(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コンピュータを、請求項1から8のいずれか一項に記載の音響装置として動作させるためのプログラムであって、前記コンピュータを前記音響装置が備える各部として機能させるための音響制御プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(一実施形態)
以下、本発明の一実施形態に係る音響装置100を、
図1から
図7を参照しながら説明する。
図1は、音響装置100と、音響装置100とともに使用する電気ギター200と音響出力装置300と、を示すブロック図である。音響装置100は、電気ギター200からの音響信号が入力され、音響信号の解析および音響信号への音響効果の付与を行って、音響効果を付与した音響信号を音響出力装置300に出力する。
【0011】
音響装置100は、
図1に示すように、弦音響信号入力部10と、操作入力部11と、制御部12と、録音再生部13と、解析部14と、エフェクト部(音響効果付与部)15と、音響信号生成部16と、音響信号出力部17と、を備えている。
【0012】
電気ギター200は、6本の弦210と、弦音響信号取得部220と、を備えている。弦音響信号取得部220は、例えば弦210ごとに音響信号を分離して取得可能なディバイディッドピックアップであって、弦210の振動を弦210ごとに音響信号に変換し、弦210ごとに独立した音響信号(以降、「6弦独立音響信号(各弦独立音響信号)」という)を出力する。なお、
図1において、二重線の矢印は、音響信号が6弦独立音響信号であることを示している。
【0013】
音響出力装置300は、
図1に示すように、アンプ310と、スピーカ320と、を備えている。音響装置100から出力される音響信号をアンプ310により増幅し、スピーカ320により放音する。なお、
図1において、太線矢印は、音響信号が6弦独立音響信号でなく、6本の弦210の音響信号が統合されたものであることを示している。
【0014】
弦音響信号入力部10は、電気ギター200が出力する6弦独立音響信号を取得する。弦音響信号入力部10には、A/D変換部が含まれており、電気ギター200から取得したアナログ信号である音響信号を、デジタル信号に変換する。なお、電気ギター200からの音響信号がデジタル信号である場合は、A/D変換部による変換処理は不要である。
弦音響信号入力部10は、取得した6弦独立音響信号を、録音再生部13(弦音響信号書き込み部131と弦音響信号選択部134)と、解析部14と、に出力する。
【0015】
操作入力部11は、タッチパネルやスイッチやフットペダル等により構成された、演奏者からの操作の入力を受け付ける入力装置である。操作入力部11がタッチパネルである場合、タッチパネルは電気ギター200のボディ部分に装着されてあってもよい。また、操作入力部11は、タッチパネルやフットペダルなどの入力装置を組み合わせて構成されていてもよい。
演奏者は、操作入力部11を操作することで、録音指示と、再生指示と、エフェクト指示と、音響生成指示と、を入力することができる。操作入力部11に入力された演奏者からの指示は、制御部12に転送される。
【0016】
録音指示は、6弦独立音響信号の録音の開始および録音の停止を指示するものである。録音指示は弦ごとに行うことができる。例えば、録音指示は、6本の弦全てを録音する指示であってもよいし、特定の弦の音響信号のみを録音する指示であってもよい。例えば、操作入力部11にフットペダルが含まれている場合、フットペダルを操作することで、録音の開始および録音の停止を指示してもよい。
【0017】
再生指示は、録音部132に録音された音響信号の再生を指示するものである。再生指示も弦ごとに行うことができる。例えば、再生指示は、6本の弦全ての音響信号を再生する指示であってもよいし、特定の弦の音響信号のみを再生する指示であってもよい。また、再生指示は、録音された音響信号を一回のみ再生する指示であってもよいし、録音された音響信号を繰り返し再生(ループ再生)する指示であってもよい。
【0018】
エフェクト指示は、6弦独立音響信号に付与する音響効果の有無や種類やパラメータに関する指示である。エフェクト指示も弦ごとに行うことができる。例えば、エフェクト指示は、6本の弦の音響信号全てに対してエフェクト処理を有効にする指示であってもよいし、特定の弦の音響信号のみに対してエフェクト効果を有効にする指示であってもよい。例えば操作入力部11にタッチパネルが含まれている場合、指を接触させるタッチパネル上の位置をスライドさせて変更することで、音響効果のパラメータを変更させてもよい。
【0019】
音響生成指示は、電気ギター200の音響信号に重ね合わせる楽器(ドラムやギターやベースギター等)の音響信号を自動生成させる指示である。電気ギター200の演奏者の演奏に合わせてドラムなどの楽器の音響信号が重ね合わされ、演奏者はアンサンブル演奏のような演奏を楽しむことができる。
【0020】
制御部12は、操作入力部11に入力された演奏者からの指示に基づき、録音再生部13と、解析部14と、エフェクト部15と、音響信号生成部16と、を制御する。なお、
図1において、細線矢印は、制御部からの制御信号であることを示している。
【0021】
録音再生部13は、弦音響信号書き込み部131と、録音部132と、弦音響信号再生部133と、弦音響信号選択部134と、を有している。録音再生部13は、入力される音響信号を録音再生可能であり、操作入力部11に入力された演奏者からの指示に基づき、録音および再生を行う「ルーパー(Looper)」として機能する。演奏者は、例えば自身の演奏を録音し、録音した演奏をループ再生し、そのループ再生中の演奏にさらに自身の演奏を重ねる等の用途に使用することができる。録音再生部13は、弦ごとに録音再生が可能である。
【0022】
弦音響信号書き込み部131は、録音指示を受け取った制御部12からの制御信号に基づいて、弦音響信号入力部10から入力された6弦独立音響信号から、録音開始から録音停止までの録音対象の音響信号を、弦ごとに独立した音響信号として録音部132に転送する。録音指示が特定の弦の音響信号のみを録音する指示である場合は、対象の弦から取得した音響信号のみを録音部132に転送すればよい。
【0023】
弦音響信号書き込み部131は、転送する録音対象の音響信号に対して、6本の弦210のうち、いずれの弦から取得した音響信号であるかを特定可能なID番号(以降、「弦ID番号」という)を付与する。
例えば、録音指示が6弦と5弦の2本の弦を録音する指示である場合、6弦独立音響信号から録音対象の6弦と5弦の音響信号を録音部132に転送する。6弦の音響信号には弦ID番号「6」が付与され、5弦の音響信号には弦ID番号「5」が付与される。
【0024】
また、弦音響信号書き込み部131は、転送する録音対象の音響信号に対して、録音ごとに固有の録音ID番号を付与する。同時に記録される複数の弦の音響信号には、同じ録音ID番号が付与される。
【0025】
録音部132は、RAMやフラッシュメモリやハードディスクなどの記録媒体を備えており、デジタル信号である音響信号を音響データとして記録することができる。録音部132が備える記録媒体は、6本の弦の音響信号を同時に録音および再生することが十分可能な書き込みおよび読み込み速度を有している。演奏者は、記録媒体の記録容量の範囲で、音響信号を録音することができる。
【0026】
図2は、録音部132に記録される音響データについて説明する図である。
図2に示すように、音響データはテーブル形式のデータ構造で記録され、弦ID番号と録音ID番号とに基づいて格納される。音響データは、録音対象の音響信号に付与された弦ID番号に対応するテーブル列で、かつ、録音ID番号に対応するテーブル行であるテーブル該当箇所に記録される。
例えば、弦音響信号書き込み部131から、弦ID番号「6」と、録音ID番号「4」とが付与された音響信号が転送された場合、録音部132は転送された音響信号を、テーブル列が「6」で、テーブル行が「4」であるテーブル該当箇所に記録する。
【0027】
すなわち、録音部132に記録される音響データは、6本の弦210のうち、いずれの弦から取得した音響データであるかを特定可能である。また、録音部132に記録される音響データは、同時に録音された他の弦から取得した音響データを特定可能である。
【0028】
弦音響信号再生部133は、再生指示を受け取った制御部12からの制御信号に基づいて、再生対象の録音ID番号と弦ID番号に対応する音響データを読み出して、弦ごとに独立した音響信号として弦音響信号選択部134に出力する。再生指示が特定の弦の音響信号のみを再生する指示である場合は、対象の弦に対応する音響信号のみを読み出して、音響信号として出力する。
【0029】
弦音響信号選択部134は、再生指示を受け取った制御部12からの制御信号に基づいて、弦音響信号入力部10から入力される6弦独立音響信号のうち、再生指示があった弦の音響信号を、弦音響信号再生部133から転送される音響信号で置き換え、エフェクト部15に出力する。
例えば、再生指示が6弦と5弦の2本の弦を再生する指示である場合、弦音響信号選択部134は、弦音響信号入力部10から入力される6弦独立音響信号のうち、6弦と5弦の音響信号を、弦音響信号再生部133から転送される6弦と5弦の音響信号で置き換える。1弦から4弦までの音響信号の置き換えは実施しない。
【0030】
なお、弦音響信号選択部134は、上記の音響データで置き換えを実施せず、弦音響信号入力部10から入力される音響信号と、弦音響信号再生部133から転送される音響信号とを、弦ごとに重ね合わせ、音響信号として出力してもよい。すなわち、弦音響信号選択部134は、弦音響信号入力部10から入力される音響信号と、弦音響信号再生部133から転送される音響信号(再生音響信号)と、の少なくとも一方を出力すればよい。
【0031】
解析部14は、弦音響信号入力部10から入力される6弦独立音響信号のリアルタイム処理による解析と、録音部132に記録された音響データの非リアルタイム処理による解析と、を行う。解析部14が行う解析は、例えば、音響信号のコード解析や、アタック検出、BPM(Beats Per Minute)検出などである。
解析部14は、録音部132に記録された音響データに対して、非リアルタイム処理による解析を行うことができるため、リアルタイム処理による解析のみを行う場合と比較して、弦の音響信号の解析を行う時間を十分に確保することができる。
【0032】
エフェクト部(音響効果付与部)15は、エフェクト指示を受け取った制御部12からの制御信号と、解析部14の解析結果とに基づき、弦音響信号選択部134から入力される音響信号に音響効果を付与する。付与する音響効果は、例えばリバース効果や、ピッチシフト効果や、ディレイ効果等である。
解析部14は非リアルタイム処理により録音部132に記録された音響データの解析を行うことができるため、エフェクト部15は、その解析結果に基づき、音響信号のリアルタイム解析のみでは容易でない音響効果を付与することができる。
【0033】
エフェクト部15は、音響効果を付与した音響信号を音響信号出力部17に出力する。エフェクト部15が出力する音響信号は、弦ごとに独立した6弦独立音響信号である。なお、エフェクト部15は6本の弦の音響信号を統合した音響信号を出力してもよい。
【0034】
音響信号生成部16は、音響生成指示を受け取った制御部12からの制御信号と、解析部14の解析結果とに基づき、エフェクト部15が出力する音響信号に重ね合わせる楽器(ドラムやギターやベースギター等)の音響信号を生成する。例えば、解析部14が解析したBPMに合わせたドラム演奏を生成したり、解析部14が検出したコード進行に合わせたベース演奏を生成したりする。生成された音響信号は、音響信号出力部17に出力される。
【0035】
音響信号出力部17は、エフェクト部15が出力する6弦独立音響信号と、音響信号生成部16が出力する音響信号をミキシングして、全ての音響信号が統合された音響信号を生成する。生成された音響信号は、音響出力装置300に出力される。
【0036】
なお、音響装置100において、制御部12と、録音再生部13と、解析部14と、エフェクト部15と、音響信号生成部16と、音響信号出力部17とは、例えばCPU(中央処理装置)等の処理装置若しくは専用の電子回路で構成されてよい。
また、これらは、例えばそれぞれ別個の処理装置や電子回路で構成されてもよいし、例えばこれらのうち少なくとも一部が共通の処理装置や電子回路で構成されてもよい。
【0037】
次に、音響装置100の動作について説明する。
図3は、録音指示があった場合における音響装置100の動作を説明するフローチャートである。
【0038】
まず、音響装置100に電源が供給されると、音響装置100は、初期設定を実施し、録音スタンバイ状態となる(ステップS100)。音響装置100は、操作入力部11に入力される録音指示、例えば録音開始のトリガー動作を待つ(ステップS101)。ここで、録音開始のトリガー動作とは、操作入力部11のフットペダルの踏込動作や、タッチパネルの所定の場所へのタッチ操作などである。
録音指示が特定の弦の音響信号のみを録音する指示である場合は、演奏者は操作入力部から録音対象の弦を指定する。例えば、操作入力部11が複数のフットペダルで構成されている場合、録音対象の弦に対応するフットペダルを踏み込むことで、録音対象の弦を指定してもよい。操作入力部11がタッチパネルで構成されている場合、タッチする場所によって録音対象の弦を指定してもよい。
【0039】
演奏者が録音開始のトリガー動作を行った場合、音響装置100は録音動作を開始する(ステップS102)。制御部12は操作入力部11に入力された演奏者からの録音指示に基づき、弦音響信号書き込み部131に録音開始の制御信号を転送する。録音指示が特定の弦の音響信号のみを録音する指示である場合は、録音対象の弦を特定する制御信号も同時に転送する。
【0040】
ここで、録音終了の指示は、録音開始のトリガー動作同様に、演奏者が操作入力部に対して入力することで行ってもよい。また、録音開始から予め決められた録音期間が経過した際に、自動的に録音を終了してもよい。制御部12は、録音終了の指示等があった場合、弦音響信号書き込み部131に録音終了の制御信号を転送する。
【0041】
弦音響信号書き込み部131は、弦音響信号入力部10から入力された6弦独立音響信号から、録音開始から録音停止までの録音対象の音響信号を、弦ごとに独立した音響信号として録音部132に転送する。録音指示が特定の弦の音響信号のみを録音する指示である場合、録音対象の音響信号のみが転送される。
【0042】
録音対象の音響信号が転送された録音部132は、音響信号に付与された弦ID番号と録音ID番号とに基づいて音響データを記録する。原則、録音ID番号は録音が行われていないテーブル行に対応しており、同時に転送された複数の弦の音響信号は録音が行われていないテーブル行に音響データとして記録される。
【0043】
なお、既に録音が行われているテーブル行の一部を上書きする上書き録音が可能となるように録音部132を構成してもよい。演奏の間違い等が生じた際に録音内容を修正することができる。
【0044】
音響装置100は、上記の録音を完了すると録音動作を終了する(ステップS103)。なお、録音の動作は、一回の録音動作が完了する前に、異なる録音動作が開始されてもよく、その場合は、複数の録音動作が並列で動作する。
【0045】
次に、リバース効果を付与する場合における音響装置100の動作について説明する。リバース効果とは、音響信号を時間が進む方向が反対となる逆再生音響信号に変換する音響効果である。
図4は、録音指示後において、音響効果がリバース効果であるエフェクト指示があった場合における音響装置100の動作を説明するフローチャートである。以降の動作の説明は、
図4に示すフローチャートに沿って行う。
【0046】
音響装置100は、少なくとも一つの音響データの録音が開始されると、再生スタンバイ状態となる(ステップS200)。本フローチャートが示す音響装置100の動作では、録音部132における録音が完了すると、制御部12は弦音響信号再生部133に対して、録音した音響データのループ再生を開始させる。すなわち、演奏者が操作入力部11を操作して再生指示を行わなくても、録音完了後に自動的に音響データの再生が開始される(ステップS201)。このように音響装置100を動作させることで、録音した短い音響データがすぐにループ再生される音響信号を容易に作り出すことができる。
【0047】
録音部132における録音が完了すると、制御部12は解析部14に対して、録音された音響データの解析を行うことを指示する(ステップS202)。ステップS201における録音動作では1弦と2弦の2本の弦が録音対象であったため、制御部12はこれら2本の弦についてのアタック検出を指示する。
録音部132に記録される音響データは、弦ID番号ごとに記録されているため、特定の弦の音響データを特定できる。また、録音部132に記録される音響データにおいて、同時に録音された音響データは同一の録音ID番号を有しているので、解析部14は同時に録音された音響データを特定できる。
【0048】
図5(A)は、録音部132に同時に録音された1弦と2弦の音響信号を示している。
解析部14は、アタック検出を行うことで、音響信号において分割可能なフレーズの領域(以降、「フレーズ領域」という)を解析する。
例えば、
図5(A)に示す1弦の音響信号では、フレーズP1(A1〜B1)と、フレーズP2(A2〜B2)と、フレーズP3(A3〜B3)と、の3種類の分割可能なフレーズ領域が検出された。
例えば、
図5(A)に示す2弦の音響信号では、フレーズP4(A4〜B4)と、フレーズP5(A5〜B5)と、の2種類の分割可能なフレーズ領域が検出された。
【0049】
次に、音響装置100は、操作入力部11に入力されるエフェクト指示を待つ(ステップS203)。演奏者が操作入力部に音響効果がリバースであるエフェクト指示を入力すると、制御部12はエフェクト部15に対してリバース効果を付与することを指示する(ステップS204)。
【0050】
なお、演奏者が操作入力部11を操作してエフェクト指示を行わなくても、再生を開始し、所定時間経過後、例えば録音された音響信号の再生(ループ再生)が4回終了した後、自動的に音響効果の付与を開始してもよい。
【0051】
リバース効果を付与する指示を受けたエフェクト部15は、解析部14が解析した分割可能なフレーズ領域のうちから一つを選択し、選択したフレーズ領域に対してリバース効果を付与する。リバース効果を付与するフレーズ領域の選択は、例えばランダムに選択してもよいし、ピーク値が一番大きいフレーズ領域を選択してもよい。
図5(B)は、
図5(A)に示す音響信号に、リバース効果が付与された音響信号である。
図5(A)に示す1弦の音響信号では、フレーズP2(A2〜B2)は、時間が進む方向が反対となる逆再生音響信号に変換されている。
図5(B)に示す2弦の音響信号では、フレーズP5(A5〜B5)は、時間が進む方向が反対となる逆再生音響信号に変換されている。
【0052】
弦ごとに異なるリバース効果を付与するため、複雑なリバース効果を得ることができる。また、弦ごとにリバース効果を付与するため、リバース効果付与後においても、コードの整合性を保つことができる。
【0053】
このようなアタック検出およびリバース効果の付与は、音響信号のリアルタイム処理では容易に実施できないものであり、録音された音響データの解析等を非リアルタイム処理により行う音響装置100ならではの顕著な特徴である。
【0054】
音響効果の付与を開始してから所定時間経過後、例えば録音された音響信号の再生(ループ再生)が2回終了した後、エフェクト指示が引き続き有効かどうかを確認する(ステップS205)。操作入力部11からエフェクト指示が入力されていない場合、音響効果の付与を終了する(ステップS206)。操作入力部11からエフェクト指示が引き続き入力されている場合、ステップS204が再度実行される。
【0055】
再度実行されるステップS204において、エフェクト部15は、リバース効果を付与するフレーズ領域を変更してもよい。録音された音響信号の再生(ループ再生)ごとに、リバース効果が付与されるフレーズ領域を変更させることで、ギターのアルペジオ演奏に似た音響効果を得ることができる。
【0056】
次に、ピッチシフト効果を付与する場合における音響装置100の動作について説明する。
図6は、録音指示後において、音響効果がピッチシフト効果であるエフェクト指示があった場合における音響装置100の動作を説明するフローチャートである。以降の動作の説明は、
図6に示すフローチャートに沿って行う。
【0057】
音響装置100は、少なくとも一つの音響データの録音が開始されると、再生スタンバイ状態となる(ステップS300)。本フローチャートが示す音響装置100の動作では、操作入力部11に再生指示が入力されるまで、再生を開始しない。ここでは、演奏者は、フレーズではなく、1種類のコードのみを演奏して録音した。
【0058】
録音部132における録音が完了すると(ステップS301)、制御部12は解析部14に対して、録音された音響データのコード解析を行い、コードを特定することを指示する(ステップS302)。ステップS301における録音動作では4弦と5弦と6弦の3本の弦が録音対象であったため、制御部12は、これら3本の弦についてのコード解析を指示する。
録音部132に記録される音響データは、弦ID番号ごとに記録されているため、特定の弦の音響データを特定できる。また、録音部132に記録される音響データにおいて、同時に録音された音響データは同一の録音ID番号を有しているので、解析部14は同時に録音された音響データを特定できる。そのため、解析部14は録音された音響データからコードを特定できる。
【0059】
次に、解析部14は、特定したコードからコード変更する場合における弦ごとのピッチシフト量を決定する(ステップS303)。
図7(A)は、4弦と5弦と6弦の3本の弦に対するコード解析の結果である。
図7(A)に示すように、録音された音響データは、4弦が「ソ」、5弦「ミ」、6弦が「ド」であり、解析したコードは「C」である。解析部14は、「C」コードから、他のコード(以降、「生成コード」という)にコード変更する場合における、弦ごとのピッチシフト量を決定する。ここでは、生成コードは、「C」コードをルートコード(I)とした場合における、2度のマイナーコード(IIm)である「Dm」コードとする。
【0060】
図7(B)は、4弦と5弦と6弦の3本の弦に対するピッチシフト量である。
図7(B)に示すように、決定されたピッチシフト量は、4弦が「ソ」から「ラ」への全音シフト、5弦が「ミ」から「ファ」への半音シフト、6弦が「ド」から「レ」への全音シフト、である。
【0061】
弦ごとにピッチシフト量を変更できるため、例えばメジャーコードからマイナーコードへのコード変更など、6弦全てに同様のピッチシフトを行う場合では不可能なコード変更を行うことができる。
【0062】
同様に、生成コードがコード進行上でよく使用される他のコード(例えば、IV、V等)である場合における、弦ごとのピッチシフト量を決定する。ここで、コード進行は、演奏者が演奏する音楽のジャンルにて頻出するものからピックアップしてもよいし、演奏者が直接指定できるようにしてもよい。
【0063】
次に、音響装置100は、操作入力部11に入力される再生指示およびエフェクト指示を待つ(ステップS304)。演奏者が操作入力部に、再生指示とともに、音響効果がピッチシフトであるエフェクト指示を入力すると、制御部12は、弦音響信号再生部133が再生対象の音響データを再生する指示をするとともに、エフェクト部15に対してピッチシフト効果を付与する指示をする(ステップS305)。ここでの再生指示は、録音された音響データを一回のみ再生する指示である。
ここで、演奏者は、音響効果がピッチシフトであるエフェクト指示とともに、ピッチシフトして生成する生成コード(例えば、IIm、IV、V等)を指定する。ここでは、生成コードとしてIImが指定されたとする。
【0064】
弦音響信号再生部133は再生対象の音響データを再生する。エフェクト部15は、指定された生成コードに基づいて弦ごとに決定されたピッチシフト量によるピッチシフト効果を付与する。その結果、エフェクト部15からは、
図7(B)に示す生成コードである「Dm」の音響信号が出力される。
【0065】
このようなコード解析および弦ごとのピッチシフト効果の付与は、音響信号のリアルタイム処理では容易に実施できないものであり、録音された音響データの解析等を非リアルタイム処理により行う音響装置100ならではの顕著な特徴である。
【0066】
再生対象の音響データを再生した後、操作入力部11から録音指示や他のエフェクト指示などの他の指示が入力されているかどうかを確認する(ステップS306)。操作入力部11から他の指示が入力されている場合、ピッチシフト効果の音響効果の付与を終了する(ステップS307)。操作入力部11から他の指示が入力されていない場合、ステップS304が再度実行される。
【0067】
再度実行されるステップS304において、演奏者は操作入力部に、再生指示とともに、音響効果がピッチシフトであるエフェクト指示を入力する。この時に指定する生成コードに、先ほど指定した生成コードと異なる生成コードを指定することで、録音された一つのコードから、複数のコードを生成して再生でき、コード進行を伴うループ再生を行うことができる。
【0068】
(一実施形態の効果)
以上のように構成される本実施形態の音響装置100によれば、弦210の音響信号を弦ごとに録音再生可能で、リアルタイム処理に加えて、解析部14による非リアルタイム処理により、音響信号の解析を弦ごとに行うことができる。またその解析結果を用いて、弦ごとに異なるリバース効果や各種音響効果を付与することができる。
【0069】
上述した実施形態における音響装置100をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0070】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の一実施形態および以下に示す変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0071】
(変形例1)
例えば、上記実施形態では、音響装置100が接続される弦楽器は6本の弦を有する電気ギター200であったが、音響装置100が接続される弦楽器は電気ギター200に限定されない。音響装置100が接続される弦楽器は、4本の弦を有するベースギターであってもよい。
【0072】
(変形例2)
例えば、上記実施形態では、録音部132に録音される音響信号は弦音響信号書き込み部131から転送される音響信号であったが、録音部132に録音される音響信号はこれに限定されない。録音部132には、エフェクト部15が出力する音響信号を録音できるように構成してもよい(リサンプリング)。音響効果を付与した音響信号を録音して、再度その音響信号に音響効果を付与することができる。
【0073】
(変形例3)
なお、
図6のフローチャートで示す音響装置100の動作では、エフェクト指示がピッチシフト効果であったが、音響効果はピッチシフト効果に限定されない。音響効果は、弦ごとにディレイ時間が異なるディレイ効果であってもよいし、弦ごとに音響信号をミュートするミュート効果であってもよい。いずれの場合も、弦ごとに異なる音響効果を付与することができ、ギターのアルペジオ演奏に似た音響効果を得ることができる。