特許第6948488号(P6948488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948488エチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法及びホットメルト接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948488
(24)【登録日】2021年9月22日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】エチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法及びホットメルト接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 131/04 20060101AFI20210930BHJP
【FI】
   C09J131/04
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2021-501948(P2021-501948)
(86)(22)【出願日】2020年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2020005845
(87)【国際公開番号】WO2020175188
(87)【国際公開日】20200903
【審査請求日】2021年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2019-32654(P2019-32654)
(32)【優先日】2019年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】藤井 満美子
(72)【発明者】
【氏名】石岡 将史
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝人
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−322288(JP,A)
【文献】 特開2017−125181(JP,A)
【文献】 中国実用新案第206493568(CN,U)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0355228(US,A1)
【文献】 特開2004−292654(JP,A)
【文献】 特開2016−141064(JP,A)
【文献】 特開2016−017180(JP,A)
【文献】 特開平09−012695(JP,A)
【文献】 特表2004−532926(JP,A)
【文献】 特開2005−053995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00−5/10;9/00−201/10
B29B7/00−11/14;13/00−15/06
B29C31/00−31/10;37/00−37/04
B29C47/00−47/96;71/00−71/02
C08J3/00−3/28;99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法であって、
液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に水またはアルコールのうち少なくともいずれかからなる液体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.05質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記液体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行うことを含む、エチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項2】
前記加熱混練機容積に対し0.25倍容積以上の分速排気速度で脱気を行う、請求項1に記載のエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項3】
前記液体の導入量が0.35質量部以上である、請求項1に記載のエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項4】
前記脱気におけるゲージ圧が−60kPaより高い真空度である、請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項5】
さらに前記加熱混練機から排気した排気ガスを、冷却凝集させ、揮発性有機化合物を含んだ液体を回収することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項6】
前記液体の回収率が60%以上である、請求項に記載のエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法。
【請求項7】
得られるホットメルト接着剤における残存酢酸または酢酸ビニルが17ppb以下である、請求項1〜6のいずれかに記載のエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン酢酸ビニル(EVA)系ホットメルトは、食品や飲料の包装、製本などの分野において、高速作業性、広範囲の被着体に対する接着性、経済性などに優れる事から生産性向上に大きく貢献できることで多く使用されている。
【0003】
一方で、EVA系ホットメルトは独特の臭気を有しており、ホットメルトを使用している包装容器等から食品への臭い移りなどの懸念や、製造現場ではホットメルトを加熱することで、多量の悪臭が発生し、劣悪な環境となっており、低臭気化の要望が強い。
【0004】
その臭気の原因は主成分であるEVAに含まれる未反応モノマーである酢酸ビニルや、製造時・塗工時の高温でアセトキシ基が分解(脱酢酸)して発生する酢酸、解重合で発生する酢酸ビニルのモノマーや低重合度化合物などである。
【0005】
これらの臭気原因物質は精製度の高いEVAを用いてもホットメルトを製造する際に高温に加熱されるため、常に生成されるのでEVA系ホットメルト接着剤では避ける事のできない問題である。
【0006】
ホットメルトに含まれる臭気成分を低減する方法として、例えば、ポリオレフィンを単軸または2軸の押出機へ供給する際に、0.15重量%以上の水を供給する方法(特許文献1)や、特定のアルデヒドスカベンジャーを添加する方法(特許文献2)などが報告されている。
【0007】
しかし、上記特許文献1記載の方法では、水とホットメルト原料との接触時間が短く、十分な脱臭効果は得られていない。また、特許文献2記載の方法では、アルデヒドスカベンジャーとして使用されるアミノベンズアミドに特有の臭気があり、また、添加剤の添加量に上限があるため脱臭効果にも限度がある。
【0008】
また、構造・物性などがEVAに近いEEA(エチレンアクリル酸エチル)への代替も提案されたが、酢酸や酢酸ビニルモノマーとは違う特有の臭気を持ち、かつ多彩なホットメルトの設計に応えるには品種が少なく自由度が乏しい上に価格も高い。
【0009】
本発明の課題は、前記問題点を解決することにある。すなわち、従来の多彩なEVAホットメルト接着剤の性能を制限する事がなく、多くのEVA系ホットメルトに対応できる技術でEVA系ホットメルトの弱点である臭気低減を行うことを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−193436号公報
【特許文献2】特開2017−125181号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記構成によって、上記目的を達することを見出し、この知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の一局面に係るエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤の製造方法は、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に水またはアルコール水溶液のうち少なくともいずれかからなる液体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.05質量部の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記液体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行うことを含むことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のEVA系ホットメルト接着剤の製造方法は、上述したように、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に水またはアルコールのうち少なくともいずれかからなる液体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.05質量部の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記液体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行うことを含むことを特徴とする。
【0014】
このような構成とすることによって、低臭気のEVA系ホットメルト接着剤を製造することが可能となり、EVA系ホットメルト接着剤の有する多彩な性能と低臭気との両立を図りやすくなる。すなわち、本発明によれば、従来の多彩なEVAホットメルト接着剤の性能を制限する事がなく、多くのEVA系ホットメルトに対応できる技術でEVA系ホットメルトの弱点である臭気低減を行うことができる。また、特殊な材料を用いる必要もなくなるため、コストの抑制にもつながる。
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
まず、本実施形態で使用できるEVA系ホットメルト接着剤材料としては、従来からホットメルト接着剤に使用されているベース樹脂、粘着性付与剤、ワックス、その他添加剤を特に限定なく使用することができる。特に、本実施形態の製造方法によれば、どのようなEVA系ホットメルト接着剤材料を使用しても、低臭気のEVA系ホットメルト接着剤を提供することができる。
【0017】
具体的な材料としては、ベース樹脂としては、例えば、EVA系ホットメルト接着剤を構成する成分として用いられる熱可塑性樹脂を特に限定なく使用することができる。
【0018】
前記EVA系の熱可塑性樹脂は、ホットメルト接着剤における、EVA系の熱可塑性樹脂として用いられるものであれば、特に限定されず、例えば、エチレンと酢酸ビニルから合成される共重合体等が挙げられる。
【0019】
上述したようなEVA系ベース樹脂は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0020】
また、粘着性付与剤についても、ホットメルト接着剤に一般的に使用される合成樹脂系粘着付与剤、例えば芳香族系、脂肪族系、脂環族系の石油樹脂、または天然樹脂系粘着付与剤、およびその水素添加物等を特に限定なく用いることが可能である。例えば、天然系石油樹脂では、天然ロジン、変性ロジン、水添ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、水添テルペンのコポリマーの水素化誘導体、ポリテルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体、合成樹脂系では、脂肪族石油炭化水素樹脂、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体を例示することができる。上述したような粘着付与剤は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
ワックスは、ホットメルト接着剤に含有されるワックスであれば、特に限定されない。ワックスとしては、例えば、合成ワックス、石油ワックス、及び天然ワックス等が挙げられる。また、合成ワックスとしては、例えば、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックス等の、ポリオレフィンワックス等が挙げられる。石油ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びペトラタム等が挙げられる。天然ワックスとしては、例えば、モンタンワックス、木ロウ、カルバナロウ、ミツロウ、及びカスターワックス等が挙げられる。これらのワックスは、上記例示したワックスを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
その他、添加剤として、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填材、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、及び可塑剤等を用いてもよい。
【0023】
例えば、酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤や有機硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。有機硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、上記例示した酸化防止剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本実施形態の製造方法は、液状状態のEVA系ホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に液体を導入する工程と、加熱撹拌または分散を行い、脱気を行う工程を含む。
【0025】
加熱混練機に液体を導入する工程は、EVA系ホットメルト接着剤用材料を加熱混練機に投入した後であれば、ホットメルト接着剤用材料を混練する間に行ってもよいし、混練が完了した後に行ってもよい。好ましくは、材料の混練が完了した後に行う。本実施形態において、「混練が完了した」とは、ホットメルト接着剤の材料(例えば、ベース樹脂と粘着性付与剤)が一様の流動性を示した状態を意味する。
【0026】
加熱混練機については、ホットメルト接着剤の撹拌混練に使用されている一般的な製造装置を使用することができる。例えば、ホットメルト接着剤の一般的な製造方式において、連続処理方式とバッチ処理方式がある。連続処理方式として使用される加熱混錬機として、ルーダー、エクストルーダー、二軸テーパースクリュー等を用いることができる。また、バッチ処理方式として使用される加熱混錬機として、撹拌混練機やバンバリーミキサー、ニーダー等を用いることができる。
【0027】
加熱混練機に導入する液体は、水またはアルコールのうち少なくともいずれかからなる液体である。すなわち、本実施形態の液体は、水単独であってもよく、アルコール単独であってもよく、さらに、水およびアルコールの両方であるアルコール水溶液であってもよい。
【0028】
前記液体としてアルコール水溶液を使用する場合、そのアルコール濃度については特に限定はないが、濃度が高いと低臭効果が得られるという観点から、10質量%以上の希アルコール水溶液であることが好ましい。なお、前記液体としてアルコール水溶液を使用する場合は、アルコール水溶液からなる液体を導入した後、水でEVA系ホットメルト接着剤用材料を洗浄する必要がある。水での洗浄方法は特に限定されず、アルコール水溶液を接着剤材料に接触させた時間と同等の時間、水を加熱混練機に導入することによって洗浄できる。
【0029】
前記液体の加熱混練機への導入は、前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.05質量部以上の量で行う。導入量が0.05質量部未満となると、低臭効果が得られない。前記液体導入量は0.35質量部以上であることがより好ましい。
【0030】
また、導入量の上限については、導入量が多ければ、低臭効果が高くなるため特に設ける必要はない。しかしながら、コストや工程時間などを考慮すると、好ましくは前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して50質量部以下、さらには25質量部以下であることが望ましい。
【0031】
なお、液体を加熱混練機へ導入する速度は特に限定はされないが、ホットメルト接着剤用材料2,000gに対して50ppm/分〜12500ppm/分程度の導入速度で行うことが好ましい。
【0032】
本実施形態における液体の導入方法は特に限定されず、加熱混練機の上方、側面、下方のいずれから導入してもよい。具体的には、例えば、加熱混練機の下方および/または側面から導入することによってホットメルト内に十分拡散させた状態で液体を導入することができる。
【0033】
前記液体を加熱混練機に導入した後、前記ホットメルト接着剤用材料と前記液体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行う。このときの加熱温度は、ホットメルト接着剤用材料の溶融温度以上であれば特に限定はなく、ホットメルト接着剤用材料として使用しているベース樹脂の種類などによって適宜設定することができる。
【0034】
加熱撹拌や分散は、従来、本技術分野で公知の手段によって行うことができる。例えば、パドル、タービン、プロペラ、アンカー、ヘリカルリボン、マックスブレンド、フルゾーン、スクリュー、ブレード、MR−205、Hi−Fミキサー、サンメラー等を使用できる。これらは、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
脱気は、前記加熱混練機容積に対し0.25倍容積以上の分速排気速度で、ゲージ圧が−60kPaより高い真空度となるまで行うことが好ましい。このような条件で脱気を行うことによって、残留酢酸および残留酢酸ビニル量をより十分に抑えることができる。
【0036】
本実施形態の脱気の手段は特に限定されないが、具体的には、例えば、前記分速排気速度となるように調整した真空ポンプを用いて、前記真空度となるまで減圧することによって脱気することができる。
【0037】
前記分速排気速度は、より好ましくは、加熱混練機容積に対し等倍容積以上である。前記分速排気速度の上限は特に規定する必要はないが、設備の大型化、コスト抑制の観点から、前記加熱混練機容積に対し17.5倍容積以下とすることが好ましい。
【0038】
前記脱気はゲージ圧が−90kPaより高い真空度であることがより好ましい。上限値については特に設ける必要はないが、設備の破損、設備の大型化、コストアップなどの観点からゲージ圧−101kPaより低い真空度であることが望ましい。
【0039】
以上のように、特定の条件下において、ホットメルト接着剤用材料中に液体を導入する事で、通常の気体を分散させるより接触面積を増加させ、吸着効果をより向上できると考えられる。その結果、低臭気および無臭のホットメルト接着剤を提供することができる。
【0040】
さらに、本実施形態の製造方法では、前記加熱混練機から排気した排気ガスを、冷却凝集させ、揮発性有機化合物を含んだ液体を回収する工程を含んでいてもよい。
【0041】
それにより、真空ポンプの潤滑性や防錆性を損なうことなく長寿命化が図れるといった利点がある。
【0042】
また、前記回収工程における液体の回収率は60%以上であることが好ましい。それにより、環境大気汚染をより抑制することができると考えられる。
【0043】
本実施形態の製造方法によって得られるEVA系ホットメルト接着剤は、残存酢酸または残存酢酸ビニルの量が17ppb以下であり、非常に低臭気であるため、産業利用上非常に有用である。このようなEVA系ホットメルト接着剤は、材料中に含まれる臭気成分が少ないポリマー材料を選択して製造された低臭気を特徴として市販されている従来のホットメルト接着剤よりもさらに残存臭気成分が少ないことが特徴である。よって、本実施形態の製造方法によって得られるEVA系ホットメルト接着剤(残存酢酸または残存酢酸ビニルが17ppb以下)もまた本発明に包含される。
【0044】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0045】
本発明の一局面に係るEVA系ホットメルト接着剤の製造方法は、液状のホットメルト接着剤用材料を混練する間若しくは混練した後に、加熱混練機に水またはアルコール水溶液のうち少なくともいずれかからなる液体を前記ホットメルト接着剤用材料100質量部に対して0.05質量部以上の量で導入し、前記ホットメルト接着剤用材料と前記液体が接するように加熱撹拌または分散を行いながら、脱気を行うことを含むことを特徴とする。
【0046】
このような構成により、材料選択にとらわれることなく、高性能でかつ低臭気のEVA系ホットメルト接着剤を様々な産業分野で提供することができる。
【0047】
さらに、前記ホットメルト接着剤の製造方法において、前記加熱混練機容積に対し0.25倍容積以上の分速排気速度で脱気を行うことが好ましく、また、前記液体の導入量が0.35質量部以上であることが好ましい。それにより、上述した効果がより確実に得られると考えられる。
【0048】
また、前記脱気のゲージ圧が−60kPaより高い真空度であることが好ましい。それにより、上述した効果がより確実に得られると考えられる。
【0049】
前記製造方法は、さらに、前記混練タンクから排気した排気ガスを、冷却凝集させ、揮発性有機化合物を含んだ液体を回収することを含むことが好ましい。それにより、真空ポンプの長寿命化等を図ることができる。
【0050】
また、前記製造方法において、前記液体の回収率が60%以上であることが好ましい。それにより、環境大気汚染をより抑制することができると考えられる。
【0051】
さらに、前記製造方法において、得られるホットメルト接着剤における残存酢酸または酢酸ビニルの量が17ppb以下であることが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
まず、本実施例で使用したホットメルト接着剤用材料を以下に示す。
【0054】
(ホットメルト接着剤1:EVA系ホットメルト1)
・ベース樹脂:エチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー社製のウルトラセン722 ) 60質量部
・粘着性付与剤:水添石油樹脂(出光興産株式会社製のアイマーブ P−100) 25質量部
・ワックス:フィッシャートロプシュワックス(Shell社製のGTL Sarawax SX100)
15質量部
溶融温度は160℃、で粘度は8125mPa・s、軟化点は109℃であった。
【0055】
<試験例1>
(ホットメルト接着剤1の製造方法)
容量4Lのステンレス鋼(SUS)製の攪拌混錬機中に、前記ホットメルト接着剤1の材料を2kg投入し、165℃以上で攪拌、溶融させた。
【0056】
そして、表1〜4に示す各液体を側面または/および下方から表1〜4に示す導入量(ホットメルト接着剤材料100質量部に対する割合(質量部))で導入した。そして、タンク容量に対し、表1〜3に示す目的倍率容積の分速排気速度(排気速度/タンク容積)となるよう調整した真空ポンプを用い、攪拌混錬機内をそれぞれの目標到達真空度まで減圧することによって、実施例1〜24および比較例1〜4のホットメルト接着剤を得た。
【0057】
〔評価試験1:残存酢酸および酢酸ビニル量の測定〕
酢酸および酢酸ビニルの量の測定は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC アジレント社製7890B GCシステム、MS アジレント社製5977Bシリーズ GC/MSDシステム、DHS ゲステル社製DHSシステム)を用い、ダイナミックヘッドスペース法に基づいて行った。試料の加熱温度は160℃、加熱時間は60分間とし、ガスクロには内径0.25mm、ジメチルポリシロキサンコーティング(コーティング厚1.00μm)、長さ60mのキャピラリーカラムを使用した。カラムの昇温プログラムは40〜300℃まで20℃/分で加熱し、その後20分間保持した。この操作によって、質量分析器で検出した酢酸および酢酸ビニルを検量線から定量した。
【0058】
〔評価試験2:臭気の官能評価〕
140mLのガラス瓶にホットメルト接着剤を50g入れた。そのサンプルを160℃雰囲気下で30分加温し、室温10分静置したのち、1〜2cmの距離でにおいを嗅いだ。
【0059】
各試験の評価基準は以下の通りである。
【0060】
◎:残存酢酸量6ppb以下 酢酸の臭気を感じない
○:残存酢酸量7〜17ppb 低臭効果がある
△:残存酢酸量18〜24ppb 若干の低臭効果があるが、明らかな臭気が残っている
×:残存酢酸量25ppb以上 明らかに臭気を感じる
なお、上記◎の根拠は公益社団法人におい・かおり環境協会が公開の嗅覚閾値に準拠している。
【0061】
それぞれの結果を表1〜4に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
(考察)
表1〜4の結果から明らかなように、本発明の製法に基づいて得られたEVAホットメルト接着剤(実施例1〜24)では、酢酸の量がいずれも17ppb以下となっており、臭気も低減した。さらに、液体の導入量が好ましい範囲となっている、実施例5、10、15等ではより高い効果が得られていることもわかる。また、実施例20−21、23−24の結果から、排気速度を高め、液体量も上げることでさらに効果が高まることもわかった。
【0067】
これに対し、液体の導入量が不足していた比較例1では、残存酢酸量がわずかに現象したものの、明らかな臭気が残っていた。また、液体を導入させず、従来の製法に基づいて得られた比較例2のホットメルト接着剤では、残存酢酸量が25ppb超となっていた。さらに、脱気のみを行った比較例3〜4でも酢酸量を十分に低減することはできず、臭気が残った。
【0068】
<試験例2>
(ホットメルト接着剤2:EVA系ホットメルト2)
・ベース樹脂:エチレン−酢酸ビニル共重合体(USI社製のEVATHENE UE653−04)60質量部
・粘着性付与剤:水添石油樹脂(出光興産株式会社製のアイマーブ P−100)25質量部
・ワックス:フィッシャートロプシュワックス(Shell社製のGTL Sarawax SX100)15質量部
ホットメルト接着剤2の溶融温度は160℃、粘度は8125mPa・s、軟化点は109℃であった。
【0069】
上記ホットメルト接着剤2の材料と表4に示す液体や各種条件を使用した以外は、試験例1と同様にして、実施例25〜26および比較例5のホットメルト接着剤2を製造し、試験例1と同じ評価試験を行った。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
(考察)
表5の結果から明らかなように、本発明の製法に基づいて得られたEVA系のホットメルト接着剤2(実施例25〜26)では、酢酸だけでなく酢酸ビニルの量も低減されており(89pptおよび109ppt)、臭気も低減したことが確認できた。これに対し、液体を導入させず、従来の製法に基づいて得られた比較例5のホットメルト接着剤2では、残存酢酸ビニル量が406pptとなっていた。
【0072】
<試験例3>
ホットメルト接着剤の材料として、以下のホットメルト接着剤3および4(いずれもEVA系)を使用し、かつ、表6および7に示す液体や各種条件を使用した以外は、試験例1と同様にして、実施例27および比較例6のホットメルト接着剤3、並びに実施例28および比較例7のホットメルト接着剤4を製造し、試験例1と同じ評価試験を行った。結果を表6および7に示す。
【0073】
(ホットメルト接着剤3:EVA系ホットメルト3)
・ベース樹脂:エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井・ダウポリケミカル株式会社製のエバフレックス EV220)50質量部
・粘着性付与剤:脂環族系石油樹脂水素化物(日本ゼオン株式会社製のQuintone A100)30質量部
・ワックス:フィッシャートロプシュワックス(Shell社製のGTL Sarawax SX100)20質量部
・酸化防止剤:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製のIrganox 1010)1質量部
溶融温度は160℃、で粘度は9800mPa・s、軟化点は102℃であった。
【0074】
(ホットメルト接着剤4:EVA系ホットメルト4)
・ベース樹脂:エチレン−酢酸ビニル共重合体(LG Chem社製のEA28150)45質量部
・粘着性付与剤:天然ロジン系樹脂(アリゾナケミカル社製のシルバレスRE−100L)45質量部
・ワックス:パラフィンワックス(日本精鑞株式会社製のPW−130)10質量部
溶融温度は160℃、で粘度は6050mPa・s、軟化点は102℃であった。
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
(考察)
表6〜7の結果から明らかなように、本発明の製法に基づいて得られたEVA系のホットメルト接着剤3や4においても(実施例27〜28)、それぞれ同じ材料を用いて従来の製法で得られた比較例6〜7と比べて、酢酸だけでなく酢酸ビニルの量も低減されており、臭気も低減したことが確認できた。
【0078】
この出願は、2019年2月26日に出願された日本国特許出願特願2019−32654を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0079】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、ホットメルト接着剤およびその製造方法に関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。