(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フェノール系防カビ剤および脂肪酸エステルを含む原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物を、噴射速度が10〜35秒/50mLとなるよう全量噴射する、防カビ方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[防カビ用全量噴射エアゾール製品]
本発明の一実施形態の防カビ用全量噴射エアゾール製品(以下、単にエアゾール製品ともいう)は、原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、エアゾール容器に取り付けられたバルブ機構と、バルブ機構のステムに取り付けられる全量噴射用ノズルキャップ(以下、単にノズルキャップともいう)とを備える。原液は、フェノール系防カビ剤と、脂肪酸エステルとを含む。噴射速度は、10〜35秒/50mLである。以下、それぞれの構成について説明する。なお、以下の説明は例示であり、エアゾール容器、バルブ機構およびノズルキャップは、発明の効果を奏する限り適宜設計変更され得る。
【0013】
<エアゾール容器>
エアゾール容器は、エアゾール組成物を加圧充填するための耐圧容器である。エアゾール容器は、内部にエアゾール組成物が充填される空間が形成された概略筒状の容器である。エアゾール容器の上部には開口が設けられている。開口は、バルブ機構によって密封される。
【0014】
エアゾール容器の材質は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール容器は、耐圧性を有する各種金属製、樹脂製、ガラス製等であってもよい。
【0015】
(エアゾール組成物)
エアゾール組成物は、エアゾール製品の内容物であり、原液および噴射剤を含む。
【0016】
・原液
原液は、噴射剤とともにエアゾール組成物を構成し得る成分である。原液は、エアゾール組成物が調製される際に、エアゾール容器に充填される。原液は、フェノール系防カビ剤と脂肪酸エステルとを含む組成物である。
【0017】
フェノール系防カビ剤は特に限定されない。一例を挙げると、フェノール系防カビ剤は、イソプロピルメチルフェノール、o−フェニルフェノール、o−フェニルフェノールナトリウム、p−t−オクチルフェノール、2−(4−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジル、チモール、カルバクロール、ジフェニルチモール、クロロフェン、パラベン、アルキルパラベン、クレゾール、トリクロサン、フェノール、パラクロロフェノール、クロルキシレノール、パラクロロメタキシレノール等である。これらの中でも、フェノール系防カビ剤は、化粧品等にも使用されている安全性の高い化合物であるという理由により、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、チモールであることが好ましく、イソプロピルメチルフェノールであることがより好ましい。
【0018】
フェノール系防カビ剤の含有量は、防カビ効果を示す含有量であればよい。一例を挙げると、フェノール系防カビ剤の含有量は、エアゾール組成物中、0.1w/v%(質量/容量%)以上であることが好ましく、0.5w/v%以上であることがより好ましい。また、フェノール系防カビ剤の含有量は、エアゾール組成物中、10w/v%以下であることが好ましく、5.0w/v%以下であることがより好ましい。フェノール系防カビ剤の含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、たとえば浴室等の適用空間で噴射された場合に、噴射されたエアゾール組成物が天井や壁等に到達しやすく、かつ、付着しやすい。この際、エアゾール製品は、床面へのエアゾール組成物の付着量が低減し過ぎることがなく、充分な量を床面に対しても付着させることができる。
【0019】
脂肪酸エステルは特に限定されない。一例を挙げると、脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレンビスフェノールAラウリン酸エステル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ベへニン酸モノグリセライド、2−エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸コレステリル、メタクリル酸ラウリル、ヤシ脂肪酸メチル、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸イソトリデシル、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、ラウリン酸ブチル、オレイン酸オクチル等である。これらの中でも、脂肪酸エステルは、フェノール系防カビ剤を、天井や壁に対して付着させる効果が高く、相溶性が高いという理由により、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸イソブチルを含むことが好ましく、ミリスチン酸イソプロピルを含むことがより好ましい。脂肪酸エステルは、併用されてもよい。
【0020】
脂肪酸エステルの含有量は特に限定されない。脂肪酸エステルの含有量は、エアゾール組成物中、0.3w/v%以上であることが好ましく、1w/v%以上であることがより好ましい。また、脂肪酸エステルの含有量は、エアゾール組成物中、30w/v%以下であることが好ましく、20w/v%以下であることがより好ましい。脂肪酸エステルの含有量が上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、たとえば浴室等の適用空間で噴射された場合に、噴射されたエアゾール組成物が天井や壁等に到達しやすく、かつ、付着しやすい。この際、エアゾール製品は、床面へのエアゾール組成物の付着量が低減し過ぎることがなく、充分な量を床面に対しても付着させることができる。
【0021】
フェノール系防カビ成分と脂肪酸エステルは、原液中に1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合比(質量比)は、1.0:0.5〜20であることが好ましく、1.0:0.75〜10であることがより好ましい。
【0022】
原液は、上記フェノール系防カビ剤および脂肪酸エステルのほか、適宜他の成分を含んでもよい。一例を挙げると、脂肪酸エステル以外の他の溶剤、消臭成分、芳香成分、非イオン、陰イオンまたは陽イオン界面活性剤、ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;クエン酸、アスコルビン酸等の安定化剤;タルク、珪酸等の無機粉体、色素等である。
【0023】
他の溶剤は、たとえば防カビ剤等の有効成分を均一に配合するために好適に含有される。一例を挙げるとエタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール、直鎖、分岐鎖または環状のパラフィン類、灯油等の石油類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類、水等である。
【0024】
他の溶剤が含まれる場合、原液中の他の溶剤の含有量は、フェノール系防カビ剤1質量部に対して、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。また、他の溶剤の含有量は、フェノール系防カビ剤1質量部に対して98質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、原液は、有効成分を均一に配合しやすい。
【0025】
消臭成分は特に限定されない。一例を挙げると、消臭成分は、ツバキ、バラ、キク、マツ、スギ、オオバコ等の植物抽出エキス;茶抽出物、カテキン、植物ポリフェノール、リナロール、メントール、ボルネオール等の植物精油;ラウリルメタクリレート、メチル化サイクロデキストリン、ゲラニルクロトネート、ミリスチル酸アセトフェノン、パラメチルアセトフェノンベンズアルデヒド等である。
【0026】
芳香成分は特に限定されない。一例を挙げると、芳香成分は、じゃ香、ベルガモット油、シンナモン油、シトロネラ油、レモン油、レモングラス油、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、オレンジ油、ユーカリ油、ラベンダー油、イグサ、ヒノキ等の天然香料;ピネン、リモネン、リナロール、メントール、ボルネオール、オイゲノール、シトロネラ、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール、ウンデカラクトン、リモネン、フェネチルアルコール等の人工香料等である。
【0027】
消臭成分が含有される場合、消臭成分の含有量は、消臭効果を示す含有量であればよい。消臭成分の含有量は、たとえば、原液中に0.1w/v%以上であることが好ましく、1w/v%以上であることがより好ましい。芳香成分が含有される場合、芳香成分の含有量は、エアゾール組成物中に0.1w/v%以上であることが好ましく、1w/v%以上であることがより好ましい。上記の配合量であれば、充分な消臭効果や芳香が得られ得る。
【0028】
・噴射剤
噴射剤は、上記原液を噴射するための媒体であり、原液とともにエアゾール容器に加圧充填される。噴射剤は特に限定されない。一例を挙げると、噴射剤は、ハイドロフルオロオレフィン、ジメチルエーテル(DME)、液化石油ガス(LPG)等である。なお、噴射剤は、併用されてもよい。
【0029】
ハイドロフルオロオレフィンは、ハイドロフルオロ−1−プロペンが例示される。具体的には、ハイドロフルオロ−1−プロペンは、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3−トリフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン等が例示される。これらの中でも、噴射剤は、地球温暖化係数が低くオゾン破壊係数が0であることや常温で着火しないという火気安全性が優れる点から、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含むことが好ましい。
【0030】
なお、本実施形態のエアゾール組成物は、上記噴射剤に加えて(または上記噴射剤に代えて)、炭酸ガス、窒素ガス、圧縮空気、酸素ガス等の圧縮ガスが使用されてもよい。
【0031】
エアゾール組成物の原液と噴射剤の配合割合(体積比)は、1/99〜35/65であることが好ましく、5/95〜30/70であることがより好ましく、5/95〜25/75であることがさらに好ましい。このような体積比とすることで、エアゾール製品は、噴射速度が後述する範囲に調整されやすい。
【0032】
<バルブ機構>
バルブ機構は、エアゾール容器の開口を閉止する部材であり、上方に付勢された状態で上下方向に移動可能に支持されたステムと、ステムの上下動によって適宜開閉されるバルブ本体とを備える。バルブ本体には、エアゾール容器からエアゾール組成物を取り込むためのアンダータップ孔が形成されている。また、バルブ本体には、エアゾール容器の気相部分と連通したベーパータップ孔が形成されている。
【0033】
ステムは、バルブ本体に取り込まれるエアゾール組成物を取り込むステム孔と、ステム孔から取り込まれたエアゾール組成物を後述するノズルキャップの噴射ノズルに送るための内部通路が形成されている。内部通路は、ステムラバーによって適宜開閉される。ステムには、ノズルキャップの押しボタンが取り付けられる。
【0034】
ベーパータップ孔は、無くても良いが、一般的には有効成分の拡散性を向上させるために適宜設けられる。ベーパータップ孔の寸法(噴口直径)は、0.5mm以下であることが好ましく、0.2mm程度であることがより好ましい。このような寸法のベーパータップ孔が設けられることにより、エアゾール組成物の場所による付着量の差を低減できる。なお、ベーパータップ孔は複数であってもよい。
【0035】
アンダータップ孔の寸法(噴口直径)は、1.5mm以上であることが好ましく、1.8mm以上であることがより好ましく、2.0mm以上であることがさらに好ましい。また、アンダータップ孔の寸法は、2.5mm以下であることが好ましく、2.3mm以下であることがより好ましく、2.2mm以下であることがさらに好ましい。アンダータップ孔の寸法が上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、床面に対して充分な量のエアゾール組成物を付着させつつ、天井や壁などにも薬剤をより効率よく付着させやすい。
【0036】
また、アンダータップ孔の総断面積(総開口面積)は特に限定されない。総断面積は、後述する噴射速度が10〜35秒/50mLとなるように、必要に応じて適宜調整される。一例を挙げると、総断面積は、1.7mm
2以上であることが好ましく、2.5mm
2以上であることがより好ましい。また、総断面積は、5.0mm
2以下であることが好ましく、4.2mm
2以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「総断面積」とは、アンダータップ孔の断面積(開口面積)の合計面積である。すなわち、アンダータップ孔が1個である場合、総断面積はアンダータップ孔の断面積そのものであり、アンダータップ孔が2個以上である場合、総断面積は、すべてのアンダータップ孔の断面積の和である。
【0037】
ステム孔の寸法(噴口直径)は、0.5mm以上であることが好ましく、噴口直径が0.5mmであるステム孔が2個以上設けられていることがより好ましく、噴口直径が0.5mmであるステム孔が3個以上設けられていることがさらに好ましい。また、ステム孔の寸法は、2.0mmのステム孔が3個以下設けられていることが好ましく、噴口直径が1.5mmのステム孔が3個以下設けられていることがより好ましく、噴口直径が1.2mmのステム孔が3個以下設けられていることがさらに好ましい。ステム孔の寸法が上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、噴射速度が適正となり、床面に対して充分な量のエアゾール組成物を付着させつつ、天井や壁にも付着させやすい。
【0038】
また、ステム孔の総断面積(総開口面積)は特に限定されない。総断面積は、後述する噴射速度が10〜35秒/50mLとなるように、必要に応じて適宜調整される。一例を挙げると、総断面積は、0.2mm
2以上であることが好ましく、0.39mm
2以上であることがより好ましい。また、総断面積は、9.5mm
2以下であることが好ましく、5.3mm
2以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「総断面積」とは、ステム孔の断面積(開口面積)の合計面積である。すなわち、ステム孔が1個である場合、総断面積はステム孔の断面積そのものであり、ステム孔が2個以上である場合、総断面積は、すべてのステム孔の断面積の和である。
【0039】
原液および噴射剤が充填された状態において、25℃におけるバルブ本体の内圧は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.25MPa以上であることがより好ましい。また、25℃におけるバルブ本体の内圧は、0.8MPa以下であることが好ましく、0.7MPa以下であることがより好ましい。このような範囲にバルブ本体の内圧を調整することで、エアゾール製品は、たとえば浴室等の適用空間において使用される場合において、床面だけでなく、天井や壁等にエアゾール組成物を到達させやすく、かつ、付着させやすい。なお、バルブ本体の内圧は、たとえば25℃でWGA−710C計装用コンディショナ((株)共和電業製)に取り付けたPGM−10KE小型圧力センサ((株)共和電業製)をバルブ機構に接続することにより測定することができる。
【0040】
<ノズルキャップ>
ノズルキャップは、エアゾール容器内に充填されたエアゾール組成物を全量噴射するための機構であり、バルブ機構のステムに取り付けられる。ノズルキャップは、エアゾール容器の上部に取り付けられるキャップ本体と、ステムを押圧するための押しボタンと、ステムを押圧することによりステムから噴出された内容物を噴射する噴射ノズルとを備える。噴射ノズルの先端には、エアゾール組成物が噴射される噴口が形成されている。ノズルキャップは、使用者により操作されることにより、エアゾール容器内と外部とを連通し、エアゾール容器内のエアゾール組成物を全量噴出する。
【0041】
ノズルキャップは、押しボタンを押し下げ続けるためのロック機構が設けられてもよい。ロック機構が設けられることにより、エアゾール製品は、ステムの押圧状態が保持される。その結果、バルブ機構が開放状態のまま維持され、エアゾール容器内のエアゾール組成物が無くなるまで噴射が継続される。その後、エアゾール製品は、噴射剤によるガス圧が充分に低下したところで噴射が終了する。
【0042】
噴口の数、寸法および形状は特に限定されない。一例を挙げると、噴口の数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、噴口の寸法(噴口直径)は、0.2mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましい。また、噴口直径は、3.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。噴口の形状(断面形状)は、円形、楕円形、角形、各種不定形であってもよい。
【0043】
また、噴口の総断面積(総開口面積)は特に限定されない。総断面積は、後述する噴射速度が10〜35秒/50mLとなるように、必要に応じて適宜調整される。一例を挙げると、総断面積は、0.03mm
2以上であることが好ましく、0.07mm
2以上であることがより好ましい。また、総断面積は、7.1mm
2以下であることが好ましく、3.1mm
2以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「総断面積」とは、噴口の断面積(開口面積)の合計面積である。すなわち、噴口が1個である場合、総断面積は、噴口の断面積そのものであり、噴口が2個以上である場合、総断面積は、すべての噴口の断面積の和である。
【0044】
ノズルキャップ内の噴射通路の長さは特に限定されない。噴射通路の長さは、後述する噴射速度が10〜35秒/50mLとなるように、必要に応じて適宜調整される。一例を挙げると、噴射通路の長さは、5mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましい。また、噴射通路の長さは、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「噴射通路の長さ」とは、ステム先端から噴口までの長さである。
【0045】
本実施形態のエアゾール製品は、使用者によって押し噴射ボタンが操作されることにより、バルブ機構が作動し、エアゾール容器内と外部とが連通する。これにより、エアゾール容器内のエアゾール組成物は、エアゾール容器内と外部との圧力差に従って取り出され、ノズルキャップの噴口から噴射される。
【0046】
本実施形態のエアゾール製品は、噴射速度が10〜35秒/50mLとなるよう調整されている。噴射速度は、10秒/50mL以上であればよく、12秒/50mL以上であることが好ましく、15秒/50mL以上であることがより好ましい。また、噴射速度は、35秒/50mL以下であればよく、30秒/50mL以下であることが好ましく、25秒/50mL以下であることがより好ましい。噴射速度が10秒/50mL未満である場合、エアゾール製品は、噴射時、粒径の大きな液滴のものが存在しエアゾール製品自体や、その周囲床面に落下してしまい、床面を汚損する傾向がある。一方、噴射速度が35秒/50mLを超える場合、エアゾール製品は、たとえば浴室等の適用空間において使用される場合において、床面へのフェノール系防カビ剤の付着量が不充分となりやすい。
【0047】
なお、本実施形態のエアゾール製品は、上記フェノール系防カビ剤および脂肪酸エステルを含む原液を噴射剤によって噴射し、その際の噴射速度を10〜35秒/50mLとなるよう調整することにより、たとえば浴室等の適用空間において使用される場合において、床面だけでなく、天井や壁等にエアゾール組成物を到達させやすく、かつ、付着させやすくしている。噴射速度を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。噴射速度は、25℃におけるエアゾールバルブの内圧を調整したり、原液と噴射剤との種類、組成および配合割合を調整したり、ノズルキャップ内の各部位の数や寸法、形状等を調整することにより、適宜調整し得る。
【0048】
本実施形態のエアゾール製品から噴射されるエアゾール組成物の平均粒子径(D50)は特に限定されない。一例を挙げると、平均粒子径D50は、12μm以上であることが好ましく、13μm以上であることがより好ましい。また、平均粒子径D50は、60μm以下であることが好ましく、55μm以下であることがより好ましい。平均粒子径D50が上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、噴射したエアゾール組成物を、浴室等の適用空間の床面だけでなく、天井や壁等に到達しやすく、かつ、付着させやすい。なお、平均粒子径(D50)が12μm未満である場合、噴射されたエアゾール組成物は、粒子径が小さくなりすぎて天井や壁への到達が多くなったり、室外に飛散する分が多くなり過ぎて、床面への付着量が不足する傾向がある。また、本実施形態において、平均粒子径D50は、たとえばレーザー光回折式粒度測定装置(LDSA−1400A マイクロトラック・ベル(株)製)を用いることにより、噴口から50cmの位置における粒子径を測定し得る。また、本実施形態において、平均粒子径D50を上記範囲に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、平均粒子径D50は、エアゾール組成物の処方(たとえばそれぞれの成分の種類および含有量等)、ノズルキャップの形状、寸法(たとえば噴口の大きさ、数、形状等)、または、単位時間当たりの噴射量(噴射速度)、噴射圧等の各種物性が調整されることにより調整されればよい。
【0049】
本実施形態のエアゾール製品の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール製品は、エアゾール容器に原液を充填し、バルブ機構によってエアゾール容器の開口を閉止し、ノズルキャップの噴口またはバルブ機構のステムを介して噴射剤を加圧充填することによって製造することができる。
【0050】
本実施形態のエアゾール製品の適用空間は特限定されない。一例を挙げると、適用空間は、カビの発生し得る空間であればよく、浴室、脱衣所、台所、納戸、トイレ等の密閉空間または半密閉空間であることが好ましい。空間の大きさは、32m
3程度以内であることが好ましく、16m
3以内であることがより好ましく、10m
3以内であることが更に好ましい。空間容積に応じて、原液および噴射剤は、適宜調整され得る。これらの中でも、エアゾール製品は、浴室用であることが好ましい。すなわち、浴室は、壁、天井、床面等においてカビが繁殖しやすい。このような浴室に対し、本実施形態のエアゾール製品は、薬剤を床面だけでなく、天井や壁にも到達させて付着させることができ、優れた防カビ効果を発揮することができる。
【0051】
<防カビ方法>
本発明の一実施形態の防カビ方法は、フェノール系防カビ剤および脂肪酸エステルを含む原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物を、噴射速度が10〜35秒/50mLとなるよう全量噴射することを特徴とする。エアゾール組成物は、エアゾール製品の実施形態において上記したとおりである。このような方法によれば、浴室等の適用空間において使用された場合に、天井や壁等にエアゾール組成物が到達しやすく、薬剤を付着させやすい。その結果、本実施形態の防カビ方法は、適用空間において優れた防カビ効果を発揮することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0053】
使用したエアゾール製品の詳細を以下に示す。
エアゾール製品1:ノズルキャップ(噴口径φ0.8mm、開口面積0.50mm
2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ12mm)、バルブ機構(ステム孔(孔径1.2mm、3個)、ベーパータップ孔なし、アンダータップ孔(孔径2.2mm)
エアゾール製品2:ノズルキャップ(噴口径φ0.8mm、開口面積0.50mm
2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ12mm)、バルブ機構(ステム孔(孔径0.5mm、1個)、ベーパータップ孔なし、アンダータップ孔(孔径2.2mm)
エアゾール製品3:ノズルキャップ(噴口径φ0.8mm、開口面積0.50mm
2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ12mm)、バルブ機構(ステム孔(孔径0.5mm、2個)、ベーパータップ孔なし、アンダータップ孔(孔径2.2mm)
エアゾール製品4:ノズルキャップ(噴口径φ0.8mm、開口面積0.50mm
2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ12mm)、バルブ機構(ステム孔(孔径1.2mm、3個)、ベーパータップ孔φ0.4mm、アンダータップ孔(孔径2.2mm)
【0054】
(実施例1)
イソプロピルメチルフェノール5.0gおよびミリスチン酸イソプロピル40.0gを、適量の99.5%エタノールに溶解し、原液を100mL調製した。この原液を、容量296mLのエアゾール容器に5mL充填し、バルブ機構を取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が10/90となるよう噴射剤(トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1234−ze)45mLを加圧充填し、ノズルキャップを取り付け、エアゾール製品を50mL作製した(バルブ機構およびノズルキャップは、エアゾール製品1を用いた)。エアゾールバルブの内圧(25℃)は0.41MPaであった。なお、バルブの内圧は、25℃でWGA−710C計装用コンディショナ((株)共和電業製)に取り付けたPGM−10KE小型圧力センサ((株)共和電業製)をエアゾールバルブに接続することにより測定した。
【0055】
(実施例2〜11、比較例1〜2)
表1または表2に記載の原料、配合量に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりエアゾール製品を調製した。
【0056】
実施例1〜11、比較例1〜2のエアゾール製品を用いて、以下の試験方法にしたがって天井、壁および床面におけるエアゾール組成物の付着量、各エアゾール製品から噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径D50、および、各エアゾール製品の全量噴射に要した時間を測定した。結果を表1または表2に示す。
【0057】
<付着量の測定方法>
図1は、付着量を測定する際の実験設備の模式図である。
図1に示されるように、浴室(紙面を基準にして、奥行160cm、高さ200cm、幅110cm)の奥側天井部分2箇所(測定地点Aおよび測定地点B)、奥側壁部分2箇所(測定地点Cおよび測定地点D、いずれも床面と天井との中間地点)および手前側床部分2箇所(測定地点Eおよび測定地点F)に、φ90mmの濾紙を貼り付けた。床面の中央(設置地点S)にエアゾール製品を置き、上方(概ね測定地点Cおよび測定地点Dの中心方向)へ仰角45°で全量噴射した。噴射から30分後に濾紙を回収し、アセトンを用いて付着したエアゾール組成物を抽出した。抽出液をロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮し、ガスクロマトグラフィ分析により、エアゾール組成物の付着量を測定した。天井部分(測定地点Aおよび測定地点B)および壁部分(測定地点Cおよび測定地点D)に関して、エアゾール組成物の付着量が0.5μg/cm
2以上である場合を、充分に付着していると判断した。また、床部分(測定地点Eおよび測定地点F)に関して、エアゾール組成物の付着量が8μg/cm
2以上である場合を、充分に付着していると判断した。
【0058】
<平均粒子径D50の測定方法>
レーザー光回折式粒度測定装置(LDSA−1400A マイクロトラック・ベル(株)製)を用いて、噴口から50cmにおける平均粒子径D50を測定した。測定は3回行い、平均を算出した。
【0059】
<全量噴射時間>
それぞれのエアゾール製品に関して、全量(50mL)を噴射するのに要した時間(秒)を計測した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1および表2に示されるように、実施例1〜11のエアゾール製品は、いずれも、床面だけでなく、天井および壁においても多くのエアゾール組成物を付着させることができ、これらの部位において充分な防カビ効果を発揮し得ると考えられた。一方、脂肪酸エステルを含まなかった比較例1のエアゾール製品は、床面におけるエアゾール組成物の付着量が少なかった。また、全量噴射時間が長く、噴射速度が遅かった比較例2のエアゾール製品は、床面におけるエアゾール組成物の付着量が少なかった。