(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。
【0014】
図1に示すように、実施形態に係る密封構造が使用される内燃機関1は、シリンダーヘッド2を備える。シリンダーヘッド2は、シリンダー(図示せず)の上方に配置されている。シリンダーの内部にはピストン(図示せず)が往復運動可能に配置されている。シリンダーヘッド2と、シリンダーとピストンは、燃焼室4を画定する。シリンダーヘッド2には、吸気ポート6と排気ポート8が形成されており、吸気ポート6と排気ポート8には、それぞれ吸気バルブ10と排気バルブ12が配置されている。
【0015】
吸気バルブ10と排気バルブ12の各々は、円筒形のバルブステム(棒体)14と、バルブステム14の下端に取り付けられたバルブヘッド16を有する。各バルブは、バルブステム14の軸線方向に往復運動可能であって、往復運動に伴って、バルブヘッド16がポート6または8を開閉する。シリンダーヘッド2には、各バルブステム14の往復運動を案内する円筒状のバルブステムガイド(ガイド)18が固定されており、バルブステムガイド18にバルブステム14が挿入されている。
【0016】
各バルブステム14の上端には、カムフォロワー20が取り付けられている。カムフォロワー20の上面には、カムシャフト22に取り付けられたカム24が接触する。
【0017】
また、各バルブステム14の上端には、スプリングシート26が取り付けられている。スプリングシート26と、シリンダーヘッド2に形成されたスプリングシート28との間には、コイルスプリング29が圧縮状態で配置されている。コイルスプリング29の弾性復元力は、バルブステム14を常に上方に持ち上げる方向に働く。
【0018】
上記構成において、カムシャフト22の回転によってカム24が、コイルスプリング29の弾性復元力に抗して、カムフォロワー20を押し下げると、バルブステム14が下降して、ポート6または8が開かれる。カムシャフト22の回転によって、カム24がカムフォロワー20を押し下げる力が減少すると、コイルスプリング29の弾性復元力によって、バルブステム14が上昇して、ポート6または8が閉じられる。
【0019】
バルブステムガイド18の端部およびバルブステム14の中央部は、バルブステムシール(密封装置)30で覆われている。バルブステムシール30は、周囲の油室32のエンジンオイルがバルブステム14とバルブステムガイド18の間の間隙(
図2および
図3の間隙Ga)に流入することを許容し、バルブステム14とバルブステムガイド18を潤滑する。但し、エンジンオイルによる白煙の発生を低減または防止し、エンジンオイルの消費を削減するため、バルブステムシール30は、バルブステム14とバルブステムガイド18の間の間隙へのエンジンオイルの流入量を適切に抑制する。
【0020】
図2から
図7を参照して、バルブステムシール30とバルブステムガイド18を有する密封構造をさらに詳しく説明する。
図2は、バルブステム14およびバルブステムガイド18に接触させられていないバルブステムシール30を示し、
図2では、参考のため、バルブステム14およびバルブステムガイド18を仮想線で示す。
図3は、バルブステム14およびバルブステムガイド18に接触させられた使用状態のバルブステムシール30を示す。バルブステムシール30およびバルブステムガイド18は円筒状の形状を有するが、
図2および
図3においては、それらの左側部分のみが示されている。
【0021】
図4は、バルブステムシール30を示す正面図である。
図5は、バルブステムシール30を示す側面図である。
図6は、
図4のVI−VI線矢視断面図であり、バルブステムシール30の断面だけでなく、バルブステムガイド18の断面も示す。
【0022】
図2および
図3に示すように、バルブステムガイド18の内周面は、バルブステム14の外周面と間隙Gaをおいて配置されている。バルブステムシール30には、間隙Gaを通じて、燃焼室4の高い圧力(以下、「背圧」と呼ぶ)が与えられる。特に、排気ポート8に設けられるバルブステムシール30には、排気
行程での高い背圧が与えられる。
【0023】
バルブステムシール30は、弾性環34と剛性環36を有する二重構造である。弾性環34は、弾性材料(例えばエラストマー)から形成されている。剛性環36は、剛性材料(例えば金属)から形成され、弾性環34に密着させられて、弾性環34を補強する。
【0024】
弾性環34は、弾性環円筒部38、内側円環部40、および連結円環部42を備える。弾性環円筒部38には、バルブステムガイド18が締まり嵌め方式で嵌め入れられる。したがって、弾性環円筒部38の内周面は、バルブステムガイド18の外周面に接触する。
【0025】
弾性環円筒部38の内周面には、突出環状壁部分38A,38Bが形成されている。各突出環状壁部分は、周方向に連続した突起であり、バルブステムガイド18が弾性環円筒部38に嵌め入れられると、突出環状壁部分38A,38Bは、バルブステムガイド18の外周面により、半径方向外側に圧縮されて弾性変形する。
図2は、バルブステムガイド18を仮想線で示し、圧縮されていない状態の突出環状壁部分38A,38Bを示す。
図3は、バルブステムシール30がバルブステムガイド18に装着されて、圧縮された状態の突出環状壁部分38A,38Bを示す。
【0026】
内側円環部40は、弾性環円筒部38の上方に配置され、弾性環円筒部38よりも小さい外径および内径を有する。
【0027】
連結円環部42は、弾性環円筒部38の上端と内側円環部40を連結する。連結円環部42には、バルブステムガイド18の端面が接触する。
【0028】
内側円環部40には、メインリップ44と、背圧リップ46と、複数の突起48が形成されている。メインリップ44と背圧リップ46には、バルブステム14の外周面が摺動可能に接触する。メインリップ44は、主に油室32のエンジンオイルが過剰にバルブステムガイド18に向けて流入しないように設けられている。背圧リップ46は、バルブステム14とバルブステムガイド18の間の間隙Gaを通じてバルブステムシール30に与えられる背圧を受けて、過剰な背圧によってメインリップ44が過剰に変形しないように設けられている。複数の突起48は、バルブステム14を囲むように、周方向に間欠的に配置されている。これらの突起48は、バルブステムシール30をバルブステムガイド18に装着した場合に、バルブステムシール30がバルブステム14に対して偏心していても、メインリップ44と背圧リップ46がバルブステム14の全周にわたってほぼ均等な接触圧で接触するように、設けられている。
【0029】
図3に示すように、バルブステム14に接触すると、メインリップ44と背圧リップ46は変形し、バルブステム14の外周面に全周にわたって接触する。但し、バルブステム14とバルブステムガイド18の間の間隙Gaに適量のエンジンオイルを供給するため、メインリップ44とバルブステム14の外周面の間には、微小な間隙(図示せず)が設けられ、背圧リップ46とバルブステム14の外周面の間にも、微小な間隙(図示せず)が設けられている。
【0030】
不可欠ではないが、
図3に示すように、内側円環部40の周囲には、ガータースプリング50を巻きつけてもよい。この実施形態では、内側円環部40の外周面にガータースプリング50を受ける周溝52が形成されている。ガータースプリング50は、メインリップ44および突起48を内側に向けて押圧し、バルブステム14に対するメインリップ44および突起48の接触圧を高める。
【0031】
剛性環36は、剛性環円筒部54および円環部56を備える。剛性環円筒部54は、弾性環34の弾性環円筒部38の外周面に固定されている。したがって、弾性環34の弾性環円筒部38は、剛性環36の剛性環円筒部54に全周にわたって包囲されており、半径方向への移動または膨張が拘束されている。円環部56は、弾性環34の内側円環部40および連結円環部42に固定されている。
【0032】
剛性環円筒部54は、小径円筒部54A、大径円筒部54B、および連結円錐台部54Cを有する。これらは互いに同軸に配置されている。大径円筒部54Bは、小径円筒部54Aよりも大きな外径および内径を有する。連結円錐台部54Cは、小径円筒部54Aと大径円筒部54Bを円滑に連結する。
【0033】
小径円筒部54Aは、弾性環34側に配置されており、弾性環34の弾性環円筒部38の外周面に固定され、弾性環円筒部38を全周にわたって包囲する。連結円錐台部54Cおよび大径円筒部54Bは、弾性環34から離れた位置に配置されている。
【0034】
バルブステムガイド18の外周面には、凹部58が形成されている。この実施形態では、凹部58はバルブステムガイド18の周方向に連続する1つの周溝である。
【0035】
剛性環円筒部54の大径円筒部54Bには、複数のフック爪60が周方向に間欠的に形成されている。
図4および
図6に示すように、この実施形態では、フック爪60の数は2であるが、3以上であってもよい。好ましくは、
図4および
図6に示すように、これらのフック爪60は、周方向に等角間隔をおいて配置されている。但し、フック爪60の角間隔は不均等であってもよい。
【0036】
図2および
図3に示すように、各フック爪60は、根元部60Aと先端部60Bを有する。根元部60Aは、大径円筒部54Bの一部分であり、各フック爪60は、根元部60Aから径方向内側かつ上側(メインリップ44側)に延びており、先端部60Bがバルブステムガイド18の凹部58に嵌め込まれている。
【0037】
この実施形態では、バルブステムガイド18の凹部58は周方向に連続する1つの周溝であるが、バルブステムガイド18の外周面に複数の凹部58が周方向に間欠的に(フック爪60が嵌め込まれる位置にのみ)形成されていてもよい。
【0038】
各フック爪60がバルブステムガイド18の凹部58に嵌め込まれることにより、バルブステム14とバルブステムガイド18の間の間隙Gaを通じて、バルブステムシール30に高い背圧が与えられても、バルブステムガイド18からバルブステムシール30が外れにくい。すなわち、フック爪60はバルブステムシール30の外れ止めとして機能する。
【0039】
フック爪60の根元部60Aの径方向内側の面には、凹溝62が形成され、これにより根元部60Aには、フック爪の他の部分よりも薄い薄肉部64が形成されている。したがって、フック爪60は、薄肉部64に他の部分よりも大きな可撓性を有する。
【0040】
図4から
図7に示すように、剛性環円筒部54の大径円筒部54Bには、フック爪60の輪郭を画定するスリット66が形成されている。スリット66は大径円筒部54Bを貫通する。
図5に示すように、スリット66の形状は、ほぼ逆U字形であり、ほぼ矩形であるフック爪60を三方向において取り囲む。
【0041】
図7に示すように、剛性環円筒部54の大径円筒部54Bの内周面において、フック爪60がない位置に凹溝68が形成されている。凹溝68は、フック爪60の根元部60Aの凹溝62と協働して、大径円筒部54Bの周方向に連続する周溝70を構成する。換言すれば、周溝70がスリット66に分断されて、凹溝62と凹溝68が形成されている。
【0042】
図8は、バルブステムシール30をバルブステムガイド18に装着する時、すなわち、バルブステムシール30にバルブステムガイド18を嵌め入れる時のフック爪60を示す。この時、フック爪60の先端部60Bが仮想線で示すように凹部58に侵入するまで、矢印で示すように、先端部60Bをバルブステムガイド18の外周面に摺動させる。この時、フック爪60、特に薄肉部64が曲がるため、バルブステムガイド18の外周面に損傷を与えにくい。仮想線で示すように、一旦、フック爪60の先端部60Bが凹部58に嵌まれば、フック爪60は凹部58から外れにくいので、バルブステムシール30に図の矢印と逆向きに高い背圧が与えられても、バルブステムガイド18からバルブステムシール30が外れにくい。
【0043】
また、この実施形態においては、剛性環円筒部54は、小径円筒部54Aと大径円筒部54Bとを備え、フック爪60は大径円筒部54Bに形成されている。小径円筒部54Aに比べて大径円筒部54Bは、バルブステムガイド18の外周面から遠くに位置している。剛性環円筒部54にフック爪60を形成した後、剛性環円筒部54の内周面にバリ72が残ることがありうる。しかし、フック爪60は、大径円筒部54Bに形成されているため、大径円筒部54Bにバリ72が残っても、バルブステムシール30をバルブステムガイド18に装着する際、バリ72がバルブステムガイド18の外周面に接触するおそれが少なく、バルブステムガイド18の外周面に損傷を与えにくい。
【0044】
実施形態においては、
図8に示すように、フック爪60の根元部60Aの径方向内側の面に凹溝62が形成され、これにより薄肉部64が設けられている。しかし、
図9に示すように、フック爪60の根元部60Aの径方向外側の面に凹溝62が形成され、これにより薄肉部64が設けられていてもよい。
【0045】
但し、
図8に示すように、フック爪60の根元部60Aの径方向内側の面に凹溝62が形成される実施形態の方が有利である。なぜなら、後述する剛性環36の製造時に、
図9の場合に比べて、凹溝62を折れ線として、フック爪60を折り曲げ成形しやすいからである。
【0046】
次に、密封装置であるバルブステムシール30の製造方法、特に剛性環円筒部54のフック爪60を成形する方法を説明する。
【0047】
まず、剛性環円筒部54の大径円筒部54Bの内周面または外周面に上記の周溝70(
図7参照)を形成する。周溝70は、切削加工によって形成してもよいし、型を用いてプレス加工またはキャスティングによって剛性環36を製造する際に、周溝70も型によって形成してもよい。
【0048】
次に、大径円筒部54Bに、フック爪60の輪郭を画定するスリット66を、例えば切削加工または打ち抜き加工によって形成する。スリット66は、剛性環円筒部54の長手方向に周溝70を横断するので、スリット66の形成によって、大径円筒部54Bには、凹溝62と凹溝68が残される。
【0049】
そして、フック爪60を周溝70の残存部分である凹溝62を折れ線として、薄肉部64で折り曲げる。このようにしてフック爪60が成形される。
【0050】
弾性環34と剛性環36は、フック爪60の成形の前または後に一体化される。例えば、剛性環36を型の内部に配置し、弾性環34の材料を型に入れて弾性環34をプレス加工または射出成形によって成形することによって、弾性環34と剛性環36を一体化することができる。
【0051】
この製造方法においては、スリット66を形成してフック爪60の輪郭を画定する前に周溝70を形成することにより、フック爪60の薄肉部64を形成することができる。これにより、フック爪60の輪郭を画定した後にフック爪60の薄肉部64を形成する場合に比べて、薄肉部64を形成することが容易かつ効率的である。
【0052】
変形例
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【0053】
例えば、上記の実施形態においては、密封装置は、バルブステム14とバルブステムガイド18とを密封するバルブステムシール30である。しかし、本発明は、ピストン式の燃料ポンプのピストン(往復運動可能な棒体)とピストンガイドを密封する密封装置にも適用することができる。
【0054】
弾性環34の弾性環円筒部38の内周面は、摩擦係数が小さくエラストマーより硬い樹脂材料でコーティングして、弾性環円筒部38にバルブステムガイド18を嵌め入れやすくしてもよい。このような樹脂材料としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がある。
【0055】
弾性環34のメインリップ44、背圧リップ46および突起48の少なくともいずれかをこのような樹脂材料でコーティングして、これらの摩耗を低減させてもよい。
【0056】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0057】
条項1. 円筒形部分を有する棒体と、前記棒体の軸線方向に前記棒体を往復運動可能に案内する円筒状のガイドとを封止する密封装置であって、
弾性材料から形成された弾性環と、前記弾性環を補強するよう前記弾性環に固着され剛性材料から形成された剛性環とを備え、
前記弾性環は、前記棒体の外周面が摺動可能に接触するリップを備え、
前記剛性環は、前記ガイドの端部の径方向外側に配置される剛性環円筒部を備え、
前記剛性環円筒部は、前記ガイドの外周面に形成された凹部に嵌め込まれる複数のフック爪を有しており、
前記複数のフック爪の各々は、根元部と、前記根元部よりも径方向内側にあって前記凹部に嵌め込まれる先端部とを有し、
前記フック爪の前記根元部に、前記フック爪の他の部分よりも薄い薄肉部が形成されている
ことを特徴とする密封装置。
【0058】
条項2. 前記フック爪の前記根元部の径方向内側の面に凹溝が形成されていることにより、前記薄肉部が形成されている
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0059】
この条項では、根元部の径方向外側の面に凹溝が形成されている場合に比べて、剛性環の製造時にフック爪を折り曲げ成形しやすい。
【0060】
条項3. 前記剛性環円筒部は、小径円筒部と、前記小径円筒部と同軸であって前記小径円筒部よりも内径が大きい大径円筒部とを備え、
前記小径円筒部は、前記弾性環側に配置され、
前記フック爪は、前記大径円筒部に形成されている
ことを特徴とする条項1または2に記載の密封装置。
【0061】
小径円筒部に比べて大径円筒部は、ガイドの外周面から遠くに位置している。剛性環円筒部にフック爪を形成した後、剛性環円筒部の内周面にバリが残ることがありうる。しかし、この条項によれば、フック爪が、大径円筒部に形成されており、大径円筒部にバリが残っても、密封装置を棒体のガイドに装着する際、バリがガイドの外周面に接触するおそれが少なく、ガイドの外周面に損傷を与えにくい。
【0062】
条項4. 前記剛性環円筒部の内周面に周方向に連続する周溝を形成することと、
前記剛性環円筒部に、前記剛性環円筒部の長手方向に前記周溝を横断し、前記フック爪の輪郭を画定するスリットを形成することと、
前記フック爪を前記周溝に対応する前記薄肉部で折り曲げることとを
備える条項1から3のいずれか1項に記載の密封装置の製造方法。
【0063】
この条項においては、スリットを形成してフック爪の輪郭を画定する前に周溝を形成することにより、フック爪の薄肉部を形成することができる。これにより、フック爪の輪郭を画定した後にフック爪の薄肉部を形成する場合に比べて、薄肉部を形成することが容易かつ効率的である。