(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948587
(24)【登録日】2021年9月24日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴及び電気銅メッキ方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/38 20060101AFI20210930BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
C25D3/38 101
C25D7/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-82648(P2017-82648)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-178222(P2018-178222A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】友松 ゆい
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅宏
【審査官】
▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−108340(JP,A)
【文献】
特開2016−148023(JP,A)
【文献】
特開2018−165375(JP,A)
【文献】
特開2016−079415(JP,A)
【文献】
特表2014−523485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性銅塩と、酸又はその塩を含有する電気銅メッキ浴において、
次のレベラー(L1)及びレベラー(L2)の少なくとも一種から選ばれた化合物(B)を含有し、
上記レベラー(L1)は、 (a)メルカプト基を有する複素環窒素化合物と、(b)有機ハロゲン化合物との反応生成物であり、
上記レベラー(L2)は、 (a)メルカプト基を有する複素環窒素化合物と、(b)有機ハロゲン化合物と、(c)一端又は両端に反応性基を有するポリアルキレングリコールとの反応生成物であって、
上記成分(a)は、イミダゾール環、ピリジン環、プリン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、イミダゾリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ベンゾオキサゾール環、モルホリン環、ピロール環よりなる群から選ばれた複素環(但し、レベラー(L1)の場合、ピリジン環を除いた上記複素環)を有する窒素化合物であり、
上記成分(b)は、アルキレン鎖に少なくとも1個以上のハロゲンを有するか、或は、当該ハロゲンと共に、さらにアミノ基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基よりなる群から選ばれた官能基を有する有機ハロゲン化合物であることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項2】
可溶性銅塩と、酸又はその塩を含有する電気銅メッキ浴において、
(A)スルフィド類、メルカプタン類、チオプロピルスルホン酸類、ジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有するとともに、
(B)メルカプト基を有する複素環窒素化合物(a)と、有機ハロゲン化合物(b)との反応生成物であるレベラー(L1)、及び
メルカプト基を有する複素環窒素化合物(a)と、有機ハロゲン化合物(b)と、一端又は両端に反応性基を有するポリアルキレングリコール(c)との反応生成物であるレベラー(L2)の少なくとも一種
を含有し、
上記成分(a)は、イミダゾール環、ピリジン環、プリン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、イミダゾリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ベンゾオキサゾール環、モルホリン環、ピロール環よりなる群から選ばれた複素環(但し、レベラー(L1)の場合、ピリジン環を除いた上記複素環)を有する窒素化合物であり、
上記成分(b)は、アルキレン鎖に少なくとも1個以上のハロゲンを有するか、或は、当該ハロゲンと共に、さらにアミノ基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基よりなる群から選ばれた官能基を有する有機ハロゲン化合物であることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項3】
上記ポリアルキレングリコール(c)が有する反応性基は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基よりなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。」
【請求項4】
含イオウ化合物(A)のうち、スルフィド類が、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィ
ド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−スル−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれ、
同じく、メルカプタン類が、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれ、
チオプロピルスルホン酸類が、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれ、
ジチオカルバミン酸類が、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気銅メッキ浴を用いて、500μm以下の薄い被メッキ物に反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成して、被メッキ物と一体化したメッキ皮膜の反りを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気銅メッキ浴を用いて、0.1μm〜5000μmの反り抑制機能を有する低応力の銅メッキ皮膜を被メッキ物に形成し、反り作用でメッキ皮膜が被メッキ物から剥離するのを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴及び電気銅メッキ方法に関して、メッキ後の銅皮膜の反りを防止できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
通常の電気銅メッキでは、メッキ後に皮膜内部に引張応力が働いて時間経過とともに(例えば、1〜2日経過後に)、基材の表面に対して銅皮膜がメッキの表面側に凹状に反るという現象がある。つまり、バンプやリードなどの基材上のメッキ皮膜の内部で相互に引張応力が働いて皮膜のうちの外部に臨む表面側が長さ方向に収縮するのに対して、皮膜のうちの基材に臨む接触面側は長さが変わらないために、メッキ皮膜がその表面側を上にして凹状に反る(換言すると、下側の基材に向って凸状に反る)という現象が見られる(
図1A参照)。
反りはこの1〜2日の間に経時的に進行した後、定常状態に移行し、それ以上は反らないが、例えば、200μm以下のウエハー、或いはポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などのフィルムのように薄い基材に銅メッキした場合、皮膜を形成した基材ごと全体が経時的に反ってしまい、メッキ皮膜を介して基材にICなどの各種チップ部品を実装した場合、バンプなどの接合部分が割れるなどの接合不良を起こし、電子部品の信頼性を損なう問題がある。
また、銅メッキ皮膜と被メッキ物との間の密着性が低い場合には、メッキ皮膜が反ると皮膜自体が被メッキ物から剥離してしまい、やはり各種チップ部品の実装に際して、電子部品の信頼性を損なうことになる。
【0003】
一般に、電気銅メッキでは、電着皮膜の均一性、平滑性、光沢性を促進するため、レベラー、ブライトナー、ポリマー、塩化物などを添加している。
従って、これらの成分が複合的に作用して銅皮膜の反りに影響していることが考えられるが、電気銅メッキに関連した従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
イミダゾール環、テトラゾール環、ピリジン環、ベンゾチアゾール環などを有する複素環式窒素化合物と、ポリハロゲン化合物(2,4−ビス(クロロメチル)−1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2−ジクロロエタンなど)と、ポリエポキシド化合物(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルなど)とを反応させた生成物を含有する電気銅メッキ液であり(請求項1〜2、6、[0029]〜[0033])、上記反応生成物を含有させることで、メッキ液から得られる銅皮膜の均一電着性と平滑性を改善できる([0007])。
この場合、上記複素環式窒素化合物のうち、5員環化合物(請求項3)の置換基R
1にメルカプト基はなく、また、6員環化合物(請求項5)と、縮合複素環窒素化合物(請求項4)には置換基はない。
例えば、実施例1では、イミダゾール(複素環式化合物)と、2,4−ビス(クロロメチル)−1,3,5−トリメチルベンゼン(ポリハロゲン化合物)と、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(ポリエポキシド化合物)との反応生成物が開示される([0056]、表1参照)。
【0004】
(2)特許文献2
数平均分子量100〜200万以上を有し、末端にスルホン酸基、アミノ基、メルカプト基、フェニル基、フェニルオキシド基、フェニルアゾフェノキシ基などの官能基、或はハロゲンが結合したポリアルケンオキシド化合物を添加剤として含有する電気銅メッキ液であり(請求項1〜3、[0032]、[0037]〜[0039])、上記添加剤は分子量100以上であるため、当該添加剤を含有した場合、メッキ液中の塩素量が少なくても安定して良好な銅メッキが行え、 ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS) やヤヌスグリーンなどの添加剤を併用する必要もない([0033])。
上記ポリアルケンオキシド化合物では、例えば、有機ハロゲン化物に属するジクロロポリエチレングリコールなどが開示される([0037]〜[0038])。
【0005】
(3)特許文献3
ジピリジル化合物とアルキル化剤の反応生成物である4級ジピリジル塩化合物からなるレベラー化合物を含有する銅メッキ浴を基板に適用して、ボイドの発生を抑えてメッキ不良を改善できる銅フィリング方法である(請求項1〜42、段落22〜23)。
上記ジピリジル化合物は、例えば、ピリジン環同士が炭素−炭素で直接結合し、或いは、エチレン基を介して結合したピリジン誘導体などである(請求項6、段落26)。
上記アルキル化剤は2−クロロエチルエーテル、塩化ベンジル、2−(2−クロロトキシ)エタノール、クロロエタノール、ジクロロヘキサン、グリコール結合を有する化合物などである(請求項20、段落39、46、55)。
実施例1では、可溶性銅塩と、硫酸と、塩素イオンと、電着促進剤と、電着抑制剤と、ピリジン環同士がエチレン基を介して結合したピリジン誘導体を2−クロロエチルエーテルでアルキル化したレベラー化合物とを含有する銅メッキ浴が開示されている(段落124)。この場合、上記レベラー化合物は複素環窒素化合物(ピリジン誘導体)と有機塩素化合物(2−クロロエチルエーテル)を反応させた生成物である。
【0006】
(4)特許文献4
ポリオキシアルキレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールなどの抑制剤、 SPS 、 メルカプトプロパンスルホン酸(MPS) 、 N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS) などの電着促進剤を含む銅メッキ液で電気メッキをして、低内部応力の銅皮膜を形成する方法である(請求項1〜6、表1)。
実施例1では、MPS(塩)とSPS(塩)とポリオキシアルキレングリコールとポリエチレングリコールを含有する銅メッキ浴(浴2〜4)が記載され、MPS(塩)とSPS(塩)の合計濃度は5〜9ppmである。
【0007】
【特許文献1】特開2015−227327号公報
【特許文献2】特開2008−223082号公報
【特許文献3】特表2012−510179号公報
【特許文献4】特開2013−060660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4に示す電気銅メッキ液、或いは、予備処理を含む電気銅メッキ方法にあっては、前述したように、得られた銅の電着皮膜は時間経過に伴って引張応力が働いて、メッキ表面に向けて上側に反ってしまい(
図1A参照)、基板への各種チップ部品の装填の信頼性を確保するのが容易でないという実情がある。
例えば、上記特許文献1の実施例([0056])には、イミダゾール(複素環式化合物)と、2,4−ビス(クロロメチル)−1,3,5−トリメチルベンゼン(ポリハロゲン化合物)と、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(ポリエポキシド化合物)を反応させた化合物が例示されるが、当該化合物をレベラーとして電気銅メッキ液に添加しても、得られた銅皮膜について経時的な反りを抑制する点で充分ではない(後述の比較例参照)。
本発明は、銅メッキに際してメッキ皮膜が経時的に反るのを有効に防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記特許文献1〜4に記載された生成物、特に当該生成物を得るための反応物である複素環窒素化合物、有機ハロゲン化合物などに着目し、これらに改変を加えた化合物を反応させて得られる生成物について、当該生成物を電気銅メッキ液に添加した場合、各種生成物と得られる銅皮膜の反りとの関係を鋭意研究した。
その結果、
所定の複素環を有する窒素化合物にメルカプトを導入した化合物(1)を、
所定の有機ハロゲン化合物(2)と反応させた生成物、或は、さらに、 反応性基を有するポリアルキレングリコール (3)を反応させた生成物をレベラーとして電気銅メッキ液に添加すると、上記特許文献1に開示された化合物に比べても、得られた銅皮膜の経時的な反りを有効に防止できるという予測外の効果を確認した。
また、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)又はその塩、 ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)などを初めとする含イオウ化合物は、電気銅メッキで電着促進機能を果たす化合物として用いられるが、 上記レベラーに加えてこの 含イオウ化合物を所定以上の濃度で電着銅メッキ浴に併用することで、銅皮膜の反り防止効果を一層増強できることを 見い出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明1は、可溶性銅塩と、酸又はその塩を含有する電気銅メッキ浴において、
次のレベラー(L1)及びレベラー(L2)の少なくとも一種から選ばれた化合物(B)を含有し、
上記レベラー(L1)は、 (a)メルカプト基を有する複素環窒素化合物と、(b)有機ハロゲン化合物との反応生成物であり、
上記レベラー(L2)は、 (a)メルカプト基を有する複素環窒素化合物と、(b)有機ハロゲン化合物と、(c)一端又は両端に反応性基を有するポリアルキレングリコールとの反応生成物であって、
上記成分(a)は、
イミダゾール環、ピリジン環、プリン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、イミダゾリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ベンゾオキサゾール環、モルホリン環、ピロール環よりなる群から選ばれた複素環(但し、レベラー(L1)の場合、ピリジン環を除いた上記複素環)を有する窒素化合物であり、
上記成分(b)は、アルキレン鎖に少なくとも1個以上のハロゲンを有するか、或は、当該ハロゲンと共に、さらにアミノ基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基よりなる群から選ばれた官能基を有する有機ハロゲン化合物であることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0011】
本発明2は、可溶性銅塩と、酸又はその塩を含有する電気銅メッキ浴において、
(A)スルフィド類、メルカプタン類、チオプロピルスルホン酸類、ジチオカルバミン酸類から選ばれた含イオウ化合物を50〜10000mg/L含有するとともに、
(B)メルカプト基を有する複素環窒素化合物(a)と、有機ハロゲン化合物(b)との反応生成物であるレベラー(L1)、及び
メルカプト基を有する複素環窒素化合物(a)と、有機ハロゲン化合物(b)と、一端又は両端に反応性基を有するポリアルキレングリコール(c)との反応生成物であるレベラー(L2)の少なくとも一種
を含有し、
上記成分(a)は、
イミダゾール環、ピリジン環、プリン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、イミダゾリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ベンゾオキサゾール環、モルホリン環、ピロール環よりなる群から選ばれた複素環(但し、レベラー(L1)の場合、ピリジン環を除いた上記複素環)を有する窒素化合物であり、
上記成分(b)は、アルキレン鎖に少なくとも1個以上のハロゲンを有するか、或は、当該ハロゲンと共に、さらにアミノ基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基よりなる群から選ばれた官能基を有する有機ハロゲン化合物であることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0012】
本発明3は、上記本発明1又は2において、
上記ポリアルキレングリコール(c)が有する反応性基は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基よりなる群から選ばれたものであることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0013】
本発明4は、上記本発明2又は3において、含イオウ化合物(A)のうち、スルフィド類が、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−スル−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩から選ばれ、
同じく、メルカプタン類が、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩から選ばれ、
チオプロピルスルホン酸類が、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれ、
ジチオカルバミン酸類が、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩から選ばれたものであることを特徴とする低応力皮膜形成用の電気銅メッキ浴である。
【0014】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかの電気銅メッキ浴を用いて、500μm以下の薄い被メッキ物に反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成して、被メッキ物と一体化したメッキ皮膜の反りを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法である。
【0015】
本発明6は、上記本発明1〜4のいずれかの電気銅メッキ浴を用いて、0.1μm〜5000μmの反り抑制機能を有する低応力の銅メッキ皮膜を被メッキ物に形成し、反り作用でメッキ皮膜が被メッキ物から剥離するのを防止することを特徴とする電気銅メッキ方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気銅メッキ浴では、メルカプト基を有する
所定の複素環窒素化合物を反応物として選択し、これに
所定の有機ハロゲン化合物を反応させた生成物からなるレベラーL1、或は、さらにポリエポキシド化合物を反応させたレベラーL2を含有するため、得られた銅皮膜に低応力の性質を付与して、皮膜の経時的な反りを効果的に防止できる。
また、電気銅メッキ浴に対して上記レベラーL1及び/又はレベラーL2に加えて、特定の含イオウ化合物(A)を所定濃度以上で共存させると、銅皮膜の経時的な反りをより有効に防止できる。電気銅メッキ浴に電着促進剤を含有する場合、通常はSPS(ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド)などの含イオウ化合物を3〜10mg/L程度の割合でごく微量配合するが、本発明では50〜10000mg/Lの範囲で通常より多く配合することも特徴になっている。
さらに、本発明のメッキ浴では、一般的な電気銅メッキ浴で汎用されるポリマー成分を省略しても、反り防止機能を有する銅皮膜を得ることができる。
即ち、本発明の銅メッキ浴で形成したメッキ皮膜の内部応力は、ストリップ電着応力試験において概ね0〜−30MPaの圧縮応力を示すため(
図1B参照)、時間経過とともに銅メッキ皮膜に働く引張応力(
図1A参照)により反ろうとしても、この圧縮応力が引張応力に抗して0MPaに近づくため、経時的にほぼ反りのない皮膜を形成できる。
従って、本発明の銅メッキ浴を用いて薄い被メッキ物に電気メッキをしても、或いは、密着性が低い被メッキ物に対して電気メッキをしても、共に電気メッキ後の銅皮膜の反りを円滑に防止でき、もって電子部品の信頼性を向上できる。
このため、本発明の銅メッキ浴の用途としては、低応力を要する微細配線回路の形成、或いはビアフィリングなどに好適である。
【0017】
上記特許文献1では、イミダゾール環、テトラゾール環、ピリジン環、ベンゾチアゾール環などの複素環式窒素化合物と、ポリハロゲン化合物と、ポリエポキシド化合物とを反応させた生成物を含有する電気銅メッキ液が開示されるが(請求項1〜2、6、[0029]〜[0033])、上記複素環式窒素化合物はメルカプト基を有しない。
この場合、後述する評価試験結果からも明らかなように、メルカプト基を有する複素環式窒素化合物及び有機ハロゲン化合物を反応させた生成物からなる本発明のレベラーを含有する電気銅メッキ浴を、上記特許文献1に準拠してメルカプト基を有しない複素環式窒素化合物を用いた電気銅メッキ浴に比較考量すると、メッキ浴から得られる電着皮膜の反りを抑制する機能において、本発明のメッキ浴は特許文献1に準拠した浴に対して顕著な優位性を示す。
尚、本発明のメッキ浴と特許文献1に準拠したメッキ浴に、本発明の含イオウ化合物を夫々共存させた場合についても、同じく本発明のメッキ浴に顕著な優位性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、第一に、メルカプト基を有する
所定の複素環窒素化合物を反応物として選択し、これに
所定の有機ハロゲン化合物を反応させ、或は、さらに反応性基を有するポリアルキレングリコールを反応させた生成物(レベラーL1、L2)を含有した電気銅メッキ浴(前記本発明1)であり、第二に、上記生成物L1、L2から選ばれたレベラー(B)に特定の含イオウ化合物(A)を所定濃度以上で共存させた電気銅メッキ浴(前記本発明2)であり、第三に、上記銅メッキ浴を用いて所定の薄い被メッキ物に電気銅メッキする方法(前記本発明5)であり、第四に、銅皮膜と被メッキ物との密着性が低い場合において、上記銅メッキ浴を用いて当該被メッキ物に電気銅メッキする方法(前記本発明6)である。
【0019】
本発明1の電気銅メッキ浴は可溶性銅塩と、酸又はその塩と、特定のレベラー(L1)、(L2)から選ばれた化合物(B)とを含有することを特徴とする。
電気銅メッキ浴に添加する可溶性銅塩は、水溶液中で銅イオンを発生させる可溶性の塩であれば任意のものが使用でき、特段の制限はなく、難溶性塩も排除されない。具体的には、硫酸銅、酸化銅、水酸化銅、塩化銅、 硝酸銅、 炭酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅などが挙げられ、 酸化銅、硝酸銅、酸化銅、水酸化銅が好ましい。 可溶性銅塩のメッキ浴に対する含有量は 2価の銅イオン換算で10〜70g/Lであり、好ましくは30〜60g/Lである。
また、電気銅メッキ浴のベースとなる酸には、硫酸、塩酸、シュウ酸、酢酸などの通常の銅メッキ浴で汎用される酸が使用でき、有機スルホン酸やオキシカルボン酸などの有機酸を使用することもできる。
ベース酸の塩はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などである。
酸又はその塩のメッキ浴に対する含有量は 10〜300g/Lであり、好ましくは30〜150g/Lである。
【0020】
上記化合物(B)は特定のレベラー(L1)とレベラー(L2)から選ばれ、レベラー(L1)とレベラー(L2)のいずれかを単用しても良いし、レベラー(L1)及びレベラー(L2)を併用しても差し支えない。
上記レベラー(L1)は、 (a)メルカプト基を有する所定の複素環窒素化合物と、(b)所定の有機ハロゲン化合物とを反応させた生成物である。
レベラー(L1)の一方の反応物であるメルカプト基を有する所定の複素環窒素化合物(a)について、所定の複素環は
イミダゾール環、プリン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、イミダゾリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ベンゾオキサゾール環、モルホリン環、ピロール環よりなる群から選ばれ、好ましくはイミダゾール環、ピリジン環、ベンゾチアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環などである。
上記複素環窒素化合物(a)には、4−メルカプトキノリンー2−カルボン酸、2−メルカプト−2H−ピロール、メルカプトプリン、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、1−(2−ジメチルアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−1H−イミダゾール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、4−アセトアミド−7−メルカプト−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオ尿素)、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(ビスムチオール)、2−(2−メルカプトエチル)−1,3−ジオキサン、4−アミノ−6−ヒドロキシ−2−メルカプトピリミジン水和物、2−キノリンチオール、3−メルカプトキノリン、8−キノリンチオール、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオールなどが挙げられる。
好ましい複素環窒素化合物(a)は、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、2−メルカプト−1H−イミダゾール、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオ尿素)、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(ビスムチオール)、5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオールなどである。
【0021】
上記レベラー(L1)の他方の反応物である
所定の有機ハロゲン化合物(b)はアルキレン鎖に少なくとも1個以上のハロゲンを有するか、或は、当該ハロゲンと共に、さらにアミノ基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基よりなる群から選ばれた官能基を有する
化合物から選ばれる。
有機ハロゲン化合物(b)には、クロロエチルエーテル、クロロエタノール、1,2-ジクロロエタン、1,5-ジクロロペンタン、1,6-ジクロロヘキサン、1,8-ジクロロオクタン、ビス(ブロモエチル)エーテル、1,5-ジブロモペンタン、1,6-ジブロモヘキサン、1,8-ジブロモオクタン、2−クロロエチルアミン、ビス(2−クロロエチル)アミン、2−(ジメチルアミノ)エチルクロリド、3−クロロ−1−プロパノール、3−ジクロロ−2−プロパノール、3−クロロプロパン、ビス(2−クロロエチル)エーテル、2−クロロエチルメチルスルフィド、2−(2−クロロエトキシ)エタノール、2−クロロエタンスルホン酸ナトリウム、2,2′−ジクロロエチルエーテル、2−ビス(2−クロロエトキシ)エタンなどが挙げられる。
好ましい有機ハロゲン化合物(b)は、2−クロロエチルアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルクロリド、3−クロロ−1−プロパノール、ビス(2−クロロエチル)アミン、3−クロロプロパン、2−クロロエチルメチルスルフィドなどである。
【0022】
上記レベラー(L2)は、 (a)メルカプト基を有する所定の複素環窒素化合物と、(b)所定の有機ハロゲン化合物と、(c)一端又は両端に反応性基を有するポリアルキレングリコールとを反応させた生成物である。
レベラー(L2)の反応物である成分(b)については、レベラー(L1)と同じである。
レベラー(L2)の反応物である成分(a)については、レベラー(L1)の複素環窒素化合物の所定の複素環にピリジン環を加えたものである。
即ち、レベラー(L2)の反応物であるメルカプト基を有する所定の複素環窒素化合物(a)について、所定の複素環は
イミダゾール環、ピリジン環、プリン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、イミダゾリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ベンゾオキサゾール環、モルホリン環、ピロール環よりなる群から選ばれ、好ましくはイミダゾール環、ピリジン環、ベンゾチアゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環などである。
上記複素環窒素化合物(a)には、4−メルカプトキノリンー2−カルボン酸、2−メルカプト−2H−ピロール、メルカプトプリン、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、1−(2−ジメチルアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−1H−イミダゾール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、4−アセトアミド−7−メルカプト−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオ尿素)、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(ビスムチオール)、2−(2−メルカプトエチル)−1,3−ジオキサン、4−アミノ−6−ヒドロキシ−2−メルカプトピリミジン水和物、2−キノリンチオール、3−メルカプトキノリン、8−キノリンチオール、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオールなどが挙げられる。
好ましい複素環窒素化合物(a)は、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン、5−メルカプト−1−メチルテトラゾール、2−メルカプト−1H−イミダゾール、2−メルカプトイミダゾリン(エチレンチオ尿素)、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(ビスムチオール)、5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオールなどである。
レベラー(L2)の第三の反応物である反応性基を有するポリアルキレングリコール(c)について、ポリアルキレングリコールはC2〜C4アルキレングリコールのホモポリマー又はコーポリマーであり、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、或はエチレングリコールとプロピレングリコールのコーポリマーが好ましく、より好ましくPEGである。
また、ポリアルキレングリコールの少なくとも一端に有する反応性基は、ハロゲン基、ハロホルミル基、メシレート基、トシレート基よりなる群から選ばれる。
【0023】
上記レベラーL1の銅メッキ浴に対する含有量は0.1〜500mg/Lであり、好ましくは0.5〜200mg/L、より好ましくは1〜50mg/Lである。含有量が適正範囲より少ないと得られた銅皮膜に低応力の性質が足りずに反り防止機能が低下し、逆に、適正範囲より増しても反り防止機能にあまり差異はない反面、銅皮膜の物性を低下させる恐れがある。
上記レベラーL2の銅メッキ浴に対する含有量はレベラーL1の場合と同じであり、レベラーL1とL2を併用する場合の含有量も、各レベラーを単用する場合と同じである。
【0024】
そこで、先ず、成分(a)と成分(b)を反応させた生成物であるレベラーL1に分類される合成例1〜3を例示する。
(1)合成例1(レベラーL1)
メルカプト基を有するイミダゾール化合物(a)(= 2−メルカプト−1H−メチルイミダゾール )と、ビス(2−クロロエチル)アミン(b)を反応させた例である。
温度計、撹拌機を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール0.5モルとイオン交換水300mlとエタノール250mlを加えた。系内を窒素置換した後、撹拌下、水酸化ナトリウムを加えた。撹拌下で2−メルカプト−1−メチルイミダゾールを溶解させた後、40℃に加温し、ビス(2−クロロエチル)アミン塩酸塩0.5モルを加え、2時間反応させた。反応終了後、室温で塩化メチレンを加え分液ロートに移し、塩化メチレン層を分液した。イオン交換水を加え洗浄した後、塩化メチレン層を再び分液した。塩化メチレン層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、メルカプトイミダゾール系化合物を合成した。
【0025】
(2)合成例2(レベラーL1)
メルカプト基を有する テトラゾール 化合物(a)(= 1−(2−ジメチルアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾール )と、 ビス(2−クロロエチル)エーテル (b)を反応させた例である。
温度計、撹拌機を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、1−(2−ジメチルアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾール0.5モルとイオン交換水300mlとエタノール250mlを加えた。系内を窒素置換した後、撹拌下、60℃以下で水酸化ナトリウム水溶液を加えた。撹拌下、1−(2−ジメチルアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾールを溶解させた後、70℃に加温し、ビス(2−クロロエチル)エーテル0.5モルを加え、14時間反応させた。反応終了後、室温で塩化メチレンを加え分液ロートに移し、塩化メチレン層を分液した。イオン交換水を加え洗浄した後、塩化メチレン層を再び分液した。塩化メチレン層を乾燥させた後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、メルカプトテトラゾール系化合物を合成した。
【0026】
(3)合成例3 (レベラーL1)
メルカプト基を有する ベンゾチアゾール(a) (= 2−メルカプトベンゾチアゾール )と、 2−(ジメチルアミノ)エチルクロリド (b)及び ビス(2−クロロエチル)エーテル (b)を反応させた例である。
温度計、撹拌機を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、2−メルカプトベンゾチアゾール0.5モルとイオン交換水300mlとエタノール250mlを加えた。系内を窒素置換した後、撹拌下、60℃以下で水酸化ナトリウム水溶液を加えた。撹拌下、2−メルカプトベンゾチアゾールを溶解させた後、70℃に加温し、2−(ジメチルアミノ)エチルクロリド塩酸塩0.2モルを加え、15時間反応させた。反応終了後、室温で塩化メチレンを加え分液ロートに移し、塩化メチレン層を分液した。イオン交換水を加え洗浄した後、塩化メチレン層を再び分液した。塩化メチレン層を乾燥させた後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、反応物を得た。その後、温度計、撹拌機を取り付けた200mlの3つ口フラスコに、反応物0.5モルとビス(2−クロロエチル)エーテル0.3モルとメチルセルロース50gを加えた。撹拌下、90℃で35時間反応させた。反応終了後、60℃まで冷却し、メルカプトベンゾチアゾール系化合物を合成した。
【0027】
次いで、成分(a)、成分(b)及び成分(c)を反応させた生成物に分類されるレベラーL2の合成例を例示する。
(4)合成例4(レベラーL2)
メルカプト基を有する チアジアゾール(a) (= ビスムチオール )と、 2−(ジメチルアミノ)エチルクロリド (b)と、ポリエチレングリコール(c)(=PEG)を反応させた例である。
温度計、撹拌機を取り付けた1Lの3つ口フラスコに、ビスムチオール0.5モルとイオン交換水300mlとエタノール250mlを加えた。系内を窒素置換した後、撹拌下、60℃以下で水酸化ナトリウム水溶液を加えた。撹拌下でビスムチオールを溶解させた後、70℃に加温し、2−(ジメチルアミノ)エチルクロリド塩酸塩0.3モルを加え、12時間反応させた。反応終了後、室温で塩化メチレンを加え分液ロートに移し、塩化メチレン層を分液した。イオン交換水を加え洗浄した後、塩化メチレン層を再び分液した。塩化メチレン層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し反応物を得た。その後、温度計、撹拌機を取り付けた200mlの3つ口フラスコに、反応物0.5モルとポリエチレングリコール(重量平均分子量200)の両末端メシレート化物0.5モルとメチルセルロース50gを加えた。撹拌下、90℃で35時間反応させて、メルカプトチアジアゾール系化合物を合成した。
【0028】
一方、本発明2の電気銅メッキ浴は可溶性銅塩と、酸又はその塩と、所定濃度以上の特定の含イオウ化合物(A)と、レベラー(B)とを含有するものであり、含イオウ化合物(A)とレベラー(B)を併用する点に特徴がある。
上記可溶性銅塩、酸又はその塩は、前記本発明1の銅メッキ浴に記載した通りである。
また、上記レベラー(B)は 本発明1の銅メッキ浴で用いた化合物(B)と同じであり、本発明1の特定のレベラー(L1)とレベラー(L2)から選ぶことができるので、レベラー(L1)又はレベラー(L2)を単用しても、レベラー(L1)及びレベラー(L2)を併用しても差し支えない。
但し、本発明2のレベラー(B)としてレベラー(L1)を選択する場合、本発明1と同じく、複素環窒素化合物(a)の特定の複素環にはピリジン環は含まれない。これに対して、本発明2のレベラー(B)にレベラー(L2)を選択する場合には、このような制限はない。
本発明2の特定の含イオウ化合物(A)は、 スルフィド類、メルカプタン類、チオプロピルスルホン酸類、ジチオカルバミン酸類から選ばれる。
上記スルフィド類は、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、ビス(2−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(3−スル−2−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ビス(4−スルホプロピル)ジスルフィド、ビス(p−スルホフェニル)ジスルフィド並びにこれらの塩などである。
上記メルカプタン類は、メルカプトメタンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)並びにこれらの塩などである。
上記チオプロピルスルホン酸類は、3−(ベンゾチアゾリル−2−チオ)プロパンスルホン酸(ZPS)、3−[(アミノイミノメチル)チオ]−1−プロパンスルホン酸(UPS)、O−エチル−ジエチル炭酸−S−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩などである。
上記ジチオカルバミン酸類は、N,N−ジメチル−ジチオカルバミルプロパンスルホン酸(DPS)、N,N−ジメチル−ジチオカルバミン酸−(3−スルホプロピル)−エステル並びにこれらの塩などである。
【0029】
本発明2の含イオウ化合物(A)とレベラー(B)を併用する電気銅メッキ浴について、上記含イオウ化合物(A)は単用又は併用でき、電気銅メッキ浴に対する含有量は50〜10000mg/Lであり、好ましくは100〜1500mg/L、より好ましくは50〜1000mg/Lである。
一般に、電気銅メッキ浴には電着促進剤としてSPSなどの含イオウ化合物を含有するが、通常では、その含有量は3〜10mg/L程度のごく微量であるが、本発明2では、50〜10000mg/Lの通常より多い濃度で配合することも特徴となっている。
上記含イオウ化合物(A)が適正範囲より少ないと銅メッキ皮膜に低応力の性質を付与できず、適正範囲より多いと低応力は維持できる反面、皮膜の抵抗値が増し、皮膜が粗くなり、或いは脆くなって、皮膜物性が低下する。
また、上記レベラー(B)の銅メッキ浴に対する含有量は、本発明1の銅メッキ浴の場合と同じく、一般に 0. 1〜500mg/Lであり、好ましくは0.5〜200mg/L、より好ましくは1〜50mg/Lである。
また、当該本発明2では、含イオウ化合物(A)とレベラー(B)の含有比率(重量比)はA/B=1〜500、好ましくは1〜300、より好ましくは2〜100である。
【0030】
本発明の電気銅メッキ浴では、 光沢作用や平滑化作用などを促進するため、公知のレベラー、ブライトナー、塩化物、ポリマーなどを含有することができる。
上記塩化物については、所定濃度以上の塩素は銅皮膜の反りを促進するため、メッキ浴への含有量は少ない方が好ましい(特開2014−125679号公報の段落7参照)。
また、前述したように、本発明の電気銅メッキ浴では、上記ポリマーの含有を省略しても、反り防止機能を有する銅皮膜を得ることができる。
上記レベラーは界面活性剤や染料を主とする窒素系有機化合物などである。
この界面活性剤には、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、或はアニオン系界面活性剤を単用又は併用できる。
上記ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコール(以下、PEGという)、ポリプロピレングリコールを初め、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、(ポリ)C1〜C25アルキルフェノール、(ポリ)アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミン、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものや、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)などが挙げられる。
上記カチオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩、或はピリジニウム塩などが挙げられ、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ジメチルジフェニルアンモニウム塩、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、{(モノ、ジ、トリ)アルキル}ナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。 上記両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。また、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化、或はスルホン酸化付加物も使用できる。
【0031】
上記染料を主とする窒素系有機化合物は、染料或はその誘導体を初め、アミド系化合物、チオアミド系化合物、アニリン又はピリジン環を有する化合物、各種複素単環式化合物、各種縮合複素環式化合物、アミノカルボン酸類などである。
具体例としては、C.I.(Color Index)ベーシックレッド2、トルイジンブルーなどのトルイジン系染料、C.I.ダイレクトイエロー1、C.I.ベーシックブラック2などのアゾ系染料、3−アミノ−6−ジメチルアミノ−2−メチルフェナジン一塩酸などのフェナジン系染料、コハク酸イミド、2′−ビス(2−イミダゾリン)などのイミダゾリン類、イミダゾール類、ベンゾイミダゾール類、インドール類、2−ビニルピリジン、4−アセチルピリジン、4−メルカプト−2−カルボキシルピリジン、2,2′−ビピリジル、4,4′−ビピリジル、フェナントロリンなどのピリジン類、キノリン類、イソキノリン類、アニリン、チオ尿素、ジメチルチオ尿素などのチオ尿素類、3,3′,3′′−ニトリロ三プロピオン酸、ジアミノメチレンアミノ酢酸、グリシン、N−メチルグリシン、ジメチルグリシン、β−アラニン、システイン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ吉草酸、オルニチンなどが挙げられる。好ましい例は、C.I.ベーシックレッド2、ヤヌスグリーンB、トルイジンブルー、コハク酸イミドが挙げられる。
上記ブライトナーは、チオ尿素又はその誘導体、2−メルカプトベンゾイミダゾール、チオグリコール酸などのメルカプタン類、2,2′−チオジグリコール酸、ジエチルスルフィドなどのスルフィド類、3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸ナトリウム、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(2ナトリウム塩)などのメルカプトスルホン酸類などである。
上記ポリマー成分は、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ステアリン酸−ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレン−プロピレングリコールなどがある。
但し、本発明の電気銅メッキ浴にあっては、上記各種添加剤が銅皮膜の反りに関係することも考えられるので、成分の選択、濃度には注意を要する。
【0032】
本発明の電気銅メッキ方法のうち、第一の方法は、上記電気銅メッキ浴を用いて、500μm以下の薄い被メッキ物に反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成するものである。
即ち、薄い被メッキ物に銅皮膜を電気メッキで形成すると、従来では、メッキ皮膜の反り応力が薄い被メッキ物にも影響し、メッキ皮膜と被メッキ物は一体で反るため、チップ部品を搭載した半導体基板などの電子部品の信頼性を損なう問題があったが、本発明の第一の電気銅メッキ方法では、反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成することで、被メッキ物と一体化したメッキ皮膜の反りを防止して、電子部品の信頼性を向上できる。
上記被メッキ物は、フレキシブル又はリジッド回路基板、フレキシブル回路アンテナ、RFIDタグ、電解箔、太陽電池、光起電力素子、半導体ウエハー、電磁シールドなどである。
被メッキ物の厚みは300μm以下が好ましく、さらに好ましくは1〜200μmである。
【0033】
本発明の第二の電気銅メッキ方法は、電着皮膜と被メッキ物の間の密着性が低く、電着皮膜自体が被メッキ物から剥離して反るリスクのある場合に適用される。
即ち、第二の方法は、本発明の電気銅メッキ浴を用いて、0.1μm〜5000μmの反り抑制機能を有する低応力の銅メッキ皮膜を被メッキ物に形成する方法である。
メッキ皮膜が薄いと反りの力は弱くなって被メッキ物に沿い、密着性が低い場合でも剥離は起り難いため、この第二の方法は、被メッキ物に形成する銅皮膜の膜厚はある程度厚いことが前提となり、0.1μm〜5000μmであり、好ましくは0.5〜200μm、より好ましくは1〜100μmである。
但し、上記膜厚範囲では、例えば、下限の0.1μmの膜厚では薄いように見えるが、被メッキ物との関係で、皮膜が反った場合に被メッキ物から剥離するリスクはある。
当該第二の方法では、反り抑制機能を有する低応力のメッキ皮膜を形成することで、反り作用でメッキ皮膜が被メッキ物から剥離することを防止して、電子部品の信頼性を向上できる。
【0034】
上記電気銅メッキ浴のpHは基本的に酸性であり、pH1〜7、好ましくはpH1〜5、より好ましくは2未満である。
本発明の電気銅メッキ浴を用いたメッキ条件には特段の制限はなく、浴温は10〜70℃、陰極電流密度は0.1〜50A/dm2、好ましくは5〜40A/dm2である。また、 陽極は銅(合金)を材質とする可溶性陽極でも良いし、白金又はカーボンなどを材質とする不溶性陽極でも良い。
電気メッキで形成される皮膜の膜厚は一般に5〜50μm程度である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の電気銅メッキ浴の実施例、実施例の銅浴から得られる銅メッキ皮膜の経時的な反りを測定する電着応力評価試験例を順次説明する。
上記実施例、試験例の「部」、「%」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0036】
《電気銅メッキ浴の実施例》
下記の実施例1〜19のうち、実施例1〜8と実施例13〜16は本発明2に属する例(含イオウ化合物とレベラーの併用例)、実施例9〜12と17〜19は本発明1に属する例(基本的にレベラーの単用例)である。尚、実施例19は含イオウ化合物(A)を含むが、含有量が10mg/Lと少量であって本発明2の要件(含イオウ化合物(A)を50mg/L以上含む)を満たさないため、本発明1に分類される。
実施例1は含イオウ化合物(A)がZPS、本発明のレベラー(B)が前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物の例である。実施例2〜5は実施例1の含イオウ化合物(A)を変更した例、実施例6は実施例1のレベラー(B)を合成例2のレベラーに変更した例、同じく実施例7は合成例3のレベラーに、実施例8は合成例4のレベラーに夫々変更した例である。
実施例9は実施例1を基本として含イオウ化合物(A)を含まず、レベラー(B)のみを単用した例、同じく実施例10は実施例6を基本として含イオウ化合物を含まない例、実施例11は実施例7を基本として含イオウ化合物を含まない例、実施例12は実施例8を基本として含イオウ化合物を含まない例である。尚、実施例9〜12ではレベラー(B)の含有量は各基本例とは異なる。
実施例13は実施例1を基本として含イオウ化合物(A)を増量した例(銅塩の種類は異なる)、同じく実施例14は含イオウ化合物(A)を減量した例である。実施例15は実施例1を基本として本発明のレベラー(B)を増量した例(銅塩の種類は異なる)、同じく実施例16はレベラー(B)を減量した例である。
実施例17は実施例9を基本としてレベラー(B)を減量した例、同じく実施例18はレベラー(B)を増量した例、実施例19はレベラー(B)を減量し、含イオウ化合物(A)を50 mg/L 未満にした例である。
【0037】
一方、比較例1〜6のうち、比較例1は実施例1( 含イオウ化合物とレベラーの併用例 )を基本として本発明のレベラー(B)に替えて染料(ヤヌスグリーンB)を用いた例、同じく比較例2は電気銅メッキ浴で汎用されるポリマー(PEG)を用いた例、比較例3 (レベラーの単用例) は実施例9(レベラーの単用例)を基本として本発明のレベラー(B)に替えて染料(フタロシアニン)を用いた例である。
比較例4は通常の電気銅メッキ浴を用いた例である。
比較例5〜6は冒述の特許文献1に準拠した例であり、比較例5は実施例9(レベラーの単用例)を基本として、レベラーにメルカプト基を有しないイミダゾール系化合物を用いた例、比較例6は実施例1 (含イオウ化合物とレベラーの併用例) を基本として、レベラーにメルカプト基を有しないイミダゾール系化合物を用いた例である。
【0038】
(1)実施例1
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
酸化銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0039】
(2)実施例2
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
酸化銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
UPS 100mg/L
上記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0040】
(3)実施例3
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
SPS 100mg/L
上記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0041】
(4)実施例4
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
MPS 100mg/L
上記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0042】
(5)実施例5
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
DPS 100mg/L
上記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0043】
(6)実施例6
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
前記合成例4のメルカプトチアジアゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0044】
(7)実施例7
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
前記合成例2のメルカプトテトラゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0045】
(8)実施例8
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
前記合成例3のメルカプトベンゾチアゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0046】
(9)実施例9
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 50mg/L
pH<1
【0047】
(10)実施例10
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
前記合成例4のメルカプトチアジアゾール系化合物 50mg/L
pH<1
【0048】
(11)実施例11
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
前記合成例2のメルカプトテトラゾール系化合物 50mg/L
pH<1
【0049】
(12)実施例12
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
前記合成例3のメルカプトベンゾチアゾール系化合物 50mg/L
pH<1
【0050】
(13)実施例13
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 1000mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0051】
(14)実施例14
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 50mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
【0052】
(15)実施例15
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 50mg/L
pH<1
【0053】
(16)実施例16
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 1mg/L
pH<1
【0054】
(17)実施例17
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 1mg/L
pH<1
【0055】
(18)実施例18
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 30g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 50mg/L
pH<1
【0056】
(19)実施例19
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 30g/L
硫酸(98%) 90g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 10mg/L
前記合成例1のメルカプトイミダゾール系化合物 50mg/L
pH<1
【0057】
(20)比較例1
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
ヤヌスグリーンB 10mg/L
pH<1
【0058】
(21)比較例2
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
ポリエチレングリコール(平均分子量 ) 500mg/L
pH<1
【0059】
(22)比較例3
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
フタロシアニン 10mg/L
pH<1
【0060】
(24)比較例4
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
ヤヌスグリーンB 1mg/L
ポリエチレングリコール(平均分子量20000) 500mg/L
pH<1
【0061】
(25)比較例5
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
メルカプト基を有しないイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
尚、前記合成例1では本発明のレベラーL1に分類されるメルカプト基を有するイミダゾール系化合物を合成したが、上記メルカプト基を有しないイミダゾール系化合物は、この合成例1を基本として、2−メルカプト−1H−メチルイミダゾール0.5モルに替えて、イミダゾール0.5モルを用いて合成した。
【0062】
(26)比較例6
下記の組成で電気銅メッキ浴を建浴した。
硫酸銅(Cu2+として) 40g/L
硫酸(98%) 110g/L
塩化物イオン 40mg/L
ZPS 100mg/L
メルカプト基を有しないイミダゾール系化合物 10mg/L
pH<1
上記メルカプト基を有しないイミダゾール系化合物は、比較例5で用いたものと同じである。
【0063】
《電着応力の評価試験例》
そこで、上記実施例1〜19並びに比較例1〜6の各銅メッキ浴を用いて、陰極電流密度:10A/dm2、浴温:30℃、メッキ時間:10分の条件で電気メッキを行い、得られたメッキ直後の電着皮膜について、テストストリップ電着応力試験を実施した。
冒述したように、通常の銅メッキでは、メッキ直後の応力は引張応力(+MPa)であり、時間経過(1〜2日経過後)に伴って引張応力(+MPa)が継続的に働くため、メッキ面側への反りがより強くなり(
図1A参照)、また、たとえ、メッキ直後の応力が0MPaの場合であっても、同じく時間経過に伴ってメッキ面側に反るが、1〜2日経過すると定常状態になってそれ以上は反らない。
【0064】
下表Aはその試験結果である。
この場合、応力が+MPaの場合は引張応力を意味し、−MPaは圧縮応力を意味する。
[表A] 応力(MPa) 応力(MPa)
実施例1 −10 比較例1 +10
実施例2 −9 比較例2 +8
実施例3 −10 比較例3 +15
実施例4 −8 比較例4 +20
実施例5 −8 比較例5 +11
実施例6 −12 比較例6 +9
実施例7 −11
実施例8 −10
実施例9 −8
実施例10 −10
実施例11 −8
実施例12 −8
実施例13 −5
実施例14 −5
実施例15 −7
実施例16 −11
実施例17 −13
実施例18 −8
実施例19 −9
【0065】
《上記試験結果に基づく総合評価》
上表Aによれば、本発明の含イオウ化合物(A)を含み、且つ、本発明のレベラー(B)に替えて、電気銅メッキ浴で汎用される窒素系の染料(ヤヌスグリーン)を含む比較例1では+10MPa、同じく、電気銅メッキ浴で汎用されるポリマー(PEG)を含む比較例2では+8MPaの各引張応力を示した。
また、本発明の含イオウ化合物(A)を含まず、本発明のレベラー(B)に替えて、電気銅メッキ浴で汎用される窒素系の染料(フタロシアニン)を含む比較例3では+15MPaの引張応力を示した。
次いで、本発明の含イオウ化合物(A)を含まず、本発明のレベラー(B)に替えて、メルカプト基を有しないイミダゾール系化合物を含む比較例5では+11MPa、本発明の含イオウ化合物(A)を含み、且つ、本発明のレベラー(B)に替えて、メルカプト基を有しないイミダゾール系化合物を含む比較例6では+9MPaの各引張応力を示した。
尚、一般的な電気銅メッキ浴を用いた比較例4では、やはり引張応力を示し、その値は+20MPaと最も大きかった。
【0066】
要するに、比較例1〜3及び比較例6は本発明の含イオウ化合物(A)と本発明のレベラーに代替する化合物とを含む点で本発明2に対比すべき例であり、比較例5は本発明の含イオウ化合物(A)を含まず、本発明のレベラーの代替化合物を含む点で本発明1の対比例であるが、これら比較例1〜6ではすべてのメッキ皮膜に引張応力 ( +MPa ) が作用し、 メッキ皮膜が表面側を上にして凹状(即ち、下方の基材側に凸状)に反ることが分かる(
図1A参照)。
これに対して、本発明のレベラー(L1、L2)を含み、或はさらに本発明の含イオウ化合物(A)を所定量含む実施例1〜19では、すべてのメッキ皮膜に−13〜−5MPaの圧縮応力(
図1B参照)が作用することが分かる。
これにより、 時間経過とともに引張応力が働いて銅メッキ皮膜が反ろうとしても、引張応力( +MPa )に抗してこの圧縮応力(− MPa )が働いて応力を0Mpaに近づけるため、ほぼ反りのない銅皮膜を経時的に形成できる。
このため、電気銅メッキにおいて、本発明の課題である電着皮膜の反りを防止するためには、メッキ直後に圧縮応力(−MPa)になることが条件であり、本発明の銅メッキ浴から得られる電着皮膜は当該条件を満たすことが裏付けられた。
【0067】
特に、比較例5〜6(上記特許文献1の準拠例)を実施例1〜19に対比考量すると、複素環窒素化合物を反応させた生成物をレベラーに用いて電気銅メッキを行う場合、複素環化合物に対するメルカプト基の結合の有無で、得られる銅皮膜に働く力が引張応力と圧縮応力との逆向きに分かれるという予測外で顕著な結果が判明した。
即ち、複素環窒素化合物に対するメルカプト基の結合の有無が銅皮膜の継時的な反りの抑制に大きく関係し、反りの抑制には複素環化合物へのメルカプト基の結合が必須であるという重要な因果関係が裏付けられた。
【0068】
次いで、実施例1〜19を詳細に検討する。
実施例1〜8は含イオウ化合物(A)とレベラー(B)を併用した本発明2の電気銅メッキ浴に属するが、このうち、実施例1〜5は本発明のレベラー(=メルカプトイミダゾール系化合物)を固定し、含イオウ化合物(A)をZPS、UPS、SPS、MPS、DPSの各種化合物に変更した例であり、また、実施例1と実施例6〜8は本発明の含イオウ化合物(=ZPS)を固定し、レベラー(B)をメルカプトイミダゾール系化合物、メルカプトチアジアゾール系化合物、メルカプトテトラゾール系化合物などの各種化合物に変更した例であるが、いずれもメッキ皮膜に圧縮応力(−MPa)を付与できた。レベラーL1及びL2を対比すると、レベラーL2(合成例4)を用いた実施例6では−12MPa、レベラーL1(合成例1〜3)を用いた実施例1〜5、7〜8では−11〜−8MPaの圧縮応力を示した。
実施例9〜12はレベラー(B)を単用した本発明1の電気銅メッキ浴に属し、レベラーをメルカプトイミダゾール系化合物、メルカプトチアジアゾール系化合物、メルカプトテトラゾール系化合物などの各種化合物に変更した例であるが、レベラーL1及びL2を対比すると、レベラーL2(合成例4)を用いた実施例10では−10MPa、レベラーL1(合成例1〜3)を用いた実施例9、11〜12では−8MPaの圧縮応力を示した。
【0069】
実施例13〜16は本発明2の(併用型)電気銅メッキ浴に属し、実施例1を基本として、本発明の含イオウ化合物(A)を増量又は減量し、本発明のレベラー(B)を増量又は減量した例であり、含イオウ化合物(A)を実施例1から増量又は減量した実施例13〜14では圧縮応力は変わらなかった。このため、レベラー(B)は少量であっても適量と判断することができる。また、レベラー(B)を実施例1から増量した実施例15では圧縮応力は−7MPa、減量した実施例16では圧縮応力は−11MPaであるため、併用型のメッキ浴ではレベラー(B)の含有量は少量の範囲で足りることが推測される。
実施例17〜18は本発明1の(単用型)電気銅メッキ浴に属し、実施例1を基本として本発明のレベラー(B)を増量又は減量した例であり、レベラー(B)を実施例1から減量した実施例17では圧縮応力は−13MPa、増量した実施例18では圧縮応力は−8MPaであるため、単用型のメッキ浴でもレベラー(B)の含有量は少量の範囲で足りることが推測される。また、実施例19は含イオウ化合物(A)とレベラー(B)を含むが、含イオウ化合物(A)の含有量(10mg/L)は本発明2の規定量より少ないので、本発明1の電気銅メッキ浴に属し、圧縮応力は−9MPaであった。
特に、実施例16〜17を実施例1に対比考量すると、実施例16〜17ではレベラーの含有量が1mg/Lであって実施例1の1/10にすぎないが、圧縮応力の絶対値は実施例1より増していることに照らせば(−10MPa→−11、−13MPa)、メッキ皮膜の反りを抑制する点ではレベラー(B)の含有量は少量、或は微量で足りることが判断できる。また、実施例19は銅塩と酸の含有量について実施例1から減量しているが、圧縮応力の絶対値はあまり変わらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】
図1Aは引張応力が働いて反った銅メッキ皮膜の概略図、
図1Bは圧縮応力が働いた場合の銅メッキ皮膜の概略図である。