(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって設けられたエピタキシャル膜は、SiC半導体デバイスの活性領域となる。
【0004】
エピタキシャル膜を活性領域として機能させるためには、エピタキシャル膜の一部に不純物イオンを局所的に注入する。そして、不純物イオンが局所的に注入されたSiCエピタキシャル膜をアニール処理する。アニール処理は、不純物イオンにより乱れた結晶性を回復させ、不純物イオンを活性化する。これらの処理を行うことで、不純物イオンを注入した局所領域がウェル領域として機能する。
【0005】
SiCエピタキシャルウェハのアニールは、1600℃以上の極めて高温で行われる。この高温でのアニール処理は、種々の問題を引き起こす。その一つが、SiCエピタキシャルウェハの表面荒れである。アニールによりSiCエピタキシャルウェハの表面からSiが昇華し、SiCエピタキシャルウェハの表面が荒れる。
【0006】
特許文献1には、この表面荒れを防ぐために、ウェハを載置する容器の一部をSiCとすることが記載されている。容器からSiが供給されることで、SiCエピタキシャルウェハの表面荒れが抑制される。また特許文献2には、アニール処理時にウェハの表面にカーボン膜を成膜することが記載されている。SiCエピタキシャルウェハの表面をカーボン膜で被覆することで、SiCエピタキシャルウェハの表面荒れが抑制される。
【0007】
また高温でのアニール処理が生み出す問題の一つとして、SiCウェハとエピタキシャル膜との界面に生じる界面転位がある(非特許文献1)。界面転位の両端からは[11−20]方向に延在する基底面転位(BPD)が生じる。BPDは、デバイスに通電時に積層欠陥へと変換する。積層欠陥は、デバイスの高抵抗領域となる。その結果、デバイスの順方向電圧が増大し、デバイスの特性不良の原因となる。
【0008】
非特許文献1には、この界面転位を抑制するために、SiCエピタキシャルウェハの面内方向の温度勾配を小さくすることが記載されている。SiCエピタキシャルウェハの面内の温度分布が一定になることで、SiCエピタキシャルウェハに加わる応力が小さくなり、界面転位が抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のアニール装置及びアニール方法では、アニール時のSiCエピタキシャルウェハの温度勾配を十分抑制することができない。そのため、特許文献1及び2に記載のアニール装置及びアニール方法では、界面転位を充分に抑制することができない。
【0012】
また非特許文献1に記載の方法は、SiCエピタキシャルウェハの面内方向の温度勾配を抑制できるが、積層方向に生じる温度勾配を充分に抑制できない。そのため、複数枚のSiCエピタキシャルウェハを同時にアニールすることはできない。また非特許文献1において、界面転位の発生を抑制できることが示されているのは、3インチ以下の小さい基板である。近年の技術開発により、SiCエピタキシャルウェハのサイズは4インチ以上が主流となっている。SiCエピタキシャルウェハのサイズが大きくなると、面内方向の温度勾配を抑制しただけでは、十分に界面転位の発生を抑制できるとは言えない。
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、炉内の温度差を低減できるアニール装置を提供することを目的とする。また界面転位がアニール処理時に発生することを抑制できる半導体ウェハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明等は、鋭意検討の結果、アニール装置を二重構造にした。そして内側の構造体を外側の構造体の輻射により加熱することで、炉内の温度差を格段に低減できることを見出した。またこのアニール装置を用いることで、アニール処理時に発生する界面転位を大幅に抑制できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0015】
(1)第1の態様にかかるアニール装置は、第1炉体と、前記第1炉体の内側に位置し、少なくとも1枚のウェハを保持できる第2炉体と、を備え、前記第1炉体は加熱手段により加熱され、前記第2炉体は前記第1炉体からの輻射により加熱される。
【0016】
(2)上記態様にかかるアニール装置は、ウェハを収容でき、前記第2炉体により保持されるウェハ容器をさらに備えてもよい。
【0017】
(3)上記態様にかかるアニール装置における前記第2炉体は、前記第2炉体の底面に対して垂直方向に、複数のウェハを接触させずに積層配置できる構成でもよい。
【0018】
(4)上記態様にかかるアニール装置は、前記第2炉体を支持する支持体をさらに備え、前記支持体と前記第2炉体との接触面積が、前記第2炉体の前記支持体と接触する第1面全体の面積の30%以下であってもよい。
【0019】
(5)上記態様にかかるアニール装置は、前記加熱手段による加熱が高周波加熱の場合において、前記第1炉体の厚みが2mm以上であってもよい。
【0020】
(6)上記態様にかかるアニール装置は、前記加熱手段による加熱が高周波加熱以外の場合において、前記第1炉体の厚みが10mm以下であってもよい。
【0021】
(7)上記態様にかかるアニール装置において、前記第1炉体に温度測定用の孔部が設けられていてもよい。
【0022】
(8)第2の態様にかかる半導体ウェハの製造方法は、上記態様にかかるアニール装置を用いる。
【0023】
(9)上記態様にかかる半導体ウェハの製造方法において、前記アニール装置における加熱温度が1600℃以上2000℃以下であってもよい。
【0024】
(10)上記態様にかかる半導体ウェハの製造方法において、前記アニール装置の前記第2炉体にウェハを保持する前に、前記ウェハの両面にカーボン膜を被覆してもよい。
【発明の効果】
【0025】
上記態様にかかるアニール装置によると、炉内の温度差を低減することができる。また上記態様にかかる半導体ウェハの製造方法によると、アニール処理時に生じる界面転位を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
「アニール装置」
図1は、本実施形態にかかるアニール装置の断面模式図である。
図1に示すアニール装置は、第1炉体10と第2炉体20とを備える。第2炉体20は、第1炉体10内に支持体40により支持される。また第2炉体20は、複数のウェハ容器30を保持する。
【0029】
(第1炉体)
図1に示す第1炉体10は、底部11と側部12と蓋部13とを有する。底部11、側部12及び蓋部13は、それぞれ分離可能である。底部11が側部12の一端を塞ぎ、蓋部13は側部12の他端を塞ぐことで、第1炉体10内に第1加熱空間を形成する。第1炉体10は、複数の部材により構成されていなくてもよい。一方で、第1炉体10が複数の部材により構成されていると、第2炉体20等の設置が容易になる。
【0030】
第1炉体10は、外部に設けられた加熱手段により加熱される。第1炉体10は、熱電子衝撃法、高周波加熱法、抵抗加熱法、ランプ加熱法等により加熱できる。熱電子衝撃法は、真空中で第1炉体10に熱電子を照射することで、第1炉体10を加熱する方法である。高周波加熱法は、第1炉体10に高周波を加え、第1炉体10そのものを発熱させる方法である。抵抗加熱法で、ヒータを通電により加熱し、ヒータからの輻射で第1炉体10を加熱する方法である。ランプ加熱法は、ランプにより第1炉体10を加熱する方法である。
【0031】
高周波加熱法と抵抗加熱法は、ヒータの形状、炉内構造の自由度が高い。そのため、高周波加熱法と抵抗加熱法は、第1加熱空間内の均熱性を高めることができる。一方で、熱電子衝撃法は、第1炉体10を高速で昇降温できる。
【0032】
SiCエピタキシャルウェハをアニールする場合、第1炉体10内は1600℃〜2000℃の高温になる。そのため、第1炉体10はグラファイトにより構成されていることが好ましい。
【0033】
第1炉体10の適切な厚みは、加熱手段によって異なる。ここで、第1炉体10の厚みとは、底部11、側部12及び蓋体13の厚みを指す。これらの厚みが場所によって変化する場合は、それらの厚みの平均値を第1炉体10の厚みとして扱う。
【0034】
加熱手段による加熱が高周波加熱の場合、第1炉体10の厚みは2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましい。高周波加熱の場合、第1炉体10が高周波を吸収して発熱する。第1炉体10が高周波を十分吸収できないと、第2炉体20が直接加熱される。第2炉体20が直接加熱されると第2炉体20内の均熱性が低下する。第1炉体10の厚みは2mm以上であれば、高周波を十分吸収できる。
【0035】
一方で、加熱手段による加熱が高周波加熱以外の場合、第1炉体10の厚みは10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。第1炉体10の厚みを薄くすると、第1炉体10の熱容量が低下する。そのため、第1炉体10の昇降温速度が速まる。昇降温速度が速ければ、アニール処理に要する時間が短くなる。
【0036】
また
図1に示す第1炉体10は、底部11と蓋部13に孔部11A、13Aが設けられている。第1炉体10に孔部11A、13Aを設けることで、第1炉体10内の温度分布を測定できる。温度測定には、放射温度計を用いることができる。孔部11A、13Aの径は、温度測定を可能とするために、2.5mm以上であることが好ましい。
【0037】
(第2炉体)
第2炉体20は、第1炉体10の内側に位置する。第2炉体20は、ウェハを保持できる。
図1に示す第2炉体20は、ウェハ容器30を保持することで、ウェハ容器30内に載置されたウェハを保持する。
【0038】
図1に示す第2炉体20は、底面部材21と側面部材22と上面部材23により構成されている。底面部材21の上面、側面部材22の上下面、上面部材23の下面には溝が形成されている。これらの溝にウェハ容器30を嵌合することで、ウェハ容器30は第2炉体20に保持される。ウェハ容器30の保持方法は、
図1の態様に限られない。
【0039】
第2炉体20は、第1炉体10からの輻射熱により加熱される。ここで「輻射熱により加熱される」とは、第2炉体20の加熱の主要因が輻射熱であると言うことであり、輻射以外の要因で第2炉体20が加熱されていてもよい。輻射以外の要因としては、支持体40を介した熱伝導等が挙げられる。
【0040】
第1炉体10からの輻射熱により間接的に加熱されることで、第2炉体20の積層方向の温度差が低減する。ここで積層方向とは、第2炉体20の底面に対して垂直方向をいう。第2炉体20の積層方向の温度差は、10℃以下まで低減できる。
【0041】
第2炉体20は、
図1に示すように複数のウェハ容器30を保持できる。複数のウェハ容器30は、互いに接触せず、熱的に分離されていることが好ましい。またウェハ容器30は、積層方向に対して垂直方向に延在していることが好ましい。
【0042】
保持するウェハ容器30の数が増えると、第2炉体20の積層方向の高さが高くなる。第2炉体20は輻射により加熱されているため、第2炉体20の積層方向の高さが高くなっても、積層方向の温度差は一定の範囲内である。そのため、複数のウェハを同条件で一度にアニールできる。
【0043】
第2炉体20は、第1炉体10と同様に、1600℃〜2000℃の高温になる。そのため、第2炉体20もグラファイトにより構成されていることが好ましい。
【0044】
(ウェハ容器)
ウェハ容器30は、第2炉体20により支持されている。
図2は、本実施形態にかかるアニール装置100のウェハ容器30を拡大した図である。ウェハ容器30は、試料台31と蓋32とを有する。ウェハWは、試料台31の載置面31aに載置される。試料台31と蓋32とは、嵌合して密閉空間を形成する。ウェハ容器30を用いることで、ウェハWを密閉空間内でアニールでき、ウェハWからのSiの昇華を防げる。
【0045】
ウェハ容器30は高温で使用できる材料により構成されている。例えば、TaC、グラファイト、TaC被覆されたグラファイト等を用いることができる。
【0046】
ウェハ容器30内に載置されるウェハWの第1面Wa及び第2面Wbは、カーボン膜で被覆することが好ましい。カーボン膜は、加熱処理時にウェハWの表面からのSiの昇華を防ぐ。Siの昇華を抑制することで、ウェハWの表面荒れが抑制される。
【0047】
またウェハWの両面(第1面Wa及び第2面Wb)をカーボン膜で被覆することで、ウェハWの両面の温度差を抑制できる。ウェハWの両面の温度差を低減することで、ウェハWに加わる応力を抑制し、界面転位の発生を抑制できる。
【0048】
(支持体)
支持体40は、第1炉体10内で第2炉体20を支持する。
図1に示す支持体40は、第1炉体10の底部11に設けられた溝部11aに嵌合されている。支持体40の形状は特に問わない。例えば、第2炉体20の側方に支持体を設け、側方から第2炉体20を支持してもよいし、第2炉体20の上方に支持体を設け、上方から第2炉体20を支持体により吊るしてもよい。
【0049】
支持体40と第2炉体20との接触面積は、第2炉体20の支持体40と接触する第1面全体の面積の30%以下であることが好ましい。ここで「第2炉体20の支持体40と接触する第1面」とは、第2炉体20の支持体40と接触している部分を含む面を意味する。例えば、支持体40が第2炉体20の底面と接触する場合は、第2炉体20の底面が第1面となる。また
図1に示すように、支持体40が第2炉体20の底面及び側面と接触する場合は、接触する底面及び側面のうち面積の大きい方の面を第1面とする。
【0050】
支持体40は高温で使用できる材料により構成されている。例えば、TaC、グラファイト、TaC被覆されたグラファイト等を用いることができる。
【0051】
また支持体40が放射温度計と被測定部との光路を塞ぐ場合は、支持体40に孔部40Aを設けることが好ましい。
【0052】
上述のように、本実施形態にかかるアニール装置100によると、第2炉体20が第1炉体10からの輻射により間接的に加熱される。そのため、第2炉体20内の第2加熱空間内の温度差を10℃以下にできる。第2加熱空間が均熱化することで、アニール時にウェハWが受ける応力が小さくなり、界面転位の発生を抑制できる。また第2加熱空間が均熱化することで、複数枚のウェハを同様の条件下で同時にアニールすることができる。
【0053】
なお、アニール装置100は、ウェハ容器30を加熱する第2炉体20を間接的に加熱することができればよく、第1炉体10と第2炉体20との間に、さらに複数の炉体が設けられていてもよい。
【0054】
「半導体ウェハの製造方法」
本実施形態にかかる半導体ウェハの製造方法は、上述のアニール装置を用いて作製する。以下、本実施形態にかかる半導体ウェハの製造方法の一例について、
図3を基に具体的に説明する。
図3は、本実施形態にかかる半導体ウェハの製造方法の製造過程を模式的に示した図である。
【0055】
本実施形態にかかる半導体ウェハの製造方法は、不純物ドープ工程と、カーボン膜形成工程と、アニール工程と、カーボン膜除去工程とを有する。
【0056】
まず不純物ドープ工程の前に、半導体ウェハを準備する。以下、半導体ウェハとしてSiCエピタキシャルウェハを用いた場合について説明する。
【0057】
SiCエピタキシャルウェハ50は、SiCインゴットから切り出したSiCウェハ51上にエピタキシャル膜52が形成されている。
【0058】
SiCウェハ51は、直径が100mm以上のものを用いることが好ましい。またSiCウェハ51は、[11−20]方向に0〜8°のオフ角度を有していることが好ましく、0〜5°のオフ角度を有していることがより好ましく、3.5〜5°のオフ角度を有していることがさらに好ましい。
【0059】
エピタキシャル層52の厚みは5μm以上であることが好ましい。エピタキシャル膜52は、CVD法等によって得られる。エピタキシャル層52は、n型の半導体である。
【0060】
(不純物ドープ工程)
不純物ドープ工程では、
図3(a)に示すように、エピタキシャル層52にマスク53を介して不純物イオン54を注入する。不純物イオン54は、マスク53の開口部に注入され、不純物イオン注入領域55を形成する。不純物イオンとしては、例えばアルミニウム(Al)イオン等を用いることができる。不純物イオン54の注入は、異なる加速電圧で複数回行っても良い。不純物イオン54の注入後には、マスク53を除去する。
【0061】
(カーボン膜形成工程)
次に、
図3(b)に示すように、SiCエピタキシャルウェハ50の両面に、カーボン膜56を成膜する。カーボン膜56は、加熱処理時にSiCエピタキシャルウェハ50の表面からのSiの昇華を防ぐ。Siの昇華を抑制することで、SiCエピタキシャルウェハ50の表面荒れが抑制される。
【0062】
また、カーボン膜56でSiCエピタキシャルウェハ50の両面を被覆することで、SiCエピタキシャルウェハ50の厚み方向の温度差が抑制される。その結果、SiCエピタキシャルウェハ50に加わる応力が抑制され、界面転位の発生を抑制できる。
【0063】
カーボン膜56は、スパッタ法、CVD法、高周波プラズマCVD法等により形成できる。また有機膜を炭化させてカーボン膜56を形成してもよい。カーボン膜56は、結晶性カーボン膜、非晶質のダイヤモンドライクカーボン(DLC)、有機膜を炭化させて形成したカーボン膜等を用いることができる。
【0064】
カーボン膜56の膜厚は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。カーボン膜56の膜厚が薄すぎると、Siの昇華によるウェハ表面の表面荒れを充分抑制できなくなる。一方で、カーボン膜56の厚みが厚すぎると、成膜に要する時間、コストが増加する。またカーボン膜除去工程でカーボン膜56の除去が困難になる。
【0065】
SiCエピタキシャルウェハ50の両面のカーボン膜56の厚みは、同程度であることが好ましい。カーボン膜56の厚さを同じにすることにより、SiCエピタキシャルウェハ50とカーボン膜56との界面に働く熱応力により、SiCエピタキシャルウェハ50が反ることを防ぐことができる。すなわち、この界面における圧縮性の応力を低減し、界面転位の発生を抑制できる。
【0066】
カーボン膜56を有機膜の炭化により作製する場合は、以下の手順で作製する。まず、SiCエピタキシャルウェハ50の両面に、有機膜を3μm程度の厚さになるよう塗布する。そして、塗布した有機膜をアルゴン雰囲気下の加熱炉において、800℃で10分処理することでカーボン膜56が得られる。有機膜をSiCエピタキシャルウェハ50の両面に順番に塗布する場合は、一面に有機膜を塗布した後に仮焼きすることが好ましい。
【0067】
カーボン膜56をスパッタ法等の成膜装置により成膜する場合は、スパッタ源に対向する積層面を途中で変えることで、両面にカーボン膜56を形成できる。
【0068】
(アニール工程)
アニール工程は、本実施形態にかかるアニール装置100(
図1参照)を用いて行う。アニール時にはウェハ容器30(
図2参照)内に、SiCエピタキシャルウェハ50を載置することが好ましい。SiCエピタキシャルウェハ50をアニールすることで、不純物イオン注入領域55が活性化し、活性化領域57となる。また不純物イオン注入領域55の結晶欠陥が回復する。
【0069】
アニール工程におけるアニール温度は、1600℃以上2000℃以下であることが好ましく、1700℃以上1900℃以下であることより好ましく、1700℃以上1850℃以下であることがさらに好ましい。またアニール処理は、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)のうち少なくとも一方を含む不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0070】
本実施形態にかかるアニール装置を用いることで、第2炉体20内の温度差を40℃以下に抑えることができる。また条件によっては、第2炉体20内の温度差を10℃以下に抑えることができる。アニール工程における温度は1500℃を超える温度であり、第2炉体20内の温度差がこの範囲内であるということは、極めて温度差が少ないと言える。
【0071】
界面転位を抑制するためには、SiCエピタキシャルウェハ50の両面の温度差を40℃以下とすることが好ましい。当該温度範囲にすることで、SiCエピタキシャルウェハ50が受ける熱応力を抑制できる。熱応力が低減することで、SiCウェハ51とエピタキシャル膜52との界面における界面転位の発生を抑制できる。
【0072】
アニール工程における昇温速度は、1200℃から最高温度までの昇温時に200℃/分以下であることが好ましく、100℃/分以下であることがより好ましい。最大昇温速度が200℃/分より大きいと、アニール装置100内の温度差が大きくなる場合がある。
【0073】
(カーボン膜除去工程)
最後に、カーボン膜56をSiCエピタキシャルウェハ50から除去する。カーボン膜56を除去する際は、酸素雰囲気で熱酸化し、カーボン膜56を灰化する。具体的には、熱酸化炉内にSiCエピタキシャルウェハ50を設置する。そして熱酸化炉内に、流量3.5L/分の酸素を供給しながら、1125℃で90分間加熱する。この処理により、カーボン膜56が灰化し、除去される。カーボン膜56は、酸素を用いたプラズマ処理やオゾン処理によって除去してもよい。
【0074】
上述のように、本実施形態にかかる半導体ウェハの製造方法を用いると、不純物注入領域55を活性化するためのアニール工程のアニール温度をアニール装置100内で均一化できる。そのため、SiCエピタキシャルウェハ50が受ける熱応力が抑制され、SiCウェハ51とエピタキシャル膜52との界面における界面転位の発生を抑制できる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0076】
(実施例1)
直径100mmで厚さ350μmの4°オフの4H−SiCウェハのSi面上に、高周波誘導加熱方式の横型CVD装置を使用して、エピタキシャル膜を33μm成長させた。エピタキシャル膜へのドーピングは窒素を用いて行い、キャリア濃度は2×10
15cm
−3とした。
【0077】
次に、このエピタキシャル基板にAlイオンを注入した。Alイオンの注入により、濃度1×10
18cm
−3、厚さ1μmの不純物注入領域を形成した。イオン注入は、フォトレジスト膜用いて、選択した開口領域下のエピタキシャル膜にのみ行った。
【0078】
Alイオンの注入は、加速電圧470keVと280keVの2段階で行った。イオン注入後にフォトレジスト膜を除去した。その後、保護膜用のフォトレジストをSiCエピタキシャルウェハの両面に3μm程度塗布し、プリベーク処理した。その後、SiCエピタキシャルウェハを、アルゴン雰囲気中で、800℃10分処理した。この処理によりSiCエピタキシャルウェハの両面に約0.75μmのカーボン膜を形成した。
【0079】
次に、
図1に示すアニール装置100を用いてアニール処理を行った。SiCエピタキシャルウェハは、ウェハ容器30内に収納してアニールした。第2炉体20は、積層方向に5個のウェハ容器を保持する。第2炉体20の積層方向の高さは136mmであった。第1炉体10は、グラファイト製であり、その厚みは3mmとした。第1炉体10は抵抗加熱により加熱し、第2炉体20は第1炉体10からの輻射により加熱した。ウェハ容器30は、第2炉体20からの輻射により加熱した。そして、1800℃まで昇温した後、10分間保持した。
【0080】
その後、アニール処理後のSiCエピタキシャルウェハを、酸素雰囲気下で1125℃、90分の熱処理を行った。この処理によりカーボン膜が灰化して除去され、SiC半導体デバイスが得られた。
【0081】
(比較例1)
比較例1は、
図1に示すアニール装置を用いなかった点が実施例1と異なる。比較例1では、ウェハを載置したサセプタを熱電子衝撃により発熱させ、ウェハをサセプタからの熱伝導または輻射により直接加熱した。
【0082】
実施例1及び比較例1のアニール処理の昇温中における第2炉体又はウェハ容器の上面と下面の温度差を測定した。その結果を
図4に示す。放射温度計は、物質が放つ赤外線等により温度を測定する。そのため放射温度計は、炉内の最も外側に存在する構成の温度を測定する。放射温度計による温度測定は第1炉体の孔部から行うため、実施例1では第2炉体の上下面の温度差を測定する。一方で、比較例1では第2炉体が存在しないため、ウェハ容器の上下面の温度差を測定する。
【0083】
図4に示すように、実施例1ではアニール処理時における第2炉体の上下面の温度差が10℃以下であった。そのため、第2炉体内に位置するウェハ容器及びウェハ容器に収容されるSiCエピタキシャルウェハの積層方向の温度差も10℃以下となっている。これに対し、比較例1ではアニール処理時におけるサセプタの上下面の温度差が100℃以上であった。そのため、ウェハ容器に収容されるSiCエピタキシャルウェハの積層方向の温度差も100℃程度と考えられる。
【0084】
また実施例1及び比較例2にかかるSiCエピタキシャルウェハのアニール前後における界面転位を評価した。
【0085】
界面転位は、フォトルミネッセンス(PL)測定により行った。界面転位はPL測定によって赤外光の発光として検出される。PLを画像として測定し(フォトルミネッセンスマッピング)、形状から界面転位を識別し、界面転位の数を定量的に測定した。PL測定は、フォトンデザイン社製のPLIS−100型を用いた。測定条件は、励起側には313nmのバンドパスフィルターを、受光側には750nmのロングパスフィルターを使用し、露光時間は1秒とした。
【0086】
図5は、アニール前後における界面転位の変化を測定した結果である。
図5(a)は実施例1の結果であり、
図5(b)は比較例1の結果である。アニール前は、Alイオンを注入する前に測定し、アニール後はカーボン膜を除去後に測定した。なお、同一の箇所を測定していることを確認するために、
図5(a)では、界面転位以外の欠陥が存在する部分で測定し、
図5(b)では、チップの座標を同定して測定した。
【0087】
図5(a)に示すように、実施例1ではアニール後に界面転位は見られなかった。アニール処理後に新たに発生した界面転移密度は0個/cm
2であった。これに対し
図5(b)に示すように、比較例1では、アニール処理の前にはなかった[1−100]方向に伸びる線状の発光・吸収が観察され、界面転移の発生が確認された。基板全域にわたって測定を行ったところ、アニール処理により発生した界面転位密度は、最も高密度な部分で519個/cm
2であった。