(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高甘味度甘味料を含有する液状甘味料にフィチン酸およびグルコン酸を含有させて、液状甘味料のpHを4未満に制御することを含む、保存安定性の向上した液状甘味料の製造方法であって、フィチン酸の含有量を0.04重量%〜0.2重量%とし、グルコン酸の含有量を0.01重量%〜0.27重量%として、フィチン酸およびグルコン酸の総含有量を0.066重量%〜0.41重量%とする、製造方法。
【背景技術】
【0002】
液状の甘味料は、飲食品に手軽に甘味を付与することができ、飲料等の液状の飲食品に溶解させやすいといった利便性から、近年広く使用されるに至っている。
良質な甘味とコク味を付与できることから、液状甘味料においてはショ糖が用いられてきたが、昨今の健康志向やダイエット志向から、低カロリーの液状甘味料が好まれる傾向があり、高甘味度甘味料を含有させて低カロリーとした液状甘味料が提供されている。
一般に液状の製品では、保存安定性を確保すべく、微生物の生育を抑制する必要がある。食塩やアルコールを含有しない液状甘味料においては、液状甘味料のpHを低く保ち、安息香酸等の静菌剤を用いることにより、微生物の生育が制御されてきた。
【0003】
しかし、液状甘味料のpHを低下させるために、クエン酸等の一般的な酸味料を用いると、酸味が発現し、液状甘味料の味が損なわれるという問題があった。
上記の問題を解決する手段として、ペースト状の水中油型乳化物を使用した食品において、フィチン酸またはグルコン酸を用いて、酸味をほとんど発現させずにpHを3.0〜5.0の範囲に制御する技術が提案されている(特許文献1)。
また、スクラロースの甘味改善剤または甘味補強剤として、グルコン酸またはグルコン酸塩を用いる技術が提案されている(特許文献2)。
【0004】
ところが、フィチン酸を用いると、リン酸等と同様に液状甘味料のコク味を損なうという問題があった。一方、グルコン酸は酸味が弱く、穏やかな酸味を有するものの、微生物の生育を十分に抑制するためpHを4未満に低下させた場合は、やはり酸味が発現するという問題があった。
【0005】
従って、高甘味度甘味料を含有する低カロリーの液状甘味料において、pHが4未満に制御されていながら好ましくない酸味が発現せず、さらに良好なコク味を有する液状甘味料が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、高甘味度甘味料を含有する低カロリーの液状甘味料であって、微生物の生育が抑制されて保存安定性が高く、かつ、酸味の発現が抑えられて良好なコク味を有する液状甘味料を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、高甘味度甘味料を含有する液状甘味料にフィチン酸およびグルコン酸を含有させて、液状甘味料のpHを4未満に制御することにより、強い酸味を発現することなく微生物の生育を良好に抑制することができ、さらに液状甘味料のコク味を損なうことがないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]高甘味度甘味料と、フィチン酸およびグルコン酸とを含有し、pHが4未満である、液状甘味料。
[2]高甘味度甘味料の含有量が、砂糖の甘味を1とした場合に、液状甘味料の甘さが0.7〜3.0となる量である、[1]に記載の液状甘味料。
[3]フィチン酸の含有量が0.04重量%〜0.2重量%であり、グルコン酸の含有量が0.01重量%〜0.27重量%であって、フィチン酸およびグルコン酸の総含有量が0.066重量%〜0.41重量%である、[1]または[2]に記載の液状甘味料。
[4]さらに、コク味付与成分を含有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の液状甘味料。
[5]コク味付与成分が、乳酸カルシウムおよびL−リシン塩酸塩の1種以上である、[4]に記載の液状甘味料。
[6]高甘味度甘味料を含有する液状甘味料にフィチン酸およびグルコン酸を含有させて、液状甘味料のpHを4未満に制御することを含む、保存安定性の向上した液状甘味料の製造方法。
[7]フィチン酸の含有量を0.04重量%〜0.2重量%とし、グルコン酸の含有量を0.01重量%〜0.27重量%として、フィチン酸およびグルコン酸の総含有量を0.066重量%〜0.41重量%とする、[6]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高甘味度甘味料を含有する低カロリーの液状甘味料であって、微生物の生育が抑制されて保存安定性が高く、かつ、酸味の発現が抑えられて良好なコク味を有する液状甘味料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、高甘味度甘味料と、フィチン酸およびグルコン酸とを含有し、pHが4未満である液状甘味料を提供する。
【0012】
本発明における「甘味料」とは、食品に甘味を付与する調味料であり、食品添加物に分類される。
また、「液状」とは室温で液体の状態であることをいい、本発明の「液状甘味料」は、室温で溶液、懸濁液、分散液、乳状液等の液体の形態である甘味料をいう。本発明の液状甘味料には、室温で粘性を有する液体の形態である甘味料も含まれる。
ここで、「室温」とは、第十七改正日本薬局方通則に定義される室温、すなわち1℃〜30℃をいう。
食品に対して均一に添加できる点等、使用上の利便性等の観点から、本発明の液状甘味料は、室温で溶液の形態または粘性を有する液体の形態であるものが好ましい。
【0013】
本発明の液状甘味料に含有される高甘味度甘味料とは、砂糖の30倍以上の甘味を有する甘味料をいう。
高甘味度甘味料は上記の通り、砂糖に比べて高い甘味を有し、食品に甘味を付与するための必要量が少なくて済む。それゆえ、高甘味度甘味料を含有する甘味料は、低カロリーとなる。
高甘味度甘味料としては、たとえば、ステビア抽出物(ステビオシド等)、羅漢果抽出物、ソーマチン等の天然甘味料;アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、ネオテーム、アドバンテーム等の人工甘味料が挙げられる。
かかる高甘味度甘味料は、液状甘味料の呈味や安定性等に影響を及ぼさない範囲で、1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0014】
本発明においては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アドバンテーム等が好ましく用いられる。特に、アスパルテームとアセスルファムカリウムを1:1で併用すると甘味度が40%程度強化され、甘味の立ち上がりが砂糖に近くなるため、好ましい。
本発明の液状甘味料における高甘味度甘味料の含有量は、それぞれ呈する甘味の質、強さ等により適宜定められるが、砂糖の甘味を1とした場合に、液状甘味料の甘さが通常0.1〜10.0となる量であり、好ましくは0.7〜3.0となる量であり、より好ましくは1.0〜1.5となる量である。
【0015】
本発明の液状甘味料は、上記した高甘味度甘味料に加えて、フィチン酸およびグルコン酸を含有する。
フィチン酸は、未精製の穀物や豆類に多く含まれるmyo−イノシトールの六リン酸エステルである。本発明においては、フィチン酸として、穀物、豆類等から抽出し、精製されたものや、米ぬか等に存在するフィチンから金属を除く等して製造されたもの等を用いることができ、各社より提供されている市販の製品を利用することもできる。
【0016】
また、グルコン酸は、グルコースの1位の炭素が酸化されて生成するカルボン酸であり、天然に存在するD−体が好ましく用いられる。
本発明においては、グルコン酸として、D−グルコースを臭素水やヨウ素のアルカリ溶液で穏やかに酸化する等の化学的合成法、アスペルギルス ニガー(Aspergillus Niger)によるD−グルコースの微生物酸化等の生化学的合成法、発酵による製造方法等により製造されたものを用いることができ、各社より提供されている市販の製品を利用することもできる。
【0017】
本発明において、フィチン酸およびグルコン酸は、液状甘味料のpHを4未満とするように含有される。液状甘味料のpHが4未満であると、液状甘味料における微生物の生育を抑制することができ、保存安定性が良好となる。
微生物の生育をより良好に抑制するという観点からは、液状甘味料のpHは3.7以下とすることが好ましい。また、液状甘味料のpHは、酸味の発現の観点から、通常2.9以上である。
【0018】
本発明の液状甘味料において、強い酸味を発現させず、かつコク味(味の厚み、ボディ感等)を損なうことなくpHを4未満に制御するためには、液状甘味料におけるフィチン酸の含有量は0.04重量%〜0.2重量%であることが好ましく、0.049重量%〜0.155重量%であることがより好ましく、0.06重量%〜0.13重量%であることがさらに好ましい。また、グルコン酸の含有量は0.01重量%〜0.27重量%であることが好ましく、0.01重量%〜0.266重量%であることがより好ましく、0.03重量%〜0.218重量%であることがさらに好ましい。
さらに、フィチン酸とグルコン酸の総含有量は、0.41重量%以下であることが好ましく、0.40重量%以下であることがより好ましい。なお、液状甘味料のpHを4未満に低減させ、かつコク味を付与するためには、フィチン酸とグルコン酸の総含有量は、0.066重量%以上とすることが好ましく、0.07重量%以上とすることがより好ましい。
【0019】
さらに本発明の液状甘味料には、本発明の特徴を損なわない範囲で、コク味(味の厚み、ボディ感等)を補強するため、フィチン酸およびグルコン酸以外の有機酸またはその塩、アミノ酸またはその塩、ペプチド、核酸またはその塩、香料等のコク味付与成分を含有させることができる。
フィチン酸およびグルコン酸以外の有機酸またはその塩としては、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム等が挙げられ、乳酸カルシウムが好ましいものとして例示される。
アミノ酸またはその塩としては、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−アラニン、グリシン、L−グルタミン酸ナトリウム、L−テアニン、L−ヒスチジン塩酸塩、L−リシン塩酸塩等が挙げられ、L−リシン塩酸塩が好ましいものとして例示される。
ペプチドとしては、グルタミルバリルグリシン等が挙げられる。
核酸またはその塩としては、5’−イノシン酸二ナトリウム、5’−ウリジル酸二ナトリウム、5’−グアニル酸二ナトリウム、5’−シチジル酸二ナトリウム等が挙げられる。
香料としては、芳香族アルコール、芳香族アルデヒド、ラクトン類、シクロテン、エチルマルトール、マルトール、各種フレーバー等が挙げられる。
これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明の液状甘味料における、上記したコク味付与成分の含有量は、液状甘味料に含有される高甘味度甘味料の種類およびその含有量、フィチン酸およびグルコン酸の含有量等に応じて適宜設定されるが、たとえば、乳酸カルシウムであれば0.02重量%〜0.2重量%、L−リシン塩酸塩であれば0.05重量%〜0.5重量%とすることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の液状甘味料には、本発明の特徴を損なわない範囲で、糖質(たとえばブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、オリゴ糖等)、天然資源から精製される甘味料(たとえば砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、糖蜜、水飴、ブドウ糖果糖液糖等)、糖アルコール(たとえばエリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール等)、トレハロース、イソマルツロース、グリチルリチン等の天然甘味料や、その他、液状甘味料に汎用される食品添加物を含有させることができる。
上記食品添加物としては、増粘安定剤(キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、レシチン等)、保存料(安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム等)、着色料(アナトー色素、ウコン色素、クチナシ色素等)等が挙げられる。
これらは、必要に応じて、1種または2種以上を含有させることができる。
【0022】
本発明の液状甘味料は、高甘味度甘味料、フィチン酸およびグルコン酸、さらに必要に応じて、コク味付与成分、他の甘味料、食品添加物等を食品製造用水(たとえば水道水、イオン交換水等)に添加して混合、溶解し、通常の製造方法により製造することができる。
本発明の液状甘味料は、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック製ボトル、ガラス瓶等に充填し、あるいは1回分の使用量ずつ、プラスチック製ポーションカップ等のポーション容器に充填し、さらに箱、瓶、缶、プラスチック製、アルミラミネートフィルム製等の袋体等で包装して、提供することができる。
【0023】
本発明の液状甘味料は、低カロリーであり、微生物の生育が抑制され、高い保存安定性を有する。
さらに、本発明の液状甘味料は、酸味の発現が抑制され、かつ良好なコク味を有する。
【0024】
本発明はまた、高甘味度甘味料を含有する液状甘味料であって、微生物の生育が抑制され、保存安定性の向上した液状甘味料を製造する方法(以下、本明細書において「本発明の製造方法」とも表記する)を提供する。
本発明の製造方法は、高甘味度甘味料を含有する液状甘味料に、フィチン酸およびグルコン酸を含有させて、液状甘味料のpHを4未満に制御することを含む。
「液状甘味料」、「高甘味度甘味料」、「フィチン酸」および「グルコン酸」については、上記した通りである。
また、高甘味度甘味料の含有量、フィチン酸およびグルコン酸の各含有量およびこれらの総含有量についても、上記した通りである。
なお、本発明の液状甘味料において、そのpHは、好ましくは3.7以下に制御される。
【実施例】
【0025】
以下に本発明について、実施例によりさらに詳細に説明する。なお、以下において、「%」は特に断らない限り、重量%を意味する。
【0026】
[実施例1〜9]液状甘味料
表1に示す各成分をイオン交換水に添加して均一に溶解させ、ベース液Aを調製した。ベース液Aに対し、表2に示す量のフィチン酸およびグルコン酸を添加して均一に混合し、イオン交換水で全量を100%として、実施例1〜9の液状甘味料とした。
【0027】
【表1】
【0028】
[比較例1〜9]液状甘味料
上記ベース液Aに対し、表3に示す量のクエン酸、フィチン酸およびグルコン酸をそれぞれ添加して均一に混合し、イオン交換水で全量を100%として、比較例1〜9の液状甘味料とした。
【0029】
実施例1〜9および比較例1〜9の各液状甘味料について、pHを測定し、酸味および味の厚みについて、4名のパネラーによる官能評価を行った。官能評価は下記の評価基準により行い、4名のパネラーの評価結果の平均を示した。評価結果は、表2および表3に併せて示した。
<評価基準>
−;弱い
±;普通である
+;やや強い
++;強い
+++;とても強い
酸味については「−」〜「+」の評価を得た場合、味の厚みについては「±」〜「+++」の評価を得た場合に、液状甘味料の品質として合格であると判断した。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
表2に示されるように、ベース液Aにフィチン酸およびグルコン酸を含有させてpHを4未満に制御した実施例1〜9の液状甘味料においては、酸味の発現が抑制され、かつ、味の厚みも付与されており、液状甘味料として十分な品質を有すると評価された。
【0033】
一方、表3に示されるように、クエン酸によりpHを4未満に制御した比較例1、2の液状甘味料では、酸味が強く発現し、クエン酸含有量を低減させてpHを3.9とした比較例3の液状甘味料では、味の厚みの付与が認められなかった。
フィチン酸を含有させてpHを4未満に制御した比較例4〜7の液状甘味料では、味の厚みの付与が認められず、フィチン酸含有量を増加させてpHを3.0とした比較例4の液状甘味料では、強い酸味の発現が認められた。
グルコン酸を含有させてpHを4未満に制御した比較例8および9の液状甘味料では、酸味が強く発現した。
【0034】
[実施例10〜22]液状甘味料
表4に示す組成のベース液Bに、表5に示すコク味付与成分を、それぞれ表5に示す濃度となるように添加し、実施例10〜22の液状甘味料を調製した。なお、スイートフレーバーとしては、長谷川香料株式会社より提供されている市販の製品を用いた。
各実施例の液状甘味料の味の厚みについて、4名のパネラーによる官能評価を行った。
官能評価は下記評価基準により行い、4名のパネラーの評価結果の平均を示した。評価結果は、表5に併せて示した。
<評価基準>
−;弱い
±;ベース液Bと同程度である
+;やや強い
++;強い
+++;とても強い
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
表5に示されるように、コク味付与成分として、乳酸カルシウムを0.02%〜0.2%添加した実施例10〜12の液状甘味料、L−リシン塩酸塩を0.05%〜0.5%添加した実施例14〜16の液状甘味料において、味の厚みの付与が確認された。
コク味付与成分として、スイートフレーバーを0.4%〜0.8%添加した実施例20および21の液状甘味料では、味の厚みの付与が確認されたものの、フレーバーに起因する風味の発現を伴った。
従って、コク味付与成分としては、乳酸カルシウムおよびL−リシン塩酸塩が特に好ましいことが示唆された。