特許第6948432号(P6948432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948432工具保持構造、荷重検出構造、及び工具状態監視システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6948432
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】工具保持構造、荷重検出構造、及び工具状態監視システム
(51)【国際特許分類】
   B23B 49/00 20060101AFI20210930BHJP
   B23B 25/06 20060101ALI20210930BHJP
   B23B 31/20 20060101ALI20210930BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20210930BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   B23B49/00 C
   B23B25/06
   B23B31/20 F
   B23Q17/09 A
   B23Q17/09 C
   G01L5/00 Z
【請求項の数】19
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-70844(P2020-70844)
(22)【出願日】2020年4月10日
【審査請求日】2021年7月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 育郎
(72)【発明者】
【氏名】高碕 達郎
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−86067(JP,A)
【文献】 特開平01−222851(JP,A)
【文献】 米国特許第4688970(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0255930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 49/00
B23B 25/06
B23B 31/20
B23Q 17/09
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージとを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
前記起歪体が膜状の起歪部を有し、該起歪部に前記ひずみゲージが取り付けられており、
前記起歪体が、前記膜状の起歪部から前記本体部の前記一端側へと突出する突起部を有し、
前記工具保持構造は前記棒状工具を前記突起部に当接させて保持する工具保持構造
【請求項2】
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体支持部を更に有し、
前記起歪体支持部に補償用ひずみゲージが取り付けられている請求項1に記載の工具保持構造。
【請求項3】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージとを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体支持部を更に有し、
前記起歪体支持部に補償用ひずみゲージが取り付けられている工具保持構造。
【請求項4】
前記起歪体が膜状の起歪部を有し、該起歪部に前記ひずみゲージが取り付けられている請求項3に記載の工具保持構造。
【請求項5】
前記起歪体支持部は、前記ひずみゲージと前記起歪体支持部との間に空間が画成されるように前記起歪体の周縁部を支持する請求項2〜4のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項6】
前記起歪体は平面視円形であり且つ前記筒状の本体部と同軸状に配置されており、前記棒状工具は前記筒状の本体部の軸上において前記起歪体に当接する請求項1〜5のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項7】
前記工具挟持部は、前記本体部の一端に嵌入されて前記棒状工具を挟持する、前記本体部とは別体の挟持部材を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項8】
前記挟持部材は筒状部材であり、
該筒状部材は、軸方向に延びる少なくとも1つのスリットを有することにより外径及び内径が可変であり、且つ一端側から他端側に向かうにしたがって外径が大きくなるテーパ形状を有する請求項に記載の工具保持構造。
【請求項9】
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される棒状の位置調整部を更に備え、
前記筒状の本体部の軸方向における前記起歪体の位置が、前記位置調整部により調整可能である請求項1〜8のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項10】
前記位置調整部の前記本体部の軸方向に沿った移動を規制する移動規制部を更に備え、
前記スラスト荷重を検出するために、前記移動規制部が前記位置調整部を介して、前記本体部の他端側への前記起歪体の移動を規制する請求項9に記載の工具保持構造。
【請求項11】
前記工具挟持部及び前記移動規制部の各々が、コレット及びコレットナットを含む請求項10に記載の工具保持構造。
【請求項12】
前記本体部、前記工具挟持部、前記移動規制部が両頭コレットホルダにより構成されており、
前記両頭コレットホルダの本体部が前記本体部を構成し、
前記両頭コレットホルダの一方のコレット及びコレットナットが前記工具挟持部を構成し、
前記両頭コレットホルダの他方のコレット及びコレットナットが前記移動規制部を構成する請求項10に記載の工具保持構造。
【請求項13】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージとを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される棒状の位置調整部を更に備え、
前記筒状の本体部の軸方向における前記起歪体の位置が、前記位置調整部により調整可能であり、
前記位置調整部の前記本体部の軸方向に沿った移動を規制する移動規制部を更に備え、
前記スラスト荷重を検出するために、前記移動規制部が前記位置調整部を介して、前記本体部の他端側への前記起歪体の移動を規制し、
前記工具挟持部及び前記移動規制部の各々が、コレット及びコレットナットを含む工具保持構造。
【請求項14】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージとを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される棒状の位置調整部を更に備え、
前記筒状の本体部の軸方向における前記起歪体の位置が、前記位置調整部により調整可能であり、
前記位置調整部の前記本体部の軸方向に沿った移動を規制する移動規制部を更に備え、
前記スラスト荷重を検出するために、前記移動規制部が前記位置調整部を介して、前記本体部の他端側への前記起歪体の移動を規制し、
前記本体部、前記工具挟持部、前記移動規制部が両頭コレットホルダにより構成されており、
前記両頭コレットホルダの本体部が前記本体部を構成し、
前記両頭コレットホルダの一方のコレット及びコレットナットが前記工具挟持部を構成し、
前記両頭コレットホルダの他方のコレット及びコレットナットが前記移動規制部を構成する工具保持構造。
【請求項15】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であり、一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部、及び前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部を備える工具保持構造に用いられる荷重検出構造であって、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置され、前記棒状工具が当接される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと
前記筒状の本体部の軸方向における前記起歪体の位置を調整するために、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において前記筒状の本体部の内部に配置される棒状の位置調整部とを備え
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体支持部を更に有し、
前記起歪体支持部に補償用ひずみゲージが取り付けられている荷重検出構造。
【請求項16】
前記起歪体は平面視円形であり、且つ前記筒状の本体部と同軸状に配置され、前記棒状工具は前記筒状の本体部の軸上において前記起歪体に当接する請求項15に記載の荷重検出構造。
【請求項17】
前記起歪体が膜状の起歪部を有し、該起歪部に前記ひずみゲージが取り付けられている請求項15又は16に記載の荷重検出構造。
【請求項18】
前記起歪体が、前記膜状の起歪部から前記本体部の前記一端側へと突出し、且つ前記棒状工具が当接される突起部を有する請求項17に記載の荷重検出構造。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の工具保持構造と、
前記工具保持構造のひずみゲージの検出結果に基づいて棒状工具の交換要否を判定する制御部とを備える工具状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具保持構造、荷重検出構造、及び工具状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル刃を用いた被加工物への穿孔等が広く行われている。ドリル刃を用いた被加工物の加工の際、フライス盤、マシニングセンタ、ハンドドリル等においてはドリル刃を回転させる。一方で、旋盤等においては、ドリル刃を固定工具として用い、被加工物を回転させる。
【0003】
ドリル刃を用いて被加工物の加工を行う際、切削抵抗を検知することが知られている。特許文献1は、穴開けスラストを表示するためのスラスト・インジケータ・アセンブリを含むハンドドリルを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014−530119号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旋盤等においてドリル刃等の棒状工具を固定工具として用いる際に、当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検知可能な外付けの構造が求められている。特許文献1に記載のスラスト・インジケータ・アセンブリは、ドリル刃を回転工具として用いる際に適用されるアセンブリであり、構造も複雑であるため、これを転用することは適切とは言い難い。
【0006】
本発明は、ドリル刃等の棒状工具を保持する機能と当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検出する機能とを共に備え且つ簡易な構造の工具保持構造、当該工具保持構造において用いる荷重検出構造、及び当該工具保持構造を含む工具状態監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージとを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造が提供される。
【0008】
第1の態様の工具保持構造において、前記起歪体は平面視円形であり且つ前記筒状の本体部と同軸状に配置されていてもよく、前記棒状工具は前記筒状の本体部の軸上において前記起歪体に当接してもよい。
【0009】
第1の態様の工具保持構造において、前記工具挟持部は、前記本体部の一端に嵌入されて前記棒状工具を挟持する、前記本体部とは別体の挟持部材を含んでもよい。
【0010】
第1の態様の工具保持構造において、前記挟持部材は筒状部材であってもよく、該筒状部材は、軸方向に延びる少なくとも1つのスリットを有することにより外径及び内径が可変であり、且つ一端側から他端側に向かうにしたがって外径が大きくなるテーパ形状を有してもよい。
【0011】
第1の態様の工具保持構造において、前記起歪体が膜状の起歪部を有してもよく、該起歪部に前記ひずみゲージが取り付けられていてもよい。
【0012】
第1の態様の工具保持構造において、前記起歪体が、前記膜状の起歪部から前記本体部の前記一端側へと突出する突起部を有してもよく、前記工具保持構造は前記棒状工具を前記突起部に当接させて保持してもよい。
【0013】
第1の態様の工具保持構造は、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体支持部を更に有してもよく、
前記起歪体支持部に補償用ひずみゲージが取り付けられていてもよい。
【0014】
第1の態様の工具保持構造において、前記起歪体支持部は、前記ひずみゲージと前記起歪体支持部との間に空間が画成されるように前記起歪体の周縁部を支持してもよい。
【0015】
第1の態様の工具保持構造は、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される棒状の位置調整部を更に備えてもよく、前記筒状の本体部の軸方向における前記起歪体の位置が、前記位置調整部により調整可能であってもよい。
【0016】
第1の態様の工具保持構造は、前記位置調整部の前記本体部の軸方向に沿った移動を規制する移動規制部を更に備えてもよく、前記スラスト荷重を検出するために、前記移動規制部が前記位置調整部を介して、前記本体部の他端側への前記起歪体の移動を規制してもよい。
【0017】
第1の態様の工具保持構造において、前記工具挟持部及び前記移動規制部の各々が、コレット及びコレットナットを含んでもよい。
【0018】
第1の態様の工具保持構造において、前記本体部、前記工具挟持部、前記移動規制部が両頭コレットホルダにより構成されていてもよく、前記両頭コレットホルダの本体部が前記本体部を構成してもよく、前記両頭コレットホルダの一方のコレット及びコレットナットが前記工具挟持部を構成してもよく、前記両頭コレットホルダの他方のコレット及びコレットナットが前記移動規制部を構成してもよい。
【0019】
本発明の第2の態様に従えば、
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であり、一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部、及び前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部を備える工具保持構造に用いられる荷重検出構造であって、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置され、前記棒状工具が当接される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと
前記筒状の本体部の軸方向における前記起歪体の位置を調整するために、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において前記筒状の本体部の内部に配置される棒状の位置調整部とを備える荷重検出構造が提供される。
【0020】
第2の態様の荷重検出構造において、前記起歪体は平面視円形であってもよく、且つ前記筒状の本体部と同軸状に配置されてもよく、前記棒状工具は前記筒状の本体部の軸上において前記起歪体に当接してもよい。
【0021】
第2の態様の荷重検出構造において、前記起歪体が膜状の起歪部を有してもよく、該起歪部に前記ひずみゲージが取り付けられていてもよい。
【0022】
第2の態様の荷重検出構造において、前記起歪体が、前記膜状の起歪部から前記本体部の前記一端側へと突出してもよく、且つ前記棒状工具が当接される突起部を有してもよい。
【0023】
第2の態様の荷重検出構造は、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体支持部を更に有してもよく、前記起歪体支持部に補償用ひずみゲージが取り付けられていてもよい。
【0024】
本発明の第3の態様に従えば、
第1の態様の工具保持構造と、
前記工具保持構造のひずみゲージの検出結果に基づいて棒状工具の交換要否を判定する制御部とを備える工具状態監視システムが提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ドリル刃等の棒状工具を保持する機能と当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検出する機能とを共に備え且つ簡易な構造の工具保持構造、当該工具保持構造において用いる荷重検出構造、及び当該工具保持構造を含む工具状態監視システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実施形態に係る工具保持構造の分解斜視図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る工具保持構造の斜視図である。
図3図3は、図1のIII‐III線に沿った断面図である。
図4図4は、センサ部の中心軸に沿った断面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る工具保持構造の中心軸に沿った断面図である。
図6図6は、工具保持構造が取り付けられる旋盤の構成を示す概略図である。
図7図7は、本発明の変形例に係る工具保持構造の中心軸に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<実施形態>
本発明の実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110について、工具保持構造100を用いてドリル刃を旋盤に固定して、被加工物(ワーク)の旋削加工を行う場合を例として説明する。
【0028】
図1図2に示す通り、工具保持構造100は、筒状の本体部1と、本体部1の内部に配置される荷重検出部2及び位置調整部3と、位置調整部3を挟持してその移動を規制する移動規制部4と、ドリルDを挟持する工具挟持部5とを有する。
【0029】
以下の説明においては、本体部1の中心軸Xの延びる方向を工具保持構造100の軸方向と呼び、中心軸Xから延びる放射方向及び中心軸X回りの方向をそれぞれ、工具保持構造100の径方向、周方向と呼ぶ。軸方向においては、本体部1の工具挟持部5側、移動規制部4側をそれぞれ、前側、後側と呼ぶ。
【0030】
本体部1は、金属(一例として工具鋼(例えばSK材)等)により形成されている。本体部1は、内孔1hを有する略円筒状であり、中央領域1C、前端領域1F、及び後端領域1Rを含む。
【0031】
中央領域1Cの外周面Coには、本体部1の径方向に直交する3つの平面p1、p2、p3が形成されている(図3)。平面p1、p3の法線は互いに一致しており、平面p2の法線は平面p1、p3の法線に直交している。平面p1、p3は互いに反対側を向いている。平面p1、p2、p3はそれぞれ矩形であり、外周面Coの軸方向全域に渡って延びている。
【0032】
中央領域1Cにおいて内孔1hを画定する内周面Ciの、軸方向に直交する面による断面の形状は円形である。
【0033】
中央領域1Cにおける本体部1の外径は軸方向の全域に渡って一定であり、一例として10mm〜40mm程度、より好適には20mm〜32mm程度とし得る。中央領域1Cにおける本体部1の内径も軸方向の全域に渡って一定であり、一例として10mm〜16mm程度とし得る。
【0034】
中央領域1Cの軸方向の長さは、一例として30mm〜120mm程度、より好適には33mm〜105mm程度とし得る。
【0035】
前端領域1Fの外周面Fo及び後端領域1Rの外周面Roには、雄ねじが形成されている。前端領域1F及び後端領域1Rにおける本体部1の外径は軸方向の全域に渡って一定であり、その値は、一例として中央領域1Cの外径よりもわずかに小さい。
【0036】
前端領域1Fの内周面Fi(図5)及び後端領域1Rの内周面Riの、軸方向に直交する面による断面の形状は、円形である。
【0037】
前端領域1Fにおける本体部1の内径は、後端において中央領域1Cの内径に等しく、前側に向かうにしたがって大きくなっている。即ち、前端領域1Fにおいて内孔1hを画定する内周面Fiは、軸方向前側に向かうにしたがって広がるテーパ状に形成されている。
【0038】
後端領域1Rにおける本体部1の内径は、前端において中央領域1Cの内径に等しく、後側に向かうにしたがって大きくなっている。即ち、後端領域1Rにおいて内孔1hを画定する内周面Riは、軸方向後側に向かうにしたがって広がるテーパ状に形成されている。
【0039】
前端領域1F及び後側領域1Rの軸方向の長さは、一例として10mm〜30mm程度、より好適には16mm〜27mm程度とし得る。
【0040】
荷重検出部2は、工具保持構造100がドリル刃Dを保持した状態において、ドリル刃Dに軸方向に加えられる荷重(スラスト荷重)を検出する、ダイヤフラム型のロードセルである。
【0041】
荷重検出部2は、図4に示す通り、起歪体21と、起歪体21に貼り付けられた検出用ひずみゲージ22と、起歪体21を支持する起歪体支持部23と、起歪体支持部23に貼り付けられた補償用ひずみゲージ24とを有する。
【0042】
起歪体21は、一例として鉄、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウム(アルミニウム合金)等の金属で形成されている。
【0043】
起歪体21は、軸Aに直交する面内に軸Aを中心として広がる円形膜状の起歪部211と、起歪部211の中央部から軸A方向の一方側に突出する突起部212と、起歪部211の外周部から突起部212と同じ方向に立ち上がる壁部213と、壁部213の先端から起歪部211の径方向の外側に突出するフランジ部214とを含む。起歪部211、突起部212、壁部213、及びフランジ部214は一体に形成されていてもよい。
【0044】
起歪部211の外径は、一例として9mm〜15mm程度、厚さは一例として0.5mm〜2mm程度とし得る。起歪部211は膜状であるため他の部分よりも変形しやすく、突起部212により軸Aの方向に押されることによって容易に変形し、ひずみを生じる(詳細後述)。
【0045】
突起部212は、略円錐状であり、先端tpには丸みが与えられている。突起部212は、突起部212の中心軸が軸Aに一致するように設けられている。突起部212の長さは限定されないが、一例として2mm〜10mm程度とし得る。突起部212の径は、起歪部211との接続部において1〜4mm程度とし得る。
【0046】
壁部213は、起歪部211の周方向全域に設けられている。壁部213の内面213iは、軸Aに対して傾いている。
【0047】
フランジ部214は、壁部213の周方向全域に設けられている。フランジ部214の外径は、中央領域1Cにおける本体部1の内径よりもわずかに小さい。
【0048】
検出用ひずみゲージ22は、起歪部211の、突起部212が形成された面とは反対側の面に貼り付けられている。検出用ひずみゲージ22の構造は任意であるが、一例として4つのひずみ受感素子を備えるひずみゲージを用いてよい。
【0049】
検出用ひずみゲージ22は、本実施形態では起歪部211の中央部に貼り付けられている。
【0050】
起歪体支持部23は、本実施形態では起歪体21と同一の材料で形成されている。
【0051】
起歪体支持部23は、軸Aを中心軸とする略円筒状の部材であり、軸A方向に並ぶ大径領域23L及び小径領域23Sを含む。大径領域23Lの外径は、起歪部21のフランジ部214の外径と同一であり、中央領域1Cにおける本体部1の内径よりもわずかに小さい。小径領域23Sの外径は大径領域23Lの外径よりも小さい。大径領域23Lと小径領域23Sとの接続部には環状の段差面ssが画定されている。
【0052】
起歪体支持部23の大径領域23Lには、端面23Lsから軸A方向に延びる凹部Rが形成されている。凹部Rの断面形状は円形である。
【0053】
凹部Rの底面と、起歪体支持部23の小径領域23S側の端面23Ssとの間には、軸A沿いに延びる内孔23hが形成されている。内孔23hは、検出用ひずみゲージ22から延びる配線W22図5)を通過させるための孔であり、任意の寸法を有し得る。
【0054】
図4に示す通り、起歪体21と起歪体支持部23とは、起歪体21の起歪部211及び壁部213を起歪体支持部23の凹部Rに嵌入させることによる締まり嵌め結合により一体に結合されている。起歪体21と起歪体支持部23とが結合された状態において、起歪体21と起歪体支持部23とは同軸状であり、起歪体21のフランジ部214に起歪体支持部23の端面23Lsが当接している。
【0055】
凹部Rの深さは、起歪体21にひずみが生じた際に、起歪部211及び検出用ひずみゲージ22が起歪体支持部23に接触しないように設計される。これにより、荷重検出部2における荷重検出の精度が保たれる。
【0056】
補償用ひずみゲージ24は、起歪体支持部23の小径領域23S側の端面23Ssに貼り付けられている。補償用ひずみゲージ24の構造は任意であるが、検出用ひずみゲージ22と同一のひずみゲージを使用し得る。
【0057】
荷重検出部2は、図5に示す通り、軸Aを本体部1の中心軸Xに一致させた状態で、本体部1の中央領域1Cにおいて、内孔1hに配置されている。起歪体21のフランジ部214の外径及び起歪体支持部23の大径部23Lの外径が、中央領域1Cにおける本体部1の内径よりもわずかに小さいため、フランジ部214及び大径部23Lの外周面は、本体部1の内周面Ciに当接する。即ち荷重検出部2は、内孔1hに、起歪部211と本体部1とを同軸状として、軸方向の移動及び周方向の回転が可能であり、且つ径方向の移動が規制された状態で配置されている。
【0058】
位置調整部3は、荷重検出部2に後方から当接して、荷重検出部2の軸方向の位置を調整する部材である。
【0059】
位置調整部3は、炭素鋼(一例としてSC材)、ステンレス鋼等の金属で形成された、内孔3hを有する円筒である。位置調整部3の外径は、中央領域1Cにおける本体部1の内径よりもわずかに小さい。内孔3hは、検出用ひずみゲージ22の配線W22、及び補償用ひずみゲージ24の配線W24を通過させるための孔であり、任意の寸法を有し得る。
【0060】
位置調整部3は、図5に示す通り、中心軸を本体部1の中心軸Xに一致させた状態で、本体部1の中央領域1C及び後端領域1Rの内孔1hに配置されている。位置調整部3の外径が中央領域1Cにおける本体部1の内径よりもわずかに小さいため、位置調整部3の外周面は本体部1の内周面Ciに当接している。即ち位置調整部3は、内孔1hに、軸方向の移動及び周方向の回転が可能であり、且つ径方向の移動が規制された状態で配置されている。
【0061】
図5に示す通り、荷重検出部2と位置調整部3とは、荷重検出部2の起歪体支持部23の小径領域23Sを位置調整部3の内孔3hに嵌入させることによる締まり嵌め結合により一体に結合されている。荷重検出部2と位置調整部3とが結合された状態において、荷重検出部2と位置調整部3とは同軸状であり、起歪体支持部23の段差面ssに位置調整部3の前端面3fsが当接している。
【0062】
移動規制部4は、位置調整部3を挟持して位置調整部3の軸方向の移動を規制する部分である。
【0063】
移動規制部4は、本体部1の後端において内孔1hに嵌入されて位置調整部3を挟持するコレットCLと、本体部1の後端領域1Rの外周面Roに形成された雄ねじに螺合してコレットCLを位置固定するコレットナットCNとを含む。
【0064】
コレットCLは、一般的なコレット(コレットチャック)である。即ち内孔CLhを有する略円筒形であり、軸方向に延びる複数のスリットSを有し、径方向内向きの力を受けた際に弾性変形して外径及び内径が縮小するように構成されている。内孔CLhの径(把握径)は一例として0.5mm〜13mm程度とし得る。本発明において「コレット」とは、内孔を有する円筒形又は略円筒形であり、軸方向に延びる少なくとも1つのスリットを有し、弾性変形により外径及び内径が縮小するように構成された部材を意味する。
【0065】
コレットCLは、軸方向の一端の近傍に外径が最も大きい大径部MXを有し、大径部MXから当該一端部に向かうにしたがって外径が小さくなる第1テーパ領域T1と、大径部MXから他端部に向かうにしたがって外径が小さくなる第2テーパ領域T2とを有する。第2テーパ領域のテーパ角は第1テーパ領域のテーパ角よりも小さい。
【0066】
コレットナットCNは、一般的なコレットナットであり、円筒状の本体部MPと、本体部MPの一端に設けられた蓋部LPとを有する。本体部MPの外周面には、締結工具を係合するための複数の係合溝Gが、周方向に沿って等間隔に設けられている。
【0067】
本体部MPの内周面は、蓋部LPが設けられた端部から他端側へと向かうにしたがって内径が大きくなるテーパ領域T3(図5)と、テーパ領域T3と他端側との間の雌ねじ領域fthとを有する。テーパ領域T3のテーパ角は、コレットCLの第1テーパ領域T1のテーパ角に略等しい。雌ねじ領域fthには雌ねじが形成されている。
【0068】
蓋部LPの中央部には、円形状の貫通孔LPhが形成されている。貫通孔LPhの径は、本体部MPの内径より小さい。
【0069】
移動規制部4のコレットCLは、図5に示す通り、位置調整部3が内孔CLhを貫通した状態で、第2テーパ領域T2が本体部1の内孔1hにはめ込まれている。大径部MXの外径が本体部1の後端における内孔1hの径よりも大きいため、大径部MXは、軸方向において本体部1の外側に位置している。
【0070】
移動規制部4のコレットナットCNは、図5に示す通り、位置調整部3が蓋部LPの貫通孔LPhを貫通し、コレットCLの第1テーパ領域T1の外周面がテーパ領域T3の内周面に当接した状態で、本体部1の後端領域1Rに螺合している。
【0071】
この状態において、コレットナットCNを締めれば、コレットCLが前方に押されて内孔1hに入り込み、コレットCLの内孔CLhの径は小さくなる。したがって、位置調整部3はコレットCLにより挟持されて、軸方向の移動が規制される。反対に、コレットナットCNを緩めれば、コレットCLが後方、即ち内孔1hから脱落する方向に移動可能となる。したがって、コレットCLの内孔CLhの径が大きくなり、位置調整部3の軸方向の移動が可能となる。
【0072】
工具挟持部5は、ドリルDを挟持するための構造である。
【0073】
工具挟持部5は、移動規制部4と同一の構造を有する。即ち、コレットCLとコレットナットCNとにより構成されている。
【0074】
工具挟持部5のコレットCLは、図5に示す通り、ドリル刃Dの後端領域DRを内孔CLh内に配置した状態で、第2テーパ領域T2が本体部1の前端領域1Fの内孔1hにはめ込まれている。大径部MXの外径が本体部1の前端における内孔1hの径よりも大きいため、大径部MXは軸方向において本体部1の外側に位置している。
【0075】
工具挟持部5のコレットナットCNは、図5に示す通り、ドリル刃Dが蓋部LPの貫通孔LPhを貫通し、コレットCLの第1テーパ領域T1の外周面がテーパ領域T3の内周面に当接した状態で、本体部1の前端領域1Fに螺合している。
【0076】
この状態において、コレットナットCNを締めれば、コレットCLが後方に押されて内孔1hに入り込み、コレットCLの内孔CLhの径は小さくなる。したがって、ドリル刃DはコレットCLにより挟持されて、工具保持構造100に保持される。この状態において、ドリル刃Dの中心軸は工具保持構造100の中心軸Xに一致する。
【0077】
即ち工具保持構造100は、ドリル刃Dが工具保持構造100の前端から前方へと中心軸Xに沿って延び、ドリル刃Dの先端TP(図6)が工具保持構造100の前方に位置するように、ドリル刃Dを保持する。
【0078】
コレットナットCNを緩めれば、コレットCLが前方、即ち内孔1hから脱落する方向に移動可能となる。したがって、コレットCLの内孔CLhの径が大きくなり、ドリル刃Dの取り外しが可能となる。
【0079】
なお、上述した構造を有する工具保持構造100のうち、荷重検出部2と位置調整部3とにより、本実施形態の荷重検出構造110が構成される。
【0080】
次に、本実施形態の工具保持構造100の使用方法を説明する。
【0081】
(1)ドリル刃Dの工具保持構造100への取り付け
工具保持構造100にドリル刃Dを取り付ける際には、まず、移動規制部4のコレットナットCNを緩めて荷重検出部2及び位置調整部3を移動可能な状態とする。次いで、工具挟持部5のコレットナットCNを緩め、コレットナットCNの貫通孔LPhを介して、コレットCLの内孔CLhにドリル刃Dの後端領域DRを挿入する。
【0082】
ドリル刃Dの軸方向位置を所望の位置に調整した後、工具挟持部5のコレットナットCNを締めて、コレットCLによりドリル刃Dを挟持する。荷重検出部2を移動可能な状態としてドリル刃Dの位置調整を行うことで、ドリル刃Dの位置調整を、荷重検出部2に干渉されることなく自在に行うことができる。
【0083】
ドリル刃Dの位置を決定した後、位置調整部3を操作して軸方向に移動させ、荷重検出部2をドリル刃Dに当接させる。具体的には、本体部1の中心軸X上において、起歪体21の突起部212の頂部tpを、後方から、ドリル刃Dの後端面Dbsに当接させる。その後、移動規制部4のコレットナットCNを締めて位置調整部3及び荷重検出部2を位置固定する。
【0084】
(2)工具保持構造100の旋盤1000への取り付け
次に、ドリル刃Dを保持した工具保持構造100を、旋盤1000に取り付ける。
【0085】
旋盤1000は、図6に示す通り、ベース300、ベース300の一端側に設けられた主軸台400、主軸台400に回転可能に支持された主軸500、主軸500の軸500Xの方向に延びるベッド600、ベッド600に沿って移動可能な工具台700を主に有する。旋盤1000は更に、ベース300に設けられた制御部800及び表示部900を有する。
【0086】
主軸500は、不図示のモータにより駆動されて、軸500X回りに高速で回転可能である。主軸500には、不図示のチャックを介して被加工物(ワーク)Wが取り付けられる。
【0087】
工具台700は、下端部においてベッド600に摺動可能に接続されている。また、工具台700は、主軸500の軸500Xと同軸状に延びる保持孔700hを有する。
【0088】
工具保持構造100は、旋盤1000の工具台700に取り付ける。具体的には、工具保持構造100の前端が主軸500に対向するように、即ちドリル刃Dの先端TPが主軸500に対向するように、工具保持構造100の本体部1を工具台700の保持孔700hに挿入する。
【0089】
その後、保持孔700hの周壁を貫通する不図示の貫通孔に不図示の固定用ボルトを通して、工具保持構造100を固定する。これにより、工具保持構造100の中心軸X、及びドリル刃Dの中心軸が、主軸500の中心軸500Xに一致し、且つドリル刃Dの先端TPが主軸500に対向した状態で、工具保持構造100が旋盤1000に取り付けられる。固定用ボルトの先端を本体部1の平面p1〜p3のいずれかに押し当てることにより、工具保持構造100の回転を防止できる。
【0090】
検出用ひずみゲージ22及び補償用ひずみゲージ24から延びる配線W22、W24は、制御部800に接続する。
【0091】
(3)工具保持構造100を用いた切削抵抗(スラスト荷重)の検出
ドリル刃Dを用いた被加工物Wの加工、及び加工時にドリル刃Dに付加されるスラスト荷重の検出は、次のように行う。
【0092】
被加工物Wの加工(ここでは穿孔)は、主軸500を回転させながら、工具台700を主軸500側に移動させることにより行う。これにより、主軸500と一体に回転する被加工物Wに、工具保持構造100を介して工具台700に保持されたドリル刃Dの先端TPが押し込まれ、被加工物Wに孔が形成される。
【0093】
被加工物Wにドリル刃Dの先端TPが押し込まれるとき、被加工物Wからの反力により、ドリル刃Dに軸方向の荷重(スラスト荷重)が加えられる。スラスト荷重の大きさは、工具保持構造100により、次のようにして検出される。
【0094】
ドリル刃Dにスラスト荷重が加えられる時、ドリル刃Dを挟持する工具挟持部5のコレットCLがわずかに弾性変形する。これにより、コレットCLが軸方向の後方にわずかに移動し、ドリル刃Dも工具保持構造100の軸方向の後方にわずかに移動する。
【0095】
工具保持構造100の軸方向の後方に移動するドリル刃Dは、ドリル刃Dの後端面Dbsに当接する起歪体21の突起部212を軸方向の後方に押圧する。したがって、突起部212が設けられた起歪部211の中心部も軸方向の後方に押圧される。これにより、変形が生じやすい膜状である起歪部211に、突起部212が起歪部211を押す力の大きさ、ひいてはドリル刃Dに加えられるスラスト荷重の大きさに応じた大きさのひずみが生じる。
【0096】
なお、荷重検出部2の後方への移動を規制する位置調整部3及び移動規制部4は、コレットCLの後方への移動をコレットナットCNにより規制しているため、後方へは移動し難い。
【0097】
起歪部211に貼り付けられた検出用ひずみゲージ22は、起歪部211に生じたひずみの大きさに応じてひずみ受感素子の抵抗値を変化させる。配線W22を介して検出用ひずみゲージ22に接続された制御部800は、この抵抗値の変化に基づいてドリル刃Dに加えられたスラスト荷重の大きさを求め、表示部900に表示する。
【0098】
被加工物Wの加工時にドリルDに加えられるスラスト荷重の大きさは、ドリルDの刃先に欠けや鈍りが生じるにしたがって、即ち刃先の状態が悪化するにしたがって大きくなり得る。したがって、制御部800は、求めたスラスト荷重を所定の閾値と比較し、スラスト荷重が所定の閾値を越えた場合には、ドリルDの交換を促す情報を表示部900に表示してもよい。
【0099】
本実施形態の工具保持構造100の製造においては、本体部1、移動規制部4、工具保持部5を、市販の両頭コレットホルダにより与えてもよい。両頭コレットホルダの本体部により本体部1が、両頭コレットホルダの一端側のコレット及びコレットナットにより移動規制部4が、両頭コレットホルダの他端側のコレット及びコレットナットにより工具保持部5が与えられる。
【0100】
この場合は、本実施形態の荷重検出構造110を市販の両頭コレットホルダに挿入するのみで、容易に本実施形態の工具保持構造100を製造することができる。
【0101】
本実施形態の効果を以下にまとめる。
【0102】
本実施形態の工具保持構造100においては、ドリル刃Dを保持するための工具挟持部5が取り付けられる本体部1の内部に、切削抵抗(スラスト荷重)を検出するための荷重検出部2が配置されている。したがって、工具保持機能とスラスト荷重検出機能とを共に備え且つ構造が簡易である。
【0103】
本実施形態の工具保持構造100においては、工具挟持部5がコレットCLによりドリル刃Dを挟持している。したがって、ドリル刃Dの中心軸が工具保持構造100の中心軸に一致した好適な状態でのドリル刃Dの保持を、容易に実現することができる。同様に、移動規制部4がコレットCLにより位置調整部3を挟持しているため、位置調整部3の中心軸が工具保持構造100の中心軸に一致した好適な状態での位置調整部3の位置固定を、容易に実現することができる。
【0104】
また、ドリル刃D及び位置調整部3の中心軸と、工具保持構造100の中心軸との位置合わせが容易であるということは、ドリル刃Dと荷重検出部2との位置合わせが容易であることを意味する。即ち、本実施形態の工具保持構造100は、移動規制部4及び工具保持部5がコレットCLを備えるため、荷重検出部2の起歪体21とドリル刃Dとの位置合わせが容易であり、高精度の荷重検出を容易に実現できる。
【0105】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110は、荷重検出部2が軸方向に移動可能であり、位置調整部3と移動規制部4とにより荷重検出部2の軸方向位置を調整するように構成されている。したがって、ドリル刃Dの長さに応じて荷重検出部2の位置を変更することで、様々な寸法のドリル刃Dを、スラスト荷重の検出が可能な状態で保持することができる。
【0106】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110の荷重検出部2は、膜状の起歪部211を備えており、加えられるスラスト荷重に応じた起歪部211の変形量が比較的大きい。したがって、スラスト荷重が小さい場合でも、検出用ひずみゲージ22を用いた荷重検出を高い精度で行うことができる。
【0107】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110においては、荷重検出部2の起歪体21が、起歪部211の中心部から延びる突起部212を有しており、起歪体21は、突起部212においてドリル刃Dと当接している。このように、膜状の起歪部211とドリル刃Dとを直接当接させるのではなく、起歪部211から軸方向に延びる略棒状の突起部212をドリル刃Dに当接させることで、起歪体21を、様々な形状のドリル刃Dに、好適に当接させることができる。
【0108】
具体的には例えば、ドリル刃Dが短く、ドリル刃Dの後端面Dbsが工具挟持部5のコレットCLの後端よりも前方に位置する場合でも、突起部212をコレットCLの内孔CLhに挿入してドリル刃Dの後端面Dbsに当接させることができる。更に、ドリル刃Dの径が小さく、これを挟持するコレットCLの内孔CLhも小さい場合でも、突起部212をコレットCLの内孔CLhに挿入してドリル刃Dの後端面Dbsに当接させることができる。
【0109】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110は、荷重検出部2が補償用ひずみゲージ24を有しているため、荷重計測の精度が高い。即ち、ドリル刃Dからの荷重によっては変形せず、周囲の温度変化に応じた膨張/収縮のみを生じる起歪体支持部23に貼り付けられた補償用ひずみゲージの出力を参照することで、荷重検出時に温度誤差を抑制することができる。
【0110】
本実施形態の工具保持構造100の製造においては、市販の両頭コレットホルダを活用して、製造コストの削減及び製造期間の短縮を実現することができる。
【0111】
<変形例>
上記実施形態の工具センサ100において、次の変形態様を用いることもできる。
【0112】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110においては、荷重検出部2の起歪体21は突起部212を有さなくてもよい。この場合は例えば、ドリル刃Dの後端面Dbsを起歪部211に直接当接させてもよい。なお、本発明において「起歪体が棒状工具に当接する」とは、起歪体と棒状工具とが直接接触する場合のみではなく、起歪体と棒状工具との間に、なんらかの介在物(荷重を伝達する部材)が存在する場合も含むものとする。
【0113】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、膜状の起歪部211を有する起歪体21に代えて、コラム(円柱)型の起歪体25を用いてもよい(図7)。この場合は例えば、起歪体25の中心軸を本体部1の中心軸に一致させた状態で、起歪体25の一端面を凹部Rの底面に当接させ、他端面をドリル刃Dの後端面Dbsに当接させる。ひずみゲージ22(図7では不図示)は、起歪体25の外周面に取り付けられる。ひずみゲージ22から延びる配線W22は例えば、凹部Rの底面及び内周面に形成された溝を介して内孔23hに導かれ得る。この態様においても、起歪体25は本体部1の中心軸X上においてドリル刃Dに当接する。なお、本発明において、起歪体とドリル刃(棒状工具)とが軸上で当接するという場合は、起歪体と棒状工具とが実際に軸上で当接する態様のほか、起歪体と棒状工具とが、棒状工具から起歪体へと加えられる荷重の重心が軸上に位置するように当接する態様も含むものとする。
【0114】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110においては、荷重検出部2の起歪体21と起歪体支持部23とを同一の材料で形成しているが、これには限られない。起歪体支持部23は、起歪体21を形成する材料と線膨張係数が等しい又は類似する任意の材料により形成することができる。起歪体21を形成する材料と起歪体支持部23を形成する材料との間で線膨張係数が一致又は類似していれば、起歪体支持部23に貼り付けられた補償用ひずみゲージ24は、温度誤差補償機能を果たすことができる。
【0115】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、荷重検出部2の起歪体保持部23及び補償用ひずみゲージ24を省略してもよい。この場合は例えば、位置調整部3を起歪体21に当接させてもよい。
【0116】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、検出用ひずみゲージ22から延びる配線W22、及び/又は補償用ひずみゲージ24から延びる配線W24を省略し、検出信号を無線により送信する構成としてもよい。また、この場合は、荷重検出部2の起歪体支持部23の内孔23hを省略してもよく、位置調整部3は内孔3hを有さない丸棒とし得る。
【0117】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、位置調整部3の外周面に雄ねじを形成してもよい。この場合は、本体部1の内周面に雌ねじを形成して位置調整部3の雄ねじを螺合させ、位置調整部3の回転に応じた軸方向の移動により荷重検出部2の位置調整を行う。この態様においては、移動規制部4は省略し得る。
【0118】
上記実施形態の工具保持構造100において、荷重検出部2は、本体部1の内部において位置固定されていてもよい。この場合は、位置調整部3及び移動規制部4は省略し得る。
【0119】
上記実施形態の工具保持構造100においては、工具挟持部5はコレットナットCNとテーパ形状を有するコレットCLとを有していたが、これには限られない。工具挟持部5は、ドリル刃Dを、周方向については旋削時に回転が生じない強さで固定し、且つ軸方向については微小な移動を許容する強さで固定する任意の態様でドリル刃Dを挟持し得る。
【0120】
具体的には例えば、コレットCLはテーパ形状を有さなくてもよい。このようなコレットであっても、本体部1の前端領域1Rのテーパ状の内周面により、内径が縮小され、ドリル刃Dを挟持できる。
【0121】
コレットCL及びコレットナットCNに代えて、2つ以上のくさび型の挟持具によりドリル刃Dの後端領域DRを挟持し、当該くさび型の挟持具とドリル刃Dの後端領域DRとを、本体部1の前端領域1Rに嵌入してもよい。
【0122】
工具挟持部5の全部又は一部は、必ずしも本体部1と別体の部材である必要はない。例えば、本体部1の前端領域1Rに軸方向に延びる1つ以上のスリットを形成するとともに、前端領域1Rの内径は軸方向において一定とする。その上で、外周面Foにテーパ雌ねじが形成されたナットを螺合させると、当該ナットの締め付けにより前端領域1Rの内径が縮小し、ドリル刃Dを挟持し得る(テーパねじ式のコレット一体型ホルダ)。
【0123】
その他、単に本体部1の前端側にドリル刃Dの後端近傍を嵌入し、締まり嵌めによりドリル刃Dを保持してもよい。この場合は、ドリル刃Dの周方向の回転を防止するための、キー及びキー溝を、本体部1及びドリル刃Dに設けてもよい。また、ドリル刃Dにキー又はキー溝を与えるための取付具をドリル刃Dの後端領域DRに取り付けてもよい。
【0124】
上記実施形態においては、旋盤1000にドリル刃Dを固定する場合を例として説明したがこれには限られない。工具保持構造100は、工作機械において、任意の棒状工具を静止工具として使用する際に、これを保持することができる。棒状工具は、ドリル刃の他には例えば、タップやリーマを含む。
【0125】
上記実施形態及び変形態様の工具保持構造の製造において、両頭コレットホルダに代えて、筒状の本体部の一端側にのみコレット及びコレットナットが取り付けられたコレットホルダを用いてもよい。
【0126】
上記実施形態及び変形態様の工具保持構造と、旋盤1000が備える制御部800とにより、工具状態監視システムを構成してもよい。この工具状態監視システムは例えば、検出用ひずみゲージ22の出力に基づいてドリル刃Dに加えられた切削抵抗(スラスト荷重)を求め、求めた切削抵抗と所定の閾値との比較に基づいてドリル刃Dの交換の要否を判定する。具体的には例えば、求めた切削抵抗が所定の閾値を越えた場合に、ドリル刃Dの交換が必要であると判定する。判定結果は、任意の表示部に表示されてもよい。
【0127】
本発明の特徴を維持する限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
1 本体部、2 荷重検出部、3 位置調整部、4 移動規制部、5 工具挟持部、21 起歪体、211 起歪部、212 突起部、22 検出用ひずみゲージ、23 起歪体保持部、CL コレット、CN コレットナット、D ドリル刃、 1000 旋盤
【要約】
【課題】ドリル刃等の棒状工具を保持する機能と当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検出する機能とを共に備え且つ簡易な構造の工具保持構造を提供する。
【解決手段】棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造は、一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、前記起歪体に取り付けられたひずみゲージとを備える。工具保持構造は、前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する。
【選択図】図1
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図2
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図5
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図7