特許第6948440号(P6948440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948440工具保持構造、荷重検出構造、及び工具状態監視システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6948440
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】工具保持構造、荷重検出構造、及び工具状態監視システム
(51)【国際特許分類】
   B23B 25/06 20060101AFI20210930BHJP
   B23B 49/00 20060101ALI20210930BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20210930BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20210930BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   B23B25/06
   B23B49/00 C
   B23B49/00 Z
   B23Q11/10 D
   B23Q17/09 H
   G01L5/00 D
【請求項の数】18
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-106329(P2020-106329)
(22)【出願日】2020年6月19日
【審査請求日】2021年7月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 育郎
(72)【発明者】
【氏名】高碕 達郎
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−86067(JP,A)
【文献】 特開平01−222851(JP,A)
【文献】 米国特許第4688970(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0255930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 25/06
B23B 49/00
B23Q 11/10
B23Q 17/09
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと、
前記筒状の本体部の内部に設けられ、前記棒状工具に切削油を供給する供給路とを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に前記筒状の本体部の軸に沿って配置されており、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能である位置調整部を更に備え、
前記位置調整部は前記筒状の本体部の軸上に配置されており、
前記筒状の本体部の内周面と前記位置調整部の外周面との間の空間が前記供給路の一部を構成する工具保持構造
【請求項2】
前記位置調整部は、前記位置調整部の外周面の少なくとも一部に形成された雄ねじと、前記位置調整部の長手方向において前記雄ねじの一方側と他方側とを連通させる連通路とを有し、
前記位置調整部の前記雄ねじが、前記筒状の本体部の内周面に形成された雌ねじに螺合している請求項1に記載の工具保持構造。
【請求項3】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと、
前記筒状の本体部の内部に設けられ、前記棒状工具に切削油を供給する供給路とを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に前記筒状の本体部の軸に沿って配置されており、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能である位置調整部を更に備え、
前記位置調整部は、前記位置調整部の外周面の少なくとも一部に形成された雄ねじと、前記位置調整部の長手方向において前記雄ねじの一方側と他方側とを連通させる連通路とを有し、
前記位置調整部の前記雄ねじが、前記筒状の本体部の内周面に形成された雌ねじに螺合している工具保持構造。
【請求項4】
前記位置調整部の前記雄ねじが形成された領域における外径が、前記位置調整部の他の領域における外径よりも大きい請求項2又は3に記載の工具保持構造。
【請求項5】
前記本体部の他端側の開口に取り付けられ、且つ前記供給路に切削油を給油するための給油口を有する流路付ボルトを更に備え、
前記位置調整部が前記流路付ボルトを貫通して前記本体部の後方に突出している請求項1〜4のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項6】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと、
前記筒状の本体部の内部に設けられ、前記棒状工具に切削油を供給する供給路とを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に前記筒状の本体部の軸に沿って配置されており、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能である位置調整部を更に備え、
前記本体部の他端側の開口に取り付けられ、且つ前記供給路に切削油を給油するための給油口を有する流路付ボルトを更に備え、
前記位置調整部が前記流路付ボルトを貫通して前記本体部の後方に突出している工具保持構造。
【請求項7】
前記起歪体は前記筒状の本体部の軸上に配置されており、
前記棒状工具は前記筒状の本体部の軸上において前記起歪体に当接し、
前記筒状の本体部の内周面と前記起歪体の外縁との間の空間が前記供給路の一部を構成する請求項1〜6のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項8】
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において前記起歪体を支持する起歪体支持部を更に備え、
前記起歪体支持部は、前記起歪体と前記起歪体支持部との間に密閉空間が形成されるように前記起歪体の外縁を支持し、
前記ひずみゲージが前記密閉空間内に配置されている請求項1〜7のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項9】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと、
前記筒状の本体部の内部に設けられ、前記棒状工具に切削油を供給する供給路とを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造であり、
前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において前記起歪体を支持する起歪体支持部と、
前記起歪体支持部に取り付けられた補償用ひずみゲージと、
長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に前記筒状の本体部の軸に沿って配置されており、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能である位置調整部とを更に備え、
前記起歪体支持部は、前記起歪体と前記起歪体支持部との間に密閉空間が形成されるように前記起歪体の外縁を支持し、
前記位置調整部は、前記起歪体支持部と前記位置調整部との間に密閉空間が形成されるように前記起歪体支持部の外縁を支持し、
前記ひずみゲージが前記起歪体と前記起歪体支持部との間の密閉空間内に配置され、前記補償用ひずみゲージが前記起歪体支持部と前記位置調整部との間の密閉空間内に配置された工具保持構造。
【請求項10】
前記起歪体は前記筒状の本体部の軸上に配置されており、
前記棒状工具は前記筒状の本体部の軸上において前記起歪体に当接し、
前記筒状の本体部の内周面と前記起歪体の外縁との間の空間が前記供給路の一部を構成する請求項9に記載の工具保持構造。
【請求項11】
前記本体部の他端側の開口に取り付けられ、且つ前記供給路に切削油を給油するための給油口を有する流路付ボルトを更に備え、
前記位置調整部が前記流路付ボルトを貫通して前記本体部の後方に突出している請求項9又は10に記載の工具保持構造。
【請求項12】
前記起歪体が膜状の起歪部を有し、該起歪部に前記ひずみゲージが取り付けられている請求項1〜11のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項13】
前記起歪体が、前記膜状の起歪部から前記本体部の前記一端側へと突出する突起部を有し、
前記工具保持構造は前記棒状工具を前記突起部に当接させた状態で前記棒状工具を保持する請求項12に記載の工具保持構造。
【請求項14】
前記工具挟持部は、前記本体部の一端に嵌入されて前記棒状工具を挟持する、前記本体部とは別体の挟持部材である請求項1〜13のいずれか一項に記載の工具保持構造。
【請求項15】
前記挟持部材がコレットである請求項14に記載の工具保持構造。
【請求項16】
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であり、一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部、及び前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部を備える工具保持構造に用いられる荷重検出構造であって、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置され、前記棒状工具が当接される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと
長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に、前記筒状の本体部の軸に沿って、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能に配置される位置調整部とを備え、
前記筒状の本体部の内部に配置された状態において、前記筒状の本体部の内周面と前記荷重検出構造との間に前記棒状工具に切削油を供給する供給路を構成する荷重検出構造であり、
前記位置調整部は、前記位置調整部の外周面の少なくとも一部に形成された雄ねじと、前記位置調整部の長手方向において前記雄ねじの一方側と他方側とを連通させる連通路とを有する荷重検出構造
【請求項17】
前記位置調整部の前記雄ねじが形成された領域における外径が、前記位置調整部の他の領域の外径よりも大きい請求項16に記載の荷重検出構造。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の工具保持構造と、
前記工具保持構造のひずみゲージの検出結果に基づいて棒状工具の交換要否を判定する制御部とを備える工具状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具保持構造、荷重検出構造、及び工具状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル刃を用いた被加工物への穿孔等が広く行われている。ドリル刃を用いた被加工物の加工の際、フライス盤、マシニングセンタ、ハンドドリル等においてはドリル刃を回転させる。一方で、旋盤等においては、ドリル刃を固定工具として用い、被加工物を回転させる。
【0003】
ドリル刃を用いて被加工物の加工を行う際、切削抵抗を検知することが知られている。特許文献1は、穴開けスラストを表示するためのスラスト・インジケータ・アセンブリを含むハンドドリルを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014−530119号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旋盤等においてドリル刃等の棒状工具を固定工具として用いる際に、当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検知可能な構造が求められている。特許文献1に記載のスラスト・インジケータ・アセンブリは、ドリル刃を回転工具として用いる際に適用されるアセンブリであり、構造も複雑であるため、これを転用することは適切とは言い難い。
【0006】
本発明は、ドリル刃等の棒状工具を保持する機能と当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検出する機能とを共に備え且つ保持した棒状工具に切削油を供給可能な工具保持構造、当該工具保持構造において用いる荷重検出構造、及び当該工具保持構造を含む工具状態監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であって、
一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、
前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと、
前記筒状の本体部の内部に設けられ、前記棒状工具に切削油を供給する供給路とを備え、
前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する工具保持構造が提供される。
【0008】
第1の態様の工具保持構造において、前記起歪体は前記筒状の本体部の軸上に配置されていてもよく、前記棒状工具は前記筒状の本体部の軸上において前記起歪体に当接してもよく、前記筒状の本体部の内周面と前記起歪体の外縁との間の空間が前記供給路の一部を構成してもよい。
【0009】
第1の態様の工具保持構造は、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において前記起歪体を支持する起歪体支持部を更に備えてもよく、前記起歪体支持部は、前記起歪体と前記起歪体支持部との間に密閉空間が形成されるように前記起歪体の外縁を支持してもよく、前記ひずみゲージが前記密閉空間内に配置されていてもよい。
【0010】
第1の態様の工具保持構造は、長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に前記筒状の本体部の軸に沿って配置されており、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能である位置調整部を更に備えてもよい。
【0011】
第1の態様の工具保持構造において、前記位置調整部は前記筒状の本体部の軸上に配置されていてもよく、前記筒状の本体部の内周面と前記位置調整部の外周面との間の空間が前記供給路の一部を構成してもよい。
【0012】
第1の態様の工具保持構造において、前記位置調整部は、前記位置調整部の外周面の少なくとも一部に形成された雄ねじと、前記位置調整部の長手方向において前記雄ねじの一方側と他方側とを連通させる連通路とを有してもよく、前記位置調整部の前記雄ねじが、前記筒状の本体部の内周面に形成された雌ねじに螺合していてもよい。
【0013】
第1の態様の工具保持構造において、前記位置調整部の前記雄ねじが形成された領域における外径が、前記位置調整部の他の領域における外径よりも大きくてもよい。
【0014】
第1の態様の工具保持構造は、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において前記起歪体を支持する起歪体支持部と、前記起歪体支持部に取り付けられた補償用ひずみゲージと、長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に前記筒状の本体部の軸に沿って配置されており、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能である位置調整部とを更に備えてもよく、前記起歪体支持部は、前記起歪体と前記起歪体支持部との間に密閉空間が形成されるように前記起歪体の外縁を支持してもよく、前記位置調整部は、前記起歪体支持部と前記位置調整部との間に密閉空間が形成されるように前記起歪体支持部の外縁を支持してもよく、前記ひずみゲージが前記起歪体と前記起歪体支持部との間の密閉空間内に配置されてもよく、前記補償用ひずみゲージが前記起歪体支持部と前記位置調整部との間の密閉空間内に配置されてもよい。
【0015】
第1の態様の工具保持構造は、前記本体部の他端側の開口に取り付けられ、且つ前記供給路に切削油を給油するための給油口を有する流路付ボルトを更に備えてもよく、前記位置調整部が前記流路付ボルトを貫通して前記本体部の後方に突出していてもよい。
【0016】
第1の態様の工具保持構造において、前記起歪体が膜状の起歪部を有してもよく、該起歪部に前記ひずみゲージが取り付けられていてもよい。
【0017】
第1の態様の工具保持構造において、前記起歪体が、前記膜状の起歪部から前記本体部の前記一端側へと突出する突起部を有してもよく、前記工具保持構造は前記棒状工具を前記突起部に当接させた状態で前記棒状工具を保持してもよい。
【0018】
第1の態様の工具保持構造において、前記工具挟持部は、前記本体部の一端に嵌入されて前記棒状工具を挟持する、前記本体部とは別体の挟持部材であってもよい。
【0019】
第1の態様の工具保持構造において、前記挟持部材がコレットであってもよい。
【0020】
本発明の第2の態様に従えば、
棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造であり、一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部、及び前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部を備える工具保持構造に用いられる荷重検出構造であって、
前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置され、前記棒状工具が当接される起歪体と、
前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと
長尺状の位置調整部であって、前記筒状の本体部の前記起歪体よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に、前記筒状の本体部の軸に沿って、前記起歪体と一体として前記軸方向に移動可能に配置される位置調整部とを備え、
前記筒状の本体部の内部に配置された状態において、前記筒状の本体部の内周面と前記荷重検出構造との間に前記棒状工具に切削油を供給する供給路を構成する荷重検出構造が提供される。
【0021】
第2の態様の荷重検出構造において、前記位置調整部は、前記位置調整部の外周面の少なくとも一部に形成された雄ねじと、前記位置調整部の長手方向において前記雄ねじの一方側と他方側とを連通させる連通路とを有してもよい。
【0022】
第2の態様の荷重検出構造において、前記位置調整部の前記雄ねじが形成された領域における外径が、前記位置調整部の他の領域の外径よりも大きくてもよい。
【0023】
本発明の第3の態様に従えば、
第1の態様の工具保持構造と、
前記工具保持構造のひずみゲージの検出結果に基づいて棒状工具の交換要否を判定する制御部とを備える工具状態監視システムが提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ドリル刃等の棒状工具を保持する機能と当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検出する機能とを共に備え且つ保持した棒状工具に切削油を供給可能な工具保持構造、当該工具保持構造において用いる荷重検出構造、及び当該工具保持構造を含む工具状態監視システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の実施形態に係る工具保持構造の斜視図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る工具保持構造の分解斜視図である。
図3図3(a)は、本体部を、本体部の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。図3(b)は、図3(a)のIIIB−IIIB線に沿った断面図である。
図4図4は、給油部を、給油部の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。
図5図5(a)は、位置調整部を、位置調整部の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。図5(b)は、図5(a)のVB−VB線に沿った断面図である。
図6図6は、荷重検出部を、荷重検出部の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る工具保持構造を、工具保持構造の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。
図8図8は、工具保持構造が取り付けられる旋盤の構成を示す概略図である。
図9図9は、工具保持構造の内部に画定された切削油用の供給流路を説明するための説明図である。
図10図10は、本発明の変形例に係る工具保持構造を、工具保持構造の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。
図11図11は、本発明の他の変形例に係る工具保持構造を、工具保持構造の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<実施形態>
本発明の実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110について、工具保持構造100を用いてドリル刃を旋盤に固定して、被加工物(ワーク)の旋削加工を行う場合を例として説明する。
【0027】
図1図2に示す通り、工具保持構造100は中心軸Xを有する長尺形状であり、筒状の本体部1と、本体部1の一端側に取り付けられた給油部2と、本体部1の内部に配置された位置調整部3及び荷重検出部4と、本体部1の他端側でドリルDを挟持する工具挟持部5とを有する。
【0028】
以下の説明においては、中心軸Xの延びる方向を工具保持構造100の軸方向と呼び、中心軸Xから延びる放射方向及び中心軸X回りの方向をそれぞれ、工具保持構造100の径方向、周方向と呼ぶ。軸方向においては、本体部1の工具挟持部5側、給油部2側をそれぞれ、前側、後側と呼ぶ。
【0029】
本体部1は、金属(一例として工具鋼(例えばSK材)等)により形成されている。本体部1は、軸(中心軸)A1を有する円筒状であり、軸A1に沿って延びる内孔1hを有する(図2図3)。本体部1の軸A1は工具保持構造100の中心軸Xに等しい。
【0030】
本体部1は、軸方向の後側から順番に、被保持領域11と、前端領域12とを含む。
【0031】
被保持領域11における本体部1の外周面OS1には、本体部1の径方向に直交する3つの平面p1、p2、p3が形成されている(図3(b))。平面p1、p3の法線は互いに一致しており、平面p2の法線は平面p1、p3の法線に直交している。平面p1、p3は互いに反対側を向いている。平面p1、p2、p3はそれぞれ平面視矩形であり、被保持領域11の軸方向略全域に渡って延びている。被保持領域11における本体部1の外径は軸方向の略全域に渡って一定であり、一例として10mm〜40mm程度、より好適には20mm〜32mm程度とし得る。なお、外周面OS1には平面p1〜p3の少なくとも1つが形成されているのみでもよく、平面p1〜p3が形成されていなくてもよい。
【0032】
被保持領域11においては、内孔1hを画定する内周面IS1の断面形状(軸方向に直交する面による断面の形状)は、軸方向の全域において円形である。
【0033】
被保持領域11において、内周面IS1は、軸方向の後側から順に、後側大径領域IS1a、小径領域IS1b、前側大径領域IS1cを含む。後側大径領域IS1aと小径領域IS1b、小径領域IS1bと前側大径領域IS1cはそれぞれ、テーパ状に接続されている。
【0034】
後側大径領域IS1aにより画定される内孔1hの径は、一例として10mm〜15mm程度とし得る。後側大径領域IS1aの後端近傍の領域には雌ねじFSが形成されている。
【0035】
小径領域IS1bにより画定される内孔1hの径は、後側大径領域IS1aにより画定される内孔1hの径よりも小さく、一例として8mm〜13mm程度とし得る。小径領域IS1bには、軸方向の全域において雌ねじFSが形成されている。
【0036】
前側大径領域IS1cにより画定される内孔1hの径は、小径領域IS1bにより画定される内孔1hの径よりも大きく、一例として、後側大径領域IS1aにより画定される内孔1hの径と同一とし得る。
【0037】
前端領域12における本体部1の外周面OS1には雄ねじMSが形成されている。
【0038】
前端領域12においては、内孔1hを画定する内周面IS1の断面形状(軸方向に直交する面による断面の形状)は、軸方向の全域において円形である。前端領域12における本体部1の内周面IS1は、軸方向前側に向かうにしたがって広がるテーパ状に形成されている。即ち、前端領域12においては、内孔1hの径は、後端において最も小さく、前側に向かうにしたがって次第に大きくなる。
【0039】
図1図3(a)に示すように、本実施形態では、本体部1の外周面OS1に、被保持領域11と前端領域12とにまたがるフランジFが形成されている。
【0040】
給油部2は、本体部1の内孔1hに切削油を供給するための給油口を与える部分である。
【0041】
図1、2に示す通り、給油部2は、本体部1の後端部に取り付けられた流路付ボルト21と、流路付ボルト21に取り付けられたホースジョイント22とを含む。
【0042】
図4に示す通り、流路付ボルト21は軸(中心軸)A2を有するボルトであり、頭部21Hと、頭部21Hから軸A2に沿って前方に延びる軸部21Aとを含む。
【0043】
頭部21Hは六角柱状である。頭部21Hには、軸A2に沿って延びる内孔21h1、21h2と、頭部21Hの外周面に凹設されたねじ孔thと、径方向に延びて内孔21h2とねじ孔thとを繋ぐ連結孔chとが形成されている。なお、頭部21Hは本実施形態では六角柱状であるが、これには限定されず、円筒形状等の任意の形状とし得る。
【0044】
内孔21h2は内孔21h1よりも前方に位置しており、内孔21h1よりも径が大きい。内孔21h1の径は一例として4mm〜8mm程度、内孔21h2の径は一例として6mm〜10mm程度とし得る。内孔21h1と内孔21h2とは互いに連通して、頭部21Hを軸方向に貫通する貫通孔を構成している。内孔21h1を画定する周面には、周方向の全域に渡って溝G21が形成されている。
【0045】
連通孔chは、内孔21h1と内孔21h2との接続部の近傍において、内孔21h2に連通している。
【0046】
軸部21Aは円筒状である。軸部21Aの外周面には雄ねじMSが形成されている。軸部21Aの中心部には、軸A2に沿って延びる内孔21h3が形成されている。内孔21h3は頭部21Hの内孔21h2に連通している。内孔21h2の径と内孔21h3の径は同一とし得る。
【0047】
ホースジョイント22(図1図2)は、貫通孔22hを有する筒状であり、軸方向に沿ってホース接続部221、六角部222、雄ねじ部223を有する。ホースジョイント22としては例えば、市販のタケノコ継手や、一般的なホール/管用のインレットを使用し得る。
【0048】
ホースジョイント22は、雄ねじ部223を流路ボルト21の頭部21Hのねじ孔thに螺合することにより、流路付ボルト21に接続されている。
【0049】
給油部2は、図7に示すように、流路付ボルト21の軸部21Aの雄ねじMSを、本体部1の内周面IS1の後側小径領域IS1aに形成された雌ねじFSに螺合させて、本体部1の後端に取り付けられている。この状態において、流路付ボルト21の軸A2は、本体部1の軸A1に一致している。また、本体部1の後端面と、流路付ボルト21の頭部21Hの前面との間には、これらの面に密着した状態で環状のガスケットGKが挟まれている。これにより、工具保持構造100の内部に切削油が流される際(詳細後述)に、切削油の漏れが防止される。
【0050】
位置調整部3(図5)は、荷重検出部4(詳細後述)を後方から支持するとともに、荷重検出部4と一体に軸方向に移動して荷重検出部4の軸方向の位置を調整する部材である。
【0051】
位置調整部3は、炭素鋼(一例としてSC材)、ステンレス鋼等の金属で形成された略円筒状の部材であり、軸(中心軸)A3に沿って延びる内孔3hを有する。位置調整部3は、軸方向の後端側から順番に、後端領域31、延在領域32、大径領域33、支持領域34を含む。
【0052】
図1図2に示す通り、後端領域31にはDカット部DCが形成されており、Dカット面DCsが軸A3に平行な面内に延びている(図1)。なお、Dカット部DCにDカット面DCsと平行な他のDカット面を更に設けてもよい。この場合、2つのDカット面をスパナ等で挟んで位置調整部3を回転させることができる。
【0053】
延在領域32における位置調整部3の外径は、後端領域31における位置調整部3の外径よりも大きく、一例として4mm〜8mm程度とし得る。
【0054】
大径領域33における位置調整部3の外径は、延在領域32における位置調整部3の外径よりも大きく、一例として8mm〜13mm程度とし得る。大径領域33の後端近傍は、テーパ状に径が小さくなって延在領域32に接続している。大径領域33の前端近傍も同様に、テーパ状に径が小さくなって支持領域34に接続している。
【0055】
大径領域33においては、位置調整部3の外周面OS3に雄ねじMSが形成されている。また、大径領域33においては、外周面OS3の周方向3か所に、軸方向に延びる溝(連通路)G33が形成されている。溝G33はそれぞれ、軸方向において大径領域33の全域に渡って延びており、大径領域33の前側及び後側に開口している。なお、本実施形態では3つの溝G33が周方向に等間隔に設けられているがこれには限られない。溝G33の数、及び配置は適宜変更し得る。
【0056】
支持領域34における位置調整部3の外径は、大径領域33における位置調整部3の外径よりも小さく、一例として6mm〜12mm程度とし得る。支持領域34の前端近傍の領域には凹部R3が形成されている。凹部R3は、位置調整部3の前端面3fsの中央部に形成された断面円形の凹孔であり、その深さは、本実施形態では、支持領域34の軸方向の長さの約1/2程度である。凹部R3の底面には内孔3hの前端が開口している。
【0057】
内孔3hは、荷重検出部4から延びる配線W42、W44図7)を通すための通路であり、任意の径を有し得る。
【0058】
図7に示す通り、位置調整部3は、本体部1の内孔1hに、本体部1と同軸状に挿入されている。この状態においては、大径領域33における外周面OS3の雄ねじMSが、本体部1の内周面IS1の小径領域IS1bの雌ねじFSに螺合している。また、延在領域32が、給油部2の流路付ボルト21の内孔21h1〜21h3を貫通しており、後端領域31は本体部1及び給油部2の後方に突出している。
【0059】
流路付ボルト21の内孔21h1に設けられた溝G21にはOリングORが配置されている。OリングORは、内孔21h1を貫通する位置調整部3の延在部32の外周面OS3に密接している。これにより、工具保持構造100の内部に切削油が流される際(詳細後述)に、切削油の漏れが防止される。
【0060】
荷重検出部4は、工具保持構造100がドリル刃Dを保持した状態において、ドリル刃Dに軸方向に加えられる荷重(スラスト荷重)を検出する、ダイヤフラム型のロードセルである。
【0061】
荷重検出部4は、図6に示す通り、起歪体41と、起歪体41に貼り付けられた検出用ひずみゲージ42と、起歪体41を支持する起歪体支持部43と、起歪体支持部43に貼り付けられた補償用ひずみゲージ44とを有する。
【0062】
起歪体41は、一例として鉄、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウム(アルミニウム合金)等の金属で形成されている。
【0063】
起歪体41は、軸A4に直交する面内に軸A4を中心として広がる円形膜状の起歪部411と、起歪部411の中央部から軸A4方向の一方側に突出する突起部412と、起歪部411の外周部から突起部412と同じ方向に立ち上がる壁部413と、壁部413の先端から起歪部411の径方向の外側に突出するフランジ部414とを含む。起歪部411、突起部412、壁部413、及びフランジ部414は一体に形成されていてもよい。
【0064】
起歪部411の外径は、一例として6mm〜12mm程度、厚さは一例として0.5mm〜2mm程度とし得る。起歪部411は膜状であるため他の部分よりも変形しやすく、突起部412により軸A4の方向に押されることによって容易に変形し、ひずみを生じる(詳細後述)。
【0065】
突起部412は、略円錐状であり、先端tpには丸みが与えられている。突起部412は、突起部412の中心軸が軸A4に一致するように設けられている。突起部412の長さは限定されないが、一例として2mm〜10mm程度とし得る。突起部412の径は、起歪部411との接続部において1〜4mm程度とし得る。
【0066】
壁部413は、起歪部411の周方向全域に設けられている。壁部413の内面413iは、軸A4に対して傾いている。
【0067】
フランジ部414は、壁部413の周方向全域に設けられている。
【0068】
検出用ひずみゲージ42は、起歪部411の、突起部412が形成された面とは反対側の面に貼り付けられている。検出用ひずみゲージ42の構造は任意であるが、一例として4つのひずみ受感素子を備えるひずみゲージを用いてよい。
【0069】
検出用ひずみゲージ42は、本実施形態では起歪部411の中央部に貼り付けられている。
【0070】
起歪体支持部43は、本実施形態では起歪体41と同一の材料で形成されている。
【0071】
起歪体支持部43は、軸A4を中心軸とする略円筒状の部材であり、軸A4方向に並ぶ大径領域43L及び小径領域43Sを含む。大径領域43Lの外径は、起歪部41のフランジ部414の外径と同一であり、位置調整部3の支持領域34における外径に等しい。小径領域43Sの外径は大径領域43Lの外径よりも小さい。大径領域43Lと小径領域43Sとの接続部には環状の段差面ssが画定されている。
【0072】
起歪体支持部43の大径領域43Lには、端面43Lsから軸A4方向に延びる凹部R4が形成されている。凹部R4の断面形状は円形である。
【0073】
凹部R4の底面と、起歪体支持部43の小径領域43S側の端面43Ssとの間には、軸A4沿いに延びる内孔43hが形成されている。内孔43hは、検出用ひずみゲージ42から延びる配線W42図7)を通過させるための孔であり、任意の寸法を有し得る。
【0074】
図6に示す通り、起歪体41と起歪体支持部43とは、起歪体41の起歪部411及び壁部413を起歪体支持部43の凹部R4に嵌入させることによる締まり嵌め結合により一体に結合されている。起歪体41と起歪体支持部43とが結合された状態において、起歪体41と起歪体支持部43とは同軸状であり、起歪体41のフランジ部414に起歪体支持部43の端面43Lsが当接している。
【0075】
起歪体41と起歪体支持部43とが結合された状態において、凹部R4の内部に、起歪体41と起歪体支持部43とに囲まれた密閉空間が画定され、検出用ひずみゲージ42は当該空間内に配置される。凹部R4の深さは、起歪体41にひずみが生じた際に、起歪部411及び検出用ひずみゲージ42が起歪体支持部43に接触しないように設計される。これにより、荷重検出部4における荷重検出の精度が保たれる。
【0076】
補償用ひずみゲージ44は、起歪体支持部43の小径領域43S側の端面43Ssに貼り付けられている。補償用ひずみゲージ44の構造は任意であるが、検出用ひずみゲージ42と同一のひずみゲージを使用し得る。
【0077】
図7に示す通り、荷重検出部4は、起歪体支持部43の小径領域43Sを、位置調整部3の支持部34の凹部R3に嵌入させることによる締まり嵌め結合により位置調整部3に結合されている。この状態において荷重検出部4は、軸A4を本体部1の軸A1に一致させた状態で、本体部1の内孔1hの内部に配置されている。
【0078】
検出用ひずみゲージ42から延びる配線W42は、起歪体支持部43の内孔43h及び位置調整部3の内孔3hを介して、工具保持構造100の後端側へと延びている。補償用ひずみゲージ44から延びる配線W44は、位置調整部3の内孔3hを介して、工具保持構造100の後端側へと延びている。
【0079】
工具挟持部5(図1図2)は、ドリルDを挟持するための構造である。
【0080】
工具挟持部5は、本体部1の前端において内孔1hに嵌入されてドリルDを挟持するコレットCLと、本体部1の前端領域12の外周面OS1に形成された雄ねじMSに螺合してコレットCLを位置固定するコレットナットCNとを含む。
【0081】
コレットCLは、一般的なコレット(コレットチャック)である。即ち内孔CLhを有する略円筒形であり、軸方向に延びる複数のスリットSを有し、径方向内向きの力を受けた際に弾性変形して外径及び内径が縮小するように構成されている。内孔CLhの径(把握径)は一例として0.5mm〜13mm程度とし得る。本発明において「コレット」とは、内孔を有する円筒形又は略円筒形であり、軸方向に延びる少なくとも1つのスリットを有し、弾性変形により外径及び内径が縮小するように構成された部材を意味する。
【0082】
コレットCLは、軸方向の一端の近傍に外径が最も大きい大径部MXを有し、大径部MXから当該一端部に向かうにしたがって外径が小さくなる第1テーパ領域T1と、大径部MXから他端部に向かうにしたがって外径が小さくなる第2テーパ領域T2とを有する。第2テーパ領域T2のテーパ角は第1テーパ領域T1のテーパ角よりも小さい。
【0083】
コレットナットCNは、一般的なコレットナットであり、円筒状の本体部MPと、本体部MPの一端に設けられた蓋部LP(図7)とを有する。本体部MPの外周面には、締結工具を係合するための複数の係合溝EG(図1図2)が、周方向に沿って等間隔に設けられている。
【0084】
本体部MPの内周面は、蓋部LPが設けられた端部から他端側へと向かうにしたがって内径が大きくなるテーパ領域T3(図7)と、テーパ領域T3と他端側との間のねじ領域S1とを有する。テーパ領域T3のテーパ角は、コレットCLの第1テーパ領域T1のテーパ角に略等しい。ねじ領域S1には雌ねじFSが形成されている。
【0085】
蓋部LPの中央部には、円形状の貫通孔LPh(図7)が形成されている。貫通孔LPhの径は、一例として0.5mm〜13mm程度とし得る。後述する通り、切削油は貫通孔LPhを介してドリルDに噴出するため、貫通孔LPhを小さくするほど、より高速度で噴出する。
【0086】
工具挟持部5のコレットCLは、図7に示す通り、ドリル刃Dの後端領域DRを内孔CLh内に配置した状態で、第2テーパ領域T2が本体部1の前端領域12の内孔1hにはめ込まれている。大径部MXの外径が本体部1の前端における内孔1hの径よりも大きいため、大径部MXは軸方向において本体部1の外側に位置している。
【0087】
工具挟持部5のコレットナットCNの雌ねじFSは、図7に示す通り、ドリル刃Dが蓋部LPの貫通孔LPhを貫通し、コレットCLの第1テーパ領域T1の外周面がテーパ領域T3の内周面に当接した状態で、本体部1の前端領域12の雄ねじMSに螺合している。
【0088】
この状態において、コレットナットCNを締めれば、コレットCLが後方に押されて内孔1hに入り込み、コレットCLの内孔CLhの径は小さくなる。したがって、ドリル刃DはコレットCLにより挟持されて、工具保持構造100に保持される。この状態において、ドリル刃Dの中心軸は工具保持構造100の中心軸Xに一致する。
【0089】
即ち工具保持構造100は、ドリル刃Dが工具保持構造100の前端から前方へと中心軸Xに沿って延び、ドリル刃Dの先端TP(図8)が工具保持構造100の前方に位置するように、ドリル刃Dを保持する。
【0090】
コレットナットCNを緩めれば、コレットCLが前方、即ち内孔1hから脱落する方向に移動可能となる。したがって、コレットCLの内孔CLhの径が大きくなり、ドリル刃Dの取り外しが可能となる。
【0091】
上述した構造を有する工具保持構造100の内部には、ホースジョイント22の貫通孔22h、流路付ボルト21の接続孔ch、流路付ボルト21の内孔21h2、21h3を画定する周面と位置調整部3の外周面OS3との間の空間、本体部1の内周面IS1と位置調整部3の外周面OS3との間の空間(小径領域IS2bの雌ねじFSと大径領域33の雄ねじMSが螺合している領域においては溝G33)、本体部1の内周面IS1と荷重検出部4の外縁との間の空間、及びコレットCLのスリットSにより、切削油のための供給流路が構成されている。
【0092】
なお、上述した構造を有する工具保持構造100のうち、荷重検出部4と位置調整部3とにより、本実施形態の荷重検出構造110(図2)が構成される。
【0093】
次に、本実施形態の工具保持構造100の使用方法を説明する。
【0094】
(1)ドリル刃Dの工具保持構造100への取り付け
工具保持構造100にドリル刃Dを取り付ける際には、まず、位置調整部3を回転させて位置調整部3及び荷重検出部4を後方に移動させる。具体的には、位置調整部3の後端領域31のDカット部DCに工具を係合させて位置調整部3を軸A3回りに回転させる。これにより、大径部33の雄ねじMSが本体部1の内周面IS1の雌ねじFSに螺合している位置調整部3は、本体部1に対して軸方向に移動する。
【0095】
次いで、工具挟持部5のコレットナットCNを緩め、コレットナットCNの貫通孔LPhを介して、コレットCLの内孔CLhにドリル刃Dの後端領域DRを挿入する。
【0096】
ドリル刃Dの軸方向位置を所望の位置に調整した後、工具挟持部5のコレットナットCNを締めて、コレットCLによりドリル刃Dを挟持する。荷重検出部4を後方に退避させた状態でドリル刃Dの位置調整を行うことで、ドリル刃Dの位置調整を、荷重検出部4に干渉されることなく自在に行うことができる。
【0097】
ドリル刃Dの位置を決定した後、位置調整部3を回転させて軸方向に移動させ、荷重検出部4をドリル刃Dに当接させる。具体的には、本体部1の軸A1上において、起歪体41の突起部412の頂部tpを、後方から、ドリル刃Dの後端面Dbsに当接させる(図7)。
【0098】
(2)工具保持構造100の旋盤1000への取り付け
次に、ドリル刃Dを保持した工具保持構造100を、旋盤1000に取り付ける。
【0099】
旋盤1000は、図8に示す通り、ベース300、ベース300の一端側に設けられた主軸台400、主軸台400に回転可能に支持された主軸500、主軸500の軸500Xの方向に延びるベッド600、ベッド600に沿って移動可能な工具台700を主に有する。旋盤1000は更に、ベース300に設けられた制御部810、表示部820、及び切削油タンク900を有する。
【0100】
主軸500は、不図示のモータにより駆動されて、軸500X回りに高速で回転可能である。主軸500には、不図示のチャックを介して被加工物(ワーク)Wが取り付けられる。
【0101】
工具台700は、下端部においてベッド600に摺動可能に接続されている。また、工具台700は、主軸500の軸500Xと同軸状に延びる保持孔700hを有する。
【0102】
工具保持構造100は、旋盤1000の工具台700に取り付ける。具体的には、工具保持構造100の前端が主軸500に対向するように、即ちドリル刃Dの先端TPが主軸500に対向するように、工具保持構造100の本体部1の被保持領域11を工具台700の保持孔700hに挿入する。
【0103】
その後、保持孔700hの周壁を貫通する不図示の貫通孔に不図示の固定用ボルトを通して、工具保持構造100を固定する。これにより、工具保持構造100の中心軸X、及びドリル刃Dの中心軸が、主軸500の中心軸500Xに一致し、且つドリル刃Dの先端TPが主軸500に対向した状態で、工具保持構造100が旋盤1000に取り付けられる。固定用ボルトの先端を本体部1の平面p1〜p3のいずれかに押し当てることにより、工具保持構造100の回転を防止できる。
【0104】
検出用ひずみゲージ42及び補償用ひずみゲージ44から延びる配線W42、W44は、制御部810に接続する。また、切削油タンク900から延びる給油ホース(不図示)を給油部2のホースジョイント22に接続する。
【0105】
(3)切削油の供給
ドリル刃Dを用いた被加工物Wの加工中は、次の様にして、切削油タンク900の切削油が、工具保持構造100の切削油用の供給路を介して、ドリル刃Dと被加工物Wとの接触箇所に供給される。
【0106】
切削油タンク900内に貯蔵された切削油は、給油ホース(不図示)の経路上に配置されたポンプ(不図示)により、給油ホースを介して、給油部2に送られる。給油部2に送られた切削油は、工具保持構造100の内部に構成された切削油用の供給路を流れて、ドリル刃Dと被加工物Wとの接触箇所に吹き付けられる。
【0107】
切削油用の供給路においては、切削油は、次のように流れる(図9)。
【0108】
切削油は、ホースジョイント22の貫通孔22h、流路付ボルト21の連結孔chを通って、流路付ボルト21の内孔21h2、21h3へと流される。
【0109】
流路付ボルト21の内孔21h2、21h3においては、切削油は、内孔21h2を画定する内周面と位置調整部3の延在領域32における外周面OS3との間の筒状の空間SP1を、軸方向の前側に向かって流れる。内孔21h3においては、切削油は、内孔21h3を画定する内周面と位置調整部3の延在領域32における外周面OS3との間の筒状の空間SP2を、軸方向の前側に向かって流れる。
【0110】
その後、切削油は、本体部1の内周面IS1の後側大径領域IS1aと位置調整部3の延在領域32における外周面OS3との間の筒状の空間SP3、及び本体部1の内周面IS1の小径領域IS1bと位置調整部3の延在領域32における外周面OS3との間の筒状の空間SP4を、この順番で、軸方向の前側に向けて流れる。位置調整部3の大径領域33の雄ねじMSが、本体部1の内周面IS1の小径領域IS1bの雌ねじFSに螺合する領域においては、切削油は、位置調整部3の大径領域33に形成された3つの溝G33を通り、大径領域33の前側へと流れる。
【0111】
溝G33を抜けた切削油は、その後、本体部1の内周面IS1の前側大径領域IS1cと位置調整部3の支持領域34における外周面OS3との間の筒状の空間SP5、及び本体部1の内周面IS1の前側大径領域IS1cと荷重検出部4との間の筒状の空間SP6を流れて、荷重検出部4の前側へと至る。そして、コレットCLのスリットSを通って前方へ流れ、コレットナットCNの蓋部LPの貫通孔LPhを介して、ドリル刃Dと被加工物Wとの接触箇所に向けて噴出する。
【0112】
即ち切削油は、給油部2の内孔21h2、21h3の内部、及び本体部1の内孔1hの内部において、位置調整部3と荷重検出部4とを含む荷重検出構造110の周囲に形成される空間を、軸方向の前側に向かって流れる。
【0113】
ここで、検出用ゲージ42は起歪体41と起歪体保持部43とにより囲まれた密閉空間に、補償用ゲージ44は起歪体保持部43と位置調整部3とにより囲まれた密閉空間にそれぞれ配置されているため、検出用ゲージ42、補償用ゲージ44が切削油に接触することはない。なお、「密閉空間」とは、切削油の流入が防止されるように密閉されている空間を意味する。そのため、切削油の存在しない外部空間に開放されている空間も「密閉空間」に含まれる。
【0114】
ドリル刃Dと被加工物Wとの接触箇所に吹き付けられた切削油をドレンタンク(不図示)に回収した後、フィルタでろ過し、切削油タンク900に戻してもよい。
【0115】
(4)工具保持構造100を用いた切削抵抗(スラスト荷重)の検出
ドリル刃Dを用いた被加工物Wの加工、及び加工時にドリル刃Dに付加されるスラスト荷重の検出は、次のように行う。
【0116】
被加工物Wの加工(ここでは穿孔)は、主軸500を回転させながら、工具台700を主軸500側に移動させることにより行う。これにより、主軸500と一体に回転する被加工物Wに、工具保持構造100を介して工具台700に保持されたドリル刃Dの先端TPが押し込まれ、被加工物Wに孔が形成される。
【0117】
被加工物Wにドリル刃Dの先端TPが押し込まれるとき、被加工物Wからの反力により、ドリル刃Dに軸方向の荷重(スラスト荷重)が加えられる。スラスト荷重の大きさは、工具保持構造100により、次のようにして検出される。
【0118】
ドリル刃Dにスラスト荷重が加えられる時、ドリル刃Dを挟持する工具挟持部5のコレットCLがわずかに弾性変形する。これにより、コレットCLが軸方向の後方にわずかに移動し、ドリル刃Dも工具保持構造100の軸方向の後方にわずかに移動する。
【0119】
工具保持構造100の軸方向の後方に移動するドリル刃Dは、ドリル刃Dの後端面Dbsに当接する起歪体41の突起部412を軸方向の後方に押圧する。したがって、突起部412が設けられた起歪部411の中心部も軸方向の後方に押圧される。これにより、変形が生じやすい膜状である起歪部411に、突起部412が起歪部411を押す力の大きさ、ひいてはドリル刃Dに加えられるスラスト荷重の大きさに応じた大きさのひずみが生じる。
【0120】
起歪部411に貼り付けられた検出用ひずみゲージ42は、起歪部411に生じたひずみの大きさに応じてひずみ受感素子の抵抗値を変化させる。配線W42を介して検出用ひずみゲージ42に接続された制御部810は、この抵抗値の変化に基づいてドリル刃Dに加えられたスラスト荷重の大きさを求め、表示部820に表示する。
【0121】
被加工物Wの加工時にドリルDに加えられるスラスト荷重の大きさは、ドリルDの刃先に欠けや鈍りが生じるにしたがって、即ち刃先の状態が悪化するにしたがって大きくなり得る。したがって、制御部810は、求めたスラスト荷重を所定の閾値と比較し、スラスト荷重が所定の閾値を越えた場合には、ドリルDの交換を促す情報を表示部820に表示してもよい。
【0122】
本実施形態の工具保持構造100の製造においては、本体部1及び工具挟持部5を、市販のコレットホルダにより与えてもよい。コレットホルダの本体部により本体部1が、コレットホルダのコレット及びコレットナットにより工具挟持部5が与えられる。
【0123】
この場合は、市販のコレットホルダにわずかな追加工を施して、本実施形態の荷重検出構造110を挿入することにより、容易に本実施形態の工具保持構造100を製造することができる。
【0124】
本実施形態の効果を以下にまとめる。
【0125】
本実施形態の工具保持構造100においては、本体部1の内部に、ドリルD等の工具に切削油を供給する供給路が設けられている。したがって、工具保持構造100によって保持されている工具に対して、容易且つ好適に切削油を供給することができる。
【0126】
本実施形態の工具保持構造100においては、ドリル刃Dを保持するための工具挟持部5が取り付けられる本体部1の内部に、切削抵抗(スラスト荷重)を検出するための荷重検出部4が配置されている。したがって、工具保持機能とスラスト荷重検出機能とを共に備え且つ構造が簡易である。
【0127】
本実施形態の工具保持構造100においては、荷重検出部4の起歪体41を本体部1の中心軸上に配置し、その周囲に切削油用の供給路を設けている。したがって、切削油用の供給路を有しつつも、ドリル刃Dのスラスト荷重を本体部1の中心軸上で起歪体41に付与して高い計測精度を保つことができる。
【0128】
本実施形態の工具保持構造100においては、工具挟持部5がコレットCLによりドリル刃Dを挟持している。したがって、ドリル刃Dの中心軸が工具保持構造100の中心軸に一致した好適な状態でのドリル刃Dの保持を、容易に実現することができる。
【0129】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110は、荷重検出部4が軸方向に移動可能であり、位置調整部3により荷重検出部4の軸方向位置を調整するように構成されている。したがって、ドリル刃Dの長さに応じて荷重検出部4の位置を変更することで、様々な寸法のドリル刃Dを、給油可能且つスラスト荷重の検出が可能な状態で保持することができる。
【0130】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110の荷重検出部4は、膜状の起歪部411を備えており、加えられるスラスト荷重に応じた起歪部411の変形量が比較的大きい。したがって、スラスト荷重が小さい場合でも、検出用ひずみゲージ42を用いた荷重検出を高い精度で行うことができる。
【0131】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110においては、荷重検出部4の起歪体41が、起歪部411の中心部から延びる突起部412を有しており、起歪体41は、突起部412においてドリル刃Dと当接している。このように、膜状の起歪部411とドリル刃Dとを直接当接させるのではなく、起歪部411から軸方向に延びる略棒状の突起部412をドリル刃Dに当接させることで、起歪体41を、様々な形状のドリル刃Dに、好適に当接させることができる。
【0132】
具体的には例えば、ドリル刃Dが短く、ドリル刃Dの後端面Dbsが工具挟持部5のコレットCLの後端よりも前方に位置する場合でも、突起部412をコレットCLの内孔CLhに挿入してドリル刃Dの後端面Dbsに当接させることができる。更に、ドリル刃Dの径が小さく、これを挟持するコレットCLの内孔CLhも小さい場合でも、突起部412をコレットCLの内孔CLhに挿入してドリル刃Dの後端面Dbsに当接させることができる。
【0133】
本実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110は、荷重検出部4が補償用ひずみゲージ44を有しているため、荷重計測の精度が高い。即ち、ドリル刃Dからの荷重によっては変形せず、周囲の温度変化に応じた膨張/収縮のみを生じる起歪体支持部43に貼り付けられた補償用ひずみゲージ44の出力を参照することで、荷重検出時に温度誤差を抑制することができる。
【0134】
本実施形態の工具保持構造100の製造においては、市販のコレットホルダを活用して、製造コストの削減及び製造期間の短縮を実現することができる。
【0135】
<変形例>
上記実施形態の工具保持構造100において、次の変形態様を用いることもできる。
【0136】
上記実施形態の工具保持構造100においては、本体部1の後端に給油部2を取り付けて、本体部1の後端側で切削油を給油している。しかしながら、これには限られない。
【0137】
具体的には例えば、図10に示す変形例の工具保持構造100’のように、本体部1’の前端側で切削油を給油してもよい。変形例の工具保持構造100’の、上記実施形態の工具保持構造100に対する相違点は、次の通りである。
【0138】
図10に示す変形例の工具保持構造100’は、本体部1’の内周面IS1’が、後側大径領域IS1a、小径領域IS1b、前側大径領域IS1cに分かれていない。即ち、内周面IS1’により画定される内孔1h’の径は軸方向全域において一定である。一方で本体部1’の被保持領域11’の前端に本体部1’を径方向に貫通するねじ孔th’が設けられており、ねじ孔th’にホースジョイント22’が螺合されている。
【0139】
変形例の工具保持構造100’においては、流路付ボルト21’はねじ穴th及び連通孔chを有さず、ホースジョイント22も接続されていない。流路付ボルト21’は、主に内孔21h1’により位置調整部3’の径方向の位置を固定する機能を果たす。
【0140】
変形例の工具保持構造100’においては、位置調整部3’の大径領域33’と支持領域34’は略同一の外径を有する。また、大径領域33’には雄ねじMSが切られているが、溝G33は形成されていない。大径領域33’の雄ねじMSは、本体部1’の内周面IS1’に形成された雌ねじFSに螺合しており、位置調整部3’を回転させることで、位置調整部3’を軸方向に移動することができる。
【0141】
変形例の工具保持構造100’においては、位置調整部3’の支持領域34’における外径、及び荷重検出部4’の起歪体41’のフランジ部414’の外径、起歪体支持部43’の大径領域43L’の外径が、本体部1’の内径に略等しい。そのため位置調整部3’の支持領域34’、及び荷重検出部4’は、本体部1’の内周面IS1’に摺動可能な程度に密接している。
【0142】
変形例の工具保持構造100’において、ホースジョイント22’を介して供給された切削油は、内孔1h’内の、荷重検出部4の起歪部411’よりも前側の空間のみを流れて、コレットCLのスリットSを介して、ドリルDに向けて噴出する。また、位置調整部3や荷重検出部4の外周面と本体部1の内周面IS1’との間を通って切削油が後方にもれたとしても、流路付ボルト21’の内孔21h1’の溝G21に設けられたOリングORにより、工具保持構造100’の外側への切削油の漏出が防止される。
【0143】
なお、上述した構造を有する変形例の工具保持構造100’のうち、荷重検出部4’と位置調整部3’とにより、変形例の荷重検出構造110’が構成される。
【0144】
その他の変形態様として、上記実施形態の工具保持構造100において、給油部2を上記変形例の流路付ボルト21’に置き換えて、上記変形例のホースジョイント22’を、本体部1の任意の位置において本体部1を径方向に貫通するねじ孔に螺合してもよい。ねじ孔の位置を内周面IS1の小径領域IS1bよりも前方とする場合は、位置調整部3の大径領域33の溝G33は省略し得る。
【0145】
上記実施形態の工具保持構造100においては、本体部1の内周面IS1の小径領域IS1bの雌ねじFSと、位置調整部3の大径部33の雄ねじMSとが螺合する領域においては、大径部33に設けた溝G33を介して切削油を流通させているが、これには限られない。
【0146】
具体的には例えば、大径部33の内部に、大径部33を貫通して大径部33の前側と後側とを連通させる流路(連通路)を設け、当該流路を介して切削油を流してもよい。又は内周面IS1の小径領域IS1bに、軸方向に延びて小径領域IS1bの前側及び後側に開口する溝を設け、当該溝を介して切削油を流してもよい。
【0147】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110においては、荷重検出部4の起歪体41は突起部412を有さなくてもよい。この場合は例えば、ドリル刃Dの後端面Dbsを起歪部411に直接当接させてもよい。なお、本発明において「起歪体が棒状工具に当接する」とは、起歪体と棒状工具とが直接接触する場合のみではなく、起歪体と棒状工具との間に、なんらかの介在物(荷重を伝達する部材)が存在する場合も含むものとする。
【0148】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、膜状の起歪部411を有する起歪体41に代えて、コラム(円柱)型の起歪体45を用いてもよい(図11)。この場合は例えば、起歪体45の中心軸を本体部1の中心軸に一致させた状態で、起歪体45の一端面を凹部R4の底面に当接させ、他端面をドリル刃Dの後端面Dbsに当接させる。ひずみゲージ42(図11では不図示)は、起歪体45の外周面に取り付けられ、必要に応じて耐油性を有するフィルム等により覆うことにより保護される。ひずみゲージ42から延びる配線W42は例えば、凹部R4の底面及び内周面に形成された溝を介して内孔43hに導かれ得る。この態様においても、起歪体45は本体部1の軸A1上においてドリル刃Dに当接する。なお、本発明において、起歪体とドリル刃(棒状工具)とが軸上で当接するという場合は、起歪体と棒状工具とが実際に軸上で当接する態様のほか、起歪体と棒状工具とが、棒状工具から起歪体へと加えられる荷重の重心が軸上に位置するように当接する態様も含むものとする。
【0149】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110においては、荷重検出部4の起歪体41と起歪体支持部43とを同一の材料で形成しているが、これには限られない。起歪体支持部43は、起歪体41を形成する材料と線膨張係数が等しい又は類似する任意の材料により形成することができる。起歪体41を形成する材料と起歪体支持部43を形成する材料との間で線膨張係数が一致又は類似していれば、起歪体支持部43に貼り付けられた補償用ひずみゲージ44は、温度誤差補償機能を果たすことができる。
【0150】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、起歪体保持部43を省略して、位置調整部3により起歪体41を保持してもよい。
【0151】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、荷重検出部4の起歪体保持部43及び補償用ひずみゲージ44を省略してもよい。この場合は例えば、位置調整部3を起歪体41に当接させてもよい。
【0152】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、検出用ひずみゲージ42は荷重検出機能を果たし得る任意の位置に取り付けてよく、補償用ひずみゲージ44は補償機能を果たし得る任意の位置に取り付けてよい。取付位置において切削油と接触する場合は、必要に応じて耐油フィルム等で覆って保護してもよい。
【0153】
上記実施形態の工具保持構造100及び荷重検出構造110において、検出用ひずみゲージ42から延びる配線W42、及び/又は補償用ひずみゲージ44から延びる配線W44を省略し、検出信号を無線により送信する構成としてもよい。また、この場合は、位置調整部3の内孔3h、及び荷重検出部4の起歪体支持部43の内孔43hを省略してもよい。
【0154】
上記実施形態の工具保持構造100において、荷重検出部4は、本体部1の内部において位置固定されていてもよい。この場合は、位置調整部3及び移動規制部4は省略し得る。
【0155】
上記実施形態の工具保持構造100においては、工具挟持部5はコレットナットCNとテーパ形状を有するコレットCLとを有していたが、これには限られない。工具挟持部5は、ドリル刃Dを、周方向については旋削時に回転が生じない強さで固定し、且つ軸方向については微小な移動を許容する強さで固定する任意の態様でドリル刃Dを挟持し得る。
【0156】
具体的には例えば、コレットCLはテーパ形状を有さなくてもよい。このようなコレットであっても、本体部1の前端領域12のテーパ状の内周面により、内径が縮小され、ドリル刃Dを挟持できる。
【0157】
コレットCL及びコレットナットCNに代えて、2つ以上のくさび型の挟持具によりドリル刃Dの後端領域DRを挟持し、当該くさび型の挟持具とドリル刃Dの後端領域DRとを、本体部1の前端領域12に嵌入してもよい。
【0158】
工具挟持部5の全部又は一部は、必ずしも本体部1と別体の部材である必要はない。例えば、単に本体部1の前端側にドリル刃Dの後端近傍を嵌入し、締まり嵌めによりドリル刃Dを保持してもよい。この場合は、ドリル刃Dの周方向の回転を防止するための、キー及びキー溝を、本体部1及びドリル刃Dに設けてもよい。また、ドリル刃Dにキー又はキー溝を与えるための取付具をドリル刃Dの後端領域DRに取り付けてもよい。この場合は例えば、ドリル刃Dの内部に切削油用の供給路を設けてもよい。
【0159】
上記実施形態においては、旋盤1000にドリル刃Dを固定する場合を例として説明したがこれには限られない。工具保持構造100は、工作機械において、任意の棒状工具を静止工具として使用する際に、これを保持することができる。棒状工具は、ドリル刃の他には例えば、タップやリーマを含む。
【0160】
上記実施形態及び変形態様の工具保持構造と、旋盤1000が備える制御部800とにより、工具状態監視システムを構成してもよい。この工具状態監視システムは例えば、検出用ひずみゲージ42の出力に基づいてドリル刃Dに加えられた切削抵抗(スラスト荷重)を求め、求めた切削抵抗と所定の閾値との比較に基づいてドリル刃Dの交換の要否を判定する。具体的には例えば、求めた切削抵抗が所定の閾値を越えた場合に、ドリル刃Dの交換が必要であると判定する。判定結果は、任意の表示部に表示されてもよい。
【0161】
上記の各変形例は、互いに矛盾が生じない限り、組み合わせて適用し得る。
【0162】
本発明及び本明細書において、「切削油」とは、油性の切削油、水溶性の切削油(切削剤)など、切削加工において用いられ得る様々な種類を含む。
【0163】
本発明の特徴を維持する限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0164】
1 本体部、2 給油部、3 位置調整部、4 荷重検出部、5 工具挟持部、21 起歪体、211 起歪部、212 突起部、22 検出用ひずみゲージ、23 起歪体保持部、CL コレット、CN コレットナット、D ドリル刃、 1000 旋盤
【要約】
【課題】棒状工具を保持する機能と当該棒状工具に加わるスラスト荷重を検出する機能とを共に備え且つ保持した棒状工具に切削油を供給可能な工具保持構造を提供する。
【解決手段】棒状工具を保持し且つ該棒状工具に付加されるスラスト荷重を検出する工具保持構造は、一端側の開口に前記棒状工具が挿入される筒状の本体部と、前記本体部の前記開口に挿入された前記棒状工具を挟持する工具挟持部と、前記筒状の本体部の前記開口よりも他端側において、前記筒状の本体部の内部に配置される起歪体と、前記起歪体に取り付けられたひずみゲージと、前記筒状の本体部の内部に設けられ、前記棒状工具に切削油を供給する供給路とを備える。工具保持構造は、前記スラスト荷重を検出するために前記棒状工具を前記起歪体に当接させて保持する。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11