(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オス・メス一対のスクリュロータを,ケーシング内に形成したロータ室内に噛み合い回転可能に収容し,両スクリュロータの噛み合い回転により被圧縮気体をロータ室内に吸入し,前記ロータ室内で潤滑油と共に被圧縮気体を圧縮し,圧縮気体と潤滑油との気液混合流体を吐出する圧縮機本体と,前記圧縮機本体から吐出された気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離し,分離した潤滑油を貯留する油分離器と,前記油分離器に貯留した潤滑油を冷却するオイルクーラと,前記オイルクーラで冷却された潤滑油を圧縮機本体の各部へ供給する給油配管とを備え,前記圧縮機本体に,前記ケーシングの壁面に軸穴を開口して駆動源と連結する駆動軸を挿通すると共に,前記軸穴と前記駆動軸の外周との間に,相対的に高圧である機内側の流体が,相対的に低圧である機外側へ漏出することを防止する軸封装置を設けた油冷式スクリュ圧縮機であって,
前記軸封装置は,先端を前記駆動軸の軸線方向における機内側方向とし,間隔を置いて前記駆動軸の外周と摺接するシールリップを少なくとも2以上備えて,隣り合う前記シールリップ間に形成される外部から仕切られた給油空間を少なくとも1以上有するように,前記シールリップを有するリップシールを備え,
前記油分離器の潤滑油の貯留部と,前記給油空間とが前記給油配管を介して連通されると共に,
前記圧縮機本体内の前記ロータ室内のうち,前記軸封装置を設けた前記ケーシング内の空間の圧力に対して相対的に低圧の空間と,前記給油空間とが調圧配管を介して連通されて,前記給油空間内の圧力が機内側の圧力に対し低圧で,かつ,機外側の圧力に対し高圧に調整されていることを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。
前記圧縮機本体は,駆動源と連結する前記駆動軸の回転を増速して前記低圧段圧縮機本体と前記高圧段圧縮機本体に伝達する増速ギヤをギヤケース内に収納し,前記低圧段圧縮機本体の吐出口と前記高圧段圧縮機本体の吸入口とを前記ギヤケース内の空間に連結し,前記ギヤケースが前記ケーシング及び前記中間段通路の一部を成し,前記ギヤケースの壁面に軸穴を開口して前記駆動軸を挿通すると共に,前記軸穴と前記駆動軸の外周との間に前記軸封装置を設けたことを特徴とする請求項4記載の油冷式スクリュ圧縮機。
前記軸封装置に設けた前記複数のシールリップのうち,前記駆動軸の軸線方向において最も機内側に配置されたシールリップの長さを,他のシールリップの長さよりも短く形成したことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の油冷式スクリュ圧縮機。
前記軸封装置に設けた前記複数のシールリップのうち,前記駆動軸の軸線方向において最も機内側に配置された前記シールリップの厚みを,他のシールリップの厚みよりも厚くしたことを特徴とする請求項1〜6記載の油冷式スクリュ圧縮機。
【背景技術】
【0002】
油冷式スクリュ圧縮機は,ケーシングを貫通して機外に突出する駆動軸が設けられており,この駆動軸がケーシングを貫通する部分において,ケーシング内の流体が機外に漏出することがないように,前記貫通する部分(軸封部)をシールする軸封装置が使用される。
【0003】
このような軸封装置を使用した油冷式スクリュ圧縮機の一例として,
図7に示す油冷式スクリュ圧縮機200を例に挙げて説明する。
【0004】
この油冷式スクリュ圧縮機200は,二段圧縮機であり,紙面上段に配置された低圧段圧縮機本体220の吐出口226を中間段通路250を介して,紙面下段に配置された高圧段圧縮機本体230の吸入口235に連通することで,低圧段圧縮機本体220で圧縮された圧縮気体を,更に高圧段圧縮機本体230で圧縮することができるように構成したものである。
【0005】
低圧段,高圧段の各圧縮機本体220,230は,それぞれ,ケーシング221,231内に形成されたロータ室222,232内にオス,メス一対のスクリュロータ223,223’:233,233’(
図7において他方のロータ223’233’は,一方のロータ223,233の紙面裏方向に位置する)を噛み合い回転可能に収容した構成を備えていると共に,スクリュロータ223,223’:233,233’の一方のスクリュロータ223,233のロータ軸224,234に対し,エンジンやモータ等の図示していない駆動源からの回転駆動力を入力することができるように構成している。
【0006】
このような回転駆動力の入力を可能とするために,前述の低圧段及び高圧段の圧縮機本体220,230それぞれの一方のロータ軸224,234を,増速装置240を介して図示していない駆動源に連結可能としている。
【0007】
低圧段及び高圧段の圧縮機本体220,230のケーシング221,231の一端側に,増速装置240のケーシング(ギヤケース)241を取り付け,このギヤケース241内に低圧段圧縮機本体220及び高圧段圧縮機本体230それぞれの一方のロータ軸224,234の端部を挿入して従動ギヤ242,243を取り付けると共に,これら2つの従動ギヤ242,243のいずれ共に噛合する,前記従動ギヤ242,243に対して大径に形成された駆動ギヤ244を収容し,前記駆動ギヤ244に取り付けた駆動軸245をギヤケース241外に延設して増速装置240を形成している。
【0008】
従って,ギヤケース241より機外に突設された駆動軸245に対しエンジンやモータ等の図示していない駆動源からの回転駆動力を入力することによって,駆動源で発生した回転駆動力を,増速装置240によって増速した後,低圧段及び高圧段の圧縮機本体220,230の各ロータ軸224,234に入力することができるように構成されている。
【0009】
また,油冷式スクリュ圧縮機200は,前記ギヤケース241内の空間が,前記中間段通路250の一部を成しており,そして,増速装置240に設けられた駆動軸245がギヤケース241の内外に延設されていることから,この駆動軸245がギヤケース241を貫通する部分に軸封部214を形成し,該軸封部214をシールする軸封装置としてメカニカルシール212を採用し,圧縮された流体や潤滑油が機外に漏出することを防止している(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の油冷式スクリュ圧縮機200の駆動軸245の軸封装置にはメカニカルシール212が使用されているが,一般に,軸封装置には前記メカニカルシールの他にオイルシールが使用されている。
【0012】
メカニカルシールは,オイルシールに比べ寿命が長く,密封する流体の圧力が高いときなど使用条件が過酷な場合に適しているが,構造が複雑で,組み付け性やコスト,スペース(特に,軸方向にスペースを取る。)などの問題が内在する。
【0013】
これに対し,近年において,耐熱性,耐摩耗性に優れるテフロン樹脂(四フッ化エチレン樹脂)をシール部材とするリップシールが汎用的となり,圧縮機本体の軸封装置として採用されるようになっている。
【0014】
図8は,従来のリップシール300の一例を示す図であり,図に示すように,剛性を付与する金属環303を内蔵した,合成樹脂から成る環状のリップ保持部301がケーシング330内に挿嵌して固定されており,リップ保持部301の先端のシールリップ302が駆動軸320の外周面に適度な弾力をもって常時摺接している。
【0015】
上述の通り,リップシールは,構造が簡単であり,耐熱性,耐摩耗性において他のオイルシールと比較して優れ,組み付け性及びコストについてはメカニカルシールに比べ優れているため,圧縮機本体の軸封装置として,メカニカルシールに代替して採用が進んでいる。
【0016】
しかしながら,例えば,
図8に示すリップシール300において,該リップシール(軸封装置)の機内側(ケーシング330内)の圧力が高く,機内側と機外側(大気圧)の圧力差が大きい場合には,シールリップ302の先端部が駆動軸320の軸中心方向へ締め付ける力(押しつけ力)が大きくなり,シールリップ302が機内側から機外側へ膨出変形することで駆動軸320との接触面積が増え,駆動軸320の外周とシールリップ302との摺動抵抗が高まり,シールリップ302の異常摩耗,発熱による焼き付けを生じさせ,リップシール300の寿命を短くする。また駆動軸320を回転させる動力が増大する問題が生じる。
【0017】
このことから,軸封装置を設けたケーシング内の圧力が大気圧である機外よりも高い場合,例えば,上述の特許文献1の油冷式スクリュ圧縮機200のようにギヤケース241内が前記中間段通路250の一部を構成し,ギヤケース241内の圧力が機外よりも高い圧縮機本体は,軸封装置をメカニカルシールからリップシールに替えることが困難であった。
【0018】
これに対し,本発明は,油冷式スクリュ圧縮機において,軸封装置を設けたケーシング内(機内側)の圧力が機外側よりも高く,機内側と機外側の圧力差が大きい場合であっても,軸封装置にリップシールを採用し,リップシール(300)のシール部材(シールリップ302)が異常摩耗したり焼き付いたりすることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と,発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0020】
上記目的を達成するために,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1は,オス・メス一対のスクリュロータ23,23’(
図1の実施形態では,23,23’:33,33’)を,ケーシング21(
図1では,21,31,41)内に形成したロータ室22(
図1では22,32)内に噛み合い回転可能に収容し,両スクリュロータ23,23’(
図1では,23,23’:33,33’)の噛み合い回転により被圧縮気体をロータ室22(
図1では22,32)内に吸入し,前記ロータ室22(
図1では22,32)内で潤滑油と共に被圧縮気体を圧縮し,圧縮気体と潤滑油との気液混合流体を吐出する圧縮機本体2(
図1では2,3)と,前記圧縮機本体2(
図1では2,3)から吐出された気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離し,分離した潤滑油を貯留する油分離器(レシーバタンク)88と,前記油分離器88に貯留した潤滑油を冷却するオイルクーラ89と,前記オイルクーラ89で冷却された潤滑油を圧縮機本体2(
図1では2,3)の各部へ供給する給油配管81とを備え,前記圧縮機本体2(
図1では2,3)に,前記ケーシング21(
図1ではカバー12)の壁面に軸穴を開口して駆動源と連結する駆動軸45を挿通すると共に,前記軸穴と前記駆動軸45の外周との間に
,相対的に高圧である機内側の流体が,相対的に低圧である機外側へ漏出することを防止する軸封装置5を設けた油冷式スクリュ圧縮機1であって,
前記軸封装置5は,先端を駆動軸45の軸線方向における機内側方向とし,間隔をおいて駆動軸45の外周と摺接するシールリップを少なくとも2以上(
図2では,53,54,
図4の実施形態では,53a,53b,
図5の実施形態では,53a’,53b’,53c’)備えて,隣り合う前記シールリップ53,54間に形成される外部から仕切られた少なくとも1の給油空間55(
図2参照。
図4の実施形態では,55a,
図5の実施形態では,55a’,55b’)を有するように,前記シールリップ53,54を有するリップシール50を備え(
図2の実施形態では,2のシールリップ53,54を備えるリップシール50を1個設置している。
図4の実施形態では,それぞれ1のシールリップ53a,53bを備えるリップシールを2個50a,50b設置している。
図5の実施形態では,それぞれ1のシールリップ53a’,53b’,53c’を備えるリップシールを3個50a’,50b’,50c’設置している。),
前記油分離器88の潤滑油の貯留部と,前記給油空間55とが前記給油配管81を介して連通されると共に,
前記圧縮機本体2内の前記ロータ室22内のうち,前記軸封装置5を設けたケーシング21(
図1では,41)内の空間の圧力に対して相対的に低圧の空間と,前記給油空間55とが調圧配管83を介して連通
されて,前記給油空間内の圧力が機内側の圧力に対し低圧で,かつ,機外側の圧力に対し高圧に調整されていることを特徴とする(請求項1)。
【0021】
前記軸封装置5が,2以上のシールリップ53,54が一体に形成されたリップシール50(
図2を参照。)を備えたものでも良い(請求項2)。
【0022】
前記軸封装置5が,1のシールリップを備えるリップシールを2以上備えたもの(
図4の実施形態では,50a,50b。
図5の実施形態では,50a’,50b’,50c’)とすることができる(請求項3)。
【0023】
また,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1は,前記圧縮機本体が,低圧段圧縮機本体2及び高圧段圧縮機本体3と,前記低圧段圧縮機本体2の吐出口26と前記高圧段圧縮機本体3の吸入口35とを連通する中間段通路19を備え(
図1),
前記給油配管81は,前記油分離器88の潤滑油の貯留部と,前記給油通路16を介して,前記低圧段圧縮機本体2の給油箇所(
図1の実施形態では,ロータ室22内),前記高圧段圧縮機本体3の給油箇所(
図1の実施形態では,ロータ室32内)及び,前記軸封装置5の前記給油空間55と連通し,
前記調圧配管83は,調圧通路18を介して,前記軸封装置5の前記給油空間55と,前記低圧段圧縮機本体2のロータ室22と連通しても良い(請求項4)。
【0024】
また,前記圧縮機本体は,駆動源と連結する前記駆動軸45の回転を増速して前記低圧段圧縮機本体2と前記高圧段圧縮機本体3に伝達する増速ギヤをギヤケース41内に収納し,前記低圧段圧縮機本体2の吐出口26と前記高圧段圧縮機本体3の吸入口35とを前記ギヤケース41内の空間に連結し,前記ギヤケース41が前記ケーシング21(
図1では21,31,41)及び前記中間段通路19の一部を成し,前記ギヤケース41の壁面に軸穴を開口して前記駆動軸45を挿通すると共に,前記軸穴と前記駆動軸45の外周との間に前記軸封装置5を設けたものとしても良い(請求項5)。
【0025】
前記軸封装置5に設けた複数のシールリップ53,54のうち,駆動軸45の軸線方向において最も機内側に配置されたシールリップ53(シール部材53a)の長さを,他のシールリップ54(シール部材53b)の長さよりも短く形成しても良い(請求項6)。
【0026】
さらに,前記最も機内側に配置されたシールリップ53(シール部材53a)の厚みを,他のシールリップ54(シール部材53b)の厚みよりも厚くする(
図6参照)と好適である(請求項7)。
【0027】
前記調圧配管83には,流路面積が狭く形成された絞り84を設けても良い(請求項8)。
【発明の効果】
【0028】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1の軸封装置5は,間隔をおいて隣り合う2のシールリップ53,54により,ケーシング内(機内)側及びケーシング外(機外)側(大気圧)から仕切られた給油空間55が形成されている。そして,給油空間55には,前記油分離器88から給油配管81を介して高圧の潤滑油が導入されるので,給油空間55内の圧力が上昇する。これにより,機内側,給油空間55及び機外側(大気圧)の圧力の大きさが,機内側の圧力>給油空間55の圧力>機外側(大気圧)の圧力,となるため,機内側空間の圧力が高圧であることにより機内側と機外側の圧力差が大きい場合であっても,機内側と給油空間55の圧力差及び,給油空間55と機外側との圧力差が,機内側と機外側の圧力差よりも小さくなるため,大きな圧力差によって生じる各シールリップ53,54の膨出変形を抑えると共に,圧力差によって各シールリップ53,54が駆動軸を締める力(押し付け力)を抑え,摺動抵抗を低減する。
【0029】
また,最も機内側に配置されるシールリップ53は,機内側から駆動軸45の外周に沿って伝わる潤滑油と機外側の給油空間55内の潤滑油で潤滑されるので,駆動軸45の外周との摩擦が低減する。
【0030】
さらに,給油空間55に導入された潤滑油は,調圧配管83を介してロータ室22へ回収されるので,給油空間55(シールリップ53,54間)には油分離器88からオイルクーラ89を通過して冷却された潤滑油が順次供給されシールリップ53,54を冷却する。
【0031】
上述したように,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1は,リップシール50のシールリップ53,54の異常摩耗や焼き付きを効果的に防止することができる。
【0032】
本発明の油冷式スクリュ圧縮機1が,低圧段圧縮機本体2及び高圧段圧縮機本体3を備えた2段型圧縮機であっても,軸封装置5のシールリップ53,54の異常摩耗,焼き付きを防止することができた。
【0033】
また,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1が2段型圧縮機であって,油冷式スクリュ圧縮機1のギヤケース41が中間段通路19の一部を成すことで,ギヤケース内41の圧力が高圧となっても,上述した通り,ギヤケース41内(機内側)とシールリップ53,54間(給油空間55)の圧力差及び,給油空間55とケーシング41外(機外側)の圧力差を,機内側と機外側の圧力差よりも小さく抑え,シールリップ53,54の摺動抵抗を低減し,シールリップ53,54の異常摩耗,焼き付きを防止することができた。
【0034】
前記軸封装置5に設けた複数のシールリップのうち,最も機内側に配置されたシールリップ53の長さを,他のシールリップ54の長さよりも短くして機内側の圧力を受けるシールリップ53の表面積を小さくしたことにより,シールリップ53の膨出変形を防止し,シールリップ53と駆動軸45との接触面積が増えることによるシールリップ53の締める力(押し付け力)を抑え,シールリップ53の摺動抵抗を低減し,シールリップ53の異常摩耗,焼き付きを防止することができた。
【0035】
また,シールリップ53の厚さを厚くしてシールリップ53の剛性を高めたので,シールリップ53の膨出変形を防止し,また,機内側空間と給油空間55との圧力差が変動しても,シールリップ53の変形を小さくして,シールリップ53による駆動軸45の締め付け力を安定させ,シール性能の維持を図ることができた。
【0036】
また,前記調圧配管83に,流路面積が狭く形成された絞り84を設けることで,給油空間55内の圧力を調整することができた。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明を実施するための形態では,2段圧縮式の圧縮機を以て説明しているが,本発明は,2段圧縮型のものに限定されず,単段圧縮型のものや2段以上の多段圧縮型のものに応用でき,また,増速装置を備えていない圧縮機本体にも応用できることは,後述する通りである。
【0039】
以下に,本発明の実施例につき添付図面を参照しながら説明するが,本発明の構成は,以下に示す実施例に限定されない。
【0040】
図1に示す本発明の第一実施形態の油冷式スクリュ圧縮機1は,所謂「二段圧縮機」と呼ばれ,紙面上段に配置された低圧段圧縮機本体2の吐出口26を中間段通路19を介して,紙面下段に配置された高圧段圧縮機本体3の吸入口35に連通することで,低圧段圧縮機本体2で圧縮された圧縮気体を,更に高圧段圧縮機本体3で圧縮することができるように構成したものである。
【0041】
上述の通り,本実施形態の圧縮機本体は,低圧段,高圧段の各圧縮機本体2,3から成り,それぞれ,ケーシング21,31内に形成されたロータ室22,32内にオス,メス一対のスクリュロータ23,23’:33,33’(
図1において他方のロータ23’33’は,一方のロータ23,33の背面にある)を噛み合い回転可能に収容した構成を備えていると共に,スクリュロータ23,23’:33,33’の一方のスクリュロータ23,33のロータ軸24,34に対し,エンジンやモータ等の図示していない駆動源からの回転駆動力を入力することができるように構成している。
【0042】
このような回転駆動力の入力を可能とするために,前述の低圧段及び高圧段の圧縮機本体2,3それぞれの一方のロータ軸24,34を,増速装置4を介して図示していない駆動源に連結可能としている。
【0043】
図示の実施形態にあっては,低圧段及び高圧段の圧縮機本体2,3のケーシング21,31の一端側に,増速装置4のケーシング(ギヤケース)41を取り付け,このギヤケース41内に低圧段圧縮機本体2及び高圧段圧縮機本体3それぞれの一方のロータ軸24,34の端部を挿入して従動ギヤ42,43を取り付けると共に,これら2つの従動ギヤ42,43のいずれ共に噛合する,前記従動ギヤ42,43に対して大径に形成された駆動ギヤ44を収容し,前記駆動ギヤ44に取り付けた駆動軸45をギヤケース41外に延設して増速装置4を形成している。
【0044】
従って,ギヤケース41より機外に突設された駆動軸45に対しエンジンやモータ等の図示していない駆動源からの回転駆動力を入力することによって,駆動源で発生した回転駆動力を,増速装置4によって増速した後,低圧段及び高圧段の圧縮機本体2,3の各ロータ軸24,34に入力することができるように構成されている。
【0045】
また,
図1中,油冷式スクリュ圧縮機1のケーシング21,31,41内部の空間に示された矢印を有する曲線は装置内を流通する空気の流れ方向を示しており,図に示す通り,圧縮機1は,前記低圧段圧縮機本体2の吐出口26は中間段通路19を介して前記高圧段圧縮機本体3の吸入口35に連通しており,前記ギヤケース41内の空間が前記中間段通路19の一部を成している。
【0046】
そして,増速装置4に設けられた駆動軸45を,ギヤケース41の内外に延設していることから,この駆動軸45がギヤケース41を貫通する部分に軸封部14を形成し,軸封装置5を使用して圧縮された流体や潤滑油が機外に漏出することを防止している。
【0047】
前述したように,ギヤケース41の内外を貫通する駆動軸45を設けるために,ギヤケース41の端板41aには,軸受13が収容される軸受室11が形成されていると共に,この軸受室11をギヤケース41の前記駆動軸45の軸端方向から被蓋する,中央に前記駆動軸45を挿通可能な軸孔12dが形成されたカバー12が設けられている。
【0048】
この軸受室11は,所定の直径に形成された円筒状の空間であり,駆動ギヤ44側一端の内周縁に,内向きに突出するつば部11aを設けることで,この部分の内径が他の部分に対して狭く形成されている。
【0049】
また,前述したカバー12は,軸受室11内に挿入される円筒部12aと,この円筒部12aの外周面より突出したフランジ部12bと,前記円筒部12aの端部を塞ぐ,中央に駆動軸45を挿入するための軸孔12dが形成された端面12cを備えており,円筒部12aを軸受室11内に挿入した状態で,フランジ部12bをギヤケース41の端板41aにボルト止め等の方法で固定することで,ケーシング41を前記駆動軸45の軸端方向より軸受室11を被蓋できるようになっている。
【0050】
また,カバー12に設けた円筒部12aの外周面と軸受室11の内周面間の間隔を介して流体が漏出することがないよう,この部分についても封止が行われており,図示の実施形態にあっては円筒部12aの外周面に形成された凹溝内にOリング15を嵌合させた状態で軸受室11内に円筒部12aを挿入することで隙間を封止することができるようにしている。
【0051】
図2は,
図1の前記軸封部14の拡大図であり,図に示すように,本実施形態の油冷式スクリュ圧縮機1に使用される軸封装置5は,剛性を有する金属環のアウターケース51及びインナーケース52によって枠が形成され,該枠に保持された2つのシールリップ53,54及び,ダストリップ部材56を備えたリップシール50であり,該リップシール50は,図に示すように,アウターケース51を前記カバー12の円筒部12aの内周側に挿嵌することにより固定されている。
【0052】
シールリップ53,54及び,ダストリップ部材56は,合成樹脂で形成されるが,耐熱性,耐摩耗性に優れるテフロン(登録商標)樹脂(例えば,四フッ化エチレン樹脂)を使用すると好適である。
【0053】
前記2つのシールリップ53,54は,
図2に示すように,先端が駆動軸45の軸線方向における機内側に向いており,ここでは,前記2つのシールリップ53,54について,駆動軸45の軸線方向における機内側に位置するシールリップを機内側シールリップ53と呼び,機外側に位置するシールリップを機外側シールリップ54と呼ぶ。
【0054】
前記ダストリップ部材56は,
図2に示すように,前記機外側シールリップ54よりさらに機外側に位置し,先端が駆動軸45の軸線方向における機外側に向いている。
【0055】
リップシール50は,機内側シールリップ53,機外側シールリップ54及び,ダストリップ部材56の内周縁部を,駆動軸45に嵌合されたカラー48の外周面に適度な弾力をもって常時摺接させることにより,カバー12の円筒部12aの内周面とカラー48の外周面との間をシールし,特に機内側シールリップ53及び機外側シールリップ54によって,機内(ケーシング41内)の流体を封止するとともに,ダストリップ部材56によって外部の粉塵が機内に侵入するのを防止する。
【0056】
なお,本実施形態では,駆動軸45にカラー48を嵌合させて,該カラー48の外周に2つのシールリップ53,54及びダストリップ部材56が摺接するようになっているが,カラー48を設けずに,2つのシールリップ53,54及びダストリップ部材56が駆動軸45の外周面に直接摺接する構成としても良い。
【0057】
また,
図2に示すように,本実施形態1の油冷式スクリュ圧縮機1は,前記リップシール50により,機内側シールリップ53及び機外側シールリップ54間に,油冷式スクリュ圧縮機1の作動時に油分離器(レシーバタンク)88内の潤滑油が導入される給油空間55が形成される。
【0058】
該給油空間55は,機内側シールリップ53及び機外側シールリップ54により,ギヤケース41内(機内側空間)及び機外側(大気圧)から仕切られた空間で,後述するように,ギヤケース41内(機内側空間)と機外側(大気圧)との中間層的役割を果たす。
【0059】
また,本実施形態のリップシール50には,機内側シールリップ53及び機外側シールリップ54の間にスペーサ6が設けられている。なお,本実施形態のリップシール50には,機内側シールリップ53及び機外側シールリップ54の間における前記スペーサ6の介在は必須ではなく,スペーサ6は省略しても良い。
【0060】
また,本実施形態のリップシール50には,
図2に示すように,機内側シールリップ53及び機外側シールリップ54間に,アウターケース51及び前記スペーサ6を貫通して,ケーシング(
図1では,カバー12,ケーシング41及び端板41a)に形成された給油通路16に連通する給油孔57,61(アウターケース51に形成された給油孔57,スペーサ6に形成された給油孔61)と,同じくケーシングに形成された調圧通路18に連通する排油孔58,62(アウターケース51に形成された排油孔58,スペーサ6に形成された排油孔62)が形成されている。
【0061】
前記給油孔57,61に連通する前記給油通路16は給油配管81に接続されており,
図3に示すように,油冷式スクリュ圧縮機1から吐出された気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離し,分離した潤滑油を貯留する油分離器88からの潤滑油が,オイルフィルタを通過させて潤滑油中に混入するゴミ等の不純物を除去され,オイルクーラ89を通過させて冷却された後,このオイルクーラ89からの給油配管81を分岐して油冷式スクリュ圧縮機本体1に設けられた前記給油通路18に導入され,
図1に示すように,この給油通路18を分岐し,前記給油孔57,61を通過して前記給油空間55に導入される。
【0062】
給油は,油分離器88内の圧力による圧送給油のため,高圧下の潤滑油が2つのシールリップ53,54間の給油空間55に導入されるので2つのシールリップ53,54間(給油空間55)の空間内の圧力が高くなり,ギヤケース41内(機内側),給油空間55,機外側(大気圧)の圧力の大きさを比較すると,機内側の圧力>給油空間55の圧力>機外側(大気圧)の圧力,の順となる。
【0063】
これにより,機内側の圧力が高圧であることにより機内側と機外側の圧力差が大きい場合であっても,機内側と給油空間55内の圧力差は,上述のとおり,機内側と機外側の圧力差に比べ小さく,また,給油空間55と機外側との圧力差についても機内側と機外側の圧力差に比べ小さくなることから,大きな圧力差によりシールリップ53,54が膨出変形することを抑えると共に,圧力差によってシールリップ53,54が駆動軸45を締める力(押し付け力)を抑え,摺動抵抗を低減することができる。
【0064】
また,機内側シールリップ53については,機内側から駆動軸45の外周に沿って伝わる潤滑油と機外側の給油空間55内の潤滑油で潤滑されるので,カラー48の外周と機内側シールリップ53との摩擦を低減することができる。
【0065】
また,リップシール50の前記排油孔58,62に連通する調圧通路18は,調圧配管83に接続されており,
図1に示すように,該調圧配管83により,前記給油空間55(軸封装置5を収容するケーシング41)内の圧力に対して相対的に低圧の位置における低段圧縮本体2のロータ室22内の空間に連通する。
図1においては,図面の便宜上調圧配管83の経路の一部を省略して,その終端側と始端側とに丸印符号(丸A)を付して,同一符号のもの同士が接続されることを示している。
【0066】
このため,給油空間55に導入された潤滑油はロータ室22内へ回収されるので,給油空間55は,オイルクーラ89を通過した油分離器88からの冷却された潤滑油を前記給油孔57,61を介して順次導入され,シールリップ53,54を効果的に冷却することができる。
【0067】
また,本実施形態の調圧配管83は,流路面積が狭く形成された絞り84が設けられ,この絞り84によって給油空間55が適正な圧力となるように調整されている。給油空間55内の適正な圧力とは,油冷式スクリュ圧縮機1の吸入弁が開いている全負荷状態において,キヤケース41内(機内側)の圧力と機外側の圧力(大気圧)との中間である。
【0068】
上述したように,本実施形態は,リップシール50のシールリップ53,54の異常摩耗や焼き付きを防止することができ,また,駆動軸45の摩耗を防止し,さらに,駆動軸を回転させる動力を抑えることもできる。
【0069】
なお,本実施形態のリップシール50については,機内側シールリップ53の長さを機外側シールリップ54の長さよりも短く形成して,機内側の圧力を受けるシールリップ53の表面積を小さくしている。シールリップ53の膨出変形を防止し,駆動軸45との接触面積が増えることによるシールリップ53の締める力(押し付け力)を抑え,シールリップ53の摺動抵抗を低減し,シールリップ53の異常摩耗,焼き付きを防止することが可能となる。
【0070】
さらに,
図6aに示すように,短くした機内側シールリップ53の厚さを機外側シールリップ54の厚さよりも厚くしても良い。これにより,シールリップ53の剛性が高まり,シールリップ53の膨出変形を防止し,また,機内側空間と給油空間55との圧力差が変動しても,シールリップ53の変形を小さくして,シールリップ53による駆動軸45の締め付け力を安定させ,シール性能の維持を図ることができる。
【0071】
また,
図2では省略されているが,本実施形態の油冷式スクリュ圧縮機1は,
図1に示すように,前記リップシール50より駆動軸45の軸線方向機外側に排油通路17をカバー12に設けると共に,この排油通路17をドレン配管85に連通することで,リップシール50を越えて漏出した潤滑油を排油通路17及びドレン配管85を介してドレン受け86に回収することができるようにしても良い。
【0072】
本発明の第2実施形態の油冷式スクリュ圧縮機1は,軸封部14内の軸封装置5の構造以外は,上述の第1の実施形態と同じ構造となっている。
【0073】
上述の第1の実施形態の軸封装置5は,1のリップシールに2つのシールリップ53,54が一体的に構成されたリップシール50であったが,第2の実施形態の軸封装置5は,
図4に示すように,1のリップシールに1のシールリップを備えたリップシール2個で構成されており,駆動軸45の軸線方向における機内側に位置するリップシールを第1(機内側)リップシール50aと呼び,機外側に位置するリップシールを第2(機外側)リップシール50bと呼ぶ。
【0074】
第1リップシール50a及び第2リップシール50bそれぞれは,剛性を有する金属環のアウターケース51a,51b及びインナーケース52a,52bによって枠が形成され,該枠に保持されたシール部材(シールリップ)53a,53bを備えており,さらに,第2リップシール50bには,シール部材53bの機外側にダストリップ部材56aが設けられている。
【0075】
また,第1リップシール50a及び第2リップシール50bは,
図4に示すように,アウターケース51a,51bを前記カバー12の円筒部12aの内周側に挿嵌することによりそれぞれ固定され,第1リップシール50a及び第2リップシール50b間に給油空間55aが形成されており,2つのリップシールのシール部材53a,53b間にスペーサ6を設けている。
【0076】
また,
図4に示すように,前記スペーサ6には給油孔61と排油孔62を設け,上述の第1実施形態と同様に,給油孔61は給油通路16を介して給油配管81(図示せず)と連通し,排油孔62は調圧通路18を介して調圧配管83(図示せず)と連通している。
【0077】
図4に示すように,本実施形態では,2つのリップシール50a,50bの間に形成された給油空間55aに給油通路16が連通しているので,第1の実施形態とは異なり,リップシールに直接,給油孔及び排油孔を形成する必要がない。
【0078】
上述の構成により,油分離器88から高圧の潤滑油が2つのシール部材53a,53b間の給油空間55aに導入されるので,給油空間55aの空間内の圧力が高くなり,ギヤケース内41(機内側),給油空間55a,機外側(大気圧)の圧力の大きさを比較すると,機内側の圧力>給油空間55aの圧力>機外側(大気圧)の圧力,の順となり,上述の第1の実施形態と同様に,機内側の圧力が高圧であることにより機内側と機外側(大気圧)の圧力差が大きい場合であっても,機内側と給油空間55a内の圧力差が機内側と機外側(大気圧)の圧力差に比べ小さくなり,また,給油空間55aと機外側との圧力差についても機内側と機外側(大気圧)の圧力差に比べ小さくなることから,大きな圧力差によりシール部材53a,53bが膨出変形することを抑えると共に,圧力差によってシール部材53a,53bが駆動軸45を締める力(押し付け力)を抑え,摺動抵抗を低減することができる。
【0079】
また,給油空間55aに導入された潤滑油は調圧配管83を介してロータ室22内へ回収されるので,給油空間55aは,オイルクーラ89を通過した油分離器88からの冷却された潤滑油を前記給油孔61を介して順次導入されるので,シール部材53a,53bを効果的に冷却することができる。
【0080】
また,本実施形態では,第1リップシール50aのシール部材53aの長さを第2リップシール50bのシール部材53bの長さよりも短くしている。
【0081】
さらに,本実施形態のリップシールは,
図6bに示すように,第1リップシール50aのシール部材53aの厚さを第2リップシール50bのシール部材53bの厚さよりも厚くしてもよい。
【0082】
本発明の第3の実施形態の油冷式スクリュ圧縮機1は,軸封部14内の軸封装置5,給油通路16,調圧通路18及び調圧配管83の構造以外は,第1の実施形態と同じ構造となっている。
【0083】
第3の実施形態の軸封装置5は,
図5に示すように,1のリップシールに1つのシールリップを備えたリップシール3個で構成され,ここでは,駆動軸45の軸線方向最も機内側に配置したリップシールを第1リップシール50a’と呼び,中央に配置したリップシールを第2リップシール50b’と呼び,最も機外側に配置したリップシールを第3リップシール50c’と呼ぶ。
【0084】
第1〜第3リップシール50a’,50b’,50c’それぞれは,剛性を有する金属環のアウターケース51a’,51b’,51c’及びインナーケース52a’,52b’,52c’によって枠が形成され,該枠に保持された1のシール部材(シールリップ)53a’,53b’,53c’を備えており,さらに,第3のリップシール50c’には,シール部材53c’の機外側にダストリップ部材56a’を設けている。
【0085】
また,第1リップシール50a’のシール部材53a’の長さを第2リップシール50b’のシール部材53b’の長さよりも短くし,第2リップシール50b’のシール部材53b’の長さを第3リップシール50c’のシール部材53c’の長さよりも短くしている。
【0086】
また,第1〜第3のリップシール50a’,50b’,50c’は,
図5に示すように,アウターケース51a’,51b’,51c’を前記カバー12の円筒部12aの内周側に挿嵌することによりそれぞれ固定され,第1リップシール50a’と第2リップシール50b’との間に第1の給油空間55a’を,第2リップシール50b’と第3リップシール50c’との間に第2の給油空間55b’を形成しており,また,第1リップシール50a’と第2リップシール50b’との間,第2リップシール50b’と第3リップシール50c’との間それぞれにスペーサ6,6’を設けている。
【0087】
各スペーサ6,6’には給油孔61,61’と排油孔62,62’をそれぞれ設け,給油孔61,61’は給油通路16a,16bを介して給油配管81と連通し,排油孔62,62’は調圧通路18a,18bを介して調圧配管83と連通している。
【0088】
なお,図に示すように,3つのリップリール50a’,50b’,50c’の間に形成される空間(給油空間)に給油通路16a,16bが連通しているので,第1の実施形態とは異なり,リップシールに直接給油孔及び排油孔を形成する必要がない。
【0089】
本実施形態の給油通路16は,
図5に示すように,第1リップシール50a’と第2リップシール50b’との間のスペーサ6に開口した給油孔61に対応する第1給油通路16aと,第2リップシール50b’と第3リップシール50c’との間のスペーサ6’に開口した給油孔61’に対応する第2給油通路16bとに分岐されている。
【0090】
また,本実施形態の調圧通路18は,第1リップシール50a’と第2リップシール50b’との間に設けたスペーサ6’に開口した排油孔62に対応する第1調圧通路18aと,第2リップシール50b’と第3リップシール50c’との間に設けたスペーサ6’に開口した排油孔62’に対応する第2調圧通路18bとを設けている。
【0091】
また,本実施形態では,第1調圧通路18aに接続する第1調圧配管83aと第2調圧通路18bに接続する第2調圧配管83bのそれぞれに絞り84a,84bを設けていて,第1調圧配管18aに設けた第1絞り84aは,第2調圧配管18bに設けた第2絞り84bよりも細く形成し,第1調圧配管と第2調圧配管の他端をそれぞれ,軸封装置5を収容するケーシング41内の圧力に対して相対的に低圧の位置における低圧段圧縮機本体2のロータ室22内の空間に接続している。
【0092】
本実施形態では,油分離器88からの圧送給油により,高圧下の潤滑油が第1リップシール50a’のシール部材53a’と第2リップシール50b’のシール部材53b’との間の第1の給油空間55a’及び,第2リップシール50b’のシール部材53b’と第3リップシール50c’のシール部材53c’との間の第2の給油空間55b’に導入され,かつ,上述した第1絞り84a及び第2絞り84bによって,油冷式スクリュ圧縮機1の吸入弁が開いている全負荷状態における各給油空間55a’,55b’内の圧力をギヤケース41内から機外に向けて段階的に圧力を低くするようにしたため,ギヤケース41内(機内側空間),第1の給油空間55a’,第2の給油空間55b’及び,機外側(大気圧)の圧力を比較すると,機内側の圧力 >第1の給油空間55a’(機内側給油空間)内の圧力 >第2の給油空間55b’(機外側給油空間)内の圧力 >機外側の圧力(大気圧)となる。
【0093】
これにより,ギヤケース41内(機内側)の圧力が高圧であることにより機内側と機外側(大気圧)の圧力差が大きい場合であっても,機内側と第1の給油空間55a’内の圧力差が機内側と機外側の圧力差に比べ小さくなり,同様に,第1の給油空間55a’と第2の給油空間55b’との圧力差及び,第2の給油空間55b’と機外側との圧力差についても機内側と機外側(大気圧)の圧力差に比べ小さくなることから,大きな圧力差によりシール部材53a’,53b’,53c’が膨出変形することを抑えると共に,圧力差によってシール部材53a’,53b’,53c’が駆動軸45を締める力(押し付け力)を抑え,摺動抵抗を低減することができる。
【0094】
また,給油空間55a’,55b’に導入された潤滑油は調圧配管83を介してロータ室22内へ回収されるので,第1の給油空間55a’と第2の給油空間55b’は,オイルクーラ89を通過した油分離器88からの冷却された潤滑油が前記給油孔61を介して順次導入され,シール部材53a’,53b’,53c’を効果的に冷却することができる。
【0095】
また,本実施形態では,第1絞り84a,第2絞り84bの径(細さ)によって各給油空間55a’,55b’内の圧力を調整しているが,各給油空間内の圧力が段階的に低くなるように絞りの径を調整する他に,第1調圧配管83aの他端を,第2調圧配管84bが連通するロータ室の作用空間よりも高圧にある作用空間と連通するようにしてもよい。
【0096】
以上,本発明の実施形態について述べてきたが,前記給油空間55を少なくとも1以上形成するために,1のシールリップを備えるリップシールは2以上となり,2以上のシールリップを備えるリップシールは1以上となる。
【0097】
例えば,第1の実施形態では,
図2に示すように,2のシールリップを備えるリップシールを1個設置している。第2の実施形態では,
図4に示すように,それぞれ1のシールリップを備えるリップシールを2個設置している。第3の実施形態では,
図5に示すように,それぞれ1のシールリップを備えるリップシールを3個設置している。
【0098】
以上で述べた全ての実施形態は,増速装置4を備えた二段型スクリュ圧縮機に対して,その軸封部14にリップシールを設ける場合を例に挙げて説明しているが,本発明の油冷式スクリュ圧縮機1は,二段型スクリュ圧縮機に限定されず,例えば,単段型の圧縮機本体2’に設けた増速装置4の軸封部14にリップシールを設けるものであっても良く,または,ロータ軸の一方を直接,ケーシングを貫通して機外に突出させてこれを駆動源に連通する駆動軸とする場合のように,増速装置を備えていない圧縮機本体の軸封部にリップシールを採用するものとしても良い。