【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0051】
(参考例1)α−ヒドロムコン酸の調製
後述の実施例の分析に用いたα−ヒドロムコン酸は化学合成により準備した。まず、コハク酸モノメチルエステル13.2g(0.1mol)(和光純薬株式会社製)に超脱水テトラヒドロフラン1.5L(和光純薬株式会社製)を加え、攪拌しながらカルボニルジイミダゾール16.2g(0.1mol)(和光純薬株式会社製)添加し、窒素雰囲気下1時間室温で攪拌した。この懸濁液にマロン酸モノメチルエステルカリウム塩15.6g(0.1mol)および塩化マグネシウム9.5g(0.1mol)を添加し、窒素雰囲気下1時間室温で攪拌した後、40℃で12時間攪拌した。反応終了後、1mol/L塩酸を0.05L加え、酢酸エチルにより抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:5)で分離精製することで、純粋な3−オキソヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル13.1gを得た。収率70%。
【0052】
得られた3−オキソヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル10g(0.05mol)にメタノール0.1L(国産化学株式会社製)を加え、攪拌しながら水素化ホウ素ナトリウム2.0g(0.05mol)(和光純薬株式会社製)を添加し、室温で1時間攪拌した。次いで、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.02Lを添加し、室温で2時間攪拌した。反応終了後、5mol/Lの塩酸でpH1に調整し、ロータリーエバポレーターで濃縮後、水で再結晶することで、純粋なα−ヒドロムコン酸7.2gを得た。収率95%。
α−ヒドロムコン酸の1H−NMRスペクトル:
1H−NMR(400MHz、CD3OD):δ2.48(m、4H)、δ5.84(d、1H)、δ6.96(m、1H)。
【0053】
(実施例1)α−ヒドロムコン酸生産試験
表1に示したSerratia属微生物(いずれも微生物分与機関より購入。購入先は株名に記載。)のα−ヒドロムコン酸の生産能を調べた。トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/Lを含み、pH7に調整した培地5mLに、それぞれのSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。その培養液に10mLの0.9%塩化ナトリウムを加え、菌体を遠心分離したのち上清を完全に取り除くことで菌体を洗浄する操作を3回行ったのち、菌体を1mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液0.5mLを以下に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で48時間振とう培養した。
コハク酸10g/L
グルコース10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
pH6.5。
【0054】
(α−ヒドロムコン酸の定量分析)
本培養液より菌体を遠心分離した上清を、LC−MS/MSにて分析した。LC−MS/MSによるα−ヒドロムコン酸の定量分析は以下の条件で行った。
HPLC:1290Infinity(Agilent Technologies社製)
カラム:Synergi hydro−RP(Phenomenex社製)、長さ100mm、内径3mm、粒径2.5μm
移動相:0.1%ギ酸水溶液/メタノール=70/30
流速:0.3mL/分
カラム温度:40℃
LC検出器:DAD(210nm)
MS/MS:Triple−Quad LC/MS(Agilent Technologies社製)
イオン化法:ESI ネガティブモード。
【0055】
培養上清中に蓄積したα−ヒドロムコン酸の定量分析を行った結果をそれぞれ表1に示す。これらの結果から、いずれのSerratia属微生物もα−ヒドロムコン酸の生産能を有することを確認することができた。
【0056】
【表1】
【0057】
(実施例2)誘導物質を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表2に示したSerratia属微生物を対象に、誘導物質として、前培養培地にフェルラ酸、p−クマル酸、安息香酸、cis,cis−ムコン酸、プロトカテク酸およびカテコールをそれぞれ2.5mMとなるように添加した以外は実施例1と同様条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表2に示す。これらの結果から、前培養培地に誘導物質を添加することによって、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0058】
【表2】
【0059】
(実施例3)2種類の炭素源を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表3に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源として表3に示した化合物をそれぞれ10g/L含む培地にて実施例2と同様の条件にて培養し、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表3に示す。これらの結果から、グルコースとコハク酸以外を炭素原として培養しても、α−ヒドロムコン酸を効率よく生産できることがわかった。
【0060】
【表3】
【0061】
(実施例4)様々な濃度の2種類の炭素源を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表4に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源として表4に示した濃度の化合物をそれぞれ含む培地にて実施例2と同様の条件にて48〜120時間培養し、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表4に示す。これらの結果から、炭素源の添加割合を変更しても、α−ヒドロムコン酸を生産できることがわかった。
【0062】
【表4】
【0063】
(実施例5)単一の炭素源を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表5に示したSerratia属微生物を対象に、実施例1と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源としてコハク酸、グルコース、グリセロールのいずれか1種類を10g/L含む培地にて実施例1と同様の条件にて培養し、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表5に示す。さらに、同様の実験について、前培養培地のみ実施例2に変更して行い、前培養培地に誘導物質を添加した場合のα−ヒドロムコン酸の生産量について、表6に示す。これらの結果から、単一の炭素源を用いた場合でも、α−ヒドロムコン酸を生産できること、また、単一の炭素源を用いた場合も、誘導物質を前培養培地に添加することで、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
(実施例6)様々な濃度のフェルラ酸を誘導物質として用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表7に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2から5で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、フェルラ酸を表7に示した濃度になるよう実施例1の前培養培地に添加し、前培養を行った。それ以外は実施例1と同様の条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表7に示す。これらの結果から、フェルラ酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合でも、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0067】
【表7】
【0068】
(実施例7)様々な濃度のp−クマル酸を誘導物質として用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表8に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2から5で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、p−クマル酸を表7に示した濃度になるよう実施例1の前培養培地に添加し、前培養を行った。それ以外は、実施例1と同様の条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表8に示す。これらの結果から、p−クマル酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合も、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0069】
【表8】
【0070】
(実施例8)安息香酸を誘導物質として用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表9に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2から5で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、安息香酸を2.5mMとなるように実施例1の前培養培地に添加し、前培養を行った。それ以外は、実施例1と同様の条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表9に示す。これらの結果から、安息香酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合も、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0071】
【表9】
【0072】
(実施例9)α−ヒドロムコン酸の製造例
実施例1でα−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物であることが確認できたS.grimesii NBRC13537を、LB培地5mLに一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した。該培養液2mLをトリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、フェルラ酸0.5mMを含む培地100mLに添加し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。前培養液を200mLの0.9%塩化ナトリウムで実施例1と同様に3回洗浄したのち、菌体を10mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液10mLをグルコース100g/Lおよびコハク酸20g/Lを炭素源とする実施例1記載の培地100mLに添加し、30℃で120時間振とう培養した。該培養液より菌体を遠心分離した上清を、実施例1と同様にLC−MS/MSにて分析した結果、培養上清中に蓄積したα−ヒドロムコン酸の濃度は46mg/Lであった。
【0073】
次に培養上清を減圧濃縮し、α−ヒドロムコン酸の濃度が420mg/Lの濃縮液を11mL得た。この濃縮液を、分取装置を連結したHPLCに注入し、α−ヒドロムコン酸の標品と一致する溶出時間の画分を採取した。この作業を10回繰り返し、培養液中の不純物が除去されたα−ヒドロムコン酸水溶液を得た。なお、α−ヒドロムコン酸の採取に用いた分取HPLCは以下の条件にて行った。
HPLC:SHIMADZU 20A(株式会社島津製作所製)
カラム:Synergi hydro−RP(Phenomenex社製)、長さ250mm、内径10mm、粒径4μm
移動相:5mM ギ酸水溶液/アセトニトリル=98/2
流速:4mL/分
注入量:1mL
カラム温度:45℃
検出器:UV−VIS(210nm)
分取装置:FC204(Gilson社製)。
【0074】
続いてα−ヒドロムコン酸水溶液を減圧濃縮し、3.8mgの結晶を得た。結晶を1H−NMRで分析した結果、得られた結晶がα−ヒドロムコン酸であることを確認できた。
【0075】
(参考例2)炭素源を添加しない培養
表2に示したSerratia属微生物を用いて、グルコースおよびコハク酸を添加しない組成の培地を用いた他は実施例1と同様の条件で培養し、α−ヒドロムコン酸の定量分析をした結果、培養上清中にα−ヒドロムコン酸は検出されなかった。これらの結果から、実施例1〜8でSerratia属微生物が生産したα−ヒドロムコン酸は、グルコース、コハク酸、アラビノース、2−オキソグルタル酸、キシロースまたはグリセロールを炭素源とする代謝により得られたものであることがわかった。
(参考例3)α−ヒドロムコン酸の生産能を有さない微生物
表10に示した微生物のα−ヒドロムコン酸の生産能を確認するべく、実施例1と同様の条件で培養し、α−ヒドロムコン酸の定量分析をした結果、いずれも検出限界以下となり、培養上清中にα−ヒドロムコン酸は検出されなかった。なお、検出限界は0.1mg/Lである。
【0076】
【表10】
【0077】
(実施例10)S.plymuthica由来のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素遺伝子発現用プラスミドの構築
BLAST検索の結果により、S.plymuthica NBRC102599が有する配列番号4の遺伝子配列がスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素である3−oxoadipyl CoA thiolase(PcaF)をコードしていることが推定された。上記遺伝子の発現のためにプラスミドpBBR1MCS−2::SppcaFを構築した。Serratia属で自立複製可能なベクターpBBR1MCS−2(ME Kovach, (1995), Gene 166: 175−176)をXhoIで切断し、pBBR1MCS−2/XhoIを得た。Escherichia coli K−12 MG1655のゲノムを鋳型としてgapA遺伝子のORF上流域200b(配列番号1)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号2,3)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpBBR1MCS−2/XhoI を、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpBBR1MCS−2::PgapAとした。続いてpBBR1MCS−2::PgapAをScaIで切断し、pBBR1MCS−2::PgapA/ScaI を得た。S.plymuthica NBRC102599のゲノムを鋳型としてスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素遺伝子のORF(配列番号4)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号5,6)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpBBR1MCS−2::PgapA/ScaIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpBBR1MCS−2::SppcaFとした。
【0078】
(実施例11)C.glutamicum由来スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素遺伝子発現用プラスミドの構築
Corynebacterium glutamicum ATCC13032のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を発現させるために、Corinebacterium glutamicum ATCC13032のゲノムを鋳型としてacetyl−CoA acetyltransferase遺伝子(pcaF)のORF(GenBankアクセッション番号NC_003450、GI番号19553591)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号7,8)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpBBR1MCS−2::PgapA/ScaIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpBBR1MCS−2::CgpcaFとした。
【0079】
(実施例12)Serratia属微生物へのプラスミド導入
実施例10および11で構築したプラスミドpBBR1MCS−2::SppcaF、pBBR1MCS−2::CgpcaFおよびコントロールとしてベクターpBBR1MCS−2を表11に示すSerratia属微生物にエレクトロポレーション(NM Calvin, PC Hanawalt. J. Bacteriol, 170 (1988), pp. 2796-2801)で導入した。形質転換したセラチア属微生物は、カナマイシン25μg/mLを含有するLB寒天培地上で30℃に保温し、1〜2日間生育させた。
【0080】
(実施例13)スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定
実施例12で得られたセラチア属微生物の形質転換体を用いて、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の比活性を比較した。
【0081】
(a)E.coli由来PaaHの過剰発現および精製
スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定に用いるPaaHの過剰発現および精製を行った。まずpCDF−1bをBamHIで切断し、pCDF−1b/BamHIを得た。Escherichia coli K−12 MG1655のゲノムを鋳型としてpaaH遺伝子(GenBankアクセッション番号NC_000913、GI番号945940)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号9,10)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpCDF−1b/BamHIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpCDF−1b:EcpaaHとした。大腸菌BL21(DE3)にpCDF−1b:EcpaaHを導入し、得られた形質転換体をストレプトマイシン50μg/mLを含むLBで好気的に培養し(37℃)、OD600が0.3付近の時点でイソプロピルチオガラクトシドを終濃度が1mMとなるよう添加し、paaHの発現を誘導した(好気的、37℃、一晩)。遠心分離後の菌体を20mM Tris−HCl(pH8.0)で懸濁し、氷冷しながら超音波ホモジナイザーで細胞を破砕したのち、遠心分離した上清を無細胞抽出液として回収した。得られた無細胞抽出液をHis Bind Resin(Merck社製)を用いて精製し、Amicon Ultra 3K(Merck社製)で遠心した濃縮液を20mM Tris−HCL(pH8.0)で希釈し、PaaH酵素溶液(0.31mg/mL)とした。酵素濃度はQuick Start Bradfordプロテインアッセイ(BIO−RAD社製)を用いて決定した。
【0082】
(b)酵素液の調製
下記に示した組成の前培養培地5mLに、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されていないSerratia属微生物として、pBBR1MCS−2が導入された表11に記載のSerratia属微生物と、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されたSerratia属微生物としてpBBR1MCS−2::CgpcaFが導入された表11に記載のSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した。その培養液に10mLの0.9%塩化ナトリウムを加え、菌体を遠心分離したのち上清を完全に取り除くことで菌体を洗浄する操作を3回行ったのち、菌体を1mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液0.5mLを以下に示した組成の本培養培地5mLに添加し、30℃で3時間振とう培養した。
【0083】
上記培養液5mLを遠心により集菌後、下記のTris−HClバッファー1mLに懸濁した。上記菌体懸濁液にガラスビーズ(φ0.1mm)を加え、Micro Smash(TOMY社製)を用い4℃で菌体を破砕した。上記のようにして菌体を破砕した後、遠心して得られる上清の無細胞抽出液(CFE)を酵素液として以下の実験に用いた。
【0084】
(c)スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定
(b)で得られたCFE中のタンパク質濃度を、Quick Start Bradfordプロテインアッセイ(BIO−RAD社製)により測定した。次に、以下に示す組成の酵素反応溶液A25μLおよびCFE50μLを混合し、インキュベートした(30℃、2min)。その後、酵素反応溶液B25μLを入れた状態で予め30℃でプレインキュベートした石英セルに酵素反応溶液AとCFEを含む上記の溶液を全量添加し、すばやく混合し活性測定を開始した(30℃)。340nmにおける吸光度の減少を分光光度計(Ultrospec3300Pro GEヘルスケア社製)で測定し、得られたΔ340の値を式(1)にあてはめ、それぞれ比活性を算出した。算出結果を表11に示す。
【0085】
これらの結果から、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を導入したSerratia属微生物株では、非導入株に比べて当該比活性が向上することがわかった。
【0086】
前培養培地:
トリプトン10g/L
酵母エキス5g/L
塩化ナトリウム5g/L
pH7。
【0087】
本培養培地:
コハク酸 10g/L
グルコース 10g/L
硫酸アンモニウム 1g/L
リン酸カリウム 50mM
硫酸マグネシウム 0.025g/L
硫酸鉄 0.0625mg/L
硫酸マンガン 2.7mg/L
塩化カルシウム 0.33mg/L
塩化ナトリウム 1.25g/L
Bactoトリプトン 2.5g/L
酵母エキス 1.25g/L
pH6.5。
【0088】
Tris−HClバッファー:
Tris−HCl(pH8.0) 100mM
dithiothreitol 1mM。
【0089】
酵素反応溶液A:
Tris−HCl(pH8.0) 200mM
MgCl2 40mM
NADH 0.8mM
DTT 2mM
PaaH 4.4μg。
【0090】
酵素反応溶液B:
アセチルCoA 2mM
スクシニルCoA 0.4mM
【0091】
【表11】
【0092】
(実施例14)遺伝子組換えによりスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を発現させたSerratia属微生物を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表12に示した、Serratia属微生物および、実施例12で作成した遺伝子組換えによりスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を導入したSerratia属微生物のα−ヒドロムコン酸の生産能を調べた。トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、カナマイシン25μg/mLを含み、pH7に調整した培地5mLに、それぞれのSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。その培養液0.25mLを以下に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で24時間振とう培養し、本培養を行った。
コハク酸10g/L
グルコース10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
カナマイシン25μg/mL
pH6.5。
【0093】
本培養液より菌体を遠心分離した上清を、実施例1と同様にLC−MS/MSにて分析した。培養上清中に蓄積したα−ヒドロムコン酸の定量分析を行った結果をそれぞれ表12に示す。
【0094】
これらの結果から、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の導入株では非導入株と比べてα−ヒドロムコン酸の蓄積濃度が向上することがわかった。したがって、本実施例と実施例12の結果よりスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素活性の強化によりα−ヒドロムコン酸を効率よく製造することができることがわかった。
【0095】
【表12】
【0096】
(実施例15)
S.plymuthica NBRC102599由来PcaFの酵素活性の確認
実施例10でクローニングした配列番号4の遺伝子配列がコードするPcaFが、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する活性を有していることを確認した。
(a)S.plymuthica由来PcaFの過剰発現および精製
pRSF−1bをSacIで切断し、pRSF−1b/SacIを得た。S.plymuthica NBRC102599のゲノムを鋳型としてpcaF遺伝子のORF(配列番号4)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号11,12)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpRSF−1b/SacIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpRSF−1b:SppcaFとした。大腸菌BL21(DE3)にpRSF−1b:SppcaFを導入し、得られた形質転換体をカナマイシン25μg/mLを含むLBで好気的に培養し(37℃)、OD600が0.3付近の時点でイソプロピルチオガラクトシドを終濃度が1mMとなるよう添加し、pcaFの発現を誘導した(好気的、37℃、一晩)。遠心分離後の菌体を20mM Tris−HCl(pH8.0)で懸濁し、氷冷しながら超音波ホモジナイザーで細胞を破砕したのち、遠心分離した上清を無細胞抽出液として回収した。得られた無細胞抽出液をHis Bind Resin(Merck社製)を用いて精製し、Amicon Ultra 3K(Merck社製)で遠心した濃縮液を20mM Tris−HCL(pH8.0)で希釈し、PcaF酵素溶液(0.52mg/mL)とした。酵素濃度はQuick Start Bradfordプロテインアッセイ(BIO−RAD社製)を用いて決定した。
【0097】
(b)スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定
PcaF酵素溶液を酵素液として、実施例13と同様の手順にて酵素活性測定を行った。測定の結果、比活性は0.170Unit/mgであり、精製された酵素は、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する活性を有していることが確認できた。