(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
直流電源に直列接続されたU相,X相のスイッチング素子と、前記U相,X相のスイッチング素子に対して並列に直列接続されたV相,Y相のスイッチング素子と、を有する単相インバータのユニットを複数直列接続して構成され、出力周波数1kHz以上の単相電圧を出力する直列多重インバータ装置であって、
前記各ユニットごとに、電圧指令値と、少なくとも前記電圧指令値の半周期の間一定の値をとる2種類のゲート閾値とを比較して、U相,X相のスイッチング素子用のゲート指令とV相,Y相のスイッチング素子用のゲート指令を生成し、前記各ゲート指令にデッドタイムを付加して各スイッチング素子のゲート信号を生成するパルス幅変調回路を備え、
前記ゲート閾値はすべて異なる値をとり、
前記ゲート閾値を周期的に切り換え、
前記ゲート閾値の切り換え周期は前記電圧指令値の周期の整数倍であり、
出力電圧振幅指令値が第1閾値以下の場合、前記電圧指令値を台形波とし、
前記位相信号が3/4の時の前記ユニット内の2つのゲート閾値のどちらかが零から2番目に大きな値の場合、前記ユニット内のU相,X相のスイッチング素子用のゲート指令と、V相,Y相のスイッチング素子用のゲート指令と、を入れ換え、
前記出力電圧振幅指令値が前記第1閾値を超えた場合、前記電圧指令値を正弦波とし、
前記台形波および前記正弦波は、前記出力電圧振幅指令値に基づいて生成することを特徴とする直列多重インバータ装置。
前記台形波は、三角波を±1/n(n=ユニット台数)以内に制限し、位相信号の小数点以下の数値θ’が1/4<θ’<3/4の場合では制限した三角波に−1/nを加算し、それ以外の場合では1/nを加算し、
1/6<θ’<1/3,2/3<θ’<5/6の場合では0とする波形であることを特徴とする請求項1または2記載の直列多重インバータ装置。
前記出力電圧振幅指令値が第2閾値よりも小さいとき、零から最も離れた2つの前記ゲート閾値に係数α(α>1の係数)を乗算し、前記零から最も離れた2つのゲート閾値の絶対値を前記電圧指令値の振幅よりも大きな値に変動させることを特徴とする請求項1〜3のうち何れかに記載の直列多重インバータ装置。
前記第2閾値より小さい第3閾値より、前記出力電圧振幅指令値が小さいとき、零から最も離れた4つの前記ゲート閾値にα(α>1の係数)を乗算し、前記零から最も離れた4つのゲート閾値の絶対値を前記電圧指令値の振幅よりも大きな値に変動させることを特徴とする請求項4記載の直列多重インバータ装置。
直流電源に直列接続されたU相,X相のスイッチング素子と、前記U相,X相のスイッチング素子に対して並列に直列接続されたV相,Y相のスイッチング素子と、を有する単相インバータのユニットを複数直列接続して構成され、出力周波数1kHz以上の単相電圧を出力する直列多重インバータ装置の制御方法であって、
パルス幅変調回路は、前記各ユニットごとに、電圧指令値と、少なくとも前記電圧指令値の半周期の間一定の値をとる2種類のゲート閾値とを比較して、U相,X相のスイッチング素子用のゲート指令とV相,Y相のスイッチング素子用のゲート指令を生成し、前記各ゲート指令にデッドタイムを付加して各スイッチング素子のゲート信号を生成し、
前記ゲート閾値はすべて異なる値をとり、
前記ゲート閾値を周期的に切り換え、
前記ゲート閾値の切り換え周期は前記電圧指令値の周期の整数倍であり、
出力電圧振幅指令値が第1閾値以下の場合、前記電圧指令値を台形波とし、
前記位相信号が3/4の時の前記ユニット内の2つのゲート閾値のどちらかが零から2番目に大きな値の場合、前記ユニット内のU相,X相のスイッチング素子用のゲート指令と、V相,Y相のスイッチング素子用のゲート指令と、を入れ換え、
前記出力電圧振幅指令値が前記第1閾値を超えた場合、前記電圧指令値を正弦波とし、
前記台形波および前記正弦波は、前記出力電圧振幅指令値に基づいて生成することを特徴とする直列多重インバータ装置の制御方法。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱用などに用いられる、出力周波数が1kHz以上の単相電圧を出力する高周波インバータ装置では、
図15のように単相インバータのユニットを直列多重接続する構成をとることがある。
【0003】
特許文献1には、単相インバータのユニット2台を直列接続し、三相インバータの1相を構成した直列多重インバータ装置の例が記載されている。
図15に1相あたり単相インバータのユニットを6台直列接続した6多重接続の構成を示す。
【0004】
このような直列多重インバータ装置において、各スイッチング素子のゲート信号(オンオフ信号)を得る方法として、特許文献1の
図4に示すように同じ位相、異なるオフセットを有する複数のキャリア三角波を用意し電圧指令値と比較する方法が知られている。
【0005】
また、
図16に示すように、キャリア三角波ではなく固定のゲート閾値Vth1a,Vth1bと電圧指令値Vrefを比較し、ゲート信号を得る方法もある。
図16の例では、
図15のユニット10aにおける、零に近い固定のゲート閾値Vth1a,Vth1bと電圧指令値Vrefとゲート信号の関係を以下のように割り当てている。(
図16のGU1、GX1、GV1、GY1が、
図15の第1ユニット10a内のスイッチング素子U1,X1、V1、Y1用のゲート信号である。)
・Vref>Vth1aならばスイッチング素子U1をON,スイッチング素子X1をOFF、Vref<Vth1aならばスイッチング素子U1をOFF,スイッチング素子X1をON。
【0006】
・Vref>Vth1bならばスイッチング素子Y1をON,スイッチング素子V1をOFF、Vref<Vth1bならばスイッチング素子Y1をOFF,スイッチング素子V1をON。
【0007】
なお、各ゲート閾値Vth1a,Vth1bと電圧指令値Vrefが同値の場合は2つのスイッチング素子のうちどちらをONとし、どちらをOFFとしても良い。
【0008】
他のユニットのゲート閾値についても同様に割り当てる。このようにして得られた各ユニットの出力電圧Vo1〜Vo6の合計出力電圧Voは、正弦波に近い階段状の波形が得られる。また、各スイッチング素子は出力電圧の基本波1周期に対して最大1回のスイッチングとなる1パルス制御方式のため、キャリア三角波を用いる方式よりもスイッチング損失を低減できる。この方式は出力電圧の基本波1周期に対するスイッチング回数が少なくてよいため、出力電圧の周波数が高い高周波インバータ装置に適した方式である。
【0009】
しかし、
図16に示されるゲート信号生成方法では、出力電圧が小さい場合に電圧歪みが大きくなるという問題点がある。例えば、
図17は電圧指令値Vrefの振幅を小さくした場合を示している。出力電圧Vo1はパルス幅が狭く、出力電圧Vo2〜Vo6は零電圧、合計出力電圧Voは正弦波とはかけ離れた歪みの大きな電圧となってしまう。
【0010】
このような波形は、特に3次高調波を多く含む。対策として、例えば、
図15に示すように直列多重インバータ装置の出力端にリアクトルとコンデンサからなるフィルタを接続する方法が考えられる。しかし、
図17の合計出力電圧Voのように大きく歪んだ波形を正弦波とするにはリアクトルのインピーダンスとコンデンサの容量を非常に大きくする必要があり、装置の重量や体積・コストの増加、リアクトルでの損失増加につながってしまう。
【0011】
また、
図15のフィルタはローパスフィルタであるが、このフィルタでは3次高調波を十分に除去しようとすると必要な基本波電圧まで大きく減衰してしまう。フィルタの次数を増加、またはバンドパスフィルタを適用するといった方法もあるが、部品点数が増加し、共振点も増え制御が不安定になりやすくなってしまう。
【0012】
また
図16では、
図17のように大きく歪んだ波形や3次高調波を除去するために大きな容量のフィルタを使用することを前提とすると、
図16のような十分歪みが小さい出力電圧Voに対しては過剰なフィルタとなる。
【0013】
しかし、ユニットは6台すべて動作しているため、スイッチング損失が増えユニットの責務は増加する。例えば、装置に要求される仕様として出力電圧歪み率をある一定値以下にする場合、
図16では必要以上に歪み率が小さくなる。このような場合、少しだけ出力電圧歪みの増加を許容してスイッチング損失を低減し効率を向上させる方が、装置の運用コストの低減、装置の冷却機構低減による小型化、といった有効な効果が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
1パルス制御において、出力電圧の歪みを抑制する方法として特許文献2が開示されている。
図18に特許文献2の方法を用いてゲート信号を生成した例を示す。
【0016】
この方法ではユニットを奇数組(ユニット1,3,5)と偶数組(ユニット2,4,6)の2組に分け、電圧指令値として60degずれたVref1とVref2の2つを用意する。奇数組は電圧指令値Vref1と固定値のゲート閾値を比較しゲート信号を生成する。偶数組は電圧指令値Vref2と固定値のゲート閾値を比較してゲート信号を生成する。
【0017】
これにより、奇数組の合計出力電圧と偶数組の合計出力電圧の位相は60degずれ、3次高調波を互いに打ち消すことができ、全体の合計出力電圧Voは3次高調波を含まない。5次以降の高調波は打ち消されず残留するが、3次高調波に比べて周波数が高く、
図15に示すようなリアクトルとコンデンサから成るLCフィルタでの除去が容易となる。
【0018】
特許文献2の方法では、常に偶数台のインバータが動作するため、
図16の従来技術に比べスイッチング損失は増加する。しかし、LCフィルタ(ローパスフィルタ)での除去が難しい3次高調波を完全に零にすることができ、出力電圧の歪み率を低減することができる。
【0019】
しかし、特許文献2には2つの問題点がある。1つ目の問題点は、ユニットの損失責務・熱責務にばらつきが生じることである。
図18を例に、出力電流Ioが出力電圧Voに対して進み位相である場合を考える。Vo1を出力する第1ユニット10aは出力電流Ioのピーク付近でスイッチングを行うため熱責務が大きい。しかし、Vo2を出力する第2ユニット10bはスイッチング素子のターンオフ時の遮断電流が第1ユニット10aよりも小さく、熱責務は第1ユニット10aに比べて小さくなる。第3〜第6ユニット10c〜10fについてはスイッチングを行わないため熱責務が非常に小さい。
【0020】
このように熱責務に差がある条件でスイッチング素子の温度を均一にしようとすると、冷却機構の設計を各ユニット個別に行う必要があり、設計に時間がかかり量産効果も得られない。ユニット責務均等化の技術を適用すれば、奇数ユニットの熱責務は均一になり、偶数ユニットも熱責務を均一にすることができる。しかし、奇数ユニットのスイッチング素子の遮断電流が大きいため、奇数ユニットの方が偶数ユニットに比べて熱責務が大きく、ユニット責務均等化の技術ではすべてのユニットの熱責務を均一にすることはできない。均一化のためには偶数ユニットと奇数ユニットのスイッチング素子のゲート信号を周期的に入れ替える手順が必要になる。
【0021】
さらに、スイッチング損失増加を抑えるため入れ替え時にスイッチングを禁止すると、手順はより複雑化してしまう。
【0022】
また、
図18では第1ユニット10aの出力する有効電力が第2ユニット10bの出力する有効電力よりも大きく、ユニット間の電力責務のばらつきも生じている。この電力責務のばらつきによって、例えば直流電源としてダイオード整流器を使用する場合は、整流器で発生する導通損がばらついてしまう。
【0023】
出力電流の位相によっては一部のユニットで有効電力が回生する場合もあり、ダイオード整流器では回生した有効電力の行き先がなく各ユニットの直流電圧が上昇しスイッチング素子が過電圧で破損する恐れがある。
【0024】
2つ目の問題点は、
図16に示す従来技術(特許文献1)よりもスイッチング損失が増加し、歪み率を必要以上に小さくしてしまう傾向が顕著であることである。
【0025】
図19は、従来技術(特許文献1)において、ある程度大きな電圧指令値Vrefに基づいてゲート信号を生成し、合計出力電圧Voを得た場合を示している。
図20は特許文献2の方法において、同じ基本波振幅の合計出力電圧Voを得た場合を示している。
図19ではユニット1台だけが動作しているが、合計出力電圧Voのパルス幅が十分広く、含まれる3次高調波も十分小さい。
【0026】
しかし、
図20では十分小さい3次高調波電圧を2台のユニットで打ち消しているが、2台のユニットを動作させているため、スイッチング損失が増加してしまう。
【0027】
また、特許文献2には出力電圧が大きく、歪みが十分小さい場合において、スイッチング損失を低減する方法が論じられていない。
【0028】
以上示したようなことから、直列多重インバータ装置において、出力電圧の大きさに応じて、出力電圧の歪みを低減する制御と、スイッチング損失を低減する制御とを切り替えることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、直流電源に直列接続されたU相,X相のスイッチング素子と、前記U相,X相のスイッチング素子に対して並列に直列接続されたV相,Y相のスイッチング素子と、を有する単相インバータのユニットを複数直列接続して構成され、出力周波数1kHz以上の単相電圧を出力する直列多重インバータ装置であって、前記各ユニットごとに、電圧指令値と、少なくとも前記電圧指令値の半周期の間一定の値をとる2種類のゲート閾値とを比較して、U相,X相のスイッチング素子用のゲート指令とV相,Y相のスイッチング素子用のゲート指令を生成し、前記各ゲート指令にデッドタイムを付加して各スイッチング素子のゲート信号を生成するパルス幅変調回路を備え、前記ゲート閾値はすべて異なる値をとり、前記ゲート閾値を周期的に切り換え、前記ゲート閾値の切り換え周期は前記電圧指令値の周期の整数倍であり、出力電圧振幅指令値が第1閾値以下の場合、前記電圧指令値を台形波とし、前記位相信号が3/4の時の前記ユニット内の2つのゲート閾値のどちらかが零から2番目に大きな値の場合、前記ユニット内のU相,X相のスイッチング素子用のゲート指令と、V相,Y相のスイッチング素子用のゲート指令とを入れ換え、前記出力電圧振幅指令値が前記第1閾値を超えた場合、前記電圧指令値を正弦波とし、前記台形波および前記正弦波は、前記出力電圧振幅指令値に基づいて生成することを特徴とする。
【0030】
また、その一態様として、前記出力電圧振幅指令値と前記位相信号に基づいて、正弦波を出力する正弦波生成部と、前記出力電圧振幅指令値と前記位相信号に基づいて、台形波を生成する台形波生成部と、前記位相信号が3/4のときのみ切り換えが行われ、前記出力電圧振幅指令値が前記第1閾値よりも大きい場合に前記正弦波を出力し、前記出力電圧振幅指令値が前記第1閾値以下の場合に前記台形波を出力する第1スイッチと、前記位相信号に1/2n(n=ユニット台数)を乗算し、出力電圧基本波の2n周期で0から1にランプアップする入力信号を各ユニット毎に2つずつ生成する乗算器と、前記入力信号に、オフセット値(k−1)/2n,1/2+(k−1)/2nを加算する加算器(k=ユニット番号)と、前記オフセット値が加算された前記入力信号に対応した前記ゲート閾値を出力するテーブルと、前記第1スイッチの出力と、前記オフセット値(k−1)/2nが加算された前記入力信号に対応した前記ゲート閾値との偏差が0よりも大きい時1を出力し、0以下の場合0を出力する第5比較器と、前記第1スイッチの出力と、前記オフセット値1/2+(k−1)/2nが加算された前記入力信号に対応した前記ゲート閾値との偏差が0よりも小さい時1を出力し、0以上の場合0を出力する第6比較器と、前記位相信号が3/4のときのみ切り替えが行われ、前記各ユニット内の前記ゲート閾値のうちどちらかが3/2nのとき、かつ、前記出力電圧振幅指令値が前記第1閾値以下の場合、前記第6比較器の出力を出力し、それ以外の場合は前記第5比較器の出力を出力する第2スイッチと、前記位相信号が3/4のときのみ切り替えが行われ、前記各ユニット内の前記ゲート閾値のうちどちらかが3/2nのとき、かつ、前記出力電圧振幅指令値が前記第1閾値以下の場合、前記第5比較器の出力を出力し、それ以外の場合は前記第6比較器の出力を出力する第3スイッチと、前記第2スイッチの出力と前記第3スイッチの出力にデッドタイムを付加してゲート信号を生成するデッドタイム処理器と、を備えたことを特徴とする。
【0031】
また、その一態様として、前記台形波は、三角波を±1/n(n=ユニット台数)以内に制限し、位相信号の小数点以下の数値θ’が1/4<θ’<3/4の場合では制限した三角波に−1/nを加算し、それ以外の場合では1/nを加算し、1/6<θ’<1/3,2/3<θ’<5/6の場合では0とする波形であることを特徴とする。
【0032】
また、その一態様として、前記出力電圧振幅指令値が第2閾値よりも小さいとき、零から最も離れた2つの前記ゲート閾値に係数α(α>1の係数)を乗算し、前記零から最も離れた2つのゲート閾値の絶対値を前記電圧指令値の振幅よりも大きな値に変動させることを特徴とする。
【0033】
また、その一態様として、前記第2閾値より小さい第3閾値より、前記出力電圧振幅指令値が小さいとき、零から最も離れた4つの前記ゲート閾値にα(α>1の係数)を乗算し、前記零から最も離れた4つのゲート閾値の絶対値を前記電圧指令値の振幅よりも大きな値に変動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、直列多重インバータ装置において、出力電圧の大きさに応じて、出力電圧の歪みを低減する制御と、スイッチング損失を低減する制御とを切り替えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本願発明は、出力電圧および出力電流の高調波を低減、もしくは高調波が十分小さい場合には少しだけ増加を許容しスイッチング損失を低減し、かつ損失による熱責務を各ユニット・各スイッチング素子で均等化する技術である。
【0037】
以下、本願発明における直列多重インバータ装置の実施形態1〜3を
図1〜
図15に基づいて詳述する。
【0038】
[実施形態1]
本実施形態1は、
図15に示す直列多重インバータ装置を例として説明する。まず、
図15に示す直列多重インバータ装置の構成について説明する。
【0039】
図15に示すように、本実施形態1における直列多重インバータ装置は、6つの第1〜第6ユニット10a〜10fを備える。第1ユニット10aは直流電源にスイッチング素子U1,X1が直列接続され、スイッチング素子U1,X1に対して並列にスイッチング素子V1,Y1が直列接続される。スイッチング素子U1,X1の共通接続点とスイッチング素子V1,Y1の共通接続点との間を第1ユニット10aの出力電圧Vo1とする。第2〜第6ユニット10b〜10fも同様である。このように、各ユニットは単相インバータの構成をとっている。
【0040】
第1〜第6ユニット10a〜第10fは、直列に多重接続され、合計出力電圧はVoとなる。
【0041】
図1に本実施形態1のパルス幅変調回路のブロック図を示す。
図1は
図15に示すユニットを6多重接続した装置に適用することを想定する。nをユニット台数(ここでは、n=6)、kをインバータユニット番号(1〜6)とする。
【0042】
正弦波生成部1は、出力電圧振幅指令値V*と位相信号θを入力し、振幅V*,位相θの正弦波(V*cosθ)を出力する。出力電圧振幅指令値V*は、固定値の場合や、出力電圧や出力電流を指令値通りにするフィードバック制御によって得られる場合がある。位相信号θは、出力すべき電圧の1周期において0から1(0deg→360deg)にランプアップする信号を想定している。位相信号θは固定の傾きでランプアップする信号の場合や、PLLにより装置が接続する系統の電圧に同期した信号として与えられる場合がある。
【0043】
台形波生成部2は、同じく、出力電圧振幅指令値V*と位相信号θを入力し、対応する台形波を出力する。この台形波生成部2については後述する。
【0044】
第1比較器3は、V*>Vthcであるか否かを判定し、V*>Vthcのとき1を出力し、V*≦Vthcのとき0を出力する。Vthcは動作モードを切り替えるための第1閾値である。
【0045】
第2比較器4は、位相信号θ=3/4(位相270deg,3π/2radに相当)であるか否かを判定し、θ=3/4のとき1を出力し、θ≠3/4のとき0を出力する。第1ホールド器5は、位相信号θ=3/4の場合だけ第1比較器3の出力を更新・出力し、θ≠3/4ならば前回の第1比較器3の出力を出力する。第1スイッチSW1は、第1ホールド器5の出力を入力し、第1ホールド器5の出力が1ならば正弦波を出力し、第1ホールド器5の出力が0ならば台形波を出力する。第1スイッチSW1の切り替えは、第1ホールド器5によりθ=3/4の場合のみ行われる。第1スイッチSW1の出力が電圧指令値Vrefとなる。
【0046】
乗算器6は、位相信号θを1/2n倍し、出力電圧基本波の2n周期で0から1にランプアップする入力信号pを出力する。(入力信号pは、
図4の各波形の横軸に対応する。)入力信号pは各ユニットごとに2つずつ生成される。本実施形態1は、n=6であり乗算器6のゲインは1/12である。
【0047】
加算器7a〜7lは、各入力信号pにオフセット値(k−1)/2n,1/2+(k−1)/2nを加算する。
【0048】
ユニットを6多重接続した構成において、第1ユニット10aならば、n=6,k=1のためオフセット値は0,1/2となる。第2ユニット10bならば、k=2のためオフセット値は1/12,7/12である。
【0049】
テーブル8は、オフセット値が加算された入力信号pを入力し、対応したゲート閾値を出力する。(例:
図3のゲート閾値Vth1a,Vth1b)。第1ユニット10aに対応したゲート閾値はVth1a,Vth1bである。
【0050】
第1ゲート生成器9aは、電圧指令値Vref,ゲート閾値Vth1a,Vth1b,第1,第2比較器3,4の出力を入力し、ゲート信号GU1,GX1,GV1,GY1を出力する。同様に、第2〜第6ゲート生成器9b〜9fは、第2〜第6ユニット10b〜10fに対応したゲート信号を出力する。
【0051】
第1ゲート生成器9aについて説明する。第3比較器11aは、ゲート閾値Vth1aが3/2nであるとき1を出力し、それ以外のとき0を出力する。第4比較器11bは、ゲート閾値Vth1bが3/2nであるとき1を出力し、それ以外のとき0を出力する。ここでは、n=6であり3/2n=1/4である。
【0052】
OR素子12は、第3,第4比較器11a,11bの出力を入力し、Vth1a,Vth1bどちらかが3/2n=1/4であれば1を出力する。AND素子13は、OR素子12の出力と第1比較器3の出力(V*>Vthc比較結果)を反転した信号を入力し、両方1の場合は1を出力し、少なくとも一方が0の場合は0を出力する。
【0053】
第2ホールド器14は、θ=3/4の場合だけAND素子13の出力を更新し、θ≠3/4ならば以前のAND素子13の出力を保持する。第2ホールド器14の出力が1となる条件は、直前のθ=3/4だった時刻において、ゲート閾値Vth1a,Vth1bどちらかが3/2n=1/4、かつ、V*≦Vthc、の両方が成立する場合である。
【0054】
減算器15a,15bは、電圧指令値Vrefとゲート閾値Vth1a,Vth1bとの差をそれぞれ演算する。第5比較器16aは、減算器15aの出力を入力し、Vref>Vth1aのとき1を出力し、Vref≦Vth1のとき0を出力する。第6比較器16bは、減算器15bの出力を入力し、Vref<Vth1bのとき1を出力し、Vref≧Vth1bのとき0を出力する。この第5比較器16aと第6比較器16bの出力を、ゲート指令と称する。
【0055】
第2スイッチSW2は、第2ホールド器14の出力が1ならば第6比較器16bの出力を、0ならば第5比較器16aの出力をデッドタイム処理器17aに出力する。第3スイッチSW3は、第2ホールド器14の出力が1ならば第5比較器16aの出力を、0ならば第6比較器16bの出力をデッドタイム処理器17bに出力する。
【0056】
デッドタイム処理器17a,17bは、第2,第3スイッチSW2,SW3の出力を入力とし、デッドタイムを付加して、スイッチング素子U1、X1用のゲート信号GU1,GX1とスイッチング素子V1、Y1用のゲート信号GV1,GY1を生成する。
【0057】
第2ホールド器14の出力が0の場合、第2,第3スイッチSW2,SW3は上側にオンするため、第5比較器16aの出力がU相,X相のスイッチング素子(U1、X1)用のゲート指令となる。同様に、第6比較器16bの出力がV相,Y相のスイッチング素子(V1、Y1)用のゲート指令となる。
【0058】
第2ホールド器14が1となる条件(すなわち、θ=3/4の時にゲート閾値Vth1a,Vth1bどちらかが3/2n=1/4、かつ、V*≦Vthcの場合)では、第2,第3スイッチSW2,SW3は下側にオンするため、第5比較器16aの出力がV相,Y相のスイッチング素子用のゲート指令となる。同様に、第6比較器16bの出力がU相,X相のスイッチング素子用のゲート指令となる。
【0059】
このゲート指令の入れ替え動作によって、ゲート信号GU1とゲート信号GV1が入れ替わる。ゲート信号GX1とゲート信号GY1も同じ条件で入れ替わる。
【0060】
図2に本実施形態1に用いられる台形波生成部2の一例を示す。この台形波生成部2も
図15に示すユニットを6多重接続した装置に適用することを想定している。
【0061】
整数抽出部intは、位相信号θの小数点以下を切り捨てた信号を出力する。減算器18は、位相信号θと整数抽出部intの出力との偏差(位相信号θの小数点以下の数値)θ’を演算する。θ’は、0〜1の間で変化するノコギリ波となる。
【0062】
三角波生成器19は、ノコギリ波θ’を入力し、3倍の周波数の三角波を出力する。テーブル20は、出力電圧振幅指令値V*を入力し、対応した台形波の振幅を出力する。乗算器21は、三角波生成器19の出力とテーブル20の出力の積である三角波Vaを求める。リミッタ22は、三角波Vaを±1/nに制限し、Vbとして出力する。本実施形態1はユニットを6多重接続した構成(n=6)であるため、制限値は±1/6である
比較器23aは、θ’>1/4であるとき1を出力し、θ’≦1/4のとき0を出力する。比較器23bは、θ’<3/4であるとき1を出力し、θ’≧3/4のとき0を出力する。AND素子24は、比較器23a,23bの出力を入力し、1/4<θ’<3/4が成立した場合に1を出力し、それ以外のとき0を出力する。
【0063】
第4スイッチSW4は、AND素子24の出力を入力し、1/4<θ’<3/4が成立した場合に−1/nを、不成立の場合は1/nを出力する。本実施形態1はユニットを6多重接続した構成であるため、第4スイッチSW4の出力は1/4<θ’<3/4が成立した場合は−1/6、不成立の場合は1/6である。
【0064】
加算器25は、リミッタ22の出力Vbと第4スイッチSW4の出力を足し合わせ、Vcとして出力する。
【0065】
比較器26aは、θ’>1/6であるとき1を出力し、θ’≦1/6のとき0を出力する。比較器26bは、θ’<1/3であるとき1を出力し、θ’≧1/3のとき0を出力する。比較器26cは、θ’>2/3であるとき1を出力し、θ’≦2/3のとき0を出力する。比較器26dは、θ’<5/6であるとき1を出力し、θ’≧5/6のとき0を出力する。
【0066】
AND素子27aは、比較器26a,26bの出力を入力し、1/6<θ’<1/3が成立した場合に1を出力し、不成立の場合0を出力する。AND素子27bは、比較器26c,26dの出力を入力し、2/3<θ’<5/6が成立した場合に1を出力し、不成立の場合0を出力する。
【0067】
OR素子28は、AND素子27a,27bの出力を入力し、1/6<θ’<1/3または2/3<θ’<5/6が成立した場合に1を出力する。
【0068】
第5スイッチSW5は、OR素子28の出力を入力し、1/6<θ’<1/3または2/3<θ’<5/6が成立した場合に0を、不成立の場合には加算器25の演算結果Vcを出力する。
【0069】
本実施形態1は、出力電圧振幅指令値V*が大きいときは従来技術と同じ動作をするが、出力電圧振幅指令値V*が小さいときは特許文献2のようにスイッチング回数を増加し、3次高調波を抑制する動作に切り替える。
【0070】
ただし、特許文献2のようにユニットを2組に分けることはせず、電圧指令値Vrefの波形成形で実現することにより、ユニット責務均等化を併用できるようにした。
【0071】
図3はユニット責務均等化の技術を示す電圧指令値とゲート閾値Vth1a,Vth1bである。ユニット責務均等化では、ゲート閾値はすべて異なる値をとり、各ユニット,各スイッチング素子の損失が均一になるように周期的にゲート閾値を切り換える。
図3では、電圧指令値Vrefの12周期が、ゲート閾値の切り換えの1周期となっている。(このゲート閾値の切り換え周期は、電圧指令値Vrefの周期の整数倍とする。)また
図3からわかるように、各ゲート閾値は少なくとも電圧指令値Vrefの半周期の間一定の値をとっている。
【0072】
図4に本実施形態1を適用したときのゲート信号、出力電圧波形を示す。
図4では、代表して第1ユニット10a内のスイッチング素子U1,X1、V1、Y1用のゲート信号GU1、GX1、GV1、GY1を載せている。
図4では途中から出力電圧振幅指令値V*が減少し、V*<Vthcを満たすようになり、電圧指令値Vrefは正弦波から台形波に切り替わる様子を示している。電圧指令値Vrefが台形波に切り替わる直前で、ゲート閾値Vth1aが1/4になり、その後、台形波の電圧指令値Vrefと交差している。このとき、
図1の第2スイッチSW2,第3スイッチSW3が下側にオンすることによりスイッチング素子U1,X1用のゲート指令とスイッチング素子V1,Y1用のゲート指令が入れ替わる。そのため、ゲート閾値Vth1aと電圧指令値Vrefが交差すると、ゲート信号GV1,GY1が変化し、ゲート閾値Vth1bと電圧指令値Vrefが交差するとゲート信号GU1,GX1が変化する。その結果、出力電圧Vo1は電圧指令値Vrefが台形波に切り替わった直後は電圧指令値Vrefとは逆極性で出力される(
図4のB部)。
【0073】
その次の周期ではゲート閾値Vth1a≠1/4のため、第2,第3スイッチSW2,SW3が上側にオンし、第2,第3スイッチSW2,SW3によるゲート指令の入れ替えが無効になる。そのため、出力電圧Vo1と電圧指令値Vrefが同極性になる(
図4のA部)。
【0074】
第2ユニット10bの出力電圧Vo2を見ると、電圧指令値Vrefが台形波に切り替わった直後の電圧指令値Vrefと同極性(
図4のC部)、出力電圧Vo1とは逆極性である。出力電圧Vo1〜Vo6の合計出力電圧Voはプラス側のパルスが2つ、マイナス側のパルスが2つ出力される(
図4のD部)。このパルスが互いに60degの位相差となり、特許文献2と同様に3次高調波電圧を打ち消し合い電圧歪みを低減することができる。
【0075】
矩形波に含まれる高調波の振幅を検討する。検討対象の波形を
図5に示す。この波形は以下の(1)式で表される。
【0077】
aはパルス幅であり0〜1の間で変化し、0ならば矩形波は常に零となる。1ならば矩形波は零とならず、Vと−Vが50%ずつを占める。
【0078】
矩形波のフーリエ級数展開を行う。n次高調波は以下の(2)式となる。
【0080】
図6にV=1としたときの基本波振幅|a
1|,3次高調波振幅|a
3|,5次高調波振幅|a
5|を示す。パルス幅aが零に近づくほど高調波の振幅は減少するが、基本波の振幅も減少する。3次高調波の場合、a=2/3、パルス幅120degで振幅が零になる。
【0081】
図7に基本波に対する3次高調波の含有率|a
3/a
1|,5次高調波の含有率|a
5/a
1|を示す。3次についてはパルス幅a=0.5を下回ると含有率が33.3%を超える。そのため、パルス幅が狭くなると電圧波形の3次による歪みが目立つようになる。
【0082】
次に、60deg位相のずれた3次高調波を重ね合わせた場合を検討する。2つの3次高調波の振幅はV
3と等しく設定し、片方の波形を1/6周期ずらしながら加算する。結果を以下の(3)式に示す。
【0084】
3次高調波は零になる。そのため、同じ振幅・幅のパルスを60degずらして2つ出力して加算することにより、互いの3次高調波を打ち消し合わせ零にすることができる。
【0085】
次に、損失責務均等化について説明する。本実施形態1は特許文献2とは異なり、ユニットを組に分けず、電圧指令値Vrefの波形の切り替えで動作モードの変更を行う。これにユニット責務均等化の技術を適用し、ゲート閾値を周期的に切り換えると、すべてのユニットが電圧指令値Vrefと同極性の幅の広いパルス出力(第1ユニット10aでは、
図4のA部)を電圧指令値Vrefの6周期に5回ずつと、電圧指令値Vrefとは逆極性の幅の狭いパルス出力(第1ユニット10aでは、
図4のB部)を電圧指令値Vrefの6周期に1回ずつ出力することになり、ユニットの責務を均等にすることができる。
【0086】
図4では第2ユニット10bだけが電圧指令値Vrefと逆極性のパルスを出力しないが、
図4に示す周期内では出力されないだけで、次の周期において逆極性のパルスを出力することになる。
【0087】
電力責務均等化についても同様である。ユニット責務均等化の技術の適用により、すべてのユニットが1周期ずつのずれはあるが6周期間で同じ電圧波形を出力する。6周期間の電流波形が同じであれば、電力責務も均一になる。
【0088】
ただし、装置全体で有効電力を出力する場合、電圧指令値Vrefとは逆極性の電圧を出力するユニットは有効電力の回生を起こすことになる。しかし、責務均等化機能により回生は6周期のうち1周期だけとなり、回生を起こした次の周期は有効電力を出力する動作になる。そのため、ユニットの直流電源に交流入力電源への電力回生機能がない整流器を使用する場合でも、回生を続けて直流電圧が異常に上昇することはなく、直流電圧の脈動が少し増加するだけとなる。
【0089】
ユニット責務均等化の技術を本実施形態1に適用するに当たっての変更点について説明する。ゲート閾値Vth1a,Vth1bをテーブル8から呼び出し、各ゲート生成器9a〜9fに出力する部分は、ユニット責務均等化の技術をユニット6台に拡張しただけである。
【0090】
ゲート生成器9a〜9fは、直前の位相信号θ=3/4だった時刻において、ゲート閾値Vth1a,Vth1bどちらかが零から2番目に大きな値(3/2n、ここでは1/4)の場合、かつ、出力電圧振幅指令値V*が第1閾値Vthcよりも小さい場合(V*<Vthc)、U相、X相用のゲート指令とV相、Y相用のゲート指令を入れ替える機能を追加した。
【0091】
これにより、電圧指令値Vrefとは逆極性の電圧を出力することができる。その結果、電圧指令値Vrefと同極性の電圧を出力する他のユニットとの合計出力電圧Voとして、互いに位相が60degずれた2つのパルスを出力することができる。
【0092】
本実施形態1において、不要なスイッチングが発生しないことを説明する。電圧指令値Vrefの波形切り替えは、必ず、位相信号θ=3/4(270degに相当)の場合のみ行われる。このとき、正弦波・台形波ともに零であり、切り替えを行っても電圧指令値Vrefは連続する。そのため、電圧指令値Vrefの波形切り替えのタイミングでスイッチングは発生しない。
図4においても正弦波から台形波に切り替わるタイミングですべてのユニットはスイッチングを行わないことを確認できる。
【0093】
ゲート閾値Vth1a,Vth1bなどの変化タイミングについてであるが、電圧指令値Vrefが台形波であってもゲート閾値の変化前・変化後の値が両方ともプラスの場合において、電圧指令値Vrefがマイナス側ピーク時にゲート閾値を変化させる(例:
図4のE点)。変化前・変化後の片方がマイナスの場合においては、電圧指令値Vrefがプラス側ピーク時にゲート閾値を変化させる(例:
図4のF点)。
【0094】
このため、ゲート閾値が変化しても電圧指令値Vrefと交差することがない。
図4においてもゲート閾値Vth1aなどが変化する際に電圧指令値Vrefとの交差点がなく、スイッチングが行われないことを確認できる。
【0095】
また、この方式では
図1に示す第2,第3スイッチSW2,SW3を追加し、ゲート信号GU1,GX1用とゲート信号GV1,GY1用のゲート指令の入れ替えを行う。このタイミングは、必ずθ=3/4(270degに相当)の場合のみである。このとき電圧指令値Vrefは必ず零になる。
【0096】
位相信号θ=3/4において、ゲート閾値Vth1aとゲート閾値Vth1bは必ず符号が異なる。Vth1a>0ならばVth1a>Vref、かつ、Vth1b<Vrefが成立し、Vth1a<0ならばVth1a<Vref、かつ、Vref<Vth1b成り立つ。
【0097】
そのため、第5,第6比較器16a,16bの出力は必ず両方とも同じである。この条件下では第2,第3スイッチSW2,SW3を切り替えても後段のデッドタイム処理器17a,17bへの入力信号は変化しないため、ゲート信号指令の変化は発生せず、スイッチングは行われない。
【0098】
以上のように、本実施形態1において不要なスイッチングが発生しないため、スイッチング損失は特許文献2などの従来技術と同等であり、損失は増加しない。
【0099】
図2の台形波生成部2について説明する。
図8に台形波生成部2の各波形を示す。最初に位相信号θ(基本波1周期で0から1にランプアップする信号)の小数点部分を抽出し、基本波と同じ周期で0〜1の変化を繰り返すノコギリ波θ’を生成する。
【0100】
次に、三角波生成器19およびテーブル20により基本波の3倍の周波数となる三角波Vaを生成する。また、ここでの三角波Vaの振幅は、出力電圧振幅指令値V*に対応したテーブル20の値となる。この三角波Vaを±1/n(ここでは±1/6)でリミットした波形Vbを生成する。
【0101】
この波形Vbに対して、1/4<θ’<3/4ならば−1/nを加算、そうでなければ1/nを加算し、波形Vcを得る。台形波生成部2の出力Vdは1/6<θ≡<1/3、または、2/3<θ’<5/6ならば零、異なれば波形Vcとなる。
【0102】
こうして得られた台形波の特徴として、θ’=1/12,5/12,7/12,11/12において必ず±1/n(ここでは±1/6)となることが挙げられる。ゲート閾値Vth1aなど電圧指令値Vrefと比較するゲート閾値のうち零に近い2つは1/2n,3/2n(ここでは1/12,1/4)であり、この2つの中間の値が1/nである。そのため合計出力電圧Voのパルスは必ずθ’=1/12,5/12,7/12,11/12が中心となり、合計出力電圧Voが負となるパルスの位相差Δθ1’と合計出力電圧Voが正となるパルスの位相差Δθ2’は、それぞれ、以下のようになる。
Δθ1’=7/12−5/12=1/6,
Δθ2’=1/12−11/12=−1/6
このΔθ1’、Δθ2’は±60degに相当するため、2つのパルスは必ず3次高調波を打ち消しあう。
【0103】
台形波生成部2では、三角波Vaの振幅が大きくなると、合計出力電圧Voのパルス幅は狭くなり出力電圧は逆に小さくなる。この状態を
図9に示す。そのためテーブル20を用いて出力電圧振幅指令値V*の電圧が出力できるよう台形波Vdの振幅を調整する必要がある。
【0104】
テーブル20の生成方法であるが、
図2のブロックの手順に従い生成される波形を数値計算しフーリエ級数展開を行い、出力電圧振幅指令値V*と出力波形に含まれる基本波成分の関係を調べる方法が考えられる。もちろんシミュレーションや実験により入力の出力電圧振幅指令値V*と出力波形に含まれる基本波成分の関係を調べてもよい。
【0105】
三角波Vaの振幅が1/nを下回ると、Vdは台形波ではなくなる。この状態を
図10に示す。しかし、この場合でも得られる合計出力電圧Voは位相が60degずれた2つのパルスとなり正常に動作する。パルス幅は
図8のものよりも広くなるため、出力電圧を増加する場合はこの状態を使用する。
【0106】
ただし、三角波Vaの振幅が1/2nを下回るとVdは閾値±3/2n(ここでは±1/4)とは交差しなくなり、合計出力電圧Voは幅120degのパルスが1つだけ出力され、3次高調波を抑制する動作は正常に動作しなくなる。そのため、三角波Vaの振幅が1/2nを下回らないように上記テーブル20の値を設定する必要がある。
【0107】
以上示したように、本実施形態1によれば、簡素な制御構成で、出力電圧が非常に小さい場合(V*<Vthc)、電圧指令値Vrefを台形波とし、スイッチングを増加して3次高調波を打ち消し、出力電圧歪み率を低減することができる。
【0108】
出力電圧がある程度大きい場合(V*≧Vthc)、電圧指令値Vrefを正弦波とし、従来のスイッチングを増加しない運転モードになり、3次高調波を打ち消す制御を止め、スイッチング損失の増加を抑制する。これは、運転モードの切り替え時に不要なスイッチングを行わないため、スイッチング損失増加を最小限に抑えることができる。
【0109】
また、出力電圧が小さい時に出力電圧歪み率の低減を優先させ、出力電圧が大きい時に損失低減を優先させる運転を、ユニット責務の均等を保ちながらできる。
【0110】
[実施形態2]
図11に本実施形態2におけるパルス幅変調回路のブロック図を示す。
図11は実施形態1同様、
図15に示すユニットを6直列多重接続した装置に適用することを想定する。
【0111】
図11は第1ユニット10aの制御ブロックのみを抽出して示しているが他のユニットについても同様である。
【0112】
テーブル29は、出力電圧振幅指令値V*を入力し、振幅の補正を行う。テーブル29の出力は、正弦波生成部1に出力される。
【0113】
比較器30は、出力電圧振幅指令値V*が第2閾値Vthd1よりも小さいとき1を出力し、それ以外のとき0を出力する。第3ホールド器34は位相信号θ=3/4の場合だけ比較器30の出力を更新・出力し、θ≠3/4ならば前回の比較器30の出力を出力する。
【0114】
絶対値演算部ABS1,ABS2は、ゲート閾値Vth1a,Vth1bの絶対値を演算する。比較器31a,31bは、絶対値演算部ABS1,ABS2の出力が(2n−1)/2n(ここでは11/12)であるとき1を出力し、それ以外のとき0を出力する。AND素子32a,32bは、比較器31a,31bと第3ホールド器34の論理積を出力する。
【0115】
第6,第7スイッチSW6,SW7は、AND素子32a,32bの出力が1ならばα(1より大きい所定の係数)を出力し、AND素子32a,32bの出力が0ならば1を出力する。乗算器33a,33bは、第6スイッチSW6の出力とゲート閾値Vth1aの積,第7スイッチSW7の出力とゲート閾値Vth1bとの積を演算し、Vth1a’,Vth1b’として出力する。
【0116】
Vth1a’は、直前の位相信号θ=3/4だった時刻においてV*<Vthd1が成立し、かつ、現在|Vth1a|=11/12ならばαVth1aとなる。それ以外ならばVth1a’=Vth1aである。αVth1aの絶対値は電圧指令値Vrefの振幅よりも大きな値となる。
【0117】
Vth1b’も同様であり、直前の位相信号θ=3/4だった時刻においてV*<Vthd1が成立し、かつ、現在|Vth1b|=11/12ならばαVth1bとなる。αVth1bの絶対値は電圧指令値Vrefの振幅よりも大きな値となる。
【0118】
本実施形態2は実施形態1に加えて、出力電圧がある程度大きい場合にスイッチング損失を低減する機能を追加したものである。この機能は、出力電圧振幅指令値V*が第2閾値Vthd1よりも小さい場合、ゲート閾値のうち最も零から離れた2つのゲート閾値をさらに零から遠ざけることにより、電圧指令値Vrefと交差しないようにしたものである。
【0119】
図12に本実施形態2を適用することで得られる出力電圧波形を示す。グラフの途中からV*<Vthd1が成立し、ゲート閾値Vth1a,Vth1bなどのゲート閾値は最も零から離れた値(ここでは±11/12)となる場合(つまり、ゲート閾値の絶対値が最大となる場合)に係数α(α>1)が乗算され、さらに零から離れる。
【0120】
これにより、ゲート閾値に係数αを乗じたユニットでは、ゲート閾値が電圧指令値Vrefと交差しなくなり、6台のユニットのうち1台は出力電圧が零になりスイッチングを停止する。その結果、損失を低減することができる。合計出力電圧Voは13レベルから11レベルになる。
図12では、Vo5、Vo4、Vo3、Vo2、…、の順にスイッチング停止期間がある。
【0121】
合計出力電圧Voのピークは小さくなるが、その分、電圧指令値Vrefの振幅を増加させることで5台のユニットの出力電圧パルス幅を増加させ、合計出力電圧Voの基本波振幅の大幅な低下を抑制している。
【0122】
合計出力電圧Voは正弦波から台形波に近くなり含まれる高調波も増加する。しかし、基本波の振幅が十分大きいため歪み率の増加はわずかであり、
図15のようにある程度の容量のリアクトルLとコンデンサCの容量をもつフィルタを接続すれば、フィルタの出力段の電圧(つまり負荷電圧)の歪み率を低く抑えることができる。
【0123】
本実施形態2はV*<Vthd1が成立する限りスイッチングするユニットを5台以下にする。第2閾値Vthd1として大きな値を設定すれば5台以下で運転する出力電圧振幅指令値V*の範囲が広がり、スイッチング損失低減効果が大きくなる。しかし、合計出力電圧Voに重畳する歪み(高調波)も大きくなる。第2閾値Vthd1の設定に当たっては、合計出力電圧Voの歪み率が許容値を超えない範囲でできる限り大きな値を設定する必要がある。
【0124】
Vth1d≦V*の場合は実施形態1と同様、6台のユニットがスイッチングを行う。出力電圧振幅指令値V*が増加すると、ゲート閾値は自動的に係数αを乗じない値に戻り、必要な電圧を出力することができ、応答速度にもほとんど影響を与えない。
【0125】
本実施形態2では、
図12に示すようにV*<Vthd1の成立前と後で電圧指令値Vrefの振幅が増加するが、逆に合計出力電圧Voの基本波振幅は減少する。このためテーブル29を使用し、出力電圧振幅指令値V*どおりの出力電圧Voが得られるよう、電圧指令値Vrefを調整する必要がある。テーブル29は、実施形態1の台形波生成部2と同様に、数値計算やシミュレーション、実験などにより電圧指令値Vrefと合計出力電圧Voの振幅の関係を調べることで生成できる。
【0126】
本実施形態2では、ゲート閾値Vth1a,Vth1bの値を調べ、V*<Vthd1が成立するときにゲート閾値Vth1a,Vth1bの値を変更するだけで上記機能を実現している。そのため、ゲート閾値Vth1a,Vth1bの値を変更する機能を追加すればユニット責務均等化技術をそのまま適用することができる。
図12の波形ではユニット責務均等化も行っているが、V*<Vthd1が成立している場合において休止しているユニットが1周期ごとに変化している。
図12では、Vo5、Vo4、Vo3、Vo2、…、の順にスイッチング停止期間があり、ユニット休止をしている。
【0127】
本実施形態2ではユニット責務均等化とスイッチング損失低減を両立することができる。V*<Vthd1の判定はθ=3/4(電圧指令値Vrefの零クロス)で行われるため、このときにゲート閾値を変更しても電圧指令値Vrefとの交点は生じず、不要なスイッチングは発生しない。
【0128】
以上示したように、本実施形態2によれば、実施形態1の作用効果に加えて出力電圧が十分大きい場合において、スイッチングするユニットを1台少なくすることができ、スイッチング損失をさらに低減することができる。(ただし、出力電圧の歪みは実施形態1よりも増加する。)
出力電圧が不足する条件では、これまで通りすべてのユニットが運転するため、本実施形態2を適用しても、実施形態1と同様に電圧を出力でき応答速度にも影響を与えない。また、ユニット責務均等化の効果をそのまま得ることができる。
【0129】
[実施形態3]
図13に本実施形態3におけるパルス幅変調回路のブロック図を示す。本実施形態3も
図15に示すユニットを6多重接続した装置に適用することを想定する。
図13は、第1ユニット10aの制御ブロックのみを抽出して示している。
【0130】
比較器35は、出力電圧振幅指令値V*が第3閾値Vthd2よりも小さいとき1を出力し、それ以外のとき0を出力する。ここで、Vthd2<Vthd1とする。第4ホールド器36は、位相信号θ=3/4の場合だけ、比較器35の出力を更新・出力し、θ≠3/4ならば前回の比較器35の出力を出力する。
【0131】
比較器37a,37bは、絶対値演算部ABS1,ABS2の出力が(2n−3)/2n(ここでは3/4)であることを検出する。AND素子38a,38bは、比較器37a,37bの出力と第4ホールド器36の出力の論理積を出力する。
【0132】
第8,第9スイッチSW8,SW9は、AND素子38a,38bの出力が1ならばα(1より大きい所定の係数)を出力し、AND素子38a,38bの出力が0ならば1を出力する。乗算器39a,39bは、第8,第9スイッチSW8,SW9の出力とゲート閾値Vth1a,Vth1bとの積を演算する。乗算器33a,33bは、乗算器39a,39bの出力に、第6,第7スイッチSW6,SW7の出力を乗算し、Vth1a’,Vth1b’とする。
【0133】
本実施形態3は、実施形態2を拡張し、ゲート閾値のうち最も零から離れた4つのゲート閾値をさらに零から遠ざけるものである。V*<Vthd2が成立する場合にはユニットの運転台数を4台以下にすることでスイッチング損失をより小さくした方式である。
【0134】
図14に本実施形態3を適用することで得られる出力電圧波形を示す。波形の途中からV*<Vthd2が成立すると、零から離れた4つのゲート閾値(ここでは±11/12,±3/4)に係数α(α>1)が乗算され、さらに零から離れ、電圧指令値Vrefの振幅よりも大きくなる。6台のユニットのうち2台は出力電圧が零になりスイッチングを停止する。その結果、損失を低減することができる。合計出力電圧Voは9レベルになる。
【0135】
本実施形態3はV*<Vthd2が成立する場合はスイッチングするユニットが4台以下になる。第3閾値Vth2dを大きくすれば4台以下で運転する出力電圧振幅指令値V*の範囲が広がりスイッチング損失低減効果が大きくなる。しかし、合計出力電圧Voのレベル数が実施形態2よりも少なくなるため、合計出力電圧Voに重畳する歪み(高調波)は実施形態2よりも大きくなりやすい。第3閾値Vthd2の設定に当たっては大きすぎる値を設定しないよう、第2閾値Vthd1よりも注意する必要がある。
【0136】
Vthd2<V*<Vthd1の範囲では、実施形態2と同じ動作となり、スイッチングするユニットは5台となる。Vth1d<V*では、6台のユニットがスイッチングを行う点も、実施形態2と同じである。
【0137】
また、本実施形態3をさらに拡張し、スイッチングするユニットをさらに少なくすることも可能である。しかし、スイッチングするユニットが少なくなれば合計出力電圧Voのレベル数もさらに下がり、合計出力電圧Voは歪みやすくなる。歪みを抑えようとすると、運転モードを変更するための閾値をあまり大きな値に設定できず、スイッチング損失低減効果がほとんど得られないおそれがある。
【0138】
以上示したように、本実施形態3によれば、出力電圧が十分大きい場合において、可能であればスイッチングするユニットを2台少なくすることができ、スイッチング損失をさらに低減することができる。(ただし、出力電圧の歪みは実施形態1、2よりも増加する。)
また、本実施形態3においても、ユニット責務均等化の効果をそのまま得ることができる。
【0139】
実施形態1,2,3は
図15に示すように、ユニットを6多重接続した装置に適用することを想定している。しかし、ユニットの多重数が異なる場合でも適用することができる。この場合、nを多重数としてブロックの設定値を変更し、ユニット台数にあわせてブロックを拡張または除去すればよい。
【0140】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。