(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(熱硬化型エポキシ樹脂組成物)
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤と、ホウ酸とを少なくとも含有し、好ましくは有機シラン化合物を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0011】
本発明者は、保存時の粘度上昇に悪影響を与えずに、低温硬化性を向上できる熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提供するために鋭意検討を行った。その結果、エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを含有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物において、有機シラン化合物に代えて、又は有機シラン化合物と併用してホウ酸を用いることで、保存時の粘度上昇に悪影響を与えずに、低温硬化性を向上できることを見出し、本発明の完成に至った。
なお、前述の特開昭63−189472号公報には、熱硬化型エポキシ樹脂組成物において、アルミニウムキレートと、アルキルフェニルポリシロキサンと、アルコキシホウ素化合物とを配合する技術が提案されているものの、保存時の粘度上昇に悪影響を与えずに、低温硬化性を向上できることについては、なんら示唆されてない。
【0012】
<エポキシ樹脂>
前記エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0013】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂等を挙げることができる。中でも、樹脂特性の点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0014】
前記脂環式エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニルシクロペンタジエンジオキシド、ビニルシクロヘキセンモノ乃至ジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、エポキシ−[エポキシ−オキサスピロC
8−15アルキル]−シクロC
5−12アルカン(例えば、3,4−エポキシ−1−[8,9−エポキシ−2,4−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル]−シクロヘキサン等)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボレート、エポキシC
5−12シクロアルキルC
1−3アルキル−エポキシC
5−12シクロアルカンカルボキシレート(例えば、4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4’,5’−エポキシシクロオクタンカルボキシレート等)、ビス(C
1−3アルキルエポキシ
C5−12シクロアルキル
C1−3アルキル)ジカルボキシレート(例えば、ビス(2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等)などが挙げられる。
【0015】
なお、脂環式エポキシ樹脂としては、市販品として入手容易である点から、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔(株)ダイセル製、商品名:セロキサイド♯2021P;エポキシ当量 128〜140〕が好ましく用いられる。
【0016】
なお、上記例示中において、C
8−15、C
5−12、C
1−3との記載は、それぞれ、炭素数が8〜15、炭素数が5〜12、炭素数が1〜3、であることを意味し、化合物の構造の幅があることを示している。
【0017】
前記脂環式エポキシ樹脂の一例の構造式を、以下に示す。
【化2】
【0018】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記エポキシ樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30質量%〜99質量%が好ましく、50質量%〜98質量%がより好ましく、70質量%〜97質量%が特に好ましい。
ここで、本明細書において「〜」を用いて規定される数値範囲は、下限値及び上限値を含む範囲である。即ち、「30質量%〜99質量%」は「30質量%以上99質量%以下」と同義である。
【0019】
<潜在性硬化剤>
前記潜在性硬化剤は、多孔質粒子である。
前記多孔質粒子は、少なくともポリウレア樹脂で構成され、更にビニル樹脂を構成成分に含んでいてもよい。
前記多孔質粒子は、アルミニウムキレートを少なくとも保持する。
前記多孔質粒子は、例えば、その細孔内に前記アルミニウムキレートを保持する。言い換えれば、ポリウレア樹脂で構成された多孔質粒子マトリックス中に存在する微細な孔に、アルミニウムキレートが取り込まれて保持されている。
前記多孔質粒子の表面は、アルコキシシランカップリング剤の反応生成物を有することが好ましい。
【0020】
<<ポリウレア樹脂>>
前記ポリウレア樹脂とは、その樹脂中にウレア結合を有する樹脂である。
前記多孔質粒子を構成する前記ポリウレア樹脂は、例えば、多官能イソシアネート化合物を乳化液中で重合させることにより得られる。その詳細は後述する。前記ポリウレア樹脂は、樹脂中に、イソシアネート基に由来する結合であって、ウレア結合以外の結合、例えば、ウレタン結合などを有していてもよい。
【0021】
<<ビニル樹脂>>
前記ビニル樹脂とは、ラジカル重合性ビニル化合物を重合して得られる樹脂である。
前記ビニル樹脂は、前記多孔
質粒子の機械的性質を改善する。これにより、熱硬化型エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の硬化時の熱応答性、特に低温領域でシャープな熱応答性を実現することができる。
【0022】
前記ビニル樹脂は、例えば、多官能イソシアネート化合物を含有する乳化液に、ラジカル重合性ビニル化合物をも含有させておき、前記乳化液中で前記多官能イソシアネート化合物を重合させる際に、同時に前記ラジカル重合性ビニル化合物をラジカル重合させることにより得ることができる。
【0023】
<<アルミニウムキレート>>
前記アルミニウムキレートとしては、例えば、下記一般式(1)で表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。ここで、アルミニウムにはアルコキシ基は直接結合していない。直接結合していると加水分解し易く、前記多孔質粒子を作製する際の乳化処理に適さないからである。
【0025】
前記一般式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、アルキル基又はアルコキシル基を表す。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基などが挙げられる。
【0026】
前記一般式(1)で表される錯体化合物としては、例えば、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(オレイルアセトアセテート)などが挙げられる。
【0027】
前記多孔質粒子における前記アルミニウムキレートの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
前記多孔質粒子の細孔の平均細孔直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜300nmが好ましく、5nm〜150nmがより好ましい。
【0029】
<反応生成物>
前記反応生成物は、
アルコキシシランカップリング剤が反応して得られる。
前記反応生成物は、前記多孔質粒子の表面に存在する。
【0030】
前記反応生成物は、詳細を後述する不活性化工程により得られることが好ましい。
【0031】
前記潜在性硬化剤は、粒子状であることが好ましい。
前記潜在性硬化剤の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm〜20μmが好ましく、1μm〜10μmがより好ましく、1μm〜5μmが特に好ましい。
【0032】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記潜在性硬化剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、1質量部〜70質量部が好ましく、1質量部〜50質量部がより好ましい。前記含有量が、1質量部未満であると、硬化性が低下することがあり、70質量部を超えると、硬化物の樹脂特性(例えば、可とう性)が低下することがある。
【0033】
<<潜在性硬化剤の製造方法>>
前記潜在性硬化剤の製造方法は、例えば、多孔質粒子作製工程と、不活性化工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0034】
−多孔質粒子作製工程−
前記多孔質粒子作製工程は、乳化液作製処理と、重合処理とを少なくとも含み、好ましくは、追加充填処理を含み、更に必要に応じて、その他の処理を含む。
【0035】
−−乳化液作製処理−−
前記乳化液作製処理は、アルミニウムキレートと、多官能イソシアネート化合物と、好ましくは有機溶剤とを混合して得られる液を乳化処理して乳化液を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホモジナイザーを用いて行うことができる。
前記多孔質粒子を構成する樹脂が、ポリウレア樹脂のみではなく、更にビニル樹脂を含む場合、前記液は、更に、ラジカル重合性ビニル化合物と、ラジカル重合開始剤とを含有する。
【0036】
前記アルミニウムキレートとしては、本発明の前記潜在性硬化剤の説明における前記アルミニウムキレートが挙げられる。
【0037】
前記乳化液における油滴の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm〜100μmが好ましい。
【0038】
−−−多官能イソシアネート化合物−−−
前記多官能イソシアネート化合物は、一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた下記一般式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた下記一般式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した下記一般式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0040】
前記一般式(2)〜(4)中、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0041】
前記アルミニウムキレートと前記多官能イソシアネート化合物との配合割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルミニウムキレートの配合量が、少なすぎると、硬化させるべきエポキシ樹脂の硬化性が低下し、多すぎると、得られる潜在性硬化剤の潜在性が低下する。その点において、前記多官能イソシアネート化合物100質量部に対して、前記アルミニウムキレート10質量部〜500質量部が好ましく、10質量部〜300質量部がより好ましい。
【0042】
−−−有機溶剤−−−
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、揮発性有機溶剤が好ましい。
前記有機溶剤は、前記アルミニウムキレート、前記多官能イソシアネート化合物、前記多官能ラジカル重合性ビニル化合物、及び前記ラジカル重合開始剤のそれぞれの良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類などが挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0043】
前記有機溶剤の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
−−−ラジカル重合性ビニル化合物−−−
前記ラジカル重合性ビニル化合物は、分子内にラジカル重合性の炭素−炭素不飽和結合を有する化合物である。
前記ラジカル重合性ビニル化合物は、いわゆる単官能ラジカル重合性化合物、多官能ラジカル重合性化合物を包含する。
前記ラジカル重合性ビニル化合物は、多官能ラジカル重合性化合物を含有することが好ましい。これは、多官能ラジカル重合性化合物を使用することにより、低温領域でシャープな熱応答性を実現することがより容易になるからである。この意味からも、前記ラジカル重合性ビニル化合物は、多官能ラジカル重合性化合物を30質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上含有することがより好ましい。
【0045】
前記単官能ラジカル重合性化合物としては、例えば、単官能ビニル系化合物(例えば、スチレン、メチルスチレン等)、単官能(メタ)アクリレート系化合物(例えば、ブチルアクリレートなど)など挙げられる。
前記多官能ラジカル重合性化合物としては、例えば、多官能ビニル系化合物(例えば、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル等)、多官能(メタ)アクリレート系化合物(例えば、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等)などが挙げられる。
これらの中でも、潜在性及び熱応答性の点から、多官能ビニル系化合物、特にジビニルベンゼンを好ましく使用することができる。
【0046】
なお、多官能ラジカル重合性化合物は、多官能ビニル系化合物と多官能(メタ)アクリレート系化合物とから構成されていてもよい。このように併用することにより、熱応答性を変化させたり、反応性官能基を導入できたりといった効果が得られる。
【0047】
前記ラジカル重合性ビニル化合物の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記多官能イソシアネート化合物100質量部に対して、1質量部〜80質量部が好ましく、10質量部〜60質量部がより好ましい。
【0048】
−−−ラジカル重合開始剤−−−
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤などが挙げられる。
【0049】
前記ラジカル重合開始剤の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ラジカル重合性ビニル化合物100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部が好ましく、0.5質量部〜5質量部がより好ましい。
【0050】
−−重合処理−−
前記重合処理としては、前記乳化液中で前記多官能イソシアネート化合物を重合させて多孔質粒子を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
前記多孔質粒子は、前記アルミニウムキレートを保持する。
【0052】
前記重合処理においては、前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基と前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基とが反応してウレア結合を生成して、ポリウレア樹脂が得られる。ここで、前記多官能イソシアネート化合物が、ウレタン結合を有する場合には、得られるポリウレア樹脂は、ウレタン結合も有しており、その点において生成されるポリウレア樹脂は、ポリウレアウレタン樹脂と称することもできる。
【0053】
また、前記乳化液が、前記ラジカル重合性ビニル化合物と、前記ラジカル重合開始剤とを含有する場合、前記重合処理においては、前記多官能イソシアネート化合物を重合させると同時に、前記ラジカル重合開始剤の存在下で前記ラジカル重合性ビニル化合物がラジカル重合を生じる。
そのため、得られる前記多孔
質粒子は、構成する樹脂として、ポリウレア樹脂とビニル樹脂とを含有する。
【0054】
前記重合処理における重合時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜30時間が好ましく、2時間〜10時間がより好ましい。
前記重合処理における重合温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30℃〜90℃が好ましく、50℃〜80℃がより好ましい。
【0055】
−−追加充填処理−−
前記追加充填処理としては、前記重合処理により得られた前記多孔質粒子にアルミニウムキレートを追加で充填する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウムキレートを有機溶剤に溶解して得られる溶液に、前記多孔質粒子を浸漬させた後に、前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0056】
前記追加充填処理を行うことにより、前記多孔質粒子に保持されるアルミニウムキレートの量が増加する。なお、アルミニウムキレートが追加充填された前記多孔質粒子は、必要に応じてろ別し洗浄し乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
【0057】
前記追加充填処理において追加で充填されるアルミニウムキレートは、前記乳化液となる前記液に配合される前記アルミニウムキレートと同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、前記追加充填処理においては水を使用しないため、前記追加充填処理に使用するアルミニウムキレートは、アルミニウムにアルコキシ基が結合したアルミニウムキレートであってもよい。そのようなアルミニウムキレートとしては、例えば、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ−N−ラウロイル−β−アラネートモノラウリルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0058】
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記乳化液作製処理の説明において例示した前記有機溶剤などが挙げられる。好ましい態様も同じである。
【0059】
前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記溶液を前記有機溶剤の沸点以上に加熱する方法、前記溶液を減圧させる方法などが挙げられる。
【0060】
前記アルミニウムキレートを前記有機溶剤に溶解して得られる前記溶液における前記アルミニウムキレートの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%〜80質量%が好ましく、10質量%〜50質量%がより好ましい。
【0061】
−不活性化工程−
前記不活性化工程としては、前記多孔質粒子の表面に、
アルコキシシランカップリング剤の反応生成物を付与する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、
アルコキシシランカップリング剤と有機溶剤とを含有する溶液に前記多孔質粒子を浸漬し、前記
アルコキシシランカップリング剤を反応させることにより行われることが好ましい。
【0062】
前記多孔質粒子は、その構造上、その内部だけでなく表面にもアルミニウムキレートが存在することになると思われる。しかし、界面重合の際に重合系内に存在する水により表面のアルミニウムキレートの多くが不活性化する。そのため、前記多孔質粒子は、前記不活性化工程を要さずに(即ち、その表面が
アルコキシシランカップリング剤の反応生成物を有していなくても)、潜在性を獲得できる。
ところが、エポキシ樹脂として高い反応性を有する脂環式エポキシ樹脂を使用する場合には、前記不活性化工程を経ていない潜在性硬化剤を用いる熱硬化型エポキシ樹脂組成物は経時的に大きく増粘する。そのことから、前記多孔質粒子の表面のアルミニウムキレートの一部は不活性化せず、活性を維持していると考えられる。
そこで、前記多孔質粒子の表面に存在するアルミニウムキレートを、以下に説明するように、アルコキシシランカップリング剤で不活性化することが好ましい。
【0063】
−−
アルコキシシランカップリング剤−−
前記アルコキシシランカップリング剤は、以下に説明するように二つのタイプに分類される。
【0064】
第一のタイプは、前記多孔質粒子の表面の活性なアルミニウムキレートと反応してアルミニウムキレート−シラノール反応物を生成し、それによりアルミニウム原子に隣接する酸素の電子密度を小さくすること(言い換えれば、酸素に結合している水素の酸性度を低下させること、更に言い換えれば、酸素と水素との間の分極率を低下させること)で活性を低下させるタイプのシランカップリング剤である。このタイプのシランカップリング剤としては、電子供与性基がケイ素原子に結合したアルコキシシランカップリング剤、好ましくはアルキル基を有するアルキルアルコキシシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、メチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0065】
第二のタイプは、前記多孔質粒子の活性なアルミニウムキレートに、分子内のエポキシ基を反応させて生成したエポキシ重合鎖で表面を被覆して活性を低下させるタイプのシランカップリング剤である。このタイプのシランカップリング剤としては、エポキシシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(KBM−303、信越化学工業(株))、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学工業(株))等が挙げられる。
【0066】
−−有機溶剤−−
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非極性溶剤が好ましい。前記非極性溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤が挙げられる。前記炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0067】
前記溶液における前記
アルコキシシランカップリング剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5質量%〜80質量%が好ましい。
【0068】
前記不活性化工程における前記溶液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記多孔質粒子の凝集、並びに、前記多孔質粒子からの前記アルミニウムキレートの流出を防止する点で、10℃〜80℃が好ましく、20℃〜60℃がより好ましい。
前記不活性化工程における浸漬の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜48時間が好ましく、5時間〜30時間がより好ましい。
【0069】
前記不活性化工程においては、前記溶液を撹拌することが好ましい。
【0070】
前記不活性化工程を経て得られた前記潜在性硬化剤は、必要に応じてろ別し洗浄し乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
【0071】
<ホウ酸>
前記ホウ酸(B(OH)
3)は、前記潜在性硬化剤に保持されている前記アルミニウムキレートと共働して前記エポキシ樹脂のカチオン重合を開始させる機能を有する。
【0072】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記ホウ酸の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記潜在性硬化剤100質量部に対して、1質量部〜500質量部が好ましく、30質量部〜400質量部がより好ましく、50質量部〜300質量部がより好ましい。
【0073】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製する際、前記ホウ酸を配合してもよいが、ホウ酸エステルを配合することが取り扱いの容易性の点で好ましい。前記ホウ酸エステルは、系中の水分と反応してホウ酸となる。結果、前記ホウ酸エステルを配合して前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した際には、前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物中には前記ホウ酸が存在している。
【0074】
前記ホウ酸エステルとしては、例えば、下記一般式(X)で表される化合物が挙げられる。
B(OR)
3 ・・・一般式(X)
ただし、前記一般式(X)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜6のアルキル基を表す。前記炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0075】
前記ホウ酸エステルを前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物に配合する際の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記潜在性硬化剤100質量部に対して、1質量部〜500質量部が好ましく、30質量部〜400質量部がより好ましい。
【0076】
<有機シラン化合物>
前記有機シラン化合物は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、前記潜在性硬化剤に保持されている前記アルミニウムキレートと共働して前記エポキシ樹脂のカチオン重合を開始させる機能を有する。従って、このような、有機シラン化合物を併用することにより、エポキシ樹脂の硬化を促進するという効果が得られる。このような有機シラン化合物としては、高立体障害性のシラノール化合物や、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するシランカップリング剤等を挙げることができる。なお、シランカップリング剤の分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよいが、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0077】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物において、前記ホウ酸と前記有機シラン化合物とを併用することで、硬化開始温度(例えば、DSC測定における発熱開始温度)を低くすることができる。その理由を本発明者は以下のように考察している。
アルミニウムキレートと有機シラン化合物とによる活性種形成の場合、二段階の反応が必要であるため、硬化速度が遅くなる場合がある。
一方、アルミニウムキレートとホウ酸とによる活性種形成の場合、配位子交換反応が生じ、それによって生成した錯体の水酸基の酸素原子上の非共有電子対がAl原子に配位することにより、水素原子の酸強度がアップし、活性種として作用することとなる。この反応の場合、活性種形成は一段階の反応となるため、活性化温度の低温化が期待できる。しかし、形成される活性種の酸強度の絶対値としては、有機シラン化合物が形成するブレンステッド酸よりは低くなる。
そのため、ホウ酸と有機シラン化合物とを併用することで、両方の利点が表出し、硬化開始温度(例えば、DSC測定における発熱開始温度)を低くすることができるものと考えられる。
【0078】
高立体障害性のシラノール化合物は、トリアルコキシ基を有している従来のシランカップリング剤とは異なり、アリール基を有するアリールシラノール化合物である。
【0079】
<<アリールシラノール化合物>>
前記アリールシラノール化合物は、例えば、下記一般式(A)で表される。
【化5】
ただし、前記一般式(A)中、mは2又は3、好ましくは3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記一般式(A)で表されるアリールシラノール化合物は、モノオール体又はジオール体である。
【0080】
前記一般式(A)におけるArは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基(例えば、1−ナフチル基、2−ナフチル基等)、アントラセニル基(例えば、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、ベンズ[a]−9−アントラセニル基等)、フェナリル基(例えば、3−フェナリル基、9−フェナリル基等)、ピレニル基(例えば、1−ピレニル基等)、アズレニル基、フロオレニル基、ビフェニル基(例えば、2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基等)、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが挙げられる。これらの中でも、入手容易性、入手コストの観点からフェニル基が好ましい。m個のArは、いずれも同一でもよく異なっていてもよいが、入手容易性の点から同一であることが好ましい。
【0081】
これらのアリール基は、例えば、1〜3個の置換基を有することができる。
前記置換基としては、例えば、電子吸引基、電子供与基などが挙げられる。
前記電子吸引基としては、例えば、ハロゲン基(例えば、クロロ基、ブロモ基等)、トリフルオロメチル基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ホルミル基などが挙げられる。
前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、ヒドロキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基(例えば、モノメチルアミノ基等)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等)などが挙げられる。
【0082】
置換基を有するフェニル基の具体例としては、例えば、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基などが挙げられる。
【0083】
なお、置換基として電子吸引基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を上げることができる。置換基として電子供与基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を下げることができる。そのため、置換基により、硬化活性のコントロールが可能となる。
ここで、m個のAr毎に、置換基が異なっていてもよいが、m個のArについて入手容易性の点から置換基は同一であることが好ましい。また、一部のArだけに置換基があり、他のArに置換基が無くてもよい。
【0084】
これらのなかでも、トリフェニルシラノール、ジフェニルシランジオールが好ましく、トリフェニルシラノールが特に好ましい。
【0085】
<<シランカップリング剤>>
前記シランカップリング剤としては、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明において使用する潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0086】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0087】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記有機シラン化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記潜在性硬化剤100質量部に対して、1質量部〜300質量部が好ましく、1質量部〜100質量部がより好ましい。
【0088】
前記ホウ酸が、前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製する際のホウ酸エステルに由来する場合、前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製する際の、前記有機シラン化合物の配合量と、前記ホウ酸エステルの配合量との質量比率(有機シラン化合物:ホウ酸エステル)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1:3〜3:1であることが好ましく、1:2〜2:1であることがより好ましい。
【0089】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オキセタン化合物、充填剤、顔料、帯電防止剤などが挙げられる。
【0090】
<<オキセタン化合物>>
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物において、前記エポキシ樹脂に前記オキセタン化合物を併用することで、発熱ピークをシャープにすることができる。
前記オキセタン化合物としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸 ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)]メチルエステル、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。
【0091】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記オキセタン化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、10質量部〜100質量部が好ましく、20質量部〜70質量部がより好ましい。
【0092】
(熱硬化型エポキシ樹脂組成物の製造方法)
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物の製造方法は、前記エポキシ樹脂と、前記潜在性硬化剤と、ホウ酸エステルとを混合する混合工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0093】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、本発明の前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物の説明において例示した前記エポキシ樹脂が挙げられる。
前記潜在性硬化剤としては、例えば、本発明の前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物の説明において例示した前記潜在性硬化剤が挙げられる。
前記ホウ酸エステルとしては、例えば、本発明の前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物の説明において例示した前記ホウ酸エステルが挙げられる。
【0094】
前記混合工程における混合方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0095】
前記混合工程においては、更に有機シラン化合物を混合することが好ましい。
前記有機シラン化合物としては、例えば、本発明の前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物の説明において例示した前記有機シラン化合物が挙げられる。
前記混合工程における、前記有機シラン化合物と、前記ホウ酸エステルとの質量比率(有機シラン化合物:ホウ酸エステル)は、1:3〜3:1であることが好ましく、1:2〜2:1であることがより好ましい。
【0096】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、保存時の粘度上昇に悪影響を与えずに、低温硬化性を向上できるため、配合後の可使時間(ポットライフ)を長くできるとともに、使用時の粘度調整の負担を軽減できる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
(製造例1)
<潜在性硬化剤の製造>
<<多孔質粒子作製工程>>
−−水相の調製−−
蒸留水800質量部と、界面活性剤(ニューレックスR−T、日本油脂(株))0.05質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA−205、(株)クラレ)4質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合し水相を調製した。
【0099】
−油相の調製−
次に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24質量%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株))350質量部と、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(多官能イソシアネート化合物、D−109、三井化学(株))49質量部と、ラジカル重合性ビニル化合物としてジビニルベンゼン(メルク(株))21質量部と、ラジカル重合開始剤(パーロイルL、日油(株))0.21質量部とを、酢酸エチル70質量部に溶解し、油相を得た。
【0100】
−乳化−
調製した前記油相を、先に調製した前記水相に投入し、ホモジナイザー(10000rpm/5分:T−50、IKAジャパン(株))で混合、乳化し、乳化液を得た。
【0101】
−重合−
調製した乳化液を、80℃で6時間、200rpmで撹拌しながら重合を行った。反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、生成した重合樹脂粒子をろ過によりろ別し、自然乾燥することにより、塊状の硬化剤を得た。この塊状の硬化剤を、解砕装置(A−Oジェットミル、(株)セイシン企業)を用いて一次粒子に解砕することにより、粒子状硬化剤を得た。
【0102】
−追加充填処理−
得られた粒子状硬化剤を、アルミニウムモノアセチルアセトビス(エチルアセトアセテート)の24質量%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株))40質量部と、エタノール60質量部とからなる含浸液に投入し、30℃で6時間撹拌した後、粒子状の硬化剤をろ別し、自然乾燥させることにより、アルミニウムキレートが追加充填された粒子状硬化剤(多孔質粒子)を得た。
【0103】
<<不活性化工程>>
前記多孔質粒子作製工程で得られた前記多孔質粒子3質量部を、溶液〔シクロヘキサン24質量部に、n−プロピルトリメトキシシラン(KBM−3033、信越化学工業(株))6質量部を溶解した溶液〕30質量部中に投入し、30℃で20時間、200rpmで撹拌し、前記多孔質粒子の表面の不活性化を行った。不活性化終了後、処理液から前記多孔質粒子をろ過によりろ別し、自然乾燥することにより、潜在性硬化剤を得た。
【0104】
(実施例1)
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製>
−材料−
・脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P、(株)ダイセル) 100質量部
・トリフェニルシラノール(東京化成工業(株)) 2質量部
・ホウ酸トリブチル(東京化成工業(株)) 1質量部
・製造例1で作製した潜在性硬化剤 1質量部
【0105】
上記材料を用いて、以下の方法で熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製を行った。
CEL2021Pにトリフェニルシラノールを配合後、80℃で4時間加熱することで、トリフェニルシラノールの溶解を行った。続いて、得られた液を放冷した後、その他材料を配合し、あわとり練太郎(AR−250:(株)シンキー)で2000rpmで1分間撹拌することで、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0106】
脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P)の構造は以下のとおりである。
【化6】
【0107】
(実施例2
、実施例4〜実施例9、
参考例3、比較例1〜比較例2)
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製>
実施例1において、トリフェニルシラノール、KBM−403(信越化学工業(株)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、及びホウ酸トリブチルの配合量を以下の表1に示す配合量に変更した以外は、実施例1と同様にして、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0108】
【表1】
【0109】
(実施例10)
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製>
実施例2において、ホウ酸トリブチルをホウ酸トリメチルに変更した以外は、実施例2と同様にして、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0110】
(実施例11)
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製>
実施例2において、トリフェニルシラノールを4−TFMシラノールに変更した以外は、実施例2と同様にして、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
【0111】
4−TFMシラノールは、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)シラノールであり、下記構造式で表される。
【化7】
【0112】
4−TFMシラノールは、例えば、以下の公知文献に従って合成できる。
Shuzi Hayase, Yasunobu Onishi, Shuichi Suzuki, Moriyasu Wada. Photopolymerization of Cyclohexene Oxide by Use of o−Nitrobenzyl Triphenylsilyl Ether / Aluminum Compound Catalyst. Dependence of Catalyst Activity on the Structure of the Silyl Ether. Journal of polymer Science: Part A: Polymer Chemistry 25, pp.753−763, 1987
【0113】
(DSC測定)
実施例1〜2
、実施例4〜実施例9、
参考例3、比較例1〜比較例2で得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物について、DSC測定を行った。
以下の測定条件で、DSC測定を行った。結果を表2〜表5、
図1〜
図4に示す。
−測定条件−
・測定装置:示差熱分析装置(DSC6200、(株)日立ハイテクサイエンス)
・評価量:5mg
・昇温速度10℃/1min
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
DSCの結果から、トリフェニルシラノールをホウ酸エステルに置き換えた場合、発熱開始温度が低温化していることがわかる。また、トリフェニルシラノールよりもホウ酸トリブチル配合量を大きくした実施例2の配合に関しては、発熱開始温度の低温化と共に発熱ピーク温度の低温化も見られた。しかしながら、トリフェニルシラノールをホウ酸トリブチルに完全に置き換えた
参考例3の配合の場合は、DSCチャートの高温シフトが見られた為、トリフェニルシラノールの一部をホウ酸トリブチルに置き換える配合が硬化開始を低温化する上で有効であることがわかる。
【0119】
シランカップリング剤の系においても同様に、ホウ酸エステルへ一部置き換えると、発熱開始温度が低温化していることがわかる。実施例4の場合は約9℃、実施例5の場合は約13℃も発熱開始温度が低温化した。
【0120】
(保存時の粘度変化)
実施例2、実施例5、及び比較例1の熱硬化型エポキシ樹脂組成物の粘度変化を測定した。
【0121】
<測定方法>
以下の測定条件で、粘度測定を行った。結果を表6に示す。
−測定条件−
・測定装置:SV−10(振動式粘度計(株)エーアンド・デイ)
・エージング温度:室温(25℃)
・粘度測定温度:20℃
【0122】
【表6】
表6中、「H」は時間を表す。即ち、1Hは1時間を表す。そのため、例えば、「1H粘度」とは、1時間後の粘度を意味する。
【0123】
実施例2と5は、DSC発熱開始温度が低温化(約55℃と61℃)しているにもかかわらず、カチオン重合性に優れる脂環式エポキシ樹脂中で良好な液ライフを示した。いずれも室温保管48H後の粘度倍率は、初期比1.7倍程度であり、比較例1と対比しても劣るものではなかった。特に硬化助剤としてシランカップリング剤(KBM−403)を用いた場合、6H後の粘度増加率は初期比5%以内であった。
【0124】
以上、アルミニウムキレート−有機シラン化合物(アリールシラノール、シランカップリング剤)硬化系において、有機シラン化合物の一部をホウ酸エステルに置き換えた硬化系は有機シラン化合物のみを用いた硬化系と比べて硬化開始温度を低温化することが可能である。また、アルキルアルコキシシランで表面処理された、高潜在性を示す潜在性硬化剤を用いることで、低温活性化と共に室温下で良好な液ライフを示す熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製することが可能となる。