【実施例】
【0029】
<ジアルキルアミノ基含有チオジフェノールの合成>
【0030】
【化3】
【0031】
200mL容の二口フラスコに2,2´−チオビス(4−ターシャルブチルフェノール)(2.1g、6.06mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(100mL)に溶解させた溶液に37%ホルムアルデヒド(2.5g)、ジエチルアミン(2.2g、30.3mmol)、酢酸(10mL)を加え室温で24h攪拌した。溶媒を留去した後に得られる黄色油状物にクロロホルム(100mL)を加えて溶解した。この溶液を300mL容の分液ロートに移して水(100mL)、10%炭酸カリウム水溶液、再び、水(100mL)で洗浄した。有機相を無水の硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を留去することで黄色油状物が得られた。この油状物にヘキサンを加えることでの目的物の白色固体が析出し、ろ取により固体を回収した。この固体をメタノールに溶解して再結晶を行うことで白色結晶(収量2.8g、収率95%)を得た。
【0032】
得られた目的物の分析結果は以下のとおりであった。
FT-IR (ATR) ν/cm
-1: 2963, 2820, 2596, 1480, 1456, 1255.
1H NMR (300 MHz, CDCl
3, TMS) δ 7.00 (s, 2H, ArH), 6.91 (s, 2H, Ar
H), 3.78 (s, 4H, Ar-C
H2-N), 2.63 (q, 12H, -N-C
H2-), 1.24 (s, 18H, tert-Bu), 1.12 (t, 12H, - CH
2-C
H3).
13C NMR (75 MHz, CDCl
3, TMS) δ 154, 142, 128, 124, 121, 120, 59, 43, 31, 34, 16. Calcd. for C
30H
48N
2O
2S・CH
3OH = C
31H
52N
2O
3S: C, 69.88; H, 9.84; N, 5.26. Found: C, 61.81; H, 7.51; N, 5.56.
【0033】
<パラジウムおよび白金の抽出時間依存性>
本実施例では、式(II)で示されるジアルキルアミノ基含有チオジフェノール抽出剤を用い、各振とう時間を変化させ、パラジウム(II)および白金(IV)の抽出実験を行った。有機相として、式(II)の抽出剤をクロロホルムに溶解して1mMとした溶液を10mL準備し、この有機相に、0.1M塩酸を用いて1mMの濃度に調製したパラジウムおよび白金の単独酸性溶液を等体積加え、激しく振とうする(300rpm)ことで、有機相へパラジウムおよび白金の抽出を行った。振とう時間は5〜180分とした。各時間における抽出率は振とう前後の水相の金属濃度をICP発光分析装置にて求め、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を式(1)と(2)にて求めた。
【0034】
E%=[M]
org/[M]
aq,init×100 (1)
[M]
org=([M]
aq,init−[M]
aq) (2)
ただし、[M]
org:抽出後の有機相中の金属濃度(ppm)、[M]
aq,init:抽出前の水相中の金属濃度(ppm)、[M]
aq:抽出後の水相中の金属濃度(ppm)
【0035】
振とう時間を変えた際の抽出率の変化を
図1に示す。縦軸が抽出率で横軸が振とう時間である。
図1に示すように、パラジウム(II)の抽出実験(◇)では、5分間の振とうで、抽出率98%とほぼ全量を抽出できることを示した。振とう時間5分後以降からは、抽出率は変化せず、抽出率が飽和したことが明らかとなった。一方、白金(IV)の抽出(□)でも同様の現象が観測されており、振とう時間が5分では抽出率が77%、10分では81%であった。振とう時間10分以降では、抽出率は変化せずに一定となった。以上のことから、式(II)の抽出剤はパラジウム(II)と白金(IV)を抽出できる能力を有し、特にパラジウム(II)を高効率で抽出できると結論づけることができる。
【0036】
<ジアルキルアミノ基含有チオジフェノール抽出剤による塩酸濃度の異なるパラジウムまたは白金の単独酸性水溶液からの抽出実験>
本実施例では、式(II)で示されるジアルキルアミノ基含有チオジフェノール抽出剤を用い、塩酸濃度の異なるパラジウムまたは白金の各単独酸性水溶液からの抽出実験を行った。式(II)の抽出剤はクロロホルム溶媒に希釈して1mMの有機相とした。この有機相10mLに、0.1M〜8.0M塩酸を用いて1mMの濃度に調製したパラジウムまたは白金の各単独酸性水溶液を等体積加え、10分間、激しく振とう(300rpm)することで、有機相へパラジウムまたは白金の抽出を行った。その後、水相中のパラジウムまたは白金濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と(2)にて算出した。
酸性水溶液(水相)の塩酸濃度を変えた際の抽出率の変化を
図2に示す。縦軸が抽出率で横軸が塩酸濃度である。
図2に示すとおり、塩酸濃度が上昇するとともに、パラジウム(◇)と白金(□)の抽出率は低下していることがわかる。両金属の抽出挙動は同様な結果となり、0.1M塩酸濃度が最も効率よく、パラジウムと白金を抽出できると結論づけることができる。
【0037】
<酸に対する安定性>
本実施例では、式(II)の抽出剤の酸性水溶液に対する安定性を検討した。式(II)の抽出剤をクロロホルム溶媒に希釈して1mMの有機相とした。これら有機相10mLに、12N塩酸を等体積加え、サンプル管に入れ1週間攪拌した。その後、分液して有機相を水で洗浄した後、脱水・濃縮を行い、減圧乾燥した。得られた固体を赤外吸収スペクトル解析装置にて分析し、その結果を
図3に示した。縦軸が透過率で横軸が振動数である。
図3に示すように、酸との接触をさせていないスペクトルと12N塩酸との接触後のスペクトルはほとんど変化が見られない。この結果から、式(II)の抽出剤は酸性溶液に対して安定性が高いと結論づけられる。
【0038】
<自動車排ガス触媒を酸浸出した溶液からのパラジウムおよび白金の抽出>
工場より排出された少なくともパラジウムおよび白金を含む多種の金属が混在する廃棄物を酸処理により水溶液化した酸浸出液を蒸留水にて20倍に希釈した水溶液(Pd(II): 92.8 ppm, Pt(IV): 3.87 ppm, Rh(III): 3.12 ppm, La(III): 28.5 pm, Ce(III): 269.6 ppm, Ba(II): 15.5 ppm, Al(III): 501.5 ppm)10mL(pH1.0)を水相とし、式(II)の抽出剤をクロロホルム溶媒に希釈して10mL(10mM)の有機相とし、該有機相と水相とを、10分間激しく振とう(300rpm)し、その後、水相中の各金属の濃度をICP発光分析装置にて分析し、その得られた結果をもとに抽出率(E%)を上記の式(1)と(2)にて求めた。
【0039】
各金属の抽出量を示したのが
図4である。縦軸が抽出量で横軸が各金属イオンである(図の奥が抽出前の水相中の各金属濃度であり、図の手前が有機相に移動した各金属濃度である。)
図4に示すように、パラジウムのほぼ全量を抽出できており、抽出量は92.2mgL
−1であった。また、白金では1.4mgL
−1と約半分程度の濃度を水相から抽出できていることがわかった。他の金属のアルミニウムもわずかではあるが抽出されており、3.9mgL
−1であった。この結果から、式(II)の抽出剤により、多種の金属を含む自動車排ガス触媒の酸浸出溶液から、パラジウムはほぼ全量抽出でき、白金は約半分程度を抽出できると、結論付けることができる。