特許第6948160号(P6948160)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948160複素環式化合物が担持可能なハイドロゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948160
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】複素環式化合物が担持可能なハイドロゲル
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/075 20060101AFI20210930BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20210930BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20210930BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20210930BHJP
   A61K 47/32 20060101ALN20210930BHJP
【FI】
   C08J3/075CEY
   C08L101/14
   C08K5/34
   C08F220/12
   !A61K9/06
   !A61K47/32
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-108385(P2017-108385)
(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-203832(P2018-203832A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】窪田 祐貴子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 佳子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆郎
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−031440(JP,A)
【文献】 特表2000−503698(JP,A)
【文献】 特表2006−522823(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/080958(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0125541(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08J 3/00 − 3/28
C08J 99/00
C08C 19/00 − 19/44
C08F 6/00 − 246/00
C08F 301/00
C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
A61K 9/00 − 9/72
A61K 47/00 − 47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環内に少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ、環内の該窒素原子に隣り合う原子がアミノ基を有する、単環式又は多環式の3〜12員複素環式モノマーと、
親水性モノマーと、
アニオン性モノマーと
を構成成分として含むハイドロゲル。
【請求項2】
前記複素環式モノマーは、ビニル基又は下記一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、nは0又は1〜5の整数を示し;
Zは酸素原子又はNH基を示し;
は水素原子又はCH基を示し;及び、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アミノ基又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で示される重合性基を有する、請求項に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
前記複素環式モノマーが、プリン環、トリアジン環、ピリジン環、イミダゾール環及びプテリジン環からなる群より選択される環構造を有する複素環式モノマーである、請求項のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
前記ハイドロゲルが、疎水性モノマーを構成成分としてさらに含む、又は疎水性モノマーと、該疎水性モノマー以外のシリコーン含有モノマーを構成成分としてさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
環内に少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ、環内の該窒素原子に隣り合う原子がアミノ基を有する、単環式又は多環式の3〜12員複素環式モノマーと、
親水性モノマーと、
を構成成分として含むハイドロゲルと、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物とを接触する工程を含む、複素環式化合物の担持方法。
【請求項6】
環内に少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ、環内の該窒素原子に隣り合う原子がアミノ基を有する、単環式又は多環式の3〜12員複素環式モノマーと、
親水性モノマーと、
を構成成分として含むハイドロゲルと、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物とを接触することにより、該複素環式化合物を担持したハイドロゲルを得る工程を含む、複素環式化合物担持ハイドロゲルの製造方法。
【請求項7】
環内に少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ、環内の該窒素原子に隣り合う原子がアミノ基を有する、単環式又は多環式の3〜12員複素環式モノマーと、
親水性モノマーと、
を構成成分として含むハイドロゲルであって、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物を水素結合により担持したハイドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複素環式化合物が担持可能なハイドロゲルに関する。より詳しくは、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体、ピラジン誘導体などの複素環式化合物の担持体として有用な、分子内に複素環を有する重合性化合物を構成成分として含むハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
各種疾患用の薬剤として、ピリミジンやピリミジンの構造異性体であるピリダジン及びピラジンの誘導体であるピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体が知られており、実際に使用されているものもある。
【0003】
ところが、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体の中には、優れた薬効を示す一方で、強い毒性や副作用を発現するものがある。そこで、安全に治療対象部位へ送達するために、これらの誘導体を効率的に担持する基材が求められている。
【0004】
薬剤を所望の部位へ送達する方法の一つであるドラッグデリバリーシステム(DDS)は、一般に、薬剤を内部に包含する担持体と放出制御する透過膜とから構成されることが多い。薬剤が水溶性薬剤の場合、薬剤の担持体としてハイドロゲルが選択されることがある。この場合、薬剤の包含量は、薬剤の溶解性に大きく影響するため、ハイドロゲルの含水率に依存する。したがって、ハイドロゲルの含水率が向上することによって、薬剤の包含量が増加する傾向にある。
【0005】
ところが、このようなハイドロゲルの含水率に依存して薬剤を包含しようとする場合、薬剤はハイドロゲル内の水分に溶解した状態に保たれるに過ぎず、ハイドロゲル内へ薬剤を安定的に保持することが難しいという問題があった。そこで、薬剤の担持体であるハイドロゲル基材と包含させるべきアニオン性薬剤との間にイオン結合を形成することにより、含水率に依存せずにハイドロゲル内への薬剤の保持性を向上させる薬剤担持用ハイドロゲルが知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−307574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1における薬剤担持体であるハイドロゲルは、ハイドロゲルが有する官能基とのイオン結合により薬剤を担持するものであることから、包含される薬剤がアニオン性薬剤に限定され、さらにアニオン性薬剤を包含するための条件は制約を受けるといった汎用性に問題がある。
【0008】
例えば、各種疾患用の薬剤として有望視されているピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体の中にはアニオン性基を有さないものや分子内の電荷の偏りがないものが多く、このようなものは特許文献1に記載の薬剤担持用ハイドロゲルによって担持することが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、特許文献1に記載の薬剤担持用ハイドロゲルによって担持することが困難である薬剤、特に、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体やピラジン誘導体の担持体として有用なハイドロゲルを提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決しようとして、対象の薬剤であるピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体の結合性について鋭意検討する中で、これらの誘導体と結合し得る化合物について模索したところ、複素環式モノマー、特に、環内に隣り合う形で窒素原子及びアミノ基を有する炭素原子を有する複素環式モノマーに着目するに至った。さらに試行錯誤を重ねることにより、当該複素環式モノマーを構成成分として含むハイドロゲルを創作することに成功した。このようにして創作したハイドロゲルは、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体と当該複素環式モノマーとの間で形成される水素結合により、適度な分子間相互作用をもって、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体をハイドロゲルの表面及び内部に担持することが可能なものであった。本発明はこれらの知見や成功例に基づいて完成された発明である。
【0011】
したがって、本発明の一態様によれば、以下[1]〜[9]のハイドロゲル及び方法が提供される。
[1]ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物を水素結合により担持可能な担持体であるハイドロゲル。
[2]環内に少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ、環内の該窒素原子に隣り合う原子がアミノ基を有する、単環式又は多環式の3〜12員複素環式モノマーと、
親水性モノマーと
を構成成分として含むハイドロゲル。
[3]前記ハイドロゲルは、構成成分としてアニオン性モノマーをさらに含む、[2]に記載のハイドロゲル。
[4]前記複素環式モノマーは、ビニル基又は下記一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、nは0又は1〜5の整数を示し;
Zは酸素原子又はNH基を示し;
は水素原子又はCH基を示し;及び、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アミノ基又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で示される重合性基を有する、[2]〜[3]のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
[5]前記複素環式モノマーが、プリン環、トリアジン環、ピリジン環、イミダゾール環及びプテリジン環からなる群より選択される環構造を有する複素環式モノマーである、[2]〜[4]のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
[6]前記ハイドロゲルが、疎水性モノマーを構成成分としてさらに含む、又は疎水性モノマーと、該疎水性モノマー以外のシリコーン含有モノマーを構成成分としてさらに含む、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のハイドロゲル。
[7][1]〜[6]のいずれか1項に記載のハイドロゲルと、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物とを接触する工程を含む、複素環式化合物の担持方法。
[8][1]〜[6]のいずれか1項に記載のハイドロゲルと、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物とを接触することにより、該複素環式化合物を担持したハイドロゲルを得る工程を含む、複素環式化合物担持ハイドロゲルの製造方法。
[9]ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物を水素結合により担持したハイドロゲル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体、ピラジン誘導体といった薬剤を、仮にこれらの薬剤がイオン性基を有さなかったとしても、水素結合を介してハイドロゲル内に担持することができる。さらに、本発明によれば、上記薬剤の取込み量が多く、及び/又は取り込んだ薬剤の徐放性に優れたハイドロゲルを利用するものであることから、担持した薬剤をハイドロゲル内に担持し続けることだけではなく、環境中にある薬剤をハイドロゲルに吸着させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、後述する実施例に記載があるとおりの、構成成分としてVDATである複素環式モノマーの有無による、ハイドロゲルのピリミジンジオン誘導体の取込量を評価した結果を示す図である。
図2図2は、後述する実施例に記載があるとおりの、構成成分としてDAMETの有無による、ハイドロゲルのピリミジンジオン誘導体の取込量を評価した結果を示す図である。
図3図3は、後述する実施例に記載があるとおりの、構成成分としてVDATである複素環式モノマーの有無による、IDUの放出率の評価結果を示す図である。
図4図4は、後述する実施例に記載があるとおりの、構成成分としてVDATである複素環式モノマーの有無による、5FUの放出率の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一態様であるハイドロゲル及び方法についての詳細を説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0015】
本明細書において、「モノマー」とは、「ポリマー」と対をなす用語を意味するものであり、分子内の重合性基によって重合可能な分子であって、ポリマーの構成成分として使用し得るものを意味する。本明細書において、「ポリマー」は、モノマーが重合して形成された分子を意味する。本明細書において、「ハイドロゲル」は、構成成分として親水性モノマーを含むことにより、内部に水を含むことによって膨潤すること(水和膨潤)が可能である物質を意味する。本明細書において、「担持」とは、一方の物質と他方の物質とが接触した状態を維持することを意味する。本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する総称である。
【0016】
本発明の一態様のハイドロゲルは、治療薬として有用な複素環式化合物を水素結合により担持可能な担持体である。複素環式化合物は、環内に窒素原子と該窒素原子に隣り合う炭素原子とを有し、該炭素原子がカルボニル基の態様をとる複素環式化合物であることが好ましい。すなわち、複素環式化合物は、環内に−N(−H)−C(=O)−という構造を有することが好ましい。
【0017】
本発明の一態様のハイドロゲルは、構成成分とする複素環式モノマーが、複素環式化合物と水素結合することによって、複素環式化合物をハイドロゲルの表面に加えて、ハイドロゲルの内部に担持することが可能である。
【0018】
ハイドロゲルを構成する複素環式モノマーは、環内に少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ、環内の該窒素原子に隣り合う原子がアミノ基を有する、単環式又は多環式の3〜12員複素環式モノマーである。複素環式モノマーにおける窒素原子が複素環式化合物の−N(−H)−C(=O)−における水素原子と水素結合を形成し、かつ、複素環式モノマーにおける該窒素原子に隣り合う原子が有するアミノ基の水素原子が複素環式化合物の−N(−H)−C(=O)−における酸素原子と水素結合を形成することにより、複素環式モノマーを介して、ハイドロゲルは複素環式化合物を担持することが可能である。
【0019】
複素環式モノマーにおいて、複素環式化合物と良好な水素結合を形成するために、環内における窒素原子及び該窒素原子に隣り合うアミノ基を有する原子が、−N=C(−NH)−の構造をとることが好ましい。これにより、複素環式モノマーにおける−N=C(−NH)−の窒素原子が複素環式化合物の−N(−H)−C(=O)−における水素原子と水素結合を形成し、かつ、複素環式モノマーにおける−N=C(−NH)−の水素原子が複素環式化合物の−N(−H)−C(=O)−における酸素原子と水素結合を形成することにより、複素環式モノマーを介してハイドロゲルが複素環式化合物を担持することができるようになる。
【0020】
複素環式モノマーは、環内に少なくとも1つの窒素原子を有し、かつ、環内の該窒素原子に隣り合う原子がアミノ基を有する、単環式又は多環式の3〜12員複素環式モノマーであって、複素環式化合物と水素結合を形成することが可能なものであれば、その他の構造や特性などについては特に限定されない。
【0021】
複素環式モノマーの重合性基は、通常知られているのとおりの重合反応に供される官能基であれば特に限定されないが、例えば、共重合性の観点から、ビニル基又は下記一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、nは1〜5の整数を示し;
は水素原子又はCH基を示し;
Zは酸素原子又はNH基を示し;及び、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アミノ基又は炭素数1〜5のアルキル基を示す)
で示される重合性基であることが好ましい。
【0022】
単環式の複素環の具体例としては、アジリジン−2−アミンなどの3員環化合物;4−アミノアゼチジン−2−オン、4−メチル−1−アミノアゼチジン−2−オンなどの4員環化合物;2−ピロリジンアミン、3−ピロリン−2−イミンなどの5員環化合物;2,6−ジアミノピリジン、2−アミノピリジン、ピペリジン−2−アミン、2−(2−アミノエチルアミノ)ピリジン、5−メチル−2−ピリジルアミニルラジカル、6−アミノピリジン−3−カルボニトリル、ピリジン−2,3,4−トリアミン、4−アミノピリミジン、2−メチル−4−ピリミジンアミン、4,5−ピリミジンジアミン、4,6−ピリミジンジアミン、2,4−ジアミノピリミジン、5−メチルピリミジン−4−アミン、4−アミノ−5−ヒドロキシピリミジン、2−フルオロ−4−アミノピリミジン、5−メチルピリミジン−2−アミン、2−アミノ−4−メチルピリミジン、1,3,5−トリアジン−2−アミン、1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミン、N−メチル−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミン、4−メチル−1,3,5−トリアジン−2−アミン、4−エチル−s−トリアジン−2−アミンなどの6員環化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
多環式の複素環の具体例としては、3−アミノイソキノリン、アデニン、1−メチルアデニン、2−メチルアデニン、3−メチルアデニン、1−アミノアデニン、2,6−ジアミノプリン、3H−プリン−3,6−ジアミン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−2−アミン、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−8−アミン、1H−ベンゾイミダゾール−4−アミン、5−アミノ−1H−ベンゾイミダゾール、4−エチル−1H−ベンゾイミダゾール−5−アミン、4−エチル−1H−ベンゾイミダゾール−5−アミン、キノキサリン−2−アミン、5−キノキサリンアミン、5,6−ジアミノキノキサリン、1,5−ナフチリジン−4−アミン、キナゾリン−4−アミン、4−アミノ−5−メチルキナゾリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
複素環式モノマーは、複素環式化合物と水素結合を形成し得る環構造を有するものであれば特に限定されないが、例えば、水素結合を形成し易い環構造として、プリン環、トリアジン環、ピリジン環、イミダゾール環及びプテリジン環からなる群より選択される環構造を有するものであることが好ましく、プリン環及びトリアジン環のいずれかの環構造を有するものであることがより好ましい。ただし、複素環式モノマーは、複素環式化合物と水素結合を形成し得る環構造を有するものであれば、プリン環、トリアジン環、ピリジン環、イミダゾール環及びプテリジン環の環内の原子が、異なる原子に置換したもの、置換基を有する原子であるもの、縮合したものといった、プリン環、トリアジン環、ピリジン環、イミダゾール環及びプテリジン環の誘導体であってもよい。
【0025】
複素環式モノマーのより具体的な例としては、下記に示す一般式(2)及び(3)で示される2−ビニル−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン(VDAT)及び2,4−ジアミノ−6−[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]−1,3,5−トリアジン(DAMET)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
【化2】
(2)
【0027】
【化3】
(3)
【0028】
複素環式モノマーは、上記したもののうちの1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて配合することができる。複素環式モノマーを入手する方法は特に限定されず、例えば、複素環式モノマーとして市販されているものや公知文献を参照して製造したものなどを複素環式モノマーとして使用できる。具体的には、ヘンリーらの文献(Henri J.Spijker,A.(Ton)J.Dirks,Jan C.M.van Hest.Polymer.2005;19:8528−8535)を参照して、ピリミジン環やプリン環を有する複素環式モノマーを製造することができる。また、サクスワンらの文献(Acharee Suksuwan,Luelak Lomlim1,Thanyada Rungrotmongkol.J.APPL.Polym.Sci.2015:41930)を参照して、ピリミジン環を有する複素環式モノマーを製造することができる。
【0029】
複素環式モノマーの配合量は特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルのモノマー成分の総量に対して5〜50wt%であることが好ましく、10〜40wt%であることがより好ましく、15〜30wt%であることがさらに好ましい。複素環式モノマーの配合量が、ハイドロゲルのモノマー成分の総量に対して50wt%を超える場合、得られるハイドロゲルの軟質性が低下する傾向にあることから好ましくない。
【0030】
本発明の一態様のハイドロゲルは、構成成分として親水性モノマーを含むことにより、ハイドロゲルとしての態様をとることができる。
【0031】
親水性モノマーは、分子内に少なくとも一つの親水性基及び(メタ)アクリロイル基やビニル基といった重合性基を有するモノマーであれば特に限定されず、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ポリプロピレングリコ−ル(メタ)アクリレート、メタクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドンなどが挙げられる。親水性モノマーとしては、これらのうちの1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0032】
親水性モノマーの配合量は特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルのモノマー成分の総量に対して5〜95wt%であることが好ましく、10〜80wt%であることがより好ましい。親水性モノマーの配合量がハイドロゲルのモノマー成分の総量に対して5wt%を下回る場合、得られるハイドロゲルの軟質性が低下する傾向にあることから好ましくなく、95wt%を上回る場合は十分な量の複素環式化合物を配合できず、有効量のピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体、ピララジン誘導体を担持することができない傾向にあることから好ましくない。
【0033】
複素環式モノマーは、一般的に水に対しての溶解性が極めて低く、酸性条件下においてのみ溶解が可能である。そこで、溶媒としての意味合いからも、複素環式モノマーとともにアニオン性モノマーを使用することが好ましく、カルボキシ基を有するアニオン性モノマーがより好ましい。
【0034】
アニオン性モノマーは、分子内に少なくとも一つのアニオン性基及び(メタ)アクリロイル基やビニル基といった重合性基を有するモノマーであれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のエチレン系不飽和カルボン酸などが挙げられる。アニオン性モノマーとしては、これらのうちの1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0035】
アニオン性モノマーの配合量は特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルのモノマー成分の総量に対して5〜95wt%であることが好ましく、10〜90wt%であることがより好ましく、15〜85wt%であることがさらに好ましい。アニオン性モノマーの配合量がハイドロゲルのモノマー成分の総量に対して5wt%を下回る場合、複素環式モノマーの溶解性が悪くなり、ハイドロゲルの定形性が損なわれる傾向にあることや白濁が生じる傾向にあることなどから好ましくない。
【0036】
本発明の一態様のハイドロゲルは、複素環式モノマー、親水性モノマー及びアニオン性モノマーに加えて、これらと共重合可能なその他のモノマーを構成成分として含むことができる。その他のモノマーとしては、疎水性モノマー、シリコーン含有モノマー、架橋性モノマーなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0037】
疎水性モノマーは、分子内に親水性基を有さず、かつ、少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基やビニル基といった重合性基を有するモノマーであれば特に限定されない。疎水性モノマーの具体例としては、トリフルオロエチルメタクリレート、シロキサニルメタクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、エチルへキシルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系モノマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。疎水性モノマーは、これらのうちの1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0038】
シリコーン含有モノマーは、分子内にシロキサン結合構造を有し、かつ、(メタ)アクリロイル基やビニル基といった重合性基を有するモノマーであれば特に限定されない。シリコーン含有モノマーの具体例としては、α−モノ(メタクリロイルオキシメチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ジ(メタクリルオキシメチル)ポリジメチルシロキサン、α−モノ(3−メタクリロイルオキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ジ(3−メタクリロイルオキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α−モノ(3−メタクロイルオキシブチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ジ(3−メタクリロイルオキシブチル)ポリジメチルシロキサン、α−モノビニルポリジメチルシロキサン、α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン、3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルメチル(メタ)アクリレ−ト、3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、3−メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルメチル(メタ)アクリレート、3−メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、3−トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、3−トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、3−メチルジメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。シリコーン含有モノマーは、これらのうちの1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0039】
疎水性モノマー及びシリコーン含有モノマーの配合量は特に限定されず、ハイドロゲルに与えるべき酸素透過性や含水率などの特性に応じて、当業者により適宜設定することができる。
【0040】
架橋性モノマーは、ハイドロゲルの網目構造の形成や機械的強度を調整するなどのために配合することができる。架橋性モノマーは、分子内に2つ以上の(メタ)アクリル基やビニル基といった重合性基を有するモノマーであれば特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。架橋性モノマーとしては、これらのうちの1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0041】
架橋性モノマーの配合量は特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルのモノマー成分の総量に対して、0.1〜5wt%が好ましく、0.2〜1wt%がより好ましい。架橋性モノマーの配合量が5wt%を超える場合、得られるハイドロゲルの柔軟性が低下する傾向にあることから好ましくない。
【0042】
本発明の一態様のハイドロゲルは、構成成分であるモノマーを共重合反応に供することにより得ることができる。モノマーの共重合反応は特に限定されないが、例えば、電子線や熱などを用いた当業者に知られる一般的な方法で行うことができ、この際に使用する重合開始剤は特に限定されない。例えば、重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを単独又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0043】
本発明の一態様のハイドロゲルは、ハイドロゲルを製造する方法として当業者により通常知られている工程を組み合わせることで製造することができる。ハイドロゲルの製造方法は特に限定されないが、例えば、下記工程を組み合わせることによって得ることができる。
【0044】
ポリマーを得る工程として、構成成分であるモノマーを混合して得られるモノマー混合液を金属、ガラス、プラスチックなどの成形型に入れ、密閉し、恒温槽などで段階的又は連続的に25〜120℃の範囲で昇温し、5〜120時間で共重合反応を完了させることによりポリマーを含む成形型を得ることができる。重合に関しては、紫外線、電子線、ガンマ線などを用いることが可能である。また、モノマー混合液に水や有機溶媒を添加することで溶液重合を適応することが可能である。モノマー混合液の調製では、複素環式モノマーは水に対する溶解性が低いことから、酸性溶媒を用いることが好ましく、酸性溶媒としてアニオン性モノマーを用いることがより好ましい。
【0045】
ハイドロゲルを得る工程として、重合終了後の成形型を室温に冷却し、成形型に入っているポリマーを成形型から剥離し、必要に応じて切削、研磨した後に、ポリマーを水和膨潤させてハイドロゲルとする。使用する液体(膨潤液)としては、例えば、水、生理食塩水、等張性緩衝液及びこれらにエタノールなどの有機溶媒を混合した溶液などが挙げられるがこれらに限定されない。膨潤液を60〜100℃に加温し、ポリマーを一定時間膨潤液に浸漬させて膨潤状態とする。また、膨潤処理時にポリマーに付着する未反応のモノマーを除去することが好ましい。得られたハイドロゲルは、生理食塩水などの膨潤液に浸漬した状態で、110〜130℃、10〜60分間の高圧蒸気滅菌に供することにより定形化することができる。
【0046】
本発明の一態様のハイドロゲルは、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体、ピラジン誘導体といった複素環式化合物の担持体として機能する。本発明の一態様のハイドロゲルにおける複素環式モノマーの窒素原子及び複素環側鎖の置換基であるアミノ基と、複素環式化合物とが水素結合による強い相互作用を形成することで、複素環式化合物がハイドロゲルの表面及び内部に担持される。
【0047】
複素環式化合物は、ピリジン骨格、ピリミジン骨格、ピリダジン骨格及びピラジン骨格からなる群から選ばれる骨格を有するものである。複素環式化合物は、環内の−N(−H)−における水素原子が本発明の一態様のハイドロゲルにおける複素環式モノマーの環内の窒素原子と水素結合を形成する。
【0048】
複素環式化合物は、さらなる水素結合を形成するために、環内の−N(−H)−に隣り合う原子がカルボニル基(−C(=O)−)の態様をとることが好ましい。すなわち、複素環式化合物は、環内に−N(−H)−C(=O)−という構造を有することが好ましい。
【0049】
環内に−N(−H)−C(=O)−という構造を有する複素環式化合物は特に限定されないが、例えば、ピリドン誘導体、ピリジンジオン誘導体、ピリミドン誘導体、ピリミジンジオン誘導体、ピリダジンオン誘導体、ピリダジンジオン誘導体、ピラジンオン誘導体及びピラジンジオン誘導体などが挙げられ、具体的には下記一般式(4)〜(7)のいずれかで表されるピリミジンジオン誘導体、ピリダジンジオン誘導体、ピラジンジオン誘導体及びピリジンジオン誘導体などが挙げられる。
【0050】
【化4】
(4)
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、F、Cl、Br、Iといったハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の炭化水素化合物、アミド基、カルボキシル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、シリル基、ホスフィンオキサイド基又は複素環基を示し;及び、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜6の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の炭化水素化合物を示す。)
【0051】
【化5】
(5)
(式中のR、R、R及びRは、一般式(4)と同一のものを示す。)
【0052】
【化6】
(6)
(式中のR、R、R及びRは、一般式(4)と同一のものを示す。)
【0053】
【化7】
(7)
(式中のR、R、R及びRは、一般式(4)と同一のものを示す。)
【0054】
複素環式化合物の具体例としては、1,3−ジメチル−5−クロロピリミジン−2,4−ジオン、1,3−ジメチル−5−ブロモピリミジン−2,4−ジオン、2,3−ジヒドロ−2−イミノピリミジン−4,6−ジオン、5−フルオロピリミジン−2,4−ジオン、5−フルオロ−1−[(テトラヒドロフラン)−2−イル]ピリミジン−2,4−ジオン、1−(2−デオキシ−β−Dリボフラノシル)−5−ヨードピリミジン−2,4−ジオンなどのピリミジンジオン誘導体;4−メチル−3,6−ピリダジンジオン、4,5−ジブロモ−1,2−ジエチル−3,6−ピリダジンジオン、4,5−ジメチル−3,6−ピリダジンジオンなどのピリダジンジオン誘導体;6−ヒドロキシメチル−1−メチル−2,3−ピラジンジオンなどのピラジンジオン誘導体;4−アミノ−2,6(1H,3H)−ピリジンジオンなどのピリジンジオン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
複素環式化合物と本発明の一態様のハイドロゲルにおける複素環式モノマーとの組み合わせの具体例は以下の組み合わせ例1−1〜6−2によって示されるが、特に限定されない。なお、組み合わせ例中の点線は水素結合を示す。
【0056】
【化8】
【0057】
本発明の一態様のハイドロゲルに複素環式化合物を担持する方法は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様のハイドロゲルを、複素環式化合物を溶解させた溶液中に室温又は加温状態にて浸漬することなどによって、本発明の一態様のハイドロゲルと複素環式化合物方法とを接触することを含む方法などが挙げられる。浸漬時間は溶液の濃度や液温により適宜設定することができるが、例えば、12〜48時間程度であることが好ましい。
【0058】
本発明の一態様の方法は、本発明の一態様のハイドロゲルと複素環式化合物とを接触する工程を少なくとも含む、複素環式化合物の担持方法である。本発明の別の一態様の方法は、本発明の一態様のハイドロゲルと複素環式化合物とを接触することにより、該複素環式化合物を担持したハイドロゲルを得る工程を少なくとも含む、複素環式化合物の担持方法である。本発明の一態様の方法では、本発明の目的を達成し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0059】
本発明の一態様のハイドロゲルが保持する複素環式化合物の量は、例えば、後述する実施例に記載されている方法に従って、複素環式化合物を保持した後のハイドロゲルをリン酸緩衝液中に24時間浸漬して、溶出された複素環式化合物の量を高速液体クロマトグラフィーによって定量することにより確認することができる。
【0060】
本発明の一態様のハイドロゲルは、複素環式モノマーを構成成分として含むことにより、保持した複素環式化合物を徐放することができる。本発明の一態様のハイドロゲルが保持した複素環式化合物の徐放性は特に限定されず、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレ−ト、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリル酸及びエチレングリコールジメタクリレートからなるモノマー成分を共重合して得られるコントロールハイドロゲルが保持した複素環式化合物の徐放性よりも優れており、放出開始後1時間の放出率が該コントロールハイドロゲルの放出率に対して0.7倍以下である程度の徐放性であることが好ましく、0.5倍以下である程度の徐放性であることがより好ましく、0.4倍以下である程度の徐放性であることがさらに好ましく、0.3倍以下である程度の徐放性であることがなおさらに好ましい。また、本発明の一態様のハイドロゲルが保持した複素環式化合物の放出率を基準にして考えれば、例えば、放出開始後1時間の放出率は70%以下であり、好ましくは60%以下であり、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下であり、なおさらに好ましくは30%以下である。本発明の一態様のハイドロゲルが保持した複素環式化合物の放出率は、後述する実施例に記載の方法によって算出できる。
【0061】
本発明の一態様のハイドロゲルは、複素環式モノマーをハイドロゲルの構成成分として含むことにより、ピリジンジオン誘導体、ピリダジンジオン誘導体、ピリミジンジオン誘導体、ピラジンジオン誘導体といった複素環式化合物における窒素原子及び置換されたアミノ基との水素結合によって、該複素環式化合物をハイドロゲル表面及び内部に担持することができることから、DDS媒体、分離膜、吸着材、コンタクトレンズなどの眼用レンズとして利用することができる。特に、本発明の一態様のハイドロゲルをコンタクトレンズとして使用する場合は、眼内に装着する前に保持した複素環式化合物を眼内に徐放させることができるとともに、眼内に存在する複素環式化合物を本発明の一態様のハイドロゲルによって吸着することによって過剰の複素環式化合物を除去して副作用を低減することができる。
【0062】
本発明の別の一態様のハイドロゲルは、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体及びピラジン誘導体からなる群から選ばれる複素環式化合物を水素結合により担持したハイドロゲルである。
【0063】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0064】
[1.ハイドロゲル(1)〜(5)の作成]
表1に示すモノマー割合になるように、2−ヒドロキシエチルメタクリレ−ト(HEMA)、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸(HOMS)、アクリル酸(AA)及び2−ビニル−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン(VDAT)(それぞれ東京化成工業(株)製)並びに2,4−ジアミノ−6−[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]−1,3,5−トリアジン(DAMET)(和光純薬工業(株)製)を量り込んだ後、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)(三菱レイヨン(株)製)を加え、さらにモノマーの総重量に対して3,500ppm(外部)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、撹拌混合することにより、モノマー混合液を調製した。
【0065】
得られたモノマー混合液を、ディスク形状の成形型に入れ、30〜110℃の範囲で15時間かけて昇温させ、重合体を得た。得られた重合体を、室温に戻し、成形型より取出した後、70℃のエタノール含有生理食塩水溶液及び生理食塩水溶液中に各々1時間浸漬させて水和膨潤することによりハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルを、生理食塩水溶液に浸漬させ、121℃、30分間で高圧蒸気滅菌を行うことにより、定型デバイスとしてハイドロゲル(1)〜(5)を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
[2.ピリミジンジオン誘導体溶液の調製]
1−(2−デオキシ−β−Dリボフラノシル)−5−ヨードピリミジン−2,4−ジオン(IDU)を1,000μg/mLとなるように生理食塩水中に量り込み、室温で30分間撹拌することにより、IDU溶液を調製した。
【0068】
5−フルオロピリミジン−2,4−ジオン(5FU)を1,000μg/mLとなるように生理食塩水中に量り込み、室温で30分間撹拌することにより、5FU溶液を調製した。
【0069】
[3.ピリミジンジオン誘導体担持ハイドロゲルの調製]
(実施例1)
ハイドロゲル(1) 5枚を、2mlずつ分取したIDU溶液中に各々浸漬した後、室温で24時間静置することにより、IDU担持ハイドロゲルを得た。
【0070】
(実施例2)
ハイドロゲル(2) 5枚を、2mlずつ分取したIDU溶液中に各々浸漬した後、室温で24時間静置することにより、IDU担持ハイドロゲルを得た。
【0071】
(実施例3)
ハイドロゲル(2) 5枚を、2mlずつ分取した5FU溶液中に各々浸漬した後、室温で24時間静置することにより、5FU担持ハイドロゲルを得た。
【0072】
(実施例4)
ハイドロゲル(3) 5枚を、2mlずつ分取したIDU溶液中に各々浸漬した後、室温で24時間静置することにより、IDU担持ハイドロゲルを得た。
【0073】
(実施例5)
ハイドロゲル(4) 5枚を、2mlずつ分取したIDU溶液中に各々浸漬した後、室温で24時間静置することにより、IDU担持ハイドロゲルを得た。
【0074】
(比較例1)
ハイドロゲル(5) 5枚を、2mlずつ分取したIDU溶液中に各々浸漬した後、室温で24時間静置することにより、IDU担持ハイドロゲルを得た。
【0075】
(比較例2)
ハイドロゲル(5) 5枚を、2mlずつ分取した5FU溶液中に各々浸漬した後、室温で24時間静置することにより、5FU担持ハイドロゲルを得た。
【0076】
[4.ハイドロゲルの評価方法]
<ピリミジンジオン誘導体の取込量の測定>
実施例1、実施例2、実施例4及び実施例5並びに比較例1のピリミジンジオン誘導体担持ハイドロゲルを、リン酸緩衝液(PBS)に浸漬して、室温にて24時間静置した。PBS中に浸漬することにより、ハイドロゲルに担持させたピリミジンジオン誘導体を溶液中に溶出させた。溶出後の生理食塩水中のピリミジンジオン誘導体を、常法に従って、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、日本分光(株)社製)を用いてそれらに含有されるIDUを定量した。
【0077】
定量して得られた値を、単位ハイドロゲルあたりのIDU取込量(μg/g)とした。使用したハイドロゲル別のIDU取込量の結果を表2及び表3に示し、平均IDU取込量の結果を図1及び図2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表2〜3及び図1〜2が示すように、VDATやDAMETといった、環内に隣り合う形で窒素原子及びアミノ基を有する炭素原子を有する複素環式モノマーを構成成分として含むハイドロゲル(実施例1〜2及び4〜5)は、該複素環式モノマーを構成成分として含まないハイドロゲル(比較例1)に比べると、大量のピリミジンジオン誘導体を担持し得ることが確認された。
【0081】
<ピリミジンジオン誘導体担持性の評価>
実施例2及び実施例3並びに比較例1及び比較例2のピリミジンジオン誘導体担持ハイドロゲルを、室温で2mlの生理食塩水中に一定時間浸漬させた(0.5、1、2、4、8及び24時間)。浸漬後に生理食塩水に含有(溶出)される薬剤量を、常法に従って、超微量分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)社製)を用いて定量した。
【0082】
定量して得られた値から下式に従って放出率を求め、この放出率によりピリミジンジオン誘導体担持性を評価した。各時間における平均放出率の結果を、IDUについては表4及び図3に示し、5FUについては表5及び図4に示す。
放出率(%)=(各時間の放出量/取込量)×100
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
表4〜5及び図3〜4が示すように、VDATといった、環内に隣り合う形で窒素原子及びアミノ基を有する炭素原子を有する複素環式モノマーを構成成分として含むハイドロゲル(実施例2〜3)は、該複素環式モノマーを構成成分として含まないハイドロゲル(比較例1〜2)に比べると、ピリミジンジオン誘導体の経時的な放出率が小さく、長時間にわたってピリミジンジオン誘導体を担持し続けることができるとともに、ピリミジンジオン誘導体を徐々に放出(徐放)することができることが確認された。
【0086】
以上の結果より、環内に隣り合う形で窒素原子及びアミノ基を有する炭素原子を有する複素環式モノマーを構成成分として含むハイドロゲルは、ピリミジンジオン誘導体の取込みに優れており、かつ、取り込んだピリミジンジオン誘導体の徐放性に優れたものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の一態様のハイドロゲルや本発明の一態様の方法によるハイドロゲルは、所望の量のピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピリダジン誘導体、ピラジン誘導体といった薬剤を効率的に担持することができ、かつ、優れた薬剤徐放性を示すハイドロゲルであることから、眼用レンズなどの医療用デバイスとして利用することにより、薬物療法や再生医療などが期待される者の健康と福祉に貢献できるものである。


図1
図2
図3
図4