(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6950894
(24)【登録日】2021年9月28日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】銀/酸化グラフェン複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20210930BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20210930BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20210930BHJP
C01B 32/18 20170101ALI20210930BHJP
C01B 32/23 20170101ALI20210930BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20210930BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20210930BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20210930BHJP
【FI】
C01B32/198ZNM
H01B1/04
H01B13/00 Z
C01B32/18
C01B32/23
B82Y30/00
B82Y40/00
!H01M4/62 Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-209282(P2018-209282)
(22)【出願日】2018年11月6日
(65)【公開番号】特開2020-75828(P2020-75828A)
(43)【公開日】2020年5月21日
【審査請求日】2020年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】518061502
【氏名又は名称】夏木 潤
(73)【特許権者】
【識別番号】594033813
【氏名又は名称】株式会社大成化研
(74)【代理人】
【識別番号】100127203
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】夏木 潤
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第104934108(CN,A)
【文献】
特開2016−193431(JP,A)
【文献】
特開2016−018711(JP,A)
【文献】
特開2013−080565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/991
H01B 1/04
H01B 13/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01M 4/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノ粒子が酸化グラフェン(還元型グラフェン酸化物(RGO)を含まない)の層間にインターカレーションされたシート状の銀/酸化グラフェン複合体であって、
前記銀/酸化グラフェン複合体の少なくとも片面に前記銀ナノ粒子を担持しているとともに、ナノスクロールに巻き上げられたものであることを特徴とする銀/酸化グラフェン複合体。
【請求項2】
前記銀ナノ粒子の直径が、3nm〜10nmであることを特徴とする請求項1に記載の銀/酸化グラフェン複合体。
【請求項3】
前記銀/酸化グラフェン複合体の単体の直径が、60nm〜280nmであることを特徴とする請求項1に記載の銀/酸化グラフェン複合体。
【請求項4】
前記銀/酸化グラフェン複合体の単体の長さが、140nm〜2000nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の銀/酸化グラフェン複合体。
【請求項5】
体積抵抗率が、1.897×10−5Ω・cm〜2.210×102Ω・cmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の銀/酸化グラフェン複合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の銀/酸化グラフェン複合体を含むことを特徴とする導電性材料。
【請求項7】
黒鉛を酸化させて酸化グラフェンを製造する工程と、
前記酸化グラフェンの溶液中で硝酸銀をクエン酸ナトリウムで還元する酸化還元工程とを有する銀/酸化グラフェン複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀/酸化グラフェン複合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、グラフェンは、優れた電子的、機械的、光学的特性を持つことから、多くの分野から注目を集めている。しかし、グラフェンの製造が難しいこと、加工性が低いこと、エレクトロニクス分野では電子構造にバンドギャップがないことなど、グラフェンの利用拡大を妨げる大きな問題が残されている。一方、グラフェンの前駆体としての酸化グラフェンは、従来公知のBrodie法、Staudenmaier法、Hummers法、改良Hummers法等の化学的方法を用いて、黒鉛を酸化することにより容易に製造することができる。また、酸化グラフェンは、いくつかの極性溶媒または水に対する分散性を示し、安定であり、酸化活性、製膜しやすい特徴を持っており、他の材料との複合化が容易である。そのため、酸化グラフェンは、電極材料、熱伝導性材料、触媒、潤滑剤、樹脂補強材など様々な応用が検討されており、例えば特許文献1には、シート状の酸化グラフェンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/074125号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、様々な電子デバイスにおいて、電極材料の導電性をより一層向上させることが求められている。この点は、上記特許文献1におけるシート状の酸化グラフェンについても同様である。
【0005】
そこで、本発明は、酸化グラフェンよりも導電性に優れた銀/酸化グラフェン複合体およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の銀/酸化グラフェン複合体は、銀ナノ粒子が酸化グラフェンの層間にインターカレーションされたシート状の銀/酸化グラフェン複合体であって、前記銀/酸化グラフェン複合体の少なくとも片面に前記銀ナノ粒子を担持したものである。
【0007】
(2) 上記(1)の銀/酸化グラフェン複合体においては、前記銀ナノ粒子の直径が、3nm〜10nmであることが好ましい。
【0008】
(3) 上記(1)または(2)の銀/酸化グラフェン複合体においては、ナノスクロールに巻き上げられたものであることが好ましい。
【0009】
(4) 上記(3)の銀/酸化グラフェン複合体においては、前記銀/酸化グラフェン複合体の単体の直径が、60nm〜280nmであることが好ましい。
【0010】
(5) 上記(3)または(4)の銀/酸化グラフェン複合体においては、前記銀/酸化グラフェン複合体の単体の長さが、140nm〜2000nmであることが好ましい。
【0011】
(6) 上記(1)〜(5)の銀/酸化グラフェン複合体においては、体積抵抗率が1.897×10
−5Ω・cm〜2.210×10
2Ω・cmであることが好ましい。
【0012】
(7) 本発明の導電性材料は、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の銀/酸化グラフェン複合体を含むことを特徴とするものである。
【0013】
(8) 本発明の銀/酸化グラフェン複合体の製造方法は、黒鉛を酸化させて酸化グラフェンを製造する工程と、前記酸化グラフェンの溶液中で硝酸銀をクエン酸ナトリウムで還元する酸化還元工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化グラフェンよりも導電性に優れた銀/酸化グラフェン複合体およびその製造方法を提供できる。また、銀ナノ粒子が酸化グラフェンの層間にインターカレーションされ、分子間水素結合の存在により酸化グラフェン層にローリングが生じて、銀/酸化グラフェンナノスクロールを製造することができる。銀/酸化グラフェンナノスクロールは、優れた導電性を有するので、ナノ電気機械システム(NEMS)センサなどの導電性材料に有効に使用することができる。また、透明導電膜(TCF
S)材料にも有効に使用することができる。また、本発明の製造方法によれば、室温近辺の温和な条件で銀/酸化グラフェン複合体を容易に製造でき、有機溶媒を用いないので安全性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る銀/酸化グラフェン複合体の製造過程を示す図である。
【
図2】本発明の実施例1の酸化グラフェンのSEM写真である。
【
図3】本発明の実施例1の銀/酸化グラフェン複合体のFE−SEM写真である。
【
図4】本発明の実施例1の銀/酸化グラフェン複合体のTEM写真である。
【
図5】本発明の実施例1の銀/酸化グラフェン複合体のEDS分析図である。
【
図6】本発明の実施例1の銀/酸化グラフェン複合体のFT−IRスペクトルを示す図である。
【
図7】本発明の実施例1の銀/酸化グラフェン複合体のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る銀/酸化グラフェン複合体について説明する。本実施形態の銀/酸化グラフェン複合体は、銀ナノ粒子で充填された酸化グラフェンシートがナノスクロールに巻き上げられたものである。
【0017】
本実施形態におけるグラフェンは、ハニカム構造のsp
2炭素から構成される炭素原子1個の厚さの2次元シートである。本実施形態における酸化グラフェン(GO)は、黒鉛を用いて改良Hummers法により製造したものである。黒鉛は、グラファイトフレークが好ましい。また、酸化グラフェンは、ヒドロキシ基およびカルボキシ基を有するものである。本実施形態における銀/酸化グラフェン複合体の製造方法は、黒鉛を酸化させて酸化グラフェンを製造する工程と、酸化グラフェンの溶液中で銀粒子の前駆体である硝酸銀を、クエン酸ナトリウムで還元する酸化還元工程とを有するものである。また、上記製造方法により製造された銀/酸化グラフェン複合体は、銀ナノ粒子で充填された単層の酸化グラフェンシートがナノスクロールに巻き上げられて形成された棒状の銀/酸化グラフェンナノスクロールである。また、上記製造方法の酸化還元工程において、濃度が5質量%の酸化グラフェン水溶液42mlに対して、配合する硝酸銀およびクエン酸ナトリウムの配合量は、硝酸銀:クエン酸ナトリウム=0.5g:1.76g〜2.0g:1.76gであることが好ましい。また、上記製造方法における酸化グラフェン水溶液の濃度は、2.5質量%〜10質量%であることが好ましい。また、上記製造方法により製造された銀/酸化グラフェン複合体の直径は、60nm〜280nmであることが好ましく、また銀/酸化グラフェン複合体の長さは、140nm〜2000nmであることが好ましい。なお、銀/酸化グラフェン複合体の直径または長さが上記範囲に含まれる場合には、銀/酸化グラフェン複合体はナノスクロールに巻き上げられ、棒状の銀/酸化グラフェンナノスクロールが形成される。一方、上記範囲外の銀/酸化グラフェン複合体においては、棒状から層状になる傾向があり、本実施形態における銀/酸化グラフェンナノスクロールは形成されない。
【0018】
(実施例1)
次に、本発明に係る銀/酸化グラフェン複合体について、実施例を用いて説明する。実施例1では、銀/酸化グラフェン複合体である銀/酸化グラフェンナノスクロールを製造した。詳細は、以下のとおりである。なお、以下で使用するグラファイトフレークは、Alfa Aesar社から購入したものである。また、以下で使用する硫酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、硝酸銀、クエン酸ナトリウム、および2−ジメチルアミノエタノール(DMAE)は、富士フイルム和光純薬株式会社から購入したものである。
【0019】
まず、改良Hummers法により酸化グラフェンを製造した。氷浴中で撹拌しながら、粉末状のグラファイトフレーク(1g)を硫酸(濃度99%、23ml)に添加した。グラファイトフレークが完全に溶解する間、過マンガン酸カリウム(3g)を非常にゆっくりと加え、懸濁液の温度を5℃より低くなるように保持した。その後、40℃のオイルバスに移し、30分間撹拌した。そして、脱イオン水50mlを添加し、95℃で15分間撹拌した。さらに、150mlの脱イオン水を添加し、続いて過酸化水素(濃度30%、5ml)を添加した。溶液の色は暗褐色から明るい黄色に変化した。そして、この溶液から混合物を回収し、回収した混合物を塩酸溶液(塩酸:水=1:9、150ml)で洗浄して、金属イオンを除去した。そして、混合物を含む溶液をpH値が7になるまで、ろ過により精製した。この溶液を超音波で30分間洗浄し、混合物から酸化グラフェンを剥離させた。そして、酸化グラフェンを脱イオン水に分散させた分散液を3500rpmで30分間遠心分離して、剥離していないグラファイトを除去した。その後、酸化グラフェン溶液を凍結乾燥させて、酸化グラフェンを得た。
【0020】
次に、上記方法により製造した酸化グラフェンを含有する酸化グラフェン水溶液(濃度5質量%、42ml)を室温で撹拌しながら、硝酸銀(1g)を添加した。硝酸銀が完全に溶解するまで溶液を撹拌し続けた。そして、クエン酸ナトリウム水溶液(クエン酸ナトリウム:脱イオン水=1.76g:40ml)を滴下した。さらに、2−ジメチルアミノエタノール(DMAE)水溶液(DMAE:脱イオン水=0.054g:1ml)を添加し、室温で1時間撹拌した。溶液の色は明るい黄色から淡褐色に変化した。そして、この溶液を遠心分離(5000rpm)で2回洗浄して不純物を除去し、脱イオン水に再分散させ、銀/酸化グラフェンナノスクロール(Ag/GO NSs)水溶液を得た。その後、この溶液を乾燥させて、銀/酸化グラフェンナノスクロールを得ることができた(
図1参照)。
【0021】
(実施例2)
本発明に係る実施例1における酸化グラフェンの形態を、走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−3000N)により観察した。結果を
図2に示す。
【0022】
図2を参照すると、酸化グラフェンは、明らかに層状構造を有し、2つの層状体の水平方向の半径方向寸法は数百ナノメートルから数ミクロンであることが確認できる。また、酸化グラフェンは、親水基であるヒドロキシ基およびカルボキシ基が多く存在するため、端部にわずかなクリンプ(波形)があることが分かる。つまり、酸化グラフェンは、良好な水溶性および安定性を有することが分かる。
【0023】
(実施例3)
本発明に係る実施例1における銀/酸化グラフェンナノスクロールの形態を、電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−5000)、および透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製、JEM−2010)により観察した。結果を
図3および
図4に示す。
【0024】
図3(a)、(b)は、実施例1で製造した銀/酸化グラフェンナノスクロール水溶液を乾燥させてFE−SEM試料として、観察を行った結果を示すFE−SEM写真である。
図3(a)を参照すると、溶液中において銀/酸化グラフェンナノスクロールが存在することを確認でき、多量かつ高密度に分布していることが分かる。また、
図3(b)を参照すると、銀/酸化グラフェンナノスクロールの長さが約500nmであり、直径は分子間水素結合強度に起因して約100nmであることが分かる。
【0025】
図4(a)、(b)は、実施例1で製造した銀/酸化グラフェンナノスクロール水溶液を乾燥させてTEM試料として、観察を行った結果を示すTEM写真である。
図4(a)を参照すると、銀ナノ粒子が銀/酸化グラフェンナノスクロールに均一かつ十分に分布していることを確認できる。また、
図4(b)を参照すると、銀ナノ粒子が球状であり、直径は約3nm〜10nmであることが分かる。
【0026】
(実施例4)
本発明に係る実施例1における銀/酸化グラフェンナノスクロールの構造を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により分析した。結果を
図5に示す。なお、EDS分析は、EX−200を備えたS−3000N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて行った。
【0027】
図5を参照すると、銀のピークである3KeV付近の強いピーク形状が確認できるので、銀/酸化グラフェンナノスクロール水溶液中に不純物が存在することなく、銀ナノ粒子の存在が非常に純粋であることが分かる。また、炭素のピークおよび酸素のピークも容易に観測することができ、銀ナノ粒子は、酸化グラフェンの組成を変化させないことが分かる。
【0028】
(実施例5)
本発明に係る実施例1における酸化グラフェンおよび銀/酸化グラフェンナノスクロールの構造を、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)により分析した。結果を
図6に示す。なお、FTIR分析は、IR Prestige−21(株式会社島津製作所製)を用いて行った。
【0029】
図6を参照すると、高周波数領域において、3430cm
−1の吸収ピークは、ヒドロキシ基の伸縮振動ピークであり、ヒドロキシ基のピークの大きさと幅を決定するものであることが分かる。また、1634cm
−1の吸収ピークは、ヒドロキシ基の屈曲振動ピークであり、酸化グラフェンの溶解度を決定するものであることが分かる。さらに、1382cm
−1の吸収ピークは、銀イオンのピークであり、鋭いピーク形状から銀ナノ粒子が高濃度であることが分かる。そして、銀/酸化グラフェンナノスクロールの吸収ピークは、酸化グラフェンの波数と比較して、ヒドロキシ基のピークの強度が減少し、より小さなピーク幅と共に、より小さな波数に完全に変化することが分かる。これは、振動周波数を低下させる電子雲密度を平均化することができる分子間水素結合の存在に起因すると考えられる。
【0030】
(実施例6)
本発明に係る実施例1における酸化グラフェンおよび銀/酸化グラフェンナノスクロールの構造を、X線回折(XRD)により分析した。結果を
図7に示す。なお、XRD測定は、MiniFlex300(株式会社リガク製)を用いて、CuKα線を使用して行った。
【0031】
図7を参照すると、銀/酸化グラフェンナノスクロールは、2Θ=5°に強い回折ピークが確認され、酸化グラフェンが完全に酸化されていることが分かる。また、反射ピークは銀ナノ粒子の結晶構造を示しており、XRD標準カロリーと比較して、銀/酸化グラフェンナノスクロールの(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、および(222)面のピークは、全て銀ナノ粒子結晶面であることが分かる。
【0032】
(実施例7)
本発明に係る実施例1における銀/酸化グラフェンナノスクロールの電気伝導度を測定した。なお、電気伝導度の測定は、抵抗率計MCT−T610(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて、下記試料1〜6について行った。
【0033】
ここで、試料1は、実施例1における酸化グラフェン(GO)水溶液を乾燥させたものであり、比較例として測定を行った。また、試料2は、実施例1における銀/酸化グラフェンナノスクロール(Ag/GO NSs)水溶液を乾燥させたものである。また、試料3〜6は、実施例1におけるAg/GO NSs水溶液を乾燥後、高温で加熱処理を行ったものである。具体的には、試料3は100℃の加熱処理を行ったもの、試料4は200℃の加熱処理を行ったもの、試料5は300℃の加熱処理を行ったもの、試料6は400℃の加熱処理を行ったものである。これらの電気伝導度の結果を下記表1に示す。
【表1】
【0034】
表1を参照すると、電気伝導度=1/体積抵抗率の関係から、試料1のGOの電気伝導度は、0.490×10
−3Sであり、試料2のAg/GO NSsの電気伝導度は、0.452×10
−2Sであることが分かり、試料2のAg/GO NSsは、試料1のGOよりも約10倍の電気伝導度を有することを確認できる。また、100℃の加熱処理を行った試料3のAg/GO NSsの電気伝導度は、0.382Sであり、200℃の加熱処理を行った試料4のAg/GO NSsの電気伝導度は、0.330×10
3Sであることから、高温で加熱処理を行えば、Ag/GO NSsの電気伝導度を大幅に向上させることが分かる。また、試料5および試料6は、試料4と比較して、100倍以上の電気伝導度を有することが分かり、300℃以上の加熱処理を行った場合は、Ag/GO NSsにおける炭素および酸素の含有割合が減少し、銀の含有割合が増加すると考えられ、Ag/GO NSsの電気伝導度をさらに向上させることができる。したがって、Ag/GO NSsは、優れた導電性を有するので、導電性材料に有効に使用することができる。
【0035】
以上のように、上記実施例1〜7によれば、改良Hummers法を用いて、水中での安定性および優れた溶解性を有する酸化グラフェンを製造することができる。そして、製造した酸化グラフェンを分散させた水溶液を担体として使用し、還元剤としてクエン酸ナトリウムを用いて硝酸銀を還元させることで、銀/酸化グラフェン複合体を製造することができる。この製造過程において、銀イオンの存在により、酸化グラフェンの端部に位置するヒドロキシ基およびカルボキシ基が活性化され、分子間水素結合が形成される。そして、この分子間水素結合の分子間力の働きにより、酸化グラフェン層にローリングが生じることで、銀/酸化グラフェンナノスクロールを生成することができる。この酸化グラフェン層のローリングは、酸化グラフェンの溶液中で硝酸銀を還元させる過程において、発生していると考えられる。上記実施例1の製造方法により製造された銀/酸化グラフェンナノスクロールは、100nmの均一な直径を有しており、内側と外側の両面には、3nm〜10nmの直径を有する銀ナノ粒子が分布している。したがって、酸化グラフェンの層間に銀ナノ粒子がインターカレーションされた銀/酸化グラフェンナノスクロールは、優れた導電性を有するので、ナノ電気機械システム(NEMS)センサなどの導電性材料に有効に使用することができる。また、銀/酸化グラフェンナノスクロールは、上記用途の他にも、触媒、水分離膜、樹脂補強材、熱伝導性材料、発光材料、バイオセンサー、水素貯蔵およびエネルギー貯蔵などの用途に使用することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。