特許第6948685号(P6948685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948685
(24)【登録日】2021年9月24日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】抗癌作用増強剤及び癌治療支援方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/21 20060101AFI20210930BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20210930BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210930BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210930BHJP
   C12N 15/00 20060101ALN20210930BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20210930BHJP
【FI】
   A61K38/21ZNA
   A61K48/00ZMD
   A61K31/513
   A61K33/243
   A61P35/00
   A61P43/00 121
   !C12N15/00
   !C12Q1/68
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-216168(P2016-216168)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-70563(P2018-70563A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】金子 周一
(72)【発明者】
【氏名】本多 政夫
(72)【発明者】
【氏名】白崎 尚芳
【審査官】 大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−009338(JP,A)
【文献】 特開2003−226646(JP,A)
【文献】 特表2015−514709(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/163684(WO,A1)
【文献】 Cytokine,2015年,Vol. 76,p. 81,ID: 87
【文献】 Advances in Experimental Medicine and Biology,2015年,Vol. 850,p. 1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C12N、C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロンλ4をコードするポリヌクレオチド;又は
インターフェロンλ4を有効成分として含有する5−フルオロウラシル又はシスプラチンの抗癌作用増強剤。
【請求項2】
上記インターフェロンλ4は配列番号2に示すアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1記載の抗癌作用増強剤。
【請求項3】
インターフェロンλ4遺伝子の発現量に基づいて用量を増減することを特徴とする請求項1記載の抗癌作用増強剤。
【請求項4】
インターフェロンλ3をコードするIL-28B遺伝子におけるss469415590で規定される多型がメジャーアレルかマイナーアレルかに基づいて用量を増減することを特徴とする請求項1記載の抗癌作用増強剤。
【請求項5】
投与対象患者を、インターフェロンλ4遺伝子の発現量が低い癌患者とすることを特徴とする請求項1記載の抗癌作用増強剤。
【請求項6】
投与対象患者を、インターフェロンλ3をコードするIL-28B遺伝子におけるss469415590で規定される多型がメジャーアレルである癌患者とすることを特徴とする請求項1記載の抗癌作用増強剤。
【請求項7】
5−フルオロウラシル又はシスプラチンと請求項1〜6いずれか一項記載の抗癌作用増強剤との併用効果を判定するためのデータの取得方法であって、
インターフェロンλ4遺伝子の発現を特異的に検出可能な手段を用いて、採取した生体サンプルにおけるインターフェロンλ4遺伝子の発現を測定する工程を含み
上記データは、当該生体サンプルにおけるインターフェロンλ4遺伝子の発現量が低い場合に前記併用効果が高いことを示す、上記データの取得方法。
【請求項8】
上記手段は、インターフェロンλ4遺伝子の転写産物を特異的に増幅する一対のプライマーと、当該一対のプライマーにて増幅された核酸に対して特異的にハイブリダイズするプローブとを有することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜6いずれか一項記載の抗癌作用増強剤と、5−フルオロウラシル又はシスプラチンとを組み合わせてなる癌治療用医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜6いずれか一項記載の抗癌作用増強剤を含む、5−フルオロウラシル又はシスプラチンと併用される癌治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤が有する癌細胞に対する増殖抑制効果を増強する抗癌作用増強剤、当該抗癌作用増強剤と抗癌剤との併用による効果を判定する癌治療支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターフェロンλ4(IFNλ4或いはIFNL4と称する場合もある)は、インターフェロンλ3遺伝子(IFNL3或いはIL28Bと称する場合もある)の上流に存在する多型により生ずるフレームシフトに起因して誘導される(非特許文献1:Nat Genet. 2013 Feb; 45(2):164-71)。IL28B遺伝子の上流に存在する多型は、具体的にss469415590と呼称され、TT又はΔGをとりうる。詳細には、ss469415590[ΔG]により上述したフレームシフトが生じる結果、IFNL4をコードする遺伝子を生じる。
【0003】
なお、ss469415590については、C型肝炎ウイルス(HCV)の除去と強力な関連を示す遺伝的マーカーであるrs12979860と高い連鎖不平衡にあることが知られている。しかしながら、インターフェロンλ4の機能的役割、生物学的及び臨床学的意義等については十分な解析がなされていないのが現状である。
【0004】
なお、IL28B遺伝子の周辺には、ペグインターフェロン/リバビリン(PEG-IFN/RBV)併用療法の治療効果に強く関連している複数のSNPsが知られている(非特許文献2:Tanaka Y, et al., Nat Genet.41; 1105-9, 2009)。すなわち、IL28B遺伝子座の代表的なSNPであるrs8099917(TT/TG/GG)のマイナーアレル(TG又はGG)を持つ患者群は、メジャーアレル(TT)をもつ群に比べ、有意にPEG-IFN/RBV併用療法が無効であることが知られている。また、rs12979860のメジャーアレル(CC)群は、マイナーアレル群に比べ、PEG-IFN/RBV併用治療によるウイルス減少が速やかであるとの報告がある(非特許文献3:Thompson AJ, et al., Gastroenterology. 139; 120-9, 2010)。
【0005】
一方、慢性C型肝炎を有する肝細胞癌の患者であって、肝切除又はラジオ波焼灼療法を受けた患者の遺伝子型解析を行ったところ、rs8099917の遺伝子型と再発率との間に有意な相関があったことが報告されている(非特許文献4:Hodo et al., Clin. Cancer. Res. April 2013, 19(7), pp1827-1837)。詳細には、rs8099917のメジャーアレル(TT)を持つ患者は、rs8099917のマイナーアレル(TG又はGG)を持つ患者と比較すると、肝細胞癌の再発率が有意に高いことが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ludmila Prokunina-Olsson et al., Nat Genet. 2013 Feb; 45(2):164-71
【非特許文献2】Tanaka Y, et al., Nat Genet.41; 1105-9, 2009
【非特許文献3】Thompson AJ, et al., Gastroenterology. 139; 120-9, 2010
【非特許文献4】Hodo et al., Clin. Cancer. Res. April 2013, 19(7), pp1827-1837
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、IL28B遺伝子周辺に存在する多型に関して、臨床学的意義が解明されつつあるものの、非特許文献1に記載されたように、当該多型に起因して誘導されるIFNL4をコードする遺伝子については、その機能的役割や臨床学的意義については依然として不明のままであった。
【0008】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、IFNL4の機能的意義を明らかにし、当該IFNL4、IFNL4をコードするポリヌクレオチド、IFNL4をリガンドとする受容体に対するアゴニストの新規用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、IFNL4の機能的意義の一つとして、抗癌剤が有する癌細胞に対する増殖抑制効果を増強する機能を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下を包含する。
(1)インターフェロンλ4をコードするポリヌクレオチド;インターフェロンλ4;又はインターフェロンλ4をリガンドとする受容体に対するアゴニストを有効成分として含有する抗癌剤の抗癌作用増強剤。
(2)上記インターフェロンλ4は配列番号2に示すアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなることを特徴とする(1)記載の抗癌作用増強剤。
(3)上記抗癌剤は、5−フルオロウラシル又はシスプラチンであることを特徴とする(1)記載の抗癌作用増強剤。
(4)インターフェロンλ4遺伝子の発現量に基づいて用量を増減することを特徴とする(1)記載の抗癌作用増強剤。
(5)インターフェロンλ3をコードするIL-28B遺伝子におけるss469415590で規定される多型がメジャーアレルかマイナーアレルかに基づいて用量を増減することを特徴とする(1)記載の抗癌作用増強剤。
(6)投与対象患者を、インターフェロンλ4遺伝子の発現量が低い癌患者とすることを特徴とする(1)記載の抗癌作用増強剤。
(7)投与対象患者を、インターフェロンλ3をコードするIL-28B遺伝子におけるss469415590で規定される多型がメジャーアレルである癌患者とすることを特徴とする(1)記載の抗癌作用増強剤。
(8)インターフェロンλ4遺伝子の発現を特異的に検出可能な手段を用いて、被験体におけるインターフェロンλ4遺伝子の発現を測定する工程と、被験体におけるインターフェロンλ4遺伝子の発現量に基づいて、抗癌剤と(1)〜(7)いずれか記載の抗癌作用増強剤との併用効果を判定する、癌治療支援方法。
(9)上記手段は、インターフェロンλ4遺伝子の転写産物を特異的に増幅する一対のプライマーと、当該一対のプライマーにて増幅された核酸に対して特異的にハイブリダイズするプローブとを有することを特徴とする(8)記載の癌治療支援方法。
(10)上記(1)〜(7)いずれか記載の抗癌作用増強剤と、抗癌剤とを組み合わせてなる医薬組成物。
(11)上記抗癌剤は、5−フルオロウラシル又はシスプラチンであることを特徴とする(10)記載の医薬組成物。
(12)上記(1)〜(7)いずれか記載の抗癌作用増強剤を含む、抗癌剤と併用される医薬組成物。
(13)上記抗癌剤は、5−フルオロウラシル又はシスプラチンであることを特徴とする(12)記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る抗癌作用増強剤は、抗癌剤による癌細胞に対する増殖抑制効果を増強することができる。よって、本発明に係る抗癌作用増強剤によれば、抗癌剤による優れた治療効果を期待することができる。また、本発明に係る抗癌作用増強剤によれば、薬効を維持しながら抗癌剤の投与量を低減することができ、抗癌剤による副作用を抑制することができる。
【0012】
一方、本発明に係る癌治療支援方法は、抗癌剤を用いた癌治療において、当該抗癌剤による治療効果を予測し、抗癌剤による癌細胞に対する増殖抑制効果を増強する抗癌作用増強剤の適用を判定することができる。よって、本発明に係る癌治療支援方法によれば、癌治療を要する患者に最適な治療方針を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】IL28Bの遺伝子型と肝動注化学療法の奏功率との関係を示す特性図である。
図2】肝動注化学療法例について全生存率をIL28Bの遺伝子型について比較した特性図である。
図3】IL28Bの遺伝子型等を変数として単変量解析及び多変量解析した結果を示す特性図である。
図4】IL28Bのマイナーアレルで発現しうるp179(インターフェロンλ4)等についてISG誘導活性及び抗HCV活性を測定した結果を示す特性図である。
図5】各種IFNについてISG誘導活性を測定した結果を示す特性図である。
図6】各種IFNについて抗HCV活性を測定した結果を示す特性図である。
図7】IFNL4と抗癌剤とを併用したときの細胞生存率を測定した結果を示す特性図である。
図8】IFNL4と各種濃度の5FUとを併用したときの細胞生存率を測定した結果を示す特性図である。
図9】各種IFNと5FUとを併用したときのカスパーゼ3/7活性を測定した結果を示す特性図である。
図10】各種IFNとCDDPとを併用したときのカスパーゼ3/7活性を測定した結果を示す特性図である。
図11】IFNL4の発現を特異的に検出するためのプライマー及びプローブを設計したことを示す特性図である。
図12】IFNL4の発現を特異的に検出したことを示す特性図である。
図13】各種IFN組み換えタンパク質を検出した結果を示す特性図である。
図14】各種IFN組み換えタンパク質をウエスタンブロットにより検出した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る抗癌作用増強剤は、癌細胞に対する増殖抑制効果を有する抗癌剤における抗癌作用、すなわち癌細胞に対する増殖抑制効果を増強する機能を有するものである。抗癌作用増強剤は、インターフェロンλ4(IFNλ4或いはIFNL4と略称される)をコードするポリヌクレオチド;インターフェロンλ4;又はインターフェロンλ4をリガンドとする受容体に対するアゴニストを有効成分とするものである。
【0015】
<インターフェロンλ4>
インターフェロンλ4(IFNλ4或いはIFNL4)とは、Ludmila Prokunina-Olsson et al., Nat Genet. 2013 Feb; 45(2):164-71に開示されるように、インターフェロンλ3遺伝子(IFNL3遺伝子、IL28B遺伝子)の上流に位置する多型であって、ssID番号(Submitted SNP ID number):ss469415590で規定される多型によって作られる遺伝子にコードされる。ss469415590で規定される多型は、一塩基挿入/欠失型(Indel型)の多型であり、メジャーアレルがTTであり、マイナーアレルがΔG(メジャーアレルにおける5’側のTが欠失する多型(rs67272382又はrs11322783)と、メジャーアレルにおける3’側のTがGとなる多型(rs74597329)との組み合わせ)となる。このss469415590で規定される多型がマイナーアレル(ΔG)である場合、フレームシフトが生じることとなり179個のアミノ酸配列からなるインターフェロンλ4が生成される。
【0016】
III型インターフェロン(IFNL1、IFNL2及びIFNL3)は、受容体との相互作用に関与する高度に保存されたヘリックスA〜Fを有している。Ludmila Prokunina-Olsson et al., Nat Genet. 2013 Feb; 45(2):164-71に開示されるように、インターフェロンλ4は、IL28R1として知られる受容体と相互作用するヘリックスA及びヘリックスFにおいてIFNL3と最も類似している。一方、インターフェロンλ4は、IL10R2として知られるインターフェロンλ受容体複合体の第2鎖と相互作用するヘリックスDにおいてIFNL3とは異なっている。
【0017】
インターフェロンλ4をコードするコーディング領域の塩基配列及びインターフェロンλ4のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1及び2に示す。なお、例えばGenBankデータベース等の遺伝子関連情報を格納した公知のデータベースより、インターフェロンλ4のアミノ酸配列及び塩基配列を入手することができる。なお、インターフェロンλ4については、そのmRNA配列がACCESSION番号:JN806234として格納され、Protein ID: AFQ38559.1としてGenBankデータベースに格納されている。
【0018】
ただし、本発明においてインターフェロンλ4は、これら配列番号1及び2にて規定されるものに限定されない。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、配列番号2のアミノ酸配列からなるインターフェロンλ4が相互作用する受容体に対して相互作用する活性を有するタンパク質であっても良い。ここで、複数個とは、2〜20個のアミノ酸とすることができ、2〜15個のアミノ酸とすることが好ましく、2〜10個のアミノ酸とすることがより好ましく、2〜5個のアミノ酸とすることが更に好ましい。
【0019】
また、インターフェロンλ4としては、配列番号2に示すアミノ酸配列に限定されず、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の配列同一性、好ましくは80%以上の配列同一性、より好ましくは90%以上の配列同一性、更に好ましくは95%以上の配列同一性、或いは更に好ましくは97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2のアミノ酸配列からなるインターフェロンλ4が相互作用する受容体に対して相互作用する活性を有するタンパク質であっても良い。ここで配列同一性の値は、配列番号2のアミノ酸配列(179個)とのペアワイズアライメントを行い、完全に一致するアミノ酸残基の割合として算出することができる。
【0020】
さらに、インターフェロンλ4をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号1に示す塩基配列からなるものに限定されず、配列番号1に示す塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、配列番号2のアミノ酸配列からなるインターフェロンλ4が相互作用する受容体に対して相互作用する活性を有するタンパク質をコードするものであっても良い。ストリンジェントな条件とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されるものではない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度など複数の要素があり、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。ハイブリダイゼーションは、例えばMolecular Cloning: A laboratory Manual, 4th Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,などに記載されている方法に準じて行うことができる。
【0021】
なお、配列番号2のアミノ酸配列からなるインターフェロンλ4と受容体との相互作用については、例えばThe EMBO Journal (2013) 32, 3055-3065を参照することができる。配列番号2と異なるアミノ酸配列を有するタンパク質や、配列番号1に示す塩基配列以外の塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列からなるインターフェロンλ4が相互作用する受容体に対して相互作用する活性を有するかについては本論文を参考にして検討することができる。
【0022】
ところで、インターフェロンλ4は、上述のように配列番号2のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列であっても良いが、受容体との相互作用に関与する領域は保存されていることが好ましい。すなわち、配列番号2のアミノ酸配列において、ヘリックスA〜Fに相当する領域は保存されていることが好ましい。言い換えると、置換、欠失及び/又は付加するアミノ酸残基は、特に限定されないが、配列番号2のアミノ酸配列におけるヘリックスA〜F以外の領域内とすることが好ましい。
【0023】
なお、ヘリックスAは配列番号2のアミノ酸配列における第40〜54番目に相当し、ヘリックスBは配列番号2のアミノ酸配列における第66〜69番目に相当し、ヘリックスCは配列番号2のアミノ酸配列における第78〜85番目に相当し、ヘリックスDは配列番号2のアミノ酸配列における第105〜113番目に相当し、ヘリックスEは配列番号2のアミノ酸配列における第131〜145番目に相当し、ヘリックスFは配列番号2のアミノ酸配列における第148〜169番目に相当する。
【0024】
<ポリヌクレオチド>
本発明に係る抗癌作用増強剤は、上述したインターフェロンλ4をコードするポリヌクレオチドをベクターに組み入れ、当該ベクターを用いて目的とする組織(例えば肝臓)において発現させることができるように調製できる。ベクターとしては、特に限定されず、ヒトに使用することができる各種ベクターを用いることができる。ベクターとしては、ウイルスベクター及び非ウイルスベクターのいずれを用いてもよい。
【0025】
これらのうち、ウイルスベクターを用いることが好ましい。ウイルスベクターとしては、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどが利用可能であるが、これらのうち、AAVベクターが好ましい。AAVベクターは安全性が高く、比較的長期の遺伝子発現を期待できることから特に好ましく用いられる。アデノ随伴ウイルスとしては、1型AAVウイルス(AAV1)、2型AAVウイルス(AAV2)、3型AAVウイルス(AAV3)、4型AAVウイルス(AAV4)、5型AAVウイルス(AAV5)、6型AAVウイルス(AAV6)、7型AAVウイルス(AAV7)及び8型AAVウイルス(AAV8)などが知られているが、AAVベクターの製造にはいずれを用いることも可能である。
【0026】
特に、インターフェロンλ4をコードするポリヌクレオチドを発現させる目的の臓器や組織によって、AAVベクターの至適血清型が異なっている。したがって、上記ポリヌクレオチドを発現させる臓器や組織に応じて適宜血清型を選択することが望ましい。例えば、上記ポリヌクレオチドを発現させる臓器が肝臓である場合、AAV8ベクターを使用することが好ましい。
【0027】
本発明に係る抗癌作用増強剤は、特に限定されないが、AAVベクターを用いる場合には、以下の方法に従って組換えベクターを調製することができる。以下、本発明の好ましい態様としてAAVベクターを用いる場合について具体的に説明するが、本発明の範囲はAAVベクターを用いる場合に限定されることはない。上述したインターフェロンλ4をコードするポリヌクレオチドをサイトロメガロウイルス(CMV)プロモーター領域とSV40のpolyA領域の間に挿入して8型AAV(AAV3)ウイルスゲノムの両端に存在するinverted terminal repeat (ITR)配列とともにプラスミドに組み込むことによりベクタープラスミドを調製する。上記のベクタープラスミド、パッケージングプラスミド(AAVの非構造蛋白質であるRepとカプシド蛋白であるVPを発現するためのプラスミド)、及びヘルパープラスミド(アデノウイルス由来の塩基配列でE2A、E4、及びVA領域を含む)の3種類のプラスミドをヒト腎由来のHEK293細胞にトランスフェクトすることにより、インターフェロンλ4をコードするポリヌクレオチドを含むAAVベクターを調製することができる。
【0028】
<タンパク質>
また、本発明に係る抗癌作用増強剤は、有効成分が上述したインターフェロンλ4(タンパク質)である場合、定法に従って調整することができる。すなわち、配列番号2のアミノ酸配列に基づいて、上記タンパク質を得ることができる。かかるタンパク質は、そのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの発現によって、原核生物又は真核生物の宿主細胞内に生成することができる。あるいは、かかるタンパク質は化学的方法で合成することができる。
【0029】
ここで、化学的方法で上記タンパク質を合成する場合、カルボキシ末端及び/又はアミノ末端を修飾することができる。修飾としては、例えばアセチル化及びアミド化を挙げることができる。さらに、修飾としては、アシル化又はアルキル化(例えばメチル化)などのアミノ末端修飾、アミド化などのカルボキシ末端修飾、環化などの他の末端修飾を挙げることができる。これら修飾を行うことで、合成するタンパク質の安定性を向上させたり、薬理作用を向上させたり、血清プロテアーゼに対する耐性を向上させたり、所望の薬物動態学的特性を獲得するといった有利な物理的、化学的、生化学的及び薬学的特性を得ることができる。
【0030】
具体的に、上記タンパク質を得るには、目的とするタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに導入し、宿主細胞において発現させればよい。或いは、無細胞系(セルフリーシステム)を利用して上記タンパク質を得ることもできる。
【0031】
発現ベクターとしては、特に限定されず、プラスミド、ファージ、ウイルス等の宿主細胞において複製可能である限りいかなるベクターも用いることができる。ベクターは、複製開始点、選択マーカー、プロモーターを含み、必要に応じてエンハンサー、転写終結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
【0032】
ポリヌクレオチドのベクターへの導入は、公知の方法で行うことができる。ベクターは、種々の制限部位をその内部に持つポリリンカーを含んでいるか、または単一の制限部位を含んでいることが望ましい。ベクター中の特定の制限部位を特定の制限酵素で切断し、その切断部位に上記ポリヌクレオチドを挿入することができる。上記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを適切な宿主細胞の形質転換に用いて、宿主細胞において上記タンパク質又は部分断片を発現、産生させることができる。
【0033】
宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌等の細菌細胞、真菌細胞、パン酵母、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞等が挙げられる。
【0034】
形質転換は、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン介在トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション等の公知の方法で行うことができる。
【0035】
得られたタンパク質は、各種の分離精製方法により、分離・精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組合せて用いることができる。この際、発現産物がGST等との融合タンパク質として発現される場合は、目的タンパク質と融合しているタンパク質の性質を利用して精製することもできる。例えばGSTとの融合タンパク質として発現させた場合、GSTはグルタチオンに対して親和性を有するので、グルタチオンを担体に結合させたカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより効率的に精製することができる。また、ヒスチジンタグとの融合タンパク質として発現させた場合、ヒスチジンタグを有するタンパク質はキレートカラムに結合するので、キレートカラムを用いて精製することができる。
【0036】
<アゴニスト>
一方、上述したように、インターフェロンλ4は、リガンドとして受容体であるIL-10Rα及びIL-28Rβを介してシグナル伝達に関与する。詳細を後述の実施例で示したように、インターフェロンλ4の発現を強化することで、抗癌剤による癌細胞の増殖抑制効果を増強することができ、癌の進行を抑制することができ、又は癌を改善することができることから、インターフェロンλ4の受容体と相互作用するアゴニストもまた、抗癌剤による癌細胞の増殖抑制効果を増強することができ、癌の進行を抑制することができ、又は癌を改善することができる。
【0037】
ここでアゴニストとは、インターフェロンλ4の受容体であるIL-10Rα及びIL-28Rβに対して相互作用し、IL-10Rα及びIL-28Rβを介したシグナル伝達を活性化する機能を有する物質を意味する。物質としては、何ら限定されないが、例えば、ポリペプチド、オリゴペプチド、核酸、低分子化合物等を挙げることができる。
【0038】
<抗癌剤>
本発明に係る抗癌作用増強剤は、抗癌剤による癌細胞の増殖抑制効果を増強するものである。
ここで、抗癌剤としては、特に限定されないが、化学療法剤、ホルモン療法剤、免疫療法剤及び分子標的薬等を挙げることができる。すなわち、本発明に係る抗癌作用増強剤は、これらから選ばれる1種以上の薬剤(以下、併用薬剤と略記することがある)と組み合わせて使用することができる。これらの活性成分(薬剤)は、低分子化合物であってもよく、また高分子の蛋白、ポリペプチド、抗体であるか、あるいはワクチン等であってもよい。また、活性成分(薬剤)は、2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。
【0039】
「化学療法剤」としては、例えば、アルキル化剤、白金製剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、抗癌性抗生物質、植物由来抗癌剤など抗癌剤が挙げられる。「アルキル化剤」としては、例えば、ナイトロジェンマスタード、塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキシド、クロラムブチル、シクロホスファミド、イホスファミド、チオテパ、カルボコン、トシル酸インプロスルファン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、トリエチレンメラミン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ピポブロマン、エトグルシド、アルトレタミン、アンバムスチン、塩酸ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニムスチン、プミテパ、リボムスチン、テモゾロミド、トレオスルファン、トロフォスファミド、ジノスタチンスチマラマー、アドゼレシン、システムスチン、ビゼレシンなどが挙げられる。「白金製剤」としては、例えば、カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチンなどが挙げられる。「代謝拮抗剤」としては、例えば、メルカプトプリン、6−メルカプトプリンリボシド、チオイノシン、メトトレキサート、エノシタビン、シタラビン、シタラビンオクフォスファート、塩酸アンシタビン、5−FU系薬剤(例、フルオロウラシル、テガフール、UFT、ドキシフルリジン、カルモフール、ガロシタビン、エミテフールなど)、アミノプテリン、ロイコボリンカルシウム、タブロイド、ブトシン、フォリネイトカルシウム、レボフォリネイトカルシウム、クラドリビン、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、ペントスタチン、ピリトレキシム、イドキシウリジン、ミトグアゾン、チアゾフリン、アンバムスチンなどが挙げられる。「トポイソメラーゼ阻害剤」としては、トポイソメラーゼI阻害薬(例、イリノテカン、トポテカンなど)、トポイソメラーゼII阻害薬(例えば、ソブゾキサンなど)が挙げられる。「抗癌性抗生物質」としては、例えば、アントラサイクリン系抗癌薬(塩酸ドキソルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸エピルビシンなど)、アクチノマイシンD、アクチノマイシンC、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、ネオカルチノスタチン、ミスラマイシン、ザルコマイシン、カルチノフィリン、ミトタン、塩酸ゾルビシン、塩酸ミトキサントロン、塩酸イダルビシンなどが挙げられる。「植物由来抗癌剤」としては、例えば、ビンカアルカロイド系抗癌薬(硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシンなど)、タキサン系抗癌薬(パクリタキセル、ドセタキセルなど)、エトポシド、リン酸エトポシド、テニポシド、ビノレルビンなどが挙げられる。
【0040】
「ホルモン療法剤」としては、例えば、副腎皮質ホルモン系薬剤(例、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンなど)が挙げられ、なかでもプレドニゾロンが好ましい。
【0041】
「免疫療法剤(BRM)」としては、例えば、ピシバニール、クレスチン、シゾフィラン、レンチナン、ウベニメクス、インターフェロン、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、リンホトキシン、BCGワクチン、コリネバクテリウムパルブム、レバミゾール、ポリサッカライドK、プロコダゾールなどが挙げられる。
【0042】
「分子標的薬」としては、例えば、イブリツモマブチウキセタン、ゲフィチニブ、タミバロテン、トレチノイン、パニツムマブ、ラパチニブ、トラスツズマブ、リツキシマブ、イマチニブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ボルテゾミブ、エルロチニブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、パニツムバブ、ペガプタニブ、バタラニブ、ラニビツマブ、SU−6668、SU−11248、ネオバスタット、バンデタニブ、テムシロリムス、エベロリムス、シロリムス等を挙げることができる。これら分子標的薬以外にも、ヒト上皮性増殖因子受容体2阻害剤、上皮性増殖因子受容体阻害剤、Bcr−Ablチロシンキナーゼ阻害剤、上皮性増殖因子チロシンキナーゼ阻害剤、mTOR阻害剤、血管内皮増殖因子受容体2阻害剤(α−VEGFR−2抗体)等の血管新生を標的にした阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤などの各種チロシンキナーゼ阻害剤、サイトカインを標的とした阻害剤、プロテアソーム阻害剤、抗体―抗がん剤配合体等の分子標的薬なども含めることができる。
【0043】
以上のような抗癌剤は、例えば以下のような癌の治療に適応される。具体的な癌としては、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、メラノーマ(例えば、転移性悪性メラノーマ)、腎癌(例えば、透明細胞カルシノーマ)、前立腺癌(例えば、ホルモン難治性前立腺アデノカルシノーマ)、大腸癌(例えば、結腸癌)、乳癌、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭頚部癌、皮膚若しくは眼窩内悪性メラノーマ、子宮癌、卵巣癌、肛門部癌、胃癌、精巣癌、卵管のカルシノーマ、子宮内膜カルシノーマ、子宮頚部カルシノーマ、膣カルシノーマ、外陰部カルシノーマ、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫)、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、柔組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、肝細胞癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病を含む慢性若しくは急性白血病、小児固形癌、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓若しくは尿管の癌、腎盂カルシノーマ、中枢神経系(CNS)腫瘍(例えば、膠芽腫)、原発性CNSリンパ腫、腫瘍新脈管形成、脊椎腫瘍、脳幹グリオーム、下垂体アデノーマ、カポシ肉腫、扁平上皮癌、扁平細胞癌、T細胞リンパ腫、アスベスト誘発癌を含む環境誘発癌が例示される。
【0044】
一例として、肝細胞癌に対する化学治療としては、Child-Pugh分類Aの切除不能肝細胞癌に対する全身化学療法としてソラフェニブ投与治療、インターフェロンの全身投与とシスプラチン肝動注を併用した肝動注化学療法、インターフェロン併用5-FU肝動注化学療法、シスプラチン単独肝動注化学療法等を挙げることができる。
【0045】
<製剤、投与>
本発明に係る抗癌作用増強剤は、上述のように、ポリヌクレオチド、タンパク質又はその部分断片、若しくはアゴニストを有効成分として含有するが、これら有効成分に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0046】
医薬上許容される担体としては、例えば、医薬的に許容し得る担体を含んでいてもよい。医薬的に許容し得る担体とは、液体または固体の賦形剤、希釈液、潤滑剤、または物質をカプセル化する溶媒のような、医薬的に許容し得る物質、組成物または媒体を意味する。各担体は、前記製剤の他の成分との適合性があり、また投与対象に対して傷害性でないという意味において「許容し得る」ものでなければならない。医薬的に許容し得る担体の具体的な例としては、例えば、ラクトース、グルコース、ショ糖などの糖;コーンスターチ、ジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、セルロース酢酸塩などのセルロース;トラガカント;麦芽;ゼラチン;滑石;カカオバター、坐薬ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ダイズ油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール類;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールなどのポリオール類;オレイン酸エチル、ラウリン酸エチルなどのエステル類;寒天;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの緩衝化剤;アルギン酸;生理食塩水;リンゲル溶液;エチルアルコール;ポリエステル、ポリカーボネートなどのポリ無水物類、などが挙げられるが、特に限定されない。当業者であれば、適宜これらの担体を選択することが可能である。
【0047】
発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明に係る抗癌作用増強剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。本発明に係る抗癌作用増強剤がウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターを含む場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、本発明に係る抗癌作用増強剤がプラスミドベクターを含む場合には、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることができる。
【0048】
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0049】
医薬組成物中、上記ポリペプチドを発現し得る発現ベクターの含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
【0050】
本発明に係る抗癌作用増強剤の投与量は、併せて使用される抗癌剤の種類、当該抗癌剤の投与量、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0051】
本発明に係る抗癌作用増強剤と上述した抗癌剤とは、1つの製剤として投与しても良いし、それぞれ別の製剤として使用しても良い。それぞれ別の製剤として使用する場合、例えば注射剤と経口剤のように、投与ルートの異なる製剤の組み合せであっても良いし、両者とも注射剤又は経口剤として同じ投与ルートとしても良い。また、本発明に係る抗癌作用増強剤と上述した抗癌剤とは、同時に投与してもよいし、いずれか一方を先に投与し、他方を後に投与してもよい。つまり、本発明に係る抗癌作用増強剤は、上述した抗癌剤よりも前に投与してもよく、また同時であってもよく、あるいは抗癌剤投与開始後であってもよい。
【0052】
特に、本発明に係る抗癌作用増強剤は、上述した抗癌剤の投与と同時に投与するか、上述した抗癌剤の投与に先立って一定期間投与しておくことが好ましい。具体的には、本発明に係る抗癌作用増強剤の投与タイミングは、上述した抗癌剤投与開始の2週間前から投与することが好ましく、上述した抗癌剤投与開始の1週間前から投与することがより好ましく、上述した抗癌剤投与開始の3日前から投与することが更に好ましい。上述した抗癌剤の投与に先立って本発明に係る抗癌作用増強剤を投与することによって、上述した抗癌剤による癌細胞の増殖抑制効果を効果的に発揮させることができ、抗癌剤による癌治療効果を最適に引き出すことができる。
【0053】
なお、本明細書における「本発明に係る抗癌作用増強剤と上述した抗癌剤との組み合せ」とは製剤的に一体として薬剤とする場合に限定するものではなく、製剤としては抗癌作用増強剤単独での提供であったとしても、上述した抗癌剤による癌細胞の増殖抑制効果増強の目的で、当該抗癌剤と併用される限り、本明細書における「本発明に係る抗癌作用増強剤と上述した抗癌剤との組み合せ」の概念に含まれる。
【0054】
ところで、上述したように、インターフェロンλ4は、ss469415590で規定される多型がマイナーアレル(ΔG)である場合には内在的に発現している可能性が高い。
【0055】
よって、本発明に係る抗癌作用増強剤は、インターフェロンλ4遺伝子の発現に基づいて用量を増減することができる。より具体的には、インターフェロンλ4遺伝子が発現していないか発現量が低い患者に対しては、本発明に係る抗癌作用増強剤の投与量を比較的多くし、インターフェロンλ4遺伝子の発現量が高い患者に対しては、本発明に係る抗癌作用増強剤の投与量を比較的少なくすることができる。あるいは、本発明に係る抗癌作用増強剤は、インターフェロンλ4遺伝子が発現していないか発現量が低い癌患者を投与対象とすることもできる。
【0056】
また、本発明に係る抗癌作用増強剤は、ss469415590で規定される多型がメジャーアレルかマイナーアレルかに基づいて用量を増減することができる。より具体的には、ss469415590で規定される多型がメジャーアレルの患者に対しては、本発明に係る抗癌作用増強剤の投与量を比較的多くし、ss469415590で規定される多型がマイナーアレルの患者に対しては、本発明に係る抗癌作用増強剤の投与量を比較的少なくすることができる。あるいは、本発明に係る抗癌作用増強剤は、ss469415590で規定される多型がメジャーアレルの癌患者を投与対象とすることもできる。
【0057】
<癌治療支援方法>
以上のように、本発明に係る抗癌作用増強剤は、上述した抗癌剤による癌細胞の増殖抑制効果を増強させるが、インターフェロンλ4遺伝子が発現していないか、当該遺伝子の発現量が低い患者に対する抗癌作用増強効果をより期待することができる。したがって、インターフェロンλ4遺伝子の発現に基づいて、本発明に係る抗癌作用増強剤と抗癌剤との併用効果を判定する癌治療支援方法を実現することができる。
【0058】
この癌治療支援方法では、先ず、被験体におけるインターフェロンλ4遺伝子の発現を測定する。ここで被験体とは、癌患者等から採取した生体サンプルと同義であり、例えば、組織、細胞、体液、尿及びその他生体試料由来の蛋白質抽出液を挙げることができる。ここで体液とは、血液、リンパ液、組織液(組織間液、細胞間液、間質液)、体腔液、漿膜腔液、胸水、腹水、心嚢液、脳脊髄液(髄液)、関節液(滑液)、眼房水(房水)、消化液、膵液、腸液、精液及び羊水を含む意味である。また、被験体は、組織、細胞、体液、尿及びその他生体試料由来の蛋白質抽出液のいずれか一種でも複数種でもよい。組織としては、癌罹患患者の治療目的で行われた手術の際に得られた組織の一部、癌を疑われた対象者から生検等によって採取された組織の一部、癌罹患患者で原発性か転移性かを鑑別する目的で生検等によって採取された組織の一部を含む意味である。
【0059】
具体的に、インターフェロンλ4遺伝子の発現を測定するには、例えば、測定対象の遺伝子に対するmRNA量を測定する又は測定対象の遺伝子の産物であるタンパク質量を測定すればよい。
【0060】
インターフェロンλ4遺伝子のmRNA量を測定する方法としては、公知の遺伝子の発現の検出方法を用いることができる。例えば、測定対象の遺伝子のmRNA量を検出するために、ノーザンブロッティング法、リアルタイム-PCR法、RT-PCR法、ハイブリダイゼーション法及びDNAアレイ法などが挙げられる。また、インターフェロンλ4遺伝子遺伝子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いることができる。当該プローブを用いて測定対象の遺伝子のmRNA量を検出するには、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、プローブを作製する際に当該プローブに適宜蛍光標識等の標識を付与しておき、これを判定対象者から採取した生体由来試料から単離したmRNA(又はmRNAから合成したcDNA)とハイブリダイズする。その後、ハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光強度を測定することにより、測定対象の遺伝子のmRNA量を検出することができる。なお、プローブとしては、ガラスビーズやガラス基板等の支持体に固定化して使用することもできる。すなわち、測定対象の遺伝子(複数でもよい)について作製したプローブを支持体上に固定化したマイクロアレイ又はDNAチップの形で用いることもできる。支持体としては、ポリヌクレオチドを固定できるものであれば特に限定されるものではなく、どのような形状や材質であっても良い。支持体として一般的には、例えば、ガラス板、シリコンウエハ、樹脂等の無機材料、また天然高分子材料としてニトロセルロースや合成高分子材料としてナイロン等を挙げることができる。
【0061】
固定するポリヌクレオチドは、合成オリゴヌクレオチドであっても良い。また、合成オリゴヌクレオチドの配列上に蛍光標識が可能な核酸誘導体を導入することも可能である。また、支持体上で目的のオリゴヌクレオチドを合成できる、いわゆるアフィメトリックス型のDNAチップ技術を用いることもできる。更に、支持体が3次元構造をした、いわゆる3D-Gene型の柱状の面にスポットして固定化することも可能である。
【0062】
なお、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、42℃で、1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理によってもハイブリダイズを維持することを意味する。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0063】
インターフェロンλ4遺伝子に由来するmRNAやcDNAを定量的に検出するためのプローブ及びプライマーセットとしては特に限定されないが、例えば後述する実施例に示したプローブ及びプライマーセットを使用することができる。
【0064】
一方、インターフェロンλ4遺伝子の産物であるタンパク質量を測定する方法としては、公知のタンパク質検出方法を用いることができる。具体的には、インターフェロンλ4に対する抗体を使用した各種の方法を適用することができる。
【0065】
なお、インターフェロンλ4を抗原とし、当該抗原に結合する限り、前記抗体としては特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。
【0066】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。
【0067】
ここで、モノクローナル抗体を作製する際には、インターフェロンλ4を抗原として使用することができ、また、インターフェロンλ4の断片を発現する細胞を抗原として使用することができる。なお、これらタンパク質若しくは当該タンパク質の断片は、例えば、Molecuar Cloning: A Laboratory Manual第2版第1−3巻 Sambrook, J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York 1989年に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得することができる。また、これらタンパク質若しくは当該タンパク質の断片を発現する細胞も、Molecuar Cloning: A Laboratory Manual第2版第1−3巻 Sambrook, J.ら著、Cold Spring Harber Laboratory Press出版New York 1989年に記載された方法に準じて、当業者であれば容易に取得することができる。
【0068】
得られたモノクローナル抗体は、測定対象のタンパク質の定量用に、エンザイム−リンクイムノソルベントアッセイ(ELISA)、酵素イムノドットアッセイ、ラジオイムノアッセイ、凝集に基づいたアッセイ、あるいは他のよく知られているイムノアッセイ法で検査試薬として用いることができる。また、モノクローナル抗体は標識化されることが好ましい。標識化を行う際、標識化合物としては例えば当分野で公知の酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質、染色物質などを使用することができる。
【0069】
支持体としては、例えば、タンパク質を固定化できるものであれば良い。一般的には、ガラス板、シリコンウエハ、樹脂等の無機材料又は天然高分子材料のニトロセルロースや合成高分子材料のナイロンやポリスチレン等が挙げられる。
【0070】
癌治療支援方法では、次に、被験体におけるインターフェロンλ4遺伝子の発現量に基づいて本発明に係る抗癌作用増強剤と抗癌剤との併用効果を判定する。すなわち、被験体におけるインターフェロンλ4遺伝子の発現量が低い場合には、当該併用効果が高いことが期待できる。以上のように、癌治療支援方法では、所定の患者について本発明に係る抗癌作用増強剤を使用した場合の抗癌剤による癌細胞の増殖抑制効果の有無又はその程度を高精度に推定することができる。したがって、この癌治療支援方法を適用することによって、本発明に係る抗癌作用増強剤を利用した癌に対する効果的な治療を提供することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
〔実施例1〕
本実施例では、Child-Pugh分類A或いはB、かつ肝外病変のない109例の肝細胞癌症例を対象として、CDDP+5FU+IFNαのレジメで肝動注化学療法を施行したときの奏功率をIL28B遺伝子多型メジャー型(rs8099917のメジャーアレル(TT))とマイナー型(rs8099917のマイナーアレル(TG又はGG))について比較した。
【0073】
結果を図1に示した。なお、図1に示すように、完全奏功(CR)と部分奏功(PR)の和を奏功群とし、安定(SD)と進行(PD)の和を非奏功群とした。図1から判るように、奏功率(CR+PR)はIL28B遺伝子多型メジャー型で27/87(31%)、マイナー型で12/19(63%)となっており、マイナー型が有意に高かった(p=0.0097)。
【0074】
また、同じ109例の肝動注化学療例について全生存率を、IL28B遺伝子多型メジャー型とマイナー型で比較した。Kaplan-Meyer解析による生存曲線解析の結果を図2に示した。図2において縦軸は全生存率を示し、横軸は全生存期間(OS)を示している。図2に示すように、IL28Bマイナー型で有意に全生存率の上昇が認められた。
【0075】
さらに、Cox regression解析による全生存率に寄与する臨床因子(単変量及び多変量解析)を検討した。結果を図3に示した。図3に示すように、全生存率に寄与する臨床因子として単変量解析では性別、IL28B遺伝子多型、主要血管病変の有無及びAFP値が関連していることが明らかとなった。また、多変量解析ではIL28B遺伝子型、主要血管病変の有無及びAFP値が独立した予後規定因子であることが明らかとなった。
【0076】
ところで、Ludmila Prokunina-Olsson et al., Nat Genet. 2013 Feb; 45(2):164-71には、IFNλ4の発現がHCVクリアランスに関連していることが開示されている。本実施例では、IFNλ4を含むIL28B遺伝子の発現産物を過剰発現させたときの、インターフェロン応答性遺伝子(本例ではMX1遺伝子)及びC型肝炎ウイルスRNA(HCV)の発現量を検証した。
【0077】
先ず、高分化型ヒト肝癌由来細胞株Huh7細胞 (12 well plate、1×105個) に対して、HCV RNA (H77株) 1igをTranIT-mRNA Transfection Kit (Mirus) を用いて導入した。次に、24時間後、Ludmila Prokunina-Olsson et al., Nat Genet. 2013 Feb; 45(2):164-71に開示されているp107発現プラスミド、p124発現プラスミド、p131発現プラスミド、p143発現プラスミド、p170発現プラスミド或いはp179発現プラスミド500ngをFuGENE6 Transfection regent (Promega) を用いて導入した。なお、これら各プラスミドを単独で導入した細胞株、複数組み合わせて導入した細胞株(p107及びp179を導入した細胞株、p107及びp131を導入した細胞株、p179及びp131を導入した細胞株、p107、p131及びp179を導入した細胞株)を作製した。なお、p179はIFNλ4である。
【0078】
48時間後、High Pure RNA Isolarion Kit (Rocho) を用いてRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりMX1及びHCV-RNAの発現量を定量した。同時に、RIPA lysis Bufferを用いてタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法によりリン酸化STAT1、STAT1及びβ-actinの発現を評価した。
【0079】
リアルタイムPCRに用いたMX1のプローブ、プライマーセットはABIから購入した (Hs00895608_m1) 。HCV-RNAのプローブ、プライマーセットはForward primer 5’-CGGGAGAGCCATAGTGG-3’(配列番号3)、Reverse primer 5’-AGTACCACAAGGCCTTTCG-3’(配列番号4)、Probe 5’-CTGCGGAACCGGTGAGTACAC-3’ (FAM)(配列番号5)をカスタムオーダーして使用した。ウエスタンブロット用の抗体はPhospho-Stat1 (Tyr701) (58D6) Rabbit mAb、Stat1 Antibody Rabbit mAb、β-Actin Antibody Rabbit mAb、Anti-rabbit IgG及びHRP-linked Antibody (Cell Signaling) を用いた。
【0080】
リアルタイムPCRの結果及びウエスタンブロットの結果を図4に示す。図4に示したように、p179(IFNλ4)を過剰発現したHCV感染Huh7細胞では、ISG誘導性遺伝子の発現亢進が見られ、HCV-RNAの発現量が低下することが明らかとなった。これに対して、p107、p124、p131、p143及びp170を過剰発現したHCV感染Huh7細胞では、ISG誘導性遺伝子の発現量は亢進せず、またHCV-RNAの発現量も変動しなかった。さらに、p179(IFNλ4)を過剰発現したHCV感染Huh7細胞では、リン酸化STAT1の発現量が増加することが明らかとなった。以上の結果から、IFNλ4の過剰発現によってのみ、ISG誘導性抗HCV活性を示すことが明らかとなった。
【0081】
また、本実施例では、IFNλ4の、ISG誘導性抗HCV活性を他のIFNと比較して検討した。先ず、IFNA1、IL28B及びIFNL4のC末端にFLAG-tag配列を組込んだ組み換えタンパク質を発現する発現プラスミドをそれぞれ構築した。具体的には、IFNA1(IFNα1)、IL28B(IFNλ3)及びIFNL4(IFNλ4)について以下のプライマーを設計し、各種IFN-FLAG-tag付きPCRフラグメントをpcDNA3.4ベクター挿入することで構築した (pcDNA3.4-IFNA1-FLAG、pcDNA3.4-IL28B-FLAG及びpcDNA3.4-IFNL4-FLAG)。
IFNA1 Forward primer 5’-ATGGCCTCGCCCTTTGC-3’(配列番号6)
IFNA1 Reverse primer 5’-TCACTTGTCATCGTCATCCTTGTAGTCTTCCTTCCTCCTTAATC-3’(配列番号7)
IL28B Forward primer 5’-ATGACCGGGGACTGCATG-3’(配列番号8)
IL28B Reverse primer 5’-TCACTTGTCATCGTCATCCTTGTAGTCGACACACAGGTCCCCG-3’(配列番号9)
IFNL4 Forward primer 5’-ATGCGGCCGAGTGTCTG-3’(配列番号10)
IFNL4 Reverse primer 5’-TCACTTGTCATCGTCATCCTTGTAGTCGAGGCAAGGCCCAGAG-3’(配列番号11)
【0082】
次に、Huh7細胞 (12 well plate、1×105個) に各種IFN-FLAG発現プラスミド500ngをFuGENE6 Transfection regent (Promega) を用いて導入した。24時間後、HCV (H77株から分離) をMOI=5で感染させた。72時間後、High Pure RNA Isolarion Kit (Rocho) を用いてRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりMX1遺伝子及びHCV-RNAを定量した。
【0083】
リアルタイムPCRによりMX1遺伝子の発現量を測定した結果を図5に示し、リアルタイムPCRによりHCV-RNAを定量した結果を図6に示した。図5に示したように、IFNλ4を導入したHuh7細胞にHCVを感染させた系では、IFNα1を導入した場合と同様に、ISG誘導性遺伝子であるMX1遺伝子の発現亢進が見られた。また、図6に示したように、IFNλ4を導入したHuh7細胞にHCVを感染させた系では、IFNα1を導入した場合と同様に、HCV-RNAの発現量が低下することが明らかとなった。以上の結果から、IFNλ4の過剰発現は、IFNα1と同等のISG誘導性抗HCV活性を示すことが明らかとなった。
【0084】
〔実施例2〕
本実施例では、IFNλ4と抗癌剤とを併用したときの抗腫瘍効果を検証した。
先ず、Huh7.5細胞 (12 well plate、1×105個) に、実施例1で作製したIFNA1-FLAG発現プラスミド500ng又はIFNL4-FLAG発現プラスミド500ngをFuGENE6 Transfection regent (Promega) を用いて導入した。24時間後、5FUを10ig/ml処置した。この時間をDay0 (D0) とした。その後、D0、D1、D2、D3及びD4においてCell Counting Kit-8 (DOJINDO) を用いて細胞増殖能を評価した。
【0085】
その結果を図7に示した。図7に示すように、IFNλ4を発現するHuh7.5細胞は、Huh7.5細胞やIFNα1を発現するHuh7.5細胞と比較して、5FUによる細胞増殖抑制効果がより顕著に見られた。したがって、IFNλ4は、5FUによる抗腫瘍効果を増強する作用を示すことが明らかとなった。
【0086】
また、Huh7.5細胞 (12 well plate、1×105個) 及びHCV感染Huh7.5細胞 (実施例1参照) にIFNL4-FLAG発現プラスミド500ngをFuGENE6 Transfection regent (Promega) を用いて導入した。24時間後、5FUを0、0.05、0.1、1、5或いは10ig/ml処置した。72時間後、Cell Counting Kit-8 (DOJINDO) を用いて細胞増殖能を評価した。同時に、RIPA lysis Bufferを用いてタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法によりリン酸化ATF2、リン酸化cJun、HCV-core及びa-actinの発現を評価した。ウエスタンブロット用の抗体はPhospho-ATF-2 (Thr71) (11G2) Rabbit mAb、Phospho-c-Jun (Ser63) (54B3) Rabbit mAb、β-Actin Antibody Rabbit mAb、Anti-rabbit IgG、HRP-linked Antibody、Anti-mouse IgG、HRP-linked Antibody (Cell Signaling)及びAnti-Hepatitis C Virus Core 1b antibody [C7-50] (abcam) を用いた。
【0087】
細胞増殖能の評価結果及びウエスタンブロットの結果を図8に示した。図8に示すように、IFNλ4を発現するHuh7.5細胞及びIFNλ4を発現するHCV感染Huh7.5細胞は、コントロールと比較して、5FUによる細胞増殖抑制効果がより顕著に見られた。特に、IFNλ4を発現するHuh7.5細胞は、IFNλ4を発現するHCV感染Huh7.5細胞と比較して、5FUによる細胞増殖抑制効果が更に顕著であることが明らかとなった。また、ウエスタンブロットの結果から、IFNλ4を発現するHuh7.5細胞及びIFNλ4を発現するHCV感染Huh7.5細胞では、リン酸化ATF2及びリン酸化cJUNの発現量が増加することが判った。この結果から、IFNλ4を発現するHuh7.5細胞及びIFNλ4を発現するHCV感染Huh7.5細胞では、ATF2-cJUN経路を介したアポトーシス活性が増強される結果、5FUによる細胞増殖抑制効果が顕著であることが明らかとなった。
【0088】
さらに、Huh7細胞 (12 well plate、1×105個) に実施例1で作製した各種IFN-FLAG発現プラスミド(pcDNA3.4-IFNA1-FLAG、pcDNA3.4-IL28B-FLAG及びpcDNA3.4-IFNL4-FLAG)500ngをFuGENE6 Transfection regent (Promega) を用いて導入した。24時間後、5FUを10ig/ml, CDDPを10ig/ml処置した。48時間後、Caspase-GloTM 3/7 Assay kit (Promega) を用いてCaspase活性を評価した。
【0089】
5FU処理を行ったときのカスパーゼ活性を測定した結果を図9に示し、CDDP処理を行ったときのカスパーゼ活性を測定した結果を図10に示した。図9及び図10に示すように、5FU処理及びCDDP処理のいずれにおいても、IFNλ4を発現するHuh7.5細胞においては、IFNα1を発現するHuh7.5細胞及びIFNλ3を発現するHuh7.5細胞と比較してカスパーゼ活性が高くなっており、アポトーシスが強く誘導されていることが明らかとなった。
【0090】
〔実施例3〕
本実施例では、IFNλ4を特異的に検出するための測定系を確立した。すなわち、図11に示すIFNλ4をコードするコーディング領域の塩基配列、p107、p124、p131、p143及びp170に関する同塩基配列に基づいて、IFNλ4を特異的に検出可能なリアルタイムPCR用のプライマー、プローブセットを設計した。図11にプライマーセット(フォワードプライマー及びリバースプライマー)の位置及びプローブの位置を示した。
Forward primer 5’-CTCCGCGGCCATCGT-3(配列番号12)
Reverse primer 5’-AGACCACGCTGGCTTTGC-3(配列番号13)
Probe 5’-TGCCTTGAGCTGGCA-3’ (FAM)(配列番号14)
【0091】
また、本実施例で設計したプライマー及びプラスミドがIFNλ4を特異的に検出できるか確認した。すなわち、実施例1で作製したp107発現プラスミド、p124発現プラスミド、p131発現プラスミド、p143発現プラスミド、p170発現プラスミド或いはp179(IFNλ4)発現プラスミド500ngをHuh7細胞 (12 well plate、1×105個) にFuGENE6 Transfection regent (Promega) を用いてそれぞれ導入した。72時間後、High Pure RNA Isolarion Kit (Rocho) を用いてRNAを抽出し、逆転写後、上記のプローブ、プライマーセットを用いてリアルタイムPCR法によりIFNλ4を定量した。
【0092】
結果を図12に示した。図12に示すように、上記のプライマーセット及びプローブを使用した場合、p179(IFNλ4)発現プラスミドを導入したHuh7細胞のみでPCR増幅断片を定量的に測定することができた。
【0093】
〔実施例4〕
本実施例では、上述のようにATF2-cJUN経路を介したアポトーシス誘導活性を有するIFNλ4を組み換えタンパク質として精製する系を確立した。
【0094】
先ず、IFNα1、IL28B(IFNλ3)及びIFNL4についてそれぞれC末端側にDDDDKタグを付加した組み換えIFNタンパク質を発現する遺伝子を合成し、pcDNA3.4ベクター (invitorgen) に導入した。作製したプラスミドをExpiCHO細胞 (invitorgen) にExpiFectamine (invitorgen) を用いてそれぞれトランスフェクションし、一過性に組み換え各種IFNタンパク質を発現させた。回収した培地のSDS-PAGEやwestern blot、更にIFN活性の測定を行うことで、組み換えIFNタンパク質の発現を確認した。その後、DDDDKタグ抗体結合ビーズ (MBL) を用いて組み換えIFNタンパク質を精製した。
【0095】
次に、Huh7細胞 (12 well plate、1×105個) に各種IFN組換えタンパク質をそれぞれ処置し、24時間後、High Pure RNA Isolarion Kit (Rocho) を用いてRNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCR法によりIFIT1(Interferon Induced Protein With Tetratricopeptide Repeats 1)の発現を定量した。また、RIPA lysis Bufferを用いてタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット法によりリン酸化ATF2、リン酸化cJun及びβ-actinの発現を実施例2と同様にして評価した。
【0096】
リアルタイムPCRによりIFIT1の発現を定量した結果を図13に示し、ウエスタンブロットの結果を図14に示した。図13に示すように、本実施例で作製したIFNλ4の組み換えタンパク質を含む各種組み換えIFNタンパク質は、インターフェロン活性を有することが明らかとなった。また、本実施例で精製したIFNλ4の組み換えタンパク質は、ATF2-cJUN経路を活性化する機能を保持していることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]