【文献】
Food Chemistry,2012年,134,p.1173-1180,DOI:10.1016/j.foodchem.2012.02.143
【文献】
Diabetologia,2005年,48,p. 113-122,DOI:10.1007/s00125-004-1600-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
サチャインチオイルとは、南米ペルーを原産地とするトウダイグサ科の一般名:「サチャインチ」(学名:「プルケネティア」、(Plukenetia))から抽出されるオイルであり、例えば、インカインチオイル、インカナッツオイル、インカグリーンナッツオイル、アマゾングリーンナッツオイル、グリーンナッツオイル、INCI名:「プルケネチアボルビリス種子油」などと呼ばれることもある。なお、前記INCI名は、日本化粧品工業連合会が規定する表示名称である。
【0011】
サチャインチとしては、例えば、プルケネティア・ボルビリス(Plukenetia volubilis L.)、プルケネティア・ワイヤバンバナ(Plukenetia huayllabambana R.W.Bussmann, C.Tellez & A.Glenn)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、プルケネティア・ボルビリス(Plukenetia volubilis L.)が好ましい。
【0012】
サチャインチオイルの栄養成分としては、栄養成分100g当たりの熱量、タンパク質、脂質、炭水化物、ナトリウム、コレステロール、ビタミンE、α−リノレン酸が含まれていることが知られている。
熱量としては、栄養成分100g当たり、800kcal〜1,000kcalを有しているオイル成分であることが好ましく、850kcal〜950kcalがより好ましい。
タンパク質の含有量としては、栄養成分100g当たり、0.01g〜0.5gを有しているオイル成分であることが好ましく、0.05g〜0.2gがより好ましい。
脂質の含有量としては、栄養成分100g当たり、10g〜200gを有しているオイル成分であることが好ましく、50g〜150gがより好ましい。
炭水化物の含有量としては、栄養成分100g当たり、0g〜10gを有しているオイル成分であることが好ましく、0g〜2gがより好ましい。
ナトリウムの含有量としては、栄養成分100g当たり、0mg〜10mgを含有している成分であることが好ましく、0mg〜2mgがより好ましい。
コレステロールの含有量としては、栄養成分100g当たり、0g〜10gを含有している成分であることが好ましく、0g〜2gがより好ましい。
ビタミンEの含有量としては、栄養成分100g当たり、100mg〜300mgを含有している成分であることが好ましく、150mg〜250mgがより好ましい。
α−リノレン酸(Omega3)の含有量としては、栄養成分100g当たり、30%〜70%を含有している成分であることが好ましく、40%〜60%がより好ましい。
【0013】
サチャインチオイルの品質基準としては、例えば、酸価、過酸化物価、ヨウ素価などが挙げられる。
酸価としては、コールドプレス等により搾油した、いわゆる生絞り油の場合は、3mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以下がより好ましい。酸価が3mgKOH/gを超えると、サチャインチオイル中の遊離脂肪酸が多くなり、サチャインチオイルが酸化されてしまう傾向にある。なお、酸価は、油脂1g中に含まれる遊離脂肪酸を水酸化カリウムで滴定して求めることができるが、例えば、酸価測定用試験紙(商品名:「油脂劣化度判定試験紙 AV−CHECK」、株式会社J−オイルミルズ製)を用いて簡便に測定することもできる。なお、酸価は、サチャインチオイル中に含まれる遊離脂肪酸の量を表す。
【0014】
過酸化物価としては、30meq/kg以下が好ましく、10meq/kg以下がより好ましく、5meq/kg以下が特に好ましい。過酸化物価が30meq/kgを超えると、食品に異臭を生じ、風味、色調等を変化させ栄養成分が分解され、味覚への影響だけでなく人体に有害な作用を及ぼすことがある。なお、過酸化物価の測定法としては、酸化した油脂に酸性でヨウ化カリウムを作用させ、遊離してくるヨウ素を滴定法で求めるチオ硫酸ナトリウム滴定法などが挙げられるが、例えば、過酸化物価測定用試験紙(商品名:「POV試験紙」、柴田化学株式会社製)を用いて簡便に測定することができる。なお、過酸化物価は、サチャインチオイルが空気中の酸素により酸化され、生成した過酸化脂質の量を表し、サチャインチオイルの酸化の度合いを表す。
【0015】
ヨウ素価は、油脂の不飽和度の指標であるが、α−リノレン酸(Omega3)の含有量が多いサチャインチオイルの場合は、不飽和脂肪酸の含有量およびその劣化度を示す指標となる。ヨウ素価の測定方法としては、油脂に過剰の一塩化ヨウ素を加えて反応させた後、未反応の一塩化ヨウ素(ICl)をヨウ化カリウム(KI)で分解し、生成した遊離ヨウ素(I
2)を0.1Nチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)溶液で滴定し、吸収された一塩化ヨウ素(ICl)の量に相当するヨウ素(I
2)の量を換算して、油脂100gに吸収されるヨウ素の重さ(g)を算出することで求めるウィイス−シクロヘキサン法などが挙げられる。
【0016】
ヨウ素価としては、130mgI/100mg以上が好ましく、190mgI/100mg以上がより好ましい。逆に130mgI/100mg未満の場合は、不飽和脂肪酸含量自体が少ないか、不飽和脂肪酸が酸化されている可能性があり、酸価、過酸化物価、さらには脂肪酸組成測定値と合わせて品質の劣化を検証する必要がある。
【0017】
本発明において抽出原料として用いるサチャインチの部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、種子部などが挙げられ、この中でも、抽出効率の観点から、胚乳部がより好ましい。
【0018】
サチャインチオイルの抽出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熟した実から種子を取り出し、洗浄消毒し皮をむいた後、粉砕機にて粉砕物を得る。得られた前記粉砕物を圧搾機により圧力をかけ抽出液を搾り、前記抽出液をフィルターに通し、濾過することによりサチャインチオイルを得ることができる。
【0019】
圧搾機による抽出液の抽出方法としては、例えば、コールドプレス法、ホットプレス法などが挙げられる。これらの中でも、熱による劣化を防止する観点から、コールドプレス法が好ましい。コールドプレス法とは、熱を加えずに、圧力をかけてオイルを搾る方法をいう。前記コールドプレス法における温度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0℃〜80℃が好ましく、5℃〜40℃がより好ましい。
【0020】
サチャインチオイルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、商品名:「インカグリーンナッツ・インカインチオイル」(特定非営利活動法人アルコイリス製)、商品名:「パチャママ プレミアム・サチャインチオイル」(株式会社パチャママ製)、商品名:「農大サチャインチオイル」(株式会社メルカード東京農大製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
サチャインチオイルの純度としては、80%〜100%が好ましく、90%〜100%がより好ましく、95%〜100%が特に好ましい。
【0022】
本発明における血管内皮機能を向上させる作用を有する剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤などが挙げられる。これらの中でも、使用の利便性の観点から、経口的に摂取できる剤型である液剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤が好ましく、液剤、顆粒剤、錠剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、シロップ剤がより好ましい。
【0023】
前記サチャインチオイルの含有量は、前記剤型により様々である。
前記サチャインチオイルをそのままボトル詰めにした液剤の場合の前記サチャインチオイルの含有量としては、血管内皮機能を向上させる剤の全量に対して、30質量%〜100質量%が好ましい。
前記ハードカプセル剤又はソフトカプセル剤におけるサチャインチオイルの含有量としては、剤の全量に対して、30質量%〜95質量%が好ましい。
前記シロップ剤におけるサチャインチオイルの含有量としては、剤の全量に対して、30質量%〜100質量%が好ましい。
前記顆粒剤におけるサチャインチオイルの含有量としては、剤の全量に対して、30質量%〜70質量%が好ましい。
前記錠剤におけるサチャインチオイルの含有量としては、剤の全量に対して、10質量%〜50質量%が好ましい。
前記剤型において、あまりにもサチャインチオイルの含有量が少ない製剤は摂取量が多くなるため適さない。
【0024】
本発明における血管内皮機能を向上させる作用を有する剤は、サチャインチオイルを有効成分として含有していることを必須としてなり、更に当該効果を高めるため又は付加的な効果を付与するため、若しくは製剤形を調製する上で必要なその他の成分を必要に応じて適宜選択して含有させても良い。
前記その他の成分としては、血管内皮機能を向上させる剤を製造するにあたって用いられる補助的原料、又は製剤化操作において通常用いられる添加物などが挙げられる。
【0025】
前記補助的原料又は前記添加物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。例えば、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ロイコトリエン、プロスタグランジン、トロンボキサン、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸;ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明に係るサチャインチオイルを含有する血管内皮機能を向上させる作用を有する剤の使用方法としては、サチャインチオイルとして1回服用分あたり0.1g〜3gを摂取することが好ましい。好ましくは、サチャインチオイルとして0.1g〜1g(100mg〜1,000mg)/1回の服用である。前記摂取は毎日の服用でも良く、頓服でも良い。
本発明における血管内皮機能を向上させる作用を有する剤としては、健康食品や保健機能食品として分類されるサプリメント製剤、医薬部外品や医薬品として分類される製剤としての用途態様を意図する。
【0027】
本発明のサチャインチオイルを含有する血管内皮機能を向上させる作用を有する食品としては、サチャインチオイルを含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる食品形態の態様の、経口的に摂取される一般食品、又は健康食品や保健機能食品等として称されるサプリメント等、幅広く含むものを意味する。
前記食品としては、サチャインチオイルをその活性を妨げないように任意の食品に配合したものであってもよいし、サチャインチオイルを主成分とする栄養補助食品であってもよい。
【0028】
前記食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、炭酸飲料、果実・果汁飲料、コーヒー飲料、茶系飲料、茶飲料(緑茶、烏龍茶、紅茶など)、豆乳、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料、清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;種々の形態の健康食品や栄養補助食品や、ドリンク剤、トローチ剤などが挙げられる。
これらの食品態様の場合、サチャインチオイルを含有させて当該食品を製造することで本発明に係る血管内皮機能を向上させる作用を有する食品を製造することができる。
【0029】
前記食品におけるサチャインチオイルの添加量は、対象となる食品の種類に応じて異なり一概には規定することができないが、給食1回あたりサチャインチオイルとして0.1g〜3gを摂取できる含有量とすることが好ましい。好ましくは、サチャインチオイルとして0.1g〜1g(100mg〜1,000mg)/1回給食分である。
当該食品は、日常的に経口摂取することが可能であり、有効成分であるサチャインチオイルの働きによって、極めて効果的に血管内皮機能を向上させることができる。
【0030】
本発明における血管内皮機能を向上させる作用効果とは、血管内皮の収縮・拡張機能を向上する作用を有することを意味する。すなわち、循環器系疾患、特に動脈硬化や血管弾力性低下等に起因する血管内皮機能の低下によってもたらされる疾患又は症状の予防又は改善する作用を有することを意味する。血管内皮細胞は、血流量の増減によるせん断応力に応答して産生される一酸化窒素(NO)に応答して血管径が拡張する作用を有する。そして血流依存性血管拡張(flow-mediated vasodilation;FMD)反応の計測が、いわゆる血管の柔軟性やしなやかさを測定していると解釈され、血管内皮機能の非侵襲的評価方法として一般的に用いられている。血管内皮機能を向上させる作用とは、様々な生理的環境のシグナルに応答して血管径が収縮・拡張する機能を向上させる作用を意味し、柔軟でしなやかな血管を維持又は回復させるための作用を意味する。
血管内皮機能の向上の程度は、血管径の増大率(FMD値(%))として定量的に評価することができる。すなわち、FMDの値が大きいほど血管の応答性機能が高い事になり、いわゆる柔軟性が高い血管と評価され、低いほど柔軟性が低い血管であるとされる。なお、FMD値(%)はCVD発症リスクと相関することが知られている。すなわち、健常人のFMD値(%)は約6以上であり、動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者のFMD値(%)はそれよりも低値であり、一般的に4未満であると言われている。
本発明において血管内皮機能の向上させる作用や改善させる作用とは、健常人並びに動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者に対してそれぞれ用いられるものとする。例えば、健常人のFMD値が上昇した場合にはその者の血管内皮機能が向上したと判断することができる。また動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者のFMD値が上昇した場合にはその者の血管内皮機能が改善されたと判断することができる。
【0031】
血管内皮機能は、高血圧および心血管疾患の発症リスクと密接に関連することが分かっている。血管内皮機能が低下した状態が続けば、動脈硬化が進展し、高血圧になりやすくなる。逆に、血管内皮機能を高めることができれば、動脈硬化を予防することができて、高血圧にもなりにくくなる。従って、血管内皮機能が改善すれば、高血圧の改善又は予防につながることが期待される。
本発明の血管内皮機能改善剤は、動脈硬化症、高血圧、脂質代謝異常症、糖尿病、慢性腎臓病、肥満・メタボリック症候群、冠動脈疾患、脳血管疾患等の疾患の予防又は治療のために用いることができる。本発明の血管内皮機能改善剤は、糖尿病患者や、肥満傾向にある対象者だけでなく、健常な対象者に対しても有効である。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。実施例として、健常人ボランティアにおけるサチャインチオイルを服用することによる血管内皮機能の向上効果を実証した試験例を提示する。
1−1.試験材料
ペルー産のサチャインチ種子を冷間プレスして油を抽出し、24時間静置した後、沈殿物を除去した。その上清を試験用のサチャインチオイルとした。サチャインチオイルは、カラメル色素で着色したゼラチンで350mg入りソフトカプセルを調製した。
対象剤(プラセボ)として、キャノーラオイルを用い、同様に350mg入りソフトカプセルを調製した。
【0033】
1−2.試験オイルの組成分析
試験に用いたサチャインチオイル及びキャノーラオイルの脂肪酸組成を、以下の手順によるガスクロマトグラフィー法により分析した。
スクリューキャップ付き試験管中に、オイルサンプル(40〜60mg)を内部標準であるヘプタデカン酸(6mg)と共にヘキサン(2mL)に溶解させた。窒素ガスを吹き付けてヘキサンを蒸発させた後、残渣を0.5M NaCl/メタノールで溶解し、次いで窒素ガスでパージした後にシールした。溶液を振とうしながら100℃で9分間加熱した。氷冷した後、試料に三フッ化ホウ素−メタノール試薬を加え、窒素ガスでパージした後に密閉した。サンプルを100℃で7分間加熱して振とうし、次いで氷上した。次に、試料をヘキサン(3mL)と混合し、飽和食塩水(5mL)を添加した。
混合物を1,500rpmで10分間遠心分離し、ヘキサン層を火炎イオン化検出(FID)を用いたガスクロマトグラフィー(GC)分析試料として回収した。
GCはInertCap Pure-WAXカラム、30m×0.25mm×0.25μm(GL Sciences、Tokyo、Japan)を用い、キャリアガスはヘリウムで100kPaとした。インジェクタおよび検出器の温度は、それぞれ250℃および260℃であった。 オーブン温度を150℃で5分間保持し、次いで10℃/分の速度で250℃に上昇させ、温度を20分間保持した。
実施例に用いたサチャインチオイル及びキャノーラオイルの脂肪酸組成を表1に示した。
【0034】
【表1】
【0035】
2.被験者
東京農業大学で19歳から21歳までの健康な学生20名(男性10名、女性10名)を募集した。血管内皮機能の潜在的な影響を避けるために、高血圧、糖尿病、又は脂質異常症の病歴のない健康な被験者を選択した。研究プロトコルは、東京農業大学人間対象研究倫理委員会の承認を受けた。すべての被験者から研究に参加するためのインフォームドコンセントが得られた。
【0036】
3.試験方法
サチャインチオイルによる血管内皮機能の改善能力を評価するために、食物制限下でのFMD測定を実施した。被験者には、クロスオーバー方式で、サチャインチオイル又はキャノーラオイルのソフトカプセルを無作為に単回投与した。2回目の投与は、1週間後に行った。
被験者には、試験前日及び試験日の朝にはシリアル90−130g/食(フルグラ(登録商標)、カルビー)及びミルク600−800mL/日を摂取し、これ以外の栄養補助食品は摂取しないようにした。
【0037】
3−1.FMD測定及び血圧測定
被験者は、サチャインチオイル又はキャノーラオイルを350mg含有するソフトカプセルを服用し、服用3時間後にFMDを測定した。FMDを測定する前に、被験者の血圧を、電子血圧計(ES−P2000、テルモ)を用いて測定した。
FMD測定は上腕動脈の血流を停止させるために、水銀血圧計のカフを用いて5分間、圧力(血圧+40mmHg)を前腕部に適用した。その後、カフを収縮させることによって圧力を解放し、超音波診断装置(LOGIQ P6、GEヘルスケア)によって上腕動脈を同時にモニターした。動脈径(AD)は、FMDscopeソフトウェア(メディアクロス(株)))を用いて測定した。動脈径(AD)測定に基づいて、FMD膨張率(%FMD)を計算した。
図1にサチャインチオイル服用被験者におけるFMD応答による動脈径(AD)拡張応答の典型的な記録を示す(
図1のA)。被験者のFMD応答は、カフリリースの60秒後に最大値に達した。最大動脈径(AD max)およびベースライン動脈径(AD at rest)に基づいて、FMD膨張率(%FMD)を(AD max − AD at rest)/AD at restとして算出した(
図1の2)。
【0038】
3−2.血液検査
サチャインチオイル又はキャノーラオイルを350mg含有するソフトカプセルを服用後の被験者の高密度リポタンパク質コレステロール(HDL)レベル、及び低密度リポタンパク質コレステロール(LDL)レベルを、Alere Afinion AS100分析器(Alere Inc.)を用いて測定した。
【0039】
3−3.統計処理
分析値は、平均±標準偏差として表される。平均値の差異を一元配置分散分析、続いてBonferroni多重比較検定で評価した。p<0.01は統計的に有意であると考えられた。
【0040】
4.試験結果
被験者の特徴並びにサチャインチオイル(実施例)及びキャノーラオイル(対照薬)服用後の血圧、高比重リポタンパクコレステロール(HDL)値及び低比重リポタンパクコレステロール(LDL)値を表2に示す。制限食とすることにより、食事による血管内皮機能に及ぼす影響を防止した。
サチャインチオイルの服用は、血圧に影響を与えることはなかった。また、血中コレステロール値にもおいても、対象剤であるキャノーラオイルと比較してサチャインチオイルの服用はHDL値及びLDL値で影響は認められなかった。
【0041】
【表2】
【0042】
4−1.FDM試験結果
性別によって層別化された被験者のFMD応答におけるFMD膨張率(%FMD)を表3並びに
図2に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
ベースライン時の被験者のFMD膨張率は9.7±2.9%(男性)、12.4±1.9%(女性)で全体として11.2±2.5%(合計)であった。正常な血管内皮機能はFMD膨張率として6%以上であることが知られている(Ozkayar et.al.,Nefrologia (2015)35,72−79)。したがって、本試験における全ての被験者は、血管内皮機能は正常であることが確認できた。サチャインチオイルの服用者は、FMD膨張率が17.3±1.5%(男性)、17.1±2.1%(女性)であって、全体として17.2±1.8%(合計)と有意に増加した。これに対し、対象剤(プラセボ)であるキャノーラオイルの服用者のFMD膨張率は、11.6±2.3%(男性)、11.9±1.8%(女性)であって、全体として11.8±2.1%(合計)であり、有意な増加は誘発されなかった。
【0045】
血管内皮は、血流量や血圧の変化により引き起こされるせん断応力に応答して、血管運動神経系緊張を維持する組織である。上記の試験結果は、サチャインチオイルの服用が正常な血管内皮機能において、動脈径の血管拡張能を向上させることを示した。サチャインチオイルの服用が血圧に影響を及ぼさなかったことから、当該血管拡張作用は血流量の増加によるものではなく、血流変化に対する応答性の向上効果に起因することを示唆している。したがってサチャインチオイルの服用は血管内皮機能の向上させる効果を有していることが示された。特に血管内皮の収縮・拡張機能を向上させることができることが示された。
血管内皮機能不全は、高血圧や動脈硬化のような循環器系統の様々な疾患に至る可能性がある。したがって、血流変化に応答して血管径調整機能を有する血管内皮機能の向上させることは循環器疾患のリスクを低下できる可能性がある。すなわち、サチャインチオイルの服用により血管内皮機能を向上させることができ、高血圧、動脈硬化等といった循環器疾患の予防に寄与することができる。