(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上下に重ねられた上側金属板および下側金属板における、隙間を有する重ね合せ部にレーザビームを照射して部分的な溶接部を形成することにより、当該上側金属板と当該下側金属板とを溶接するレーザ溶接方法であって、
レーザビームの焦点が上記下側金属板よりも下側に位置するように、上記上側金属板の上方から当該上側金属板および当該下側金属板に対してレーザビームを照射することで、当該上側金属板における溶融して下方に凹むレーザ照射部と、当該下側金属板における熱膨張して上方に膨らむレーザ照射部とを連結して上記溶接部を形成することを特徴とするレーザ溶接方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば車体のルーフやピラー等では、重ねられた金属板同士を、両者の重ね合せ部に適宜の間隔を開けて点状にレーザビームを照射することにより形成される溶接部によって連結することが行われている。
【0003】
もっとも、溶接対象たる金属板同士における重ね合せ部には不可避的に隙間が生じ、しかも、かかる隙間の大きさにはばらつきがあることから、重ね合せ部における隙間が相対的に大きい場合には、溶接部における溶融金属量が不足するため、溶接部に欠陥が生じるおそれがある。
【0004】
このような溶接部の欠陥は、主に接合強度に影響を与え、その程度に応じて手直しが必要となるため、生産性を低下させる原因となり得る。また、近年、自動車用のプレス成形品では軽量化による燃費向上を図るため薄肉化が進んでおり、薄肉の金属板をプレス成形することで発生する皺により、重ねられた金属板同士の間に隙間が生じ易くなっている。このため、重ねられた金属板同士の間に隙間がある場合でも、接合強度を確保するニーズが高まっている。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、溶接部に金属板同士を溶接可能な高入熱量のレーザビームを照射する本溶接工程と、この本溶接工程におけるレーザビームの照射範囲の外周部に本溶接工程よりも照射深さが浅いレーザビームを照射する補熱工程と、を有するレーザ溶接方法が開示されている。
【0006】
この特許文献1のものでは、本溶接工程におけるレーザビームの照射範囲の外周部にレーザビームを照射して溶接部における溶融金属量を確実に増加させることで、レーザ溶接による溶接不良を抑制することができるとされている。
【0007】
また、特許文献2には、焦点を外したデフォーカス状態で1回目のレーザ照射を行い、レーザ照射側の上板(上側金属板)を溶融させて下板側に凹ませた上で隙間を低減し、2回のレーザ照射で下板(下側金属板)の裏側まで貫通して溶接を行うレーザ溶接方法が開示されている。
【0008】
この特許文献2のものでは、1回目のレーザ照射によって隙間が減少もしくは無くなった状態で2回目以降のレーザ照射を行うことで、金属板同士の間に隙間がある場合でも安定したレーザ溶接を行えるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のものでは、本溶接工程で高入熱且つ小集光径で上下の板を貫通させるため、上側金属板が1mmを超える場合でなければ溶融部がスパッタで飛散するおそれがある。さらに、特許文献1のものでは、入熱量を下げた場合でも1mm未満の薄板同士の溶接で且つ板厚に対する隙間の比率が50%を超える場合には、上側金属板の溶融金属が自重で隙間に落下することで上側金属板と離れてしまい、溶け落ちや穴あき等の溶接不良を誘発するおそれがある。
【0011】
また、特許文献2のものでは、デフォーカス状態での1回目のレーザ照射で上板を溶融させ、その自重で隙間を低減し、その後、下板の裏側まで貫通する2回目以降のレーザ照射で上板と下板とをつなぐが、板厚に対する隙間の比率が50%を超えると、薄板の溶融金属で広い隙間を埋めることが困難になるという問題がある。
【0012】
このように、従来のレーザ溶接方法では、金属板同士の間の隙間を上側金属板の溶融金属だけで埋めようとするため、板厚に対する隙間の比率が50%を超えるような場合には、溶融金属量が不足し、安定した品質で金属板同士を溶接することが困難になるという問題がある。
【0013】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、重ねられた金属板同士のレーザ溶接方法において、板厚に対する隙間の比率が50%を超えるような、相対的に隙間が大きい場合でも金属板同士を確実に溶接する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため、本発明に係るレーザ溶接方法では、焦点を下側にシフトさせて上側および下側金属板にレーザビームを照射して、上側および下側金属板に同時並行的に入熱することで、両者のレーザ照射部を互いに接近させるようにしている。
【0015】
具体的には、本発明は、上下に重ねられた上側金属板および下側金属板における、隙間を有する重ね合せ部にレーザビームを照射して部分的な溶接部を形成することにより、当該上側金属板と当該下側金属板とを溶接するレーザ溶接方法を対象としている。
【0016】
そして、上記レーザ溶接方法は、レーザビームの焦点が上記下側金属板よりも下側に位置するように、上記上側金属板の上方から当該上側金属板および当該下側金属板に対してレーザビームを照射することで、当該上側金属板における溶融して下方に凹むレーザ照射部と、当該下側金属板における熱膨張して上方に膨らむレーザ照射部とを連結して上記溶接部を形成することを特徴とするものである。
【0017】
なお、本発明において「部分的な溶接部」とは、上側金属板と下側金属板とを両者の全長に亘ってレーザビームを照射するのではなく、適宜の間隔を開けて点状にレーザビームを照射することで形成される溶融凝固部を意味し、抵抗溶接における溶接ナゲットに相当するものである。
【0018】
この構成によれば、レーザビームの焦点が下側金属板よりも下側に位置するように、上側金属板の上方から上側金属板および下側金属板に対してインフォーカスされたレーザビームが照射されることから、上側金属板および下側金属板には、同時並行的に入熱がなされることになる。しかも、インフォーカスされたレーザビームが照射されるため、上側金属板に照射されるレーザビーム径は、下側金属板に照射されるレーザビーム径よりも大きいので、上側金属板に相対的に小さい入熱量でレーザビームが照射されると同時に、下側金属板に相対的に大きい入熱量でレーザビームが照射されることになる。
【0019】
それ故、上側金属板では、小さな入熱によりレーザ照射部が溶融し、かかる溶融したレーザ照射部が自重により下方に凹むことで隙間が低減される一方、下側金属板では、大きな入熱によりレーザ照射部が熱膨張して上方に膨らむことで隙間がより一層低減されることになる。そうして、溶融して下方に凹んだ上側金属板のレーザ照射部と、熱膨張して上方に膨らんだ下側金属板のレーザ照射部とが接触し、両者が連結されることで部分的な溶接部が形成される。
【0020】
このように、本発明によれば、同時並行的にレーザビームが照射される上側金属板のレーザ照射部と下側金属板のレーザ照射部とが、上下両側から近づいて連結されることで溶接部が形成されることから、上側金属板と下側金属板との隙間が相対的に大きい場合でも、溶融金属量が不足することがなく、恰も隙間を埋めるような溶接部を確実に形成することができる。
【0021】
しかも、上述の如く、上側金属板および下側金属板にはインフォーカスされたレーザビームが照射されることから、相対的に広い溶接部を形成することが可能なので、上側金属板と下側金属板とを強固に溶接することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明に係るレーザ溶接方法によれば、板厚に対する隙間の比率が50%を超えるような、相対的に隙間が大きい場合でも金属板同士を部分的な溶接部にて確実に溶接することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係るレーザ溶接方法によって溶接された、上側鋼板10と下側鋼板20との重ね合せ部1を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、上側鋼板(上側金属板)10と下側鋼板(下側金属板)20とは、共に板厚tを有していて、重ね合せ部1において、隙間Gを有して上下に対向しているとともに、当該隙間Gを埋めるように形成された部分的な溶接部30によって上下に連結されている。
【0026】
なお、「部分的な溶接部」とは、上側鋼板10と下側鋼板20との重ね合せ部1に、全長に亘ってレーザビームLBを照射するのではなく、適宜の間隔を開けて点状にレーザビームLBを照射することで形成される溶融凝固部を意味し、抵抗溶接における溶接ナゲットに相当するものである。
【0027】
ここで注目すべきは、上側鋼板10と下側鋼板20との間の隙間Gの寸法t
Gが、従来限界とされた板厚比(板厚tに対する隙間Gの比率)50%を超えて、1/2t(板厚比50%)<t
G≦t(板厚比100%)であるにもかかわらず、上側鋼板10と下側鋼板20とが穴あき等の溶接不良なく強固に溶接されている点である。以下、このような相対的に大きな隙間Gを有する重ね合せ部1の溶接を可能とする本実施形態のレーザ溶接方法について詳細に説明する。
【0028】
−レーザ溶接装置−
図2は、本実施形態に係るレーザ溶接方法を実施するためのレーザ溶接装置50を模式的に示す概略構成図である。このレーザ溶接装置50は、ワークWから離れた位置でレーザビームLBを照射してレーザ溶接を行うリモートレーザとして構成されている。レーザ溶接装置50は、
図2(a)に示すように、レーザビームLBを出力するレーザ発振器51と、ロボット52と、ファイバケーブル54を介してレーザ発振器51から供給されたレーザビームLBを走査してワークWに照射する3Dスキャナ60と、を備えている。ロボット52は、複数のサーボモータ(図示せず)によって駆動される複数の関節を有する多関節型ロボットであり、制御装置(図示せず)の指令に基づき、先端部に取り付けられた3Dスキャナ60を移動させるように構成されている。
【0029】
3Dスキャナ60は、
図2(b)に示すように、センサー61と、集光レンズ62と、固定ミラー63と、可動ミラー64と、収束レンズ65と、を備えている。レーザ発振器51から3Dスキャナ60に供給されたレーザビームLBは、センサー61から集光レンズ62に出射され、集光レンズ62により集光された後、固定ミラー63で可動ミラー64に向けて反射され、可動ミラー64により方向が変化された後、収束レンズ65を介して所定のスポット径となるようにワークWに向けて照射される。このような構成により、本実施形態のレーザ溶接装置50では、制御装置(図示せず)の指令に基づいて、可動ミラー64が駆動することによって、例えばワークWから500mm離れた状態で200mm四方の範囲内における所定の位置にレーザビームLBを照射することが可能になっている。
【0030】
集光レンズ62は、アクチュエータ(図示せず)により上下方向に移動可能に構成されていて、当該集光レンズ62を上下方向に移動させることで、焦点距離が上下方向に調整されるようになっている。それ故、本実施形態のレーザ溶接装置50では、ワークWの上面を基準(0)とした場合における焦点Fを+側にシフトさせることで、焦点FがワークWよりも上側に位置するデフォーカス状態と、焦点Fを−側にシフトさせることで、焦点FがワークWよりも下側に位置するインフォーカス状態と、を容易に実現することが可能になっている。
【0031】
−レーザ溶接方法−
次に、上記レーザ溶接装置50を用いた本実施形態のレーザ溶接方法について説明するが、本発明を理解し易くするために、これに先立ち、重ねられた鋼板同士の間に隙間Gがある場合における従来のレーザ溶接方法について説明する。
図9は、従来のレーザ溶接方法を模式的に説明する図であり、
図10は、従来のレーザ溶接方法によって形成された溶接部130,230を模式的に示す断面図である。
【0032】
先ず、
図9(a)に示す従来のレーザ溶接方法では、溶接部130(
図10(a)参照)における溶融金属111の量を確実に増加させるべく、焦点Fを絞って高入熱量のレーザビームLBを上側鋼板110に照射するが、これでは、レーザビームLBが下側鋼板120まで貫通してしまい、
図10(a)に示すように、穴あき等の溶接不良を誘発するおそれがある。
【0033】
また、
図9(b)に示す従来のレーザ溶接方法では、上側鋼板210と下側鋼板220との隙間Gが減少もしくは無くなった状態で2回目以降のレーザ照射を行うべく、焦点Fを+側にシフトすることでデフォーカスされた弱い照射で上側鋼板210だけを溶融させるが、板厚比50%を超えると、相対的に量が少ない上側鋼板210の溶融金属211だけでは相対的に広い隙間Gを埋めることができず、
図10(b)に示すように、溶接部230が上側鋼板210と離れてしまうおそれがある。
【0034】
このように、
図9(a)および(b)に示すレーザ溶接方法は、焦点Fの位置が上側鋼板110,210を基準とするレーザビームLBを照射し、上側鋼板110,210のみを溶融させ、溶融金属111,211を自重で落下させて隙間Gを埋めるという手法であり、重ねられた鋼板同士の片側(上側鋼板110,210)のみから入熱を行う点で共通している。このため、これらの手法では、板厚比50%を超えるような隙間Gを埋めるには、上側鋼板110,210のみを溶融させた溶融金属111,211だけでは体積が不足し、上側鋼板110,210と下側鋼板120,220とを強固に連結することができず、溶接不良が多発することになる。
【0035】
図3は、重ね合せ部における、材料板厚tと隙間Gとの関係を示すグラフ図である。なお、図中の従来実力値は、上側鋼板のみを溶融させる手法において、溶接不良が生じることなく、所定の強度を有する製品としての限界値を示している。
図3を見れば明らかなように、1mm未満の薄板同士を溶接する場合には、板厚比50%以上になると従来実力値を超えてしまうため、上側鋼板のみを溶融させた溶融金属だけでは隙間Gを埋めることが困難であることが分かる。
【0036】
そこで、本実施形態では、上側鋼板10および下側鋼板20に同時並行的に入熱することで、両者10,20のレーザ照射部11,21(
図4参照)を互いに接近させるようにしている。具体的には、本実施形態のレーザ溶接方法では、レーザビームLBの焦点Fが下側鋼板20よりも下側に位置するように、上側鋼板10の上方から上側鋼板10および下側鋼板20に対してレーザビームLBを照射することで、上側鋼板10における溶融して下方に凹むレーザ照射部11と、下側鋼板20における熱膨張して上方に膨らむレーザ照射部21とを連結して部分的な溶接部30を形成するようにしている。以下、このようなレーザ溶接方法について詳細に説明する。
【0037】
<レーザ溶接方法例1>
図4は、本レーザ溶接方法例を模式的に説明する図である。本レーザ溶接方法例では、先ず、上下に重ねられた上側鋼板10および下側鋼板20における、相対的に大きな隙間Gを有する重ね合せ部1に対して、
図4(a)に示すように、上側鋼板10の上面を基準(0)とした場合における焦点Fを−側にシフトさせることで上側鋼板10および下側鋼板20にインフォーカスされたレーザビームLBを照射する。つまり、レーザビームLBの焦点Fが下側鋼板20よりも下側に位置するように、上側鋼板10の上方から上側鋼板10および下側鋼板20に対してレーザビームLBを照射するので、上側鋼板10および下側鋼板20には同時並行的にインフォーカスされたレーザビームLBが照射される。なお、「相対的に大きな隙間G」とは、板厚比(上側鋼板10および下側鋼板20の板厚tに対する隙間Gの比率)が50%を超えるものを意味する。
【0038】
ここで、上側鋼板10および下側鋼板20にはインフォーカスされたレーザビームLBが照射されることから、
図4(a)に示すように、上側鋼板10に照射されるレーザビーム径は、下側鋼板20に照射されるレーザビーム径よりも大きいので、上側鋼板10には相対的に小さい入熱量でレーザビームLBが照射されると同時に、下側鋼板20には相対的に大きい入熱量でレーザビームLBが照射されることになる。
【0039】
そうして、相対的に小さい入熱量でレーザビームLBが照射される上側鋼板10では、
図4(b)に示すように、小さな入熱によりレーザ照射部11が溶融され、溶融金属(溶融されたレーザ照射部11)が自重により下方に凹み、その凹んだ分だけ隙間Gが低減されることになる。
【0040】
一方、相対的に大きい入熱量でレーザビームLBが照射される下側鋼板20では、
図4(c)に示すように、大きな入熱によりレーザ照射部21が熱膨張して上方に膨らみ、その膨らんだ分だけ隙間Gがより一層低減されることになる。
【0041】
そうして、このようなレーザ照射部11,21の変化が同時並行的に生じることで、
図4(d)に示すように、溶融して下方に凹んだ上側鋼板10のレーザ照射部11と、熱膨張して上方に膨んだ下側鋼板20のレーザ照射部21とが接触する。ここで、熱膨張したレーザ照射部21は、溶融して下方に凹んだレーザ照射部11と接触して融合することでエネルギー的に安定するように、下方には凹まず上方に流れることになり、これにより、上下のレーザ照射部11,21が連結されることで部分的な溶接部30が形成される。
【0042】
このように、本レーザ溶接方法例によれば、同時並行的にレーザビームLBが照射される上側鋼板10の溶融金属部(レーザ照射部11)と下側鋼板20の熱膨張部(レーザ照射部21)とが、上下両側から近づいて連結されることで溶接部30が形成されるので、上側鋼板10と下側鋼板20との隙間Gが相対的に大きい場合でも、溶融金属量が不足することがなく、恰も隙間Gを埋めるような溶接部30を確実に形成することができる。
【0043】
しかも、上述の如く、上側鋼板10および下側鋼板20にはインフォーカスされたレーザビームLBが照射されることから、相対的に広い溶接部30を形成することが可能なので、上側鋼板10と下側鋼板20とを強固に溶接することができる。
【0044】
<レーザ溶接方法例2>
上記レーザ溶接方法例1では、レーザビームLBを動かすことなく照射することで溶接部30を形成したが、本レーザ溶接方法例では、所謂LSW(Laser Screw Welding)を用いて円を描くように走査しながらレーザビームLBを照射することで溶融池31を形成して、より広い、換言すると、より強い溶接部30を形成するようにしている。
【0045】
本レーザ溶接方法例は、予熱工程と本溶接工程とを含んでいる。
図5は、本レーザ溶接方法例における予熱工程を模式的に説明する図であり、
図6は、本レーザ溶接方法例における本溶接工程を模式的に説明する図である。
【0046】
先ず、予熱工程として、上下に重ねられた上側鋼板10および下側鋼板20における、相対的に大きな隙間Gを有する重ね合せ部1に対して、
図5に示すように、上側鋼板10の上面を基準(0)とした場合における焦点Fを+側にシフトさせることでデフォーカスされたレーザビームLBを照射して、上側鋼板10のレーザ照射部11を低入熱で溶融させる。このとき、円を描くようにレーザビームLBを走査することで、レーザビームLBの軌跡の内側を低速かつ低入熱で円形に溶かす。なお、予熱工程では、デフォーカスされたレーザビームLBを照射することから、上記
図9(a)に示したような従来のレーザ溶接方法とは異なり、レーザビームLBが下側鋼板20を貫通する穴あき等は生じず、下側鋼板20では、上側鋼板10が溶融するときの熱により、例えばレーザ照射部11の真下が焼ける程度の変化しか起こらない。
【0047】
次に、本溶接工程として、
図6(a)に示すように、焦点Fを−側にシフトさせて、中速(4000〜5000cm/min)の溶接速度で、円を1回または複数回描くようにインフォーカスされたレーザビームLBを走査することで、溶融池31を形成する。
【0048】
ここで、上側鋼板10および下側鋼板20にはインフォーカスされたレーザビームLBが照射されることから、
図6(a)に示すように、上側鋼板10に照射されるレーザビーム径は、下側鋼板20に照射されるレーザビーム径よりも大きいので、上側鋼板10には相対的に小さい入熱量で且つ広い入熱範囲でレーザビームLBが照射されると同時に、下側鋼板20には相対的に大きい入熱量で且つ狭い入熱範囲でレーザビームLBが照射されることになる。
【0049】
そうして、相対的に小さい入熱量でレーザビームLBが照射される上側鋼板10では、例えば複数回走査を行う場合には、
図6(b)に示すように、小さな入熱によるレーザ照射部11の溶融が広範囲に拡大しながら、溶融金属(溶融されて広範囲に拡大するレーザ照射部11)が自重により下方に凹むことになる。
【0050】
一方、相対的に大きい入熱量でレーザビームLBが照射される下側鋼板20では、例えば複数回走査を行う場合には、
図6(c)に示すように、大きな入熱によりレーザ照射部21の熱膨張が加速することになる。
【0051】
そうして、このようなレーザ照射部11,21の変化が同時並行的に生じることで、溶融して下方に凹んだレーザ照射部11と、熱膨張して上方に膨らんだレーザ照射部21とが接触し、連結した状態を絶えず維持しながら、広い溶融池31が形成され、これが凝固することにより、広範囲な溶接部30が形成される。したがって、上記レーザ溶接方法例1よりもさらに強固に上側鋼板10と下側鋼板20とを溶接することができる。
【0052】
−実験例−
次に、本実施形態のレーザ溶接方法の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0053】
実験例では、上側鋼板10および下側鋼板20として厚さ0.7mmの亜鉛めっき鋼板を用意し、隙間Gを0mm、0.5mm、0.7mmの3水準で変化させて、上記レーザ溶接装置50(レーザ最大出力6000.W)を用いた上記レーザ溶接方法例2で溶接を行った。より詳しくは、円形状の溶接パターンで、且つ、打点ピッチ15mmにて、隙間G=0mmについては500打点、隙間G=0.5mmについては500打点、隙間G=0.7mmについては1000打点の計2000打点行った。
【0054】
なお、隙間Gの調整は、
図7に示すように、上側鋼板10と下側鋼板20と間にスペーサ40を挟むことで行った。
【0055】
一方、
図9(a)および(b)に示すレーザ溶接方法を用いた比較例については、0.1mm刻みで隙間Gを大きくして、溶接不良なく、溶接することが可能な隙間Gの限界値を調査した。
【0056】
図8は、実験例の結果を示すグラフ図である。
図8に示すように、従来のレーザ溶接方法を用いた比較例については、隙間Gが0.3mm(板厚比約40%)が限界であり、板厚比50%には遠く及ばなかった。これに対し、本実施形態のレーザ溶接方法を用いた本実施例では、隙間Gが0mm、0.5mm、0.7mmのいずれの水準でも、溶接不良なく、隙間Gを埋めるような強固な溶接部30を確実に形成可能であることが確認された。
【0057】
なお、上側鋼板10および下側鋼板20として厚さ0.6mmの亜鉛めっき鋼板を用いて、上記と同様の実験を行った結果、隙間0.6mm(板厚比100%)でも、溶接不良なく、隙間Gを埋めるような強固な溶接部30を確実に形成可能であることが確認された。
【0058】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0059】
上記実施形態におけるレーザ溶接方法例2では、本溶接工程に先立ち予熱工程を行ったが、予熱工程は必須ではなく、初めから本溶接工程を行ってもよい。
【0060】
また、上記実施形態におけるレーザ溶接方法例2では、本溶接工程において、円を描くようなレーザビームLBの走査を複数回行ったが、これに限らず、円を描くようなレーザビームLBの走査は1回でもよい。
【0061】
さらに、上記実施形態では、厚さが1mm以下の相対的に薄肉な金属板同士の溶接に本発明を適用したが、これに限らず、厚さが1mmを超えるような金属板同士の溶接に本発明を適用してもよい。
【0062】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。