【課題を解決するための手段】
【0008】
この問題は、請求項1の特徴を備えた方法によって解決される。この方法の好ましい実施形態は、従属請求項以降に続く。
【0009】
本発明により開示される方法によれば、クロム金属と酸化クロムとを含むコーティングは、カソードとして接続されている金属ストリップを、ストリップ移動方向に互いに連続して接続されている複数の電解槽に、所定のストリップ移動速度でストリップ移動方向に連続して通して電解液に接触させることによって、三価クロム化合物を含む電解液から金属ストリップ、特に鋼ストリップ上に電析され、ここで、ストリップ移動方向で見て第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループは低い電流密度j
1を有し、ストリップ移動方向に続く第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループは中程度の電流密度j
2を有し、ストリップ移動方向で見て最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループは高い電流密度j
3を有し、j
1≦j
2<j
3であり、低い電流密度j
1は20A/dm
2よりも高い。
【0010】
低い電流密度j
1>20A/dm
2は、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループで、クロムおよび/または酸化クロムを含むコーティングが金属ストリップ上に析出され得るように選択される。電流密度に使用される下限値20A/dm
2によって、遅いストリップ移動速度(例えば、v=100m/分)でもクロムおよび/または酸化クロムを含むコーティングの析出が可能になる。高スループットを実現するには、ストリップ移動速度はv≧100m/分が好ましい。
【0011】
ストリップ走行方向に連続して配置された複数の電解槽を複数のグループに分割することによって、また、個々の電解槽に異なるストリップ移動速度を設定し、ストリップ移動速度がストリップ移動方向に増加することによって、一方では100m/分以上の速いストリップ移動速度を維持することができ、また、金属ストリップの少なくとも片面に十分に高いコーティング重量のコーティングを析出させことができ、他方では十分に高い耐食性を確保するために必要な少なくとも5mg/m
2、好ましくは7mg/m
2超の酸化クロム含量を含むコーティングを析出させることができる。
【0012】
この文脈において、酸化クロムという用語は、水酸化クロム、特に水酸化クロム(III)、酸化クロム(III)水和物、およびそれらの混合物を含むクロムの全ての酸化物形態(CrOx)を指す。
【0013】
第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループでは、使用される電流密度j
1およびj
2がそれぞれ、ストリップ移動方向で見た最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電流密度と比べて低いという事実に起因して、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループでは、アノードへの印加に必要な電流が低いため、エネルギーを節約できる。しかしながら、これにも関わらず、それぞれ第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループに設定されている低い電流密度j
1、j
2でさえも、一定量の酸化クロムが金属基板上に析出できるため、十分に高いコーティング重量の酸化クロムがコーティング中に生じる。ストリップ移動方向で見て最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループでは、高い電流密度j
3は、コーティングの析出総重量に対する酸化クロムの割合がより高くなるように設定されているため、酸化クロムの大部分はこれらの槽で析出される。
【0014】
第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループにおいて、析出したコーティングのコーティング総重量の特定の割合である約9%〜25%は酸化クロムに起因するため、酸化クロムの結晶は、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループにおいて金属ストリップ表面に形成される。最後の電解槽および/または複数の電解槽のうちの後グループでは、これらの酸化クロム結晶は追加の酸化物結晶の成長のための核セルとして機能し、これは酸化クロムの析出効率、より具体的にはコーティングの析出総重量のうちの酸化クロムの割合が、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループで増加する理由を説明する。したがって、第1および第2の電解槽および複数の電解槽のうちの前および中間グループでそれぞれ低い電流密度j
1およびj
2を使用することでエネルギーを節約しながら、金属ストリップ表面に好ましくは5mg/m
2超の十分に高いコーティング重量の酸化クロムを生成することができる。
【0015】
コーティングの酸素含量は、より高い電流密度(結果として、より少ない酸化物含量)での電析中に達成される酸素含量よりも多いため、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループで生成される酸化クロム含量は、より高密度のコーティングが形成され、その結果耐食性が向上する。
【0016】
連続して配置された少なくとも3つの電解槽を使用すると、可能な限り低い電流密度で速いストリップ移動速度を維持でき、プロセスの効率が向上する。好ましいストリップ移動速度である少なくとも100m/分を維持して、金属ストリップの少なくとも片面にクロム/酸化クロム層の析出を行うために少なくとも25A/dm
2の電流密度が必要であることがわかっている。この電流密度25A/dm
2は、約100m/分のストリップ移動速度での第1の電流密度閾値を表し、これは、レジームI(クロム析出なし)とレジームII(電流密度と析出するコーティングのクロムのコーティング重量との間に線形関係があるクロム析出)とを分ける。
【0017】
電解槽内の電流密度(j
1、j
2、j
3)は、ストリップ移動速度に合わせて各々調整され、ストリップ移動速度とそれぞれの電流密度(j
1、j
2、j
3)との間に少なくともほぼ線形関係が存在する。第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電流密度が、第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループの電流密度よりも低い場合、有利である。第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電流密度が低いと、金属ストリップの表面上に直接、好ましくは8%超、より好ましくは8%〜15%、最も好ましくは10重量%超の比較的高い酸化クロム含量を有する、高密度の、したがって耐腐食性のあるクロム/酸化クロムコーティングが生成される。
【0018】
電解槽に電流密度(j
1、j
2、j
3)を生成するには、好ましくは、2つのアノードが互いに対向して配置されたアノード対を各電解槽に配設し、アノード対の対向するアノード間に、金属ストリップを通過させる。これにより、金属ストリップの周囲に電流密度を均一に分布させることが可能になる。ここで、各電解槽のアノード対にそれぞれ独立して電流を印加することができ、それにより各電解槽に異なる電流密度(j
1、j
2、j
3)を設定することが可能であることが好ましい。
【0019】
ストリップ移動方向で見て最後の電解槽に高い電流密度j
3を設定できるように、少なくとも一つのアノード対を最後の電解槽の中に配設することができ、そのアノード対は、ストリップ移動方向でそれよりも前の電解槽のアノード対に比べて長さが短い。これにより、全てのアノード対を同じ電流量で作動させることができるが、最後の電解槽の電流密度j
3は、それよりも前の電解槽の電流密度よりも高く設定できる。さらに、最後の電解槽の短くなったアノード対を使用することにより、アノードをより低い整流容量を有する整流器に結合できる。
【0020】
金属ストリップのストリップ移動速度は、各電解槽において、金属ストリップが電解液と電解的に効果的に接触している電解時間(t
E)が2.0秒未満、具体的には0.5〜1.9秒、好ましくは1.0秒未満、具体的には0.6秒〜0.9秒となるような、移動速度であることが好ましい。これにより、一方ではより高いプロセス効率が確保され、他方では析出したコーティングにおいて好ましくは少なくとも40mg/m
2、具体的には70mg/m
2〜180mg/m
2の十分に高いコーティング重量のクロムを備えたコーティングの析出が確保される。析出したコーティングのコーティング総重量中の酸化クロムの割合は、少なくとも5%、好ましくは10%超、具体的には11%〜16%である。各電解槽における1秒未満の短い電解時間(電流密度は不変)は、酸化クロムの形成を促進し、金属クロムの形成を抑制し、これは可能な限り最高の酸化クロム含量のコーティングの形成を確保するためには短い電解時間(t
E)を維持することも好ましい理由を説明する。
【0021】
金属ストリップが電解液(E)と電解的に効果的に接触する総電解時間(t
E)は、全ての電解槽(1c〜1h)にわたる平均で好ましくは16秒未満、具体的には3〜16秒である。最も好ましくは、総電解時間は8秒未満であり、具体的には4秒〜7秒である。
【0022】
金属ストリップがストリップ移動方向で通過する電解槽の構成により、コーティングの層ごとの析出が行われ、コーティング組成が異なる層、特にそれぞれの層の酸化クロム含量が異なる層が、各電解槽で使用される電流密度に応じて各電解槽で生成される。したがって、例えば、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループでは、酸化クロム含量が5%を超える、特に6%〜15%のクロム金属・酸化クロム含有層を金属ストリップ表面に析出させることができ、第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループでは、酸化クロム含量が5%未満、特に1%〜3%のクロム金属・酸化クロム含有層を析出させることが可能である。第3の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループにおける高い電流密度j
3では、常に酸化クロム含量が多い層が析出し、多い酸化クロム含量とは好ましくは40%超、特に50%〜80%である。
【0023】
十分に高い耐食性を達成するために、電解液から析出し、組成としてクロム金属と酸化クロム、およびオプションで硫酸クロムと炭化クロムを少なくとも含むコーディングは、少なくとも40mg/m
2、具体的には70mg/m
2〜180mg/m
2であるクロムの全コーティング重量部を有することが好ましく、コーティング内の析出したクロムの総重量に含まれる酸化クロムの割合は少なくとも5%、好ましくは10%〜15%である。酸化クロム部分では、コーティング内の酸化クロムとして結合したクロムは、1m
2あたり少なくとも3mgのCr、具体的には3〜15mg/m
2、好ましくは1m
2あたり少なくとも7mgのCrである。
【0024】
本発明による方法では、好都合には、単一の電解液のみが使用され、すなわち、全ての電解槽が同じ電解液で満たされ、好ましくは、電解液の組成および温度の両方が全ての電解槽で少なくともほぼ同じである。電解液の温度に関しては、可能な限り最高の酸化クロム含量を含むコーティングの析出を保証するために、全ての電解槽で40℃未満の(平均)温度が適切であることが判明した。40℃までの電解液の温度では、酸化クロムの形成が促進され、金属クロムの形成が抑制されることが示されている。さらに、複数の電解槽内の電解液の温度を異なる温度に設定することもできる。例えば、可能な限り最高の酸化クロム含量を含むコーティングを得るために、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの温度設定を、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループの温度設定よりも低くすることができる。したがって、例えば、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電解液の(平均)温度は20℃〜40℃未満、好ましくは25℃〜38℃、最も好ましくは35℃であり、最後の電解槽よりも前の電解槽内の電解液の温度はそれよりも高く、特に40℃〜70℃、好ましくは55℃であり得る。
【0025】
これに関連して、電解液の温度または電解槽の温度への任意の言及は、電解槽の全体積の平均として生じる平均温度を意味することを意図している。原則として、温度が電解槽の上部から下部に向かって上昇する温度勾配が存在する。
【0026】
電解液の好ましい組成は、三価クロム化合物として塩基性硫酸Cr(III)(Cr
2(SO
4)
3)を含む。この好ましい組成および他の組成の両方において、電解液中の三価クロム化合物の濃度は少なくとも10g/L、好ましくは15g/L超、より好ましくは少なくとも20g/Lである。電解液の他の有用な成分には、錯化剤、特にアルカリ金属カルボン酸塩、好ましくはギ酸の塩、特にギ酸カリウムまたはギ酸ナトリウムが含まれ得る。三価クロム化合物の重量割合と、錯化剤、特にギ酸塩の重量割合との比は、好ましくは1:1.1〜1:1.4、より好ましくは1:1.2〜1:1.3、最も好ましくは1:1.25である。導電性を高めるために、電解液はアルカリ金属硫酸塩、好ましくは硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムを含んでもよい。電解液は、好ましくはハロゲン化物を含まず、特に塩化物イオンおよび臭化物イオンを含まず、緩衝剤を含まず、特にボロン酸緩衝剤を含まない。
【0027】
電解液のpH値(温度20℃で測定)は、好ましくは2.0〜3.0、より好ましくは2.5〜2.9、最も好ましくは2.7である。電解液のpH値を調整するために硫酸などの酸を溶液に加えることができる。
【0028】
腐食に対する追加の保護、および包装材料内の酸含有内容物に対するバリアを提供するために、コーティングの電析後に、有機コーティング、特に塗料または熱可塑性材料、例えば、PET、PE、PP若しくはそれらの混合物のポリマーフィルムをクロム金属および酸化クロムのコーティング表面に施すことができる。
【0029】
関連する金属ストリップは、(最初は被覆されていない)鋼ストリップ(ティンフリー鋼ストリップ)または錫で被覆された鋼ストリップ(ブリキストリップ)である。
【0030】
本発明は、添付の図面を参照し、以下の実施例に基づいてより詳細に説明されるが、これらの実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義される保護範囲を決して限定することなく、単に例として本発明を説明することを意図している。