特許第6948869号(P6948869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6948869
(24)【登録日】2021年9月24日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】オイル供給装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20210930BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   F16H57/04 N
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-146455(P2017-146455)
(22)【出願日】2017年7月28日
(65)【公開番号】特開2019-27495(P2019-27495A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】向井 崇貴
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−013184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機のギヤの回転により掻き上げられたオイルを変速機の所定箇所に供給するオイル供給装置であって、
前記所定箇所の上方に配置され、前記ギヤの回転により掻き上げられたオイルを貯留可能とされた貯留部材を有し、
前記貯留部材が、所定の基準面よりも下方に窪んだ凹部の内部にオイルを滴下させるオイル孔と、オイルの一部を保持する凹部形状とされたオイル溜部とを備え、
前記オイル溜部が、前記オイル孔に対してトランスミッションのロール方向に配置されており、
前記トランスミッションのロール方向に配置される前記オイル孔と前記オイル溜部とは、それぞれ前記凹部の内側において堰部で区画された滴下領域において凹部の周壁及び堰部に取り囲まれるように形成された貫通孔、及び前記凹部の内側において堰部で区画された保持領域において周壁及び堰部に取り囲まれ底部が閉塞されたものとして形成されている、ことを特徴とするオイル供給装置。
【請求項2】
前記凹部の内側が、前記基準面よりも低い位置において滴下領域に向けて傾斜した上端面を有する前記堰部により前記滴下領域と前記保持領域とに区画されている、ことを特徴とする請求項1に記載のオイル供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動機構のリングギヤや変速装置の各ギヤにより掻き上げられたオイルを被潤滑部に供給するようにしたオイル供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
差動機構のリングギヤや変速装置の各ギヤにより掻き上げられたオイルを被潤滑部に供給することができるオイル供給機構として、従来、例えば下記特許文献1や下記特許文献2に開示されたものがある。特許文献1のオイル供給機構では、差動機構のリングギヤによって掻き上げられたオイルを差動機構の上方に導き、ここから差動機構に滴下させるよう機能するリブをトランスアクスルケースに設けている。特許文献1のオイル供給機構は、これらの構成により、差動機構のリングギヤが掻き上げたオイルを、差動機構の特に潤滑が必要な部分に効率的に供給可能としている。また、特許文献2のオイル供給装置では、差動機構のリングギヤが掻き上げたオイルをリングギヤの上方に設けられた貯留部材に案内して、貯留部材に設けられたオイル滴下孔から変速装置の各ギヤに滴下可能とされている。
【0003】
近年では、車両の燃費改善に対するニーズの高まりにより、マニュアルトランスミッションのオイル量や粘度、また油面の低減による撹拌抵抗の低減が進んでいる。上述した従来技術は、リングギヤの掻き上げにより上方に設けられたオイルタンク内へのオイルの充填率を高めて撹拌抵抗の低減を実現しつつ、リングギヤに掻き上げられたオイルを被潤滑部に供給してギヤシャフトを構成する部品を潤滑可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−113352号公報
【特許文献2】特開2011−185332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両の走行時には、継続的にリングギヤや変速装置の各ギヤによるオイルの掻き上げが行われるため被潤滑部の潤滑が行われるものの、車両が停止するとリングギヤ等によるオイルの掻き上げが停止する。さらに、車両が走行停止した後長時間が経過すると、リングギヤの掻き上げによりオイルタンクに貯留されたオイルが全て滴下してしまい、ギヤやシンクロ部の潤滑が行われない状態となる。このような状態でエンジンを始動しシフト操作を行うと、ギヤやシンクロ部にオイルがない状態(ドライ状態)でのシフト操作となる。そのため、ギヤやシンクロが滑らかに摺動できず、引っ掛かり感等のシフト操作性に悪影響が生じるといった問題があった。
【0006】
さらに、近年では上述した車両燃費改善ニーズの高まりにより、マニュアルトランスミッションのオイル量、粘度、油面の低減による撹拌抵抗の低減が進み、冷間始動時のマニュアルトランスミッションの内部における潤滑性能の確保がますます困難となっている。
【0007】
そこで本発明は、車両が停止している状態において被潤滑部の潤滑を可能とし、シフト操作性を改善することができるオイル供給装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため提供される本発明のオイル供給装置は、変速機のギヤの回転により掻き上げられたオイルを変速機の所定箇所に供給するオイル供給装置であって、前記所定箇所の上方に配置され、前記ギヤの回転により掻き上げられたオイルを貯留可能とされた貯留部材を有し、前記貯留部材が、所定の基準面よりも下方に窪んだ凹部の内部にオイルを滴下させるオイル孔と、オイルの一部を保持する凹部形状とされたオイル溜部とを備え、前記オイル溜部が、前記オイル孔に対してトランスミッションのロール方向に配置されており、前記トランスミッションのロール方向に配置される前記オイル孔と前記オイル溜部とは、それぞれ前記凹部の内側において堰部で区画された滴下領域において凹部の周壁及び堰部に取り囲まれるように形成された貫通孔、及び前記凹部の内側において堰部で区画された保持領域において周壁及び堰部に取り囲まれ底部が閉塞されたものとして形成されている、ことを特徴とするものである。
【0009】
本発明のオイル供給装置においては、変速機においてオイルを供給して潤滑すべき所定箇所(以下、「被潤滑部」とも称す)の上方に貯留部材が設けられている。また、貯留部材は、オイル溜部が設けられており、貯留部に導入されたオイルの一部を保留しておくことができる。そのため、本発明のオイル供給装置においては、長期に亘ってエンジンをかけることなく停止した後であっても、オイル溜部に幾ばくかのオイルが残った状態とすることができる。さらに、オイル溜部は、オイルの滴下用として設けられたオイル孔に対してトランスミッションのロール方向に隣接する位置に設けられている。そのため、ギヤやシンクロ部がドライ状態になるほどエンジンが長期に亘って停止する等していたとしても、エンジンの始動によりロール方向に作用する力の影響により、オイル貯留部に保持されていたオイルをオイル孔に向けて流し、変速機の所定箇所(被潤滑部)に向けて滴下させて潤滑させることができる。従って、本発明のオイル供給装置によれば、オイル循環用ポンプ等を設けることなく、エンジン始動時のシフト操作性を向上させることができる。すなわち、オイル溜部がトランスミッションのロール振動が作用する位置に設けられているので、エンジン始動後に速やかにオイル溜部内のオイルをオイル孔を通して被潤滑部に向けて滴下させることができ、ユーザはエンジン始動時から滑らかなシフト操作感を得ることができる。なお、ロール方向は、エンジンとトランスミッションとを結ぶ仮想線をロール軸とし、そのロール軸に略直交して動く方向である。具体的には、例えばいわゆる横置きエンジンでは車幅方向がロール軸であり、車両前後方向がロール方向となる。また、いわゆる縦置きエンジンでは同様の考え方で車幅方向がロール方向となる。
【0010】
本発明のオイル供給装置は、前記凹部の内側が、前記基準面よりも低い位置において滴下領域に向けて傾斜した上端面を有する前記堰部により前記滴下領域と前記保持領域とに区画されているものであることが望ましい。
【0011】
上述の構成によれば、オイル溜部に保持されるオイルの油面よりも下方にオイル孔が配置される。これにより、車両停車後も堰部により、オイル溜部にオイルを保持しつつ、エンジン始動後のトランスミッションのロール振動によりオイル溜部に溜ったオイルが堰部を乗り越える。このため、エンジン始動後から速やかに、かつ効率的にオイル孔にオイルを流下させることができる。
【0012】
本発明のオイル供給装置は、前記貯留部材の底部に、所定の基準面よりも下方に窪んだ凹部が設けられており、前記凹部の内側が、堰部により滴下領域と保持領域とに区画されており、前記滴下領域に前記オイル溜部が設けられ、前記保持領域に、前記オイル孔が形成され、前記滴下領域に、オイル溜部が形成されており、前記堰部の上端部が、前記基準面よりも低い位置にあるものであることが望ましい。
【0013】
上述の構成によれば、オイル溜部に保持されるオイルの油面の上限が、貯留部材の底部において所定の基準面以下の位置に制限される。そのため、エンジンの始動に伴う力が作用すると、オイル貯留部に保持されていたオイルは、前述した基準面よりも上方側にある凹部の周辺領域ではなく、基準面よりも下方側にある堰部の上端部を優先的に乗り越えて流下し、効率的にオイル孔に案内される。その結果、エンジン始動時に、凹部の周囲にオイルが散乱することを抑制し、オイル孔に効率的にオイルを流下させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両が停止している状態において被潤滑部の潤滑を可能とし、シフト操作性を改善することができるオイル供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のオイル供給装置を備える自動車の変速装置の模式図である。
図2図1の変速装置の一部断面平面展開図である。
図3図1の変速装置のオイル供給機構を示す正面図(図2のIII−III矢視図)である。
図4図1の変速装置のオイル供給装置を示す斜視図である。
図5図1のオイル供給装置のオイル導入路部分の拡大図である。
図6図1のオイル供給装置のオイル導入路及びオイル貯留部の平面図である。
図7図1のオイル供給装置の凹部を示す図である。(a)は平面図、(b)は断面図、(c)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るオイル供給装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、オイル供給装置に特徴を有するものであるが、以下の説明において、先ずオイル供給装置を備えた変速装置の構成の概略について説明を行い、その後オイル供給装置について詳細に説明する
【0017】
≪変速装置の概略について≫
図1は、エンジンユニット1に設けられるエンジン本体2及び変速装置3を示す模式図である。エンジンユニット1は、自動車に搭載される。また、エンジンユニット1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に一体的に接続されたマニュアル式の変速装置3とを備えている。
【0018】
変速装置3は、変速機構4と、変速装置ケース5と、差動機構6とを有する。変速機構4は、エンジン回転を前進5段,後進1段の何れかの変速段に切り換えて出力する。差動機構6は、変速機構4からの出力回転を左,右の駆動輪9,9に伝達する。変速装置ケース5には、変速機構4及び差動機構6が収容される。
【0019】
変速装置ケース5は、ミッションケース5aと、デフケース5bとを有する。ミッションケース5aには、変速機構4が収容される。デフケース5bは、ミッションケース5aに接続して形成される。また、デフケース5bには、差動機構6が収容される。変速装置ケース5は、合面5’において、後述するクラッチハウジング11及び差動枠6bを囲む部分(以下、「差動枠側部分5b’」と記載する)と、変速機構4を囲む部分5a’とに分割されている。
【0020】
クラッチハウジング11内には、変速機構4へのエンジン回転を接続又は遮断するクラッチ機構10が収容されている。クラッチ機構10には、エンジン本体2のクランク軸2aが連結されている。
【0021】
変速機構4は、インプット軸12と、アウトプット軸13と、変速ギヤ列とを有する。インプット軸12には、クラッチ機構10を介してエンジン回転が伝達される。アウトプット軸13は、インプット軸12と平行に配置される。変速ギヤ列は、アウトプット軸13及びインプット軸12に対して配置され、インプット軸12の回転を所定の変速回転数でもってアウトプット軸13に伝達する。なお、本実施形態の変速ギヤ列は、前進5段,後進1段とされている。
【0022】
アウトプット軸13の差動機構6側の端部には、出力ギヤ13gが形成される。また、出力ギヤ13gには、差動機構6のリングギヤ6aが噛合している。
【0023】
インプット軸12には、クラッチ機構10側から順に、1速ドライブギヤ12a、リバースドライブギヤ12b、及び2速ドライブギヤ12cが形成され、さらに3速ドライブギヤ12d、4速ドライブギヤ12e、及び5速ドライブギヤ12fがそれぞれ回転自在に装着されている。
【0024】
アウトプット軸13には、1速ギヤ13a、リバースギヤ13b、及び2速ギヤ13cが、それぞれ回転自在に装着される。また、アウトプット軸13には、3速ギヤ13d、4速ギヤ13e、及び5速ギヤ13fが、それぞれスプライン結合される。1速ギヤ13aは、1速ドライブギヤ12aに噛合する。リバースギヤ13bは、リバース中間ギヤ14aを介してリバースドライブギヤ12bに噛合する。2速ギヤ13cは、2速ドライブギヤ12cに噛合する。3速ギヤ13dは、3速ドライブギヤ12dに噛合する。4速ギヤ13eは、4速ドライブギヤ12eに噛合する。5速ギヤ13fは、5速ドライブギヤ12fに噛合する。なお、リバース中間ギヤ14aは、中間軸14に軸方向にスライド可能に支持されている。
【0025】
図3に示すとおり、変速機構4は、インプットシフト軸23、アウトプットシフト軸24、及びリバースシフト軸25を有する。インプットシフト軸23、アウトプットシフト軸24、及びリバースシフト軸25は、インプット軸12、アウトプット軸13、中間軸14の上方に、かつこれと平行に、さらに軸方向にスライド可能に配置される。インプットシフト軸23にはインプットシフトフォーク23aが、アウトプットシフト軸24にはアウトプットシフトフォーク24aが、リバースシフト軸25にはリバースシフトフォーク25aがそれぞれ固定されている。
【0026】
ここで、図3に示すとおり、リバースシフトアーム26には、連結ピン26aが装着されており、リバースシフトフォーク25aの先端部25bは、連結ピン26aの頭部26a’に係合している。リバースシフトアーム26は、支持ピン26bによりリバースシフトアームブラケット21の、インプット軸12の軸心方向に折り曲げ形成された連結部21aに回動可能に支持されている。リバースシフトアーム26の先端部26cは、リバース中間ギヤ14aのシフト溝に摺動可能に係合している。
【0027】
変速機構4は、図示しない運転席のシフトレバーのシフト操作により、各シフト軸23,24及び各シフトフォーク23a,24aを介して前進5段の何れかの変速段に切り換えられる。また、シフトレバーのシフト操作により、リバースシフト軸25を軸方向に移動させると、リバースシフトフォーク25aがリバースシフトアーム26を回動させ、これによりリバース中間ギヤ14aが軸方向に移動してリバースドライブギヤ12bに噛合し、その結果、変速機構4は、後退段に切り換えられる。
【0028】
図3及び図4に示すとおり、変速機構4は、各シフト軸23〜25の軸方向移動を規制することで二重シフトロックを阻止する二重シフトロック防止機構28を備えている。二重シフトロック防止機構28は、変速装置ケース5の差動枠側部分5b’の合面5’の内側部分に、シフト軸の軸心と直角方向に延びるように凹設されたスライド溝28a内にスライドカム28bをスライド可能に配設した概略構造のものである。二重シフトロック防止機構28は、スライドカム28bのスライド位置によりこれの係止片28c〜28eの何れか2つが、シフト軸23〜25の何れか2つに係合し、残りの1つのシフト軸のみの軸方向移動を許容するように構成されている。
【0029】
図3に示す状態では、係止片28c,28dがアウトプットシフト軸24,インプットシフト軸23に係合しており、係止片28eはリバースシフト軸25には係合していないので、リバースシフト軸25のみの軸方向移動が可能となっている。
【0030】
リバースシフトアームブラケット21は、連結部21aからインプット軸12等の軸心に直交する方向に延びる平板状の本体部21bを有する。本体部21bのエンジン側の面は、合面5’と同一面をなしている。
【0031】
そして、本体部21bは、連結部21aに続く固定部21cと、固定部21cに続くカムカバー部21dと、カムカバー部21dに続く通路カバー部21eとを有する。
【0032】
固定部21cは、変速装置ケース5の差動枠側部分5b’の合面5’のインプット軸12を囲むボス部12hに複数のボルト27aにより固定されている。カムカバー部21dは固定部21cから各シフト軸23〜25側に延びて、二重シフトロック防止機構28のスライド溝28aを覆っており、これによりスライドカム28bが軸方向に移動するのを防止している。また通路カバー部21eは、カムカバー部21dから差動機構6側に延びて後述するオイル案内通路19a,19a’を覆っている。
【0033】
図2に示すとおり、差動機構6は、リングギヤ6aと、差動枠6bと、一対のピニオンギヤ6c,6cと、サイドギヤ6d,6dとを有する。リングギヤ6aは、出力ギヤ13gに噛合する。差動枠6bには、リングギヤ6aが固定される。また、差動枠6bは、リングギヤ6aと共に回転する。ピニオンギヤ6c,6cは、差動枠6bに軸6eを介して固定される。サイドギヤ6d,6dは、ピニオンギヤ6c,6cに噛合する。また、サイドギヤ6d,6dは差動枠6bに支持され、駆動軸8,8に接続されている。この左,右の駆動軸8,8は、左,右の車軸9a,9aを介して左右の駆動輪9,9に連結されている。
【0034】
図2に示すとおり、差動枠6bは、一対の軸受15a,15bを介してデフケース5bにより軸支されている。また、駆動軸8,8とデフケース5bとの間であって、軸受15a,15bよりも軸方向外側には、オイルシール16a,16bが配設されている。図5に示すとおり、オイルシール16a,16bは、デフケース5bに嵌合する基部16dと、基部16dに支持され、駆動軸8の外周面に摺接するリップ部16cとを有する。
【0035】
また、変速装置3は、ミッションケース5a及びデフケース5b内に充填されたオイルを差動機構6の各ギヤの噛合部,軸受部,オイルシール部等,及び変速機構4の各変速ギヤの歯合部,軸受部,シンクロナイザ部等の被潤滑部に供給するオイル供給装置7を備えている。
【0036】
≪オイル供給装置について≫
以下、本実施形態のオイル供給装置7について、具体的に説明する。オイル供給装置7は、変速装置3のギヤ等の回転部材により掻き上げられたオイルを貯留して、走行中のミッションケース5aやデフケース5bの油面を低下させて撹拌抵抗を低減させつつ、変速機構4や差動機構6の被潤滑部に対してオイルを供給可能とされている。
【0037】
図3に示すとおり、オイル供給装置7は、オイルレシーバ(貯留部材)30と、変速機構潤滑部18と、差動機構潤滑部19とを有する。
【0038】
オイルレシーバ30は、リングギヤ6a、インプット軸12やアウトプット軸13に装着された上記各ギヤ等の回転により掻き上げられたオイルを貯留可能とされている。オイル供給装置7は、リングギヤ6a等の回転部材の回転により掻き上げられたオイルの一部をオイルレシーバ30に貯留することにより、ミッションケース5a,デフケース5b内の油面を低下させる。また、オイル供給装置7は、オイルレシーバ30に案内されたオイルを変速機構潤滑部18や差動機構潤滑部19により被潤滑部に供給して、被潤滑部を潤滑することができる。変速機構潤滑部18は、オイルレシーバ30に貯留されたオイルの一部を変速機構4の各変速ギヤの噛合部,軸受部等に供給する。差動機構潤滑部19は、掻き上げられたオイルの一部を差動機構6の各ギヤの噛合部,軸受15a,15bやオイルシール16a,16bに供給する。
【0039】
図6に示すとおり、オイルレシーバ30は、底壁30a(基準面F)の外周縁に側壁30bを起立形成した大略皿形状をなしている。また、オイルレシーバ30(貯留部材)は、樹脂製の部材として形成される。オイルレシーバ30は、各変速ギヤ12a〜12f,13a〜13fやインプット軸12、アウトプット軸13の上方に配置される。また、図1に示すとおり、オイルレシーバ30は、インプット軸12,アウトプット軸13、各変速ギヤ12a〜12f,13a〜13fを概ね覆うように配置される。
【0040】
図6に示すとおり、オイルレシーバ30は、第1貯留部A、第2貯留部B、オイル供給路C,D、開口30e、及び複数の凹部30gを有する。
【0041】
第1貯留部Aには、1速ギヤ13a、2速ギヤ13c、リバースギヤ13bが回転することにより掻き上げられたオイルが貯留される。第2貯留部Bは、第1貯留部Aとは独立して設けられる。また、第2貯留部Bは、差動機構6のリングギヤ6aが回転することにより掻き上げられたオイルの一部が貯留される。オイル供給路C,Dは、概ね樋状の外観を有し、第1貯留部A,第2貯留部Bのオイルをインプット軸12のオイル通路12g(図2参照)に供給する。
【0042】
図6に示すとおり、オイル導入口30eは、オイルレシーバ30の側壁30bの一部を切り欠くことにより形成される。また、オイル導入口30eは、オイルレシーバ30のリングギヤ6aに臨む部分に形成される。第2貯留部Bには、リングギヤ6aにより掻き上げられたオイルの一部が、オイル導入口30eを通じて導入される。
【0043】
また、オイルレシーバ30の底壁30aには、第1,第2開口30m,30nが形成される。第1,第2開口30m,30nは、アウトプット軸13の1速ギヤ13a,リバースギヤ13b及び2速ギヤ13cが回転することにより掻き上げたオイルを、第1貯留部Aに導入する。
【0044】
凹部30gは、第2貯留部Bに導入されたオイルを保持しつつ、被潤滑部に滴下させるために設けられる。図6に示すとおり、凹部30gは、オイルレシーバ30の底壁30aに設けられる。これらの凹部30gは、インプット軸12やアウトプット軸13の上方に設けられる。また、凹部30gは、後述するオイル孔32を有する。第2貯留部B内のオイルの一部は、オイル孔32を介してから滴下され、各変速ギヤ列やシンクロナイザ部等に供給される。
【0045】
図7(c)に示すとおり、凹部30gは、オイルレシーバ30の底壁30aを基準面Fとしてこれよりも下方に向けて窪むように形成される。また、凹部30gは、堰部31と、オイル孔32とを有する。堰部31は、凹部30gを径方向に区画するように設けられる。凹部30gは、堰部31により滴下領域33と保持領域34とに区画される。
【0046】
滴下領域33には、オイル孔32が形成される。図7(b)に示すとおり、オイル孔32は、底壁30aを上下方向に貫通する貫通孔とされている。オイル孔32は、凹部30gの周壁36及び堰部31に取り囲まれるように形成される。オイル孔32は、凹部30gに到達したオイルを下方に滴下させて、各変速ギヤ列やシンクロナイザ部等にオイルを供給する。
【0047】
保持領域34には、オイル溜部35が形成される。より具体的には、オイル溜部35は、周壁36及び堰部31に取り囲まれ、底部が閉塞された凹部として形成される。オイル溜部35は、オイルレシーバ30に案内されたオイルの一部を流入させて保持するための受け皿として機能する。
【0048】
図7(a)に示すとおり、堰部31は、上方端部31aが底壁30a(基準面F)よりもやや下方に退入した位置となるように形成される。そのため、オイル溜部35に保持されるオイルの油面は、底壁30aの基準面Fよりも下方になる。オイル溜部35に保持されたオイルは、基準面Fよりも下方に位置する上方端部31a側から順に流下して、効率的にオイル孔32に案内される。
【0049】
堰部31の上方面31bは、上方端部31aから滴下領域33に向けて傾斜した形状を有する。言いかえれば、堰部31は、オイル溜部35を構成する面において略鉛直方向に立設される面を構成し、滴下領域33を構成する壁面はオイル孔32に向かう傾斜面を有する。そのため、凹部30gは、オイル溜部35に流入したオイルを表面張力により保持しつつ、オイル溜部35から堰部31を越えて滴下領域33に流入したオイルを効率的にオイル孔32に案内することができる。
【0050】
オイル孔32は、堰部31を隔ててオイル溜部35に隣接して設けられている。また、オイル溜部35及びオイル孔32は、トランスミッションのロール方向Xに沿って配置される。そのため、オイル溜部35に保持されたオイルは、エンジン始動時に生じるロール方向Xへの力によりロール方向Xに振動する。これにより、オイル溜部35に保持されたオイルは、堰部31を越えて滴下領域33に案内され、オイル孔32から滴下する。
【0051】
続いて、差動機構潤滑部19、及び変速機構潤滑部18について説明する。図3に示すとおり、差動機構潤滑部19は、オイル案内通路19a’と、オイル導入溝19bと、オイル導入路19cとを有する。オイル案内通路19aは、差動機構6のリングギヤ6aの回転により掻き上げられたオイルを差動機構6の上方に案内する。オイル案内通路19a’は、一旦オイルレシーバ30側に案内されたオイルをオイル導入溝19bに案内する。オイル導入溝19bは、オイルを駆動軸8のオイルシール16aに向けて導入する。オイル導入路19cは、オイル案内通路19aにより差動機構6の上方に案内されたオイルをオイル導入溝19bに導く。
【0052】
図4に示すとおり、オイル案内通路19a,19a’及びオイル導入路19cは、デフケース5bの差動枠側部分5b’の内壁面にリブを立設することにより形成されている。
【0053】
より具体的には、図3図5に示すように、2つの案内リブ20a,20bが、差動枠側部分5b’の差動枠6bを囲む底壁Eのリングギヤ6aより上方部分に形成される。また、2つの案内リブ20a,20bは、間隔を空けて溝状をなすように、かつリングギヤ6aの大略接線方向に延びるように形成される。オイル案内通路19aは、案内リブ20aと差動枠6bを囲む周壁E’と底壁Eとで囲まれて形成される。また、オイル案内通路19a’は、2つの案内リブ20a,20bと底壁Eとで囲まれて形成される。
【0054】
案内リブ20bの上端部20eは、オイル案内通路19aの中程まで突出している。上端部20eは、掻き上げられたオイルの一部をオイル案内通路19a’に反転滴下させ、残りのオイルがオイルレシーバ30側に導入されるのを許容するように機能する。
【0055】
また、図4及び図5に示すとおり、差動枠側部分5b’には、軸受15a,オイルシール16aを囲むようにボス部15cが形成される。ボス部15cには、オイル導入溝19bが形成される。オイル導入溝19bは、オイルをオイルシール16aのリップ部16cの摺動部に向けて導入する。オイル導入溝19bは、軸受15aを支持するボス部15cの一部を径方向に延びる溝状に切り欠くことにより形成されている。
【0056】
また、図3及び図4に示すとおり、差動枠側部分5b’の差動枠6bを囲む部分の駆動軸8より上方部分には、2つの導入リブ20c,20dが間隔を空けて溝状をなすように、かつ差動機構6の大略径方向に延びるように形成されている。これにより、オイル導入路19cが形成される。オイル導入路19cは、オイル案内通路19aにより差動機構6の上方に案内されたオイルをオイル導入溝19bに導入する。
【0057】
ここで、オイル導入溝19bは、図5に示すように、オイルシール16a側ほど軸心に近づく傾斜面をなすように形成されている。これにより、オイル導入路19cからのオイルが矢印aで示すように、傾斜面を伝わってオイルシール16a側に流下する。
【0058】
そしてオイル案内通路19aの開放側の大部分及びオイル案内通路19a’の開放側の略全ての部分は、リバースシフトアームブラケット21の通路カバー部21eにより覆われている。
【0059】
本実施形態の変速装置3では、1速ギヤ13a,2速ギヤ13cはインプット軸12が回転している間は常時回転しており、1速,2速にシフトするとそれぞれ1速ギヤ13a,2速ギヤ13cの回転がアウトプット軸13に伝達され、差動機構6を介して駆動輪9が駆動される。
【0060】
低速走行時には、主として、1速ギヤ13a,リバースギヤ13b及び2速ギヤ13cの回転に伴って掻き上げられたオイルの一部が、第1,第2開口30m,30nを通って第1貯留部Aに貯留される。第1貯留部Aに貯留されたオイルの一部は、供給路C,Dからインプット軸12のオイル通路内に供給され、ここから各軸受部,摺動部に供給されてこれらの部分を潤滑する。
【0061】
一方、高速走行時には、主として、差動機構6のリングギヤ6aの回転に伴って掻き上げられたオイルは、オイル案内通路19aを通り、その一部は案内リブ20bの上端部20eに当たって、あるいは当たる前にオイル案内通路19a’に滴下し、ここからオイル導入路19cを通ってオイル導入溝19bに導入され、オイルシール16a,軸受15aに供給される。
【0062】
さらに、上述のとおり、第2貯留部Bには、差動機構6のリングギヤ6aが回転することにより掻き上げられたオイルの一部が貯留される。第2貯留部Bに案内されたオイルの大部分は、時間の経過に従ってオイル孔32より下方に滴下する。また、第2貯留部Bに案内されたオイルのうち、オイル溜部35に保持されたオイルは、車両が長期間停止している場合であってもオイル孔32から流下せずに保持される。そのため、走行を停止して長期間経過した場合であっても、オイル溜部35にオイルが保持される。
【0063】
また、長期間車両が停止された後にエンジンを始動させる場合には、オイル溜部35に保持されたオイルが1速ギヤ13a等に滴下される。より具体的には、車両のエンジンを始動させる際には、トランスミッションがロール方向Xに振動する。そのため、オイル溜部35に保持されたオイルは、エンジン始動時にロール方向Xの反力によりロール方向Xに振動し、堰部31を乗り越えてオイル孔32に流入して滴下する。これにより、本発明のオイル供給装置7は、長期間停止後にエンジンを始動させる際に1速ギヤ13aやシンクロ部を潤滑して、シフト操作性の悪影響を低減することができる。
【0064】
本実施形態では、リングギヤ6aによって掻き上げられたオイルを、オイル案内通路19a,19a’、オイル導入路19c、オイル導入溝19bを介してオイルシール16a、軸受15aに積極的に導くように構成したので、オイルを単に差動機構6の上方に案内するだけの場合と比較して、特に潤滑の必要なオイルシール16a、軸受15a部分にオイルを効率よく供給できる。従って、オイルの撹拌抵抗を低減するために油面を下げた場合にも、オイルシール16a及び軸受15a部分を十分に潤滑でき、燃費向上を図ることができる。
【0065】
また、案内リブ20bの上端部20eをオイル案内通路19a内に突出するように設ける構成としたので、この上端部20eの突出量をチューニングすることにより、前記掻き上げられたオイルのうちの所望量をオイルシール16a、軸受15a側に導くことができる。
【0066】
またオイル導入溝19bを、オイルシール16a側ほど軸心に近づく傾斜面により構成したので、オイル導入路19cからのオイルをオイルシール16a側に効率よく流下させることができる。
【0067】
さらにまた、オイル案内通路19a,19a’を、変速装置ケース5の内壁面に案内リブ20a,20bを立設することにより構成し、オイル案内通路19a,19a’の開放側を通路カバー部21eで覆ったので、掻き上げられたオイルがオイル案内通路19a,19a’から洩れるのを抑制でき、オイルをより一層効率良くオイルシール16a、軸受15aに供給できる。
【0068】
また通路カバー部21eを、既存のリバースシフトアームブラケット21に、延長形成したので、部品点数を増加することなく、前記オイル案内通路19a,19a’の開放側を覆うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、オイルレシーバ30の底壁30aにオイル孔32を形成し、さらにオイル孔32に隣接してオイル溜部35が設けられている。そのため、長期間車両を停止した状態において、エンジン始動のロール方向の反力によりオイル溜部35からオイル孔32にオイルを流入させ、エンジン始動時に特に必要となる低速ギヤのシンクロ部を潤滑することができる。
【0070】
なお、本実施形態では、複数のオイル孔32のそれぞれに隣接してオイル溜部35が形成される例を示したが、本発明のオイル供給装置はこれに限定されない。すなわち、オイル供給装置は、複数のオイル孔32のうち、一部のオイル孔32に隣接するようにオイル溜部35が設けられるものであってもよい。また、オイル孔32の形状は円形、楕円形等、いかなる外観を有するものであってもよい。また、オイル溜部35が、オイル孔32に対してトランスミッションのロール方向に離間する位置に配置されていてもよい。この離間する位置としては水平方向や上方向などに離間していてもよい。ロール方向に作用するロール振動により、オイル溜部内のオイルを、オイル孔を通して被潤滑部に向けて滴下できればよい主旨である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のオイル供給装置は、差動機構のリングギヤや変速装置の各ギヤにより掻き上げられたオイルを被潤滑部に供給するようにしたオイル供給装置として、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
6 差動機構
6a リングギヤ
7 オイル供給装置
30 オイルレシーバ(貯留部材)
30a 底壁(基準面)
30g 凹部
31 堰部
32 オイル孔
33 滴下領域
34 保持領域
35 オイル溜部
X ロール方向
F 基準面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7