特許第6948224号(P6948224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948224絶縁組成物、及びチップ抵抗器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948224
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】絶縁組成物、及びチップ抵抗器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20210930BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210930BHJP
   H01C 1/034 20060101ALI20210930BHJP
   H01C 17/02 20060101ALI20210930BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20210930BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20210930BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20210930BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20210930BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210930BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08K3/22
   H01C1/034
   H01C17/02
   H01B3/40 C
   H01B3/00 A
   C09D5/25
   C09D163/00
   C08K3/013
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-206589(P2017-206589)
(22)【出願日】2017年10月25日
(65)【公開番号】特開2019-77810(P2019-77810A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591153983
【氏名又は名称】ペルノックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】岩村 栄治
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕一
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−073432(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0078819(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0133178(KR,A)
【文献】 特開昭63−081117(JP,A)
【文献】 特表2018−530632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08G 59/00−59/72
H01C 1/034、17/02
H01B 3/40、3/00
C09D 5/25、163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性及び/又は光硬化性の多官能エポキシ樹脂(a)と、
硬化剤(b)と、
無機粒子(c)と、
溶剤(d)と、
所定のエネルギーが与えられることによって酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタン(TiO,式中のxは、0<x<2)を生成する酸窒化チタン(e)と、を含有する、
チップ抵抗器、コンデンサー、インダクター、電動モーターの回転子、電動モーターの固定子、フィールドコイル、電線、変圧器、及び高電圧発生器の群から選択される一種の少なくとも一部の表面を覆うための、
絶縁組成物。
【請求項2】
シュウ酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、クロム化合物、酸化鉄、酸化モリブデン、及び酸化ビスマスの群から選択される少なくとも1種をさらに含む、
請求項1に記載の絶縁組成物。
【請求項3】
前記酸窒化チタン(e)の含有量が、0.5質量%以上20質量%以下であることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の絶縁組成物。
【請求項4】
前記硬化剤(b)が、酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、及びジシアンジアミド(Dicy)の群から選択される少なくとも1種である、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁組成物。
【請求項5】
無機粒子(c)が、シリカ、珪酸マグネシウム、アルミナ、及びチタニアの群から選択される少なくとも1種である、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁組成物。
【請求項6】
熱硬化性及び/又は光硬化性の多官能エポキシ樹脂(a)と、硬化剤(b)と、無機粒子(c)と、溶剤(d)と、酸窒化チタン(e)とを含有する、絶縁組成物によってチップ抵抗器の少なくとも一部の表面を覆う、被覆工程と、
面状を成す前記絶縁組成物の中の、前記酸窒化チタン(e)の一部に対して、酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタン(TiO,式中のxは、0<x<2)が生成されるためのエネルギーを与えるエネルギー供給工程と、を含む、
チップ抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁組成物、チップ抵抗器、表示体の製造方法、及びチップ抵抗器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における電気機器に対する小型化、高効率化、及び高出力化の要求から、絶縁組成物又は絶縁性材料による電気的被覆に対しては、過酷な物理的又は化学的ストレスにも対応し得る密着性、あるいは、耐(熱)衝撃性又は耐摩耗性に代表される高い機械的強度が求められている。
【0003】
絶縁組成物又は絶縁性材料による被覆の代表的な対象は、様々な電気的接点の端子部のみならず、各種電動モーターの回転子や固定子、モーター用フィールドコイル、建築用電線、家電・産業・電力機器用電線、地下送電ケーブル等の電線、変圧器、医療用機器等のための高電圧発生器、又は一般的に電子回路に用いられる抵抗器、コンデンサー、インダクター、半導体部品等の電子部品であり、さらには一般的な電子制御等に用いられている実装回路基板の基板、配線回路、及び各種チップ状電子部品である。
【0004】
例えば、図5に示すように、一般的なチップ抵抗器900は、セラミック製の基材910上に形成された抵抗体950と、抵抗体950を被覆するガラス材料層960と、さらに該ガラス材料層を被覆する保護膜970を有する。加えて、チップ抵抗器900は、セラミック製の基材910の一部の平面、一部の底面、及び側面上に、抵抗体950と電気的に接続した金属電極層920と、金属電極層920を覆うニッケル層930及び錫めっき層940を備えている。なお、ガラス材料層960が省略され抵抗体950上に保護膜970を直接形成して被覆する場合、あるいは金属電極層920とニッケルめっき層930との間に、導電性微粒子を含んだ樹脂電極層が形成される場合もある。
【0005】
上述の保護膜は、めっき液による腐食又は外部環境(湿度等)による抵抗体の劣化を防ぐために設けられる。該保護膜の材料の例として、脂環式エポキシ樹脂、フェノールアラルキル樹脂、及び硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂(特許文献1)、あるいはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル樹脂、及びフェノール変性キシレン樹脂を含有するエポキシ樹脂(特許文献2)が開示されている。
【0006】
また、基板上に表面実装される抵抗体又は集積回路(IC)等のチップ状の電子部品は、その識別番号、品種記号、及び/又は商品番号等(以下、総称して「番号等」という)が該電子部品の表面に表示されている。発明者らが知る限り、これまでは、前述の番号等を表示するために、該電子部品の表面(上述の保護膜の表面)上に、熱硬化型又は紫外線硬化型のエポキシ樹脂等を主成分とする捺印ペースト、又はインクが塗布・転写される工程が一般的に採用されていた。
【0007】
また、リード付の電子部品においては、顔料を含むインクをローラー又はスタンプを用いて該電子部品の表面上に転写することにより識別番号等を表示する方法、あるいは、該電子部品の表面上に形成された発色剤又は熱吸収剤を含む塗膜に対してレーザーを照射して発色させる又は凹凸表面を形成することにより識別番号等を表示する方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−278260号公報
【特許文献2】特開2009−091424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、該電子部品の表面上に形成される捺印ペースト又はインクは、該電子部品の表面との接着性に関する問題が生じ得る。また、捺印ペースト又はインクのにじみ及び/又は欠け等の、いわゆる塗布による欠陥が、該電子部品を取り扱う人(例えば、該電子部品の製造工場における作業者)の視認性を低下、又は視認不能にさせることになる。加えて、該電子部品を大量生産する際には、該電子部品を一括的に処理して製造する際の機械的な接触に基づく欠損等の問題が生じ得る。また、前述の問題は、該電子部品の製造時のみならず、該電子部品が回路基板上や電子機器モジュールに実装され、実際に使用される際にも生じ得る。
【0010】
なお、上述の技術的課題は、電子部品の表面上に形成される番号等に限られず、絶縁組成物によって少なくとも一部が被覆される各種の電気機器のための番号等に対しても少なくとも一部が当て嵌まる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の少なくとも1つの技術課題を解決することにより、電気機器等の各種のデバイスに用いられる番号等の視認性を高めることに大きく貢献し得る。
【0012】
本発明者らが鋭意研究と分析を重ねた結果、本発明者らは、絶縁組成物又は絶縁性材料(以下、総称して「絶縁組成物」という)によって少なくとも一部が被覆される電気機器とは別体の表示体を採用することは、如何に電気機器との接着性を高めようとも限界がある点に着目した。そのような問題意識に基づいて、本発明者らは、その絶縁組成物自身が、番号等を表示し得る、いわば表示体としての機能を発揮する可能性について鋭意研究と分析を重ねた。加えて、本発明者らは、その絶縁組成物の耐レーザー性についても着目し、耐レーザー性の向上も配慮した絶縁組成物を創出すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、外部から所定のエネルギーが与えられることによって視覚的に状態を変化させ得るある特定の物質を、その絶縁組成物が含有することによって、絶縁性を実質的に損なうことなく上述の技術的課題の少なくとも一部が解決され得ることを知得した。本発明は上述の視点に基づいて創出された。
【0013】
本発明の1つの絶縁組成物は、熱硬化性及び/又は光硬化性の多官能エポキシ樹脂(a)と、硬化剤(b)と、無機粒子(c)と、溶剤(d)と、所定のエネルギーが与えられることによって酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタンを生成する酸窒化チタン(e)と、を含有する。
【0014】
この絶縁組成物によれば、その絶縁組成物によって少なくとも一部が被覆される、電気機器等の各種のデバイスのための番号等の表示を、確度高く実現し得る。より具体的には、表示する機能を絶縁組成物自身が備えているため、従来のように絶縁組成物とは別に設けられていた部品と該絶縁組成物との接着性の問題が生じないという格別の技術的効果が奏される。
【0015】
また、本発明の1つの表示体の製造方法は、熱硬化性及び/又は光硬化性の多官能エポキシ樹脂(a)と、硬化剤(b)と、無機粒子(c)と、溶剤(d)と、酸窒化チタン(e)とを含有する、面状を成す絶縁組成物の中の、該酸窒化チタン(e)の一部に対して、酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタン(TiO,式中のxは、0<x<2)が生成されるためのエネルギーを与えるエネルギー供給工程を含む。
【0016】
この表示体の製造方法によれば、上述の絶縁組成物によって少なくとも一部が被覆される、電気機器等の各種のデバイスのための番号等の表示を、確度高く実現し得る表示体を製造することができる。より具体的には、この製造方法によって製造された表示体は、表示する機能を絶縁組成物自身が備えているため、従来のように絶縁組成物とは別に設けられていた部品と該絶縁組成物との接着性の問題が生じないという格別の技術的効果が奏される。
【0017】
また、本発明の1つのチップ抵抗器の製造方法は、熱硬化性及び/又は光硬化性の多官能エポキシ樹脂(a)と、硬化剤(b)と、無機粒子(c)と、溶剤(d)と、酸窒化チタン(e)とを含有する、絶縁組成物によってチップ抵抗器の少なくとも一部の表面を覆う、被覆工程と、面状を成す前記絶縁組成物の中の、前述の酸窒化チタン(e)の一部に対して、酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタン(TiO,式中のxは、0<x<2)が生成されるためのエネルギーを与えるエネルギー供給工程と、を含む。
【0018】
このチップ抵抗器の製造方法によれば、上述の絶縁組成物によって少なくとも一部が被覆されるチップ抵抗器のための番号等の表示を、確度高く実現し得るチップ抵抗器を製造することができる。より具体的には、この製造方法によって製造されたチップ抵抗器は、表示する機能を絶縁組成物自身が備えているため、従来のように絶縁組成物とは別に設けられていた部品と該絶縁組成物との接着性の問題が生じないという格別の技術的効果が奏される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の1つの絶縁組成物によれば、その絶縁組成物によって少なくとも一部が被覆される、電気機器等の各種のデバイスのための番号等の表示を確度高く実現し得る。
【0020】
また、本発明の1つの表示体の製造方法によれば、絶縁組成物によって少なくとも一部が被覆される、電気機器等の各種のデバイスのための番号等の表示を、確度高く実現し得る表示体を製造することができる。
【0021】
また、本発明の1つのチップ抵抗器の製造方法によれば、絶縁組成物によって少なくとも一部が被覆されるチップ抵抗器のための番号等の表示を、確度高く実現し得るチップ抵抗器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第2の実施形態のチップ抵抗器の断面模式図である。
図2】第3の実施形態における表示体としての表示機能を発揮している状態の絶縁保護膜を備えたチップ抵抗器の模式図(斜視図)である。
図3】第3の実施形態の変形例における表示体としての表示機能を発揮している状態の絶縁保護膜を備えた電線の模式図(斜視図)である。
図4】実施例5による表示機能を発揮した絶縁組成物(表示体)の写真である。
図5】従来のチップ抵抗器の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態である絶縁組成物の一例について詳細に述べる。
【0024】
<第1の実施形態>
本実施形態の絶縁組成物は、熱硬化性及び/又は光硬化性の多官能エポキシ樹脂(a)と、硬化剤(b)と、無機粒子(c)と、溶剤(d)と、所定のエネルギーが与えられることによって酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタンを生成する酸窒化チタン(e)と、を含有する。なお、本実施形態の絶縁組成物の代表的な各種製品への適用例は、絶縁保護ペースト組成物である。
【0025】
本実施形態の(a)成分は、熱硬化性及び/又は光硬化性のエポキシ樹脂である。該エポキシ樹脂の種類は特に限定されない。代表的なエポキシ樹脂の例は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ヒドロキシフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アルキル系エポキシ樹脂等である。
【0026】
なお、本実施形態においては、前述の絶縁組成物に対して外部から所定のエネルギーが与えられる。該エネルギーの付与手段の代表例は、レーザーの照射、公知の各種ヒーターによる加熱、又は紫外線である。
【0027】
そのため、本実施形態の絶縁組成物に、より確度高く表示機能を発揮させるために、下記の性能(1)及び/又は(2)を具備するエポキシ樹脂を本実施形態の(a)成分として採用することは、好適な一態様である。
(1)上述のレーザーの照射等による局所的に高いエネルギーへの曝露に耐え得る性能、及び/又は局所的に高い温度への曝露に耐え得る性能
(2)絶縁組成物の熱履歴(ヒートサイクル)への耐性
【0028】
また、本実施形態の(b)成分の硬化剤の種類は、特に限定されない。代表的な熱硬化における硬化剤の例は、酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、及びジシアンジアミド(Dicyandiamide:[Dicy]ともいう。)の群から選択される少なくとも1種である。なお、前述の代表的な硬化剤の例を採用することは、本実施形態の絶縁組成物におけるエポキシ樹脂の十分な硬化性を確保することができるという効果が得られるため、好ましい。
【0029】
本実施形態の(b)成分は、外部から与えられるエネルギーに対する耐性(例えば、レーザー照射に対する耐性)を高める観点、外部から与えられるエネルギーに起因する熱(例えば、レーザー照射時の熱)に対する耐性を高める観点、あるいは機械的特性の劣化に対する耐性を高める観点から選定されることが好ましい。前述の各観点から言えば、例えば、ジシアンジアミド系硬化剤やイミダゾール系硬化剤を採用することは、より好適な一態様である。なお、熱硬化における硬化剤の量は、特に限定されない。但し、本実施形態の(a)成分の合計質量を100質量部とした場合に、本実施形態の(b)成分の合計質量を1質量部以上20質量部以下の範囲に調製することは、十分な硬化性と適切な反応性とを同時に実現し得るため、好ましい。
【0030】
また、光硬化性の硬化剤の例は、紫外線等が照射されることによってラジカル及び/又は酸を発生させ、重合を開始させる、いわゆる「光重合開始剤」と呼ばれる公知の硬化剤である。代表的な光重合開始剤の例は、トリアリルスルホニウム塩等である。また、必要に応じて、公知の重合禁止剤、光安定剤、及び/又は光増感剤等をさらに添加することができる。なお、光重合開始剤の配合量は、特に限定されない。但し、本実施形態の光硬化性エポキシ樹脂とエポキシモノマーの合計質量を100質量部とした場合に、本実施形態の光硬化性の硬化剤を1質量部以上15質量部以下の範囲に調製することは、適切な反応性と十分な硬化性とを同時に実現し得るため、好ましい。
【0031】
また、本実施形態の(c)成分の無機粒子の種類は、特に限定されない。電気的な絶縁性を確度高く保持する観点から言えば、好適な無機粒子の例は、シリカ、珪酸マグネシウム(タルク)、アルミナ、及びチタニアの群から選択される少なくとも1種である。本実施形態の(c)成分として、シリカ、珪酸マグネシウム、アルミナ、チタニア等のセラミック粒子が採用されることにより、本実施形態の絶縁組成物の絶縁性がより高められる。
【0032】
また、本実施形態の(d)成分の溶剤の種類は、特に限定されない。本実施形態の溶剤は、本実施形態の(a)成分(エポキシ樹脂)と本実施形態の(c)成分(無機粒子)とが混合されて、ペースト状物質として用いられる際に、各種の塗布又は転写工程における塗膜の形成のための適度な塗布性を与えるために用いられる。なお、セラミック、樹脂、又は金属等の基材に対する塗布又は転写手段の例は、スクリーン印刷法、ローラー転写法、ディップ法、浸漬法、又はスプレー塗装法等による塗布又は転写手段である。従って、本実施形態の(d)成分の溶剤は、一般的な作業環境において該絶縁組成物に対して適度な粘度や安定性を与えるものであれば採用され得る。
【0033】
また、代表的な溶剤の例は、
エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール等の脂肪族アルコール類;
ターピオネール等のテルペノール類;
ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ヘキシルカルビトール等のグリコールエーテル類;
酢酸イソプロピル、プロピオン酸エチル、安息香酸ブチル、アジピン酸ジエチル等のエステル類;
及び/又は
n−ヘキサン、ドデカン、テトラデセン等の炭化水素類
等である。
【0034】
従って、上述の各溶剤は、単独で又は2種以上が混合されて用いられ得る。なお、本実施形態の絶縁組成物に、経時的に増粘し難くなるという有利な特徴を発揮させる観点から、グリコールエーテル類及び/又はテルペノール類を採用することが特に好ましい。
【0035】
また、本実施形態の(e)成分の酸窒化チタンは、一般的にチタンブラックと呼ばれるものである。外部から所定のエネルギー(一例として、レーザー照射によるエネルギー)が該酸窒化チタンに与えられることによって、少なくとも一部の酸窒化チタンが、酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタン(TiO,式中のxは、0<x<2)に化学変化し得る。その結果、本実施形態の絶縁組成物は、(e)成分の酸窒化チタンの一部に対してエネルギーが与えられることによって生成される該酸化チタン及び/又は該低次酸化チタンを含有することになる。本実施形態においては、前述の化学変化が積極的に利用される。具体的には、該化学反応の前後において色覚的にヒトの視覚的な差異を生じさせることにより、本実施形態の絶縁組成物は、単純にレーザー照射によって凹凸形状を形成して知覚させる場合よりも確度高く、いわば表示体としての機能を発揮し得る。
【0036】
さらに詳しく説明すると、外部から所定のエネルギーが与えられると、酸窒化チタンの広範囲の波長域における優れた遮光性と相まって、黒色のマトリックスに対して白色に変化した上述の酸化チタン及び/又は低次酸化チタンが、より視覚的に映えることになる。この酸化チタン及び/又は低次酸化チタンに起因した白色と、酸窒化チタンに起因する黒色と間に形成される高いコントラストが、上述のように外部からのエネルギーによって比較的容易に実現し得ることは、特筆に値する。なお、後述するように、本実施形態の絶縁組成物を活用した表示体としての機能は、白と黒とのコントラスト(すなわち、明度)による差異のみに限らず、発色させることによって色相及び/又は彩度を利用した表示機能を実現することも可能である。
【0037】
加えて、本実施形態の絶縁組成物が、物質的な安定性を有する酸窒化チタンを含有することから、該絶縁組成物が仮に何らかのデバイス(例えば、チップ抵抗器の抵抗体)を覆うように設けられた場合は、湿度等の外部環境要因に対する影響を抑制又は緩和するとともに、高い電気的絶縁性を有する絶縁保護膜としての機能を発揮し得る。従って、本実施形態の絶縁組成物が仮に何らかのデバイスの少なくとも一部を覆うように設けられた場合は、該絶縁組成物は、耐久性のある保護膜としての機能と、表示機能との両方を実現する組成物の役割を果たし得る。
【0038】
ところで、該酸窒化チタンは、本実施形態の絶縁組成物の中に均一に分散していることが好ましい。該酸窒化チタンの含有量は、特に限定されない。但し、ヒトによって視覚的により明瞭な表示を実現する観点から言えば、本実施形態の絶縁組成物が硬化及び乾燥される前の段階での該絶縁組成物の全質量に対して、該酸窒化チタンの含有量が0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上、15質量%以下であることがより好ましい。なお、本実施形態の絶縁組成物が硬化及び乾燥された後の段階での該絶縁組成物の全質量に対しては、該酸窒化チタンの含有量が7質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2.8質量%以上、40質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
また、本実施形態の酸窒化チタンの粒子形状及び粒子サイズは、特に限定されない。
通常、一次粒子径は1μm以下である。但し、本実施形態の絶縁組成物を用いて塗膜を形成する場合は、その作業性を高める観点から、該一次粒子径が200nm以下であることは、より好適な一態様である。
【0040】
また、本実施形態の絶縁組成物に与えられる所定のエネルギーとは、少なくとも一部の酸窒化チタンが、酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタン(TiO,式中のxは、0<x<2)に変化し得るエネルギーである。該エネルギーが与えられれば、本実施形態の少なくとも一部の効果が奏される。なお、エネルギーを付与する手段としてレーザー照射が採用された場合、より確度高く表示体としての機能が発揮させる観点から言えば、本実施形態の(e)成分の酸窒化チタンの一部に対して、50J/cm以上500J/cm以下の光エネルギー密度が与えられることが好ましい。該数値範囲の光エネルギー密度が採用されることにより、より確度高く、発色による視認性が得られる適度な深さの凹形状を得ること、及び/又は保護対象となるデバイス自身又は該デバイスが形成されている下地の材料(抵抗体を含む)への損傷の抑制を実現し得る。加えて、光エネルギー密度が50J/cm以上300J/cm以下の範囲であれば、より確度高く、表示機能として「見る角度」に依存し難くなるとともに、より明瞭な視認性を実現し得るため、該数値範囲はさらに好適な一態様である。
【0041】
なお、本実施形態の絶縁組成物の成膜性を高める観点から言えば、該絶縁組成物の構成材料である(a)〜(d)成分の合計質量を100質量部とした場合に、質量基準で以下のように示すことができる。
(a)、(b)、及び(c)の合計:約50質量部〜約80質量部。
(a)成分:約30質量部〜50質量部。
(b)成分:約0.5質量部〜14質量部。
(c)成分:約30質量部〜50質量部。
【0042】
また、表示機能をさらに高めるため、外部から所定のエネルギーが与えられたときに発色させることができる成分を本実施形態の絶縁組成物が含有することは、他の好適な一態様である。例えば、エネルギーを付与する手段としてレーザー照射が採用された場合、本実施形態の絶縁組成物が、上述の(a)、(b)、(c)、及び(d)成分に加えて、レーザー照射による発色性顔料としての、シュウ酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、クロム化合物、酸化鉄、酸化モリブデン、及び酸化ビスマスの群から選択される少なくとも1種をさらに含有することが、発色させることができる表示機能を実現する、又は該表示機能を高める観点から好ましい。
【0043】
また、上述の発色性顔料は、外部から与えられたエネルギーの吸収体としての役割も果たし得る。従って、仮に、外部から与えられるエネルギーが、上述の酸化チタン及び/又は低次酸化チタンを生成するために必要なエネルギーの量を超えた場合であっても、ある程度の過剰分は該発色性顔料が吸収することになる。その結果、本実施形態の絶縁組成物が前述の発色性顔料を含有していれば、仮に該絶縁組成物が何らかのデバイス(例えば、チップ抵抗器の抵抗体)を覆うように設けられた場合に、保護対象となるデバイス自身又は該デバイスが形成されている下地の材料に対して不要な又は過剰なエネルギーが供給されないようにすることができる。この効果は、該デバイスの信頼性の向上に大いに貢献し得る。
【0044】
本実施形態の絶縁組成物は、上述の各成分を、回転撹拌機、プラネタリー混練機、又は3本ロール等の公知器具又は装置を用いて混練及び/又は混合することにより製造することができる。なお、ペースト状に製造され得る該絶縁組成物の粘度は、特に限定されない。代表的なペースト状の該絶縁組成物の粘度は、スパイラル粘度計を用いて測定した値が、約0.1Pa・s〜約300Pa・sである。
【0045】
<第2の実施形態>
本実施形態においては、第1の実施形態の絶縁組成物を用いてデバイス(例えば、チップ抵抗器100)の少なくとも一部の表面を覆った例について説明する。従って、第1の実施形態の絶縁組成物について重複する説明は省略され得る。
【0046】
図1は、本実施形態のチップ抵抗器100の断面模式図である。図1に示すチップ抵抗器100は、図5に示す従来のチップ抵抗器900の保護膜970が絶縁保護膜70に変更されている点を除いて、同様の構成を備える。従って、本実施形態のチップ抵抗器100は、セラミック製の基材10上に形成された抵抗体50と、抵抗体50を被覆するガラス材料層60と、さらにガラス材料層60を被覆する絶縁保護膜70を有する。また、チップ抵抗器100は、基材10の一部の平面、一部の底面、及び側面上に、抵抗体50と電気的に接続した金属電極層20と、金属電極層20と電気的に接続したニッケル層30及び錫めっき層40を備えている。
【0047】
図1に示すように、第1の実施形態の絶縁組成物を用いて、チップ抵抗器100の表面の少なくとも一部が覆われている。より具体的には、チップ抵抗器100が備える抵抗体50の一部又は全体、又は抵抗体50とその上部に設けられたガラス材料層60との両方の一部又は全体が、該絶縁組成物から形成された絶縁保護膜70によって覆われる。なお、絶縁保護膜70が保護層としての機能を発揮するためには、外部環境(例えば、湿度)から少なくとも抵抗体50が隔離されるように該絶縁組成物による絶縁保護膜70が形成される。
【0048】
ところで、本実施形態においては、チップ抵抗器100を被覆する被覆工程において採用される手段又は方法は、特に限定されない。代表的な被覆手段の例は、スクリーン印刷法、ローラー転写法、ディップ法、浸漬法、又はスプレー塗装法等である。また、一般的な作業環境において適度な粘度や安定性を与えるものであれば採用され得る。さらに、チップ抵抗器100の表面の少なくとも一部を被覆する絶縁保護膜70の膜厚は、特に限定されない。但し、電気的絶縁性、又は湿度等の外部環境による抵抗体の劣化を防止又は抑制する観点から言えば、絶縁保護膜70の膜厚が5μm以上40μm以下であることは、採用し得る好適な一態様である。
【0049】
また、本実施形態においては、チップ抵抗器100を被覆するペースト状の該絶縁組成物を、熱及び/又は光により硬化させることにより絶縁保護膜70を形成することができる。ここで、熱による該絶縁組成物の硬化条件である、加熱温度、加熱時間、又は硬化雰囲気は、特に限定されない。抵抗体50の劣化を生じさせない温度、及び該絶縁組成物が十分に硬化し乾燥する温度が採用される。なお、熱による該絶縁組成物の硬化を行う場合、溶剤の蒸発を確度高く実現し、該絶縁組成物を十分に硬化させる観点から言えば、該絶縁組成物の加熱温度は、80℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上210℃以下であることは更に好ましい。
【0050】
一方、光による該絶縁組成物の硬化手段も、熱による硬化と同様に、特に限定されない。例えば、キセノンランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、及び/又は無電極ランプを用いた紫外線硬化等は、本実施形態の光を用いた該絶縁組成物の硬化手段として採用され得る。光による該絶縁組成物の硬化手段においても、抵抗体50の劣化を生じさせない温度、及び該絶縁組成物が十分に硬化し乾燥する温度が採用される。なお、光による該絶縁組成物の硬化を行う場合、該絶縁組成物を十分に硬化させる観点から言えば、光量は100mW/cm〜2000mW/cmの範囲であることが好ましく、積算光量が100mJ/cm〜10000mJ/cmの範囲であることが好ましい。
【0051】
次に、本実施形態のチップ抵抗器100を用いて、該チップ抵抗器100の絶縁保護膜70に対して外部からエネルギーを与えることにより、絶縁保護膜70の表示体としての機能を発揮させる態様について説明する。
【0052】
図2は、表示体としての表示機能を発揮している状態の絶縁保護膜70を備えたチップ抵抗器100の模式図(斜視図)である。なお、図2におけるA−A断面が、図1の断面模式図となる。
【0053】
本実施形態においては、エネルギー供給工程の一例として、チップ抵抗器100の面状を成す絶縁保護膜70(より具体的には、絶縁保護膜70が含有する酸窒化チタンの一部)に対して、50J/cm以上500J/cm以下の光エネルギー密度を有するエネルギーが与えられる(本実施形態の場合は、「光エネルギー照射工程」)。その結果、絶縁保護膜70が含有する酸窒化チタンの少なくとも一部が、酸化チタン(TiO)及び/又は低次酸化チタン(TiO,式中のxは、0<x<2)に化学変化し得る。
【0054】
代表的な例においては、外部から所定のエネルギーが与えられなかったために化学変化を起こさなかった酸窒化チタンの黒色と、該エネルギーが与えられることによって白色に変化した上述の酸化チタン及び/又は低次酸化チタンとの明度の差異が、色覚的にヒトにとっての視覚的な差異を生じさせる。この差異が、絶縁保護膜70に、単純にレーザー照射により凹凸形状を形成して知覚させる場合よりも確度高く表示体としての表示機能を発揮させる。
【0055】
図2においては、面状を成す絶縁保護膜70において、上述の化学変化が生じた部分(白色部分)によって、「PELNOX」という文字と「123−45A」という型番(番号等)との二段表記が示される様子が描かれている。なお、既に述べたように、第1の実施形態の発色性顔料を活用すれば、絶縁保護膜70の表示体としての機能は、白と黒とのコントラスト(すなわち、明度)による差異のみに限らず、発色させることによって色相及び/又は彩度を利用した表示機能を実現することが可能である。
【0056】
ここで、所定のエネルギーの種類は、表示機能を発揮させるために局所的な該エネルギーの供給を実現し得る手段であれば特に限定されない。従って、公知のエネルギー供給手段が採用され得る。代表的な該エネルギーの種類は、光エネルギーである。
【0057】
光エネルギーの供給手段(又は光エネルギーの照射手段)の種類は、特に限定されない。代表的な光エネルギーの供給手段(又は光エネルギーの照射手段)は、レーザーの照射である。該レーザーの種類も、特に限定されない。例えば、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、及び/又は半導体レーザー等を用いて絶縁保護膜70に対してエネルギーを与えることができる。また、波長による分類の観点から例示すれば、紫外線レーザー又は赤外線レーザー等を用いて絶縁保護膜70に対してエネルギーを与えることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、絶縁保護膜70(より具体的には、絶縁保護膜70が含有する酸窒化チタンの一部)に対して、50J/cm以上500J/cm以下の光エネルギー密度を有するエネルギーが与えられているが、光エネルギー密度は前述の数値範囲に限定されない。例えば、絶縁保護膜70内に含まれる酸窒化チタンから、絶縁保護膜70内において酸化チタン及び/又は低次酸化チタンを生じさせることが可能なエネルギーが供給されれば、本実施形態の効果の少なくとも一部が奏され得る。
【0059】
<第3の実施形態>
本実施形態においては、第2の実施形態のチップ抵抗器100の代わりに、第1の実施形態の絶縁組成物によって被覆した建築用電線200を用いて、建築用電線200における絶縁保護膜270の表示体としての機能を発揮させる態様について説明する。
【0060】
本実施形態の建築用電線200は、公知の建築用電線200の外周を覆う、第1の実施形態の絶縁保護膜と同じ材質の絶縁保護膜270を備えている。
【0061】
図3においては、面状を成す絶縁保護膜270において、上述の化学変化が生じた部分(白色部分)によって、「PELNOX」という文字と「543−21B」という型番(番号等)との二段表記が示される様子が描かれている。なお、図3においては、本実施形態の電線200の紙面手前側を図示を省略するために波線が引かれている。また、既に述べたように、第1の実施形態の発色性顔料を活用すれば、絶縁保護膜70の表示体としての機能は、白と黒とのコントラスト(すなわち、明度)による差異のみに限らず、発色させることによって色相及び/又は彩度を利用した表示機能を実現することが可能である。
【0062】
なお、第2の実施形態及び本実施形態において示すように、第1の実施形態の絶縁組成物に対して外部からエネルギーを与えることにより、絶縁保護膜70及び絶縁保護膜270は、種々の場面において、又は種々のデバイスに対して、表示体としての機能を発揮させることができる。従って、絶縁保護膜70及び絶縁保護膜270の用途は特に限定されない。
【0063】
[実施例]
以下に、実施例及び比較例を示して上述の各実施形態について、より具体的に説明する。但し、これらの実施例は、上述の各実施形態の例示のみを目的として開示されるものであり、上述の各実施形態を限定するものではない。なお、各実施例及び比較例における各成分(各原料)の各数値のうち、「酸素窒化チタン含有率(%)」以外の数値は、「質量部」を意味する。また、「酸素窒化チタン含有率(%)」の「%」は「質量%」を意味する。
【0064】
<絶縁組成物の調製>
各実施例及び比較例に示す各絶縁組成物は、以下のように製造される。
まず、該絶縁組成物が備える各成分を、表1に示す配合割合によって配合した後、プラネタリー混練機(株式会社井上製作所製、型式PLM−15)、又はニーダーミキサー(株式会社愛工舎製作所製)を用いて混合する。その後、3本ロール(EXAKT社製、型式805)を用いて混練することにより絶縁組成物を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
なお、表1に示される各成分(各原料)の製品名は、以下のとおりである。
・ビスフェノールA型(1)エポキシ樹脂:三菱ケミカル株式会社製(型番:jER1256)
・ビスフェノールA型(2)エポキシ樹脂:三菱ケミカル株式会社製(型番:jER828)
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:DIC株式会社製(型番:N870)
・脂環式エポキシ樹脂:株式会社ダイセル製(型番:セロキサイド2021P)
・熱硬化剤:三菱ケミカル株式会社製(型番:Dicy#7)
・光酸発生剤: サンアプロ株式会社製(型番:CPI 210S)
・酸窒化チタン:三菱マテリアル株式会社製(型番:TitanBlack 13M−C)
・シリカ: 株式会社アドマテックス製(型番:SO−C2)
・珪酸マグネシウム: 日本タルク株式会社製(型番:タルクP−6)
・消泡剤: BYK−CHEMIE GMBH社製(型番:BYK−067A)
・溶剤:株式会社ダイセル製(型番:ブチルカルビトールアセテート)
【0067】
<硬化物の形成>
各実施例及び比較例に示す各絶縁組成物は、高精度スクリーン印刷装置(株式会社ミノグループ製、型式:アクセスAS−11−S5565)を用いて、スクリーンマスク版を通して、アルミナからなるセラミック基材(MARUWA製:サイズ60mm×70mm×0.6mm)上に、硬化後の膜厚が約20μmとなるよう印刷される。
【0068】
その後、硬化方法として熱硬化が採用される場合には、順風式の乾燥炉の中で180℃にて30分間、加熱硬化させる。また、硬化方法として光硬化が採用される場合には、順風式の乾燥炉の中で80℃にて1分間乾燥させた後、紫外線硬化装置(株式会社マルチプライ社製、型式MPD−031N2−C1)を用いて、窒素雰囲気下で、300mJ/cmの積算光量の紫外線を照射することにより、該絶縁組成物の硬化塗膜を形成した。
【0069】
<レーザーマーキング性評価>
各実施例及び比較例に示される各絶縁組成物の硬化物に対して、炭酸ガスレーザー(パナソニックデバイスSUNX株式会社製,型番:LP−300シリーズ,波長10.6μm,最大出力40W,発振周期10kHz)を用いてレーザー照射を行うことにより、レーザーマーキング処理を行った。
【0070】
具体的な処理条件は、以下のとおりである。
レーザーパワー:30%〜100%、
スキャンスピード:500mm/sec、
線幅:0.10mm、
文字高さ:2.00mm、
文字幅:2.00mm、
文字間隔:2.00mm
【0071】
レーザーマーキング処理の結果の評価は、目視により行った。該評価は、以下の3段階に分類することによって行った。
○印:マーキングが鮮明(視認性が良好)である。
△印:マーキングがやや不明瞭(視認性が得られる)である。
×印:マーキングされない、又は欠けや不明瞭な部分がある(視認性が不良)。
【0072】
表2は、各実施例及び比較例についての視認性(レーザーマーキング処理の結果)を評価した結果である。また、図4は、実施例5による表示機能を発揮した絶縁組成物(表示体)の写真である。図4における「X」の示す部分が、レーザー照射によるマーキングの例である。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、各実施例においては、該絶縁組成物の一部に対するレーザー照射によって、照射された部分と照射されていない部分との差異による、マーキングとしての視認性が良好又は少なくとも得られることが分かる。一方、比較例においては、いずれの照射条件においても視認性が不良となることが確認される。
【0075】
<その他の実施形態>
ところで、第2及び第3の実施形態においては、エネルギー供給工程の一例として、外部から与えられるエネルギーの代表例が光エネルギーであったが、各実施形態におけるエネルギーの種類は、光エネルギーに限定されない。例えば、エネルギー供給工程の一例として、外部から与えられるエネルギーの例が、熱線の指向性を高めた公知のヒーター又は電子線であることは、採用し得る他の好適な一態様である。但し、小さい文字又は番号等に代表される、極めて局所的な領域に対する該エネルギーの供給の実現し易さの観点から言えば、外部から与えられるエネルギーとして光エネルギーを採用することが好ましい。
【0076】
なお、上述の実施形態又は実施例の開示は、その実施形態又は実施例の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、上述の実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
上述の実施形態の絶縁組成物、表示体、及びチップ抵抗器は、主に電子部品又はその一部として利用され得る。しかしながら、特に上述の実施形態の絶縁組成物及び表示体は、電子部品に限らず、各種電動モーターの回転子又は固定子、モーター用フィールドコイル、建築用電線、家電・産業・電力機器用電線、地下送電ケーブル等の電線、変圧器、医療用機器等のための高電圧発生器等の広範な分野において利用され得る
【符号の説明】
【0078】
10,910 基材
20,920 金属電極層
30,930 ニッケル層
40,940 錫めっき層
50,950 抵抗体
60,960 ガラス材料層
70,270 絶縁保護膜
100,900 チップ抵抗器
200 建築用電線
970 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5