍枠26を保持し、刺繍枠26をX軸方向に移動させるXリニアスライダ21、また刺繍枠26をY軸方向に移動させるYリニアスライダ22を備える。X軸方向は、ベッド部11の長手方向であり、一般的にはユーザの左右方向、Y軸方向は、ベッド部11の幅方向であり、一般的にはユーザの前後方向である。
【0031】
刺繍枠26は、内枠及び外枠からなり、縫製対象物100が載置された内枠に外枠を嵌め込むことで、縫製対象物100を内枠と外枠で狭持し、縫製対象物100を固定する。縫製対象物100は、枠駆動装置2によって固定平面方向に沿って水平移動可能にベッド部11の平面上に位置する。
【0032】
(制御装置)
図4は、ミシン1の制御装置3のハードウェア構成を示すブロック図である。刺繍枠26の水平移動は、ミシン1の制御装置3によって制御される。制御装置3は、所謂コンピュータと周辺コントローラにより構成される。制御装置3は、プロセッサ311、記憶部312、外部入出力装置315をバス316で接続して備える。また、制御装置3は、外部入出力装置315を介して画面表示装置321、タッチパネル322、ジョグキー323、ミシンモータコントローラ327、及び枠コントローラ328を備える。
【0033】
記憶部312は、内部ストレージ及びワークエリアである。内部ストレージはプログラム及びデータを記憶する不揮発性メモリである。ワークエリアはプログラム及びデータが展開される揮発性メモリである。不揮発性メモリはハードディスク、SSD又はフラッシュメモリ等である。揮発性メモリはRAMである。この記憶部312は、縫製プログラム317、縫製準備プログラム318及び刺繍データ5aを記憶し、またユーザ操作の結果によってはオフセット情報5bが更に記憶されている。
【0034】
プロセッサ311は、CPUやMPUとも呼ばれ、縫製プログラム317及び縫製準備プログラム318に記述されたコードを解読及び実行する。実行結果として、プロセッサ311は、I/Oポート等の外部入出力装置315を通じて制御信号を出力する。また、プロセッサ311には、タッチパネル322及びジョグキー323からユーザ操作信号が入力される。
【0035】
画面表示装置321は、表示コントローラ、描画メモリ、及び液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイを含み構成され、プロセッサ311が送信した表示データを文字や図形等のユーザが視認により理解可能な形式にレイアウトして表示する。タッチパネル322は、感圧式又は静電式の入力装置であり、タッチ位置を示す信号をプロセッサ311に送信する。
【0036】
画面表示装置321とタッチパネル322は、重ね合わせて一体的に構成されて、画面表示機能とタッチ操作機能が一体となった操作画面324になっている。ジョグキー323は、上下左右の各方向別のボタン群であり、ユーザの操作に応じた信号をプロセッサ311に送信する物理的な入力装置であり、またはタッチパネル322内のアイコンキーであり、主に刺繍枠26の手動操作に用いられる。
【0037】
ミシンモータコントローラ327は、ミシンモータ15と信号線で接続されている。このミシンモータコントローラ327は、プロセッサ311の制御信号に応答して、ミシンモータ15を制御信号が示す速度で回転させ、またはミシンモータ15を停止させる。
【0038】
枠コントローラ328は、枠駆動装置2のX軸モータ23及びY軸モータ24と信号線で接続されている。X軸モータ23はXリニアスライダ21の駆動源であり、Y軸モータ24はYリニアスライダ22の駆動源である。枠コントローラ328は、プロセッサ311から受信した制御信号に応答して、X軸モータ23及びY軸モータ24を制御信号が示す移動量分だけ駆動させる。例えば、枠コントローラ328は、ステッピングモータであるX軸モータ23及びY軸モータ24に対して、制御信号に含まれる目標位置と速度に沿ったパルス信号を送出する。
【0039】
図5は、縫製準備プログラム318を実行した制御装置3の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、制御装置3は、画面制御部41と枠制御部42とオフセット設定部43を備える。更に、制御装置3は、画面制御部41と枠制御部42とオフセット設定部43に対する各種データの提供のため、刺繍データ記憶部45、刺繍イメージ生成部46、枠イメージ記憶部44及び関心点設定部47を備える。関心点設定部47は特徴点抽出部48とタッチ検出部49を備える。
【0040】
(画面制御部)
画面制御部41は、主にプロセッサ311を含んで構成される。この画面制御部41は、操作画面324を制御する。画面制御部41は、刺繍枠26内に形成される刺繍模様を、刺繍枠26と刺繍模様の位置関係と共に、操作画面324上に再現する。
【0041】
図6は操作画面324を示す模式図である。
図6に示すように、操作画面324は枠イメージ61及び刺繍イメージ62を表示する。枠イメージ61は刺繍枠26の画像である。刺繍イメージ62は刺繍模様の画像である。刺繍イメージ62は、実際に縫製されたときの刺繍模様と刺繍枠26との位置関係をもって、刺繍枠26との位置関係及び大きさが再現されながら、枠イメージ61の枠内に描画される。枠イメージ61内には、刺繍イメージ62の位置把握支援のために十字補助線66が描画される。
【0042】
枠イメージ記憶部44は記憶部312を含み構成される。この枠イメージ記憶部44は、枠イメージ61のデータを記憶する。画面制御部41は、枠イメージ記憶部44から枠イメージ61のデータを読み出し、画面表示装置321の描画メモリに書き込む。操作画面324は、描画メモリ内のピクセル情報に従って枠イメージ61を表示する。枠イメージ61と刺繍枠26とは形状が一致する。ミシン1側で刺繍枠26を認識し、又はユーザによる枠イメージ61の選択を受け付けることで、刺繍枠26に対応する画像データが読み出される。
【0043】
刺繍イメージ62は、刺繍データ5aから生成される。刺繍データ記憶部45は主に記憶部312で構成される。刺繍データ5aは、この刺繍データ記憶部45に記憶されている。この刺繍データ5aに従って主にプロセッサ311で構成される刺繍イメージ生成部46が刺繍イメージ62をレンダリングする。
【0044】
レンダリング方法は概ね次の通りである。まず、
図7に示すように、刺繍データ5aには、縫い目の位置情報51が縫い順に整列している。位置情報51は、直前の縫い目を起点とした相対的な位置座標で示される。即ち、n番目(nは正の整数、n=1,2,3・・・)の縫い目の位置情報51は、n−1番目の縫い目からのX軸方向移動量とY軸方向移動量で表される。第1番目の縫い目を示す位置情報51は、原点からの移動量で表される。原点は例えば刺繍枠26の中心である。このように、刺繍データ5aは、刺繍模様の形状及び大きさとともに、刺繍枠26に対する刺繍模様の位置の情報も含んでいる。
【0045】
そして、刺繍イメージ生成部46は、ワークメモリに刺繍データ5aを展開し、この刺繍データ5aを絶対位置座標に変換する。縫い目の絶対座標は、その縫い目までの全位置情報51を加算して得られる。ここで、原点座標を(X0,Y0)とする。また第1番目の縫い目の位置情報51を(X1,Y1)とする。刺繍イメージ生成部46は、第1番目の縫い目の位置座標を(X0+X1,Y0+Y1)に変換する。また、第n番目の縫い目のX座標を、原点のX座標とn番目までの各X軸方向移動量の和に変換する。第n番目の縫い目のY座標を、原点のY座標とn番目までの各Y軸方向移動量の和に変換する。
【0046】
ここで、刺繍データ記憶部45にオフセット情報5bが記憶されている場合、刺繍イメージ生成部46は、刺繍イメージ62の位置をオフセット情報5bでシフトする。オフセット情報5bは、縫製模様の縫製位置をシフトする方向と距離を示し、X軸方向オフセット値XetとY軸方向オフセット値Yetとにより成る。刺繍イメージ生成部46は、絶対位置座標に変換された刺繍データ5aの各位置情報51にオフセット情報5bを更に加算する。
【0047】
更に、刺繍イメージ生成部46は、縫い目の絶対位置座標を刺繍枠26の座標系から操作画面324の座標系に変換する。画面制御部41は、操作画面324の座標系で表される刺繍イメージ62をビットマップにして描画メモリに書き込む。操作画面324は、描画メモリのピクセル情報に従って刺繍イメージ62を枠イメージ61の内部に表示する。
【0048】
図6に示すように、操作画面324は特徴点マーカ63を更に表示する。特徴点マーカ63は、刺繍模様の特徴点を示す円等の図案である。特徴点とは、刺繍模様の位置を特定するシンボリックな点である。例えば、特徴点は、刺繍模様の最上端、最下端、最右端又は最左端である。これら特徴点は、主にプロセッサ311で構成される特徴点抽出部48によって抽出される。
【0049】
特徴点抽出部48は、刺繍イメージ62の解析により特徴点を抽出する。上下方向の軸であるY軸方向の座標値が最も小さい縫い目は、最上端の特徴点である。また、左右方向の軸であるX軸方向の座標値が最も大きい縫い目は、最右端の特徴点である。特徴点抽出部48は、特徴点の位置座標を予約したメモリエリアに格納しておく。画面制御部41は、描画メモリ内の特徴点の位置に特徴点マーカ63を書き込む。操作画面324は、描画メモリ内のピクセル情報に従って特徴点マーカ63を刺繍イメージ62の特徴点上に表示する。
【0050】
また、
図6に示すように、操作画面324はユーザ指定点マーカ64を更に表示する。ユーザ指定点マーカ64は、ユーザが指定したポイントを示す円等の図案である。タッチ検出部49は、主にタッチパネル322とプロセッサ311により構成され、タッチ操作を検出し、タッチ位置を画面制御部41に通知する。画面制御部41は、通知されたタッチ位置にユーザ指定点マーカ64を表示させる。タッチ検出部49は、ユーザ指定点を操作画面324の座標系から刺繍枠26の座標系に変換し、予約したメモリエリアに格納しておく。
【0051】
以上の特徴点マーカ63とユーザ指定点マーカ64で表される特徴点及びユーザ指定点は、ユーザの関心点である。特徴点は、ユーザの関心点となり得る候補として、特徴点抽出部48がユーザに先行して特定しておくものである。尚、ユーザ指定点は枠イメージ61内部に制限される。タッチ箇所が枠イメージ61内に限り、タッチ検出部49はユーザ指定点を画面制御部41に通知し、ユーザ指定点の位置を記憶させておく。
【0052】
図8は、この画面制御部41による操作画面324の制御動作例を示すフローチャートである。最初に、画面制御部41は、枠イメージ61のイメージデータを読み出して操作画面324に表示させる(ステップS01)。次に、刺繍イメージ生成部46は、刺繍データ5aから刺繍イメージ62のイメージデータを生成する(ステップS02)。このとき、オフセット情報5bも存在すれば、オフセット情報5bも用いて刺繍イメージ52のイメージデータを生成する。画面制御部41は、生成された刺繍イメージ62を操作画面324に表示させる(ステップS03)。
【0053】
特徴点抽出部48は、刺繍イメージ62から特徴点を抽出する(ステップS04)。画像制御部は、抽出された特徴点に特徴点マーカ63を表示させる(ステップS05)。更に、タッチ検出部49が枠イメージ61内のタッチを検出すると(ステップS06,Yes)、画面制御部41は、タッチ箇所にユーザ指定点マーカ64を表示させる(ステップS07)。
【0054】
また、後述のようにオフセット情報5bが新規生成又は更新されると(ステップS08,Yes)、ステップS02に戻り、オフセット情報5bに従って位置をシフトした新たな刺繍イメージ62のイメージデータの生成(ステップS02)と、刺繍イメージ62の再表示(ステップS03)を行う。
【0055】
(枠制御部)
枠制御部42は、主にプロセッサ311と枠コントローラ328を含み構成される。枠制御部42は刺繍枠26の移動を制御する。第1に、枠制御部42は、針12が関心点を指し示すまで、刺繍枠26を水平移動させる。針12による指示が実行される関心点は、操作画面324を用いてユーザが指定する。
【0056】
図6に示すように、枠イメージ61の下方には、各特徴点マーカ63とユーザ指定点マーカ64で表される各関心点への枠移動ボタン65が配列されている。この枠移動ボタン65は、ユーザによる特徴点マーカ63又はユーザ指定点マーカ64の選択を受け付ける選択部であり、ユーザがタッチ操作により枠移動ボタン65の何れかを押下すると、枠制御部42は、押下された枠移動ボタン65が表す関心点に針12が位置するまで刺繍枠26を移動させる。即ち、枠制御部42は、ユーザが指定した関心点の座標値をX軸方向及びY軸方向の移動量とし、その移動量に合わせて刺繍枠26を移動させる。
【0057】
また、第2に、枠制御部42は、ジョグキー323の操作に応答して刺繍枠26を移動させる。枠制御部42は、ジョグキー323から入力された操作方向と操作量を示す情報に合致させて、刺繍枠26を移動させる。例えば、上方向ボタンがn回押下されると、Y1×nミリメートルだけ、Y軸方向であって座標値が小さくなる方向に刺繍枠26を移動させる。右方向ボタンがm回押下されると、X1×mミリメートルだけ、X軸方向であって座標値が大きくなる方向に刺繍枠26を移動させる。また、上方向ボタンを押しっぱなしにすると、押し続けられた時間に比例する距離だけ、Y軸方向であって座標値が小さくなる方向に刺繍枠26を移動させる。
【0058】
図9は、このような枠制御部42の枠制御動作を示すフローチャートである。まず、刺繍イメージ生成部46は、刺繍データ5aを絶対座標の形式に変換し(ステップS11)、特徴点抽出部48は、絶対座標形式の刺繍データ5aから特徴点を抽出する(ステップS12)。関心点設定部47は、この特徴点の座標を一時記憶しておく(ステップS13)。
【0059】
タッチパネル322を用いて操作画面324に表示された特徴点への枠移動ボタン65が押下されると(ステップS14,Yes)、枠制御部42は、押下されたボタンが示す特徴点の座標に針12が位置するように、刺繍枠26を移動させる(ステップS15)。
【0060】
タッチパネル322を用いてユーザ指定点が指示されると(ステップS16,Yes)、関心点設定部47はユーザ指定点の座標を一時的に記憶しておく(ステップS17)。そして、タッチパネル322を用いて操作画面324に表示されたユーザ指定点への枠移動ボタン65が押下されると(ステップS18,Yes)、ユーザ指定点の座標に針12が位置するように、刺繍枠26を移動させる(ステップS19)。
【0061】
更に、ユーザがジョグキー323を操作すると(ステップS20,Yes)、ジョグキー323による操作方向及び操作量と同方向及び同量だけ、刺繍枠26を移動させる(ステップS21)。
【0062】
(オフセット設定部)
オフセット設定部43は、プロセッサ311を含み構成される。このオフセット設定部43は、ジョグキー323の操作に従って、縫製模様の位置を変更するためのオフセット情報5bを生成する。例えば針12で関心点を指し示すために刺繍枠26を移動させたことを第1条件とし、ジョグキー323の操作によって刺繍枠26が更に移動されたことを第2条件とする。オフセット設定部43は、この第1条件と第2条件が順番に成就すると、ジョグキー323の操作に従ってオフセット情報5bを生成し、刺繍データ記憶部45に記憶させる。
【0063】
オフセット情報5bは、ジョグキー323による手動操作の前後で針12が指し示した異なる2点間の位置の差に合致する。ジョグキー323の操作前は、針12は特徴点又はユーザ指定点の関心点を指し示している。オフセット設定部43は、算出部として、針12で指し示していた関心点と、ジョグキー323の操作後に針12が指し示したポイントとの差異を算出する。即ち、オフセット設定部43は、ジョグキー323の操作前後で刺繍枠26が移動したX軸方向の距離及びY軸方向の距離を算出する。単純にジョグキー323の操作量をカウントしてもよい。そして、オフセット設定部43は、この差異をオフセット情報5bとして刺繍データ記憶部45に記憶させる。
【0064】
図10は、オフセット設定部43によるオフセット情報5bの生成動作を示すフローチャートである。まず、タッチパネル322を用いて操作画面324に表示された関心点に対する枠移動ボタン65が押下されると(ステップS31,Yes)、この押下によってユーザが決定した関心点を針12が指し示すまで刺繍枠26が移動する(ステップS32)。
【0065】
このステップS32の後、オフセット設定部43は、オフセット情報5bのファイルを用意し(ステップS33)、このオフセット情報5bのファイルのX軸方向オフセット値Xet及びY軸方向オフセット値Yetをゼロに初期化する(S34)。ユーザがジョグキー323を操作すると(ステップS35)、オフセット設定部43は、ジョグキー323の操作に応じて刺繍枠26が移動したX軸方向移動量をX軸方向オフセット値Xetに加算し、Y軸方向移動量をY軸方向オフセット値Yetに加算する(ステップS36)。
【0066】
尚、オフセット設定部43は、操作画面324にオフセットを確定させるためのボタンとキャンセルボタンを用意しておき、オフセットを確定させるためのボタンが押下されれば、作成したオフセット情報5bのファイルを刺繍データ記憶部45に記憶させ、キャンセルボタンが押下されれば、作成したオフセット情報5bを刺繍データ記憶部45に記憶することなく破棄すればよい。
【0067】
(動作)
以上のミシン1の動作を具体的に説明する。
図11の(a)に示すように、ミシン1の操作画面324は、枠イメージ61内に刺繍イメージ62を表示する。操作画面324は、刺繍データ5aに従って縫製対象物100に実際に形成されたときの刺繍模様と刺繍枠26との位置関係をもって、刺繍イメージ62と枠イメージ61とを表示させる。そのため、ユーザは刺繍イメージ62と枠イメージ61とによって、刺繍枠26と刺繍データ5aに従った実際の刺繍模様との位置関係が把握できる。
【0068】
図11の(b)に示すように、特徴点の枠移動ボタン65が押下されると、刺繍枠26は、針12が其の特徴点を指し示すまで水平移動する。ユーザは、特徴点を指標にして、縫製対象物100上の刺繍模様の位置を理解できる。即ち、枠イメージ61と刺繍イメージ62を表示する操作画面324、また針12が特徴点を指し示すまで水平移動する刺繍枠26によって、縫製前から刺繍枠26、刺繍模様及び縫製対象物100の位置関係が把握される。
【0069】
図11の(b)に示すように、アルファベットABCの文字列の刺繍データ5aが刺繍データ記憶部45に格納されているものとする。また、最下端への枠移動ボタン65が押下されたものとする。これにより、アルファベットABCの文字列の最下端を針12が指し示すまで、刺繍枠26は移動する。このとき、縫製対象物100の刺繍枠26へのセッティングが適正でなかったため、アルファベットABCの文字列の最下端が縫製対象物100のポケットPに掛かっていることがわかる。ユーザは、刺繍データ5aを修正するか、縫製対象物100を刺繍枠26にセットし直すかすればよい。
【0070】
次に、例えば複数枚の葉が延びた茎に付く一輪の花の刺繍データ5aが刺繍データ記憶部45に格納されているものとする。
図12の(a)に示すように、操作画面324は、この花の刺繍イメージ62を表示する。ここで、ユーザは、既に縫製済みの蝶Bがこの花の下方に配置されるように、一輪の花の刺繍模様を配置したいと構想しているものとする。
【0071】
この花の下方に存在する葉先が、ユーザによってタッチされてユーザ指定点マーカ64が表示された後、ユーザ指定点マーカ64で示されるユーザ指定点を関心点として確定する枠移動ボタン65が押下される。そうすると、
図12の(b)に示すように、刺繍枠26は、刺繍データ5aに従って縫製を実行したとき、花の下方に存在する葉先を針12が指し示すように水平移動する。これにより、ユーザは、葉先であるユーザ指定点と蝶Bの位置関係が把握できる。
【0072】
ユーザは、一輪の花の下方に設定したユーザ指定点が既に縫製した蝶Bと離れていることがわかり、葉の先端に蝶Bが位置するよう、一輪の花を移動させたいと考えたものとする。
図13の(c)に示すように、枠移動ボタン65の押下によって関心点が針12で指示された後、関心点を移動させたいポイントに針12が位置するまでジョグキー323を操作する。
【0073】
そうすると、一輪の花の下方に蝶が位置するように、一輪の花の刺繍データ5aが編集される。即ち、ジョグキー323の操作によって、針12が指し示す位置が、関心点である一輪の花の下方から蝶の間近に変化する。
図13の(d)に示すように、この変化量のX軸方向成分Xj及びY軸方向成分Yjが、オフセット情報5bのX軸方向オフセット値XetとY軸方向オフセットYetに加算される。そのため、
図13の(e)に示すように、操作画面324は、一輪の花の刺繍イメージ62をオフセット情報5bが示す量だけシフトして表示し直す。
【0074】
また、
図14の(a)に示すように、アルファベットABCの文字列の最下端を指標とする枠移動ボタン65が押下されたものとする。これにより、アルファベットABCの文字列の最下端を針12が指し示すまで、刺繍枠26は移動している。このとき、縫製対象物100の刺繍枠26へのセッティングが正確でなかったため、アルファベットABCの文字列の最下端が縫製対象物100のポケットに掛かっているものとする。
【0075】
そこで、
図14の(b)に示すように、ユーザはジョグキー323を操作して、針12がポケットの上縁を越えるまで刺繍枠26を移動させる。そうすると、アルファベットABCの文字列がポケットから外れて縫製されるように、刺繍データ5aが変更される。即ち、
図14の(c)に示すように、アルファベットABCの文字列の最下端から、ジョグキー323の操作後に針12が指し示した位置までのX軸方向及びY軸方向の移動量(0,Yd)が、オフセット情報5bのX軸方向オフセット値XetとY軸方向オフセットYetに加算される。
【0076】
このように、操作画面324とジョグキー323の操作だけで、関心点の指定と、関心点の移動先指定とが簡便に入力できる。そして、この入力に合わせてオフセット情報5bを生成するため、刺繍模様の位置合わせが簡便になる。即ち、この後、縫製作業の実行の際には、原点位置(X0,Y0)からオフセット情報5bが示すズレ量だけ離れた位置(X0+Xet,Y0+Yet)に基準点を変更し、このズレ位置から第1針目の位置情報51が示す離間距離に相当する点から第1針目の縫製を開始する。
【0077】
(変形例)
以上のように、オフセット設定部43は、刺繍データ5aと別個にオフセット情報5bを生成するようにし、ミシン1はオフセット情報5bが示すズレ量だけ刺繍枠26をシフトして縫製を開始するようにしたが、刺繍枠26をシフトするのではなく、刺繍データ5a自体をシフトするようにしてもよい。
【0078】
即ち、オフセット設定部43は、相対的に位置情報51を表す刺繍データ5aに対して、オフセット情報5bを第1番目の縫い目を示す位置情報51に加算する。差異の加算先は、刺繍データ記憶部45の刺繍データ5aである。従って、操作画面324上の刺繍イメージ62の位置も更新される。この場合、刺繍イメージ62の作成や縫製実行時にオフセット情報5bを別途参照する必要はない。
【0079】
図15は、この変形例によるオフセット設定部43の刺繍データ5aの修正動作を示すフローチャートである。まず、タッチパネル322を用いて操作画面324に表示された関心点に対する枠移動ボタン65が押下されると(ステップS41,Yes)、この押下によってユーザが決定した関心点を針12が指し示すまで刺繍枠26が移動する(ステップS42)。
【0080】
このステップS42の後、ユーザがジョグキー323を操作すると(ステップS43)、オフセット設定部43は、刺繍データ5aに含まれる第1番目の縫い目の位置情報51を読み出し(ステップS44)、この位置情報51に、ジョグキー323の操作に応じて刺繍枠26が移動したX軸方向移動量とY軸方向移動量を加算する(ステップS45)。オフセット設定部43は、この新たな第1番目の縫い目の位置情報51で刺繍データ5aの内容を更新する(ステップS46)。
【0081】
ここで、例えば複数枚の葉が延びた茎に付く一輪の花の刺繍データ5aが刺繍データ記憶部45に格納されているものとする。この花の刺繍イメージ62が操作画面324に表示され、ユーザは、一輪の花の下方に設定したユーザ指定点が既に縫製した蝶Bと離れていることがわかり、葉の先端に蝶Bが位置するよう、一輪の花を移動させたいと考えたものとする。
【0082】
このとき、
図16の(a)に示すように、枠移動ボタン65の押下によって関心点が針12で指示された後、関心点を移動させたいポイントに針12が位置するまでジョグキー323を操作すると、一輪の花の下方に蝶が位置するように、一輪の花の刺繍データ5aが編集される。即ち、ジョグキー323の操作によって、針12が指し示す位置が、関心点である一輪の花の下方から蝶の間近に変化する。
図16の(b)に示すように、この変化量のX軸方向成分Xj及びY軸方向成分Yjが、刺繍データ5aの第1番目の縫い目の当初の位置情報51である(X1,Y1)に加算される。
【0083】
そうすると、刺繍データ5aが変更されたため、
図16の(c)に示すように、操作画面324は、一輪の花の刺繍イメージ62をシフトして表示する。
【0084】
(効果)
以上のように、このミシン1は、枠イメージ61と刺繍イメージ62を画面領域に表示するとともに、ユーザによる当該画面領域内に表示された前記刺繍枠内で関心点の入力を受け付ける操作画面324を備えるようした。そして、刺繍枠26は、関心点に相当する刺繍枠26内のポイントを針12が指し示すまで、水平移動するようにした。これにより、ユーザの関心点の縫製対象物100上の位置を、ユーザの想像力に頼ることなく容易に把握でき、この関心点に基づく縫製準備の精度が向上するから、ユーザにとって満足のいく品質の高い縫製結果を提供できる。
【0085】
また、刺繍枠26の手動操作を受け付けるジョグキー323を備えるようにした。そして、操作画面324は、関心点に相当する刺繍枠26内のポイントから、手動操作に応じて針12が指し示した刺繍枠26内のポイントまでの移動量に応じて、刺繍イメージ62を画面領域内でシフトするようにした。これにより、関心点の縫製対象物100上の位置の把握に基づき、基準位置から刺繍模様をどの程度オフセットすれば、所望の縫製態様を実現できるか、プレビューで把握することもでき、ユーザの想像力や試行錯誤に頼ることなく、ユーザにとって満足のいく品質の高い縫製結果を提供できる。
【0086】
また、ジョグキー323の操作に基づき、関心点に相当する刺繍枠26内のポイントから、手動操作に応じて針12が指し示した刺繍枠26内のポイントまでの移動量を算出するオフセット設定部43を備えるようにした。そして、オフセット設定部43は、直前の縫い目から次の縫い目までの移動量で各縫い目の位置情報51を表して成る刺繍データ5のうち、第1番目の縫い目の位置情報51に移動量を加算するようにした。または、刺繍データ5aに加えてオフセット設定部43が算出した移動量をオフセット情報5bとして記憶させておき、刺繍枠26は、縫製作業を実行する際、縫製対象物100に針12を落とす前にオフセット情報5bに従って水平移動した後、刺繍データ5aに従って針棒13の往復動に同期しながら水平移動するようにした。
【0087】
ユーザが指定した関心点は、関心点がユーザ所望と適合しているかを把握するための指標となる。この関心点とユーザ所望の位置との差異を、ジョグキー324の操作に連動してオフセット情報5bとして記憶し、または刺繍データ5aに反映するようにしたので、ユーザは刺繍模様の位置をユーザ所望に簡便に適合させることができる。
また、操作画面324は、刺繍イメージ62とともに、刺繍枠26の枠イメージ61を画面領域内に更に表示するようにした。これにより、プレビューがより豊かな情報を有して表示され、ユーザが想像を強いられることが更に少なくなり、ユーザにとって満足のいく品質の高い縫製結果を簡便に提供できる。
【0088】
(他の実施形態)
以上のように本発明の実施形態を説明したが、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。