(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0011】
(実施の形態)
[検討の経緯について]
まず、実施の形態を説明する前に、本発明者が検討した事項について説明する。
【0012】
前述のように、半導体装置を含むコンピュータやパワーデバイスから発生した排熱の有効なエネルギー回収技術は確立されていない。
【0013】
例えば、従来から用いられている熱電変換素子に、ゼーベック効果を用いたものが知られている。ゼーベック効果とは、物体の温度差が電圧に直接変換される効果をいう。温度差を利用した熱電変換素子は、温度差を制御する必要があり、放熱構造の工夫など検討する課題も多く、汎用性の高い排熱利用技術としては実用化に至っていない。
【0014】
そこで、別のアプローチとして、熱により運動する粒子または準粒子を熱のキャリアとして用いて、これらの粒子または準粒子から効率よく電気エネルギーとして取り出すという試みも考えられる。これらの粒子または準粒子を制御することができれば、温度差は必要なくなる。
【0015】
これらの粒子または準粒子の例として、電子、フォノン(格子振動)やマグノン(スピン波)などが挙げられる。しかし、電子、フォノンやマグノンなどの粒子または準粒子は、熱によって常にランダムに運動しているため制御が難しく、エネルギーを生成する資源としては利用されてこなかった。具体的には、電子やマグノンは、粒子または準粒子としての大きさが小さすぎて、観測するのが難しいという問題がある。また、フォノンでは、電場や磁場による制御が難しいという問題がある。また、磁気構造体である磁区は、その大きさが大きすぎて、系全体と相互作用してしまい、熱ゆらぎ程度のエネルギーでは構造が変化せず、熱のキャリアとしては適していないという問題がある。
【0016】
以上より、粒子または準粒子をキャリアとして用いて、温度差がない状態で排熱をエネルギーとして回収する熱電変換装置および熱輸送システムが望まれる。
【0017】
[熱電変換装置の構造について]
図1は、本実施の形態の熱電変換装置HD1の構造を示す平面図、
図2は、本実施の形態の熱電変換装置HD1を
図1のA−A線に沿って切断した構造を示す断面図、
図3(a)は、本実施の形態の熱電変換装置HD1を
図1のB−B線に沿って切断した構造を示す断面図、
図3(b)は、本実施の形態の熱電変換装置HD1の
図3(a)に対応するポテンシャル図である。
【0018】
図1では、本実施の形態の熱電変換装置HD1において、後述する磁性材料部MM1の上面および変換部CVの上面を示しており、磁性材料部MM1上の観測部OBおよび制御部GTも併せて示している。一方、観測部OB、制御部GTおよび変換部CVに接続するための配線、層間絶縁膜、コンタクトプラグおよびパッドなどの図示を省略している。
図1に示すように、本実施の形態の熱電変換装置HD1は、平面視において略長方形状に形成されている。すなわち、熱電変換装置HD1に含まれる磁性材料部MM1も、平面視において略長方形状に形成されている。
【0019】
図2は、本実施の形態の熱電変換装置HD1を
図1のA−A線、すなわち磁性材料部MM1の長さ方向に沿って切断した構造を示すものである。
図2に示すように、本実施の形態の熱電変換装置HD1は、主面上に絶縁膜IL1が形成された基板SUBを備えている。基板SUBは、例えばシリコンからなる。絶縁膜IL1は、例えば酸化シリコン膜からなり、基板SUBを構成するシリコンの熱酸化により形成することができる。基板SUBは、領域AR1と領域AR2とを有している。領域AR1と領域AR2とは、同一のSUBの主面の互いに異なる平面領域に対応している。本実施の形態において、領域AR1には、磁性材料部MM1が形成されている。また、領域AR1には、後述する観測部OBと、制御部GTとが形成されている。領域AR2には、磁性材料部MM1内の磁気エネルギーを電気エネルギーに変換する変換部CVが形成されている。領域AR1において、磁性材料部MM1上には、観測部OBおよび制御部GTを覆うように絶縁膜IL2が形成されている。同様に、領域AR2において、変換部CV上には、絶縁膜IL2が形成されている。絶縁膜IL2は、例えば酸化シリコン膜からなる。
【0020】
まず、領域AR1に形成された本実施の形態の磁性材料部MM1の構造について説明する。磁性材料部MM1は、第1非磁性体層NM1と、第1非磁性体層NM1上に形成された第1磁性体層MG1と、第1磁性体層MG1上に形成された第2非磁性体層NM2とからなる。本実施の形態の第1磁性体層MG1の膜厚は、磁性材料部MM1の長さ方向(第1の方向)に向かうに従って厚くなっている。
【0021】
第1非磁性体層NM1は、他の軌道(s軌道、p軌道、d軌道)よりもスピン軌道相互作用が大きいf軌道に電子を有する非磁性金属からなり、例えば、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)または金(Au)からなり、好ましくは白金(Pt)またはタンタル(Ta)からなる。後述するように、第1非磁性体層NM1は、観測部OBの電極および制御部の電極も兼ねている。第1磁性体層MG1は、強い磁気交換相互作用を有する材料、すなわち強磁性体材料からなり、好ましくは鉄(Fe)やコバルト(Co)などの金属またはその合金からなり、より好ましくはCoFeBからなる。第2非磁性体層NM2は、非磁性絶縁体からなり、好ましくは非磁性金属酸化物からなり、より好ましくは酸化マグネシウム(MgO)からなる。
【0022】
なお、第1非磁性体層NM1は、非磁性金属からなり、第2非磁性体層NM2は、非磁性絶縁体からなる場合を例に説明したが、これに限定されず、第1非磁性体層NM1および第2非磁性体層NM2は、互いに異なる非磁性体材料から構成すればよい。また、本実施の形態では、磁性材料部MM1が絶縁膜IL1上に形成されているが、これに限定されない。
【0023】
磁性材料部MM1の長さ寸法は、例えば1μm程度であり、磁性材料部MM1の幅寸法は、例えば500nm程度である。第1非磁性体層NM1の膜厚は、例えば1〜10nm程度であり、好ましくは4.5nm程度である。第2非磁性体層NM2の膜厚は、例えば1〜10nm程度であり、好ましくは1.4nm程度である。また、第1磁性体層MG1の膜厚は、最も薄いところで1〜2nm程度、最も厚いところで10nm程度であり、第1磁性体層MG1の膜厚は、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って一定の割合で厚くなっている。
【0024】
図3(a)は、本実施の形態の熱電変換装置HD1を
図1のB−B線、すなわち幅方向に沿って切断した構造を示すものである。
図3(a)に示すように、本実施の形態の第1磁性体層MG1の幅方向両端部に、障壁部BA1,BA2が形成されている。そして、第1磁性体層MG1の幅方向中央部に、障壁部BA1,BA2に挟まれるように、スキルミオン生成部SPが形成されている。なお、前述の
図2は、スキルミオン生成部SPを縦断するように切断した断面図に相当する。
【0025】
障壁部BA1,BA2およびスキルミオン生成部SPは、いずれも第1非磁性体層NM1と、第1非磁性体層NM1上に形成された第1磁性体層MG1と、第1磁性体層MG1上に形成された第2非磁性体層NM2とからなる。ただし、障壁部BA1,BA2に含まれる第1磁性体層MG1の膜厚は、スキルミオン生成部SPに含まれる第1磁性体層MG1の膜厚よりも大きい。本実施の形態では、第2非磁性体層NM2の上面を障壁部BA1,BA2と、スキルミオン生成部SPとで面一、すなわち同じ高さにするために、スキルミオン生成部SPに含まれる第2非磁性体層NM2の膜厚は、障壁部BA1,BA2に含まれる第2非磁性体層NM2の膜厚よりも大きい。そして、スキルミオン生成部SPに含まれる第1磁性体層MG1の膜厚と、スキルミオン生成部SPに含まれる第2非磁性体層NM2の膜厚との合計が、障壁部BA1,BA2に含まれる第1磁性体層MG1の膜厚と、障壁部BA1,BA2に含まれる第2非磁性体層NM2の膜厚との合計と同じである。
【0026】
スキルミオン生成部SPに含まれる第1磁性体層MG1の膜厚は、前述したように、最も薄いところで1〜2nm程度、最も厚いところで10nm程度である。
図3(a)に示すスキルミオン生成部SPに含まれる第1磁性体層MG1の膜厚は、2〜3nm程度である。障壁部BA1,BA2に含まれる第1磁性体層MG1の膜厚は、例えば10〜20nm程度である。磁性材料部MM1の幅寸法に対するスキルミオン生成部SPの占める長さ(スキルミオン生成部SPの幅寸法)は、例えば、10〜100nm程度である。磁性材料部MM1の幅寸法に対する障壁部BA1,BA2の占める長さ(障壁部BA1,BA2の幅寸法)は、それぞれ、例えば、10〜200nm程度である。
【0027】
また、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って、磁性材料部MM1の磁化状態の変化を観測する観測部OBと、磁性材料部MM1の磁化状態を制御する制御部GTとが交互に複数設けられている。観測部OBと制御部GTとの間隔は、接しない程度に接近している方が好ましい。磁性材料部MM1の長さ方向に沿って設けられた複数の観測部OBを、その下方に存在する第1磁性体層MG1の膜厚が厚くなる順に、観測部OB1、OB2、OB3と表す。同様に、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って設けられた複数の制御部GTを、その下方に存在する第1磁性体層MG1の膜厚が厚くなる順に、制御部GT1、GT2と表す。なお、本実施の形態の熱電変換装置HD1は、3つの観測部OBおよび2つの制御部GTを有する場合を例に説明したが、観測部OBおよび制御部GTの数は、限定されない。
【0028】
次に、本実施の形態の観測部OBの構造について説明する。観測部OBは、平面視において、略長方形状に形成されている。観測部OBは、第1非磁性体層NM1と、第1非磁性体層NM1上の第1磁性体層MG1と、第1磁性体層MG1上の第2非磁性体層NM2と、第2非磁性体層NM2上に形成された第2磁性体層MG2と、第2磁性体層MG2上に形成された電極M1とからなる。第2磁性体層MG2は、強磁性体からなり、好ましくは鉄(Fe)やコバルト(Co)などの金属またはその合金からなる。電極M1は、非磁性金属からなり、好ましくは白金(Pt)またはタンタル(Ta)からなる。第2磁性体層MG2の膜厚は、例えば1〜10nm程度であり、好ましくは4.5nm程度である。電極M1の膜厚は、例えば1〜10nm程度であり、好ましくは4.5nm程度である。磁性材料部MM1の幅寸法と観測部OB(電極M1)の長さ寸法とは同じである。磁性材料部MM1の長さ寸法に対する観測部OBの占める長さ(電極M1の幅寸法)は、例えば、10〜50nm程度である。
【0029】
観測部OBに含まれる第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2は、磁性材料部MM1に含まれる第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2と同一である。そして、観測部OBに含まれる第1磁性体層MG1、第2非磁性体層NM2および第2磁性体層MG2がMTJ(Magnetic Tunnel Junction:磁気トンネル接合)素子を構成し、第1非磁性体層NM1および電極M1が前記MTJ素子に電圧を印加するための一対の電極を構成する。
【0030】
ここで、MTJ素子とは、磁性体層、障壁層(非磁性絶縁体層)および磁性体層の3層を基本構造とする素子である。障壁層が2つの磁性体層に挟持されることにより、障壁層に磁場が印加される。2つの磁性体層を介して障壁層に電場を印加すると、障壁層にトンネル電流が流れる。ここで、障壁層に流れるトンネル電流は、2つの磁性体層の磁気モーメントの向きに依存する。具体的には、2つの磁性体層の磁化方向が一致する場合、障壁層に流れるトンネル電流は、2つの磁性体層の磁化方向が一致しない場合に比べて小さくなる。すなわち、2つの磁性体層の磁化方向が一致する場合、障壁層の抵抗値は、2つの磁性体層の磁化方向が一致しない場合に比べて大きくなる。その結果、観測部OBを構成するMTJ素子によって、磁性体層の磁化状態を観測することができる。本実施の形態の観測部OBは、後述するように、第1磁性体層MG1の磁化状態を観測するために設けられている。
【0031】
なお、本実施の形態の観測部OBは、MTJ素子を含む場合を例に説明したが、これに限定されず、巨大磁気抵抗素子を含んでいてもよい。この場合は、第2非磁性体層上に強磁性体金属層および非磁性体金属層を交互に積層する。このような構成において、積層した前記磁性体金属層と前記非磁性体金属層との間に電圧を印加すると、第1磁性体層MG1の磁化状態に応じて、前記磁性体金属層と前記非磁性体金属層との間の抵抗値が変化する。その結果、観測部OBを構成するMTJ素子によって、磁性体層の磁化状態を観測することができる。
【0032】
次に、本実施の形態の制御部GTの構造について説明する。制御部GTは、平面視において、略長方形状に形成されている。制御部GTは、第1非磁性体層NM1と、第1非磁性体層NM1上の第1磁性体層MG1と、第1磁性体層MG1上の第2非磁性体層NM2と、第2非磁性体層NM2上に形成された電極M2とからなる。電極M2は、非磁性金属からなり、好ましくは白金(Pt)またはタンタル(Ta)からなる。電極M2の膜厚は、例えば1〜20nm程度であり、好ましくは10nm程度である。磁性材料部MM1の幅寸法と制御部GT(電極M2)の長さ寸法とは同じである。また、磁性材料部MM1の長さ寸法に対する制御部GTの占める長さ(電極M2の幅寸法)は、例えば、10〜50nm程度である。
【0033】
制御部GTに含まれる第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2は、磁性材料部MM1に含まれる第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2と同一である。そして、制御部GTに含まれる第1非磁性体層NM1および電極M2が、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2に電圧を印加するための一対の電極を構成する。
【0034】
ここで、制御部GTに含まれる第1非磁性体層NM1と電極M2との間に電圧を印加すると、第1磁性体層MG1と第2非磁性体層NM2との界面に電圧が印加される。これにより、第1磁性体層MG1と第2非磁性体層NM2との界面の磁気異方性が変化し、第1磁性体層MG1の磁化状態が変調される。以上より、本実施の形態の制御部GTは、第1磁性体層MG1の磁化状態を変調して、第1磁性体層MG1内の磁気的安定性を制御することができる。第1磁性体層MG1と第2非磁性体層NM2との界面に印加する電圧の大きさは、例えば、10〜1000V程度である。
【0035】
特に、1〜2nm程度のCoFeBからなる第1磁性体層MG1上にMgOからなる第2非磁性体層NM2を積層することによって、第1磁性体層MG1が面直方向(第1磁性体層MG1の厚さ方向)に磁気異方性を有する。そのため、第1磁性体層MG1の厚さ方向上部に形成された制御部GTの電極間(第1非磁性体層NM1と電極M2との間、以下同じ)に電圧を印加すると、第1磁性体層MG1の磁化状態を効率よく変調することができる。
【0036】
なお、図示しないが、制御部GTには、観測部OBとの間で信号電流の入出力を行うフィードバック回路が形成され、観測部OBと電気的に接続されている。具体的には、観測部OB1,OB2,OB3の各電極間(第1非磁性体層NM1と観測部OB1,OB2,OB3の各電極M1との間、以下同じ)に約1〜50ns周期で電圧を印加する/しないを繰り返して、観測部OB1,OB2,OB3を稼働させる。これにより観測部OB1,OB2,OB3が形成された領域の第1磁性体層MG1の磁化状態を約1〜50ns間隔で観測する。そして、前記フィードバック回路は、観測部OB1,OB2,OB3による第1磁性体層MG1の磁化状態の観測結果に基づいて、制御部GT1,GT2への電圧の印加を制御することができる。
【0037】
次に、領域AR2に形成された本実施の形態の変換部CVの構造について説明する。変換部CVは、電極M3からなる。電極M3は、他の軌道(s軌道、p軌道、d軌道)よりもスピン軌道相互作用が大きいf軌道に電子を有する非磁性金属からなり、例えば、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)または金(Au)からなり、好ましくは白金(Pt)またはタンタル(Ta)からなる。電極M3は、平面視において、略長方形状に形成され、領域AR1に形成された磁性材料部MM1に含まれる第1磁性体層MG1と、磁性材料部MM1の長さ方向端部に沿って接している。特に、第1磁性体層MG1の膜厚が、磁性材料部MM1の長さ方向に向かうに従って厚くなっているため、変換部CVは、第1磁性体層MG1の長さ方向端部のうち、第1磁性体層MG1の膜厚が最も大きい側に設けられている。
【0038】
なお、電極M3は、領域AR1に形成された第1非磁性体層NM1とは電気的に接していない。電極M3の膜厚は、第1磁性体層MG1の膜厚と同じであることが好ましい。変換部CVは、磁気構造体(例えば、後述するスキルミオン)を逆スピンホール効果により電圧(起電力)に変換することができる。具体的には、第1磁性体層MG1に存在する磁気構造体が電極M3に接触すると、電極M3には、磁気構造体の磁気モーメントの方向と垂直な方向に起電力が発生する。
【0039】
以上より、本実施の形態の熱電変換装置HD1は、熱ゆらぎによって磁性材料部MM1に生じる磁気構造体を変換部CVによって起電力に変換することによって、熱を磁気エネルギー経由で電気エネルギーとして取り出すことができる。
【0040】
なお、磁気エネルギーをそのまま利用するために、変換部CVの代わりに、スキルミオンによってスピン波を励起し、このスピン波をMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory:磁気抵抗メモリ)の書込または消去に用いるということも可能である。
【0041】
[主要な特徴と効果について]
本実施の形態の熱電変換装置HD1の主要な特徴は、
図2に示すように、磁性材料部MM1と、磁性材料部MM1の磁化状態の変化を観測する観測部OBと、磁性材料部MM1の磁化状態を制御する制御部GTと、磁気エネルギーを電気エネルギーに変換する変換部CVとを備えることである。そして、観測部OBと制御部GTとは、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って、交互に複数設けられている。そして、磁性材料部MM1は、第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2からなり、第1磁性体層MG1の膜厚は、磁性材料部MM1の長さ方向に向かうに従って厚くなっている。そして、変換部CVは、磁性材料部MM1の長さ方向端部のうち、第1磁性体層MG1の膜厚が最も大きい側に設けられている。
【0042】
本実施の形態では、このような構成を採用したことにより、温度差がない状態で排熱をエネルギーとして回収することができる。以下、その理由について具体的に説明する。
【0043】
図4は本実施の形態の磁性材料部に生成するスキルミオンの模式図、
図5(a)、
図6(a)および
図7(a)は本実施の形態の熱電変換装置の動作原理図、
図5(b)、
図6(b)および
図7(b)は本実施の形態の熱電変換装置において、
図5(a)、
図6(a)および
図7(a)にそれぞれ対応するポテンシャル図である。また、
図6(c)は、
図6(b)において、制御部の電極間に電圧を印加した状態を示すポテンシャル図である。
図7(c)は、
図7(b)において、制御部の電極間に電圧を印加した状態を示すポテンシャル図である。
図7(d)は、
図7(c)においてさらにスキルミオンが発生した状態を示すポテンシャル図である。
【0044】
前述したように、熱によって常にランダムに運動している粒子または準粒子を、熱のキャリアとして用いるため、本発明者は、磁気構造体の一つであるスキルミオン(skyrmion:磁気スキルミオン、スカーミオンともよばれる)に着目した。
図4に示すように、スキルミオンは、直径Dが数nm〜数百nmの大きさの渦状の磁気構造体である。スキルミオンは磁性薄膜中で有限な質量を有する安定な準粒子として振る舞うことが知られている。スキルミオンが好ましい理由としては、(1)スキルミオンが観測しやすいある程度の大きさを持つこと、(2)スキルミオンが熱ゆらぎ程度のエネルギーにより生成し、常温である程度安定して存在すること、(3)スキルミオンが電場や磁場によって容易に制御できることなどが挙げられる。
【0045】
スキルミオンを生成させるには、磁性体層(磁性体薄膜)を2つの非磁性体層(非磁性体薄膜)で挟持した構造が必要である。磁性体層は、強い磁気交換相互作用を有する材料、すなわち強磁性体材料により構成する必要がある。また、2つの非磁性体層は、互いに異なる材料により構成し、少なくとも一方の非磁性体層は、他の軌道(s軌道、p軌道、d軌道)よりもスピン軌道相互作用の大きいf軌道に電子を有する非磁性体材料により構成する必要がある。
【0046】
まず、磁性体層を強磁性体材料により構成することで、磁性体層は、結晶磁気異方性を有し、磁気モーメントが平行に揃った磁化状態となる。また、異なる材料からなる2つの非磁性体層により磁性体層を挟持することにより、2つの磁性体層−非磁性体層界面は、空間的に非対称となる(反転対称性をもたない)。空間的に非対称な界面が形成されると、非磁性体層のスピン軌道相互作用により、磁性体層−非磁性体層界面付近にジャロシンスキー・守谷相互作用が生じる。ジャロシンスキー・守谷相互作用は、磁性体層−非磁性体層界面において、磁性体層に働く磁気交換相互作用を変調させる。特に、磁性体層が数原子層で形成された薄膜である場合には、界面から磁性体層の表面までジャロシンスキー・守谷相互作用が及ぶ。変調された磁気交換相互作用により、磁性体層の磁気モーメントは、平行に揃うよりも捩れた状態が安定となる。このようにして、磁性体層中にスキルミオンが生成する。
【0047】
本実施の形態の熱電変換装置HD1は、磁性材料部MM1内にスキルミオンを生成させるのに適した構造を有している。すなわち、磁性材料部MM1は、第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2からなる。そして、第1磁性体層MG1は、強磁性体材料からなる。さらに、第1非磁性体層NM1は、他の軌道(s軌道、p軌道、d軌道)よりもスピン軌道相互作用の大きいf軌道に電子を有する非磁性金属からなる。そして、第1非磁性体層NM1と第2非磁性体層NM2とは異なる材料からなる。こうすることで、第1非磁性体層NM1および第1磁性体層MG1の界面と、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2の界面とは、空間的に非対称となり、第1磁性体層MG1に働く磁気交換相互作用がジャロシンスキー・守谷相互作用により変調される。その結果、
図4および
図5(a)に示すように、第1磁性体層MG1中にスキルミオンSKが生成する。
【0048】
なお、本実施の形態の磁性材料部MM1は、CoFeBからなる第1磁性体層MG1と酸化マグネシウムからなる第2非磁性体層NM2との積層構造を有している。こうすることで、第1磁性体層MG1は面直方向(第1磁性体層MG1の厚さ方向)に磁気異方性を有する。すなわち、
図4に示すように、第1磁性体層MG1中の磁気モーメントは垂直方向(
図4中z軸方向)に揃った磁化状態となる。その結果、この状態で第1磁性体層MG1にジャロシンスキー・守谷相互作用が及ぶと、第1磁性体層MG1中にスキルミオンSKが生成しやすくなる。
【0049】
この第1磁性体層MG1中に生成したスキルミオンSKを変換部CVまで移動させることができれば、磁気エネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができる。ただし、スキルミオンSKが等方的なポテンシャル中を移動するだけでは、利得が得られない。また、第1磁性体層MG1に生成したスキルミオンSKは、第1磁性体層MG1中を熱ゆらぎによってランダムに移動するため、スキルミオンSKが変換部CVまで移動する確率は低い。そこで、スキルミオンが持つ磁気エネルギーを電気エネルギーに変換する効率を高めるため、本実施の形態の熱電変換装置HD1は以下の特徴を有している。
【0050】
まず、スキルミオンに対して、非等方的なポテンシャルを用意する。前述したように、スキルミオンは、磁気交換相互作用とジャロシンスキー・守谷相互作用との競合により生成するため、どちらかの相互作用が大きくなりすぎると、スキルミオンが安定して存在しなくなる。そこで、スキルミオンが安定に存在できる範囲で、磁気交換相互作用またはジャロシンスキー・守谷相互作用のいずれかを徐々に大きくできるような構造を形成することができれば、スキルミオンに対して非等方的なポテンシャルを形成できる。
【0051】
そこで、
図2に示すように、本実施の形態では、第1非磁性体層NM1の膜厚を一定にしつつ、第1磁性体層MG1の膜厚を磁性材料部MM1の長さ方向に向かうに従って厚くなるように構成している。第1磁性体層MG1は、強磁性体材料からなるため、第1磁性体層MG1の膜厚が大きくなるにつれて、磁気交換相互作用が大きくなる。すなわち、第1磁性体層MG1の膜厚が大きくなるにつれて、スキルミオンSKに対するポテンシャルが大きくなる。そのため、
図5(a)および
図5(b)に示すように、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って、スキルミオンSKに対するポテンシャル勾配を形成することができる。
【0052】
その結果、第1磁性体層MG1に生成したスキルミオンSKは、熱ゆらぎにより第1磁性体層MG1中をランダムに移動するが、第1磁性体層MG1の膜厚の大きい箇所へ移動すればするほど、スキルミオンSKのもつ磁気エネルギーが大きくなる。例えば、
図5(a)および
図6(a)に示すように、スキルミオンSKが第1磁性体層MG1の観測部OB1が形成された領域(以下、観測部OB1形成領域と称する)から観測部OB2が形成された領域(以下、観測部OB2形成領域と称する)に移動すると、
図5(b)および
図6(b)に示すように、スキルミオンSKのもつ磁気エネルギーが上昇することがわかる。
【0053】
次に、
図2に示すように、本実施の形態では、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って、複数の観測部OBを設けている。前述したように、本実施の形態の観測部OBは、第1磁性体層MG1の磁化状態を観測するためのものである。具体的な観測方法は以下の通りである。
図5(a)に示すように、第1磁性体層MG1中にスキルミオンSKが生成した場合を考える。この際、観測部OB1,OB2,OB3の各電極間に電圧を印加する。その結果、スキルミオンSKが存在する観測部OB1では、スキルミオンSKが存在しないときに比べて、観測部OB1の電極間の抵抗値が小さくなる。これにより、第1磁性体層MG1中の観測部OB1形成領域にスキルミオンSKが存在することがわかる。
【0054】
また、
図6(a)に示すように、第1磁性体層MG1中に生成したスキルミオンSKが、観測部OB1形成領域から観測部OB2形成領域に移動した場合を考える。前述と同様に、観測部OB1,OB2,OB3の各電極M1に電圧を印加する。その結果、スキルミオンSKが存在しなくなった観測部OB1では、観測部OB1の電極間の抵抗値が増大し、スキルミオンSKが存在する観測部OB2では、観測部OB2の電極間の抵抗値が減少する。これにより、第1磁性体層MG1中の観測部OB1形成領域から観測部OB2形成領域へとスキルミオンSKが移動したことがわかる。
【0055】
また、
図7(a)に示すように、第1磁性体層MG1中に生成したスキルミオンSKが、観測部OB2形成領域から観測部OB3が形成された領域(以下、観測部OB3形成領域と称する)に移動した場合を考える。前述と同様に、観測部OB1,OB2,OB3の各電極M1に電圧を印加する。その結果、スキルミオンSKが存在しなくなった観測部OB2では、観測部OB2の電極間の抵抗値が増大し、スキルミオンSKが存在する観測部OB3では、観測部OB3の電極間の抵抗値が減少する。また、スキルミオンSKが存在しない観測部OB1では、観測部OB1の電極間の抵抗値は変化しない。これにより、第1磁性体層MG1中の観測部OB2形成領域から観測部OB3形成領域へとスキルミオンSKが移動したことがわかる。
【0056】
以上のように、磁性材料部MM1の磁化構造を、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って設けた観測部OB1,OB2,OB3によって観測することによって、磁性材料部MM1内におけるスキルミオンSKの生成およびスキルミオンSKの移動を把握することができる。なお、前述のように、熱電変換装置HD1の観測部OBの数は限定されないが、少なくとも3箇所の観測部OB1,OB2,OB3が形成されていることが好ましい。スキルミオンSKの検出を容易かつ正確に行うためには、複数の観測部OB間の間隔寸法はできるだけ短い方が好ましい。
【0057】
次に、
図2に示すように、本実施の形態では、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って、複数の制御部GTを設けている。特に、制御部GTは、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って、観測部OBと交互に配置されている。前述したように、本実施の形態の制御部GTは、第1磁性体層MG1の磁化状態を変調して、第1磁性体層MG1内の磁気的安定性を制御するためのものである。
【0058】
この磁気的安定性の具体的な制御方法は以下の通りである。
図6(a)に示すように、スキルミオンSKが、第1磁性体層MG1中の観測部OB2形成領域に存在するとする。このときのスキルミオンSKに対するポテンシャルは、
図6(b)に示される。ここで、制御部GT1の電極間に電圧を印加する。これにより、
図6(c)に示すように、第1磁性体層MG1と第2非磁性体層NM2との界面の磁気異方性が変化し、第1磁性体層MG1中の制御部GT1が形成された領域(以下、制御部GT1形成領域と称する)のスキルミオンSKに対するポテンシャルが上昇する。すなわち、制御部GT1の電極間に電圧を印加すると、スキルミオンSKが第1磁性体層の制御部GT1形成領域に侵入することが難しくなる。
【0059】
一方、制御部GT1の電極間に電圧を印加するのをやめると、制御部GT1形成領域のスキルミオンSKに対するポテンシャルは低下し、
図6(b)に示すように、制御部GT1への電圧印加前の状態に戻る。このように、制御部GT1は、制御部GT1の電極間への電圧印加により、スキルミオンSKの第1磁性体層MG1中の移動を制御するゲートとして作用する。以下、制御部GT2に関しても、同様の機構により、第1磁性体層MG1の磁気的安定性を制御することができる。
【0060】
以下、制御部GTによって、スキルミオンSKを制御する具体例を説明する。
図6(a)に示すように、第1磁性体層MG1中に生成したスキルミオンSKが、観測部OB1形成領域から観測部OB2形成領域に移動した場合を考える。
図6(b)に示すように、観測部OB2形成領域に移動したスキルミオンSKは、観測部OB1形成領域に存在したスキルミオン(以下、スキルミオンSK101と称する)よりもエネルギーが大きくなっている。
【0061】
この際、前述のように、制御部GTが、観測部OBの観測結果に基づいて、スキルミオンSKが、第1磁性体層MG1中の観測部OB2形成領域に存在することを把握すると、観測部OB2形成領域よりも小さいポテンシャルエネルギー側にある制御部GT1の電極間に電圧を印加する。これにより、
図6(c)に示すように、第1磁性体層MG1中の制御部GT1形成領域のスキルミオンSKに対するポテンシャルが上昇する。すなわち、制御部GT1の電極間に電圧を印加すると、スキルミオンSKが第1磁性体層の制御部GT1形成領域に侵入することが難しくなり、スキルミオンSKは、観測部OB2形成領域よりも小さいポテンシャルエネルギー側に移動する確率が非常に低くなる。その結果、スキルミオンSKが観測部OB1形成領域に戻ることができないため、スキルミオンSK101とスキルミオンSKとのエネルギー差、すなわち、スキルミオンSKが第1磁性体層MG1中の観測部OB1形成領域から観測部OB2形成領域に移動するために吸収した熱が利得ΔE1としてスキルミオンSKに蓄積されたことになる。
【0062】
また、
図7(a)に示すように、第1磁性体層MG1中に生成したスキルミオンSKが、観測部OB2形成領域から観測部OB3形成領域に移動した場合を考える。
図7(b)に示すように、観測部OB3形成領域に移動したスキルミオンSKは、観測部OB2形成領域に存在したスキルミオン(以下、スキルミオンSK102と称する)よりもエネルギーが大きくなっている。
【0063】
この際、前述と同様に、制御部GTが、観測部OBの観測結果に基づいて、スキルミオンSKが、第1磁性体層MG1中の観測部OB3形成領域に存在することを把握すると、観測部OB3形成領域よりも小さいポテンシャルエネルギー側にある制御部GT2の電極間に電圧を印加する。これにより、
図7(c)に示すように、前述と同様に制御部GT2が形成された領域(以下、制御部GT2形成領域)のスキルミオンSKに対するポテンシャルが上昇し、スキルミオンSKは、観測部OB3形成領域よりも小さいポテンシャルエネルギー側に移動する確率が非常に低くなる。その結果、スキルミオンSKが観測部OB2形成領域に戻ることができないため、スキルミオンSK102とスキルミオンSKとのエネルギー差、すなわち、スキルミオンSKが第1磁性体層MG1中の観測部OB2形成領域から観測部OB3形成領域に移動するために吸収した熱が利得ΔE2としてスキルミオンSKに蓄積されたことになる。なお、スキルミオンSKが第1磁性体層MG1中の観測部OB2形成領域から観測部OB1形成領域に戻ってしまうことがないように、制御部GT2の電極間に電圧を印加するまでは、制御部GT1の電極間に電圧をかけた状態を維持することが好ましい。
【0064】
以上のように、磁性材料部MM1の磁気的安定性を、磁性材料部MM1の長さ方向に沿って設けた制御部GT1,GT2によって制御することによって、磁性材料部MM1内におけるスキルミオンSKの移動を制御することができる。
【0065】
次に、
図2に示すように、本実施の形態では、変換部CVは、磁性材料部MM1の長さ方向端部のうち、第1磁性体層MG1の膜厚が最も大きい側に隣接して設けている。前述のように、第1磁性体層MG1中の観測部OB3形成領域に存在するスキルミオンSKは、制御部GT2により観測部OB2形成領域に移動する確率が非常に低くなっている。そのため、スキルミオンSKは、第1磁性体層MG1の観測部OB3形成領域に隣接する変換部CVの電極M3に接触する確率が高くなっている。スキルミオンSKが電極M3に接触した場合には、逆スピンホール効果によりスキルミオンSKが消滅すると共に、電極M3に起電力が発生する。以上のように、観測部OB3形成領域に隣接する変換部CVによって、スキルミオンSKのもつ磁気エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。前述のように、スキルミオンSKが第1磁性体層MG1中の観測部OB1形成領域から観測部OB3形成領域に移動し、その後に変換部CVに到達したとすれば、
図7(c)に示すように、スキルミオンに蓄積された利得ΔE3を電気エネルギーとして取り出すことができる。
【0066】
以上をまとめると、本実施の形態の熱電変換装置HD1は、スキルミオンSKの移動方向にポテンシャル勾配を有する第1磁性体層MG1中をスキルミオンSKが移動できるようにすることで、スキルミオンSKのもつエネルギーを変化させることができる。そして、観測部OB1,OB2,OB3によってスキルミオンSKの移動を観測しながら制御部GT1,GT2によってスキルミオンSKの移動を制御することで、スキルミオンSKにエネルギーを蓄積することができる。そして、スキルミオンSKに蓄積されたエネルギーを変換部CVにより、電気エネルギーとして取り出すことができる。このようにして、本実施の形態の熱電変換装置HD1は、温度差がない状態で熱をエネルギーとして回収することができる。
【0067】
なお、第1磁性体層MG1に1つのスキルミオンSKが存在する場合を例に説明したが、これに限定されず、第1磁性体層MG1には、複数のスキルミオンを同時に存在させることができる。例えば、
図7(d)に示すように、第1磁性体層MG1中の観測部OB1形成領域に、新たなスキルミオンSK2が生成した場合を考える。この場合は、制御部GT2の電極間に電圧を印加してスキルミオンSKを観測部OB3形成領域に閉じ込めながら、スキルミオンSK2が、観測部OB2形成領域に移動するのを観測する。そして、その観測結果に基づいて、制御部GT1の電極間に電圧を印加して、スキルミオンSK2を観測部OB2形成領域に閉じ込める。このようにして、複数のスキルミオンを同時に制御することができる。ただし、スキルミオンSKを容易に制御するという観点から、スキルミオンSKは、第1磁性体層MG1中の観測部OBが形成された領域ごとに1つずつ生成させることが好ましい。第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2のそれぞれの膜厚を最適化することにより、第1磁性体層MG1中の観測部OBが形成された領域ごとに1つずつ生成させることができる。
【0068】
また、
図3(a)に示すように、本実施の形態では、第1磁性体層MG1の幅方向両端に、障壁部BA1,BA2が形成され、第1磁性体層MG1の幅方向中央に、障壁部BA1,BA2に挟まれるように、スキルミオン生成部SPが形成されている。そして、障壁部BA1,BA2に含まれる第1磁性体層MG1の膜厚は、スキルミオン生成部SPに含まれる第1磁性体層MG1の膜厚よりも大きい。前述のように、第1磁性体層MG1は、強磁性体材料からなるため、第1磁性体層MG1の膜厚が大きくなると、磁気交換相互作用が大きくなる。すなわち、第1磁性体層MG1の膜厚が大きくなると、スキルミオンSKに対するポテンシャルが大きくなる。
【0069】
そのため、
図3(b)に示すように、磁性材料部MM1の幅方向において、障壁部BA1,BA2が形成された領域(以下、障壁部BA1,BA2形成領域と称する)のスキルミオンSKに対するポテンシャルの大きさが、スキルミオン生成部SPが形成された領域(以下、スキルミオン生成部SP形成領域と称する)に比べて大きくなる(いわゆる井戸型ポテンシャル)。これにより、第1磁性体層MG1に存在するスキルミオンSKは、磁性材料部MM1の幅方向において、スキルミオン生成部SP形成領域には安定して存在できる一方、障壁部BA1,BA2形成領域に侵入することが難しくなる。
【0070】
その結果、本実施の形態の磁性材料部MM1では、第1磁性体層MG1に生成したスキルミオンSKを第1磁性体層MG1の幅方向において、スキルミオン生成部SP形成領域に閉じ込めることができる。そのため、スキルミオンSKを第1磁性体層MG1の長さ方向に沿って安定して移動させることができる。
【0071】
[変形例]
上記実施の形態の変形例である熱電変換装置HD2について、
図8を参照して説明する。
図8は、変形例の熱電変換装置HD2の
図1のA−A線に相当する位置での断面図である。
【0072】
図8に示す変形例の熱電変換装置HD2は、基板SUBと、基板SUB上に形成された絶縁膜IL1とを有しており、これは、上記実施の形態の熱電変換装置HD1と同様である。
【0073】
変形例の熱電変換装置HD2の場合は、磁性材料部MM2の構成が上記実施の形態の磁性材料部MM1の構成と異なる。具体的には、磁性材料部MM2は、第1非磁性体層NM1、第1磁性体層MG1および第2非磁性体層NM2により構成されている点は、磁性材料部MM1と同じである。一方、磁性材料部MM2に含まれる第1非磁性体層NM1の膜厚が磁性材料部MM2の長さ方向(第1の方向)に向かうに従って厚くなるように構成され、第1磁性体層MG1の膜厚は、磁性材料部MM2の長さ方向に沿って一定である点が、上記実施の形態の磁性材料部MM1と異なる。
【0074】
第1磁性体層MG1の膜厚は、例えば1〜10nm程度であり、好ましくは1.3nm程度である。第2非磁性体層NM2の膜厚は、例えば1〜10nm程度であり、好ましくは1.4nm程度である。また、第1非磁性体層NM1の膜厚は、最も薄いところで1〜2nm程度、最も厚いところで10nm程度であり、第1非磁性体層NM1の膜厚は、磁性材料部MM2の長さ方向に沿って一定の割合で厚くなっている。なお、変形例の熱電変換装置HD2のスキルミオンSKに対するポテンシャル勾配は、
図5(b)に示す上記実施の形態の熱電変換装置HD1のスキルミオンSKに対するポテンシャル勾配と同様である。
【0075】
前述したように、スキルミオンは、磁気交換相互作用とジャロシンスキー・守谷相互作用との競合により生成するため、どちらかの相互作用が大きくなりすぎると、スキルミオンが安定して存在しなくなる。第1非磁性体層NM1は、他の軌道(s軌道、p軌道、d軌道)よりもスピン軌道相互作用定数の大きいf軌道に電子を有する非磁性金属からなるため、第1非磁性体層NM1の膜厚が大きくなるにつれて、ジャロシンスキー・守谷相互作用が大きくなる。すなわち、第1非磁性体層NM1の膜厚が大きくなるにつれて、スキルミオンSKに対するポテンシャルが大きくなる。そのため、変形例の熱電変換装置HD2では、磁性材料部MM2に含まれる第1非磁性体層NM1の膜厚が磁性材料部MM2の長さ方向に向かうに従って厚くなるように構成することで、上記実施の形態の熱電変換装置HD1と同様に、磁性材料部MM2の長さ方向に沿って、スキルミオンSKに対するポテンシャル勾配を形成することができる。
【0076】
上記実施の形態の熱電変換装置HD1は、第1磁性体層MG1の膜厚を、長さ方向に沿って変化させているのに対して、変形例の熱電変換装置HD2は、第1非磁性体層NM1の膜厚を、長さ方向に沿って変化させている。このため、後述する熱輸送システムHSのように、同一の基板SUB上に半導体装置SDを形成する際の製造工程における製造コストや工程の容易さなどに応じて、上記実施の形態の熱電変換装置HD1と上記変形例の熱電変換装置HD2とを任意に選択することができる。
【0077】
[熱輸送システムの構造について]
本実施の形態の熱輸送システムHSについて説明する。
図9は、本実施の形態の熱輸送システムHSの構成図である。
図9に示すように、本実施の形態の熱輸送システムHSは、熱を発生する半導体装置SDと、半導体装置SDを冷却する冷却装置CDと、上記熱電変換装置HD1と、熱電変換装置HD1から出力された電気エネルギーを蓄積するエネルギー蓄積装置ESとを備えている。図示しないが、熱輸送システムHSを構成する半導体装置SD、熱電変換装置HD1、エネルギー蓄積装置ESおよび冷却装置CDは、同一の基板SUB上に形成されていてもよいし、それぞれ別の基板に形成されていてもよい。ただし、半導体装置SD、熱電変換装置HD1、エネルギー蓄積装置ESおよび冷却装置CDのそれぞれの装置間で熱や電気エネルギーのやり取りを効率よく行うためには、同一の基板SUB上に形成されていることが好ましい。
【0078】
半導体装置SDは、例えばメモリを有する半導体装置、または、スイッチング素子を構成する半導体装置である。半導体装置SDが、例えばメモリを有する場合、前記メモリへの読み/書きにより、半導体装置SDから熱が発生する。また、半導体装置SDが、パワーデバイスのスイッチング素子を構成する場合も、半導体装置SDから熱が発生する。
【0079】
冷却装置CDは、例えば、循環冷却媒体(冷媒)を使用した液冷式の冷却器または冷却ファンなどの冷却装置である。
【0080】
エネルギー蓄積装置ESは、供給された電気エネルギーを蓄積する装置である。エネルギー蓄積装置ESは、例えばキャパシタおよび充電回路を有し、供給された電気エネルギーをキャパシタに蓄積して、必要に応じて電気エネルギーを出力する装置である。
【0081】
以下、本実施の形態の熱輸送システムHSの動作について説明する。まず、半導体装置SDの動作により、半導体装置SDから熱が発生する。次に、この熱を熱電変換装置HD1に供給する。その後、前述のように熱電変換装置HD1により、供給した熱から電気エネルギーが取り出される。
【0082】
続いて、熱電変換装置HD1から出力された電気エネルギーをエネルギー蓄積装置ESに供給し、電気エネルギーを蓄積する。エネルギー蓄積装置ESに蓄積された電気エネルギーは、冷却装置CDまたは半導体装置SDに供給される。冷却装置CDは、エネルギー蓄積装置ESから供給された電気エネルギーによって動作し、半導体装置SDを冷却する。また、エネルギー蓄積装置ESから半導体装置SDに供給された電気エネルギーは、半導体装置SDの動作に再利用される。
【0083】
以上より、本実施の形態の熱輸送システムHSは、半導体装置SDから発生した熱を電気エネルギーとして半導体装置SDの冷却および半導体装置SDの動作に効率よく利用することができる。その結果、本実施の形態の熱輸送システムHSは、排熱をエネルギーとして効率よく回収することができる。
【0084】
なお、本実施の形態のエネルギー蓄積装置ESは、熱電変換装置HD1の一部として構成してもよい。また、本実施の形態の熱輸送システムHSには、熱電変換装置HD1のかわりに上記変形例の熱電変換装置HD2を採用してもよい。
【0085】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。