(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2層を構成するセラミックスが、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の圧電素子応用デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において、同じ符号を付したものは、同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
【0016】
(実施形態1)
(超音波デバイス)
図1は、超音波センサーを搭載した超音波デバイスの構成例を示す断面図であり、超音波センサー及び超音波デバイスは、圧電素子応用デバイスの例である。図示するように、超音波プローブIは、CAV面型の超音波センサー1と、超音波センサー1に接続されたフレキシブルプリント基板(FPC基板2)と、装置端末(図示せず)から引き出されたケーブル3と、FPC基板2及びケーブル3を中継ぎする中継基板4と、超音波センサー1、FPC基板2及び中継基板4を保護する筐体5と、筐体5及び超音波センサー1の間に充填された耐水性樹脂6と、等を具備して構成されている。
【0017】
超音波センサー1からは、超音波が送信される。また、測定対象物から反射された超音波が、超音波センサー1によって受信される。これらの超音波の波形信号に基づき、超音波プローブIの装置端末において、測定対象物に関する情報(位置や形状等)が検出される。
【0018】
超音波センサー1によれば、後述のように、構造歪みが生じることを抑制でき、高い信頼性を確保できる。従って、超音波センサー1を搭載することで、各種特性に優れた超音波デバイスとなる。本発明は、超音波の送信に最適化された送信専用型と、超音波の受信に最適化された受信専用型と、超音波の送信及び受信に最適化された送受信一体型と、等の何れの超音波センサーにも適用できる。超音波センサー1を搭載可能な超音波デバイスは超音波プローブIに限定されない。
【0019】
(超音波センサー)
次に、超音波センサー1の構成例について説明する。
図2は、超音波センサーの分解斜視図である。
図3は、超音波センサーの基板の平面図である。
図4Aは、
図3のA−A´線断面図である。
図4Bは、
図3のB−B´線断面図である。
【0020】
超音波センサーの基板がX軸及びY軸によって形成されるXY平面に沿っているとき、
図4Aの切断面は、X軸及びZ軸によって形成されるXZ平面に沿っており、
図4Bの切断面は、Y軸及びZ軸によって形成されるYZ平面に沿っている。以降、X軸を第1の方向X、Y軸を第2の方向Y、Z軸を第3の方向Zと称する。
【0021】
超音波センサー1は、超音波センサー素子310と、音響整合層13と、レンズ部材20と、包囲板40と、を含んで構成されている。超音波センサー素子310は、基板10と、振動板50と、圧電素子300と、を含んで構成されている。
図2において、包囲板40と支持部材41とが別体に示されているが、実際には両者は一体的に構成されている。
【0022】
基板10には、複数の隔壁11が形成されている。複数の隔壁11によって、複数の空間12が区画されている。基板10は、Si単結晶基板を用いることができる。基板10は、前記の例に限定されず、SOI基板やガラス基板等を用いてもよい。
【0023】
空間12は、第3の方向Zに基板10を貫通するように形成されている。空間12は、二次元状、すなわち、第1の方向Xに複数かつ第2の方向Yに複数形成されている。第1の方向Xをスキャン方向とし、第2の方向Yをスライス方向としたとき、超音波センサー1は、スキャン方向にスキャンしながら、スライス方向に延びる列毎に超音波の送受信を行う。これにより、スライス方向のセンシング情報を、スキャン方向に連続して取得することができる。空間12は、第3の方向Zから見たときに正方形状(第1の方向Xと第2の方向Yとの長さの比が1:1)である。
【0024】
空間12の配列や形状は、種々に変形が可能である。例えば、空間12は、一次元状、すなわち、第1の方向X及び第2の方向Yの何れか一方の方向に沿って複数形成されてもよい。また、空間12は、第3の方向Zから見たときに長方形状(第1の方向Xと第2の方向Yとの長さの比が1:1以外)であってもよい。
【0025】
振動板50は、空間12を塞ぐように基板10上に設けられている。以降、振動板50の基板10側の面を第1面50aと称し、該第1面50aに対向する面を第2面50bと称する。振動板50は、基板10上に形成された弾性膜(第1層)51と、弾性膜51上に形成された絶縁体層(第2層)52と、によって構成されている。ここで、弾性膜51の空間12側を第1面50a、絶縁体層52の空間12とは反対側を第2面50bとする。
【0026】
弾性膜51は、二酸化シリコン(SiO
2)からなり、絶縁体層52は、二酸化シリコンのヤング率よりも大きなヤング率を有するセラミックスからなり、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、及び炭化ケイ素(SiC)からなる群から選択される少なくとも1種であるからなる。弾性膜51は、好適には、基板10をシリコンとし、これを熱酸化することにより形成するのが好ましいが、基板10と別部材としてもよい。
【0027】
振動板50の第2面50b側のうち空間12に対応する部分には、超音波を発信及び/又は受信する圧電素子300が設けられている。以降、振動板50の第2面50b側のうち空間12に対応する部分を、可動部と称する。可動部は、圧電素子300の変位によって振動が生じる部分である。可動部に生じる振動に応じて、超音波センサー1から超音波が送信及び/又は受信される。
【0028】
圧電素子300は、厚さが約0.2μmの第1電極60と、厚さが約3.0μm以下、好ましくは厚さが約0.5μm〜1.5μmの圧電体層70と、厚さが約0.05μmの第2電極80と、を含んで構成されている。
【0029】
以降、第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分を能動部と称する。また、本実施形態では、圧電体層70の変位によって、少なくとも振動板50及び第1電極60が変位する。すなわち、本実施形態では、少なくとも振動板50及び第1電極60が、実質的に振動板としての機能を有している。ただし、弾性膜51及び絶縁体層52の何れか一方、又は両方を設けずに、第1電極60のみが振動板として機能するようにすることも可能である。基板10上に第1電極60を直接設ける場合には、第1電極60を絶縁性の保護膜等で保護することが好ましい。しかしこの場合は、本願の振動板構成に比べて変位効率及び受信効率は低下する。
【0030】
図示しないものの、圧電素子300と振動板50との間に他の層が設けられてもよい。例えば、圧電素子300と振動板50との間に、密着性を向上させるための密着層が設けられてもよい。このような密着層は、例えば、酸化チタン(TiO
X)層、チタン(Ti)層又は窒化シリコン(SiN)層等から構成できる。
【0031】
圧電素子300は、第3の方向Zから見たとき、空間12の内側の領域にある。すなわち、圧電素子300の第1の方向X及び第2の方向Yは、何れも空間12より短い。ただし、圧電素子300の第1の方向Xが空間12より長い場合や、圧電素子300の第2の方向Yが空間12より長い場合も、本発明に含まれる。
【0032】
振動板50の第2面50b側には、包囲板40が設けられている。包囲板40の中央には凹部(圧電素子保持部32)が形成され、この圧電素子保持部32の周囲は、包囲板40の縁部40a(
図1等参照)とされている。圧電素子保持部32によって、圧電素子300の周囲の領域(圧電素子300の上面及び側面を含む領域)が覆われる。従って、圧電素子保持部32の底面に相当する面が、包囲板40の圧電素子300側の面40bとなる。
【0033】
包囲板40は、縁部40aにおいて超音波センサー素子310側に接合されている。包囲板40の接合は、接着剤(図示せず)を用いることができるが、前記の例に限定されない。圧電素子保持部32の深さ、すなわち第3の方向の長さは、約80μmであるが、前記の値に限定されない。圧電素子保持部32の深さは、圧電素子300の駆動を阻害しない程度のスペースが確保される値であればよい。また、圧電素子保持部32は、空気で満たされていてもよく、樹脂で満たされていてもよい。包囲板40の厚さは、約400μmであるが、前記の値に限定されない。
【0034】
超音波センサー1には、包囲板40の圧電素子300側の面40bと振動板50の第2面50bとの間、かつ、圧電素子300と重ならない位置に、支持部材41が設けられている。これによれば、支持部材41により振動板50を支持できる。このため、例えば、レンズ部材20を実装する際や、レンズ部材20の実装後に該レンズ部材20の密着性を確保する際、音響整合層13側から所定の圧力が振動板50に加わったとしても、振動板50が圧電素子保持部32内に大きく撓むことが防止される。よって、構造歪みが生じることを抑制でき、高い信頼性を確保できる。
【0035】
支持部材41は、圧電素子300と重ならない位置に設けられている。このため、圧電素子300が支持部材41によって過度に拘束されることが回避される。よって、支持部材41を設けていない場合と比べ、超音波の送信効率や受信効率が過度に低下することも防止される。
【0036】
圧電素子300と重ならない位置とは、第3の方向Zから見たとき、上記の能動部(第1電極60と第2電極80とで挟まれた部分)に重ならない位置である。特に、超音波センサー1では、隔壁11よりも狭い幅を有している支持部材41が、隣り合う空間12の間に設けられている。つまり、超音波センサー1では、第3の方向Zから見たとき、支持部材41が、上記の可動部(振動板50の第2面50b側のうち空間12に対応する部分)にすら重なっていない。このため、支持部材41を設けていない場合と比べ、超音波の送信効率や受信効率が過度に低下することが確実に防止される。支持部材41は、接着剤(図示せず)により超音波センサー素子310側に接合されているが、接合の手法は前記の例に限定されない。
【0037】
支持部材41は、第2の方向Yに沿って延びる梁形状を有している。これによれば、第2の方向Yに亘る広い範囲で振動板50を支持できる。梁形状の支持部材41は、第1の方向Xではなく、第1の方向Xに沿って延在していてもよい。梁形状の支持部材41は、延在する片方の端部が、包囲板40の縁部40aから離れていてもよい。延在方向の少なくとも片方の端部が包囲板40の縁部40aに接していれば、梁形状の支持部材41に含まれる。
【0038】
梁形状の支持部材41は、包囲板40をウエットエッチングすることで作製されたものである。このように、支持部材41は、包囲板40の構成材料を活かして作製されており、包囲板40と同一の構成を有している。ウエットエッチングは、例えばドライエッチングに比べ、加工精度は劣るものの、短時間で多くの領域を削ることができるため、梁形状の支持部材41を作製するのには好適な手法である。
【0039】
圧電素子保持部32の中心部分は、包囲板40の縁部40aから比較的離れている。従って、振動板50において、圧電素子保持部32の中心部分に対応する中心箇所C(
図2等参照)では、支持部材41がない場合に剛性が低くなりやすい。そこで、支持部材41は、そのような振動板50の中心箇所Cを支持するように設けられている。これにより、より高い信頼性を確保できる。
【0040】
本発明において、支持部材の数、配置、形状等は種々に選択が可能である。例えば、支持部材は複数であってもよい。その場合、支持部材は、圧電素子保持部32内に等間隔に設けられることが好ましい。これによれば、振動板50をまんべんなく支持できる。従って、振動板の数は、3つ以上の奇数であることが好ましい。これは、圧電素子保持部32内に支持部材を等間隔に設けたとき、その真ん中の支持部材が、振動板50の中心箇所Cの近傍に位置し得るためである。例えば、支持部材の数は、3つ程度であるとバランスがよい。
【0041】
支持部材は、振動板50の中心箇所Cからずれた部分のみに設けられてもよい。支持部材は、梁形状を有していなくてもよい。支持部材は、延在方向に直線状でなくてもよい。支持部材の作製手法によっては、支持部材のXY平面の断面積が第3の方向Zに応じて異なる態様となる場合があるものの、かかる態様も、振動板を支持できる限り、本発明の支持部材に含まれる。
【0042】
圧電素子300では、何れか一方の電極が共通電極とされ、他方の電極が個別電極とされる。ここでは、第1電極60を第1の方向Xに亘るように設けて個別電極が構成され、第2電極80を第2の方向Yに亘るように設けて共通電極が構成されている。ただし、駆動回路や配線の都合を考慮し、第1電極を共通電極として構成し、第2電極を個別電極として構成してもよい。
【0043】
第1電極60や第2電極80の材料は、導電性を有する材料であれば制限されない。第1電極60や第2電極80の材料としては、金属材料、酸化スズ系導電材料、酸化亜鉛系導電材料、酸化物導電材料等が挙げられる。金属材料は、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ステンレス鋼等である。酸化スズ系導電材料は、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等である。酸化物導電材料は、酸化亜鉛系導電材料、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO
3)、ニッケル酸ランタン(LaNiO
3)、元素ドープチタン酸ストロンチウム等である。第1電極60や第2電極80の材料は、導電性ポリマー等でもよい。
【0044】
圧電体層70は、空間12毎にパターニングして構成され、上記の第1電極60及び第2電極80に挟持されている。圧電体層70は、例えばABO
3型ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含んで構成されている。かかる複合酸化物として、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O
3;PZT)系の複合酸化物が上げられる。これによれば、圧電素子300の変位向上を図りやすくなる。勿論、PZT系の複合酸化物にも、他の元素が含まれていてもよい。他の元素の例は、圧電体層70のAサイトの一部と置換されるリチウム(Li)、ビスマス(Bi)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)や、圧電体層70のBサイトの一部と置換されるマンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。
【0045】
また、鉛の含有量を抑えた非鉛系材料を用いれば、環境負荷を低減できる。非鉛系材料としては、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)及びニオブ(Nb)を含むKNN系の複合酸化物等が挙げられる。KNN系の複合酸化物を用いた例では、AサイトにK、Na、BサイトにNbが位置しており、その組成式は、例えば(K,Na)NbO
3と表される。
【0046】
KNN系の複合酸化物には、他の元素が含まれていてもよい。他の元素としては、圧電体層70のAサイトの一部と置換されるリチウム(Li)、ビスマス(Bi)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)や、圧電体層70のBサイトの一部と置換されるマンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。
【0047】
KNN系の複合酸化物は、鉛を含まないことが好ましいが、他の元素として、Aサイトの一部と置換されるPb(鉛)を含んでいてもよい。他の元素の例は、上記に限定されず、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)、銀(Ag)等も挙げられる。これらの他の元素は、2種以上含まれていてもよい。一般的に、他の元素の量は、主成分となる元素の総量に対して15%以下、好ましくは10%以下である。他の元素を利用することで、各種特性の向上や構成及び機能等の多様化を図ることができる場合がある。他の元素を利用した複合酸化物である場合も、ABO
3ペロブスカイト構造を有するように構成されることが好ましい。
【0048】
非鉛系材料としては、上記のKNN系の複合酸化物の他、ビスマス(Bi)及び鉄(Fe)を含むBFO系の複合酸化物や、ビスマス(Bi)、バリウム(Ba)、鉄(Fe)及びチタン(Ti)を含むBF−BT系の複合酸化物が挙げられる。BFO系の複合酸化物を用いた例では、AサイトにBi、BサイトにFe、Tiが位置しており、その組成式は、例えばBiFeO
3と表される。BF−BT系の複合酸化物を用いた例では、AサイトにBi、Ba、BサイトにFe、Tiが位置しており、その組成式は、例えば(Bi,Ba)(Fe,Ti)O
3と表される。
【0049】
BFO系の複合酸化物やBF−BT系の複合酸化物には、他の元素が含まれていてもよい。他の元素の例は、上記の通りである。また、BFO系の複合酸化物やBF−BT系の複合酸化物に、KNN系の複合酸化物を構成する元素が含まれていてもよい。
【0050】
これらのABO
3型ペロブスカイト構造を有する複合酸化物には、欠損・過剰により化学量論の組成からずれたものや、元素の一部が他の元素に置換されたものも含まれる。すなわち、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による不可避な組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。
【0051】
基板10に形成された空間12と、振動板50と、圧電素子300と、を含んで超音波センサー素子310が構成されている。超音波センサー素子310に、上記の包囲板40に加え、音響整合層13及びレンズ部材20が設けられることで、超音波センサー1となる。
【0052】
音響整合層13は、空間12内に設けられている。音響整合層13が設けられることで、圧電素子300及び測定対象物の間で音響インピーダンスが急激に変化することを防止でき、その結果、超音波の伝播効率が低下することを防止できる。音響整合層13は、例えばシリコーン樹脂から構成できるが、前記の例に限定されず、超音波センサーの用途等に応じた材料を適宜選択して用いることができる。
【0053】
レンズ部材20は、基板10の振動板50とは反対側に設けられている。レンズ部材20は、超音波を収束させる役割を有している。超音波を収束させる必要がない場合等、レンズ部材20は省略可能である。ここでは、上記の音響整合層13が、レンズ部材20と基板10との接着機能も有している。レンズ部材20と基板10(隔壁11)との間に音響整合層13を介在させ、超音波センサー1が構成されている。
【0054】
レンズ部材20を超音波センサー素子310に実装する際や、レンズ部材20の実装後に該レンズ部材20の密着性を確保する際に、レンズ部材20を音響整合層13側に押圧することがある。レンズ部材20を具備していない場合や、レンズ部材の代わりに他の部材を設けた場合にも、各部の密着性を確保するため、音響整合層13側から振動板50に押圧力を付すこともある。超音波センサー1では、支持部材41を具備して構成されているため、上記の通り、所定の外圧が振動板50に加わったとしても、構造歪みが生じることを抑制でき、高い信頼性を確保できる。
【0055】
超音波センサー1では、振動板50の圧電素子300とは反対側が超音波の通過領域となるCAV面型に構成されている。これによれば、外部からの水分が圧電素子300に極めて到達し難い構成を実現できるため、使用時の電気的安全性に優れる超音波センサー1となる。しかも、圧電素子300と振動板50が薄膜である場合、振動板50よりも十分厚みのある包囲板40の縁部40aと支持部材41が、圧電素子300を囲むように、振動板50と接合又は接着される。そのため、製造時のハンドリング性も向上させることができ、超音波センサー1の取り扱いが容易となる。
【0056】
このような超音波センサー1の要部の模式図を
図5A〜
図5Cに示す。
図5Aは通常状態、
図5Bは、圧電素子300が駆動している状態(送信状態)であり、
図5Cは、圧電素子300が超音波を受信して変形している状態(受信状態)を示す。
【0057】
圧電素子300を駆動した場合、
図5Bでは振動板50の下面には引張応力Ftが作用し、第2電極80上面には圧縮応力Fcが作用している。
図5Cでは、振動板50の下面には圧縮応力Fcが作用し、第2電極80上面には引張応力Ftが作用している。よって圧電素子と振動板とを合わせた膜全体では、第2電極の表面から振動板下面に向かって圧縮応力から引張応力へ変化(
図5B)する、または引張応力から圧縮応力へ変化(
図5C)する応力分布が存在する。即ち圧電素子と振動板とを合わせた膜内には応力が作用していない面であるX−X面が存在することになり、これが応力の中立面と呼ばれる。
【0058】
振動板50は電圧が印加された圧電体層70の変形によって撓む。横効果アクチュエーターに電圧が印加された時、圧電体層70は面内方向(電界とは直交する方向)に縮む。圧電体層70の変形の力を最大限に活用するためには、応力の中立面が圧電体層70の内部に存在しないこと、例えば第1電極60の内部に存在することが好ましい。例えば、
図5Bにおいて、中立面(X−X面)が圧電体層70の内部に存在すると、中立面(X−X面)よりも下側(引張り側)の部分は変形に寄与しないばかりか、変形を妨げるように作用するためである。理想的には、第1電極60が圧電体層70と同じ幅で設けられている場合には、中立面は第1電極60と振動板50との境界に存在するのが好ましいが、第1電極60の内部に存在してもよい。また、第1電極60が振動板50と同様に延設されている場合には、第1電極60と圧電体層70との境界に中立面が存在するのが好ましいが、第1電極60内に存在してもよい。
【0059】
図5A〜
図5Cのモデルにおいて変位効率を検討する。無負荷状態での変位量を無負荷変位D
0とし、この無負荷変位D
0の状態の圧電体層70を元の状態に戻すのに要する力を発生力F
0とし、実際の変位量を実変位D
1とし、この状態を元の状態に戻すのに要する力を実発生力F
1とすると、変位効率ηは、以下の式(a)で表され、通常50%前後と言われている。
変位効率η=D
1/D
0 ・・・(a)
【0060】
ここで、振動板50は、圧電体層70が屈曲することによって変位する。また、変位の大きさは、圧電体層70の曲げ剛性に比例する。さらに、振動板50自体の曲げ剛性は、圧電体層70の屈曲の妨げとなるため、変位を阻害する要因となり、上述した負荷に相当する。以上の点を考慮して、変位効率ηの式の「実変位D
1」を「圧電体層70の曲げ剛性S
p−振動板50の曲げ剛性S
v」に、「無負荷変位D
0」を「圧電体層70の曲げ剛性S
p」に置き換えると、次の式(b)のようになる。
変位効率(代替値)η’=(Sp−Sv)/Sp ・・・(b)
Sp:圧電体層の曲げ剛性、 Sv:振動板の曲げ剛性
【0061】
曲げ剛性は、ヤング率と断面二次モーメントとの積で表される。式(b)をこの積に置き換えると、次のようになる。
【0062】
変位効率(代替値)η’=(E
p×I
p−E
v×I
v)/E
p×I
p ・・・(c)
E
p:圧電体層のヤング率、 I
p:圧電体層の断面二次モーメント
E
v:振動板のヤング率、 I
v:振動板の断面二次モーメント
【0063】
さらに、超音波センサー素子について、断面二次モーメントは、次の式(d-1)、式(d-2)で表される。
【0064】
I
p=w×d
p3/12 ・・・(d-1)
I
v=w×d
v3/12 ・・・(d-2)
w:キャビティ(空間)長
d
p:圧電体層の膜厚、 d
v:振動板の膜厚
式(d-1)、式(d-2)を式(c)に適用すると、次の式(e)のようになり、断面二次モーメントは膜厚の3乗に比例することとなる。
【0065】
変位効率(代替値)η’=(E
p×d
p3−E
v×d
v3)/E
p×d
p3 ・・・(e)
式(e)に表されるとおり、振動板の曲げ剛性は、膜厚の3乗に比例する。
【0066】
ここで、上述した応力の中立面(X−X面)では、引張りと圧縮のモーメントがつり合っている。応力の中立面を、圧電体層と振動板との境界部分(例えば第1電極のあたり)に設定すると、モーメントのつり合いから、以下の式(f)の関係式が成立する。
【0067】
E
p×d
p2=E
v×d
v2 ・・・(f)
E
p:圧電体層のヤング率、d
p:圧電体層の膜厚
E
v:振動板のヤング率、 d
v:振動板の膜厚
【0068】
本発明のように、振動板を異なる材料からなる第1層及び第2層とからなる2つの層の積層体で構成すると、振動板全体のモーメントは、各層のモーメントの和となり、式(g)の関係式が成り立つ。
【0069】
E
p×d
p2=E
v1×d
v12+E
v2×d
v22 ・・・(g)
E
p:圧電体層のヤング率、 dp:圧電体層の膜厚
E
v1:振動板(第1層)のヤング率、 d
v1:振動板(第1層)の膜厚
E
v2:振動板(第2層)のヤング率、 d
v2:振動板(第2層)の膜厚
【0070】
ここで、圧電体層70を厚くすると、変位量を大きくできる可能性があるが、中立面の位置がずれてしまうと、変位を阻害する要因が増加する可能性がある。よって、少なくとも中立面の位置を維持する(変化させない)必要がある。また、このためには、振動板の厚さが大きくなると、振動板の曲げ剛性が大きくなり、変位が阻害される可能性があるので、振動板の曲げ剛性を小さく設定する必要がある。
【0071】
このように、送信特性を向上させるためには、駆動時の中立面を維持した状態で、振動板の曲げ剛性を最小にすることが必要となる。これは液体噴射ヘッドにおいて変位効率を向上させるための条件でもある。
【0072】
一方、超音波センサーでは、受信特性が十分でない傾向がある。受信特性は、外部から応力が付与された場合の圧電体層に発生する歪みによって発生する起電圧又は発生電荷に依存するが、受信特性を向上させるためには、圧電材料が同じであれは、圧電体層の膜厚を増大すればよい。ただし、同一水準の外部応力に対して効率よく圧電体層に応力を発生させるためには、応力の中立面を圧電体層の外側、すなわち、第1電極側に位置するようにする必要がある。よって、受信効率を向上させるためには、応力の中立面の位置を変動させないようにする必要がある。
【0073】
このように、受信特性を向上させるためには、応力の中立面を維持したまま、圧電体層の厚さをできるだけ大きくすればよい。なお、受信専用の組成であれば、このような条件でよいが、送受信特性の両立を図るためには、振動板の曲げ剛性を小さくすることが必要となる。
【0074】
ここで、「応力の中立面の位置を維持する」とは、「式(f)及び式(g)において左辺の値と右辺の値とを等しく保つ」ということである。例えば、変位量を向上させるために圧電体層の膜厚を大きくしたとき、左辺の値は大きくなる。左辺、右辺の値は各膜の横断面(応力が作用する面のこと)に働く力(応力の総和)に相当する。従って左辺の値が増大したときに、右辺の値を左辺の値に等しくするためには、振動板を構成する膜のヤング率を大きくするか、膜厚を増すか、あるいはその両者を実行する必要がある。
【0075】
変位量を向上させるために圧電体層の膜厚を大きくしたとき、式(f)、(g)の左辺の値は大きくなる。応力の中立面の位置を維持するためには、当然右辺の値も大きくしなければならない。且つ右辺の値は圧電体の膜厚とは1:1に対応し、一意的に決定される。右辺の値(力)を増大させるためには、振動板を構成する膜のヤング率を大きくするか、膜厚を増すか、あるいはその両者を実行する必要がある。これは、振動板の曲げ剛性即ち圧電機能に対する抵抗が大きくなることを意味する。しかしヤング率と膜厚の選択の仕方如何で、式(f)、(g)の値を変えることなく、振動板の曲げ剛性Svを最小の値にすることが出来る。換言すれば圧電体の膜厚を変化させたとき、応力の中立面の位置を変えずに、変位の阻害要因である振動板の曲げ剛性を最小にすることが出来る。
【0076】
式(f)または式(g)の値を変えないで、振動板の剛性を最小にできるメカニズムは以下である。式(g)、(f)はヤング率に膜厚の2剰を乗じた値である。従って式の値を変えないヤング率と膜厚の組み合わせは、任意に存在する。ヤング率の大きさを増せば膜厚は小さく設定できる。このときヤング率に膜厚の3剰を乗じて求まる剛性は小さくなる。何故なら、膜厚の3剰に起因する剛性は膜厚の寄与の方が、ヤング率の寄与を上回るからである。
【0077】
ここで、超音波センサー素子を、シリコン基板上に振動板と圧電素子とを設けた構成とすると、絶縁性の確保や、製造上の要請から、SiO
2層は、振動板として実質的に必須の構成である。SiO
2層を、ヤング率の大きい層に置き換えることは好ましくない。そこで、本発明では、振動板をSiO
2(第1層)と、SiO
2よりもヤング率が大きいセラミックス(第2層)との積層体で構成することによって、振動板全体のヤング率を比較的大きくして、膜厚の増大に伴う振動板の曲げ剛性の増加による影響を抑制している。
【0078】
かかる構成によって、受信特性の向上と送信特性の向上を両立させ、送受信特性の高い超音波センサーを得ることが可能となる。
【0079】
SiO
2のヤング率は、72GPa〜74GPaである。SiO
2よりもヤング率が大きくセラミックスとしては、たとえば、以下のような材料を挙げることができる。
【0080】
ZrO
2 ヤング率=150GPa
Si
3N
4 ヤング率=290GPa
Al
2O
3 ヤング率=370GPa
SiC ヤング率=430GPa
【0081】
なお、SiO
2とZrO
2との積層体からなる振動板が知られている。ZrO
2のヤング率は150GPa程度と、SiO
2の2倍程度しかない。上記式(g)から、圧電体層の膜厚が増えた場合、式(f)の左側の値は膜厚差の二乗分増加するので、その差分とのバランスを担保するために、ZrO
2の膜厚をある程度大きくする必要がある。送受信特性を両立させて向上させるためには、振動板の曲げ剛性を小さくする必要がある。よって、SiO
2とZrO
2との積層体からなる振動板を採用すると、後述するように、従来から知られているSiO
2とZrO
2との積層体からなる振動板とは異なり、ZrO
2の厚さの比率が高い範囲で上述した条件を満足するものとなる。
【0082】
一方、このような振動板の第2層は、上述したとおり、圧電体層の膜厚が増えた場合、式(f)の左側の値は膜厚差の二乗分増加するので、その差分とのバランスを担保する必要があるため、ヤング率が十分に高い材料を採用するのが好ましい。よって、この点からすると、第2層としてはZrO
2ではなく、ヤング率が290GPa以上の他の材料を採用するのが好ましい。
【0083】
ここで、本発明の振動板構造の構成をまとめると、以下のようになる。
【0084】
(1)まず、振動板をSiO
2(第1層)と、SiO
2よりもヤング率が大きいセラミックス(第2層)との積層体で構成することである。これによって、振動板全体のヤング率を比較的大きくして、膜厚の増大に伴う振動板の曲げ剛性の増加による影響を抑制している。
【0085】
(2)次に、「応力の中立面を維持する」こと、すなわち、圧電体の膜厚を変えたとき、式(g)の左辺の値と右辺の値を同一にすることであり、これは言い換えると、式(g)の右辺である下記式(1)を、圧電体の膜厚に対応した値で一定とすることである。
E
v1×d
v12+E
v2×d
v22 ・・・(1)
【0086】
(3)さらに、このような条件下で、振動板の曲げ剛性を最小にすることである。
【0087】
ここで、振動板の曲げ剛性は、上述したとおり、ヤング率と断面二次モーメントとの積で表され、断面二次モーメントは、上述した式(d-1)、式(d-2)で表されるから、積層体の振動板の曲げ剛性は、下記式(2)で表される。
E
v1×d
v13+E
v2×d
v23 ・・・(2)
【0088】
よって、本発明の振動板構造は上述した条件(1)及び条件(2)を満足し、且つ上記式(2)が極小値となる構成が好ましい。
【0089】
ここで、上記式(1)が一定となる条件下で、上記式(2)の値が極小値となるd
v1及びd
v2の組は一義的に定まるので、極小値+2%以内の範囲となるd
v1及びd
v2の組を(D
v1,D
v2)とする場合、第1層の厚さをD
v1とし、第2層の厚さをD
v2とすればよい。
【0090】
変位量の変動は送信特性、受信特性の変動に直接繋がる。特に送信特性と同一である液体噴射ヘッドの場合は、変位量の変動幅はすなわち液体粒子またはインク滴の吐出体積の変動幅と同一になる。変位量、換言すれば変位効率の変動幅は、少なくも液体噴射ヘッドが要求する仕様を満足する必要がある。液体噴射ヘッドから吐出される例えばインク滴の体積変動は±2%の領域に収めることが望ましい。すなわち変位効率の変動幅は最大値−2%に収めることが望ましい。振動板の剛性は最小になる様に設定するから、実際に管理されるべき振動板の剛性相対値の範囲は、最小値+2%以内となる。
【0091】
振動板を構成する膜は通常スパッタ装置を用いて製造するのがコストを抑える点で有効である。スパッタ装置で成膜された膜の膜厚は成膜条件によって変動するが、膜厚変動を±2%以内に管理することは可能である。膜厚変動が±2%以内に管理された場合、振動板の曲げ剛性の変動を±10%以内に制御することができる。この製造条件であれば、振動板の剛性相対値を、最小値+2%以内、すなわち変位効率を最大値−2%以内に管理することができる。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
図6A、
図6Bは、圧電体層をPZTによって構成し、また、振動板をSiO
2とZrO
2によって構成し、圧電体の膜厚に依存して一意的に決まる、式(1)の値を一定に保ちながら、圧電体層の膜厚dpを500nmから1500nmまで変化させ、振動板の第1層及び第2層の厚さd
v1及びd
v2を変化させたときの、振動板全体の曲げ剛性に対するZrO
2の曲げ剛性の比(以下、「剛性比」と称する)と、振動板の曲げ剛性の相対値との関係を示したものである。ここで、曲げ剛性の相対値とは、振動板全体をSiO
2以外のセラミックスで構成したときの曲げ剛性を1とした場合の相対値である。曲げ剛性相対値が極小値+2%以内となった範囲が本発明の範囲であり、図中矢印で図示する。具体的には、剛性比が0.63〜0.77である。
【0093】
また、
図6Cには、変位効率η(ここでは、実変位であるが、ηで示した)と剛性比との関係を示す。
図6Cには従来技術として見られるSiO
2とZrO
2との積層板の振動板の剛性比である0.11〜0.51の範囲を点線矢印で図示しているが、本発明の範囲は、上述した通り、0.63〜0.77となり、従来技術とは異なることがわかる。また、本発明の構成とした方が、従来技術と比較して変位効率が向上することも明らかである。
【0094】
(実施例2)
図7A、
図7Bは、圧電体層をPZTによって構成し、また、振動板をSiO
2とSi
3N
4によって構成し、圧電体の膜厚に依存して一意的に決まる、式(1)の値を一定に保ちながら、圧電体層の膜厚d
pを500nmから1500nmまで変化させ、振動板の第1層及び第2層の厚さd
v1及びd
v2を変化させたときの、振動板全体の曲げ剛性に対するSi
3N
4の曲げ剛性の比(以下、「剛性比」と称する)と、振動板の曲げ剛性の相対値との関係を示したものである。ここで、曲げ剛性の相対値とは、振動板全体をSiO
2以外のセラミックスで構成したときの曲げ剛性を1とした場合の相対値である。曲げ剛性相対値が極小値+2%以内となった範囲が本発明の範囲であり、図中矢印で図示する。具体的には、剛性比が0.73〜0.89である。
【0095】
また、
図7Cには、変位効率η(ここでは、実変位であるが、ηで示した)と剛性比との関係を示す。
【0096】
(実施例3)
図8A、
図8Bは、圧電体層をPZTによって構成し、また、振動板をSiO
2とAl
2O
3によって構成し、圧電体の膜厚に依存して一意的に決まる、式(1)の値を一定に保ちながら、圧電体層の膜厚d
pを500nmから1500nmまで変化させ、振動板の第1層及び第2層の厚さd
v1及びd
v2を変化させたときの、振動板全体の曲げ剛性に対するAl
2O
3の曲げ剛性の比(以下、「剛性比」と称する)と、振動板の曲げ剛性の相対値との関係を示したものである。ここで、曲げ剛性の相対値とは、振動板全体をSiO
2以外のセラミックスで構成したときの曲げ剛性を1とした場合の相対値である。曲げ剛性相対値が極小値+2%以内となった範囲が本発明の範囲であり、図中矢印で図示する。具体的には、剛性比が0.75〜0.91である。
【0097】
また、
図8Cには、変位効率η(ここでは、実変位であるが、ηで示した)と剛性比との関係を示す。
【0098】
(実施例4)
図9A、
図9Bは、圧電体層をPZTによって構成し、また、振動板をSiO
2とSiCによって構成し、圧電体の膜厚に依存して一意的に決まる、式(1)の値を一定に保ちながら、圧電体層の膜厚d
pを500nmから1500nmまで変化させ、振動板の第1層及び第2層の厚さd
v1及びd
v2を変化させたときの、振動板全体の曲げ剛性に対するSiCの曲げ剛性の比(以下、「剛性比」と称する)と、振動板の曲げ剛性の相対値との関係を示したものである。ここで、曲げ剛性の相対値とは、振動板全体をSiO
2以外のセラミックスで構成したときの曲げ剛性を1とした場合の相対値である。曲げ剛性相対値が極小値+2%以内となった範囲が本発明の範囲であり、図中矢印で図示する。具体的には、剛性比が0.76〜0.92である。
【0099】
また、
図9Cには、変位効率η(ここでは、実変位であるが、ηで示した)と剛性比との関係を示す。
【0100】
(実施形態2)
図10〜13には、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)の一例を示す。
図10は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッドの分解斜視図である。
図11は、流路形成基板の圧電素子側の平面図であり、
図12は、
図11のC−C′線に準ずる断面図、
図13は、圧電素子の要部を拡大した断面図である。
【0101】
流路形成基板1010は例えばシリコン単結晶基板からなり、圧力発生室1012が形成されている。そして、複数の隔壁1011によって区画された圧力発生室1012が、同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口1021が並設される方向に沿って並設されている。以降、流路形成基板1010での圧力発生室1012の並設方向を幅方向又は第1の方向Xと称し、第1の方向Xと直交する方向を第2の方向Yと称する。また、第1の方向X及び第2の方向Yの双方に交差する方向を本実施形態では、第3の方向Zと称する。なお、本実施形態では、各方向(X、Y、Z)の関係を直交とするが、各構成の配置関係が必ずしも直交するものに限定されるものではない。
【0102】
流路形成基板1010の圧力発生室1012の第2の方向Yの一端部側には、圧力発生室1012の片側を第1の方向Xから絞ることで開口面積を小さくしたインク供給路1013と、第1の方向Xにおいて圧力発生室1012と略同じ幅を有する連通路1014と、が複数の隔壁1011によって区画されている。連通路1014の外側(第2の方向Yの圧力発生室1012とは反対側)には、各圧力発生室1012の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する連通部1015が形成されている。すなわち、流路形成基板1010には、圧力発生室1012、インク供給路1013、連通路1014及び連通部1015からなる液体流路が形成されている。
【0103】
流路形成基板1010の一方面側、すなわち圧力発生室1012等の液体流路が開口する面には、各圧力発生室1012に連通するノズル開口1021が穿設されたノズルプレート1020が、接着剤や熱溶着フィルム等によって接合されている。ノズルプレート1020には、第1の方向Xにノズル開口1021が並設されている。これに対し、流路形成基板1010の一方面側に対向する他方面側には、SiO
2(二酸化シリコン)等からなる弾性膜1051と、ZrO
2(酸化ジルコニウム)等からなる絶縁体膜1052と、からなる振動板1050が設けられている。かかる振動板1050としては、上述した実施形態と同様な厚さで構成すればよい。また、実施形態1と同様に、第2層であるZrO
2の代わりに、SiO
2よりヤング率が大きなセラミックスを採用することができる。
【0104】
絶縁体膜1052上には、密着層1056を介して、第1電極1060と、圧電体層1070と、第2電極1080と、を含む圧電素子1300が形成されている。かかる圧電素子1300は、上述した圧電素子300と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0105】
以上説明した圧電素子1300が形成された流路形成基板1010上には、保護基板1030が接着剤1035により接合されている。保護基板30は、マニホールド部1032を有している。マニホールド部1032により、マニホールド1100の少なくとも一部が構成されている。本実施形態に係るマニホールド部1032は、保護基板1030を厚さ方向である第3の方向Zに貫通しており、更に圧力発生室1012の幅方向である第1の方向Xに亘って形成されている。そして、マニホールド部1032は、上記のように、流路形成基板1010の連通部1015と連通している。これらの構成により、各圧力発生室1012の共通のインク室となるマニホールド1100が構成されている。
【0106】
保護基板1030には、圧電素子1300を含む領域に、圧電素子保持部1031が形成されている。圧電素子保持部1031は、圧電素子1300の運動を阻害しない程度の空間を有している。この空間は、密封されていても密封されていなくてもよい。保護基板1030には、保護基板1030を厚さ方向である第3の方向Zに貫通する貫通孔33が設けられている。貫通孔1033内には、リード電極1090の端部が露出している。
【0107】
保護基板1030上には、信号処理部として機能する駆動回路1120が固定されている。駆動回路1120は、例えば回路基板や半導体集積回路(IC)を用いることができる。駆動回路1120及びリード電極1090は、接続配線1121を介して電気的に接続されている。駆動回路1120は、プリンターコントローラー1200に電気的に接続可能である。このような駆動回路1120が、本実施形態に係る制御手段として機能する。
【0108】
保護基板1030上には、封止膜1041及び固定板1042からなるコンプライアンス基板1040が接合されている。固定板1042のマニホールド1100に対向する領域は、厚さ方向である第3の方向Zに完全に除去された開口部1043となっている。マニホールド1100の一方の面(+Z方向側の面)は、可撓性を有する封止膜1041のみで封止されている。
【0109】
このような液体噴射ヘッドにおいても、変位効率を向上させるために、本発明の振動板構造を採用することができる。
【0110】
(他の実施形態)
以上、本発明の圧電素子応用デバイスは、超音波センサーや液体噴射ヘッドを例示して説明したが、本発明の基本的構成は上記のものに限定されるものではない。例えば、上記の実施形態1、2では、基板としてシリコン単結晶基板を例示したが、これに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0111】
上記の実施形態2では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般に適用可能であり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等がある。
【0112】
また、本発明は、超音波センサーや液体噴射ヘッドに限られず、他の圧電素子応用デバイスに搭載される圧電素子にも適用することができる。圧電素子応用デバイスの一例としては、超音波デバイス、モーター、圧力センサー、焦電素子、強誘電体素子などが挙げられる。また、これらの圧電素子応用デバイスを利用した完成体、たとえば、上記液体等噴射ヘッドを利用した液体等噴射装置、上記超音波デバイスを利用した超音波センサー、上記モーターを駆動源として利用したロボット、上記焦電素子を利用したIRセンサー、強誘電体素子を利用した強誘電体メモリーなども、圧電素子応用デバイスに含まれる。
【0113】
図面において示す構成要素、すなわち層等の厚さ、幅、相対的な位置関係等は、本発明を説明する上で、誇張して示されている場合がある。また、本明細書の「上」という用語は、構成要素の位置関係が「直上」であることを限定するものではない。例えば、「基板上の第1電極」や「第1電極上の圧電体層」という表現は、基板と第1電極との間や、第1電極と圧電体層との間に、他の構成要素を含むものを除外しない。