特許第6948595号(P6948595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948595
(24)【登録日】2021年9月24日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】α−ヒドロムコン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/44 20060101AFI20210930BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210930BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   C12P7/44ZNA
   C12N1/21
   C12N15/52 Z
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-537999(P2017-537999)
(86)(22)【出願日】2017年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2017020019
(87)【国際公開番号】WO2017209103
(87)【国際公開日】20171207
【審査請求日】2020年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-108640(P2016-108640)
(32)【優先日】2016年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 匡平
(72)【発明者】
【氏名】河村 健司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−319590(JP,A)
【文献】 特開平08−140670(JP,A)
【文献】 特開昭48−067491(JP,A)
【文献】 特開2004−215586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物を培養する工程を含み、前記Serratia属微生物のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されている、α−ヒドロムコン酸の製造方法。
【請求項2】
前記Serratia属微生物が、Serratia grimesii、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia odorifera、Serratia plymuthica、Serratia entomophilaまたはSerratia nematodiphilaである、請求項1に記載のα−ヒドロムコン酸の製造方法。
【請求項3】
前記Serratia属微生物を培養する培地が、糖類、コハク酸、2−オキソグルタル酸およびグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種または2種以上の炭素源を含む、請求項1又は2に記載のα−ヒドロムコン酸の製造方法。
【請求項4】
前記Serratia属微生物を、フェルラ酸、p−クマル酸、安息香酸、cis,cis−ムコン酸、プロトカテク酸およびカテコールからなる群から選択される少なくとも1種類または2種類以上の誘導物質を含む培地で培養する、請求項1〜のいずれかに記載のα−ヒドロムコン酸の製造方法。
【請求項5】
3−ヒドロキシアジピン酸の生産能を有するSerratia属微生物であって、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されていることを特徴とする、Serratia属微生物。
【請求項6】
前記Serratia属微生物が、Serratia grimesii、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia odorifera、Serratia plymuthica、Serratia entomophilaまたはSerratia nematodiphilaである、請求項に記載のSerratia属微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Serratia属微生物を利用したα−ヒドロムコン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−ヒドロムコン酸(IUPAC名:(E)−hex−2−enedioic acid)は、炭素数6、分子量144.13のジカルボン酸である。α−ヒドロムコン酸は多価アルコールと重合することでポリエステルとして、また多価アミンと重合することでポリアミドの原料として用いることができる。また、α−ヒドロムコン酸の末端にアンモニアを付加してラクタム化することで、単独でもポリアミドの原料になり得る。
【0003】
微生物を利用したα−ヒドロムコン酸の製造方法に関連する報告としては、スクシニル−CoAとアセチル−CoAを出発原料とした天然には存在しない微生物によるアジピン酸を製造する方法の過程で、アジピン酸生合成経路の中間体として3−ヒドロキシアジピン酸(3−ヒドロキシアジペート)が酵素反応によって脱水し(3−ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼによる脱水反応)、α−ヒドロムコン酸(ヘキサ−2−エンジオエート)が生成しうるとの報告がある(特許文献1、図3)。
【0004】
また、Desulfovirga adipicaがアジピン酸を分解し増殖するのに伴い、17日間で0.86mg/Lのα−ヒドロムコン酸が生成する例が報告されている(非特許文献1)。
【0005】
また、特許文献2には、生体触媒や微生物を用いたアジピン酸、アジピン酸エステル又はアジピン酸チオエステルの製造方法が記載されており、中間化合物としてα−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)エステルまたはα−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)チオエステルが記載されている。α−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)エステルまたはα−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)チオエステルは、3−ヒドロキシアジピン酸エステルまたは3−ヒドロキシアジピン酸チオエステルの脱水によって調製されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/151728号
【特許文献2】国際公開第2009/113853号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Int J Syst Evol Microbiol. 2000 Mar;50 Pt 2:639−44.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、アジピン酸を製造できるように人為的に改良した微生物において、製造対象であるアジピン酸の中間体として3−ヒドロキシアジピン酸(3−ヒドロキシアジペート)が酵素反応によって脱水し、α−ヒドロムコン酸(ヘキサ−2−エンジオエート)が生成しうることについての記載はあるが、3−ヒドロキシアジピン酸からα−ヒドロムコン酸への3−ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼによる脱水反応の直接的証拠は一切確認されておらず、実際に微生物の代謝経路を利用してα−ヒドロムコン酸が製造できるかどうかの検証はなされていない。さらに、当業者にとって3−ヒドロキシアジピン酸デヒドラターゼなる酵素は周知のものではないため、特許文献1の記載に従ってスクシニル−CoAとアセチル−CoAを出発原料としてα−ヒドロムコン酸を製造することはできなかった。
【0009】
また、非特許文献1には自然界に存在する微生物によってα−ヒドロムコン酸が生成することの報告はあるものの、その生産性は著しく低いものであり、α−ヒドロムコン酸の製造方法であるとは言えるものではない。
【0010】
特許文献2ではα−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)エステルまたはα−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)チオエステルからα−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)を得る方法は記載されておらず、α−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)チオエステルの具体例としての5−カルボキシ−2−ペンテノイル−CoA(2,3−デヒドロアジピル−CoA)からα−ヒドロムコン酸(2,3−デヒドロアジピン酸)を得る方法も記載されていない。
【0011】
このように、実際のところ微生物の代謝経路を利用してα−ヒドロムコン酸を製造する方法は存在していなかった。そこで本発明では、微生物の代謝経路を利用してα−ヒドロムコン酸を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、代謝経路を利用してα−ヒドロムコン酸を製造することができるSerratia属微生物が自然界に存在することを見出し、以下の本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明は、次の(1)〜()から構成される。
(1)α−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物を培養する工程を含み、前記Serratia属微生物のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されている、α−ヒドロムコン酸の製造方法。
)前記Serratia属微生物が、Serratia grimesii、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia odorifera、Serratia plymuthica、Serratia entomophilaまたはSerratia nematodiphilaである、(1)に記載のα−ヒドロムコン酸の製造方法。
)前記Serratia属微生物を培養する培地が、糖類、コハク酸、2−オキソグルタル酸およびグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種または2種以上の炭素源を含む、(1)又は(2)に記載のα−ヒドロムコン酸の製造方法。
)前記Serratia属微生物を、フェルラ酸、p−クマル酸、安息香酸、cis,cis−ムコン酸、プロトカテク酸およびカテコールからなる群から選択される少なくとも1種類または2種類以上の誘導物質を含む培地で培養する、(1)〜(3)のいずれかに記載のα−ヒドロムコン酸の製造方法。
)3−ヒドロキシアジピン酸の生産能を有するSerratia属微生物であって、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されていることを特徴とする、Serratia属微生物。
)前記Serratia属微生物が、Serratia grimesii、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia odorifera、Serratia plymuthica、Serratia entomophilaまたはSerratia nematodiphilaである、()に記載のSerratia属微生物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、Serratia属微生物の代謝経路を利用してα−ヒドロムコン酸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のα−ヒドロムコン酸の製造方法は、α−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物を培養する工程を含むことを特徴とする。より詳しくは、α−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物を培養することによって、該微生物の代謝経路を利用してα−ヒドロムコン酸を製造することを特徴とする。
【0016】
α−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物の具体例としては、Serratia grimesii、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia odorifera、Serratia plymuthica、Serratia entomophilaあるいはSerratia nematodiphilaが挙げられる。Serratia属微生物が代謝経路を利用してα−ヒドロムコン酸を製造しうるメカニズムについては明らかではないが、Serratia属微生物は排出する余剰汚泥を低減させた排水処理方法に利用されていることもあり(特開2002−18469号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づきα−ヒドロムコン酸を生成することが推定される。
【0017】
上記のSerratia属微生物は、いずれも自然界に存在するSerratia属微生物として公知のものであり、土壌等の自然環境から単離することができる。また、NBRC等の微生物分与機関から購入することもできる。
【0018】
Serratia属微生物は、α−ヒドロムコン酸の生産性が増大するように公知の手法にしたがって遺伝子を組換えたものであってもよく、また、人為的変異手段により変異させたものであってもよい。
【0019】
本発明では、Serratia属微生物培養した際に、48時間以内に培養液上清中に1.0mg/L以上のα−ヒドロムコン酸を生産できるSerratia属微生物を、α−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物として使用することが好ましい。より好ましくは、遺伝子変異処理や、遺伝子組換えが施されていない野生型の状態で、培養液上清中に1.0mg/L以上のα−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物である。
【0020】
Serratia属微生物が、48時間以内に培養液上清中に1.0mg/L以上のα−ヒドロムコン酸を生産できるかどうかについては、以下の方法により判断する。
Serratia属微生物の培養上清中に含まれるα−ヒドロムコン酸の生産量は、以下の方法により測定する。
【0021】
対象となるSerratia属微生物をpH7に調整した前培養培地(培地組成:トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L)5mLに対象となるSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養する。得られた前培養液に10mLの0.9%塩化ナトリウムを加え、菌体を遠心分離して上清を取り除く操作を3回行い、菌体を洗浄する。洗浄した菌体を1mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁し、懸濁液0.5mLをpH6.5に調整した本培養液(培地組成:コハク酸 10g/L、グルコース 10g/L、硫酸アンモニウム 1g/L、リン酸カリウム 50mM、硫酸マグネシウム 0.025g/L、硫酸鉄 0.0625mg/L、硫酸マンガン 2.7mg/L、塩化カルシウム 0.33mg/L、塩化ナトリウム 1.25g/L、Bactoトリプトン 2.5g/L、酵母エキス 1.25g/L)5mLに添加して30℃で48時間培養し、48時間までの本培養液を経時的に分取する。
【0022】
本培養液より菌体を遠心分離し、上清をLC−MS/MSにて分析する。LC−MS/MSによる分析条件は以下のとおりである。HPLCには、1290Infinity(Agilent Technologies社製)、MS/MSには、Triple−Quad LC/MS(Agilent Technologies社製)等を用いることができる。また、カラムには、Synergi hydro−RP(Phenomenex社製)を用いることができる。
HPLC分析条件:
カラム:長さ100mm、内径3mm、粒径2.5μm
移動相:0.1%ギ酸水溶液/メタノール=70/30
流速:0.3mL/分
カラム温度:40℃
LC検出器:DAD(210nm)
MS/MS分析条件:
イオン化法:ESI ネガティブモード。
【0023】
本発明では、Serratia属微生物を、通常の微生物が代謝し得る炭素源を含有する培地、好ましくは液体培地中において培養する。ここで、本発明における「代謝」とは、Serratia属微生物が細胞外から取り入れた、あるいは細胞内で別の化学物質より生じたある化学物質が、酵素反応により別の化学物質へと変換されることを指す。Serratia属微生物が代謝しうる炭素源の他には、窒素源、無機塩および必要に応じてアミノ酸やビタミンなどの有機微量栄養素を程よく含有した培地を用いる。上記栄養源を含有していれば天然培地、合成培地のいずれでも利用できる。
【0024】
Serratia属微生物が代謝し得る炭素源としては、糖類を好ましく用いることができる。糖類の具体例としては、グルコース、シュクロース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース等の単糖類、これら単糖類が結合した二糖類、多糖類、およびこれらを含有する澱粉糖化液、糖蜜、セルロース含有バイオマス糖化液などが挙げられる。
【0025】
また、上記に挙げた糖類以外にも、Serratia属微生物が生育に利用可能な炭素源であれば好ましく用いることができる。例えば、酢酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸、2−オキソグルタル酸、ピルビン酸等のカルボン酸、メタノール、エタノール、プロパノールなどの一価アルコール類、グリセリン、エチレングリコール、プロパンジオールなどの多価アルコール類、炭化水素、脂肪酸、油脂などが挙げられ、好ましくは、コハク酸、2−オキソグルタル酸、グリセロールである。
【0026】
上記に挙げた炭素源は、一種類のみ用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。具体的には、これら炭素源の中でも糖類、コハク酸、2−オキソグルタル酸、グリセロールからなる群より選択される1種または2種以上を代謝することで効率よくα−ヒドロムコン酸を製造することができる。培地中の炭素源の濃度は、特に限定されず、炭素源の種類などに応じて適宜設定することができ、好ましくは5g/L〜300g/Lである。
【0027】
Serratia属微生物の培養に用いる窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用できる。培地中の窒素源の濃度は、特に限定されないが、好ましくは、0.1g/L〜50g/Lである。
【0028】
Serratia属微生物の培養に用いる無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
【0029】
α−ヒドロムコン酸を製造するためのSerratia属微生物の培養条件は、前記成分組成の培地、培養温度、撹拌速度、pH、通気量、植菌量などを、使用するSerratia属微生物の種類および外部条件などに応じて、適宜調節あるいは選択して設定する。液体培養において発泡がある場合には、鉱油、シリコーン油および界面活性剤などの消泡剤を適宜培地に配合することができる。
【0030】
上記に示した培地および培養条件で、本発明で用いるSerratia属微生物を用いた培養によりα−ヒドロムコン酸を製造することができるが、α−ヒドロムコン酸を製造するために必要な代謝経路を活性化した状態で前記Serratia属微生物を培養することで、より効率的にα−ヒドロムコン酸を製造することができる。
【0031】
前記代謝経路を活性化する方法は特に限定されないが、例えば、α−ヒドロムコン酸を製造するための代謝経路中の酵素遺伝子(群)の発現量を増大させる方法、α−ヒドロムコン酸を製造するための代謝経路を活性化する物質(以下、誘導物質ともいう。)を含む培地で前記微生物を培養することで前記酵素遺伝子(群)の発現を誘導する方法、および公知の手法に従って遺伝子を組換えたり、遺伝子変異処理などの育種技術によって、前記酵素遺伝子(群)を改変したりして、前記酵素遺伝子(群)がコードする酵素(群)の活性を増大させる方法などが挙げられる。これらの方法は単独で行っても良いし、組み合わせてもよい。
【0032】
前記酵素遺伝子(群)の発現量を増大させる方法としては、例えば、遺伝子改変技術により、本発明に用いるSerratia属微生物内において細胞内に存在する前記酵素遺伝子(群)のコピー数を増加させる方法、前記遺伝子(群)のコーディング領域周辺の機能性領域を改変する方法などが挙げられ、前記遺伝子(群)のコピー数を増加させる方法が好ましい。
【0033】
誘導物質を含む培地で、本発明に用いるSerratia属微生物を培養して、前記酵素遺伝子(群)の発現を誘導する方法に用いる誘導物質としては、α−ヒドロムコン酸の製造に必要な代謝経路が活性化される物質であれば特に限定されないが、例えば、3−オキソアジピルCoAを中間体としてより炭素数の少ない化合物へと代謝される芳香族化合物、炭素数6以上の脂肪族化合物、およびそれらと構造が類似した化合物を用いることができる。このような化合物の例は、例えばKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)などのデータベースを用いて知ることができ、具体的には、安息香酸、cis,cis−ムコン酸、テレフタル酸、プロトカテク酸、カテコール、バニリン、クマル酸、フェルラ酸などが挙げられ、フェルラ酸、p−クマル酸、安息香酸が好ましい。
【0034】
上記の誘導物質はα−ヒドロムコン酸製造に用いるSerratia属微生物に応じて単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、上記誘導物質はα−ヒドロムコン酸製造の前段階としてSerratia属微生物を増殖させるために行う培養(前培養)に用いる培地に含まれていてもよいし、α−ヒドロムコン酸製造に用いる培地に含まれていてもよい。1種または2種以上の誘導物質が培地中に含まれる場合、誘導物質の濃度(複数の誘導物質が含まれる場合には、それらの合計濃度)は、特に限定されないが、好ましくは、1mg/L〜10g/L、より好ましくは5mg/L〜1g/Lである。
【0035】
公知の手法に従って遺伝子を組換えたり、遺伝子変異処理などの育種技術によって、前記酵素遺伝子(群)を改変したりして、前記酵素遺伝子(群)がコードする酵素(群)の活性を増大させる方法としては、遺伝子組換えの手法を用いて前期酵素遺伝子(群)を本発明で用いるSerratia属微生物に導入する方法が好ましい。
【0036】
前記酵素遺伝子(群)に該当する遺伝子の具体例としては、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する活性を有する酵素をコードする遺伝子が挙げられる。本発明では、3−ヒドロキシアジピン酸の生産能を有するSerratia属微生物のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する活性を有する酵素の活性を強化することによって、より効率的にα−ヒドロムコン酸を製造することができる。
【0037】
上記活性を有する酵素であれば特に限定されないが、具体的には、acetyl−CoA acetyltransferase、β−ketoacyl−CoA acyltransferase、3−oxoadipyl−CoA acyltransferase、β−ketoadipyl−CoA acyltransferase、acetyl−CoA C−acetyltransferase、acetoacetyl−CoA thiolase、beta−acetoacetyl coenzyme A thiolase、2−methylacetoacetyl−CoA thiolase、3−oxothiolase、acetyl coenzyme A thiolase、acetyl−CoA acetyltransferase、acetyl−CoA:N−acetyltransferase、acetyl−CoA C−acyltransferase、beta−ketothiolase、3−ketoacyl−CoA thiolase、beta−ketoacyl coenzyme A thiolase、beta−ketoacyl−CoA thiolase、beta−ketoadipyl coenzyme A thiolase、beta−ketoadipyl−CoA thiolase、3−ketoacyl coenzyme A thiolase、3−ketoacyl thiolase、3−ketothiolase、3−oxoacyl−CoA thiolase、3−oxoacyl−coenzyme A thiolase、6−oxoacyl−CoA thiolase、acetoacetyl−CoA beta−ketothiolase、acetyl−CoA acyltransferase、ketoacyl−CoA acyltransferase、ketoacyl−coenzyme A thiolase、long−chain 3−oxoacyl−CoA thiolase、oxoacyl−coenzyme A thiolase、pro−3−ketoacyl−CoA thiolase、3−oxoadipyl−CoA thiolase、3−oxo−5,6−didehydrosuberyl−CoA thiolaseなどを好ましく用いることができる。また、EC番号による分類上の限定は特にないが、EC2.3.1.−に分類されるアシルトランスフェラーゼが好ましく、具体例としては、EC2.3.1.174、EC2.3.1.9、EC2.3.1.16、EC2.3.1.223に分類される酵素が挙げられる。
【0038】
また、機能未知の遺伝子配列によってコードされるタンパク質が、上記の酵素に該当するかどうかについては、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などのサイトでBLAST検索を行い、当該酵素に該当するかどうかを推定することができる。
【0039】
遺伝子組換えの手法を用いて、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する活性を有する酵素をコードする遺伝子をSerratia属微生物へ導入し、本発明で用いるSerratia属微生物のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性を強化する場合、当該酵素をコードする遺伝子の遺伝子源となる生物は特に限定されず、天然に存在する微生物から採取した遺伝子、人工的に合成された遺伝子、微生物から採取した遺伝子を本発明のSerratia属微生物で発現しやすいようコドンの使用頻度を最適化させた遺伝子などを用いることができる。
【0040】
スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素をコードする遺伝子の遺伝子源となる微生物は、特に限定されないが、例えば、Acinetobacter baylyi、Acinetobacter radioresistensなどのAcinetobacter属微生物、Aerobacter cloacaeなどのAerobacter属微生物、Alcaligenes faecalisなどのAlcaligenes属微生物、Bacillus badius、Bacillus magaterium、Bacillus roseusなどのBacillus属微生物、Brevibacterium iodinumなどのBrevibacterium属微生物、Corynebacterium acetoacidophilum、Corynebacterium acetoglutamicum、Corynebacterium ammoniagenes、Corynebacterium glutamicumなどのCorynebacterium属微生物、Cupriavidus metallidurans、Cupriavidus necator、Cupriavidus numazuensis、Cupriavidus oxalaticusなどのCupriavidus属微生物、Delftia acidovoransなどのDelftia属微生物、Escherichia coli、Escherichia fergusoniiなどのEscherichia属微生物、Hafnia alveiなどのHafnia属微生物、Microbacterium ammoniaphilumなどのMicrobacterium属微生物、Nocardioides albusなどのNocardioides属微生物、Planomicrobium okeanokoitesなどのPlanomicrobium属微生物、Pseudomonas azotoformans、Pseudomonas chlororaphis、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas fragi、Pseudomonas putida、Pseudomonas reptilivora、Pseudomonas taetrolensなどのPseudomonas属微生物、Rhizobium radiobacterなどのRhizobium属微生物、Rhodosporidium toruloidesなどのRhodosporidium属微生物、Saccharomyces cerevisiaeなどのSaccharomyces属微生物、Serratia entomophila、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia grimesii、Serratia nematodiphila、Serratia odorifera、Serratia plymuthicaなどのSerratia属微生物、Shimwellia blattaeなどのShimwellia属微生物、Sterptomyces vinaceus、Streptomyces karnatakensis、Streptomyces olivaceus、Streptomyces vinaceusなどのSterptomyces属微生物、Yarrowia lipolyticaなどのYarrowia属微生物、Yersinia ruckeriなどのYersinia属微生物が挙げられ、好ましくは、Serratia属微生物またはCorynebacterium属微生物であり、さらに好ましくは、Serratia plymuthica、またはCorynebacterium glutamicumである。
【0041】
本発明において、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性を強化したSerratia属微生物とは、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の比活性(Unit/mg)が、当該酵素の活性を強化していないコントロールと比較して増大しているSerratia属微生物を指す。コントロールには、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の発現系が、遺伝的に改変されていない状態であるSerratia属微生物を用いる。
【0042】
Serratia属微生物のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の比活性は、Serattia属微生物を培養し、無細胞抽出液(CFE)を調製して、CFEを酵素溶液として用いて測定する。酵素溶液の調製方法は以下のとおりである。
【0043】
pH7に調整した前培養培地(培地組成:トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L)5mLに活性測定の対象となるSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養する。得られた前培養液に10mLの0.9%塩化ナトリウムを加え、菌体を遠心分離して上清を取り除く操作を3回行い、菌体を洗浄する。洗浄した菌体を1mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁し、懸濁液0.5mLをpH6.5に調整した本培養液(培地組成:コハク酸 10g/L、グルコース 10g/L、硫酸アンモニウム 1g/L、リン酸カリウム 50mM、硫酸マグネシウム 0.025g/L、硫酸鉄 0.0625mg/L、硫酸マンガン 2.7mg/L、塩化カルシウム 0.33mg/L、塩化ナトリウム 1.25g/L、Bactoトリプトン 2.5g/L、酵母エキス 1.25g/L)5mLに添加し、30℃で3時間振とう培養する。
【0044】
得られた本培養液5mLを遠心により集菌後、Tris−HCl(pH8.0) 100mM、dithiothreitol 1mMからなるTris−HClバッファー1mLに懸濁し、得られた懸濁液にガラスビーズ(φ0.1mm)を加え、超音波破砕機を用い4℃で菌体を破砕する。得られた菌体破砕液を遠心して、上清として回収した無細胞抽出液(CFE)を酵素液とする。
【0045】
比活性は、上記の方法により調製した酵素液を用いて、スクシニルCoAおよびアセチルCoAの縮合反応により生じる3−オキソアジピルCoAに対して基質特異性を有するNADH依存型3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼを反応系内に過剰量存在させたときに、3−オキソアジピルCoAの還元に伴うNADHの消費速度を測定し、式1に従って算出する。式1において、酵素液濃度(mg/ml)は、酵素液中のタンパク質濃度である。
【0046】
【数1】
【0047】
具体的な算出方法は以下のとおりである。酵素反応溶液A(組成:Tris−HCl(pH8.0) 200mM、MgCl2 40mM、NADH 0.8mM、DTT 2mM、Escherichia coli由来の3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(PaaH)4.4μg)25μLに酵素液50μLを混合し、30℃で2minインキュベートする。その後、酵素反応溶液B(組成:アセチルCoA 2mM、スクシニルCoA 0.4mM)25μLを入れた状態で予め30℃でプレインキュベートした石英セルに上記の酵素反応溶液Aと酵素液の混合液を全量添加し、すばやく混合し反応液とする。調製した反応液の30℃での340nmにおける吸光度の減少の値を分光光度計で測定し、得られたΔ340の値を、式(1)に従って計算し、比活性(Unit/mg)を算出する。酵素液中のタンパク質濃度は、Quick Start Bradfordプロテインアッセイ(BIO−RAD社製)などを用いて測定することができる。分光光度計は、Ultrospec3300Pro(GEヘルスケア社製)を用いることができる。
【0048】
上記の方法以外にも、より効率的にα−ヒドロムコン酸を製造するためには、本発明で用いるSerratia属微生物の代謝経路のうち、α−ヒドロムコン酸の副生成物の生合成経路中の酵素遺伝子機能を破壊する方法なども用いることができる。
【0049】
Serratia属微生物の培養物中に、α−ヒドロムコン酸が回収可能な量まで生産された後、生産されたα−ヒドロムコン酸を回収することができる。生産されたα−ヒドロムコン酸の回収、例えば単離は、蓄積量が適度に高まった時点で培養を停止し、その培養物から、発酵生産物を採取する一般的な方法に準じて行うことができる。具体的には、遠心分離、ろ過などにより菌体を分離したのち、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、活性炭処理、結晶化、膜分離、蒸留などにより、α−ヒドロムコン酸を培養物から単離することができる。より具体的には、好ましい回収方法として、培養物を逆浸透膜やエバポレーターなどを用いた濃縮操作により水を除去してα−ヒドロムコン酸の濃度を高めた後、冷却結晶化や断熱結晶化によりα−ヒドロムコン酸および/またはα−ヒドロムコン酸の塩の結晶を析出させ、遠心分離やろ過などによりα−ヒドロムコン酸および/またはα−ヒドロムコン酸の塩の結晶を得る方法、培養物にアルコールを添加してα−ヒドロムコン酸エステルとした後、蒸留操作によりα−ヒドロムコン酸エステルを回収後、加水分解によりα−ヒドロムコン酸を得る方法等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0051】
(参考例1)α−ヒドロムコン酸の調製
後述の実施例の分析に用いたα−ヒドロムコン酸は化学合成により準備した。まず、コハク酸モノメチルエステル13.2g(0.1mol)(和光純薬株式会社製)に超脱水テトラヒドロフラン1.5L(和光純薬株式会社製)を加え、攪拌しながらカルボニルジイミダゾール16.2g(0.1mol)(和光純薬株式会社製)添加し、窒素雰囲気下1時間室温で攪拌した。この懸濁液にマロン酸モノメチルエステルカリウム塩15.6g(0.1mol)および塩化マグネシウム9.5g(0.1mol)を添加し、窒素雰囲気下1時間室温で攪拌した後、40℃で12時間攪拌した。反応終了後、1mol/L塩酸を0.05L加え、酢酸エチルにより抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:5)で分離精製することで、純粋な3−オキソヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル13.1gを得た。収率70%。
【0052】
得られた3−オキソヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル10g(0.05mol)にメタノール0.1L(国産化学株式会社製)を加え、攪拌しながら水素化ホウ素ナトリウム2.0g(0.05mol)(和光純薬株式会社製)を添加し、室温で1時間攪拌した。次いで、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.02Lを添加し、室温で2時間攪拌した。反応終了後、5mol/Lの塩酸でpH1に調整し、ロータリーエバポレーターで濃縮後、水で再結晶することで、純粋なα−ヒドロムコン酸7.2gを得た。収率95%。
α−ヒドロムコン酸の1H−NMRスペクトル:
1H−NMR(400MHz、CD3OD):δ2.48(m、4H)、δ5.84(d、1H)、δ6.96(m、1H)。
【0053】
(実施例1)α−ヒドロムコン酸生産試験
表1に示したSerratia属微生物(いずれも微生物分与機関より購入。購入先は株名に記載。)のα−ヒドロムコン酸の生産能を調べた。トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/Lを含み、pH7に調整した培地5mLに、それぞれのSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。その培養液に10mLの0.9%塩化ナトリウムを加え、菌体を遠心分離したのち上清を完全に取り除くことで菌体を洗浄する操作を3回行ったのち、菌体を1mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液0.5mLを以下に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で48時間振とう培養した。
コハク酸10g/L
グルコース10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
pH6.5。
【0054】
(α−ヒドロムコン酸の定量分析)
本培養液より菌体を遠心分離した上清を、LC−MS/MSにて分析した。LC−MS/MSによるα−ヒドロムコン酸の定量分析は以下の条件で行った。
HPLC:1290Infinity(Agilent Technologies社製)
カラム:Synergi hydro−RP(Phenomenex社製)、長さ100mm、内径3mm、粒径2.5μm
移動相:0.1%ギ酸水溶液/メタノール=70/30
流速:0.3mL/分
カラム温度:40℃
LC検出器:DAD(210nm)
MS/MS:Triple−Quad LC/MS(Agilent Technologies社製)
イオン化法:ESI ネガティブモード。
【0055】
培養上清中に蓄積したα−ヒドロムコン酸の定量分析を行った結果をそれぞれ表1に示す。これらの結果から、いずれのSerratia属微生物もα−ヒドロムコン酸の生産能を有することを確認することができた。
【0056】
【表1】
【0057】
(実施例2)誘導物質を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表2に示したSerratia属微生物を対象に、誘導物質として、前培養培地にフェルラ酸、p−クマル酸、安息香酸、cis,cis−ムコン酸、プロトカテク酸およびカテコールをそれぞれ2.5mMとなるように添加した以外は実施例1と同様条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表2に示す。これらの結果から、前培養培地に誘導物質を添加することによって、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0058】
【表2】
【0059】
(実施例3)2種類の炭素源を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表3に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源として表3に示した化合物をそれぞれ10g/L含む培地にて実施例2と同様の条件にて培養し、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表3に示す。これらの結果から、グルコースとコハク酸以外を炭素原として培養しても、α−ヒドロムコン酸を効率よく生産できることがわかった。
【0060】
【表3】
【0061】
(実施例4)様々な濃度の2種類の炭素源を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表4に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源として表4に示した濃度の化合物をそれぞれ含む培地にて実施例2と同様の条件にて48〜120時間培養し、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表4に示す。これらの結果から、炭素源の添加割合を変更しても、α−ヒドロムコン酸を生産できることがわかった。
【0062】
【表4】
【0063】
(実施例5)単一の炭素源を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表5に示したSerratia属微生物を対象に、実施例1と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源としてコハク酸、グルコース、グリセロールのいずれか1種類を10g/L含む培地にて実施例1と同様の条件にて培養し、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表5に示す。さらに、同様の実験について、前培養培地のみ実施例2に変更して行い、前培養培地に誘導物質を添加した場合のα−ヒドロムコン酸の生産量について、表6に示す。これらの結果から、単一の炭素源を用いた場合でも、α−ヒドロムコン酸を生産できること、また、単一の炭素源を用いた場合も、誘導物質を前培養培地に添加することで、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
(実施例6)様々な濃度のフェルラ酸を誘導物質として用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表7に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2から5で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、フェルラ酸を表7に示した濃度になるよう実施例1の前培養培地に添加し、前培養を行った。それ以外は実施例1と同様の条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表7に示す。これらの結果から、フェルラ酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合でも、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0067】
【表7】
【0068】
(実施例7)様々な濃度のp−クマル酸を誘導物質として用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表8に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2から5で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、p−クマル酸を表7に示した濃度になるよう実施例1の前培養培地に添加し、前培養を行った。それ以外は、実施例1と同様の条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表8に示す。これらの結果から、p−クマル酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合も、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0069】
【表8】
【0070】
(実施例8)安息香酸を誘導物質として用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表9に示したSerratia属微生物を対象に、実施例2から5で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、安息香酸を2.5mMとなるように実施例1の前培養培地に添加し、前培養を行った。それ以外は、実施例1と同様の条件で前培養、本培養を行い、培養上清中のα−ヒドロムコン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表9に示す。これらの結果から、安息香酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合も、α−ヒドロムコン酸の生産量が向上することがわかった。
【0071】
【表9】
【0072】
(実施例9)α−ヒドロムコン酸の製造例
実施例1でα−ヒドロムコン酸の生産能を有するSerratia属微生物であることが確認できたS.grimesii NBRC13537を、LB培地5mLに一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した。該培養液2mLをトリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、フェルラ酸0.5mMを含む培地100mLに添加し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。前培養液を200mLの0.9%塩化ナトリウムで実施例1と同様に3回洗浄したのち、菌体を10mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液10mLをグルコース100g/Lおよびコハク酸20g/Lを炭素源とする実施例1記載の培地100mLに添加し、30℃で120時間振とう培養した。該培養液より菌体を遠心分離した上清を、実施例1と同様にLC−MS/MSにて分析した結果、培養上清中に蓄積したα−ヒドロムコン酸の濃度は46mg/Lであった。
【0073】
次に培養上清を減圧濃縮し、α−ヒドロムコン酸の濃度が420mg/Lの濃縮液を11mL得た。この濃縮液を、分取装置を連結したHPLCに注入し、α−ヒドロムコン酸の標品と一致する溶出時間の画分を採取した。この作業を10回繰り返し、培養液中の不純物が除去されたα−ヒドロムコン酸水溶液を得た。なお、α−ヒドロムコン酸の採取に用いた分取HPLCは以下の条件にて行った。
HPLC:SHIMADZU 20A(株式会社島津製作所製)
カラム:Synergi hydro−RP(Phenomenex社製)、長さ250mm、内径10mm、粒径4μm
移動相:5mM ギ酸水溶液/アセトニトリル=98/2
流速:4mL/分
注入量:1mL
カラム温度:45℃
検出器:UV−VIS(210nm)
分取装置:FC204(Gilson社製)。
【0074】
続いてα−ヒドロムコン酸水溶液を減圧濃縮し、3.8mgの結晶を得た。結晶を1H−NMRで分析した結果、得られた結晶がα−ヒドロムコン酸であることを確認できた。
【0075】
(参考例2)炭素源を添加しない培養
表2に示したSerratia属微生物を用いて、グルコースおよびコハク酸を添加しない組成の培地を用いた他は実施例1と同様の条件で培養し、α−ヒドロムコン酸の定量分析をした結果、培養上清中にα−ヒドロムコン酸は検出されなかった。これらの結果から、実施例1〜8でSerratia属微生物が生産したα−ヒドロムコン酸は、グルコース、コハク酸、アラビノース、2−オキソグルタル酸、キシロースまたはグリセロールを炭素源とする代謝により得られたものであることがわかった。
(参考例3)α−ヒドロムコン酸の生産能を有さない微生物
表10に示した微生物のα−ヒドロムコン酸の生産能を確認するべく、実施例1と同様の条件で培養し、α−ヒドロムコン酸の定量分析をした結果、いずれも検出限界以下となり、培養上清中にα−ヒドロムコン酸は検出されなかった。なお、検出限界は0.1mg/Lである。
【0076】
【表10】
【0077】
(実施例10)S.plymuthica由来のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素遺伝子発現用プラスミドの構築
BLAST検索の結果により、S.plymuthica NBRC102599が有する配列番号4の遺伝子配列がスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素である3−oxoadipyl CoA thiolase(PcaF)をコードしていることが推定された。上記遺伝子の発現のためにプラスミドpBBR1MCS−2::SppcaFを構築した。Serratia属で自立複製可能なベクターpBBR1MCS−2(ME Kovach, (1995), Gene 166: 175−176)をXhoIで切断し、pBBR1MCS−2/XhoIを得た。Escherichia coli K−12 MG1655のゲノムを鋳型としてgapA遺伝子のORF上流域200b(配列番号1)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号2,3)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpBBR1MCS−2/XhoI を、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpBBR1MCS−2::PgapAとした。続いてpBBR1MCS−2::PgapAをScaIで切断し、pBBR1MCS−2::PgapA/ScaI を得た。S.plymuthica NBRC102599のゲノムを鋳型としてスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素遺伝子のORF(配列番号4)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号5,6)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpBBR1MCS−2::PgapA/ScaIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpBBR1MCS−2::SppcaFとした。
【0078】
(実施例11)C.glutamicum由来スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素遺伝子発現用プラスミドの構築
Corynebacterium glutamicum ATCC13032のスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を発現させるために、Corinebacterium glutamicum ATCC13032のゲノムを鋳型としてacetyl−CoA acetyltransferase遺伝子(pcaF)のORF(GenBankアクセッション番号NC_003450、GI番号19553591)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号7,8)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpBBR1MCS−2::PgapA/ScaIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpBBR1MCS−2::CgpcaFとした。
【0079】
(実施例12)Serratia属微生物へのプラスミド導入
実施例10および11で構築したプラスミドpBBR1MCS−2::SppcaF、pBBR1MCS−2::CgpcaFおよびコントロールとしてベクターpBBR1MCS−2を表11に示すSerratia属微生物にエレクトロポレーション(NM Calvin, PC Hanawalt. J. Bacteriol, 170 (1988), pp. 2796-2801)で導入した。形質転換したセラチア属微生物は、カナマイシン25μg/mLを含有するLB寒天培地上で30℃に保温し、1〜2日間生育させた。
【0080】
(実施例13)スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定
実施例12で得られたセラチア属微生物の形質転換体を用いて、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の比活性を比較した。
【0081】
(a)E.coli由来PaaHの過剰発現および精製
スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定に用いるPaaHの過剰発現および精製を行った。まずpCDF−1bをBamHIで切断し、pCDF−1b/BamHIを得た。Escherichia coli K−12 MG1655のゲノムを鋳型としてpaaH遺伝子(GenBankアクセッション番号NC_000913、GI番号945940)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号9,10)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpCDF−1b/BamHIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpCDF−1b:EcpaaHとした。大腸菌BL21(DE3)にpCDF−1b:EcpaaHを導入し、得られた形質転換体をストレプトマイシン50μg/mLを含むLBで好気的に培養し(37℃)、OD600が0.3付近の時点でイソプロピルチオガラクトシドを終濃度が1mMとなるよう添加し、paaHの発現を誘導した(好気的、37℃、一晩)。遠心分離後の菌体を20mM Tris−HCl(pH8.0)で懸濁し、氷冷しながら超音波ホモジナイザーで細胞を破砕したのち、遠心分離した上清を無細胞抽出液として回収した。得られた無細胞抽出液をHis Bind Resin(Merck社製)を用いて精製し、Amicon Ultra 3K(Merck社製)で遠心した濃縮液を20mM Tris−HCL(pH8.0)で希釈し、PaaH酵素溶液(0.31mg/mL)とした。酵素濃度はQuick Start Bradfordプロテインアッセイ(BIO−RAD社製)を用いて決定した。
【0082】
(b)酵素液の調製
下記に示した組成の前培養培地5mLに、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されていないSerratia属微生物として、pBBR1MCS−2が導入された表11に記載のSerratia属微生物と、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性が強化されたSerratia属微生物としてpBBR1MCS−2::CgpcaFが導入された表11に記載のSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した。その培養液に10mLの0.9%塩化ナトリウムを加え、菌体を遠心分離したのち上清を完全に取り除くことで菌体を洗浄する操作を3回行ったのち、菌体を1mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液0.5mLを以下に示した組成の本培養培地5mLに添加し、30℃で3時間振とう培養した。
【0083】
上記培養液5mLを遠心により集菌後、下記のTris−HClバッファー1mLに懸濁した。上記菌体懸濁液にガラスビーズ(φ0.1mm)を加え、Micro Smash(TOMY社製)を用い4℃で菌体を破砕した。上記のようにして菌体を破砕した後、遠心して得られる上清の無細胞抽出液(CFE)を酵素液として以下の実験に用いた。
【0084】
(c)スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定
(b)で得られたCFE中のタンパク質濃度を、Quick Start Bradfordプロテインアッセイ(BIO−RAD社製)により測定した。次に、以下に示す組成の酵素反応溶液A25μLおよびCFE50μLを混合し、インキュベートした(30℃、2min)。その後、酵素反応溶液B25μLを入れた状態で予め30℃でプレインキュベートした石英セルに酵素反応溶液AとCFEを含む上記の溶液を全量添加し、すばやく混合し活性測定を開始した(30℃)。340nmにおける吸光度の減少を分光光度計(Ultrospec3300Pro GEヘルスケア社製)で測定し、得られたΔ340の値を式(1)にあてはめ、それぞれ比活性を算出した。算出結果を表11に示す。
【0085】
これらの結果から、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を導入したSerratia属微生物株では、非導入株に比べて当該比活性が向上することがわかった。
【0086】
前培養培地:
トリプトン10g/L
酵母エキス5g/L
塩化ナトリウム5g/L
pH7。
【0087】
本培養培地:
コハク酸 10g/L
グルコース 10g/L
硫酸アンモニウム 1g/L
リン酸カリウム 50mM
硫酸マグネシウム 0.025g/L
硫酸鉄 0.0625mg/L
硫酸マンガン 2.7mg/L
塩化カルシウム 0.33mg/L
塩化ナトリウム 1.25g/L
Bactoトリプトン 2.5g/L
酵母エキス 1.25g/L
pH6.5。
【0088】
Tris−HClバッファー:
Tris−HCl(pH8.0) 100mM
dithiothreitol 1mM。
【0089】
酵素反応溶液A:
Tris−HCl(pH8.0) 200mM
MgCl2 40mM
NADH 0.8mM
DTT 2mM
PaaH 4.4μg。
【0090】
酵素反応溶液B:
アセチルCoA 2mM
スクシニルCoA 0.4mM
【0091】
【表11】
【0092】
(実施例14)遺伝子組換えによりスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を発現させたSerratia属微生物を用いたα−ヒドロムコン酸生産試験
表12に示した、Serratia属微生物および、実施例12で作成した遺伝子組換えによりスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素を導入したSerratia属微生物のα−ヒドロムコン酸の生産能を調べた。トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、カナマイシン25μg/mLを含み、pH7に調整した培地5mLに、それぞれのSerratia属微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。その培養液0.25mLを以下に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で24時間振とう培養し、本培養を行った。
コハク酸10g/L
グルコース10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
カナマイシン25μg/mL
pH6.5。
【0093】
本培養液より菌体を遠心分離した上清を、実施例1と同様にLC−MS/MSにて分析した。培養上清中に蓄積したα−ヒドロムコン酸の定量分析を行った結果をそれぞれ表12に示す。
【0094】
これらの結果から、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の導入株では非導入株と比べてα−ヒドロムコン酸の蓄積濃度が向上することがわかった。したがって、本実施例と実施例12の結果よりスクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素活性の強化によりα−ヒドロムコン酸を効率よく製造することができることがわかった。
【0095】
【表12】
【0096】
(実施例15)
S.plymuthica NBRC102599由来PcaFの酵素活性の確認
実施例10でクローニングした配列番号4の遺伝子配列がコードするPcaFが、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する活性を有していることを確認した。
(a)S.plymuthica由来PcaFの過剰発現および精製
pRSF−1bをSacIで切断し、pRSF−1b/SacIを得た。S.plymuthica NBRC102599のゲノムを鋳型としてpcaF遺伝子のORF(配列番号4)をPCR増幅するためのプライマーを設計し(配列番号11,12)、常法に従ってPCR反応を行った。得られた断片およびpRSF−1b/SacIを、In−Fusion HD Cloning Kitを用いて連結し、常法により塩基配列を確認したプラスミドをpRSF−1b:SppcaFとした。大腸菌BL21(DE3)にpRSF−1b:SppcaFを導入し、得られた形質転換体をカナマイシン25μg/mLを含むLBで好気的に培養し(37℃)、OD600が0.3付近の時点でイソプロピルチオガラクトシドを終濃度が1mMとなるよう添加し、pcaFの発現を誘導した(好気的、37℃、一晩)。遠心分離後の菌体を20mM Tris−HCl(pH8.0)で懸濁し、氷冷しながら超音波ホモジナイザーで細胞を破砕したのち、遠心分離した上清を無細胞抽出液として回収した。得られた無細胞抽出液をHis Bind Resin(Merck社製)を用いて精製し、Amicon Ultra 3K(Merck社製)で遠心した濃縮液を20mM Tris−HCL(pH8.0)で希釈し、PcaF酵素溶液(0.52mg/mL)とした。酵素濃度はQuick Start Bradfordプロテインアッセイ(BIO−RAD社製)を用いて決定した。
【0097】
(b)スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する酵素の活性測定
PcaF酵素溶液を酵素液として、実施例13と同様の手順にて酵素活性測定を行った。測定の結果、比活性は0.170Unit/mgであり、精製された酵素は、スクシニルCoAおよびアセチルCoAから3−オキソアジピルCoAおよびCoAを生じる反応を触媒する活性を有していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、Serratia属微生物を利用してα−ヒドロムコン酸を製造することができる。得られたα−ヒドロムコン酸は各種ポリマー原料として利用することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]