【実施例1】
【0010】
実施例1における制御装置は、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「ベルト滑り保護制御装置の構成」、「ベルト滑り保護制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例1のベルト式無段変速機の制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す。以下、
図1に基づいて全体システム構成を説明する。
【0012】
エンジン車の駆動系は、
図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
ここで、ベルト式無段変速機CVTは、トルクコンバータ2と前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5を図外の変速機ケースに内蔵することにより構成される。
【0013】
エンジン1は、ドライバーによるアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクを制御可能である。このエンジン1には、点火時期リタード制御やスロットルバルブ開閉動作等によりトルクダウン制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。
【0014】
トルクコンバータ2は、トルク増大機能やトルク変動吸収機能を有する流体継手による発進要素である。トルク増大機能やトルク変動吸収機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたポンプインペラ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたタービンランナ24と、ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0015】
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、複数枚のクラッチプレートによる前進クラッチ31と、複数枚のブレーキプレートによる後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジ等の前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジ等の後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択時、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることで、いずれも解放される。
【0016】
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転とバリエータ出力回転の比)を無段階に変化させる無段変速機能を備える。
【0017】
プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。
【0018】
セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。
【0019】
プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面に掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
【0020】
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギア機構として、バリエータ出力軸41に設けられたアウトプットギア52と、アイドラ軸50に設けられたアイドラギア53及びリダクションギア54と、デフケースの外周位置に設けられたファイナルギア55と、を有する。そして、差動ギア機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギア56を有する。
【0021】
エンジン車の制御系は、
図1に示すように、油圧制御系を代表する油圧制御ユニット7と、電子制御系を代表するCVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、を備えている。
【0022】
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfc、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prb、等を調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、走行用駆動源であるエンジン1により回転駆動されるオイルポンプ70と、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。
【0023】
油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイド弁72と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、セレクトソレノイド弁75と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を有する。なお、各ソレノイド弁72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力される制御指令値によって各指令圧に調圧する。
【0024】
ライン圧ソレノイド弁72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、オイルポンプ70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。
【0025】
プライマリ圧ソレノイド弁73は、CVTコントロールユニット8から出力されるプライマリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたプライマリ圧Ppriに減圧調整する。セカンダリ圧ソレノイド弁74は、CVTコントロールユニット8から出力されるセカンダリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたセカンダリ圧Psecに減圧調整する。
【0026】
セレクトソレノイド弁75は、CVTコントロールユニット8から出力される前進クラッチ圧指令値又は後退ブレーキ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令された前進クラッチ圧Pfc又は後退ブレーキ圧Prbに減圧調整する。
【0027】
ロックアップ圧ソレノイド弁76は、CVTコントロールユニット8から出力されるロックアップ圧指令値に応じ、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ制御圧PL/Uを調整する。
【0028】
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速制御や前後進切替制御やロックアップ制御やベルト滑り保護制御等を行う。ライン圧制御では、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイド弁72に出力する。変速制御では、目標変速比(目標プライマリ回転Npri
*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転Npri
*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイド弁73及びセカンダリ圧ソレノイド弁74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値をセレクトソレノイド弁75に出力する。ロックアップ制御では、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ制御圧PL/Uを制御する指令値をロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。ベルト滑り保護制御では、プーリベルト44が滑りそうなとき、エンジン1の出力トルクを制限するトルクダウン制御により変速機入力トルクを下げることで、ベルト滑りを抑える。
【0029】
CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、車速センサ81、セカンダリ圧センサ82、油温センサ83、インヒビタスイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、プライマリ圧センサ87、セカンダリ回転センサ88、タービン回転センサ89、等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。
【0030】
エンジンコントロールユニット9には、エンジン回転センサ12からのセンサ情報が入力される。CVTコントロールユニット8とエンジンコントロールユニット9とは、CAN通信線13により接続されている。例えば、CVTコントロールユニット8からCAN通信線13を介してエンジンコントロールユニット9へとエンジントルクリクエストを出力すると、エンジントルク情報がCAN通信線13を介してCVTコントロールユニット8へもたらされる。
【0031】
図2は、Dレンジ選択時に自動変速モードでの無段変速制御をバリエータ4により実行する際に用いられるDレンジ無段変速スケジュールの一例を示す。
【0032】
「Dレンジ変速モード」は、車両運転状態に応じて変速比を自動的に無段階に変更する自動変速モードである。「Dレンジ変速モード」での変速制御は、車速VSP(車速センサ81)とアクセル開度APO(アクセル開度センサ86)により特定される
図2のDレンジ無段変速スケジュール上での運転点(VSP,APO)により、目標プライマリ回転数Npri
*を決める。そして、プライマリ回転センサ80からのプライマリ回転数Npriを、目標プライマリ回転数Npri
*に一致させるプーリ油圧制御により行われる。
【0033】
即ち、「Dレンジ変速モード」で用いられるDレンジ無段変速スケジュールは、
図2に示すように、運転点(VSP,APO)に応じて最Low変速比と最High変速比による変速比幅の範囲内で変速比を無段階に変更するように設定されている。例えば、車速VSPが一定のときは、アクセル踏み込み操作を行うと目標プライマリ回転数Npri
*が上昇してダウンシフト方向に変速し、アクセル戻し操作を行うと目標プライマリ回転数Npri
*が低下してアップシフト方向に変速する。アクセル開度APOが一定のときは、車速VSPが上昇するとアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下するとダウンシフト方向に変速する。
【0034】
[ベルト滑り保護制御装置の構成]
以下、
図3に基づいてベルト滑り保護制御装置の構成を説明する。
【0035】
ベルト滑り保護制御装置のハード構成は、
図3に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、トルクコンバータ2と、切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6と、を備えている。
【0036】
エンジン1のエンジン出力軸11には、オイルパン77に溜められている変速機作動油を、ストレーナ78の吸込み口から吸い上げるオイルポンプ70が付設されている。オイルポンプ70からの吐出された変速機作動油は油圧制御回路71に送られ、油圧制御回路71において、ポンプ吐出油に基づいてライン圧PLが調圧され、ライン圧PLを元圧としてプライマリ圧Ppriやセカンダリ圧Psec、等が調圧される。
【0037】
トルクコンバータ2は、締結によりエンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。前後進切替機構3は、前進走行レンジ(Dレンジ、Lレンジ)の選択により締結される前進クラッチ31と、後退走行レンジ(Rレンジ)の選択により締結される後退ブレーキ32と、を並列に有する。
【0038】
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43に掛け渡されるプーリベルト44と、を有する。このバリエータ4において、急減速のように変速比が低変速比領域である場合、プーリベルト44を滑ることなく挟持するベルトクランプ力は、セカンダリ圧Psec(実セカンダリ圧)の大きさにより与えられる。なお、低変速比領域の場合、プーリベルト44のセカンダリプーリ43への巻き付き径が、プライマリプーリ42への巻き付き径よりも大径になる。
【0039】
ベルト滑り保護制御装置のソフト構成は、
図3に示すように、CAN通信線13により接続されるCVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9(走行用駆動源コントロールユニット)と、を備えている。
【0040】
エンジンコントロールユニット9は、入力情報を提供する主なセンサ類としてエンジン回転センサ12を備えている。エンジンコントロールユニット9では、CVTコントロールユニット8からCAN通信線13を介し、エア吸い判定に基づくトルクダウン要求を入力すると、要求に応じてエンジン1の出力トルクを制限するトルクダウン制御を実行する。
【0041】
CVTコントロールユニット8は、入力情報を提供する主なセンサ類として、油温センサ83と、セカンダリ圧センサ82と、プライマリ回転センサ80と、タービン回転センサ89と、セカンダリ回転センサ90と、を備えている。
【0042】
CVTコントロールユニット8には、エア吸い判定時、トルクダウン要求を、CAN通信線13を介してエンジンコントロールユニット9に出力することでトルクダウン制御を行うベルト滑り保護制御部8aを有する。ここで、「エア吸い判定時」とは、オイルパン77に溜められている変速機作動油の揺り返しによりストレーナ78が変速機作動油に浸らず、ストレーナ78の吸込み口からオイルポンプ70がエアを吸い込んでいると推定されるときをいう。
【0043】
ベルト滑り保護制御部8aは、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が油圧低下判定閾値以上である油圧低下判定条件と、車両減速度が急減速判定閾値以下である急減速判定条件と、の両条件が成立するとエア吸いと判定する。このエア吸い判定を、制御入り判定条件としてトルクダウン制御を開始する。そして、トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定条件が不成立になると、油圧低下判定条件の不成立を制御抜け判定条件としてトルクダウン制御を解除する(
図4)。
【0044】
ベルト滑り保護制御部8aは、トルクダウン制御の実行中、実セカンダリ圧に応じてエンジン1の出力トルクを制限するトルクダウン要求をエンジンコントロールユニット9に出力する。このとき、エンジントルクに基づく変速機入力トルクが、セカンダリプーリ43への実セカンダリ圧によるベルトクランプ力を超えないように、エンジン1の出力トルクを制限することで、プーリベルト44の滑りを抑制する。
【0045】
ベルト滑り保護制御部8aは、トルクダウン制御を解除すると、実セカンダリ圧に応じてエンジン1の出力トルクを復帰させるトルクダウン復帰要求をエンジンコントロールユニット9に出力する。このとき、エンジントルクに基づく変速機入力トルクが、セカンダリプーリ43への実セカンダリ圧によるベルトクランプ力を超えないように、エンジン1の出力トルクを戻すことで、プーリベルト44の滑りを抑えながら復帰させる。なお、エンジン1の出力トルクを復帰させる時のトルク上昇変化率には変化率リミット(例えば、120Nm/sec程度)を与え、エンジントルクの急上昇を防止している。
【0046】
ベルト滑り保護制御部8aは、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が油圧低下判定閾値(例えば、1.0Mpa程度)以上の状態で第1所定時間(例えば、0.01sec程度)を経過した場合に油圧低下判定条件が成立とする。そして、油圧低下判定条件の成立中、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が油圧復帰判定閾値(例えば、0.2MPa程度)未満の状態で所定時間(例えば、0.5sec程度)を経過した場合、油圧低下判定条件が不成立とする。又は、油圧低下判定条件の成立中、油圧低下判定から第1所定時間より長い第2所定時間(例えば、2〜5sec程度)を経過した場合、油圧低下判定条件が不成立とする(
図5)。
【0047】
ベルト滑り保護制御部8aは、車両減速度が変速機作動油の油温に応じて設定された急減速判定閾値(例えば、-0.7G〜-1.0G程度)以下の状態で第1所定時間(例えば、0.01sec程度)を経過した場合に急減速判定条件が成立とする。そして、急減速判定条件の成立中、車両加速度が加速復帰判定閾値(例えば、+0.15G程度)を超えた場合、急減速判定条件が不成立とする。又は、急減速判定条件の成立中、急減速判定から第1所定時間より長い第3所定時間(例えば、2〜5sec程度)を経過した場合、急減速判定条件が不成立とする(
図6)。
【0048】
[ベルト滑り保護制御処理構成]
図4は、実施例1のCVTコントロールユニット8のベルト滑り保護制御部8aにて実行されるベルト滑り保護制御処理の流れを示す。以下、
図4の各ステップについて説明する。なお、
図4のフローチャートは、所定制御周期毎に繰り返し実行される。
【0049】
ステップS1では、スタートに続き、ベルト滑り保護制御の入(ON)/切(OFF)を切り替える作動スイッチがONであるか否かを判断する。YES(作動SW ON)の場合はステップS2へ進み、NO(作動SW OFF)の場合はステップS13へ進む。
【0050】
ステップS2では、ステップS1での作動SWがONであるとの判断に続き、エンジン回転数Neは許可回転数以上であるか否かを判断する。YES(Ne≧許可回転数)の場合はステップS3へ進み、NO(Ne<許可回転数)の場合はステップS13へ進む。
【0051】
ここで、「許可回転数」は、エンジンストールに至ることのないエンジン下限回転数、例えば、Dレンジ最低アイドル回転数から所定回転数を差し引いたエンジン回転数に設定される。
【0052】
ステップS3では、ステップS2でのNe≧許可回転数であるとの判断に続き、IS(アイドルストップ)/CS(コーストストップ)中以外であるか否かを判断する。YES(IS/CS中以外)の場合はステップS4へ進み、NO(IS/CS中)の場合はステップS13へ進む。
【0053】
ここで、「アイドルストップ(IS)」とは、車両停止状態、かつ、アクセル足離し状態である等のアイドルストップ条件が成立すると、次の発進操作が行われるまでエンジン1への燃料噴射や点火を停止する制御をいう。「コーストストップ(CS)」とは、アクセル足離しのコースト減速中、車速が所定車速以下の減速状態又は車両停止状態である等のコーストストップ条件が成立すると、次の発進操作が行われるまでエンジン1への燃料噴射や点火を停止する制御をいう。
【0054】
ステップS4では、ステップS3でのIS/CS中以外であるとの判断に続き、イグニッションスイッチがONであるか否かを判断する。YES(IGN ON)の場合はステップS5へ進み、NO(IGN OFF)の場合はステップS13へ進む。
【0055】
ステップS5では、ステップS4でのIGN ONであるとの判断に続き、ベルト滑り保護制御での必要入力情報を取得するために用いられるセンサ系が正常であるか否かを判断する。YES(センサ系正常)の場合はステップS6へ進み、NO(センサ系異常有り)の場合はステップS13へ進む。なお、センサ系の正常/異常判定は、ベルト滑り保護制御処理とは別に設定したセンサ異常診断処理による判定結果を取得することで行う。
【0056】
ステップS6では、ステップS5でのセンサ系正常であるとの判断に続き、選択されているレンジ位置が作動許可レンジであるか否かを判断する。YES(作動許可レンジ:前進レンジ)の場合はステップS7へ進み、NO(作動禁止レンジ:Rレンジ)の場合はステップS13へ進む。
【0057】
ここで、Rレンジを作動禁止レンジとする理由は、低油温時、急な下り勾配路で後退走行するときにエア吸いと誤判定し、Rレンジで実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御に入ると駆動力が不足し、後退で勾配路を登れなくなることによる。よって、副作用が小さい前進レンジ(Dレンジ、Lレンジ、Sレンジ、Mレンジ等)でのみエア吸い判定によるベルト滑り保護制御を許可する。なお、Rレンジでもエア吸いを誤判定しないようにハード対策がとられたら、Rレンジであってもエア吸い判定によるベルト滑り保護制御を許可しても良い。
【0058】
ステップS7では、ステップS6での作動許可レンジ(前進レンジ)であるとの判断に続き、所定の制御中以外であるか否かを判断する。YES(所定の制御中以外)の場合はステップS8へ進み、NO(所定の制御中)の場合はステップS13へ進む。
【0059】
ここで、「所定の制御中」とは、セレクト制御中、悪路制御中、通常時スピン制御中、停車時疑似D制御中、走行時疑似D制御中、等である。これらの制御中にエア吸い判定によるベルト滑り保護制御を禁止する理由は、指示セカンダリ圧をステップ的に上昇させる制御が含まれ、エア吸い判定を誤判定する可能性があるためである。なお、疑似D制御とは、走行レンジでの停車中や走行中に締結状態であるべきクラッチが意図せずにクラッチ滑り締結状態になったと判断されたとき、このクラッチ滑りを抑える制御をいう。
【0060】
ステップS8では、ステップS7での所定の制御中以外であるとの判断に続き、そのとき読み込まれた油圧低下判定処理結果(
図5)と急減速判定結果(
図6)が、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1であるか否かを判断する。YES(油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1)の場合はステップS9へ進み、NO(油圧低下判定フラグと急減速判定フラグの少なくとも一方が“0”)の場合はステップS11へ進む。
【0061】
ステップS9では、ステップS8での油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1であるとの判断に続き、エア吸いであると判定し、エア吸い判定フラグを“1”に設定し、ステップS10へ進む。
【0062】
ステップS10では、ステップS9でのエア吸い判定フラグ=1に続き、実セカンダリ圧Psecに応じたトルクダウン要求をエンジンコントロールユニット9へ出力し、エンドへ進む。
【0063】
ここで、「実セカンダリ圧Psec」は、セカンダリ圧センサ82からのセンサ信号により取得する。「実セカンダリ圧Psecに応じたトルクダウン要求」とは、セカンダリプーリ43への実セカンダリ圧Psecによるベルトクランプ力を変速機入力トルクが超えないように、実セカンダリ圧Psecに応じてエンジン1の出力トルクを制限する要求をいう。具体的な制限トルクは、実セカンダリ圧Psecにより計算したベルトクランプ力(セカンダリ許容推力)とプーリ比により許容入力トルクを計算し、この許容入力トルクに、安全率補正やT/Cトルク比補正やO/Pロストルク補正を施して求める。
【0064】
ステップS11では、ステップS8での油圧低下判定フラグと急減速判定フラグの少なくとも一方が“0”であるとの判断に続き、トルクダウン制御の実行中であるか否かを判断する。YES(トルクダウン制御実行中)の場合はステップS12へ進み、NO(トルクダウン制御を実行していない)の場合はエンドへ進む。
【0065】
ステップS12では、ステップS11でのトルクダウン制御実行中であるとの判断に続き、そのときに読み込まれた油圧低下判定処理結果(
図5)が、油圧低下判定フラグ=0であるか否かを判断する。YES(油圧低下判定フラグ=0)の場合はステップS14へ進み、NO(油圧低下判定フラグ=1)の場合はエンドへ進む。即ち、トルクダウン制御実行中、急減速判定フラグ=0であっても油圧低下判定フラグ=0に書き替えられない限り、トルクダウン制御の実行は継続される。
【0066】
ステップS13では、ステップS1〜S7までの前提条件の何れかが不成立であるとの判断に続き、トルクダウン制御の実行中であるか否かを判断する。YES(トルクダウン制御実行中)の場合はステップS14へ進み、NO(トルクダウン制御を実行していない)の場合はエンドへ進む。即ち、トルクダウン制御実行中、前提条件の全てが成立したままであることがトルクダウン制御の実行維持条件であり、前提条件の何れかが不成立になるとトルクダウン制御は解除される。
【0067】
ステップS14では、ステップS12での油圧低下判定フラグ=0であるとの判断、或いは、ステップS13でのトルクダウン制御実行中であるとの判断に続き、エア吸い判定フラグを“0”に書き替えてトルクダウン制御を解除し、エンドへ進む。なお、トルクダウン制御を解除するとき、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグはクリアされる。つまり、油圧低下判定フラグ=1であれば油圧低下判定フラグ=0に書き替えられ、急減速判定フラグ=1であれば急減速判定フラグ=0に書き替えられる。
【0068】
図5は、
図4のベルト滑り保護制御処理で用いる油圧低下判定フラグが“1”であるのか“0”であるのかを決める油圧低下判定処理の流れを示す。以下、
図5の各ステップについて説明する。なお、初期状態では、油圧低下判定フラグ=0に設定されている。
【0069】
ステップS21では、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が閾値A以上の状態を所定時間経過しているか否かを判断する。YES(油圧低下判定条件成立)の場合はステップS22へ進み、NO(油圧低下判定条件不成立)の場合はステップS21の判断を繰り返す。
【0070】
ここで、「閾値A」は、実セカンダリ圧の低下を判定するために設定された油圧低下判定閾値(例えば、1.0Mpa程度)である。「所定時間」は、差圧がセンサノイズ等による瞬時発生でないことを判断するために設定された第1所定時間(例えば、0.01sec程度)である。
【0071】
ステップS22では、ステップS21での油圧低下判定条件成立であるとの判断に続き、油圧低下判定に基づいて油圧低下判定フラグを、油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1へと書き替え、ステップS23へ進む。
【0072】
ステップS23では、ステップS22での油圧低下判定、或いは、ステップS25での油圧低下判定キープと急減速判定キープに続き、油圧低下判定をしてからの経過時間が所定時間経過しているか否かを判断する。YES(所定時間経過)の場合はステップS26へ進み、NO(所定時間未経過)の場合はステップS24へ進む。
【0073】
ここで、「所定時間」は、実セカンダリ圧が復帰せず、トルクダウン制御を抜けられなくなることを防止するために設定された第2所定時間(例えば、2〜5sec程度)である。即ち、エア吸いの場合、
図7の上部に示すように、差圧が閾値A以上になることで油圧低下判定入りを判断でき、差圧が閾値C未満になって所定時間を経過することで油圧低下判定抜けを判断できる。しかし、エア吸いでない場合、
図7の下部に示すように、差圧が閾値A以上になることで油圧低下判定入りを判断できるが、実セカンダリ圧が復帰せず、トルクダウン制御を抜けられなくなる可能性がある。ここで、エア吸いでない場合とは、例えば、実セカンダリ圧を調圧するバルブがボア摩耗した摩耗品等のように、意図しない油圧低下が生じる場合をいう。よって、一定時間以上経過しても実セカンダリ圧が低い場合は、エア吸い以外の要因で実セカンダリ圧が低下していると判断し、油圧低下判定を抜けるようにしている。なお、エア吸い以外の要因で実セカンダリ圧が低下している場合は、別のセカンダリ圧低下保護制御で救う。
【0074】
ステップS24では、ステップS23での所定時間未経過であるとの判断に続き、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が閾値C未満の状態を所定時間経過しているか否かを判断する。YES(油圧復帰判定条件成立)の場合はステップS26へ進み、NO(油圧復帰判定条件不成立)の場合はステップS25へ進む。
【0075】
ここで、「閾値C」は、油圧低下判定条件の成立中、実セカンダリ圧の復帰を判定するために設定された油圧復帰判定閾値(例えば、0.2MPa程度)である。「所定時間」は、実セカンダリ圧が復帰したことを確認するために設定された時間閾値(例えば、0.5sec程度)である。
【0076】
ステップS25では、ステップS24での油圧復帰判定条件不成立であるとの判断に続き、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグをそれぞれキープしたままとし、ステップS23へ戻る。
【0077】
ステップS26では、ステップS23での所定時間経過であるとの判断、或いは、ステップS24での油圧復帰判定条件成立であるとの判断に続き、油圧低下判定フラグを、油圧低下判定フラグ=1から油圧低下判定フラグ=0に書き替え、リターンへ進む。なお、急減速判定フラグはキープしたままとする。
【0078】
図6は、
図4のベルト滑り保護制御処理で用いる急減速判定フラグが“1”であるのか“0”であるのかを決める急減速判定処理の流れを示す。以下、
図5の各ステップについて説明する。なお、初期状態では、急減速判定フラグ=0に設定されている。
【0079】
ステップS31では、急減速Gが閾値B以下の状態を所定時間経過しているか否かを判断する。YES(急減速判定条件成立)の場合はステップS32へ進み、NO(急減速判定条件不成立)の場合はステップS31の判断を繰り返す。
【0080】
ここで、「急減速G」は、例えば、車速センサ81からの車速センサ値の微分演算により取得する。なお、前後Gセンサを有する場合は、前後Gセンサ値により取得する。「閾値B」は、車両の急減速を判定するため、
図8に示すように、油温の高さに応じて設定された急減速判定閾値である。油温が低いときには、緩減速の値で与え、油温が高くなるほど急減速となるように、油温に応じた可変値(例えば、-0.7G〜-1.0G程度)で与えている。「所定時間」は、急減速Gがセンサノイズ等による瞬時発生でないことを判断するために設定された第1所定時間(例えば、0.01sec程度)である。
【0081】
ステップS32では、ステップS31での急減速判定条件成立であるとの判断に続き、急減速判定に基づいて急減速判定フラグを、急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1へと書き替え、ステップS33へ進む。
【0082】
ステップS33では、ステップS32での急減速判定、或いは、ステップS35での油圧低下判定キープと急減速判定キープに続き、急減速判定をしてからの経過時間が所定時間経過しているか否かを判断する。YES(所定時間経過)の場合はステップS36へ進み、NO(所定時間未経過)の場合はステップS34へ進む。
【0083】
ここで、「所定時間」は、急減速Gが復帰せず、トルクダウン制御を抜けられなくなることを防止するために設定された第3所定時間(例えば、2〜5sec程度)である。即ち、アクセル踏み込み操作による加速時の場合、
図9の1点鎖線特性に示すように、急減速Gが閾値B以下になることで急減速判定入りを判断でき、加速Gが閾値Hを超えることで急減速判定抜けを判断できる。しかし、アクセル開度が極低開度での発進時の場合、
図9の実線特性に示すように、急減速Gが閾値B以下になることで急減速判定入りを判断できるが、加速Gが出ないことで、加速Gが閾値Hを超えることがなく、トルクダウン制御を抜けられなくなる可能性がある。よって、一定時間以上経過しても加速Gが閾値Hを超えることがないような場合は、急減速判定を抜けるようにしている。
【0084】
ステップS34では、ステップS33での所定時間未経過であるとの判断に続き、加速Gが閾値Hを超えているか否かを判断する。YES(加速G>閾値H)の場合はステップS36へ進み、NO(加速G≦閾値H)の場合はステップS35へ進む。
【0085】
ここで、「閾値H」は、急減速判定条件の成立中、車両加速度が出て加速状態へと復帰したことをあらわす加速復帰判定閾値(例えば、+0.15G程度)に設定される。
【0086】
ステップS35では、ステップS34での加速G≦閾値Hであるとの判断に続き、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグをそれぞれキープしたままとし、ステップS33へ戻る。
【0087】
ステップS36では、ステップS33での所定時間経過であるとの判断、或いは、ステップS34での加速G>閾値Hであるとの判断に続き、急減速判定フラグを、急減速判定フラグ=1から急減速判定フラグ=0に書き替え、リターンへ進む。なお、油圧低下判定フラグはキープしたままとする。
【0088】
次に、実施例1の作用を、「ベルト滑り保護制御処理作用」、「油圧低下判定処理作用」、「急減速判定処理作用」、「エア吸い判定によるベルト滑り保護制御作用」に分けて説明する。
【0089】
[ベルト滑り保護制御処理作用]
以下、
図4のフローチャートに基づいてベルト滑り保護制御処理作用を説明する。
まず、前提条件は成立しているが、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグの少なくとも一方が“0”である場合は、
図4のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S11→エンドへと進む流れが繰り返される。つまり、エア吸い判定がなされず、実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御も開始されない。
【0090】
その後、前提条件が成立し、かつ、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1になると、
図4のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S9→S10へと進む。ステップS9では、エア吸いであるとの判定に基づき、エア吸い判定フラグがエア吸い判定フラグ=1に設定される。次のステップS10では、実セカンダリ圧Psecに応じたトルクダウン要求がエンジンコントロールユニット9へ出力され、トルクダウン制御が開始される。そして、前提条件が成立し、かつ、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1を維持している間は、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S9→S10→エンドへと進む流れが繰り返され、トルクダウン制御の実行が維持される。
【0091】
トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定フラグは“1”のままであるが、急減速判定フラグが“1”から“0”に書き替えられると、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S11→エンドへと進む流れが繰り返される。つまり、トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定フラグ=1であると、急減速判定フラグにかかわらず、トルクダウン制御の実行が維持される。
【0092】
しかし、トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定フラグが“1”から“0”に書き替えられると、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8→S11→S12→S14→エンドへと進む。ステップS14では、エア吸い判定フラグを“0”に書き替えてトルクダウン制御が解除され、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグはクリアされる。つまり、トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定フラグ=0になると、急減速判定フラグにかかわらず、トルクダウン制御が解除され、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグはクリアされる。
【0093】
トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定フラグは“1”のままであるが、エンジン回転数が許可回転数未満になると、S1→S2→S13→S14→エンドへと進む。ステップS14では、エア吸い判定フラグを“0”に書き替えてトルクダウン制御が解除され、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグはクリアされる。
【0094】
トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定フラグは“1”のままであるが、アイドルストップ制御又はコーストストップ制御が開始されると、S1→S2→S3→S13→S14→エンドへと進む。ステップS14では、エア吸い判定フラグを“0”に書き替えてトルクダウン制御が解除され、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグはクリアされる。
【0095】
トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定フラグは“1”のままであるが、イグニッションスイッチがOFFにされると、S1→S2→S3→S4→S13→S14→エンドへと進む。ステップS14では、エア吸い判定フラグを“0”に書き替えてトルクダウン制御が解除され、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグはクリアされる。
【0096】
このように、ベルト滑り保護制御処理においては、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が閾値A以上である油圧低下判定条件と、車両減速度が閾値B以下である急減速判定条件と、の両条件が成立するとエア吸いと判定される。エア吸いと判定されると、エア吸い判定を制御入り判定条件とし、実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御を開始する。
【0097】
ベルト滑り保護制御処理においては、トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定条件が不成立(油圧低下判定フラグ=0)になると、油圧低下判定条件の不成立を制御抜け判定条件とし、トルクダウン制御が解除される。このトルクダウン制御の解除と同時に、油圧低下判定フラグと急減速判定フラグもクリアされる。
【0098】
[油圧低下判定処理作用]
以下、
図5に示すフローチャートに基づいて油圧低下判定処理作用を説明する。
指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が閾値A以上の状態が第1所定時間を経過していると、S21→S22へと進む。ステップS22では、ステップS21での油圧低下判定条件が成立したとの判断に続いて、油圧低下判定フラグが、油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1へと書き替えられる。
【0099】
油圧低下判定フラグ=1へと書き替えられた後、油圧低下判定からの経過時間が第1所定時間を経過していないで、かつ、差圧が閾値C未満の状態が所定時間経過していないと、S23→S24→S25へと進む流れが繰り返される。つまり、油圧低下判定フラグ=1が維持される。
【0100】
油圧低下判定フラグ=1が維持された後、実セカンダリ圧の上昇により差圧が閾値C未満の状態が所定時間経過すると、S23→S24→S26→リターンへと進む。ステップS26では、ステップS24での油圧復帰判定条件成立であるとの判断に基づいて油圧低下判定フラグが、油圧低下判定フラグ=1から油圧低下判定フラグ=0に書き替えられる。なお、急減速判定フラグは、そのときの“1”か“0”をキープしたままとされる。
【0101】
そして、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧の差圧が閾値C未満の状態が所定時間経過しないままで、油圧低下判定をしてからの経過時間が第2所定時間を経過すると、S23→S26→リターンへと進む。ステップS26では、油圧低下判定をしてからの経過時間条件成立であるとの判断に基づいて油圧低下判定フラグが、油圧低下判定フラグ=1から油圧低下判定フラグ=0に書き替えられる。なお、急減速判定フラグは、そのときの“1”か“0”をキープしたままとされる。
【0102】
このように、油圧低下判定処理では、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が閾値A以上の状態で第1所定時間を経過すると油圧低下判定条件が成立とされる。そして、油圧低下判定条件の成立に基づいて油圧低下判定フラグが、油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1に書き替えられる。
【0103】
油圧低下判定フラグ=1であるとき、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧との差圧が閾値C未満の状態で所定時間を経過すると油圧低下復帰条件が成立とされる。そして、油圧低下からの実圧復帰条件の成立に基づいて油圧低下判定フラグが、油圧低下判定フラグ=1から油圧低下判定フラグ=0に書き替えられる。
【0104】
油圧低下判定フラグ=1であるとき、油圧低下復帰条件が成立しないままで、油圧低下判定から第1所定時間より長い第2所定時間を経過すると経過時間条件が成立とされる。そして、油圧低下判定からの経過時間条件の成立に基づいて油圧低下判定フラグが、油圧低下判定フラグ=1から油圧低下判定フラグ=0に書き替えられる。
【0105】
[急減速判定処理作用]
以下、
図6に示すフローチャートに基づいて急減速判定処理作用を説明する。
急減速Gが油温に応じて設定される閾値B以下の状態が所定時間経過していると、S31→S32へと進む。ステップS32では、ステップS31において急減速判定条件が成立したとの判断に続いて、急減速判定フラグが、急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1へと書き替えられる。
【0106】
急減速判定フラグ=1へと書き替えられた後、急減速判定からの経過時間が第3所定時間を経過していないで、かつ、加速G≦閾値Hであると、S33→S34→S35へと進む流れが繰り返される。つまり、急減速判定フラグ=1が維持される。
【0107】
急減速判定フラグ=1が維持された後、減速から加速側へ復帰し、加速G>閾値Hになると、S33→S34→S36→リターンへと進む。ステップS36では、ステップS34での加速復帰判定条件成立であるとの判断に基づいて急減速判定フラグが、急減速判定フラグ=1から急減速判定フラグ=0に書き替えられる。なお、油圧低下判定フラグは、そのときの“1”か“0”をキープしたままとされる。
【0108】
そして、加速G>閾値Hにならないままで、急減速判定をしてからの経過時間が第3所定時間を経過すると、S33→S36→リターンへと進む。ステップS36では、ステップS33での急減速判定をしてからの経過時間条件成立であるとの判断に基づいて急減速判定フラグが、急減速判定フラグ=1から急減速判定フラグ=0に書き替えられる。なお、油圧低下判定フラグは、そのときの“1”か“0”をキープしたままとされる。
【0109】
このように、急減速判定処理では、車両減速度(急減速G)が変速機作動油の油温に応じて設定された閾値B以下の状態で第1所定時間を経過すると、急減速判定条件が成立とされる。そして、急減速判定条件の成立に基づいて急減速判定フラグが、急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1に書き替えられる。
【0110】
急減速判定フラグ=1であるとき、車両加速度(加速G)が閾値Hを超えると、急減速からの加速復帰条件が成立とされる。そして、加速復帰条件の成立に基づいて急減速判定フラグが、急減速判定フラグ=1から急減速判定フラグ=0に書き替えられる。
【0111】
急減速判定フラグ=1であるとき、加速へ復帰しないままで急減速判定から第1所定時間より長い第3所定時間を経過すると経過時間条件が成立とされる。そして、急減速判定からの経過時間条件の成立に基づいて急減速判定フラグが、急減速判定フラグ=1から急減速判定フラグ=0に書き替えられる。
【0112】
[エア吸い判定によるベルト滑り保護制御作用]
以下、
図10〜
図15に基づいて、シーン別のエア吸い判定によるベルト滑り保護制御作用を説明する。
【0113】
(急減速から急踏み加速へと移行する走行シーン:
図10)
時刻t1にて減速を開始し、時刻t2にて急減速が判定され、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定され、時刻t4にてアクセル踏み込み操作が行われる急減速から急踏み加速へと移行する走行シーン(油圧低下判定有り)について説明する。
【0114】
この走行シーンの場合、急減速判定フラグは、時刻t2にて急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1に書き替えられる。油圧低下判定フラグは、時刻t3にて油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1に書き替えられる。そして、時刻t4にてアクセル踏み込み操作が行われ、時刻t5にて指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧の差圧が閾値C未満になると、時刻t5から所定時間を経過した時刻t6にて油圧低下判定フラグが油圧低下判定フラグ=0に書き替えられる。
【0115】
このため、時刻t3〜t6までの区間が、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1のエア吸い判定区間(エア吸い判定フラグ=1の区間)となり、実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御が実行される。
【0116】
よって、時刻t2にて急減速が判定されても、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定されるまで待って、トルクダウン制御が開始される。即ち、急減速が判定されても直ちにエア吸いと判定するのは早計であり、急減速の判定は、直接、ベルト滑りの発生に繋がるものではない。言い換えると、エア吸いによるベルト滑りは、急減速中に実セカンダリ圧が低下したことを原因として発生する。このため、時刻t3からのトルクダウン制御の開始は、ベルト滑りを抑制する適切なタイミングといえる。
【0117】
さらに、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧の特性に示すように、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定されても、時刻t5にて実セカンダリ圧が上昇して復帰し、時刻t6にてトルクダウン制御が解除される。即ち、時刻t6にて急減速からの加速復帰が判定されていなくても、実セカンダリ圧の復帰による油圧低下判断の不成立のみを条件としてトルクダウン制御から抜ける。このため、時刻t6の後、アクセル急踏み操作によるドライバーの加速要求に対して応答良く駆動力が回復する。
【0118】
(急減速から急踏み加速へと移行する走行シーン:
図11)
時刻t1にて減速を開始し、時刻t2にて急減速が判定され、時刻t3にてアクセル踏み込み操作が行われる急減速から急踏み加速へと移行する走行シーン(油圧低下判定なし)について説明する。
【0119】
この走行シーンの場合、急減速判定フラグは、時刻t2にて急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1に書き替えられる。時刻t4にて加速Gが閾値Hを超えることで、急減速判定フラグ=1から急減速判定フラグ=0に書き替えられる。
【0120】
しかし、油圧低下判定フラグについては、油圧低下が判定されないことで、油圧低下判定フラグ=0のまま維持されるため、エア吸い判定フラグもエア吸い判定フラグ=0のまま維持され、トルクダウン制御が実行されることはない。
【0121】
よって、時刻t2〜t4が急減速判定区間になるが、急減速判定のみではトルクダウン制御が実行されることはない。このため、時刻t3にてアクセル踏み込み操作が行われると、ドライバーの加速要求に対してエンジン回転数及び車速が上昇し、ドライバーが意図する急踏み加速が実現される。
【0122】
(急減速するコースト減速シーン:
図12)
時刻t1にて減速を開始し、時刻t2にて急減速が判定され、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定され、時刻t4にてエンジン回転数の低下を開始する急減速するコースト減速シーンについて説明する。
【0123】
このコースト減速シーンの場合、急減速判定フラグは、時刻t2にて急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1に書き替えられる。油圧低下判定フラグは、時刻t3にて油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1に書き替えられる。そして、時刻t4にてエンジン回転数が低下を開始し、時刻t5にてエンジン回転数が許可回転数(=エンジン閾値)未満になると、
図4のS2(前提条件のうちエンジン回転数条件)が不成立になることでエア吸い制御(トルクダウン制御)が禁止される。
【0124】
このため、時刻t3〜t5までの区間が、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1のエア吸い判定区間(エア吸い判定フラグ=1の区間)となり、実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御が実行される。しかし、時刻t5になると、前提条件の不成立によりトルクダウン制御が禁止され、エンジン回転数は時刻t5から徐々に低下し、時刻t7にてエンジンストール状態になる。なお、車速についても時刻t1から徐々に低下し、時刻t6にて停車状態になる。
【0125】
(IS/CS作動による急減速から急踏み加速へと移行する走行シーン:
図13)
IS/CS作動中の時刻t1にて減速を開始し、時刻t2にて急減速が判定され、時刻t3にてアクセル急踏み操作によりIS/CS作動が解除され、実セカンダリ圧の低下が判定されるIS/CS作動による急減速から急踏み加速へと移行する走行シーンについて説明する。
【0126】
この走行シーンの場合、急減速判定フラグは、時刻t2にて急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1に書き替えられる。油圧低下判定フラグは、時刻t3にて油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1に書き替えられる。そして、時刻t3にてアクセル踏み込み操作が行われ、時刻t4にて指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧の差圧が閾値C未満になると、時刻t4から所定時間を経過した時刻t5にて油圧低下判定フラグが油圧低下判定フラグ=0に書き替えられる。
【0127】
このため、時刻t3より前のIS/CS作動区間は、
図4のS3(前提条件のうちIS/CS中以外条件)が不成立になることでエア吸い制御(トルクダウン制御)が禁止される。そして、時刻t3〜t5までの区間が、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1のエア吸い判定区間(エア吸い判定フラグ=1の区間)となり、実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御が実行される。
【0128】
よって、時刻t2にて急減速が判定されても、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定されるまで待って、トルクダウン制御が開始され、時刻t3での急踏み加速によるベルト滑りは、時刻t3〜t5までのトルクダウン制御により抑制される。
【0129】
さらに、指示セカンダリ圧と実セカンダリ圧の特性に示すように、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定されても、時刻t4にて実セカンダリ圧が上昇して復帰し、時刻t5にてトルクダウン制御が解除される。このため、時刻t3のアクセル急踏み操作によるドライバーの加速要求に対して、時刻t5でのトルクダウン制御の抜けにより必要駆動力が回復する。
【0130】
(急減速からIS/CS作動による減速停車シーン:
図14)
時刻t1にて減速を開始し、時刻t2にて急減速が判定され、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定され、時刻t4にてIS/CSが作動を開始するIS/CS作動による減速停車シーンについて説明する。
【0131】
このIS/CS作動による減速停車シーンの場合、急減速判定フラグは、時刻t2にて急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1に書き替えられる。油圧低下判定フラグは、時刻t3にて油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1に書き替えられる。そして、時刻t4にてIS/CSが作動を開始すると、エア吸い判定フラグがエア吸い判定フラグ=0に書き替えられる。
【0132】
このため、時刻t4までのIS/CS非作動区間においては、時刻t3〜時刻t4までの区間が、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1のエア吸い判定区間(エア吸い判定フラグ=1の区間)となり、実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御が実行される。時刻t4より後のIS/CS作動区間は、
図4のS3(前提条件のうちIS/CS中以外条件)が不成立になることでエア吸い制御(トルクダウン制御)が禁止される。
【0133】
よって、時刻t2にて急減速が判定されても、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定されるまで待って、トルクダウン制御が開始され、時刻t3以降のコースト減速走行中のベルト滑りは、時刻t3〜t4までのトルクダウン制御により抑制される。
【0134】
さらに、時刻t4より後のIS/CS作動区間は、
図4のS3(前提条件のうちIS/CS中以外条件)が不成立になることでエア吸い制御(トルクダウン制御)が禁止される。このため、エンジン回転数は時刻t4にてエンジンストール状態になる。なお、車速についても時刻t1から徐々に低下し、時刻t5にて停車状態になる。
【0135】
(急減速からイグニッションOFFによる減速停車シーン:
図15)
時刻t1にて減速を開始し、時刻t2にて急減速が判定され、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定され、時刻t4にて停車してIGN OFFとされる急減速からイグニッションOFFによる減速停車シーンについて説明する。
【0136】
この急減速からイグニッションOFFによる減速停車シーンの場合、急減速判定フラグは、時刻t2にて急減速判定フラグ=0から急減速判定フラグ=1に書き替えられる。油圧低下判定フラグは、時刻t3にて油圧低下判定フラグ=0から油圧低下判定フラグ=1に書き替えられる。そして、時刻t4にて停車してIGN OFF操作が行われると、エア吸い判定フラグがエア吸い判定フラグ=0に書き替えられる。
【0137】
このため、時刻t3〜時刻t4までの区間が、油圧低下判定フラグ=1、かつ、急減速判定フラグ=1のエア吸い判定区間(エア吸い判定フラグ=1の区間)となり、実セカンダリ圧に応じたトルクダウン制御が実行される。停車してIGN OFF操作が行われる時刻t4より後の区間は、
図4のS4(前提条件のうちIGN ON条件)が不成立になることでエア吸い制御(トルクダウン制御)が禁止される。
【0138】
よって、時刻t2にて急減速が判定されても、時刻t3にて実セカンダリ圧の低下が判定されるまで待って、トルクダウン制御が開始され、時刻t3以降のコースト減速走行中のベルト滑りは、時刻t3〜t4までのトルクダウン制御により抑制される。
【0139】
さらに、時刻t4より後の区間は、
図4のS4(前提条件のうちIGN ON条件)が不成立になることでエア吸い制御(トルクダウン制御)が禁止される。このため、エンジン回転数は時刻t4にてエンジンストール状態に移行する。なお、車速についても時刻t1から徐々に低下し、時刻t4にて停車状態になる。
【0140】
以上説明してきたように、実施例1のベルト式無段変速機CVTの制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0141】
(1) バリエータ4と、CVTコントロールユニット8と、走行用駆動源コントロールユニット(エンジンコントロールユニット9)と、を備える。
バリエータ4は、走行用駆動源(エンジン1)と駆動輪6との間に配され、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、両プーリ42,43に掛け渡されるプーリベルト44(ベルト)と、を有する。
CVTコントロールユニット8は、変速要求時、オイルパン77に溜められている変速機作動油を吸い上げるオイルポンプ70からの吐出油に基づく油圧制御により変速制御を実行する。
走行用駆動源コントロールユニット(エンジンコントロールユニット9)は、CVTコントロールユニット8からのトルクダウン要求時、走行用駆動源(エンジン1)の出力トルクを制限するトルクダウン制御を実行する。
CVTコントロールユニット8に、オイルポンプ70がエアを吸い込むエア吸い判定時、トルクダウン要求を走行用駆動源コントロールユニット(エンジンコントロールユニット9)に出力することでトルクダウン制御を行うベルト滑り保護制御部8aを設ける。
ベルト滑り保護制御部8aは、指示圧と実圧との差圧が閾値(閾値A)以上である油圧低下判定条件と、車両減速度が閾値(閾値B)以下である急減速判定条件と、の両条件が成立するとエア吸いと判定してトルクダウン制御を開始する。
トルクダウン制御の実行中、油圧低下判定条件が不成立になるとトルクダウン制御を解除する(
図4)。
このように、エア吸い判定に油圧低下判定条件の成立を加え、油圧低下判定条件の不成立によりトルクダウン制御を抜けることで、急減速から加速へ移行するシーンにおいて、ベルト滑りを抑制しながら応答良く駆動力を復帰することができる。
【0142】
(2) ベルト滑り保護制御部8aは、トルクダウン制御の実行中、セカンダリプーリ43への実セカンダリ圧によるベルトクランプ力を変速機入力トルクが超えないように、実セカンダリ圧に応じて走行用駆動源(エンジン1)の出力トルクを制限するトルクダウン要求を走行用駆動源コントロールユニット(エンジンコントロールユニット9)に出力する(
図4のS10)。
このように、ベルトクランプ力の決定要因である実セカンダリ圧に応じて走行用駆動源(エンジン1)の出力トルクを制限することで、エア吸い判定によるトルクダウン制御の実行により高い確実性にてベルト滑りを抑制することができる。
【0143】
(3) ベルト滑り保護制御部8aは、トルクダウン制御を解除すると、セカンダリプーリ43への実セカンダリ圧によるベルトクランプ力を変速機入力トルクが超えないように、実セカンダリ圧に応じて走行用駆動源(エンジン1)の出力トルクを復帰させるトルクダウン復帰要求を走行用駆動源コントロールユニット(エンジンコントロールユニット9)に出力する(
図4のS14)。
このように、ベルトクランプ力の決定要因である実セカンダリ圧に応じて走行用駆動源(エンジン1)の出力トルクを復帰させることで、ベルト滑りを抑制しながらエア吸い判定によるトルクダウン制御から抜けることができる。
【0144】
(4) ベルト滑り保護制御部8aは、指示圧と実圧との差圧が油圧低下判定閾値(閾値A)以上の状態で第1所定時間を経過した場合に油圧低下判定条件が成立とする。
油圧低下判定条件の成立中、指示圧と実圧との差圧が油圧復帰判定閾値(閾値C)未満の状態で所定時間を経過した場合、又は、油圧低下判定から第1所定時間より長い第2所定時間を経過した場合、油圧低下判定条件が不成立とする(
図5)。
このように、油圧低下判定条件の不成立判断に油圧復帰条件と継続時間条件を設けることで、油圧復帰した場合に限らず、エア吸い以外の要因により油圧復帰ができない場合にもトルクダウン制御から抜けることができる。
【0145】
(5) ベルト滑り保護制御部8aは、車両減速度が変速機作動油の油温に応じて設定された急減速判定閾値(閾値B)以下の状態で第1所定時間を経過した場合に急減速判定条件が成立とする。
急減速判定条件の成立中、車両加速度(加速G)が加速復帰判定閾値(閾値H)を超えた場合、又は、急減速判定から第1所定時間より長い第3所定時間を経過した場合、急減速判定条件が不成立とする(
図6)。
このように、急減速判定条件の不成立判断に加速復帰条件と継続時間条件を設けることで、加速復帰した場合に限らず、急減速判定後に加速Gが出ないようなシーンの場合にも急減速判定から抜けることができる。
【0146】
以上、本発明のベルト式無段変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0147】
実施例1では、ベルト滑り保護制御部8aとして、作動許可レンジや所定制御中以外を含む前提条件の成立と油圧低下判定条件及び急減速判定条件の同時成立によりエア吸いを判定し、実圧に応じたトルクダウンを実行する例を示した。しかし、ベルト滑り保護制御部としては、前提条件として、ハード対策により作動許可レンジを含まない例としても良い。又、前提条件として、所定制御中以外として列挙した制御以外にも、エア吸いを誤検知するような制御が実行されているときは、エア吸い判定を禁止する例としても良い。
【0148】
実施例1では、本発明の制御装置を、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、バリエータのみによるベルト式無段変速機に限らず、バリエータと副変速機が直列に連結される副変速機付きベルト式無段変速機を搭載した車両に適用しても良い。そして、副変速機付きベルト式無段変速機の場合、実圧に応じたトルクダウン要求を行う場合、実施例1のバリエータ等によるトルク補正に、副変速機の架け替え変速におけるトルク補正を加える。適用される車両としても、エンジン車に限らず、走行用駆動源にエンジンとモータを搭載したハイブリッド車、走行用駆動源にモータを搭載した電気自動車等に対しても適用できる。