特許第6948355号(P6948355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948355インクジェット塗布装置及びインクジェットヘッドの温度調節方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948355
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】インクジェット塗布装置及びインクジェットヘッドの温度調節方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20210930BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20210930BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20210930BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20210930BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   B05C5/00 101
   B05C11/10
   B05D3/00 D
   B41J2/14 301
   B41J2/01 401
   B41J2/01 301
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-29271(P2019-29271)
(22)【出願日】2019年2月21日
(65)【公開番号】特開2020-131137(P2020-131137A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2020年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大霜 征彦
(72)【発明者】
【氏名】浅井 一夫
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−203572(JP,A)
【文献】 特開2012−071528(JP,A)
【文献】 特開2006−255994(JP,A)
【文献】 特開2003−326681(JP,A)
【文献】 特開2003−208231(JP,A)
【文献】 特開2001−205813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00−21/00
B05D1/00−7/26
B41J2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を載置するステージと、
前記ステージに載置された基材に対して液滴を吐出するインクジェットヘッドが複数配列されて保持されたヘッドユニットと、
前記ヘッドユニットを制御する制御装置と、
を有するインクジェット塗布装置であって、
前記インクジェットヘッドは、塗布液が貯留されるヘッド本体部を有し、このヘッド本体部を加熱して温度調節を行う加温調節部を備えており、
前記ヘッドユニットは、前記ヘッド本体部を冷却する冷却ユニットを備えており、
前記制御装置は、前記冷却ユニットによりインクジェットヘッドの設定温度以下に調節した後、前記加温調節部によりインクジェットヘッドの設定温度に調節することを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項2】
前記冷却ユニットは、前記ヘッド本体部側にエアを送り出す送風口と、ヘッド本体部側のエアを吸い込む吸込口と、前記送風口と前記吸込口とを連結するダクト部とを有しており、前記ダクト部には熱交換器が設けられ、前記吸込口から吸い込んだエアが前記ダクト部を通じて前記熱交換器で冷却され、前記送風口から送り出されることにより、前記ヘッド本体部側のエアが循環しつつ、前記ヘッド本体部が冷却されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット塗布装置。
【請求項3】
前記ヘッドユニットは、前記ヘッド本体部と前記冷却ユニットとを収容する収容部を備えており、前記冷却ユニットは前記収容部内のエアを循環させることにより、前記ヘッド本体部が前記収容部内で冷却されることを特徴とするインクジェット塗布装置。
【請求項4】
ステージに載置された基材に対して液滴を吐出し、塗布液が貯留されるヘッド本体部を加熱して温度調節を行う加温調節部を有するインクジェットヘッドの温度調節方法であって、
前記ヘッド本体部に冷風を送風して前記ヘッド本体部の設定温度以下に冷却するヘッド冷却工程と、
前記加温調節部により前記ヘッド本体部を加温して前記設定温度に調節するヘッド加温調節工程と、
をこの順に有することを特徴とするインクジェットヘッドの温度調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドの温度を調節する機能を有するインクジェット塗布装置及びインクジェットヘッドの温度調節方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスやフィルム等の基材上にインクジェット法により塗布液を液滴状に吐出し、線分、矩形状等、様々な形状の塗布膜(膜パターンともいう)が形成されている。このインクジェット法による膜パターンを形成するインクジェット塗布装置は、図1に示すように、基材Wを載置するステージ10と、ステージ10に載置された基材Wに対して液滴を吐出するインクジェットヘッド31が複数配列されて保持されたヘッドユニット21とを備えて構成されており、このヘッドユニット21と基材Wを相対的に移動させつつ、液滴を基材W上の所定位置に着弾させることにより膜パターンが形成される。
【0003】
インクジェットヘッド31は、図4図5に示すように、液滴Pを吐出するノズル孔31aが形成されるノズル面35と反対側のヘッド本体部32に、塗布液が貯留される貯留部33が設けられており、この貯留部33を形成する隔壁34に圧力をかけることにより液滴Pを吐出することができる。すなわち、通常、貯留部33が拡幅されることによりノズル孔31a先端に所定形状のメニスカスMが形成され、吐出時には貯留部33が押圧されることによりノズル孔31aから精度よく液滴Pが吐出される。このメニスカスMの形成、及び、液滴Pの吐出精度は、貯留部33の隔壁34に作用する電圧が精度よく調節されることによって維持されている。
【0004】
なお、図1図4図5は本発明のインクジェット塗布装置の図であるが、従来技術と共通する構成については、図1図4及び図5とその符号を共通に用いて説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−128862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記インクジェット塗布装置では、吐出精度を維持することが困難であるという問題があった。すなわち、インクジェットヘッド31から液滴Pを吐出して連続的に膜パターンを形成すると、インクジェットヘッド31の吐出を制御する駆動基板の温度が上昇することにより、インクジェットヘッド31全体の温度が上昇し、ヘッド本体部32に貯留される塗布液の温度も上昇する。塗布液の温度が上昇すると、塗布液の粘度、表面張力等、塗布液の特性が変化することにより、塗布位置精度、液滴Pのサイズ等の精度が設定通りにならず、塗布品質に影響を与えるという問題があった。
【0007】
また、インクジェットヘッド31に冷却機構を設けることによりインクジェットヘッド31の温度を調節することも考えられるが、インクジェットヘッド31は、ヘッドユニット21に複数設けられているため、これらのインクジェットヘッド31をすべて均一に温度調節することは困難である。すなわち、冷却機構の近くに位置するインクジェットヘッド31と遠くに位置するインクジェット31とでは冷却状態が異なるため、インクジェットヘッド31毎に温度が異なってしまい、吐出精度が均一に維持できないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、複数のインクジェットヘッドそれぞれの温度を均一に調節し、吐出精度を維持することができるインクジェット塗布装置及びインクジェットヘッドの温度調節方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のインクジェット塗布装置は、基材を載置するステージと、前記ステージに載置された基材に対して液滴を吐出するインクジェットヘッドが複数配列されて保持されたヘッドユニットと、前記ヘッドユニットを制御する制御装置と、を有するインクジェット塗布装置であって、前記インクジェットヘッドは、塗布液が貯留されるヘッド本体部を有し、このヘッド本体部を加熱して温度調節を行う加温調節部を備えており、前記ヘッドユニットは、前記ヘッド本体部を冷却する冷却ユニットを備えており、前記制御装置は、前記冷却ユニットによりインクジェットヘッドの設定温度以下に調節した後、前記加温調節部によりインクジェットヘッドの設定温度に調節することを特徴としている。
【0010】
上記インクジェット塗布装置によれば、すべてのインクジェットヘッドが冷却ユニットにより設定温度以下に冷却され、その後、加熱調節部により設定温度まで加温されることにより、すべてのインクジェットヘッドのヘッド本体部が所定の設定温度に調節される。すなわち、冷却ユニットによりヘッド本体部が冷却されると、すべてのヘッド本体部が冷却される。ここで、ヘッド本体部それぞれが異なる温度に冷却された場合でも、インクジェットヘッドには、塗布液が高粘度である場合に吐出状態を調節するために個々に加温調節部が備えられているため、ヘッド本体部が設定温度を超えるまで加温された後、加温制御が中止されることにより、ヘッド本体部は設定温度になるように制御される。したがって、すべてのインクジェットヘッド(ヘッド本体部内の塗布液)の温度を共通の温度に維持することができ、インクジェットヘッド毎の温度のバラツキを抑えることができるため、それぞれのインクジェットヘッドから吐出される液滴が安定し、吐出精度を維持することができる。
【0011】
また、前記冷却ユニットは、前記ヘッド本体部側にエアを送り出す送風口と、ヘッド本体部側のエアを吸い込む吸込口と、前記送風口と前記吸込口とを連結するダクト部とを有しており、前記ダクト部には熱交換器が設けられ、前記吸込口から吸い込んだエアが前記ダクト部を通じて前記熱交換器で冷却され、前記送風口から送り出されることにより、前記ヘッド本体部側のエアが循環しつつ、前記ヘッド本体部が冷却される構成にしてもよい。
【0012】
この構成によれば、ヘッド本体部付近のエアが吸込口から吸引され、熱交換器で冷却された後、再度、ヘッド本体部付近に供給されるため、ヘッド本体部を効率よく冷却することができる。
【0013】
また、前記ヘッドユニットは、前記ヘッド本体部と前記冷却ユニットとを収容する収容部を備えており、前記冷却ユニットは前記収容部内のエアを循環させることにより、前記ヘッド本体部が前記収容部内で冷却される構成としてもよい。
【0014】
この構成によれば、外気を遮断できる収容部内を冷却すればよいため、温度変化を小さくすることができ、すべてのヘッド本体部を効率的に冷却することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために本発明のインクジェットヘッドの温度調節方法は、ステージに載置された基材に対して液滴を吐出し、塗布液が貯留されるヘッド本体部を加熱して温度調節を行う加温調節部を有するインクジェットヘッドの温度調節方法であって、前記ヘッド本体部に冷風を送風して前記ヘッド本体部の設定温度以下に冷却するヘッド冷却工程と、前記加温調節部により前記ヘッド本体部を加温して前記設定温度に調節するヘッド加温調節工程と、をこの順に有することを特徴としている。
【0016】
上記インクジェットヘッドの温度調節方法によれば、ヘッド冷却工程により、すべてのインクジェットヘッドが設定温度以下に冷却され、その後、ヘッド加温調節工程により、すべてのインクジェットヘッドが設定温度まで加温されることにより、ヘッド本体部が所定の設定温度に調節される。ここで、ヘッド本体部それぞれが異なる温度に冷却された場合でも、インクジェットヘッドには、塗布液が高粘度である場合に吐出状態を調節するために個々に加温調節部が備えられているため、ヘッド本体部が設定温度を超えるまで加温された後、加温制御が中止されることにより、ヘッド本体部は設定温度になるように制御される。したがって、すべてのインクジェットヘッド(ヘッド本体部内の塗布液)の温度を一定に維持することができ、インクジェットヘッド毎の温度のバラツキを抑えることができるため、それぞれのインクジェットヘッドから吐出される液滴が安定し、吐出精度を維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数のインクジェットヘッドそれぞれの温度を均一に調節し、吐出精度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のインクジェット塗布装置を概略的に示す側面図である。
図2】上記インクジェット塗布装置の上面図である。
図3】上記インクジェット塗布装置のヘッドユニットを示す図である。
図4】インクジェットヘッドのノズル孔側を示す図である。
図5】ヘッド本体部を示す図であり、(a)は隔壁を拡幅しメニスカスを形成した状態を示す図であり、(b)は隔壁を狭幅させて液滴を吐出した状態を示す図である。
図6】上記インクジェット塗布装置のインクジェットヘッドの温度調節方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のインクジェット塗布装置に係る実施の形態を図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、インクジェット塗布装置の一実施形態を示す側面図であり、図2は、インクジェット塗布装置の上面図である。
【0021】
インクジェット塗布装置は、図1図2に示すように、基材Wを載置するステージ10と、基材Wに液滴P(塗布液)を塗布する塗布ユニット2とを有しており、塗布ユニット2がステージ10に載置された基材W上を移動しつつ、液滴Pを吐出することにより、基材W上に塗布膜が形成される。
【0022】
なお、以下の説明では、この塗布ユニット2が移動する方向をX軸方向(主走査方向)、これと水平面上で直交する方向をY軸方向(副走査方向、又は、幅方向)、X軸およびY軸方向の双方に直交する方向をZ軸方向として説明を進めることとする。
【0023】
インクジェット塗布装置は、基台1を有しており、この基台1上にステージ10、塗布ユニット2が設けられている。具体的には、基台1上にステージ10が設けられており、このステージ10をY軸方向に跨ぐように塗布ユニット2が設けられている。
【0024】
ステージ10は、基材Wを載置するものであり、載置された基材Wが水平な姿勢を維持した状態で載置できるようになっている。具体的には、ステージ10の表面は、平坦に形成されており、その表面には、吸引孔が複数形成されている。この吸引孔には真空ポンプが接続されており、ステージ10の表面に基材Wを載置した状態で真空ポンプを作動させることにより、吸引孔に吸引力が発生し、基材Wが水平な姿勢でステージ10の表面に吸着保持できるようになっている。
【0025】
また、塗布ユニット2は、基材W上に塗布液である液滴Pを着弾させて塗布するものであり、塗布液を吐出するヘッドユニット21と、このヘッドユニット21を支持するガントリ部22とを有している。
【0026】
このガントリ部22は、ステージ10のY軸方向両外側に配置される脚部22aと、これらの脚部22aを連結しY軸方向に延びるビーム部材22bとを有する略門型形状に形成されている。そして、このビーム部材22bにヘッドユニット21が取付けられており、ガントリ部22は、ステージ10をY軸方向に跨いだ状態でX軸方向に移動可能に取り付けられている。本実施形態では、基台1のY軸方向両端部分にはそれぞれX軸方向に延びるレール(不図示)が設置されており、脚部22aがこのレールにスライド自在に取り付けられている。そして、脚部22aにはリニアモータが取り付けられており、このリニアモータを駆動制御することにより、ガントリ部22がX軸方向に移動し、任意の位置で停止できるようになっている。
【0027】
また、リニアモータには、エンコーダ(リニアエンコーダ)が設けられており、エンコーダからの周期的な駆動パルス信号により、ヘッドユニット21のX軸方向の位置を把握することができる。すなわち、エンコーダと後述の制御装置(コントローラ)とが接続されており、エンコーダからの駆動パルス信号を受信した制御装置により、ヘッドユニット21のX軸上の位置が検出されるようになっている。
【0028】
また、ビーム部材22bは、両脚部22aを連結する柱状部材である。このビーム部材22bには、ヘッドユニット21が取付けられている。具体的には、ビーム部材22bのX軸方向一方側の側面に、ヘッドユニット21が取り付けられており、このヘッドユニット21に設けられたノズル孔31aがステージ10の表面に向く姿勢で取付けられている。したがって、ガントリ部22がX軸方向に移動又は停止するにしたがって、ヘッドユニット21もそれに付随してX軸方向に移動又は停止を行うことができ、ガントリ部22の移動量を調節することにより、ステージ10の表面に載置された基材W上にヘッドユニット21を位置させて基材W上に塗布液である液滴Pを吐出できるようになっている。
【0029】
また、ヘッドユニット21は、複数のノズル孔31aを一体化させたものである。本実施形態では、ヘッドユニット21は、図3に示すように、複数のインクジェットヘッド31を有しており、それぞれのインクジェットヘッド31から液滴Pを吐出できるようになっている。本実施形態では、複数のインクジェットヘッド31がY軸方向(副走査方向)に沿って配列されており、それぞれが互いに重複する部分を有するようにずらして配置されている。図4の例では、隣接するインクジェットヘッド31がX軸方向に交互にずらして配置されている。そして、これらのインクジェットヘッド31は、液滴Pが吐出されるノズル孔31aが形成されており、平坦なノズル面35に所定間隔を有するように1列に並んで配列されている。このノズル孔31aの配置間隔とインクジェットヘッド31の両端部分とでは寸法が異なっているため、この両端部分の寸法分を相殺できるようにX軸方向にずらしつつY軸方向に配列される。これにより、ヘッドユニット21は、X軸方向に見て通常ノズル孔31aがY軸方向に等間隔で配置されており、インクジェトヘッド部21全体としてX軸方向に見て、すべての通常ノズル孔31aがY軸方向に沿って一定の配列ピッチで配列され、X軸方向から見てY軸方向に亘って等間隔で配置されている。
【0030】
また、インクジェットヘッド31は、図5に示すように、ノズル面35と反対側にヘッド本体部32を有している。ヘッド本体部32には、塗布液が貯留される貯留部33が設けられており、塗布動作に必要となる量の塗布液が貯留されている。貯留部33は、隔壁34により圧力室として形成されており、隔壁34に駆動電圧を印加させることにより、拡幅、狭幅させることができる。すなわち、駆動電圧を隔壁34に印加して貯留部33を拡幅、狭幅させることにより、ノズル孔31aから液滴Pの吐出動作、停止動作を制御することができる。すなわち、貯留部33には、ノズル孔31aが連通して形成されており、貯留部33を拡幅させることにより、ノズル孔31aにメニスカスMが形成された状態を保持させることができる。また、貯留部33を狭幅させて貯留部33の内圧を上昇させることにより、ノズル孔31aから液滴Pを吐出させることができるようになっている。この隔壁34への駆動電圧の制御は、ヘッド本体部32に設けられた駆動基板40(図3参照)により制御される。駆動基板40は、各インクジェットヘッド31毎に設けられており、インクジェット塗布装置を制御する制御装置(不図示)と接続されている。そして、制御装置で予め設定されたマッピングデータに基づいて駆動基板40を介して各インクジェットヘッド31の吐出動作が制御される。すなわち、それぞれの駆動基板40により、設定された吐出位置以外の場所では、ノズル孔31aに所定のメニスカスMが形成されるように貯留部33が拡幅されるように隔壁34に与える駆動電圧が制御され、ノズル孔31aが吐出位置に位置する際には貯留部33が狭幅されるように隔壁34に与える駆動電圧が制御される。
【0031】
また、ヘッド本体部32には、加温調節部50が設けられている。本実施形態では、加温調節部50は、ヘッド本体部32に設けられたヒータ部51と、ヒータ部51を制御する駆動基板40によって形成されている。ヒータ部51は、図5に示すように、貯留部33内に配置されるヒータと、貯留部33の上部に配置される面ヒータで構成されている。そして、駆動基板40により、予め設定された設定温度に到達するように構成されている。すなわち、貯留部33内には、温度検出器(不図示)が設けられており、貯留部33内が設定温度に到達していない場合には、ヒータ部51を作動させて貯留部33内を加温し、貯留部33が設定温度に到達すると、ヒータ部51の作動を停止させる。このように、加温調節部50は、それぞれのヘッド本体部32における貯留部33を設定温度に調節することにより、貯留部33内に貯留された塗布液を設定温度に維持することができる。
【0032】
また、ヘッドユニット21には冷却ユニット6が設けられており、この冷却ユニット6によりインクジェットヘッド31が冷却されるようになっている。冷却ユニット6は、本実施形態では、図3に示すように、すべてのインクジェットヘッド31のヘッド本体部32が収容されるケーシング部材である収容部21a内に配置されており、ヘッド本体部32と対向する上方に配置されている。そして、冷却ユニット6が収容部21a内のエアを吸い込んで冷却し、再度、収容部21a内に戻すことにより、ヘッド本体部32が冷却されるようになっている。すなわち、冷却ユニット6により、収容部21a内のエアが循環され、その循環経路内でエアが冷却されることにより、収容部21a内のすべてのヘッド本体部32が冷却されるようになっている。
【0033】
冷却ユニット6は、収容部21aに設置されるダクト部61と、収容部21a内のエアを吸い込む吸込口62と、ダクト部61内で冷却されたエアが送り出される送風口63とを有している。
【0034】
ダクト部61は、エアを導く流路であり、断面形状が矩形の一方向に延びる管状配管に形成されている。図3の例では、インクジェットヘッド31の配列方向(本実施形態ではY軸方向)に延びるように配置されており、収容部21aのY軸方向一方端から他方端まで延びて配置されている。本実施形態では、ダクト部61の中央部分に仕切板61aが設けられており、中央部分で仕切られるように形成されている。すなわち、本実施形態では、タクト部は、仕切板61aを基準に左右対称になるように形成されており、それぞれ同様の構成で独立して機能するように形成されている。
【0035】
また、ダクト部61には、熱交換器64が配置されており、ダクト部61を流れるエアが熱交換器64により冷却されるようになっている。図3の例では、熱交換器64は、ダクト部61のY軸方向両端部に設けられており、熱交換器64に接触したエアは、熱交換器64で吸熱されることにより冷却されるようになっている。すなわち、それぞれの熱交換器64は、図示しないチラー(冷却水循環装置)と配管によって接続されており、熱交換器64にはチラーにより所定温度の冷却水が循環して供給されるようになっている。そのため、熱交換器64を通過したエアは、熱交換器64で熱交換が行われることにより吸熱され、所定の温度に冷却されるようになっている。(削除)
また、ダクト部61には、吸込口62と送風口63とが設けられており、図3の例では、吸込口62がY軸方向両端部に設けられ、送風口63がY軸方向に亘って所定間隔で設けられている。すなわち、収容部21a内のエアは、吸込口62から吸引され、ダクト部61で冷却された後、送風口63から収容部21aに送り出されるようになっており、収容部21a内のエアがダクト部61を通じて循環するように構成されている。具体的には、吸込口62のダクト部61内には、ファン62aが設けられており、ファン62aを作動させることにより、エアがダクト部61内を流れるようになっている。すなわち、ファン62aを作動させると、収容部21aのエアは、吸込口62から吸い込まれ、ダクト部61を通じて中央部分に向かって流れ、各送風口63から排出されるようになっている。図3の例では、中央部分の仕切板61aに当接し中央部分の送風口63と、経路途中の送風口63から排出されるようになっている。
【0036】
また、収容部21aには、整流板65が設けられている。整流板65は、収容部21aのエアの流れを整えるためのものである。図3の例では、中央部分と、Y軸方向両端部分にそれぞれ配置されている。すなわち、中央部分に配置される整流板65は、上下方向(Z軸方向)に延びる形状を有しており、中央部分の送風口63から排出されたエアは、この中央部分の整流板65に当接することにより、隣のダクト部61側に流れるのが抑えられつつ、直下のヘッド本体部32側に流れるように整流される。また、端部に配置される整流板65は、収容部21aの側壁から吸込口62に対向する姿勢となるように配置されており、各送風口63から排出され中央部側から流れてきたエアがヘッド本体部32側(下側)に留まるのを抑えられ、吸込口62側(上側)に流れるように整流される。これにより、収容部21aのエアが、左右それぞれのダクト部61によって独立して循環させることができるため、収容部21aのエアを効率よく冷却させることができるようになっている。
【0037】
また、インクジェット塗布装置には、制御装置が設けられており、制御装置によりインクジェット塗布装置が統括的に制御されている。すなわち、制御装置は、予め記憶されたプログラムに従って一連の塗布動作を実行すべく、各ユニットの駆動装置を駆動制御するとともに、塗布動作に必要な各種演算を行うものである。具体的には、吐出位置の演算、インクジェットヘッド31に液滴Pを吐出させるための駆動電圧の作成及び修正を行うことができる。そして、ヘッドユニット21についても制御され、各インクジェットヘッド31が駆動基板40を介して駆動制御される。
【0038】
次に、インクジェットヘッド31の温度調節方法について図6のフローチャートに基づいて説明する。このインクジェットヘッド31温度調節方法は、複数のインクジェットヘッド31それぞれの温度を均一に調節するものであり、塗布動作を行う前に、各インクジェットヘッド31の貯留部33で貯留された塗布液の温度を均一にすることにより、各インクジェットヘッド31の吐出状態のバラツキが抑えられ、吐出精度を維持させることができる。
【0039】
まず、ステップS1により、ヘッド冷却工程が行われる。すなわち、冷却ユニット6を作動させることにより、ヘッド本体部32の温度が予め設定された設定温度よりも低くなるように調節される。具体的には、チラーにより一定温度に冷却された冷却水が熱交換器64に供給され循環される。そして、ファン62aが作動することにより収容部21a内のエアが吸込口62から吸い込まれ、熱交換器64を通過することにより冷却される。そして、ダクト部61を通過し、各送風口63から冷却されたエアが送り出される。送風口63から送り出された冷却後のエアは、ファン62aに吸い込まれると共に、整流板65に沿って流れることにより、各ヘッド本体部32に直接当接し、ヘッド本体部32を冷却する。これにより、ヘッド本体部32の貯留部33が冷却され、同時に貯留部33内の塗布液が冷却される。
【0040】
そして、冷却ユニット6により、すべてのヘッド本体部32が設定温度以下になるように冷却される。すなわち、個々のヘッド本体部32に設けられた温度検出器によってヘッド本体部32の温度が監視され、すべてのヘッド本体部32が設定温度以下に冷却される。ここで、冷却ユニット6により冷却されたエアは、送風口63から送り出されるため、送風口63に近いヘッド本体部32ほど、急速に冷却される。そのため、送風口63に近いヘッド本体部32と、送風口63から離れたヘッド本体部32とに冷却状態が異なり、個々のヘッド本体部32の温度にバラツキが生じるが、最終的にすべてのヘッド本体部32が設定温度以下に冷却される。
【0041】
次にヘッド加温調節工程が行われる。具体的には、すべてのヘッド本体部32が設定温度以下になった後、冷却ユニット6が冷却されたエアの送風を停止し、ヘッド本体部32のヒータ部51が作動することによりヘッド本体部32が加温される。そして、すべてのヘッド本体部32が設定温度を維持するように制御される。具体的には、すべてのヘッド本体部32が設定温度まで加温されるとヒータ部51が一時的に停止し、ヘッド本体部32が設定温度以下になると、再度、ヒータ部51が作動することにより、ヘッド本体部32が設定温度を維持するように制御される。これにより、ヘッド冷却工程によりすべてのヘッド本体部32が設定温度よりも低い温度に調節された状態で、その後、設定温度まで加温し、設定温度を維持するように制御されるため、すべてのヘッド本体部32が設定温度に調節され、ヘッド本体部32の貯留部33内の塗布液がほぼ同じ温度に調節される。
【0042】
次に、ステップS3により塗布工程が行われ、基板上に塗布液を吐出することにより塗布膜が形成される。
【0043】
このように、上記実施形態におけるインクジェット塗布装置及びインクジェットヘッド31の温度調節方法によれば、すべてのインクジェットヘッド31が冷却ユニット6により設定温度以下に冷却され、その後、加熱調節部により設定温度まで加温されることにより、すべてのインクジェットヘッド31のヘッド本体部32が所定の設定温度に調節される。すなわち、冷却ユニット6によりヘッド本体部32が冷却されると、すべてのヘッド本体部32が冷却される。ここで、ヘッド本体部32それぞれが異なる温度に冷却された場合でも、インクジェットヘッド31には、塗布液が高粘度である場合に吐出状態を調節するために個々に加温調節部50が備えられているため、ヘッド本体部32が設定温度を超えるまで加温された後、加温制御が中止されることにより、ヘッド本体部32は設定温度になるように制御される。したがって、すべてのインクジェットヘッド31(ヘッド本体部32内の塗布液)の温度を共通の温度に維持することができ、インクジェットヘッド31毎の温度のバラツキを抑えることができるため、それぞれのインクジェットヘッド31から吐出される液滴Pが安定し、吐出精度を維持することができる。
【0044】
また、上記実施形態では、冷却ユニット6とヘッド本体部32とが同じ収容部21aに収容される例について説明したが、収容部21aのないものであってもよい。この場合、冷却ユニット6の冷却効率は低くなるが、コスト面、メンテナンス性を向上させることができる。
【0045】
また、上記実施形態では、冷却ユニット6が、タクト部と、このダクト部61に送風口63と吸込口62とが設けられる構成について説明したが、このような構成に限定されず、例えば、外部で生成した冷風をホースで誘導し、ホースから直接ヘッド本体部32に送風する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
2 塗布ユニット
6 冷却ユニット
10 ステージ
21 ヘッドユニット
31 ヘッド本体部
50 加温調節部
61 ダクト部
62 吸込口
63 送風口
64 熱交換器
65 整流板
W 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6