【実施例】
【0033】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.サンプルコーヒー飲料の製造
本実施例では、グアイアコール、クロロゲン酸ラクトン類、フェノール、p−エチルフェノール、p−クレゾール及び2−アセチルピロールの含有量が異なるサンプル飲料(実施例1〜7及び比較例1〜3)を調製した。各サンプル飲料の具体的な調製方法を以下に記載する。なお、各成分の標準品も準備し、必要に応じて、添加した。
<実施例1>
中煎りに焙煎したコーヒー豆(グアテマラ種:L値20)を粉砕し、コーヒー豆の量に対して9倍の質量の湯を抽出湯として用い、抽出機で50℃にて抽出を行った。また、抽出工程の途中で蒸らし時間を3分間設けた。そして、回収する抽出湯量がコーヒー豆量の約3倍の質量となったところで抽出を終了した。その後、抽出液に対して遠心分離、膜ろ過を実施した。その後、得られた抽出液を約3倍希釈し、さらに重曹を添加して実施例1用の調合液を得た。前記ベース飲料を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例1のコーヒー飲料を得た
。
<実施例2>
実施例1用の調合液を10/12倍希釈して、実施例2用の調合液を調製した。その後、実施例2用の調合液を400g容量のボトル缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例2のコーヒー飲料を得た。
<実施例3、実施例4、比較例2>
実施例2の調合液に、グアイアコールを所定の含有量となるように配合して、実施例3、4及び比較例2用の調合液を調製した。その後、実施例3、4及び比較例2用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例3、4及び比較例2のコーヒー飲料を得た。
<実施例5>
実施例3用の調合液を7/10倍希釈して、実施例5用の調合液を調製した。その後、実施例5用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例5のコーヒー飲料を得た。
<実施例6>
実施例5用の調合液に、グアイアコールを所定の含有量となるように配合して、実施例6用の調合液を調製した。その後、実施例6用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例6のコーヒー飲料を得た。
<実施例7>
実施例6用の調合液を4.7/8倍希釈して、実施例7用の調合液を調製した。その後、実施例7用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例7のコーヒー飲料を得た。
<比較例3>
実施例7用の調合液に、グアイアコールを所定の含有量となるように配合して、比較例3用の調合液を調製した。その後、比較例3用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、比較例3のコーヒー飲料を得た。
<比較例1>
超深煎りに焙煎したコーヒー豆(グアテマラ種:L値16)を粉砕し、コーヒー豆の量に対して9倍の質量の水を抽出水として用い、抽出機で20℃の低温で抽出を行った。また、抽出工程の途中で蒸らし時間を3分設けた。そして、回収する抽出湯量がコーヒー豆量の約3倍の質量となったところで抽出を終了した。その後、得られた抽出液を約3倍希釈し、さらに重曹を添加して調合液を得た。前記調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、比較例1のコーヒー飲料を得た。
【0034】
2.クロロゲン酸ラクトン類、グアイアコール、フェノール、p−エチルフェノール、p−クレゾール及び2−アセチルピロール含有量の測定
上記1で調製したレトルト殺菌後の容器詰めコーヒー飲料のサンプル(実施例1〜7及び比較例1〜3)を開栓し、各コーヒー飲料中のクロロゲン酸ラクトン類、グアイアコール、フェノール、p−エチルフェノール、p−クレゾール及び2−アセチルピロール含有量を以下の分析条件で測定した。また、市販の缶コーヒー1〜3(市販品1:コカコーラエメラルドマウンテンコーヒー、市販品2:ワンダ極コーヒー、及び市販品3:KIRIN Fire燻製珈琲Black)中の各成分含有量も同様に分析した。結果を表1に示す。
<クロロゲン酸ラクトン類の分析条件(LC/MS)>
クロロゲン酸ラクトン類は、LC/MSを用いて分析した。
(LC分離条件)
HPLC装置:Agilent 1290シリーズ(アジレントテクノロジーズ社製)
送液ポンプ:G4220A
オートサンプラー:G4226A(サーモスタット G1330B付き)
カラムオーブン:G1316C
DAD検出器:G4212A
カラム:Cortecs UPLC T3(粒径1.6μm、内径2.1mm×150mm、Waters社製)
移動相A:ギ酸0.1%水溶液
移動相B:アセトニトリル
流量:0.4mL/min
濃度勾配条件:0.0〜2.0分(10%B)→8.0分(25%B)→8.5〜10.0分(100%B)、初期移動相による平衡化5.0分
カラム温度:40℃
試料注入:注入量2.0μL
質量分析装置への試料導入:1.35〜8.49分
(質量分析条件)
質量分析装置:Q Exactive(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
イオン化方法:HESI、ネガティブモード
イオン化部条件:
Sheath gas flow rate:50
Aux gas flow rate:10
Sweep gas flow rate:0
Spray voltage:2.50kV
Capilary temp:350℃
Aux gas heater temp:300℃
検出条件:
Resolution:140000
AGC Target:1e6
Maximum IT:100ms
Scan Range:200 to 500 m/z
(標準品の調製)
クロロゲン酸ラクトン類の標準品はTetrahedron Lett.,Vol.52,2011,7175−7177に記載の方法を参考に合成した。方法は以下の通り。クロロゲン酸(シグマアルドリッチ社製、0.9g)とp−トルエンスルホン酸(ナカライテスク社製、0.05g)を還流フラスコに測りとり、無水N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、5mL)とトルエン(ナカライテスク社製、18mL)を加えてよく振り混ぜ、Dean−Stark装置にて12時間加熱還流した。これを室温まで冷却し、ロータリーエバポレーターで溶媒を溜去し、残留物を酢酸エチル(和光純薬工業社製、20mL)とともに4時間加熱還流した。得られた液をロータリーエバポレーターで溶媒溜去し、残留物をHPLC用メタノールに溶解した。この溶液の1/20量を取り、予めメタノールで平衡化した陰イオン交換カラム(Sep−Pak Vac QMA 6cc、Waters社製)に通液した。
【0035】
これを上記のLC分離条件と質量分析条件を用いて分析したところ、
図1に記載の通り、335.07556〜335.07892 m/zの抽出イオンクロマトグラムにおいて5.4分〜6.6分に複数のピークが検出された。これらの成分は、精密質量および参考文献(Eur. Food Res. Technol.,Vol.222,2006,492−508)から、クロロゲン酸ラクトン類と考えられた。クロロゲン酸とクロロゲン酸ラクトン類は、いずれも分子内にカフェ酸を有するため、吸光度280nmにおけるモル吸光係数が同一である。そこで、同分析条件の吸光度280nm(DAD検出器 G4212A)にて濃度既知のクロロゲン酸標準液とピーク面積を比較し、得られた調製液のクロロゲン酸ラクトン類の含有量を算出した。すなわち、吸光度280nmのクロマトグラムにおいて、1mmol/Lのクロロゲン酸標準溶液の分析で得られるピーク面積(溶出時間約3.2分)と、クロロゲン酸ラクトン類を含む溶液の分析で得られるピーク面積(溶出時間5.4〜6.6分)が同一であれば、クロロゲン酸ラクトン類の濃度が1mmol/Lであることを意味する。
(サンプルの調製)
分析用サンプルは、以下の方法で調製した。まず、コーヒー試料をクロマトグラフィー用蒸留水で正確に10倍に希釈した。これを予め蒸留水で洗浄したPTFE製フィルター(東洋濾紙社製、ADVANTEC DISMIC−25HP 25HP020AN,孔径0.20μm、直径25mm)で濾過し、分析試料とした。
(定量解析条件)
335.07556〜335.07892 m/zの抽出イオンクロマトグラムにおいて5.4分〜6.6分に検出される複数のピークの面積値の合計を用い、分析用サンプルと標準品を比較して定量値を算出した。サンプルコーヒー飲料(実施例1)から調製した分析用サンプルのクロマトグラムを
図2に示す。各サンプルコーヒー飲料のクロマトグラムにおける5.4分〜6.6分の複数のピークが、本発明におけるクロロゲン酸ラクトン類、すなわち、5−カフェオイル−1,3−キノラクトン、3−カフェオイル−1,5−キノラクトン、4−カフェオイル−1,3−キノラクトン、4−カフェオイル−1,5−キノラクトン、および5−カフェオイル−1,4−キノラクトンの各成分であり、前記各成分の含有量の合計を各サンプルコーヒー飲料中のクロロゲン酸ラクトン類含有量として示した。
【0036】
なお、標準品のクロロゲン酸ラクトン類のクロマトグラム(
図1)とサンプルコーヒー飲料中のクロロゲン酸ラクトン類のクロマトグラム(
図2)でピーク数及びピーク高さが異なるが、これは標準品とサンプルコーヒー飲料とで前記5種類の成分の存在比率が異なることによるものである。しかしながら、上述の通り、本発明では、飲料中の前記5種類の成分の含有量の合計が飲料中のクロロゲン酸ラクトン類含有量であり、前記クロロゲン酸ラクトン類の含有量はピーク面積から算出されるため、前記ピーク数及びピーク高さの違いは、本実施例における含有量測定の精度に実質的に影響を及ぼすものではない。
<グアイアコール、フェノール、p−エチルフェノール、p−クレゾール、及び2−アセチルピロールの分析条件(GC/MS)>
試料液5mlをネジ付き20ml容ガラス瓶(直径18mm,ゲステル社製)に入れてPTFE製セプタム付き金属蓋(ゲステル社製)にて密栓し、固相マイクロ抽出法(SPME)にて香気成分の抽出を行った。定量は、GC/MSのEICモードにて検出されたピーク面積を用い、標準添加法にて行った。使用した機器および条件を以下に示す。
【0037】
SPMEファイバー:StableFlex/SS,50/30μm DVB/CAR/PDMS,(スペルコ社製)
全自動揮発性成分抽出導入装置:MultiPurposeSampler MPS2XL(ゲステル社製)
予備加温:40℃5分間
攪拌:なし
揮発性成分抽出:40℃30分間
揮発性成分の脱着時間:3分間
GCオーブン:GC7890A(アジレントテクノロジーズ社製)
カラム:VF−WAXms,60m×0.25mmi.d. df=0.50μm(アジレントテクノロジーズ社製)
GC温度条件:40℃(5分間)→5℃/分→260℃(11分間)
キャリアーガス:ヘリウム,1.2ml/分,流量一定モード
インジェクション:スプリットレス法
インレット温度:250℃
質量分析装置:GC/MS Triple Ouad7000(アジレントテクノロジーズ社製)
イオン化方式:EI(70eV)
測定方式:スキャン測定、またはスキャン&SIM同時測定
スキャンパラメータ:m/z35〜350
定量イオンは以下に示すイオンから、検出感度、ピーク形状およびピーク分離が良好なものを選択できる:グアイアコール m/z109、124または81(本実施例においては81);p−エチルフェノール m/z107、122または77(本実施例においては107);p−クレゾール m/z107、108、77または79(本実施例においては107);フェノール m/z94、66または65(本実施例においては94);2−アセチルピロール m/z94、109または66(本実施例においては94)。
【0038】
なお、上記イオンのいずれを用いてもピーク形状または感度が良好でない場合は、試料液を蒸留水で適切な倍率に希釈するか、SIMモードを用いることができる。
3.官能評価
3名の訓練された専門パネラー間で、官能評価結果(市販品1の常温開栓時)を使用してそれに対応する点数との関係を確認し、点数付けがなるべく共通化するようにした後、上記1で調製したコーヒー飲料及び市販品1〜3の官能評価を3名の専門パネラーによって行い、コーヒー飲料の後味の悪さについて評価した。具体的には、各専門パネラーごとに下記基準に基づいて0.1点刻みで点数付けを行い、その平均点を表1に示した。なお、官能評価においては、グアイコール含有量がある程度低い市販品1の常温開栓時の官能評価結果(官能評価点:4.0点)を基準とし、平均点4.0点を超えるものが好ましいコーヒー飲料であると判定した。
【0039】
<評価点の基準>
5.0点:後味の悪さが全くない。
4.0点:後味の悪さがほとんどない。
【0040】
3.0点:後味の悪さが少しある。
2.0点:後味の悪さがある。
1.0点:後味の悪さが強すぎて、飲料として適さない。
【0041】
結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に記載の通り、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量とグアイアコール(a)の含有量との含有量比((b)/(a))が本発明の所定の範囲内にあるコーヒー飲料(実施例1〜7)では、常温2時間後における官能評価点がいずれも4.0点を超えており、後引きする苦味が抑制され、後味の悪さも改善されていることが示された。従って、本発明によると、コーヒー飲料中のクロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)とグアイアコール(a)の含有量(μg/L)との含有量比((b)/(a))が特定の範囲となるように、クロロゲン酸ラクトン類及びグアイアコールの含有量を調整することで、液温にかかわらずコーヒー特有の後引きする苦味が抑制され、良好な後味を有する容器詰めコーヒー飲料を実現できることが明らかとなった。