(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記湿式磁選工程で回収した磁着物中のコバルト(Co)品位が10%を超え、かつコバルト(Co)の磁着物中への回収率が50%以上である、請求項1から8のいずれかに記載の有価物の回収方法。
前記酸浸出工程で用いる酸性溶液が硫酸であり、前記中和工程で中和後液中の硫酸イオンが10.0g/L以下となるまで中和する、請求項10から13のいずれかに記載の有価物の回収方法。
前記中和工程で得られたスラリーを固液分離した液に対し、カルシウムイオンを固化して分離するカルシウム固化除去工程を含む、請求項10から15のいずれかに記載の有価物の回収方法。
カルシウム固化除去工程の対象液の液温が40℃以下であり、かつリチウム濃度が5,000mg/L未満である、請求項16から18のいずれかに記載の有価物の回収方法。
前記中和工程後に、陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂のずれか一方または双方を用いたイオン吸着除去工程を行う、請求項10から19のいずれかに記載の有価物の回収方法。
前記中和工程もしくはカルシウム固化除去工程後に、陽イオン交換樹脂を用いたカルシウム吸着除去工程を行う、請求項16から20のいずれかに記載の有価物の回収方法。
前記カルシウム吸着除去工程前または前記カルシウム吸着除去工程後に、電気透析により、陽イオン吸着除去後液の予備濃縮を行う、請求項21に記載の有価物の回収方法。
カルシウム固化除去後液もしくはカルシウム吸着除去後液を加温することにより炭酸リチウムの溶解度を低下させた後、固液分離して炭酸リチウムと晶析後液を回収する、請求項21から23のいずれかに記載の有価物の回収方法。
カルシウム固化除去後液もしくはカルシウム吸着除去後液を蒸発濃縮した後、固液分離して炭酸リチウムと晶析後液を回収する、請求項21から24のいずれかに記載の有価物の回収方法。
磁着物から硫酸コバルトもしくは硫酸ニッケルを精製し、かつ硫酸コバルトもしくは硫酸ニッケルを回収した回収後液から炭酸リチウムもしくは水酸化リチウムを回収する、請求項1から26のいずれかに記載の有価物の回収方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(有価物の回収方法)
本発明の有価物の回収方法は、熱処理工程と、破砕・分級工程と、水浸出工程と、湿式磁選工程と、酸浸出工程とを含み、固液分離工程および中和工程を含むことが好ましく、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0012】
本発明の有価物の回収方法は、リチウムイオン二次電池から有価物を回収するための方法である。
ここで、有価物とは、廃棄せずに取引対象たりうる価値のあるものを意味し、例えば、各種金属などが挙げられる。リチウムイオン二次電池における有価物としては、例えば、高品位の炭素(C)濃縮物、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。高品位(炭素(C)品位80%以上)の炭素(C)濃縮物は金属の製錬における還元剤等に用いられる。
【0013】
−リチウムイオン二次電池−
リチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0014】
リチウムイオン二次電池の形状、構造、大きさ、および材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
また、リチウムイオン二次電池の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バッテリーセル、バッテリーモジュール、バッテリーパックなどが挙げられる。ここで、バッテリーモジュールは、単位電池であるバッテリーセルを複数個接続して一つの筐体にまとめたものを意味し、バッテリーパックとは、複数のバッテリーモジュールを一つの筐体にまとめたものを意味する。また、バッテリーパックは、制御コントローラーまたは冷却装置を備えたものであってもよい。
【0015】
リチウムイオン二次電池としては、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質および有機溶剤を含有する電解液と、正極、負極、セパレーター、および電解液を収容する電池ケースである外装容器と、を備えたものなどが挙げられる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極および負極などが脱落した状態であってもよい。
【0016】
−−正極−−
正極としては、正極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0017】
−−−正極集電体−−−
正極集電体としては、その形状、構造、大きさ、および材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
正極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。
【0018】
正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムを含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。
正極活物質としては、例えば、LMO系と称されるマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、LCO系と称されるコバルト酸リチウム(LiCoO
2)、3元系およびNCM系と称されるLiNi
xCo
yMn
zO
2(x+y+z=1)、NCA系と称されるLiNi
xCo
yAl
z(x+y+z=1)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、コバルト・ニッケル酸リチウム(LiCo
1/2Ni
1/2O
2)、チタン酸リチウム(Li
2TiO
3)などが挙げられる。また、正極活物質としては、これらの材料を組合せて用いてもよい。
導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体または共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0019】
−−負極−−
負極としては、カーボン(C)を含有する負極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0020】
−−−負極集電体−−−
負極集電体としては、その形状、構造、大きさ、および材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
負極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。
【0021】
負極活物質としては、カーボン(C)を含有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料などが挙げられる。また、負極活物質としては、チタネイト、シリコンなどの非炭素材料がカーボンに組合せて用いてられていてもよい。
【0022】
また、リチウムイオン二次電池の外装容器(筐体)の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレススチール、樹脂(プラスチック)などが挙げられる。
【0023】
以下、本発明の有価物の回収方法における各工程について、詳細に説明する。
【0024】
<熱処理工程>
熱処理工程は、リチウムイオン二次電池を熱処理することにより、熱処理物を得る工程である。熱処理物(焙焼物)とは、リチウムイオン二次電池を熱処理して得られたものを意味する。
熱処理工程における熱処理を行う手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の焙焼炉により対象物を加熱することにより熱処理を行うことができる。
焙焼炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル炉等のバッチ式炉、キュポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0025】
熱処理に用いる雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。
大気雰囲気(空気雰囲気)とは、酸素が約21体積%、窒素が約78体積%の大気(空気)を用いた雰囲気を意味する。
不活性雰囲気とは、窒素またはアルゴンからなる雰囲気を例示できる。
還元性雰囲気とは、例えば、窒素またはアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H
2、H
2S、SO
2などを含む雰囲気を意味する。
低酸素雰囲気とは、酸素分圧が11%以下である雰囲気を意味する。
【0026】
<<熱処理の条件>>
対象物を熱処理(加熱)する条件(熱処理条件)としては、対象物の各構成部品を、後述する破砕・分級工程において分離して破砕可能な状態とすることができる条件であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、熱処理条件としては、例えば、熱処理温度、熱処理時間などが挙げられる。
【0027】
熱処理温度とは、熱処理時の対象物であるリチウムイオン二次電池の温度のことを意味する。熱処理温度は、熱処理中の対象物に、カップル、サーミスタなどの温度計を差し込むことにより、測定することができる。
【0028】
熱処理における温度(熱処理温度)としては、750℃以上が好ましく、750℃以上1,080℃以下がより好ましく、750℃以上900℃以下が特に好ましい。熱処理温度を750℃以上とすることにより、正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)O
2または電解質中のLiPF
6におけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、酸化リチウム(Li
2O)等のリチウムが水溶液に可溶な形態の物質にすることができ、リチウムを浸出時にフッ素以外の不純物と分離することができる。また、熱処理温度を750℃以上とすることによって、正極活物質に含まれるコバルト酸化物およびニッケル酸化物のメタルへの還元が生じる。また、これらのメタルを後段の磁選において磁着し易い粒径まで成長させることができる。この粒径増加はより高温度で熱処理するほど生じやすい。
また、リチウムイオン二次電池の外装容器には、熱処理温度より高い融点を有する材料が用いられることが好ましい。
リチウムイオン二次電池の外装容器に熱処理温度より低い融点を有する材料が用いられる場合は、酸素濃度11vol%以下の低酸素雰囲気下、または、少なくとも焙焼中のリチウムイオン二次電池内部(特に、リチウムイオン二次電池の外装容器内に配置された正極集電体と負極集電体)において酸素濃度が11vol%以下となるように、熱処理することが好ましい。
【0029】
また、低酸素雰囲気の実現方法としては、例えば、リチウムイオン二次電池、正極、または負極を、酸素遮蔽容器に収容し熱処理してもよい。酸素遮蔽容器の材質としては、熱処理温度以上の融点である材質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理温度が800℃である場合は、この熱処理温度よりも高い融点を有する鉄、ステンレス鋼などが挙げられる。
リチウムイオン二次電池または積層体中の電解液燃焼によるガス圧を放出するために、酸素遮蔽容器には開口部を設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して12.5%以下となるように設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して6.3%以下であることがより好ましい。開口部は、その形状、大きさ、および形成箇所などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記酸素遮蔽容器にリチウムイオン二次電池を収容した状態で熱処理することで、負極活物質のカーボンを燃焼させることなく残存させることができ、炭素の回収率を向上できる。
リチウムイオン二次電池を熱処理する時間(熱処理時間)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以上5時間以下が好ましく、1分間以上2時間以下がより好ましい。熱処理時間はリチウムを含む化合物が所望の温度まで到達する熱処理時間であればよいが、昇温速度を緩やかにすることでリチウムの不溶性酸化物の生成を抑制し、リチウムの水浸出率を向上できる。加えて、後述の非磁着物の酸浸出における酸使用量を低減できる。また、昇温した後に、温度を保持する時間は短くても構わない。リチウムの水への浸出率は熱処理時間が長いほど向上する一方、熱処理時間が5時間を超えると、炭素の燃焼によるロスが生じ、分級工程で粗粒産物に回収される銅などの金属が酸化し有価物としての品質が低下し、また熱処理にかかる燃料および電力コストが上昇するため、熱処理時間は5時間以下が好ましい。
熱処理時間が、上記好ましい時間であると、熱処理にかかるコストおよび生産性の点から有利である。
【0030】
また、本発明の有価物の回収方法においては、熱処理温度を750℃以上とすることによって、外装容器由来のアルミニウムを溶融させて分離することができる。
また、本発明の有価物の回収方法においては、熱処理工程によって、正極活物質が十分に分解され、水に溶けやすい炭酸リチウムおよび酸化リチウムの形態となり、水浸出工程での浸出率が高くなる一方、外装容器、正極集電体等に含まれるアルミニウムが反応して水に難溶なアルミン酸リチウム(LiAlO
2)も生じる。この場合でも、酸浸出工程においてアルミン酸リチウムを溶解することができるので、高い回収率でリチウム(Li)を回収することができる。
【0031】
<破砕・分級工程(破砕処理)>
破砕・分級工程(破砕処理)には、熱処理物(リチウムイオン二次電池を熱処理したもの)を破砕することにより、破砕物を得る処理を含む。
破砕処理としては、熱処理物(焙焼物)を破砕して破砕物を得ることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、破砕物とは、熱処理物を破砕したものを意味する。
破砕処理としては、例えば、熱処理物を衝撃により破砕して破砕物を得ることが好ましい。また、リチウムイオン二次電池の外装容器が熱処理中に溶融しない場合には、熱処理物に衝撃を与える前に、切断機により熱処理物を切断する予備破砕しておくことがより好ましい。
破砕処理は湿式で行ってもよい。この場合、破砕時のカーボン、コバルト、ニッケル等の正極および負極活物質の飛散によるロスを防止でき、このロスを防ぐための集塵装置を削減できる。また、破砕処理時点において熱処理物中の全ての水溶性リチウムを水中に回収可能である。この際、水に分散剤を添加した状態で破砕してもよく、破砕処理後のスラリーを分散処理してもよい。破砕処理後のスラリーを分散処理することにより後段の分級工程の分級効率を向上でき、分散剤を用いることにより前記分級効率が未使用時よりさらに向上する。
【0032】
衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転する打撃板により熱処理物を投げつけ、衝突板に叩きつけて衝撃を与える方法、回転する打撃子(ビーター)により熱処理物を叩く方法などが挙げられ、具体的には、ハンマークラッシャーなどにより行うことができる。また、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、セラミックなどのボールにより熱処理物を叩く方法でもよく、この方法は、ボールミルなどにより行うことができる。また、衝撃による破砕は、例えば、圧縮による破砕を行う刃幅、刃渡りの短い二軸破砕機などを用いて行うこともできる。
さらに、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転させた2本のチェーンにより、熱処理物を叩いて衝撃を与える方法なども挙げられ、例えば、チェーンミルなどにより行うことができる。
【0033】
衝撃により熱処理物を破砕することで、正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))の破砕が促進されるが、形態が著しく変化していない負極集電体(例えば、銅(Cu))は、箔状などの形態で存在する。そのため、破砕・分級工程において、負極集電体は切断されるにとどまるため、後述する破砕・分級工程において、正極集電体由来の有価物(例えば、アルミニウム)と負極集電体由来の有価物(例えば、銅(Cu))とを、効率的に分離できる状態の破砕物を得ることができる。
【0034】
破砕処理における破砕時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムイオン二次電池1kgあたりの破砕時間としては、1秒間以上30分間以下が好ましく、2秒間以上10分間以下がより好ましく、3秒間以上5分間以下が特に好ましい。
【0035】
<破砕・分級工程(
分級処理)>
破砕・分級工程(
分級処理)は、破砕物を分級することにより、有価物を含む、粗粒産物と細粒産物とを得る処理を含む。
分級処理としては、破砕物を分級して粗粒産物(篩上物)と細粒産物(篩下物)を得ることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
分級方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩などを用いて行うことができる。分級により、銅(Cu)、鉄(Fe)等を粗粒産物中に分離でき、リチウム、コバルト、ニッケル、または炭素を細粒産物中に濃縮できる。
分級処理は湿式で行ってもよい。この場合、破砕時のカーボン、コバルト、ニッケル等の正極および負極活物質の飛散によるロスを防止でき、このロスを防ぐための集塵装置を削減できる。また、分級処理時点において熱処理物(粗粒産物および細粒産物)中の全ての水溶性リチウムを水中に回収可能である。この際、水に分散剤を添加した状態で分級してもよく、分級後のスラリーを分散処理してもよい。破砕処理後のスラリーに分散処理することで後段の細粒産物の磁選工程の効率を向上でき、分散剤を用いることにより前記効率が未使用時よりさらに向上する。
【0037】
分級の粒度(分級点、篩の目開き)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。分級により、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)等を粗粒産物中に分離し、炭素(C)、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)等を細粒産物中に濃縮することを目的とする場合は、分級の粒度としては、0.6mm以上2.4mm以下が好ましく、0.85mm以上1.7mm以下がより好ましい。分級の粒度が2.4mm以下であると、細粒産物中への銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)等の混入を抑制できる。分級の粒度が0.6mm以上であると、粗粒産物中への炭素(C)、リチウム(Li)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)等の混入を抑制できる。
【0038】
また、分級方法として篩を用いる場合、篩上に解砕促進物として、例えば、ステンレス球またはアルミナボールを載せて分級を行うことにより、大きな破砕物に付着している小さな破砕物を、大きな破砕物から分離させることにより、大きな破砕物と小さな破砕物を、より効率的に分離することができる。こうすることにより、回収する金属の品位をさらに向上させることができる。
なお、破砕処理と分級処理は、同時進行で行うこともできる。例えば、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する破砕・分級工程(破砕および分級)として行ってもよい。
【0039】
なお、粗粒産物と細粒産物との分級を複数回繰り返してもよい。この複数回の分級により、各産物の不純物品位をさらに低減することができる。
例えば、細粒産物のコバルト(Co)およびニッケル(Ni)の品位を高める観点から、例えば、1.7mm超、1.7mm以上0.85mm以下、0.85mm未満の各分級点で3段の篩分けを行うことによって、1段目では銅または鉄などのコバルトおよびニッケルよりも平均粒径が大きいリチウムイオン二次電池の構成物を篩上に分離でき、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)よりも平均粒径が小さいカーボン(C)を篩下に分離できるので、2段目および3段目の篩上から、より濃縮されたCoおよびNiを得ることができる。
【0040】
<水浸出工程>
水浸出工程は、細粒産物を水に浸けることにより、水浸出スラリーを得る工程である。
本発明においては、破砕・分級工程の後に、細粒産物を水に浸けることにより、水浸出スラリー(懸濁液)を得る水浸出工程を行う。なお、「水浸出工程」は「スラリー化工程」と称することもある。
水浸出工程としては、破砕・分級工程において回収した細粒産物を水に浸ける(浸す、水に入れる)ことにより、水にリチウムを浸出させて水浸出スラリーを得ることができる工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
破砕工程もしくは分級工程を湿式で行う場合は、前記破砕工程もしくは分級工程を水浸出工程としてもよい。
【0041】
細粒産物を浸出させる水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業用水、水道水、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。
例えば、酸化リチウム(Li
2O)または炭酸リチウム(Li
2CO
3)を含む細粒産物を水に浸けることにより、リチウムを水酸化リチウム(LiOH)または炭酸リチウム(Li
2CO
3)として水に浸出させて、高い効率で回収することができる。このように、本発明においては、水浸出スラリーがリチウムを含むことが好ましい。
【0042】
ここで、水浸出工程における浸出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単に細粒産物を水に投入しておく方法、細粒産物を水に投入して攪拌する方法、細粒産物を水に投入して、超音波を当てながら緩やかに攪拌する方法、細粒産物に水を添加する方法などが挙げられる。浸出方法としては、例えば、細粒産物を水に投入して攪拌する方法が好ましく、細粒産物を水に投入して超音波を当てながら緩やかに攪拌する方法がより好ましい。
水浸出工程で得られる水浸出スラリーの固液比は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5%以上67%以下が好ましく、10%以上40%以下がより好ましい。固液比が5%未満であると、浸出液に溶解するリチウムの濃度が低下し、リチウムの回収効率および濃縮効率が低下し易い。固液比が67%を超えると、リチウムの水への浸出率が低下する場合があり、水浸出スラリーを希釈せずに次工程に送液した場合、配管の閉塞等の問題を生じることがある。また、後述の湿式磁選工程にスラリーを供給した場合、磁着物へのコバルト・ニッケルの回収率および非磁着物への炭素の回収率が低下する(つまりコバルト・ニッケルと炭素の分離成績が低下する)ことがある。
水浸出工程における水浸出スラリーの攪拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、400rpmとすることが好ましい。
水浸出工程における浸出時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1時間とすることが好ましい。
【0043】
<湿式磁選工程>
湿式磁選工程は、水浸出工程の後に、水浸出スラリーに湿式磁選を行うことにより、水浸出スラリーを、磁着物と非磁着物スラリーとに選別する工程である。「非磁着物スラリー」とは、非磁着物を含む懸濁液を意味する。
湿式磁選工程としては、湿式磁選により、水浸出スラリーを、磁着物と非磁着物スラリーとに選別できる工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明においては、磁着物のCoおよびNi品位が高く、また、不純物品位が低いため、湿式磁選工程で得られたCoおよびNiを酸浸出、中和、溶媒抽出などの追加のCoおよびNiの濃縮工程を必要とせず、そのまま、二次電池の製造材料を得るための原料(例えば、硫酸コバルト、硫酸ニッケルなど)、またはコバルトおよびニッケルの製錬原料として利用できる。
また、磁着物中のリチウムは、リチウムイオン二次電池の製造材料を得るプロセス、またはコバルトおよびニッケルの製錬原料を得るプロセスで炭酸リチウムもしくは水酸化リチウムとして回収してもよい。磁着物中のリチウムを回収することにより、リチウムイオン二次電池に含まれていたリチウムのうち70質量%以上を炭酸リチウムもしくは水酸化リチウムとして回収できる。
【0044】
ここで、磁着物とは、磁力(磁界)を発生させる磁力源(例えば、磁石、電磁石など)が発生させた磁力により、当該磁力源との間で引力を生じて、当該磁力源側に吸着可能なものを意味する。磁着物としては、例えば、強磁性体の金属などが挙げられる。強磁性体の金属としては、例えば、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などが挙げられる。
非磁着物とは、上記磁力源が発生させた磁力では、当該磁力源側に吸着されないものを意味する。前記非磁着物としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができる。また、金属の非磁着物としては、例えば、常磁性体または半磁性体の金属などが挙げられる。常磁性体または半磁性体の金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)などが挙げられる。
【0045】
湿式磁選工程は、特に制限はなく、公知の湿式の磁力選別機(磁選機)などを用いて行うことができる。
本発明で用いることができる湿式の磁力選別機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ドラム型磁選機、高勾配磁選機などが挙げられる。
【0046】
湿式磁選工程を行う際の湿式磁選の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
湿式磁選工程では、例えば、磁着物としてコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、コバルトと一体化しているマンガン(Mn)などが回収される。
ここで、破砕・分級工程で得られた細粒産物を磁選する際に、例えば、乾式で磁選した場合、粒子間の付着水分により粒子の凝集が生じ、負極集電体由来金属粒子および細粒産物に10%以上含まれる負極活物質微粒子とコバルトおよびニッケル粒子を十分に分離できない場合がある。このため、本発明では、湿式磁選工程において、負極活物質由来の物質と負極集電体由来金属を非磁着物スラリーに分離し、コバルトおよびニッケルを磁着物として回収することが好ましい。
【0048】
湿式磁選に供給するスラリーの固液比は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5%以上67%以下が好ましく、10%以上40%以下がより好ましい。固液比が5%未満であると、湿式磁選機内でのコバルトおよびニッケルの磁着物として回収率が低下することがある。固液比が67%を超えると、スラリー供給時のポンプの閉塞などの問題が生じやすく、またコバルトおよびニッケル(磁着物)とカーボン等の非磁着物の分離成績が低下することがある。
スラリーは水浸出工程で得られた水浸出スラリーをそのまま供給してもよく、水浸出工程で得られたスラリーを沈降分離等の固液分離により濃縮もしくは希釈し固液比を調整してもよい。また、水浸出スラリーに水を加えて希釈し固液比を調整してもよい。
【0049】
スラリーの供給方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、タンク内のスラリーを攪拌しながらポンプで供給してもよい。
湿式磁選で用いる磁選機の磁場強度は、500G以上20,000G以下が好ましく、1,000G以上10,000G以下がより好ましく、1,500G以上8,000G以下が特に好ましい。磁場強度が500G未満であると、コバルトおよびニッケルの微粒子を磁着しにくく、コバルトおよびニッケルの磁着物への回収率が低下し易くなる。磁場強度が20,000Gを超えると、コバルトおよびニッケル以外の不純物の磁着物への回収率が増加し、磁着物中のコバルトおよびニッケル品位が低下する。
【0050】
前記湿式磁選においては、適用する水浸出スラリーに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することによって、コバルトおよびニッケルと他の電池構成成分との分離を促進でき、湿式磁選の磁着物中のコバルトおよびニッケル以外の不純物成分の品位を低減できる。分散剤の添加量は50mg/L以上が好ましい。分散剤の添加方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スラリーを攪拌するタンク内に分散剤を供給し、攪拌しながらポンプで湿式磁選機にスラリーを供給する方法などが挙げられる。こうすることによって、あらかじめ各成分の分散および単体分離性が良好(特にコバルトおよびニッケルとカーボンの分散)な状態で湿式磁選機にスラリーを供給できるため、コバルトおよびニッケルとその他の成分との湿式磁選での分離成績が向上する。
タンク内ではコバルト、ニッケル、銅等の沈降速度が速い成分がタンク内の下部に濃縮し、カーボン等の沈降速度が遅い成分がタンク上部に濃縮するため、例えば、タンク下部からスラリーを抜き出すことによって、あらかじめカーボンを分離したスラリーを湿式磁選機に供給でき、コバルトおよびニッケルを含む磁着物中のカーボン品位を低減できる。また、タンク上部からスラリーを抜き出すことで高品位のカーボンを含むスラリーが回収可能である。
【0051】
分散剤の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、染料、顔料、農薬、無機質の分野で用いられている分散剤を使用することができる。
分散剤としては、例えば、芳香族スルホン酸とホルマリンの縮合物、または特殊カルボン酸型高分子界面活性剤を主成分とする陰イオン性界面活性剤(例えば、花王株式会社製の「デモール」シリーズの界面活性剤)などが挙げられる。
湿式磁選を適用するスラリーに対し、超音波処理または攪拌処理により粒子を分散させることが好ましい。前記粒子を分散する処理を行うことにより、コバルトおよびニッケルと他の電池構成成分との分離を促進でき、湿式磁選の磁着物中のコバルトおよびニッケル以外の不純物成分の品位を低減できる。攪拌処理は、例えば、ディスクタービンなどの攪拌羽根が利用でき、装置の許容範囲内で高速で攪拌させる(吐出流力が大きい状態)ことが好ましい。
【0052】
湿式磁選工程で回収した磁着物には水分が含まれるため、これを濾紙、フィルタープレス、または遠心分離機などを用いて固液分離すること、風乾することや、乾燥機での加熱乾燥により水分を除去してもよい。
得られた磁着物を水洗後に固液分離してもよく、この場合、水浸出工程で磁着物から除去できなかったフッ素を、例えば1%未満に低減できる。この水洗は、例えば、固液分離装置としてフィルタープレスを用いた場合は、フィルタープレス内の磁着物を含む濾室内に注水することで実施できる。水洗に用いる重量としては、酸浸出残渣1kgに対して水0.1kg以上を通水することが好ましく、酸浸出残渣1kgに対して水1kg以上を通水することがより好ましい。
【0053】
湿式磁選工程で回収した磁着物中のコバルト(Co)品位が10%を超え、かつコバルト(Co)の磁着物中への回収率は50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
また、非磁着物スラリーからは、例えば、炭素(C)、リチウム(水溶)、LiAlO
2(アルミン酸リチウム)が分離される。
【0054】
湿式磁選工程は複数回(多段)の湿式磁選を行ってもよい。例えば、1段目の湿式磁選工程で回収された磁着物に対し2段目の湿式磁選(精選)を行うことによって、磁着物のコバルト(Co)品位を向上できる。この場合、2段目の湿式磁選の条件は1段目と異なっていてもよく、1段目の湿式磁選よりもより磁着物の回収が難となる条件(例えば、低い磁場強度、高い磁選機ドラム回転数、高いフィード速度など)を設定することで、2段目の湿式磁選で回収される磁着物のコバルト(Co)品位を1段目の湿式磁選で回収される磁着物のコバルト(Co)品位よりも高めることができ、また非磁着物スラリーとして回収されるカーボン(C)の回収率を1段の湿式磁選を実施する場合に比べて向上できる。
また、別の例としては、1段目の湿式磁選工程で回収された非磁着物スラリーに対し2段目の湿式磁選(清掃選)を行うことによって、非磁着物スラリーのコバルト品位(Co)を低減できる。この場合、2段目の湿式磁選の条件は1段目と異なっていてもよく、1段目の湿式磁選よりもより磁着物の回収が易容易となる条件(例えば、高い磁場強度、低い磁選機ドラム回転数、低いフィード速度など)を設定することで、2段目の湿式磁選で回収される非磁着物スラリーのコバルト(Co)品位を1段目の湿式磁選で回収されるコバルト(Co)品位よりも低減でき、また磁着物として回収されるコバルト(Co)の回収率を1段の湿式磁選を実施する場合に比べて向上できる。湿式磁選で得られた非磁着物スラリーに水を加えてもよい。リチウム(Li)濃度の調整により、後述する中和工程に示すように、中和残渣へのリチウムのロスを防ぐことができる。
【0055】
<固液分離工程>
本発明においては、湿式磁選工程を行った後に、非磁着物スラリーを濾過することにより、非磁着物スラリーを、濾液(水浸出液)と濾過残渣(非磁着物)とに固液分離する固液分離工程を行ってもよい。
【0056】
本発明においては、固液分離工程を含むことにより、非磁着物スラリーに含まれる炭素(C)、LiAlO
2(アルミン酸リチウム)等を、非磁着物として回収可能とすることができる。また、非磁着物スラリーに含まれるリチウム(水溶)を、濾液として分離することができる。
得られた水浸出液にはリチウムが主に炭酸リチウムとして数100mg/L〜3,000mg/L程度含まれる。この水浸出液から炭酸リチウムを回収してもよい。例えば、以下の工程で品位99%以上の炭酸リチウムが回収できる。この水浸出液に消石灰を加えて攪拌後、固液分離し、水浸出液中のフッ素を20mg/L程度まで低減できる。このフッ素除去後液に常温でCO
2ガスを吹込み、消石灰由来のカルシウムイオンを5mg/L未満まで除去できる。このカルシウム除去後液にはカルシウム除去に用いられなかったCO
2が溶存するため、このCO
2ガス吹込み後液を濃縮することで炭酸リチウムを析出できる。水浸出液にはフッ素以外の不純物がほとんど存在しないため、品位99%以上の炭酸リチウムが回収可能である。
得られた非磁着物に対しては、後述する酸浸出工程と中和工程とその他の工程を実施することで、高純度の炭酸リチウムを回収することができる。
【0057】
固液分離を行う手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非磁着物スラリーを、濾紙、フィルタープレス、または遠心分離機などを用いて固液分離する手法が好ましい。
【0058】
<酸浸出工程>
酸浸出工程では、前記湿式磁選で回収される非磁着物スラリーおよび/または非磁着物スラリーを固液分離して得た非磁着物に酸性溶液を添加し、pHを0以上3.5以下として非磁着物を浸出した後に固液分離して酸浸出液と酸浸出残渣を得る。
本発明においては、非磁着物スラリーに酸を添加するか、もしくは非磁着物スラリーを固液分離工程で得られた非磁着物を酸性溶液に浸けた後に固液分離することにより、酸浸出液と酸浸出残渣(炭素濃縮物)を得る酸浸出工程を行う。これらの中で、非磁着物スラリーに酸を添加する方法が好ましい。非磁着物スラリーに酸を添加することで、酸浸出液のリチウム濃度を簡便に所定濃度以下に調整でき、後述の中和工程において酸浸出液のリチウム濃度が高濃度である場合の中和ケークへのリチウムのロスを防ぐことができる。
得られた酸浸出液には、難水溶性のLiAlO
2(アルミン酸リチウム)由来のリチウムが溶解している。一方、得られた酸浸出残渣には、炭素(C)が高品位で濃縮するため、炭素(C)濃縮物として回収および利用することができる。
前記酸浸出液と酸浸出残渣(炭素濃縮物)は、例えば、濾紙、フィルタープレス、または遠心分離機などを用いて固液分離する手法が好ましい。
【0059】
酸性溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫酸、硝酸、塩酸などが挙げられる。これらの中でも、コストの観点から、硫酸が好ましい。
酸浸出工程で用いる酸性溶液のpHは0以上3.5以下とする。0以上3以下がより好ましく、1以上3以下がさらに好ましく、1.5以上2.5以下が特に好ましい。pHが3.5を超えると、濾過残渣中のアルミン酸リチウム、コバルト、ニッケルなどの不純物が有効に溶解しない。ここで、酸性溶液のpHは酸浸出工程の終期のpHを意味する。pH0以上3.5以下であると、非磁着物中のLiを80%以上浸出でき、かつ炭素品位が80%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が得られる。pH
1以上3以下では、pH0の場合と比べてLiの酸浸出率を低下させることなく、酸の添加量を抑制してLiを浸出できることから好ましい。pH1.5以上2.5以下では、pH0の場合と比べてLiの酸浸出率を低下させることなく浸出でき、かつ非磁着物スラリーに含まれる銅の浸出を抑制でき、より不純物濃度の小さい酸浸出液が得られ、特に好適である。なお、酸浸出残渣(炭素濃縮物)に含有される銅は製錬原料(特に、銅製錬原料)として用いる場合は問題を生じないことがあり、また酸浸出残渣に酸化剤を添加した酸浸出を実施することにより、銅を浸出液に除去し、より高品位の炭素濃縮物の回収が可能である。
pHが0未満であると、酸浸出液中の硫酸イオン濃度が高くなり、中和工程で生じる中和ケーク中へのリチウムのロスが大きくなる。
酸浸出液の硫酸イオン濃度は、中和工程での中和ケークの多量発生によるリチウムの共沈・吸着ロス低減のため、50,000mg/L以下とすることが好ましい。
酸性溶液として硝酸および塩酸を用いる場合は、前記リチウムの中和ケークへのロスを低減できるが、酸のコスト上昇および設備腐食の問題が生じる。
【0060】
ここで、酸浸出工程における浸出手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単に非磁着物スラリーもしくは非磁着物を酸に投入しておく手法、非磁着物スラリーもしくは非磁着物を酸に投入して攪拌する手法、非磁着物スラリーもしくは非磁着物を酸に投入して、攪拌する手法、非磁着物スラリーもしくは非磁着物に酸を添加する方法、非磁着物スラリーもしくは非磁着物に酸を添加した後に攪拌する方法などが挙げられる。酸浸出手法としては、例えば、非磁着物スラリーに酸を添加する方法が好ましく、非磁着物スラリーに酸を添加した後に攪拌する方法がより好ましい。非磁着物スラリーに酸を添加することで、非磁着物と酸が反応する際の発熱による温度上昇を抑制できる。
【0061】
酸浸出工程における酸の攪拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、200rpmとすることができる。
酸浸出の際の液温は、0℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上40℃以下がより好ましい。酸浸出液にはリチウムイオン二次電池の電解液中の電解質であるLiPF
6(六フッ化リン酸リチウム)に由来するフッ素がフッ酸として溶解しており、酸浸出の際の液温を40℃以下とすることによって、有害かつ腐食性ガスであるフッ酸蒸気の発生を抑制できる。
酸浸出においては、酸化剤を添加してもよい。酸化剤を添加することで、銅等の酸に溶解しがたい不純物(例えば、銅)の溶解を促進し、炭素(C)濃縮物(酸浸出残渣)の炭素(C)品位をより向上できる。酸化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化水素、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ハロゲン、過マンガン酸塩、オゾン、空気などが挙げられる。
酸浸出工程における浸出時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1時間とすることができる。
【0062】
酸浸出工程で得られた酸浸出残渣の炭素(C)品位は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
また、酸浸出残渣(炭素(C)濃縮物)を製錬の還元剤として用いる場合、リン(P)は鉄鋼製錬における忌避元素であり、フッ素(F)は製錬の排ガス処理に負荷を与える元素であることから、リンおよびフッ素は可能な限り酸浸出残渣(炭素(C)濃縮物)から除去することが好ましい。
さらに、炭素(C)濃縮物は主な不純物として銅(Cu)を含む。この銅の分離は、分散剤によるカーボンの分散および銅の沈降、浮選による銅の尾鉱への回収、比重分離による銅の重産物への回収などにより行うことができる。
【0063】
酸浸出工程で得られた酸浸出液のリチウム(Li)濃度の調整を目的とし、酸浸出液に水を加えてもよい。リチウム(Li)濃度の低減により、後述する中和工程に示すように、浄液残渣へのリチウム(Li)のロスを防ぐことができる。
酸浸出残渣は水洗してもよく、水洗後に固液分離してもよい。酸浸出残渣には酸性溶液が付着している場合があり、水洗することでこの酸性溶液の付着量を低減できる。例えば酸性溶液として硫酸を用いた場合は、酸浸出残渣を水洗後固液分離することで酸浸出残渣の硫酸品位を低減できる。この水洗は、例えば、固液分離装置としてフィルタープレスを用いた場合は、フィルタープレス内の酸浸出残渣を含む濾室内に注水することで実施できる。水洗に用いる重量としては、酸浸出残渣1kgに対して水0.1kg以上を通水することが好ましく、酸浸出残渣1kgに対して水1kg以上を通水することがより好ましい。
【0064】
<中和工程>
本発明においては、酸浸出工程で得られた酸浸出液を中和後に固液分離する中和工程を含むことが好ましい。中和工程は酸浸出液の中和とリチウム(Li)以外の不純物イオン(例えば、フッ素イオン、硫酸イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオン、銅イオンなど)の固化(中和ケーク化)および固液分離による分離を目的とする。また、非磁着物スラリーを固液分離し回収した非磁着物に対して酸浸出工程を行う場合は、固液分離工程で得られた濾液(水浸出液)と非磁着物の酸浸出工程で得られた酸浸出液とを合わせた液(混合液)を、アルカリで中和後に固液分離する中和工程を含むことが好ましい。濾液はアルカリ性であり、酸浸出液の中和に濾液(アルカリ)を活用できるためである。
【0065】
また、濾液からのLi回収にもフッ素(F)等の浄液が必要であるが、この濾液(水浸出液)の浄液と酸浸出液の中和を一度のアルカリ中和で同時に実施できることから有利である。
また、水浸出液は酸由来の陰イオン(例えば、硫酸を酸として使用した場合は硫酸イオン)を含まないため、混合液の酸由来の陰イオン濃度を酸浸出液の陰イオン濃度よりも低減できる。このため、混合液を中和した場合は酸浸出液を中和した場合よりも単位液体積当たりの中和ケーク発生量を抑制でき、共沈や中和ケークへの吸着等に伴う中和ケークへのリチウムのロス量を低減できる。
さらに濾液(水浸出液)中のリチウム濃度は炭酸リチウムの溶解度に影響を受け、そのLi濃度は3,000mg/L未満である場合が多い。これは濾液のpHがアルカリ性(pHが10以上である)であり、濾液中にCO
32−イオンが安定的に存在できるためである。この濾液を酸浸出液と混合することで、混合液のpHを7未満としてCO
32−イオンが溶存できない条件に調整することにより、次工程で添加する水酸化カルシウム由来のCa
2+がCO
32−イオンに消費される量を低減できる(つまり、Ca
2+イオンがF
−イオン除去に活用される量を増加できる)。また、Li濃度を酸浸出液のLi濃度の水準(3,000mg/Lを超える場合がある)と比べて減らすことができる。このため、中和工程のケーク生成量の減少により中和ケークへのリチウムのロス量を低減でき、またLi濃度を炭酸リチウムの溶解度未満(3,000mg/L未満)に調整することで、カルシウム固化除去工程で炭酸イオンを添加する際の炭酸リチウムの晶析によるLiのロスを防止できる。
【0066】
中和後液のカルシウムイオンの固化除去には後述のとおり炭酸イオンの添加が想定されるが、このカルシウム固化除去工程(炭酸イオン添加工程)ではLi濃度が5,000mg/Lを超える液に対し炭酸イオンを添加した場合、被浄液物(例えば、カルシウム(Ca))とともに炭酸Liが析出してしまい、浄液残渣にLiがロスしてしまうことを本発明者は発見した。このことから、濾液(水浸出液)と酸浸出液を混合しLi濃度が5,000mg/L以下の液を作製することは、Liの回収率を向上させる(カルシウム固化除去工程でのLiロス量を減らす)点で有利である。
【0067】
非磁着物スラリーに対し(固液分離を行わずに)酸浸出工程を行う場合も、上記と同様の理由により、酸浸出液のリチウム濃度が5,000mg/Lを超えないように濃度調整することが好ましい。非磁着物スラリーの溶存リチウムは主に炭酸リチウムであり、スラリー中の溶存リチウム濃度は3,000mg/L未満である場合が多い。このため、前記酸浸出液のリチウム濃度5,000mg/L以下への調整は容易に実施でき、例えば、湿式磁選工程でのスラリー固液比の調整や、添加する酸の濃度調整により実施できる。
また、非磁着物スラリーに対し酸浸出工程を行う場合も、上述の理由により酸浸出液にはCO
32−がほとんど溶存せず、水酸化カルシウム由来のCa
2+イオンがCO
32−イオンに消費される量を低減できる。
中和工程は複数水準のpHでの中和および多段の固液分離を含んでいてもよい。例えば、一段目の中和をpH9で行った後に一段目の固液分離した液を、再度pH12までpH上昇(二段目の中和)させた後に二段目の固液分離を実施してもよい。
【0068】
アルカリとしては、少なくとも水酸化カルシウム(Ca(OH)
2;消石灰)を用い、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、アルミン酸カルシウム、リン酸カルシウムなどを2種類以上併用してもよい。水酸化カルシウムが、フッ素を固化させる効率、および後述のカルシウム固化除去工程もしくはカルシウム吸着除去工程における除去の容易性が高いこと、また溶解度が比較的小さいため、中和後液のカルシウムイオンの溶存量を抑制でき、固化もしくは吸着に必要な固化剤(CO
2)量および陽イオン交換樹脂量を低減できること、などから好適である。前記アルカリの添加前に、硫酸アルミニウム、アルミン酸カルシウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物を添加することにより、アルカリを単独で使用した場合よりもさらにフッ素の除去量を低減できる。また、リチウムの浸出時に浸出されるアルミニウムを、フッ素の固化時に共沈させ、アルミニウムの除去とともにこのアルミニウムをフッ素除去剤として活用できる。アルカリの添加は固体で添加してもよく、スラリー状で添加してもよい。
【0069】
酸浸出工程で酸として硫酸を用いる場合、酸浸出液には硫酸イオンが含まれる。アルカリがカルシウムを含む場合、硫酸イオンとカルシウムイオンが硫酸カルシウムを生成するため、固液分離で硫酸イオンを固体(硫酸カルシウム)として分離でき、中和後の濾液中の硫酸イオン濃度を1.0g/L以下まで低減できる。
中和後のpHは10.5〜14が好ましく、pH11〜13がより好ましい。ここで、溶液のpHは中和工程の終期のpHを意味する。pHが10.5〜14であることにより、カルシウムイオンの溶存量を低減できる(後段のカルシウム固化除去工程の負荷を低減できる)。一方、このカルシウムイオンの低濃度条件にも関わらず酸浸出液中のフッ素はフッ化カルシウムとして効率的に除去できることを本発明者は発見した。このことに加え、カルシウム固化除去工程もしくは炭酸リチウム晶析工程で添加したCO
2をCO
32−イオンとして安定的に吸収および溶存できる。
中和工程で得られたスラリーを固液分離して得られた液中のリチウム量は、細粒産物中に含まれていたリチウム量100質量%に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
中和工程で得られたスラリーもしくは該スラリーを固液分離して得られた液のリチウム濃度の調整を目的とし、これらスラリーもしくは液に水を加えてもよい。これらのリチウム(Li)濃度の低減により、リチウム(Li)のロスを防ぐことができる。
【0070】
<その他の工程>
その他の工程としては、例えば、カルシウム固化除去工程、カルシウム吸着除去工程を含むイオン吸着除去工程、予備濃縮工程、炭酸リチウム晶析工程などが挙げられる。中和工程で溶存したカルシウムを除去せずに炭酸リチウムを晶析回収する場合は、炭酸リチウムのカルシウム品位が高くなる。このため、カルシウム固化除去工程およびカルシウム吸着除去工程の少なくともいずれかを実施した後に炭酸リチウムを晶析回収する。
【0071】
<<カルシウム固化除去工程>>
前記中和工程で添加した水酸化カルシウム由来のカルシウムイオンを固化し中和工程後液から分離することを目的としたカルシウム固化除去工程を実施してもよい。
カルシウムイオンの固化に用いる成分は前記アルカリ由来の成分を固化させることができる成分であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、炭酸イオン(CO
32−)が好ましい。これは前記アルカリ由来の成分を炭酸塩として容易に除去することができるためである。
【0072】
前記カルシウム固化除去工程は液温40℃以下の条件下で行うことが好ましい。この場合、カルシウム固化除去前の液のリチウム濃度が5,000mg/L以下では、カルシウム固化除去対象の成分に加えてリチウムも共に固化・析出することによるロスを抑制できる。一方、アルカリ由来の成分(例えば、カルシウム)を炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム;CaCO
3)として析出させて、リチウムを溶存する液から選択的に除去することができる。さらに、中和工程後液のpHが高い場合(例えば、pHが10.5以上の場合)、中和工程後液に炭酸イオン(CO
32−)を効率的に吸収し、液中に保持させることができ、カルシウム固化除去工程での前記アルカリ由来成分の除去に寄与しなかった分の炭酸イオンをCa固化除去後液に溶存させることができ、後段の炭酸リチウム晶析のための成分(CO
3)として有効利用できる。
【0073】
前記炭酸イオンを前記中和工程後の液(中和後液)に添加する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CO
2ガスを中和後液に供給(散気)する手法、炭酸塩を中和後液に添加する手法などが挙げられる。これらの中でも、炭酸塩を中和後液に添加する手法が好ましい。
炭酸塩としてはアルカリ金属を含むものが特に好ましく、コストの面から炭酸ナトリウムが最も好ましい。中和後液には硫酸イオンが2,000mg/L〜10,000mg/L程度存在する。この液にCO
2ガスを供給しCO
32−イオンを溶存させた場合、CO
2ガス供給ではCO
32−(陰イオン)の対イオン(陽イオン)が供給されないため、電気的中性の原理からCO
32−イオンが溶存する分OH
−イオンが減少し、pHが低下する。CO
32−イオンはpH10以上でないと安定的に溶存できないため、CO
2ガス供給ではCO
32−イオンの可溶量に制限がある。
【0074】
一方、炭酸ナトリウム添加によりCO
32−イオンを供給した場合は、CO
32−イオンの対イオンとしてNa
+イオンも供給されるため、pHの低下は生じず、CO
32−イオンをより多く(高品位の炭酸Liを晶析させるのに十分な量を)中和後液中に溶存できる。
なお、前記中和後液の硫酸イオンの追加除去(2,000mg/L未満への低減)は、消石灰よりも溶解度の高いカルシウム塩(例えば、塩化カルシウム)の追加によりCa
2+イオンを供給しCaSO
4を形成させることで除去可能であるが、この場合、中和後液に塩素が含まれること、中和ケークの増加が生じること、中和後液のCa
2+イオン濃度が増加し(Ca
2+イオン濃度が1,000mg/Lを超える)、後段のカルシウム除去の負荷が増加すること、および工程が複雑になることから、本発明では実施しない。
逆に言えば、硫酸イオンが2,000mg/L以上含まれている中和後液から硫酸を不純物として含まない高品質な炭酸リチウムを簡便に回収することができる。このことは、前記中和後液に所定量以上の炭酸イオンを供給することにより実現できる。
【0075】
<<イオン吸着除去工程>>
本発明の有価物の回収方法においては、上述した中和工程もしくはカルシウム固化除去工程もしくは後述する予備濃縮工程の後に、陰イオン交換樹脂もしくは陽イオン交換樹脂のいずれかまたはその双方を用いたイオン吸着除去工程をさらに含んでいてもよい。このうち、陽イオン交換樹脂を用いてカルシウムを樹脂に吸着除去する工程を「カルシウム吸着除去工程」と称する。また、中和工程を多段で行う場合、各pHでの中和後にイオン吸着除去工程を含み、イオン吸着除去工程後に再度次のpHでの中和を行ってもよい。例えば、一段目の中和をpH9で行った後に一段目の固液分離し回収した濾液を、イオン交換樹脂でイオン吸着除去し、イオン吸着除去工程後の液をpH12までpH上昇(二段目の中和)させた後、二段目の固液分離を実施してもよい。
【0076】
イオン吸着除去工程には複数の種類のイオン吸着樹脂およびイオン吸着樹脂塔を用いてもよい。
陰イオン交換樹脂と中和後液もしくはカルシウム固化除去もしくは陽イオン吸着除去後液を接触させることにより、中和後液もしくは浄液後液中に微量残存するフッ素イオンおよび硫酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させ除去できる。
また、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いた場合、陰イオン吸着除去後液のpHがイオン交換により上昇することから、pHを上昇させるための中和剤量を減らすことができる。
【0077】
中和工程後液に対しカルシウム固化除去工程を行わない場合は、陽イオン交換樹脂によるカルシウム吸着除去工程を行う。陽イオン交換樹脂と中和後液もしくは浄液後液を接触させることで、中和後液もしくは浄液後液中に微量残存するカルシウムイオンを陽イオン交換樹脂に吸着させ除去できる。こうすることにより、後述の炭酸リチウム中のカルシウム品位をより低減できる。特に中和後液に陽イオン交換樹脂吸着を適用する場合は、CO
32−イオンを供給せずにCa
2+イオンを除去する(Ca吸着除去後液を得る)ので、CO
32−イオンがCa吸着除去後液に溶存しない。その結果、炭酸リチウムを析出させずにCa吸着除去後液をリチウム濃度5,000mg/Lを超えて濃縮することが可能となる(なお、リチウムイオン(陽イオン)は陽イオン交換樹脂に吸着しない。)。これにより、後述する予備濃縮による不具合(例えば、イオン交換膜上への炭酸リチウムの析出または閉塞)が生じないので、高濃縮倍率が実現できる。また、炭酸リチウム晶析工程前にリチウム濃度を高められるので、炭酸リチウム晶析工程での炭酸リチウムの回収にかかるコストおよび時間を低減できる。
【0078】
また、本発明においては、中和に消石灰を用いているので、中和後液中のカルシウムイオン濃度を1,000mg/L以下に抑制できる。このことから、中和後液単位量当たりに使用する陽イオン交換樹脂量は少量であり、低コストで(経済的に)陽イオン交換樹脂によるカルシウム除去を実施できる。カルシウムイオンの除去はカルシウム固化除去工程よりもカルシウム吸着除去工程の方が高精度であり、より低Ca品位の炭酸Liが精製可能となる。
前記カルシウム吸着除去工程前または前記カルシウム吸着除去工程後に、電気透析により、陽イオン吸着除去後液の予備濃縮を行うことが好ましい。
【0079】
<<予備濃縮工程>>
本発明の有価物の回収方法においては、上述した中和工程、カルシウム固化除去工程、もしくはイオン交換吸着除去工程の後に、溶液におけるリチウムを濃縮する予備濃縮工程をさらに含んでいてもよい。予備濃縮工程をさらに含むことにより、例えば、溶液に含まれるリチウムを、炭酸リチウム晶析工程で炭酸リチウムとして容易に晶析可能とすることができる。
予備濃縮工程における濃縮の手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸発濃縮、電気透析(イオン交換膜法)、減圧濃縮、ナノ濾過(Nano Filtration(NF))膜または逆浸透(Reverse Osmosis(RO)膜を用いた膜濃縮などが挙げられる。これらの中でも、蒸発濃縮もしくは電気透析が好ましい。
蒸発濃縮を用いる場合は、工場排熱の利用などでコストを小さく実施でき、また減圧設備を必要としないので設備のイニシャルコストを低減できる。また、濃縮時に後述の加熱による炭酸リチウムの晶析も同時に実施でき、プロセスを簡易にできるためである。
予備濃縮工程におけるリチウムの濃縮は、予備濃縮工程前に炭酸イオンを供給する工程を行っていない(例えば、炭酸ナトリウムおよびCO
2ガスの添加)は、液中のリチウム濃度が4,000mg/L以上となるまで行うことが好ましい。予備濃縮工程前に炭酸イオンの供給を行った場合は、予備濃縮はリチウム濃度が5,000mg/Lを上限とすることが好ましい。これは、予備濃縮の対象液にCO
32−イオンが溶存しているため、予備濃縮時に炭酸リチウムが析出しロスする恐れがあるためである。
リチウムを含む溶液を予備濃縮する際の濃縮倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5倍以上100倍以下が好ましく、3倍以上50倍以下がより好ましく、5倍以上10倍以下が特に好ましい。濃縮倍率が100倍を超えると、予備濃縮時に硫酸リチウムまたはフッ化リチウムが予備濃縮装置内に析出する場合がある。
リチウムを含む溶液を予備濃縮する際の溶液の温度としては、蒸発濃縮を用いる場合は80℃以上105℃以下が好ましい。
炭酸リチウム回収の速度の向上を図る場合は、電気透析により予備濃縮を行うことが好ましい。前記蒸発濃縮と比べ、電気透析による濃縮では、炭酸リチウムの生産速度を同規模の設備で5倍以上に早めることができる。
【0080】
<<炭酸リチウム晶析工程>>
炭酸リチウム晶析工程では、炭酸リチウムとその他のリチウム塩(例えば、硫酸リチウムおよびフッ化リチウム)の溶解度の差を利用して炭酸リチウムを選択的に晶析させて回収する。
炭酸リチウムの晶析方法としては、例えば、(1)カルシウム固化除去後液(CO
32−イオンが溶存したリチウム溶液)を加熱し、炭酸リチウムの溶解度を低下させて選択的に晶析させる方法(カルシウム固化除去工程を経た液については、カルシウム固化除去工程で供給したCO
32−イオンの内Ca
2+イオンの除去に用いられなかった分を、炭酸リチウムの晶析に用いることができる。)、(2)カルシウム吸着除去後液を加熱した状態で二酸化炭素を加え、炭酸リチウムの溶解度を低下させて選択的に晶析させる方法、(3)予備濃縮工程でリチウム濃度を高めたリチウム溶液を加熱しない状態で二酸化炭素を加えて炭酸リチウムを析出させる方法、または(4)予備濃縮工程後液を加熱しかつ二酸化炭素を加えて炭酸リチウムを晶析させる方法などが挙げられる。
【0081】
カルシウム固化除去後液からの炭酸リチウムの晶析回収方法では、晶析工程においてリチウムを含む溶液に二酸化炭素(CO
2)を加えてもよい。こうすることにより、リチウムを含む溶液中の炭酸リチウムがより析出しやすくなり、他の不純物(例えば、フッ素など)と結合したリチウム(例えば、フッ化リチウム)よりも炭酸リチウムが優先して析出するため、より品位の高い炭酸リチウムを回収することができる。
【0082】
また、リチウムを含む溶液に二酸化炭素を加える手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、二酸化炭素を含むガスの吹込みもしくは炭酸塩の添加により行うことが好ましい。二酸化炭素を含むガスとしては、例えば、空気または二酸化炭素ガスなどが挙げられる。炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムが挙げられる。
二酸化炭素を供給した後のリチウムを含む溶液の炭酸イオン濃度としては、リチウム濃度1に対し炭酸イオン濃度2以上が好ましく、リチウム濃度1に対し炭酸イオン濃度3以上がより好ましく、リチウム濃度1に対し炭酸イオン濃度4以上32.3以下が特に好ましい。リチウム濃度1に対し炭酸イオン濃度が2未満であると、炭酸リチウムに加えて硫酸リチウムの析出量が増加し工業グレード(炭酸リチウム品位99.0%以上)の炭酸リチウムを晶析できないことがある。一方、炭酸イオン濃度が32.3を超えると、炭酸イオンを溶解させるために添加した炭酸塩由来の金属が溶存した液を炭酸リチウムが含水し、炭酸リチウム中の炭酸塩由来の金属品位が過剰となることがある。
【0083】
炭酸リチウム晶析中の液は攪拌し続けることが好ましい。攪拌することにより液の炭酸イオンおよび不純物イオン(例えば、フッ素イオンおよび硫酸イオン)の液中の濃度を均一化でき、また、炭酸リチウムの析出物の粒径を均一化でき、結果として不純物の結晶生成または液の炭酸リチウム析出物中への巻き込みを低減できるため、炭酸リチウム回収物中の不純物品位を低減できる。
炭酸リチウム晶析時には、あらかじめもしくは晶析中に炭酸リチウムの結晶を添加した状態で晶析工程を開始もしくは継続してもよい。この結晶(種晶)添加により晶析回収される炭酸リチウムの粒度を向上および均質化できるため、結晶の含水分量を低減でき、含水成分由来の不純物品位をさらに低減できる。
炭酸リチウム晶析工程は、晶析工程中に液が蒸発する温度以上に加熱し液を蒸発濃縮することで炭酸リチウムを晶析させることもできる。
【0084】
また、析出させたリチウム(炭酸リチウム)は、例えば、匙、レーキ、スクレーパーなどの公知の器具で回収することができる。析出させた炭酸リチウムを含むスラリーは粘性が低いため、配管の閉塞を生じず、スラリーを攪拌しながらポンプで固液分離装置(例えば、フィルタープレス)に供給することにより回収することができる。
【0085】
ここで、リチウムを含む溶液を加熱する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電熱式のヒーター、または加熱蒸気が通過する銅、ステンレス、テフロン(登録商標)等の配管により加熱する手法などが挙げられる。
例えば、リチウムを含む溶液を加熱して炭酸リチウムを析出させる際の溶液の温度としては、炭酸リチウムを析出させることが可能な温度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、60℃以上105℃以下が好ましい。
【0086】
回収した炭酸リチウムは温水を供給して炭酸Liを洗浄(湯洗)してもよい。本発明で回収した炭酸リチウム中の硫酸分の混入は結晶(硫酸リチウム)ではなく炭酸リチウムの含水に含まれた硫酸イオンに起因するため、湯洗により除去可能であり、硫酸品位をさらに低減できる。温水の温度は70℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。温水温度が高いほど温水への炭酸リチウムの溶解量を低減でき、温水へのリチウムのロスを低減できる。
炭酸リチウムを回収した後の晶析後液(晶析后液)にはリチウムイオンとフッ素イオンおよび硫酸イオンが含まれるが、これを再度中和工程で繰り返して処理することにより、リチウムの回収率をさらに向上できる。
【0087】
<第1の実施形態>
ここで、図面を参照して、本発明の有価物の回収方法における実施形態の一例について説明する。
図1は、本発明の有価物の回収方法の第1の実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
まず、リチウムイオン二次電池(LIB;Lithium Ion Battery)に対して熱処理(熱処理工程)を行い、LIB熱処理物を得る。
次に、LIB熱処理物に対して、破砕および分級(破砕・分級工程)を行い、粗粒産物と細粒産物とを得る。ここで、粗粒産物として、銅(Cu)または鉄(Fe)などを分離することができる。
【0088】
続いて、細粒産物を水に浸けることにより、水浸出スラリーを得る。このとき、リチウム(酸化リチウムまたは炭酸リチウム)を水に浸出すると共に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣が、水浸出スラリー中に形成される。
【0089】
次に、水浸出スラリーを湿式磁選することにより、磁着物と非磁着物スラリーとに選別する。磁着物にはニッケル(Ni)、コバルト(Co)、コバルトと一体化しているマンガン(Mn)が含まれる。
非磁着物スラリー中には、アルミン酸リチウム(LiAlO
2)、炭素、銅(粗粒産物に回収できなかったもの)およびリチウム(水溶)が含まれる。
次に、非磁着物スラリーに酸を添加し非磁着物に含まれるアルミン酸リチウム中のリチウムを酸浸出(酸浸出工程)した後、固液分離することにより、濾液(酸浸出液)と濾過残渣(炭素濃縮物)とに固液分離する。
【0090】
次に、酸浸出液に水酸化カルシウム(Ca(OH)
2;消石灰)を添加し、中和(中和工程)して、フィルタープレスによる濾過で固液分離し、リチウムを含む液(中和後液)とフッ素またはアルミニウム等の不純物を含む固化物に分離する。中和後液に対し炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)を添加して、フィルタープレスによる濾過で固液分離し、中和後液中に溶存していたカルシウムを炭酸カルシウムとして固化物に分離する(カルシウム固化除去工程)。リチウムを含む液(カルシウム固化除去後液)を加熱して、溶液を蒸発濃縮し、リチウムを炭酸リチウム(Li
2CO
3)として回収する。
このように、第1の実施形態においては、リチウムイオン二次電池を熱処理し、破砕および分級して得た細粒産物を水に浸して水浸出スラリーを得た後、この水浸出スラリーを湿式磁選し、得られた非磁着物スラリーに硫酸を加えて酸浸出した後、フィルタープレスで固液分離することによって、リチウムイオン二次電池から、炭素(C)品位80%以上の高品位の炭素(C)濃縮物を回収できる。
【0091】
次に、酸浸出液に水酸化カルシウムを添加した後、フィルタープレスで固液分離して、フッ素濃度が低減した中和後液とフッ化カルシウムを含む中和ケークを得る。
次に、中和後液に炭酸ナトリウムを添加してフィルタープレスで固液分離し、カルシウム濃度が低減したカルシウム固化除去後液と炭酸カルシウムを含む残渣を得る。
次に、炭酸リチウム晶析工程として、カルシウム固化除去後液を常圧で5倍に蒸発濃縮した後、フィルタープレスで固液分離し、炭酸リチウム(晶析1回目)と晶析後液を得る。
得られた晶析後液は新たに回収した酸浸出液とともに全量を中和工程に投入し、中和工程から蒸発濃縮工程までを前記と同様の手順で行い、炭酸リチウム(2回目)を回収する。
【0092】
<第2の実施形態>
図2は、本発明の有価物の回収方法の第2の実施形態における処理の流れの一例を示す図である。なお、第2の実施形態において、第1の実施の形態と同一の構成については、その説明を省略する。
第2の実施形態の有価物の回収方法では、第1の実施形態と同様にして酸浸出液に水酸化カルシウム(Ca(OH)
2;消石灰)を添加し、中和してFおよびAlを除去する。
次に、得られた中和後液を陽イオン交換樹脂塔に通水し、Ca
2+イオンを吸着除去する(カルシウム吸着除去工程)。
次に、Ca吸着除去後液を第1の実施形態と同様の手順で蒸発濃縮し、リチウムを炭酸リチウム(Li
2CO
3)として回収する(1回目)。得られた晶析後液は新たに回収した酸浸出液とともに全量中和工程に投入し、中和工程から蒸発濃縮工程までを前記と同様の手順で行い、炭酸リチウム(2回目)を回収する。
【0093】
<第3の実施形態>
図3は、本発明の有価物の回収方法の第3の実施形態における処理の流れの一例を示す図である。なお、第3の実施形態において、第1の実施の形態と同一の構成については、その説明を省略する。
第3の実施形態の有価物の回収方法では、第1の実施形態と同様にして、酸浸出液に水酸化カルシウム(Ca(OH)
2;消石灰)を添加し、中和してFおよびAlを除去する。
次に、得られた中和後液を第2の実施形態と同様にして、陽イオン交換樹脂塔に通水し、Ca
2+イオンを吸着除去する(カルシウム吸着除去工程)。
次に、Ca吸着除去後液を電気透析(イオン交換膜法)によりLi濃度が1,500mg/Lから7,500mg/Lになるまで非加熱濃縮する。
次に、炭酸リチウム晶析工程として、得られたLi濃縮液を攪拌槽で攪拌しながら炭酸ナトリウムを添加し、炭酸Liを析出させる(1回目)。炭酸Liを含むスラリーはフィルタープレスで固液分離する。得られた晶析後液は新たに回収した酸浸出液とともに全量中和工程に投入し、中和工程から蒸発濃縮工程までを前記と同様の手順で行い、炭酸リチウム(2回目)を回収する。
【実施例】
【0094】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
<熱処理>
外装ケース(筐体)がアルミニウム製(一部部品に鉄を含む)である車載用リチウムイオン二次電池パック300kg(当該リチウムイオン二次電池は正極集電体がアルミニウム箔であり、負極集電体が銅箔であり、負極活物質が炭素材料であり、電解液はフッ素を含んでいた)に対して、
図2の処理フローに示すように、熱処理工程、破砕工程、分級工程、磁選工程および湿式選別工程を行い、有価物を回収した。具体的には以下のとおりである。
前記リチウムイオン二次電池パックに対して、熱処理装置として炉内が円筒型の固定床炉(直径4,300mm×高さ6,500mm)を用いて、熱処理温度800℃(20℃から15分間かけて800℃に昇温後、2時間保持)、大気雰囲気下の条件で、熱処理を行った。熱処理においては、車載用リチウムイオン二次電池パックを、筐体由来のアルミニウムを回収するための受け皿の上に配置し、当該筐体由来のアルミニウムを溶融させて溶融物として、受け皿に回収した。
【0096】
<破砕および分級>
次いで、破砕工程では、破砕装置として、ハンマークラッシャー(マキノ式スイングハンマークラッシャーHC−20−3.7、槇野産業株式会社製)を用い、50Hz(ハンマー周速38m/s)、出口部分のパンチングメタルの穴径10mmの条件で、加熱処理を行ったリチウムイオン二次電池を破砕し、リチウムイオン二次電池の破砕物を得た。
続いて、篩目の目開きが1.2mmの篩(直径200mm、東京スクリーン株式会社製)を用いて、リチウムイオン二次電池の破砕物を篩分けした。篩分け後の1.2mmの篩上(粗粒産物)と篩下(細粒産物)をそれぞれ採取した。なお、リチウムイオン二次電池に含まれるLi量を100%としたときの、粗粒産物中へのLiのロス量は1%であり、99%が細粒産物中に回収できた。
【0097】
<水浸出および固液分離>
得られた細粒産物については、当該細粒産物62.5kgを250Lの水に浸けて、固液比25%、攪拌速度400rpm、浸出時間1時間の条件で、水にリチウムを浸出させて、水浸出スラリーを得た。
【0098】
<湿式磁選>
得られた水浸出スラリーを、ドラム型磁選機(商品名:WD L−8ラボモデル、エリーズマグネチックス株式会社製)を用いて、磁力:1,500G、ドラム回転数45rpm、固液比25%、スラリー供給速度100L/h/minで湿式磁選を行い、磁着物(含水)と非磁着物スラリー250Lを回収した。磁着物(含水)は濾布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力で加圧濾過して磁着物(脱水)を得た。この磁着物(脱水)を乾燥機(品名DRM620DD、アドバンテック東洋株式会社製)により105℃で24時間乾燥し、磁着物を得た。
【0099】
<酸浸出>
非磁着物スラリー(250L)に対しては硫酸による酸浸出を行った。容量1,000Lのポリエチレン製タンク(品名:Y−1000、ダイライト株式会社製)中の非磁着物スラリーに20%濃度の希硫酸および水を加えてpHを2.0に調整した液(残渣を含む)を400L作製し、これを攪拌機(品名:スーパーアジテーター、型番TTF−2V、トヨキ工業株式会社製)を用い、攪拌速度200rpmで1時間攪拌してリチウムを浸出した。酸浸出後に浸出スラリーを濾布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力で加圧濾過し、Liを含む酸浸出液を回収した。フィルタープレス内の酸浸出残渣(30kg)に水30Lを通水して洗浄後、炭素濃縮物として回収した。
【0100】
<中和>
得られた酸浸出液をFRP製タンク(製作品、直径1,084mm、高さ1,500mm)内に準備した。これを攪拌機(HP−5006、阪和化工機株式会社製)で攪拌した状態でスラリー濃度25%の消石灰および水を添加し、pH12.0に調整しながら1時間中和後、濾布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力の加圧濾過で固液分離してF、Al、およびSO
4を除去したLi溶液(中和後液)を得た。
【0101】
<カルシウム固化除去>
中和後液(885L)をFRP製タンク(製作品、内径1,084mm、高さ1,500mm)に準備し、炭酸ナトリウムを13g/L添加し、攪拌機(HP−5006、阪和化工機株式会社製)で30分間攪拌後、濾布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力で加圧濾過してカルシウム固化除去後液を得た。
【0102】
<炭酸リチウム晶析>
カルシウム固化除去後液(880L)を250LのSUS304製円筒容器(製作品、内径650mm、高さ1,180mm)内に、はじめ200Lを準備した後に、攪拌機(品名:スーパーアジテーター、型番TTF−2V、トヨキ工業株式会社製)で200rpmの攪拌速度で攪拌しながら7L/時間の速度で連続的に供給し、この容器内に配されたテフロン(登録商標)製のチューブ型熱交換器(カンセツ産業株式会社製、製作品、伝熱面積1.4m
2)内に158℃の蒸気を供給して液温が100℃となる条件で熱交換した。次に、常圧下で5倍(蒸発濃縮後液(炭酸Liの晶析物を含む)の容積が174L)に蒸発濃縮し、蒸発濃縮した液を濾布(品名PP934K、中尾フィルター工業株式会社製)を用いたフィルタープレスで0.6MPaの圧力で加圧濾過して炭酸リチウムの晶析物(1回目)と晶析後液を得た。得られた晶析後液全量(170L)を新たな酸浸出液(400L)と混合した液を作製し、1回目の炭酸リチウムの晶析物の作製と同様の手順で中和工程から炭酸リチウム晶析工程までを実施し、炭酸リチウムの晶析物(2回目)を得た。
【0103】
<品位および回収率の評価>
細粒産物、磁着物、炭素濃縮物(酸浸出残渣)、および炭酸リチウムの質量は、105℃で1時間乾燥後に電磁式はかり(品名:GX−8K、エー・アンド・デイ株式会社製)を用いて測定した。その後、当該浸出残渣を王水(富士フイルム和光純薬株式会社製)に加熱溶解させ、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(iCaP6300、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)により分析を行い、細粒産物、磁着物、炭素濃縮物、および炭酸リチウム中のフッ素、熱灼減量以外の各種不純物の含有割合(品位)を求めた。
フッ素品位に関しては、JIS K0202:2008に基づきイオンクロマトグラフ法で分析した。細粒産物と磁着物の品位分析結果を表1に示した(この結果は実施例1〜7及び参考例1〜4において同様の結果である)。
炭素濃縮物の品位分析結果を表2に示した。
細粒産物中の含有量を100%としたときの、各元素の磁着物、酸浸出残渣(炭素濃縮物)、および酸浸出液への分配率を表3に示した。また、回収した炭酸リチウム(晶析1回目)の品質を表16に示した。
各固液分離後の濾液の組成は、FおよびSO
4を除き高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(iCaP6300、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)により分析を行った。フッ素イオン濃度および硫酸イオン濃度の測定は、イオンクロマトグラフィー測定装置(品名:DIONEX INTEGRION RFIC、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)により行った。
酸浸出液組成を表4に示した。細粒産物中の含有量(100%)に対する浸出率(%)を表5に示した。中和後液およびカルシウム固化除去後液の組成を表6に示した。
また、細粒産物に含まれていたリチウムを100%とした時の各工程後液中のリチウム量を表15に示した。
【0104】
(実施例2)
実施例1において、非磁着物スラリーに対する酸浸出をpH1.0で行った以外は、実施例1と同様にして、磁着物、炭素濃縮物(酸浸出残渣)、および炭酸リチウムの回収を行った。実施例2の結果を表1〜5、および表15〜16に示した。
【0105】
(実施例3)
実施例1において、非磁着物スラリーに対する酸浸出をpH3.0で行った以外は、実施例1と同様にして、磁着物、炭素濃縮物(酸浸出残渣)、および炭酸リチウムの回収を行った。実施例3の結果を表1〜5、および表15〜16に示した。
【0106】
(実施例4)
実施例1と同様の手順を実施して得られた非磁着物スラリーを固液分離して濾液(水浸出液)250Lと非磁着物30kgに分離し、非磁着物を60Lの水に添加した後、20%の硫酸および水を加えながらpH2で2時間、200rpmで攪拌した。これを固液分離して150Lの酸浸出液および酸浸出残渣(炭素濃縮物)を得た。酸浸出液を水浸出液と混合した混合液を400L得た。この混合液に対し、実施例1の中和工程以降の工程を行った。実施例4の結果を表1〜5、7、および表15〜16に示した。
【0107】
(実施例5)
中和後液の作製までは実施例1と同様の手順で実施した後、以下のカルシウム吸着除去を行い、得られたカルシウム吸着除去後液に対し、炭酸ナトリウムを13g/L添加した後、実施例1と同様の炭酸リチウム晶析を行い、炭酸リチウムの晶析物を得た。実施例5の結果を表1〜5、8、および表15〜16に示した。
<カルシウム吸着除去>
中和後液を、陽イオン交換樹脂塔(品名:デュオライトC20SC、住化ケムテックス株式会社製)にSV(空間速度)=1の速度で通水し、カルシウム吸着除去後液(870L)を得た。
【0108】
(実施例6)
カルシウム吸着除去までは実施例5と同様の手順で実施した後、以下の予備濃縮および炭酸リチウム晶析を行った。実施例6の 結果を表1〜5、9、および表15〜16に示した。
<予備濃縮>
カルシウム吸着除去後液(875L)を、電気透析装置(AC−10、株式会社アストム製)を用いて5倍に濃縮した(予備濃縮後液175Lを得た)。
【0109】
<炭酸リチウム晶析>
予備濃縮後液を加熱しない状態で炭酸ナトリウムを13g/L添加した後に1時間攪拌した後に固液分離し、炭酸リチウム晶析物(1回目)と晶析後液を得た。得られた晶析後液(170L)を新たな酸浸出液(400L)と混合した液を作製し、1回目の炭酸リチウムの晶析物の作製と同様の手順で中和工程から炭酸リチウム晶析工程までを実施し、炭酸リチウムの晶析物(2回目)を得た。
【0110】
(実施例7)
予備濃縮までを実施例6と同様の手順で実施し、その後、以下の炭酸リチウム晶析を行った。実施例7の結果を表1〜5、10、および表15〜16に示した。
<炭酸リチウム晶析>
予備濃縮後液を実施例1で用いた250LのSUS製容器およびテフロン(登録商標)製のチューブ型熱交換器を用いて攪拌しながら100℃まで加熱し、炭酸ナトリウムを13g/L添加後に1時間攪拌し、攪拌後に固液分離して炭酸リチウム晶析物(1回目)と晶析後液を得た。得られた晶析後液(170L)を新たな酸浸出液(400L)と混合した液を作製し、1回目の炭酸リチウムの晶析物の作製と同様の手順で中和工程から炭酸リチウム晶析工程までを実施し、炭酸リチウムの晶析物(2回目)を得た。
【0111】
(比較例1)
実施例1において、湿式磁選前の水浸出スラリーを試料として用いたこと、即ち、湿式磁選工程を行わない以外は、実施例1と同様にして、酸浸出残渣の回収を行った。
得られた炭素濃縮物について、実施例1と同様にして、各種不純物の含有割合(品位)を測定した。結果を表2に示した。
【0112】
(比較例2)
実施例1において、酸浸出工程を行わない以外は、実施例1と同様にして、磁着物および非磁着物スラリーからの濾過残渣の回収を行った。
得られた濾過残渣について、実施例1と同様にして、各種不純物の含有割合(品位)を測定した。結果を表2、および表4〜5に示した。
【0113】
(比較例3)
実施例1において、非磁着物スラリーに対する酸浸出をpH4.0で行った以外は、実施例1と同様にして、磁着物および酸浸出残渣の回収を行った。また、酸浸出液の中和試験およびCa固化除去試験を実施し、中和後液、カルシウム固化除去後液を回収して組成分析した。
得られた磁着物および非磁着物について、実施例1と同様にして、各種不純物の含有割合(品位)を測定した。結果を表2、4〜5、および表15に示した。
【0114】
(参考例1)
実施例1において、カルシウム固化除去工程を行わず、炭酸リチウム晶析工程時に炭酸ナトリウムを13g/L添加した後に蒸発濃縮を開始した以外は、実施例1と同様にして、磁着物、炭素濃縮物、および炭酸リチウムの回収を行った。参考例1の結果を表1〜5、11、および表15〜16に示した。
【0115】
(参考例2)
実施例1において、カルシウム固化除去工程において二酸化炭素ガスを使用した以外は、実施例1と同様にして、磁着物、炭素濃縮物、および炭酸リチウムの回収を行った。参考例2の結果を表1〜5、12、および表15〜16に示した。
【0116】
(参考例3)
実施例1において、得られた中和後液を60℃で蒸発して中和後液のリチウム濃度を6,008mg/Lに調整(4倍濃縮)し、この液に炭酸ナトリウムを52g/L(実施例1の4倍の濃度)添加してカルシウム固化除去工程を行い、炭酸リチウム晶析工程の蒸発濃縮倍率を1.25倍とした以外は、実施例1と同様にして、磁着物、炭素濃縮物、および炭酸リチウムの回収を行った。参考例3の結果を表1〜5、13、および表15〜16に示した。
【0117】
(参考例4)
実施例4において、酸浸出液に対して実施例1の中和工程以降の工程を行った。参考例4の結果を表1〜5、および表14〜16に示した。
【0118】
【表1】
表1の結果から、実施例1〜7および参考例1〜4では、CoおよびNiの品位が共に20%以上のCoおよびNi濃縮物が磁着物として回収できることがわかった。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
表3の結果から、実施例1〜7および参考例1〜4では、CoおよびNiの磁着物中への回収率はいずれも91%以上であった。また、表2および表3の結果から、実施例1〜7および参考例1〜4では、炭素品位90%以上の炭素濃縮物が炭素の回収率80%以上で回収できることがわかった。
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
【表8】
【0126】
【表9】
【0127】
【表10】
【0128】
【表11】
【0129】
【表12】
【0130】
【表13】
【0131】
【表14】
【0132】
【表15】
【0133】
【表16】
【0134】
表17に、実施例1〜7の回収プロセスにおける炭酸Liの回収速度を示した。
【表17】
表17の結果から、実施例6および7では予備濃縮(実施例1における蒸発濃縮に比べて10倍の速度でリチウムを濃縮できる)を実施したため、リチウムの回収速度を実施例1〜5に比べて6倍に向上できることがわかった。
【0135】
実施例1では、表1および表3に示すとおり、CoおよびNi品位が共に20%以上の磁着物を回収でき、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
実施例1では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
実施例1では、表16に示すとおり、回収した炭酸リチウム晶析物(1回目)はSO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。
実施例1では、表15に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は47%であった。この工程で得られた晶析後液には同13%分のリチウムが溶存しており、また、炭酸Liから分離回収されたフッ素や硫酸イオン等に不純物が濃縮している。これを再度実施例1の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は57%まで向上できた。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、フッ素品位が500pp未満、ナトリウム品位が0.2%未満を達成できた。
実施例1〜5の炭酸リチウム(晶析1回目)における硫酸品位は、実施例6および7よりも低い水準を達成できた。これは、炭酸リチウム晶析を蒸発濃縮と並行して行うため、炭酸リチウム晶析を開始した時点の液中の硫酸イオン濃度が低く、予備濃縮してから炭酸リチウムを晶析させた実施例6および7と比べて炭酸リチウムの含水由来の硫酸の巻き込みを低減できたためである。
【0136】
実施例2では、表1および表3に示すとおり、CoおよびNi品位が共に20%以上の磁着物を回収でき、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
実施例2では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
実施例2では、表16に示すとおり、SO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。
実施例2では、表15に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は45%であった。これを再度実施例2の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は57%まで向上できた。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、フッ素品位が500pp未満、ナトリウム品位が0.2%未満を達成できた。
【0137】
実施例3では、表1および表3に示すとおり、CoおよびNi品位が共に20%以上の磁着物を回収でき、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
実施例3では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
実施例3では、表16に示すとおり、SO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。
実施例3では、表15に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は47%であった。これを再度実施例3の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は57%まで向上できる。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、フッ素品位が500pp未満、ナトリウム品位が0.2%未満を達成できた。
【0138】
実施例4では、表1および表3に示すとおり、CoおよびNi品位が共に20%以上の磁着物を回収でき、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
実施例4では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
実施例4では、表16に示すとおり、回収した炭酸リチウム晶析物(1回目)はSO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。特に、Ca品位が0ppm(定量下限未満)であった。
実施例4では、表15に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は41%であった。この工程で得られた晶析後液には同12.0%分のリチウムが溶存しており、これを再度実施例4の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は50%まで向上できる。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、F品位が500pp未満、Na品位が0.2%未満、およびCa品位が0ppm(定量下限未満)を達成できた。
【0139】
実施例5では、表1および表3に示すとおり、CoおよびNi品位が共に20%以上の磁着物を回収でき、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
実施例5では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
実施例5では、表16に示すとおり、回収した炭酸リチウム晶析物(1回目)はSO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。特に、Ca品位が0ppm(定量下限未満)であった。
実施例5では、表15に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は47%であった。この工程で得られた晶析後液には同13%分のリチウムが溶存しており、これを再度実施例5の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は57%まで向上できる。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、F品位が500pp未満、Na品位が0.2%未満、およびCa品位が0ppm(定量下限未満)を達成できた。
【0140】
実施例6では、表1および表3に示すとおり、CoおよびNi品位が共に20%以上の磁着物を回収でき、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
実施例6では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
実施例6では、表16に示すとおり、回収した炭酸リチウム晶析物(1回目)はSO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。特に、Ca品位が0ppm(定量下限未満)であった。
実施例6では、表15に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は32%であった。この工程で得られた晶析後液には同28%分のリチウムが溶存しており、これを再度実施例6の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は47%まで向上できた。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、F品位が500pp未満、Na品位が0.2%未満、およびCa品位が0ppm(定量下限未満)を達成できた。
【0141】
実施例7では、表1および表3に示すとおり、CoおよびNi品位が共に20%以上の磁着物を回収でき、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
実施例7では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
実施例7では、表16に示すとおり、回収した炭酸リチウム晶析物(1回目)はSO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。特に、Ca品位が0ppm(定量下限未満)であった。
実施例7では、表16に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は47%であった。この工程で得られた晶析後液には同13%分のリチウムが溶存しており、これを再度実施例7の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は57%まで向上できる。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、F品位が500pp未満、Na品位が0.2%未満、およびCa品位が0ppm(定量下限未満)を達成できた。
【0142】
比較例1では、表2に示すとおり、湿式磁選工程を行わないので、CoおよびNi濃縮物(磁着物)が得られなかった。また、浸出残渣のC品位は70%にとどまり、高品質の炭素濃縮物が得られなかった。
【0143】
比較例2では、表2、および表4〜5に示すとおり、濾過残渣のC品位は73%にとどまり、高品質の炭素濃縮物が得られなかった。また、酸浸出工程を行わないため水に可溶な分のリチウムしか浸出できず、リチウムの浸出液中への回収率は23%にとどまった。
【0144】
比較例3では、結果を表2、4〜5、および表15に示すとおり、酸浸出残渣のC品位は79%にとどまり、高品質の炭素濃縮物が得られなかった。また、pHが高いためリチウムの浸出液中への回収率は34%にとどまり、十分な量のリチウムが浸出できなかった。
【0145】
参考例1では、表11に示すとおり、カルシウム固化除去工程を行わなかったため、回収した炭酸リチウム中のCa品位が9%を超え、高品質の炭酸リチウムが回収できなかった。一方、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
参考例1では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
【0146】
参考例2では、表12に示すとおり、CO
32−を1,650mg/L分しか溶存させられなかった(これ以上CO
2ガスを供給するとpHが低下し、CO
32−が溶存できるpH領域でなくなる)。
参考例2では、表12に示すとおり、炭酸リチウムを形成するためのCO
32−が不足し、晶析物中のSO
4品位が17%、F品位が8,500ppmと不純物の多いリチウム晶析物が得られた。一方、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
参考例2では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
【0147】
参考例3は、表13に示すとおり、細粒産物に含まれていたリチウムを100%としたときの15%分のリチウムが、Ca固化除去時にロスした(リチウム濃度が高く、炭酸イオン供給時に炭酸リチウムとして析出した)。しかし、表13に示すとおり、回収した炭酸リチウム晶析物(1回目)はSO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。
参考例3では、表16に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は34%であった。この工程で得られた晶析後液には同11%分のリチウムが溶存しており、これを再度参考例3の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は43%まで向上できた。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、F品位が500pp未満、Na品位が0.2%未満、およびCa品位が0ppm(定量下限未満)を達成できた。また、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
参考例3では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。
【0148】
参考例4では、表14に示すとおり、Li浸出液の硫酸イオン濃度およびリチウムイオン濃度が高く、細粒産物に含まれていたリチウムを100%としたときの6%分のリチウムが、中和ケーク中にロスした。しかし、表14に示すとおり、回収した炭酸リチウム晶析物(1回目)はSO
4品位が0.35%未満、F品位が500ppm未満、ナトリウム品位が0.2%未満であり、炭酸リチウムが99.0質量%以上を占める高品質の炭酸リチウムが得られた。
参考例4では、表16に示すとおり、細粒産物中のリチウム量を100%としたときの、炭酸リチウム(晶析1回目)中のリチウムの回収率は23%であった。この工程で得られた晶析後液には同5%分のリチウムが溶存しており、これを再度参考例4の中和工程から炭酸リチウム回収工程までを実施することで、リチウムの炭酸リチウム(晶析1回目および2回目の合計)中への回収率は27%まで向上できた。この炭酸リチウム(晶析1回目)と(晶析2回目)を合わせた炭酸リチウムの品質も、炭酸リチウム(晶析1回目)中のSO
4品位が0.35%未満、F品位が500pp未満、Na品位が0.2%未満、およびCa品位が0ppm(定量下限未満)を達成できた。また、水浸出液に対しても中和工程、Ca除去工程、および炭酸Li晶析工程を実施し炭酸Liを回収することで、炭酸Li回収率をさらに向上できた。また、磁着物中のCoおよびNi回収率は90%以上であった。
参考例4では、表2および表3に示すとおり、C品位90%以上の炭素濃縮物(酸浸出残渣)が回収でき、炭素濃縮物中のC回収率は80%以上であった。