(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明する。
前記一般式(1)で表される本発明の光学活性ビスホスフィノメタンにおいて、R
1はアダマンチル基である。
R
1がアダマンチル基であることで、前記光学活性ビスホスフィノメタンは、室温で固体の性状となり、これを配位子として用いた遷移金属錯体を不斉触媒として用いた場合に高いエナンチオ選択性を示す。
【0015】
前記一般式(1)のR
2は炭素数3以上の分岐アルキル基を示す。炭素数3以上の分岐アルキル基としては、例えば、iso−プロピル基、tert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基(「tert−オクチル基」と呼ばれることもある)等の炭素数3〜8の分岐アルキル基が挙げられる。本発明においては、R
2がtert−ブチル基であることが好ましい。
R
2が炭素数3以上の分岐アルキル基であることで、前記光学活性ビスホスフィノメタンを配位子として用いた遷移金属錯体は、不斉触媒として用いた場合に高い反応活性を示す。
【0016】
従来の光学活性ビスホスフィノメタンは、室温で液体乃至油状物の性状であるが、本発明の光学活性ビスホスフィノメタンは、室温で固体の性状であることも特徴の一つである。このため、発明の光学活性ビスホスフィノメタンは、取扱いが容易である。さらに、発明の光学活性ビスホスフィノメタンは、空気中での耐酸化性に優れていることも特徴の一つである。なお、室温で固体の性状であるとは、25℃における性状が固体であることを意味する。
【0017】
以下では、本発明に係る前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンの製造方法について説明する。
【0018】
本発明の製造方法では、前記一般式(2)で表されるホスフィンボランをリチオ化したリチオ化ホスフィンボランと、前記一般式(3)で表される光学活性ヒドロキシメチルホスフィンボランの水酸基を脱離可能な官能基に変換した前記一般式(4)で表される光学活性ホスフィンボラン誘導体をそれぞれ調製し、これらを反応させて光学活性ビスホスフィノメタンボランを得た後、脱ボラン化反応する。
【0019】
即ち、本発明の前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンの製造方法は、下記の3つの工程を有するものである。
(1)リチオ化ホスフィンボランの調製と、光学活性ホスフィンボラン誘導体の調製とを行う第1工程
(2)光学活性ビスホスフィノメタンボランを得る第2工程
(3)脱ボラン化反応を行う第3工程
【0020】
第1工程は、前記一般式(2)で表されるホスフィンボランをリチオ化したリチオ化ホスフィンボランの調製と、前記一般式(3)で表される光学活性ヒドロキシメチルホスフィンボランの水酸基を脱離可能な官能基に変換した、前記一般式(4)で表される光学活性ホスフィンボラン誘導体の調製を行う工程である。なお、これらの化合物を調製する順番は特に制限されない。
【0021】
前記一般式(2)で表されるホスフィンボランは、公知の方法によって製造することができる。例えば、特開2001−253889号公報、特開2003−300988号公報、特開2007−70310号公報、特開2010−138136号公報及びJ.Org.Chem,2000,vol.65,P4185−4188等に記載された方法が挙げられる。
【0022】
前記リチオ化ホスフィンボランの調製は、前記一般式(2)で表されるホスフィンボランを溶媒に溶解し、次いでリチオ化剤を添加して前記一般式(2)で表されるホスフィンボランをリチオ化することで行うことができる。
【0023】
前記一般式(2)で表されるホスフィンボランを溶解する溶媒は、前記一般式(2)で表されるホスフィンボラン及び該ホスフィンボランのリチオ化により生成されるリチオ化ホスフィンボランに対して不活性な溶媒であれば、特に制限なく用いることができる。そのような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン及びトルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0024】
前記リチオ化ホスフィンボランの調製において、溶媒中の前記一般式(2)で表されるホスフィンボランの濃度は1〜80質量%、好ましくは5〜30質量%とすることが、反応性及び生産性の観点から好ましい。
【0025】
前記リチオ化ホスフィンボランの調製で用いるリチオ化剤として、例えば、有機リチウム化合物が用いられる。有機リチウム化合物としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、sec−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びtert−ブチルリチウム等が挙げられる。これらのうち、適度な塩基性と十分な反応性の観点からn−ブチルリチウムが好ましい。
【0026】
前記リチオ化剤の添加量は、前記一般式(2)で表されるホスフィンボランに対して1.0〜1.5当量、好ましくは1.0〜1.2当量とすることが、経済性と反応性の観点から好ましい。
【0027】
前記リチオ化の温度は、−80〜50℃、好ましくは−20〜20℃とすることが、反応性と副反応の防止の観点から好ましい。
【0028】
前記一般式(2)で表されるホスフィンボランを含む液にリチオ化剤を添加することにより、リチオ化は速やかに行われるが、リチオ化の反応を完結させるため、必要に応じてリチオ化剤の添加終了後に引き続き熟成反応を行うことができる。
以上のようにして、前記リチオ化ホスフィンボランは溶液として調製されるが、単離することなく、そのまま又は必要に応じて溶液濃度を調整して第2工程に用いることができる。
【0029】
前記一般式(3)で表される光学活性ヒドロキシメチルホスフィンボランは、公知の方法によって製造することができる。例えば、ジアルキルメチルホスフィンボランをエナンチオ選択的に脱プロトン化し、次いで酸化を行う方法(特開2010−209008号公報等参照)等の方法が挙げられる。
【0030】
前記光学活性ホスフィンボラン誘導体の調製は、前記一般式(3)で表される光学活性ヒドロキシメチルホスフィンボランを溶媒に溶解し、次いで塩基及び水酸基の活性化剤を添加して反応を行い、水酸基を脱離可能な官能基に変換することで行うことができる。
【0031】
前記塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0.]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0.]ノン−5−エン、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、sec−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム及びtert−ブチルリチウム等が挙げられる。前記反応における塩基の使用量は、前記一般式(3)で表される光学活性ヒドロキシメチルホスフィンボランに対し、通常1〜3モル倍、好ましくは1〜2モル倍である。
【0032】
前記水酸基の活性化剤としては、例えば、メタンスルホニルクロリド、メタンスルホン酸無水物、p−トルエンスルホニルクロリド及びp−トルエンスルホン酸無水物等が挙げられる。前記反応における水酸基の活性化剤の使用量は、前記一般式(3)で表される光学活性ヒドロキシメチルホスフィンボランに対し、通常1〜5モル倍、好ましくは1〜2モル倍である。
【0033】
前記反応で使用する溶媒としては、反応に不活性なものなら特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン及びトルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0034】
前記反応の反応温度は、通常−80℃〜50℃、好ましくは−80℃〜30℃である。反応時間は、通常0.5時間以上、好ましくは1〜8時間である。
以上のようにして、前記一般式(4)で表される光学活性ホスフィンボラン誘導体は溶液として調製されるが、単離することなく、そのまま又は必要に応じて溶液濃度を調整して第2工程に用いることができる。
【0035】
第2工程は、前記リチオ化ホスフィンボランと光学活性ホスフィンボラン誘導体とを反応させ、下記一般式(5)で表される光学活性ビスホスフィノメタンボランを得る工程である。
【0036】
【化5】
(式中、R
1、R
2及び*は前記一般式(1)と同義。)
【0037】
前記反応は、前記第1工程で調製したリチオ化ホスフィンボラン溶液と前記一般式(4)で表される光学活性ホスフィンボラン誘導体溶液とを混合することにより行うことができる。混合方法は特に限定されないが、光学活性ホスフィンボラン誘導体溶液に、リチオ化ホスフィンボラン溶液を滴下して混合することが、反応の制御が容易であるため好ましい。
【0038】
前記反応は、前記一般式(4)で表される光学活性ホスフィンボラン誘導体に対する前記リチオ化ホスフィンボランのモル比が、0.5〜3.0、特に1.0〜1.5となる条件で行うことが、反応性及び経済性の観点から好ましい。
【0039】
前記反応の反応温度は、−80〜50℃、特に−80〜20℃とすることが、反応性と副反応の防止の観点から好ましい。反応時間は、通常0.5時間以上、好ましくは1〜8時間である。
【0040】
反応終了後、必要により分液洗浄、抽出、蒸留、脱溶媒、カラムクロマトグラフィー及び再結晶等の常法の精製を行って、前記一般式(5)で表される光学活性ビスホスフィノメタンボランを得ることができる。
【0041】
第3工程は、前記第2工程で得られた前記一般式(5)で表される光学活性ビスホスフィノメタンボランを、脱ボラン化剤により溶媒中で脱ボラン化反応させて、目的とする前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンを得る工程である。
【0042】
脱ボラン化剤としては、例えばN,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、トリエチレンジアミン(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、DABCO)、トリエチルアミン、HBF4及びトリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられるが、DABCOが好ましい。
【0043】
脱ボラン化反応における脱ボラン化剤の添加量は、前記一般式(5)で表される光学活性ビスホスフィノメタンボランに対して、通常2〜10当量であり、好ましく3〜5当量である。
【0044】
前記反応で使用する溶媒は、前記一般式(5)で表される光学活性ビスホスフィノメタンボランを溶解することができ、該ビスホスフィノメタンボラン及び生成する一般式(1)で表される光学活性スホスフィノメタンに対して不活性な溶媒であれば特に制限なく用いることができる。例えば、酢酸エチル、テトラヒドロキシフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン及びトルエン等が挙がられ、これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いることができる。
【0045】
脱ボラン化反応の反応温度は、好ましくは−20〜80℃、より好ましくは20〜80℃とすることが、反応速度と得られる目的物の純度の観点から好ましい。また、脱ボラン化反応の反応時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは1〜10時間である。
【0046】
脱ボラン化反応の終了後、必要により分液洗浄、抽出、晶析、蒸留、昇華及びカラムクロマトグラフィー等の常法の精製を行って、目的とする前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンを得ることができる。
【0047】
前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンは、配位子として、遷移金属と共に錯体を形成することができる。この遷移金属錯体は、不斉合成触媒として有用なものである。不斉合成としては、例えば、デヒドロアミノ酸などの不斉水素化反応、C−C結合やC−N結合を伴う不斉カップリング反応、不斉ヒドロシリル化反応、不斉辻・トロスト反応、エナンチオ選択的γ位ホウ素置換反応等の不斉ホウ素化反応等が挙げられる。
【0048】
不斉触媒により不斉反応を行う工程を含む有機化合物の合成において、公知の不斉触媒に代えて前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンを配位子とする遷移金属錯体を用いることにより、光学活性体を必要とする分野の医薬、農薬、電子材料又はそれらの中間体等の有機化合物を効率的に製造することができる。
【0049】
前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンと錯体を形成することができる遷移金属としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル、鉄及び銅等が挙げられる、これらの中でもロジウム及びパラジウムが好ましい。
【0050】
一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンを配位子としてロジウム金属と共に錯体を形成させる方法としては、例えば、実験化学講座、第4版(日本化学会編、丸善株式会社発行、第18巻、327〜353頁)に記載の方法が挙げられる。具体的には、一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンと、ビス(シクロオクタン−1,5−ジエン)ロジウムヘキサフルオロアンチモン酸塩又はビス(シクロオクタン−1,5−ジエン)ロジウムテトラフルオロホウ酸塩等とを反応させることにより、ロジウム錯体を製造することができる。
【0051】
一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンを配位子としてパラジウム金属と共に錯体を形成させる方法としては、例えば「Y.Uozumiand T.Hayashi,J.Am.Chem.Soc.,1991,113,9887.」に記載の方法が挙げられる。具体的には、一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンと、π−アリルパラジウムクロリドとを反応させることにより、パラジウム錯体を製造することができる。
【0052】
一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンを配位子とする遷移金属錯体は、特に不斉水素化反応の不斉触媒として好適に用いることができる。この場合の遷移金属としては、ロジウム、ルテニウム及びイリジウム等が挙げられる。これらの中でも、ロジウムが好ましい。
【0053】
また、前記不斉触媒が適用できる反応としては、公知の不斉水素化触媒を用いた反応が挙げられる(例えば、特開2010−208993号公報、特開2007−56007号公報、特開2000−319288号公報、特開2013−6787号公報、特開2012−17288号公報等参照)。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(合成例1)
<(R)−tert−ブチル(ヒドロキシメチル)メチルホスフィンボラン(3a)>
【0056】
【化6】
【0057】
三方コックとセプタムを装着した300mLの4口フラスコに、(S)−tert−ブチルメチルホスフィンボラン(5.90g、50mmol)と磁気撹拌子を入れ、真空引きとアルゴン導入を数回繰り返して系内をアルゴン置換した。脱水THF(100mL)を加えて(S)−tert−ブチルメチルホスフィンボランを溶解させた後、溶液を−80℃Cに冷却し、n−BuLi(1.57Mヘキサン溶液、35.0mL、55mmol)を5分間かけて滴下した。30分間撹拌後、パラホルムアルデヒド(4.50g、150mmol)を一挙に投入し、激しく攪拌しながら2時間かけて室温まで昇温した。飽和塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加えて反応を停止させ、混合物をtert−ブチルメチルエーテルで抽出した(50mL×2回)。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、ろ過、減圧濃縮した。残渣の白色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル/ヘキサン=1:3)で精製することにより、目的物を無色結晶として得た(6.74g、収率91%)。分析結果を以下に示す。
【0058】
mp 182−184℃(decomp.)
[α]D
27 −16.5(c1.0、AcOEt)
Rf=0.37(AcOEt/hexane=1:3)
1H−NMR(500MHz,CDCl
3) δ 0.05−0.075(br s,3H),1.21(d,J
HP=14.4Hz,9H),1.27(d,J
HP=10.3Hz,3H),2.02(br s,1H),3.95(d,J=13.2Hz,1H),4.05(d,J=13.2Hz,1H)
13C−NMR(125MHz,CDCl
3) δ 3.01(d,J
CP=34.6Hz),25.4,27.2(d,J
CP=32.2Hz),57.0(d,J
CP=37.0Hz)
31P−NMR(202MHz,CDCl
3) δ 28.2
【0059】
(実施例1)
以下のスキームに従って、(R)−ジ−1−アダマンチルホスフィノ(tert−ブチルメチルホスフィノ)メタン((R)−BulkyP*)を合成した。
【0060】
【化7】
【0061】
<第1工程>
三方コックとセプタムを装着した50mLの2口フラスコにジ−1−アダマンチルホスフィンボラン(1.581g、5mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して系内をアルゴン置換した。脱水THF(25mL)を加え、混合物を0℃に冷却し、n−BuLi(1.42Mヘキサン溶液、3.70mL、5.2mmol)を5分間かけて滴下した。滴下後、室温で30分間撹拌し、ジ−1−アダマンチルホスフィンボランのリチオ化物溶液(A液)を得た。
【0062】
三方コックとセプタムを装着した100mLの2口フラスコに(R)−tert−ブチル(メチル)ヒドロキシメチルホフィンボラン(740mg、5mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して系内をアルゴン置換した。脱水ジエチルエーテル(10mL)を加え、フラスコを−80℃の低温浴に浸し、マグネチックスターラーで撹拌しながらn−BuLi(1.42Mヘキサン溶液、3.70mL、5.25mmol)を5分間かけて滴下した。続いて、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.86mL、5.25mmol)をシリンジで約10分かけて加え、浴温を−30℃まで上げて1時間撹拌を続け、(R)−tert−ブチル(メチル)ヒドロキシメチルホフィンボランのトリフルオロメタンスルホン酸エステル溶液(B液)を得た。
【0063】
<第2工程>
A液及びB液が入った二つのフラスコをカンヌールで連結し、A液を、B液の入ったフラスコに、約20分かけて滴下しながら移し入れた。約2時間かけて浴温を−30℃から室温まで上げ、さらに同温度で終夜撹拌を続けた。
反応混合物中の溶媒をエバポレーターで除去し、残渣に水(20mL)を加えてよく撹拌した後、ガラスフィルター(4G)を用いて吸引ろ過した。固形物を水(5mL×2回)とメタノール(3mL×2回)で洗浄し、真空乾燥して白色粉末を得た(1.75g)。この粗生成物をカラムクロマトグラフィー(和光ゲルC300、110g、ジクロロメタン:ヘキサン=3:1)で精製することにより(R)−ボラナート(tert−ブチルメチルホスフィノ)ボラナート(ジ−1−アダマンチル)ホスフィノメタン(5a)を得た(1.20g、収率54%)。分析結果を以下に示す。
【0064】
mp ca.280℃。
[α]D
24=−8.0(c1.02、CDCl
3)
Rf=0.56(AcOEt/hexane=1:5)
1H−NMR(500MHz、CDCl
3) δ 0.2−1.0(br m,6H),1.23(d,
3J
HP=13.8Hz,9H),1.57(d,
2J
HP=10.3Hz,3H),1.70−1.80(m,12H),1.82−1.90(m,2H),1.97−2.18(m,18H)
13C−NMR(125MHz,CDCl
3) δ 6.1(dd,J
CP=20.9,14.9Hz),6.6(d,J
CP=32.2Hz),25.3,28.1−28.2(m),30.1(d,J
CP=35.8Hz),36.4,36.5,37.6,37.8,37.9,38.9(d,J
CP=22.7Hz)
31P−NMR(200MHz,CDCl
3) δ 32.6,40.9
<第3工程>
三方コックとセプタムを装着した10mLの2口フラスコに(R)−ボラナート(tert−ブチルメチルホスフィノ)ボラナート(ジ−1−アダマンチル)ホスフィノメタン(223mg、0.5mmol)とDABCO(337mg、3mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して系内をアルゴン置換した。脱気トルエン(2.5mL)を加えた後、フラスコを80℃の油浴に浸し、マグネチックスターラーで撹拌しながら3時間反応させた。その後、フラスコを直接エバポレーターに連結して溶媒を除去した。メタノール4mLを加えて約10分間よく撹拌した後、固形物を3Gガラスフィルター上にろ取し、メタノール(3mL×2回)で洗浄した。さらに、酢酸エチルで洗浄(2mL×2回)した後、真空乾燥することにより(R)−ジ−1−アダマンチルホスフィノ(tert−ブチルメチルホスフィノ)メタン((R)−BulkyP*)を白色粉末として得た(195mg、収率93%)。分析結果を以下に示す。
【0065】
mp ca.265℃
Rf=0.85(AcOEt/hexane=1:5)
1H−NMR(500MHz,CDCl
3) δ 1.02(d,
2J
HP=3.5Hz,3H),1.06(d,
3J
HP=11.5Hz,9H),1,55−1.62(m,2H),1.68−1.73(m,12H),1.82−1.87(m,6H),1.92−1.99(m,12H)
13C−NMR(125MHz,CDCl
3) δ 7.1(dd,J=19.5,6.6Hz),11.4(dd,J=31.0,22.7Hz),26.6(d,J=13.1Hz),28.1(m),28.7(m),36.2(m),36.7(m),37.1,40.9(d,J=10.7Hz),41.3(dd,J=9.6,3.6Hz)
31P−NMR(202MHz,CDCl
3) δ −13.2(d,J
PP=114Hz),13.5(d,J
PP=114Hz)
【0066】
上記で得られた(R)−BulkyP*の白色粉末を、空気中に25℃で24時間放置した後、再度
1H−、
13C−及び
31P−NMR測定を行って確認したが、不純物は観測されず、(R)−BulkyP*は空気中で安定であった。
【0067】
(実施例2)
以下のスキームに従って、(R)−BulkyP*のロジウム錯体を合成した。
【0068】
【化8】
【0069】
三方コックとセプタムを装着した20mLの2口フラスコに[Rh(cod)
2]SbF
6(111mg、0.20mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して系内をアルゴン置換した後、脱気ジクロロメタン(6mL)を加えて溶解させた。これとは別に、三方コックとセプタムを装着した10mLの2口フラスコに(R)−BulkyP*(92mg、0.22mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して系内をアルゴン置換した後、脱気THF(2mL)を加えて溶解させた。この溶液をシリンジで抜き取り、先に調製した[Rh(cod)
2]SbF
6のジクロロメタン溶液に、よく撹拌しながら約10分かけて滴下した。1時間後、エバポレーターで溶媒を除去し、残渣に酢酸エチル1.5mLを加えて内容物をよくかき混ぜた。析出した橙色沈殿をろ取し、酢酸エチルで洗浄し(0.5mL×3)、真空乾燥した(151mg、87%)。
得られた生成物をアルゴン雰囲気下でジクロロメタン(0.50mL)に溶解し、この溶液にシリンジで酢酸エチル2.0mLを一挙に加えた。得られた均一溶液を冷蔵庫中で冷却し、析出した結晶をろ取し、ジクロロメタン/酢酸エチル(1:4)の混合溶媒で洗浄後、真空乾燥することにより橙色結晶の(R)−BulkyP*のロジウム錯体を得た(123mg、収率71%)。分析結果を以下に示す。
【0070】
mp 230℃(decomp.)
1H−NMR(500MHz,CDCl
3) δ 1.18(d,
3J
HP=15.5Hz,9H),1.71(d,
2J
HP=8.6Hz,3H),1.73−2.20(m,30H),2.20−2.33(m,4H),2.38−2.54(m,4H),3.15−3.30(m,2H),5.07(br s,1H),5.11(br s,1H),5.69(br s,1H),5.79(br s,1H)
13C−NMR(125MHz,CDCl
3) δ 9.3(d,J=20.3Hz),25.9(t,J=18.5Hz),26.6(d,J=3.6Hz),28.3(d,J=8.4Hz),28.4(d,J=8.4Hz),28.9,29.1,30.9,31.6,33.2(dd,J=17.3,4.1Hz),36.3,36.4,40.4,40.8,41.3(d,J=4.8Hz),43.4,91.0(m),91.7(m),97.4(m),100.7(m)
31P−NMR(202MHz,CDCl
3) δ −14.6(dd,J
PP=124Hz,J
PRh=53Hz),−30.5(br d,J
PP=124Hz)
【0071】
(実施例3−1〜3−12)
<不斉水素化反応>
100mLの耐圧反応管に、実施例2で調製した(R)−BulkyP*のロジウム錯体(0.005mmol、4.3mg)、以下の式(a1)に示す基質を0.5mmol仕込んだ。反応管はステンレス製のチューブで水素ガスタンクに接続した。水素ガスで5回反応管を置換した後、1気圧の水素ガス(ジャパンファインプロダクツ製、99.99999%)を充填した。シリンジを用いて脱ガスした3mLのメタノールを耐圧反応管に添加した。次いで反応管内の水素ガスの圧力を3気圧にした(実施例3−5は1気圧)。表1に示す反応時間撹拌して水素化反応を実施した後、反応管に残存する水素を放出し、反応液をエバポレーターで濃縮して残渣を得た。残渣をフラッシュクロマトグラフィーで精製し(SiO
2、酢酸エチル/ヘキサン、3:1)、式(a2)で表される生成物を得た。生成物の絶対配置及びee値は、保持時間と既報値との比較から決定した。結果を表1に示す。
なお、反応中、1価のロジウムイオンに(R)−BulkyP*が1:1で配位している金属錯体が形成されていることを、
1H、
13C、及び
31Pの各NMR測定により確認した。
【0072】
【化9】
【0073】
【表1】
1)圧力は1気圧。
(式中、Meはメチル基、Phはフェニル基、Acはアセチル基である。)
【0074】
(実施例4−1〜4−3)
<不斉水素化反応>
100mLの耐圧反応管に、実施例2で調製した(R)−BulkyP*のロジウム錯体(0.005mmol、4.3mg)、以下の式(a3)に示す基質を0.5mmol仕込み、実施例3−1〜3−12と同様にして式(a4)で表される生成物を得た。生成物の絶対配置及びee値は、保持時間と既報値との比較から決定した。結果を表2に示す。
なお、反応中、1価のロジウムイオンに(R)−BulkyP*が1:1で配位している金属錯体が形成されていることを
1H、
13C、及び
31Pの各NMR測定により確認した。
【0075】
【化10】
【0076】
【表2】
【0077】
表1及び表2に示したように、前記一般式(1)で表される光学活性ビスホスフィノメタンを配位子とする遷移金属触媒は、不斉水素化反応において高いエナンチオ選択性を示すことが分かる。