(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、CFRP等の原料として用いやすいRCF収束体を提供するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、酸素濃度を制御した雰囲気下で、炭化開始温度よりはるかに低い温度からマトリックス樹脂のCステージ化を進めつつ、熱分解温度(具体的には、300℃)に到達させ、その後、熱分解速度を抑えながら350℃までゆっくり加熱することによって、マトリックス樹脂がチャー化する。そして、更に400℃以上で480℃を超えない温度域まで加熱してこの温度帯である時間長さ以上に亘って保持することによって、熱硬化性樹脂に由来するアモルファスカーボン前駆体が生成し、アモルファスカーボン前駆体によりトウ状に収束されたRCF収束体が得られることを見出し、本発明を完成した。得られたRCF収束体は、トウ状に収束しているため、輪切り方向や斜め方向に切断しても単繊維に崩壊しにくく、また毛羽立ち等も発生しにくい。そのため、押出成形機へ供給、特にサイドフィードとして供給しやすく、樹脂と混合後は、容易に単繊維に開繊するため、CFRP等の原料として好適に用いることができる。以下、本発明に係るRCF収束体について説明する。
【0018】
本発明のRCF収束体は、CFRPから回収して得られたものである。上記CFRPは、熱硬化性樹脂成形体中に補強材としての炭素繊維を分散させたものであり、炭素繊維から見れば熱硬化性樹脂で結合されたものと言うことができる。ここで、結合剤となる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0019】
上記CFRPは、具体的には、航空宇宙機(例えば、ロケット、人工衛星、軍用機、旅客機、ヘリコプターブレードなど)、レーシングカー、オートバイク、自転車、鉄道車両、深海探査船、レース舟艇、測定機器、搬送用ロボットアーム、風力発電のブレード、圧縮天然ガスタンク(CNGタンク)、ゴルフシャフト、テニスラケット、釣り竿、車いす、人工骨などの構造体や、ノート型パソコン、タブレット、スマートフォンなどの携帯機器の筐体などとして用いられている。
【0020】
本発明の上記RCF収束体は、こうしたCFRPから取出して得られたものであり、平均繊維長が6〜100mmの炭素繊維が、熱硬化性樹脂に由来するアモルファスカーボン前駆体でトウ状に収束されている。上記炭素繊維の平均繊維長が6mm未満では、炭素繊維が短すぎるため、CFRP等の機械的特性を高められない。従って、上記炭素繊維の平均繊維長は6mm以上、好ましくは8mm以上、より好ましくは10mm以上、特に好ましくは25mm以上である。しかし、上記炭素繊維の平均繊維長が長くなり過ぎてもハンドリング性が悪くなり、RCF収束体を成形機へ供給しにくくなるので、同じくリサイクルのための原料として用いることができない。従って、上記平均繊維長は100mm以下であり、好ましくは80mm以下、より好ましくは50mm以下である。
【0021】
上記トウ状とは、多数の炭素繊維を揃えた束状を意味し、収束体を構成する炭素繊維の数は特に限定されないが、ハンドリング性を一層高める観点から、例えば、500〜480000本が好ましい。上記炭素繊維は、より好ましくは1000本以上、更に好ましくは5000本以上である。上記炭素繊維は、より好ましくは400000本以下、更に好ましくは300000本以下である。
【0022】
上記RCF収束体は、上記炭素繊維が、熱硬化性樹脂に由来するアモルファスカーボン前駆体でトウ状に収束している。
【0023】
本明細書において、アモルファスカーボン前駆体とは、熱硬化性樹脂を加熱することで生成し、溶融軟化しない炭素分に富む固体であり、チャーと呼ばれることがある。即ち、アモルファスカーボン前駆体を更に800℃まで加熱するとアモルファスカーボン(ガラス状カーボン)になり、一般のメソフェーズカーボンを経由して黒鉛化する炭化反応とは異なる相変化を生じる。本発明では、熱硬化性樹脂を含むCFRPを熱処理し、強度の期待できないメソフェーズカーボンではなく、アモルファスカーボン前駆体を生成させ、アモルファスカーボン前駆体を炭素繊維同士の結束に用いている。
【0024】
上記アモルファスカーボン前駆体の有無は、走査型電子顕微鏡を用いて確認できる。
【0025】
本発明の上記RCF収束体は、ポテンシャル水素量が質量基準で600〜8000ppmであることが重要である。
【0026】
上記ポテンシャル水素とは、予め2400〜2800℃の高温で加熱されたグラファイトカーボン製のるつぼに試料を投入し、2000〜2400℃で加熱することにより、有機物あるいは無機水和物質等の水素を含む化合物を高温のグラファイトで水素に還元し、ガスクロマトグラフにて定量された全水素量を意味する。
【0027】
上記ポテンシャル水素量が質量基準で600ppm未満では、アモルファスカーボン前駆体が少なく、トウ状を維持できず、炭素繊維が毛羽立ち、綿状の収束体となる。その結果、安定計量が難しく、押出機への安定供給が難しくなり、そのリサイクル性(リサイクル価値)が低下する。従って上記ポテンシャル水素量は質量基準で600ppm以上であり、好ましくは1000ppm以上、より好ましくは2000ppm以上である。しかし、上記ポテンシャル水素量が質量基準で8000ppmを超えると、アモルファスカーボン前駆体が多く、炭素繊維同士が強固に結合した塊状となる。その結果、安定計量が難しく、押出機への安定供給が難しくなるため、物の意味でリサイクル価値が低下する。従って上記ポテンシャル水素量は質量基準で8000ppm以下であり、好ましくは6000ppm以下、より好ましくは5000ppm以下である。
【0028】
なお、上記RCF収束体に残留したアモルファスカーボン前駆体は、CFRP等の原料として用いる過程で炭素繊維から分離し、コンパウンド樹脂に混入するが、混入したアモルファスカーボン前駆体はコンパウンド樹脂より化学安定性が高いため、CFRP等の機械的特性に殆ど影響は及ぼさない。
【0029】
上記ポテンシャル水素量は、水素分析装置を用いて測定できる。水素分析装置としては、例えば、HORIBA製の「EMGA−821」を用いることができる。
【0030】
上記ポテンシャル水素量は、後述するように、上記CFRPを、400℃以上で480℃を超えない温度域で、少なくとも30分間保持することによって制御できる。
【0031】
上記炭素繊維の平均繊維長と上記ポテンシャル水素量は、上記範囲を満足すればよいが、上記炭素繊維の平均繊維長が6〜15mmの場合は、切断時の剪断力が炭素繊維全体にかかるため、収束体をやや硬めとするために、ポテンシャル水素量を5000〜8000ppmとすることが好ましい。
【0032】
上記炭素繊維の平均繊維長が15mm超、50mm以下の場合は、収束体をやや柔軟なものとすることにより、押出機で熱硬化性樹脂と混合したときの分散状態が安定するため、ポテンシャル水素量を2000ppm以上、5000ppm未満とすることが好ましい。
【0033】
上記炭素繊維の平均繊維長が50mm超、100mm以下の場合は、収束体を柔軟なものとして押出機へ供給しやすくするため、ポテンシャル水素量を600ppm以上、2000ppm未満とすることが好ましい。ポテンシャル水素量によって管理されたRCF収束体は、2次加工として切断しても、サイドフィードしても、その結束状態は崩れないため、良好なハンドリング性能のまま、CFRP等のコンパウンド原料として用いることができる。一方、上記RCF収束体は、コンパウンド時に樹脂と混錬することにより、容易に開繊されるため、補強材として最適の性能を発揮する。
【0034】
なお、コンパウンド樹脂によって溶融粘度や表面張力等が異なるため、組み合わせる樹脂に応じて、あるいはコンパウンド機に備えられたスクリューのコンフィギュレーションや製造条件に合わせて上記の範囲内でポテンシャル水素量を制御し、結束強度を調整すればよい。
【0035】
本発明のRCF収束体は、CFRPやCFRTPの原料として好適に用いることができる。即ち、上記RCF収束体を、押出成形機へ供給し、別途供給される熱硬化性樹脂熱や可塑性樹脂と混合し、公知の条件で成形することによって、CFRPやCFRTPとすることができる。
【0036】
上記RCF収束体は、特に、押出成形機へのサイドフィード用として好適に用いることができる。上記押出成形機の種類は特に限定されず、例えば、単軸スクリュー押出機や多軸スクリュー押出機などが挙げられる。単軸スクリュー押出機とは、一軸押出機であり、多軸スクリュー押出機とは、例えば、二軸押出機や一軸と二軸の複合機などである。
【0037】
次に、本発明に係るRCF収束体の製造方法について説明する。
【0038】
上記RCF収束体を製造するには、
(1)CFRPを、400℃以上で480℃を超えない温度域の温度まで加熱することとし、その際、
(2)300℃に到達後から加熱終了までの区間は、雰囲気ガス中の酸素濃度を15〜19体積%とし、
(3)300℃に到達後から350℃に至るまでの区間で少なくとも1時間保持し、
(4)400℃以上の前記温度域では、少なくとも30分間の保持を行えばよい。
【0040】
(1)加熱温度
本発明では、上記CFRPを、400℃以上で480℃を超えない温度域の温度まで加熱する。加熱時の加熱到達温度を400〜480℃の温度域とすることにより、ポテンシャル水素量を上記範囲に制御できる。即ち、加熱到達温度が400℃を下回ると加熱不足となり、アモルファスカーボン前駆体が過剰に残存し、ポテンシャル水素量が過剰となり、炭素繊維を単繊維の集合体にまで分離できない。従って加熱到達温度は、400℃以上とし、好ましくは410℃以上、より好ましくは420℃以上とする。しかし、加熱到達温度が480℃を超えると過剰加熱となり、アモルファスカーボン前駆体の除去が進みすぎ、炭素繊維表面が不活性な平滑面となって収束力が無くなるだけでなく、アモルファスカーボン前駆体の除去の均一性を維持できなくなり、CFRP等を得るために必要なマトリックス樹脂との濡れ性を失った結果、安定したRCF収束体が得られない。従って加熱到達温度は480℃以下とし、好ましくは470℃以下、より好ましくは460℃以下とする。
【0041】
なお、上記CFRPの表面に、メッキ層や塗膜層が形成されているテニスラケット等の場合は、メッキ層や塗膜層を予め除去することが好ましい。
【0042】
(2)雰囲気ガス中の酸素濃度
CFRPを、400〜480℃の温度域に加熱するにあたり、300℃に到達後から加熱終了までの区間は、雰囲気ガス中の酸素濃度を15〜19体積%とする。上記区間の酸素濃度が15体積%を下回ると、熱硬化性樹脂の分解速度が小さくなり、アモルファスカーボン前駆体が生成しにくくなるため、炭素繊維をトウ状に収束できない。更には分解生成ガスの生成が長時間かかり、分解後に生成する空隙がクローズドポア(閉空孔)となり熱分解速度が低下するとともに、不均一相を生成する。従って、上記区間の酸素濃度は15体積%以上、好ましくは16体積%以上、より好ましくは17体積%以上とする。しかし、上記区間の酸素濃度が19体積%を超えると、熱硬化性樹脂の分解速度が大きくなり、アモルファスカーボン前駆体を生成させないまま一部が燃焼状態となって酸化除去されるため、炭素繊維を均一なトウ状に収束できず、綿状と塊状の共存状態となる。従って、上記区間の酸素濃度は19体積%以下、好ましくは18体積%以下、より好ましくは17体積%以下とする。
【0043】
上記300℃に到達後から加熱終了までの区間における雰囲気ガス中の酸素濃度は、一定となるように制御してもよいし変動させてもよい。上記酸素濃度を変動させる場合は、上記区間をいくつかの温度区間に分け、各温度区間において酸素濃度を制御してもよい。例えば、上記区間を300℃に到達後から350℃に至るまでの温度区間と、350℃に到達後から加熱終了までの温度区間に分けて雰囲気ガス中の酸素濃度を制御してもよい。また、上記区間を、300℃に到達後から350℃に至るまでの温度区間と、350℃に到達後から400℃に至るまでの温度区間と、400℃に到達後から加熱終了までの温度区間に分けて雰囲気ガス中の酸素濃度を制御してもよい。
【0044】
なお、CFRPを加熱し、300℃に到達するまでの区間における雰囲気ガス中の酸素濃度は特に限定されないが、酸素濃度は13〜19体積%の範囲に制御することが好ましい。上記区間の酸素濃度が13体積%を下回ると不完全燃焼ガスが排出されることがある。従って、上記区間の酸素濃度は13体積%以上が好ましく、より好ましくは14体積%以上、更に好ましくは15体積%以上とする。しかし、上記区間の酸素濃度が19体積%を超えると不均一燃焼したり、炭素繊維回収炉内で爆発が起こることがある。従って、上記区間の酸素濃度は19体積%以下が好ましく、より好ましくは18体積%以下、更に好ましくは17体積%以下である。
【0045】
また、加熱終了後は、冷却するが、冷却時における雰囲気ガス中の酸素濃度は特に限定されず、大気中でよい。
【0046】
同一の炭素繊維回収炉で繰り返し処理する場合は、例えば、処理終了時に熱源を遮断し、雰囲気ガスの循環を継続させ、400℃以下でRCF収束体を取り出した後、約300℃まで冷却した炭素繊維回収炉に新しいCFRPを装入し、300℃以下で温度が安定化したのを確認してから次のバッチ処理を開始すればよい。
【0047】
(3)300〜350℃の区間における保持時間
CFRPを、400〜480℃の温度域に加熱するにあたり、300℃に到達後から350℃に至るまでの区間では、少なくとも1時間保持する。上記区間で少なくとも1時間保持することによって、熱硬化性樹脂のCステージ化を進めつつ、熱硬化性樹脂の熱分解温度に到達させることができる。上記区間における保持時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上である。上記区間における保持時間の上限は特に限定されないが、生産性を考慮すると、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下、更に好ましくは3時間以下である。
【0048】
上記300℃に到達後から350℃に至るまでの区間で所定時間保持する際には、300℃から350℃に至るまで徐々に加熱してもよいし、加熱と保持を繰り返してもよいし、350℃に至る直前で加熱を停止し、保持してもよい。また、上記温度区間内であれば、冷却されてもよい。
【0049】
上記300℃に到達後から350℃に至るまでの区間は、平均昇温速度を30℃/分以下(0℃/分を含まない)とすることが好ましい。上記区間における平均昇温速度は、より好ましくは25℃/分以下、更に好ましくは20℃/分以下である。上記区間における平均昇温速度の下限は特に限定されないが、0℃/分は含まない。上記平均昇温速度は、好ましくは0.1℃/分以上、より好ましくは0.5℃/分以上、更に好ましくは1℃/分以上である。
【0050】
350℃に到達した時点で、CFRPの分解状態を確認し、分解反応が終息しているかどうかを排出ガスの臭気、異色が無いことを確認すると共に、酸素センサー等により酸素濃度が安定していることを確認し、分解反応が終息してから引き続き350℃超に加熱することが好ましい。分解反応が終息しないまま350℃超に加熱すると、酸化が急激に起こるため、温度制御しにくく、白煙や異臭が発生することがある。また、急激な酸化反応により、トウ状を形成できないことがある。また、CFRPの温度が急上昇し、爆発する虞がある。分解反応の終息は、白煙の発生の有無、および異臭の発生の有無を観察し、白煙が発生しておらず、異臭が発生していない場合を、分解反応が終息したと判断すればよい。
【0051】
なお、CFRPを加熱し、300℃に到達するまでの平均昇温速度は特に限定されないが、生産性を考慮すると、例えば、10℃/分以上が好ましく、より好ましくは30℃/分以上、更に好ましくは50℃/分以上である。上記平均昇温速度の上限は、例えば、100℃/分以下が好ましく、より好ましくは70℃/分以下、更に好ましくは55℃/分以下である。
【0052】
また、350℃に到達後から加熱終了までの温度区間における平均昇温速度も特に限定されないが、生産性を考慮すると、例えば、70℃/分以上が好ましく、より好ましくは75℃/分以上、更に好ましくは80℃/分以上である。上記平均昇温速度の上限は、例えば、100℃/分以下が好ましく、より好ましくは90℃/分以下、更に好ましくは85℃/分以下である。
【0053】
上記CFRPを加熱し、300℃に到達するまでの平均昇温速度、300℃に到達後から350℃に至るまでの温度区間における平均昇温速度、および350℃に到達後から加熱終了までの温度区間における平均昇温速度は、一定となるように制御してもよいし、変動させてもよい。
【0054】
(4)400〜480℃の温度域における保持時間
本発明では、400℃以上、480℃以下の温度域で、少なくとも30分間の保持を行う。30分以上保持することによって、RCF収束体の炭素繊維同士を結合するアモルファスカーボン前駆体量を調整でき、収束状態を望ましい硬さに精密に調整できる。アモルファスカーボン前駆体の定量は困難であり、RCF収束体に含まれるアモルファスカーボン前駆体のポテンシャル水素量を所定の範囲に制御することにより、アモルファスカーボン前駆体量を調整できる。即ち、保持時間が30分未満では、アモルファスカーボン前駆体量が多くなり、ポテンシャル水素量が多くなり過ぎるため、炭素繊維同士が強固に結合した塊状となる。その結果、安定計量が難しく、押出機への安定供給も難しくなるため、上記RCF収束体を、リサイクルのための原料として用いることは困難となる。従って上記保持時間は、30分間以上とし、好ましくは60分間以上、より好ましくは90分間以上である。上記保持時間の上限は特に限定されないが、生産性の観点から、例えば、180分間以下が好ましく、より好ましくは150分間以下、更に好ましくは120分間以下である。
【0055】
上記保持時間とは、上記温度域における滞在時間を意味し、400℃に到達した時点から400℃未満となる時点までの時間を意味する。
【0056】
上記温度域で保持した後は、300℃以下まで冷却すればよい。
【0057】
以上説明した通り、CFRPを加熱するにあたり、第1の工程として、300℃に到達後から350℃に至るまでの区間における雰囲気ガス中の酸素濃度と、保持時間とを適切に制御することによって、熱硬化性樹脂に由来するアモルファスカーボン前駆体により炭素繊維がトウ状に収束された状態を保持でき、第2の工程として、400℃以上で480℃を超えない温度域に加熱し、この温度域における雰囲気ガス中の酸素濃度を制御したうえで、保持することによって、上記収束体のポテンシャル水素量を調整することにより収束に寄与するアモルファスカーボン前駆体量を調整できる。なお、従来では、アモルファスカーボン前駆体の存在を無視し、マトリックス樹脂と同一視するか、あるいは、炭素繊維に対する樹脂残渣として取り除き、単繊維に分離することに注力していた点で本発明と相違する。
【0058】
上記加熱は、上記成形体由来の熱分解ガス(樹脂のモノマー、熱分解炭化水素等)に加え、これら熱分解ガスが酸素と反応し燃焼したCO
2等に、酸素含有ガスを混合しつつ行うことが好ましい。酸素含有ガスを混合することによって、雰囲気ガス中の酸素濃度を制御できる。酸素濃度の微増と雰囲気ガスの循環によって、化学平衡状態を大きく変化させず、樹脂の熱分解と熱分解ガスの酸化反応を進め、結果的にマトリックス樹脂をアモルファスカーボン前駆体に変換できる。また反応を緩やかに進めることにより、臭気を伴う分解ガスは、例えば、燃焼室へ導入し、完全燃焼させ、熱源として用いつつ、追加の排ガス処理を殆ど必要としない燃焼ガスとして、一部は炭素繊維回収炉に再循環し、残りは系外に、脱臭装置を通って放出すればよい。
【0059】
供給する酸素含有ガスとしては、例えば、空気を用いればよいが、酸素ガス、酸素ガスを含む不活性ガスなどを用いてもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスが挙げられる。
【0060】
上記加熱は、上記成形体を、上記雰囲気ガスの流動下で行うことが好ましい。上記雰囲気ガスを流動させることによって、熱分解反応と分解生成ガスの燃焼をゆるやかに進めることができるため、炭素繊維に含浸している樹脂を、均一性を保ちながら除去できる。
【0061】
上記雰囲気ガスの流動下で加熱するには、例えば、上記成形体を装入した加熱炉へガスを供給したり、加熱炉内の雰囲気ガスを攪拌させたり、加熱炉内の雰囲気ガスを一旦加熱炉外へ排出した後、再度加熱炉内へ戻して循環させればよい。
【0062】
上記雰囲気ガスの平均流動速度は、例えば、1〜20m/分が好ましい。上記平均流動流速を1m/分以上とすることにより、上記成形体を加熱ムラなく、均一に加熱できる。上記平均流動流速は、好ましくは2m/分以上、より好ましくは3m/分以上である。しかし、上記平均流動流速が大きくなり過ぎると、炭素繊維回収炉内の熱が系外へ持ち出されるため、均熱しにくくなるうえ、系内全体の流速が過剰となって、発熱部におけるバーナーの燃焼の安定性に支障をきたすことがある。従って、上記平均流動流速は10m/分以下が好ましい。上記平均流動流速は、より好ましくは9m/分以下、更に好ましくは8m/分以下である。
【0063】
上記CFRPは、使用済の回収品でもよいし、規格外品として回収されたものでもよいまた、製造時に発生したプリプレグ端材、トリミング除去品等すべてのCFRP回収品がリサイクルできるが、発生源によって明確に分離し、トレ―ザビリティーを厳密に管理することが好ましい。また、製品にリサイクルグレードを明記する際には、市場からの回収品に限定し、工程内回収リサイクル品と明確に区分することが好ましい。
【0064】
次に、上記RCF収束体の製造方法を実施できる装置について図面を用いて説明するが、本発明はこの図面に限定されるものではない。
【0065】
炭素繊維回収炉(以下、熱分解炉ということがある。)Cに、CFRPc1を装入し、加熱する。熱分解炉C内には、整流板Yが設けられている。
図1に示したCFRPc1は、圧縮天然ガスタンク(CNG)タンクを長手方向に半分に切断したものを示している。
【0066】
加熱して生成した上記成形体由来の熱分解ガスを含む雰囲気ガスは、経路K1を通して熱分解炉Cから排出される。
【0067】
熱分解炉Cの出口近傍には、酸素含有ガス供給手段Fを設け、酸素含有ガスを系内に取り込むことが好ましい。酸素含有ガス供給手段Fとしては、例えば、空気取入口を設けることが好ましく、空気を系内に取り込むことができる。
【0068】
経路K1は、熱分解炉Cと加熱炉Aを接続しており、熱分解炉Cから排出された上記雰囲気ガスは、加熱炉Aへ供給される。
【0069】
熱分解炉Cと加熱炉Aを接続する経路K1には、ファンEを設けることが好ましく、ファンEを動作させることにより、上記熱分解炉C内の上記雰囲気ガスを層流として流動させることができる。
【0070】
経路K1から加熱炉Aへ供給された雰囲気ガスは、加熱炉Aに設けられた加熱部a1に吹き付け、燃焼させることが好ましい。雰囲気ガスを加熱部a1の燃焼炎に吹き付けることにより、雰囲気ガスはガス中に含まれる酸素に加え空気取入口Xから取り込まれた空気中の酸素を取り込み、燃焼し、加熱部a1の燃料とともに燃焼するため燃費が向上し、回収にかかる熱エネルギーコストが削減できる。
【0071】
上記雰囲気ガスは、加熱部a1に設けられたガスバーナーの燃焼を乱さない程度の緩やかさで供給することが好ましい。風速は、反応炉の断面積に応じて調整すればよい。
【0072】
加熱炉Aで加熱された雰囲気ガスは、経路K2および経路K3を通して再加熱炉Bへ供給することが好ましい。再加熱炉Bには、炉内を加熱するための熱源b1が設けられている。
【0073】
加熱炉Aと再加熱炉Bとを接続する経路K2の途中には、酸素含有ガス供給手段Jを設け、酸素含有ガスを系内に取り込むことが好ましい。酸素含有ガス供給手段Jとしては、例えば、空気取入口を設けることが好ましく、空気を系内に取り込むことができる。
【0074】
再加熱炉Bで加熱された雰囲気ガスは、経路K4を通して熱分解炉Cへ返送し、循環させることが好ましい。再加熱炉Bと熱分解炉Cとを接続する経路K4には、酸素センサーSを設けることが好ましい。
【0075】
上記経路K2は、途中で分岐させることが好ましく、上記再加熱炉Bに接続された経路K3とは異なる経路K5を設け、該経路K5は、排ガス処理装置Dに接続することが好ましい。CFRPc1から発生するガスと、更に加熱炉Aにおける燃焼により発生したガスによってガスの体積が増加するため、系内のガスの一部を余剰ガスとして放出することが好ましい。余剰ガスは、加熱炉Aで完全燃焼させているため、排ガス処理装置Dの負荷を大幅に低減でき、処理コストを抑えられる。例えば、余剰ガスは、加熱炉Aで完全燃焼させているため、排ガス処理装置Dでは、排ガスの臭気を除去するのみで大気へ放出できる。
【0076】
排ガス処理装置Dとしては、公知の装置を用いることができ、例えば、スクラバーなどを用いることができる。
【0077】
排ガス処理装置Dで処理された排ガスは、経路K6を通して系外へ排出できる。
【0078】
上記酸素含有ガス供給手段F、Jを設ける位置は特に限定されず、例えば、熱分解炉Cに設け、熱分解炉C内へ直接酸素含有ガスを供給してもよい。
【0079】
上記熱分解炉C、加熱炉A、再加熱炉Bの種類は特に限定されず、例えば、燃焼バーナーを備えた加熱炉や、電気炉などが挙げられる。また、
図1では、再加熱炉Bを設けているが、加熱炉Aの燃焼が充分安定し、所定の温度が得られれば、再加熱炉Bを設けず、加熱炉Aで加熱された雰囲気ガスを熱分解炉Cへ供給してもよい。
【0080】
上記燃焼バーナーに供給する燃焼ガスとしては、例えば、液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)、並びに、灯油、軽油、重油などの石油類などが挙げられる。
【0081】
また、上記装置は、連続的に操業できるように構成してもよいし、バッチ式で操業できるように構成してもよい。
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0083】
[実験1]
圧縮天然ガスタンク(CNGタンク)を長手方向に半分に切断し、内部のアルミニウム容器を予め分離除去し、CFRPを取り出した。CFRPを構成する熱硬化性樹脂の種類は、エポキシ樹脂であった。
【0084】
得られたCFRPは、直径が約40cm×長さが約152cm×厚みが約1cmであり、
図1に示した熱分解炉Cに装入した。CFRPは、
図1に示すように、CFRPの長手方向と、雰囲気ガスの流動方向が同方向(並行)となるように配置した。
【0085】
熱分解炉Cとして、温度計と酸素濃度計を備えた還流炉を用いた。還流炉の内容量は約500Lである。
【0086】
還流炉にCFRPを装入した後、蓋を閉め、ファンEを動作させ、雰囲気ガスを循環させた。還流炉内における雰囲気ガスの平均流動速度は5m/分とした。
【0087】
また、酸素含有ガス供給手段FおよびJから空気を取り込み、還流炉内の雰囲気ガス中の酸素濃度を制御した。
【0088】
上記雰囲気ガスを、加熱炉Aおよび再加熱炉Bで加熱し、所定の温度に調整した雰囲気ガスを経路K4から還流炉へ供給した。
【0089】
還流炉内で、CFRPを、400℃以上で480℃を超えない温度域の温度まで加熱した。具体的には、加熱到達温度を300℃に設定し、300℃に到達後から加熱終了までの区間は、雰囲気ガス中の酸素濃度を18体積%とし、300℃に到達後から350℃に至るまでの区間での保持時間は1時間とした。300℃に到達後から350℃に至るまでの区間での平均昇温速度は50℃/分とした。
【0090】
350℃に到達した時点で、CFRPの分解状態を確認し、分解反応が終息した場合は、引き続き加熱し、昇温させた。分解反応の終息は、白煙の発生の有無、および異臭の発生の有無を観察し、白煙が発生しておらず、異臭が発生していない場合を、分解反応が終息したと判断した。
【0091】
分解反応の終息を確認した後、加熱到達温度420℃まで加熱した。400℃以上、420℃以下の温度域では30分間保持した。
【0092】
加熱終了後、冷却し、RCF収束体を得た。得られたRCF収束体は熱硬化性樹脂に由来するアモルファスカーボン前駆体でトウ状に収束されていた。
【0093】
得られたRCF収束体に含まれる炭素繊維の長さを定規で測定し、平均して平均繊維長を算出した。その結果、長さ約1520mmのCNGタンクから、連続繊維として平均繊維長は1500mmの繊維が切断されることなく取り出された。得られたRCF収束体を繊維カッターでサイドフィードに適した6〜100mmの任意の長さに切断した。その結果、せん断応力により収束状態が少し崩れ、アモルファスカーボン前駆体の破断片が発生するものの収束状態は維持されていた。切断RCF収束体の外観を撮影した写真を
図2に示す。
【0094】
次に、得られた切断RCF収束体に含まれるポテンシャル水素量を、不活性ガス加熱−ガスクロマトグラフ法で測定した。測定には、HORIBA製の水素分析装置「EMGA−821」を用いた。具体的には、得られた切断RCF収束体0.5gを、大気中で、200℃で、30分間加熱乾燥して水分を除去した後、黒鉛るつぼ中で、1800℃で、10秒間加熱し、ポテンシャル水素量を測定した。その結果、切断RCF収束体に含まれるポテンシャル水素量は、質量基準で1000ppmであった。
【0095】
次に、得られた切断RCF収束体を、走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、ほぼ並行に並ぶ炭素繊維に、アモルファスカーボン前駆体が付着していることが分かった。また、アモルファスカーボン前駆体あるいはアモルファスカーボン前駆体同志のファンデルワールス力と推定される結合力によって、隣接する炭素繊維同士が結合されていることが分かった。一方、CFRPの原材料として用いる新しい炭素繊維収束体を走査型電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維には、カップリング剤やサイジング剤などの収束剤樹脂の点状付着が見られ、表面は比較的滑らかで、表面が樹脂で覆われていた。
【0096】
次に、得られた切断RCF収束体を、押出成形機のサイドフィードに供給した。押出成形機としては、株式会社クボタ製のスクリュー式ウェイングフィーダ「NX−T」を用いた。その結果、上記切断RCF収束体は、サイドフィードに容易に供給でき、サイドフィード用として好適であった。
【0097】
[実験2]
上記実験1において、300℃に到達後から350℃に至るまでの区間での保持時間を約30分とする以外は、同じ条件でRCF収束体を製造した。その結果、経路K6(排気筒)から黒煙が発生したため、実験を中止した。
【0098】
[実験3]
上記実験1において、還流炉内における雰囲気ガスの平均流動速度を0.3m/分とする以外は、同じ条件でRCF収束体を製造した。その結果、供給される空気中に含まれる酸素によって400℃雰囲気下でマトリックス樹脂が酸化し、マトリックス樹脂が除去されたため、RCF収束体を製造できなかった。
【0099】
[実験4]
上記実験1において、圧縮天然ガスタンク(CNGタンク)の代わりにテニスラケットを準備し、塗装の剥離とメッキの除去を行った後、熱分解炉Cへ装入し、同じ条件でRCF収束体を製造した。テニスラケットの大きさは、50mm長さに輪切りにしたである。
【0100】
得られたRCF収束体を、走査型電子顕微鏡で、倍率5000倍で観察した。撮影した写真を
図3に示す。
図3に示すように、ほぼ並行に並ぶ炭素繊維に、アモルファスカーボン前駆体が付着していることが分かった。また、アモルファスカーボン前駆体あるいはアモルファスカーボン前駆体同志のファンデルワールス力と推定される結合力によって、隣接する炭素繊維同士が結合されていることが分かった。
【0101】
次に、得られたRCF収束体を、上記実験1と同様、押出成形機のサイドフィードに供給した。その結果、上記RCF収束体は、サイドフィードに容易に供給でき、サイドフィード用として好適であった。