(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948188
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】凍結生イースト成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/18 20060101AFI20210930BHJP
A21D 8/04 20060101ALI20210930BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20210930BHJP
A23L 31/10 20160101ALI20210930BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20210930BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
C12N1/18
A21D8/04
A21D13/00
A23L31/10
C12N1/00 L
C12N1/00 N
C12N1/04
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-161975(P2017-161975)
(22)【出願日】2017年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-33455(P2018-33455A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2020年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-166204(P2016-166204)
(32)【優先日】2016年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 大
(72)【発明者】
【氏名】出海 卓也
【審査官】
原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−084579(JP,A)
【文献】
特開昭62−282578(JP,A)
【文献】
特開昭63−102628(JP,A)
【文献】
特開2006−304601(JP,A)
【文献】
特開2010−081875(JP,A)
【文献】
米国特許第05427943(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A21D
A23L
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結生イースト成形体であって、
前記成形体は、食用油脂又は乳化剤が添加されておらず且つ密度が0.90〜1.20g/cm3の生イーストが凍結されたものであり、
前記成形体は、重量が5〜1200gであり、
前記凍結生イースト成形体の全重量に対して、イースト含量が乾燥重量として25〜40重量%であり、水分含量が60〜75重量%である、凍結生イースト成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の凍結生イースト成形体が複数個充填されたパッケージ。
【請求項3】
成形体重量の変動係数が0.014以下である、請求項2に記載のパッケージ。
【請求項4】
食用油脂又は乳化剤が添加されておらず且つ密度が0.90〜1.20g/cm3、重量が5〜1200gである生イーストを冷凍する工程を含み、凍結生イースト成形体は、その全重量に対して、イースト含量が乾燥重量として25〜40重量%であり、水分含量が60〜75重量%である、凍結生イースト成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の凍結生イースト成形体と他のパン生地原材料とを混捏してパン生地を製造する工程を含む、パン生地の製造方法。
【請求項6】
前記凍結生イースト成形体を、解凍せず凍結状態のまま、前記パン生地原材料に配合して混捏する、請求項5に記載のパン生地の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の凍結生イースト成形体と他のパン生地原材料とを混捏してパン生地を製造する工程、及び、前記パン生地を加熱調理してパンを得る工程を含む、パンの製造方法。
【請求項8】
前記凍結生イースト成形体を、解凍せず凍結状態のまま、前記パン生地原材料に配合して混捏する、請求項7に記載のパンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生イーストを凍結してなる凍結生イースト成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製パン業界では人材の流動化および国際化のために不慣れな作業者が多くなり、また、コスト競争が激化しているため、製パン工程の簡便化および効率化が求められている。
【0003】
製パン用イーストの流通形態は、生イースト、ドライイースト、セミドライイーストに大別される。生イーストは、圧搾イーストともいわれ、ブロック状または粉状の形状で販売されている。このような生イーストは、ドライイーストまたはセミドライイーストと比べて砂糖を分解する力が強く、風味が良好で発酵力が高い等の特長が支持され、市場で最も多く流通している。
【0004】
しかしながら、生イーストは乾燥や温度変化に弱く、冷蔵で保存する必要がある。冷蔵で保存しないとすぐに腐ってしまい、また、冷蔵で保存しても保存期間は一般に2週間から長くて1カ月とされている。
【0005】
加えて、生イーストは脆く、製造、流通、保存、及び計量時に崩壊しやすいために、パン生地に配合する前の計量作業が煩雑となり、また、計量に付随して衛生問題や清掃作業が発生するという問題があり、製パン工程の簡便化および効率化の障害となっていた。
【0006】
一方、生イーストの保存期間を延長するために、生イーストを冷凍で保存することが考えられる。しかし、非特許文献1では、生イーストを冷凍で保存すると、酵母の一部が死滅して発酵力が弱くなるので、生イーストは冷凍しない方が賢明であると記載されている。
【0007】
特許文献1では、粒状の冷凍イーストが記載されているが、これは、乾燥物質含量が70〜85%のドライイーストまたはセミドライイーストを冷凍したものにすぎず、上述のように砂糖を分解する力が十分ではなく、発酵力が低いという問題があった。
【0008】
特許文献2では、生イーストを凍結して生イーストの長期保存を実現したペレット状の凍結生イーストが記載されている。当該文献では、圧搾生イーストを食用油脂または乳化剤と練合してあるか、あるいは、ペレット表面に食用油脂または乳化剤が塗抹してあるペレット状凍結生イーストであって、ペレットの大きさが、格子幅0.9mmの篩を通るものが40%以下、25mmの篩を通るものが80%以上であるペレット状凍結生イーストが記載されており、当該ペレット状凍結生イーストは、イーストを使用する際の計量性、作業性、小麦粉生地中での分散性に優れ、通常の生イーストと同様に使用できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−282578号公報
【特許文献2】特開平9−84579号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Biochemistry, 1997年, 54巻, 234-240頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2に記載のペレット状凍結生イーストでは、これを製造するために、食用油脂や乳化剤といった原料を余分に添加する必要があった。また、当該ペレット状凍結生イーストは、具体的に開示されているペレットの粒径が3mmと小さく(実施例)、各ペレットの個数を数えてイーストを計量することが難しいという問題があった。
【0012】
また、食用油脂や乳化剤を使用せずに生イーストを凍結してなる従来の成形体は、製造、流通、保存、及び計量時に崩壊しやすく、崩壊した結果、各成形体の重量にバラツキが生じて、成形体の個数を数えることでイーストを正確に計量することはできないという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、食用油脂や乳化剤を添加せずに生イーストが凍結されており、長期保存後も生イーストの発酵力を維持し、製造、流通、保存、及び計量時に崩壊しにくく、凍結成形体の個数を数えることでイーストの正確な計量を可能にする凍結生イースト成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定範囲の密度の生イーストが凍結され、重量、イースト含量、及び水分含量が特定範囲にある凍結生イースト成形体は、食用油脂や乳化剤が添加されておらず、長期保存性に優れ、凍結成形体が崩壊しにくく、複数の成形体の重量に変動が少ないので、凍結成形体の個数を数えることでイーストの正確な計量が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の第一は、凍結生イースト成形体であって、前記成形体は、密度が0.90〜1.20g/cm
3の生イーストが凍結されたものであり、前記成形体は、重量が5〜1200gであり、前記凍結生イースト成形体の全重量に対して、イースト含量が乾燥重量として25〜40重量%であり、水分含量が60〜75重量%である、凍結生イースト成形体に関する。
【0016】
本発明の第二は、前記凍結生イースト成形体が複数個充填されたパッケージに関する。好ましくは、成形体重量の変動係数が0.014以下である。
【0017】
本発明の第三は、密度が0.90〜1.20g/cm
3、重量が5〜1200gである生イーストを冷凍する工程を含み、凍結生イースト成形体は、その全重量に対して、イースト含量が乾燥重量として25〜40重量%であり、水分含量が60〜75重量%である、凍結生イースト成形体の製造方法に関する。
【0018】
本発明の第四は、前記凍結生イースト成形体と他のパン生地原材料とを混捏してパン生地を製造する工程を含む、パン生地の製造方法に関する。好ましくは、前記凍結生イースト成形体を、解凍せず凍結状態のまま、前記パン生地原材料に配合して混捏する。
【0019】
本発明の第五は、前記製造方法により得られたパン生地を加熱調理してパンを得る工程を含む、パンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に従えば、食用油脂や乳化剤を添加せずに生イーストが凍結されており、長期保存後も生イーストの発酵力を維持し、また、製造、流通、保存、及び計量時に凍結成形体が崩壊しにくく、凍結成形体の個数を数えることでイーストの正確な計量が可能になる。
【0021】
また、本発明の凍結生イースト成形体は、解凍する作業を省略して凍結状態の成形体のままでパン生地原材料に配合しても、イーストが均一に分散したパン生地を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0023】
本発明の凍結生イースト成形体(以下、凍結成形体ともいう)は、生イーストが凍結されており、所定の形状に成形されたものである。当該凍結成形体は、食用油脂や乳化剤が添加されていないものであり、実質的に、生イーストのみからなる無添加のものが好ましい。
【0024】
本発明の凍結生イースト成形体は、凍結されているので、未凍結で単なる冷蔵保管の生イーストと比較して長期間保存することが可能になる。しかも、長期間保存後であっても、未凍結の生イーストの発酵力が維持されている。また、本発明の凍結生イースト成形体は、凍結されているので、未凍結の成形体と比較して、製造、流通、保存、及び計量時に成形体の形状が崩れにくく、複数の成形体の重量が均一に揃っており、成形体の個数を数えることがイーストの計量に直結する利点がある。
【0025】
本発明において、生イーストは圧搾イーストとも呼ばれるもので、水分含量が高いイーストである。この点で、乾燥工程に付されて水分含量が低いドライイースト(水分含量5〜10重量%)や、セミドライイースト(水分含量15〜30重量%)とは異なる。本発明における生イーストは、凍結生イースト成形体の全重量に対して、乾燥重量でイースト含量が25〜40重量%であり、水分含量が60〜75重量%である。水分含量が60重量%より少ないと、成形体が崩壊しやすくなり、各成形体の重量にバラツキが生じやすくなる恐れがある。水分含量が75重量%より多いと、これらの欠点に加えて、長期保存後の生イーストの発酵力が低下する傾向がある。より好ましくはイースト含量が30〜35重量%、水分含量が65〜70重量%である。
【0026】
本発明で使用するイーストの菌株は、冷凍保存によって発酵力が大幅に落ちない菌株である限り特に限定されないが、例えば、以下のサッカロマイセス・セレビシエが挙げられる。CFB27−1(寄託番号FERM BP−15903、特許第4357007号に記載、後述する表1に掲載した実施例等で使用)、KCY1160(寄託番号FERM P−16962、特許第4475144号に記載)、KCY1170(寄託番号FERM P−20408、特許第4475144号に記載)、KSY290(寄託番号FERM P−18863、特許第4411864号、特許第4513383号に記載)、KSY68−9290(寄託番号FERM P−20204、特許第4839809号に記載)、KSY85−596(寄託番号FERM P−20295、特許第4839809号に記載)、KKK47(寄託番号FERM BP−7267、特許第4565789号に記載)、KGLY59(寄託番号FERM BP−20635、特許第4839860号に記載、後述する表2に掲載した実施例等で使用)、KCY1254(寄託番号NITE BP−1396、特許第5677624号に記載、後述する表3に掲載した実施例等で使用)、KCY1240(寄託番号NITE BP−1269、特許第5677624号に記載)、KCY1249(寄託番号NITE BP−1270、特許第5677624号に記載)、KCY1251(寄託番号NITE BP−1272、特許第5677624号に記載)、KCY1217(寄託番号NITE BP−1058、特許第5907161号に記載、後述する表4に掲載した実施例等で使用)、KCY1222(寄託番号NITE BP−1059、特許第5907161号に記載、後述する表5に掲載した実施例等で使用)、KSY735(寄託番号NITE P−731、特許第5926494号に記載)、KSY736(寄託番号NITE P−1071、特許第5926494号に記載)、KSY737(寄託番号NITE P−1072、特許第5926494号に記載)。
【0027】
本発明の凍結生イースト成形体の形状は、特に限定されず、直方体形や立方体形の他、球形、楕円体形、円柱形、俵形(円柱の角を丸めた形状)等が挙げられる。
【0028】
本発明の凍結生イースト成形体1個の重量は5〜1200gである。成形体1個の重量が5g未満であると、凍結成形体の表面が融け易くなり、成形体表面がべたつくことで、成形体が崩壊しやすくなり、各成形体の重量にバラツキが生じて、成形体の個数を数えることでイーストを正確に計量することはできない。一方、成形体1個の重量が1200gを超えると、解凍せずに凍結状態の成形体を他のパン生地原材料に配合してパン生地を製造する場合に、パン生地中にイーストが均一に分散しにくくなる。以上の観点から、凍結成形体1個あたりの重量は7〜500gであることが好ましく、より好ましくは10〜300gである。
【0029】
本発明の凍結生イースト成形体は、生イーストの密度を0.90〜1.20g/cm
3の範囲に調節した後、凍結されたものである。凍結直前の生イーストの密度が0.90g/cm
3未満であると、製造、流通、保存、及び計量時に凍結成形体の形状が崩れやすく、各成形体の重量にバラツキが生じて、成形体の個数を数えることでイーストを正確に計量することはできない。逆に凍結直前の生イーストの密度が大きすぎると、成形が困難になる。以上の観点から、凍結直前の生イーストの密度は0.95〜1.15g/cm
3がより好ましく、1.00〜1.10g/cm
3がさらに好ましい。
【0030】
本発明の凍結生イースト成形体を製造する方法は特に限定されない。生イーストを、所定の形状に圧縮成形又は切削成形した後に冷凍を行なうことで製造しても良いし、ブロック状などの塊状の生イーストを冷凍した後に所望の形状に切削成形することで製造しても良い。しかし、成形の容易さ、及び成形体の崩壊しにくさの観点から、前者の製造方法が好ましい。
【0031】
成形の具体的な方法としては特に限定されないが、例えば、生イーストを所定の形状を有する型に入れて、圧力をかける方法や、押出成形により成形を行なう方法が挙げられる。また、成形体の密度を調整するには成形時に適用する圧力を調整すればよい。その具体的な方法は特に限定されないが、例えば、3D体積レーザー計Selnac−WinVM210(ASTEX社製)を用いて成形体の密度を測定しながら成形を行なうことで、測定された成形体密度に応じて、成形中に加える圧力を調整すればよい。
【0032】
冷凍は、急速冷凍、緩慢冷凍のいずれであってもよく、冷凍する際の冷却速度は特に限定されない。
【0033】
本発明の凍結生イースト成形体は、1つの容器に複数個の凍結成形体が充填されてなるパッケージとすることができる。このパッケージは、複数個の凍結成形体を1つの容器に投入することで形成しても良いし、未凍結の生イースト成形体を複数個1つの容器に投入した後、凍結することで形成することもできる。1つの容器に充填されている凍結成形体の個数は特に限定されないが、例えば、2〜1000個程度が好ましく、5〜500個がより好ましく、10〜100個がさらに好ましい。容器としては、凍結成形体を内部に収納でき、冷凍下で保持できるものであれば特に限定されず、箱、袋、瓶、カップなどを使用できる。また、包装紙で構成した容器であってもよい。容器の素材は特に限定されないが、凍結成形体が容器の内壁に付着しにくいため、少なくとも内面に樹脂層が形成されている容器が好ましい。容器の開口部は密封できることが好ましい。このようなパッケージでは、凍結体同士が接触して固結しないよう、凍結体同士が接触しないような隔離材を挿入することが好ましい。
【0034】
さらに、凍結成形体を複数個含むパッケージでは、成形体の重量におけるバラツキが小さいほうが好ましい。成形体の重量のバラツキが小さいほど、成形体の個数を数えることによるイーストの計量がより正確に実現される。具体的には、成形体重量の変動係数が0.050以下であることが好ましい。より好ましくは0.014以下、さらに好ましくは0.010以下、よりさらに好ましくは0.003以下である。
【0035】
成形体重量の変動係数とは、成形体の重量におけるバラツキを示す指標であり、変動係数の値が小さいほど成形体の重量におけるバラツキが少ないことを意味する。当該変動係数は、例えば、無作為に選んだ40個の成形体それぞれの重量を測定し、その測定結果に基づき成形体1個の重量の平均値と標準偏差を算出し、得られた標準偏差を平均値で除することで算出される。1つのパッケージに含まれる凍結成形体の個数が40個未満の場合は、複数のパッケージから40個の凍結成形体を無作為に集めて、その40個の凍結成形体について変動係数を算出すればよい。
【0036】
本発明の凍結生イースト成形体を用いたパン生地製造では、常法におけるイースト使用量と同量の凍結生イースト成形体を、他のパン生地原材料に混合して混捏し、必要に応じて一次発酵を行い、生地を分割、成型してパン生地を得る。当該パン生地は、成型後にホイロ(最終発酵)を行なったものであっても良いし、ホイロを行なう前のものであっても良い。また、当該パン生地は冷凍されたものであってもよい。他のパン生地原材料には、小麦粉等の穀粉の他、必要に応じて、糖類、乳製品、卵、食塩、酸化防止剤、油脂、水等が適宜含まれる。
【0037】
本発明の凍結生イースト成形体を他のパン生地原材料に混合する際には、凍結成形体を解凍してから他のパン生地原材料に配合しても良いが、凍結成形体を解凍することなく凍結状態の成形体のまま配合しても良い。本発明の凍結生イースト成形体は、凍結されていても適度に崩壊しやすく、混合時の撹拌により均一に崩壊してパン生地中に分散することができる。
【0038】
上記パン生地は、必要に応じて解凍及び/又はホイロを行なった後、常法により加熱調理することでパンを製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1〜9及び比較例1〜3)
乾燥物重量32%のカネカ製圧搾生イーストを、表1に示した形状及び寸法の鋳型に詰め、ハンドプレス機を用いて圧縮成形し、表1に示した形状、寸法、密度、および重量(成形体1個あたりの重量)の生イースト成形体を得た。該成形体中のイーストの乾燥物重量は32.1%であった。この実施例では、イーストの菌株としてCFB27−1(寄託番号FERM BP−15903、特許第4357007号に記載)を使用した。
【0041】
続いて、該生イースト成形体40個をポリエチレン袋に詰めて、この袋詰めの状態で、−20℃の空冷式冷凍庫で2ヶ月間冷凍して、凍結生イースト成形体が40個入ったパッケージを得た。なお、前記袋詰めの際、パッケージ中のイースト成形体同士はできるだけ互いから離れるように袋詰めを行なった。
【0042】
(実施例10及び比較例4)
実施例1と同様に表1に従って、生イースト成形体、および凍結生イースト成形体のパッケージを得た。ただし、圧縮成形の際に圧力を軽減して凍結前の密度が表1に記載の数値を示すように調節した。
【0043】
(比較例5)
実施例1と同様に表1に従って、生イースト成形体を得たが、その後の冷凍作業を行なわなかった。
【0044】
(比較例6)
乾燥物重量19%のイーストミルクを、表1に示した形状及び寸法の鋳型に流し込んだ。続いて、当該イーストミルクを−20℃の空冷式冷凍庫で2ヶ月間冷凍した後に、鋳型から取り出すことで、凍結イーストミルク成形体を得た。該成形体中のイーストの乾燥物重量は19.2%であった。イーストの菌株は実施例1と同じものを使用した。
【0045】
同様に調製した凍結イーストミルク成形体40個をポリエチレン袋に詰めて、凍結イーストミルク成形体が40個入ったパッケージを得た。なお、前記袋詰めの際、パッケージ中のイーストミルク成形体同士はできるだけ互いから離れるように袋詰めを行なった。
【0046】
(試験例1)
実施例及び比較例で得られた成形体またはそのパッケージについて、以下の方法に従って各評価を行なった。
【0047】
(1)長期保存性
実施例1〜10及び比較例1〜4、6に関しては、4℃で1日間冷蔵保管した後の未凍結の生イースト成形体又はイーストミルク成形体、及び、−20℃で2ヶ月間冷凍保管した後の凍結生イースト成形体又は凍結イーストミルク成形体について、イースト工業会が定めるパン用酵母試験法の高糖生地炭酸ガス測定法に準じ、30℃2時間の炭酸ガス発生量を測定した。未凍結の1日間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量に対する2ヶ月間冷凍保管品の炭酸ガス発生量の割合を算出することで、長期保存性を評価した。なお、凍結生イースト成形体又は凍結イーストミルク成形体は、解凍せず凍結状態のまま上記試験に供した。
【0048】
一方、比較例5に関しては、生イースト成形体を4℃で1日間及び2ヶ月間冷蔵保管した後、同様に炭酸ガス発生量を測定し、1日間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量に対する2ヶ月間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量の割合を算出することで、長期保存性を評価した。
【0049】
(評価基準)1:炭酸ガス発生量が70%未満、2:炭酸ガス発生量が70%以上80%未満、3:炭酸ガス発生量が80%以上90%未満、4:炭酸ガス発生量が90%以上95%未満、5:炭酸ガス発生量が95%以上
【0050】
(2)崩壊し難さ
実施例1〜10、比較例1〜4の凍結生イースト成形体、比較例5の生イースト成形体、及び、比較例6の凍結イーストミルク成形体について、成形体一つを両手の手の平で上下に軽く挟み、両手を平行にしたまま反対方向に移動させることにより手の平で成形体を10回転がして、成形体の崩壊し難さを以下の基準で評価した。
【0051】
(評価基準)1:非常に崩壊し易い、2:崩壊し易い、3:やや崩壊し難い、4:崩壊し難い、5:非常に崩壊し難い
【0052】
(3)重量の変動係数
実施例1〜10及び比較例1〜4、6に関しては、−20℃で2ヶ月間冷凍保管したパッケージから一つ一つの成形体を取り出し、各成形体の重量を測定し、各成形体の重量の標準偏差を、各成形体の重量の平均値で除して、重量の変動係数を算出した。比較例5に関しては、4℃で1日間冷蔵保管したパッケージから一つ一つの未凍結の生イースト成形体を取り出し、同様に各成形体の重量を測定し、重量の変動係数を算出した。
【0053】
(4)製パン時の分散しやすさ
実施例1〜10、比較例1〜4の凍結生イースト成形体、比較例5の生イースト成形体、及び、比較例6の凍結イーストミルク成形体1重量部に対して、小麦粉25重量部、及び水15重量部を容器に量り取り、90rpmで3分間混捏してパン生地を製造した。得られたパン生地の表面及び内部を観察して、イーストがパン生地中に均一に分散しているか否かを以下の基準で評価した。ただし、凍結生イースト成形体に関しては、解凍せずに凍結した成形体の状態のままで配合した。
【0054】
(評価基準)1:大きなイースト塊が溶け残る、2:やや大きなイースト塊が溶け残る、3:いくつかの小さなイースト塊が溶け残る、4:小さなイースト塊がごく少量溶け残る、5:イースト塊が完全に溶けている
【0055】
以上により得られた結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1より、実施例1〜10は、長期保存後も多いガス発生量を維持しており、凍結成形体は崩壊しにくく、成形体重量のバラツキが小さく、また、解凍せずに他のパン生地原材料と混合してもイーストがパン生地中に均一に分散し、凍結生イースト成形体として実用性が高いものであった。特に、実施例3〜8は、凍結生イースト成形体としての実用性が極めて高いものであった。一方、成形体重量が小さい比較例1〜3や、密度が小さい比較例4は、凍結成形体が崩壊しやすく、成形体重量のバラツキが大きいものであった。凍結をしていない比較例5は、長期保存後のガス発生量が大幅に低下するとともに、成形体が崩壊しやすく、成形体重量のバラツキが大きいものであった。成形体中のイースト含量が少なく水分含量が多かった比較例6は、長期保存後はガス発生量が低下し、凍結成形体が崩壊しやすく、成形体重量のバラツキが大きいものであった。
【0058】
(実施例11〜20、比較例7〜12)
イーストの菌株としてKGLY59(寄託番号FERM BP−20635、特許第4839860号に記載)を使用した以外は、実施例1〜10、比較例1〜6と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は、比較例12以外では31.5%であり、比較例12では19.2%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
(実施例21〜30、比較例13〜18)
イーストの菌株としてKCY1254(寄託番号NITE BP−1396、特許第5677624号に記載)を使用した以外は、実施例1〜10、比較例1〜6と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は、比較例18以外では32.4%であり、比較例18では19.2%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
(実施例31〜40、比較例19〜24)
イーストの菌株としてKCY1217(寄託番号NITE BP−1058、特許第5907161号に記載)を使用した以外は実施例1〜10、比較例1〜6と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は、比較例24以外では32.9%であり、比較例24では19.2%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
(実施例41〜50、比較例25〜30)
イーストの菌株としてKCY1222(寄託番号NITE BP−1059、特許第5907161号に記載)を使用した以外は、実施例1〜10、比較例25〜30と同様にして、成形体、及びそのパッケージを得た。各成形体中のイーストの乾燥物重量は、比較例30以外では32.3%であり、比較例30では19.2%であった。これら成形体、及びそのパッケージについて、試験例1に従って各種評価を行なった。得られた結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
異なる菌株を使用した表2〜表5の各実施例及び比較例においても、表1の各実施例及び比較例と同じ傾向の結果が得られた。すなわち、各実施例は、長期保存後も多いガス発生量を維持しており、凍結成形体は崩壊しにくく、成形体重量のバラツキが小さく、また、解凍せずに他のパン生地原材料と混合してもイーストがパン生地中に均一に分散し、凍結生イースト成形体として極めて実用性が高いものであった。一方、成形体重量が小さい比較例7〜9、13〜15、19〜21、及び25〜27や、密度が小さい比較例10、16、22、及び28は、凍結成形体が崩壊しやすく、成形体重量のバラツキが大きいものであった。凍結をしていない比較例11、17、23、及び29は、長期保存後はガス発生量が大幅に低下するとともに、成形体が崩壊しやすく、成形体重量のバラツキが大きいものであった。成形体中のイースト含量が少なく水分含量が多かった比較例12、18、24、及び30は、長期保存後はガス発生量が低下し、凍結成形体が崩壊しやすく、成形体重量のバラツキが大きいものであった。