【文献】
Andrew Geier Melton,DEVELOPMENT OF WIDE BANDGAP SOLID-STATE NEUTRON DETECTORS,In Partial Fulfillment of the Requirements for the Degree Doctor of Philosophy in the School of Electrical and Computer Engineering, Georgia Institute of Technology,2011年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1電極及び複数の前記第2電極のそれぞれに電気的に接続され、前記第1電極と複数の前記第2電極のそれぞれとの間の電気信号を読み取る信号読取回路を備える、請求項1又は2に記載の中性子半導体検出器。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[中性子半導体検出器の構成]
【0014】
図1は、本実施形態に係る中性子半導体検出器を示す断面図である。
図2は、
図1の中性子半導体検出器の積層体を示す斜視図である。
図3は、
図2の積層体の平面視における部分的な顕微鏡写真である。
図1〜
図3に示されるように、中性子半導体検出器1は、積層体10及び信号読取部30を備えている。中性子半導体検出器1は、中性子nの入射位置を特定可能な中性子検出器である。中性子半導体検出器1は、検出する中性子nとホウ素(B)との中性子捕獲(n、α)反応(
図1中のR1)によりα線aを生成し、このα線aによる窒化ガリウム(GaN)の励起(
図1中のR2)に応じて生成される電子e及びホールhを検出することで、中性子nを検出する。ここで、中性子捕獲(n、α)反応とは、Bの原子核が中性子nを捕獲すると共にγ線を放出する反応である(
図4参照)。
【0015】
積層体10は、サファイア基板(基板)11、GaNバッファー層(基板)12、P層13、I層14、N層15、第1電極21、及び第2電極22を有している。積層体10において、サファイア基板(基板)11、GaNバッファー層(基板)12、P層13、I層14、及びN層15のそれぞれは、一つずつ設けられている。
【0016】
サファイア基板11は、アルミナ(Al
2O
3)を含んでいる。サファイア基板11は、平面視において、例えば長方形状を呈している。サファイア基板11は、積層体10の最下層である。
【0017】
GaNバッファー層12は、GaNを含んでいる。GaNバッファー層12は、サファイア基板11上に形成された層である。GaNバッファー層12は、平面視において、当該GaNバッファー層12の外縁12aがサファイア基板11の外縁11aと一致するように(すなわち、例えば長方形状に)形成されている。GaNバッファー層12は、サファイア基板11上に低温で成長させることにより形成される。
【0018】
P層13は、P型半導体のGaNを含んでいる。P層13では、キャリア(ホール)濃度は、例えばマグネシウム(Mg)ドープにより、例えば1×10
17cm
−3以上1×10
20cm
−3以下の範囲とされている。P層13は、GaNバッファー層12上に形成された層である。P層13は、平面視において、当該P層13の外縁13aがサファイア基板11の外縁11a及びGaNバッファー層12の外縁12aと一致するように(すなわち、例えば長方形状に)形成されている。P層13は、格子及び熱膨張係数のそれぞれが大きく相違するサファイア基板11上ではなくGaNバッファー層12上に形成されるため、結晶品質の低下が抑制される。
【0019】
I層14は、GaNとBとを混晶させた真性半導体のBGaNを含んでいる。ここで、「混晶させる」とは、III族窒化物であるGaNに、同じくIII族窒化物のBNを取り込ませることを意味している。また、ここでの「真性半導体」とは、P層13及びN層15と比較してキャリア濃度の低い半導体を意味している。より具体的には、I層14では、キャリア濃度は、例えば0cm
−3以上1×10
17cm
−3以下の範囲とされている。なお、I層14では、キャリア濃度は、I層14を空乏化することができる範囲であればよい。
【0020】
I層14は、P層13上に形成された層である。I層14は、平面視において、当該I層14の外縁14aの一部がP層13の外縁13aの内側に位置するように形成されている。つまり、I層14は、平面視において、P層13の上面(GaNバッファー層12とは反対側の面)のうちの一部である被覆面13bのみを被覆している。換言すると、I層14は、平面視において、P層13の上面のうちの被覆面13bを除く残部である露出面13cを被覆していない(つまり、P層13の露出面13cは、I層14に被覆されず露出している。)。具体的な形状としては、I層14は、平面視において、例えば正方形状に形成されている。
【0021】
N層15は、N型半導体のGaNを含んでいる。N層15では、キャリア(電子)濃度は、例えば1×10
16cm
−3以上1×10
20cm
−3以下の範囲とされている。N層15は、I層14上に形成された層である。N層15は、平面視において、当該N層の外縁15aがI層14の外縁14aと一致するように(すなわち、例えば正方形状に)形成されている。
【0022】
第1電極21は、P層13に電気的に接続されるように、P層13上に形成されている。より具体的には、第1電極21は、P層13の露出面13c上において、P層13の外縁13aに沿った位置に、長尺状に形成されている。なお、第1電極21は、図中に示されるように複数(ここでは、2個)設けられていなくてもよく、1個のみ設けられていてもよい。第1電極21としては、一例としてAu/Ni電極(すなわち、P層13上にコンタクト層として設けられたNiの上に、当該Niの酸化防止のためのAuが設けられた構成の電極)が挙げられるが、これに限定されるものではなく、P層13上にオーミック接触を形成することができる電極であればよい。
【0023】
第2電極22は、N層15に電気的に接続されるように、N層15上に形成されている。第2電極22は、N層15上に複数(ここでは、49個)配列されている。より具体的には、各第2電極22は、平面視において、例えば正方形状を呈し、N層15上に互いに離間して7行7列のマトリックス状に(すなわち、格子点の位置に)配列されている。
図3には、49個の第2電極22のうち、4個の第2電極22が示されている。なお、第2電極22は、7行7列のマトリックス状に配列されていなくてもよく、これとは行数及び列数の少なくとも一方が異なるマトリックス状に配列されていてもよい。また、第2電極22は、マトリックス状に配列されていなくてもよく、例えばハニカム状に配列されていてもよい。第2電極22としては、一例としてAl電極が挙げられるが、これに限定されるものではなく、N層15上にオーミック接触を形成することができる電極であればよい。
【0024】
図1に示されるように、信号読取部30は、電源31及び信号読取回路32を有している。また、信号読取部30は、積層体10、電源31、及び信号読取回路32を電気的に直列に接続する電線33、及び、電線33において積層体10と電源31との間に電気的に接続されたグラウンド(接地)34を有している。
【0025】
電源31は、直流可変電源である。電源31は、第1電極21が正極となり、第2電極22が負極となるように、積層体10に対して電圧を印加する。すなわち、電源31は、第1電極21と第2電極22との間にP層13、I層14、及びN層15により構成されたダイオード構造に対するバイアス電圧を印加する。
【0026】
信号読取回路32は、第1電極21と各第2電極22との間の電気信号を読み取る回路である。信号読取回路32は、電線33を介して、第1電極21及び各第2電極22に電気的に接続されている。信号読取回路32の具体的な回路構成は、特定の回路構成に限定されない。例えば、信号読取回路32は、各第2電極22に流れ込んだ電荷を順に読み出す構成であってもよく、或いは、信号読取回路32は、各第2電極22に対応する複数の回路が並列に設けられ、各回路に対応する第2電極22に流れ込んだ電荷を当該回路がそれぞれ読み出す構成であってもよい。
[中性子半導体検出器の動作]
【0027】
図4は、
図1の中性子半導体検出器のI層における中性子検出の原理を説明するための模式図である。
図1及び
図4に示されるように、中性子nが中性子半導体検出器1のI層14の有感層(空乏層)に入射すると、当該中性子nの一部と、I層14に含有され、他の元素と比較して中性子nの質量減弱係数の大きいBと、の間で中性子捕獲(n、α)反応(
図1及び
図4中のR1)が起こる。これにより、あらゆる方向(特に限定されない方向)にα線aが生成されると共に、γ線gが放出される。
【0028】
生成されたα線aは、同じI層14に含有されるGaNを励起(
図1及び
図4中のR2)して電子e及びホールhを生成する。つまり、生成されたα線aは、その進行する方向によらず、GaNを励起して電子e及びホールhを生成する。一方、γ線のGaNに対する透過性が高いことから、生成されたγ線gは、I層14を透過して外部へと進行する。
【0029】
ここで、
図1に示されるように、電源31により第1電極21と第2電極22との間にP層13、I層14、及びN層15に対するバイアス電圧が印加されると、ホールhがP層13を通過して第1電極21に到達し、電子eがN層15を通過して第2電極22に到達する。一般に、ホールがP層を通過する抵抗よりも電子がN層を通過する抵抗の方が小さい。このため、電子eは、I層14からN層15を通過して第2電極22に到達するまでP層13、I層14、及びN層15の積層方向Dに沿って直線的に進行する。これにより、電子eのうち、N層15上に配列された複数の第2電極22のそれぞれの直下において生成された電子eは、その直上に位置する当該第2電極22に到達する。
図1においては、複数の第2電極22のうちの第2電極22aの直下において生成された電子eが当該第2電極22aに到達し、第2電極22bの直下において生成された電子eが当該第2電極22bに到達することが示されている。
【0030】
また、信号読取回路32により、各第2電極22に到達した電子eの数に対応する信号が第2電極22ごとに自動的に検出される。なお、複数の第2電極22のうち、いずれの第2電極22に電子eが到達するかについては、I層14における中性子nの入射位置に依存している。このため、各第2電極22に到達した電子eの数に対応する信号を第2電極22ごとに検出することにより、I層14における中性子nの入射位置に関する情報についても併せて取得することができる。
[作用及び効果]
【0031】
以上説明したように、中性子半導体検出器1では、P型半導体のGaNを含むP層13と、P層13上に形成され、GaNとBとを混晶させた真性半導体のBGaNを含むI層14と、I層14上に形成されたN型半導体のGaNを含むN層15と、が設けられている。このため、I層14に中性子nが入射すると、I層14に含有されるBによる中性子捕獲(n、α)反応によりあらゆる方向にα線aが生成される。生成されたα線aは、同じI層14に含有されるGaNを励起して電子e及びホールhを生成する。つまり、I層14への中性子nの入射に応じて生成されたα線aは、その進行する方向によらず、電子e及びホールhとして検出可能である。また、中性子半導体検出器1では、P層13に第1電極21が設けられ、I層14上に形成されたN層15上に複数の第2電極22が配列されている。このため、電源31により第1電極21と第2電極22との間にP層13、I層14、及びN層15に対するバイアス電圧が印加されると、I層14に含有されるGaNにより生成された電子e及びホールhのうちのホールhがP層13を通過して第1電極21に到達し、電子eがN層15を通過して第2電極22に到達する。ここで、一般に、ホールがP層を通過する抵抗よりも電子がN層を通過する抵抗の方が小さい。このため、I層14で生成された電子eは、I層14からN層15を通過して第2電極22に到達するまでP層13、I層14、及びN層15の積層方向Dに沿って直線的に進行する。これにより、I層14で生成された電子eのうち、N層15上に配列された複数の第2電極22のそれぞれの直下において生成された電子eは、その直上に位置する当該第2電極22に到達する。したがって、別途の構成を設けなくても、各第2電極22が複数の画素としてそれぞれ機能し、第2電極22ごとに電子eを検出することで、中性子nがI層14に入射した位置を特定することができる。以上により、中性子半導体検出器1によれば、中性子nの入射位置を特定可能としつつ、中性子nの検出効率を向上させることができる。
【0032】
中性子半導体検出器1では、P層13、I層14、及びN層15のそれぞれは、一つずつ設けられている。これによれば、P層13、I層14、及びN層15を複数設けないため、簡便な構成を実現することができる。
【0033】
中性子半導体検出器1では、第1電極21及び複数の第2電極22のそれぞれに電気的に接続され、第1電極21と複数の第2電極22のそれぞれとの間の電気信号を読み取る信号読取回路32を備えている。これによれば、検出した中性子nの数に対応する信号を自動的に検出すると共に、これらの中性子nの入射位置に関する情報を自動的に取得することができる。
[実施例]
【0034】
続いて、本実施形態に係る中性子半導体検出器1の一実施例について説明する。ここでは、一実施例に係る中性子半導体検出器を作製し、以下の特性及び電気信号を取得した。
【0035】
図5は、実施例に係る中性子半導体検出器のP層とN層との間における電流電圧特性を測定した結果を示すグラフである。
図5には、本実施例において、I層を介して積層しているP層とN層との間に電圧を印加し、その電圧値(横軸)を−10[V]から10[V]までの間で変化させた場合に出力された電流値(縦軸)が示されている。
図5に示されるように、この測定により、P層、I層、及びN層の積層構造がダイオードと同様の電流電圧特性を有していることが確認された。
【0036】
次に、I層においてα線が生成された場合に、そのα線が適切に検出されることを確認するため、以下の測定を行った。
図6は、実施例に係る中性子半導体検出器においてI層へのα線の入射に応じた電気信号を測定した結果を示すグラフである。
図6には、本実施例において、I層にα線を入射させた場合に信号読取部に出力された電圧値(縦軸)が横軸を時間として示されている。ここでは、α線として、アメリシウム(Am)から放出されるα線が用いられている。
図6に示されるように、I層へのα線の入射に応じて電圧値が上昇したことから、本実施例に係る中性子半導体検出器によってα線を適切に検出することができることが確認された。また、電圧値の立ち上がりの応答時間は1.6[μs]であることが確認された。
[比較例]
【0037】
図7は、実施例に係る中性子半導体検出器と比較例に係る中性子半導体検出器とのそれぞれにおいて各I層へのα線の入射に応じた各電気信号を測定した結果を比較して示すグラフである。
図8は、比較例に係る中性子半導体検出器を示す断面図である。まず、本実施形態に係る中性子半導体検出器1の比較例について、
図8を参照して説明する。
【0038】
図8に示されるように、比較例に係る中性子半導体検出器100が本実施形態に係る中性子半導体検出器1に対して構成上相違する点は、GaNバッファー層12上にN型半導体のGaNを含むN層115が形成され、N層115上に真性半導体のBGaNを含む複数のI層114が形成され、各I層114上にP型半導体のGaNを含むP層113がそれぞれ形成され、N層115に第3電極123が電気的に接続され、各P層113に第4電極124がそれぞれ形成されている点である。なお、
図8においては、それぞれ2個ずつのI層114、P層113、及び第4電極124が示されているが、これらI層114、P層113、及び第4電極124のそれぞれの個数は2個に限定されず、中性子半導体検出器100の画素数に応じた任意の個数であってもよい。これら複数のI層114、P層113、及び第4電極124は、N層115上に二次元的(例えばマトリックス状)に配列されている。
【0039】
このような中性子半導体検出器100では、以下の理由から、装置構成が複雑化するにもかかわらず、I層114及びP層113を複数設けると共に各P層113上に第4電極124をそれぞれ設ける必要がある。すなわち、積層体110は、最表面側からP層113、I層114、N層115の順に積層されている。このため、電源31により第3電極123と第4電極124との間にN層115、I層114、及びP層113に対するバイアス電圧が印加されると、I層114に含有されるGaNにより生成された電子e及びホールhのうちの電子eがN層115を通過して第3電極123に到達し、ホールhがP層113を通過して第4電極124に到達する。ここで、一般に、電子がN層を通過する抵抗よりもホールがP層を通過する抵抗の方が大きい。このため、I層114で生成されたホールhは、I層114からP層113を通過して第4電極124に到達しようとする際に、N層115、I層114、及びP層113の積層方向Dに沿わずに不規則な方向に進行する。したがって、仮にI層114及びP層113を単一の構成とすると共にP層113上に複数の第4電極124を配列した場合には、I層114で生成された電子eのうち、複数の第4電極124のそれぞれの直下において生成された電子eは、その直上に位置する当該第4電極124に必ずしも到達しない。したがって、各第4電極124が複数の画素としてそれぞれ機能せず、中性子nがI層114に入射した位置を特定することができない。以上の理由から、比較例に係る中性子半導体検出器100では、I層114及びP層113を複数設けると共に各P層113上に第4電極124をそれぞれ設けた構成を採用する必要がある。
【0040】
これに対して、本実施形態に係る中性子半導体検出器1では、上述したように、I層14及びN層15を単一の構成とすると共にN層15上に複数の第2電極22を配列した構成であっても、各第2電極22が複数の画素としてそれぞれ機能し、第2電極22ごとに電子eを検出することで、中性子nがI層14に入射した位置を特定することができる。
【0041】
図7には、実施例及び比較例のそれぞれにおいて、各I層にα線を入射させた場合に各信号読取部に出力された各電圧値(縦軸)が横軸を時間として示されている。なお、
図7の実施例に係るグラフは、
図6のグラフと同一である。
図7に示されるように、実施例及び比較例のそれぞれに係るグラフでは、各I層へのα線の入射に応じた各電圧値の立ち上がりの応答時間は同程度であることが確認された。
【0042】
図9は、比較例に係る中性子半導体検出器においてGaNで形成されたI層への中性子の入射に応じた電気信号を測定した結果を示すグラフである。
図9には、本比較例においてI層をGaNで形成し、当該I層に中性子を入射させた場合に信号読取部30に出力された電圧値(縦軸)が横軸を時間として示されている。ここでは、中性子として、カリホルニウム(Cf)から放出される中性子が用いられている。
図9に示されるように、I層への中性子の入射に応じた電圧値の上昇の立ち上がり時間、及び、電圧値の上昇から下降までの時間が
図6及び
図7の場合と同程度となっている。よって、比較例に係る中性子半導体検出器が、I層に入射した中性子を好適に検出可能であり、中性子検出器として好適に機能することが確認された。