(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記目標角度設定部は、前記目標シフトレンジが切り替わると、前記第2目標値を前記目標回転角度に設定し、前記出力軸センサが正常である場合、前記出力軸信号に基づいて前記目標回転角度を前記第1目標値に補正し、前記出力軸センサが異常である場合、前記目標回転角度が前記第2目標値である状態を維持する請求項2に記載のシフトレンジ制御装置。
前記吸い込み範囲は、前記付勢部材による負荷トルクが前記モータのフリクションより大きく、かつ、前記凹部の一方に前記係合部材の移動限界である壁部(226、227)がある場合、前記壁部までの範囲である請求項2または3に記載のシフトレンジ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(一実施形態)
シフトレンジ制御装置を図面に基づいて説明する。一実施形態によるシフトレンジ制御装置を
図1〜
図6に示す。
図1および
図2に示すように、シフトレンジ切替システムとしてのシフトバイワイヤシステム1は、モータ10、シフトレンジ切替機構20、パーキングロック機構30、および、シフトレンジ制御装置40等を備える。モータ10は、図示しない車両に搭載されるバッテリから電力が供給されることで回転し、シフトレンジ切替機構20の駆動源として機能する。本実施形態のモータ10は、SRモータであるが、例えば永久磁石式のDCブラシレスモータ等、どのようなモータを用いてもよい。
【0010】
図2に示すように、モータ回転角センサとしてのエンコーダ13は、モータ10の図示しないロータの回転位置を検出する。エンコーダ13は、例えば磁気式のロータリーエンコーダであって、ロータと一体に回転する磁石と、磁気検出用のホールIC等により構成される。エンコーダ13は、ロータの回転に同期して、所定角度ごとにA相およびB相のパルス信号を出力する。以下、エンコーダ13からの信号をモータ回転角信号SgEとする。減速機14は、モータ10のモータ軸と出力軸15との間に設けられ、モータ10の回転を減速して出力軸15に出力する。これにより、モータ10の回転がシフトレンジ切替機構20に伝達される。
【0011】
出力軸センサ16は、第1センサ部161、および、第2センサ部162を有し、出力軸15の回転位置を検出する。本実施形態の出力軸センサ16は、後述する回転部材としてのディテントプレート21に設けられるターゲット215(
図1参照)の磁界の変化を検出する磁気センサであり、ターゲット215の磁界を検出可能な箇所に取り付けられる。図中、第1センサ部161を「センサ1」、第2センサ部162を「センサ2」と記載する。
【0012】
センサ部161、162は、ターゲット215の磁界の変化を検出する磁気抵抗効果素子(MR素子)を有する、いわゆるMRセンサである。第1センサ部161は、ターゲット215の回転位置に応じた磁界を検出し、出力軸信号Sg1を後述のECU50に出力する。第2センサ部162は、ターゲット215の回転位置に応じた磁界を検出し、出力軸信号Sg2をECU50に出力する。本実施形態の出力軸センサ16は、2つのセンサ部161、162を有しており、それぞれ独立に出力軸信号Sg1、Sg2をECU50に送信している。すなわち、出力軸センサ16は、2重系となっている。
【0013】
図1に示すように、シフトレンジ切替機構20は、ディテントプレート21、および、付勢部材としてのディテントスプリング25等を有し、減速機14から出力された回転駆動力を、マニュアルバルブ28、および、パーキングロック機構30へ伝達する。ディテントプレート21は、出力軸15に固定され、モータ10により駆動される。本実施形態では、ディテントプレート21がディテントスプリング25の基部から離れる方向を正回転方向、基部に近づく方向を逆回転方向とする。
【0014】
ディテントプレート21には、出力軸15と平行に突出するピン24が設けられる。ピン24は、マニュアルバルブ28と接続される。ディテントプレート21がモータ10によって駆動されることで、マニュアルバルブ28は軸方向に往復移動する。すなわち、シフトレンジ切替機構20は、モータ10の回転運動を直線運動に変換してマニュアルバルブ28に伝達する。マニュアルバルブ28は、バルブボディ29に設けられる。マニュアルバルブ28が軸方向に往復移動することで、図示しない油圧クラッチへの油圧供給路が切り替えられ、油圧クラッチの係合状態が切り替わることでシフトレンジが変更される。
【0015】
ディテントプレート21のディテントスプリング25側には、2つの凹部221、222が設けられる。本実施形態では、ディテントスプリング25の基部に近い側を凹部222、遠い側を凹部221とする。本実施形態では、凹部221がPレンジに対応し、凹部222がPレンジ以外のNotPレンジに対応する。
【0016】
ディテントスプリング25は、弾性変形可能な板状部材であり、先端に係合部材としてのディテントローラ26が設けられる。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26をディテントプレート21の回動中心側に付勢する。ディテントプレート21に所定以上の回転力が加わると、ディテントスプリング25が弾性変形し、ディテントローラ26が凹部221、222間を移動する。ディテントローラ26が凹部221、222のいずれかに嵌まり込むことで、ディテントプレート21の揺動が規制され、マニュアルバルブ28の軸方向位置、および、パーキングロック機構30の状態が決定され、自動変速機5のシフトレンジが固定される。ディテントローラ26は、シフトレンジがNotPレンジのとき、凹部222に嵌まり込み、Pレンジのとき、凹部221に嵌まり込む。本実施形態では、シフトレンジに応じ、ディテントスプリング25のスプリング力にてディテントローラ26が嵌まり込む箇所を、凹部221、222の最底部とする。
【0017】
パーキングロック機構30は、パーキングロッド31、円錐体32、パーキングロックポール33、軸部34、および、パーキングギア35を有する。パーキングロッド31は、略L字形状に形成され、一端311側がディテントプレート21に固定される。パーキングロッド31の他端312側には、円錐体32が設けられる。円錐体32は、他端312側にいくほど縮径するように形成される。ディテントプレート21が逆回転方向に揺動すると、円錐体32がP方向に移動する。
【0018】
パーキングロックポール33は、円錐体32の円錐面と当接し、軸部34を中心に揺動可能に設けられる、パーキングロックポール33のパーキングギア35側には、パーキングギア35と噛み合い可能な凸部331が設けられる。ディテントプレート21が逆回転方向に回転し、円錐体32がP方向に移動すると、パーキングロックポール33が押し上げられ、凸部331とパーキングギア35とが噛み合う。一方、ディテントプレート21が正回転方向に回転し、円錐体32がNotP方向に移動すると、凸部331とパーキングギア35との噛み合いが解除される。
【0019】
パーキングギア35は、図示しない車軸に設けられ、パーキングロックポール33の凸部331と噛み合い可能に設けられる。パーキングギア35と凸部331とが噛み合うと、車軸の回転が規制される。シフトレンジがNotPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によりロックされず、車軸の回転は、パーキングロック機構30により妨げられない。また、シフトレンジがPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によってロックされ、車軸の回転が規制される。
【0020】
図2に示すように、シフトレンジ制御装置40は、モータドライバ41、および、ECU50等を有する。モータドライバ41は、モータ10の各相(U相、V相、W相)への通電に係る駆動信号を出力する。モータドライバ41とバッテリとの間には、モータリレー46が設けられる。モータリレー46は、イグニッションスイッチ等である車両の始動スイッチがオンされているときにオンされ、モータ10側へ電力が供給される。また、モータリレー46は、始動スイッチがオフされているときにオフされ、モータ10側への電力の供給が遮断される。また、モータリレー46のオンオフを制御することで、モータ10への給電または遮断を切り替える。
【0021】
ECU50は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。ECU50における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
【0022】
ECU50は、ドライバ要求シフトレンジ、ブレーキスイッチからの信号および車速等に基づいてモータ10の駆動を制御することで、シフトレンジの切り替えを制御する。また、ECU50は、車速、アクセル開度、および、ドライバ要求シフトレンジ等に基づき、変速用油圧制御ソレノイド6の駆動を制御する。変速用油圧制御ソレノイド6を制御することで、変速段が制御される。変速用油圧制御ソレノイド6は、変速段数等に応じた本数が設けられる。本実施形態では、1つのECU50がモータ10およびソレノイド6の駆動を制御するが、モータ10を制御するモータ制御用のモータECUと、ソレノイド制御用のAT−ECUとを分けてもよい。以下、モータ10の駆動制御を中心に説明する。
【0023】
ECU50は、モータ角度演算部51、出力軸信号取得部52、異常判定部53、目標角度設定部54、および、駆動制御部55等を有する。モータ角度演算部51は、エンコーダ13から取得されるモータ回転角信号SgEに基づき、A相信号およびB相信号のパルスエッジをカウントし、エンコーダカウント値θenを演算する。エンコーダカウント値θenは、モータ10の回転位置に応じた値であって、「モータ角度」に対応する。
【0024】
出力軸信号取得部52は、出力軸センサ16から出力軸信号Sg1、Sg2を取得する。異常判定部53は、出力軸センサ16の異常を判定する。なお、エンコーダ13の異常監視は別途行われており、本実施形態では、エンコーダ13が正常であるものする。
【0025】
目標角度設定部54は、目標シフトレンジおよび出力軸信号Sg1、Sg2に基づき、モータ10を停止させる目標カウント値θcmdを設定する。本実施形態では、目標カウント値θcmdが「目標回転角度」に対応する。駆動制御部55は、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdとなるように、フィードバック制御等によりモータ10の駆動を制御する。モータ10の駆動制御の詳細は、どのようであってもよい。
【0026】
図3では、上段に負荷トルク、中段にディテントプレート21およびディテントローラ26、下段に出力軸信号を示す。本実施形態の出力軸センサ16は、Pレンジに対応する値V1、NotPレンジに対応する値V3、および、中間値V2の3段階の値を出力軸信号Sg1、Sg2として出力する。出力軸信号Sg1、Sg2の取り得る値V1、値V2、値V3は、離散しており、各値の中間値は取らない。また、値V1と値V2、値V2と値V3との差は、分解能やセンサ誤差と比較して、十分に大きい値となるように設定される。すなわち本実施形態では出力軸信号Sg1、Sg2は、値がステップ的に変化する。補足として、本実施形態では、出力軸15の回転に伴い、出力軸信号Sg1、Sg2が、連続とみなせない程度に異なる値に切り替わっており、これを「値がステップ的に変化する」ものとする。なお、値V1と値V2との差、および、値V2と値V3との差は、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
ここで、出力軸センサ16の検出値が値V1から値V2、または、値V2から値V1に切り替わるときの出力軸角度を角度θ2とする。また、出力軸センサ16の検出値が値V2から値V3、または、値V3から値V2に切り替わるときの出力軸角度を角度θ6とする。以下、出力軸信号Sg1、Sg2は、正常時、誤差等を除けば同様に変化するので、出力軸信号Sg2を適宜省略する。
【0028】
また、ディテントローラ26が、凹部221の最底部に位置するときの出力軸角度を角度θ1、山部223の頂点に位置するときの出力軸角度を角度θ4、凹部222の最底部に位置するときの出力軸角度を角度θ8とする。さらにまた、ディテントローラ26が、Pレンジ側の回転限界位置である壁部226に当接するまで回転させたときの出力軸角度を角度θ0、NotPレンジ側の回転限界位置である壁部227に当接するまで回転させたときの出力軸角度を角度θ9とする。実際には、角度θ0、θ9は、ディテントローラ26の大きさに応じて内側にずれるが、ここでは詳細を省略した。
【0029】
以下、シフトレンジをPレンジからNotPレンジに切り替える場合を中心に説明するが、NotPレンジからPレンジへの切り替えについても同様である。シフトレンジをPレンジからNotPレンジに切り替える場合、ディテントローラ26を、凹部221から凹部222へ移動させる。
図3では、レンジ切替完了時にディテントローラ26が嵌まり合う凹部222の最底部をPB、後述する吸い込み範囲の中心をPCとする。また、
図3の上段に示す負荷トルクは、ディテントスプリング25のスプリング力にてディテントローラ26にかかるトルクであって、モータ10の回転によるトルクと同方向の場合を正、反対方向の場合を負とする。
【0030】
モータ10の回転により、ディテントローラ26が凹部221に嵌まり込んでいる状態から抜け出し、山部223に到達するまでの間、負荷トルクは負となる。また、ディテントローラ26が山部223の頂点に向かうにしたがって、負荷トルクは0に近づき、ディテントローラ26が山部223の頂点に位置するとき、負荷トルクが0となる。
【0031】
ディテントローラ26が山部223の頂点を超えると、負荷トルクは、モータ10によるトルクと同じ方向となるので、負荷トルクが正の値となり、ディテントローラ26が凹部222の中心に落とし込まれるまで、負荷トルクは増大する。ディテントローラ26が凹部222に嵌まり込むと、負荷トルクの正負が反転する。すなわち、負荷トルクは出力軸角度に応じて変化する。一方、モータフリクションは、出力軸角度によらず、略一定である。
【0032】
ディテントスプリング25のスプリング力による負荷トルクが、モータ10等にて生じるフリクションより大きければ、モータ10をオフしたとき、ディテントスプリング25のスプリング力によりディテントローラ26を凹部221、222のいずれかに落とし込むことが可能である。すなわち、出力軸角度が角度θ5より大きい場合、ディテントスプリング25のスプリング力にてディテントローラ26を凹部222に落とし込むことができる。また、出力軸角度が角度θ3より小さい場合、ディテントスプリング25のスプリング力にてディテントローラ26を凹部221に落とし込むことができる。本実施形態では、出力軸角度が角度θ0以上、角度θ3未満の範囲を、「P吸い込み範囲」とし、出力軸角度が角度θ6より大きく角度θ9以下の範囲を「NotP吸い込み範囲」とする。ここで、吸い込み範囲とは、モータ10をオフしたときに、ディテントスプリング25のスプリング力にて、ディテントローラ26が凹部221、222のいずれかに戻される範囲である。本実施形態では、ディテントプレート21の形状が非対称であって、特に凹部222では、吸い込み範囲の中心と、最底部とが異なっている。ディテントプレート21を非対称形状とすることで、ディテントローラ26が凹部221から抜けにくくすることができる。
【0033】
本実施形態では、出力軸信号Sg1が変化する出力軸位置である角度θ2とディテントローラ26が凹部222の最底部に嵌まり込んでいるときの出力軸位置である角度θ8との間の角度を補正量Aとして設定しておく。出力軸信号Sg1が値V1から値V2に切り替わったタイミングにおけるエンコーダカウント値θenと補正量Aとに基づいて目標カウント値θcmdを補正することで、ディテントローラ26が凹部222に嵌まり込む位置まで、モータ10を適切に回転させることができる。ディテントローラ26が凹部222に嵌まり込んでいれば、モータ10をオフしても、出力軸15は動かない。
【0034】
ここで、出力軸センサ16に異常が生じた場合、誤った信号に基づいて目標カウント値θcmdが補正され、目標カウント値θcmdが吸い込み範囲よりも手前側に設定されると、レンジ切り替えができない虞がある。また、誤った信号に基づいて目標カウント値θcmdが補正され、目標カウント値θcmdが壁部227より奥側に設定されると、ディテントローラ26が壁部227に衝突し、最悪の場合、シフトレンジ切替機構20が破損する虞がある。
【0035】
そこで本実施形態では、出力軸センサ16が正常であれば、出力軸センサ16の検出値に基づいて目標カウント値θcmdを補正する。一方、出力軸センサ16の異常が検出された場合、吸い込み位置の中間位置である角度θ7を狙ってモータ10を駆動する。本実施形態では、出力軸センサ16が異常である場合、レンジ切替前にディテントローラ26が凹部221に嵌まり合っているときの出力軸位置である角度θ1と角度θ7との間の角度を初期値Bとして設定しておき、初期値Bの分、モータ10を回転させることで、ディテントローラ26が吸い込み範囲内ある位置にてモータ10を停止させる。この場合、モータ10をオフした後に出力軸15が回転する可能性があるものの、最低限のシフトレンジ切替動作は保証され、退避走行を確保することができる。補正量Aおよび初期値Bは、エンコーダ13のカウント数に対応する値とする。
【0036】
本実施形態の異常判定処理を
図4のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、異常判定部53にて所定の周期で実行される。以下、ステップS101の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。他のステップも同様である。
【0037】
S101では、異常判定部53は、出力軸信号Sg1、Sg2がともに正常範囲内か否かを判断する。詳細には、出力軸信号Sg1、Sg2が、正常下限値TH1より大きく、正常上限値TH2より小さい場合、正常範囲内であるとする。出力軸信号Sg1、Sg2の少なくとも一方が正常範囲内ではないと判断された場合(S101:NO)、S104へ移行する。出力軸信号Sg1、Sg2が共に正常範囲内であると判断された場合(S101:YES)、S102へ移行する。
【0038】
S102では、異常判定部53は、第1出力軸信号Sg1と第2出力軸信号Sg2との差の絶対値が、偏差異常判定閾値THdより小さいか否かを判断する。第1出力軸信号Sg1と第2出力軸信号Sg2との差の絶対値が偏差異常判定閾値THd以上であると判断された場合(S102:NO)、出力軸信号Sg1、Sg2に偏差異常が生じていると判定し、S104へ移行する。第1出力軸信号Sg1と第2出力軸信号Sg2との差の絶対値が偏差異常判定閾値THd未満であると判断された場合(S102:YES)、S103へ移行する。
【0039】
S103では、異常判定部53は、出力軸センサ16には異常が生じていないと判定し、異常フラグをリセットする。S104では、異常判定部53は、出力軸センサ16に異常が生じていると判定し、異常フラグをセットする。図中、フラグがセットされていない状態を「0」、セットされている状態を「1」とする。
【0040】
本実施形態の目標角度設定処理を
図5のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、ECU50にて所定の周期で実行される。S201では、ECU50は、目標シフトレンジが変化したか否かを判断する。目標シフトレンジが変化していないと判断された場合(S201:NO)、S204へ移行する。目標シフトレンジが変化したと判断された場合(S201:YES)、S202へ移行する。ここでは、シフトレンジをPレンジからNotPレンジに切り替える場合について説明する。
【0041】
S202では、ECU50は、通電フラグをセットする。通電フラグがセットされると、モータ10への通電が開始され、ディテントローラ26が目標シフトレンジに応じた凹部に移動するように、モータ10が駆動される。
【0042】
S203では、目標角度設定部54は、目標カウント値θcmdを現在のエンコーダカウント値θen_0に初期値Bを加算した値とする(式(1)参照)。初期値Bは、切替後のレンジであるNotPレンジに対応する凹部222の吸い込み範囲の中央までの角度に対応するエンコーダ13のカウント数である。この例では、θen_0+Bが「第2目標値」に対応する。換言すると、第2目標値は、レンジ切替前のモータ角度に、レンジ切替前の凹部の最底部と吸い込み範囲の中心との間の角度を加算した値である。なお、回転方向が逆方向であれば、レンジ切替前の凹部の最底部と吸い込み範囲の中心との間の角度を負の値とし、回転方向に応じて正負を設定すればよい。
【0043】
θcmd=θen_0+B ・・・(1)
【0044】
S204では、目標角度設定部54は、通電フラグがセットされているか否かを判断する。通電フラグがセットされていないと判断された場合(S204:NO)、本ルーチンを終了する。通電フラグがセットされていると判断された場合(S204:YES)、S205へ移行する。
【0045】
S205では、目標角度設定部54は、異常フラグがセットされているか否かを判断する。異常フラグがセットされていると判断された場合(S205:YES)、S206およびS207の処理を行わず、S208へ移行する。異常フラグがセットされていないと判断された場合(S205:NO)、S206へ移行する。
【0046】
S206では、目標角度設定部54は、出力軸センサ16の出力が変化したか否かを判断する。ここでは、出力軸信号Sg1、Sg2が値V1から値V2に変化したときに肯定判断する。出力軸センサ16の出力が変化していないと判断された場合(S206:NO)、S208へ移行し、式(1)の目標カウント値θcmdにてモータ10を制御する。出力軸センサ16の出力が変化したと判断された場合(S206:YES)、S207へ移行する。
【0047】
S207では、目標角度設定部54は、目標カウント値θcmdを補正する(式(2)参照)。式中のθen_1は、出力軸信号Sg1、Sg2が値V1から値V2に変化したときのエンコーダカウント値であり、補正量Aは、出力軸信号Sg1、Sg2が変化する位置から、NotPレンジに対応する凹部222の最底部までの角度に対応するエンコーダ13のカウント数である。この例では、θen+Aが「第1目標値」に対応する。換言すると、第1目標値は、出力軸信号の値が切り替わったタイミングのモータ角度に、出力軸信号の値が切り替わる位置から目標シフトレンジに対応する凹部の最底部との間の角度を加算した値である。回転方向が逆方向のときの考え方は、第2目標値と同様である。
【0048】
θcmd=θen_1+A ・・・(2)
【0049】
S208では、ECU50は、モータ10の停止制御が完了したか否かを判断する。モータ10の停止制御は、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdを含む制御範囲内となったとき、固定相通電によりモータ10を停止させる制御である。固定相通電を開始してから、モータ10を停止させるのに十分な時間である所定時間が経過した場合、停止制御が完了したと判定する。モータ10の停止制御が完了していないと判断された場合(S208:NO)、S209の処理を行わず、本ルーチンを終了する。モータ10の停止制御が完了したと判断された場合(S208:YES)、S209へ移行し、通電フラグをリセットする。
【0050】
本実施形態のモータ制御処理を
図6のタイムチャートに基づいて説明する。
図6では、共通時間軸を横軸とし、上段にモータ角度、下段に出力軸信号を示す。モータ角度は、エンコーダ13のカウント値で記載する。また、出力軸センサ16が正常である場合を実線、異常である場合を一点鎖線で示す。
【0051】
時刻t1にて、目標シフトレンジがPレンジからNotPレンジに変化すると、モータ駆動前のエンコーダカウント値θen_0に初期値Bを加算した値が目標カウント値θcmdとして設定される。駆動開始から初期値Bの分、モータ10を回転させると、ディテントローラ26が凹部222の吸い込み範囲の中心となる位置まで出力軸15が回転する。
【0052】
時刻t2にて、出力軸信号Sg1が値V1から値V2に切り替わると、出力軸センサ16が正常であれば、時刻t2のときのエンコーダカウント値θen_1に補正量Aを加算した値を目標カウント値θcmdとする。出力軸信号Sg1が値V1から値V2に切り替わったタイミングから補正量Aの分、モータ10を回転させると、ディテントローラ26が凹部222の最底部に嵌まり合う位置まで出力軸15が回転する。これにより、モータ10をオフしたとき、出力軸15の回転や、出力軸15の回転に伴う振動を抑制することができる。
【0053】
本実施形態では、出力軸信号Sg1が値V1から値V2に切り替わるタイミングにて、目標カウント値θcmdを補正しているが、例えば出力軸信号Sg1が値V2から値V3に切り替わるタイミングにて、目標カウント値θcmdを再補正する、といった具合に、レンジ切替中に複数回、目標カウント値θcmdを補正するようにしてもよい。
【0054】
一方、出力軸センサ16が異常である場合、出力軸センサ16の検出値を用いた補正は行わず、ディテントローラ26が凹部222の吸い込み範囲の中心となるように、モータ10を制御する。固定相通電による停止制御終了後、モータ10をオフすると、ディテントスプリング25のスプリング力にて、ディテントローラ26が凹部222の最底部に落とし込まれる。ここで、モータ10が停止している状態から、初期値Bだけモータ10を回転させた位置が吸い込み範囲の中心付近であれば、誤差等の影響により吸い込み範囲の中心から多少ずれていたとしても、十分に吸い込み範囲内である蓋然性が高い。したがって、ディテントローラ26を凹部222の最底部に確実に落とし込むことができ、最低限のレンジ切り替え動作を保障可能である。これにより、退避走行性能が向上する。なお、
図6では、出力軸信号Sg1が値V1に固着する異常を示しているが、異常の種類は問わない。
【0055】
特に、本実施形態では、凹部222の吸い込み範囲の中心が凹部222の最底部よりも回転方向手前側であって、第2目標値を凹部222の最底部よりも回転方向手前側に設定しているので、ディテントローラ26は、凹部222の最底部よりも奥側まで回転することがなく、壁部227には当接しない。また、出力軸センサ16に基づいて誤った補正がなされることがないので、目標カウント値θcmdが壁部227よりも奥側に設定されてディテントローラ26が壁部227に衝突するのを防ぐことができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のシフトレンジ制御装置は、モータ10の駆動を制御することで車両のシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤシステム1を制御するものであって、モータ角度演算部51と、出力軸信号取得部52と、異常判定部53と、目標角度設定部54と、駆動制御部55と、を備える。
【0057】
モータ角度演算部51は、モータ10の回転を検出するエンコーダ13から、モータ10の回転位置に応じたモータ回転角信号SgEを取得し、モータ回転角信号SgEに基づいてエンコーダカウント値θenを演算する。出力軸信号取得部52は、モータ10の回転が伝達される出力軸15の回転位置を検出する出力軸センサ16から、出力軸15の回転位置に応じた出力軸信号Sg1、Sg2を取得する。異常判定部53は、出力軸センサ16の異常を判定する。目標角度設定部54は、目標シフトレンジに応じた目標カウント値θcmdを設定する。駆動制御部55は、エンコーダカウント値θenが目標カウント値θcmdとなるように、モータ10の駆動を制御する。
【0058】
目標角度設定部54は、出力軸センサ16が正常である場合と、出力軸センサ16が異常である場合とで、目標カウント値θcmdを異なる値に設定する。これにより、出力軸センサ16に異常が生じた場合であっても、適切にシフトレンジを切替可能である。
【0059】
シフトバイワイヤシステム1は、ディテントプレート21と、ディテントローラ26と、ディテントスプリング25と、を備える。ディテントプレート21は、複数の凹部221、222および凹部221、222の間の山部223が形成され、出力軸15と一体に回転する。ディテントローラ26は、シフトレンジに応じた凹部221、222に係合可能である。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26が凹部221、222に嵌まり込むように、ディテントローラ26を付勢する。
【0060】
目標角度設定部54は、出力軸センサ16が正常であるとき、ディテントローラ26が目標シフトレンジに応じた凹部221、222の最底部に嵌まり合う状態となるときの出力軸15の回転位置に応じた値である第1目標値を目標カウント値θcmdとする。また、目標角度設定部54は、出力軸センサ16が異常であるとき、モータ10をオフしたときにディテントローラ26が凹部221、222の最底部に移動可能である吸い込み範囲内となるときの出力軸15の回転位置に応じた値である第2目標値を目標カウント値θcmdとする。
【0061】
これにより、出力軸センサ16が正常である場合、ディテントローラ26が凹部221、222の最底部となる位置まで、モータ10を適切に回転させることができるので、モータ10をオフしたときに出力軸15が動かず、モータオフ時の振動を抑制することができる。また、出力軸センサ16が異常である場合であっても、ディテントローラ26が吸い込み範囲内であれば、ディテントローラ26を凹部221、222の最底部に落とし込むことができるので、シフトレンジ切替の動作を保障可能であり、退避走行性能が向上する。
【0062】
目標角度設定部54は、目標シフトレンジが切り替わると、第2目標値を目標カウント値θcmdに設定し、出力軸センサ16が正常である場合、出力軸信号Sg1、Sg2に基づいて目標カウント値θcmdを第1目標値に補正し、出力軸センサ16が異常である場合、目標カウント値θcmdが第2目標値である状態を維持する。これにより、目標カウント値θcmdを適切に設定することができる。
【0063】
吸い込み範囲は、ディテントスプリング25による負荷トルクがモータ10のフリクションより大きく、かつ、凹部221、222の一方にディテントローラ26の移動限界である壁部226、227がある場合、壁部226、227までの範囲である。これにより、出力軸センサ16の異常時においても、ディテントスプリング25のスプリング力により、ディテントローラ26を凹部221、222に落とし込むことができる。また、凹部221、222の一方に壁部226、227がある場合、壁部226、227よりも奥側に目標カウント値θcmdが設定されることがないので、ディテントローラ26の壁部226、227への衝突を防ぐことができる。
【0064】
特に本実施形態では、ディテントプレート21は、凹部222の最底部と吸い込み範囲の中心とが異なる形状に形成されており、第2目標値は、ディテントローラ26が吸い込み範囲の中心に位置するときの出力軸15の回転位置に応じた値である。ここで、吸い込み範囲の中心とは、厳密に中心に限らず、誤差程度は許容される。また、モータ軸と出力軸との間にガタが存在する場合、モータ始動時のモータ軸がガタ内のどの位置にあるか不明であるため、実際に設定される第2目標値は、最大でガタ分のずれは発生しうる。
【0065】
第2目標値を、吸い込み範囲の中心に設定することで、モータ10がオフされたときに、ディテントローラ26を確実に凹部221、222の最底部まで移動させることができる。
【0066】
(他の実施形態)
上記実施形態では、第2目標値は、吸い込み範囲の中心に設定される。他の実施形態では、第2目標値は、吸い込み範囲内であれば、吸い込み範囲の中心からずれていてもよい。
【0067】
上記実施形態では、モータ回転角センサは、エンコーダである。他の実施形態では、モータ回転角センサは、エンコーダに限らず、レゾルバ等、どのようなものを用いてもよい。すなわち、モータ角度は、エンコーダカウント値に限らず、モータ角度に換算可能などのような値であってもよい。
【0068】
上記実施形態では、出力軸センサとしてMRセンサが用いられ、出力軸信号が3段階に変化する。他の実施形態では、出力軸信号は、例えばPレンジに対応する値とNotPレンジに対応する値の2段階に変化するようにしてもよい。また出力軸信号は、4段階以上に値が切り替わるようにしてもよい。
【0069】
他の実施形態では、出力軸センサは、どのようなものであってもよく、例えばMRセンサ以外の磁気センサを用いてもよい。また例えば、ポテンショメータのように、出力軸の回転に応じて値がリニアに変化するものを用いてもよい。また、各レンジに対応する出力軸位置のときにオンオフするスイッチ式のものを用いてもよい。
【0070】
上記実施形態では、出力軸センサから、2つの独立した出力軸信号が出力される2重系となっている。他の実施形態では、出力軸センサから出力される出力軸信号数は、1でもよいし、3以上でもよい。換言すると、出力軸センサは、1重系であってもよいし、3重系以上の多重系であってもよい。また、モータ回転角センサが多重系であってもよい。
【0071】
上記実施形態では、回転部材がディテントプレートであり、係合部材がディテントローラである。他の実施形態では、回転部材および係合部材は、ディテントプレートおよびディテントローラに限らず、形状等、どのようなものであってもよい。また他の実施形態では、シフトレンジ切替機構やパーキングロック機構等は、上記実施形態と異なっていてもよい。
【0072】
上記実施形態では、ディテントプレートには2つの凹部が設けられる。他の実施形態では、凹部の数は2つに限らず、いくつであってもよい。例えば、ディテントプレートの凹部の数が4つであって、それぞれの凹部がP(パーキング)、R(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)の各レンジに対応するようにしてもよい。この場合、RレンジおよびNレンジに対応する凹部には、両側ともに壁部がないので、吸い込み範囲はディテントスプリングの負荷トルクとモータフリクションにて規定される。
【0073】
上記実施形態では、モータ軸と出力軸との間に減速機が設けられる。減速機の詳細について、上記実施形態では言及していないが、例えば、サイクロイド歯車、遊星歯車、モータ軸と略同軸の減速機構から駆動軸へトルクを伝達する平歯歯車を用いたものや、これらを組み合わせて用いたもの等、どのような構成であってもよい。また、他の実施形態では、モータ軸と出力軸との間の減速機を省略してもよいし、減速機以外の機構を設けてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。