(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガス濃度計が、前記圧力制御弁と並列に配置され、且つ、前記ガス濃度計のラインに、圧力及び/又は流量を制御可能な機構が設けられている、請求項1又は2に記載の水電解システム。
前記制御部が、前記電解液を循環させるための送液ポンプに取り付けられたインバーター、前記電極室に電解液を配液する配液管に取り付けられた自動制御弁から選ばれる少なくとも一つである、請求項10に記載の水電解システム。
前記電解槽と前記電解液を配液又は集液する管であるヘッダーとが一体化されており、前記ヘッダーが、前記電解槽の隔壁内及び/又は前記電解槽の外枠内の下部及び/又は上部に設けられ、且つ、前記隔壁に垂直な方向に延在するように設けられている、請求項10又は11に記載の水電解システム。
前記電解槽と前記電解液を配液又は集液する管であるヘッダーとが独立しており、前記ヘッダーが、前記電解槽の隔壁内及び/又は前記電解槽の外枠外の下部及び/又は上部に設けられ、且つ、前記隔壁に垂直な方向に延在するように設けられている、請求項10〜12のいずれか一項に記載の水電解システム。
前記陰極室と水素導出管により電解液通過方向の下流側で接続された、前記陰極室で発生する水素ガスを貯留する水素タンクをさらに備え、該水素タンクが前記陰極室に導入する水素ガスを貯留する水素タンクを兼ねる、請求項1又は2に記載の水電解システム。
陽極室を備える電解槽と、前記陽極室と酸素導入管により電解液通過方向の上流側で接続された、前記陽極室に導入する酸素ガスを貯留する酸素タンクと、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の水電解システム。
前記陽極室と酸素導出管により電解液通過方向の下流側で接続された、前記陽極室で発生する酸素ガスを貯留する酸素タンクをさらに備え、該酸素タンクが前記陽極室に導入する酸素ガスを貯留する酸素タンクを兼ねる、請求項24又は25に記載の水電解システム。
請求項24〜28のいずれか一項に記載の水電解システムを用いて、電解停止時に前記酸素導入管を介した前記陽極室への酸素ガスの導入を行うことを特徴とする、水電解方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
以下、本発明の第一の課題を解決するための第一の実施形態について記載する。
【0019】
図1に、本実施形態のアルカリ水電解システムの概要を示す。
【0020】
(アルカリ水電解システム)
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、電解槽50に接続された水素ガスラインと酸素ガスラインとを有するものである。
【0021】
そして、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、水素ガスライン及び酸素ガスラインの少なくとも一方に、ガス濃度計、圧力計、及び圧力制御弁が設けられている。
【0022】
また、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、さらに、圧力制御弁の開度を自動で調整する機構を有する。
さらに、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、ガス濃度計が、圧力制御弁と並列に配置され、且つ、ガス濃度計のラインに、圧力及び/又は流量を制御可能な機構が設けられている。
さらに、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、ガス濃度計が、圧力制御弁の上流側に配置されている。
さらに、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、ガス濃度計が圧力制御弁の下流側に配置されている。
【0023】
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、例えば、
図1に示すように、電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72(水素分離タンク72h、酸素分離タンク72o)と、電解により消費した水を補給するための水補給器73とを有する。
【0024】
本実施形態のアルカリ水電解システム70によれば、陽極室側と陰極室側との圧力状態を安定化することができる。具体的には、本実施形態のアルカリ水電解システム70によれば、太陽光や風力等の変動電源の環境下での水電解において、電解停止時の圧力の低下を抑制し、陽極室側と陰極室との差圧のバランスが崩れ、隔膜の破れや、隔膜を介したガスの透過などによるガス純度低下を抑制することができる。
【0025】
初めに、本実施形態のアルカリ水電解システム70の構成要素について説明する。
【0026】
((電解槽))
本実施形態のアルカリ水電解システム70における電解槽50は、特に限定されることなく、単極式としても複極式としてもよいが、工業的に、複極式の電解槽が好ましい。
【0027】
複極式は、多数のセルを電源に接続する方法の1つであり、片面が陽極2a、片面が陰極2cとなる複数の複極式エレメント60を同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続する方法である。
複極式電解槽50は、電源の電流を小さくできるという特徴を持ち、電解により化合物や所定の物質等を短時間で大量に製造することができる。電源設備は出力が同じであれば、定電流、高電圧の方が安価でコンパクトになるため、工業的には単極式よりも複極式の方が好ましい。
【0028】
図5に、本実施形態のアルカリ水電解システムの電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
【0029】
本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50は、
図5に示すとおり、陽極2aと、陰極2cと、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1と、隔壁1を縁取る外枠3とを備える複数の複極式エレメント60が隔膜4を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50である。
【0030】
((複極式エレメント))
一例のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50に用いられる複極式エレメント60は、
図5に示すように、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1を備え、隔壁1を縁取る外枠3を備えている。より具体的には、隔壁1は導電性を有し、外枠3は隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられている。
【0031】
なお、本実施形態では、複極式エレメント60は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図6〜
図9に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい(
図6〜
図9参照)。そして、本明細書では、上記鉛直方向を電解液通過方向とも称する。
【0032】
本実施形態では、
図5に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図5に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置される。複極式電解槽50は、全体をタイロッド方式51r(
図5参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構により締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
【0033】
図5に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
【0034】
また、本実施形態における複極式電解槽50では、
図6〜
図9に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
【0035】
本実施形態では、特に、複極式電解槽50における、隣接する2つの複極式エレメント60間の互いの隔壁1間における部分、及び、隣接する複極式エレメント60とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁1間における部分を電解セル65と称する。電解セル65は、一方のエレメントの隔壁1、陽極室5a、陽極2a、及び、隔膜4、及び、他方のエレメントの陰極2c、陰極室5c、隔壁1を含む。
【0036】
詳細には、電極室5は、外枠3との境界において、電極室5に電解液を導入する電解液入口5iと、電極室5から電解液を導出する電解液出口5oとを有する。より具体的には、陽極室5aには、陽極室5aに電解液を導入する陽極電解液入口5aiと、陽極室5aから導出する電解液を導出する陽極電解液出口5aoとが設けられる。同様に、陰極室5cには、陰極室5cに電解液を導入する陰極電解液入口5ciと、陰極室5cから導出する電解液を導出する陰極電解液出口5coとが設けられる(
図6〜
図9参照)。
【0037】
本実施形態では、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、電解液を電解槽50内部で、電極面内に均一に分配するための内部ディストリビュータを備えてもよい。また、電極室5は、電解槽50内部での液の流れを制限する機能を備えるバッフル板を備えてもよい。さらに、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、電解槽50内部での電解液の濃度や温度の均一化、及び、電極2や隔膜4に付着するガスの脱泡の促進のために、カルマン渦を作るための突起物を備えてもよい。
【0038】
複極式電解槽50には、通常、電解液を配液又は集液する管であるヘッダー10が取り付けられ、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に、陽極室5aに電解液を入れる陽極入口ヘッダー10aiと、陰極室5cに電解液を入れる陰極入口ヘッダー10ciとを備えている。また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に、陽極室5aから電極液を出す陽極出口ヘッダー10aoと、陰極室5cから電解液を出す陰極出口ヘッダー10coとを備えている。
なお、
図6〜
図9に示す複極式電解槽50に取り付けられるヘッダー10の配設態様として、代表的には、内部ヘッダー10I型と外部ヘッダー10O型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
【0039】
図6に、本実施形態の内部ヘッダー型のアルカリ水電解システムの一例の電解室、ヘッダー、導管について斜視図で示す。
図7に、本実施形態の外部ヘッダー型のアルカリ水電解システムの一例の電解室、ヘッダー、導管について斜視図で示す。
図8に、本実施形態の内部ヘッダー型のアルカリ水電解システムの電解槽の例を平面図で示す。
図9に、本実施形態の外部ヘッダー型のアルカリ水電解システムの電解槽の例を平面図で示す。
【0040】
さらに、
図6、
図8に示す一例では、ヘッダー10に、ヘッダー10に配液又は集液されたガスや電解液を集める管である導管20が取り付けられる。詳細には、導管20は、入口ヘッダーに連通する配液管と出口ヘッダーに連通する集液管とからなる。
一例では、外枠3のうちの下方に、陽極入口ヘッダー10Iaiに連通する陽極用配液管20Iaiと、陰極入口ヘッダー10Iciに連通する陰極用配液管20Iciとを備えており、また、同様に、外枠3のうちの上方に、陽極出口ヘッダー10Iaoに連通する陽極用集液管20Iaoと、陰極出口ヘッダー10Icoに連通する陰極用集液管20Icoとを備えている。
【0041】
通常、
図6、
図8に示すように、陽極入口ヘッダー10Iai、陰極入口ヘッダー10Ici、陽極出口ヘッダー10Iao、陰極出口ヘッダー10Icoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、本実施形態では、これに限定されず、各電極室5にそれぞれ複数設けられてもよい。
また、通常、
図6、
図8に示すように、陽極用配液管20Iaiは、陽極入口ヘッダー10Iaiの全てを連通し、陰極用配液管20Iciは、陰極入口ヘッダー10Iciの全てを連通し、陽極用集液管20Iaoは、陽極出口ヘッダー10Iaoの全てを連通し、陰極用集液管20Icoは、陰極出口ヘッダー10Icoの全てを連通してよい。
【0042】
本実施形態では、ヘッダー10の延在方向は、特に限定されないが、
図6、
図8に示す一例のように、本発明の効果を得られやすくする観点から、入口ヘッダー(陽極入口ヘッダー10Iai、陰極入口ヘッダー10Ici)及び出口ヘッダー(陽極出口ヘッダー10Iao、陰極出口ヘッダー10Ico)は、ぞれぞれ、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に延びることが好ましく、ヘッダー10のいずれもが、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に延びることがさらに好ましい。
なお、ここで、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に延びるとは、隔壁1に沿う所与の方向D1と厳密な意味で同じ方向に延びることを意味するものではなく、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して、例えば、10°以下の範囲で、傾斜する方向に延びる場合も含むことを意味する。なお、上記傾斜角度は、5°以下であることが好ましく、2°以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態では、導管20の延在方向は、特に限定されないが、
図6、
図8に示す一例のように、本発明の効果を得られやすくする観点から、配液管(陽極用配液管20Iai、陰極用配液管20Ici)及び集液管(陽極用集液管20Iao、陰極用集液管20Ico)は、ぞれぞれ、隔壁1に垂直な方向に延びることが好ましく、導管20のいずれもが、隔壁1に垂直な方向に延びることがさらに好ましい。
なお、ここで、隔壁1に垂直な方向に延びるとは、隔壁1に厳密な意味で垂直な方向に延びることを意味するものではなく、隔壁1に垂直な方向に対して、例えば、隔壁1に沿う方向にみて45°以下の範囲で、傾斜する方向に延びる場合も含むことを意味する。なお、上記傾斜角度は、30°以下であることが好ましく、15°以下であることがより好ましい。
【0044】
図7、
図9に示す一例では、ヘッダー10に、ヘッダー10に配液又は集液されたガスや電解液を集める管である導管20が取り付けられる。詳細には、導管20は、入口ヘッダーに連通する配液管と出口ヘッダーに連通する集液管とからなる。
一例では、外枠3のうちの下方に、陽極入口ヘッダー10Oaiに連通する陽極用配液管20Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociに連通する陰極用配液管20Ociとを備えており、また、同様に、外枠3のうちの側方に、陽極出口ヘッダー10Oaoに連通する陽極用集液管20Oaoと、陰極出口ヘッダー10Ocoに連通する陰極用集液管20Ocoとを備えている。
【0045】
通常、
図7、
図9に示すように、陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Ocoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、本実施形態では、これに限定されず、各電極室5にそれぞれ複数設けられてもよい。
また、通常、陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Ocoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、本実施形態では、これに限定されず、複数の電極室5で兼用されてもよい。
【0046】
本実施形態では、電極室5とヘッダー10との位置関係は、特に限定されず、
図7、
図9に示すように、複極式エレメント60を隔壁1に沿う所与の方向D1が鉛直方向となるように使用した場合に、入口ヘッダーは、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーは、電極室5に対して上方や側方に位置していてよく(図示では、側方)、また、入口ヘッダーに連通する配液管は、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーに連通する集液管は、電極室5に対して上方や側方に位置していてよい(図示では、側方)。
【0047】
本実施形態では、ヘッダー10の延在方向は、特に限定されない。
【0048】
本実施形態では、導管20の延在方向は、特に限定されないが、
図7、
図9に示す一例のように、本発明の効果を得られやすくする観点から、配液管(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci)及び集液管(陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)は、ぞれぞれ、隔壁1に垂直な方向に延びることが好ましく、導管20のいずれもが、隔壁1に垂直な方向に延びることがさらに好ましい。
【0049】
本実施形態では、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、入口ヘッダーと出口ヘッダーとは、水電解効率の観点から、離れた位置に設けられることが好ましく、電極室5の中央部を挟んで向かい合うように設けられることが好ましく、
図6〜
図9に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、長方形の中心に関して対称となるように設けられることが好ましい。
【0050】
なお、
図6〜
図9に図示した例では、平面視で長方形形状の隔壁1と平面視で長方形形状の隔膜4とが平行に配置され、また、隔壁1の端縁に設けられる直方体形状の外枠3の隔壁1側の内面が隔壁1に垂直となっているため、電極室5の形状が直方体となっている。しかしながら、本発明において、電極室5の形状は、図示の例の直方体に限定されることなく、隔壁1や隔膜4の平面視形状、外枠3の隔壁1側の内面と隔壁1とのなす角度等により、適宜変形されてよく、本発明の効果が得られる限り、いかなる形状であってもよい。
【0051】
本実施形態では、電極室5とヘッダー10との位置関係は、特に限定されず、
図6〜
図9に示すように、複極式エレメント60を隔壁1に沿う所与の方向D1が鉛直方向となるように使用した場合に、入口ヘッダーは、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーは、電極室5に対して上方や側方に位置していてよく(図示では、上方)、また、入口ヘッダーに連通する配液管は、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーに連通する集液管は、電極室5に対して上方や側方に位置していてよい(図示では、上方)。
【0052】
なお、本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50では、電解室5内における気液の流れの乱れにより電解室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制するため、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6を備えていてもよい。
【0053】
本実施形態のアルカリ水電解システム70の電解槽50は、50〜500の複極式エレメント60を有することが好ましく、70〜300の複極式エレメント60を有することがさらに好ましく、100〜200の複極式エレメント60を有することが特に好ましい。
対数が減ると、リーク電流によるガス純度の影響は緩和される一方で、対数が増加すると、電解液を各電解セル65に均一に分配することが困難になる。下限未満の場合や上限超の場合には、電力供給を停止した際に生じる自己放電を低減して、電気制御システムの安定化を可能にする効果、及び、高効率での電力の貯蔵、具体的には、ポンプ動力の低減やリーク電流の低減を実現することを可能にする効果の並立が困難になる。
また、複極式エレメント60の数(対数)が増え過ぎると、電解槽50の製作が困難になるおそれがあり、製作精度が悪い複極式エレメント60を多数スタックした場合には、シール面圧が不均一になりやすく、電解液の漏れやガス漏洩が生じやすい。
【0054】
以下、本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50の構成要素について詳細に説明する。
また、以下では、本発明の効果を高めるための好適形態についても詳述する。
【0055】
−隔壁−
本実施形態における隔壁1の形状は、所定の厚みを有する板状の形状としてよいが、特に限定されない。
隔壁1の平面視形状としては、特に限定されることなく、矩形(正方形、長方形等)、円形(円、楕円等)としてよく、ここで、矩形は角が丸みを帯びていてもよい。
【0056】
なお、隔壁1は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図6〜
図9に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい。そして、本明細書では、上記鉛直方向を電解液通過方向とも称する。
【0057】
隔壁1の材料としては、電力の均一な供給を実現する観点から、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0058】
−電極−
本実施形態のアルカリ水電解による水素製造において、エネルギー消費量の削減、具体的には電解電圧の低減は、大きな課題である。この電解電圧は電極2に大きく依存するため、両電極2の性能は重要である。
【0059】
アルカリ水電解の電解電圧は、理論的に求められる水の電気分解に必要な電圧の他に、陽極反応(酸素発生)の過電圧、陰極反応(水素発生)の過電圧、陽極2aと陰極2cとの電極2間距離による電圧とに分けられる。ここで、過電圧とは、ある電流を流す際に、理論分解電位を越えて過剰に印加する必要のある電圧のことを言い、その値は電流値に依存する。同じ電流を流すとき、過電圧が低い電極2を使用することで消費電力を少なくすることができる。
【0060】
低い過電圧を実現するために、電極2に求められる要件としては、導電性が高いこと、酸素発生能(或いは水素発生能)が高いこと、電極2表面で電解液の濡れ性が高いこと等が挙げられる。
【0061】
アルカリ水電解の電極2として、過電圧が低いこと以外に、再生可能エネルギーのような不安定な電流を用いても、電極2の基材及び触媒層の腐食、触媒層の脱落、電解液への溶解、隔膜4への含有物の付着等が起きにくいことが挙げられる。
【0062】
本実施形態における電極2としては、電解に用いられる表面積を増加させるため、また、電解により発生するガスを効率的に電極2表面から除去するために、多孔体が好ましい。特に、ゼロギャップ電解槽の場合、隔膜4との接触面の裏側から発生するガスを脱泡する必要があるため、電極2の膜に接する面と反対に位置する面が、貫通していることが好ましい。
【0063】
多孔体の例としては、平織メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金属発泡体等が挙げられる。
【0064】
本実施形態における電極2は、基材そのものとしてもよく、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものとしてもよいが、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものが好ましい。
【0065】
基材の材料は、特に制限されないが、使用環境への耐性から、軟鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル基合金が好ましい。
【0066】
陽極2aの触媒層は、酸素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。具体的には、ニッケルめっきや、ニッケルとコバルト、ニッケルと鉄等の合金めっき、LaNiO
3やLaCoO
3、NiCo2O
4等のニッケルやコバルトを含む複合酸化物、酸化イリジウム等の白金族元素の化合物、グラフェン等の炭素材料等が挙げられる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子等の有機物が含まれていてもよい。
【0067】
陰極2cの触媒層は、水素発生能が高く、耐久性が良いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、例えばパラジウム、イリジウム、白金、金、ルテニウム、ロジウム、セリウム、ニッケル、コバルト、タングステン、鉄、モリブデン、銀、銅、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、ランタノイド等の金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物やグラフェン等の炭素材料等として用いて、触媒層を形成できる。
【0068】
触媒層の厚みは、厚すぎると電気抵抗が増加し過電圧を上昇させる場合があり、逆に薄すぎると長期間の電解や電解の停止により触媒層が溶解もしくは脱落することで電極2が劣化し、過電圧が上昇する場合がある。
これらの理由から、触媒層の厚みは、0.2μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上300μm以下である。
なお、触媒層の厚みは、例えば電子顕微鏡にて電極2の断面を観察することにより測定できる。
【0069】
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法、プラズマ溶射法等の溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、及び、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
【0070】
−外枠−
本実施形態における外枠3の形状は、隔壁1を縁取ることができる限り特に限定されないが、隔壁1の平面に対して垂直な方向に沿う内面を隔壁1の外延に亘って備える形状としてよい。
外枠3の形状としては、特に限定されることなく、隔壁1の平面視形状に合わせて適宜定められてよい。
【0071】
外枠3の材料としては、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0072】
−隔膜−
本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50において用いられる隔膜4としては、イオンを導通しつつ、発生する水素ガスと酸素ガスを隔離するために、イオン透過性の隔膜4が使用される。このイオン透過性の隔膜4は、イオン交換能を有するイオン交換膜と、電解液を浸透することができる多孔膜が使用できる。このイオン透過性の隔膜4は、ガス透過性が低く、イオン伝導率が高く、電子電導度が小さく、強度が強いものが好ましい。
【0073】
−−多孔膜−−
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有し、隔膜4を電解液が透過できる構造を有する。電解液が多孔膜中に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径や気孔率、親水性といった多孔構造の制御が非常に重要となる。一方、電解液だけでなく、発生ガスを通過させないこと、すなわちガスの遮断性を有することが求められる。この観点でも多孔構造の制御が重要となる。
【0074】
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有するものであるが、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作成することができる。
高分子多孔膜の製法例としては、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等が挙げられる。相転換法(ミクロ相分離法)とは、高分子材料を良溶媒に溶解して得られた溶液により製膜し、これを貧溶媒中で相分離させることで多孔質化する方法(非溶媒誘起相分離法)である。抽出法とは、高分子材料に炭酸カルシウム等の無機粉体を混練して製膜した後に、該無機粉体を溶解抽出して多孔質化する方法である。延伸法とは、所定の結晶構造を有する高分子材料のフィルムを所定の条件で延伸して開孔させる方法である。湿式ゲル延伸法とは、高分子材料を流動パラフィン等の有機溶剤で膨潤させてゲル状シートとし、これを所定の条件で延伸したのち有機溶剤を抽出除去する方法である。
無機多孔膜の製法例としては、焼結法等が挙げられる。焼結法は、プレスや押出しによって得られた成形物を焼き、微細孔を残したまま一体化させる方法である。
不織布の製法例としては、スパンボンド法、電界紡糸(エレクトロスピニング)法等が挙げられる。スパンボンド法とは、溶融したペレットから紡糸された糸を熱ロールで圧着し、シート状に一体化させる方法である。電界紡糸(エレクトロスピニング)法とは、溶融ポリマーの入ったシリンジとコレクター間に高電圧を印加しながら射出することで、細く伸長した繊維をコレクター上に集積させる方法である。
【0075】
多孔膜は、高分子材料と親水性無機粒子とを含むことが好ましく、親水性無機粒子が存在することによって多孔膜に親水性を付与することができる。
【0076】
−−−高分子材料−−−
高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましく、ポリスルホンであることがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
高分子材料として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対する耐性が一層向上する。
また、例えば、非溶媒誘起相分離法等の方法を用いることで、隔膜4を一層簡便に製膜することができる。特にポリスルホンであれば、孔径を一層精度よく制御することができる。
【0078】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンは架橋処理が施されていてもよい。かかる架橋処理が施されたポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホンの重量平均分子量は、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量として、4万以上15万以下であることが好ましい。架橋処理の方法は、特に限定されないが、電子線やγ線等の放射線照射による架橋や架橋剤による熱架橋等が挙げられる。なお、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量はGPCで測定することができる。
【0079】
−−−親水性無機粒子−−−
多孔膜は、高いイオン透過性及び高いガス遮断性を発現するために親水性無機粒子を含有していることが好ましい。親水性無機粒子は多孔膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また親水性無機粒子が多孔膜の空隙部に内包されると、多孔膜から脱離しにくくなり、多孔膜の性能を長時間維持できる。
【0080】
親水性無機粒子としては、例えば、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物がより好ましく、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物が更に好ましく、酸化ジルコニウムがより更に好ましい。
【0081】
−−多孔性支持体−−
隔膜4として多孔膜を用いる場合、多孔膜は多孔性支持体と共に用いてよい。好ましくは、多孔膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に多孔膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に対称に多孔膜を積層した構造であってもよい。
【0082】
隔膜4の強度を一層向上する目的で、多孔性支持体を含むことができる。例えば、機械的なストレスによる、隔膜4の切れや破れや伸び等といった不具合を防止できる。また、多孔性支持体の両面に多孔膜が積層されている構造では、多孔性支持体の片面に傷や穴(ピンホール等)が生じた場合でも、多孔性支持体の他方に積層された多孔膜によりガス遮断性を担保することができる。多孔性支持体の両面に、対称に多孔膜が積層される構造では、膜のカール等を効果的に防止でき、運搬時や膜設置時等における取り扱い性が一層向上する。
【0083】
多孔性支持体の材質は、特に限定されないが、隔膜4における電解液のイオン透過性を実質的に低減させない材質であることが好ましい。多孔性支持体の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリフェニレンサルファイドを含むことが好ましい。ポリフェニレンサルファイドを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対しても優れた耐性を示し、また、水の電気分解時に陽極2aから発生する活性酸素に対しても化学的に優れた安定性を示す。さらに、織布や不織布等のような様々に形態に加工し易いので、使用目的や使用環境に即して好適に調節することができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
−−イオン交換膜−−
イオン交換膜としては、カチオンを選択的に透過させるカチオン交換膜とアニオンを選択的に透過させるアニオン交換膜があり、いずれの交換膜でも使用することができる。
イオン交換膜の材質としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、含フッ素系樹脂やポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体の変性樹脂が好適に使用できる。特に耐熱性及び耐薬品性等に優れる点で、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。
【0085】
((ゼロギャップ構造))
ゼロギャップ型セルにおける複極式エレメント60では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁1との間に弾性体であるバネを配置し、このバネで電極2を支持する形態をとることが好ましい。例えば、第1の例では、隔壁1に導電性の材料で製作されたバネを取り付け、このバネに電極2を取り付けてよい。また、第2の例では、隔壁1に取り付けた電極リブ6にバネを取り付け、そのバネに電極2を取り付けてよい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極2が隔膜4に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
【0086】
また弾性体を介して支持した電極2の対となるもう一方の電極2の剛性を強くすることで、押しつけても変形の少ない構造としている。―方で、弾性体を介して支持した電極2については、隔膜4を押しつけると変形する柔軟な構造とすることで、電解セル65の製作精度上の公差や電極2の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップを保つことができる。
【0087】
より具体的には、整流板6(リブ6)の先端に集電体2rを取り付け、その集電体2rの上面側、つまり、隔壁1側とは反対となる側に導電性弾性体2eを取り付け、さらに、その上面側、つまり、導電性弾性体2eに隣接して隔膜4側となる部分に電極2を重ねた少なくとも3層構造を構成することが挙げられる。集電体2rと導電性弾性体2eとによって弾性体が構成される。
【0088】
本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50では、陰極2c又は陽極2aと隔壁1との間に、導電性弾性体2e及び集電体2rが、導電性弾性体2eが陰極2c又は陽極2aと集電体2rとに挟まれるように、設けられている。
【0089】
−集電体−
集電体2rは、その上に積層される導電性弾性体2eや電極2へ電気を伝えるとともに、それらから受ける荷重を支え、電極2から発生するガスを隔壁1側に支障なく通過させる役割がある。従って、この集電体2rの形状は、エキスパンドメタルや打ち抜き多孔板等が好ましい。この場合の集電体2rの開口率は、電極2から発生した水素ガスを支障なく隔壁1側に抜き出せる範囲であることが好ましい。しかし、あまり開口率が大きいと強度が低下する、或いは導電性弾性体2eへの導電性が低下する等の問題が生ずる場合があり、小さすぎるとガス抜けが悪くなる場合がある。
【0090】
集電体2rの材質は、導電性と耐アルカリ性の面からニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼等が利用できるが、耐蝕性の面からニッケル或いは軟鋼やステンレススチールニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。このような集電体2rのリブ6への固定は、スポット溶接、レーザー溶接等の手段で固定される。
【0091】
−導電性弾性体−
導電性弾性体2eは、集電体2rと電極2の間にあって集電体2r及び電極2と接しており、電気を電極2に伝えること、電極2から発生したガスの拡散を阻害しないことが必須要件である。ガスの拡散が阻害されることにより、電気的抵抗が増加し、また電解に使用される電極2面積が低下することで、電解効率が低下するためである。そして最も重要な役割は、隔膜4を損傷させない程度の適切な圧力を電極2に均等に加えることで、隔膜4と電極2とを密着させることである。
【0092】
ゼロギャップ構造Zを実現するための電極2は、導電性弾性体2eとスポット溶接、金属或いはプラスチック製のピンによる固定、或いは導電性弾性体2eの弾力性による押しつけ圧等が好ましい固定法である。
【0093】
また、弾性体を介して支持した電極2の対となるもう一方の電極2の形状も重要であり、平面的な電極形状とすることが望ましい。
【0094】
また、上記電極2の厚みとしては、通常0.7mm〜3mm程度が好ましい。この厚みがあまり薄すぎると、陽極室5aと陰極室5cの圧力差や、押しつけ圧力により電極2に変形が生じ、例えば電極2端部が落ち込み、極間距離が広がり電圧が高くなる場合がある。
【0095】
−電極室−
本実施形態における複極式電解槽50では、
図6〜
図9に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
【0096】
本実施形態においては、複極式電解槽のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー10I型及び外部ヘッダー10O型を採用できるところ、例えば、図示の例の場合、陽極2a及び陰極2c自身が占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。また、特に、気液分離ボックスが設けられている場合、気液分離ボックスが占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。
【0097】
−整流板−
本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50では、隔壁1に整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)が取り付けられ、整流板6が電極2と物理的に接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、整流板6が電極2の支持体となり、ゼロギャップ構造Zを維持しやすい。
ここで、整流板6に、電極2が設けられていてもよく、整流板6に、集電体2r、導電性弾性体2e、電極2がこの順に設けられていてもよい。
前述の一例のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて、整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2の順に重ね合わせられた構造が採用され、陽極室5aにおいて、整流板6−電極2の順に重ね合わせられた構造が採用されている。
【0098】
なお、前述の一例のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて上記「整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2」の構造が採用され、陽極室5aにおいて上記「整流板6−電極2」の構造が採用されているが、本発明ではこれに限定されることなく、陽極室5aにおいても「整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2」構造が採用されてもよい。
【0099】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)には、陽極2a又は陰極2cを支える役割だけでなく、電流を隔壁1から陽極2a又は陰極2cへ伝える役割を備えることが好ましい。
【0100】
本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50では、整流板6の少なくとも一部が導電性を備えことが好ましく、整流板6全体が導電性を備えことがさらに好ましい。かかる構成によれば、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制することができる。
【0101】
整流板6の材料としては、一般的に導電性の金属が用いられる。例えば、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、ニッケル等が利用できる。
【0102】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)の長さは、隔壁1のサイズに応じて、適宜に定められてよい。
整流板6の高さは、隔壁1から各フランジ部までの距離、ガスケット7の厚さ、電極2(陽極2a、陰極2c)の厚さ、陽極2aと陰極2cとの間の距離等に応じて、適宜に定められてよい。
また、整流板6の厚みは、コストや製作性、強度等も考慮して、0.5mm〜5mmとしてよく、1mm〜2mmのものが用いやすいが、特に限定されない。
【0103】
電極2や集電体2rの整流板6への取り付けは、通常スポット溶接で行われるが、その他のレーザー溶接等による方法でもよく、更にはワイヤーやひも状の部材を用い、結びつけて密着させる方法でもよい。整流板6は、陽極2a又は陰極2cと同様に、スポット溶接、レーザー溶接等の手段で隔壁1に固定されている。
【0104】
−ガスケット−
本実施形態のアルカリ水電解システム70の複極式電解槽50では、隔壁1を縁取る外枠3同士の間に隔膜4を有するガスケット7が挟持されることが好ましい。
ガスケット7は、複極式エレメント60と隔膜4の間、複極式エレメント60間を電解液と発生ガスに対してシールするために使用され、電解液や発生ガスの電解槽外への漏れや両極室間におけるガス混合を防ぐことができる。
【0105】
ガスケット7の一般的な構造としては、エレメントの枠体に接する面に合わせて、電極面をくり抜いた四角形状又は環状である。このようなガスケット2枚で隔膜4を挟み込む形でエレメント間に隔膜4をスタックさせることができる。さらに、ガスケット7は、隔膜4を保持できるように、隔膜4を収容することが可能なスリット部を備え、収容された隔壁1がガスケット7両表面に露出することを可能にする開口部を備えることも好ましい。これにより、ガスケット7は、隔膜4の縁部をスリット部内に収容し、隔膜4の縁部の端面を覆う構造がとれる。したがって、隔膜4の端面から電解液やガスが漏れることをより確実に防止できる。
【0106】
また、ガスケット7の何れか一方の面から突出する突出部を設けることが好ましい。このような突出部を設けることにより、スタック時に突出部が局所的に押圧され、突出部に対応する位置においてスリット部に収容された隔膜4がガスケット7により押圧される。したがって、ガスケット7では、隔膜4をより強固に保持することができ、電解液やガスが漏れることをより防止しやすくなる。
【0107】
ガスケット7の材質としては、特に制限されるものではなく、絶縁性を有する公知のゴム材料や樹脂材料等を選択することができる。
ゴム材料や樹脂材料としては、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン−プロピレンゴム(EPT)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン−イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂材料や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール等の樹脂材料を用いることができる。これらの中でも、弾性率や耐アルカリ性の観点でエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)が特に好適である。
【0108】
ガスケット7は、補強材が埋設されていてもよい。これにより、スタック時に枠体に挟まれて押圧されたときに、ガスケット7が潰れることを抑制でき、破損を防止し易くできる。
このような補強材は公知の金属材料、樹脂材料及び炭素材料等が使用でき、具体的には、ニッケル、ステンレス等の金属、ナイロン、ポリプロピレン、PVDF、PTFE、PPS等の樹脂、カーボン粒子や炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。
補強材の形状としては、織布、不織布、短繊維、多孔膜等の形状のものが好適である。さらに、ガスケット7の表面に保護層が設けられていてもよい。これにより、ガスケット7とエレメント間の密着性を向上させることや、ガスケット7の耐アルカリ性を向上させることもできる。このような保護層の材質としても、ガスケット7の材質の中から選択できる。
【0109】
ガスケット7を複極式エレメント60に取り付ける際に、接着剤を使用してもよい。ガスケット7の片面に接着剤を塗布し、エレメントの片側の外枠3に貼り付けることができる。なお、接着剤を乾燥させた後、複極式エレメント60の電極面に水をかけ、電極2を湿らせておくことが好ましい。隔膜4を保持できるように、隔膜4の縁部を収容するスリット部を設けたガスケット7の場合は、隔膜4を保持した状態で貼り付けてもよいし、貼り付けた後に隔膜4を保持させてもよい。
【0110】
−ヘッダー−
アルカリ水電解システム70の複極式電解槽50は、電解セル65毎に、陰極室5c、陽極室5aを有する。電解槽50で、電気分解反応を連続的に行うためには、各電解セル65の陰極室5cと陽極室5aとに電気分解によって消費される原料を十分に含んだ電解液を供給し続ける必要がある。
【0111】
電解セル65は、複数の電解セル65に共通するヘッダー10と呼ばれる電解液の給排配管と繋がっている。一般に、陽極用配液管は陽極入口ヘッダー10ai、陰極用配液管は陰極入口ヘッダー10ci、陽極用集液管は陽極出口ヘッダー10ao、陰極用集液管は陰極出口ヘッダー10coと呼ばれる。電解セル65はホース等を通じて各電極用配液管及び各電極用集液管と繋がっている。
【0112】
ヘッダー10の材質は特に限定されないが、使用する電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうるものを採用する必要がある。ヘッダー10の材質に、鉄、ニッケル、コバルト、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用しても良い。
【0113】
本実施形態において、電極室5の範囲は、隔壁1の外端に設けられる外枠3の詳細構造により、変動するところ、外枠3の詳細構造は、外枠3に取り付けられるヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)の配設態様により異なることがある。複極式電解槽50のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー10I型及び外部ヘッダー10O型が代表的である。
【0114】
−内部ヘッダー−
内部ヘッダー10I型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが一体化されている形式をいう。
【0115】
内部ヘッダー10I型複極式電解槽50では、より具体的には、陽極入口ヘッダー10Iai及び陰極入口ヘッダー10Iciが、隔壁1内及び/又は外枠3内の下部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられ、また、陽極出口ヘッダー10Iao及び陰極出口ヘッダー10Icoが、隔壁1内及び/又は外枠3内の上部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられる。
【0116】
内部ヘッダー10I型複極式電解槽50が内在的に有する、陽極入口ヘッダー10Iaiと、陰極入口ヘッダー10Iciと、陽極出口ヘッダー10Iaoと、陰極出口ヘッダー10Icoを総称して、内部ヘッダー10Iと呼ぶ。
【0117】
内部ヘッダー10I型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分の一部に、陽極入口ヘッダー10Iaiと陰極入口ヘッダー10Iciとを備えており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分の一部に、陽極出口ヘッダー10Iaoと陰極出口ヘッダー10Icoとを備えている。
【0118】
−外部ヘッダー−
外部ヘッダー10O型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが独立している形式をいう。
【0119】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50は、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociとが、電解セル65の通電面に対し、垂直方向に、電解槽50と並走する形で、独立して設けられる。この陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociと、各電解セル65が、ホースで接続される。
【0120】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50に外在的に接続される、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociと、陽極出口ヘッダー10Oaoと、陰極出口ヘッダー10Ocoを総称して、外部ヘッダー10Oと呼ぶ。
外部ヘッダー10O型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材が設置され、管腔状部材が、陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociに接続されており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材(例えば、ホースやチューブ等)が設置され、かかる管腔状部材が、陽極出口ヘッダー10Oao及び陰極出口ヘッダー10Ocoに接続されている。
【0121】
なお、内部ヘッダー10I型及び外部ヘッダー10O型の複極式電解槽50において、その内部に電解によって発生した気体と、電解液を分離する気液分離ボックスを有してもよい。気液分離ボックスの取付位置は、特に限定されないが、陽極室5aと陽極出口ヘッダー10aoとの間や、陰極室5cと陰極出口ヘッダー10coとの間に取付けられてもよい。
【0122】
気液分離ボックスの表面は、電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうる材質のコーティング材料で、被覆されていても良い。コーティング材料の材質は、電解槽内部での漏洩電流回路の電気抵抗を大きくする目的で、絶縁性のものを採用してもよい。コーティング材料の材質に、EPDM、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用してもよい。
【0123】
(アルカリ水電解システム)
図1に、本実施形態のアルカリ水電解システムの一例の概要を示す。
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、例えば、
図1に示すように、電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72(水素分離タンク72h、酸素分離タンク72o)と、電解により消費した水を補給するための水補給器73とを有する。
【0124】
本実施形態のアルカリ水電解システム70によれば、再生可能エネルギー等の変動電源での運転時に、電力供給を停止した際に生じる自己放電を低減して、電気制御システムの安定化が可能となる。
【0125】
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、電極室5を有する電解槽50を備え、電極室5に印可される電流密度に応じて電解液の循環流量を制御する制御部91を備えている。
【0126】
そして、制御部91が、電極室5に電解液を配液する配液管20i(20ai,20ci)に取り付けられたインバーターから選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。制御部91としては、上記以外に、ポンプのON/OFF制御装置としてもよい。
【0127】
本実施形態では、電流密度が小さいほど循環流量を少なくすることが好ましい。また、電流密度が大きいほど循環流量を多くすることが好ましい。これにより、ガス純度の低下及び運転温度の過昇温を抑制する事が出来、再生可能エネルギーのように、変動が激しい電源下でも、水電解システムの安定的な運転が可能である。
循環流量の電流密度に対する割合としては、1×10
6m
5/C〜1×10
9m
5/Cにすることが好ましい。
【0128】
また、アルカリ水電解システム70は、さらに、電力供給の停止を検知する検知器、及び、送液ポンプを自動停止する制御器を備えることが好ましい。検知器及び制御器を備えることで、再生可能エネルギーのように、変動が激しい電源下でも、人為的操作なしに、ガス純度の低下を効率的に低減することができる。
【0129】
また、アルカリ水電解システム70は、陰極室を備える電解槽と、該陰極室と水素導入管により電解液通過方向の上流側で接続された、前記陰極室に導入する水素ガスを貯留する水素タンクと、を備えることが好ましい。
【0130】
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、
図1に示す一例のように、電解槽50に水素分離タンク72hと連通するように接続された水素ガスライン100hと、電解槽50に酸素分離タンク72oと連通するように接続された酸素ガスライン100oとを有するものである。
【0131】
そして、一例のアルカリ水電解システム70には、
図1に示すような配置で、水素ガスライン100h及び酸素ガスライン100oの少なくとも一方に、ガス濃度計(酸素濃度計(酸素ガス中水素濃度計)O
2I、水素濃度計(水素ガス中酸素濃度計)H
2I)、圧力計PI、温度計TI、水素ガスライン100hに直列に設けられる圧力制御弁PV1、酸素ガスライン100oに直列に設けられる圧力制御弁PV2、圧力制御弁(バルブ)80〜87が設けられている。
【0132】
図1の一例では、酸素分離タンク72oから出て、ラインに対して直列に接続されたミストセパレーター90及び圧力制御弁PV2を経由してシールポット92に至るラインが設けられている。ここで、この例では、酸素分離タンク72oから出て、ラインに対して並列に接続された酸素濃度計(酸素ガス中水素濃度計)O
2Iを経由してシールポット92に至るバイパスも設けられている。そして、
図1に示すように、上記ラインとバイパスとはガス冷却器91を経由する形で接続されている。
同様に、
図1の一例では、水素分離タンク72hから出て、ラインに対して直列に接続されたミストセパレーター90及び圧力制御弁PV1を経由してシールポット92に至るラインが設けられている。ここで、この例では、水素分離タンク72hから出て、ラインに対して並列に接続された水素濃度計(水素ガス中酸素濃度計)H
2Iを経由してシールポット92に至るバイパスも設けられている。そして、
図1に示すように、上記ラインとバイパスとはガス冷却器91を経由する形で接続されている。
【0133】
また、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、さらに、圧力制御弁80〜87の開度を調整する機構(図示せず)を有しても良い。かかる構成によれば、水素ガスライン100hの圧力と酸素ガスライン100oの圧力との差圧をより正確に一定に保つことが可能になる。
【0134】
図1に示す一例のアルカリ水電解システム70では、ガス濃度計が圧力制御弁と並列なライン配置をとれるようにすることで、濃度計の上流側と下流側とに生じている圧力差を利用してガス濃度を測定することが可能となるため、ガス濃度計のために使用するポンプが不要となるというメリットがある。
【0135】
また、
図1に示す一例のアルカリ水電解システム70では、酸素濃度計(酸素ガス中水素濃度計)O
2Iが、酸素ガスライン100oに直列に設けられる圧力制御弁PV2と並列に配置され、且つ、酸素濃度計O
2Iのラインに、圧力及び/又は流量を制御可能な機構(図示せず)が設けられている。
一例のアルカリ水電解システム70では、水素濃度計(水素ガス中酸素濃度計)H
2Iが、水素ガスライン100hに直列に設けられる圧力制御弁PV1と並列に配置され、且つ、水素濃度計H
2Iのラインに、圧力及び/又は流量を制御可能な機構(図示せず)が設けられている。
ここで、上記のガス濃度計ラインの流量等を制御可能な機構は、手動のものであっても自動のものであってもよい。
【0136】
図2に、本実施形態のアルカリ水電解システムの一例の概要を部分的に示す。なお、
図2では、システムの酸素ガスライン100o側のみについて示している。
以下では、
図1に示す一例のアルカリ水電解システム70と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図2に示すアルカリ水電解システム70では、ガス濃度計(
図2では、特に、酸素濃度計O
2I)が、圧力制御弁(
図2では、特に、圧力制御弁PV2)と並列に配置されている。より具体的には、酸素濃度計O
2Iは、取込側が酸素分離タンク72oと圧力制御弁PV2との間に、排出側が圧力制御弁PV2とシールポット92との間に、配置されている。
この例の場合、上述のガス濃度計のために使用するポンプが不要となるというメリットを得ることができる。
【0137】
図3に、本実施形態のアルカリ水電解システムの別の例の概要を部分的に示す。なお、
図3では、システムの酸素ガスライン100o側のみについて示している。
以下では、
図1に示す一例のアルカリ水電解システム70と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図3に示すアルカリ水電解システム70では、ガス濃度計(
図3では、特に、酸素濃度計O
2I)が、圧力制御弁(
図2では、特に、圧力制御弁PV2)の上流側に配置されている。より具体的には、酸素濃度計O
2Iは、酸素分離タンク72oと圧力制御弁PV2との間に配置されている。この例の場合、ポンプ等を用いて酸素濃度計O
2Iにガスをフローさせることが好ましい。
【0138】
図3に示す別の例のアルカリ水電解システム70では、電解槽50と圧力制御弁との間にガス濃度計を配置するので、常時濃度を測定することが可能であり、圧力低下も防ぐことができる。
【0139】
図4に、本実施形態のアルカリ水電解システムの更なる例の概要を部分的に示す。なお、
図4では、システムの酸素ガスライン100o側のみについて示している。
以下では、
図1に示す一例のアルカリ水電解システム70と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図4に示す本実施形態のアルカリ水電解システム70は、ガス濃度計(
図4では、特に、酸素濃度計O
2I)が、圧力制御弁(
図4では、特に、圧力制御弁PV2)の下流側に配置されている。より具体的には、酸素濃度計O
2Iは、圧力制御弁PV2とシールポット92の間に配置されている。この例の場合、ポンプ等を用いて酸素濃度計O
2Iにガスをフローさせることが好ましい。
【0140】
以下、本実施形態のアルカリ水電解システム70の構成要素について説明する。
【0141】
−送液ポンプ−
本実施形態において用いられる送液ポンプ71としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
【0142】
−気液分離タンク−
本実施形態において用いられる気液分離タンク72は、電解液と水素ガスとを分離する水素分離タンク72hと、電解液と酸素ガスとを分離する酸素分離タンク72oとを含む。
水素分離タンク72hは陰極室5cに接続され、酸素分離タンク72oは陽極室5aに接続されて用いられる。
【0143】
アルカリ水電解システムの気液分離タンク72は、陽極室5a用に用いられる酸素分離タンク72oと、陰極室5cに用に用いられる水素分離タンク72hの二つが備えられる。
【0144】
陽極室5a用の気液分離タンク72は、陽極室5aで発生した酸素ガスと電解液を分離し、陰極室5c用の気液分離タンク72は、陰極室5cで発生した水素ガスと電解液を分離する。
【0145】
電解セル65から電解液と発生ガスが混合した状態で排出されたものを、気液分離タンク72に流入させる。気液分離が適切に行われなかった場合は、陰極室5cと陽極室5aの電解液が混合したときに、酸素ガス、水素ガスが混合されてしまい、ガスの純度が低下する。最悪の場合、爆鳴気を形成してしまう危険性がある。
【0146】
気液分離タンク72に流入したガスと電解液は、ガスはタンク上層の気相へ、電解液はタンク下層の液相に分かれる。気液分離タンク72内での電解液の線束と、発生したガス気泡の浮遊する速度と、気液分離タンク72内の滞留時間によって、気液分離の度合いが決まる。
【0147】
ガスが分離された後の電解液は、タンク下方の流出口から流出し、電解セル65に再び流入することで循環経路を形成する。タンク上方の排出口から排出された酸素、及び水素ガスは、いずれもアルカリミストを含んだ状態であるため、排出口の下流に、ミストセパレーターや、クーラー等の、余剰ミストを液化し気液分離タンク72に戻すことが可能な装置を取り付けることが好ましい。
【0148】
気液分離タンク72には、内部に貯留する電解液の液面高さを把握するために、液面計を備えることも可能である。
【0149】
また、前記気液分離タンク72は、圧力解放弁を備えることが好ましい。これにより電解で発生するガスによる圧力の上昇を受けても、設計圧力を超えた場合、安全に圧力を下げることが可能となる。
【0150】
気液分離タンク72への流入口は、気液分離性を向上させる上で、電解液面よりも上面に位置することが好ましいが、これに限定されるものではない。
循環停止時の電解槽中の液面の低下を防ぐ目的で、気液分離タンク72内の電解液面を電解槽上面よりも高いことが好ましいが、これに限定されるものではない。
電解セル65と気液分離タンク72との間に遮断弁を付けることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0151】
−水補給器−
本実施形態において用いられる水補給器73としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
水としては、一般上水を使用してもよいが、長期間に渡る運転を考慮した場合、イオン交換水、RO水、超純水等を使用することが好ましい。
【0152】
−その他−
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、電解槽50、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器、圧力制御弁80を備えてよい。
【0153】
また、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、さらに、電力供給の停止を検知する検知器、及び、送液ポンプを自動停止する制御器を備えることが好ましい。検知器及び制御器を備えることで、再生可能エネルギーのように、変動が激しい電力源下でも、人為的な操作なしに、自己放電の影響を効率的に低減することが可能になる。
【0154】
(アルカリ水電解方法)
本実施形態のアルカリ水電解方法は、本実施形態のアルカリ水電解システム70を用いて、実施することができる。
【0155】
本実施形態のアルカリ水電解方法は、電解停止時に圧力制御弁が全閉となるように制御するものとしてよい。
かかる方法によれば、電解停止時の圧力の漏れや、電解液温度低下によるガス圧力の低下や、陽極室側と陰極室側との差圧の増大を防ぎ、ガス純度の低下を抑制することが可能となる。
【0156】
ここで、電解停止時とは、通電させる電流が0(ゼロ)になった時点、及び当該時点から30秒後までの間をいい、当該時点から10秒後までの間とすることが好ましい。
【0157】
本実施形態では、水素ガスラインの圧力計及び酸素ガスラインの圧力計の圧力データを得て、かかる圧力データに基づいて圧力制御弁を制御することにより、電解停止中における水素ガスラインの圧力と酸素ガスラインの圧力との差を調整してよい。
電解停止中における水素ガスラインの圧力と酸素ガスラインの圧力との差(陰極室側圧力−陽極室側圧力)としては、−10〜10kPaであることが好ましく、−5〜5kPaであることがより好ましい。
【0158】
以下に、本実施形態のアルカリ水電解方法の好適な条件を記載する。
【0159】
本実施形態において用いられる電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、20質量%〜50質量%が好ましく、25質量%〜40質量%がより好ましい。
本実施形態では、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%〜40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
【0160】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65内にある電解液の温度が80℃〜130℃であることが好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット7、隔膜4等の電解装置70の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
電解液の温度は、85℃〜125℃であることがさらに好ましく、90℃〜115℃であることが特に好ましい。
【0161】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65に与える電流密度としては、0.05kA/m
2〜20kA/m
2であることが好ましく、4kA/m
2〜20kA/m
2であることがさらに好ましく、6kA/m
2〜15kA/m
2であることが特に好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
【0162】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65内の圧力としては、3kPa〜1000kPaであることが好ましく、3kPa〜300kPaであることがさらに好ましい。
【0163】
本実施形態では、前述のアルカリ水電解システム70の構成要素を用いて、例えば、
図1に示すような構成のアルカリ水電解システム70を作製することができるが、これに限定されるものではない。
【0164】
また、本実施形態では、電解槽50への電力供給の停止時に、送液ポンプ71を停止することで、出口ホース内の電解液の流れを停止することが好ましい。出口ホース内の電解液の流れを停止することで、電解液の自重によって電解液が出口ヘッダーに流れ落ちるため、出口ホース内に絶縁性のガス層が形成される。これにより、出口ホースの液抵抗が無限に増大するため、出口ホースにリーク電流がほぼ流れなくなる。その結果、自己放電の影響を低減することが可能になる。
【0165】
本実施形態のアルカリ水電解方法は、太陽光や風力等の変動電源を使用することによって、上述の効果が顕著になる。
【0166】
(水素製造方法)
本実施形態の水素製造方法は、アルカリを含有する水を電解槽により水電解し、水素を製造するものであり、本実施形態の水電解システム、本実施形態の水電解方法を用いて実施されてよい。
【0167】
本実施形態では、システムは、電解槽に接続された水素ガスラインと酸素ガスラインとを有していてよい。
また、システムには、水素ガスライン及び酸素ガスラインの少なくとも一方に、ガス濃度計、圧力計、及び圧力制御弁が設けられていてよい。
【0168】
ここで、本実施形態では、水素ガスラインの圧力計及び酸素ガスラインの圧力計の圧力データを得て、かかる圧力データに基づいて圧力制御弁を制御することにより、電解停止中における水素ガスラインの圧力と酸素ガスラインの圧力との差を調整してよい。
【0169】
本実施形態の水電解システムの詳細、本実施形態の水電解方法の詳細は、前述のとおりである。
【0170】
以下、本発明の第二の課題を解決するための第二の実施形態について記載する。
下記第二の実施形態は、上記第一の実施形態や下記第三の実施形態と適宜組み合わせられてもよい。
【0171】
図10に、本実施形態のアルカリ水電解システムの概要を示す。
【0172】
(アルカリ水電解システム)
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、電極室5を有する電解槽50を備え、電極室5に印加される電流密度に応じて電解液の循環流量を制御する制御部91を備えている。
【0173】
また、本実施形態のアルカリ水電解システム70は、電解液と水素ガスとを分離する水素分離タンク72hと、電解液と酸素ガスとを分離する酸素分離タンク72oとに接続された合流管90をさらに備える。
【0174】
そして、制御部91が、電極室5に電解液を配液する配液管20i(20ai、20ci)に取り付けられた自動制御弁(図示せず)、電解液を循環させるための送液ポンプに取り付けられたインバーター(図示せず)から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
また、電解槽50と電解液を配液又は集液する管であるヘッダー10とが一体化されており、ヘッダー10が、電解槽50の隔壁1内及び/又は電解槽50の外枠3内の下部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられていることが好ましい。
さらに、電極室5で陽極室5aと陰極室5cとを隔離する隔膜4がポリスルホンを含むことが好ましい。
【0175】
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、例えば、
図10に示すように、電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72(水素分離タンク72h、酸素分離タンク72o)と、電解により消費した水を補給するための水補給器73とを有する。
【0176】
(アルカリ水電解方法)
本実施形態のアルカリ水電解方法は、本実施形態のアルカリ水電解システム70を用いて、実施することができる。
【0177】
本実施形態のアルカリ水電解方法は、電極室5に印加される電流密度に応じて電解液の循環流量を制御し、ここで、水素分離タンク72hから吐出された電解液と、酸素分離タンク72oから吐出された電解液とを、合流管90で混合し、電極室5に導入するものである。
【0178】
本実施形態では、電流密度が小さいほど循環流量を小さくすることが好ましい。また、電流密度が大きいほど循環流量を大きくすることが好ましい。
循環流量の電流密度に対する割合としては、1×10
6m
5/C〜1×10
9m
5/Cとすることが好ましい。
【0179】
また、本実施形態では、電解槽50への電力供給の停止時に、送液ポンプ71を停止することで、出口ホース内の電解液の流れを停止することが好ましい。出口ホース内の電解液の流れを停止することで、電解液の自重によって電解液が出口ヘッダーに流れ落ちるため、出口ホース内に絶縁性のガス層が形成される。これにより、出口ホースの液抵抗が無限に増大するため、出口ホースにリーク電流がほぼ流れなくなる。その結果、自己放電の影響を低減することが可能になる。
【0180】
本実施形態のアルカリ水電解方法は、太陽光や風力等の変動電源を使用することによって、上述の効果が顕著になる。
【0181】
以下、本発明の第三の課題を解決するための第三の実施形態について記載する。
下記第三の実施形態は、上記第一の実施形態や上記第二の実施形態と適宜組み合わせられてもよい。
【0182】
図11に、本実施形態のアルカリ水電解システムの概要を示す。
【0183】
(アルカリ水電解システム)
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、第一の態様では、陰極室5cを備える電解槽50と、陰極室5cと水素導入管84hにより電解液通過方向D1の上流側で接続された、陰極室5cに導入する水素ガスを貯留する水素タンク81h’と、を備えるアルカリ水電解システムである。
【0184】
そして、第一の態様では、陰極室5cに電解液を配液する配液管(20Oci)をさらに備え、該配液管(20Oci)が水素導入管84hを兼ねることが好ましい。
また、陰極室5cと水素導出管85hにより電解液通過方向D1の下流側で接続された、陰極室5cで発生する水素ガスを貯留する水素タンク81hをさらに備え、該水素タンク81hが陰極室5cに導入する水素ガスを貯留する水素タンク81h’を兼ねることが好ましい。
ここで、水素導入管84hが制御弁(図示せず)を有することが好ましい。
【0185】
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、第二の態様では、陽極室5aを備える電解槽と、陽極室5aと酸素導入管84oにより電解液通過方向D1の上流側で接続された、陽極室5aに導入する酸素ガスを貯留する酸素タンク81o’と、を備えるアルカリ水電解システムである。
【0186】
そして、第二の態様では、陽極室5aに電解液を配液する配液管(20Oai)をさらに備え、該配液管(20Oai)が酸素導入管84oを兼ねることが好ましい。
また、陽極室5aと酸素導出管85oにより電解液通過方向D1の下流側で接続された、陽極室5aで発生する酸素ガスを貯留する酸素タンク81oをさらに備え、該酸素タンク81oが陽極室5aに導入する酸素ガスを貯留する酸素タンク81o’を兼ねることが好ましい。
ここで、酸素導入管84oが制御弁(図示せず)を有することが好ましい。
【0187】
本実施形態では、
図11に示すように、アルカリ水電解システム70は、上述の第一の態様及び第二の態様を共に備えることも好ましい。
【0188】
本実施形態のアルカリ水電解システムは、例えば、
図11に示すように、電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72と、電解により消費した水を補給するための水補給器73とを有する。
【0189】
(アルカリ水電解方法)
本実施形態のアルカリ水電解方法は、本実施形態のアルカリ水電解システム70を用いて、実施することができる。
【0190】
本実施形態のアルカリ水電解方法の第一の態様は、本実施形態のアルカリ水電解システム70を用いて、電解停止時に水素導入管84hを介した陰極室5cへの水素ガスの導入を行うものである。
【0191】
また、第一の態様では、電解停止時に電流の低下を自動検出し、電流の低下の後に水素ガスの導入を開始することが好ましい。自動検出には、例えば、ホール素子方式等の非接触型の電流センサーやシャント抵抗を用いてよい。
【0192】
さらに、第一の態様では、水素ガスを0.000001〜1m
3/m
2/時間で導入することが好ましく、0.0001〜0.5m
3/m
2/時間で導入することがさらに好ましい。
【0193】
本実施形態のアルカリ水電解方法の第二の態様は、本実施形態のアルカリ水電解システム70を用いて、電解停止時に酸素導入管84oを介した陽極室5aへの酸素ガスの導入を行うものである。
【0194】
また、第二の態様では、電解停止時に電流の低下を自動検出し、電流の低下の後に酸素ガスの導入を開始することが好ましい。自動検出には、例えば、ホール素子方式等の非接触型の電流センサーやシャント抵抗を用いてよい。
【0195】
さらに、第二の態様では、酸素ガスを0.000001〜1m
3/m
2/時間で導入することが好ましく、0.0001〜0.5m
3/m
2/時間で導入することがさらに好ましい。
【0196】
本実施形態のアルカリ水電解システム70は、上述の第一の態様と第二の態様とを併せて備えていてもよい。
【0197】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態の水電解システム、水電解方法、水素製造方法について例示説明したが、本発明の水電解システム、水電解方法、水素製造方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0198】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0199】
以下、
参考例A及び比較例Aについて記載する。
【0200】
複極式エレメント及びそれを用いたアルカリ水電解用電解装置は、下記のとおり作製した。
【0201】
−隔壁、外枠−
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と、隔壁を取り囲む外枠と、を備えたものを用いた。隔壁及び複極式エレメントのフレーム等の電解液に接液する部材の材料は、全てニッケルとした。
【0202】
−陽極−
陽極としては、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用い、酸化ニッケルの造粒物をプラズマ溶射法によって導電性基材の両面に吹き付けて製作した。
【0203】
−陰極−
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュの目開きで編んだ平織メッシュ基材上に白金を担持したものを用いた。
【0204】
−隔膜−
酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)とN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)を、粒径0.5mmのSUSボールが入ったボールミルポットに投入した。これらを回転数70rpmで3時間攪拌して、分散させて混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス製のざる(網目30メッシュ)により濾過し、混合物からボールを分離した。ボールを分離した混合物にポリスルホン(「ユーデル」(商標)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)を加え、スリーワンモータを用いて12時間攪拌して溶解させ、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン:15質量部
ポリビニルピロリドン:6質量部
N−メチル−2−ピロリドン:70質量部
酸化ジルコニウム:45質量部
【0205】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、糸径150μm)の両表面に対して、コンマコータを用いて塗工厚みが各面150μmとなるよう塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を、30℃の純水/イソプロパノール混合液(和光純薬工業社製、純水/イソプロパノール=50/50(v/v))を溜めた凝固浴の蒸気下へ晒した。その後直ちに、塗工液を塗工した基材を、凝固浴中へ浸漬した。そして、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。
この多孔膜を隔膜Aとした。
【0206】
陰極Aを、切断加工により、50cm角(縦50cm×横50cm)に調整し、陰極サンプルAとした。
陽極Aを、切断加工により、50cm角(縦50cm×横50cm)に調整し、陽極サンプルAとした。
隔膜Aを、切断加工により、52cm角(縦52cm×横52cm)に調整し、隔膜サンプルAとした。
【0207】
−ゼロギャップ構造−
複極式エレメントを隔膜を保持したガスケットを介してスタックさせ、複極式電解槽を組み立てることによって、陰極サンプルAと陽極サンプルAとを隔膜の両側から押し付けて接触させ、ゼロギャップ構造を形成した。
陽極側では陽極サンプルAのみを用い、陰極側は「陰極−導電性弾性体−集電体」の組み合わせからなる陰極サンプルAを用いた。
陽極サンプルとしては、前述のものを用いた。集電体として、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用いた。基材の厚みは1mmであり、開口率は54%であった。
【0208】
−複極式電解槽、複極式エレメント−
複極式エレメントを9個使用し、
図5に示すように、一方の端側で、ファストヘッド、絶縁板、陽極ターミナルユニットを配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分、複極式エレメントをこの順に並べたものを9組配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分を配置し、もう一方の端側で、陰極ターミナルユニット、絶縁板、ルーズヘッドを配列し、その後、これらをファストヘッド及びルーズヘッドの両側からガスケットのシール面圧で2450kN/m
2で締め付けることでスタックし、複極式電解槽を組み立てた。
この
参考例Aにおいては、陰極室及び陽極室が、それぞれ10室ある10対の直列接続構造を有していた。
【0209】
−ガスケット−
ガスケットとして、EPDMゴムを材質とし、100%変形時の弾性率が4.0MPaであり、厚みが4.0mmであるものを用いた。
【0210】
−ヘッダー、導管−
内部ヘッダー10I型の複極式エレメント60を採用した。
そして、
図6、
図8に示すように、ヘッダー10(陽極入口ヘッダー10Iai、陰極入口ヘッダー10Ici、陽極出口ヘッダー10Iao、陰極出口ヘッダー10Ico)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1の側方の2辺に対して平行に延びるように(隔壁1の上方の辺及び下方の辺に対して直交して延びるように)、配置した。
また、
図6、
図8に示すように、導管20(陽極用配液管20Iai、陰極用配液管20Ici、陽極用集液管20Iao、陰極用集液管20Ico)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1に垂直な方向に延びるように、配置した。
こうして、内部ヘッダー10I型の電解槽を作製した。
陰極入口ヘッダー10Iciを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダー10Icoを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダー10Iaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダー10Icoを介して、電解液を流した。
図5に示すように、陰極電解液入口5ciは平面視で長方形の外枠の下辺の一方端側に、陰極電解液出口5coは平面視で長方形の外枠3の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、陰極電解液入口5ciと陰極電解液出口5coとを、平面視で長方形の電解室5において電極室5の電極室5の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した。
この
参考例Aの複極式電解槽50では、陽極室5aや陰極室5cの電解液入口5iから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの電解液出口5oから、電解液と生成ガスとが、電解槽50外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口ヘッダー10Icoでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口ヘッダー10Icoでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
【0211】
複極式電解槽は下記のとおりの手順で作製した。
【0212】
陰極サンプルAを複極式フレームの陰極面に取付け、陽極サンプルAを複極式フレームの陽極面に取付けたものを、複極式エレメントとした。また、陰極サンプルAを陰極ターミナルフレームに取付けたものを、陰極ターミナルエレメントとした。陽極サンプルAを陽極ターミナルフレームに取付けたものを、陽極ターミナルエレメントとした。
【0213】
複極式エレメントに取り付けた電極(陽極及び陰極)の面積は、0.25m
2に調整した。また、複極式エレメントの厚さは、0.033mに調整した。また、陰極ターミナルエレメント、陽極ターミナルエレメントの厚みを、0.0125mに調整した。
【0214】
上記複極式エレメントを9個用意した。また、上記陰極ターミナルエレメント、上記陽極ターミナルエレメントを、1個ずつ用意した。
【0215】
全ての複極式エレメントと、陰極ターミナルエレメントと、陽極ターミナルエレメントの、金属フレーム部分にガスケットを貼付けた。
【0216】
陽極ターミナルエレメントと、複極式エレメントの陰極側との間に、隔膜サンプルAを1枚挟み込んだ。9個の複極式エレメントを、隣接する複極式エレメントのうちの一方の陽極側と他方の陰極側とが対向するように、直列に並べ、隣接する複極式エレメントの間に、8枚の隔膜サンプルAを1枚ずつ挟み込んだ。更に、9個目の複極式エレメントの陽極側と、陰極ターミナルエレメントとの間に、隔膜サンプルAを1枚挟み込んだ。これらを、ファストヘッド、絶縁板、ルーズヘッドを用いたうえで、プレス機で締付けたものを、内部ヘッダー型の複極式電解槽とした。
【0217】
送液ポンプ、気液分離タンク、水補給器等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いて、
図1に示すようなアルカリ水電解用電解装置を作製した。
気液分離タンク72によって分離された水素、酸素はミストセパレーター90を通してシールポット92に向けて放出される。途中に、圧力計(PI)、温度計(TI)、および圧力制御弁PVを設けた。
酸素ガス中水素濃度計(H
2I)、水素ガス中酸素濃度計(O
2I)は、それぞれ理研計器社製SD−D58型、SD−1DOX型を用いた。これらの濃度計は、吸引ポンプ(図示せず)によって濃度計センサー部に測定ガスを送気して分析を行った。ガス濃度計は、バルブ80〜83、84〜87を介して気液分離タンク72とシールポット92との間に並列に接続した。また、H
2I、O
2Iの上流側には、ミスト除去を目的として、ガス冷却器であるボルテックスクーラー91を設置した。
【0218】
アルカリ水電解用電解装置を用いたアルカリ水電解方法を、下記の条件で実施した。
【0219】
電解液として、30%KOH水溶液を用いた。
送液ポンプにより、陽極室、酸素分離タンク(陽極用気液分離タンク)、陽極室の循環を、また、陰極室、水素分離タンク(陰極用気液分離タンク)、陰極室の循環を、行った。
【0220】
なお、循環流路として、配管の電解液に接液する部分についてSGP(配管用炭素鋼鋼管)にテフロン(登録商標)ライニング内面処理を施した、20Aの配管を用いた。
【0221】
気液分離タンクは、高さ1400mm、容積1m
3のものを用意した。
気液分離タンクの液量は、それぞれ設計容積の50%程度とした。
【0222】
整流器から複極式電解槽に、各々の陰極及び陽極の面積に対して、0.1kA/m
2と10kA/m
2なるように電流を流した。
参考例A1においては、電極の面積は500mm×500mmであるため、整流器から複極式電解槽に、0.1kA/m
2のときは25A、10kA/m
2のときは、2500Aを通電した。
【0223】
(
参考例A1)
電解槽内の圧力は、陰極側、陽極側をそれぞれ圧力計PI1、PI2で測定し、陰極室側(水素側)圧力が50kPa、陽極室側(酸素側)圧力が49kPaとなるとように調整しながら、8kA/m
2で装置が安定した状況になるまで通電を行った。安定した時点で圧力調整は、それぞれ圧力計の下流に設置した圧力制御弁PV1、PV2により行った。H
2Iは、バルブ80、82を開、81、83を閉とし、O
2Iはバルブ84、86を開、85、87を閉としてガス濃度の測定を行った。模式的には
図2のように配置されていた。
装置の安定後、電流を徐々に低下させ、0Aとし、通電を停止した。
通電停止の時点から、バルブ80、82、84、86を閉じ、15分間隔で30秒間のタイミングでバルブ80、82、84、86を開き、H
2I、O
2Iへガスを通じた。この動作を60分間行った。この時、圧力調整弁は陰極室側を自動で50kPaを維持するように設定し、陽極室側は陰極室側より1kPa低い圧力を自動で維持するように設定した。
60分後の陰極室側圧力は35kPa、陽極室側内圧は34kPa、保持後の陰極室側気液分離タンクの液温は80℃であった。
【0224】
(比較例A1)
参考例A1と同様に2000Aの電流値で装置が安定状態になるまで通電を行った。
装置の安定後、電流を徐々に低下させ、0Aとし、通電を停止した。
通電停止以降も、バルブ80、82、84、86を開いたまま、H
2I、O
2Iへガスを通じさせた。この動作を60分間行った。この時、圧力調整弁は陰極室側を自動で50kPaを維持するように設定し、陽極室側は陰極室側より1kPa低い圧力を自動で維持するように設定した。
60分後の陰極室側圧力は2kPa、陽極室側内圧は1kPa、保持後の陰極室側気液分離タンクの液温は81℃であった。この時、圧力調整弁は、陰極室側、陽極室側ともに開度0%の状態であった。
この後、さらにこの状態を30分継続したところ、陰極室側気液分離タンクの液温が75℃となり、陽極室側の内圧が−1kPaとなった。
【0225】
(
参考例A2)
ヘッダー構造を外部ヘッダー型にした以外は、
参考例A1と同様に複極式電解槽及びアルカリ水電解システムを製作した。
【0226】
−ヘッダー、導管−
図7、
図9に示すように、この
参考例A2の複極式電解槽50では、電解槽50の筐体の外方に、電解液を配液及び集液するための導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)を設けた。更に、この電解槽50では、これらの導管20から電極室5に電解液を通過させるヘッダー10としてのホース(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Oco)を、外部から取り付けた。
ここで、
図4に示すように、ヘッダー10(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Oco)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1の側方から外方に延びるように、配置した。また、
図7、
図9に示すように、導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1に垂直な方向に延びるように、配置した。
こうして、外部ヘッダー10O型の電解槽50を作製した。
陰極入口ヘッダー10Ociを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダー10Ocoを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダー10Oaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダー10Ocoを介して、電解液を流した。
図7、
図9に示すように、入口ホースは平面視で長方形の外枠3の下辺の一方端側に、出口ホースは平面視で長方形の外枠3の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、入口ホースと出口ホースとを、平面視で長方形の電極室5において電極室5の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した。
この
参考例A2の複極式電解槽50では、陽極室5aや陰極室5cの入口ホースから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの出口ホースから、電解液と生成ガスとが、電解槽50外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口ヘッダー10Ocoでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口ヘッダー10Oaoでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
【0227】
電解槽内の圧力は、陰極側、陽極側をそれぞれ圧力計PI1、PI2で測定し、陰極室側圧力が50kPa、陽極室側圧力が49kPaとなるとように調整しながら、8kA/m
2で装置が安定した状況になるまで通電を行った。圧力調整は、それぞれ圧力計の下流に設置した圧力制御弁PV1、PV2により行った。H
2Iは、バルブ80、82を開、81、83を閉とし、O
2Iはバルブ84、86を開、85、87を閉としてガス濃度の測定を行った。模式的には
図2のように配置されていた。
装置の安定後、電流を徐々に低下させ、0Aとし、通電を停止した。
通電停止の時点から、バルブ80、82、84、86を閉じ、15分間隔で30秒間のタイミングでバルブ80、82、84、86を開き、H
2I、O
2Iへガスを通じた。この動作を30分間行った。この時、圧力調整弁は陰極室側を自動で50kPaを維持するように設定し、陽極室側は陰極室側より1kPa低い圧力を自動で維持するように設定した。
30分後の陰極室側圧力は40kPa、陽極室側内圧は39kPa、保持後の陰極室側気液分離タンクの液温は84℃であった。
【0228】
(参考
試験例A1)
参考例A2と同様に複極式電解槽を製作した。
【0229】
電解槽内の圧力は、陰極側、陽極側をそれぞれ圧力計PI1、PI2で測定し、陰極室側圧力が50kPa、陽極室側圧力が49kPaとなるとように調整しながら、8kA/m
2で装置が安定した状況になるまで通電を行った。圧力調整は、それぞれ圧力計の下流に設置した圧力制御弁PV1、PV2により行った。H
2Iは、バルブ80、82を開、81、83を閉とし、O
2Iはバルブ84、86を開、85、87を閉としてガス濃度の測定を行った。
装置の安定後、電流を徐々に低下させ、0Aとし、通電を停止した。
通電停止以降も、バルブ80、82、84、86を開いた状態を維持し、H
2I、O
2Iへガスを通じた。この動作を30分間行った。この時、圧力調整弁は陰極室側を自動で50kPaを維持するように設定し、陽極室側は陰極室側より1kPa低い圧力を自動で維持するように設定した。
30分後の陰極室側圧力は5kPa、陽極室側内圧は4kPa、保持後の陰極室側気液分離タンクの液温は83℃であった。この時、陰極室側、陽極室側の調整弁は共に開度0%であった。
【0230】
(
参考例A3)
陰極室側圧力が30kPa、陽極室側圧力が29kPaとしたこと以外は
参考例A2と同様にして、安定運転後、通電を停止を行った。詳細な条件を表1に示す。30分後の陰極室側の圧力は18kPa、陽極室側の圧力は17kPa、陰極室側の気液分離タンクの液温は83℃であった。
【0231】
(比較例A2)
通電停止以降のガス濃度計へのラインのバルブ80、82、84、86を常時開とした以外は、
参考例A3と同様に安定通電、通電停止を行った。詳細な条件を表1に示す。30分後の内圧は陰極室側、陽極室側とも0kPa、陰極室側気液分離タンクの液温は84℃であった。
【0232】
(
参考例A4)
参考例A1と同様の複極式電解槽を使用し、ガス濃度計へのバルブを、陽極室側80、83を開、81、82を閉、陰極室側84、87を開、85、86を閉とし、通電停止後も、このバルブ状態を維持したこと以外は、
参考例A1と同様にして、安定通電、通電停止を行った。詳細な条件を表1に示す。模式的には
図3のように配置されていた。60分後、陰極室側の圧力は43kPa、陽極室側の圧力は42kPa、陰極室側気液分離タンクの液温は79℃であった。
【0233】
(
参考例A5)
安定通電時の陰極室側圧力を30kPa、陽極室側圧力を29kPaとしたこと以外は、
参考例A4と同様にして、安定通電、通電停止を行った。詳細な条件を表1に示す。60分後、陰極室側の圧力は20kPa、陽極室側の圧力は19kPa、陰極室側気液分離タンクの液温は80℃であった。
【0234】
(
参考例A6)
安定通電時の陰極室側圧力を30kPa、陽極室側圧力を29kPaとしたこと以外は、
参考例A4と同様にして、安定通電、通電停止を行った。詳細な条件を表1に示す。30分後、陰極室側の圧力は24kPa、陽極室側の圧力は23kPa、陰極室側気液分離タンクの液温は82℃であった。
【0235】
(
参考例A7)
参考例A2と同様の複極式電解槽を使用し、ガス濃度計へのバルブを、陽極室側81、82を開、80、83を閉、陰極室側85、86を開、84、87を閉とし、通電停止後も、このバルブ状態を維持し、15分に1回30秒間圧力制御弁を開にする操作を追加すること以外は、
参考例A1と同様にして、安定通電、通電停止を行った。模式的には
図4のように配置されていた。60分後、陰極室側の圧力は35kPa、陽極室側の圧力は34kPa、陰極室側気液分離タンクの液温は83℃であった。
【0236】
(
参考例A8)
保持時間を30分間としたこと以外は、
参考例A7と同様にして、安定通電、通電停止を行った。詳細な条件を表1に示す。30分後、陰極室側の圧力は44kPa、陽極室側の圧力は43kPa、陰極室側気液分離タンクの液温は85℃であった。
【0237】
(
参考例A9)
安定通電時の陰極室側圧力を30kPa、陽極室側圧力を29kPaとしたこと以外は、
参考例A7と同様にして、安定通電、通電停止を行った。詳細な条件を表1に示す。30分後、陰極室側の圧力は18kPa、陽極室側の圧力は17kPa、陰極室側気液分離タンクの液温は84℃であった。
【0238】
(
参考例A10)
参考例A1と同様の複極式電解槽を使用し、表1に示す条件をさらに採用し、後述の参考例B及び参考例Cにおける評価と同様の評価に供した。
【0239】
(
参考例A11)
参考例A1と同様の複極式電解槽を使用し、表1に示す条件をさらに採用し、後述の参考例B及び参考例Cにおける評価と同様の評価に供した。
【0240】
【表1-1】
【表1-2】
【0241】
以下、参考例Bについて記載する。
【0242】
(参考例B1)
複極式エレメント及びそれを用いたアルカリ水電解システムは、下記のとおり作製した。
【0243】
−隔壁、外枠−
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と、隔壁を取り囲む外枠と、を備えたものを用いた。隔壁及び複極式エレメントのフレーム等の電解液に接液する部材の材料は、全てニッケルとした。
【0244】
−陽極−
陽極としては、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用い、酸化ニッケルの造粒物をプラズマ溶射法によって導電性基材の両面に吹き付けて製作した。
【0245】
−陰極−
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュの目開きで編んだ平織メッシュ基材上に白金を担持したものを用いた。
【0246】
−隔膜−
酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)とN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)を、粒径0.5mmのSUSボールが入った容量のボールミルポットに投入した。これらを回転数70rpmで3時間攪拌して、分散させて混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス製のざる(網目30メッシュ)により濾過し、混合物からボールを分離した。ボールを分離した混合物にポリスルホン(「ユーデル」(登録商標)(以下同様)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)を加え、スリーワンモータを用いて12時間攪拌して溶解させ、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン:15質量部
ポリビニルピロリドン:6質量部
N−メチル−2−ピロリドン:70質量部
酸化ジルコニウム:45質量部
【0247】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、糸径150μm)の両表面に対して、コンマコータを用いて塗工厚みが各面150μmとなるよう塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を、30℃の純水/イソプロパノール混合液(和光純薬工業社製、純水/イソプロパノール=50/50(v/v))を溜めた凝固浴の蒸気下へ晒した。その後直ちに、塗工液を塗工した基材を、凝固浴中へ浸漬した。そして、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。
この多孔膜を隔膜Aとした。
【0248】
陰極Aを、切断加工により、50cm角(縦50cm×横50cm)に調整し、陰極サンプルAとした。
陽極Aを、切断加工により、50cm角(縦50cm×横50cm)に調整し、陽極サンプルAとした。
隔膜Aを、切断加工により、52cm角(縦52cm×横52cm)に調整し、隔膜サンプルAとした。
【0249】
−ゼロギャップ構造−
複極式エレメントを隔膜を保持したガスケットを介してスタックさせ、複極式電解槽を組み立てることによって、陰極サンプルAと陽極サンプルAとを隔膜の両側から押し付けて接触させ、ゼロギャップ構造を形成した。
陽極側では陽極サンプルAのみを用い、陰極側は「陰極−導電性弾性体−集電体」の組み合わせからなる陰極サンプルAを用いた。
陽極サンプルとしては、前述のものを用いた。集電体として、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用いた。基材の厚みは1mmであり、開口率は54%であった。陰極としては前述のものを用い、導電性弾性体として、線径0.15mmのニッケル製ワイヤー4本を用いて織物として更に波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。
【0250】
−複極式電解槽、複極式エレメント−
複極式エレメントを9個使用し、
図10に示すように、一方の端側で、ファストヘッド、絶縁板、陽極ターミナルユニットを配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分、複極式エレメントをこの順に並べたものを9組配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分を配置し、もう一方の端側で、陰極ターミナルユニット、絶縁板、ルーズヘッドを配列し、その後、これらをファストヘッド及びルーズヘッドの両側からガスケットのシール面圧で2450kN/m
2で締め付けることでスタックし、複極式電解槽を組み立てた。
この参考例Bにおいては、陰極室及び陽極室が、それぞれ10室ある10対の直列接続構造を有していた。
【0251】
−ガスケット−
ガスケットとして、EPDMゴムを材質とし、100%変形時の弾性率が4.0MPaであり、厚みが4.0mmであるものを用いた。
【0252】
−ヘッダー、導管−
内部ヘッダー10I型の複極式エレメント60を採用した。
そして、
図6、
図8に示すように、ヘッダー10(陽極入口ヘッダー10Iai、陰極入口ヘッダー10Ici、陽極出口ヘッダー10Iao、陰極出口ヘッダー10Ico)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1の側方の2辺に対して平行に延びるように(隔壁1の上方の辺及び下方の辺に対して直交して延びるように)、配置した。
また、
図6、
図8に示すように、導管20(陽極用配液管20Iai、陰極用配液管20Ici、陽極用集液管20Iao、陰極用集液管20Ico)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1に垂直な方向に延びるように、配置した。
こうして、内部ヘッダー10I型の電解槽を作製した。
陰極入口ヘッダー10Iciを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダー10Icoを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダー10Iaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダー10Icoを介して、電解液を流した。
図7に示すように、陰極電解液入口5ciは平面視で長方形の外枠の下辺の一方端側に、陰極電解液出口5coは平面視で長方形の外枠3の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、陰極電解液入口5ciと陰極電解液出口5coとを、平面視で長方形の電解室5において電極室5の電極室5の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した。
この参考例Bの複極式電解槽50では、陽極室5aや陰極室5cの電解液入口5iから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの電解液出口5oから、電解液と生成ガスとが、電解槽50外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口ヘッダー10Icoでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口ヘッダー10Icoでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
【0253】
参考例B1の複極式電解槽は下記のとおりの手順で作製した。
【0254】
陰極サンプルAを複極式フレームの陰極面に取付け、陽極サンプルAを複極式フレームの陽極面に取付けたものを、複極式エレメントとした。また、陰極サンプルAを陰極ターミナルフレームに取付けたものを、陰極ターミナルエレメントとした。陽極サンプルAを陽極ターミナルフレームに取付けたものを、陽極ターミナルエレメントとした。
【0255】
複極式エレメントに取り付けた電極(陽極及び陰極)の面積は、0.25m
2に調整した。また、複極式エレメントの厚さは、0.033mに調整した。また、陰極ターミナルエレメント、陽極ターミナルエレメントの厚みを、0.0125mに調整した。
【0256】
複極式電解槽の電解液供給ヘッダー構造は、内部ヘッダー式を各々用いた。
【0257】
上記複極式エレメントを9個用意した。また、上記陰極ターミナルエレメント、上記陽極ターミナルエレメントを、1個ずつ用意した。
【0258】
全ての複極式エレメントと、陰極ターミナルエレメントと、陽極ターミナルエレメントの、金属フレーム部分にガスケットを貼付けた。
【0259】
陽極ターミナルエレメントと、複極式エレメントの陰極側との間に、隔膜サンプルAを1枚挟み込んだ。9個の複極式エレメントを、隣接する複極式エレメントのうちの一方の陽極側と他方の陰極側とが対向するように、直列に並べ、隣接する複極式エレメントの間に、8枚の隔膜サンプルAを1枚ずつ挟み込んだ。更に、9個目の複極式エレメントの陽極側と、陰極ターミナルエレメントとの間に、隔膜サンプルAを1枚挟み込んだ。これらを、ファストヘッド、絶縁板、ルーズヘッドを用いたうえで、プレス機で締付けたものを、内部ヘッダー型の複極式電解槽とした。
【0260】
送液ポンプ、気液分離タンク、水補給器等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いて、
図10に示すようなアルカリ水電解システムを作製した。
【0261】
アルカリ水電解システムを用いたアルカリ水電解方法を、下記の条件で実施した。
【0262】
電解液として、30%KOH水溶液を用いた。
送液ポンプにより、陽極室、酸素分離タンク(陽極用気液分離タンク)、陽極室の循環を、また、陰極室、水素分離タンク(陰極用気液分離タンク)、陰極室の循環を、行った。
電解液の温度は90℃に調整した。
【0263】
なお、循環流路として、配管の電解液に接液する部分についてSGP(配管用炭素鋼鋼管)にテフロン(登録商標)ライニング内面処理を施した、20Aの配管を用いた。
【0264】
気液分離タンクは、高さ1400mm、容積1m
3のものを用意した。
気液分離タンクの液量は、それぞれ設計容積の50%程度とした。
【0265】
整流器から複極式電解槽に、各々の陰極及び陽極の面積に対して、0.1kA/m
2と10kA/m
2なるように電流を流した。参考例B1においては、電極の面積は500mm×500mmであるため、整流器から複極式電解槽に、0.1kA/m
2のときは25A、10kA/m
2のときは、2500Aを通電した。
【0266】
電解槽内の圧力は、圧力計で測定し、陰極室側圧力が50kPa、陽極室側圧力が49kPaとなるとように調整しながら、電気分解を行った。圧力調整は、圧力計の下流に設置した圧力制御弁により行った。
【0267】
(電解槽の入口側の流量自動制御)
送液ポンプにインバーターを取付け、電流計81で電流値を測定し、測定結果を元に、インバーターによって、流量が0.1kA/m
2のとき0.7L/minに、10kA/m
2のとき7L/minになるように周波数を調整した。
【0268】
(参考例B2)
ヘッダー構造を外部ヘッダー型にした以外は、参考例B1と同様に複極式電解槽及びアルカリ水電解システムを製作した。
【0269】
−ヘッダー、導管−
外部ヘッダー10O型の複極式エレメント60を採用した。
図7、
図9に示すように、この参考例Bの複極式電解槽50では、電解槽50の筐体の外方に、電解液を配液及び集液するための導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)を設けた。更に、この電解槽50では、これらの導管20から電極室5に電解液を通過させるヘッダー10としてのホース(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Oco)を、外部から取り付けた。
ここで、
図7に示すように、ヘッダー10(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Oco)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1の側方から外方に延びるように、配置した。また、
図7に示すように、導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1に垂直な方向に延びるように、配置した。
こうして、外部ヘッダー10O型の電解槽50を作製した。
陰極入口ヘッダー10Ociを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダー10Ocoを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダー10Oaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダー10Ocoを介して、電解液を流した。
図7に示すように、入口ホースは平面視で長方形の外枠3の下辺の一方端側に、出口ホースは平面視で長方形の外枠3の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、入口ホースと出口ホースとを、平面視で長方形の電極室5において電極室5の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した。
この参考例Bの複極式電解槽50では、陽極室5aや陰極室5cの入口ホースから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの出口ホースから、電解液と生成ガスとが、電解槽50外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口ヘッダー10Ocoでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口ヘッダー10Oaoでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
【0270】
(参考例B3)
参考例B1と同様に複極式電解槽を製作した。電解槽入口側で流量自動制御を行わなかった点以外は、参考例B1と同様にアルカリ水電解システムを製作した。
送液ポンプにインバーターを取付け、流量を7L/minになるように周波数を調整した。
【0271】
(参考例B4)
参考例B1と同様に複極式電解槽を製作した。電解槽入口側で流量自動制御を行わなかった点以外は、参考例B1と同様にアルカリ水電解システムを製作した。
送液ポンプにインバーターを取付け、流量を0.7L/minになるように周波数を調整した。
【0272】
(参考例B5)
参考例B2と同様に複極式電解槽を製作した。電解槽入口側で流量自動制御を行わなかった点以外は、参考例B2と同様にアルカリ水電解システムを製作した。
送液ポンプにインバーターを取付け、流量を7L/minになるように周波数を調整した。
【0273】
(参考例B5)
参考例B2と同様に複極式電解槽を製作した。電解槽入口側で流量自動制御を行わなかった点以外は、参考例B2と同様にアルカリ水電解システムを製作した。
送液ポンプにインバーターを取付け、流量を0.7L/minになるように周波数を調整した。
【0274】
参考例Bにおけるアルカリ水電解について下記のとおり評価した。
【0275】
(ガス純度測定)
電流密度0.1kA/m
2で通電を開始して100時間後において、得られた酸素中の水素濃度(H
2/O
2)を測定し、酸素の純度(%)を算出した。また、電流密度10kA/m
2で通電を開始して100時間後においても、得られた酸素中の水素濃度(H
2/O
2)を測定し、酸素の純度(%)を算出した。
【0276】
(電解槽出口側の温度測定)
温度計83で、陽極側及び陰極側の電解槽出口側の温度を各々測定し、電解槽出口側温度(℃)の相加平均値を求めた。
【0277】
参考例Bについての評価結果を表2に示す。
【0278】
【表2】
【0279】
参考例B1は、いずれの電流密度においても電解槽出口側の温度は許容範囲の90℃以下だった。また、ガス純度もいずれの電流密度においても許容範囲の1%以下だった。
【0280】
参考例B2は、いずれの電流密度においても電解槽出口側の温度は許容範囲の90℃以下だった。また、ガス純度いずれの電流密度においても参考例B1よりも若干改善した。
【0281】
参考例B3は、いずれの電流密度においても電解槽出口側の温度は許容範囲の90℃以下だった。0.1kA/m
2で電解時に、ガス純度が許容範囲の1%を超えた。
【0282】
参考例B4は、10kA/m
2で電解時に電解槽出口側の温度が許容範囲の90℃を越えた。ガス純度はいずれの電流密度においても許容範囲の1%以下だった。
【0283】
参考例B5は、いずれの電流密度においても電解槽出口側の温度は許容範囲90℃以下だった。また、0.1kA/m
2で電解時にガス純度が許容範囲の1%を越えた。
【0284】
参考例B6は、10kA/m
2で電解時に電解槽出口側の温度は許容範囲90℃以下だった。また、ガス純度はいずれの電流密度においても許容範囲の1%以下だった。
【0285】
以下、参考例Cについて記載する。
【0286】
(参考例C1)
複極式エレメント及びそれを用いた電解槽並びにそれを用いたアルカリ水電解システムは、下記のとおり作製した。
【0287】
−隔壁、外枠−
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と、隔壁を取り囲む外枠と、を備えたものを用いた。隔壁及び複極式エレメントのフレーム等の電解液に接液する部材の材料は、全てニッケルとした。
【0288】
−陽極−
陽極としては、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用い、酸化ニッケルの造粒物をプラズマ溶射法によって導電性基材の両面に吹き付けて製作した。
【0289】
−陰極−
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュの目開きで編んだ平織メッシュ基材を用いた。重量平均粒径100μm以下のアルミナ粉を用いてブラストし、次に、6Nの塩酸中にて室温で5分間酸処理した後、水洗、乾燥した。
次に、硝酸パラジウム溶液(田中貴金属製、パラジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)とを、パラジウムと白金のモル比が1:1となるように混合し、第一塗布液を調製した。
【0290】
塗布ロールの最下部に上記第一塗布液を入れたバットを設置し、EPDM製の塗布ロールに塗布液をしみこませ、その上部にロールと塗布液とが常に接するようにロールを設置し、さらにその上にPVC製のローラーを設置して、該導電性基材に塗布液を塗布した(ロール法)。塗布液が乾燥する前に手早く、2つのEPDM製スポンジロールの間にこの導電性基材を通過させて、導電性基材のメッシュの交点に溜まる塗布液を吸い取って除いた。その後、50℃で10分間乾燥させて塗布膜を形成した後、マッフル炉を用いて500℃で10分間の加熱焼成を行って該塗布膜を熱分解させた。このロール塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを2回繰り返し、第一層を形成させた。
【0291】
次に、塩化イリジウム酸溶液(田中貴金属製、イリジウム濃度:100g/L)とジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:100g/L)を、イリジウムと白金とのモル比が0.73:0.27となるように混合し、第二塗布液を調製した。第一層と同様にロール法にて第二塗布液を上記第一層が形成された基材上へ、塗布、乾燥及び熱分解を行った。乾燥温度は、50℃、熱分解温度は500℃で2回繰り返し、第二層を形成させた。さらに、空気雰囲気中500℃で1時間の後加熱を行い、陰極Aを作製した。
【0292】
−隔膜−
酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)とN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)を、粒径0.5mmのSUSボールが入った容量ボールミルポットに投入した。これらを回転数70rpmで3時間攪拌して、分散させて混合物を得た。得られた混合物を、ステンレス製のざる(網目30メッシュ)により濾過し、混合物からボールを分離した。ボールを分離した混合物にポリスルホン(「ユーデル」(登録商標)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)を加え、スリーワンモータを用いて12時間攪拌して溶解させ、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン:15質量部
ポリビニルピロリドン:6質量部
N−メチル−2−ピロリドン:70質量部
酸化ジルコニウム:45質量部
【0293】
この塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、糸径150μm)の両表面に対して、コンマコータを用いて塗工厚みが各面150μmとなるよう塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を、30℃の純水/イソプロパノール混合液(和光純薬工業社製、純水/イソプロパノール=50/50(v/v))を溜めた凝固浴の蒸気下へ晒した。その後直ちに、塗工液を塗工した基材を、凝固浴中へ浸漬した。そして、ポリスルホンを凝固させることで基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。
この多孔膜を隔膜Aとした。
【0294】
陰極Aを、切断加工により、50cm角(縦50cm×横50cm)に調整し、陰極サンプルAとした。
陽極Aを、切断加工により、50cm角(縦50cm×横50cm)に調整し、陽極サンプルAとした。
隔膜Aを、切断加工により、52cm角(縦52cm×横52cm)に調整し、隔膜サンプルAとした。
【0295】
−ゼロギャップ構造−
複極式エレメントを隔膜を保持したガスケットを介してスタックさせ、複極式電解槽を組み立てることによって、陰極サンプルAと陽極サンプルAとを隔膜の両側から押し付けて接触させ、ゼロギャップ構造を形成した。
陽極側では陽極サンプルAのみを用い、陰極側は「陰極−導電性弾性体−集電体」の組み合わせからなる陰極サンプルAを用いた。
陽極サンプルとしては、前述のものを用いた。集電体として、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用いた。基材の厚みは1mmであり、開口率は54%であった。陰極としては前述のものを用い、導電性弾性体として、線径0.15mmのニッケル製ワイヤー4本を用いて織物として更に波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。
【0296】
−複極式電解槽、複極式エレメント−
複極式エレメントを9個使用し、
図5に示すように、一方の端側で、ファストヘッド、絶縁板、陽極ターミナルユニットを配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分、複極式エレメントをこの順に並べたものを9組配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分を配置し、もう一方の端側で、陰極ターミナルユニット、絶縁板、ルーズヘッドを配列し、その後、これらをファストヘッド及びルーズヘッドの両側からガスケットのシール面圧で2450kN/m
2で締め付けることでスタックし、複極式電解槽を組み立てた。
この参考例Cにおいては、陰極室及び陽極室が、それぞれ10室ある10対の直列接続構造を有していた。
【0297】
−ガスケット−
ガスケットとして、EPDMゴムを材質とし、100%変形時の弾性率が4.0MPaであり、厚みが4.0mmであるものを用いた。
【0298】
−ヘッダー、導管−
図9に示すように、この参考例Cの複極式電解槽50では、電解槽50の筐体の外方に、電解液を配液及び集液するための導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)を設けた。更に、この電解槽50では、これらの導管20から電極室5に電解液を通過させるヘッダー10としてのホース(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Oco)を、外部から取り付けた。
ここで、
図9に示すように、ヘッダー10(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Oco)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1の側方から外方に延びるように、配置した。また、
図9に示すように、導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1に垂直な方向に延びるように、配置した。
こうして、外部ヘッダー10O型の電解槽50を作製した。
陰極入口ヘッダー10Ociを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダー10Ocoを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダー10Oaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダー10Ocoを介して、電解液を流した。
図9に示すように、入口ホースは平面視で長方形の外枠3の下辺の一方端側に、出口ホースは平面視で長方形の外枠3の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、入口ホースと出口ホースとを、平面視で長方形の電極室5において電極室5の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した。
この参考例Cの複極式電解槽50では、陽極室5aや陰極室5cの入口ホースから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの出口ホースから、電解液と生成ガスとが、電解槽50外へ流出する構造とした。
陰極室5cでは、電解により水素ガスが発生し、陽極室5aでは、電解により酸素ガスが発生するため、前述した、陰極出口ヘッダー10Ocoでは、電解液と水素ガスとの混相流となり、陽極出口ヘッダー10Oaoでは、電解液と酸素ガスとの混相流となった。
【0299】
参考例C1の複極式電解槽は下記のとおりの手順で作製した。
【0300】
陰極サンプルAを複極式フレームの陰極面に取付け、陽極サンプルAを複極式フレームの陽極面に取付けたものを、複極式エレメントとした。また、陰極サンプルAを陰極ターミナルフレームに取付けたものを、陰極ターミナルエレメントとした。陽極サンプルAを陽極ターミナルフレームに取付けたものを、陽極ターミナルエレメントとした。
【0301】
複極式エレメントに取り付けた電極(陽極及び陰極)の面積S1は、0.25m
2に調整した。また、複極式エレメントの厚さdは、0.033mに調整した。また、陰極ターミナルエレメント、陽極ターミナルエレメントの厚みを、0.0125mに調整した。
【0302】
上記複極式エレメントを9個用意した。また、上記陰極ターミナルエレメント、上記陽極ターミナルエレメントを、1個ずつ用意した。
【0303】
全ての複極式エレメントと、陰極ターミナルエレメントと、陽極ターミナルエレメントの、金属フレーム部分にガスケットを貼付けた。
【0304】
陽極ターミナルエレメントと、複極式エレメントの陰極側との間に、隔膜サンプルAを1枚挟み込んだ。9個の複極式エレメントを、隣接する複極式エレメントのうちの一方の陽極側と他方の陰極側とが対向するように、直列に並べ、隣接する複極式エレメントの間に、8枚の隔膜サンプルAを1枚ずつ挟み込んだ。更に、9個目の複極式エレメントの陽極側と、陰極ターミナルエレメントとの間に、隔膜サンプルAを1枚挟み込んだ。これらを、ファストヘッド、絶縁板、ルーズヘッドを用いたうえで、プレス機で締付けたものを、外部ヘッダー型の複極式電解槽とした。
【0305】
送液ポンプ、気液分離タンク、水補給器等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いて、
図11に示すようなアルカリ水電解システムを作製した。
【0306】
アルカリ水電解システムを用いたアルカリ水電解方法を、下記の条件で実施した。
【0307】
電解液として、30%KOH水溶液を用いた。
送液ポンプにより、陽極室、酸素分離タンク(陽極用気液分離タンク)、陽極室の循環を、また、陰極室、水素分離タンク(陰極用気液分離タンク)、陰極室の循環を、行った。
電解液の温度は90℃に調整した。
【0308】
なお、循環流路として、配管の電解液に接液する部分についてSGP(配管用炭素鋼鋼管)にテフロン(登録商標)ライニング内面処理を施した、20Aの配管を用いた。
【0309】
気液分離タンクは、高さ1400mm、容積1m
3のものを用意した。
気液分離タンクの液量は、それぞれ設計容積の50%程度とした。
【0310】
電解槽内の圧力は、圧力計で測定し、陰極室側圧力が50kPa、陽極室側圧力が49kPaとなるとように調整しながら、電気分解を行った。圧力調整は、圧力計の下流に設置した圧力制御弁により行った。
【0311】
(参考例C2)
参考例C1と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入口85から、陰極側に水素ガスの流量が1m
3/m
2/時間になるように制御弁83を調整して、水素ガスを12時間導入し続けた。
【0312】
(参考例C3)
陰極Aを、切断加工により、縦1200cm×横2400cmに調整し、陰極サンプルAとした。
陽極Aを、切断加工により、縦1200cm×横2400cmに調整し、陽極サンプルAとした。
隔膜Aを、切断加工により、縦1202cm×横2402cmに調整し、隔膜サンプルAとした。
それ以外は、参考例C1と同様にアルカリ水電解システムを製作した。
【0313】
(参考例C4)
参考例C4と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入口85から、陰極側に水素ガスの流量が1m
3/m
2/Hrになるように制御弁83を調整して、水素ガスを12時間導入し続けた。
【0314】
(参考例C5)
参考例C1と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入入口85から、陰極側に水素を導入せずに、12時間放置した。
【0315】
(参考例C6)
参考例C1と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入口85から、陰極側に水素ガスの流量が0.0000009m
3/m
2/Hrになるように制御弁83を調整して、水素ガスを12時間導入し続けた。
【0316】
(参考例C7)
参考例C1と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入口85から、陰極側に水素ガスの流量が1.1m
3/m
2/Hrになるように制御弁83を調整して、水素ガスを12時間導入し続けた。
【0317】
(参考例C8)
参考例C4と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入口85から、陰極側に水素を導入せずに、12時間放置した。
【0318】
(参考例C9)
参考例C4と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入口85から、陰極側に水素ガスの流量が0.0000009m
3/m
2/Hrになるように制御弁83を調整して、水素ガスを12時間導入し続けた。
【0319】
(参考例C10)
参考例C4と同様にアルカリ水電解システムを製作した。水素導入口85から、陰極側に水素ガスの流量が1.1m
3/m
2/Hrになるように制御弁83を調整して、水素ガスを12時間導入し続けた。
【0320】
参考例Cにおけるアルカリ水電解について下記のとおり評価した。
【0321】
(電解試験1)
電流密度10kA/m
2で通電を開始して12時間後において、電解セルのセル電圧を測定し、相加平均値を求めた。その後、電解を停止した。水素導入口85から、陰極側に水素ガスの流量が0.000001m
3/m
2/時間になるように制御弁83を調整して、水素ガスを12時間導入し続けた。水素導入量は、ガス流量計84で測定した。前記の通電及び停止の一連の操作をSD操作と定義し、SD操作を合計2000回繰り返した。
参考例Cについての電解試験1の結果を表3に示す。
【0322】
【表3】
【0323】
参考例C1、参考例C3は、SD操作回数が増加しても、セル電圧の上昇量は数10mV程度で許容範囲だった。総水素導入量はほぼ0%であり、電解により発生した水素の利用率が比較的低かった。
【0324】
参考例C2、参考例C4は、SD操作に対する耐久性が、参考例C1、参考例C3よりも高かった。総水素導入量は、39.8%であり、電解により発生した水素を過剰に利用する必要はなかった。
【0325】
参考例C5、参考例C6、参考例C8、参考例C9は、SD操作回数の増加に伴い、セル電圧が上昇し、SD操作回数2000回時点で、2Vを越えた。
【0326】
参考例C7、参考例C10は、SD操作回数が増加しても、セル電圧の上昇量は数10mV程度で許容範囲だった。総水素導入量は、40%以上であり、電解により発生した水素の利用率が比較的高くなった。