(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記製造は、以下の製造工程、すなわち、前記基板を予熱する工程、前記ワークピースを冷却する工程、及び、その後に前記ワークピースに対する機械的拘束を解除する工程のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項1に記載の方法。
前記熱源を用いる前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中に、前記有限要素解析による応力分析情報を用いて、除去を必要とする局所的な応力集中部を特定する工程をさらに含む、請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
製造中及び製造後に前記ワークピースに絶縁を施すことによって、前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中における、前記基板及び前記堆積材料からの熱損失を最小限に抑える工程をさらに含む、請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法。
前記ワークピースに放射反射を行うことによって、前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中における、前記基板及び前記堆積材料からの熱損失を最小限に抑える工程をさらに含む、請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法。
前記材料の堆積の前に前記基板を予熱することによって、前記ワークピースと前記基板との間の温度勾配を最小限に抑える工程をさらに含む、請求項1〜19のいずれか1つに記載の方法。
クラックの発生又は他の製造上の欠陥を最小限に抑制又は回避すべく、部品が冷める際の重大な応力の変化に応じて制御下でクランプ力を低減することによって、前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中において機械的境界条件を制御する工程をさらに含む、請求項1〜20のいずれか1つに記載の方法。
前記金属合金は、チタン、アルミニウム、ニッケル、バナジウム、タンタル、銅、スカンジウム、ホウ素、又は、マグネシウムのうちの任意の1つ又は複数を含む、請求項22に記載の方法。
熱源と、ワイヤ供給装置と、材料堆積が行われる基板を支持するための作業テーブルと、前記熱源、ワイヤ供給装置、及び作業テーブルの相対移動を実現するための移動機構と、前記熱源、ワイヤ供給装置、作業テーブル、及び移動機構を収容する真空チャンバと、
前記熱源、ワイヤ供給装置、作業テーブル、及び移動機構の動作を制御するための制御装置であって、ワークピースの平均温度が、材料層の逐次的堆積作業の合間に10%低下しないようにすることで、製造中における前記基板および堆積材料からの熱損失を最小限に抑えるように構成された制御装置と、
コンピュータシステムと、を含んでなり、前記コンピュータシステムは、
有限要素解析アプリケーションモジュール用のコンピュータ可読コードを格納するためのメインメモリと、
前記メインメモリに接続された少なくとも1つのプロセッサとを含み、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記メインメモリ内の前記コンピュータ可読コードを実行することによって、前記アプリケーションモジュールに、製造前及び製造中に前記ワークピースの有限要素熱‐機械モデルでの有限要素解析を行わせることによって、前記ワークピースにおける形状歪み及び/又は残留応力成長を予測するように構成されている、ワークピース製造のための付加製造装置。
【発明の概要】
【0006】
一側面において、ワークピースの歪みを最小限にする方法が提供される。当該方法は、コンピュータシステムにおいて、付加製造による製造中及び製造後に、前記ワークピースの有限要素熱‐機械モデルで有限要素解析を行うことによって、前記ワークピースにおける形状歪み及び残留応力成長を予測し、前記製造は、熱源によって溶融された材料の複数の層を基板上の堆積経路に沿って堆積させる製造工程を含み、製造前又は製造中に、前記ワークピースに対する変更を導入することによって、前記予測された歪みを補償する。
【0007】
1つ又は複数の実施形態において、前記製造は、以下の製造工程、すなわち、前記基板を予熱する工程、前記ワークピースを冷却する工程、及び、その後に前記ワークピースに対する機械的拘束を解除する工程のうちの1つ又は複数をさらに含む。
【0008】
前記熱源は、電子ビーム、溶接アーク、プラズマアーク、又はレーザービームのうちの1つ又は複数を含みうる。
【0009】
1つ又は複数の実施形態において、前記変更は、前記基板のジオメトリ及び前記堆積経路のうちの1つ又は複数に対して行われる。
【0010】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、前記基板、前記堆積材料、及び、前記基板を支持する作業テーブルのうちの1つ又は複数における熱伝導をモデル化するための熱伝導要素を含む。
【0011】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、前記ワークピースから外部への熱移動をモデル化するための熱移動要素を含む。
【0012】
前記熱移動要素は、前記ワークピースの熱放射による熱移動をモデル化しうる。
【0013】
例えば、前記熱移動要素は、次式:
【数1】
によって熱移動をモデル化し、ここで、qは熱流束であり、Tは温度であり、T
ambは周
囲温度であり、εは表面放射率であり、σはステファン・ボルツマン定数である。
【0014】
前記熱移動要素は、前記ワークピースの伝熱による熱移動を付加的にモデル化しうる。
【0015】
例えば、前記熱移動要素は、次式:
【数2】
によって熱移動をモデル化し、ここで、qは熱流束であり、Tは温度であり、T
ambは周
囲温度である。
【0016】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、フックの法則、ヤング率、ポアソン比、及び、前記材料の熱膨張係数を用いる弾性変形要素を含みうる。
【0017】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、フォン・ミーゼスの条件に従う降伏挙動要素を含む。
【0018】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、経験的に導出される温度依存性流動応力データに従う降伏挙動要素を含む。
【0019】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、液相温度、あるいは、少量の過熱を伴った、液相温度よりわずかに高い温度における材料の堆積をモデル化する材料堆積要素を含む。
【0020】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、固化要素を含む。
【0021】
1つ又は複数の実施形態において、前記モデルは、材料を溶融するためのエネルギー/熱源の付与による材料の堆積をモデル化する材料堆積要素を含む。
【0022】
1つ又は複数の実施形態において、前記方法は、前記熱源を用いる前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中に、前記有限要素解析による応力分析情報を用いて、除去を必要とする局所的な応力集中部を特定する工程をさらに含む。
【0023】
1つ又は複数の実施形態において、前記方法は、材料層の逐次的堆積作業の合間にワークピースを冷却しないことによって、前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中における、前記基板及び前記堆積材料からの熱損失を最小限に抑える工程をさらに含む。
【0024】
例えば、前記ワークピースの平均温度が、材料層の逐次的堆積作業の合間に10%低下しないようにする。
【0025】
1つ又は複数の実施形態において、前記方法は、製造中に前記ワークピースに絶縁を施すことによって、前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中における、前記基板及び前記堆積材料からの熱損失を最小限に抑える工程をさらに含む。
【0026】
1つ又は複数の実施形態において、前記ワークピースに放射反射を行うことによって、前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中における、前記基板及び前記堆積材料からの熱損失を最小限に抑える工程をさらに含む。
【0027】
1つ又は複数の実施形態において、前記方法は、前記材料の堆積の前に前記基板を予熱することによって、前記ワークピースと前記基板との間の温度勾配を最小限に抑える工程をさらに含む。
【0028】
1つ又は複数の実施形態において、前記方法は、クラックの発生又は他の製造上の欠陥を最小限に抑制又は回避すべく、部品が冷める際の重大な応力の変化に応じて制御下でクランプ力を低減することによって、前記製造工程のうちの1つ又は複数の最中において機械的境界条件を制御する工程をさらに含む。
【0029】
1つ又は複数の実施形態において、前記材料は、金属又は金属合金である。
【0030】
1つ又は複数の実施形態において、前記金属合金は、チタン、アルミニウム、ニッケル、バナジウム、タンタル、銅、スカンジウム、ホウ素、又は、マグネシウムのうちの任意の1つ又は複数を含む。
【0031】
例えば、前記金属合金は、チタン合金Ti−6Al−4Vである。
【0032】
別の側面において、ワークピースの歪みを予測するための、コンピュータ実施方法が提供される。当該方法は、コンピュータシステムにおいて、付加製造による製造中及び製造後に、前記ワークピースの有限要素熱‐機械モデルで有限要素解析を行うことによって、前記ワークピースにおける形状歪み及び残留応力成長を予測し、前記製造は、熱源によって溶融された材料の複数の層を基板上の堆積経路に沿って堆積させる製造工程を含む。
【0033】
さらに別の側面において、上述したようなコンピュータ実施方法をプロセッサに実行させる一連の命令をエンコードしている、非一時的なコンピュータ可読媒体が提供される。
【0034】
さらに別の側面bにおいて、付加製造装置が提供される。当該装置は、熱源と、ワイヤ供給装置と、材料堆積が行われる基板を支持するための作業テーブルと、前記熱源、ワイ
ヤ供給装置、及び作業テーブルの相対移動を実現するための移動機構と、前記熱源、ワイヤ供給装置、作業テーブル、及び移動機構を収容する真空チャンバと、
前記熱源、ワイヤ供給装置、作業テーブル、及び移動機構の動作を制御するととともに、上述の方法を実行するための制御装置と、を含む。
【0035】
別の側面によれば、付加製造によって製造されたワークピースの歪みを予測するためのシステムが提供される。前記製造は、熱源によって溶融された材料を、基板上の堆積経路に沿って堆積させることを含み、前記システムは、有限要素解析アプリケーションモジュール用のコンピュータ可読コードを格納するためのメインメモリと、前記メインメモリに接続された少なくとも1つのプロセッサとを含み、前記少なくとも1つのプロセッサは、前記メインメモリ内の前記コンピュータ可読コードを実行することによって、前記アプリケーションモジュールに、製造前及び製造中に前記ワークピースの有限要素熱‐機械モデルでの有限要素解析を行わせることによって、前記ワークピースにおける形状歪み及び/又は残留応力成長を予測する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
以下の説明は、様々な実施形態をより詳細に述べる。理解を容易にするために、説明において、特定の実施形態が図示されている添付図面を参照する。なお、図面に示した好ましい実施形態は、限定的なものとして解釈されるべきではない。図面において、
【0037】
【
図1】電子ビーム直接製造装置の複数の要素を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した電子ビーム直接製造装置の駆動及び制御に用いられるサーボ機構及び制御システムの概略図である。
【
図3】
図1に示した装置によって製造されるワークピースの歪みを予測するため、そして、任意の構成として、
図1に示した装置によって製造されるワークピースの歪みを最小限に抑えるべく、
図2に示した制御システムにデータを提供するための、例示的なコンピュータシステムの選択されたコンポーネントを示す機能図である。
【
図4】
図3のコンピュータシステムのソフトウェアモジュールへのデータ入力、ソフトウェアモジュールによって当該データに適用される有限要素解析(FEA)モデル、ならびに、ソフトウェアモジュールによって生成される予測応力及び歪みのデータ及びワークピース変更データの概略図である。
【
図5-6】
図3のコンピュータシステムのソフトウェアモジュールに入力されるデータの一部を形成するブリック要素を用いてメッシュ化されたワークピースのジオメトリの2つの例を示す。
【
図7-8】
図5及び
図6に示した基板及びワークピースの堆積材料の熱伝導率及び比熱容量の温度依存グラフであり、当該グラフは、
図3のコンピュータシステムのソフトウェアモジュールの一部を形成する有限要素解析(FEA)モデルの熱伝導要素に含まれる。
【
図9-10】
図5及び
図6に示した基板及びワークピースの堆積材料のヤング率及び熱膨張係数の温度依存グラフであり、当該グラフは、
図3のコンピュータシステムのソフトウェアモジュールの一部を形成する有限要素解析(FEA)モデルの弾性変形要素に含まれる。
【
図11】
図5及び
図6に示した基板及びワークピースの堆積材料の経験的に導出された温度依存性流動応力データのグラフであり、当該グラフは、
図3のコンピュータシステムのソフトウェアモジュールの一部を形成する有限要素解析(FEA)モデルの降伏挙動要素に含まれる。
【
図12】それぞれ、
図1の装置によって製造されたT字形部品及び十字形部品の概略図示である。
【
図13(a)】
図12に示したワークピースの通常の残留応力測定のためのレイアウトを示す図である。
【
図13(b)-(c)】
図13(a)に示したレイアウトを用いて行われた残留応力測定点の位置を示す図である。
【
図14】造形堆積の完了時、冷却後、
図1の装置によって製造された例示的なT字形ワークピースをクランプから解放した後、のそれぞれのフォン・ミーゼス応力の予測変化を表す3つの「ヒートマップ」を示す。
【
図15】
図3のコンピュータシステムによって行われたモデリングによって予測され、「ヒートマップ」として表された(且つ
図14に示された)造形後の歪みと、実験的な造形で測定され、造形体の画像によって表された造形後の歪みとの比較を示す。
【
図16】造形体の完了時、冷却後、(c)例示的なX字形ワークピースを解放した後、のそれぞれのフォン・ミーゼス応力の予測変化を表す3つの「ヒートマップ」を示す。
【
図17】
図3のコンピュータシステムによって行われたモデリングによって予測され、「ヒートマップ」として表された(且つ
図116に示された)造形後の歪みと、対応する実験的な造形で測定され、造形体の画像によって表された造形後の歪みとの比較を示す。
【
図18】温度の関数として表した、ジョンソン・クックモデル対収集実験データの流動応力のグラフを示す。
【
図19】中性子回折によって測定された長手方向の残留応力の「ヒートマップ」、ならびに、ジョンソン・クックモデル及び更新された材料モデルに基づいて予測された、残留応力の「ヒートマップ」を示す。
【
図20】実験的な造形体で測定された造形後の歪みの画像、ならびに、
図3のコンピュータシステムによって行われたモデリングによって予測された造形後の歪みの「ヒートマップ」を示す。
【
図21】実験検証のために出願人によって考察された、選択された実験計画法結果についての歪みの変化のグラフを示す。
【
図22】予備湾曲基板上に造形されるT字形部品の、造形の終了時における、予測による温度及びフォン・ミーゼス応力の分布をそれぞれ表す「ヒートマップ」を示す。
【
図23】冷却後、ならびに、クランプからの解放後の、予備湾曲基板を用いた造形体におけるフォン・ミーゼス応力の予測変化を表す「ヒートマップ」を示す。
【
図24】モデリングによって予測された、「ヒートマップ」として示す造形後の歪みと、画像に示した、これに対応する実験的な造形体で測定された造形後の歪みとの比較を示す。
【
図25】
図3のコンピュータシステムのソフトウェアモジュールに入力されるデータの一部を形成するブリック要素を用いてメッシュ化されたワークピースのジオメトリの第3の例を示す。
【
図26-28】予測歪みに対して補償を行わない場合の、様々な製造工程中の、
図25の予測ワークピースジオメトリを表す「ヒートマップ」を示す。
【
図29-31】予測歪みに対して補償を行う場合の、様々な製造工程中の、
図25の予測ワークピースジオメトリを表す「ヒートマップ」を示す。
【
図32】歪み補償変更を導入しなかった場合の
図25のワークピースジオメトリの予測歪みを表す「ヒートマップ」474、製造されたワークピースの画像、及び、モデルに歪み補償変更を導入した場合のモデル予測歪みを表す「ヒートマップ」を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
まず
図1を参照すると、同図には、付加製造によってワークピースを製造する際に用いられる電子ビーム自由形状造形(electron beam freeform fabrication:EBFFF)装置10
のうちの選択された要素が、概略的に示されている。装置10は、特に、電子ビーム14を生成する電子ビームガン12を含み、電子ビームガンは、電子ビームによって生成及び維持された溶融池に、ワイヤ供給装置から供給された金属ワイヤ材料16を溶融する働きを行う。電子ビームガン12及びワイヤ供給装置18は、相対的に固定位置に保持される
一方で、Y軸及びZ軸に沿って移動可能である。装置10は、金属基板22を支持するように構成されたテーブル20をさらに含み、当該金属基板上に、電子ビームガン12及びワイヤ供給装置18の動作によって、金属合金24の層が順次堆積される。テーブル20は、X軸に沿って変位可能である。使用の際には、電子ビームガン12/ワイヤ供給装置18を、テーブル20に対して変位させて、溶融合金のトラックを順次積層する。溶融合金は、堆積後に再固化して所望の材料層を形成する。
【0039】
図2は、密閉コンテナー、あるいは、真空環境を維持可能な真空チャンバ50に収容された電子ビームガン12を示している。電子ビームガン12は、電子ビーム14を生成して真空環境内に照射し、電子ビーム14を基板22に誘導するように構成されている。
図1に示した構成において、基板22は、テーブル又は可動プラットフォーム20上に配置されている。ガン12の一部を、チャンバ50の外部に位置させて、ガンに対するアクセス及び電気接続性を確保してもよい。これに代えて、電子ビームガン12全体をチャンバ50内に収容し、基板22だけでなく電子ビームガンも移動させるようにしてもよい。いずれの場合も、電子ビームガン12は、基板22に対して移動する。
【0040】
プラットフォーム20及び/又は電子ビームガン12は、多軸位置決め駆動システム25を介して移動可能とすることができる。当該システムは、
図1において、簡略化のためにボックスとして概略的に示している。溶融池29を徐々に形成し、これを冷却して層24にすることによって、複雑な物体又は3次元(3D)の物体が、基板20上に形成される。溶融池29は、アルミニウムやチタンなどの適当な金属から形成された消耗ワイヤ16を、電子ビーム14を用いて溶融することによって、形成される。ワイヤ16は、通常、スプール又は速度制御可能な他の適当な送給機構を含むワイヤ供給装置18から、溶融池に供給される。
【0041】
図1及び
図2に示した装置10は、装置10を用いて行われるEBFFFプロセスを制御するように構成されたホストマシン32及びアルゴリズム100を有する閉ループ制御装置(c)30をさらに含む。制御装置30は、メインプロセスコントローラ34と電気的に接続され且つこれと通信可能となっており、当該メインプロセスコントローラは、電子ビームガン12、ワイヤ供給装置18、並びに、基板22及びガン12を配置する任意の必要なモータ(図示せず)に、必要なコマンドを、一組の最終制御パラメータ11Fを含め、送信するように構成されている。制御装置30は、以下に説明するように、最終制御パラメータ11Fを修正するための一組の入力パラメータ11を生成し送信する。
【0042】
一実施形態においては、ワイヤ16は、電子ビーム14によって約1600℃以上に溶融されると、コンピュータ支援設計(CAD)データ又は他の3D設計ファイルなどの一組の設計データ19に従って、精密且つ徐々に、層状に順次堆積される。このようにして、3次元構造部品または他の複雑な物体を、鋳造用ダイやモールドを用いずに、付加方式で作製することができる。
【0043】
図3は、1つ又は複数の実施形態で使用される例示的なコンピュータシステム200を示している。当該システムは、特に、装置10によって製造されるワークピースに起こり易い歪みを予測し、様々な実施形態の制御装置30にデータを提供して、予測された歪みを補償すべくワークピースに変更を加えることを可能とするために使用される。コンピュータシステムは、プロセッサ202などの1つ又は複数のプロセッサを含み、プロセッサ202は、コンピュータシステム内部通信バス204に接続されている。
【0044】
コンピュータシステム200は、メインメモリ206、好ましくはランダムアクセスメモリを含み、さらに、補助メモリ208を含む。補助メモリ208は、例えば、1つ又は複数のハードディスクドライブ210、及び/又は、1つ又は複数のリムーバブルストレ
ージドライブ212を含みうる。リムーバブルストレージドライブ212は、周知の方法で、リムーバブル記憶装置214に対する読出し及び書き込みを行う。なお、リムーバブル記憶装置214は、コンピュータソフトウェア及び/又はデータを格納したコンピュータ使用可能記憶媒体を含む。
【0045】
代替の実施形態において、補助メモリ208は、コンピュータプログラム又は他の命令をコンピュータシステム200にロードすることを可能とする他の同様の手段を含んでいてもよい。このような手段には、例えば、リムーバブル記憶装置216及びインターフェイス218が含まれる。この例には、EPROM、USBフラッシュメモリなどのリムーバブルメモリチップならびに関連するソケット、または、ソフトウェア及びデータをリムーバブル記憶装置216からコンピュータシステム200に転送することを可能とする他のリムーバブル記憶装置及びインターフェイスが含まれる。コンピュータシステム200は、バス204に接続する通信インターフェイス220をさらに含む。通信インターフェイスは、さらに、コンピュータシステム200によるモニタ、キーボード、マウス、プリンタ、スキャナ、プロッタ等へのアクセスを実現する入出力インターフェイス222も含む。
【0046】
様々な機能を実行させるための一連の命令の形態のコンピュータプログラムは、メインメモリ206内のアプリケーションモジュール224及び/又は補助メモリ208に格納される。コンピュータプログラムを、通信インターフェイス220を介して受信してもよい。このようなコンピュータプログラムが実行されると、コンピュータシステム200が本明細書に記載の特徴を実行し機能を実現することが可能となる。特に、コンピュータプログラムが実行されると、これによって、プロセッサ202が、本明細書に記載の特徴を実行することが可能となる。
【0047】
一実施形態において、アプリケーションモジュール224は、付加製造による製造前及び製造中に、ワークピースの有限要素熱‐機械モデル(finite element thermo-mechanical model)で有限要素解析を行うことによって、ワークピースにおける形状歪み及び/又は残留応力進行を予測するように構成されている。1つ又は複数の実施形態において、アプリケーションモジュール224は、さらに、製造前又は製造中に、ワークピースに対して行うべき変更を決定することによって、予測された歪みを補償するように構成されている。また、モジュール224は、製造されるワークピースの有限要素熱‐機械モデルを格納する。
【0048】
図4は、コンピュータシステム200のモジュール224に対するデータ入力、モジュール224によって当該データに適用される有限要素解析(FEA)モデル、ならびに、モジュール224によって生成される予測の応力及び歪みデータ及びワークピース変更データの概略図である。装置10によって製造されるワークピースの形状歪み及び/又は残留応力成長の予測は、付加製造プロセスの前、プロセス中、及びプロセスの完了時における、ワークピースの3Dジオメトリ248の入力に依存する。ジオメトリ入力250に加えて、様々な製造工程及び条件252を規定するパラメータが、モジュール224に与えられる。
【0049】
次に、FEAモデル254を用いて、有限要素解析を行うとともに、製造プロセス中にワークピースに発生し易いと予測される応力及び歪み256を決定する。FEAモデル254は、一連の要素を含んでおり、ここではこれらに260〜268という符号を付している。これらの要素によって、FEAモデル254は、ワークピースで発生している関連する現象を考慮に入れることが可能となる。モデル要素260〜268によって、ワークピースの完成造形体をシミュレートするための過渡的な熱機械分析を、実際の造形のすべての標準的な工程中に行うことが可能となる。1つ又は複数の実施形態において、これら
の標準工程は、基板の予熱、電子ビーム又は他の熱/エネルギー源によって溶融された材料の堆積、造形後のワークピースの冷却、及び、その後の機械的拘束解除後の変形を含む。
【0050】
予測歪み256は、入力ジオメトリと比較される。この比較258において、予測歪みが所定の許容範囲内であることがわかると、当該入力ジオメトリ250の制御装置30に対する出力262が行われる。一方、予測歪みが所定の許容範囲より大きい場合、変更260を行って入力ジオメトリ250を更新し、製造されるワークピースに予測歪みに対する補償が含まれるようにする。
【0051】
製造前、製造中、及び、製造後のワークピースのジオメトリは、複数節点ブリック要素(multi-node brick elements)を用いてメッシュ化される。
図5及び
図6は、線形8節
点ブリック要素を用いてメッシュ化されたT字型ジオメトリの例300及び302を示している。通常、各ワークピースは、約10,000〜30,000個の要素を有しうる。ただし、要素の数は、必要に応じた数とすればよい。ワークピース及び造形プロセスに左右対称が存在する場合、ワークピースの半分のみをモデル化すればよい(
図5)。そうでない場合は、ワークピースのジオメトリ全体がモデル化される(
図6)。ワークピースの造形前の、基板の予熱工程中は、基板を構成している3Dジオメトリの要素のみがアクティブである。ワークピースの造形が進むにつれて、堆積されつつある材料に応じて、層内の要素が徐々にアクティブとされる。どんな時でも、まだアクティブではない要素は、FEAモデル254を使用してモジュール224によって行われるモデル計算に、一切関与しない。
【0052】
本発明の一実施形態において、FEAモデル254は、以下のモデル要素を含む。
【0053】
<熱伝導要素>
基板及び堆積材料における熱伝導をモデル化するための熱伝導要素である。基板及び堆積材料の熱伝導率および比熱容量は、温度に依存する。これらの2つの特性の温度依存性の例示的なグラフ304及び306を、それぞれ
図7及び
図8に示す。これらのグラフのデータは、公に入手可能な複数のソースから収集することができる。チタン合金を用いて製造されるワークピースの場合、適切な参考資料の一つには、1994年のアメリカ合衆国オハイオ州のASM International, Materials Parkによる「Materials Properties Handbook: Titanium and Titanium Alloys」(編者:R. Boyer、G. Welsch、E.W. Collings)がある。
【0054】
<熱移動要素>
ワークピースから外部への熱移動をモデル化するための熱移動要素である。一実施形態において、熱移動要素は、ワークピースの熱放射による熱移動をモデル化する。熱移動要素は、任意で、ワークピースの伝熱による熱移動を付加的にモデル化する。
【0055】
ワークピースの熱放射は、以下の放射条件を用いてモデル化することができる。
【数1】
ここで、qは熱流束、εは表面放射率、σはステファン・ボルツマン定数(Stefan-Boltzmann constant)である。なお、この数式の右辺における温度は絶対温度(K)である。hとεの値は実験結果と一致するように調整することができる。チタン合金を用いて製造
されるワークピースの場合、これらのパラメータの典型的な値は、h≒20W/(m
2K
)、ε≒0.7であることがわかっている。通常、T
amb=303.15K(30℃)の
値を使用することができるが、これも場合によっては、より良好に実験結果に一致するように調整された。
【0056】
伝熱は、次式によってモデル化することができる。
【数2】
ここで、qは熱流束、Tは温度、T
ambは、周囲温度である。あるいは、伝熱は、放射条件を用いてモデル化することもできる。
【0057】
<弾性変形要素>
このモデル要素に含まれる材料特性は、ヤング率、ポアソン比、及び、熱膨張係数である。等方性が仮定されている。1つ又は複数の実施形態において、ポアソン比はv=0.3とされる。ヤング率と熱膨張係数の両方が温度に依存し、値は、上記のハンドブックのような公に入手可能な文献から得ることができる。温度に対するこれらの特性の例示的なグラフ308及び310を、それぞれ
図9及び
図10に示す。ヤング率のデータは、約1073K(800℃)までの温度について入手可能であったが、入手可能データから、より高い温度についてのヤング率を補外により求め、ワークピースの材料が液相温度に達する際のヤング率はゼロ(0)であると仮定した。
【0058】
<降伏挙動要素>
実施形態において、降伏挙動要素は、フォン・ミーゼスの条件(von Mises criterion
)に従う。フォン・ミーゼスの条件は、偏差応力の2次の不変量(second deviatoric stress invariant)が臨界値に達すると材料の降伏が始まることを示唆するものである。当初は、降伏の進行を表すためにジョンソン・クックモデル(Johnson-Cook model)を用いていたが、出願人は、Ti−6Al−4V合金及び他の金属合金の高温での降伏挙動を表すには、ジョンソン・クックモデルは不十分であることが分かった。さらに、出願人によって行われた感度分析は、歪み硬化(strain hardening)及び歪み速度(strain rate)
が造形後の歪みに与える影響は、金属合金の場合、無視できるほど小さく、従って、よりシンプル且つ経験的な温度依存性の流動応力をFEAモデル254に使用できることを示唆している。従って、降伏挙動要素は、
図11の例示的なグラフ312に示したような、経験的に導出された温度依存性流動応力データに従っている。
【0059】
<材料堆積要素>
材利の堆積中には、多くの複雑な流体の流れ及び熱プロセスが発生する。出願人によって行われた予備作業においては、溶融された堆積材料のモデル化が、このモデル要素に含まれていた。しかしながら、精度を損なうことなく、よりシンプルで計算量の少ない方法を採用可能であることが分かった。材料堆積要素に現在採用されているモデル化方法は、液相温度(1923K(1650℃))、あるいは、少量の過熱を伴った、液相温度よりわずかに高い温度における材料堆積をモデル化することである。各堆積層の高さ及び幅、ならびに、堆積の速度及び方向は、造形の実際の特性に相応に近似するように設定される。
【0060】
<固化要素>
堆積材料の固化は、1878K(1605℃)の固化温度と、1923K(1650℃)の液相温度との間の45Kの範囲で均一に起こるものとしてモデル化される。この例における潜熱は269.5kJ/kgである。
【0061】
あるいは、材料堆積要素は、既知の出力レベルのエネルギー源/熱源による材料の溶融
をシミュレートするように、材料堆積をモデル化する。
【0062】
<基板予熱要素>
1つ又は複数の実施形態において、電子ビームを用いて基板を予熱することができる。これは、基板内の移動する体積熱源(volumetric heat source)として、モデル化することができる。この熱源は、常に、電子ビームからの特定の熱流束に結びつく、体積基準の入力分布を有する楕円領域として、モデル化することができる。この楕円形の熱源は、電子ビームの移動に一致して移動する。体積基準の熱入力(単位体積当たりの出力)は、以次式によって求められる。
【数3】
ここで、Q=ηPであり、Pは、公称パワー入力であり、ηは、これがワークピースに伝達される際の効率である。パラメータf
f、f
rは、次式によって求められる。
【数4】
これにより、楕円領域おける、結び付けられた熱入力は、Qであることが確証される。
一例として、T字形のワークピースのモデリングにおいて、出願人が使用した値は、
*a=7.1mm、b=4mm、c
f=3mm、c
r=5.9mm
*η=0.7
である。
【0063】
熱源のパワーP及び速度は、造形パラメータによって指定されたとおりである。
【0064】
実際の造形中は、基板は、通常、機械的支持及び拘束を目的として、何らかの種類の固定具に配置される。この固定具も、製造中のワークピースに対する熱冷却体として作用する。出願人は、以前は、計算による有限要素解析モデル254の一部として、固定具を明確にモデル化し、包含させていた。しかしながら、これには、モデルのサイズ及び実行時間を大幅に増やすという欠点がある。このため、FEAモデル254は、よりシンプルな手法を採用しており、これによれば、固定具の機械的特性は、
図5および
図6に示した、より単純なT字形の基準ケースのジオメトリに適用される明示的な制約(explicit constraints)によって、近似される。次に、固定具の冷却効果が、有効な熱移動係数によって近似される。
【0065】
製造工程/条件を表すデータ252によっても、製造中及び製造後のワークピースの形状歪み及び残留応力成長に影響すると出願人が判断した複数のセットアップパラメータを規定することができる。これらのパラメータには、以下のものが含まれる。
1.造形前の基板プレートの予熱のレベル。
2.造形中のワークピースからの熱移動。これは、外部熱移動境界条件パラメータに対する感度と、特にクランプ構成を介しての、固定具への内部熱の移動の程度との両方を調べることを含む。
3.堆積速度、及び、各層の堆積の間の冷却時間。
4.造形後に歪みのない「真っ直ぐな」部品が得られることを目的とした、補償のための基板の予備湾曲。
5.各層における造形の順序
【0066】
製造工程/条件254は、付加的に、以下の特徴的な製造工程を有するものとしてもよい。これらの各工程は、製造中に起こる熱損失を最小限に抑え、これによって、ワークピースに発生する形状歪み及び/又は残留応力成長を最小限に抑えることがわかっている。
*材料の逐次的堆積中にワークピースを冷却しないことによって、製造工程のうちの1つ又は複数の最中における基板及び堆積材料からの熱損失を最小限に抑える。例えば、材料層の逐次的堆積作業の合間に、ワークピースの平均温度の10%の低下が防止されることが望ましいことがわかっている。
*製造中にワークピースに絶縁を付与することによって、製造工程のうちの1つ又は複数の最中における基板及び堆積材料からの熱損失を最小限に抑える。基板と、製造中に基板を支持するテーブルとの間に絶縁材料を付着させることによって、ワークピースに絶縁を付与することができる。
*ワークピースに放射反射を付与することによって、製造工程のうちの1つ又は複数の最中における基板及び堆積材料からの熱損失を最小限に抑える。
【0067】
さらに、製造工程/条件254は、出願人が見出した、ワークピースにおける重大な残留応力成長を最小限に抑制又は回避するためのパラメータを含んでもよい。この抑制又は回避は、クラックの発生を最小限に抑制又は回避すべく、製造されたワークピースが冷える際に、基板を支持テーブルに保持するためのクランプ力を制御下で低減することによって、製造工程のうちの1つ又は複数の最中における機械的境界条件を制御するものである。
【0068】
上記のことから、EBFFFプロセスをシミュレートするための、複数の物理現象を考慮したモデリング技術が適切に開発されたことは、明らかであろう。この予測ツールによれば、造形中および造形後のワークピース全体における温度及び内部応力分布の変化、ならびに、最終的な全体の歪み及び残留応力を洞察することができる。
【0069】
このモデリング技術を、複数のT字形部品と十字形部品について、検証した。モデル予測と実験測定結果とは、予備開発段階においては良好な一致が見られ、モデリングツールの改良後は優れた一致が見られた。これによって、設計段階及び製造段階の両方において、ツールの予測能力ついての大きな信頼性が得られた。
【0070】
このモデルを効果的に用いて一連の実際上の実験計画法を実施し、様々な動作パラメータ及び動作条件、造形経路、予熱又は予成形された基板、及び、これらの組み合わせによる効果によって、全体の歪みがどのように影響されるかを評価した。
【0071】
造形後歪みは、エネルギー入力(電子ビームの出力)、ならびに、クランプのヒートシンク効果及び堆積パス(pass)間の時間間隔(冷却)などの熱的境界条件に非常に影響されやすいことが、モデルから明らかになった。
【0072】
T字形部品に関しては、予備湾曲基板が、効果的な歪み対策手段であり、単純な形状の場合には、歪みをほぼ完全に補償可能であることが分かった。
【0073】
クランプを絶縁するだけで、歪みを大幅に低減可能であると予測されていた。実験測定結果により、34%の低減が達成可能であることが示された。
【0074】
基板を予熱しても、造形中にこれを保持しないと、歪みの低減にはあまり効果的でない
とモデルは予測した。絶縁されたクランプを用いつつ予熱(500℃)することと、造形速度を半分に落とすこととを組み合わせると、歪みを39%低減できると予測されたが、この効果は、予熱は行なわずに絶縁されたクランプを用いる場合と比べてわずかに高いだけである。また、このように高い温度まで基板を予熱することは、操作上の困難をもたらし、製造業者にとって好ましい選択肢ではない。
【0075】
予測ツールを用いれば、造形後の歪み及び残留応力に与えられる、非常に高い予熱温度などの仮想の動作条件による影響や、それらが組み合わさった影響を、そのような条件が現時点では実際的でないと思われても、評価することができる。
【0076】
開発されたモデリング技術及び予測ツールは、その適用範囲を、他の付加製造プロセス、特に、ニッケル、アルミニウム、チタン金属や金属合金の層を使用してワークピースを製造するプロセスに、拡張することができる。
【0077】
<実験プラン>
以下の説明は、チタン合金を用いたT字形ワークピース及び十字形ワークピースの付加製造に関する実験計画及び検証についてのものである。ただし、記載の実施形態は、他の金属、金属合金、及び類似の材料を用いた付加製造に関連させて用いることもできる。
【0078】
造形中及び造形後の歪み及び残留応力成長の予測ツールの開発及び検証のためのシミュレーションが、主として、汎用の非線形有限要素解析ソルバー(solver)を採用し、適当なプロセスパラメータを用いて、行われた。初期段階では、堆積経路を表すFEMモデルを作成するためのメッシング法も、作業に含まれていた。この特定の用途のためのソルバーのカスタマイズが必要であることが判明した。
【0079】
モデルの較正及び検証用に選択された実証用部品の作製は、2つの異なる企業に委託された。T字形部品は、基板プレートの一方側のみでの堆積を必要としたのに対し、十字形部品は、基板の両側での堆積を必要とした。両側堆積は、フリップテーブルを用いることによって実現された。歪みの測定は、3Dスキャナを用いて行われた。中性子回折法による残留応力測定を、選択された造形体で実施した。
【0080】
次に、モデルの較正と検証の両方の目的で、出力モデリング結果を、実験による残留応力及び歪みのデータと比較した。モデル結果によって、付加製造中及び付加製造後の、造形部品における温度、歪み及び応力の変化を把握することができる。次に、このモデルを予測実験計画モードに採用して、様々なツール経路及びプロセスパラメータが(製造後の)部品の歪み及び残留応力に及ぼす影響を調べた。
【0081】
A社は、複数の片側のT字形部品及び両側の十字形部品を造形し、B社は、4個の片側のT字形部品を造形した。Ti−6Al−4Vプレート基板は、長さが2フィート(600mm)、幅が4インチ(100mm)、厚さが0.5インチ(12.5mm)であった。堆積は、高さが2インチ(51mm)であり、単一のビードによって形成され、幅が0.472インチ(12mm)であった。
図12(a)及び(b)は、それぞれT字形部品及び十字形部品の例の概略
図314及び318を示している。T字形部品は、基板プレートの一方側のみでの堆積を必要としたのに対し、十字形部品は、基板の両側での堆積を必要とした。両側堆積は、フリップテーブルを用いることによって実現された。以下の表1は、技術提供をした二社が造形体を作製するために使用したEBFFFプロセスパラメータを示す。
【表1】
【0082】
使用される基板クランプ構成は、造形体の熱的境界条件に大きく影響する。A社とB社とは、異なるクランプ構成を用いた。A社はさらに、片側造形体と両側造形体について、異なるクランプ条件を用いた。片側造形体には、スチール面のプレートを有する回転テーブルを使用し、基板の長さ方向に沿う4つの点で、アルミニウム・バーによってクランプした。両側造形体の場合は、A社は、アルミニウムヘッド及び心押し台「フリップテーブル」を用いて、部品をその中心線周りに回転させた。基板プレートを、アルミニウム・バー及びバネ負荷クランプを用いて、長さ方向に沿ってクランプし、各クランプに、ばね定数情報に基づいて、500ポンドまで負荷をかけた。2つの熱電対を、基板プレートの両端における造形体付近に1つずつ取り付け、造形中の熱履歴を観察した。B社では、処理中にクーポンを保持するための固定プレートを、AA5083アルミニウム合金から機械加工作製した。次に、固定具を、真空チャンバ内のX−Y CNCテーブルに取り付けられたバイスで保持した。5個の熱電対を、造形の開始地点と終了地点に1個ずつ、造形の中央地点に3個使用した。
【0083】
ポータブルの3Dスキャナを用いて様々な造形体をスキャンすることによって、歪み測定が行われた。「歪み(distortion)」という用語は、この文脈では、基板ベース中心点から隆起した縁部までの2つの垂直方向距離の平均として用いられる。
【0084】
残留応力測定は、基板プレートの長手方向に沿う中心にある平面で、中性子回折法によって行われた。チタンは比較的弱い回折信号を発生させるため、中性子測定は長時間要する傾向にある。
図13(a)〜(c)に示すように、可能なビーム時間内で、3つの方向318、320、及び322(縦方向、横方向、及び、法線方向)に沿って、部品324の様々な点で測定を行った。
【0085】
図13(a)は、法線方向の残留応力測定レイアウトを示しており、このレイアウトでは、中性子が一次スリット(右)から来て、回折された中性子が試験品の向こうに見える二次スリットによって集められる。
図13(b)及び(c)は、それぞれ、A社の片側T字形の節点(joint)及びB社の片側T字形の節点(joint)における、残留応力測定点の位置を表すグラフ326及び328を示している。
【0086】
<モデルセットアップ>
モデルの検証と較正を行うために、出願人は、モデル予測と比較することができる実際
の量の測定を行う必要があった。この目的のため、三種類の測定を採用した。
【0087】
1.ポータブル3Dスキャナを用いた最終歪みの測定。
これは、ワークピースが室温まで冷却され、すべての機械的拘束が解除された後の、造形の終了時の基板の相対的な垂直変位の測定を伴った。
【0088】
2.最終残留応力の測定。この測定は、中性子回折によって行われた。
【0089】
3.造形中の連続温度データ。B社の造形体用に、5個の熱電対を、ベースプレートの所定位置にスポット溶接し、造形期間及び冷却期間中に連続して温度データを収集した。前述したように、A社の造形体のうちのいくつかからも限定的に温度データを収集した。しかしながら、これは、熱電対と基板との熱的接触が少ないため、信頼性を欠くことがわかった。
【0090】
モデルのセットアップパラメータ及びプロセスパラメータのうちのいくつかは未定であるため、これらのパラメータの変化に対するモデル予測の感度の程度について、評価が行われた。この種の分析によって、これらのパラメータに対する実際の造形体の感度の程度が判明し、これによって、これらのパラメータのうちのどれが、最終的な歪みに対処する手段となる可能性があるかについて、ある程度の洞察が得られた。従って、このような計算による感度の研究は、仮想実験の役割も果たす。調べたセットアップパラメータには、以下のものが含まれていた。
1.造形前の基板プレートの予熱のレベル。
2.造形中のワークピースからの熱移動。これは、外部熱移動境界条件パラメータに対する感度と、特にクランプ構成を介しての、固定具への内部熱の移動の程度との両方を調べることを含む。
3.堆積速度、及び、各層の堆積の間の冷却時間。
4.造形後に歪みのない「真っ直ぐな」部品が得られることを目的とした、補償のための基板の予備湾曲。
5.各層における造形の順序
【0091】
以下の表2は、A社の造形体について行われた感度の研究及び実際上の実験計画法の詳細である。この表で言及している基準ケースの詳細は、以下の表3に示している。
【表2】
【表3】
【0092】
<実験結果>
A社及びB社によって作製された実験的な造形体の詳細を、以下の表4に示す。A社によって5個の両側造形体を含め、合計20個の造形体が作製され、B社によって4個の片側T字形造形体が作製された。歪み測定の結果は、表3.1にも示している。A社とB社は、公称上同一の造形パラメータ及び条件を用いて、各ケースについて4個の造形体を作製したが、測定された歪みには、多少のばらつきがあることがわかる。また、B社の造形体のほうが、より高い歪み、及び、より大きな測定歪みのばらつきを示していることが明らかである。選択された試験品には、標準的な応力除去熱処理が施された。表4からわかるように、この処理が、平均歪みのわずかな増大をもたらしたように思われるが、3Dスキャニングによる歪み測定に関連した、実験によるばらつきの範囲内である可能性もある。
【表4】
【0093】
<モデル検証>
図14は、それぞれ、(a)造形堆積の完了時、(b)チャンバ内で100℃未満まで冷
却した後、(c)試験品をクランプから解放した後の、フォン・ミーゼス応力の変化を表す「ヒートマップ」400〜404を示している。応力の実質的な増加は、試験品がクラ
ンプされたままで冷却された時に観察され、特に、堆積端部に隣接する基板の上面において、高い応力集中が見られた。しかしながら、クランプが解除され、歪みが現れた時に、応力は減少した。
【0094】
図15は、モデリングによって予測された、ヒートマップ406として示す造形後の歪みと、画像408に示した、実験的な造形で測定された造形後の歪みとの比較を示している。モデルは、最終的な歪みを12mm程度と予測したが、3Dスキャン測定は、これに対応する試験品(表4のF-7053-A)について、5.33mmの歪みを示している。この不一致は、主として、高温でのTi−4Al−6V合金の降伏挙動を、ジョンソン・クックモデルが十分に表せないために起こった。
【0095】
図16は、それぞれ、(a)造形の完了時、(b)100℃未満まで冷却した後、(c)
試験品をクランプから解放した後の、フォン・ミーゼス応力の予測変化を表す「ヒートマップ」410〜414を示している。応力の実質的な増加は、試験品が冷却された時に観察され、この場合も、2つの堆積端部に隣接する基板表面に、特に見受けられた。ただし、片側造形の場合のような、試験品がクランプから解放された際の応力の減少は、起こらなかった。
【0096】
図17は、モデリングによって予測された、ヒートマップとして示す造形後の歪みと、画像418に示した、対応する実験的な造形で測定された造形後の歪みとの比較を示している。予測歪みは、実験と見事に一致しており、これらの両方が、無視できるほど少ない量の歪み(0.5mm未満)を示した。上述したように、両側造形では、両側の造形にバランスのとれた残留応力が発生しており、これが、造形後の歪みを最小限に抑えるのに役立った。両側堆積の手法では、造形後の歪みをほとんど解消することができるが、残留応力は高いまま残存する。
【0097】
上記のように、実験結果は、モデリングと概ね一致したが、予測精度の改善が強く望まれた。従って、2013年中頃から、モデリングツールを改良するための試みがなされた。このモデリング作業においては、熱分析と機械的分析を、各工程において組み合わせた。
【0098】
この作業において採用された熱分析は、別のプロジェクトにおける実験に照らして十分に実証及び検証されたので、使用された材料モデルに注目した。
図18は、温度の関数として表した、ジョンソン・クックモデル対収集実験データの流動応力のグラフ420である。明らかに、ジョンソン・クックモデルは、高温でのTi−6Al−4Vの降伏挙動を表せていない。
【0099】
図19は、中性子回折によって測定された長手方向の残留応力の「ヒートマップ」422、ならびに、ジョンソン・クックモデル及び更新された材料モデルに基づいて予測された、残留応力の「ヒートマップ」424及び426を示す。ジョンソン・クックモデルに基づく予測は、測定残留応力よりも大幅に大きい残留応力となったが、更新された材料モデルに基づく予測は、応力の分布と大きさの両方において、より良好に測定結果と一致したことがわかる。
【0100】
改良されたモデリングツールを検証するため、絶縁されたクランプを備える実験的な造形について、シミュレーションを行った。絶縁されたクランプを用いたのは、これによって、熱的境界条件のより高い確実性が確保されるからである。
図20は、実験的な造形体で測定された造形後の歪みを示す画像428、ならびに、モデリングによって予測された造形後の歪みの「ヒートマップ」430及び432を含む。ジョンソン・クックモデル及び更新された材料モデルに基づくモデリングは、それぞれ、8.45mmと3.07mm
の歪みを予測した。3Dスキャン測定は、4個のテスト用試験品について、3.33mmの平均歪みを示している(表4参照)。モデリングと実験との比較によって、更新された材料モデルに基づく予測は、相当に精度が向上しており、これによって、予測モデルツールの信頼性、特に設計段階での信頼性が向上したことが確認された。
【0101】
更新されたモデルが当時は入手できなかったため、ジョンソン・クックモデルを用いて実際上の実験計画法が行われた。プロセスパラメータ、造形順序、造形速度(表1)の変化などのさまざまな造形シナリオが造形後の歪みに与える影響を、我々の開発モデリングツールを使用して、仮想的に調べた。
図3.18は、実際上の実験計画法から得られた結果を、アルミニウム合金クランプが所定位置に設けられた実験的な造形体に対応する「リアルな」基準ラインケースと比較した結果を、まとめたものである。
【0102】
クランプを絶縁するたけで、30.1パーセントという大幅な造形後歪みの低減が達成されたが、予備湾曲基板を使用するなどのより積極的な手法を用いれば、造形後の歪みを完全に解消することが可能である。基板を1300K以上の温度まで能動的に加熱するなどの他の「極端な」手法では、歪みの大きな低減が見られるが、このような手法は、冶金学的な制約に反するものであり、ほとんど実施不可能である。
【0103】
図21は、実験検証のために考察された、選択された実験計画法結果についての歪みの変化のグラフ434を示している。A社における基板を予熱するための装置の入手の遅れ及びスケジュール上の制約のため、基板の予熱と、クランプの絶縁と、基準ライン造形速度を半分にすることとを組み合わせた効果に対して予測される歪みの低減については、実証実験は行えなかった。
【0104】
次に、絶縁(セラミック)クランプを用いて、4個の実験的な片側造形体がA社によって作製され、これらは、平均3.33mm(表4)の造形後歪みを示した。アルミニウム合金バーによって固定具にクランプされた試験品の場合の平均5.03mmの造形後歪みと比べて、セラミックの絶縁クランプを用いた場合は34パーセントの造形後歪みの低減が達成され、モデリングによる予測(27.7パーセント)よりも大きい低減であった。この不一致は、上述したジョンソン・クックモデルの限界に起因するものと考えられる。
【0105】
図22は、予備湾曲基板上に造形されるT字形部品の、造形の終了時における、予測による温度及びフォン・ミーゼス応力の分布をそれぞれ表す「ヒートマップ」436、438を示している。
図23は、それぞれ(a)100℃未満までの冷却後、ならびに、(b)クランプからの解放後の、予備湾曲基板を用いた造形体におけるフォン・ミーゼス応力の予測変化を表す「ヒートマップ」440、442を示している。
【0106】
出願人のモデリングでは、造形後の歪みによって予備湾曲基板が真っ直ぐになるはずであると予測したが、実験によってそうではないことが判明した。これらの実験において、基板プレートは、予測される歪みとは反対方向に、5mmの値まで(すなわち、長手方向に沿う基板の中央平面に対して最大5mmの弓形となるよう)予備湾曲されていた。これは、基板がアルミニウム・バーでクランプされた、基準ラインの片側T字形造形体で観測された造形後歪み(約5mm)の100%に相当する。後の実験による検証によって、平均−1.76mmの造形後歪みが残ったことがわかった。これは、−5mmの予備湾曲値が過剰であったことを示している。なお、このモデルは、造形後の歪みを過大に予測する傾向にあるジョンソンクック材料モデルに基づいたものであった。このために、この時点でのモデリング結果に基づいて提案された予備湾曲の値が、過剰なものとなっていた。
【0107】
図24は、モデリングによって予測された、「ヒートマップ」444として示す造形後の歪みと、画像446に示した、これに対応する実験的な造形体で測定された造形後の歪
みとの比較を示している。前述したように、歪みはゼロに近くなるはずであるとモデルは予測したが、予備湾曲は実験的な造形中に完全には補償されなかった。
【0108】
図25は、
図5及び
図6に示したジオメトリよりも複雑なジオメトリ450の例を示している。
【0109】
図26は、モデリングによって予測された、ジオメトリ450の造形後歪みの等角斜視図及び側面図をそれぞれ表す「ヒートマップ」452及び454を示している。
図27は、モデリングによって予測された、チャンバ内で100℃未満まで冷却した後の形状450の造形後歪みの等角斜視図及び側面図をそれぞれ表す「ヒートマップ」456及び458を示している。
図28は、モデリングによって予測された、クランプからワークピースを解放した後のジオメトリ450の造形後歪みの等角斜視図及び側面図をそれぞれ表す「ヒートマップ」460及び462を示している。
図26〜
図28に示した「ヒートマップ」452〜462は、製造前及び製造中に、予測された歪みを補償するための変更をワークピースに導入していない場合の予測例である。
【0110】
製造前及び製造中に、予測された歪みを補償するための変更をワークピースに導入した場合の予測歪みを表す、対応する「ヒートマップ」を、
図29〜
図31に示している。
図29は、モデリングによって予測された、形状450の造形後歪みの等角斜視図及び側面図をそれぞれ表す「ヒートマップ」464及び466を示している。
図30は、モデリングによって予測された、100℃まで冷却した後の形状450の歪みの等角斜視図を表す「ヒートマップ」468を示している。
図31は、モデリングによって予測された、クランプからワークピースを解放した後の形状450の歪みの等角斜視図及び側面図をそれぞれ表す「ヒートマップ」470及び472を示している。
【0111】
この例においては、歪み補償のための変更が、以下の工程によって行われた。
a)
図25に示した参照用造形体のモデル化/分析を、従来のツーリング構成を用いて行うことによって、製造中の熱分布歪み及び応力の変化を予測する。
b)歪み補償された造形体の第1弾をモデル化/分析する。この際、基板プレート全体を、垂直方向に変位しないよう人為的に拘束し(フラットに維持し)、すべてのクランプ点における、熱分布、歪み、応力、及び、反力の変化を予測する。
c)工程b)で得られた予測歪みを用いて、基板に歪み補償変更を適用する。(これを実現するための1つの方法は、工程b)で得られた予測歪みの1/2又は3/4の大きさの、逆方向の垂直歪みを基板に付与することである。)次に、歪み補償造形体の第2弾をモデル化/分析する。この際、基板プレート全体を、垂直方向に変位しないよう人為的に拘束し、クランプ点における、熱分布、歪み、応力、及び、反力の変化を予測する。
d)造形許容度が達成されるまで、工程c)を繰り返す。
【0112】
図29〜
図31からわかるように、製造前又は製造中にワークピースに変更を導入することによって
図26〜
図28に示した予測歪みを補償すると、製造のすべての工程において予測歪みが大幅に低減される。
【0113】
この歪みの低減は、
図32で確認できる。同図は、歪み補償変更を導入しなかった場合のモデル予測歪みを表す「ヒートマップ」474、製造されたワークピースの画像476、及び、モデルに歪み補償変更を導入した場合のモデル予測歪みを表す「ヒートマップ」478を示している。