【実施例】
【0020】
以下、製剤例及び試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
まず、本発明の飛翔害虫追尾阻害剤の製剤例を示す。なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0021】
<試験検体>
試験検体として、下記有効成分を含有する貼付剤(貼付用シート剤;直径:35mm、厚さ:0.5mm、材質:ポリエステル)を作製した。
実施例1〜6は、1,8−シネオール、p−メンタン−3,8−ジオール、シトロネラール、リナロール、シトラールをそれぞれ30mg含有する試験検体(実施例1〜5)及び、1,8−シネオール、リナロール及びシトラールを含有する香料組成物30mgを含有する試験検体(実施例6)である。
比較例1と2は、l−メントール、チモールをそれぞれ30mg含有する試験検体(比較例1、2)である。
比較例3は、下記に示すディート含有エアゾール剤を作製し、これを両腕に噴霧処理した(片腕5秒ずつ、計10秒、両腕のディート処理量0.25mg)。
(比較例3のエアゾール剤)
ディート(日本精化(株)製)10.0gを、エタノール(三菱化学(株)製)に溶解し、100mLの溶液を作製した(ディート10%含有)。そのうち40mLを原液とし、エアゾール缶(容量290mL)に入れ、缶にバルブ部を取り付け、該バルブ部分を通じて噴射剤LPG160mL(0.25MPa、25℃)を充填し、内容量200mLのディート含有エアゾール剤を作製した。
【0022】
<蚊の追尾阻害確認試験1(屋内)>
24畳チャンバー(540cm×720cm×240cm)を、
図1に示すとおりに同じ大きさの4区画に仕切り、「放蚊区」、「歩行区1」、「歩行区2」、「カウント区」とし、「放蚊区」のみ無照明とした。「放蚊区」と「歩行区1」の間と「歩行区1」と「歩行区2」の間にはそれぞれ開放部(90cm×240cm)を、「カウント区」と「歩行区2」の間には仕切り戸(
図1中の点線部:90cm×240cm)を設置した。試験実施時のチャンバー内は、室温26℃、湿度60%であり、1時間あたり10回の換気を行った。
供試虫(約2000頭のヒトスジシマカ)を入れた金属メッシュケージを、
図1中の黒星印(★)の位置に設置し、開口部(直径:12cm)を開放し、30分間供試虫を順化させた。30分の順化後、「カウント区」と「歩行区2」の間の仕切り戸を開放し、「カウント区」に侵入した供試虫数をカウントし、「試験前侵入頭数」とした。
試験検体である貼付剤6枚を被験者の衣服(下腹部に3枚、その背側に3枚)に貼付し、
図1に示す「被験者侵入口」より「放蚊区」に入り、約60m/分の歩行速度で「放蚊区」→「歩行区1」→「歩行区2」→「カウント区」の順に、
図1中の黒太線のように歩行した。被験者が
図1中のバツ印(×)の「被験者到達地点」に到着した時点で、「カウント区」と「歩行区2」の間の仕切り戸を閉じ、「カウント区」内にいる供試虫数をカウントし、「処理侵入頭数」とした。
有効成分を含有しない貼付剤6枚を使用した以外は、上記手順に従って、被験者が歩行し、「カウント区」内にいる供試虫数をカウントし、「無処理侵入頭数」とした。
【0023】
<追尾阻害率A(%)>
追尾阻害率A(%)を以下に示す計算式により算出し、各試験検体の蚊の追尾阻害効果の指標として、下記評価基準に従い5段階で評価した。
[計算式]
追尾阻害率A(%)=[{(無処理侵入頭数−試験前侵入頭数)−(処理侵入頭数−試験前侵入頭数)}÷(無処理侵入頭数−試験前侵入頭数)]×100
試験の結果、上記計算式における「無処理侵入頭数」は40、「試験前侵入頭数」は5.5であった。
[評価基準]
「◎」 :追尾阻害率Aが80%以上
「〇」 :追尾阻害率Aが60%以上80%未満
「△」 :追尾阻害率Aが50%以上60%未満
「×」 :追尾阻害率Aが10%以上50%未満
「××」:追尾阻害率Aが10%未満
上記試験検体の追尾阻害率A(%)と追尾阻害評価の結果を、まとめ表1に示した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1の結果より、実施例1〜6の本発明の飛翔害虫追尾阻害剤は、蚊の人に対する追尾阻害効果を有することが明らかとなった。特に、シトラールを有効成分とする実施例5の飛翔害虫追尾阻害剤は、追尾阻害率Aが85.5%と非常に優れた追尾阻害効果を発揮することが確認された。さらに、1,8−シネオール、リナロール及びシトラールを含有する香料組成物を有効成分とする実施例6の飛翔害虫追尾阻害剤は、追尾阻害率Aが約90%程度と極めて優れた追尾阻害効果を発揮することが確認された。
一方、忌避剤の有効成分として公知のチモール、ディートを有効成分とする比較例2、3の試験検体は、蚊の人に対する追尾阻害効果を全く示さなかった。また、l−メントールを有効成分とする比較例1の試験検体は、実用的な飛翔害虫追尾阻害効果を有さなかった。
【0026】
<蚊の追尾阻害確認試験2(屋外)>
上記実施例6の試験検体である貼付剤6枚を使用して、屋外(兵庫県赤穂市内)における蚊の追尾阻害確認試験を行った。
実施例6の試験検体6枚を被験者の衣服(下腹部に3枚、その背側の上腰部に3枚)に貼付し、蚊の生息数の少ない場所(広場)から、約60m/分の歩行速度で歩行を開始し、すぐに蚊の生息数の多い雑木林に入った。雑木林内を5分間歩行したのち、蚊の生息数の少ない場所(広場)に出た。直ちに被験者の周りにいる蚊を、30秒間スウィーピングすることにより捕獲し、採集数をカウントし、「処理採集頭数」とした。
有効成分を含有しない貼付剤6枚を使用した以外は、上記手順に従って被験者が歩行した後、蚊をカウントし、「無処理採集頭数」とした。
また、試験実施前に、蚊の生息数の少ない場所(広場)において1分間のスウィーピングを行い、蚊の採集数をカウントし、「試験前採集頭数」とした。
試験は3回行い、それぞれの頭数の平均値を求めた。
【0027】
<追尾阻害率B(%)>
追尾阻害率B(%)を以下に示す計算式により算出し、実施例6の試験検体の蚊の追尾阻害効果の指標として、上記「蚊の追尾阻害確認試験1」の「評価基準」に従い5段階で評価した。
[計算式]
追尾阻害率B(%)=[{(無処理採集頭数−試験前採集頭数)−(処理採集頭数−試験前採集頭数)}÷(無処理採集頭数−試験前採集頭数)]×100
試験の結果、上記計算式における「無処理採集頭数」は9、「試験前採集頭数」は0.4であった。
上記追尾阻害率B(%)と追尾阻害評価の結果を、まとめ表2に示した。
【0028】
【表2】
【0029】
表2の結果より、実施例6の1,8−シネオール、リナロール及びシトラールを含有する香料組成物を有効成分とする本発明の飛翔害虫追尾阻害剤は、屋内試験(「蚊の追尾阻害確認試験1(屋内)」)と同様に、屋外においても蚊の人に対する追尾阻害率Bが93%であり、非常に優れた追尾阻害効果を発揮することが確認された。
【0030】
本発明の追尾阻害効果は、公知の忌避剤による接触忌避効果と異なることを示すために、以下の「参考試験」を行った。
<参考試験検体>
参考試験検体として、下記有効成分を含有する貼付剤(貼付用シート剤;直径:35mm、厚み:0.5mm、材質:ポリエステル)を作製し、貼付剤6枚を手首から先の手に貼付した。
参考試験例a〜fは、1,8−シネオール、p−メンタン−3,8−ジオール、シトロネラール、リナロール、シトラールをそれぞれ30mg含有する試験検体及び、1,8−シネオール、リナロール及びシトラールを含有する香料組成物60mgを含有する試験検体である。
参考試験例gとhは、l−メントール、チモールをそれぞれ30mg含有する試験検体である。
参考試験例iは、上記比較例3のエアゾール剤を5秒間片手に噴霧処理した(ディート処理量0.125mg)。
【0031】
<参考試験:接触忌避試験>
ヒトスジシマカ(♀、50頭)を放った16メッシュ金属ケージ(25cm×25cm×25cm)内に、上記参考試験検体(参考試験例a〜i)を貼付または処理した被験者の片手を入れ、蚊のランディング数を1分間カウントし、「処理区ランディング数」とした。参考試験検体を貼付または処理しない無処理の片手についても、同様にランディング数をカウントし、「無処理区ランディング数」とした。
下記計算式により接触忌避率(%)を算出した。また、各参考試験検体の蚊の接触忌避効果の指標とし、下記評価基準に従い5段階で評価した。
[計算式]
接触忌避率(%)={(無処理区ランディング数−処理区ランディング数)/無処理区ランディング数}×100
[評価基準]
「◎」 :接触忌避率が80%以上
「〇」 :接触忌避率が60%以上80%未満
「△」 :接触忌避率が50%以上60%未満
「×」 :接触忌避率が10%以上50%未満
「××」:接触忌避率が10%未満
試験は3回行い、上記参考試験検体の接触忌避率(%)の平均値と、その接触忌避評価の結果を、まとめ表3に示した。
【0032】
【表3】
【0033】
表3の結果より、ディートは非常に優れた接触忌避効果を示すが、精油成分は著しく劣る接触忌避効果しか得られないことが明らかとなった。
この結果より、本発明の飛翔害虫追尾阻害効果は、ディート等に代表される公知の忌避剤による接触忌避効果とは、その機能や効果の点において異なるものであることが確認された。