特許第6949319号(P6949319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6949319フィトケミカル高度含有アブラナ科スプラウト及びその生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6949319
(24)【登録日】2021年9月27日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】フィトケミカル高度含有アブラナ科スプラウト及びその生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/00 20180101AFI20210930BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   A01G9/00 E
   A01G7/06 A
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-216716(P2016-216716)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-68266(P2018-68266A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】591203037
【氏名又は名称】株式会社サラダコスモ
(73)【特許権者】
【識別番号】391016842
【氏名又は名称】岐阜県
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 光彦
(72)【発明者】
【氏名】猪野 嘉中
(72)【発明者】
【氏名】横山 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 笑子
【審査官】 佐藤 智子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/148193(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/163427(WO,A1)
【文献】 特表2015−504405(JP,A)
【文献】 米国特許第06521818(US,B1)
【文献】 特開平11−155363(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/059683(WO,A1)
【文献】 特開2009−050176(JP,A)
【文献】 特開2015−105225(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/066949(WO,A1)
【文献】 特開2003−102302(JP,A)
【文献】 J. Food Sci., (1998), 63, [2], p.219-224
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00
A01G 7/06
A01G 22/15
A01C 1/02
A01G 31/00
C05F 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィトケミカルが増強されたアブラナ科植物のスプラウトの生産方法であって、
酵母の細胞壁構成成分組成物を、前記アブラナ科植物の種子の発芽からスプラウトになるまでの間少なくとも一時的に前記アブラナ科植物に供給することにより、発酵を伴うことなく、前記フィトケミカルの量が増大された前記アブラナ科植物のスプラウトを得るスプラウト生育工程、
を備え、
前記アブラナ科植物は、ダイコン(Raphanus sativus)、ブロッコリ(Brassica oleracea var. italica)及び赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)から選択される1種又は2種以上であり、
前記フィトケミカルは、前記アブラナ科植物がダイコン及びブロッコリのとき、グルコシノレートであり、前記アブラナ科植物が赤ラディッシュについてはアントシアニンであり、
前記スプラウト生育工程は、前記細胞壁構成成分組成物を0.05質量%以上5質量%以下含有する水性媒体を前記種子及び/又はスプラウトに散布又は噴霧することを含む、
方法。
【請求項2】
前記スプラウト生育工程は、前記水性媒体を、前記種子及び/又はスプラウトに上方から散布又は噴霧することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性媒体における前記細胞壁構成成分組成物の濃度が、0.2質量%以上2質量%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記スプラウト生育工程は、さらに、前記種子及び/又はスプラウトを、前記細胞壁構成成分組成物を総質量の5質量%以上40質量%以下担持させた多孔質体上で生育させることを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記アブラナ科植物はダイコンであり、
前記スプラウト生育工程は、前記水性媒体を前記種子及び/又はスプラウトに散布又は噴霧することを含み、前記細胞壁構成成分組成物の濃度が、0.4質量%以上1質量%以下である前記水性媒体を用いる工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記アブラナ科植物はブロッコリであり、
前記スプラウト生育工程は、前記水性媒体を、前記種子及び/又はスプラウトに散布又は噴霧することのみを含み、前記細胞壁構成成分組成物の濃度が、0.4質量%以上1質量%以下である前記水性媒体を用いる工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
フィトケミカルが増強されたアブラナ科植物のスプラウトの生産方法であって、
酵母の細胞壁構成成分組成物を、前記アブラナ科植物の種子の発芽からスプラウトになるまでの間少なくとも一時的に前記アブラナ科植物に供給することにより、発酵を伴うことなく、フィトケミカルの量が増大された前記アブラナ科植物のスプラウトを得るスプラウト生育工程、
を備え、
前記アブラナ科植物は、赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)であり、
前記フィトケミカルはアントシアニンであり、
前記スプラウト生育工程は、前記細胞壁構成成分組成物を5質量%以上40質量%以下含有する吸水性を有する育成媒体上の前記種子及び/又はスプラウトに水性媒体を散布又は噴霧することを含む、方法。
【請求項8】
アブラナ科植物のスプラウトの鮮度向上方法であって、
酵母の細胞壁構成成分組成物を、前記アブラナ科植物の種子の発芽からスプラウトになるまでの間少なくとも一時的に前記アブラナ科植物に供給することにより、発酵を伴うことなく、フィトケミカルの量が増大された前記アブラナ科植物のスプラウトを得るスプラウト生育工程、
を備え、
前記アブラナ科植物は、ダイコン(Raphanus sativus)、ブロッコリ(Brassica oleracea var. italica)及び赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)から選択される1種又は2種以上であり、
前記フィトケミカルは、前記アブラナ科植物がダイコン及びブロッコリのとき、グルコシノレートであり、前記アブラナ科植物が赤ラディッシュについてはアントシアニンであり、
前記スプラウト生育工程は、前記細胞壁構成成分組成物を0.05質量%以上5質量%以下含有する水性媒体を前記種子及び/又はスプラウトに散布又は噴霧することを含む、
方法。
【請求項9】
容器詰めされたアブラナ科植物のスプラウト生産方法であって、
酵母の細胞壁構成成分組成物を、前記アブラナ科植物の種子の発芽からスプラウトになるまでの間少なくとも一時的に前記アブラナ科植物に供給することにより、発酵を伴うことなく、フィトケミカルの量が増大された前記アブラナ科植物のスプラウトを得るスプラウト生育工程と、
前記スプラウトを容器詰めする工程と、
を備え、
前記アブラナ科植物は、ダイコン(Raphanus sativus)、ブロッコリ(Brassica oleracea var. italica)及び赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)から選択される1種又は2種以上であり、
前記フィトケミカルは、前記アブラナ科植物がダイコン及びブロッコリのとき、グルコシノレートであり、前記アブラナ科植物が赤ラディッシュについてはアントシアニンであり、
前記スプラウト生育工程は、前記細胞壁構成成分を0.05質量%以上5質量%以下含有する水性媒体を前記種子及び/又はスプラウトに散布又は噴霧することを含む、方法。
【請求項10】
フィトケミカル含有食品の生産方法であって、
酵母の細胞壁構成成分組成物を、アブラナ科植物の種子の発芽からスプラウトになるまでの間少なくとも一時的に前記アブラナ科植物に供給することにより、発酵を伴うことなく、フィトケミカルの量が増大された前記アブラナ科植物のスプラウトを得るスプラウト生育工程と、
前記スプラウトを加工する工程と、
を備え、
前記アブラナ科植物は、ダイコン(Raphanus sativus)、ブロッコリ(Brassica oleracea var. italica)及び赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)から選択される1種又は2種以上であり、
前記フィトケミカルは、前記アブラナ科植物がダイコン及びブロッコリのとき、グルコシノレートであり、前記アブラナ科植物が赤ラディッシュについてはアントシアニンであり、
前記スプラウト生育工程は、前記細胞壁構成成分組成物を0.05質量%以上5質量%以下含有する水性媒体を前記種子及び/又はスプラウトに散布又は噴霧することを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、フィトケミカルを高濃度に含有するアブラナ科スプラウト及びその生産方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
フィトケミカルは、植物中に存在する天然の化合物をいう。大根、ブロッコリなどのアブラナ科植物には、グルコシノレートやアントシアニンなどのフィトケミカル含まれていることが知られている。フィトケミカルは、その種類により抗がん作用、抗高コレストロール活性などが期待されている。
【0003】
グルコシノレートの一種としてイソチオシアネートが知られている。イソチアシネート類が挙げられる。例えば、スルフォラファンは、イソチアシネートの一種であり、ブロッコリにその前駆物質であるグルコラファニンの形で含まれる。また、ブロッコリのグルコシノレートとしては、やグルコイベリンも挙げられる。アントシアニンは、植物界に広く存在する色素であって、アントシアニジンがアグリコンとして糖や糖鎖と結びついた配糖体成分である。
【0004】
こうしたフィトケミカルを効率的に生産する方法として、ダイズの発芽の際に、リゾプス・ミクロポラス・オリゼ(Rhizopus microporus oryzae)やアスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)などを接種して発酵等することが記載されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013−517793号公報
【特許文献2】特表2013−540422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらは、いずれも菌の接種及び発酵を伴うものである。したがって、用いたダイズスプラウト自体は、食品として従来のダイズスプラウト(いわゆる、もやし)としての食品の風味や食感など、食材としての特性は大きく変更ないし損なうことになる。このため、こうして得たスプラウトからフィトケミカルを抽出したり、加工食品とする場合にはともかく、従来と同様の食材、特に、生鮮食材として適用するには実用上問題があった。
【0007】
また、アブラナ科植物において、こうしたフィトケミカルを増強させる栽培手法は未だ提供されていない。
【0008】
そこで、本明細書は、フィトケミカル高度含有アブラナ科スプラウトの生産方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、フィトケミカルをアブラナ科植物のスプラウト中に高濃度に生成させる手法として種々の刺激を評価したところ、細胞壁成分やキチン・キトサンがアブラナ科スプラウト中のフィトケミカル生産の増強に有効であるとの知見を得た。また、こうした細胞壁成分の存在下による発芽は、発酵を伴うものでもなく、アブラナ科スプラウト自体の食材特性を変化させないという知見も得た。これらの知見に基づき、本明細書は以下の手段を提供する。
【0010】
(1)アブラナ科植物のスプラウトの生産方法であって、
細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物を少なくとも一時的に存在させて、前記アブラナ科植物の種子を発芽させてスプラウトとする生育工程、
を備え、
前記生育工程において、前記スプラウト中のフィトケミカル量を増大させる、方法。
(2)前記アブラナ科植物は、前記アブラナ科植物は、アブラナ属もしくはダイコン属に属する植物である、(1)に記載の方法。
(3)前記アブラナ科植物は、ダイコン(Raphanus sativus)、ブロッコリ(Brassica oleracea var. italica)及び赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)から選択される1種又は2種以上である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記細胞壁構成成分組成物は、酵母又は真菌の細胞壁構成成分組成物である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記スプラウト生育工程は、前記細胞壁構成成分及び/又は前記キチン・キトサン組成物を含有する水性媒体を、前記種子に対して供給する、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記スプラウト生育工程は、前記水性媒体を前記種子に対して散布することを含む、(5)記載の方法。
(7)前記スプラウト生育工程は発酵を伴わない工程である、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記スプラウトが、ダイコンのスプラウトであり、前記生育工程は、前記フィトケミカルがグルコシノレートとして50mg/g(乾燥重量)以上とする工程である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記スプラウトが、ブロッコリのスプラウトであり、前記生育工程は、前記フィトケミカルとしてグルコラファニンを25mg/g(乾燥重量)以上とする工程である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(10)前記スプラウトが、赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)のスプラウトであって、前記フィトケミカルがアントシアニンとして1mg/g(乾燥重量)以上である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(11)アブラナ科植物のスプラウトの鮮度向上方法であって、
細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物を少なくとも一時的に存在させて、前記アブラナ科植物の種子を発芽させてスプラウトとする生育工程と、
を備え、
前記生育工程において、前記スプラウト中のフィトケミカル量を増大させることにより、前記スプラウトの鮮度を向上させる、方法。
(12)容器詰めされたアブラナ科植物のスプラウト生産方法であって、
細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物を少なくとも一時的に存在させて、前記アブラナ科植物の種子を発芽させてスプラウトとする生育工程と、
前記スプラウトを加工して容器詰めする容器詰め工程と、
を備え、
前記生育工程において、前記スプラウト中のフィトケミカル量を増大させることにより、容器詰め後の前記スプラウトの鮮度を向上させる、方法。
(13)アブラナ科のスプラウトであって、
前記スプラウトが、ダイコン(Raphanus sativus)のスプラウトであって、前記フィトケミカルがグルコシノレートとして50mg/g(乾燥重量)以上である、スプラウト。
(14)アブラナ科のスプラウトであって、
前記スプラウトが、ブロッコリ(Brassica oleracea var. italica)のスプラウトであって、前記フィトケミカルがグルコラファニンとして25mg/g(乾燥重量)以上である、スプラウト。
(15)アブラナ科のスプラウトであって、
前記スプラウトが、赤ラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)のスプラウトであって、前記フィトケミカルがアントシアニンとして1mg/g(乾燥重量)以上である、スプラウト。
(16)フィトケミカル含有食品の生産方法であって、
細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物を少なくとも一時的に存在させて、アブラナ科植物の種子を発芽及び生育してスプラウトとするスプラウト生育工程と、
前記スプラウトを加工する工程と、
を備える、方法。
(17)アブラナ科のスプラウトのためのフィトケミカルの生産増強剤であって、
細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物を含有する、増強剤。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例におけるアブラナ科ダイコン属ダイコンの種子に対する酵母細胞壁構成成分組成物の添加効果を示す図である。
図2】実施例におけるアブラナ科アブラナ属のブロッコリ種子に対する酵母細胞壁構成成分組成物の添加効果を示す図である。
図3】実施例におけるアブラナ科ダイコン属の赤ラディッシュの種子に対する酵母細胞壁構成成分組成物の添加効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書の開示は、アブラナ科植物のスプラウトにおけるフィトケミカルの生成増強に関する。具体的には、細胞壁構成成分及び/又はキチン・キトサン組成物を、アブラナ科植物の種子の発芽から生育までの間において少なくとも一時的に存在させてスプラウトとするものである。本開示によれば、スプラウトにおけるフィトケミカル増強作用を示す成分を見出したことにより、発酵を伴うことなく、高濃度にフィトケミカルを含有するスプラウトを簡易に生産することができる。
【0013】
また、スプラウトにおいて増強されるフィトケミカルは抵抗性成分である。このため、フィトケミカルをスプラウト内に増産させることで、外部からなんら添加することなくスプラウト自体の鮮度を維持又は向上させることができる。
【0014】
以上のことから、本開示は、スプラウトの生産方法、スプラウトの鮮度向上方法、容器詰めされたアブラナ科植物のスプラウト生産方法、高濃度フィトケミカル含有スプラウト、フィトケミカル含有食品の生産方法、フィトケミカル生産増強剤等として実施することができる。
【0015】
フィトケミカルは、植物の有する抵抗性成分であるファイトアレキシンの一種であるとされている。したがって、特許文献1、2等では、菌の接種というストレス負荷により、ファイトアレキシンであるフィトケミカルの生産量を増大しようとするものである。
【0016】
これに対して、本開示では、細胞壁構成成分やキチン・キトサンを用いるものであり、これらは必ずしもストレス負荷物とはいえない。また、各種ある外的ストレスのうち、細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物によって、フィトケミカルの生成量が増大することは当業者といえども想到しえなかったものである。以下、本開示の各種の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(アブラナ科植物のスプラウトの生産方法)
本開示のスプラウトの生産方法は、細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物(以下、これらを総称してフィトケミカル増強組成物ともいう。)を少なくとも一時的に存在させて、アブラナ科植物の種子を発芽させてスプラウトとする生育工程を備えることができる。本生産方法によれば、本組成物により、スプラウト中のフィトケミカル量を増大させることができる。
【0018】
(フィトケミカル)
本明細書においてフィトケミカルとは、アブラナ科植物が生産するものであれば特に限定されない。典型的には、グルコシノレートやアントシアニンが挙げられる。グルコシノレートとしては、スルフォラファンやその前駆体であるグルコシノレートが挙げられる。やカロテンが挙げられる。例えば、カイワレダイコン中のグルコシノレートとしては、4−メチルチオ−3−ブテニル−グルコシノレートが挙げられる。また、ブロッコリスプラウト中のグルコシノレートとしては、グルコラファニンが挙げられる。
【0019】
(スプラウト)
本明細書において、スプラウトとは、人為的に発芽させた新芽である。スプラウトには、暗所育成物と明所育成物とがあり、特に限定するものではない。
【0020】
(アブラナ科食物の種子)
アブラナ科植物の種子におけるアブラナ科としては、特に限定するものではなく、任意のアブラナ科植物を用いることができる。例えば、シロイヌナズナ属、ナズナ属、タネツケバナ属、セイヨウワサビ属、ヤマガラシ属、オランダガラシ属、イヌガラシ属、マメグンバイナズナ属、カラクサナズナ属、クジラグサ属、ミヤマナズナ属、イワナズナ属、ニワナズナ属、キハナハタザオ属、アブラナ属、エダウチナズナ属、キバナスズシロ属、ダイコン属、シロガラシ属、ミヤガラシ属、オオアラセイトウ属、タイセイ属、ワサビ属、グンバイナズナ属、ヤマハタザオ属、ムラサキナズナ属、イヌナズナ属、ハクセンナズナ属、タカネグンバイ属、マガリバナ属、トモシリソウ属、ヒメアラセイトウ属、アラセイトウ属、ハナダイコン属、ツノミナズナ属、ゴウダソウ属等が挙げられる。より具体的には、ダイコン属のダイコン(Raphanus sativus)、セイヨウワサビ属のホースラディッシュ(Raphanus sativus var. sativus)、アブラナ属カラシナ(Brassica juncea)、アブラナ属キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、アブラナ属ブロッコリ(Brassica oleracea var. italica)、ワサビ属ワサビ(Wasabia japonica又はEutrema japonicum)等が挙げられる。なかでも、ダイコン、ブロッコリが好ましい。
【0021】
(フィトケミカル増強組成物:細胞壁構成成分組成物及び/又はキチン・キトサン組成物)
本生産方法では、フィトケミカル増強組成物(以下、単に本組成物という。)として、細胞壁構成成分組成物及びキチン・キトサン組成物のいずれか又は双方を用いることができる。細胞壁構成成分組成物としては、真核生物の細胞壁構成成分組成物である。真核生物としては、特に限定するものではないが、発酵食品等の製造に用いられているものであってもよい。典型的には、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)などのビール酵母を含む各種の酵母、アスペスギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(A. niger)等やキノコなどの真菌の細胞壁構成成分組成物が挙げられる。細胞壁構成成分組成物は、培養菌体の破砕物等として商業的に入手が可能である。
【0022】
本明細書において、キチン・キトサン組成物は、キチン及び/又はキトサンを意味している。キチンは、ポリ-β1-4-N-アセチルグルコサミン構造を含む多糖である。天然には、N−アセチルグルコサミンのほか、グルコサミンを含んでいる。分子量は様々でありうる。また、キトサンは、ポリ-β1-4-N-グルコサミンである。すなわち、キチン中のN−アセチルグルコサミンの全部又は一部の2位のアセトアミド基を脱アセチル化して第1級アミンに変換したものである。以上のことから、本明細書においては、キチン、キトサン及びこれらの混合物をキチン・キトサン組成物として総称するものとする。
【0023】
キチン・キトサンは、一般にカニやエビの甲殻類や昆虫を含む節足動物の外骨格やの構成成分でもあるほか、キノコやカビの細胞壁構成成分でもある。本発明者らによれば、既に、酵母細胞壁構成成分と同様の効果をキチン・キトサンにより得ることができるという知見を得ている。
【0024】
本生産方法のスプラウト生育工程は、本組成物を、アブラナ科植物の種子の発芽及び生育において、少なくとも一時的に存在させて、スプラウトとする。
【0025】
アブラナ科植物の種子の発芽や生育に関しては、従来こうしたスプラウトの生育に用いられている条件を適宜採用することができる。特に限定するものではないが、例えば、発芽は、種子の少なくとも一部を酸素又は空気と接触させて進めることができる。好ましくは暗所で行う。水の供給条件は、特に限定するものではないが、例えば、15℃以上255℃以下程度の水を適宜供給することができる。発芽のための温度条件は、特に限定するものではないが、10℃以上40℃以下程度とすることができる。なお、種子の発芽に先立って、種子を適宜殺菌等することが好ましい。
【0026】
また、生育条件は、特に限定するものではないが、例えば、種子やスプラウトの少なくとも一部を酸素又は空気と接触させて進めることができる。好ましくは暗所で行う。水の供給条件は、特に限定するものではないが、例えば、15℃以上25℃以下程度の水を適宜供給することができる。生育のための温度条件は、特に限定するものではないが、10℃以上40℃以下程度とすることができる。
【0027】
種子を発芽させてスプラウトにまで生育する工程は、概して、一連の工程として実施することができる。例えば、発芽からスプラウトまでを、種子や発芽後のスプラウト(以下、単に、種子等という。)に対して所定期間をおいて定期的に水を供給し、暗所もしくは明所で所定の温度で育成することができる。なお、育成日数は、アブラナ科植物の種類や得ようとするスプラウトの形態にもよるが、2日程度から14日程度となる。好ましくは3日以上14日程度である。
【0028】
本組成物は、種子の発芽からスプラウトまでの生育工程において少なくとも一時的に育成中の種子に対して存在していればよい。生育工程において少なくとも一時的にこれらを存在させるとは、生育工程において、種子等に対して一時的にのみこれらを供給する場合、生育工程中において複数回断続的に供給する場合、継続して供給する場合等が含まれ、これらのいずれの態様であってもよい。
【0029】
本組成物は、種子に対してどのような態様で存在させてもよい。好ましくは、より均一に存在するように、種子に対して本組成物の水分散液又は水溶解液(以下、単に、本組成物含有液ともいう。)として供給される。
【0030】
例えば、本組成物を、種子等が接触する培地、容器又は保持体の少なくとも一部を構成する多孔質体や繊維状体などの生育媒体に混合・成型等により含ませ、これらに水を含浸させることにより水とともにフィトケミカル増強組成物を植物に供給することができる。
【0031】
例えば、種子等を、本組成物を担持させた吸水性シートなどの生育媒体に接触させて当該生育媒体から本組成物を水とともに供給することができる。こうすることで、細胞壁構成成分及び/又はキチン・キトサン組成物の効率的に種子等に供給することができる。また、種子等をこうした生育媒体に接触させて生育することにより、本組成物を種子やスプラウトの根に接触させつつ、種子以外の部分、例えば、主たる可食部分であるスプラウトに接触させることを回避できるほか、生育環境を構成する部材や構造に本組成物が接触することを回避又は抑制できる。
【0032】
種子等を、こうした生育媒体に接触させるには、生育媒体に種子等を収容するような凹部や貫通孔を備えて居ても良いし、単に、種子を載置できるような平板状あるいは適当な粗さを有する表面を有していてもよい。
【0033】
また、例えば、種子に対して、例えば、上方から散布や噴霧により供給される水分の少なくとも一部に含めることができる。特に限定するものではないが、上方からフィトケミカル増強組成物含有液を散布等により供給することで、フィトケミカルの産生を効果的に増強できる。
【0034】
例えば、種子に対して、断続的に複数回にわたって散水して水分を供給して生育工程を実施する場合において、散水する水にフィトケミカル増強組成物を含ませてもよいし、散水用の水とは別個に、断続的に複数回にわたってフィトケミカル増強組成物を供給するようにしてもよい。散水と、フィトケミカル増強組成物含有液の散布と、とを行うことで、種子やスプラウトに供給された本組成物が、散水によって定期的に洗浄される点において好ましい。
【0035】
生育工程において、種子に対するフィトケミカル増強組成物の供給量や供給濃度は、フィトケミカルの生成量や、フィトケミカル増強組成物の食材としてのスプラウトに対するその他の影響を考慮して適宜設定することができる。例えば、本組成物含有液を種子等に散布する場合0.05質量%以上5質量%以下、また例えば、0.1質量%以上2質量%以下、また例えば、0.2質量%以上1質量%以下の濃度の本組成物含有液を、生育期間中、3〜6日前までに合計80ml以上150ml以下程度散布するようにすることができる。
【0036】
本生産方法においては、フィトケミカル増強組成物を種子に対して供給するが、発酵を伴うものではない。したがって、発酵特有の代謝物の生成もなく、しかも発酵による種子やスプラウトの変化も伴うものではない。
【0037】
(スプラウト)
スプラウトの生育工程を実施することで、アブラナ科植物のスプラウトを得ることができる。本生産方法によって得られるスプラウトは、フィトケミカル増強組成物の存在によって、フィトケミカルの生産量が増強されている。
【0038】
本生産方法によれば、ダイコンのスプラウトにおいては、例えば、グルコシノレート(4−メチルチオ−3−ブテニル−グルコシノレート)として50mg/g(乾燥重量)以上である。また例えば、55mg/g(乾燥重量)以上であり、さらに例えば、60mg/g(乾燥重量)以上であり、さらにまた例えば、65mg/g(乾燥重量)以上であり、また例えば、60mg/g(乾燥重量)以上である。
【0039】
また、本生産方法によれば、ブロッコリのスプラウトにおいては、例えば、グルコラファニンとして25mg/g(乾燥重量)以上である。また例えば、30mg/g(乾燥重量)以上であり、さらに例えば、35mg/g(乾燥重量)以上であり、さらにまた例えば、40mg/g(乾燥重量)以上である。
【0040】
また、本生産方法によれば、赤ラディッシュのスプラウトにおいては、例えば、アントシアニンとして1mg/g(乾燥重量)以上である。また例えば、1.5mg/g(乾燥重量)以上であり、さらに例えば、2mg/g(乾燥重量)以上であり、さらにまた例えば、2.5mg/g(乾燥重量)以上である。
【0041】
なお、乾燥重量あたりのスプラウト量は、得られたスプラウトを凍結乾燥等により乾燥し、当該乾燥粉末について、フィトケミカルを抽出して、例えば、周知の条件で高速液体クロマトグラフィー等を用いて、フィトケミカル標準品を用いて定量することで、取得することができる。ここで乾燥重量は、例えば、収穫したスプラウトを−60℃で24時間凍結後、常温で12時間乾燥することなどにより凍結乾燥し、その重量を計量することにより得ることができる。
【0042】
例えば、グルコシノレートの測定方法としては、高速液体クロマトグラフィーを用いることが好ましい。条件としては、後述する実施例の条件等を採用することができる。
【0043】
また、アントシアニンの測定方法としては、Oki, T., Sawai, Y., Sato-Furukawa, M. and Suda, I. (2011). Validation of pH differencial method for the detection of total anthocyanin content in black rice and black soybean with interlaboratory comparison. Bunseki Kagaku 60:819-824に準じて、総アントシアニン量として測定できる。
【0044】
本生産方法で得られるスプラウトは、発酵を伴っていないため、食材としてのスプラウトとしての有用性の低下が抑制又は回避されている。また、発酵特有の代謝物や発酵原料としての変化を伴っていないため、その後の加工等にも好都合である。さらに、抵抗性成分としてのフィトケミカルを植物体内に含んでいるために、何ら添加することなく鮮度の維持や向上に有利である。また、フィトケミカルを植物体内に含んでいるため、例えば、生育工程の後や容器詰めにあたって、スプラウトを洗浄しても、フィトケミカル含有量は低下しないし抵抗性も低減しない。
【0045】
(アブラナ科植物のスプラウトの鮮度向上方法)
本開示のアブラナ科植物のスプラウトの鮮度向上方法は、本生産方法における前記生育工程を備えることにより、スプラウトの鮮度を向上させることができる。ここで、スプラウトにおいて鮮度の向上とは、腐敗又は腐敗の開始までの期間が延長されることをいう。こうした生育工程を経て得られたスプラウトは、植物体内にフィトケミカルを備えているため、スプラウトに対する損傷や細菌等の付着ないし侵入に対して抵抗性を示す。このため、腐敗が抑制される。
【0046】
(容器詰めされたアブラナ科植物のスプラウト生産方法)
本開示のアブラナ科植物のスプラウト生産方法(以下、単に、容器詰めスプラウト生産方法という。)は、本生産方法における前記生育工程と、スプラウトを加工して容器詰めする容器詰め工程と、を備えることができる。容器詰めスプラウト生産方法によれば、フィトケミカルが増強されてヒトの身体や健康に対する有用性が高まっているとともに、鮮度も向上された容器詰めスプラウトを得ることができる。
【0047】
容器詰めスプラウト生産方法において、容器詰め工程は、特に限定するものではないが、生育工程後のスプラウトを必要に応じて洗浄して、表面に付着している可能性のある本組成物を除去することができる。その後、生育媒体とともに又は生育媒体と分離して容器詰めすることができる。容器詰め工程に先だって、スプラウトを適宜細断等してもよい。容器詰め工程では、例えば、スプラウトを、ポリプロピレン製袋などや成形容器に充填し、その後、開口部をヒートシールすることにより容器詰めすることができる。
【0048】
(フィトケミカル含有食品の生産方法)
本開示のフィトケミカル含有製品の生産方法は、本生産方法におけるスプラウト生育工程と、スプラウト中のフィトケミカルを利用してフィトケミカル含有製品を生産する工程と、を備えることができる。この方法によれば、高濃度にフィトケミカルを含有するスプラウトを利用して、効率的にフィトケミカル含有食品を得ることができる。
【0049】
フィトケミカル含有製品を得るには、種々の態様が可能である。例えば、スプラウト自体あるいはフィトケミカルを含む画分を、栄養補助剤や各種製剤等とすることができる。例えば、スプラウトを乾燥等して、必要に応じて粉末、ペースト状、各種の製剤とすることもできる。さらに、スプラウトからのフィトケミカル抽出物(粗抽出物であてってもよい。)を、粉末、ペースト、錠剤、エキス剤等の各種の製剤とすることができる。
【0050】
また、例えば、スプラウト自体又はフィトケミカルを含む画分を用いて、飲料、調味料、調理済み食品(サラダ、炒め物、煮物、酢の物、パン、サンドイッチ等のフィリング、ケーキ、各種麺類、菓子類)とすることができる。
【0051】
(フィトケミカルの生産方法)
本開示のフィトケミカルの生産方法は、本開示のスプラウトの生産方法におけるスプラウト生育工程を備えることができる。この方法によれば、スプラウトが高濃度にフィトケミカルを含有するために、フィトケミカルを効率的に取得することができる。本方法においては、得られたスプラウトから必要に応じてフィトケミカルを抽出しし、さらには、必要に応じて精製することができる。
【0052】
(スプラウトにおけるフィトケミカル増強剤)
本開示のスプラウトにおけるフィトケミカル増強剤は、フィトケミカル増強組成物を含有することができる。上記したように、これらの成分は、スプラウトにおけるフィトケミカルの生成を増強させることができる。本増強剤は、粉末剤、固形剤として供給されるものであってもよいし、また、水などの水性媒体に分散又は溶解した状態であってもよい。
【0053】
(育成媒体)
本明細書によれば、アブラナ科のスプラウトのための育成媒体(以下、本育成媒体ともいう。)も提供される。この育成媒体によれば、育成媒体がフィトケミカル増強組成物を保持しているため、育成媒体に浸透した水等を介して、スプラウトにフィトケミカル増強組成物が供給される。
【0054】
より具体的には、本育成媒体においては、スプラウトとなる種子を保持に適した所定形状の担体に、フィトケミカル増強組成物が保持されている。担体は、水が毛細管現象により浸透可能な多孔質体であることが好ましい。かかる多孔質体である限り特に限定するものではないが、例えば、繊維質体、発泡体、編成体、織成体、抄造体、積繊体等が挙げられる。また、担体を構成する材料も特に限定するものではないが、例えば、セルロース、ポリスチレン、ポリウレタン等の公知の天然又は合成ポリマーから選択される1種又は2種以上を用いることができる。フィトケミカル増強組成物を有効に保持させる観点からは、繊維質体又は積繊体が好適である。
【0055】
本育成媒体は、種子の保持からスプラウトへの育成に適した種々の形態を備えることができる。特に限定するものではないが、例えば、略平面を有するシート状体、種子を収容する複数の凹部を表面に備えるシート状体、凹部を備える容器状体等を備えることができる。
【0056】
本育成媒体の担体は、担体の材料の少なくとも一部としてフィトケミカル増強組成物を保持している。フィトケミカル増強組成物の保持量は特に限定するものではないが、例えば、フィトケミカル増強組成物と担体との総量に対してフィトケミカル増強組成物を5質量%以上40質量%以下含有することができる。5質量%未満であると、育成媒体のみでは十分な効果が得られにくい場合もあり、40質量%を超えると、担体の強度や製造上の観点からフィトケミカル増強組成物を保持させることが困難な場合がある。また例えば、10質量%以上であり、さらに例えば、15質量%以上であり、さらに例えば、20質量%以上である。一方、例えば、35質量%以下であり、また例えば、30質量%以下である。
【0057】
本育成媒体を製造するには、すなわち、本育成媒体にフィトケミカル増強組成物を保持させるためには、例えば、以下のような方法を採ることができる。すなわち、抄造体として本育成媒体を取得する場合には、抄造原料としての繊維材料とフィトケミカル増強組成物との混合物を所定形状に抄造し、必要に応じてその後成形することで、本育成媒体を得ることができる。また例えば、編成体又は織成体として本育成媒体を取得する場合には、編成材料又は織成材料としての糸にフィトケミカル増強組成物を含有させたものを用いるか、あるいは、編成体又は織成体にフィトケミカル増強組成物を供給して付着させることにより本育成媒体を得ることができる。また例えば、発泡体として本育成媒体を取得する場合には、発泡体を得た後に、発泡体の孔表面等にフィトケミカル増強組成物を供給して付着させることにより本育成媒体を得ることができる。
【実施例1】
【0058】
本実施例では、スプラウトの生育工程において、酵母細胞壁成分組成物及びキチン・キトサン組成物を投与することによるフィトケミカル生成量の変化について評価した。
【0059】
(1)スプラウト
本実施例では、種子として、カイワレ種子及びブロッコリ種子を用いた。
(2)育成条件
(実施例)
(酵母細胞壁構成成分組成物)
(酵母細胞壁構成成分組成物及びキチン・キトサン組成物含有栽培シートによる発芽・育成)
(育成媒体(栽培用シート)添加群)
イワレ種子6gをそれぞれ5cm×12cm状の2種類の栽培用シートA及びBに均一に広げて、3〜6時間おきに17℃〜23℃の散水を5〜20mlシャワー状に散布して発芽させ、7日間育成を行ってスプラウト(カイワレダイコン)を得た。なお、2種類の栽培用シートは、栽培用シートAは、酵母細胞璧を、17質量%を紙に混釈し、シート状に成型したものを用いた。また、栽培用シートBは、酵母細胞璧を、24%質量%を紙に混釈し、シート状に成型したものを用いた。酵母細胞壁はすべてアサヒフードアンドヘルスケア株式会社製のものを使用した。
【0060】
(散布群)
カイワレ種子6gを5cm×12cmの酵母細胞壁を含まない栽培用シートに均一に広げて、3時間おきに17℃〜23℃の散水5〜20mlをシャワー状に散布して発芽させ、7日間育成を行ってそれぞれスプラウト(カイワレダイコン)を得た。なお、種子に対する散水量約1Lのうち一部の120mlを、酵母細胞璧を、重量比で0.4質量%含有させた水とし、この酵素細胞壁含有液を、栽培4日目から7日目の4日間の生育期間において、1日30mlづつ散布した。
【0061】
(育成媒体添加及び散布群)
カイワレ種子6gを5cm×12cmの上記栽培用シートBに均一に広げて、3時間おきに17℃〜23℃の散水5〜20mlをシャワー状に散布して発芽させ、7日間育成を行ってそれぞれスプラウト(カイワレダイコン)を得た。なお、散水約1Lのうち一部の120mlに酵母細胞璧を、0.4質量%含有させた酵母細胞壁含有液として、上記と同様にして所定の生育期間中、毎日30mlづつ散布した。
【0062】
(対照例)
栽培シートに酵母細胞壁を混釈しない以外は、実施例で用いた紙のみにより作られたものを使用して、酵母細胞壁を含まない水を用いて、実施例と同様に栽培、散水して対照例とした。
【0063】
(3)フィトケミカルの定量
育成期間後、実施例(細胞壁構成成分組成物)及び対照例の栽培サンプルを凍結乾燥(−60℃で24時間凍結後、常温12時間程度で乾燥)した。得られた乾燥粉末につき、以下の方法で、カイワレスプラウト(カイワレダイコン)、ブロッコリスプラウトのグルコシノレートを定量した。
【0064】
(カイワレダイコン中のグルコシノレート)
凍結乾燥粉末0.50gに80%メタノール/水溶液30ml添加し、60分間室温で撹拌した。その後、溶液を綿ろ過し、このろ液について、以下の条件でHPLCを行い、グルコシノレートを定量した。
【0065】
(HPLC条件)
移動相:アセトニトリル:0.1%ギ酸水溶液混液(10:90)
カラム:Cosmosil 5C18−MS−II、4.6mm内径×150mm
カラム温度:35.0℃
流量:1ml/min
サンプル量:5μl
検出波長:234nm
【0066】
なお、カイワレダイコン中の主要グルコシノレートは、4-methylthio-3-butenyl glucosinolateであり、カイワレダイコンより単離し1H NMRで構造を確認後、標準品として使用した。構造は以下のとおりである。
【0067】
【化1】
【0068】
(ブロッコリスプラウト中のグルコシノレート)
凍結乾燥粉末0.010gに80%メタノール/水溶液10mlを添加し攪拌後、60分間室温で静置した。その後、溶液を綿ろ過し、得たサンプルを以下のHPLC条件で測定した。
【0069】
(HPLC条件)
移動相:アセトニトリル:0.1%ギ酸水溶液混液(1:99)
カラム:Develosil ODS−5、内径4.6×250m
カラム温度:35.0℃
流量:1ml/min
サンプル量:10μl
検出波長:234nm
【0070】
ブロッコリスプラウト中の主要グルコシノレートであるGlucoraphaninは、ブロッコリスプラウトより単離し1H NMRで構造を確認後、標準品として使用した。構造は以下のとおりである。
【化2】
【0071】
カイワレダイコンについての結果を図1に示し、ブロッコリスプラウトについての結果を図2に示す。図1に示すように、カイワレスプラウトについては、2種の生育媒体添加群、散布群、及び生育媒体及び散布群はいずれもフィトケミカルが増強されていた。しかし、生育媒体添加群よりも散布群がフィトケミカルが増強されていた。また、生育媒体及び散布群では、添加された細胞壁成分が多いにもかかわらず、逆にフィトケミカルが減少していた。以上のことから、フィトケミカルの増強のためには、種子やスプラウトに対して細胞壁成分等の培地添加及び散布が有用であることがわかった。なかでも、散布が有用であることがわかった。一方、細胞壁成分の添加量が多いなどの場合には、かえってフィトケミカルが減少することがあることもわかった。
【0072】
また、図2に示すように、ブロッコリスプラウトについては、散布群が30mg/g(乾燥重量)を超えるなどフィトケミカルが増強されていた。一方、生育媒体及び散布群では、かえってフィトケミカルが減少していた。
【0073】
以上のことから、フィトケミカルの増強のためには、種子やスプラウトに対して細胞壁成分等の培地添加及び散布が有用であることがわかった。なかでも、散布が有用であることがわかった。一方、細胞壁成分の添加量が多いなどの場合には、かえってフィトケミカルが減少することがあることもわかった。
【0074】
また、得られたスプラウトの食味や食感は、いずれの場合においても、通常のスプラウトと同等であった。また、フィトケミカルの増強されたスプラウトを通常の操作にて袋詰めを行って3℃以下で冷蔵保存したところ、対照例に比較して、いずれも鮮度が維持される期間が延長させることができた。
【0075】
以上のことから、フィトケミカル増強組成物の添加によって、種子におけるフィトケミカルの生成を特異的に増進し、早期にフィトケミカルの生産量が増大するとともに、従来のスプラウトの食材特性を損なうことがないことがわかった。また、得られたスプラウトの鮮度向上にも有効であることがわかった。
【実施例2】
【0076】
(赤ラディッシュスプラウト中のアントシアニン)
赤ラディッシュ種子5gを5cm×12cmの栽培用シートCに均一に広げて、3時間おきに17〜23℃の散水約1Lをシャワー状に散布して発芽させ、7日間育成を行ってそれぞれスプラウト(赤ラディッシュの新芽)を得た。なお栽培用シートCは、酵母細胞璧を、13質量%を紙に混釈し、シート状に成型したものを用いた。
【0077】
赤ラディッシュスプラウト中のアントシアニンについては、Oki, T., Sawai, Y., Sato-Furukawa, M. and Suda, I. (2011). Validation of pH differencial method for the detection of total anthocyanin content in black rice and black soybean with interlaboratory comparison. Bunseki Kagaku 60:819-824に準じて、総アントシアニン量として測定した。結果を図3に示す。
【0078】
図3に示すように、酵母細胞壁培地栽培物の総アントシアニン量は、コントロール(含まない培地)に比べ、1.13倍であった。
図1
図2
図3