特許第6948698号(P6948698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6948698パラジウム・白金抽出剤、パラジウム・白金の分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948698
(24)【登録日】2021年9月24日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】パラジウム・白金抽出剤、パラジウム・白金の分離方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/34 20060101AFI20210930BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20210930BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20210930BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20210930BHJP
   C07C 323/32 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   C22B3/34
   C22B11/00 101
   C22B59/00
   B01D11/04 B
   C07C323/32
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-148632(P2017-148632)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-26901(P2019-26901A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】山田 学
(72)【発明者】
【氏名】ムニヤパン ラジブ ガンジー
(72)【発明者】
【氏名】金田 祐
(72)【発明者】
【氏名】木村 望
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−189902(JP,A)
【文献】 特開2016−151026(JP,A)
【文献】 特開2011−162817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示されるチオジフェノール化合物を有効成分とするパラジウム・白金抽出剤。
【化1】
(式中、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ分岐していてもよい炭素数1〜の炭化水素基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のパラジウム・白金抽出剤を含有する有機相を準備する工程、パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムおよび/または白金を前記有機相に抽出する工程を備えた、パラジウム・白金の分離方法。
【請求項3】
前記パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液が、少なくともパラジウムおよび/または白金を含む自動車触媒を酸処理により水溶液化した酸浸出液である、請求項2に記載のパラジウム・白金の分離方法。
【請求項4】
前記酸浸出液が、パラジウムおよび白金以外に、ロジウム、レアアース、レアメタル、ベースメタルから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3に記載のパラジウム・白金の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム・白金抽出剤、および、パラジウム・白金の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム、白金、ロジウムの3種白金族金属の多くは自動車排ガス触媒に使用されている。排ガス規制並びに規制強化が世界的に広がり、これらの金属の需要が高まったため、これらの金属資源の安定確保は難しくなっている。また、その需要の高まりに伴って使用済み自動車排ガス触媒も増加の一途を辿っている。これらの金属は高価であり、資源として貴重な金属であることから、使用後には回収してリユースすることが行われている。白金族金属を一定量供給するためには、使用済み製品から白金族金属を高効率で分離することが重要となる。
【0003】
白金族金属の分離工程おける精製には、電解析出法、イオン交換法、沈殿法が提案されているが、選択性、経済性及び操作性の点から、溶媒抽出法が広く採用されている。この用途に使用する様々な抽出剤が開発され利用されている。
【0004】
現在、パラジウムおよび白金の抽出剤として用いられているものがジアルキルスルフィド(DAS)やトリブチルホスフェイト(TBP)であり(例えば、特許文献1、2)、前者はアンモニア水溶液により、後者は水による逆抽出できることが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−130744
【特許文献2】特開2005−146326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実工程において溶媒抽出法により白金族金属を分離精製する場合、一次・二次資源に混在する白金族金属を含有する成分は塩酸/塩素ガスあるいは王水を用いて浸出した酸性水溶液とされ、これに対して抽出処理がなされる。この条件下で、DASを使用した場合には、パラジウム、白金、ロジウム、ベースメタルを含む酸性水溶液からパラジウムを選択的に抽出するものの、DASと酸性水溶液とが長時間接触するため、DASのスルフィド部位が酸化を受け、パラジウムの抽出能力が低下してしまい、再利用性に乏しい。さらに、DASはパラジウムの抽出速度が遅いという問題もある。
【0007】
一方で、TBPの場合は、高濃度の塩酸にてプロトン化したTBPが白金のクロロ錯体とイオン対を形成して抽出するが、白金に対する選択性が低いという問題がある。
【0008】
以上、本発明は、(1)白金族金属、レアアースおよびベースメタル等が混在する溶液から選択的に白金族金属のみを抽出することが可能であり、(2)短時間で白金族金属を抽出することが可能であり、(3)酸性溶液に対して安定性が高い、パラジウム・白金抽出剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、酸性溶液との接触によりカチオン性の有機化合物となる新規のチオジフェノール化合物を合成し、以下の発明を完成させた。
本発明の第1の実施形態は、下記一般式(I)で示されるアミノ基を含有するチオジフェノール化合物を有効成分とするパラジウム・白金抽出剤である。
【0010】
【化1】
(式中、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ分岐していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基である。)
【0011】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態のパラジウム・白金抽出剤を含有する有機相を準備する工程、パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムおよび/または白金を前記有機相に抽出する工程を備えた、パラジウム・白金の分離方法である。
【0012】
第2の実施形態において、前記パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液が、少なくともパラジウムおよび/または白金を含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液であることが好ましい。
また、前記少なくともパラジウムおよび/または白金を含む多種の金属が、パラジウムおよび白金以外に、ロジウム、レアアース、レアメタル、ベースメタルから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
第1の形態のパラジウム・白金抽出剤は、(1)パラジウムおよび/または白金以外に、レアメタル、ベースメタル等の種々の金属が混在する溶液から選択的にパラジウムおよび/または白金のみを抽出することが可能であり、(2)酸性溶液と長時間接触しても酸化されず、(3)短時間でパラジウムおよび/または白金を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】抽出時間に対するパラジウムおよび白金の抽出率を示すグラフである。
図2】塩酸濃度に対するパラジウムおよび白金の抽出率を示すグラフである。
図3】酸接触前後の、式(II)の抽出剤のIRスペクトルである。
図4】自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液から、式(II)の抽出剤を用いて抽出した際の選択性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<パラジウム・白金抽出剤>
本発明の第一の形態であるパラジウム・白金抽出剤は、下記一般式(I)で示されるアミノ基を含有するチオジフェノールを有効成分とする。
【0016】
【化2】
式中、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ分岐していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基を表す。
なお、本明細書において、「パラジウム・白金」とは、パラジウムのみ、白金のみ、または、パラジウムおよび白金の両方のいずれかを意味する。よって、パラジウム・白金抽出剤とは、パラジウムのみを抽出対象とするもの、白金のみを抽出対象とするもの、および、パラジウムおよび白金の両方を抽出対象とするもののいずれをも含む意味である。
【0017】
本発明者らは、本発明のパラジウム・白金抽出剤は、酸性溶液と接触することでプロトン化反応を伴い、容易にカチオン性化合物となり、塩酸浴中においてアニオン性クロロ錯体として存在しているパラジウムおよび/または白金とイオン対を形成することで抽出現象が発現すると考えている。
【0018】
一般式(I)において、RおよびRは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、合成のしやすさの点から、同一であることが好ましい。RおよびRは、それぞれ分岐していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基であり、好ましくは分岐していてもよい炭素数1〜6の炭化水素基であり、より好ましくは分岐していてもよい炭素数1〜3の炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の直鎖式炭化水素基である。
【0019】
(ジアルキルアミノ基含有チオジフェノール化合物の合成方法)
一般式(I)のジアルキルアミノ基含有チオジフェノール化合物は、例えば以下の方法により合成できる。2,2´−チオビス(4−ターシャルブチルフェノール)を出発物質とし、これとジアルキルアミンとを反応させることにより合成できる。反応は、所定の溶媒中で、室温にて行うことができる。反応後は、所定の精製工程を経て、式(I)の化合物を得ることができる。
【0020】
<パラジウム・白金の分離方法>
本発明の第二の形態である、パラジウム・白金の分離方法は、上記した第一の形態のパラジウム・白金抽出剤を含有する有機相を準備する工程、パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液と前記有機相とを接触させることにより、パラジウムおよび/または白金を前記有機相に抽出する工程、を備えている。本発明のパラジウム・白金の分離方法を実施する場合において、通常、一般式(I)で表されるチオジフェノール化合物は溶媒に溶解され有機相とされる。該有機相に、パラジウムおよび/または白金が溶解した酸性水溶液を接触させることにより、パラジウムおよび/または白金が有機相に移行し、パラジウムおよび/または白金が分離される。
【0021】
(パラジウム・白金抽出剤を含有する有機相)
パラジウム・白金抽出剤を含有する有機相に使用する溶媒は、非水溶性の溶媒であり、2種以上の溶媒を組み合わせて使用してもよい。非水溶性の溶媒としては、一般式(I)で表されるチオジフェノール化合物を溶解することができれば特に制限はなく、石油、ケロシン等の鉱油;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化溶媒等が挙げられる。
【0022】
有機相における、一般式(I)で表されるチオジフェノール化合物の濃度は該チオジフェノール化合物の溶解度によって上限が限定される以外は特に制限はないが、あまりに濃度が低いとパラジウム・白金抽出効果が得られないため、通常1×10−4〜1Mの範囲で使用される。
【0023】
(パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液)
パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液における、酸とは塩酸を意味する。酸の濃度は、0.01〜8Mと広い範囲で選択的抽出可能であるが、抽出率を高くする観点から、0.01〜2Mが好ましく、0.01〜1Mがより好ましく、0.05〜0.5Mがさらに好ましく、0.05〜0.15Mが特に好ましい。
【0024】
パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液中におけるパラジウム、白金の濃度は特に制限はなく、それぞれ通常は1〜1000ppm程度である。
【0025】
本発明の分離方法において、前記パラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液は、少なくともパラジウムおよび/または白金を含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液であることが好ましく、このような酸浸出液を対象とすることにより、本発明のパラジウム・白金抽出剤の優れた認識性、選択制、効率性、迅速性をより発揮させることが可能となる。少なくともパラジウムおよび/または白金を含む多種の金属が混在する廃棄物としては、例えば、自動車排ガス触媒を挙げることができる。
【0026】
酸浸出液に含まれるパラジウムおよび白金以外の金属としては、特に限定されないが、本発明のパラジウム・白金抽出剤の選択性を発揮させる点から、パラジウムおよび白金以外の白金族元素であるロジウム、バリウム等のレアメタル、ランタン、セリウム等のレアアース、アルミニウム等のベースメタルから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0027】
これにより、希少性が高く有用なパラジウムおよび/または白金をリサイクル利用することができる。また、パラジウムおよび/または白金を分離した後の酸浸出液に含まれるパラジウムおよび/または白金の量を大きく低減させることができるため、パラジウムおよび/または白金を除去する操作としても利用できる。よって、本発明は、廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液からパラジウムおよび/または白金以外の有用金属を単離する際の、前処理としても利用できる。
【0028】
(抽出条件)
抽出温度は使用する溶媒の沸点以下であれば特に制限はなく、通常、室温付近で行われる。抽出操作はパラジウム・白金抽出剤を含有する有機相とパラジウムおよび/または白金を含む酸性水溶液とを振とう、撹拌などにより互いに接触させることにより行われる。振とうは通常毎分100〜500回程度行えばよい。
また、本発明のパラジウム・白金抽出剤は短時間でパラジウムおよび/または白金を抽出することが可能であり、振とう時間は、パラジウムでは5分間、白金では10分間という短時間で、抽出率上限まで抽出することができる。また、抽出剤や酸性水溶液の条件によって、適宜、振とう時間を調整することができる。振とう時間の範囲を例示するとすれば、下限が好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、上限は好ましくは30分以下、より好ましくは15分以下である。
【実施例】
【0029】
<ジアルキルアミノ基含有チオジフェノールの合成>
【0030】
【化3】
【0031】
200mL容の二口フラスコに2,2´−チオビス(4−ターシャルブチルフェノール)(2.1g、6.06mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(100mL)に溶解させた溶液に37%ホルムアルデヒド(2.5g)、ジエチルアミン(2.2g、30.3mmol)、酢酸(10mL)を加え室温で24h攪拌した。溶媒を留去した後に得られる黄色油状物にクロロホルム(100mL)を加えて溶解した。この溶液を300mL容の分液ロートに移して水(100mL)、10%炭酸カリウム水溶液、再び、水(100mL)で洗浄した。有機相を無水の硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を留去することで黄色油状物が得られた。この油状物にヘキサンを加えることでの目的物の白色固体が析出し、ろ取により固体を回収した。この固体をメタノールに溶解して再結晶を行うことで白色結晶(収量2.8g、収率95%)を得た。
【0032】
得られた目的物の分析結果は以下のとおりであった。
FT-IR (ATR) ν/cm-1: 2963, 2820, 2596, 1480, 1456, 1255. 1H NMR (300 MHz, CDCl3, TMS) δ 7.00 (s, 2H, ArH), 6.91 (s, 2H, ArH), 3.78 (s, 4H, Ar-CH2-N), 2.63 (q, 12H, -N-CH2-), 1.24 (s, 18H, tert-Bu), 1.12 (t, 12H, - CH2-CH3). 13C NMR (75 MHz, CDCl3, TMS) δ 154, 142, 128, 124, 121, 120, 59, 43, 31, 34, 16. Calcd. for C30H48N2O2S・CH3OH = C31H52N2O3S: C, 69.88; H, 9.84; N, 5.26. Found: C, 61.81; H, 7.51; N, 5.56.
【0033】
<パラジウムおよび白金の抽出時間依存性>
本実施例では、式(II)で示されるジアルキルアミノ基含有チオジフェノール抽出剤を用い、各振とう時間を変化させ、パラジウム(II)および白金(IV)の抽出実験を行った。有機相として、式(II)の抽出剤をクロロホルムに溶解して1mMとした溶液を10mL準備し、この有機相に、0.1M塩酸を用いて1mMの濃度に調製したパラジウムおよび白金の単独酸性溶液を等体積加え、激しく振とうする(300rpm)ことで、有機相へパラジウムおよび白金の抽出を行った。振とう時間は5〜180分とした。各時間における抽出率は振とう前後の水相の金属濃度をICP発光分析装置にて求め、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を式(1)と(2)にて求めた。
【0034】
E%=[M]org/[M]aq,init×100 (1)
[M]org=([M]aq,init−[M]aq) (2)
ただし、[M]org:抽出後の有機相中の金属濃度(ppm)、[M]aq,init:抽出前の水相中の金属濃度(ppm)、[M]aq:抽出後の水相中の金属濃度(ppm)
【0035】
振とう時間を変えた際の抽出率の変化を図1に示す。縦軸が抽出率で横軸が振とう時間である。図1に示すように、パラジウム(II)の抽出実験(◇)では、5分間の振とうで、抽出率98%とほぼ全量を抽出できることを示した。振とう時間5分後以降からは、抽出率は変化せず、抽出率が飽和したことが明らかとなった。一方、白金(IV)の抽出(□)でも同様の現象が観測されており、振とう時間が5分では抽出率が77%、10分では81%であった。振とう時間10分以降では、抽出率は変化せずに一定となった。以上のことから、式(II)の抽出剤はパラジウム(II)と白金(IV)を抽出できる能力を有し、特にパラジウム(II)を高効率で抽出できると結論づけることができる。
【0036】
<ジアルキルアミノ基含有チオジフェノール抽出剤による塩酸濃度の異なるパラジウムまたは白金の単独酸性水溶液からの抽出実験>
本実施例では、式(II)で示されるジアルキルアミノ基含有チオジフェノール抽出剤を用い、塩酸濃度の異なるパラジウムまたは白金の各単独酸性水溶液からの抽出実験を行った。式(II)の抽出剤はクロロホルム溶媒に希釈して1mMの有機相とした。この有機相10mLに、0.1M〜8.0M塩酸を用いて1mMの濃度に調製したパラジウムまたは白金の各単独酸性水溶液を等体積加え、10分間、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムまたは白金の抽出を行った。その後、水相中のパラジウムまたは白金濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と(2)にて算出した。
酸性水溶液(水相)の塩酸濃度を変えた際の抽出率の変化を図2に示す。縦軸が抽出率で横軸が塩酸濃度である。
図2に示すとおり、塩酸濃度が上昇するとともに、パラジウム(◇)と白金(□)の抽出率は低下していることがわかる。両金属の抽出挙動は同様な結果となり、0.1M塩酸濃度が最も効率よく、パラジウムと白金を抽出できると結論づけることができる。
【0037】
<酸に対する安定性>
本実施例では、式(II)の抽出剤の酸性水溶液に対する安定性を検討した。式(II)の抽出剤をクロロホルム溶媒に希釈して1mMの有機相とした。これら有機相10mLに、12N塩酸を等体積加え、サンプル管に入れ1週間攪拌した。その後、分液して有機相を水で洗浄した後、脱水・濃縮を行い、減圧乾燥した。得られた固体を赤外吸収スペクトル解析装置にて分析し、その結果を図3に示した。縦軸が透過率で横軸が振動数である。
図3に示すように、酸との接触をさせていないスペクトルと12N塩酸との接触後のスペクトルはほとんど変化が見られない。この結果から、式(II)の抽出剤は酸性溶液に対して安定性が高いと結論づけられる。
【0038】
<自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液からのパラジウムおよび白金の抽出>
工場より排出された少なくともパラジウムおよび白金を含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液を蒸留水にて20倍に希釈した水溶液(Pd(II): 92.8 ppm, Pt(IV): 3.87 ppm, Rh(III): 3.12 ppm, La(III): 28.5 pm, Ce(III): 269.6 ppm, Ba(II): 15.5 ppm, Al(III): 501.5 ppm)10mL(pH1.0)を水相とし、式(II)の抽出剤をクロロホルム溶媒に希釈して10mL(10mM)の有機相とし、該有機相と水相とを、10分間激しく振とう(300rpm)し、その後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と(2)にて求めた。
【0039】
各金属の抽出量を示したのが図4である。縦軸が抽出量で横軸が各金属イオンである(図の奥が抽出前の水相中の各金属濃度であり、図の手前が有機相に移動した各金属濃度である。)
図4に示すように、パラジウムのほぼ全量を抽出できており、抽出量は92.2mgL−1であった。また、白金では1.4mgL−1と約半分程度の濃度を水相から抽出できていることがわかった。他の金属のアルミニウムもわずかではあるが抽出されており、3.9mgL−1であった。この結果から、式(II)の抽出剤により、多種の金属を含む自動車排ガス触媒の酸浸出溶液から、パラジウムはほぼ全量抽出でき、白金は約半分程度を抽出できると、結論付けることができる。
図1
図2
図3
図4