特許第6948204号(P6948204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948204
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】洗濯仕上剤および洗濯方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/463 20060101AFI20210930BHJP
   D06M 13/192 20060101ALI20210930BHJP
   D06L 1/12 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   D06M13/463
   D06M13/192
   D06L1/12
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-186664(P2017-186664)
(22)【出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-60055(P2019-60055A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】春名 隆史
(72)【発明者】
【氏名】繁中 禎宜
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−200048(JP,A)
【文献】 特開2016−108680(JP,A)
【文献】 特開2014−161432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00 − 19/00
D06L 1/00 − 4/75
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)と、ポリカルボン酸(Y)とを含み、
トリアルカノールアミン脂肪酸エステル の4級化物(X)とポリカルボン酸(Y)との質量比((X)/(Y))が0.1〜5である、洗濯仕上剤。
【請求項2】
pHが1〜3である、請求項1に記載の洗濯仕上剤。
【請求項3】
pH10〜11の洗浄水が用いられる業務用洗濯機用洗濯仕上剤である、請求項1また は2に記載の洗濯仕上剤。
【請求項4】
pH10〜11の洗浄水を用いる洗濯工程と、トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)およびポリカルボン酸(Y)を含み、トリアルカノールアミン脂肪酸エステル の4級化物(X)とポリカルボン酸(Y)との質量比((X)/(Y))が0.1〜5である、洗濯仕上剤を用いる仕上工程とを含む、洗濯方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯仕上剤および洗濯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種洗濯機を用いて洗濯する場合、一般に、洗濯工程、すすぎ工程、仕上工程の順番で各工程が行われる(特許文献1)。仕上工程においては、リネンおよび衣類等の被洗物に柔軟性を与える目的で、カチオン界面活性剤を主成分とする洗濯仕上剤が用いられる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−214002号公報
【特許文献2】特開2017−89068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、洗濯工程においては、被洗物に対してアルカリ性の洗浄水が用いられるため、洗濯工程後に行われるすすぎ工程および仕上工程においては、被洗物のpHを下げる必要がある。
【0005】
特に、連続式洗濯機等の業務用洗濯機を用いる場合、洗濯工程から、脱水を経ずに、すすぎ工程および仕上工程へ移行することが多い。つまり、被洗物は、洗濯工程で用いられた洗浄水を多量に含んだ状態で次の工程へと運ばれる。また、業務用洗濯機では、一般家庭で使用されないようなpHが高い洗浄水が用いられる。したがって、被洗物のpHを十分に下げるという観点から、洗濯仕上剤のpHは、家庭で使用されるものよりも十分低いことが好ましい。
【0006】
しかしながら、カチオン界面活性剤が含まれる一般的な洗濯仕上剤のpHを下げようすると、洗濯仕上剤の粘度が高くなり、作業性が悪化するという問題があった。また、業務用洗濯機では、洗濯仕上剤をポンプにより槽内に供給する場合が多いため、洗濯仕上剤の粘度が高いとポンプへの負荷が増大することになるという問題もあった。
【0007】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、粘度の増加を抑えながらpHを低くした洗濯仕上剤、および当該洗濯仕上剤を用いた洗濯方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある種の材料を用いることにより上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の洗濯仕上剤は、トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物 (X)と、ポリカルボン酸化合物(Y)とを含み、トリアルカノールアミン脂肪酸エステル の4級化物(X)とポリカルボン酸(Y)との質量比((X)/(Y))が0.1〜5である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、洗濯仕上剤の粘度の増加を抑えながらpHを低くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、本発明の実施形態の内容を列記する。
【0012】
(1)本発明の実施の形態に係る洗濯仕上剤は、トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)と、ポリカルボン酸(Y)とを含む。このような構成により、pHが低く、かつ粘度も低い洗濯仕上剤とすることができる。
【0013】
(2)好ましくは、上記洗濯仕上剤は、pH1〜3である。このような構成により、被洗物のpHを容易に下げることができる。
【0014】
(3)好ましくは、上記洗濯仕上剤は、pH10〜11の洗浄水が用いられる業務用洗濯機用洗濯仕上剤である。このような構成により、クリーニング事業者が業務用洗濯機を用いて洗濯を行う場合のように高pHの洗浄水が用いられる状況において、被洗物を好適なpHに仕上げることができる。
【0015】
(4)本発明の実施の形態に係る洗濯方法は、pH10〜11の洗浄水を用いる洗濯工程と、トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)およびポリカルボン酸(Y)を含む洗濯仕上剤を用いる仕上工程とを含む。このような方法により、クリーニング事業者が業務用洗濯機を用いて洗濯を行う場合のように高pHの洗浄水が用いられる状況において、被洗物を好適なpHに仕上げることができる。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態における洗濯仕上剤は、トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)と、ポリカルボン酸(Y)とを含む。
【0018】
トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)は、たとえば、トリアルカノールアミンと脂肪酸とのエステルをアルキル化剤で4級化することにより得られる。
【0019】
トリアルカノールアミンとしては、特に限定されないが、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリ(2−ブタノール)アミン、トリ(t−ブタノール)アミン等を挙げることができる。トリアルカノールアミンとしては、洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、トリエタノールアミンが好ましい。
【0020】
脂肪酸としては、特に限定されないが、炭素数10〜26の飽和脂肪酸、または炭素数10〜22の不飽和脂肪酸が好ましい。
【0021】
炭素数10〜26の飽和脂肪酸としては、例えば、デカン酸(カプリン酸)などの炭素数10の飽和脂肪酸、ドデカン酸(ラウリン酸)などの炭素数12の飽和脂肪酸、トリデカン酸などの炭素数13の飽和脂肪酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)などの炭素数14の飽和脂肪酸、ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)などの炭素数15の不和脂肪酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)などの炭素数16の飽和脂肪酸、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)などの炭素数17の飽和脂肪酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)などの炭素数18の飽和脂肪酸、ノナデカン酸などの炭素数19の飽和脂肪酸、エイコサン酸(アラキジン酸)などの炭素数20の飽和脂肪酸、ドコサン酸(ベヘン酸)などの炭素数22の飽和脂肪酸、テトラコサン酸(リグノセリン酸)などの炭素数24の飽和脂肪酸、ヘキサコサン酸(セロチン酸)などの炭素数26の飽和脂肪酸が挙げられる。洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、これらのうち、特に、炭素数10〜20の飽和脂肪酸が好ましい。
【0022】
炭素数12〜22である不飽和脂肪酸としては、例えば、ドデセン酸などの炭素数12の不飽和脂肪酸、トリデセン酸などの炭素数13の不飽和脂肪酸、テトラデセン酸などの炭素数14の不飽和脂肪酸、ペンタデセン酸などの炭素数15の不飽和脂肪酸、ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸など)などの炭素数16の不飽和脂肪酸、ヘプタデセン酸などの炭素数17の不飽和脂肪酸、オクタデセン酸(オレイン酸、バクセン酸など)、オクタデカジエン酸(リノール酸など)、オクタデカトリエン酸((9,12,15)−リノレン酸、6,9,12)−リノレン酸、エレオステアリン酸など)などの炭素数18の不飽和脂肪酸、ノナデセン酸などの炭素数19の不飽和脂肪酸、エイコサジエン酸(8,11−エイコサジエン酸など)、エイコサトリエン酸(5,8,11−エイコサトリエン酸など)、エイコサテトラエン酸(アラキドン酸など)などの炭素数20の不飽和脂肪酸が挙げられる。洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、これらのうち、特に、炭素数16〜18の不飽和脂肪酸が好ましい。
【0023】
アルキル化剤としては、特に限定されないが、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチルなどのハロゲン化アルキル、および、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジーn−プロピル硫酸などのアルキル硫酸等、一般的なアルキル化剤が挙げられる。アルキル化剤としては、洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、ジメチル硫酸が好ましい。
【0024】
ポリカルボン酸(Y)としては、特に限定されないが、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸、クエン酸、リンゴ酸およびアガリシン酸等を挙げることができる。ポリカルボン酸(Y)としては、洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、クエン酸またはリンゴ酸が好ましい。
【0025】
トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)は、洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、下記一般式(1)で示される化合物および下記般式(2)で示される化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことが特に好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
【化2】
【0028】
ただし、一般式(1)中、Rは、炭素数16〜18の飽和炭化水素基または炭素数18の不飽和炭化水素基を示す。
【0029】
また、一般式(2)中、Rは、炭素数10〜20の飽和炭化水素基または炭素数16〜18の不飽和炭化水素基を示す。一般式(2)中の各Rは、互いに異なっていてもよいし、同一でもよい。
【0030】
本実施の形態における洗濯仕上剤は、洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、洗濯仕上剤100質量部に対して、トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)を5〜25質量部含むことが好ましく、8〜20質量部含むことがより好ましく、8〜15質量部含むことがさらに好ましい。
【0031】
本実施の形態における洗濯仕上剤に含まれる、トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)とポリカルボン酸(Y)との質量比((X)/(Y))は、洗濯仕上剤のpHを下げた場合でも粘度を抑える観点から、0.1〜5が好ましく、0.2〜4がより好ましく、0.3〜3.5がさらに好ましい。
【0032】
本実施の形態における洗濯仕上剤には、シリコーン化合物等の繊維潤滑剤、抗菌剤、香料および消泡剤等、一般的な洗濯仕上剤に添加される種々の材料を加えることができる。
【0033】
本発明の実施の形態に係る洗濯仕上剤は、高いpHの洗浄水で洗濯工程を行う業務用洗濯機において用いられることが好ましく、連続式洗濯機において用いられることがより好ましい。
【0034】
連続式洗濯機では、洗濯工程、すすぎ工程および仕上工程がこの順番で行われ、その後、脱水機による被洗物の脱水が行われる。洗濯工程は、たとえば予洗工程および本洗工程を含む。
【0035】
連続式洗濯機は、たとえば1列に並んだ複数の槽(ここでは第1槽から第13槽)を含み、各工程は、これら複数の槽を順番に用いて行われる。具体的には、たとえば、予洗工程では第1槽および第2槽が用いられ、本洗工程では第3槽から第9槽が用いられ、すすぎ工程では第10槽から第12槽が用いられ、仕上工程では第13槽が用いられる。連続式洗濯機に投入された被洗物は、第1槽から順番に隣接する槽へ送られ、各工程を経て、第13槽に到達する。
【0036】
本洗工程が行われる槽のいずれかへは、洗剤および漂白剤が投入される。被洗物は、当該洗剤および漂白剤が水によって希釈された液体すなわち洗浄水を用いて洗浄される。当該洗浄水のpHは10〜11である。当該pHは一般家庭の洗濯機で用いられる洗浄水よりも高い。なお、漂白剤は投入されない構成であっても良い。
【0037】
すすぎ工程が行われる槽のいずれかへは、新水すなわち水が供給される。また、すすぎ工程が行われる槽へは、被洗物と共に隣接する槽から洗浄水が移動してくる。すすぎ工程により、被洗物に含まれた液体のpHは、9〜7へと低下する。つまり、仕上工程を行う第13槽へは、pHが9〜7の被洗物が移動してくる。
【0038】
仕上工程が行われる第13槽へは、本発明の実施の形態に係る洗濯仕上剤が投入される。本発明の実施の形態に係る洗濯仕上剤は、たとえばpHが1〜3である。これにより、第13槽中の液体のpHを人肌のpHに近い6〜7に容易に調整することができる。
【0039】
なお、ここでは、第13槽へと移動してくる被洗物のpHは、9〜7であるとしたが、より高くてもよい。
【0040】
<実施例>
以下、実施例および比較例に基づいて、本実施の形態の洗濯仕上剤についてより詳細に説明する。本発明はこれによって制限されるものではない。なお、本明細書中に於ける「部」、「%」は、特に明示した場合を除き、「質量部」、「質量%」をそれぞれ表している。
【0041】
実施例および比較例において使用する材料を示す。
カチオン界面活性剤
トリアルカノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X)
・トリエタノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X−1)
(商品名:REWOQUAT WE28 SH、EVONIK社製、上記一般式(2)の化合物)
・トリエタノールアミン脂肪酸エステルの4級化物(X−2)
(商品名:REWOQUAT WE28 E US、EVONIK社製、上記一般式(1)の化合物)
他のカチオン界面活性剤(A)
・ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド(A−1)
(商品名:コータミンD86P 花王社製)
・トリオキシエチレンメチルアンモニウム塩メチルサルフェート
(商品名:ライオンソフターEQ、ライオン社製)(A−2)
・ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド(A−3)
(商品名:パルナーSDPA−4B、ミヨシ油脂社製)
ポリカルボン酸(Y)
・クエン酸酸(Y−1)
・リンゴ酸(Y−2)
【0042】
表1は、実施例1〜8および比較例1〜3の洗濯仕上剤各々ついての、製造に用いる各材料ならびにそれらの配合量(数値は質量部)と、pHと、各評価の結果とを示す。
【0043】
(洗濯仕上剤の製造)
表1に記載の材料を60℃でカチオン界面活性剤が完全に溶解するまで混合する。このようにして製造した洗濯仕上剤を用いて、粘度および消泡力について評価を行う。
【0044】
(粘度)
粘度の測定は、20℃に調整した洗濯仕上剤を、BM型粘度計(ローターNo.2、回転数60rpm)を使用してJIS Z8803に従い測定した。
【0045】
(消泡力) 消泡力は、起泡性の液体の泡立ちを抑える程度を示す指標である。消泡力は、以下の手順で測定する。すなわち、非イオン界面活性剤ノイゲンLP−180(第一工業製薬製)0.1gを100ml40℃の水で溶解し、500mlメスシリンダーに泡立たないように静かに注ぎ入れる。次に当該メスシリンダーに洗濯仕上剤0.05gを入れる。次に、エアーポンプおよびデフューザーストーンを用いて、当該メスシリンダー中の液体に30秒間空気を送り、当該液体を泡立たせることを試みる。次に、エアーポンプをOFFにし、直後の泡の量を測る。具体的には、泡の量は、メスシリンダーにおける泡の上端付近の目盛りと泡の下端付近の目盛りに基づいて計測する。洗濯仕上剤としては、被洗物の取り扱い性の観点から、消泡力が高いほど、すなわち泡の量が少ないほど好ましい。評価基準を次に示す。
A:泡の量が100ml以下
B:泡の量が100mlを超えて300ml以下
C:泡の量が300mlを超えている
【0046】
表1から明らかなように、実施例1〜8の洗濯仕上剤は、比較例2,3と比べて、pHが低いにもかかわらず粘度が低いことが分かる。また、実施例1〜8の洗濯仕上剤は、比較例1と比べて、pHが低く、消泡力も高いことが分かる。
【0047】
【表1】