(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
伝熱媒体流路を形成するための流路溝を有するアルミニウム合金板材からなるベース部材と、前記ベース部材の前記流路溝の蓋体となるアルミニウム合金板材からなるプラグ部材とからなり、前記プラグ部材が前記ベース部材に嵌合されることで形成される伝熱媒体流路を備える真空装置用伝熱板であって、
前記プラグ部材の直線部の長さ方向の一部には、幅広の部位であるズレ防止節が設けられており、
前記ズレ防止節は、前記プラグ部材の前記直線部のうち前記ズレ防止節以外の部分よりも幅広であり、且つ、前記流路溝よりも幅広であり、
前記ベース部材には、前記プラグ部材の前記ズレ防止節に対応する部分に、前記流路溝より幅広であり、且つ、前記ズレ防止節と等しい幅のズレ防止溝が設けられていることを特徴とする真空装置用伝熱板。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)の製造においては、基板ガラスに電極膜やコーティング膜等の各種薄膜を成膜する工程がある。この薄膜の成膜工程では、基板の温度制御のために伝熱板が使用される。伝熱板の構造は、その目的に合わせ多種多様な形状を有するが、LCD用やOLED用として使用される伝熱板は、基板ガラスの温度均一性を確保する観点から、基板ガラスに合わせたサイズのアルミニウム合金板材からなる伝熱板が用いられている。
【0003】
アルミニウム合金板材製伝熱板は、その内部に伝熱媒体流路が設けられており、伝熱媒体流路のサイズ、形状はその対象に合わせ適宜設計される。かかる伝熱媒体流路を備える伝熱板は、予め所望の伝熱媒体流路を考慮した溝を設けたアルミニウム合金板材(ベース部材)と、伝熱媒体流路溝の蓋体(プラグ部材)とで構成される。そして、プラグ部材をベース部材に接合して密閉された伝熱媒体流路が形成される。尚、ここで密閉としたのは、上記したLCD等の製膜で使用される伝熱板は、真空装置内の高真空環境下で使用されるため、それに応じた気密性が要求されるからである。
【0004】
アルミニウム合金板材製伝熱板の詳細な構成、及び、その製造工程についてみると、例えば、特許文献1では、ベース部材に凹溝を設け、これに熱媒体用管を挿入し、蓋板(プラグ部材)を溶接によりベース部材と接合する。さらに、凹溝に沿って回転ツールによる摩擦熱により凹溝に沿った塑性流動材を流入した伝熱材である。また、特許文献2のヒータープレートでは、一対のアルミニウム合金部材で構成されており、その内部にヒータ回路がヒータープレート全体に配置されている。ヒータープレート外周部とヒータ回路の全周両面に接合用嵌合部として溝が設けられている。更に、補強用嵌合部が複数設けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2記載の伝熱板は、いずれも冷媒体用管又はヒータ回路という伝熱媒体流路として独立した部材をベース部材内に配置している。そして、伝熱媒体流路をベース部材及び蓋部材に密着させることで伝熱効果を確保している。このように、伝熱媒体流路として冷媒体用管やヒータ回路等の配管を使用すると、当然にその部材について費用が発生し、伝熱板全体のコストを増大させることとなる。
【0007】
また、この種の伝熱板においては、近年、素材費用低減のために部材の厚みを薄くする傾向にある。部材の薄肉化は伝熱には有用であるが、強度面の低下は避けられない。そして、伝熱媒体流路を配管の形態で供給する従来の伝熱板では、ベース部材に設けられた溝に配管を密着させつつ埋め込む際、ベース部材の溝形状が変形することがある。従来の伝熱板では、配管とこれを囲むベース部材及び蓋部材とが密着しないと熱交換効率が低下することから、配管と溝との間に必要以上のクリアランスを設定することはできない。そのため、配管はめ込み時や、使用過程の熱膨張・収縮により、部材変形のおそれがある。
【0008】
更に、特許文献1記載の伝熱板は、ベース部材に冷媒体用管を配置し、蓋体を配置した後、溶接した上で摩擦撹拌による接合を行うことで製造される。しかし、伝熱板の薄肉化に伴いベース部材とプラグ部材も薄肉化されたため、接合時の加熱により部材の変形が生じやすくなっている。部材に変形が生じると、接合不具合により気密性が確保されず冷媒漏れが生じることとなる。その結果、伝熱板としての機能を発揮されない上に、真空雰囲気を壊し成膜工程にも支障をきたすことがある。
【0009】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、アルミニウム合金板材からなる真空用途の伝熱板に関し、部材点数を減らしてコスト低減を図ると共に薄肉化による製造時の変形も抑制できるものを提供する。また、伝熱媒体路の密閉性についても配慮がなされ、伝熱媒体漏れがなく、使用時に真空雰囲気を破壊することのない伝熱板を提供する。そして、当該伝熱板の製造方法として好適な方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者等は鋭意検討を行い、配管を使用せずに伝熱媒体流路を形成すると共に、配管を使用しない流路であっても伝熱媒体の漏れを抑制する手段を検討した。この検討において、本発明者等は、アルミニウム合金製の二つの部材、つまり、伝熱媒体流路を形成するベース部材と、ベース部材に設けられ伝熱媒体流路に沿った形状の溝に蓋をするためのプラグ部材とを各々製造した。そして、ベース部材の溝にプラグ部材を気密性が確保されるように嵌合し、溝をそのまま伝熱媒体流路とし伝熱板を製造することとした。尚、以下において、伝熱媒体流路により形成される流路形状を溝パターンと称することがある。
【0011】
このように、ベース部材の溝とプラグ部材との組合わせにより伝熱媒体流路を形成したとき、流路の気密性を確保するためには両部材を接合する際の密着性確保が重要となる。ここで本発明では、気密性を確保するためのベース部材とプラグ部材との接合方法として、後述のとおり、両部材を加熱して加圧する鍛接工法を採用した。
【0012】
ここで、鍛接工法のような加熱を伴う接合においては、ベース部材とプラグ部材の熱膨張差に配慮する必要がある。この点、ベース部材の体積とプラグ部材の体積とは大きく異なるのが一般的である。伝熱媒体流路が設けられるベース部材においては、伝熱媒体通路を形成するための深さと、伝熱媒体の圧力に耐え得る厚みを持たせる必要があることから、ベース部材とプラグ部材の体積の差はより大きくなるといえる。
【0013】
ベース部材とプラグ部材との体積差は、加熱時の蓄熱量の差を生じさせ熱膨張差等による変形を引き起こすこととなる。ベース部材の溝である凹部と、蓋材となるプラグ部材(凸部)とを接合する場合において、溝パターンと同一形状にしたプラグ部材を嵌め込むだけでは、熱膨張差による変形によりプラグ部材がズレ、設計通りの位置で固定・接合されない可能性が高くなる。このズレは、部材の大型化やベース部材とプラグ部材との体積差が大きくなれば大きくなるほど著しくなる。
【0014】
そこで、本発明者等は更なる検討を加え、ベース部材に、体積差があるプラグ部材を嵌合して接合するとき、変形によるズレを防止するため、ベース部材及びプラグ部材について、ズレ防止のための節を部分的に設定することとした。
【0015】
即ち、本発明は、伝熱媒体流路を形成するための流路溝を有するアルミニウム合金板材からなるベース部材と、前記ベース部材の前記流路溝の蓋体となるアルミニウム合金板材からなるプラグ部材とからなり、前記プラグ部材が前記流路溝に嵌合されることで形成される伝熱媒体流路を備える真空装置用伝熱板であって、前記ベース部材及び前記プラグ材に、前記流路溝の幅より幅広となるズレ防止節が設けられていることを特徴とする真空装置用伝熱板である。
【0016】
また、本発明に係る真空装置用伝熱板の製造方法は、ベース部材とプラグ部材とを250℃〜400℃の範囲に加熱し、加圧する鍛接工法によりプラグ部材をベース部材に嵌合する工程を含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るアルミニウム合金製伝熱板は、従来技術で適用されている伝熱媒体流路となる配管を廃し、ベース部材の流路溝とプラグ部材との組合わせにより伝熱媒体流路を形成する。これにより、伝熱板のコスト低減の他、製造時のベース部材の変形、配管からの伝熱媒体の漏れを抑制することができる。そして、本発明では、流路に適宜にズレ防止節を設定しており、製造工程におけるプラグ部材とベース部材とのズレを抑制する。そして、気密性に優れる伝熱板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るアルミニウム合金板材からなる真空装置用伝熱板及びその製造方法について具体的に説明する。以下の説明においては、まず、本発明に係る真空装置用伝熱板の構成について説明する。
【0020】
本発明は、アルミニウム合金板材からなる2つの部材、即ち、伝熱媒体流路用の流路溝が形成されたベース部材と、溝パターンに沿った形状を有するプラグ部材とで構成される。そして、ベース部材の流路溝にプラグ部材に嵌合して接合することで伝熱媒体流路が形成され伝熱板を構成する。本発明では冷媒等の伝熱媒体を流通するための配管をなくし、ベース部材の流路溝をそのまま伝熱媒体流路として利用する。このように、配管を使用しないことで部材点数が削減され伝熱板のコスト低減を図ることができる。また、従来技術で生じ得る、配管をベース部材に埋め込む際の溝形状の変形や、配管からの伝熱媒体の漏れに対する懸念もない。更に、配管を廃してベース部材の流路溝をそのまま伝熱媒体流路とすると、伝熱効果が向上すると共に、配管の使用過程における変形とそれによる伝熱板の変形も抑制できる。
【0021】
ここで、本発明に係る真空装置用伝熱板の各構成部材について説明すると、ベース部材は、アルミニウム合金板材からなり、伝熱媒体流路を形成するための流路溝が形成されている。伝熱媒体流路を形成するための流路溝全体の平面形状、即ち、溝パターンについては特に制限はない。また、流路溝の寸法や断面形状も制限されることはない。溝パターンの形状・寸法は、その用途、寸法、加熱(冷却)のための熱容量等に応じて任意に形成される。
【0022】
本発明に係る真空装置用伝熱板のもう一方の部材であるプラグ部材は、アルミニウム合金板材からなり、ベース部材に形成された流路溝の蓋体となる。プラグ部材の平面形状は、ベース部材の溝パターン形状に対して、後述のズレ防止節の形成部位を除き同じ形状で形成される。また、プラグ部材の厚さは、特に限定されることはなく、伝熱媒体流路内を流通する伝熱媒体の圧力等を考慮し、耐圧性・気密性が確保されるような厚さが設定される。
【0023】
ここで、ベース部材の流路溝の構成の例としては、ベース部材の表面近傍において、流路溝より幅広となる接合溝を備えるものが好ましい。プラグ部材にも接合溝にあった形状を設けることで、ベース部材とプラグ部材とが嵌合し所定温度下における加圧により接合される。さらに、本発明においては、ズレ防止節が設定されており、ベース部材は、プラグ部材のズレ防止節に対応する部分に、ベース部材の流路溝より幅広でありズレ防止節と略等しい幅のズレ防止溝を備えるのが好ましい。即ち、ベース部材の流路溝周囲の断面形状を、段付き形状にしたものが好ましい(本発明の実施形態を示す
図4の断面図を参照)。接合溝及びズレ防止溝を設定することにより、必要な流路を確保しつつプラグ部材を係止することができ、安定した接合が可能となる。尚、接合溝は流路溝の幅に対して数ミリ(10ミリ以下)幅広となっているものが好ましい。また、接合溝の深さは、浅いもので足り、プラグ部材の厚さと略等しいものが好ましい。
【0024】
そして、上記のように接合溝及びズレ防止溝を有する流路溝が形成されたベース部材に対して、プラグ部材の幅は、ズレ防止節の部分を含め、ベース部材の流路溝の幅と略同じであるものが好ましい。
【0025】
ベース部材とプラグ部材との接合は、後述する所定温度に加熱後、加圧することで接合される。ここで、ベース部材とプラグ部材との体積差等に起因して加熱工程にてズレが生じることがある。そこで、本発明では、ベース部材の溝パターンとプラグ部材のズレを防止するため、プラグ部材にズレ防止節が設けられている。このズレ防止節は、加熱時の変形によるプラグ部材のズレを防止すると共に、プラグ部材をベース部材の流路溝に接合するときの位置決めとしても作用する。
【0026】
ズレ防止節は、本来、一様の幅を有するプラグ部材について、部分的に設定された幅広の部位である。このズレ防止節を有するプラグ部材とベース部材とを組合わせた伝熱板の具体例を
図1、
図2に示す。ベース部材の溝パターンは、上記のとおり、必要な冷却・加熱能力等により設計されるが、多くの場合、長短の流路で構成される。このような流路を有する伝熱板では、通常、伝熱媒体流入口を起点として、長い流路と短い流路が、
図1、2で示すように、伝熱媒体流路が幅方向にて折り返すように配置される。
【0027】
次に、ズレ防止節の形状について説明する。本発明において、以下説明はその一例を示すにすぎず、類似した形状等であれば、本発明を満足することができる。伝熱板におけるベース部材とプラグ部材との接合部の上面図及び断面図を
図3に示す。
図3の断面図に示すように、ベース部材の流路溝の幅よりも若干幅広の接合溝に対し、溝の蓋の役目をするプラグ部材の幅は略等しくなっている。但し、プラグ部材の幅に関しては、接合を強固にするため、接合溝よりも若干広めにすることが許容される。そして、ズレ防止節の幅は、
図3に示すように流路溝の幅よりも幅広となっている。
【0028】
ズレ防止節の平面形状は、
図3の上面図からわかるように、各種の形状が設定できる、特に限定されない。これらズレ防止節及びズレ防止溝の平面形状における輪郭については、角度が変化する部位をRで繋ぐことが望ましい。接合時のベース部材とプラグ部材との摩擦による材料変形や、材料の引っ掛かりによる巻き込みを防止するためである。このR形状の設定は、特に、通常の流路溝(接合溝)からズレ防止溝が立ち上がる部位(両者を繋ぐ部位)で重要となる。このRは、20〜30が好ましい。Rが20未満では、ベース部材とプラグ部材との接合時、Rを頂点としてその両側で摩擦が大きくなり、R部が接合方向つまり溝深さ方向に引きずられ、リークや流路変形等の接合不具合を生じる。また、Rが30を超えてもその効果は維持されるが、確実にズレを防止するためには、その上限Rを30とするのが好ましい。
【0029】
そして、ズレ防止節の平面形状について、その長さ(流路溝の長手方向における長さ)は、節部分をRで円滑に繋げることができる程度の長さがあることが望ましい。また、上記のようにベース部材に接合溝及びズレ防止溝が形成されている場合において、ズレ防止溝の幅、即ち、ズレ防止節の幅は、接合溝の幅に対して5倍以上幅広であることが好ましい。尚、ズレ防止溝の幅及び接合溝の幅とは、各々、流路溝の両外側に設けられた溝の幅の総和をいう。つまり、接合溝幅とは、接合溝の全幅と流路の溝幅との差であり、ズレ防止溝幅とは、ズレ防止溝の全幅と流路溝の幅との差である。通常、接合溝幅及びズレ防止溝幅は、流路溝幅の中心に対して対象となるよう設置されることが好ましい。
【0030】
更に、ズレ防止節は、ベース部材の伝熱媒体流路を形成する流路溝、及びプラグ部材同様、接合強度に寄与するため、酸化皮膜を除去して接合時に新生面を出すように流路断面の深さ方向で上広となるテーパーを設けてもよい。
【0031】
ズレ防止節の設置数については、伝熱媒体流路の形状、長さに基づくものであり、ズレ防止節はその効果を検証しつつ適宜ズレ設定できる。但し、本発明者等による検討によれば、直線部分を有する溝パターンについて、ズレ防止節を設けない状況で直線部分の長さが500mmを超えると、接合の際の昇温時の熱膨張によりベース部材からプラグ部材が浮くことがあり、接合不具合を生じることがある。従って、直線で構成された溝パターンについて、長さ500mm内にズレ防止節を1つ以上設定することが好ましく、これによりベース部材とプラグ部材とのズレ防止効果が好適に発揮される。例えば、
図1、
図2のように、ズレ防止節を設ける。
【0032】
また、この好適な長さ500mmの範囲内におけるズレ防止効果の設定位置については、500mm以内であればどこの位置に設定しても良いが、ズレ防止節を1つでも設定する場合、その中央、つまり溝パターン長さ500mmに対し均等となる位置に設置するのが好ましい。ズレ防止節を複数設置する場合は、溝パターン長さに対し均等となるように設定することが好ましい。尚、溝パターン長さが500mm未満の部分に関しては、ズレ防止節を1つ以上設けても良いが、ズレ防止節を設けなくてもよい。つまり、溝パターン長さ500mmを超えた場合の溝パターンに対し、溝パターン長さ500mm以内に1つ以上のズレ防止節があれば、本発明の効果が確認できる。流路溝の長さが短い部分においてのズレ防止節の設定に関しては、その効果と加工等の生産性等を考慮して決めればよい。
【0033】
以上説明した本発明に係る伝熱板について、ベース部材とプラグ部材の材質は、アルミニウム合金板であれば特に限定されない。好ましいアルミニウム合金としては、JIS1050、1100、3003、3004、5052、5005、6061、6063、7003、7N01等のアルミニウム合金が挙げられる。
【0034】
次に、本発明に係る真空装置用伝熱板の製造方法について説明する。本発明の伝熱板の製造においては、伝熱媒体流路を設けたベース部材とプラグ部材とを組合わせ、それらを所定温度に加熱して加圧して接合する鍛接工法が採用される。
【0035】
ベース部材とプラグ部材との接合は、ベース部材に設けられた流路溝と、溝パターンの形状に合わせたプラグ部材との間で行う。鍛接工法では、ベース部材にプラグ部材を嵌合して接合する際、各部材の接触部の表面における摩擦により酸化被膜が破壊され、更に、当該表面にアルミニウム新生面が露出することで接合が進行する。この鍛接による接合工程の具体的な条件としては、ベース部材とプラグ部材とを嵌合した状態で、250℃〜500℃で加熱し、ベース部材とプラグ部材との界面に熱間変形抵抗以上の高圧で加圧する。この加熱により、ベース部材とプラグ部材の接触面において、ベース部材とプラグ部材の接合面における変形抵抗が低下し、この後の加圧時の接合、つまりプラグ部材がベース部材に押し込まれやすくなる。そして、このように、プラグ部材がベース部材に押し込まれる際の摩擦により各々の接合面において新生面が生じ、新生面が生じた各部材をさらに加圧することで金属接合がなされる。ここで、加熱温度を250℃〜500℃とするのは、250℃未満では、ベース部材とプラグ部材との接合面の変形抵抗が小さく、新生面が生じにくくなり、ベース部材とプラグ部材との接合が不十分となる。500℃を超えると変形抵抗が少なくなりすぎ、変形し過ぎて接合が不十分になる。加熱温度は、好ましくは300℃〜450℃の範囲が好ましく、350℃〜420℃がより好ましい。
【0036】
ベース部材とプラグ部材とを接合する際には、生産性向上のためにできるだけ速い昇温速度を採る事が好ましい。但し、昇温速度が速い場合、ベース部材よりもプラグ部材の方に熱膨張が顕著に観察される。ベース部材とプラグ部材との体積差から、体積の小さいプラグ部材の昇温が速いからである。ここで、プラグ部材は、ベース部材の流路溝の溝パターンに沿った形状、つまり線状に近い形状であるので、その膨張は線膨張として発現することができる。線膨張による長さ変化は、元の長さを基に、各材料固有の膨張係数及び温度の差の積により求められる。ここで、アルミニウム合金の線膨張係数は、23×10
−6/℃であり、鉄や銅等の他の金属の線膨張係数より大きい。また、
図1、2のような長短の溝長さを有する溝パターンにあって、その蓋の役目をするプラグ部材にも長短に差がある。そのような場合、長さの長い部位において熱膨張による長さ変化が著しくなる。その結果、プラグ部材の長い部位でベース部材の溝パターンとのズレが生じ、溝パターンからの浮き上がりや、溝パターンから外れおそれがある。ズレ防止節は、このプラグ部材の長い部位でのズレ防止に特に有効である。つまり、ズレ防止節は、昇温速度を速くして伝熱板の生産性を図りつつ、ズレ防止という品質確保に寄与する。
【0037】
ベース部材とプラグ部材との接合は、上記温度に両部材を加熱した後、或いは加熱と同時に加圧が必要である。この加圧力は、プラグ部材がベース部材内部で塑性変形を起こすだけの加圧力が必要となる。すなわちプラグ部材が圧力を受ける面積と素材の熱間の変形抵抗から加圧力が導き出される。
【0038】
尚、アルミニウム材料は、通常、大気中で表面に酸化被膜が形成されるため、ベース部材とプラグ部材との接合前には、事前に酸化被膜を除去しておくことが好ましい。酸化被膜の除去の方法としては、部材を酸・アルカリエッチングにより洗浄することが挙げられる。この酸化皮膜除去により、ベース部材とプラグ部材の接合面において、より接合強度が増し、冷媒漏れ等の不具合を回避することができる。
【0039】
また、ベース部材とプラグ部材との接合前には、両部材の位置決め等の前作業が必要であるが、本発明においては、両部材の位置決め等の仮固定の溶接等は不要である。本発明ではズレ防止節の存在により位置決めが容易となり、また、加熱中のズレも抑制されるので溶接は不要となる。よって、本発明は、伝熱板製造の工程数の削減にも寄与できる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の具体的な実施形態となる実施例について、図面と共に説明する。なお、本実施形態は、本発明の一例であり、これに限定されるものではない。
【0041】
この実施例では、所定の溝パターンを有する伝熱板を製造し、ズレ防止節の効果を検討した。まず、伝熱板の製造方法について説明する。ベース部材に伝熱媒流路となる
図4の溝パターンの流路溝を形成すると共に、この溝パターンにあわせた形状のプラグ部材を用意した。ベース部材のサイズは、長さ1000mm×幅1000mm×高さ50mmであり、これに
図4に示すような、長短の直線を有する溝パターンの流路溝を切削により形成した。この流路溝の断面寸法は、底部における幅が20mmであり、表面側の接合溝は流路溝底部の幅よりも6mm(片側3mmずつ)広くなるようになっており、段付き形状とした。また、流路溝のズレ防止節が設けられる部分については、流路溝の幅よりも30mm(片側15mmずつ)広いズレ防止溝を形成した。尚、接合溝及びズレ防止溝の厚さ(深さ)は15mmである。
【0042】
そして、同じ材質のアルミニウム合金を切削加工してプラグ部材を製造した。
図5は、その上面図と断面図である。プラグ部材の平面形状は、ベース部材の溝パターンと同じ形状である。プラグ部材には、幅50mmのズレ防止節が形成されている。プラグ部材の幅及びズレ防止節の幅は、ベース部材の接合溝及びズレ防止溝と同じとした。プラグ部材の厚さは、15mmである。ズレ防止節には、その平面形状の輪郭において、角度変化が生じる部位にRが形成されており、この実施例では、節の立ち上がり部分のRを25とし、節の幅方向端部のRを25とした。
【0043】
ベース部材とプラグ部材との接合には、部材を位置決め後、設定された接合温度に昇温し、荷重5000トンで加圧してプラグ部材をベース部材に嵌合して接合した。ここでの接合温度は、200℃から500℃の間の温度を設定した。尚、本実施例では、伝熱媒流路の直線部の長さが相違する伝熱板をいくつか製造した。また、ズレ防止節がない伝熱板も製造した。そして、製造した伝熱板について、伝熱媒体流路部の断面観察とリークテストによる評価を行った。
【0044】
(1)断面観察
伝熱媒体流路の最も長い流路について、その中央の断面を観察しベース部材とプラグ部材とが接合されていることを確認した。接合後、観察部位を切り出した後、機械加工で鏡面に仕上げ(Ra3.2以下)、目視にて観察した。ベース部材とプラグ部材との接合面において、隙間のない状態を合格「○」とし、一部隙間があるが外部へつながっていないものを「△」とし、完全に接合されていないものを「×」とした。参考までに、接合後断面観察において、合格とされた断面の一例を
図6に示す。
【0045】
(2)リークテスト
リークテストは、完成した伝熱板の回路の流路片側を塞ぎ、他方をヘリウムリークディテクタにつなぎ、真空にした状態で外面からHeを吹き付け(真空吹付法)、Heリークがなきことを確認した。漏れが確認されない場合は合格「○」とし、漏れが確認された場合は「×」とした。
【0046】
【表1】
【0047】
接合後の評価結果を表1に示す。試験No.1〜No.4は、本願発明の実施例といえる。これらは、適切にズレ防止節が設定されており、接合温度が適正範囲にとしている。これらの実施例では、断面観察、及びリークテストにおいて合格となった。一方、試験No.6(比較例)は、流路の長が500mmを超えるものがありながらズレ防止節を設置しなかったため、断面観察において接合不具合が見られ、リークテストによってリークが認められた。また、試験No.7(比較例)は、接合温度が低かったため、接合不具合であった。尚、No.5は、ズレ防止節を設定していないので本発明の範囲外となる(参考例)。この伝熱板は流路長が500mm未満であるので、ズレ防止節を設けなくても接合不具合は生じなかった。