(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第一の実施形態〕
以下、本発明の第一の実施形態の圧縮機について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の圧縮機は、旋回スクロールが公転運動を行い、固定スクロールとの間にできた圧縮室が中央部へと動いていくに従い、圧縮室容積が小さくなっていくことで圧縮作用を行うスクロール圧縮機である。本実施形態のスクロール圧縮機は冷凍サイクルに用いられるもので、作動流体は冷媒である。
【0016】
図1に示すように、スクロール圧縮機1は、電動機3と、電動機3によって軸線O1回りに回転駆動する回転軸2と、回転軸2の回転を用いて冷媒を圧縮して吐出する圧縮機本体4と、回転軸2、電動機3、及び圧縮機本体4を収容するハウジング5と、ハウジング5の軸線方向一方側D1の一端を閉じるアッパーカバー6とハウジング5の軸線方向他方側D2を閉じるロアカバー7と、を有している。
なお、以下の説明において、回転軸2の軸線O1が延びている方向を軸線方向Dとする。また、軸線O1に直交する方向を径方向とし、径方向で軸線O1から遠ざかる側を径方向外側といい、径方向で軸線O1に近づく側を径方向内側という。また、軸線方向Dであって、
図1の上方を軸線方向一方側D1、
図1の下方を軸線方向他方側D2という。
【0017】
圧縮機本体4は、回転軸2の回転エネルギーによって冷媒を圧縮して高圧状態で外部に吐出する。
圧縮機本体4は、固定スクロール17と、旋回スクロール18と、を有している。ディスチャージカバー8は、ハウジング5の内部の空間を軸線方向Dに区画する略円盤状の部材である。吐出チャンバ15(吐出空間)は、ディスチャージカバー8とアッパーカバー6とによって形成される空間である。吐出チャンバ15は、圧縮機本体4から吐出された冷媒が導入される空間である。ディスチャージカバー8の中央部には、吐出チャンバ15と圧縮後の冷媒を連通するディスチャージポート20と、高圧側からの冷媒の逆流を防止するための吐出弁21が設けられている。
【0018】
なお、本実施形態の吐出チャンバ15は、アッパーカバー6とディスチャージカバー8とによって形成されているがこれに限ることはない。例えば、吐出チャンバ15が、アッパーカバー6と固定スクロール17の軸線方向一方側D1を向く面とから形成されてもよいし、アッパーカバー6のみによって形成されてもよい。
【0019】
ハウジング5には、外部から冷媒を吸入する吸入配管9が設けられている。アッパーカバー6には、圧縮機本体4による圧縮を経て吐出チャンバ15内で高圧状態となった冷媒を排出する吐出配管10が設けられている。
【0020】
回転軸2は軸線O1を中心とした円柱状をなしている。回転軸2は、軸線方向一方側D1に設けられたメイン軸受11、及び軸線方向他方側D2に設けられたサブ軸受13によってハウジング5内で回転可能に支持されている。メイン軸受11と回転軸2の外周面との間にはメイン軸受本体12が取り付けられている。サブ軸受13と回転軸2の外周面との間にはサブ軸受本体14が取り付けられている。
【0021】
回転軸2の軸線方向一方側D1の端部において、軸線O1に対してオフセットされた(偏心した)位置には、軸線O1とは異なる偏心軸線O2を中心として柱状をなす偏心軸16が設けられている。偏心軸線O2は軸線O1と平行をなしている。偏心軸16は、回転軸2の端部から軸線方向一方側D1に向かって突出する円柱状をなしている。したがって、回転軸2が軸線O1回りに回転している状態では、偏心軸16は回転軸2の軸線O1回りに公転する。
【0022】
固定スクロール17は、ハウジング5内部に固定された略円盤状の部材である。旋回スクロール18は、固定スクロール17に対して軸線方向Dから対向することで両者の間に圧縮室Cを形成する。
固定スクロール17は、円盤状の固定端板25と、固定端板25の軸線方向他方側D2の面から軸線方向Dに立設された固定ラップ26と、を有している。固定端板25は、軸線O1におおむね直交する面に沿って延びている。固定ラップ26は、軸線方向Dから見て渦巻状に形成された壁体である。固定ラップ26は、固定端板25の中心回りに巻回された板状の部材で形成されている。固定ラップ26は、軸線方向Dから見て軸線O1を中心とするインボリュート曲線をなすように構成されることが望ましい。
【0023】
固定ラップ26の径方向外側には、固定端板25の外周に沿って筒状に延びる外周壁27が形成されている。外周壁27の軸線方向他方側D2の端縁には、径方向外側に向かって広がる円環状のフランジ部28が設けられている。固定スクロール17は、フランジ部28を介してボルト等によってメイン軸受11に固定されている。固定スクロール17の渦巻の中央部には、固定スクロール吐出口29が形成されている。
【0024】
旋回スクロール18は、円盤状の旋回端板23と、旋回端板23における軸線方向一方側D1の面に設けられた渦巻状の旋回ラップ31と、を有している。旋回ラップ31も、軸線O1を中心とするインボリュート曲線をなすように構成されることが望ましい。
【0025】
旋回ラップ31は、固定ラップ26に対して軸線方向Dから対向するとともに、軸線O1と交差する方向で互いに重なり合うように配置される。換言すれば、固定ラップ26と旋回ラップ31とは互いに噛み合っている。このように噛み合った状態で、固定ラップ26と旋回ラップ31との間には一定の空間が形成される。この空間は旋回ラップ31の旋回に伴ってその容積が変化する。これにより、冷媒を圧縮することが可能とされている。
【0026】
旋回端板23の軸線方向他方側D2の面には、円筒状のボス部30が形成されている。ボス部30の中心軸は、偏心軸線O2と同軸である。ボス部30の内側の空間には、回転軸2に形成された偏心軸16が、ドライブッシュ32を介して軸線方向Dから嵌入される。ドライブッシュ32とボス部30との間には旋回軸受33が取り付けられている。
【0027】
メイン軸受11には旋回スクロール18の自転(偏心軸線O2回りの回転)を規制するためのオルダムリング22が設けられている。オルダムリング22には、旋回スクロール18の旋回端板23に形成された溝に嵌合する突起が形成されている。オルダムリング22から見て径方向内側には、スラスト軸受24が設けられている。スラスト軸受24は、旋回スクロール18による軸線方向Dの荷重を支持する。
【0028】
本実施形態のアッパーカバー6について説明する。
図2に示すように、アッパーカバー6は、吐出チャンバ15(
図1参照)を形成するアッパーカバー本体34と、アッパーカバー本体34の表面34aに設けられた補強部37(リブ)と、を有している。アッパーカバー本体34は、軸線方向Dから見て円形をなし、吐出チャンバ15の一部を形成する。
アッパーカバー本体34は、円筒形状の円筒部35と、円筒部35の軸線方向一方側D1を塞ぐドーム部36と、を有している。ドーム部36は、球面形状をなしている。ドーム部36と円筒部35とは滑らかに接続されている。
【0029】
アッパーカバー本体34の表面34aには、アッパーカバー本体34の表面34aに沿って延びる複数の補強部37が形成されている。補強部37は、アッパーカバー本体34の中心T1から放射状に延在している。アッパーカバー6の中心T1とは、軸線O1とアッパーカバー6とが交差する点である。
複数の補強部37は、周方向に間隔をあけて形成されている。複数の補強部37は、周方向に等間隔に形成されていることが好ましい。補強部37は、アッパーカバー本体34の表面34aから突出する突条である。補強部37はアッパーカバー本体34を強化する機能を有する。
【0030】
次に、本実施形態のスクロール圧縮機1の設計方法について説明する。
スクロール圧縮機1の設計方法は、圧縮機設計工程と、共鳴モード計測工程と、補強部設計工程と、を有している。
圧縮機設計工程は、要求される性能、仕様等に基づいて、スクロール圧縮機を設計する工程である。設計者は、電動機の選定(設計)、スクロールの設計、ハウジング、アッパーカバーの形状等の設計を行う。これにより、電動機の仕様、吐出チャンバ等の形状が決定する。
【0031】
共鳴モード計測工程は、圧縮機設計工程にて設計されたスクロール圧縮機に基づいてモデル化された圧縮機モデル(解析モデル)を用いて、コンピュータ上でシミュレーションを行い、吐出チャンバに生じる共鳴モード(音響固有値、音響特性)を測定する工程である。
【0032】
具体的には、まず、設計されたスクロール圧縮機に基づいて、コンピュータに入力可能な圧縮機モデルを作成する。次に、解析ソフト等を用いて、コンピュータ上で、圧縮機モデルの挙動を模擬する。
ここで、スクロール圧縮機1の動作について説明する。圧縮機本体4(スクロール)で圧縮された冷媒は、固定スクロール17の固定スクロール吐出口29から周期的に吐出される。固定スクロール吐出口29を通過した冷媒は、固定スクロール17とディスチャージカバー8の間の空間を通過する。冷媒は、ディスチャージカバー8のディスチャージポート20を通過し、アッパーカバー6で画成された吐出チャンバ15に入り、吐出配管10へと抜けていく。
【0033】
冷媒がこのようなルートで流れる際、冷媒が吐出弁21から周期的に吐出チャンバ15(吐出空間)に吐出されることによって、圧力脈動が生じる。この圧力脈動が吐出チャンバ15の固有振動数と一致すると、共鳴が起こる。この共鳴によってアッパーカバー6が振動する。
【0034】
図3は、シミュレーションにより測定された吐出チャンバ15の共鳴モードである。また、シミュレーションにより共鳴周波数が特定される。本実施形態のスクロール圧縮機1の場合、共鳴周波数は、4kHz−5kHzとなる。
図3において、符号+は、共鳴により圧力が高くなる位置、符号−は、共鳴により圧力が低くなる位置であり、これらの位置が共鳴モードの腹となる。
共鳴モードは、
図3に示すようなものに限らず、吐出チャンバ15の形状等に応じて変化する。例えば、共鳴モードの腹の周方向の間隔は、回転軸2の回転速度等によって変化する。
【0035】
補強部設計工程では、共鳴モード測定工程にて特定された共鳴モードの腹の位置に基づいて、アッパーカバー本体34の表面34aに補強部37を設計する。具体的には、補強部37は、共鳴モードの腹を通過するように設計される。
【0036】
上記実施形態によれば、共鳴によってアッパーカバー6における共鳴モードの腹に対応する位置が振動した場合においても、補強部37によって、アッパーカバー6の振動を抑制することができる。即ち、補強部37によって共鳴モードの腹に対応する位置が強化されることによって、振動による騒音を低減することができる。
【0037】
なお、補強部37の形状はこれに限ることはなく、共鳴モードの腹を強化するように、アッパーカバー本体34の表面34a及び裏面の少なくとも一方に設けられて、表面34a及び裏面の少なくとも一方に沿って延びる形状であればよい。
例えば、
図4に示す第一の変形例の補強部37Bのように、補強部37Bを共鳴モードの腹を通過するように、周方向に延在させてもよい。具体的には、本実施形態の第一の変形例の補強部37Bは、同心円状に形成された複数の環状の補強部である。補強部37Bの少なくとも一部は、共鳴モードの腹を通過するように形成されている。
本変形例によれば、共鳴モードの腹が周方向に移動しても、振動を抑制することができる。
【0038】
また、
図5に示す第二の変形例の補強部のように、径方向に延在する補強部37と周方向に延在する環状の補強部37Bとを組み合わせてもよい。
本変形例によれば、アッパーカバー本体34の剛性をより向上させることができる。
【0039】
また、上記実施形態では、補強部37を設けることによって、補強部37周辺を強化する構成としたが、これとは逆に、隣り合う共鳴モードの腹の間(共鳴モードの節)に径方向に延在する凹溝を形成することによって、相対的に、共鳴モードの腹に対応する部位をそれ以外の部位よりも強化する構成としてもよい。
【0040】
また、アッパーカバー本体34と補強部37とを一体としたアッパーカバー6を鋳造により製造してもよいし、アッパーカバー本体34と補強部37とを一体としたアッパーカバー6を切削加工により削り出してもよい。
アッパーカバー本体34と補強部37とを別々に形成して、溶接などによって両者を接合してもよい。
【0041】
また、補強部37は、アッパーカバー6の表面34a(軸線方向一方側D1を向く面)に限らず、アッパーカバー6の裏面に形成してもよい。ただし、アッパーカバー6の裏面に補強部37を形成する場合、吐出チャンバ15の形状が変るため好ましくはない。
また、解析を行うことなく、実機を用いた測定により、補強部37の位置を決定してもよい。
【0042】
〔第二の実施形態〕
以下、本発明の第二の実施形態の圧縮機について図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、上述した第一の実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
本実施形態の圧縮機のアッパーカバー6Bは、軸線方向一方側D1に突出する頂部T2を有する多角錐状をなしている。即ち、
図6に示すように、断面形状が十二角形状をなす筒状部35Bと、十二角錐形状のドーム部36Bから形成されてもよい。
【0043】
このような形状の場合、十二角錐形状のドーム部36Bの斜稜39(稜線)の強度が、側面40の強度よりも高くなる。よって、斜稜39の位置を共鳴モードの腹と対応させることによって、振動を抑制することができる。即ち、十二角錐形状のドーム部36Bの斜稜39が本実施形態の補強部となる。このような形状のアッパーカバー6Bは、板金プレス加工を用いて製造することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、圧縮機としてスクロール圧縮機を採用したが、回転駆動する回転軸と、回転軸の回転を用いて流体を周期的に圧縮して吐出する圧縮機本体と、圧縮機本体から吐出された流体が導入される吐出空間を形成するカバーと、を備える圧縮機であればよい。圧縮機としては、例えば、斜坂式圧縮機や、ロータリー圧縮機にも適用が可能である。