(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(B)の剛体振り子型物性試験器による対数減衰率が、測定温度65〜75℃で0.3未満、且つ測定温度100〜130℃で0.35未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂被覆金属板。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を以下の実施形態により詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[樹脂被覆金属板]
図1に示すように、本実施形態における樹脂被覆金属板は、金属板と、前記金属板の少なくとも片面に設けられた樹脂層(A)と、前記樹脂層(A)と前記金属板との間に設けられた樹脂層(B)と、を含む。
【0020】
(金属板)
前記金属板としては、通常の金属缶体又は缶蓋に使用される公知の金属板を使用することが可能であり、特に制限されるものではない。例えば好ましく使用される金属板として、表面処理鋼板や、アルミニウム板及びアルミニウム合金板等の軽金属板を使用することができる。
【0021】
表面処理鋼板としては、アルミキルド鋼や低炭素鋼等が使用できる。例えば、冷延鋼板を焼鈍した後に二次冷間圧延し、錫めっき、ニッケルめっき、亜鉛めっき、電解クロム酸処理、クロム酸処理、アルミやジルコニウムを用いたノンクロム処理などの、一種または二種以上を行ったものを用いることができる。
【0022】
軽金属板としては、アルミニウム板およびアルミニウム合金板が使用される。アルミニウム合金板としては、金属缶体用としては、例えば、A3000系(Al−Mn系)を使用することができる。また、缶蓋用としては、例えば、A5000系(Al−Mg系)を使用することができる。
なお、金属板の厚み等は、使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
(樹脂層)
本実施形態において、上記金属板の少なくとも片面には樹脂層が設けられている。この樹脂層として、金属板に接するように樹脂層(B)が設けられ、さらに該樹脂層(B)の上に、前記樹脂層(B)とは異なる種類の樹脂層(A)が設けられている。すなわち、本実施形態の樹脂被覆金属板は、金属板と、前記金属板の少なくとも片面に設けられた樹脂層(A)と、前記樹脂層(A)と前記金属板との間に設けられた樹脂層(B)と、を含む。
【0024】
まず樹脂層(A)について説明する。
本実施形態において使用される樹脂層(A)は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)50〜80wt%と、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)20〜50wt%と、を含有する樹脂である。
【0025】
前記「含有する樹脂」とはすなわち、樹脂層(A)中に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)の成分とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の成分と、を含有する。具体的には、樹脂層(A)は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)とを配合(以下「ブレンド」とも称する。)して得られる。
【0026】
なお、本実施形態において「ポリエチレンテレフタレート系樹脂」とは、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂単独及びポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を含むものとする。また同様に、「ポリブチレンテレフタレート系樹脂」とは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂単独及びポリブチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を含むものとする。
【0027】
樹脂層(A)におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)の含有量が50〜80wt%であり、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が20〜50wt%である理由は、以下のとおりである。
すなわち、一般的にポリブチレンテレフタレート(PBT)は、剛性が高く、結晶化速度が速い樹脂として知られている。
【0028】
そうすると、本実施形態においてポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が20wt%未満の場合には、相対的に樹脂層(A)の結晶化速度が遅くなる。その場合、樹脂層(A)中で大きな結晶が形成される可能性が高くなるため、レトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制する観点から好ましくない。
【0029】
一方で、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が50wt%を超える場合は、樹脂層(A)の結晶化速度が速すぎ、樹脂層(A)が白濁する可能性が高くなるため好ましくない。
【0030】
次に、樹脂層(B)について説明する。
本実施形態において使用される樹脂層(B)は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)50〜80wt%と、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)20〜50wt%と、を含有する樹脂である。すなわち、樹脂層(B)中に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)の成分とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の成分と、を含有する。具体的には、樹脂層(B)は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)とを配合(以下「ブレンド」とも称する。)して得られる。
【0031】
樹脂層(B)におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)の含有量が50〜80wt%であり、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が20〜50wt%である理由は、以下のとおりである。
【0032】
すなわち、本実施形態においてポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が20wt%未満の場合には、樹脂層(B)の結晶化速度が遅くなる。そうすると、樹脂層(B)中で大きな結晶が形成される可能性が高くなるため、レトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制する観点から好ましくない。
【0033】
一方で、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が50wt%を超える場合は、樹脂層(B)の結晶化速度が速すぎ、樹脂層(B)が白濁する可能性が高くなるため好ましくない。
【0034】
次に、樹脂層(A)と樹脂層(B)に含有される樹脂の詳細について説明する。
まず、樹脂層(A)には上述のようにポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)とを含有する。
本実施形態においてポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)は、ポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂であることが好ましい。
【0035】
すなわち、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)に含まれるジカルボン酸としては、テレフタル酸成分の他に、イソフタル酸(IA)、オルソフタル酸、P−β−オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン2,6−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸及びピロメリット酸から成る群より選ばれた少なくとも一種が含まれることが好ましい。このうち特に、金属缶への加工性等の観点から、イソフタル酸が含まれることが好ましい。
【0036】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)に含まれるグリコール成分としては、エチレングリコールのみであることが好適である。しかしながら、本発明の本質を損なわない範囲で、その他のグリコール成分、例えば、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の一種又は二種以上を含んでいてもよい。
【0037】
なお、本実施形態においては、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)中のイソフタル酸含有量は9〜15モル%であることが好ましい。その理由は以下のとおりである。すなわち、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)中のイソフタル酸含有量が9モル%未満の場合、印刷のインキ、ニスとの密着性が低下するため、好ましくない。
【0038】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)中のイソフタル酸含有量が15モル%を超えた場合、樹脂層(A)の結晶化速度が遅くなり、レトルトブラッシング(白斑)発生の原因となり得るため好ましくない。
なお、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)中のイソフタル酸含有量は、9〜10モル%であることがさらに好ましい。
【0039】
本実施形態において、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)の融点は、210℃以上230℃以下であることが好ましい。なお、樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することが可能である。
また、本実施形態において、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)の固有粘度(IV)は、通常取り得る範囲であれば、本発明の目的を達成できる。
【0040】
次に、本実施形態においてポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂単独(ホモポリマー)であることが、金属缶及び缶蓋のレトルトブラッシング(白斑)の発生抑制の観点からは好ましい。
しかしながら、本発明の目的を損ねない範囲内において、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)が共重合樹脂であってもよい。その場合には、テレフタル酸以外の公知のジカルボン酸成分及び/又は1,4−ブタンジオール以外の公知のグリコール成分が共重合成分として含まれていてもよい。
【0041】
本実施形態においてポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の融点は、215℃以上225℃以下であることが好ましい。ホモポリブチレンテレフタレートの融点は225℃であるが、本実施形態においては、共重合、または樹脂層の製造時におけるポリエチレンテレフタレートとのエステル交換反応によって、多少の融点降下は許容される。しかしながら、融点が215℃を下回るとレトルトブラッシングの発生抑制効果が不十分となるため好ましくない。
また、本実施形態においてポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の固有粘度(IV)は0.6〜1.3が好ましく、1.1〜1.3であることがより好ましい。固有粘度(IV)が0.6未満では樹脂が柔らかくなりすぎ、製缶時に樹脂の破断が起きやすいため好ましくない。一方で、固有粘度(IV)が1.3を超えると固有粘度が高すぎ、樹脂フィルムの製造自体が困難となるため好ましくない。
【0042】
次に、樹脂層(B)に含まれるポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)について説明する。なお、樹脂層(B)に含まれるポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)は、樹脂層(A)に含まれるポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)と同じであるため、説明を省略する。
【0043】
本実施形態において樹脂層(B)に含まれるポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)は、ポリエチレンテレフタレート樹脂単独(ホモポリマー)であってもよいし、ポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂であってもよい。
【0044】
すなわち、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)に含まれるジカルボン酸としては、テレフタル酸成分のみでもよいし、テレフタル酸成分の他に、イソフタル酸(IA)、オルソフタル酸、P−β−オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン2,6−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸及びピロメリット酸から成る群より選ばれた少なくとも一種が含まれていてもよい。
なお、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)が共重合樹脂である場合には、共重合成分としては、金属缶への加工性等の観点から、イソフタル酸であることが好ましい。
【0045】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)に含まれるグリコール成分としては、エチレングリコールのみであることが好適である。しかしながら、本発明の本質を損なわない範囲で、その他のグリコール成分、例えば、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の一種又は二種以上を含んでいてもよい。
【0046】
なお、本実施形態においては、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量は0モル%を超えて9モル%未満であることが好ましい。その理由は以下のとおりである。
【0047】
すなわち、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)は樹脂層(B)に含まれる。また、樹脂層(B)が積層された樹脂被覆金属板が金属缶又は缶蓋に加工される場合には、絞りしごき加工やしごき加工等の厳しい加工が付与される。仮にポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量が9モル%以上の場合、樹脂被覆金属板における樹脂層(B)の金属板への密着性は高くなるといえる。
【0048】
一方で、上記のような厳しい加工を経て製缶された後の金属缶における樹脂層(B)には応力が残存している。そのような応力が残存した状態で、過酷なレトルト殺菌処理の工程に進んだ場合、その温度差や急激な環境の変化による影響で樹脂層(B)と金属板との密着性が低下する可能性がある。最悪の場合、樹脂層(B)が金属板から剥離(デラミネーション)してしまう可能性すらある。
【0049】
上記の問題を防ぐため、本実施形態においてはポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量は0モル%を超えて9モル%未満であることが好ましい。この含有量とすることにより、過酷なレトルト殺菌処理の工程に進んでも、樹脂層(B)の金属板からの剥離を抑制できる。なぜならば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量は0モル%を超えて9モル%未満である場合、相対的に、樹脂被覆金属板における樹脂層(B)の金属板への密着性は低いと言うことができる。そうすると、厳しい加工を経て製缶された後に、過酷なレトルト殺菌処理の工程に進んで温度差や急激な環境の変化が与えられたとしても、樹脂層(B)と金属板との密着性が受ける影響は相対的に低くなるからである。
【0050】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量を0モル%を超えて9モル%未満とすることにより、レトルトブラッシング(白斑)の発生の問題も同時に解決することができる。なぜならば、イソフタル酸含有量により樹脂層(A)と比較して樹脂層(B)の水分の透過量が低いため、樹脂(B)がバリア層のように機能して金属板と樹脂層(B)の界面で発生し得る水蒸気の気泡を低減させることが可能となるからである。そのため、結果的に金属板と樹脂層(B)の界面でレトルトブラッシング(白斑)が発生する現象を抑制できるのである。
【0051】
上記のような理由により、本実施形態においては、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量は0モル%を超えて9モル%未満とし、レトルトブラッシング(白斑)の発生とフィルムのデラミネーションの問題とを同時に克服しているのである。
【0052】
なお、イソフタル酸を全く含まないホモポリエチレンテレフタレートは、加工密着性が大きく低下するため好ましくなく、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量が、1〜8モル%、好ましくは4〜6モル%であることが、上記したようにレトルトブラッシング(白斑)の発生とフィルムのデラミネーションの問題とを同時に克服する観点からはさらに好ましい。
ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)およびポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)中のイソフタル酸含有量を上述した範囲とする方法としては、所望のイソフタル酸含有量で共重合する方法に限らず、イソフタル酸含有量の低いポリエチレンテレフタレート系樹脂(例えば2モル%)とイソフタル酸含有量の高いポリエチレンテレフタレート系樹脂(例えば15モル%)とを、その合計量が所望のイソフタル酸含有量となるようにブレンドする方法でもよい。このブレンドは、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の配合と同時に行うことができる。
【0053】
なお、本実施形態においてポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)の融点は、230℃より大きく250℃以下であることが好ましい。樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することが可能である。
また、本実施形態において、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)の固有粘度(IV)は、通常取り得る範囲であれば、本発明の目的を達成できる。
【0054】
次に、樹脂層(A)と樹脂層(B)について各々説明する。
まず前記樹脂層(A)は、示差走査熱量測定(DSC)を用いたファーストスキャンでの測定において95±5℃に昇温結晶化温度を有し、且つ降温結晶化温度が183℃未満であることが好ましい。
【0055】
ここで示差走査熱量測定(DSC)を用いたファーストスキャンでの測定とは、本実施形態の樹脂被覆金属板を製造後、室温に冷却された樹脂層(A)あるいは樹脂層(B)を樹脂被覆金属板から切り出して試料とし、該試料を昇温しながら示差走査熱量計により行う測定をいうものとする。
【0056】
また、本実施形態において降温結晶化温度とは、上記ファーストスキャンの後、前記試料を降温しながら示差走査熱量計により行う測定により得られた降温結晶化温度をいうものとする。
【0057】
本実施形態において、樹脂層(A)に関してDSCを用いたファーストスキャンでの測定において95±5℃において得られるピークは、昇温結晶化温度を表す。
また、一般的に降温結晶化温度は固化速度の目安として用いられ、特に融点と降温結晶化温度の差(過冷却温度差)が小さい材料ほど固化が速いことを表す。
【0058】
なお、DSC測定における昇温速度及び降温速度は、一般的にJIS K 7210に従って決定されるが、本実施形態においては、昇温速度が10℃/分、降温速度が−10℃/分で測定を行うものとする。
【0059】
前記樹脂層(B)は、示差走査熱量測定(DSC)を用いたファーストスキャンでの測定において95±5℃に昇温結晶化温度を有さず、且つ降温結晶化温度が183℃以上であることが好ましい。より具体的には、前記樹脂層(B)の昇温結晶化温度(ピーク)は、DSCを用いたファーストスキャンでの測定において95±5℃の範囲を超えた100℃以上で観測されることが好ましい。
【0060】
本実施形態において、樹脂層(A)と樹脂層(B)では、示差走査熱量測定(DSC)を用いたファーストスキャンでの測定において、降温結晶化温度(ピーク)の現れ方が異なる理由及びその効果としては、以下のとおりである。すなわち、樹脂層(A)と樹脂層(B)を比較すると、樹脂層(B)の方が結晶化速度が速いため、樹脂フィルムの水蒸気透過性を低くすることが可能となる。その結果、レトルト殺菌処理時に金属板への水蒸気の透過を低減でき、フィルムのデラミネーションの発生を抑制できる。
【0061】
(剛体振り子型物性試験器による対数減衰率)
本実施形態において、前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(B)の剛体振り子型物性試験器による対数減衰率が、測定温度が65〜75℃において0.3未満、且つ、測定温度が100〜130℃において0.35未満であることが好ましい。
【0062】
すなわち、本実施形態における樹脂被覆金属板の樹脂表面を剛体振り子型物性試験器により測定(測定条件:パイプエッジ:直径2.0mm、フレーム重さ12.4g)した場合、測定温度が65〜75℃における対数減衰率が0.3未満であり、且つ、測定温度が100〜130℃における対数減衰率が0.35未満であることが、製缶後においてレトルトブラッシング(白斑)の発生とフィルムのデラミネーションの問題とを同時に克服する観点からは好ましい。
【0063】
なお、測定温度が65〜75℃の時の対数減衰率が0.3以上では樹脂層の硬度が高くなり製缶時の加工性の観点から好ましくない。また、測定温度が100〜130℃の時の対数減衰率が0.35以上では製缶時の樹脂と金属板の密着性の観点から好ましくない。
【0064】
剛体振り子型物性試験器による測定(以下、「剛体振り子測定)とも称する)は、被測定物質上に振り子を乗せ、その振り子を振動させながら被測定物質に温度を連続的に変化させて測定する動的粘弾性の測定である。この装置ではデータの1つとして対数減衰率が測定される。
図2に、本実施形態における対数減衰率の測定結果の例を示す。なお、
図2のグラフにおいて示される左の山のピークは樹脂のガラス転移温度に近い値を示唆しており、右の山は加熱時の樹脂の軟化の度合いを示唆している。
【0065】
本実施形態の樹脂被覆金属板において、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量による樹脂の結晶化速度の違いは、加熱時の樹脂の軟化度合に影響を与える。ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が少ない場合、結晶化速度が遅くなり樹脂は相対的に軟化し、加熱時の軟化度合が大きくなる傾向を示し、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が多い場合、結晶化速度が速くなり樹脂は相対的に硬化し、加熱時の軟化度合が小さくなる傾向を示す。
【0066】
したがって本実施形態の樹脂を用いて剛体振り子測定を行った場合、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が多い場合、加熱時の軟化度合が小さいため、振り子の振動にブレーキがかからず対数減衰率が小さくなる。一方でポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の含有量が少ない場合、加熱時の軟化度合が大きいため、振り子にブレーキがかかり振動は減衰し、対数減衰率が大きくなる。
【0067】
このように、本発明者らの知見によれば、対数減衰率を得ることによって、樹脂層の軟らかさあるいは硬さを評価することができ、製缶後におけるレトルトブラッシング(白斑)の発生とフィルムのデラミネーションの問題とを同時に克服し得る樹脂被覆金属板を得ることができたのである。
【0068】
(樹脂層の厚み及び厚み比)
本実施形態の樹脂被覆金属板において、前記樹脂層(A)と前記樹脂層(B)の厚さの合計は、5〜15μmであることが、製缶時における樹脂フィルムと金属板の密着性等の観点から好ましい。
また、樹脂層(A)と樹脂層(B)との厚さの比は、樹脂被覆金属板の状態(製缶前)において、1:9〜5:5であることが好ましく、特に2:8〜4:6であることが好ましい。いずれにしても、本実施形態においては、樹脂層(A)の厚みよりも樹脂層(B)の厚みの方が厚いことが望ましい。
【0069】
なお、樹脂層(A)と樹脂層(B)との厚さの合計、及び各層の厚さの比を上記値に設定することにより、本実施形態においては製缶後におけるレトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制することができる。
【0070】
すなわち、レトルト殺菌処理時に樹脂層を透過し金属板と樹脂層の界面に到達した水分がレトルトブラッシング(白斑)の発生原因になり得るが、本実施形態においては樹脂層を二層とし、且つ樹脂層(B)を水分透過率の低い樹脂とすることによりレトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制できるのである。なお、この点についてはさらに後述する。
【0071】
(樹脂被覆金属板の製造方法)
次に、本実施形態における樹脂被覆金属板の製造方法について説明するが、本発明は以下の記載に制限されるものではない。
本実施形態の樹脂被覆金属板は、樹脂層(A)となる樹脂及び樹脂層(B)となる樹脂を製造した後に、金属板の少なくとも片面に樹脂層(A)及び樹脂層(B)を形成することにより製造される。
【0072】
まず、樹脂層(A)となる樹脂は、上述したポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)とをブレンドして得られる。ブレンドの方法としては公知の方法を用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の樹脂チップを混合した後に押出機に投入して溶融しブレンドしてもよい。また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)の樹脂チップをそれぞれ別の押出機に投入して溶融し、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)をダイから押出す前にブレンドする方法でもよい。
【0073】
押出機内での混練温度や混練時間は適宜選択可能であるが、混練温度が高すぎると、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)との間でエステル交換反応が進んだり、樹脂の熱分解が起こったりするため好ましくない。
本実施形態においては、樹脂層(A)となる樹脂を製造する際には、255℃〜295℃において5〜30分間混練を行うことが好ましい。
【0074】
次に樹脂層(B)となる樹脂は、上述のポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)とをブレンドして得られる。ブレンドの方法等は上記樹脂層(A)となる樹脂と同様である。
【0075】
次に、金属板の少なくとも片面に樹脂層(A)及び樹脂層(B)を形成する方法について説明する。本実施形態において、金属板に樹脂層を形成する方法としては公知の方法を用いることができる。例えば、押出機のTダイから樹脂をフィルム状にして金属板上に直接押出す方法(押出コート法)でもよいし、一旦製造した樹脂フィルムを加熱した金属板に接触させて圧着する方法でもよい。
【0076】
本実施形態においては、金属板の上に樹脂層(B)が形成され、さらに樹脂層(B)の上に樹脂層(A)が形成されている。このように二層の樹脂層を金属板に形成する方法としても公知の方法を適用することができる。例えば、押出コート法の場合、金属板上にまず樹脂層(B)を直接押出した後に樹脂層(A)を押出してもよい。また、マルチマニフォルドダイ等を用いて、金属板上に溶融樹脂を同時に多層化して積層してもよい。
【0077】
(金属缶)
次に、本実施形態における金属缶について説明する。
本実施形態における金属缶は、上記樹脂被覆金属板を用いて公知の方法により製缶される。公知の製缶方法としては、例えば、絞り加工、絞りしごき加工、ストレッチドロー成形、ストレッチアイアニング成形、等が挙げられる。
金属缶は、缶体(3ピース缶の缶胴を含む)、缶蓋から構成され、いずれの部材にも上記樹脂被覆金属板が適用できる。
缶蓋は、いわゆるステイ・オン・タブタイプのイージーオープン缶蓋やフルオープンタイプのイージーオープン缶蓋に適用することができる。また、3ピース缶の天地蓋に適用することもできる。
【0078】
なお、本実施形態においては、金属缶の外面に上記樹脂層(B)及び樹脂層(A)が形成されていることが、レトルトブラッシング(白斑)の発生とフィルムのデラミネーションの問題とを同時に克服する観点からは好ましい。なお、金属缶の内面には別途樹脂フィルムが積層されていてもよいし、塗膜が形成されていてもよい。また、缶内面の樹脂フィルムは、缶外面の樹脂フィルムと同じであってもよい。
また、本実施形態の金属缶においては、樹脂層(A)の外側に、さらに印刷層や保護層等の他の層が形成されていてもよい。
【0079】
<接触角に関する評価>
本実施形態の金属缶は、樹脂層(A)の塗れ指数液No.40(塗れ張力40.0mN/m)による接触角が42°以下であることが、印刷層との密着性の観点より好ましい。
なお、金属缶の場合、缶容量や缶胴部の場所によって、前記塗れ指数液による接触角が異なる可能性がある。例えば、容量の小さい缶では製缶時の缶胴部の加工度合いが小さいが、容量の大きい缶では缶胴部の加工度合いが大きい。また、同じ缶の缶胴部であっても、缶底に近い箇所よりは、缶上部に近い方が、加工度合いが大きい。そして一般的に、樹脂の加工度合いにより塗れ性(接触角)が異なる。
【0080】
そこで、本実施形態において塗れ指数液による接触角を測定する際には、缶高さの中心付近における測定が好ましく、例えば缶底から40〜120mmでの測定が好ましい。
なお、塗れ指数液による接触角の測定は、JIS K 6768に準じて行うことが好ましい。
【0081】
<水蒸気透過率に関する評価>
本実施形態の金属缶は、レトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制する観点から、樹脂層の水蒸気透過率が400g/m
2・day(40℃ 90%RH)以下であることが好ましい。
水蒸気透過率が400g/m
2・dayを超える場合は、金属板への水分の透過が原因となってレトルト時のフィルムデラミネーションが発生する可能性が高まるため、好ましくない。
なお本実施形態において、水蒸気透過率は、JIS K 7129に準じて測定されることが好ましい。
【0082】
<X線回折による配向結晶化ピーク強度に関する評価>
本実施形態の金属缶は、樹脂層のX線回折による配向結晶化ピーク強度が28cps/μm以上であることが好ましい。配向結晶化ピーク強度が28cps/μm未満の場合、水蒸気のバリア性の観点から好ましくない。
【0083】
なお本実施形態において、配向結晶化ピーク強度は樹脂層の(100)面のX線回折角2θが23〜29°の範囲のピークのうち、最も高いピーク強度の値(cps)をフィルム厚み(μm)で割った値で表される。X線回折の測定は、例えばX線回折装置(株式会社リガク製、全自動多目的水平型X線回折装置Smart Lab等)を用いて、ターゲットをCuとし(Cu−Kα)、管電圧40kV、管電流20mAの条件で行われる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
(樹脂被覆金属板の作製)
缶胴用の金属板としては、JIS H 4000におけるA3004P H19材、板厚0.3mmのAl−Mn系アルミニウム合金板を使用した。
【0086】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)とを表1に示す割合で混合して樹脂層(A)となる樹脂を作製した。まず、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)のチップを混合し、この混合チップを押出機に投入して溶融し混練した。混練条件は、混練温度255℃、吐出量Q(Kg/h)と押出機スクリュー回転数N(rpm)の比はQ/N=1.0、押出機内での滞留時間は20分とした。
【0087】
樹脂層(B)となる樹脂も、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)及びポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)とを用いて上記樹脂層(A)と同様に作製した。
【0088】
樹脂層(A)となる樹脂と、樹脂層(B)となる樹脂は、溶融状態でマルチマニフォルドダイにより、樹脂層(B)が金属板に接するようにプレロールを介して押出し、ラミネートロールでニップし、二層樹脂フィルムを被覆した金属板を作製した。
【0089】
なお、金属板の他方の面には、共重合成分としてイソフタル酸15モル%を含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂と、共重合成分としてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂と、からなる二層樹脂を被覆した。
また、得られた樹脂被覆金属板の樹脂層(A)及び樹脂層(B)の厚さは電磁膜厚計で測定した。
【0090】
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)、及びポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)の固有粘度(IV)は、次の様にして求めた。すなわち、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(I)、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)、及びポリエチレンテレフタレート系樹脂(III)の各々の樹脂約200mgをフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン混合溶液(重量比1:1)に110℃で溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて30℃比粘度を測定した。
【0091】
なお、固有粘度[η](dl/g)は下記式により求めた。
[η]=[(−1+(1+4K’ηsp)1/2)/2K’C]
K’:ハギンズの恒数(=0.33)
C:濃度(g/100ml)
ηsp:比粘度[=(溶液の落下時間−溶媒の落下時間)/溶媒の落下時間]
【0092】
(金属缶の作製)
上記のようにして得られた樹脂被覆金属板に、ワックス系潤滑剤を塗布し、下記3種類の直径の円盤(ブランク)を打ち抜き、樹脂層(A)及び樹脂層(B)が缶外面となるようにそれぞれ製缶した。
缶型A・・・ ブランク径:119.5mm
缶型B・・・ ブランク径:126.5mm
缶型C・・・ ブランク径:156.5mm
【0093】
製缶加工は次の手順で行った。まず打ち抜いた円盤(ブランク)に絞り加工を行い、浅絞りカップを作製した。次いで、この浅絞りカップにしごき加工を行い、しごき率(元板厚に対する側壁部の厚みの減少率)50%のシームレスカップを作製した。
【0094】
このシームレスカップに対して、常法に従って缶胴及び底の成形を行い、220℃で60秒間熱処理を行った。続いて開口端部をトリミングした後に、ネック加工し、フランジ加工を行い、シームレス2ピース金属缶を作製した。
【0095】
(デラミネーション評価)
缶型Aと缶型Bのフランジ加工後のシームレス2ピース金属缶について、フランジ先端外面樹脂の剥離程度を目視観察し、外面樹脂と金属板との間の密着性を次の様に評価した。
なお表1では、缶型Aと缶型Bで評価に差が出なかったので、区別なく記してある。
○:剥離なく、実用可能。
△:わずかに剥離があるが、実用可能。
×:明らかな剥離があり、実用不可。
【0096】
(レトルトブラッシング評価)
一例として、上記シームレス2ピース金属缶に水を充填し、通常の缶蓋を巻き締め充填缶とした。次に、充填缶をレトルト釜の中に配置しスチームにより125℃で30分間の加圧加熱殺菌処理を施した。上記加圧加熱殺菌処理後にレトルト釜の中の充填缶を取り出し、水中に浸漬して室温まで冷却した後に、缶胴底部分でレトルトブラッシングの発生有無を目視評価した。
なお表1では、缶型Aと缶型Bで評価に差が出なかったので、区別なく記してある。
○印:レトルトブラッシング(白斑)の発生が無く、実用可能。
△印:レトルトブラッシング(白斑)が若干部分的に発生したが、実用可能。
×印:レトルトブラッシング(白斑)が発生し、実用不可。
××印:樹脂層全面が白濁し、実用不可。
【0097】
(レトルトデラミネーション評価)
上記シームレス2ピース金属缶に水を充填し、通常の缶蓋を巻き締め充填缶とした。次に、充填缶をレトルト釜の中に、金属製のバットを設置し、バットの中に缶を正立させて気液界面が缶壁にくるよう配置し、140℃で5分間の加圧加熱殺菌処理を施した。上記加圧加熱殺菌処理後にレトルト釜の中の充填缶を取り出し、缶壁部分のフィルム浮き(デラミネーション)発生有無を目視評価した。
なお表1では、缶型Aと缶型Bで評価に差が出なかったので、区別なく記してある。
○印:フィルム浮き(デラミネーション)の発生が無く、実用可能。
△印:フィルム浮き(デラミネーション)が若干部分的に発生したが、実用可能。
×印:フィルム浮き(デラミネーション)が発生し、実用不可。
【0098】
(総合評価)
飲料用及び食品用として適用性を、種々の缶特性より次の様に総合評価した。
なお表1では、缶型Aと缶型Bで評価に差が出なかったので、区別なく記してある。
○印:飲料及び食品用の金属缶として適用可能。
×印:飲料及び食品用の金属缶として適用不可。
【0099】
(樹脂層(A)及び樹脂層(B)のDSC測定)
得られた樹脂被覆金属板から、樹脂層(A)及び樹脂層(B)をそれぞれ削り出し、ヤマト化学株式会社 DSC6000型 示差走査熱量計(DSC)を用いて測定を行った。0〜290℃まで10℃/分の速度で昇温した後に290℃で3分保持した後、290〜0℃まで−10℃/分の速度で降温した。昇温過程において95±5℃のピーク有無を確認し、降温過程において降温結晶化温度を確認した。この測定の結果を表2に示す。
【0100】
(剛体振り子型物性試験器による対数減衰率測定)
得られた樹脂被覆金属板から、幅20mm×長さ50mmの試験片を切り出し、剛体振り子型物性試験器による樹脂の対数減衰率測定を行った。なお、金属缶の外面となる樹脂層について測定を行った。
【0101】
測定装置は、(株)エー・アンド・デイ製RPT−3000Wを用いた。フレーム形状(振り子)はパイプ直径2mm、フレーム重さ12.4gのものを用いた。測定温度範囲は30℃から150℃とし、昇温速度は10℃/分とし、専用のアルミニウム板に試料を固定した。これらの条件で樹脂層に対して3箇所の対数減衰率を測定し、その平均値を対数減衰率のデータとした。この測定の結果を表3に示す。
【0102】
(塗れ指数液による接触角測定)
得られた金属缶の外面の樹脂層の塗れ指数液による接触角測定は、以下のように行った。なお本評価には缶型Cの金属缶を用いた。塗装熱処理前の金属缶、塗れ指数液No.40を、23℃、50%RHの雰囲気下で24時間放置した。同雰囲気下で、金属缶における金属板圧延方向0°、45°及び90°の位置に塗れ指数液を5μm滴下し、接触角計(協和界面化学社自動接触角度計、CA−X)を用いて接触角を測定した。測定は各圧延方向ごとに2点の合計6点おこないそれらの平均値を接触角の値とした。この測定の結果を表4に示す。
【0103】
(水蒸気透過率測定)
得られた金属缶の外面の樹脂層の水蒸気透過率測定は、以下のように行った。すなわち、塗装熱処理後の金属缶の外面の樹脂層を8%塩酸溶液により脱膜し、脱膜した樹脂層を24時間以上真空下で乾燥した後、試験片とした。なお、金属缶においては缶胴部のボトムから30mmの位置における樹脂層を脱膜した。
【0104】
恒温恒湿状態(40℃ 90%RH)における一定時間ごとの試験片の質量増加を測定し、一定時間あたりに試験片を透過した水蒸気量を、JIS K 7129に準じて測定した。測定には、Lyssy社製 全自動水蒸気透過度計 L80−5000型を用い、5回の測定の平均値を測定値とした。この測定の結果を表5に示す。
【0105】
(X線回折による配向結晶化ピーク強度)
X線回折による配向結晶化ピーク強度は以下の条件で測定した。
X線回折装置:株式会社リガク製、全自動多目的水平型X線回折装置SmartLab
X線 :CuKαX線(1.542オングストローム)
管電圧 :40kV
管電流 :20mA
X線ビーム径:100μmφ
検出器 :湾曲形位置敏感検出器(PSPC)
【0106】
塗装熱処理後の金属缶から、金属板圧延方向0°及び180°の位置において29mmφの試験片を打ち抜いた。金属缶は、缶型Aの缶でボトムから30mm、85mmの位置から試験片を打ち抜いた。缶型Bの缶ではさらにボトムから115mmの位置の試験片を加えた。
【0107】
試験片を測定用セルに取り付け、缶外面側に相当する面が測定面となるようにして試料台に装着し、樹脂層の(100)面のX線回折角2θ=23〜29°の範囲を反射法にてX線回折測定した。ピークトップ法により得られた測定データに対してバックグラウンド補正を行う事により試料データを得た。バックグラウンド補正は2θ=29.45°、29.55°の回折強度の平均値を得られた測定データから差し引くことにより行った。試料データを樹脂被覆の厚みで割り、配向結晶化ピーク強度の値(cps/μm)を算出した。この測定の結果を表5に示す。
【0108】
水蒸気透過率測定、X線回折による配向結晶化ピーク強度を測定した金属缶については、デラミネーション評価、レトルトブラッシング評価、レトルトデラミネーション評価、総合評価を合わせて行った。なお、評価の方法は上述した方法と同様とした。以上の評価結果をまとめて表5に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
表1は樹脂(A)及び樹脂(B)におけるPET系樹脂のイソフタル酸含有量(IA量)や、PBT系樹脂(II)のブレンド量を変化させた場合の結果を示す表である。
なお、表1に示される実施例5では、樹脂層(B)のPET系樹脂(III)のイソフタル酸含有量が1モル%であるが、イソフタル酸含有量を5モル%、8モル%とした場合でも同様の結果が得られる。
また、実施例11では、樹脂層(B)のPET系樹脂(III)のイソフタル酸含有量が8モル%であるが、イソフタル酸含有量を1モル%、5モル%とした場合でも同様の結果が得られる。