(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(A)で表される第四級アンモニウム化合物として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびテトラエチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択された少なくとも一種を使用する、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BaTi
2O
5等のチタン酸バリウム系複合酸化物は、誘電体材料として有望である一方で、不純物を含むと誘電率が低下する傾向がある。そのため、不純物の少ない単相のチタン酸バリウム系複合酸化物を合成することが重要である。しかし、本発明者の知見によると、アルカリ金属の水酸化物を用いた液相法や固相法による合成では、単相のチタン酸バリウム系複合酸化物が得られにくい。この点について、特許文献1には、ガス浮遊炉を用いて融点よりも高い温度まで加熱し、急速冷却によってガラス化した後、再度加熱することでチタン酸バリウム系複合酸化物を得る方法が開示されているが、この方法は、合成プロセスが煩雑であり、製造コストが高くなりがちである。不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物をより簡便に得られる方法が求められている。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物がより簡便に得られる、チタン酸バリウム系複合酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、XAFS(X線吸収微細構造)に基づくチタン原子の平均配位数が5.6以上6未満であるチタン酸バリウム系複合酸化物を製造する方法が提供される。この製造方法は、前記チタン酸バリウム系複合酸化物を構成する金属元素を含む水性溶液を下記一般式(A)で表される第四級アンモニウム化合物(以下、「第四級アンモニウム化合物(A)」と表記することがある。)を含むアルカリ水溶液に滴下して前駆体を析出させる前駆体析出工程を含む。なお、本明細書において「チタン酸バリウム系複合酸化物」とは、チタン(Ti)とバリウム(Ba)を含む複合酸化物をいう。かかる構成によれば、不純物の少ないBaTi
2O
5等のチタン酸バリウム系複合酸化物をより簡便に製造することができる。
【0008】
【化1】
ここで式中、R
1〜R
4は、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素原子数6以下のアルキル基から選択される。
【0009】
ここに開示されるチタン酸バリウム系複合酸化物製造方法の好ましい一態様では、前記前駆体を750℃〜1150℃の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成する焼成工程を含む。前駆体を750℃〜1150℃の温度域で焼成することにより、アモルファスもしくは微細な粒子の結晶化が進行して、不純物の少ない(典型的には単相の)チタン酸バリウム系複合酸化物を得ることができる。
【0010】
ここに開示されるチタン酸バリウム系複合酸化物製造方法の好ましい一態様では、前記一般式(A)で表される第四級アンモニウム化合物として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびテトラエチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選択された少なくとも一種を使用する。このような構造の第四級アンモニウム化合物(A)によると、より不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物が得られやすくなる。
【0011】
ここに開示されるチタン酸バリウム系複合酸化物製造方法の好ましい一態様では、前記アルカリ水溶液における前記第四級アンモニウム化合物の濃度が、2%〜30%である。このような第四級アンモニウム化合物(A)の濃度の範囲内であると、より不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物が得られやすくなる。
【0012】
ここに開示されるチタン酸バリウム系複合酸化物製造方法の好ましい一態様では、前記アルカリ水溶液のpHが、14以上である。このことによって、より不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物が得られやすくなる。
【0013】
ここに開示されるチタン酸バリウム系複合酸化物製造方法の好ましい一態様では、前記アルカリ水溶液を攪拌しつつ前記水性溶液を滴下する。このようにすれば、アルカリ水溶液中において前駆体をより均一に析出させることができる。そのため、より不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物を得ることができる。
【0014】
ここに開示されるチタン酸バリウム系複合酸化物製造方法の好ましい一態様では、前記チタン酸バリウム系複合酸化物は、BaTi
2O
5、BaTi
4O
9、BaTi
5O
11、BaTi
6O
13、Ba
2Ti
5O
12、Ba
2Ti
6O
13、Ba
2Ti
9O
20、Ba
4Ti
11O
26、Ba
4Ti
13O
30およびBa
6Ti
17O
40からなる群から選択された少なくとも一種である。これらのチタン酸バリウム系複合酸化物は、誘電材料として有用である一方で、従来の固相法や液相法を用いたプロセスでは単相で合成することが難しい。しかし、本発明の製造方法によれば、チタン酸バリウム系複合酸化物の組成を選ばず、上記のような組成のチタン酸バリウム系複合酸化物に対しても有効である。したがって、ここで開示される製造方法は、上記のような有用なチタン酸バリウム系複合酸化物を簡便かつ高純度に製造することができるという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、チタン酸バリウム系複合酸化物の製造方法等)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、原料等の入手・調製方法に関する一般的事項等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A〜B」との表記は、A以上B以下を意味する。
【0017】
<チタン酸バリウム系複合酸化物>
ここに開示される製造方法は、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure:X線吸収微細構造)に基づくチタン原子の平均配位数が5.6以上6未満であるチタン酸バリウム系複合酸化物を製造する方法である。本発明の実施にあたって、かかる製造方法の適用対象となるチタン酸バリウム系複合酸化物は、バリウム(Ba)とチタン(Ti)を構成元素として含む複合酸化物であって、かつ、XAFSに基づくチタン原子の平均配位数が5.6以上6未満のものであれば特に限定されない。チタン酸バリウム系複合酸化物におけるチタン原子の電子状態(配位数、価数等)は、より具体的にはエックス線吸収端近傍構造(XANES:X-ray Absorption Near Edge Structure)解析法により、チタン原子の内殻電子が非占有準位および準連続順位へ励起する際のエネルギーに基づくX線吸収スペクトルから把握することができる。例えば、チタン原子の平均配位数yは、佐賀県立九州シンクロトン光研究センター(SAGA−LS)BL06装置を用いて透過法により測定したTi−K吸収端のXANESスペクトルにおいて、Ti−K吸収端のジャンプ高さ(立ち上がりのピーク(Main-edge))に対する4960ev〜4970evのプレエッジ領域のピーク強度比(吸収度比)xから下記式(1)により算出した値が採用され得る。
y=6−(x−0.2)/0.4 (1)
ここでいうチタン原子の平均配位数とは、Ti原子周りの近接酸素原子の配位数(Ti‐O配位数)の平均値をいう。プレエッジ領域とは、Ti−K吸収端の前のエネルギー帯に現れるピークの領域をいう。XANESスペクトルの解析は、XAFS解析ソフトウェア(例えばAthena)を用いてバックグラウンド吸収に相当する部分を生スペクトルから差し引いた後、スペクトル強度を1に規格化して行うことができる。
【0018】
ここで開示される製造方法の適用対象となるチタン酸バリウム系複合酸化物は、上記XAFSに基づくチタン原子の平均配位数が5.6以上6未満であって、かつ、BaとTiとを構成元素として含む複合酸化物であれば特に限定されない。かかるチタン酸バリウム系複合酸化物は、BaおよびTi以外に、他の一種または二種以上の金属元素(すなわち、BaおよびTi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含むものであり得る。例えば、チタン酸バリウム系複合酸化物中のBaサイトおよびTiサイトが他の元素で置換されていてもよい。かかる置換元素は、チタン酸バリウム系複合酸化物の用途等に応じて適宜決定することができ、例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属元素;ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)等のランタノイド元素;イットリウム(Y)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)等の遷移金属元素;ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)等の貴金属元素;スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)等の典型金属元素;セレン(Se)、ゲルマニウム(Ge)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)等の元素;であってよい。これらの置換元素は、典型的には、ドーパントとして機能し得る。これらの付加的な置換元素は、例えば、BaおよびTiの構成金属元素の0.5原子%以下、好ましくは0.05原子%以下の割合で添加され得る。ここで開示される技術は、チタン酸バリウム系複合酸化物が上記置換元素を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0019】
ここに開示される製造方法の適用対象となるチタン酸バリウム系複合酸化物の一好適例として、BaTi
2O
5、BaTi
4O
9、BaTi
5O
11、BaTi
6O
13、Ba
2Ti
5O
12、Ba
2Ti
6O
13、Ba
2Ti
9O
20、Ba
4Ti
11O
26、Ba
4Ti
13O
30、Ba
6Ti
17O
40等が挙げられる。かかる複合酸化物のBaサイトおよびTiサイトの一部が前述した置換元素で置換されていてもよい。上記チタン酸バリウム系複合酸化物は、XAFSに基づくチタン原子の平均配位数が5.6以上6未満であり、かつ誘電体材料として有用である一方で、従来の固相法や液相法を用いたプロセスでは単相で合成することが難しい。しかし、ここで開示される製造方法は、チタン酸バリウム系複合酸化物の組成を選ばず、例えばBaTi
2O
5やBa
4Ti
13O
30のような、従来のプロセスでは単相で合成することが難しいチタン酸バリウム系複合酸化物に対しても有効である。
【0020】
<チタン酸バリウム系複合酸化物の製造方法>
(前駆体析出工程)
ここに開示される製造方法は、上記チタン酸バリウム系複合酸化物を構成する金属元素を含む水性溶液を下記一般式(A)で表される第四級アンモニウム化合物を含むアルカリ水溶液に滴下して前駆体を析出させる工程(前駆体析出工程)を含む。
【0021】
【化2】
ここで式中、R
1〜R
4は、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素原子数6以下のアルキル基から選択される。
【0022】
アルカリ水溶液に含有される第四級アンモニウム化合物(A)において、窒素原子上の置換基R
1,R
2,R
3,R
4は、炭素原子数1〜6(好ましくは1〜4、典型的には1または2)のアルキル基であり得る。R
1,R
2,R
3,R
4は直鎖状でもよく分岐状でもよい。R
1,R
2,R
3,R
4は同じであってもよく異なっていてもよい。炭素原子数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。なお、本明細書において、例えばブチル基とは、その各種構造異性体(n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基)を包含する概念である。他のアルキル基についても同様である。また、アルキル基とは、置換基を有していないアルキル基のほか、1または複数個の水素原子が置換基(例えばヒドロキシ基)で置換されたアルキル基を含み得る。そのような置換されていてもよいアルキル基としては、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。ここに開示されるアルカリ水溶液は、このような第四級アンモニウム化合物の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0023】
第四級アンモニウム化合物(A)の一好適例として、R
1,R
2,R
3,R
4がいずれも炭素原子数4以下(例えば1〜3、典型的には1または2)のアルキル基であるものが挙げられる。そのような第四級アンモニウム化合物(A)の例として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。なかでも、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の対称構造のものが好ましい。あるいは、エチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルプロピルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ジエチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジブチルジメチルアンモニウムヒドロキシド等の非対称構造の第四級アンモニウム化合物(A)であってもよい。なお、ここでいう非対称構造とは、窒素原子に対して2種類以上の異なる置換基(構造異性体を含み得る)が結合していることを意味する。R
1,R
2,R
3,R
4がいずれも直鎖アルキル基である第四級アンモニウム化合物(A)が好ましく、R
1,R
2,R
3,R
4がいずれも同一の直鎖アルキル基であるものがより好ましい。
【0024】
特に限定するものではないが、上記アルカリ水溶液における第四級アンモニウム化合物(A)の濃度は、通常は1%以上にすることが適当である。より均一な組成の前駆体を得る等の観点から、第四級アンモニウム化合物(A)の濃度は、例えば2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上である。第四級アンモニウム化合物(A)の濃度は、例えば18%以上であってもよく、典型的には20%以上であってもよい。第四級アンモニウム化合物(A)の濃度の上限は特に限定されない。液安定性等の観点から、第四級アンモニウム化合物(A)の濃度は、通常は40%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは28%以下、特に好ましくは25%以下である。ここに開示される技術は、アルカリ水溶液における第四級アンモニウム化合物(A)の濃度が10%以上30%以下(さらには15%以上25%以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0025】
ここに開示される製造方法に用いられるアルカリ水溶液は、本発明の効果を大きく損なわない範囲で、前記第四級アンモニウム化合物(A)以外の塩基性化合物を、意図的あるいは非意図的に含有し得る。このような任意成分としての塩基性化合物は、無機塩基性化合物であってもよく、有機塩基性化合物であってもよい。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。無機塩基性化合物の例としては、アンモニア;アンモニア、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等;等が挙げられる。上記水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。上記炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。ここに開示されるアルカリ水溶液は、前記第四級アンモニウム化合物(A)以外の塩基性化合物を実質的に含有しないことが好ましい。
【0026】
上記アルカリ水溶液を構成する水系溶媒としては、蒸留水、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水等を好ましく用いることができる。ここに開示されるアルカリ水溶液は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、アルカリ水溶液に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
【0027】
上記アルカリ水溶液のpHは特に限定されないが、12.5以上であることが好ましく、より好ましくは13.0以上、さらに好ましくは14.0以上、特に好ましくは14.5以上である。アルカリ水溶液のpHは、例えば15.0以上であってもよく、典型的には15.4以上であってもよい。アルカリ水溶液のpHが高くなると、水性溶液を滴下した際、より均一な組成の前駆体を得ることができる。アルカリ水溶液のpHの上限値は特に制限されないが、18.0以下(例えば17.0以下、典型的には16.5以下)であることが好ましく、16.0以下であることがより好ましい。なお、本明細書中において、pHの値は、液温25℃を基準とするpH値をいうものとする。
【0028】
上記アルカリ水溶液に滴下される水性溶液は、製造目的たるチタン酸バリウム系複合酸化物の組成に応じて、該チタン酸バリウム系複合酸化物を構成する金属元素を含む。例えば、水系溶媒中にBaイオンおよびTiイオンを供給し得る一種または二種以上の化合物(塩)を含む遷移金属溶液を使用する。チタン酸バリウム系複合酸化物がTiとBa以外の金属元素(置換元素)を含む場合は、それらの金属塩も用意するようにする。以下、置換元素を含まない場合を例に説明を行うが、置換元素を含む場合はTiまたはBaの一部を当該置換元素に置き換えることで同様にチタン酸バリウム系複合酸化物を製造することができる。
【0029】
BaおよびTiの金属イオン源となる化合物(金属塩、すなわちTi塩やBa塩)としては、該金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、カリウム複合酸化物、アンモニウム複合酸化物、ナトリウム複合酸化物などの複合酸化物等を適宜採用することができる。チタンおよびバリウムの塩におけるアニオンは、同一であってもよいし互いに異なっていてもよい。そしてこれらのチタン源およびバリウム源を溶媒に溶解して、水性溶液を調製する。例えば、塩化バリウム・2水和物および四塩化チタンが溶媒に溶解した組成の水性溶液を好ましく採用し得る。水性溶液における金属元素(例えばTiおよびBa)の量比は、化学量論比とすることができる。水性溶液における金属元素の濃度は、例えば、金属元素の合計の濃度が0.01mol/L〜1mol/L程度となるように調整するのが好ましい。水性溶液を構成する溶媒は、典型的には水(蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等)であり、水を主成分とする混合溶媒であってもよい。この混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(例えば、炭素数が1〜4の低級アルコール等)が好適である。
【0030】
上記前駆体析出工程では、上記金属元素を含む水性溶液を、第四級アンモニウム化合物(A)を含むアルカリ水溶液に滴下して前駆体を析出させる。典型的には、水性溶液の滴下はアルカリ水溶液を攪拌しながら行われる。すなわち、攪拌したアルカリ水溶液中に上記水性溶液を少量ずつ滴下することにより前駆体を析出させる。かかる態様によれば、大量のアルカリ水溶液中に金属元素(典型的には金属イオン)が少量ずつ加えられていくため、金属元素の周りのpHに偏り(pHの差)が生じ難く、核の生成が均一に進行する。そのため、化学量論組成もしくはそれに近い比率で各成分が混ざり合った均質かつ微細な前駆体を得ることができる。かかる前駆体は、Ba成分およびTi成分が周期的な構造をもたないアモルファスもしくは微細な結晶粒子(例えばBa(OH)
2やTiO
2からなる微細粒子)として存在するものあり得る。また、前駆体は、メソポーラス構造を有するものであり得る。かかる前駆体を用いれば、後述する焼成工程において、化学量論組成もしくはそれに近い組成比でイオン拡散および結晶成長が促進され、不純物の少ない(典型的には単相の)チタン酸バリウム系複合酸化物を製造することが可能になる。
【0031】
なお、本発明者の検討によれば、上記水性溶液をアルカリ水溶液に滴下することによる前駆体の均一性向上(ひいては高純度のチタン酸バリウム系複合酸化物の生成)については、塩基性化合物としてアルカリ金属水酸化物を用いた場合では同程度の作用効果が得られないことが後述する試験例により確認された。したがって、上記金属元素を含む水性溶液をアルカリ水溶液に滴下することと、塩基性化合物として第四級アンモニウム化合物(A)を用いることとを組み合わせて適用することにより、かかる組み合わせによる相乗効果として、不純物の少ない(典型的には単相の)チタン酸バリウム系複合酸化物が得られる製造方法が実現され得る。このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、Ba
2+とTi(OH)
x4−xとの均質沈殿を生成する際に、選択的にTi‐Oの配位数が少なくなる構造をとることが考えられる。
【0032】
上記前駆体における窒素ガス吸着法に基づく比表面積は特に限定されないが、通常は100m
2/g〜250m
2/g程度であり、好ましくは120m
2/g〜220m
2/g、より好ましくは150m
2/g〜200m
2/g、さらに好ましくは160m
2/g〜180m
2/gである。また、上記前駆体における窒素ガス吸着法に基づく細孔容積は特に限定されないが、通常は20cm
3/g〜60cm
3/g程度であり、好ましくは25cm
3/g〜50cm
3/g、より好ましくは30cm
3/g〜45cm
3/g、さらに好ましくは35cm
3/g〜40cm
3/gである。このような前駆体の比表面積および細孔容積の範囲内であると、後述する焼成工程においてイオンの拡散性がより良く向上し、不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物を好適に合成し得る。
【0033】
上記水性溶液の量(滴下した全量)に対するアルカリ水溶液の量の倍率(すなわちアルカリ水溶液の量/水性溶液の全滴下量の比)は特に限定されないが、通常は1.2倍以上にすることが適当であり、1.5倍以上が好ましく、1.7倍以上がより好ましい。また、上記倍率は、通常、10倍以下が適当であり、5倍以下が好ましく、3倍以下がより好ましい。ここに開示される技術は、上記倍率が1.5倍以上2倍以下である態様で好ましく実施され得る。上記倍率が大きすぎず、かつ小さすぎないことにより、前駆体の均一化が一層進み、チタン酸バリウム系複合酸化物の純度をより効果的に高めることができる。
【0034】
上記前駆体析出工程における反応時間としては、滴下した水性溶液中の金属元素が均一に反応して前駆体の析出が十分に進行する時間であればよく、特に限定されない。反応時間は、通常は、0.3時間〜0.5時間であり得る。また、アルカリ溶液の液温としては特に限定されず、通常は5℃〜90℃であり得る。アルカリ溶液の液温は、例えば5℃〜60℃であってもよく、典型的には5℃〜40℃であってもよい。
【0035】
上記前駆体析出工程で析出した前駆体(典型的には粒子状の沈殿物)は、アルカリ水溶液の溶媒を除去することで回収することができる。かかる方法は特に限定されないが、ろ過によって溶媒から分離したのち、洗浄して乾燥させるとよい。このとき洗浄は、使用した溶媒と同種の溶媒を用いるとよい。乾燥手法としては、例えば、熱風乾燥装置、低湿風乾燥装置、真空乾燥装置、各種赤外線乾燥装置、電磁誘導乾燥装置、マイクロ波乾燥装置、ドライエアー等や、送風、減圧、加熱等の乾燥促進手段を単独または組み合わせて用いることができる。乾燥の条件(例えば乾燥手法や所要時間)は、溶媒の種類や溶媒量によって適宜決定し得る。乾燥温度としては、例えば80℃〜120℃(典型的には90℃〜110℃)に設定され得る。乾燥時間としては、例えば6時間〜24時間(典型的には10時間〜15時間)に設定され得る。
【0036】
(焼成工程)
ここに開示される製造方法は、上記得られた前駆体を焼成する工程(焼成工程)を含み得る。前駆体は、メソポーラス構造を有するため、加熱することにより比表面積が減少する。また、上記前駆体は、前述のように、各成分が化学量論組成もしくはそれに近い比率で均一に混ざり合っているため、上記加熱による比表面積の減少とともにイオンの拡散および結晶成長が均一に進行し、化学量論組成もしくはそれに近い組成比でチタン酸バリウム系複合酸化物の結晶が成長する。
【0037】
上記焼成工程における焼成温度(最高焼成温度)は、チタン酸バリウム系複合酸化物の結晶が成長し得る温度域であればよく、通常は600℃以上である。チタン酸バリウム系複合酸化物の結晶性を高める等の観点から、焼成温度は、好ましくは700℃以上、より好ましくは750℃以上である。焼成温度は、例えば800℃以上であってもよく、典型的には900℃以上(例えば1000℃以上)であってもよい。焼成温度の上限は特に限定されないが、例えば1300℃以下であり得る。チタン酸バリウム系複合酸化物の熱分解を抑制する等の観点からは、焼成温度は、好ましくは1250℃以下、より好ましくは1200℃以下、さらに好ましくは1150℃以下である。好ましい一態様では、上記前駆体析出工程で得られた前駆体を750℃〜1150℃(例えば800℃〜1100℃)の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成する。かかる焼成温度で加熱することにより、チタン酸バリウム系複合酸化物の熱分解を抑えつつ、結晶成長が効果的に促進される。そのため、より焼結密度の高くかつ不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物を得ることができる。
【0038】
上記焼成工程における焼成時間は、チタン酸バリウム系複合酸化物の結晶が十分に成長するまでの時間とすればよく、通常は1〜10時間であり、好ましくは3〜8時間であり、特に好ましくは4〜6時間である。焼成手段としては特に限定されず、電気加熱炉等の任意の手段を採用することができる。焼成雰囲気としては特に限定されず、大気雰囲気中であってもよく、Arガス等の不活性ガス雰囲気中であってもよいが、大気雰囲気中であることが好ましい。焼成を大気雰囲気下で行うことによって、目的の結晶構造を有するチタン酸バリウム系複合酸化物をより安定して製造することができる。
【0039】
ここに開示される製造方法により得られたチタン酸バリウム系複合酸化物は、XAFSに基づくチタン原子の平均配位数が5.6以上6未満であって、かつ、チタン酸バリウム系複合酸化物を構成する金属元素を含む水性溶液を、前記第四級アンモニウム化合物(A)を含むアルカリ水溶液に滴下して前駆体を析出させる前駆体析出工程を経て製造されたものである。そのため、焼成後に得られたチタン酸バリウム系複合酸化物は、不純物の少ないチタン酸バリウム系複合酸化物(典型的には単相)であり得る。例えば、上記チタン酸バリウム系複合酸化物は、透過法により測定したTi−K吸収端のXANESスペクトルにおいて、4960ev〜4970evのプレエッジ領域におけるピーク強度(XAFS解析ソフトウェアを用いて前記方法により規格化した吸収度)が、0.23〜0.4を示すものであり得る。上記ピーク強度は、例えば0.25〜0.38であってもよく、典型的には0.28〜0.36であってもよい。
【0040】
また、上記チタン酸バリウム系複合酸化物は、前駆体を750℃〜1150℃の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成する焼成工程を経て製造されたものである。典型的には、該チタン酸バリウム系複合酸化物の窒素ガス吸着法に基づく比表面積が、例えば0.1m
2/g〜20m
2/g、典型的には0.4m
2/g〜10m
2/gであり得る。上記比表面積は、例えば0.6m
2/g〜8m
2/gであってもよく、典型的には1m
2/g〜5m
2/gであってもよい。また、上記チタン酸バリウム系複合酸化物の窒素ガス吸着法に基づく細孔容積が、例えば0.05cm
3/g〜10cm
3/g、典型的には0.1cm
3/g〜5cm
3/gであり得る。上記細孔容積は、例えば0.2cm
3/g〜4cm
3/gであってもよく、典型的には0.3cm
3/g〜3cm
3/gであってもよい。
【0041】
以上のように、本実施形態の製造方法により得られたチタン酸バリウム系複合酸化物は、不純物が少なく(典型的には単相で)高い誘電率を発揮し得るものであることから、種々の形態のコンデンサ、圧電体、エレクトロニクス材、誘電体、半導体、各種センサ等の構成要素として好ましく利用され得る。例えば、誘電体層(セラミック層)と内部電極層とを交互に積層して焼成することにより作製される積層セラミックコンデンサの構成要素として好ましく用いることができる。
【0042】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0043】
(実施例1〜6)
アルカリ源としてのテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)またはテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)を蒸留水に溶解して、70mlのアルカリ溶液を調製した。アルカリ溶液のpHは15.1(TMAH)、15.4(TEAH)とした。アルカリ源の濃度は25%(TMAH)、20%(TEAH)とした。また、Ba源としての塩化バリウム・2水和物(II)と、Ti源としての四塩化チタンとを、化学量論比となるように秤量し、蒸留水に溶解して40mlの水性溶液を調製した。この水性溶液を上記アルカリ溶液に添加しながら室温で攪拌して沈殿物を生成した。この沈殿物をろ過して回収した後、100℃で12時間乾燥して前駆体を得た(前駆体析出工程)。次いで、得られた前駆体をバッチ式電気炉にて大気雰囲気中で5時間焼成した(焼成工程)。ただし、実施例1では前駆体の焼成は行わなかった。このようにして実施例1〜6の合成物を得た。
【0044】
(比較例1)
アルカリ源として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いたこと以外は実施例5と同じ手順で比較例1の合成物を得た。アルカリ溶液のpHは12.7とした。
【0045】
(比較例2)
アルカリ源として炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)を用いたこと以外は実施例5と同じ手順で比較例2の合成物を得た。アルカリ溶液のpHは11.2とした。
【0046】
(比較例3)
固相法により比較例3の合成物を製造した。具体的には、Ba源としての炭酸バリウム(BaCO
3)と、Ti源としての酸化チタン(TiO
2)とを1:2となるように秤量して混合した。かかる混合物をバッチ式電気炉にて大気雰囲気中1000℃で焼成して比較例3の合成物を得た。
【0047】
(比較例4)
固相法により比較例3の合成物を製造した。具体的には、Ba源としての炭酸バリウム(BaCO
3)と、Ti源としての酸化チタン(TiO
2)とを1:1となるように秤量して混合した。かかる混合物をバッチ式電気炉にて大気雰囲気中1000℃で焼成して比較例4の合成物を得た。
【0048】
各例で使用したアルカリ源、Ba源とTi源とのモル比(化学量論比)および前駆体の焼成温度を表1に示す。また、各例で得られた合成物の比表面積および細孔容積を表1に示す。なお、各例の合成物の比表面積および細孔容積は、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP装置を用いて窒素ガス吸着法により測定したものである。
【0049】
各例で得られた合成物の粉末X線回折測定を行った。ここではX 線源にCuKαを使用し、2θ=10°〜90°の範囲で25℃にて測定した。実施例1〜4の結果を
図1に、実施例2、5の結果を
図2に、比較例1の結果を
図3に、比較例4の結果を
図4にそれぞれ示す。
【0050】
また、各例で得られた合成物のXAFS測定を行い、得られたTi−K吸収端のXANESスペクトルにおける4960ev〜4970evのピーク強度(吸収度)を測定した。実施例4および比較例1の結果を
図5に、実施例4、5の結果を
図6にそれぞれ示す。また、Ti−K吸収端の立ち上がりのピーク(Main-edge)に対する4960ev〜4970evのピーク強度比xから前記式(1)によりTi原子の平均配位数を算出した。結果を表1の該当欄に示す。なお、各例の合成物のXANESスペクトルおよびピーク強度は、XAFS解析ソフトウェア「Athena」を用いて前記方法により規格化したXANESスペクトルおよびピーク強度である。
【0052】
表1に示すように、チタン酸バリウム系複合酸化物を構成する金属元素を含む水性溶液を、NaOHを含むアルカリ水溶液に滴下して前駆体を析出させる前駆体析出工程を経て製造された比較例1の合成物は、X線回折パターンにおいて回折ピークがBaTi
2O
5、BaTiO
3およびBaTi
4O
9に指数付され、単相のBaTi
2O
5は得られなかった(
図3参照)。また、比較例2においても同様に単相のBaTi
2O
5は得られなかった。さらに、固相法を用いた比較例3においても、回折ピークがBaTiO
3、TiO
2およびBaTi
4O
9に指数付され、目的とする単相のBaTi
2O
5は得られなかった。
これに対して、チタン酸バリウム系複合酸化物を構成する金属元素を含む水性溶液を、第四級アンモニウム化合物(A)を含むアルカリ水溶液に滴下して前駆体を析出させる前駆体析出工程を経て製造された実施例2〜6の合成物は、X線回折パターンにおいて回折ピークがBaTi
2O
5(実施例2〜5:
図1、2参照)およびBa
4Ti
13O
30(実施例6)にそれぞれ指数付され、目的とする単相のチタン酸バリウム系複合酸化物が得られた。この結果から、チタン酸バリウム系複合酸化物を構成する金属元素を含む水性溶液を、第四級アンモニウム化合物(A)を含むアルカリ水溶液に滴下して前駆体を析出させる前駆体析出工程を経て製造することにより、不純物の少ない単相のチタン酸バリウム系複合酸化物を合成し得ることが確認された。
【0053】
なお、比較例4では、X線回折パターンにおいてBaTiO
3の単相に帰属されるピークが確認された(
図4参照)。かかる比較例4では、Ti原子の平均配位数が6となり、TiO
6八面体の中心にTiが位置していることが示唆された。一方、実施例1〜6の合成物は、いずれもTi原子の平均配位数が5.6以上6未満となり、TiO
6八面体の中心に位置するTiがoff-centerし、5配位に近い状態で存在していることが示唆された。また、実施例1の合成物(前駆体)は、X線回折パターンにおいて、BaおよびTi由来の回折ピークがほとんど認められず、それらの各成分がアモルファスもしくは非常に微細な粒子として存在していることが示唆された。
【0054】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。