特許第6948311号(P6948311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948311全視野干渉顕微鏡撮像方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948311
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】全視野干渉顕微鏡撮像方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20210930BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   G01N21/17 625
   G02B21/00
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-503821(P2018-503821)
(86)(22)【出願日】2016年4月8日
(65)【公表番号】特表2018-517149(P2018-517149A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】EP2016057827
(87)【国際公開番号】WO2016162521
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2019年4月8日
(31)【優先権主張番号】1553120
(32)【優先日】2015年4月10日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517354261
【氏名又は名称】エルエルテック マネージメント
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ボッカラ,アルベール クロード
(72)【発明者】
【氏名】アームス,ファブリス
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0088568(US,A1)
【文献】 特表2014−506819(JP,A)
【文献】 KWAN JEONG,VOLUMETRIC MOTILITY-CONTRAST IMAGING OF TISSUE RESPONSE TO CYTOSKELETAL ANTI-CANCER 以下備考,OPTICS EXPRESS,2007年10月17日,V15 N21,P14057-14064,https://www.physics.purdue.edu/nlo/publications/JeongOE07.pdf,DRUGS
【文献】 HREBESH M S,IN VIVO IMAGING OF DYNAMIC BIOLOGICAL SPECIMEN BY REAL-TIME SINGLE-SHOT FULL-FIELD OPTICAL 以下備考,OPTICS COMMUNICATIONS,NL,NORTH-HOLLAND PUBLISHING CO,2009年02月15日,VOL:282, NR:4,,PAGE(S):674 - 683,http://dx.doi.org/10.1016/j.optcom.2008.10.070,COHERENCE TOMOGRAPHY
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/17−21/61
G02B 21/00
A61B 9/00−10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光波を放出するように構成された、空間的非干渉性で低コヒーレンス長の光源(201)と、
試料(206)を受け取ることを目的とした対象アームと、反射面(205)が配置されている参照アームを含む干渉装置(200)であって、前記試料が前記干渉装置の前記対象アームに置かれている際に、前記試料のスライスの撮像領域のそれぞれの点で、前記撮像領域の前記点に対応する前記反射面(205)の基本面上での前記入射光波の反射で取得した参照波と、前記試料の所定深さでの前記スライスの、前記撮像領域の前記点に対応したボクセルによる前記入射光波の後方散乱で取得した対象波との間で干渉を発生するようになっている干渉装置と、
前記撮像領域と光学的に共役である検出面を含み、前記対象アームと前記参照アームとの間の光路差が固定の状態で、前記撮像領域のそれぞれの点で発生した前記干渉から結果として生じた時間的に連続したN個の二次元干渉信号を、前記検出面内で取得するようになっている取得装置(208)と、
前記N個の二次元干渉信号間の強度の時間的変動を表す画像(IB, IC)を演算するように構成された処理ユニット(220)と
を含む拡散した三次元試料の全視野干渉顕微鏡撮像のためのシステム(20)。
【請求項2】
前記処理ユニット(220)は、前記画像内の所与の位置のそれぞれの画素について、前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記N個の二次元干渉信号の前記強度の時間的変動を表すパラメータの値を関数として画素値を演算することにより前記画像を演算するように構成されている、請求項1に記載の撮像システム。
【請求項3】
前記パラメータは前記N個の二次元干渉信号の前記強度の前記時間的ばらつきを表す、請求項2に記載の撮像システム。
【請求項4】
前記画素は、その値が前記パラメータの前記値の関数である比色表現空間に対して定義されている少なくとも一つの構成要素を呈する、請求項2または3に記載の撮像システム。
【請求項5】
前記取得装置はさらに、前記干渉装置の前記2つのアームとの間の前記光路差の異なる値につき、前記試料の前記スライスのP個の二次元干渉信号を取得するように構成されており、
前記処理ユニットは、前記P個の二次元干渉信号の前記強度と前記強度の時間的変動から、組合せ画像と呼ぶ画像(IC)を演算するように構成されている、
請求項1から4のいずれかに記載の撮像システム。
【請求項6】
前記処理ユニット(220)は、前記組合せ画像内の所与の位置の一つの画素について、一方の前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記P個の二次元干渉信号の前記各強度と、他方の前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記N個の二次元干渉信号の前記強度の時間的変動との関数として、画素値を演算することにより前記組合せ画像を演算するように構成されている、請求項5に記載の撮像システム。
【請求項7】
空間的非干渉性で低コヒーレンス長の光源(201)を手段として、入射光波を放出することと、
試料(206)を干渉装置(200)の対象アームに置くことと、
前記干渉装置(200)を手段として、撮像領域のそれぞれの点で、前記干渉装置の参照アームの反射面(205)の、前記撮像領域の前記点に対応する基本面上での前記入射光波の反射で取得した参照波と、前記試料の所定深さでのスライスの、前記撮像領域の前記点に対応したボクセルによる前記入射光波の後方散乱で取得した対象波との間で干渉を発生させることと、
前記対象アームと前記参照アームとの間の光路差が固定の状態で、前記撮像領域のそれぞれの点について前記干渉から結果として生じた時間的に連続したN個の二次元干渉信号を、取得装置の、前記撮像領域と光学的に共役である検出面で取得することと、
前記N個の二次元干渉信号間の強度の時間的変動を表す画像(IB, IC)を演算することと
を含む拡散した三次元試料の全視野干渉顕微鏡撮像のための方法。
【請求項8】
前記画像を演算するステップは、画像内の所与の位置のそれぞれの画素について、画素値を、前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記N個の二次元干渉信号の前記強度の時間的変動を表すパラメータの値の関数として演算することを含む、請求項7に記載の撮像方法。
【請求項9】
前記パラメータは前記N個の二次元干渉信号の前記強度の前記時間的ばらつきを表す、請求項8に記載の撮像方法。
【請求項10】
前記画素は、その値が前記パラメータの前記値の関数である比色表現空間に対して定義されている少なくとも一つの構成要素を呈する、請求項8または9に記載の撮像方法。
【請求項11】
前記干渉装置の前記2つのアームとの間の前記光路差の異なる値につき、前記試料の前記スライスの少なくともP個の二次元干渉信号を取得することと、
前記P個の二次元干渉信号の前記強度と前記強度の時間的変動から組合せ画像と呼ぶ画像(IC)を演算することと
をも含む請求項7から10のいずれかに記載の撮像方法。
【請求項12】
前記組合せ画像の前記演算は、前記組合せ画像の所与の位置のそれぞれの画素について、一方の前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記P個の二次元干渉信号の前記強度と、他方の前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記N個の二次元干渉信号の前記強度の時間的変動とを、関数として画素値を演算することを含む、請求項11に記載の撮像方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全視野干渉顕微鏡撮像方法およびシステムに関する。本発明は特に細胞および細胞内撮像に適用できる。
【背景技術】
【0002】
全視野OCT(OCTは”Optical Coherence Tomography”、光コヒーレンス・トモグラフィー、の頭字語)という名前で知られている、インコヒーレント光全視野干渉顕微鏡による画像取得技術は、生体組織の画像取得に非常に高性能で、非侵襲的、非破壊的および内因的な方法である。
【0003】
全視野OCT撮像技術は、例えば、Wolfgang Drexler - James G. Fujimoto - 編集者 - ”Optical Coherence Tomography - Technology and Applications”、Springer出版、2009年の取り組みのA. DuboisとC. Boccaraによる論文”Full-field optical coherence tomography”に記載されている。全視野OCT撮像技術は、フランス特許出願FR2817030にも記載されている。
【0004】
全視野OCT撮像技術は、試料に低コヒーレンス長の光源を当てた際に、その試料によって後方散乱した光を利用することに基づき、特に、生体試料の場合は微小細胞および組織構造によって後方散乱した光を利用することに基づく。この技術は、試料内の深さ方向の仮想スライスによって後方散乱した光を分離するために光源の低コヒーレンスを活用している。干渉計の利用によって、干渉現象による、試料の所与のスライスから選択的に生じた光を表す干渉信号の生成、及び、試料の他の部分に由来する光の除去可能にする。
【0005】
全視野OCT撮像技術は、スペクトル領域におけるOCT(略語の”Fourier-Domain(フーリエ領域)OCT”または”spectral domain (スペクトル領域)OCT”として知られている)などの他の従来OCT技術で取得される可能性の高い、10μm程度の分解能より大きい1μm程度の典型的な分解能で三次元の画像を取得可能にする。
【0006】
このような分解能では、血管の組織構造、それらの壁部、コラーゲン、脂肪細胞等のほとんどを観察できる。したがってこの技術では、例えばO. Assyagらによる論文、”Large Field, High Resolution Full-Field Optical Coherence Tomography: A Pre-clinical Study of Human Breast Tissue and Cancer Assessment”、Technology in Cancer Research and Treatment、13巻、No.5、2014年10月に記載されているように脳、胸部、皮膚、肝臓などの多様な生体組織の微細細胞の観察を可能にする。さらに、この技術は特に短時間でできることが分かっており、このため全視野OCT顕微鏡を用いてその表面が数cm2の深さ方向のスライスを表す画像をわずか数分で生成可能である。
【0007】
図1は、特にコラーゲン繊維が見られる肝臓(ネズミの肝臓について行われた光学的生検)の組織試料について全視野OCT技術で取得した画像の一例である。符号IAの画像は、800μmかける800μm(ミクロン)の大きさの試料領域に対応する。この図は、非常に繊細な生体構造を明らかにまた観察するこの技術の可能性を示す。
【0008】
全視野OCT画像取得技術は、多くの事例において非破壊的方法を用いて数分で微細構造および組織構造の観察により健全な組織を癌組織から見分けることを可能にすることから、癌の診断など医学的用途に利用可能であることが示された。手術中の全視野OCT画像は、例えば、一次診断を導くことを可能にし、また例えば、癌事例において切除後わずか数日に過去歴の分析が腫瘍細胞の存在を明らかにする場合に繰り返される手術を防ぎ得るという外科行為の最適化までも可能にする。
【0009】
さらに、全視野OCT技術は医療分野における技術の妥当性を裏付ける、例えば、内視鏡を用いて生体内、場合により現位置での画像取得を可能にする。
【0010】
しかしながら、全視野OCT技術は、細胞および細胞内規模(3つの次元で1μm程度)で生体組織の画像生成に充分な理論的空間分解能を提供するが、出願人らは、実際に全視野OCT技術では、取得画像のコントラストが不十分なために細胞、また細胞核や細胞の内部構造(特に膜組織、細胞核、細胞質)まではっきりと識別可能にするわけではないことを示した。
【0011】
例えば、図1に示す例では、コラーゲン繊維から生じている後方散乱信号は、脂質およびタンパク質が高屈折率のため高強度を呈する。これと対照的に、細胞の内部構造から生じている後方散乱信号は、非常に低強度であり、コラーゲン繊維のそれより約1/400だけ低い。細胞と組織との異なった構造による後方散乱信号の強度の違いは、全視野OCT技術の非常に良好な空間分解能にもかかわらず、この技術では十分なダイナミックレンジで低強度の信号は取得できないことを説明する。
【0012】
解剖病理学に関する限り、そこで使用している他の顕微鏡検査技術は、顕微鏡を用いた、組織試料の細胞および細胞構造の観察を可能にする。これらの技術は分析すべき領域内の組織試料を採取して、従来の顕微鏡で観察可能な組織のスライドを準備することからなる。準備は、組織をパラフィンの中に置くこと、これらを厚さ3〜5μm程度と非常に薄いスライスに切ること、及び、細胞構造のコントラストを上昇可能にするようにこれらのスライスに造影剤または着色剤を塗布することからなり、これにより解剖病理学の医師がこれらの観察を容易に行えるようにする。細胞の支持構造と核を明確に着色するため、通常、これらのスライスにはヘマトキシリンとエオシンの組み合わせを塗布する。ある構造をより具体的に観察できるように他の着色法を適用してもよい。次に結果として得た組織スライスを顕微鏡スライド上に置いて、解剖病理学者が様々に拡大して観察する。少量拡大での顕微鏡検査および大量拡大での顕微鏡検査で、組織試料に存在する組織構造および細胞の詳細が観察できる。例えば、腫瘍の広がりから結果として生じた間質反応の検査や、個別細胞レベルでの核細胞質比の検査でさえ、測定基準セットと合わせて癌の診断を可能にする。
【0013】
しかしながら、これらの顕微鏡検査技術はいくつかの欠点を示す。まず、これらの技術は、組織試料の仮装スライスの画像を取得可能にする全視野OCT技術とは反対に、既に説明したようにこれらの技術は試料の物理的なスライスの準備を必要とするため、破壊的であるからである。このため組織はもはやその他の分析には使用できなくなる。またこれらの技術は、多くのステップの際の試料の物理的な取り扱い(パラフィンに設置、切断、マーキング)とともに、細胞構造の特定の着色剤などの外からの造影剤の利用を含む試料の煩雑な準備に依存する;したがって。このように準備した試料の最終的な品質そしてその結果対応する診断の品質は作業者に依存する。最後に、これらの技術では組織の準備の異なるステップのために組織の観察を持って次へ進むことができるようにする前に通常数日かかるので、手術での利用には適していない。
【0014】
したがって、従来技術の制限および/欠点を少なくとも部分的に改善する、試料、とりわけ生体組織の画像を取得するための撮像技術の必要性が出てくる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一の態様によれば、本発明は、
試料を受け取ることを目的とした対象アームと、反射面が配置されている参照アームを含む干渉装置であって、試料が前記干渉装置の前記対象アームに置かれている際に、撮像領域のそれぞれの点で、撮像領域の前記点に対応する反射面の基本面上での入射光波の反射で取得した参照波と、試料の所定深さでのスライスの、撮像領域の点に対応したボクセルによる入射光波の後方散乱で取得した対象波との間で干渉を発生するようになっている干渉装置と、
対象アームと参照アームとの間の光路差が固定の状態で、撮像領域のそれぞれの点で発生した干渉から結果として生じた時間的に連続したN個の二次元干渉信号を取得するようになっている取得装置と、
N個の二次元干渉信号間の強度の時間的変動を表す画像を演算するように構成された処理ユニットと
を含む拡散した三次元試料の全視野干渉顕微鏡撮像のためのシステムに関する。
【0016】
撮像領域は、例えば、取得装置の有用な検出面または撮像システムの視野絞りによってその寸法が制限されている。このため、一例によれば、試料のスライス(またはコヒーレンススライス(coherence slice))レベルでの撮像領域は、取得装置の有用面(または視野絞り)と共役な区域である。撮像領域のある「点」は、撮像装置の基本検出器の寸法によってその寸法が定義される。
【0017】
本明細書における、撮像領域のある点に対応する反射面の基本面は、反射面上に定義された基本面であって、その位置が、取得装置と関連づけられている二次元座標系に関して定義された撮像領域の点に対応している基本面を表す。
【0018】
本明細書にける、撮像領域の点に対応するボクセルは、コヒーレンススライスに定義した基本体積であって、コヒーレンススライスにおけるその位置が、取得装置と関連づけられている二次元座標系に関して定義されている撮像領域の点の位置に対応する基本体積を表す。ボクセルによって後方散乱した波は、このボクセル内に存在する全ての基本拡散構造によって後方散乱した波のコヒーレント加算(coherent sum)の振幅を表す。
【0019】
したがって説明した撮像システムは、固定光路長を有する干渉信号間の強度の時間的変動を表す試料の画像を取得可能にし、出願人らはその撮像システムが従来技術による全視野OCT技術で取得した画像を用いてでは認知できない情報へアクセス可能にすることを示した。ここでの固定光路差は、参照アームと対象アームとの間の光路の変動が一定であることを意味することを理解されたい。これは例えば、反射面に対する試料の位置の相対的な変動がないということである。
【0020】
この細胞および細胞内撮像分野における撮像技術に関連する利点は、細胞および細胞内レベルで起きている活動について出願人らによってなされた観察、より具体的には干渉信号間の強度の時間的変動を起こしている異なる動き、液体の流れまたは循環、そしてまた細胞骨格、細胞核、ミトコンドリア、リソソームなどの異なる細胞器官(すなわち「細胞小器官」)の細胞内の動きに明らかに委ねられる。
【0021】
撮像システムの一つ以上の実施例によれば、処理ユニットは、画像内の所与の位置のそれぞれの画素について、取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得したN個の二次元干渉信号の強度の時間的変動を表すパラメータの値を関数として画素値を演算することによりこの画像を演算するように構成されている。
【0022】
所与の点で取得した各干渉信号の強度の一定時間にわたる時間的変動または変動を表すパラメータの抽出により、演算した画像において、動きの生じる試料の組織および細胞領域を明らかにすることができる。
【0023】
一つ以上の実施例によれば、このパラメータは考慮したN個の二次元干渉信号の強度の時間的ばらつきを表すパラメータである。このようなパラメータは、例えば、強度の統計的分布の標準偏差である。このようにして、生体組織の所与の点で後方散乱した光強度の時間的ばらつきを表す全球測定が行われる。
【0024】
このパラメータについて取得した各値を画像の形で表すことで、動きの生じた場所の組織領域を明らかにし、観察可能にする。
【0025】
撮像システムの一つ以上の実施例によれば、画像の一つの画素は、その値が選択したパラメータの値の関数である比色表現空間に対して定義されている少なくとも一つの構成要素を呈する。例えば、グレーレベルの画像の場合、顕著な動きの動画として現れた試料の領域は、その顕著な動きのためにこのパラメータの値が高く、高グレーレベルとしてこれらの画像に浮かび上がる。他方で、動きを全く検知しない、パラメータ値がゼロを示す部分は、非常に低いグレーレベルを示す。
【0026】
この画像取得方法は、非常に多様な構造を示す組織の場合、そして後方散乱信号のダイナミックレンジが非常に広いディフューザーの場合に特に興味深い。
【0027】
撮像システムの一つ以上の実施例によれば、
前記取得装置はさらに、前記干渉装置の2つのアームとの間の光路差の異なる値につき、試料スライスのP個の二次元干渉信号を取得するようにも構成されており、
前記処理ユニットは、P個の二次元干渉信号の強度と前記強度の時間的変動から、組合せ画像と呼ぶ画像を演算するように構成されている。
【0028】
従来技術の全視野OCT撮像方法で取得した断層画像と比較して、組合せ画像は試料内に存在する異なる構造に関するより包括的かつ情報がより豊富な試料の表現を構成する。なぜなら、一方の従来技術による全視野OCT撮像方法で取得されるであろう、異なるボクセルによって後方散乱した信号の強度を表す情報と、他方の異なるボクセルによって後方散乱した信号の強度の時間的変動を表す情報とを組み合わせるからである。
【0029】
撮像システムの一つの実施例によれば、処理ユニットは、組合せ画像内の所与の位置の一つの画素について、一方の前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記P個の二次元干渉信号の各強度と、他方の前記取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得した前記N個の二次元干渉信号の強度の時間的変動との関数として、画素値を演算することにより前記組合せ画像を演算するように構成されている。
【0030】
本明細書による撮像システムの異なる実施例は互いに組み合わせることができる。
【0031】
第二の態様によれば、本発明は
試料を干渉装置の対象アームに置くことと、
干渉装置を手段として、撮像領域のそれぞれの点で、干渉装置の参照アームの反射面の、撮像領域の点に対応する基本面上での入射光波の反射で取得した参照波と、試料の所定深さでのスライスの、撮像領域の先の点に対応したボクセルによる入射光波の後方散乱で取得した対象波との間で干渉を発生させることと、
対象アームと参照アームとの間の光路差を固定として、撮像領域のそれぞれの点で干渉から結果として生じた時間的に連続したN個の二次元干渉信号を取得することと、
N個の二次元干渉信号間の強度の時間的変動を表す画像を演算することと
を含む拡散した三次元試料の全視野干渉顕微鏡撮像のための方法に関する。
【0032】
撮像方法の一つの実施例によれば、画像を演算するステップは、画像内の所与の位置のそれぞれの画素について、画素値を、取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得したN個の二次元干渉信号の強度の時間的変動を表すパラメータの値の関数として演算することを含む。
【0033】
特定の実施例によれば、このパラメータは取得したN個の二次元干渉信号の強度の時間的ばらつきを表す。
【0034】
撮像方法の一つの実施例によれば、画像の一つの画素は、その値が選択したパラメータの値の関数である比色表現空間に対して定義されている少なくとも一つの構成要素を呈する。
【0035】
一つの実施例によれば、撮像方法はさらに
干渉装置の2つのアームとの間の光路差の異なる値につき、試料スライスの少なくともP個の二次元干渉信号を取得することと、
P個の二次元干渉信号の強度と先の強度の時間的変動から組合せ画像と呼ぶ画像を演算することを含んでいる。
【0036】
撮像方法の一つの実施例によれば、組合せ画像の演算は、組合せ画像の所与の位置のそれぞれの画素について、一方の取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得したP個の二次元干渉信号の強度と、他方の取得装置と関連づけられた二次元座標系における対応位置の点で取得したN個の二次元干渉信号の強度の時間的変動とを、関数として画素値を演算することを含んでいる。
【0037】
撮像システムについて述べた利点は、本発明の第二の態様による撮像方法における利点に置き換えることができる。
本発明の第二の態様による撮像方法の異なる実施例は互いに組み合わせることができる。
本発明の種々の態様の異なる特性および実施例も互いに組み合わせることができる。
上記にて示した撮像技術の他の利点および特性は、図面を参照して、以下の詳細な説明を読むことにより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1(既に説明している)は、従来技術による全視野OCT撮像方法を用いて発生させたコラーゲン繊維を有する生体組織(ネズミの肝臓)の試料の、FFOCT画像と呼ばれる、画像の一例である。本方法は以下にてFFOCT撮像方法と呼ぶ。
図2図2は、本発明による撮像システムの1つの実施例の理論的ブロック図である。
図3図3は、 本発明による撮像方法の1つの実施例のフロー図である。本方法は以下にてDC-FFOCT撮像方法と呼ぶ。
図4図4は、本発明によるDC-FFOCT撮像方法を用いて、DC-FFOCT画像と呼ぶ、図1に示すものと同一試料について同じ点、また同一コヒーレンススライス中で取得した画像の一例である。
図5A図5Aは、その画像を図4に示す試料の、それぞれが細胞内動作の無い区域と細胞内動作のある区域を呈する各区域の一部を形成する、2点でのDC-FFOCT撮像方法の一例において取得した信号強度の変動曲線を示す。
図5B図5Bは、その画像を図4に示す試料の、それぞれが細胞内動作の無い区域と細胞内動作のある区域を呈する各区域の一部を形成する、2点でのDC-FFOCT撮像方法の一例において取得した信号強度の変動曲線を示す。
図6A図6Aは、その変動曲線を図5Aに表している信号強度の統計分布を表す。
図6B図6Bは、その変動曲線を図5Bに表している信号強度の統計分布を表す。
図7図7は、組合せ画像を生成するための撮像方法の一つの実施例のフロー図である。このような方法は以下にてCDC-FFOCT(”Combined Dynamic Contrast FFOCT”(組合せ動的コントラストFFOCT)の略)撮像方法と呼ぶ。
図8図8は、図7を参照して説明したCDC-FFOCT撮像方法から結果として生じ、図1および4に示すものと同一試料を、また同じ点また同一コヒーレンススライス中で表す、CDC-FFOCT画像と呼ぶ画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
撮像システム
本明細書による三次元試料を撮像するための撮像方法の実施に適した撮像システム20の一つの実施例を図2に概略的に示す。
撮像システム20は、干渉装置200、取得装置208および少なくとも一つの処理ユニット220を含んでいる。
【0040】
干渉装置200は、空間的非干渉性で低コヒーレンス長の光源201で放出した光を反射して干渉装置の参照アームの反射面205のそれぞれの基本面で取得した参照波と、同じ光源で放出した光の、干渉装置の対象アームに置かれた試料206の深さ方向での試料のスライスのそれぞれのボクセルによる後方散乱で取得した対象波との間の光干渉を発生するようになっている。ここで、このボクセルと基本面は撮像領域の同一点に対応している。
【0041】
光源201は、ハロゲンランプまたはLEDなどの非干渉性または低コヒーレンス長(実際には1〜20マイクロメートルの範囲)の光源である。一つ以上の例示的な実施例によれば、図2の例のように光源201は、撮像システム20の一部を形成することができるあるいは、光源から放出した光波と連携するようになっている撮像システムの外部にある要素であってもよい。
【0042】
取得装置208は、参照波と対象波との間の干渉の結果から生じる少なくとも一つの二次元干渉信号の取得を可能にする。
【0043】
処理ユニット220は、試料スライスの少なくとも一つの画像を生成するために、取得装置208で取得した少なくとも一つの二次元干渉信号を処理する少なくとも一つのステップ、および/または本明細書による少なくとも一つの撮像方法による少なくとも一つの画像生成ステップを実施するように構成されている。
一つの実施例において、処理ユニット220は、デジタル画像格納用第1メモリCM1(図示せず)、プログラム命令格納用第2メモリCM2(図示せず)およびCM2に格納されているプログラム命令を実行できる、具体的には取得装置208で取得した少なくとも一つの二次元干渉信号を処理する少なくとも一つのステップおよび/または本明細書による少なくとも一つの撮像方法による画像演算の少なくとも一つのステップの実行を制御するデータ処理装置を含んだ演算装置である。
処理ユニットは、処理ユニットについて本明細書に記載した機能または各機能の実現に適した電子部品を含んだ集積回路の形で作ることもできる。処理ユニット220は、一つ以上の物理的に別個の装置で遂行することもできる。
【0044】
取得装置208は、例えば、CCD(Charge-Coupled Device(電子結合素子))またはCMOS(Complementarity metal-oxide-semiconductor(相補型MOS))カメラ型の画像センサである。この取得装置は、例えば、周波数100Hzの高速で画像を取得することができる。観察する試料の動態、またより具体的には試料内の動きの動態により少量Hzから数KHzまでの間で動作するカメラを使用することが可能になる。
【0045】
一つの実施例によれば干渉計200は、2つのアームを形成可能にする非分極性分割キューブなどのビームスプリッタ要素202を含んでいる。以下にて「参照アーム」と呼ぶ一方のアームには平坦、例えば、鏡としての反射面205がある。以下にて「対象アーム」と呼ぶ他方のアームは、本明細書の方法の一つによる少なくとも一つの深度での断層画像の発生を望むスライスの三次元拡散試料206を動作中に受け取ることを目的としている。
【0046】
図2の例において、干渉計はリニク干渉計型であり、それぞれのアームに配置された同一の2つの顕微鏡レンズ203,204を含んでいる。このため反射面205は、参照アームのレンズ204の焦点に位置しており、試料206は対象アームのレンズ203の焦点に位置決めされることを意図している。本発明による方法を遂行するその他の型の干渉計、具体的にマイケルソン、ミロー、フィゾーやその他の同様の干渉計型を想定してもよい。
【0047】
干渉計200のアウトプットには、その焦点距離が取得装置208で試料206の適切なサンプリングを可能にするようになっている、アクロマティックダブレットなどの光学部品207があり、2つのレンズの焦点に位置する各面を干渉装置のアウトプットでの同一の面に結合させることができる。取得装置208は、干渉装置で発生した干渉信号を取得すべく後者の面に置かれている。顕微鏡レンズ203,204に許容されている分解能を制限しないように、光学部品207の焦点距離の選択はシャノン基準と一致する。光学部品207の焦点距離は、例えば、数百ミリメートル、通常300mmである。
必要であれば、ばらつきを補償するためにそれぞれのアームにガラス板209,210を備える。
【0048】
光源201は低コヒーレンス長を有するため、反射面205が反射した光(参照波)と、試料206によって後方散乱した光との間の干渉は、2つのアームでの光路が等しい時にのみ、コヒーレンス長内で起きる。したがって、参照波と対象アームの光軸に対して直角の面に位置したスライスの各ボクセルによって後方散乱した光との間の干渉は、コヒーレンススライスと呼ばれる試料内の所与の深度で起きる。ここでボクセルはコヒーレンス内に定義した基本量である。それぞれのボクセルによって後方散乱した光は、このボクセルに存在する拡散基本構造によって後方散乱した波のコヒーレント加算の振幅を表す。
【0049】
参照波と異なるボクセルによって後方散乱した波との間の光干渉の結果として生じた干渉信号は、時点tに並行して取得装置208で取得する。この結果は、コヒーレンススライスの所与の時点tでの干渉状態に対応する干渉画像Sである。干渉画像要素または取得装置208と関連付けられた二次元座標系に対して定義した所与の位置(x, y)に位置した画像画素は、時点tに位置(x, y)で取得した、試料内の対応位置のボクセルによって後方散乱した波と対応位置の参照アームの反射面205の基本面で反射した参照波との間での干渉から結果として生じた干渉信号の強度に対応する値S(x, y, t)を呈する。
【0050】
【0051】
処理ユニット220は、取得装置208で取得した少なくとも一つの二次元干渉信号から試料206の画像を生成するように構成されている。
この撮像システムの利用およびこの撮像システムで生成した二次元干渉信号から画像を生成する他の方法は以下にてより詳細に説明している。
【0052】
DC-FFOCT撮像方法
DC-FFOCT(「Dynamic Contrast (動的コントラスト)FFOCT」の略)と呼ぶ本発明による撮像システム一つの実施例の主要なステップは、図3を参照して説明している。この方法は、特に細胞内撮像に適用され、撮像システム20で実施できる。
【0053】
最初のステップ300において、DC-FFOCT撮像方法を初期化して干渉装置200の対象アームの、第1試料スライスの分析を可能にする位置に試料206を置く。この第1スライスが以下にて説明するステップ310から330まで最初に実行する時の現時スライスである。
【0054】
ステップ310において、試料206の現時スライスの時間的に連続するN個の二次元干渉信号を、参照アームと対象アームとの間で固定光路差を有する取得装置208で取得する。特に、従来技術による全視野OCT撮像方法で行われるものとは異なり、この場合には光路差は変動しない。
【0055】
一つの実施例によれば、光路差は、参照アームの反射面と干渉装置200の対象アーム内の固定位置にある試料206の両方を保持することにより固定した状態で維持されている。光路差が変動しないため、試料スライスについて取得した干渉信号の分析により二次元干渉信号の取得を可能にし、この試料のスライスに存在する構造について試料206内の動きをはっきりと露呈する。
【0056】
連続した二次元干渉信号の取得期間および/または取得頻度(ひいては二次元干渉信号の数)は、細胞の特性または露呈する細胞内動作に合った方法で選択できる。例えば、これらの動作が速くなればなるほど所与の位置での干渉信号の異なる強度を有意に採取するようにより高い取得頻度を選択する。他方で、より遅い動作については、より低い頻度でより長い取得期間がより適切であることが判明する。数値Nとして、毎秒100から1000画像の間、通常毎秒100画像、の取得頻度には通常102と104の間、例えば、約1000を選択する。つまり、0.1から100秒の間、通常10秒程度、の期間にわたって1つの取得である。これらのパラメータは、異なる病状について生成する画像の細胞の本質または使用する波長を関数として、対象とした用途によって変えることができる。数Hzから1kHzまでで動作するカメラを用いて異なる用途に合った採取を行う。
【0057】
N個の二次元干渉信号の取得(ステップ310)の結果、N個の干渉画像SNi (x, y)を得る。ここで、SNi (x, y)は取得装置が位置(x, y)で取得した信号の強度であり、iは1からNの間で変わる整数であり、(x, y)は取得装置208と関連付けられた二次元座標系に対するその位置を表す。これらの干渉画像は画像処理ユニット220でアクセス可能な第1メモリCM1に格納するか、処理ユニット220に送信する。
【0058】
上記の式(1)に従い、時点t = tiに位置(x, y)で取得した干渉信号の各光強度SNi(x, y)は、以下のようになる。
【0059】
【0060】
次に撮像システムの処理ユニット220を、取得装置208で取得したN個の二次元干渉信号間の強度の時間的変化を表す、動的コントラスト画像またはDC-FFOCT画像と呼ぶ画像の演算に使用する。この動的コントラスト画像の演算は以下のステップ320および330から成る。
【0061】
ステップ320では、取得装置208で取得した干渉画像内の画素について考えられる位置(x, y)のそれぞれについて、試料206の現時スライスについてステップ310で対応位置(x, y)にて取得した二次元干渉信号SNi (x, y)の強度の時間的変動を表す少なくとも一つのパラメータVN(x, y)について一つの値を演算する。
【0062】
【0063】
一つの実施例において、パラメータVN(x, y)は取得した二次元干渉信号の強度の統計的分布の特性、具体的にこれらの強度の時間的ばらつきを表す。
このパラメータVN(x, y)は例えば、強度SNi (x, y)の標準偏差の関数である。ここでiは連続したN個の干渉画像において1からNまで変わる。例えば以下の通りである。
このパラメータVN(x, y)はN個の干渉画像の異なるサブセットのそれぞれにわたって演算した標準偏差の平均値であってもよい。
【0064】
各画素の強度の時間的変動の振幅および/またはこれらの強度のばらつきを特徴付けることのできるその他の統計的または数学的パラメータを使用できる。これには例えば、分散(標準偏差の二乗)、四分位偏差、度合い(最高値と最低値との差)などがある。
またパラメータVN(x, y)は、種々の時空信号処理法でも取得できる。これには例えば、それぞれの画素(x, y)について取得した時間的信号SNi (x, y)の自己相関係数や特異値への分解である。
【0065】
ステップ330において、試料206の現時スライスのN個の二次元干渉信号間の強度の時間的変動を表す動的コントラス画像IBまたはDC-FFOCT画像を演算する。
一つの実施例において、所与の位置(x, y)に置かれた画像IBの画素IB(x, y)のそれぞれは、ステップ320で選択したパラメータについてこの所与の位置について演算した値を表す。例えば、所与の位置(x, y)に置かれた画像IBの一つの画素および/またはこの画素の比色表現空間に関して定義した、少なくとも一つの成分は、ステップ310で取得したN個の干渉信号の各強度SNi (x, y)、ここでi = 1からN、から対応位置(x, y)に関係するパラメータについて演算した値の関数である値を呈する。
【0066】
例えば、画像IBに使用した比色表現空間をグレーレベルで表している場合、例えば、所与の数のビットにコード化したグレーレベルを得るために、画素IB(x, y)の値は値VN(x, y)と等しいかある倍率内までの値VN(x, y)の関数でもよい。
別の例によれば、画像IBに使用している比色表現空間をRGB(赤、緑、青)比色表現空間によって表している場合、画像IB内の位置(x, y)の画素IB(x, y)の各成分赤、緑または青の少なくとも一つは、例えば、所与の数のビットにコード化した比色成分を得るために、値VN(x, y)と等しいかある倍率内までの値VN(x, y)の関数になる。
【0067】
さらに別の例によれば、画像IBに使用している比色表現空間をYUV(輝度/クロミナンス)比色表現空間によって表している場合、画像IB内の位置(x, y)の画素IB(x, y)のY,UまたはVの各成分の少なくとも一つは、例えば、所与の数のビットにコード化した成分を得るために、値VN(x, y)と等しいかある倍率内までの値VN(x, y)の関数になる。
このようにして発生した動的画像IBは、次に画像処理ユニットに連結した表示画面230上に表示できる。
【0068】
図4は、図1の画像に示す試料と同一コヒーレンススライスについてDC-FFOCT撮像方法で作成した動的画像IBの一例を示す。この画像の各画素はグレーレベルでコード化している。画像はネズミの肝臓から抽出した800μm×800μmの大きさの試料区域に対応する。この画像において、図1にはなかった微細構造、具体的には個々の細胞が際立っている。肝臓細胞C1,C2が際立っている(輪郭が破線の区域を参照)だけでなく、それらの細胞核(肝臓細胞C1の中心にあるより濃い区域N1)も際立っている。このような細部は、同一試料スライスについて従来技術による全視野OCT撮像技術で取得した図1の画像にはなかったまたは見えなかった。
図4の例は、具体的に細胞および細胞内撮像のための本明細書による方法の利点を示し、また具体的に細胞および細胞内構造のコントラストの顕著な改善を強調している。
【0069】
顕微鏡尺度、具体的に細胞および細胞内レベルでは、種々の動きが生じる。液体の流れまたは循環、その上細胞核、ミトコンドリア、リソソームなどの異なる細胞器官(または「細胞小器官」)の細胞内の動きも生じる。これは生きた人間および動物または植物の生体組織のみについて当てはまるだけでなく、生きた人間および動物または植物から取り立ての試料についても当てはまる。例えば、試料のヒト細胞の完全な死(アポトーシス)は、生きた人間からこの試料を取った24から48時間後にのみ起きる。この期間では続いている命および動きを、特に細胞内で検出できる。
生体組織はまた、入射光ビームの力の約数千分の一から数百万分の一がこれらの組織によって後方散乱されるような光学的後方散乱特性を示すが、この理由は異なる構造が上記の組織に存在するためであり、これらは以下の説明にて「拡散体」と呼びその大きさは光ビームの波長より小さいまたはそれに近い。
【0070】
細胞内構造のような組織内に存在する微細構造の動作は、後方散乱ビームの位相差を、そして干渉を通じて干渉顕微鏡で取得した信号の光強度の時間的変動を発生する。これらの強度の時間的変動は、同一試料スライスの連続した二次元干渉信号を所与の頻度で取得することで、所与の期間に検出できる。対象アームと参照アームとの間は固定光路差の状態として二次元干渉信号の取得を継続することにより、試料のスライス内で連続して起きている干渉状態から結果として生じている二次元干渉信号を所望速度で採取し、その中でこれらの強度の時間的変動が原因で動きが起きている、試料の組織領域の画像を生成するためにこれらの二次元干渉信号間の強度の時間的変動の分析を継続できることを出願人らは示した。
【0071】
例として図5Aおよび5Bは、図4に示す画像IB内の2つの位置(x1, y1)および(x2, y2)にそれぞれ対応する2つの位置について、取得装置208で取得した二次元干渉信号の強度の時間的変動を示す。図6Aおよび6Bは、変動曲線がそれぞれ図5Aおよび5Bに示される信号強度の統計分布を示す。取得装置208と関連づけられている二次元座標系内の第1の位置(x1, y1)について、12ビットで記録した信号の強度は3445から3450(つまり、約5ユニットの変化)の間で、時間にわたって概ね一定の時間および平均分布で変化することが図5Aでわかる。例えば図4に示すコラーゲン繊維の中心にある区域S2内にある位置であるこの位置(x1, y1)では、動作が存在しないと推測される。例えば図4に示す肝臓細胞内にある区域S3内にある位置である第2の位置(x2, y2)では、信号の強度は概ね3231から3239(つまり、約9ユニットの変化)の間で、より大なる時間的ばらつきと時間にわたって概ね平均して変動することが図5Bでわかる。一方図5Bは、細胞内動作のある位置(x2, y2)を示す。図6A図6Bを比較することで、図6Aに示す図5Aに示す信号の強度の時間的ばらつきに対して、図6Bでは図5Bに示す信号の強度の分布におけるより大きな時間的ばらつきを観察できる。
【0072】
所与のコヒーレンススライスについてDC-FFOCT画像を演算した後に、別の試料スライスについてDC-FFOCT画像を取得するべきかステップ340で判断する。確認の際に、対象アームの光軸に沿った試料の位置をステップ340で修正して、現時スライスとなるこの試料の第2のスライスについてステップ310から330までを繰り返す。さもなければ、この方法を終了する。
このように試料206の位置、したがって干渉装置の2つのアームにおける各光路が等しいコヒーレンススライスの試料206内の深さ方向の位置を変えることで、またこのコヒーレンススライスについての干渉信号の取得と画像生成手順を繰り返すことで試料206の三次元画像を取得できる。
【0073】
それぞれの試料スライスについてステップ310で取得したN個の干渉画像をメモリ内に保持することを条件に、動的画像IBを生成するステップ320および330もステップ340の後に実行できる。
試料スライスの画像取得ステップ310は、試料206の先行するスライスの動的画像を生成するステップ320および330と並行して実行することもできる。
【0074】
CDC-FFOCT撮像方法
CDC-FFOCT(「Combined Dynamic Contrast(複合動的コントラスト)FFOCT」の略)撮像方法とも呼ぶ組合せ画像生成方法の一つの実施例の各ステップを、図7および8を参照して説明する。
CDC-FFOCT撮像方法は、撮像システム20および参照波と後方散乱波との間の相対位相を変動させるために適した調整装置211を利用して実施する。一例によれば、調整装置は試料に対する反射面の相対的な動きを、例えば、反射面を動かすための圧電板により可能にする。この結果、以下にてより詳細に説明するように、干渉装置200の対象アームと参照アームとの間の光路差が変動する。
【0075】
最初のステップ700において、CDC-FFOCT撮像方法を初期化して、試料206を干渉装置200の対象アームの、第1試料スライスを分析可能にする位置に置く。この第1スライスが以下にて説明する最初に実行するステップ710から730の現在のスライスである。
ステップ710は、DC-FFOCT撮像方法について説明したステップ310と同じである。具体的に、試料206の現在のスライスの時間的に連続したN個の二次元干渉信号を対象アームと参照アームとの間で固定光路差を有する取得装置208で取得する。
【0076】
例示的な実施例によれば、ステップ720において、干渉装置200の対象アームと参照アームとの間の光路差の異なる値について、試料206の現時スライスの連続したP個の二次元干渉信号を取得装置208で取得する。光路差の変動は、光路差の調整の結果として生じる、例えばシヌソイド関数に従った動きなどの、圧電板211による、参照面205の参照アームの光軸に平行な動きに影響される。その後取得装置208によって行われた画像取込みとの同期によって二次元干渉信号の位相の所定値について干渉画像の記録を可能にする。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
先に説明したP個の二次元干渉信号の取得技術は、従来技術によるFFOCT撮像方法で使用しているものに対応する。従来技術による全視野FFOCT撮像方法によってRB(x, y)を演算するための他のあらゆる方法を使用できる。
具体的にFFOCT画像を求めるために、光路差のP個の値についてのP個の干渉信号を取得すべく光路差の調整と、検出装置で同期した検出結果を用いて既知の方法で実施できる。また、干渉信号の振幅および位相を求めるためには、4つの変調周期にわたるなどの、わずかな変調周期にわたる干渉信号を統合できる。
また、πだけ位相シフトした2つのビームの空間的分割などにより、例えばπだけ離れた2つの相対位相値など、異なる相対位相値に対応するいくつかの干渉画像を同時(同じ時点)に取得することができる。
【0082】
ステップ730では、次に撮像システムの処理ユニット220を、ステップ710において取得装置208で取得したN個の二次元干渉信号間の強度の時間的変動をも表す、組合せ画像またはCDC-FFOCT画像と呼ぶ画像の演算に使用する。
組合せ画像ICは、一方のステップ720において取得装置208で取得したP個の二次元干渉信号の各強度と、他方のステップ710において取得装置208で取得したN個の二次元干渉信号間の各強度の時間的変動から演算する。
【0083】
第1の実施例において、ステップ710において取得装置208で取得したN個の二次元干渉信号間の強度の時間的変動から第1の中間像IBあるいは動的コントラスト像を演算し、ステップ720において取得装置208で取得したP個の二次元干渉信号間の強度から断層画像と呼ぶ第2の中間像IAを演算する。次にこれらの2つの中間像IAおよびIBの画素ごとの組み合わせから組合せ画像ICを演算する。ここで画素ごとの組み合わせとは、画像IA中の位置(x, y)の画素IA(x, y)と画像IB中の同じ位置(x, y)の画素IB(x, y)とを組み合わせることを意味することを理解されたい。
【0084】
第2の実施例において、中間画像は生成されず、取得した干渉信号の強度から複合画像の各画素を直接演算することにより組合せ画像ICを演算する。具体的に、組合せ画像IC内の所与の位置(x, y)の画素について、一方の取得装置に関連づけられた二次元座標系内の対応位置のある点で取得したP個の二次元干渉信号の各強度と、他方の取得装置に関連づけられた二次元座標系内の対応位置のある点で取得したN個の二次元干渉信号の強度の時間的変動の関数として画素値IC(x, y)を演算する。
【0085】
第2の実施例と同様に、第1の実施例において、2つの画素値IA(x, y)とIB(x, y)とを組み合わせることで組合せ画像内の所与の位置(x, y)のある画素値IC(x, y)を演算する。ここで、
−値IA(x, y)は、位置(x, y)に関して光路差の異なる値について取得したP個の二次元干渉信号の各強度から演算し、試料のコヒーレンススライスの所与のボクセルによって後方散乱した波の強度に比例する係数RB(x, y)を表し、
−値IB(x, y)は、固定光路差の状態で取得したN個の二次元干渉信号の各強度から演算し、取得装置と関連づけられた座標系内の対応位置の点で取得したN個の二次元干渉信号間で求めた各強度の時間的変動を表す。
値IB(x, y)は、例えば、ステップ330で説明した方法で演算する。具体的に、値IB(x, y)はN個の干渉信号間の強度SNi (x, y)の時間的変動を表す少なくとも一つのパラメータVN(x, y)の値の関数として演算できる。
【0086】
ここで、画素値の組み合わせについて、ステップ710と720で行った信号の取得は、ステップ710の位置(x, y)について取得した信号SNi (x, y)がステップ720の位置(x, y)について取得した信号SNj (x, y)での試料206と、同一ボクセルから生じるように実施したものとする。これは、ステップ710と720の実行中に試料206と取得装置208のどちらも移動せずに、取得装置208がステップ710と720で同一分解能の各画像を取得し、同一二次元座標系を使用している場合にも当てはまる。
【0087】
画素値IA(x, y)とIB(x, y)との組み合わせは、試料206の所与のボクセルについて各画像IA(x, y)とIB(x, y)のそれぞれに含まれている情報が結果として生じた組合せ画像ICにも存在するように実施する。この組み合わせは、結果として生じた画像ICを見ているユーザが画像IB(動的コントラスト画像)内で明らかとなった構造のブレから画像IA(断層画像)内で明らかになった構造を識別できるように実施できる。
具体的に、画像IC内の所与の位置(x, y)に位置する組合せ画像のある画素値IC(x, y)が断層画像IAのこの同一位置(x, y)に位置する画素値IA(x, y)の関数であり、またステップ720で使用したパラメータについてこの位置(x, y)について演算した値の関数である。画素IC(x, y)は、比色表現空間に対して定義した構成要素を呈することができる。
したがって、ユーザは試料206の所与の点について、インコーヒレント光内の既知の全視野干渉顕微鏡撮像から生じた情報と、本発明によるDC-FFOCT撮像方法で明らかになった試料206の微細構造の動きに関する情報との両方を含んだ画像を見ることができる。
【0088】
これらの値IA(x, y)とIB(x, y)とを組み合わせるには種々の方法が可能であり、以下にて説明する方法は非限定的な例として挙げる。
第1の組み合わせ方法は、組合せ画像のある区域内の位置(x, y)のそれぞれについて、画像ICの画素IC(x, y)の第1の比色要素に画素値IA(x, y)を、そしてこの画素IC(x, y)の第2の比色要素に画素値IB(x, y)を割り当てることから成る。例えば、RGB比色表現空間による表現を用いることにより、画像IC内の位置(x, y)の画素IC(x, y)の要素Rは画素値IA(x, y)と等しくなり、画像IC内の位置(x, y)の画素IC(x, y)の要素B(青)は画素値IB(x, y)と等しくなる、あるいはその逆になる。
【0089】
第2の組み合わせ方法は、2つの参照表(Look-up table)TA,TB(頭字語LUTとして称する)、画素値IA(x, y)についての第1の参照表TAと画素値IB(x, y)についての第2の参照表TB、を定義することから成る。それぞれの参照表TA,TBは、複合画像の区域内で取り得る位置(x, y)のそれぞれについて、参照表TAとTBのそれぞれで、画素値IA(x, y)とIB(x, y)をそれぞれ変換することで得る画素値TA(x, y)とTB(x, y)の演算に役立つ。次に画像IC内の位置(x, y)での画素IC(x, y)の値を画素値TA(x, y)と画素値TB(x, y)の組み合わせの関数で取得する。この組み合わせ関数は、例えば、各画素値TA(x, y)とTB(x, y)との「論理OR」か、そうでなければこれらの2つの画素の合計の関数もしくは平均値または重み係数で重み付けした合計値の演算である。
結果としての画像ICは、選択した組み合わせ方法により、カラー画像でもグレーレベル画像でもよい。
ステップ730において、このようにして生成した組合せ画像ICを次に画像処理ユニットに連結した表示画面230に表示できる。
【0090】
図8は、図1に示す画像IAと図4に示す画像IBとを組み合わせて得た結果の画像ICの一例を示す。組み合わせに使用した方法は、例えば、上述の第2の方法である。これらの画像のそれぞれは、全く同一の区域のそして800μmかける800μmの大きさの全く同一の試料スライスを、IAとIB(ネズミの肝臓の生体組織)の図内の区域およびスライス画像として示す。図1の画像IAと図8の画像ICを比較すると、画像ICは画像IAより多くの微細構造をはっきりと現しているにもかかわらず、図1の画像IAの情報を含んでいる。画像ICのこれらの微細構造は、実際に関心の対象となる試料のスライスで検出した変動に対応する。図8の画像の微細構造は、画像IA(図1)と組み合わせた画像IB(図4)から生じているものである。
【0091】
一例として、図1の画像IAでは、多数のコラーゲン繊維、集中したコラーゲン繊維の区域S2および区域S1内に大きな毛細血管を識別できるが、個々の細胞は識別されない。これに対し、図4の画像IBでは、各区域C1,C2またはS3内で個々の細胞が識別されるが、区域S2のコラーゲン繊維または区域S1の大きな毛細血管は識別されない。画像ICにおいて、コラーゲン繊維(区域S2)、大きな毛細血管(区域S1)および個々の細胞(区域C1,C2またはS3)が識別されている。
【0092】
組合せ画像ICのおかげで、ユーザは試料のスライス内に存在する構造の大量の視覚情報を含んだ単一画像を、この同一試料スライスの動きおよび細胞または細胞内活動を表す変動と同様に得ることができる。
【0093】
試料の所与のコヒーレンススライスについて一旦CDC-FFOCT組合せ画像を演算すると、ステップ740で別の試料スライスについてCDC-FFOCT組合せ画像を生成するべきかどうかの判断がなされる。肯定的な判断がなされると、ステップ740で対象アームの光軸に沿った試料の位置を修正して、現時スライスとなる試料の第2のスライスについてステップ710から730を繰り返す。そうでなければ、この方法を終了する。
【0094】
試料206の位置、したがって干渉装置の両アームにおける光路が同じであるコヒーレンススライスの試料206内の深さ方向の位置を変えることにより、またこのコヒーレンススライスについての干渉信号の取得と画像生成手順を繰り返すことで、このようにして試料206の三次元画像を取得できる。
【0095】
上述のDC-FFOCTおよびCDC-FFOCT撮像方法は、具体的に細胞の画像または細胞内画像の取得に適用し、詳しく細胞を検査することが必要であると判明した場合の癌診断に特に有用であることが証明できる。具体的に、DC-FFOCTおよびCDC-FFOCT撮像方法で生成したコントラストの動的起源は、細胞の詳細な観察に加えて、細胞活動の観察および細胞の代謝状態(過活動、死細胞、壊死)の識別を可能にできる。
【0096】
これらは通常、分析する試料のコヒーレンススライスの異なるボクセルが、動作、活動、機能、メカニズムまたはこれらのボクセルで反射した光強度の時間的変動につながる物理化学的性質を呈するすべての状況に適用できる。またこれらは、それらの試料が生体かどうかに関わらず、あらゆる試料に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8