(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術では、ベルト構造体からプーリすなわちアームに対して過大な荷重が入力された際に、渦巻きばね(ぜんまいばね)が過度に巻締められることで、プーリからベルト構造体に加わる付勢力が一時的に大きく低下する可能性がある。その場合、ベルト構造体に過剰な緩みが発生し、ベルト構造体(巻掛け伝動体)の挙動が不安定になる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、ぜんまいばねの過度な巻締めに起因して巻掛け伝動体の挙動が不安定になることを防止できるテンショナを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のテンショナは、張り部材を介して巻掛け伝動体からの荷重を受ける可動部と、前記可動部を変位可能に支持する固定部と、前記張り部材に対抗するように前記可動部を付勢すると共に、前記張り部材から作用する荷重に対して前記張り部材に加える付勢力が大きい場合、板間摩擦力が小さい状態で巻解かれ、前記張り部材から作用する荷重に対して前記張り部材に加える付勢力が小さい場合、板間摩擦力が大きい状態で巻締められるぜんまいばねと、前記ぜんまいばねの巻締めを制限する巻締め制限部と、を備えている。
【0007】
第1の態様のテンショナでは、張り部材を介して巻掛け伝動体からの荷重を受ける可動部が固定部により変位可能に支持されており、当該可動部がぜんまいばねにより張り部材に対抗するように付勢されている。これにより、巻掛け伝動体の振動をぜんまいばねの巻解き、巻締めにより緩衝し、且つぜんまいばねの巻解き方向と巻締め方向での板間摩擦力の差によるヒステリシス特性によりエネルギを吸収して減衰することができる。しかも、巻締め制限部がぜんまいばねの巻締めを制限(抑制)することで、ぜんまいばねの過度な巻締めが防止されるので、当該過度な巻締めに起因して巻掛け伝動体の挙動が不安定になることを防止できる。
【0008】
第2の態様のテンショナは、
第1の態様のテンショナにおいて、前記巻締め制限部は、前記ぜんまいばねの内側に配置され、前記ぜんまいばねの縮径に対して抗力を付与する抗力付与部を有する。
【0009】
第2の態様のテンショナでは、ぜんまいばねの内側に配置された抗力付与部が、ぜんまいばねの縮径に対して抗力を付与する。これにより、ぜんまいばねの巻締めが制限される。しかも、ぜんまいばねの巻締め時にぜんまいばねに生じる板間摩擦力を増大させることができるので、前述したヒステリシス特性を向上させることができる。
【0010】
第3の態様のテンショナは、
第1の態様のテンショナにおいて、前記巻締め制限部は、前記可動部の前記固定部に対する前記張り部材側への変位を許容し且つ前記張り部材とは反対側への変位を制限する変位制限部を有する。
【0011】
第3の態様のテンショナによれば、変位制限部は、可動部の固定部に対する張り部材側への変位を許容し且つ張り部材とは反対側への変位を制限する。これにより、チェーンやベルト等の巻掛け伝動体から張り部材を介して可動部に過大な荷重が入力された場合に、可動部が張り部材とは反対側へ過度に変位することが防止されるので、当該変位に伴ってぜんまいばねが過度に巻締められることを防止できる。
【0012】
第4の態様のテンショナは、
第2の態様のテンショナにおいて、前記抗力付与部は、板状のばね材からなるバックアップスプリングであり、前記バックアップスプリングは、有端環状に形成され、外周面が前記ぜんまいばねの内周面に接触した環状部と、前記環状部の一端部から延出されて前記固定部に係止された係止部と、を有している。
【0013】
第4の態様のテンショナによれば、板状のばね材からなるバックアップスプリングは、有端環状に形成された環状部の外周面がぜんまいばねの内周面に接触しており、環状部の一端部から延出された係止部が固定部に係止されている。このため、ぜんまいばねの巻締め時には、バックアップスプリングの環状部がぜんまいばねの縮径に対して抗力を付与する。このように、板状のばね材からなるバックアップスプリングが抗力付与部とされているので、抗力付与部を簡素な構成にすることができる。しかも、ぜんまいばねの巻締め時にぜんまいばねと環状部との間で生じる摩擦等により、前述したヒステリシス特性を一層向上させることができる。
【0014】
第5の態様のテンショナは、
第2の態様のテンショナにおいて、前記抗力付与部は、前記ぜんまいばねの周方向に並んで配置された複数の押当部材と、前記複数の押当部材を前記ぜんまいばねの径方向外側へ付勢して前記ぜんまいばねの内周面に押し当てる付勢部と、を有している。
【0015】
第5の態様のテンショナによれば、複数の押当部材がぜんまいばねの周方向に並んでぜんまいばねの内側に配置されている。これら複数の押当部材は、付勢部によってぜんまいばねの径方向外側へ付勢されており、ぜんまいばねの内周面に押し当てられている。このため、ぜんまいばねの巻締め時には、複数の押当部材が付勢部の付勢力を受けつつ、ぜんまいばねの縮径に対して抗力を付与する。これにより、ぜんまいばねの巻締めが制限される。しかも、ぜんまいばねの周方向に並んで配置された複数の押当部材がぜんまいばねの内周面に押し当てられる構成であるため、ぜんまいばねの周方向の各部に対して押当力を均等に作用させることが容易である。また、ぜんまいばねの巻締め時に、ぜんまいばねの内周面と複数の押当部材との間で生じる摩擦により、前述したヒステリシス特性を一層向上させることができる。
【0016】
第6の態様のテンショナは、
第2の態様のテンショナにおいて、前記抗力付与部は、板状のばね材によって有端環状に形成され、外周面が前記ぜんまいばねの内周面に接触したバックアップスプリングと、前記ぜんまいばねに対する巻軸方向の両側において前記ぜんまいばねと同軸的に配置され、前記固定部に対して前記巻軸方向に変位可能に支持されると共に、前記ぜんまいばねの巻軸方向中央側へ向かうほど縮径する外周面が前記バックアップスプリングの内周部に接触した一対の軸動部材と、前記一対の軸動部材を互いに接近する方向へ付勢する弾性部材と、を有している。
【0017】
第6の態様のテンショナによれば、板状のばね材によって有端環状に形成されたバックアップスプリングは、外周面がぜんまいばねの内周面に接触している。このため、ぜんまいばねの巻締め時には、バックアップスプリングがぜんまいばねの縮径に対して抗力を付与する。このように、板状のばね材からなるバックアップスプリングが抗力付与部とされているので、抗力付与部を簡素な構成にすることができる。しかも、ぜんまいばねの巻締め時にぜんまいばねとバックアップスプリングとの間で生じる摩擦等により、前述したヒステリシス特性を一層向上させることができる。
【0018】
また、このテンショナでは、一対の軸動部材は、ぜんまいばねに対する巻軸方向の両側においてぜんまいばねと同軸的に配置されており、固定部に対して上記巻軸方向に変位可能に支持されている。これらの軸動部材は、ぜんまいばねの巻軸方向中央側へ向かうほど縮径する外周面がバックアップスプリングの内周部に接触しており、弾性部材によって互いに接近する方向へ付勢されている。これらの軸動部材によってバックアップスプリングが内周側から支持されるので、バックアップスプリングが周方向の各部で均等に変形し易くなる。これにより、ぜんまいばね及びバックアップスプリングが局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばねの巻解き、巻締めが安定する。
【0019】
第7の態様のテンショナは、
第5の態様のテンショナにおいて、前記付勢部は、前記ぜんまいばねに対する巻軸方向の両側において前記ぜんまいばねと同軸的に配置され、前記固定部に対して前記巻軸方向に変位可能に支持されると共に、前記ぜんまいばねの巻軸方向中央側へ向かうほど縮径する外周面が前記複数の押当部材に対して前記ぜんまいばねの径方向内側から接触した一対の軸動部材と、前記一対の軸動部材を互いに接近する方向へ付勢する弾性部材と、を有している。
【0020】
第7の態様のテンショナによれば、一対の軸動部材は、ぜんまいばねに対する巻軸方向の両側においてぜんまいばねと同軸的に配置されており、固定部に対して上記巻軸方向に変位可能に支持されている。これらの軸動部材は、ぜんまいばねの巻軸方向中央側へ向かうほど縮径する外周面が、複数の押当部材に対してぜんまいばねの径方向内側から接触しており、弾性部材によって互いに接近する方向へ付勢されている。これらの軸動部材によって複数の押当部材がぜんまいばねの内周面に均等に押し当てることができる。その結果、ぜんまいばね及び複数の押当部材が局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばねの巻解き、巻締めが安定する。
【0021】
第8の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記固定部に対して前記ぜんまいばねの巻軸方向に沿った軸線回りに回転可能に支持され、前記環状部の他端部に係合した縮径規制部材と、前記環状部の拡径に連動して前記縮径規制部材が前記固定部に対して前記軸線回りの一方へ回転することを許容し且つ前記環状部の縮径に連動して前記縮径規制部材が前記固定部に対して前記軸線回りの他方へ回転することを制限する回転制限部と、を備えている。
【0022】
第8の態様のテンショナでは、可動部が固定部に対して張り部材側へ変位することで、ぜんまいばね及びバックアップスプリングの環状部が拡径すると、当該環状部の拡径に連動して縮径規制部材が固定部に対してぜんまいばねの巻軸方向に沿った軸線回りの一方へ回転される。この際には、上記軸線回り一方への縮径規制部材の回転が回転制限部によって許容される。
【0023】
一方、ベルト又はチェーン等の巻掛け伝動体が張り部材を介して可動部を押圧し、可動部が張り部材とは反対側へ変位しようとすると、ぜんまいばね及びバックアップスプリングの環状部が縮径しようとする。この際には、環状部の縮径に連動して縮径規制部材が固定部に対して上記軸線回りの他方へ回転しようとするが、当該軸線回り他方への縮径規制部材の回転は、回転制限部によって規制される。この場合、環状部が縮径を規制された状態で、可動部が張り部材とは反対側へ変位しようとすることにより、ぜんまいばねが環状部によって内周面の縮径を規制された状態で巻締められる。これにより、ぜんまいばねに生じる板間摩擦力が増加される。その結果、可動部が張り部材とは反対側へ変位し過ぎることが抑制されるので、巻掛け伝動体の挙動が一層安定する。
【0024】
第9の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記固定部に固定され、前記係止部が係止された第1ピン部材と、前記第1ピン部材に対して前記係止部からの前記環状部の延出方向に隣接して配置され、前記固定部に固定されると共に、前記環状部の内周面に係合した第2ピン部材と、前記第1ピン部材及び前記第2ピン部材に固定され、前記ぜんまいばね及び前記バックアップスプリングが前記ぜんまいばねの巻軸方向に変位することを制限するプレート部材と、を備えている。
【0025】
第9の態様のテンショナによれば、固定部に固定された第1ピン部材にバックアップスプリングの係止部が係止されている。この第1ピン部材に対して前記係止部からの環状部の延出方向に隣接して配置された第2ピン部材は、固定部に固定されると共に、環状部の内周面に係合しており、バックアップスプリングが第1ピン部材回りの一方へ回転することを規制している。これにより、片持ち状に固定部に支持されたバックアップスプリングが、ぜんまいばねの巻締り時に均等に変形し易くなるので、ぜんまいばね及びバックアップスプリングが局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばねの巻解き、巻締めが安定する。また、ぜんまいばね及びバックアップスプリングは、第1ピン部材及び第2ピン部材に固定されたプレート部材によってぜんまいばねの巻軸方向への変位を制限されている。これにより、ぜんまいばねの巻解き、巻締め時にぜんまいばねが巻軸方向に位置ズレすることを防止又は抑制できる。
【0026】
第10の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記固定部は、前記環状部の内周面に係合して前記環状部を支持する内周支持部を有している。
【0027】
第10の態様のテンショナによれば、固定部が有する内周支持部がバックアップスプリングの環状部の内周面に係合して当該環状部を支持している。これにより、片持ち状に固定部に支持されたバックアップスプリングが、ぜんまいばねの巻締り時に均等に変形し易くなるので、ぜんまいばね及びバックアップスプリングが局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばねの巻解き、巻締めが安定する。
【0028】
第11の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記環状部は、周方向において断面積が変化している。
【0029】
第11の態様のテンショナによれば、バックアップスプリングの環状部は、周方向において断面積が変化している。これにより、例えばぜんまいばねの巻解き、巻締め時に環状部に生じる応力が局部的に高くなることを防止又は抑制できる。
【0030】
第12の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記ぜんまいばねは、周方向から見た断面が前記環状部とは反対側へ凸をなして屈曲している。
【0031】
第12の態様のテンショナによれば、バックアップスプリングの環状部の外周面が内周面に接触したぜんまいばねは、周方向から見た断面が環状部とは反対側へ凸をなして屈曲している。このため、ぜんまいばねの巻解き、巻締め時に、ぜんまいばねの板間に隙間を生じさせることができる。また、ぜんまいばねと環状部との間にも隙間を形成することができる。これにより、例えば上記各隙間に油が入り込み易くなるので、ぜんまいばね及びバックアップスプリングの磨耗を抑制し易くなると共に、ぜんまいばねの巻解き、巻締めを安定させることができる。
【0032】
第13の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記環状部の外周面は、前記環状部の周方向から見て前記ぜんまいばね側へ凸をなす凸形状に形成されている。
【0033】
第13の態様のテンショナによれば、バックアップスプリングの環状部の外周面は、当該環状部の周方向から見てぜんまいばね側へ凸をなす凸形状に形成されている。このため、ぜんまいばねと環状部との間に隙間が形成されるので、例えば当該隙間に油が入り込み易くなる。その結果、ぜんまいばね及びバックアップスプリングの磨耗を抑制し易くなると共に、ぜんまいばねの巻解き、巻締めを安定させることができる。
【0034】
第14の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記ぜんまいばねを構成する板ばね材の外周面及び内周面には、複数の凹凸が形成されている。
【0035】
第14の態様のテンショナによれば、ぜんまいばねを構成する板ばね材の外周面及び内周面が上記のように形成されているので、ぜんまいばねの板間、及びぜんまいばねと環状部との間にそれぞれ隙間が形成される。これにより、例えば前記各隙間に油が入り込み易くなるので、ぜんまいばね及びバックアップスプリングの磨耗を抑制し易くなると共に、ぜんまいばねの巻解き、巻締めを安定させることができる。
【0036】
第15の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記可動部は、前記ぜんまいばねの巻軸方向と直交する進退方向にスライド可能に前記固定部に支持されており、前記ぜんまいばねは、前記可動部に対して前記巻軸方向及び前記進退方向と直交するばね隣接方向に隣接して配置されると共に、外端部が前記可動部に係止され、内端部が前記固定部に係止されており、前記ぜんまいばねを巻締める回転方向を巻締め方向とし、前記ぜんまいばねを巻解く回転方向を巻解き方向とした場合、前記環状部は、前記係止部から前記巻締め方向へ延びており、前記環状部の前記一端部は、前記巻軸方向から見た場合に、前記環状部の中心から前記隣接方向に沿って前記可動部側へ延びる仮想直線に対して、前記中心回りに0度の位置から前記巻解き方向へ90度の位置までの範囲に配置されている。
【0037】
第15の態様のテンショナによれば、バックアップスプリングは、前述したように、有端環状に形成された環状部の外周面が、ぜんまいばねの内周面に接触しており、環状部の一端部から延出された係止部が、固定部に係止されている。また、ぜんまいばねを巻締める回転方向を巻締め方向とし、ぜんまいばねを巻解く回転方向を巻解き方向とした場合、環状部は、係止部から巻締め方向へ延びている。そして、環状部の一端部(係止部が延出された端部)は、ぜんまいばねの巻軸方向から見た場合に、環状部の中心からばね隣接方向(ぜんまいばねと可動部との隣接方向)に沿って可動部側へ延びる仮想直線に対して、環状部の中心回りに0度の位置から巻解き方向へ90度の位置までの範囲に配置されている。つまり、環状部の一端部側の部位が可動部の近くに配置されている。
【0038】
ここで、環状部の一端部側の部位が可動部から離れて配置されている場合、張り部材とは反対側への可動部の変位によってぜんまいばねの外端部に加わる荷重が、ぜんまいばね及びバックアップスプリングに対して曲げ荷重として作用し、ぜんまいばねを巻締める荷重への変換効率が悪くなる。その結果、ぜんまいばねに生じる板間摩擦力が低下し、ヒステリシス特性が低下する。これに対し、本発明のように環状部の一端部側の部位が可動部の近くに配置されている場合、張り部材とは反対側への可動部の変位によってぜんまいばねの外端部に加わる荷重が、ぜんまいばね及びバックアップスプリングに対して曲げ荷重として作用し難くなり、ぜんまいばねを巻締める荷重に変換され易くなる。その結果、ぜんまいばねに生じる板間摩擦力が増加し、ヒステリシス特性が向上する。
【0039】
第16の態様のテンショナは、
第4の態様のテンショナにおいて、前記環状部は、前記板状のばね材が1.0巻き以上巻かれて形成されている。
【0040】
第16の態様のテンショナによれば、バックアップスプリングの環状部は、板状のばね材が1.0巻き以上巻かれて形成されている。これにより、ぜんまいばねの巻締め時に、環状部の他端側(自由端側)が、環状部の一端側(係止端側)よりも環状部の中心側へ大きく変形することが防止され、環状部が周方向の各部で均等に縮径し易くなる。その結果、ぜんまいばねの縮径に対して環状部から付与される抗力を、ぜんまいばねの周方向の各部に均等に作用させ易くなる。
【0041】
第17の態様のテンショナは、
第1の態様〜
第16の態様の何れか1
つの態様のテンショナにおいて、前記巻締め制限部は、前記可動部を前記固定部に対して前記張り部材側へ付勢する追加ばねを有する。
【0042】
第17の態様のテンショナによれば、追加ばねは、可動部を固定部に対して張り部材側へ付勢する。これにより、ぜんまいばねの巻締めが制限される。しかも、可動部がぜんまいばねのみならず追加ばねによっても張り部材側へ付勢されるので、可動部に対して十分な推進力を与えることができ、チェーンやベルト等の巻掛け伝動体に対して十分な張力を負荷することができる。また、ぜんまいばねと追加ばねとによって、張り部材への張力負荷と荷重吸収特性とを切り分けて設定することができる。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、本発明に係るテンショナでは、ぜんまいばねの過度な巻締めに起因して巻掛け伝動体の挙動が不安定になることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す側面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す平面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す斜視図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るテンショナを示す正面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るテンショナを示す斜視図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係るテンショナを示す部分断面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るテンショナを
図7のF8−F8線に沿って切断した状態で示す部分断面図である。
【
図9】本発明の第4実施形態に係るテンショナを示す部分断面図である。
【
図10】本発明の第4実施形態に係るテンショナを
図9のF10−F10線に沿って切断した状態で示す部分断面図である。
【
図11】本発明の第5実施形態に係るテンショナの部分的な構成を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第5実施形態に係るテンショナの部分的な構成を示す断面図である。
【
図13】本発明の第5実施形態に係るバックアップスプリングを示す斜視図である。
【
図14】本発明の第6実施形態に係るテンショナが備える複数の押当部材を示す斜視図である。
【
図15】本発明の第7実施形態に係るテンショナを示す正面図である。
【
図16】
図15のF16−F16線に沿った切断面を示す断面図である。
【
図17A】本発明の第7実施形態に係る可動部を示す側面図である。
【
図17B】本発明の第7実施形態に係る可動部を示す端面図である。
【
図18】本発明の第8実施形態に係るテンショナを示す斜視図である。
【
図19】本発明の第8実施形態に係るテンショナを示す斜視図である。
【
図20A】本発明の第8実施形態に係るテンショナを示す正面図である。
【
図20B】本発明の第8実施形態に係るテンショナを示す上面図である。
【
図20C】本発明の第8実施形態に係るテンショナを示す側面図である。
【
図21】
図20Aに示される構成において横ズレ防止部材のプレートの図示を省略した図である。
【
図22】本発明の第8実施形態に係る固定部を示す斜視図である。
【
図23】
図23AのF23−F23線に沿った切断面を示す断面図である。
【
図24】本発明の第8実施形態に係るテンショナにおいて、可動部の反力と可動部のストロークとの関係を示す線図である。
【
図25】本発明の第8実施形態に係るテンショナにおいて、ぜんまいばね及び追加ばねの荷重吸収特性について説明するための
図24に対応した線図である。
【
図26A】本発明の第9実施形態に係るテンショナが備えるバックアップスプリングを示す正面図である。
【
図26B】本発明の第9実施形態に係るバックアップスプリングを示す側面図である。
【
図27A】本発明の第9実施形態に係るバックアップスプリングの変形例を示す正面図である。
【
図27B】本発明の第9実施形態に係るバックアップスプリングの変形例を示す側面図である。
【
図28】本発明の第10実施形態に係るテンショナの部分的な構成を示す断面図である。
【
図29】本発明の第10実施形態において、ぜんまいばねが巻締められた状態を示す
図30に対応した断面図である。
【
図30】本発明の第11実施形態に係るテンショナの部分的な構成を示す断面図である。
【
図31】本発明の第11実施形態において、ぜんまいばねが巻締められた状態を示す
図32に対応した断面図である。
【
図32】本発明の第12実施形態に係るテンショナの部分的な構成を示す断面図である。
【
図33】本発明の第13実施形態に係るテンショナを正面側から見た部分断面図であり、支持部材を
図35のF33−F33線に沿って切断した状態で示す図である。
【
図34】本発明の第13実施形態に係るテンショナを示す上面図である。
【
図35】本発明の第13実施形態に係るテンショナを示す側面図である。
【
図36A】本発明の第13実施形態に係る固定部を示す正面図である。
【
図36B】本発明の第13実施形態に係る固定部を示す上面図である。
【
図36C】本発明の第13実施形態に係る固定部を示す側面図である。
【
図37A】本発明の第13実施形態に係る可動部を示す正面図である。
【
図37B】本発明の第13実施形態に係る可動部を示す上面図である。
【
図37C】本発明の第13実施形態に係る可動部を示す側面図である。
【
図38】本発明の第13実施形態の第1変形例を示す正面図である。
【
図39】本発明の第13実施形態の第2変形例を示す正面図である。
【
図40A】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図であり、ぜんまいばねの巻軸方向から見た場合に、バックアップスプリングの環状部の中心からばね隣接方向に沿って可動部側へ延びる仮想直線に対する環状部の一端部の配置(以下、「バックアップスプリングの位相」と称する)が、上記中心回りに−90度の位置とされた状態の図である。
【
図40B】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図であり、バックアップスプリングの位相が環状部の中心回りに−60度の位置とされた状態の図である。
【
図40C】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図であり、バックアップスプリングの位相が環状部の中心回りに0度の位置とされた状態の図である。
【
図40D】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図であり、バックアップスプリングの位相が環状部の中心回りに60度の位置とされた状態の図である。
【
図40E】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図であり、バックアップスプリングの位相が環状部の中心回りに90度の位置とされた状態の図である。
【
図40F】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図であり、バックアップスプリングの位相が環状部の中心回りに180度の位置とされた状態の図である。
【
図40G】本発明の第1実施形態に係るテンショナを示す正面図であり、バックアップスプリングの位相が環状部の中心回りに270度の位置とされた状態の図である。
【
図41】本発明の第1実施形態に係るテンショナにおけるバックアップスプリングの位相と消散率との関係を示す線図である。
【
図42】本発明の第1実施形態に係るテンショナにおいて、推進部材に入力される荷重と推進部材のストロークとの関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
<第1の実施形態>
以下、
図1〜
図4を用いて、本発明の第1実施形態に係るテンショナ10について説明する。なお説明の便宜上、各図中に適宜示される矢印X、Y、Zが指し示す方向を、それぞれ「進退方向」、「ばね隣接方向」、「巻軸方向」とする。これらの進退方向X、ばね隣接方向Y及び巻軸方向Zは、互いに直交している。
【0046】
(構成)
図1〜
図4に示されるように、第1実施形態に係るテンショナ10は、可動部(推進部材;プランジャ)32と、固定部(支持部材)12と、接触型のぜんまいばね34と、バックアップスプリング92とを備えている。可動部は、チェーンガイドやベルトガイド等の張り部材(図示省略)を介してタイミングチェーンやタイミングベルト等の巻掛け伝動体(図示省略)から荷重を受けるものである。固定部12は、可動部32を変位可能(ここでは進退方向Xに直線移動可能)に支持している。ぜんまいばね34は、可動部32に対してばね隣接方向Yに隣接して配置されている。このぜんまいばね34の巻軸方向Zは、前述したように進退方向X及びばね隣接方向Yに対して直交している。このぜんまいばね34は、張り部材に対抗するように可動部32を付勢すると共に、張り部材から作用する荷重に対して張り部材に加える付勢力が大きい場合、板間摩擦力が小さい状態で巻解かれ、張り部材から作用する荷重に対して張り部材に加える付勢力が小さい場合、板間摩擦力が大きい状態で巻締められる構成になっている。バックアップスプリング92は、ぜんまいばね34の内側に配置され、ぜんまいばね34の縮径に対して抗力を付与する構成になっている。以下、上記各構成要素について詳細に説明する。
【0047】
(固定部について)
固定部12は、例えば金属によって形成されたものであり、ぜんまいばね34の巻軸方向Zを板厚方向とする板状をなす固定部本体14を備えている。この固定部本体14は、巻軸方向Zから見て進退方向Xを長手方向とする長尺矩形状に形成されている。この固定部本体14の幅方向(ばね隣接方向Y)の両端部における長手方向の中央側には、それぞれ固定部本体14の幅方向外側へ突出した固定部16、18が形成されている。これらの固定部16、18には、それぞれ巻軸方向Zに貫通した貫通孔20、22が形成されている。これらの貫通孔20、22に挿通されたボルト等を用いて固定部12が図示しないエンジンのシリンダブロックに固定される構成になっている。なお、固定部12は、エンジンのシリンダブロックと一体に成型されるものでもよい。
【0048】
また、固定部本体14の幅方向一端部には、巻軸方向Zの一方側へ突出した先端側支持部24及び基端側支持部26が形成されている。先端側支持部24は、固定部12の長手方向一端部(進出方向X1側の端部)に形成されており、基端側支持部26は、固定部12の長手方向他端部(後退方向X2側の端部)に形成されている。先端側支持部24及び基端側支持部26は、
図1〜
図4に示されるように、略直方体状に形成されている。先端側支持部24及び基端側支持部26には、それぞれ進退方向Xに貫通した貫通孔28(
図2以外では図示省略)及び貫通孔30(
図2及び
図3以外では図示省略)が形成されている。これらの貫通孔28、30は、可動部32に対応している。
【0049】
(可動部について)
可動部32は、例えば金属によって形成されたものであり、進退方向Xを軸線方向とする略円柱状に形成されている。詳細には、この可動部32は、先端部(軸線方向一端部)32A及び基端部(軸線方向他端部)32Bが円柱状に形成されている。可動部32の長手方向中間部32Cは、ばね隣接方向Yの一方側(
図1では右側)がDカット状に切り欠かれている。可動部32の基端部32Bは、基端側支持部26に形成された円形の貫通孔30に摺動自在に挿入されており、可動部32の長手方向中間部32Cにおける先端部32A側の一部は、先端側支持部24に形成された円形の貫通孔28に摺動自在に挿通されている。
【0050】
上記のように貫通孔28、30に摺動自在に挿入された可動部32は、固定部12に対して進退方向Xに直線的に進退移動可能(直線移動可能)に支持されている。つまり、この可動部32は、固定部12に対して進出方向X1及び後退方向X2へ移動(スライド)可能とされている。この可動部32の先端部32A側は、固定部12よりも進出方向X1へ突出している。この可動部32の先端部32Aは、ぜんまいばね34の付勢力によって、図示しない張り部材に押し付けられる構成になっている。
【0051】
(ぜんまいばねについて)
ぜんまいばね34は、板状のばね材(板ばね材)によって構成されており、当該板ばね材が渦巻き状に巻かれて形成された渦巻き部34Aと、渦巻き部34Aの内端34A1から渦巻き部34Aの中心側へ延出された内端部34Bと、渦巻き部34Aの外端34A2から当該外端34A2における渦巻き部34Aの接線方向に沿って延出された外端部34Cとを備えている。なお、本実施形態に係る渦巻き部34Aは、上記板ばね材が2.0巻き程度巻かれた構成になっているが、これに限らず、渦巻き部34Aにおける板ばね材の巻き数は適宜変更可能である。
【0052】
このぜんまいばね34は、渦巻き部34Aの巻軸方向Zが固定部本体14の板厚方向と一致する姿勢で、固定部本体14に対して可動部32と同じ側に配置されており、可動部32の長手方向中間部32Cに対してばね隣接方向Yに隣接している。固定部本体14には、ぜんまいばね34側へ円柱状に突出した台座部15が形成されており、当該台座部15によってぜんまいばね34が巻軸方向Zの一方側から支持されている。
【0053】
渦巻き部34Aの内端34A1及び外端34A2は、渦巻き部34Aにおける可動部32側の端部に配置されている。渦巻き部34Aの内端34A1から渦巻き部34Aの中心側へ延出された内端部34Bは、先端側が後退方向X2へ屈曲されており、台座部15に固定された内側固定部材36に引っ掛けられている。これにより、ぜんまいばね34の内端部34Bが固定部12に係止されている。上記の内側固定部材36は、巻軸方向Z視で略扇形のブロック状に形成されており、固定具(例えばリベット、ビス等)によって台座部15に固定されている。この内側固定部材36は、内端部34Bと渦巻き部34Aとの間に挟まれている。
【0054】
ぜんまいばね34の外端部34Cは、渦巻き部34Aの外端34A2から後退方向X2へ平板状に延びており、可動部32の長手方向中間部32Cに接触して配置されている。この外端部34Cの先端部(後退方向X2側の端部)は、係止部材40(例えばリベット、ビス等)によって可動部32に係止(ここでは固定)されている。なお、
図1において、矢印WUは、ぜんまいばね34を巻締める回転方向である巻締め方向を示しており、矢印RWは、ぜんまいばね34を巻解く回転方向である巻解き方向を示している。
【0055】
(バックアップスプリングについて)
バックアップスプリング92は、本発明における「抗力付与部」及び「巻締め制限部」に相当しており、ぜんまいばね34を構成する板状のばね材よりも板厚が厚い板状のばね材によって構成されている。なお、バックアップスプリング92を構成するばね材は、金属に限らず、例えば耐摩耗性を有する樹脂でもよい。このバックアップスプリング92は、ぜんまいばね34と同心の有端環状(C字状)に形成され、外周面がぜんまいばね34の内周面に接触した環状部92Aと、環状部92Aの一端部92A1から環状部92Aの中心S側へ延出された係止部92Bとを有している。この係止部92Bは、ぜんまいばね34の内端部34Bと同様の形状に形成され、内端部34Bに重ね合わされており、内側固定部材36に引っ掛けられている。これにより、バックアップスプリング92の係止部92Bが固定部12に係止されている。
【0056】
環状部92Aは、係止部92Bからぜんまいばね34の巻締め方向WUへ延びており、環状部92Aの一端部92A1は、環状部92Aにおける可動部32側の端部に位置している。本実施形態では、環状部92Aは、バックアップスプリング92を構成する板状のばね材が1.0巻き未満に巻かれて形成されている。この一端部92A1は、巻軸方向Z(
図8では紙面に垂直な方向)から見た場合に、環状部92Aの中心Sからばね隣接方向Yに沿って可動部32側へ延びる仮想直線VLに対して中心S回りに0度の位置に配置されている。また、環状部92Aの他端部92A2は、一端部92A1に対して環状部92Aの周方向に離間して配置されており、環状部92Aは、巻軸方向Z視で略C字状をなしている。なお、環状部92Aの一端部92A1は、巻軸方向Zから見た場合に、仮想直線VLに対して中心S回りに0度の位置から巻解き方向RWへ90度の位置までの範囲(
図8のθが−90°〜0°の範囲)に配置されることが好ましい。
【0057】
(作用及び効果)
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0058】
上記構成のテンショナ10では、接触型のぜんまいばね34の付勢力によって可動部32が固定部12に対して進出方向X1へ変位することにより、可動部32の先端部32Aがベルトガイドやチェーンガイド等の張り部材を介してタイミングベルトやタイミングチェーン等の巻掛け伝動体に押し付けられる。これにより、巻掛け伝動体の振動をぜんまいばね34の巻解き、巻締めにより緩衝し、且つぜんまいばね34の巻解き方向RWと巻締め方向WUでの板間摩擦力の差によるヒステリシス特性によりエネルギを吸収して減衰することができる。
【0059】
具体的には、タイミングベルト又はタイミングチェーンの張力が保たれた状態において、タイミングベルト又はタイミングチェーンが可動部32を押圧すると、可動部32が固定部12に対して後退方向X2へ変位し、接触型のぜんまいばね34が巻締められる。この際には、可動部32に入力される荷重のエネルギが、接触型のぜんまいばね34に生じる板間摩擦、ぜんまいばね34に生じる曲げ応力による損失、ぜんまいばね34と可動部32との間に生じる摩擦等により、効果的に減衰される。これにより、タイミングベルト又はタイミングチェーンの微小振動を効果的に吸収(抑制)することができる。その結果、エンジンのメカニカルロスが低減され、エンジンの燃費が向上する。
【0060】
しかも、板状のばね材からなるバックアップスプリング92は、ぜんまいばね34と同心の環状に形成された環状部92Aの外周面が、ぜんまいばね34の内周面に接触しており、環状部92Aの一端部から環状部92Aの中心S側へ延出された係止部92Bが、固定部12に係止されている。上記の環状部92Aは、ぜんまいばね34の巻締め時に、ぜんまいばね34の縮径に対して抗力(ぜんまいばね34の径方向外側向きの付勢力)を付与する。これにより、ぜんまいばね34の過度な巻締めが防止されるので、当該過度な巻締めに起因して巻掛け伝動体の挙動が不安定になること(巻掛け伝動体が過度にばたつくこと)を防止できる。その結果、巻掛け伝動体に異状が生じることや、異音の発生を防止できる。また、ぜんまいばね34の巻締め時にぜんまいばね34に生じる板間摩擦力を増大させることができるので、前述したヒステリシス特性を向上させることができる。
【0061】
また、この実施形態では、板状のばね材からなるバックアップスプリング92が抗力付与部(巻締め制限部)とされているので、抗力付与部を簡素な構成にすることができる。しかも、ぜんまいばね34の巻締め時にぜんまいばね34と環状部92Aとの間に生じる摩擦や、バックアップスプリング92に生じる曲げ応力による損失等によっても、可動部62に入力される荷重のエネルギが減衰されるので、ヒステリシス特性を効果的に向上させることができる。
【0062】
さらに、この実施形態では、環状部92Aの一端部92A1は、巻軸方向Zから見た場合に、環状部92Aの中心Sからばね隣接方向Yに沿って可動部32側へ延びる仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに0度の位置に範囲に配置されている。つまり、環状部92Aの一端部92A1側の部位が可動部32の近くに配置されている。ここで、環状部92Aの一端部92A1側の部位が可動部32から離れて配置されている場合、可動部32の後退方向X2への変位によってぜんまいばね34の外端部34Cに加わる荷重が、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92に対して曲げ荷重として作用し、ぜんまいばね34を巻締める荷重への変換効率が悪くなる。その結果、ぜんまいばね34に生じる板間摩擦力が低下し、ヒステリシス特性が低下する。これに対し、本実施形態のように環状部92Aの一端部92A1側の部位が可動部32の近くに配置されている場合、可動部32の後退方向X2への変位によってぜんまいばね34の外端部34Cに加わる荷重が、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92に対して、渦巻き部34A及び環状部92A各々の全域における曲率差を小さくするように回転トルクとして入力され、係止部92Bを支点として渦巻き部34A及び環状部92Aが真円状を保ったまま縮径し易くなる。その結果、上記荷重がぜんまいばね34及びバックアップスプリング92に対して曲げ荷重として作用し難くなり、ぜんまいばね34を巻締める荷重に変換され易くなる。その結果、ぜんまいばね34に生じる板間摩擦力が増加し、ヒステリシス特性が向上する。
【0063】
なお、上記第1実施形態では、バックアップスプリング92の環状部92Aは、バックアップスプリング92を構成する板状のばね材が1.0巻き未満に巻かれて形成された構成にしたが、これに限るものではない。すなわち、バックアップスプリング92の環状部92Aは、バックアップスプリング92を構成する板状のばね材が1.0巻き以上巻かれて形成されたものでもよい。その場合、環状部92Aにおける他端部92A2側の部位が、環状部92Aの一端部92A1側の部位に対して、環状部92の径方向外側に配置された構成になる。そのように構成することにより、ぜんまいばね34の巻締め時に、環状部92Aの他端部92A2側(自由端側)が、環状部92Aの一端部92A1側(係止端側)よりも環状部92Aの中心側へ大きく変形することが防止され、環状部92Aが周方向の各部で均等に縮径し易くなる。その結果、ぜんまいばね34の渦巻き部34Aの縮径に対して環状部92Aから付与される抗力が、渦巻き部34Aの周方向の各部に対して均等に作用し易くなる。
【0064】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明済みの実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、説明済みの実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0065】
<第2の実施形態>
図5には、本発明の第2実施形態に係るテンショナ80が正面図にて示されており、
図6には、このテンショナ80が斜視図にて示されている。このテンショナ80は、第1実施形態に係るテンショナ10と基本的に同様の構成とされているが、第1実施形態に係るバックアップスプリング92を備えていない構成になっている。その代わりに、このテンショナ80は、固定部12に対する可動部32の張り部材側(進出方向X1)への変位を許容し且つ張り部材とは反対側(後退方向X2)への変位を制限する変位制限部としてのラチェット機構82を備えている。このラチェット機構82は、本発明の「巻締め制限部」に相当しており、先端側支持部24に支持されたラチェット部材84を備えている。
【0066】
このラチェット部材84は、可動部32の長手方向中間部32Cに対してばね隣接方向Yの一方側(ぜんまいばね34が配置された側)に配置されており、先端側支持部24に形成された溝部85(
図6参照)内に配置されている。このラチェット部材84は、巻軸方向Zを軸線方向とする支軸86を介して先端側支持部24に支持されており、支軸86回りに回転可能とされている。このラチェット部材84は、先端側支持部24との間に介設された図示しない付勢部材によって支軸86の軸線回り一方へ付勢されており、可動部32の長手方向中間部32C側の端部(先端部)が長手方向中間部32Cに押し当てられている。長手方向中間部32Cにおけるラチェット部材84側の端面には、複数のノッチ88が進退方向Xに並んで形成されており、当該ノッチ88にラチェット部材84の先端部が係合することで、可動部32が固定部12に対する後退方向X2への変位を制限されている。このラチェット部材84は、可動部32が固定部12に対して進出方向X1へ変位(進出)される際には、上記の付勢部材を弾性変形させつつ支軸86の軸線回り他方へ回転される。これにより、可動部32の進出が許容される構成になっている。
【0067】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。したがって、この実施形態においても、チェーンやベルト等の巻掛け伝動体の振動をぜんまいばね34の巻解き、巻締めにより緩衝し、且つぜんまいばね34の巻解き方向RWと巻締め方向WUでの板間摩擦力の差によるヒステリシス特性によりエネルギを吸収して減衰することができる。しかも、この実施形態では、ラチェット機構82は、可動部32の固定部12に対する張り部材側(進出方向X1)への変位を許容し且つ張り部材とは反対側(後退方向X2)への変位を制限する。これにより、巻掛け伝動体から張り部材を介して可動部32に過大な荷重が入力された場合に、可動部32が張り部材とは反対側へ過度に変位(後退)することが防止される。その結果、上記の変位に伴ってぜんまいばね34が過度に巻締められることを防止できるので、当該過度な巻締めに起因して巻掛け伝動体の挙動が不安定になることを防止できる。
【0068】
なお、変位制限部は、可動部32の進出方向X1への変位を許容し且つ後退方向X2への変位を制限(一定の範囲に規制)するもの、すなわち可動部32が過度に後退し過ぎることを防止可能なものであればよく、上記のラチェット機構82に限らず適宜変更可能である。例えば後退方向X2側へ向かうほど細幅になる楔形状の係止駒を、可動部32と固定部12との間の隙間に配置し、可動部32に形成されたノッチ部と上記の係止駒とを係合させる構成にしてもよい。また例えば、変位制限部は、レジスタリング、鋸歯ねじ、ウォームギヤなどを用いて構成してもよい。
【0069】
<第3の実施形態>
図7には、本発明の第3実施形態に係るテンショナ100が正面側から見た部分断面図にて示されており、
図8には、このテンショナ100を
図7のF8−F8線に沿って切断した状態が部分断面図にて示されている。このテンショナ100は、固定部102と、可動部118と、ぜんまいばね34とを備えており、第1実施形態に係るテンショナ10と基本構成が同様とされている。但しこのテンショナ100では、固定部102及び可動部118の構成が、第1実施形態に係る固定部102及び可動部118の構成と異なっている。
【0070】
固定部102は、例えば板金がプレス成形されて形成されたものであり、巻軸方向Zを板厚方向とする板状の固定部本体104を備えている。この固定部本体104は、巻軸方向Zから見て進退方向Xを長手方向とする略長尺矩形状に形成されている。固定部本体104の幅方向(ばね隣接方向Y)の一端側は、ぜんまいばね34側へ略U字状(略コ字状)に曲げられた可動部支持部102Aとされている。この可動部支持部102Aは、固定部本体104の幅方向一端部(
図7及び
図8では上側の端部)から巻軸方向Zの一方側(ぜんまいばね34及び可動部118が配置された側)へ突出している。この可動部支持部102Aは、固定部本体104に対して隙間を隔てて対向した対向壁106と、固定部本体104及び対向壁106の各幅方向一端部(
図7及び
図8では上側の端部)を巻軸方向Zに繋いだ上壁108とを備えている。さらに、この可動部支持部102Aは、対向壁106の幅方向他端部における進退方向Xの両端部から固定部本体104側へ延出された一対の保持片110、112を備えている。保持片110、112の先端部110A、112Aは、上壁108とは反対側へ屈曲され、固定部本体104に重ね合わされている。そして、先端部110A、112A及び固定部本体104には、両者を貫通した貫通孔114、116が形成されている。これらの貫通孔114、116に挿通されたボルト等を用いて固定部102が図示しないエンジンのシリンダブロックに固定される構成になっている。
【0071】
また、可動部118は、例えば板金がプレス成形されて形成されたものであり、進退方向Xを長手とする長尺状に形成されている。この可動部118は、進退方向Xから見てぜんまいばね34側が開口した開断面形状をなしており、固定部本体104と対向壁106との間に配置されている。この可動部118は、一対の保持片110、112と上壁108とによってばね隣接方向Yへの変位を規制されているが、固定部102に対して進退方向Xに直線的に進退移動可能に支持されている。この可動部118の先端部118Aは、固定部102よりも進出方向X1へ突出している。この可動部118の先端には、進退方向Xを板厚方向とする先端壁118A1が設けられている。この先端壁118A1は、図示しない張り部材(ベルトガイド、チェーンガイド等)に押し付けられる構成になっている。この可動部118の内側には、外端部34Cを含むぜんまいばね34の一部が配置されている。ぜんまいばね34の外端部34Cの先端部(後退方向X2側の端部)は、係止部材40(例えばリベット、ビス等)によって可動部118の基端部118Bに係止(ここでは固定)されている。
【0072】
さらに、このテンショナ100では、ぜんまいばね34の渦巻き部34Aの内側に複数(ここでは4つ)の押当部材120と、付勢部122とが配置されている。付勢部122は、一対の楔形部材124と、圧縮コイルスプリング126とによって構成されている。複数の押当部材120及び付勢部122は、抗力付与部を構成している。複数の押当部材120は、ぜんまいばね34の周方向に並んで配置されている。これらの押当部材120は、巻軸方向Z視で略扇形のブロック状をなしており、巻軸方向Z視で円弧状をなす面が渦巻き部34Aの内周面に接触している。各押当部材120は、例えば固定部本体104側へ突出した図示しない突出部を有しており、当該突出部が固定部本体104に形成された図示しない溝に嵌合することで、固定部本体104に対してぜんまいばね34の径方向(渦巻き部34Aの径方向)に変位可能に支持されている。なお、本実施形態では、ぜんまいばね34の内端部34Bは、上記複数の押当部材120のうちの一つに固定されており、当該一つの押当部材120を介して固定部102に係止されているが、これに限るものではない。ぜんまいばね34の内端部34Bが、支持部材102に直接係止される構成にしてもよい。
【0073】
一対の楔形部材124は、巻軸方向Z視で略三角形のブロック状に形成されており、渦巻き部34Aの径方向(ここではばね隣接方向Y)に並んで配置されている。これらの楔形部材124は、隣り合う一対の押当部材120の間に差し込まれている。各楔形部材124は、例えば固定部本体104側へ突出した図示しない突出部を有しており、当該突出部が固定部本体104に形成された図示しない溝に嵌合することで、固定部本体104に対してぜんまいばね34の径方向(ここではばね隣接方向Y)に変位可能に支持されている。
【0074】
一対の楔形部材124の間には、圧縮コイルスプリング126が配置されている。圧縮コイルスプリング126の軸線方向両端側は、一対の楔形部材124に形成された穴(符号省略)内に挿入されている。この圧縮コイルスプリング126は、一対の楔形部材124を互いに離間する方向へ付勢している。これにより、複数の押当部材120がぜんまいばね34の径方向外側へ付勢されており、複数の押当部材120がぜんまいばね34の内周面に押し当てられている。
【0075】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。したがって、この実施形態においても、チェーンやベルト等の巻掛け伝動体の振動をぜんまいばね34の巻解き、巻締めにより緩衝し、且つぜんまいばね34の巻解き方向RWと巻締め方向WUでの板間摩擦力の差によるヒステリシス特性によりエネルギを吸収して減衰することができる。しかも、この実施形態では、ぜんまいばね34の巻締め時には、ぜんまいばね34の周方向に並んで配置された複数の押当部材120が圧縮コイルスプリング126の付勢力を受けつつ、ぜんまいばね34の縮径に対して抗力を付与する。これにより、ぜんまいばね34の過度な巻締めが防止されるので、当該過度な巻締めに起因して巻掛け伝動体の挙動が不安定になることを防止できる。
【0076】
また、上記のようにぜんまいばね34の縮径に対して抗力が付与されることにより、ぜんまいばね34に生じる板間摩擦力を増大させることができる。さらに、ぜんまいばね34の周方向に並んで配置された複数の押当部材120がぜんまいばね34の内周面に押し当てられる構成であるため、ぜんまいばね34の周方向の各部に対して押当力を均等に作用させることが容易である。しかも、ぜんまいばね34の巻締め時に、ぜんまいばね34の内周面と複数の押当部材120との間で生じる摩擦により、ヒステリシス特性を一層向上させることができる。またさらに、この実施形態では、進退方向Xから見てぜんまいばね34側が開口した開断面形状をなす可動部118の内側に、外端部34Cを含むぜんまいばね34の一部が配置されている。これにより、テンショナ100の小型化を図ることができる。また、この実施形態では、固定部102及び可動部118が板金のプレス成形品とされているため、固定部102及び可動部118が切削加工や鍛造などにより製造される場合と比較して、製造タクトの短縮が可能であり、製造コストの低コスト化を図りやすい。また、固定部102及び可動部118を軽量化することが容易である。
【0077】
<第4の実施形態>
図9には、本発明の第6実施形態に係るテンショナ130が正面側から見た部分断面図にて示されており、
図10には、このテンショナ130を
図9のF10−F10線に沿って切断した状態が部分断面図にて示されている。このテンショナ130は、第3実施形態に係るぜんまいばね34、固定部102及び可動部118と同様のぜんまいばね34、固定部102及び可動部118を備えている。但し、このテンショナ130は、第3実施形態に係る複数の押当部材120及び付勢部122を備えておらず、その代わりに抗力付与部としてのバックアップスプリング92を備えている。このバックアップスプリング92は、第1実施形態に係るバックアップスプリング92と基本的に同様の構成とされており、環状部92Aと、係止部92Bとを有している。
【0078】
また、このテンショナ130では、巻軸方向Zから見て環状部92Aの内側に配置され、固定部102に対して巻軸方向Zに沿った軸線回りに回転可能に支持され、環状部92Aの他端部92A2に係合した縮径規制部材132と、環状部92Aの拡径に連動して縮径規制部材132が固定部102に対して上記軸線回りの一方(
図9の矢印R1方向)へ回転することを許容し且つ環状部92Aの縮径に連動して縮径規制部材132が固定部102に対して上記軸線回りの他方(
図9の矢印R2方向)へ回転することを制限する回転制限部としての回転ラチェット機構138と、を備えている。以下、詳細に説明する。
【0079】
本実施形態では、バックアップスプリング92の係止部92Bの先端部が、ぜんまいばね34と同心の環状に曲げられた曲げ部92B1とされている。この曲げ部92B1の内側には、固定部本体104から円柱状に突出した支軸134が嵌合している。この支軸134は、ぜんまいばね34の渦巻き部34A及びバックアップスプリング92の環状部92Aと同心状に形成されている。
【0080】
また、この実施形態では、ぜんまいばね34の内端部34Bが、バックアップスプリング92の係止部92Bと同様の形状に成形されており、内端部34Bの先端部には、ぜんまいばね34と同心状の環状に曲げられた曲げ部34B1が形成されている。この内端部34Bは、係止部92Bに重ね合わされており、曲げ部34B1が曲げ部92B1の外周面に巻き掛けられている。これにより、ぜんまいばね34の内端部34Bが固定部102に係止されている。
【0081】
バックアップスプリング92の環状部92Aの他端部92A2には、縮径規制部材132が係合している。縮径規制部材132は、ぜんまいばね34の渦巻き部34A及び環状部92Aの内側に配置されている。この縮径規制部材132は、例えば金属によって形成されたものであり、巻軸方向Z視で略リング状に形成された軸受部132Aを備えている。この軸受部132Aは、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92の曲げ部34B1、92B1と、固定部本体104との間に配置されており、軸受部132Aの内側には、支軸134が回転自在に嵌合している。これにより、縮径規制部材132は、固定部102に対して支軸134の軸線回り(巻軸方向Zに沿った軸線回り)に回転可能に支持されている。
【0082】
軸受部132Aの外周の一部からは、環状部92Aの他端部92A2側へ向けて他端側支持部132Bが延出されている。環状部92Aの他端部92A2は、環状部92Aの中心側へ向けて屈曲されており、他端側支持部132Bの先端部に形成された切込み136に嵌め込まれている。これにより、環状部92Aの他端部92A2が縮径規制部材132に支持(連結)されている。また、軸受部132Aと環状部92Aの一端側との間には、一端側固定部131が配置されている。この一端側支持部132Cは、例えば板金によって形成され、溶接等の手段で固定部104に固定されたものであり、巻軸方向Zから見て環状部92Aの一端側へ向かうほど環状部92Aの周方向の寸法が拡大する略扇形状に形成されている。
【0083】
一端側固定部131における環状部92A側の端部には、固定部本体104とは反対側(
図9では紙面手前側)へ延びる円弧状壁部131Aが形成されている。この円弧状壁部131Aは、環状部92Aと同心状に湾曲しており、環状部92Aの一端側に対して環状部92Aの内周側から接触している。また、一端側固定部131において、環状部92Aの周方向の一方側(
図9の矢印R1方向側)の端部には、固定部本体104とは反対側(
図9では紙面手前側)へ延びる径方向壁部131Bが形成されている。この径方向壁部131Bは、環状部92Aの径方向へ延びると共に、円弧状壁部131Aに一体に繋がっており、係止部92Bの基端部に対して環状部92Aの周方向の一方側から接触している。上記構成の一端側固定部131によって環状部92Aの一端側及び係止部92Bが支持されている。
【0084】
一方、回転ラチェット機構138は、軸受部132Aを介して一端側固定部131とは反対側に配置されたラチェット部材140を備えている。このラチェット部材140は、進退方向Xを長手とする長尺状に形成されている。ラチェット部材140の基端部(後退方向X2側の端部)には、固定部本体104から突出した支軸142が貫通している。この支軸142は、巻軸方向Zを軸線方向とする円柱状に形成されており、ラチェット部材140は固定部102に対して支軸142回りに回転可能とされている。このラチェット部材140は、固定部本体104とラチェット部材140との間に架け渡された捩りコイルスプリング(付勢部材)144によって支軸142の軸線回り一方へ付勢されており、先端部(進出方向X1側の端部)が軸受部132Aの外周面に押し当てられている。
【0085】
軸受部132Aの外周面には、複数のラチェット歯133が軸受部132Aの周方向に並んで形成されており、当該ラチェット歯133にラチェット部材140の先端部が係合することで、縮径規制部材132が固定部102に対して支軸134の軸線回り他方(
図9の矢印R2方向)への回転を制限されている。このラチェット部材140は、縮径規制部材132が固定部102に対して支軸134の軸線回り一方(
図9の矢印R1方向)へ回転される際には、捩りコイルスプリング144を弾性変形させつつ支軸142の軸線回り他方へ回転される。これにより、縮径規制部材132が上記軸線回り一方への回転を許容される構成になっている。
【0086】
なお、本実施形態では、縮径規制部材132に形成された複数のラチェット歯133や、ラチェット部材140などからなる回転ラチェット機構138(回転制限部)が、ぜんまいばね34の内側に配置されているが、これに限るものではない。例えば、回転制限部は、ぜんまいばね34の外側へ延出された縮径規制部材132の一部に複数のラチェット歯が形成されると共に、ぜんまいばね34の外側に配置されたラチェット部材が上記複数のラチェット歯に係合するように構成されたものでもよい。
【0087】
本実施形態では、上記以外の構成は第3実施形態と同様とされている。この実施形態においても、ぜんまいばね34の巻締め時には、バックアップスプリング92の環状部92Aがぜんまいばね34の縮径に対して抗力を付与するので、第1実施形態と基本的に同様の作用効果が得られる。
【0088】
また、この実施形態では、可動部118が固定部102に対して進出方向X1へ変位することで、ぜんまいばね34の渦巻き部34A及びバックアップスプリング92の環状部92Aが拡径すると、当該環状部の拡径に連動して縮径規制部材132が固定部102に対して巻軸方向Zに沿った軸線回りの一方(
図9の矢印R1方向)へ回転される。この際には、上記軸線回り一方への縮径規制部材132の回転が回転ラチェット機構138によって許容される。
【0089】
一方、チェーンやベルト等の巻掛け伝動体が可動部118を押圧し、可動部118が固定部102に対して後退方向X2へ変位しようとすると、ぜんまいばね34の渦巻き部34A及びバックアップスプリング92の環状部92Aが縮径しようとする。この際には、環状部92Aの縮径に連動して縮径規制部材132が固定部102に対して上記軸線回りの他方(
図9の矢印R2方向)へ回転しようとするが、当該軸線回り他方への縮径規制部材132の回転は、回転ラチェット機構138によって規制される。この場合、環状部92Aが縮径を規制された状態で、可動部118が後退方向X2へ変位しようとすることにより、ぜんまいばね34が環状部92Aによって内周面の縮径を規制された状態で巻締められる。これにより、ぜんまいばね34に生じる板間摩擦力が増加される。その結果、可動部118が固定部102とは反対側(後退方向X2)へ変位し過ぎることが抑制されるので、巻掛け伝動体の挙動が一層安定する。
【0090】
<第5の実施形態>
図11には、本発明の第5実施形態に係るテンショナ150の部分的な構成が斜視図にて示されている。また、
図12には、テンショナ150の部分的な構成が断面図にて示されている。このテンショナ150は、第1実施形態に係るテンショナ10に類似した構成とされているが、第1実施形態に係るバックアップスプリング92(抗力付与部)とは異なる抗力付与部152を備えている。この抗力付与部152は、バックアップスプリング92に類似したバックアップスプリング154と、一対の軸動部材156と、一対の圧縮コイルスプリング162とを備えている。一対の圧縮コイルスプリング162は、本発明における「弾性部材」に相当している。
【0091】
バックアップスプリング154は、板状のばね材によって形成されたものであり、ぜんまいばね34と同心の有端環状(C字状)をなしている。このバックアップスプリング154は、外周面がぜんまいばね34の内周面に接触した状態で配置されている。
【0092】
一対の軸動部材156は、例えば金属によって円錐台状に形成されたものであり、ぜんまいばね34に対する巻軸方向Zの両側においてぜんまいばね34と同軸的に配置されている。これらの軸動部材156は、ぜんまいばね34の巻軸方向中央側へ向かうほど縮径する外周面156Aがバックアップスプリング154の内周部(内周面)に接触した状態で配置されている。なお、
図13に示されるように、バックアップスプリング154の内周部の軸線方向両端部には、バックアップスプリング154の軸線方向両端側へ向かうほど拡径するテーパー面154A(
図13以外では符号省略)が形成されており、これらのテーパー面154Aが各軸動部材156の外周面156Aに対して面接触している。
【0093】
一対の軸動部材156の軸心部(径方向中央部)には、各軸動部材156を軸線方向に貫通した円形の貫通孔158が形成されている。これらの貫通孔158は、巻軸方向Zの外側の部位が大径部158Aとされると共に、巻軸方向Zの内側の部位が小径部158Bとされており、大径部158Aと小径部158Bとの間に段部158Cが形成されている。大径部158A及び小径部158Bには、円柱状の支軸160が貫通している。この支軸160の軸線方向一端部は、固定部12の固定部本体14に固定されている。この実施形態に係る固定部12は、固定部本体14と対向する対向部15を備えている。この対向部15は、例えば先端側支持部24及び基端側支持部26(
図1〜
図4参照)に固定されている。この対向部15には、支軸160の軸線方向他端部が固定されている。これにより、支軸160の軸線方向両端部が固定部12に固定されており、軸動部材156が支軸160を介して固定部12に支持されている。これらの軸動部材156は、固定部12に対して巻軸方向Zに変位可能とされている。
【0094】
また、各軸動部材156の大径部158A内には、それぞれ圧縮コイルスプリング162が配置されている。圧縮コイルスプリング162は、内側に支軸160が挿通された状態で配置されている。一方の圧縮コイルスプリング162は、一方の軸動部材156の段部158Cと固定部本体14との間で圧縮されており、他方の圧縮コイルスプリング162は、他方の軸動部材156の段部158Cと対向部15との間で圧縮されている。これにより、一対の軸動部材156が互いに接近する方向へ付勢されている(
図11の矢印B参照)。
【0095】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。したがって、この実施形態においても、チェーンやベルト等の巻掛け伝動体の振動をぜんまいばね34の巻解き、巻締めにより緩衝し、且つぜんまいばね34の巻解き方向と巻締め方向での板間摩擦力の差によるヒステリシス特性によりエネルギを吸収して減衰することができる。
【0096】
また、この実施形態では、板状のばね材によって有端環状に形成されたバックアップスプリング154は、外周面がぜんまいばね34の内周面に接触している。このため、ぜんまいばね34の巻締め時には、バックアップスプリング154がぜんまいばねの縮径に対して抗力を付与する。このように、板状のばね材からなるバックアップスプリング154が抗力付与部とされているので、抗力付与部を簡素な構成にすることができる。しかも、ぜんまいばね34の巻締め時にぜんまいばね34とバックアップスプリング154との間で生じる摩擦等により、前述したヒステリシス特性を一層向上させることができる。
【0097】
さらに、この実施形態では、一対の軸動部材156は、ぜんまいばね34に対する巻軸方向Zの両側においてぜんまいばね34と同軸的に配置されており、固定部12に対して巻軸方向Zに変位可能に支持されている。これらの軸動部材156は、ぜんまいばね34の巻軸方向中央側へ向かうほど縮径する外周面156Aがバックアップスプリング154の内周部に接触しており、一対の圧縮コイルスプリング162によって互いに接近する方向へ付勢されている。これらの軸動部材156によってバックアップスプリング154が内周側から支持されるので、バックアップスプリング154が周方向の各部で均等に変形し易くなる。これにより、ぜんまいばね34がバックアップスプリング154から受ける面圧が均等になるので、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング154が局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばね34の巻解き、巻締めが安定する。
【0098】
また、この実施形態では、バックアップスプリング154が一対の軸動部材156によって径方向外側へ押圧されるので、バックアップスプリング154の板厚を増加させなくても、ぜんまいばね34を径方向内側から支持する荷重(バックアップ荷重)を増加させることができる。さらに、この実施形態では、バックアップスプリング154が固定部12に片持ち支持された構成ではなく、一対の軸動部材156によって支持される構成であるため、バックアップスプリング154のたわみがテンショナ150の荷重吸収特性に影響を与えることがない。
【0099】
<第6の実施形態>
図14には、本発明の第6実施形態に係るテンショナが備える複数(ここでは4つ)の押当部材170が斜視図にて示されている。この実施形態に係るテンショナは、第3実施形態に類似した構成とされており、複数の押当部材170は、ぜんまいばね34の周方向に並んでぜんまいばね34の内側に配置されている。また、この実施形態に係るテンショナは、第3実施形態に係る付勢部122とは異なる付勢部を備えている。この付勢部は、第5実施形態に係る一対の軸動部材156及び一対の圧縮コイルスプリング162(
図11及び
図12参照;
図14では図示省略)と同様の一対の軸動部材156及び一対の圧縮コイルスプリング162を備えている。この付勢部が有する一対の軸動部材156の外周面156Aは、複数の押当部材170に対してぜんまいばね34の径方向内側から接触している。なお、複数の押当部材170における巻軸方向Zの両側部分には、各軸動部材156の外周面156Aと面接触する湾曲面170Aが形成されている。また、この実施形態では、第3実施形態に係る固定部12と同様の固定部12が、支軸160の軸線方向一端部を固定する固定部本体14と、支軸160の軸方向他端部を固定する対向部(図示省略)とを備えている。
【0100】
この実施形態では、上記以外の構成は第3実施形態と同様とされている。したがって、この実施形態においても第3実施形態と同様の作用効果が得られる。しかも、この実施形態では、一対の軸動部材156は、ぜんまいばね34の巻軸方向中央側へ向かうほど縮径する外周面156Aが、複数の押当部材170に対してぜんまいばね34の径方向内側から接触しており、一対の圧縮コイルスプリング162によって互いに接近する方向へ付勢されている。これらの156軸動部材によって複数の押当部材170をぜんまいばね34の内周面に均等に押し当てることができる。その結果、ぜんまいばね34及び複数の押当部材170が局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばね34の巻解き、巻締めが安定する。
【0101】
<第7の実施形態>
図15には、本発明の第7実施形態に係るテンショナ180が正面側から見た部分断面図にて示されている。また、
図16には、
図15のF16−F16線に沿った切断面が断面図にて示されている。このテンショナ180は、第1実施形態に係るテンショナ10に類似した構成とされているが、第1実施形態に係る固定部12及び可動部32の代わりに、板金製の固定部182及び可動部192を備えている。固定部182は、巻軸方向Zを板厚方向とする板状の固定部本体184と、当該固定部本体184に対して巻軸方向Zに対向する板状の保持板186と、固定部本体184と保持板186とを巻軸方向Zに繋いだ一対のピン部材188、190とを備えている。固定部本体184及び保持板186は、板金のプレス成形品とされており、ピン部材188、190は、例えば金属製の棒材によって構成されている。
【0102】
保持板186は、固定部本体184よりもばね隣接方向Yの寸法が小さく設定されており、可動部192を介して固定部本体184とは反対側に配置されている。一対のピン部材188、190は、巻軸方向Zを軸線方向とする円柱状に形成されている。これらのピン部材188、190は、可動部192を介してぜんまいばね34とは反対側において、推進方向Xに間隔をあけて配置されている。ピン部材188、190各軸線方向一端部は、固定部本体184に形成された円形の貫通孔(符号省略)に嵌入されており、ピン部材188、190の各軸線方向他端部は、保持板186に形成された円形の貫通孔(符号省略)に嵌入されている。これらのピン部材188、190は、加締め又は溶接等の手段により固定部本体184及び保持板186に固定されており、これらのピン部材188、190を介して保持板186が固定部本体184に支持されている。
【0103】
可動部192は、
図17A及び
図17Bに示されるように、板金がプレス成形により打ち抜かれて形成されたものであり、長尺な平板状をなしている。この可動部192は、進退方向Xを長手方向とし、ばね隣接方向Yを板厚方向として、一対のピン部材188、190とぜんまいばね34との間に配置されており、固定部本体184及び保持板186によって巻軸方向Zの変位を規制されている。この可動部192には、ぜんまいばね34の外端部34Cの先端部(後退方向X2側の端部)が係止部材40(例えばリベット、ビス等)を用いて係止(ここでは固定)されている。
【0104】
ぜんまいばね34の内端部34Bとバックアップスプリング92の係止部92Bとは、互いに重ね合わされた状態で、巻軸方向Zを軸線方向とする略円筒状に曲げられており、固定部本体184から突出された円柱状の係止ピン194に巻き掛けられている。係止ピン194は、加締め又は溶接等により固定部本体184に固定されており、当該係止ピン194を介して係止部92B及び内端部34Bが固定部102に係止されている。
【0105】
固定部本体184において、可動部192が配置された側とは反対側の端部には、バックアップスプリング92の内側(巻軸方向Zの一方側)へ延びる当接部184Aが形成されている。この当接部184Aは、本発明における「内周支持部」に相当する。この当接部184Aは、バックアップスプリング92と同心の円弧状に湾曲しており、バックアップスプリング92の内周面に接触(係合)している。この当接部184Aによってバックアップスプリング92が内周側から支持されている。
【0106】
また、固定部本体184において、ばね隣接方向Yの中央部付近には、固定部本体184の巻軸方向Zに貫通した一対の貫通孔196、198が形成されている。これらの貫通孔196、198は、進退方向Xに離れて配置されている。これらの貫通孔196、198に挿通されたボルト等を用いて固定部182が図示しないエンジンのシリンダブロックに固定される構成になっている。
【0107】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。したがって、この実施形態においても、第1実施形態と基本的に同様の作用効果が得られる。しかも、この実施形態では、板金のプレス成形品である可動部192が平板状をなしているので、板金の打ち抜き加工によって可動部192を製造することができる。これにより、可動部192の小型軽量化を図ることができると共に、製造コストを一層低減することができる。また、この実施形態では、固定部182が主に板金によって構成されているので、固定部182を軽量化することが容易である。
【0108】
さらに、この実施形態では、可動部192とは反対側で固定部182に設けられた当接部184Aがバックアップスプリング92の内周面に接触している。これにより、片持ち状に固定部182に支持されたバックアップスプリング92が、ぜんまいばね34の巻締り時に均等(均一)に変形し易くなるので、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92が局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばね34の巻締りが安定する(ぜんまいばね34が周方向において均一に巻締まりやすくなる)。しかも、固定部本体184の一部を曲げ加工することで当接部184Aを形成することができるので、当接部184Aの製造が容易であると共に、部品の追加が不要であるため、製造コストの増加を抑制できる。なお、当接部184(内周支持部)は、固定部本体184と別体に形成されて固定部本体184に固定されたものでもよい。また、内周支持部は、バックアップスプリングの内周面に別部材を介して間接的に接するものでもよい。
【0109】
<第8の実施形態>
図18及び
図19には、本発明の第11実施形態に係るテンショナ200が斜視図にて示されている。また、
図20A〜
図20Cには、それぞれ当該テンショナ200の正面図、上面図及び側面図が示されている。このテンショナ200は、固定部202と、可動部214と、ぜんまいばね34と、バックアップスプリング92とを備えており、第1実施形態に係るテンショナ10と基本構成が同様とされている。但しこのテンショナ200では、固定部202及び可動部214の構成が、第1実施形態に係る固定部12及び可動部32の構成と異なっている。
【0110】
固定部202は、例えば板金がプレス成形されて形成されたものであり、巻軸方向Zを板厚方向とする板状の固定部本体204を備えている。この固定部本体204には、ばね隣接方向Yの両側へ延びる固定部204A、204Bが設けられている。固定部204A、204Bには、それぞれ巻軸方向Zに貫通した貫通孔206、208が形成されている。これらの貫通孔206、208に挿通されたボルト等を用いて固定部202が図示しないエンジンのシリンダブロックに固定される構成になっている。
【0111】
また、固定部本体204の進退方向Xの両端部には、それぞれ巻軸方向Zの一方側へ突出した先端側支持部204C及び基端側支持部204Dが一体に設けられている。これらの先端側支持部204C及び基端側支持部204Dは、進退方向Xを板厚方向とする板状をなしており、進退方向Xから見て略矩形状をなしている。これらの先端側支持部204C及び基端側支持部204Dには、円形の貫通孔210、212(
図22以外では符号省略)が形成されている。先端側支持部204Cに形成された貫通孔210は、基端側支持部204Dに形成された貫通孔212よりも大径に形成されている。これらの貫通孔210、212は、可動部214に対応しており、互いに同軸上に配置されている。
【0112】
可動部214は、例えば金属製の棒材によって段付きの円柱状に形成されており、進退方向Xを軸線方向として配置されている。可動部214の軸線方向中間部は、大径部214Aとされており、可動部214の軸線方向一端部(進出方向X1側の端部)は、大径部214Aよりも小径な先端小径部214Bとされており、可動部214の軸線方向他端側(後退方向X2側)の部位は、大径部214Aよりも小径な基端小径部214Cとされている。大径部214Aは、ばね隣接方向Yの一方側(
図20Aでは右側)がDカット状に切り欠かれている。大径部214Aの先端側は、先端側支持部204Cの貫通孔210内に摺動自在に嵌合しており、基端小径部214Cの基端側は、基端側支持部204Dの貫通孔212内に摺動自在に嵌合している。これにより、可動部214が固定部202に対して進退方向Xに直線移動可能(スライド可能)に支持されている。
【0113】
大径部214Aと基端小径部214Cとの間には、段部が形成されており、当該段部と基端側支持部204Dとの間には、圧縮コイルスプリング216が設けられている。この圧縮コイルスプリング216は、本発明における「追加ばね」に相当するものであり、リターンスプリングである。この圧縮コイルスプリング216は、基端小径部214Cの径方向外側において可動部214と同軸的に配置されている。この圧縮コイルスプリング216は、後退方向X2への可動部214の変位に対して抗力(付勢力)を付与する構成になっている。この可動部214に対してばね隣接方向の一方側には、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92が配置されている。
【0114】
ぜんまいばね34の外端部34Cは、可動部214の大径部214Aに対してばね隣接方向の一方側から重ね合わされている。この外端部34Cの先端部(後退方向X2側の端部)は、係止部材40(例えばリベット、ビス等)によって大径部214Aすなわち可動部32に係止(ここでは固定)されている。ぜんまいばね34の内端部34B及びバックアップスプリング92の係止部92Bは、横ズレ防止部材218を用いて固定部202に係止されている。
【0115】
横ズレ防止部材218は、一対のプレート部材220、222と、一対のピン部材224、226とによって構成されており、チェーンの駒のような形状をなしている。ピン部材224は、本発明における「第1ピン部材」に相当し、ピン部材226は、本発明における「第2ピン部材」に相当する。一対のプレート部材220、222は、例えば板金がプレス成形されて形成されたものであり、巻軸方向Zを板厚方向とし、進退方向から見て略長円形(略ひょうたん形)をなす板状に形成されている。これらのプレート部材220、222の長手方向両側には、それぞれ円形の貫通孔(符号省略)が形成されている。これらのプレート部材220、222は、可動部214の大径部214Aに対してばね隣接方向Yの一方側に隣接して配置されており、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92に対して巻軸方向Zの両側に分かれて配置されている。これらのプレート部材220、222は、巻軸方向Zから見て互いに重なるように配置されており、一対のピン部材224、226によって互いに接続されている。
【0116】
一対のピン部材224、226は、例えば金属製の棒材によって形成されたものであり、巻軸方向Zを軸線方向としてバックアップスプリング92の径方向内側に配置されている。これらのピン部材224、226は、バックアップスプリング92の内周面に沿ってバックアップスプリング92の周方向に並ぶと共に、可動部214に近接して配置されている。一方のピン部材224は、ぜんまいばね34の渦巻き部34Aの外端34A2を介して可動部214とは反対側に配置されており、他方のピン部材226は、上記一方のピン部材224よりも後退方向X2側に配置されている。これらのピン部材224、226は、プレート部材220、222の長手方向両側に形成された貫通孔に挿通されており、加締め等の手段で各プレート部材220、222が各ピン部材224、226に固定されている。また、各ピン部材224、226の軸線方向一端部は、固定部本体204に形成された一対の貫通孔228、230(
図22参照)内に嵌入されており、加締めや溶接等の手段により固定部本体204に固定されている。
【0117】
一方のピン部材224には、ぜんまいばね34の内端部34Bとバックアップスプリング92の係止部92Bとが係止されている。具体的には、ぜんまいばね34の内端部34Bとバックアップスプリング92の係止部92Bとは、互いに重ね合わされた状態で、巻軸方向Zを軸線方向とする略円筒状に曲げられており、一方のピン部材224に巻き掛けられている。これにより、一方のピン部材224を介して係止92B及び内端部34Bが固定部102に係止されている。
【0118】
バックアップスプリング92の内周面には、
図21に示されるように他方のピン部材226が接触している。この他方のピン部材226は、バックアップスプリング92が一方のピン部材224回りに
図21の矢印T方向へ回転することを規制している。また、ぜんまいばね34の渦巻き部34Aにおける内端部34B側の部位と、バックアップスプリング92における係止部92B側の部位は、一対のプレート部材220、222の間に配置されており、これらのプレート部材220、222によって巻軸方向Zの変位を制限されている(
図23参照)。なお、プレート部材220が省略される構成、すなわちプレート部材222と固定部本体204とによって、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92の上記変位が制限される構成にしてもよい。
【0119】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。したがって、この実施形態においても、第1実施形態と基本的に同様の作用効果が得られる。しかも、この実施形態では、固定部202が板金のプレス成形品とされているため、固定部202が切削加工や鍛造などにより製造される場合と比較して、製造タクトの短縮が可能であり、製造コストの低コスト化を図りやすい。また、固定部202を軽量化することが容易である。
【0120】
さらに、この実施形態では、横ズレ防止部材218の他方のピン部材226は、バックアップスプリング92が一方のピン部材224回りに
図21の矢印T方向へ回転することを規制している。これにより、片持ち状に固定部202に支持されたバックアップスプリング92が、ぜんまいばね34の巻締り時に均等(均一)に変形し易くなるので、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92が局部磨耗することを抑制できると共に、ぜんまいばね34の巻締りが安定する(ぜんまいばね34が周方向において均一に巻締まりやすくなる)。しかも、この横ズレ防止部材218は、例えばチェーンの駒などの既存の部品を流用して製作することができるため、低コストで上記の効果が得られる。また、この実施形態では、横ズレ防止部材218の一対のプレート部材220、222によって、ぜんまいばね34の渦巻き部34Aが巻軸方向Zの変位を制限されているので、ぜんまいばね34の巻締め巻解き時に渦巻き部34Aが巻軸方向Zに横ズレすることを防止又は抑制できる(
図23参照)。
【0121】
またさらに、この実施形態では、可動部214がぜんまいばね34のみならず圧縮コイルスプリング216によっても進出方向X1へ付勢される。ぜんまいばね34の巻数を増やすとヒステリシス効果が大きくなり、タイミングベルト又はタイミングチェーンからの入力(振動)に対する緩衝効果が大きくなる。一方、推進部材214のX1方向への推進力は弱くなるため、チェーンガイドを押圧する力が十分得られない場合がある。圧縮コイルスプリング216の荷重はぜんまいばね34およびバックアップスプリング92と独立して任意に設定をできるため、可動部214に対して十分な推進力を与えることができ、タイミングチェーンやタイミングベルトに対して十分な張力を負荷することができる。また、ぜんまいばね34と圧縮コイルスプリング216とによって、荷重吸収と張力負荷とを切り分けて設定することができる。
【0122】
つまり、このテンショナ200で発生する荷重は、次の(イ)〜(ハ)である。(イ)ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92のばねとしての荷重(拡径力)。(ロ)ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92で発生する摩擦力。これは、上記(イ)によって発生する。(ハ)圧縮コイルスプリング216(追加ばね)のばねとしての荷重。
【0123】
テンショナ200が圧縮コイルスプリング216を有している場合(
図24の実線参照)と、圧縮コイルスプリング216を有していない場合(
図24の二点鎖線参照)とでは、上記(ロ)の摩擦力に変化はない。また、圧縮コイルスプリング216の有無によって、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92の形状は変わらないため、上記(イ)の荷重に変化はない。テンショナ200の減衰特性は、
図25において符号Sを付した領域(すなわち上記(イ)、(ロ)に相当)で決まるものであり、
図25において符号Rを付した領域(すなわち上記(ハ)に相当)によって上記(イ)、(ロ)は変化しない。このため、減衰特性を変化させずに上記(ハ)の分だけ荷重下限値の底上げが可能である。なお、
図24及び
図25では、説明を理解し易くするために、圧縮コイルスプリング216のばねとしての荷重を、可動部214の位置によらず一定に記載している。また、本発明における「追加ばね」は、圧縮コイルスプリング216に限らず、他の種類のばねであってもよい。
【0124】
<第9の実施形態>
図26Aには、本発明の第9実施形態に係るテンショナが備えるバックアップスプリング92が正面図にて示されており、
図26Bには、このバックアップスプリング92が側面図にて示されている。このテンショナは、第1実施形態に係るテンショナ10と基本的に同様の構成とされているが、この実施形態に係るバックアップスプリング92の環状部92Aは、周方向において断面積が変化している。具体的には、環状部92Aは、周方向一端部92A1側及び周方向他端部92A2側の板厚が、周方向中間部92A3の板厚よりも薄く設定されている。
【0125】
この実施形態では、バックアップスプリング92の環状部92Aが上記のように構成されているので、ぜんまいばね34の巻解き、巻締め時に環状部92Aに生じる応力が局部的に高くなることを防止又は抑制できる。つまり、環状部92Aの周方向一端部92A1側及び周方向他端部92A2側は、周方向中間部92A3に比較して応力が低くなるため、周方向一端部92A1側及び周方向他端部92A2側のばね定数を下げることにより、バックアップスプリング92が真円状を保ちつつ変形し易くなる。その結果、ぜんまいばね34の巻解き、巻締めが安定する。
【0126】
なお、上記第9実施形態において、
図27A及び
図27Bに示される変形例のように構成してもよい。この変形例では、環状部92Aは、周方向一端部92A1側及び周方向他端部92A2側の幅寸法(巻軸方向Zの寸法)が、周方向中間部92A3の幅寸法(巻軸方向Zの寸法)よりも小さく設定されている。この変形例においても、上記第9実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0127】
<第10の実施形態>
図28には、本発明の第10実施形態に係るテンショナの部分的な構成が断面図にて示されている。このテンショナは、第1実施形態に係るテンショナ10と基本的に同様の構成とされているが、ぜんまいばね34の渦巻き部34Aは、周方向から見た断面がバックアップスプリング92の環状部92Aとは反対側へ凸をなして屈曲している。
【0128】
この実施形態では、
図29に示されるように、ぜんまいばね34の巻解き、巻締め時に、渦巻き部34Aの板間に隙間を生じさせることができると共に、渦巻き部34Aと環状部92Aとの間にも隙間を形成することができる。これにより、例えば前記各隙間に潤滑油(エンジンオイル)が入り込み易くなるので、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92の磨耗を抑制し易くなると共に、ぜんまいばね34の巻解き、巻締めを安定させることができる。
【0129】
<第11の実施形態>
図30には、本発明の第11実施形態に係るテンショナの部分的な構成が断面図にて示されている。このテンショナは、第1実施形態に係るテンショナ10と基本的に同様の構成とされているが、バックアップスプリング92の環状部92Aの外周面は、当該環状部92Aの周方向から見てぜんまいばね34側へ凸をなす凸形状(ここでは湾曲形状)に形成されている。
【0130】
この実施形態では、
図30に示されるように、ぜんまいばね34と環状部92Aとの間に隙間が形成されるので、当該隙間に潤滑油が入り込み易くなる。また、
図31に示されるように、ぜんまいばね34の巻解き、巻締め時には、渦巻き部34Aの板間に隙間を生じさせることができる。以上のことから、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92の磨耗を抑制し易くなると共に、ぜんまいばね34の巻解き、巻締めを安定させることができる。
【0131】
<第12の実施形態>
図32には、本発明の第11実施形態に係るテンショナの部分的な構成が断面図にて示されている。このテンショナは、第1実施形態に係るテンショナ10と基本的に同様の構成とされているが、ぜんまいばね34の渦巻き部34Aを構成する板ばね材の外周面及び内周面には、複数の凹凸がぜんまいばね34の巻軸方向Z(
図32では左右方向)に並んで形成されている。具体的には、渦巻き部34Aを構成する板ばね材は、断面が波形状をなしている。なお、本実施形態では、渦巻き部34Aを構成する板ばね材の外周面及び内周面に複数の凹凸が形成されていればよく、例えば、ブラスト加工等により前記外周面及び内周面に複数の凹凸を形成してもよい。
【0132】
この実施形態においても、ぜんまいばね34の板間、及びぜんまいばね34と環状部92Aとの間にそれぞれ隙間が形成される。これにより、前記各隙間に潤滑油が入り込み易くなるので、ぜんまいばね34及びバックアップスプリング92の磨耗を抑制し易くなると共に、ぜんまいばね34の巻解き、巻締めを安定させることができる。
【0133】
<第13の実施形態>
図33には、本発明の第13実施形態に係るテンショナ240が正面側から見た部分断面図にて示されており、
図34には、このテンショナ240の上面図が示されており、
図35には、このテンショナ240の側面図が示されている。このテンショナ240は、固定部242と、該固定部242に対して回転可能(変位可能)に支持された可動部(押圧部材)250と、可動部250を回転方向の一方へ付勢するぜんまいばね34と、ぜんまいばね34の径方向内側に配置されたバックアップスプリング92を備えている。
【0134】
図33〜
図36Cに示されるように、固定部242は、板金のプレス成形品とされており、ぜんまいばね34の巻軸方向を板厚方向とする長尺板状に形成された本体壁242Aを備えている。本体壁242Aは、巻軸方向Zから見て略三角形状(略直角三角形状)をなしており、長手方向一方側(
図33及び
図36Aでは上側)へ向かうほど幅寸法が拡大するように形成されている。本体壁242Aの3つ角部には、それぞれ本体壁242Aを貫通した貫通孔244が形成されている。これらの貫通孔244に挿通されたボルト等を用いて固定部242が図示しないエンジンのシリンダブロックに固定される構成になっている。
【0135】
本体壁242Aの幅方向一端部からは、本体壁242Aの板厚方向一方側へ向けて側壁242Bが一体に延出されている。この側壁242Bにおける本体壁242Aとは反対側の端部からは、本体壁242Aの幅方向他端側へ向けて保持壁242Cが一体に延出されている。この保持壁242Cは、本体壁242Aと平行に延びており、ぜんまいばね34の巻軸方向から見て略台形状をなしている。側壁242Bの一端部には、円弧状に曲げられたばね係止部242B1が形成されている。また、本体壁242A及び保持壁242Cには、これらを貫通した円形の貫通孔246がそれぞれ形成されている。これらの貫通孔246は同軸的に配置されている。これらの貫通孔246には、円柱状の支軸248(
図33参照)が嵌合している。支軸248は、例えば金属製の棒材によって形成されたものであり、加締めや溶接等の手段で本体壁242A及び保持壁242Cに固定されている。この支軸248には、可動部250が回転可能に支持されている。
【0136】
図33〜
図35、
図37A〜
図37Cに示されるように、可動部250は、板金のプレス成形品とされており、ぜんまいばね34の巻軸方向に互いに対向する一対の対向壁250A、250Bを備えている。対向壁250A、250Bは、ぜんまいばね34の巻軸方向から見て略L字状をなしており、本体壁242Aの長手方向(
図33では上下方向)に延びる本体部250A1、250B1と、本体部250A1、250B1の長手方向一端側(
図33では下側)から本体部250A1、250B1の長手直交方向一方側(
図33では右側)へ延びるアーム部250A2、250B2とを備えている。各アーム部250A2、250B2の先端部は、ぜんまいばね34の巻軸方向に延びる押圧部250Cによって一体に接続されている。
【0137】
各本体部250A1、250B1は、固定部242の本体壁242Aと保持壁242Cとの間に配置されている。各本体部250A1、250B1には、それぞれ互いに接近する側へ円筒状に突出した軸受部250D、250Eが形成されている。これらの軸受部250D、250Eの内側には、前述した支軸248が回転自在に嵌合している。これにより、可動部250が支軸248を介して固定部242に回転可能に支持されている。この可動部250の押圧部250Cは、ベルトガイドやチェーンガイド等の張り部材PSに対して可動部250の回転方向の一方(
図33の矢印P参照)へ向けて押し当てられる構成になっている。
【0138】
また、各本体部250A1、250B1には、それぞれ互いに接近する側へ膨出した膨出部250F、250Gが形成されている。これらの膨出部250F、250Gは、ぜんまいばね34の巻軸方向から見て略長円形状をなしており、軸受部250D、250E(支軸248)と側壁242Bとの間に配置されている。これらの膨出部250F、250Gと軸受部250D、250Eとには、ぜんまいばね34の内端部34B及びバックアップスプリング92の係止部92Bが巻き掛けられている。具体的には、ぜんまいばね34の内端部34Bとバックアップスプリング92の係止部92Bとは、互いに重ね合わされた状態で略S字状に曲げられており、膨出部250F、250Gと軸受部250D、250Eとの間に一部が挟まれた状態で膨出部250F、250G及び軸受部250D、250Eに巻き掛けられている。これにより、内端部34B及び係止部92Bが可動部250に係止されると共に、軸受部250D、250E及び支軸248を介して固定部242に係止されている。ぜんまいばね34の外端部34Cは、固定部242の側壁242Bに重ね合わされている。外端部34Cの先端部は円弧状に曲げられており、側壁242Bのばね係止部242B1に係止され(引っ掛けられ)ている。このぜんまいばね34は、可動部250を固定部242に対する回転方向の一方(
図33の矢印P方向)へ付勢すると共に、回転方向の他方への可動部250の回転により巻締められる構成になっている。
【0139】
なお、本実施形態では、ぜんまいばね34が可動部250と同軸的に配置されているが、これに限らず、ぜんまいばね34が可動部250に対して偏心して配置された構成、すなわち、ぜんまいばね34の中心軸線と可動部250の回転軸線とが互いに径方向にずれて配置された構成にしてもよい。
【0140】
上記構成のテンショナ240では、ぜんまいばね34の付勢力によって可動部250が固定部242に対して回転方向の一方へ回転することにより、可動部250の押圧部がベルトガイドやチェーンガイド等の張り部材を介してタイミングベルトやタイミングチェーン等の巻掛け伝動体に押し付けられる。これにより、巻掛け伝動体の振動をぜんまいばね34の巻解き、巻締めにより緩衝し、且つぜんまいばね34の巻解き方向と巻締め方向での板間摩擦力の差によるヒステリシス特性によりエネルギを吸収して減衰することができる。しかも、このテンショナ240は、第1実施形態に係るバックアップスプリング92と同様のバックアップスプリング92を備えているので、第1実施形態と同様にぜんまいばね34の過度な巻締りを防止できる。
【0141】
なお、上記第12実施形態では、ぜんまいばね34の外端部34Cが固定部242に係止され、ぜんまいばね34の内端部34Bが可動部250に係止された構成にしたが、これに限らず、ぜんまいばねの内端部が固定部に係止され、ぜんまいばねの外端部が押圧部材に係止される構成にしてもよい。
【0142】
また、上記第12実施形態において、
図38に示される第1変形例のように、可動部250の対向壁250A、250B間に一対のピン252、254を架け渡し、これらのピン252、254を膨出部250F、250Gの代わりに用いてもよい。この第1変形例では、側壁242Bの長手方向中間部が切り起されてばね係止部242B1が形成されている。
【0143】
また、上記第12実施形態において、
図39に示される第2変形例のように、追加ばね(ここでは圧縮コイルスプリング)256を追加してもよい。この圧縮コイルスプリング256は、固定部242と可動部250との間に設けられており、可動部250を固定部242に対して回転方向の一方へ付勢している。この第2変形例では、第8実施形態と同様に、荷重吸収と張力負荷とを切り分けて設定することができる。
【0144】
(バックアップスプリングに関する補足説明)
次に、
図40A〜
図42を用いて、前述したバックアップスプリング92に関して補足説明する。
図40A〜
図40Gには、第1実施形態に係るテンショナ10と同様のテンショナ10が図示されているが、
図40A〜
図40Gでは、可動部32に対するバックアップスプリング92の位相θ(仮想直線VLに対する環状部92Aの一端部92A1の配置)がそれぞれ異なっている。なお、
図40A〜
図40Gでは、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している。
【0145】
図40Aには、環状部92Aの一端部92A1(係止部92B側の端部)が仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに−90度の位置(巻解き方向へ90度の位置)に配置された状態(バックアップスプリング92の位相θが−90度に設定された状態)が図示されている。
【0146】
図40Bには、環状部92Aの一端部92A1(係止部92B側の端部)が仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに−60度の位置(巻解き方向へ60度の位置)に配置された状態(バックアップスプリング92の位相θが−60度に設定された状態)が図示されている。
【0147】
図40Cには、環状部92Aの一端部92A1が仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに0度の位置に配置された状態(バックアップスプリング92の位相θが0度に設定された状態)が図示されている。この状態では、ぜんまいばね34の巻数が2.0巻きに設定されている。
【0148】
図40Dには、環状部92Aの一端部92A1が仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに60度の位置(巻締め方向へ60度の位置)に配置された状態(バックアップスプリング92の位相θが60度に設定された状態)が図示されている。
【0149】
図40Eには、環状部92Aの一端部92A1が仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに90度の位置(巻締め方向へ90度の位置)に配置された状態(バックアップスプリング92の位相θが90度に設定された状態)が図示されている。
【0150】
図40Fには、環状部92Aの一端部92A1が仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに180度の位置(巻締め方向へ180度の位置)に配置された状態(バックアップスプリング92の位相θが180度に設定された状態)が図示されている。この状態では、ぜんまいばね34の巻数が1.5巻きに設定されている。
【0151】
図40Gには、環状部92Aの一端部92A1が仮想直線VLに対して環状部92Aの中心S回りに270度の位置(巻締め方向へ270度の位置)に配置された状態(バックアップスプリング92の位相θが270度に設定された状態)が図示されている。なお、図示は省略するが、バックアップスプリング92の位相θが360度に設定された状態では、ぜんまいばね34の巻数が1.0巻きに設定される。
【0152】
また、
図41には、可動部32に入力される荷重のエネルギの消散率と、バックアップスプリング92の位相θとの関係が線図にて図示されており、
図42には、可動部32に入力される荷重と可動部32のストロークとの関係が線図にて示されている。
図42においては、可動部32に入力される荷重と可動部32の後退方向X2のストロークとの関係を示す曲線に符号C2を付しており、可動部32に入力される荷重と可動部32の進出方向X1のストロークとの関係を示す曲線に符号C1を付している。また、上記の消散率は、
図42において符号Aを付した領域の面積と、符号Bを付した領域の面積との関係から、消散率=A/(A+B)として求められる。
【0153】
ここで、
図41に示されるように、バックアップスプリング92の位相θが−90°〜0°の範囲(
図41においてドットを付した範囲)に設定されている場合、それ以外の範囲に設定されている場合よりも、上記の消散率が大幅に高くなること、すなわち高減衰特性を得られることが確認された。また、上記の範囲では、消散率の変動が少なく安定しているため、バックアップスプリング92の最適な取付位相であることが確認された。なお、消散率は、ぜんまいばね34の巻数によっても変化する。例えば、ぜんまいばね34の巻数が1.0巻の場合、ぜんまいばね34に生じる板間摩擦が不十分になり、消散率が低くなるが、ぜんまいばね34の巻数が2.0巻以上になると、ぜんまいばね34の板間摩擦が増加し、消散率が高くなる。このため、ぜんまいばね34の巻数を2.0巻以上に設定することが好ましい。但し、ぜんまいばね34の巻数が増えても、バックアップスプリング92の位相によっては消散率が低くなる。このため、バックアップスプリング92の位相θを上記の範囲に設定し、ぜんまいばね34の巻数を2.0巻〜2.25巻に設定することがより好ましい。
【0154】
以上、幾つかの実施形態を示して本発明について説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。例えば、上記各実施形態は、各構成要素を適宜組み替えたり、組み合わせたりして実施することができる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。