(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6949516
(24)【登録日】2021年9月27日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】インクジェット印字ヘッド内の単一噴射再循環
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20210930BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20210930BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20210930BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/14 603
B41J2/14 605
B41J2/01 401
B41J2/01 501
B41J2/16 507
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-52618(P2017-52618)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-185791(P2017-185791A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2020年3月10日
(31)【優先権主張番号】15/086,536
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】テランス・エル・スティーブンス
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィット・エイ・テンス
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・ジェイ・イーヴンス
【審査官】
中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−241120(JP,A)
【文献】
特開2008−200902(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/031871(WO,A1)
【文献】
特開2014−046515(JP,A)
【文献】
特開2008−149594(JP,A)
【文献】
特開2012−171342(JP,A)
【文献】
特開平06−183018(JP,A)
【文献】
特開2015−131475(JP,A)
【文献】
米国特許第05574486(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印字ヘッドであって、
複数の単一噴射要素であって、各単一噴射要素が、
噴射中インクを吐出するよう構成される開口と、
インクを受け取るためのチャネルと、を含む複数の単一噴射要素と、
前記チャネルに接続する第1の多岐管構造体と、
インクを受け取るために前記チャネルに接続する複数の再循環チャネルであって、前記単一噴射要素と再循環経路それぞれの一部を形成する鋼材プレートのうちの1つにハーフエッチングを施すことにより形成される再循環チャネルと、
前記再循環チャネルに接続する第2の多岐管構造体と、を含み、
前記噴射前の所定の時間の間に、前記第1の多岐管には負の圧力がかけられ、前記第2の多岐管には低い負の圧力がかけられ、
気泡を前記再循環チャネルに押し出すときの前記再循環チャネルの入口での圧力差を、Tを前記インクの表面張力とし、wを前記再循環チャネルの幅とし、dを前記再循環チャネルの深さとするとき、T×[(2/w)+(2/d)]で算出される値以上にする、インクジェット印字ヘッド。
【請求項2】
前記所定の時間が経過した後、前記噴射により前記開口からインクが吐出される、請求項1に記載の印字ヘッド。
【請求項3】
前記再循環チャネルが、1.65mm〜4.445mmの全長、0.076mm〜0.152mmの幅、および0.0381mm〜0.1016mmの深さを有する、請求項1に記載の印字ヘッド。
【請求項4】
前記インクの表面張力が、27ダイン/cmで、前記再循環チャネルの入口の前記圧力が3.6〜8.5水柱インチである、請求項3に記載の印字ヘッド。
【請求項5】
インクジェット印字ヘッドであって、
噴射要素であって、
噴射中インクを吐出するよう構成される開口と、
インクを受け取るためのチャネルと、を含む噴射要素と、
前記チャネルにインクを供給する構造を有する第1の多岐管と、
前記噴射中かつ非噴射中にインクを受け取るよう構成される再循環経路であって、各再循環経路が、
インクを受け取るために前記チャネルに接続する再循環チャネルであって、単一噴射要素と前記再循環経路のそれぞれの一部を形成する鋼材プレートのうちの1つにハーフエッチングを施すことにより形成される再循環チャネルと、
前記再循環チャネルに接続する第2の多岐管構造体と、を含む、再循環経路と、を含み、
非噴射中に前記噴射要素と前記再循環経路を通って、前記第1の多岐管から前記第2の多岐管に前記インクが流れ、
気泡を前記再循環チャネルに押し出すときの前記再循環チャネルの入口での圧力差を、Tを前記インクの表面張力とし、wを前記再循環チャネルの幅とし、dを前記再循環チャネルの深さとするとき、T×[(2/w)+(2/d)]で算出される値以上にする、インクジェット印字ヘッド。
【請求項6】
非噴射中に前記インクジェット印字ヘッド内を前記インクが絶えず流れる、請求項5に記載の印字ヘッド。
【請求項7】
前記第1の多岐管には負の圧力がかけられ、前記第2の多岐管には低い負の圧力がかけられ、これにより、前記第1の多岐管と前記第2の多岐管の間に圧力差が生じる、請求項5に記載の印字ヘッド。
【請求項8】
前記第1の多岐管と前記第2の多岐管の間の前記圧力差が噴射中に維持される、請求項7に記載の印字ヘッド。
【請求項9】
印字ヘッド内の圧力を制御する方法であって、
所望の温度にインクを加熱するステップと、
前記インクが所望の温度に加熱されてから所定の時間後に、チャネルに接続する第1の多岐管に負の圧力をかけ、再循環チャネルに接続する第2の多岐管に低い負の圧力をかけるステップと、
前記所定の時間が経過した後、開口を通してインクを吐出するステップと、を含み、
気泡を前記再循環チャネルに押し出すときの前記再循環チャネルの入口での圧力差を、Tを前記インクの表面張力とし、wを前記再循環チャネルの幅とし、dを前記再循環チャネルの深さとするとき、T×[(2/w)+(2/d)]で算出される値以上にする、方法。
【請求項10】
前記インクの表面張力が27ダイン/cmで、前記第2の多岐管の前記圧力が3.6〜8.5水柱インチである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェット印字ヘッドに関し、より具体的には、印字ヘッド内でのインク流の再循環に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体インク印字ヘッドは、点滴供給システムまたはアンビリカル供給システムにより溶解インクが供給される容器を含む。印字ヘッドは、開口のアレイを有するノズルプレートに取り付けられる噴射要素のアレイも含み、その開口を通して、インクが吐出されて印刷面に画像が形成される。印字ヘッドの内部では、一連のチャネルや多岐管を通して容器から噴射要素とノズルプレートにインクが流れる。印字ヘッド内のこれらのチャネルや多岐管は、通常、束ねられて流体構造全体を形成する離散層の組み合わせにより形成される。
【0003】
通常動作中、ヒータを使用して、印字ヘッド内の固体インクが溶けたり液体になったりするよう印字ヘッドを加熱する。アイドリングの時間が長いときや電源が切れた後はヒータがオフになる。連動して印字ヘッドを冷却することで、印字ヘッド内のインクが凝固・収縮する。これにより、空気が印字ヘッド内のチャネルや多岐管に入り込む。その後電源がオンになると、流体構造体内でこの空気が気泡となって現れる。印字ヘッドが正しく動作するためには、印字ヘッド内部のチャネルや多岐管からこの空気を全て、あるいは、ほとんど全て取り除かなければならない。
【0004】
なお、「プリンタ」および「印字ヘッド」という用語は、プリンタ、ファクシミリ、フォトプリンタなどの一部として、印刷面にインクを生成する全ての構造体やシステムに適用される。
【0005】
従来の空気を除去するアプローチでは、システムが回収することができない、あるいは、再使用することができない無駄なインクが発生してしまう。例えば、あるアプローチでは、システムが、チャネルや多岐管に沿って気泡を運び、その気泡を搬送された場所からノズルプレートの一部ではない通気口を通して、印字ヘッドから排出し得る。別のアプローチでは、システムが噴射要素とその関連するノズルを通して空気が押し出される。さらに別のアプローチでは、システムが、噴射要素に関連しない、ノズルプレート内のベントやノズルを通して空気を押し込む。これらの各アプローチでは、気泡とベントや噴射要素との間に閉じ込められるインクも印字ヘッドから排出されてしまう。プリンタはこのインクは、プリンタによって簡単に回収することはできず無駄になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
省エネルギーへの要求がより厳しくなってきており、プリンタは現在よりも頻繁に電源を切ることが要求される。これに伴い、電源を切っている間、印字ヘッドに入り込む空気を取り除くパージサイクルの必要性も大きくなる。これにより無駄になるインクが増え、印字ヘッドが非効率的となり、ユーザコストが高くなり、顧客満足度が下がる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態では、複数の単一噴射要素を含むインクジェット印字ヘッドが開示され、各単一噴射要素が、噴射中にインクを吐出するよう構成される開口、およびインクを受け取るためのチャネルを含む。この印字ヘッドはまた、チャネルに接続する第1の多岐管構造体と、インクを受け取るためにチャネルに接続する複数の再循環チャネルであって、単一噴射要素と再循環経路のそれぞれの一部を形成する鋼材プレートのうちの1つにハーフエッチングを施すことにより形成される再循環チャネルと、この再循環チャネルに接続する第2の多岐管構造体と、を含む。噴射前の所定の時間の間に、第1の多岐管に負の圧力をかけ、第2の多岐管に低い負の圧力をかける。
【0008】
別の実施形態では、噴射要素を含むインクジェット印字ヘッドが開示される。この噴射要素は、噴射中インクを吐出するよう構成される開口、およびインクを受け取るためのチャネルを含む。インクジェット印字ヘッドは、チャネルにインクを供給する構造を有する第1の多岐管、および噴射中および非噴射中にインクを受け取るよう構成される再循環経路も含む。各再循環経路は、インクを受け取るためにチャネルに接続する再循環チャネルであって、単一噴射要素と再循環経路のそれぞれの一部を形成する鋼材プレートのうちの1つにハーフエッチングを施すことにより形成される再循環チャネルと、再循環チャネルからインクを受け取る構造を有する第2の多岐管とを含み、非噴射中に噴射要素と再循環経路を通って第1の多岐管から第2の多岐管にインクが流れる。
【0009】
別の実施形態では、印字ヘッド内の圧力を制御する方法が開示される。この方法には、インクを所望の温度に加熱するステップと、所望の温度に加熱されてから所定の時間の間に、チャネルに接続する第1の多岐管に負の圧力をかけ、かつ、再循環チャネルに接続する第2の多岐管に低い負の圧力をかけるステップと、所定の時間が経過した後、開口を通してインクを吐出するステップと、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、単一噴射要素の流体分配サブ組立体の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、固体インクが加熱された後に気泡が発生している状態の単一噴射要素を示す図である。
【
図3】
図3は、インクが内部で再循環している状態の単一噴射要素を示す図である。
【
図4】
図4は、気泡が取り除かれた状態で単一噴射要素がインクを吐出している様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
いくつかの流体分配組立体は、ローカル流体供給および流体分配サブ組立体を含むも。ローカル流体供給は、容器組立体内の1つ以上の容器チャンバ内に存在し得る。流体分配サブ組立体は、いくつかの構成要素を有して見ることができる。第1に、ドライバ要素は、流体をサブ組立体から排出させる圧電変換器などのトランデューサ、その上でトランデューサが動作する隔膜、および圧力チャンバを形成する本体プレートまたは複数のプレートにより構成される。第2に、入口要素は、多岐管から圧力チャンバに流体を誘導するチャネルで構成される。次に、出口要素は、圧力チャンバから開口に流体を誘導する。最終的に、開口自体が、流体を印字ヘッドから分配する。
【0012】
噴射積層体が流体分配サブ組立体として動作することにより、印字ヘッドは流体分配組立体の一例として機能する。この噴射積層体は、通常、1つに束ねられた一連のプレートで構成される。印字ヘッド/噴射積層体の例では、ドライバ、入口、出口、および開口の4つの構成要素の働きがより明らかとなる。入口により多岐管から圧力チャンバにインクが誘導され、出口により圧力チャンバから開口プレートにインクが誘導される。圧力チャンバ内のインクの上でドライバが動作し、これにより流体が開口プレートを通して噴射積層体から吐出される。噴射積層体の例では、開口により流体が噴射積層体に入れられ、最終的には印字ヘッドから吐出させる。
【0013】
本明細書で使用されるプリンタという用語は、トランデューサのある種の動作に応じて、流体の滴が1つの開口を通して押し出される、全てのタイプのドロップ・オン・ディマンド型イジェクタまたはシステムに適用される。これには、サーマルインクジェットプリンタなどのプリンタや有機電子回路製造、バイオアッセイ、3次元構造構築システムなどの用途に使用される印字ヘッドが含まれる。用語「印字ヘッド」は、プリンタに適用されることのみを意図せず、そのような制限を示唆しない。プリンタという用語には上記の例も含まれ、噴射積層体はプリンタの印字ヘッド内に存在する。
【0014】
開示する技術により、インク流経路内の気泡を取り除く際にインクが無駄になるという問題が解決される。
図1には、印字ヘッド内の噴射積層体の一例が示されている。この例では、1つに束ねられた一連のプレートで構成される噴射積層体100が、議論に用いられる。なお、これは単なる例であり、本明細書で記載される本発明の用途や実装形態を限定するものではない。さらに詳しく議論される通り、用語「プリンタ」および「印字ヘッド」には、あらゆる目的で流体を分配するシステム内の全てのシステムおよび構造体が含まれ得る。同様に、理解を容易にするために噴射積層体について議論されるが、全ての流体分配サブ組立体が関連し得る。流体分配サブ組立体または流体分配本体は、一連のプレート(本明細書で議論される)、好適なチャネルを有する型成形体、トランデューサ、開口、機械成形体などで構成され得る。実施形態のいくつの様態では、噴射積層体内にプレート以外に付加的な構造体が含まれるため、一連のプレートは流体分配サブ組立体内の流体分配本体と呼ばれ得る。
【0015】
上述した通り、噴射積層体100は、複数のプレート1000〜1024で構成される。複数のプレート1000〜1024は、それぞれステンレス鋼のプレートであることが好ましい。プレート1000には、噴射中にインクの吐出を容易にする圧電要素(図示せず)が取り付けられている。これらの複数のプレート1000〜1024により積層が形成されるとき、上流多岐管102、空気間隙104、下流多岐管106、粒子フィルタ108、チャネル110、および開口112が形成されるよう各プレート1000〜1024は化学的なエッチングが施される。
【0016】
噴射積層体の種々の構成要素を作成するために、これらの複数のプレート1000〜1024には、片面または両面で化学的なエッチングが施される。上述した通り、プレート1000〜1024が1つに積層されるとき、プレート1000〜1024の化学的なエッチングを施される部分により、噴射積層体の種々の構成要素が形成される。開口112は、プレート1024を貫通する穴である。チャネル110を形成するために、プレート1000〜1024がエッチングされる。しかし、再循環チャネル114を作成するために、プレート1022には片面だけエッチングが施されて、下流多岐管106に繋がる半エッチングチャネルが形成される。この再循環チャネル114は、全長が1.65mm〜4.445mm、幅が0.076mm〜0.152mm、深さが0.0381mm〜0.1016mmであることが好ましい。しかし、このチャネル114は、この長さ、幅、および深さには限定されず、各噴射要素に関して必要なサイズでよい。
【0017】
この噴射積層体は、容器(図示せず)から、粒子フィルタ108を有する上流多岐管102を通してインクを受け取る。流体は、粒子フィルタ108を通りチャネル110に流れる。このチャネル110により、開口112と再循環チャネル114に液体が誘導される。この粒子フィルタ108により、大きな粒子がチャネル110に流れ込み、開口112から吐出されること、あるいは、下流多岐管106に送られることを防ぐ。アクチュエータすなわちトランデューサ(図示せず)が起動すると、隔膜プレートが曲がり、これにより、インクが開口112から流れ出る。開口112から吐出されたインク滴により、印刷画像の一部が形成される。粒子フィルタ108、上流多岐管102、チャネル110、および開口112を含むインク経路の部分を「単一噴射要素」と呼ぶ。再循環経路は、再循環チャネル114および下流多岐管106で構成される。この再循環チャネル114は、チャネル110に接続する。
【0018】
アクチュエータすなわちトランデューサが起動しない場合、チャネル110内のインクは、開口112から吐出されることなく、再循環チャネル114と下流多岐管106に流れ込むが、これについては後程詳しく議論する。これにより、インクは吐出されることなく流れ続け、インクの停滞を防ぐことができる。
【0019】
非噴射中、チャネル110を通り、開口112と再循環チャネル114にインクが流れる。しかし、上述した通り、非噴射中は圧力が開口112内のインクのメニカスを破るのに十分でないため、その圧力により、インクは下流多岐管106に流れて再循環する。これにより、非噴射中にインクが吐出されないときでも、インクは上流多岐管102および下流多岐管106ならびに単一噴射要素200を通って流れ続けることができる。すなわち、非噴射中でも、インクは単一噴射要素200内を絶えず循環する。これにより、インクの停滞がなくなり、インク内で粒子が浮遊することを防ぐことができる。上流多岐管102と下流多岐管106の間に好適な圧力差が生じることにより、これが実現される。
【0020】
インクが開口112ではなくチャネル110の半エッチング部に流れるために必要な圧力の範囲は、流体の表面張力と粘度の関数である。この圧力差は、上流多岐管102と下流多岐管106の間の流れを維持するのに十分なだけ大きく、かつ、開口112のメニカスの破裂を防ぐのに十分なだけ低くなければならない。
【0021】
図2には、インク内に気泡が入り込んだ噴射積層体100の一部の例が示されており、この部分を流体構造体と呼ぶ。この流体構造体は、容器から1つ以上の噴射要素とそれらに関連するノズルに流体を搬送する全ての構造体で構成され得る。理解を容易にするために、ここでの議論では、印刷システム内の印字ヘッドに焦点を当てているが、本明細書の実施形態は、全ての流体構造体に適用可能である。特定の流体構造体に限定しないことが意図され、示唆されることはない。
【0022】
この例では、流体構造体が、チャネル110を含み、その中を流体206(すなわちインク)が流れる。いくつかの例では、容器に圧力がかけられ、これにより、流体がチャネル110を通って流体構造体100内の再循環チャネル114に流れる。
【0023】
上記で議論した通り、印字ヘッドの電源を切るサイクルの間に流体構造体に空気が入り込む可能性がある。なお、特定の環境では、通常動作中であっても、流体構造体内に空気が入り込む可能性がある。
【0024】
図2では、チャネル110内に閉じ込められた気泡(気泡202などの)を見ることができる。システムは、通常動作を行う前に、パージサイクルを用いてこれらの気泡を取り除かなければならない。システムが通常動作を行う前に気泡を取り除かなければ、これらの気泡により、流体構造体の動作に悪影響が及ぶ。現在の流体構造体では、これらの気泡は、通常、ノズルプレート外のベント、ノズルプレート内のベント、または噴射要素自体を通して直接外に押し出される。これらの各アプローチでは、気泡とベントまたは噴射要素との間に閉じ込められたインクも印字ヘッドから排出される。こういった無駄になったインクは、プリンタにより簡単に回収することはできない。
【0025】
上記に議論した通り、
図2には、チャネル110および再循環チャネル114内に気泡202が入り込んだ状態の単一噴射要素100の実施形態が示されている。また、単一噴射要素100は、開口112も含む。インクの噴射中、開口112を通ってインク206が吐出される。上記で議論した通り、噴射中にインク206内に気泡202が入り込んだ場合、噴射を行うことができない。
【0026】
図3には、再循環チャネル114内を移動する気泡が示され、これらの気泡は開口112から吐出されないでチャネル110から取り除かれる。非噴射中、インク206と気泡202は、矢印Aの方向に、チャネル110から単一噴射要素100の本体内を通って再循環チャネル114に流れる。インクが再循環して気泡202を取り除くと、開口112内のインクのメニカス116が維持される。したがって、この処理中に開口112からはインク206は吐出されない。再循環チャネル114からのインク206は、下流多岐管106に戻る。インク206は、気泡202のない状態で、上流多岐管102からチャネル110に拍出し続ける。
【0027】
所定の時間の間、インク206は、開口112から吐出されずに出口経路114に流れる。
図4に示される通り、所定の時間が経過した後、インク206は吐出され始める。
図4には、気泡202が取り除かれた後の単一噴射要素100が示されている。この時点で、インク206は開口112から吐出されて、インク滴300となり、このインク滴により印刷基材上に画像が形成される。
【0028】
上流多岐管102と下流多岐管106の間に圧力差が生じることにより、この再循環処理が行われる。噴射中、開口112での圧力は、出口経路114での圧力より低い。これにより、インクは開口112を通って印刷媒体上に吐出され得る。
【0029】
印刷動作が開始される前に、単一噴射要素100内のインク206が、印刷するための所望の温度に加熱される。上記で議論した通り、インク206は固化しているため、加熱すると、インク206内に気泡202が形成される。開口112を通してインクを吐出する前に、上流多岐管102に負の圧力をかけ、かつ、下流多岐管106に低い負の圧力をかける。所定の時間の間、インク206は、上流多岐管102から再循環チャネル114と下流多岐管106に流れる。上記で議論した通り、これにより、気泡202を取り除くことができる。所定の時間が経過した後、気泡202が存在しない状態で、開口112を通して噴射を行うことができる。噴射中、上流多岐管102と下流多岐管106の間の圧力差は維持され得る。一般に、噴射中、約1気圧の圧力をかけると、開口112内のインク206のメニカス116を破ることができる。この圧力は、バキューム、負の圧力ヘッドなどのあらゆる手段を用いてかけることができる。
【0030】
気泡を再循環チャネル114に押し出すために必要な圧力は、以下の式を用いて算出できる。:
【0032】
なお、「P」は圧力、「T」はインク202の表面張力、「w」はチャネルの幅、「d」はチャネルの深さを表す。再循環経路114に関する上記のチャネルの幅と深さを用いると、気泡を再循環経路に押し出すのに必要な圧力の範囲は、インク206の表面張力27ダイン/cmに基づいて、3.6インチ〜8.5水柱インチである。すなわち、再循環経路114の入口での圧力差は、上記の式(1)を用いて算出される圧力以上でなければならない。
【0033】
これにより、印刷の前に事前の吐出動作を行わないで、単一噴射要素100内でインクを再循環させて、気泡202を取り除くことができる。インク206は再循環して容器(図示せず)戻るため、インクを無駄にすることはない。気泡202が入り込んだインク206は、印刷中に容器に流れる際、閉塞を引き起こす心配がなく、気泡202を取り除こうとしている間にインク206が無駄にはならない。
【0034】
上記では単一噴射要素100について議論されているが、印字ヘッドは複数の単一噴射要素100を含む。各単一噴射要素100は、上記で議論した通り構成される。例えば、
図1に示される通り、さらに、各単一噴射要素100は、上流多岐管102と下流多岐管106に接続し、この下流多岐管がインク206を保持し、そこからインク206が単一噴射要素100内に拍出される。